弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
社会
2019年6月12日
暴君
(霧山昴)
著者 牧 久 、 出版 小学館
新左翼・松崎明に支配されたJR秘史。これがサブタイトルです。ようするに革マル派の最高幹部でありながら、東京中心のJR東日本の「影の社長」とまで言われた松崎明の実像をあばいた本です。
公共交通機関であることをすっかり忘れ去ったJR九州に対して、私は心の底から怒っています。今や、JR九州は金もうけ本位、それだけです。もうからないローカル鉄道はどんどん切り捨て、新幹線のホームには駅員を配置しない。しばしば列車ダイヤが乱れるのは、維持・管理の手抜きから・・・。要するに乗客不在でもうからないことは一切やらない、安全軽視の民間運送会社になり下がってしまっています。
そして、社長は、いかに金もうけができたか、その自慢話を得意気に語る本を相次いで出版しています。安全第一・乗客第一の交通機関である誇りを忘れてしまったサイテーの経営者としか言いようがありません。本当に残念です。
今では大事故が起きないのが不思議なほどです。
同じJR北海道では、歴代社長が2人も自殺してしまったとのこと。よほど責任感が強すぎたのでしょう。JR九州には、ぜひ一刻も早く目を覚ましてほしいものです。
松崎明は、「国鉄改革三人組」、井手正敬、松田昌士、葛西敬之の三人を次のようにバッサリ切り捨てた。
この三人のなかに立派な人はいない。目的のために常に手段を選び、人間が小心、ずるがしこい。この「三人組」にとって、国鉄改革とは、まさしく立身出身の手段そのものだった。したがって、その後の「悪政」は必然の道だった。
まあ、歴史的事実としては、そんな「三人組」と大同小異なのが松崎明だったということなのでしょう・・・。
松崎明は、2010年12月9日、74歳で病死した。
松崎明は2000年4月、ハワイのコンドミニアム(マンション)を3300万円で購入した。寝室3つ、浴室2つの豪華マンションである。その1年前にも、同じハワイに庭付き一戸建て住宅2630万円を購入している。日本では、埼玉県小川町の自宅マンションのほか、東京・品川区の高級マンションをもっている。さらに、群馬県、沖縄、宮古島の保養施設3ヶ所も実質的に松崎が所有していた。
2005年12月、警視庁公安部は松崎の自宅などを業務上横領の疑いで家宅捜索した。4日間、80時間ほどをかけ、徹底したものだった。そして、2007年11月、警視庁は業務上横領で松崎明を書類送検した。ところが、同年12月末、嫌疑不十分で松崎明は起訴されなかった。
JR東日本の社長となった松田は、松崎明が革マル派を抜けていないことを本人に確認したうえで、利用した。共産党や社会主義協会派とたたかわせるためには、革マル派を使うほかにないと考えたのだ。
JR東日本ではストをやらせない、今後もやらせない。少々高いアメを松崎明たちにしゃぶらせても、結局は、その方が安上がり。こういう考えだったのです。
驚きました。JR東日本の松田社長は松崎明が革マル派の最高幹部だということを本人の告白によって知っていたのです。えええっ・・・。
元警察庁警備局長(キャリア組)の柴田善憲は、松崎明に完全に取り込まれた。JR東日本の本社、各支社には20人以上の元警察庁幹部が定年後に、「総務部調査役」として入っていた。その仲介役が柴田善憲だった。
10年間ほど、警察庁警備局は、「危ないのは中核派だ。中核派を重点的に調べろ」という指示を出した。それで、革マル派は警戒対象とならず10年間ほど、空白の期間があった。
ところが、革マル派のもつ埼玉県のアジトでは公安警察無線を傍受していた。
革マル派なんて、とっくに消滅してしまっているんじゃないの・・・。そう思っていると、おっとドスコイ、今も細々ながら生きのびているということです。
500頁近い大変な力作であり、恐るべき本です。新幹線をふくめて、主要なJRに今なお革マル派が巣喰っているだなんて、信じられませんよね・・・。
