弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
社会
2020年1月 9日
武器よ、さらば
(霧山昴)
著者 エマニュエル・パストリッチ 、 出版 東方出版
地球温暖化の危機と憲法九条というサブタイトルのついた本です。とてもとても 勉強になりました。すばらしい、目のさめるような指摘のオンパレードで、読んでいて、思わず胸が熱くなってきました。
平和憲法こそ日本の利点であり、日本の平和憲法は過去ではなく、未来である。
実際のところ、世界第8位の軍事費大国である日本は、すでに軍事費支出において、いかなる「普通の国」をもはるかにしのいでいる。
自衛隊を、完全に九条の真の実現をサポートする組織へと改編することは可能であり、九条を否定するものではなく、むしろ憲法九条の真の制度的革新のモデルとなりうる。たとえば、未来の陸上自衛隊は、世界中の土地の劣化や森林破壊に対処する、砂漠化という世界的な戦いに力を注ぐものとする。
海上自衛隊は、海面の温度上昇と酸性化による世界の脅威に対抗することに注力する。
航空自衛隊は、空から地球温暖化の影響を調査し、大気に関する問題への対処に、その資源を充てる。
実にすばらしい提案です。スウェーデンの16歳の少女、グレタさんの指摘をきちんと私たちは受けとめるべきだと思います。
日本の憲法九条は、素朴な平和主義ではない。現在の国際社会の現実に即した、現実的な選択肢なのだ。
私たちは、軍事を優先させることをやめ、気候変動への対応を、すべての経済と安全保障計画における主要な関心事とする必要がある。そうしなければ、人類は大量絶滅というリスクに直面する。
私たちが存続していくためには、個人や団体による誤った暴力への効果的な対応は警察力と司法によるべきものであるという共通の認識をもたなければならない。
最大の障害となっているのは、経済的にまた政治的にパワーをもっている軍需産業の存在である。実は、軍隊は、人々の利益のために自分を犠牲にする、献身的な個人の規律化された集団である。そこで重要なことは、何を目的として献身するのか、ということ。気候変動への対応には、まさに、このような献身的でパワーのある集団を必要としている。
日本の自衛隊は、100%再生可能エネルギー政策を推進し、緑の革命において重要な役割を果たす。これを第一のステップとする。
いやあ、すばらしい提言です。これを夢のようなタワゴトと簡単に片づけては決してなりません。私たちは、もっと真剣になるべきです。
アメリカは、日本や韓国を「同盟国」とみなしてはいるが、貿易に関して自分の命令に従わないときには、トランプ大統領は、その方針を簡単に変えるだろう。アメリカが中国だけを脅威として考えていて、自分たちは「同盟国」として保護されるなんて幻想に日本人は浸ってはいけない。
北朝鮮・韓国についても、著者は目のさめるような鋭い指摘をたくさんしています。
わずか174頁の薄い本です。著者は江戸時代の漢文学を専攻する学者で、日本にも7年間住み、東大で学び、韓国で教授として活動するかたわらコラムなどを発表してきた学者であり、ジャーナリストとして活動している人です。日本語、韓国語、中国語そしてフランス語を使いこなすアメリカ人でもあります。すごい才人ですね。
日本と韓国・北朝鮮が対アメリカとの関係で、いかに行動すべき、よくよく考え深められた指摘がたくさんありますので、いま広く読まれるべき本として大いに推奨します。
(2019年8月刊。1600円+税)
2020年1月 7日
交通誘導員ヨレヨレ日記
(霧山昴)
著者 柏 耕一 、 出版 三五館シンシャ
出版社の編集を業としていた著者が高額の税金を滞納して税務署から差押されたり、ギャンブルに走ったりして、ついに73歳にして炎天下の街頭に立ち交通誘導員の仕事を始めます。その実体験が実に淡々と語られ、ほぼ同世代の私は身につまされます。
