弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
社会
2019年8月 8日
なぜ人は騙されるのか
(霧山昴)
著者 岡本 真一郎 、 出版 中公新書
「振り込め詐欺」と、それに類似した詐欺にひっかかる人が後を絶ちません。
人類の情報処理の基本設定(デフォルト)は、自動的処理。つまり、考えることなく、自動的に処理されている。不都合が起きたときだけ、制御的処理のシステムが積極的に介入して認知を修正している。
感謝先行型の表現の貼り紙「いつもご清潔にご使用いただき、ありがとうございます」のほうが、「清潔に使用しましょう」というより、印象が断然いいし、それに従おうという気持ちも強くなる。
話し方の印象がいいと、説得力は高くなる。
このようなことは滅多にないということ自体が疑いを弱めることにつながる。免疫のない出来事は説得されやすい。
特殊詐欺の被害者のなかに、繰り返して被害にあう人もいる。
ものすごくよく出来た台本があり、そこからひっぱり出してくるのです。
学習性無力感というコトバがあるそうです。今の世のなかにぴったりのコトバですよね・・・。
本書の後半では安倍首相のウソと詭弁を見事に論証しています。
先日の参院選でも、堂々と憲法に自衛隊を書き込んでも何も変わらない、なんてとんでもない嘘を繰り返していました。
「私も妻も一切関係がない。私や妻が関係していたことになれば、間違いなく総理大臣も国会議員もやめる」(2017年2月17日、衆議院)。
ところが、あとになって、この「関わり」というのを「贈収賄に関すること」だと安倍首相は言い換えて、責任のがれを図りました。とんでないごまかし答弁です。安倍首相は直ちに国会議員であるのを恥じて、辞任すべきなのです。
こんな首相が堂々と開き直って居座っている姿は、日本の子どもたちにどうしようもないという無気力感を植えつけていると思います。
それにしても、投票率が5割に達しないというのは日本の民主主義の危機です。あきらめてはけないのですけどね・・・。
(2019年5月刊。820円+税)
2019年8月 7日
日本の異国
(霧山昴)
著者 室橋 裕和 、 出版 晶文社
日本は今や移民大国になっているのですよね。日頃、あまり自覚していませんが・・・。
その現実を、日本全国を歩いてレポートしている本です。
東京の高田馬場にはミャンマー人が多く、インドのIT技術者は西葛西(かさい)にたくさん暮らしている。大和市(神奈川県)には、ベトナム・カンボジア・ラオスの人々が寄り集まっている。西川口(埼玉県)は新しいチャイナタウンとして注目されている。
これをもっと詳しく、現地に足を運んで取材し、写真とともに実情を教えてくれます。
足立区竹ノ塚にはフィリピンパブが集まっている。早朝5時から営業しているパブがある。飲み放題、歌い放題、そして和定食がついて3時間で、2000円。これは、とてつもなく安い。そこに、トラック運転手や年暮らしのおじいちゃんたちが早朝から詰めかける。お客の多くは性的サービスではなく、フィリピーナの大らかさと、ホスピタリティに甘えと癒しを求めてやってきます。すごいですね、朝5時からやってるパブに行く人がいるなんて信じられません。
埼玉県八潮(やしお)市には、パキスタン人の中古車関連業者が集中している。だから、ここは「ヤシオスタン」とも呼ばれる。
代々木上原には、日本最大のイスラム寺院(モスク)がある。
東京メトロ・西葛西駅周辺には4千人をこえるインド人が住んでいる。東京都全体で1万2千人なので、その3分の1が江戸川区に住んでいる。
高田馬場は、「リトル・ヤンゴン」と呼ばれるほどミャンマー人が多く、集中している。
日本に暮らしているモンゴル人は1万人。そのうち3分の1の3500人が留学生。技能実習生は1000人のみ。モンゴル人留学生がコミュニティの中心としているのは、街ではなく、フェイスブック。
いちょう団地(神奈川県大和市)は全体の2割以上が外国人。10ヶ国の人々が住んでいて、もっとも多いのはベトナム人。
いま日本にやって来るインドシナの人々に難民はいない。いまでは技能実習生が中心になっている。彼らは東京の新大久保に集中している。
御殿場市(静岡県)には日本最大のアウトレット・モール「プレミアム・アウトレット」がある。年間売上が900億円をこえる。中国人観光客による爆買いの総本山だ。