(2019年4月刊。2000円+税)
2019年6月 5日
ふたつの日本
(霧山昴)
著者 望月 優大 、 出版 講談社現代新書
いつのまにか私たちのまわりにはたくさんの外国人がいるのに、私たちの認識はその現実にきちんと対応していないように思います。
いま、日本には264万人の外国人が存在している。これは全人口の2%。「永住権」をもつ外国人だけでも100万人をこえている(109万人)。そして、1980年代半ばまでは韓国・朝鮮籍の人が8割以上を占めていたが、今では2割にみたない。
世界的にも日本は世界第7位の「移民大国」となっている。日本の人口が1億2千万人なので、日本人はそんなに「移民大国」となっている実感をもっていない。
いまの安倍政権は「移民」の定義をごまかしています。そして「永住権を増やさず、出稼ぎ労働者を増やす」政策をとっている(ローテーション政策)。これは、外国人を「人」として扱わず、「モノ」としてみている。「人」として扱うのには、相応のコストがかかる。
たとえば、コトバの問題。外国人2世の子どもたちが日本語をうまく話せない、ましてや1世である親は十分でない。それを国として放置していいはずはない。教育システムをつくって運営するには相応の費用がかかる。医療・年金そして社会保障システムのなかで外国人をどう位置づけるのか、きちんとした対策を日本政府はとっていない。
外国人の1位は中国で74万人(28%)。2位が韓国で45万人(17%)。3位はベトナム(11%)、そして4位がフィリピン26万人(10%)、5位のブラジル20万人(7%)と続く。
日本には109万人の「永住移民」がいて、155万人の「非永住移民」、131万人の「移民背景の国民」がいる。合計すると400万人だ。このほかに、「非正規移民」(超過滞在者)が7万人いる。
技能実習生が29万人近くいて、その1位はベトナム13万人。2位は中国7万人、3位フィリピン3万人、4位インドネシア2万人、5位タイ1万人と続く。ベトナムだけで、全体の47%を占めている。
「移民」を否認する国は、「人間」を否認する国である。排除ではなく、連帯する方向へすすむべきだ。これは「彼ら」の問題ではない。「私たち」の問題なのである。
コンパクトに問題点が整理されていて、改めて問題がどこにあるのか、認識することができました。
(2019年3月刊。840円+税)
2019年5月 1日
貧者のホスピスに愛の灯がともるとき
(霧山昴)
著者 山本 雅基 、 出版 春秋社
山田洋次監督の映画『おとうと』のモデルの一つとなったホスピス「きぼうのいえ」の施設長だった著者の本です。心温まる話が多いのですが、つい胸に手を当てて考えさせられるエピソードもたくさんあります。著者は55歳ですが、最近、大病したということです。やはりストレス、心労が見えないところにたまっていたのではないでしょうか・・・。
なにしろ、15年間に270人もの人を見送った(看取った)というのです。私には、とても真似できることではありません。前著『山谷でホスピスやってます』(実業之日本社)に続く本です。
「きぼうのいえ」は、山谷地区でホスピス・ケア(終末期医療)を目的に、医療・看護・介護といった分野の専門職と連携して運営される在宅ホスピスケア対応集合住宅。
元ホームレスなど身寄りない人のための、日本ではじめてのホスピス。
銀行から1億円の融資を受けて、定員21人の施設をつくったのです。毎日10万円、年間3650万円の赤字が生まれる施設です。それは浄財・寄付金でまかなうしかありません。
日本のホスピスや緩和ケア病棟の平均在院日数は40日ほど。「きぼうのいえ」は、入所後2日で亡くなる人もいれば、何年も入所することになる人もいて、さまざま。
入居者は、はじめ信じられない。
「うまい話には絶対に裏がある。ひとが善意だけで、いいおこないをするわけがない」
「製薬会社から裏金をいくらもらっているのか」