交通誘導警備員は全国に5万人いる警備員の4割を占める。警備員は、法律(警備業法)によって、作業員の仕事を手伝うことを禁じられている。すると、超多忙な現場ではヒマな警備員の様子を見て、作業員がやっかみ皮肉を言うことがある。
警備員の日当は1日9000円前後。普通に働けば月18万円ほどになる。
ただし、法律によって自己破産者は警備員になれない。もっとも、自己破産申立者の99%は免責されますので、警備員になれない人はごくごくわずかでしかありません。この本では、法律のこの点の運用が理解されていないと思いました。
警備員の8割が70歳以上という会社がある。そして最高齢の警備員は84歳。でも、しゃきっとしていてバリバリ仕事している。
警備員は、作業員にストレスなく、安全に仕事をしてもらうことを第一に心がける。
警備員同士で深い人間関係を築くことはまずない。現場は毎日ちがうところだし、組む相手も変わる。仕事を終えて連れだって飲みに行くこともない。みな仕事が終わると、さっさと帰ってしまう。
警備員には物をつくり出す喜びはない。警備員には1日はたらけば足が棒のようになるし、寒さ暑さに直撃されるし、喜びより疲れだけが残る仕事だ。警備業は忍耐業だと思う。
交通誘導の仕事は、よくやって当たり前。ミスをすれば頭ごなしに監督や親方から叱られる。ときには同僚から罵声を浴びせられる。
警備員の仕事は社会で最底辺の仕事だ。
警備員は、むやみに一般車両の誘導をしてはいけない。工事現場における人や車両の誘導は、あくまでも相手の任意的協力にもとづく「交通誘導」であり、警察官や交通巡視員のある法的強制力をもつ「交通規制」とはまったく異なる。
最後に著者はひき続き現役交通誘導員として働くつもりだとしています。
これからは、これまで以上にあたたかい目で交通誘導員をみることにするつもりです。
(2019年9月刊。1300円+税)
2020年1月 6日
そのツイート、炎上します
(霧山昴)
著者 唐澤 貴洋 、 出版 カンゼン
前に『炎上弁護士』(日本実業出版)を書いた弁護士による、SNS炎上を避けるための実践的な手引書です。
先日、私の前にあらわれた新規の相談客に、どうやって私の事務所を知ったのか尋ねたところ(毎回、欠かさない質問です)、スマホの格付が4つ星で、コメントも良いことが書かれていたこと、そして決め手は「相談料無料」とあったからという答えでした。これには驚きました。レストランが星で格付けされていること、利用した客のコメントがついていることは私も知っていましたが、法律事務所まで同じように評価され、コメントがついていることを初めて知りました。しかも、うちの支店については、係争中の相手方から悪口が書かれているのです。なお、「相談料無料」というのは正確ではありません。借金相談だけ無料にしているのです。頼んでもいないのに、いったい誰が、こんな表示をつけたのでしょうか。
悪口については、抹消請求できるほどのものとは思えないレベルでしたので、プラス・コメントを誰かに書いてもらって対抗するしかありません。本当に怖い世の中になったものです。
炎上しても気にしなければいいんだという人がいる。しかし、そういう人に限って、自分が炎上したときに、うろたえ、フツーの精神状態ではいられなくなることだろう。
なるほど、たしかにそうだろうとネット世界に生きていない私も同感です。
ツイッターのやり取りのなかでは、怒りが生まれやすい。というのは、ツイッターは切りとられた短文なので、過激で不快な印象をダイレクトに与えやすいから。
構造的な炎上は、いじめの構造と同じ。いちど悪意をもたれたら、ずっと目をつけられる。学校のいじめが、なかなか終わらないのと同じ。
いじめるほうが自発的にやめる理由は、あきる以外ない。学校でのいじめのターゲットが次々に移っていくのと同じで、対象は誰でもいいのだ。
炎上を加速させる大きな要因の一つに「まとめサイト」の存在がある。まとめサイトの広告収入で稼ごうという人が多く、まとめサイトは乱立している。
そして、一般人が炎上すると必ずあらわれるのが特定班。個人情報を暴き出す機動力のある特定班が存在し、炎上者の性格、居住地、学校、勤務先、家族構成などのプライバシーを暴き出す。