「死んだら、内臓をどこかに売る気だな・・・」
そんな不信のかたまりの人たちに、愛情をおもてなしのシャワーを浴びてもらって、不信感を溶かしていく。これがスタッフの役割。
「きぼうのいえ」のスタッフのケアの中心は、積極的な傾向にある。無理して聞き出すのではなく、本人が語ってくるままに、そのひとが言いたい範囲で積極的に話を聞く。
「きぼうのいえ」では、入所者の飲酒は自由。自分で買いに行くのは何も言わないし、飲む量にも何も言わない。究極的には、お酒を飲んで死ぬ自由もある。
また、入所者の外出も自由。
「病気」になってひどく動揺するのは、会社の社長とか立派な学者という人に多い。それまで自分の人生をコントロールして(できて)きた人は、「自然」が運んでくるものを素直に受け入れることができない。
「きぼうのいえ」では、入居者がうれしそうでしあわせそうであればいい。こころの底から共鳴して、一緒に大笑いしたら、すばらしいこと。
「きぼうのいえ」のスタッフには、バーンアウト(燃え尽き症候群)がない。
これは、実にすばらしことです。大変な仕事、辛い目にあうのもたくさんな仕事を毎日続けているのに、燃え尽きないというのに本当に驚嘆します。
このような施設を私たちは本当に大切にしないといけませんよね・・・。
とてもいい本です。ぜひ、ご一読ください。著者に対して、十分に健康に留意したうえでの引き続きの健闘を祈念します。
(2019年1月刊。1800円+税)
2019年4月26日
アンダークラス
(霧山昴)
著者 橋本 健二 、 出版 ちくま新書
現代日本社会の実態を正確に認識する必要があると痛感します。
非正規労働者のうち、家計補助的に働いているパート主婦と、非常勤の役員や管理職、資格や技能をもった専門職を除いた残りの人々を「アンダークラス」と呼ぶ。
その数は930万人、就業人口の15%を占め、急速に拡大しつつある。平均年収は186万円、貧困率は38.7%(女性は5割に達する)。男性の66%が未婚者で、配偶者がいるのは26%に達しない。女性でも未婚者が過半数を占め、44%近くが離死別を経験している。
アンダークラスが増えはじめたのは、1980年代末のバブル経済期から。
日本の貧困率は、1985年(昭和60年)に12.0%だった。それから30年後の2015年には15.6%となった。30年間で3.6%も上昇した。
ちなみに、日本の資本家階級は254万人ほど。これは、就業人口の4.1%を占める。
アンダークラスの若い男性は、絶望と隣りあわせに住んでいる。
アンダークラスの男性は、社会的に孤立していて、協力行動にふみ出しにくい。他者からサポートを受ける機会も少ない。
老後の生活の経済的基盤は、きわめて脆弱だ。金融資産は平均948万円。
「自分は幸せではない」と考える人の比率は、実に55.7%である。
アンダークラスと失業者は格差の解消と所得の再分布を支持する。ところが、自民党支持を拒否するにもかかわらず、その他の政党を支持するわけでもない。どの政党も支持しない。また政党への無関心をきめこむ。したがって、アンダークラスの意思は、政治には反映されない。
投票率の低下がアベ一強政権を黙って支えている現実を深刻に真剣に考えるべきだと私は考えています。
(2018年12月刊。820円+税)
2019年4月25日
キャッシュレス覇権戦争
(霧山昴)
著者 岩田 昭男 、 出版 NHK出版新書
日本は今も現金が大手を振って通用している。キャッシュレス決済比率は18.4%でしかない(2015年)。韓国は89.1%、中国は60.0%、そしてアメリカは45.0%というのとは大きな開きがある。
日本の銀行券の製造コストは年に517億円。そして全国20万台あるATMから現金を引き出している、このATMの維持管理コストは現金運搬の人件費を加えると年間に2兆円。
キャッシュレス化を進めたい国の立場は、徴税を徹底したいということ。現金は匿名性が高くて、その流れを把握しにくい。