このような特定班の成果を待ち望む人々が存在する。これも人間の醜悪な一面だ。
炎上しても警察はまともに捜査しようとはしない。これは怖い。
炎上に加担する人は、孤独感のある人、寂しい人が多い。
炎上したときには、第一に次の炎上の燃料となるネタを与えない、第二に時間が経過するのを待ち、相手と同じ土俵に上らない、第三に明らかなプライバシー侵害のときには警察に相談する、第四に、インターネット上の人権侵害に明るい弁護士に相談する。
ちなみに、インターネットに詳しくない私は、この種の相談を受けたときには、すぐに専門的に対応できるインターネットに強い弁護士を紹介するようにしています。
(2019年5月刊。1400円+税)
2019年12月27日
限界のタワーマンション
(霧山昴)
著者 榊 淳司 、 出版 集英社新書
分譲タワーマンションの建造は、日本人の犯している現在進行形の巨大な過ちだ。
タワーマンションとは、一般に20階以上の鉄筋コンクリート造の集合住宅のことをいう。
タワーマンションを購入し、住んでいる人には近い未来に恐ろしい不幸がやって来る。
タワーマンションは、その建築構造上の宿命として高額な保全費用がかかる。それは通常のマンションの2倍以上。大規模な修繕工事は、およそ15年に1度の割合で必要とされる。築30年でエレベーターや給排水管の交換が必要となる。
タワーマンションは、外壁の修繕工事を行わなければ雨漏りが発生しやすい建築構造になっているので、定期的な大規模修繕が欠かせない。
タワマンの寿命は30年で尽きる。築45年をこえると住宅としては機能しなくなり、廃墟となる可能性が高い。
タワーマンションは、人間の健康や成育に悪影響を及ぼしている可能性がある。タワーマンションの上層階に暮らす子どもは、成績が伸びにくい。外に出るのが面倒な子は世界が広がらない。実体験の乏しい子は、成績が伸びにくい。
武蔵小杉では、10年間に14棟のタワーマンションがたち7000戸の住人が増えた。1戸3人とすると2万1000人だ。
住宅業界の人は超高層物件を買わない。彼らは、「買う奴がいるのだから、今売れたらいい」という「売り逃げの論理」で突っ走っている。では、彼らの住居は・・・。賃貸マンションに住み、何年かに一度、ひっこして生活している。
うーん、そうなんですか・・・。やっぱり分かっているんですね。
賃料が高くても、結局、そのほうが人生設計上おトクだということなんですよね・・・。
タワマンが本格的に竣工しはじめたのは2000年ころから。建築基準法による規制緩和が背景にある。
タワマンの「施工不良」があまり表面化しないのは、騒いだら資産価値に悪影響が出る、それでもいいのかと売主や施工会社が脅すからだ。
うひゃあ、それはひどい。
タワーマンションは、すべてがオーダーメイドで、物件によって工法が違う。つまり、まだ施工法が確立していない完成途上の状態にある。上層階の外壁修繕をどうするのか・・・。もはや高すぎて外に足場は組めない。屋上のクレーンから作業用のゴンドラを吊るしたり、壁に線路のようなガードレールを敷設したりするとしても、風速10メートル以上の強風下では作業できない。すると、1層分の作業に1ヶ月かかることがある。
多くのタワーマンションは、2022年ころに、1回目の大規模修繕工事をする。15年後の2037年には2回目の工事が必要となる。
売主は、引き渡しから10年を過ぎると、すべての保証を免れる。
タワーマンションは、電力が供給されて、エレベーターが正常に稼働していることが、大前提の住形態だ。この前提が崩れることなんて滅多にないと住人は安易な想定で生活している。
武蔵小杉のタワーマンションで地下室が浸水してポンプが止まり、トイレが使えなくなりました。そんなマンションに長く住めるはずがありません。
火災が起きると、住人が何台かしかないエレベーターに殺到する。
タワーマンションの住人のなかには、上層階に住むことがスティタスであるかのような価値観に感化されている。
いま福岡の赤坂あたりには次々にタワーマンションがたっていますが、あんな高層階で日常生活を過ごせるというのが、高所恐怖症の私には不思議でなりません。
(2019年6月刊。800円+税)
2019年12月19日
欺す衆生
(霧山昴)
著者 月村 了衛 、 出版 新潮社
本当は、こんな本は読みたくないし、すすめたくもありません。思わず目をそむけたくなる話のオンパレードなのです。
欺(だま)す側の心理と論理が実によく描写されています。私も商品先物取引の加害者(刑事被告人)の供述調書をもとに一冊の本をまとめたことがあります。
この本は加害者(だます側)の家族生活にまで踏み込んでいますから、まさしく身につまされるストーリー展開です。ある面では切ないというところも感じます。でもでも、主人公は、結局のところ、一線を踏み越えて、悪の道を突っ走っていきます。そして、その家族はそれを受け入れて裕福な生活にどっぷり浸るのでした。
出発は豊田商事のだましの商法になっています。同じようなことが商品先物取引の世界でもありました。国内の先物取引会社で素人騙しの手口(テクニック)を身につけた連中が当局の規制が及ばない香港やロンドンなどの海外取引所を舞台とした先物取引に素人を引きずり込んで大金をだましとっていったのです。
本書では、豊田商事の残党たちが、原野商法、和牛商法そして、証券投資、さらにはアフリカを舞台とするインチキ商法を展開していく様子が見事に活写されています。そのときは、舞台装置として、公務員や大使館員を抱き込むのです。
そして、暴力団が登場します。もちつもたれつで、企業舎弟たちとだまし稼業に狂奔し、ついには大物政治家まで登場します。それは、「桜を見る会」でジャパンライフが首相枠で姿をあらわし、実は、この豊田商事に匹敵する大がかりなインチキ商法が、実は安倍首相とはその父親の代から親密な関係にあったわけですが、それと同じ本質だったのでした・・・。
だますときには、相手の資産状況だけでなく、本人の性格や経歴、さらには家族構成まで調べあげる。
「人を欺すためなら、自分を欺すことなんて簡単にできる。そういうもんだろ、人ってさ・・・」
「人を欺す仕事は最低だと思う。でも、その一方で、人を欺す快感は捨てられない。強欲な輩を欺すのは痛快だ。その一方で、そんな輩を欺す自分はなんだ・・・と考える」
だます男がだまされ、またいいようにあしらわれる。そして、暴力団にしゃぶられる。けれども、暴力団内部でも利害が一枚岩ではない。
そんな実情が、これでもか、これでもかと畳みかけられると、こんな世界に足をつっこまなくてよかった・・・と思えてきます。いくら大金があっても、心の平穏はどこにもないのです。
主人公が迷い、悩んでいたのがウソのように悪に徹していくのに、膚寒い思いがしてしまいました。見たくないけれど、直視しなくてはいけない現実だと思って、500頁もの大作を週末の土曜日に一日で読み切りました。
(2019年11月刊。1900円+税)
11月に受けたフランス語検定試験(準1級)の結果を知らせるハガキが届きました。71点(12点満点)で合格でした。自己採点で73点、合格基準点は67点ですので、いつものように低空飛行でスレスレ合格です(合格率24%)。 1月末に口述試験を受けます。これが大変なんです。今から仏作文の練習をはじめるつもりです。
ちなみに、準1級の合格証書は7枚もらっています。レベルアップは望むべくもなく、低下せず維持するのが精一杯です。
2019年11月28日
日本への警告
(霧山昴)
著者 ジム・ロジャーズ 、 出版 講談社α新書
世界的投資家がアベノミクスは完全に失敗した、軍事予算こそ真っ先に削減しろと指摘しています。同感至極でした。小気味がよく、胸のすく思いのする新書です。
安部首相がしてきたことは、ほぼすべてが間違いだ。国際集会で語られるのは、聞こえのいい夢物語ばかりで、それが実現することはめったにない。
日本経済を破壊するアベノミクスが続き、人口減少の問題を解決しないかぎり、日本に投資はできない。