キャッシュレス化は便利だが、資産やお金の使い方が企業そして国に筒抜けになる。そのうえ、蓄積された個人情報を分析して、その人の信用度を数値化してランク付けする「信用スコア」ビジネスが始まっている。
ソフトバンクとヤフーの共同出資会社であるペイペイが2018年12月から、「100億円あげちゃう」キャンペーンを始めた。そして、実際に、10日間で100億円を使い切った。1日10億円である。
個人商店のキャッシュレス化が進まない理由の一つは、手数料の高さ。3%から7%の手数料をとられてしまうことにある。ラーメン店の多くは、カードお断りだ。
中国では、スマホ決済は日本のGDP546兆円をはるかに上回る660兆円(2016年)に達している。そして、中国では顔写真つきの身分証がなければスマホを買えない。逆にいうと、スマホがID(身分証明)の役割を果たしている。
アリペイのゴマ信用は、返済履歴や買い物履歴だけでなく、個人の生活情報(暮らしぶり)も取り込み、AI(人工知能)によって点数化したもの。このゴマ信用は、一企業の信用情報というより、人々をランク付けする半ば公的な基準となりつつある。中国政府のブラックリストに載った人間は、実際に飛行機や高速鉄道の切符が買えないという制裁を受けている。
いま、中国政府は、無料の健康診断を実施し、指紋、血液、DNAなどの生体情報の収集をすすめている。
アメリカでは、警察署の多くが、犯罪予測システムを運用している。過去に発生した管轄内の犯罪データをAIが分析し、犯罪が起きる「時間帯」と「場所」を予測し、このデータをもとに、重点的にパトロールする。
キャッシュレス社会とは、誰が、いつ、どこで、何を、いくらでどれだけ買ったかという情報が、私たちの知らないところで集められ、分析される社会でもある。個人は「丸裸」にされてしまう。
ポイントカードによって顧客を囲いこみ、年齢・性別・職業などの属性と購買動向をひも付けて記録して、自社のマーケティングに役立てようという狙いがある。
私はなるべくカードを使わないようにしています。自分の足跡を誰がずっと監視しているなんて、恐ろしすぎます。やはり、便利なものには裏があるのですよね・・・。
(2019年2月刊。780円+税)
2019年4月21日
めんそーれ!化学
(霧山昴)
著者 盛口 満 、 出版 岩波ジュニア新書
私の息子が埼玉にある自由の森学園にいたとき、教師の一人だったのが著者です。なかなか変わった元気のある教師がいるものだと思っていましたら、その後、著者は沖縄に移住し、沖縄では夜間中学で理科を教え、今は沖縄大学で理科教育を担当しています。
この本は、夜間中学で生徒たちに化学を教えている授業風景を活字にしたものです。
夜間中学の生徒は、60代、70代の人たち、圧倒的に女性です。彼女らは教師の話に自分の生活体験を踏まえて反応します。その変わったやりとりが、本書の魅力となっています。
夜間中学での授業は、国家検定の教科書とは無縁のようで、初日の化学講話は、なんと肉じゃがをつくることから始まります。そして、ロウソクづくりでロウソクの化学を学びます。
よく似た外観をしているけれど、ゼリーと寒天、ナタデココは原料も成分も異なっている。ゼリーは、動物のコラーゲンが原料で、タンパク質。寒天は、テングサなどの海藻がつくり出したアガロースと呼ばれる炭水化物の仲間。ナタデココは、ココヤシのジュースを微生物を発酵させることによってつくられる。その成分はセルロースだ。セルロースは、それを分解できるのは、微生物とシロアリ。
ヤギは紙を食べない。ヤギ自身はセルロースを分離することはない。セルロースを分解できるのは、微生物とシロアリ(そして一部のゴキブリ)のみ。
化学の授業を通して、沖縄のおばあたちの楽観的な生活を知ることができ、化学もまた現実のなかで生きていると思ったことでした。
(2018年12月刊。880円+税)
2019年4月19日
横田空域
(霧山昴)
著者 吉田 敏浩 、 出版 角川新書