東京オリンピックのせいで日本の借金はさらに膨らむ。オリンピックがもたらした弊害が日本をむしばむ。
日本は女性を大切にし、育児をもっと応援すべきだ。
日本人は外国人に対する差別意識をなくせ。そして、日本人はもっと外国に出るべきだ。
移民の受け入れについて、まるで犯罪者に対して門を開くようなイメージをもつのは、まったくのお門違いだ。
日本政府として真っ先にすべきなのは防衛費の削減だ。
安部首相はたくさんの間違いをしているが、防衛費の増加は過ちの最たるものだ。今や、日本は450億ドルをこえる防衛費を支出しているが、防衛費をいくら増やしても、日本の将来のためには何の役に立たない。むしろ国民の生活が悪くなるばかりだ。
武器の予算をつければ、武器の製造やメンテナンスに直接かかれる人たちはもうけられるとしても、それ以上のことは何も起きない。やがて武器は老朽化し、ムダ金だったということになる。
ズバリズバリと日本のかかえる問題が指摘されています。一読する価値があります。ついでに、あなたもお金もうけが出来るかも・・・。
(2019年9月刊。900円+税)
2019年11月25日
光の田園物語
(霧山昴)
著者 今森 光彦 、 出版 クレヴィス
いやあ、思わずほれぼれしてしまう見事な田園風景です。写真が輝いています。
滋賀の里山に生きる写真家が、荒れ果てた土地、竹の密生する林を切り拓いていきます。とても人間の手だけではかないません。ついにはユンボなどの重機も登場し、竹を根こそぎ抜いていくのです。そして、そこにはひっそり古木が隠れていました。また、小道には石仏がいくつも埋もれていたのです。
クヌギの古木が姿をあらわしましたが、思い切って伐採。すると、翌年には、早くも新芽が吹き出してきます。たくましい自然の生命力に圧倒されるばかりです。
土手のカヤにはカヤネズミがいて、巣をつくっています。
真夏の田圃は緑したたる田園風景がずっと先まで広がり、そのみずみずしさを胸一杯吸いとりたくなる気分にさせてくれます。この頁を眺めるだけで、この本買って手にとる価値があります。
著者のすばらしいところは昆虫教室を開いて子どもたちに昆虫の生態を一緒に教えていることです。もちろん、著者自身が昆虫博士のように詳しいのです。いろんなチョウやトンボ、そしてカエルの名前を見分けわれるなんて、それだけですごい、すばらしいではありませんか・・・。
昆虫は、子どもたちが手にすることのできる数少ない生命、神様がくれた玩具だ。
竹藪を切り拓いたあとを整地し、水たまり(湿地)をつくり出します。水辺の生き物のためです。さっそくトンボがやってきます。
田んぼも大切だけど、土手も大事に育てます。土手にすむ生き物もいるからです。
環境農家を目ざす写真家の著者は大忙し。でも、その笑顔は輝いています。自然とともに生きる喜びがあるからでしょう。
琵琶湖のほとり、大津市の仰木という地区に広い田園をかまえて自然と生活している著者による、実に楽しい写真集です。できたら一度、ぜひ現地に行って、実感してみたいものです。
全国の図書館に一冊は常備してほしいと思いました。それだけの価値があります。
(2019年8月刊。2500円+税)
2019年11月22日
日産自動車極秘ファイル2300枚
(霧山昴)
著者 川勝 宣昭 、 出版 プレジデント社
日産自動車にはカルロス・ゴーンという権力者が長く君臨していましたが、その前は「天皇」とまで呼ばれた塩路一郎がいました。ただし、塩路一郎は会社の経営者ではなく、労組の委員長でしかありません。ところが、なぜか労組のトップが日産という会社の支配者然としていた時期が長く続いていたのでした。
本書は、日産の内部で塩路一郎に抗していた課長グループの動きを当事者が書いて発表したものです。著者は、日産自動車の広報室課長職で、40歳前後でした。
塩路一郎は日産自動車を含めた自動車労連の会長として絶大な権限をふるっていた(当時53歳)。