実に腹の立つ本です。途中で、あまりにバカバカしくなって何度も読むのをやめたくなりました。いえ、著者の悪口ではなく、この本をけなしているわけでもありません。
日本の空をアメリカが支配していて、アベ政権は文句のひとつも言おうとしないバカさかげんに腹を立てたのです。まったく、これでは恥ずかしくて日本は独立国家とはとても言えません。ドイツやイタリアはアメリカに言うべきことをきちんと言っているのに、日本だけがアメリカの言いなり、アメリカに隷従しているのです。例の思いやり予算と同じです。アメリカにはほんの少しだってたてつけないというのですから、今のアベ政権なんて、売国奴政権みたいなものです。なさけない限りです。
横田空域とは、正式には横田進入管制区といい、「横田ラフコン」と略される。南北で最長300キロ、東西で最長120キロ、首都圏から関東・中部地方にかける地域の上空をすっぽり覆っている。高度2450メートルから7000メートルまで、6段階に設置され、日本列島の中央をさえぎる巨大な「空の壁」となっている。
横田基地のアメリカ軍が横田空域の航空管制を握っているため、羽田空港や成田空港に出入りする民間機は、アメリカ軍の許可がなければ横田空域内を通過できない。そのため迂回を強いられる。
日本の空の主権がアメリカ軍によって侵害されている。世界的にも異例な、独立国としてあるまじき状態が長く続いている。
そして、この横田空域でアメリカ軍は、低空飛行訓練、対地攻撃訓練、パラシュート降下訓練にフルに利用している。まさしく軍事空域である。事故率が高く、欠陥機とも呼ばれているオスプレイも何の制約も受けずに首都圏の空を飛び回っている。
この横田空域には、実は国内法上の法的根拠は何もない。日米地位協定にも明文の規定はない。日米合同委員会の密約があるだけ。
一国の首都の中心部にフェンスで囲まれ、銃で武装した警備員がいて、外国の軍事高官や将校、政府要人に加えて、情報部隊の諜報員までが出入りする外国軍基地が存在している。尋常ではない。ここは事実上の治外法権ゾーンになっている。
2017年11月、トランプ大統領は、大統領専用機を羽田でも成田でもなく、横田基地に乗りつけた。そこから米軍ヘリで六本木のヘリポート基地に飛んでくる。これは日本を独立国家とみていないことを示しています。
横田基地から出入りしているアメリカ人は出入国管理局の対象とはならず、出入国の記録もないと聞いています。アメリカの裏庭の感覚で出入りしているのです。許せません。
イラク戦争に従軍したアメリカ軍パイロットは、日本の空で操縦・攻撃の技能、戦技を磨いて、イラクの戦場へ行って激しい空爆を繰り返した。つまり、アメリカのイラク侵略戦争を日本は直接的に支えたのです。
在日米軍基地は、アメリカ軍の海外での戦争の出撃拠点となっている。日本の防衛のためにアメリカ軍がいるわけではありません。そんな戦争のための基地の維持費など、アメリカ軍の経費を年に6000~7000億円も日本は税金で負担している。
うっ、うっ、ホント許せません。海外でのアメリカ軍の人殺し作戦を私たちが税金で支えるなんて・・・。
アメリカ軍だって、アメリカ本土では、ほとんど人の住んでいない広大な砂漠地帯などで低空飛行訓練をしているのです。なのに、日本では都市の上を我が物顔で低空飛行を続けています。そして、ときに学校の校庭に不時着したり、部品を空から落とすのです。なんということでしょうか・・・。
ドイツやイタリアにできたことが、日本にもできないはずはありません。要は政府のやる気です。そして、それを後押しする国民の監視の目なのです。
わすか280頁ほどのちっぽけな新書ですが、独立国家とは言えない恥ずかしい日本の実体をあますところなく明らかにした怒りの本です。ぜひ、あなたも最後まで読んでください。
(2019年2月刊。840円+税)
2019年4月18日
日米安保体制史
(霧山昴)
著者 吉次 公介 、 出版 岩波新書
辺野古の埋立を安倍政権が今なお強引にすすめていることに怒りと大いなる疑問を感じています。いったい、主権者たる日本国民(この場合は、直接の当事者である沖縄県民)の明確な意思に反して行政がすすめられてよいものでしょうか・・・。
県民投票で7割の埋立反対の意思表示を踏みにじっていいという根拠は何なのでしょうか。それほど、日本はアメリカに奉仕しなければいけないことになっているのですか。アメリカは日本を守るつもりなんてないと本人(アメリカ政府当局)が何度も明言しているのに、漠然とイザとなったらアメリカは日本を守ってくれるはずだという幻想に多くの日本人が今なおしがみついているようにしか見えないのはどうしたことでしょう・・・。
日米安保条約があるから日本の平和は守られているなんて、単なる幻想でしかないと私は考えています。この本は、日米安保条約とそれにもとづく安保体制の変遷を明らかにしています。
かつて沖縄には1000発以上の核兵器が配置されていた。1950年代に、アメリカ軍にとって沖縄は海兵隊と核兵器の拠点だった。
アメリカによるベトナム侵略戦争のときには、B52戦略爆撃機が嘉手納基地から直接ベトナムへ出撃していった。毎月350回も出撃した。
ところが、その後、アメリカの核戦略が変わり、地上配備型核兵器から、潜水艦搭載型核兵器へ重心が移り、沖縄から核兵器を撤去した。しかし、いったん有事の際には核兵器を自由に持ち込めるように佐藤首相とニクソン大統領は「沖縄核密約」をかわした。にもかかわらず、佐藤首相は表向きは核抜き返還をアメリカから勝ちとったなどと宣伝し、ノーベル平和賞まで受賞するに至った。日本の首相は今のアベと同じく昔からとんでもない大嘘つきだったのです。
日本に駐留しているアメリカ軍は日本政府から至れり尽くせりの厚遇を受けている。高速道路だって無料ですよね。その典型が悪名高い「思いやり予算」です。当初は、一時的なものだと説明され、年に62億円でした。しかし、恒常的なものとなり、今では年間5000億円ものアメリカ軍駐留経費を負担しています。
日本って、本当にお金持ち国家なんですね。これだけのお金を大学生や司法修習生の奨学金にまわしたら、日本の将来も前途洋々たるものになると思いますよ・・・。
いま、アベ首相はアメリカに追従するだけで、韓国や中国とますます冷たい関係にあります。北朝鮮ともろくに話し合いもしていないため、拉致問題の関係も遠のくばかりです。
著者は、アメリカ軍の権益と日本の対米協力の拡大を追求するだけの安保体制のあり方は考え直す必要があると提言しています。まったく同感です。
辺野古の埋立をどんなに強引にしたって普天間基地がなくなることなんてない、このことを私たちはきちんと認識すべきです。そして、そろそろ安保条約そのものをなくすべきではないでしょうか・・・。
(2018年10月刊。860円+税)
2019年4月 9日
東大闘争って何だったの?
(霧山昴)
著者 神水 理一郎 、 出版 しらぬひの会出版部
今から50年も前に東大で起きた騒動について真実を明らかにしようとして書かれた冊子です。わずか36頁の冊子ですが、貴重な現場写真が何枚も紹介されていて、東大全共闘に味方する立場で書かれた本が、いかに事実に反するものであるかが証明されています。
東大全共闘の暴力(蛮行)を擁護する人は、共産党直属の「あかつき部隊」に敗北したと喧伝(けんでん)しています。しかし、衝突現場を写した写真には「短いカシ棒を持ったあかつき部隊」のようなものはどこにも見あたりません。ヘルメットをかぶっていても手には何も持たない学生が必死に身を寄せあって全共闘の角材から身を守ろうとしている様子がそこにあります。
駒場寮食堂内での代議員大会での採択状況をうつした写真もあります。寮食堂内は500人ほどの代議員で埋め尽くされています。このとき舛添要一も立候補し、あえなく最下位で落選しました。舛添は無原則スト解除派だったので、学生の支持を得られなかったのです。
この代議員大会を全共闘の暴力から守るため、駒場の教官が素手で座りこみ、手を広げて全共闘を阻止している感動的な写真があります。