著者たちは、秘密組織をつくって塩路一郎打倒の取り組みをすすめていた。それは社長の特命任務というものではなかった。取締役会のなかでも、塩路一郎に意を通じている人間が少なくなく、彼らにバレないように隠密裡に活動していった。
塩路一郎は、中曽根康弘と太いパイプをもっていて、石原慎太郎の選挙参謀もつとめた。
塩路一郎の意向を受けて手足となって動き、ダーティーな行動もいとわない、「フクロウ部隊」という裏部隊が存在した。日産労組のなかには、大卒グループ、高卒グループ、高専卒グループの三大派閥があり、フクロウ部隊は、高卒グループのなかで組織されていた。
フクロウ部隊は盗聴を常套手段としていた。その主たる目的は、社内の幹部クラスの人間の弱みを握ることにあった。
著者が1967年に日産に入社したとき、入社式は労組との共催だった。そして、川又社長の訓示のあと、塩路一郎が登壇して挨拶した。
会社の人事は事前に労組幹部に伝えられ、その承認を得る必要があった。つまり、現場での人事権は完全に労組側が掌握していた。生産についても、労組との事前協議制によって、労組側の事前承認が必要とされていた。
多くの日産社員は、争いに巻き込まれたくない、自分の仕事ができて、給料がもらえて、生活が守れたらいいと考えていた。それで、組合にあえて抵抗するようなことはしなかった。
塩路一郎は、明治大学の夜間部出身にもかかわらず、1962年から自動車労連の会長を20年も独占した。
川又社長は興銀出身で、社内の基盤が強固なものではなかったので、労使協調路線をとった。これが潮路一郎の専横を許すことにつながった。
川又社長の次の石原社長は塩路一郎に追随しなかった。
塩路一郎は3500万円のヨットを専用とし、もっていたゴルフ会員権もあわせて4300万円した。塩路一郎は銀座で豪遊し、女性スキャンダルも派手だった。そこで著者たちは週刊誌にリークし、また女性スキャンダルを明るみに出すため張り込みをし、怪文書を発行するのです。
いやはや、大変な戦いです。ついに塩路一郎は倒れました。
しかし、次に登場したのはカルロス・ゴーン。果たして日産という会社はどうなっているにか・・・。他人事ながら心配になってしまいます。それにしても、企業のなかで生きるというのは大変ことなんですよね。つくづく自由人である弁護士になってよかったと思ったことでした。
(2018年12月刊。1600円+税)
2019年11月20日
北朝鮮と観光
(霧山昴)
著者 礒﨑 敦仁 、 出版 毎日新聞出版
先日、天神で韓国映画をみました。韓国に軍人が商売人に化けて北朝鮮に潜入するというスパイ映画です。驚くべきことに実在するスパイをモデルとしているそうですが、そのスパイが北朝鮮に潜入する道具としたのが観光業でした。
そして、その映画では韓国の保守権が窮地に立たされたり、大統領選挙が近づくと北朝鮮にお金を渡してミサイルを打ち上げてもらったりして「北朝鮮の脅威」を演じてもらっているというシーンが登場します。中国に両者の接点があるのです。同じことが日本の安倍政権についても指摘されていますが、やっぱり本当のことなんですね・・・。
北朝鮮に対してマイナス感情をもっているのは日本くらいのもので、世界中にそんな国はいないとの指摘には、さすがにハッとさせられました。
現時点で、北朝鮮の金正恩政権はまもなく崩壊するだろうというのは、単なる希望的観測にすぎない。今では建国70周年を経て、69年で終了したソ連よりも寿命は長い。大量の餓死者を出した1990年代の「苦難の行軍」時代もなんとか乗りこえた。
これまで韓国へ亡命した脱北者は70年間の累計で、わずか3万人でしかない。3万人とは多いと思っていたのですが、少ないという評価があるのですね・・・。
北朝鮮と国交を結んでいる国は160ヶ国。イギリスやシンガポールには北朝鮮の大使館があり、平壌にはスウェーデン、ドイツ、インドなどが大使館を置いている。
日本だけが必要以上に北朝鮮をたたき過ぎて、慰安問題を解決する糸口をつかめなかったのではないか・・・。
北朝鮮は東アジアの最貧国であり、1人あたり所得は1214米ドル(2017年)。これはベトナムの3分の1でしかない。