駒場寮の屋上での代議員大会の写真もあります。代議員はノーヘル、周囲の防衛隊員はヘルメット姿です。
私のクラスにいた全共闘の強固なシンパは当時、「東大解体」に共鳴していたはずなのに、東大教授になりました。同じく、日本革命を志向していたはずの全共闘シンパは、日本を代表する鉄鋼メーカーの社長になりました。いずれも、おそらく「若気の至り」とか、「若いときの誤ち」だと「総括」しているのでしょう。
でも、全共闘が学内で傍若無人に暴力をふるっていたことを真摯に反省しているとは思えないのが残念です。と言いつつ、かつて全共闘支持で動いていた人のなかにも、今なお真面目に社会のことを考え、少しでも人々が暮らしやすい平和な社会にしたいと思って活動している人が少なくないことも、今では私も承知しています。
そんなほろ苦い思い出のつまった冊子でもあります。
(2019年4月刊。1000円+税)
桜の花が満開となり、わが家のチューリップも全開です。今年は早々にアイリスの花が咲いて、ジャーマンアイリスもつぼみが出来つつあります。アスパラガスを2日か3日おきに2本、3本と摘んで、春の香りを楽しんでいます。2月に植えたジャガイモも少しずつ伸びはじめました。ウグイスもすっかり歌が上手くなって、澄んだ音色を響かせてくれます。今年は、わが家から直線距離で100メートルほど先に巣をつくったカササギのつがいが庭にもよくやってきてくれます。
先日は、夜道をひょいとイタチが横切りました。花粉症はだいたいおさまりましたが、椎間板ヘルニアに悩まされています。華麗なる加齢現象のようです。
2019年4月 5日
候補者たちの闘争
(霧山昴)
著者 井戸 まさえ 、 出版 岩波書店
今の日本で、政治家になりたいと言う人が一定数いるという現実があるのが、私にはちょっと理解しがたいところです。
トップがアベシンゾーのようなペラペラと意味の乏しいコトバをまき散らす人物なので、それなら自分だってやれると思うのでしょうか・・・。何らかの政策と信念を実現すべく政治家になりたいというヒトばかりであってほしいものです。
小池百合子の希望の党で候補者となれたのは、政治家としての資質や地道な活動というよりも「勝てるか否か」だった。
現在の日本で、女性政治家が立身出世するロールモデルの一つは、たとえば極端な右傾化をし、背伸びして男性並みの発言をすること。たとえば、女性への偏見・差別の問題について、男性擁護の発言をする。女性が女性差別などないと発言すると、それだけで重宝がられるので、さらに過激化する。
男性では発言しにくい慰安婦問題で、ネトウヨの主張にそった内容で女性が発言することで重宝がられる。
杉田水脈は、そのような「立身出世コース」に乗っている。稲田朋美もまた、それによって身の丈にあわない役職に抜擢され、失速した。杉田水脈は日本維新の会で衆議院議員に初当選し、その後、次世代の党、日本のこころと政党を移りながら、根拠のないネトウヨ的発言を繰り返し、名を売り、仲間を増やしていった。
選挙に出られるのならば、どの党でもいいという人は少なくない。自民党でも、民主党でも、希望の党でも、立憲民主党でも、選挙に出られたら、どれでもいいという人は意外に多い。
人を裏切るのは平気。ウソをつくのに何のためらいもない。これが出来ないような人は、この世界では生きのびることが出来ない。
いやはや、政治の世界とは、かくもおぞましいところなのですか・・・。
そうすると、なおさら小選挙区制の弊害は大きいということになります。中選挙区制だと、何人かの議員のなかには少しはまともな人もまぎれ込める可能性があるからです。一選挙区に1人だと、権力に弱いかお金のある、おかしな人しか議員にはなれないでしょう。
そして、高額の供託金と没収制度も、出たい人より出したい人を出せなくしています。
日本の選挙の現状を内側から、つまり候補者の側から、かなりあからさまに暴露している面白い本です。
(2018年12月刊。1700円+税)