平壌の一極集中投資が進み、50万人が住む首都中心部には猛烈な勢いで高層ビルが建設されている。
金正恩政権は、経済を重視する政策をすすめている。
北朝鮮は非常にしたたかな国である。核保有は体制維持のための手段として考えられていて、それ自体を目的化していない。
近年は、平壌中心部には「消費者」と呼ばれる富裕層が登場し、貧富の格差は確実に広がっている。今では平壌だけでなく、主要な地方都市にもタクシーが急増している。
北朝鮮の人口は2500万人、その1割の250万人が平壌に集まっている。
日本から北朝鮮に行く人は1990年代には年間3000人ほどいたが、2018年には400人しかいなかった。
北朝鮮にもケータイはあり、2015年には300万台をこえた。
北朝鮮を訪れる日本人にリピーターが多いのは大きな特徴。
南北間交流が人々の意識に変化をもたらす可能性は、もっと注目されてよい。
これには私もまったく同感です。
行ってみたいけれど、ちょっと遠い外国。それが北朝鮮です。その観光旅行の実情を知ることができました。
(2019年7月刊。2000円+税)
日曜日の午後、いつもの仏検(準1級)を受験しました。朝早く起きて、「傾向と対策」にある基本文をずっと書き写していました。もはや上達するのは望むべくもなく、ただひたすらフランス語力が低下しないように必死です。この1ヶ月間ほど、朝と夜の寝る前に、20年来の「過去問」を繰り返し復習していました。このほか、毎朝のNHKラジオ講座の書き取り、車中でのCD聴取、毎週のフランス語教室も欠かしていません。ボケ防止とはいえ、本当に緊張する1ヶ月間でした。その結果は、大甘の自己採点で73点。120点満点で6割。なんとか、合格できたかな・・・。
2019年10月29日
憲法九条は世界遺産
(霧山昴)
著者 古賀 誠 、 出版 かもがわ出版
自民党の元幹事長であり、今なお自民党に対して影響力を有している政治家が安倍首相の9条改憲を鋭く批判した本です。
そこで語られているのは、しごくもっともなことばかりなので、平和を願う保守本流の人々にも受け入れられる本だと思いました。
100頁もない、冊子のような薄い本ですが、内容はとても濃いものがあります。そして、さし絵がとても良くできていて、すんなり本文を読みすすめるのを助けてくれます。
国家と国民に対する政治の責任として、一番大切な要諦(ようてい)は平和だ。平和でなければスポーツも、経済も、観光もない。日本の国が平和だから外国人が安心して足を運んでくれる。
第二次世界大戦に対する反省と平和への決意をこめて憲法九条はつくられている。
日本の国は戦争を放棄する、再び戦争しないと世界の国々へ平和を発信している。これこそ世界遺産だ。
戦後74年、わが国は一度として、他国と戦火をまじえたことがない。平和の国として不戦を貫くことができている。これは憲法九条の力であり、だからこそ憲法九条は世界遺産なのだ。これは、どんなことがあっても次の世代につないでいかねばならない。我々の世代だけのものであってはいけない。
あの戦争で多くの人が無念の思いで命をなくし、また戦争遺族の血と汗と涙が流された。その血と汗と涙が憲法九条には込められている。
日本がアジアの国に対して与えた損害は、今でも影響が残っている。
過去の過ちへの反省は、あの平和憲法のなかにもふくまれていて、だからこそ九条を維持し続けるという誠実さと謙虚さが、この日本の国には必要なのだ。
憲法九条については、一切改正してはダメだ。一字一句変えないというのが政治家としての信念であり、理念であり、私の哲学だ。
自衛隊のことを憲法に書く必要はない。
理想を実現するためにこそ政治はある。日本は、よその国と同じような道を歩く必要はない。
79歳になった著者が戦争で亡くなった父親をしのびつつ、戦後、行商しながら著者を育ててくれた母に感謝しながら憲法九条の大切な意義を切々と語った冊子です。多くの「保守」支持者に読んでほしいものだと思いました。
(2019年9月刊。1000円+税)