多民族共生に向けた地道な取り組みが各地で持たれている。そのことを実感させてくれる本でもありました。
(2019年5月刊。1800円+税)
2019年7月31日
奮闘!クレサラ問題に取り組む
(霧山昴)
著者 永尾 広久 、 出版 大牟田しらぬひの会
福岡県大牟田市で42年間、弁護士活動していた著者は、そのうち37年間、大牟田しらぬひの会というクレサラ被害者の会と一緒に活動してきました。クレサラ問題は今や完全に下火になっていますが、クレジット・サラ金問題とは何だったのか、被害者運動は何を目ざしたのかを振り返った貴重な労作です。
サラ金三悪というのがありました。超高金利(日歩30銭というのもありました。年10割を越します)、無選別過剰融資(収入のない主婦や学生にまで貸し付けます。申し込み額以上の金額を押し付け貸します)、そして強硬取立(多くの自殺者を生みました)です。
サラ金会社は急成長し、オーナーたちは日本の長者番付けの上位を占めました。そして、自民党や公明党の政治家が莫大な政治献金をもらいながら超高金利を支えました。
被害者運動は全国的に取り組みをすすめました。借りた奴が悪い、借金返済しない奴が取立にあって苦しむのは自業自得だ。こんな借主責任論、自己責任論を打破するのは容易ではありませんでした。
被害者運動のなかに極論が生まれました。借金の原因はすべて生活苦、苦しんでいる多重債務者は一刻も早く免責して救済すべきだ。しかし、しらぬひの会の26年間の相談件数1万4千件を分析すると、借金の原因が生活苦であることもたしかに多いけれど、決してそれだけではない。ギャンブルや買い物しすぎも多い。なんでも免責は、根本的な解決にならないことが少なくない。そのように指摘し、多重債務者が本当に立ち直るためには、励ましの場、支えあう被害者の会が必要だということを大牟田しらぬひの会は主張し、実践してきました。相談活動だけでなく、学習会・勉強会そして花見や望年会、ときには焼肉パーティーという懇親の場をもちました。
そのことを多角的に明らかにした座談会は読みごたえがあります。なかでもギャンブル依存症の体験談、そしてホームレス体験談は心を打つものがあり、考えさせられます。同時に、果たして、クレサラ被害者を被害者と呼ぶことができるのか、という根本的な問いかけに対する回答にもなっています。
全国クレサラ対協内では、なんでも一律・無条件に免責して救済すべきだという意見が主流を占め、それに異を唱える人は排除されたりしました。その典型がクレジットカウンセリング協会に対する誤った見方です。カウンセリングの効用を認めないという考え方から、大阪には、最近まで、カウンセリング協会の相談窓口がありませんでした。
九州では被害者の会が毎年1回集まって交流集会を開いてきました。7月に福岡で第32回の交流集会が開かれたばかりです。
裁判所の破産手続の変遷もたどっています。集団面接という手法もありました。そして、破産・免責手続については、江戸時代にも破産・免責手続があったことが紹介され、興味をひきます。
著者は、クレサラ問題解決の手引書を発刊し続けました。類書が少ないときには、1回の全国集会で30万円以上もの本の売上があったといいます。
歴史に残るべき取り組みとして紹介させていただきました。
(2019年6月刊。2000円(悪税込み))
2019年7月26日
奴隷労働、ベトナム人技能実習生の実態
(霧山昴)
著者 巣内 尚子 、 出版 花伝社
私の身近な人が2人、ベトナム人技能実習生にかかわっています。1人は、土木建設業の社長で、何年も前からベトナム人を10人ほど雇っています。ベトナム人は頭がいいし、よく働くので、とても助かっていると言って、ベタ褒めです。会社の寮に入っていて、月10万円はベトナムの家族に仕送りしているといいます。
もう一人は、ベトナム人技能実習生の受け入れ機構を主宰しています。こちらはまだ始めてから日が浅いようですが、ベトナムに頻繁に通っています。
この本はベトナム語の出来る著者がベトナムと日本で技能実習生に直接あたって話を聞いたことをもとにしています。また、もと技能実習生として働いていたベトナム人が送り出す側で働いているのに取材もしています。
ベトナムから日本へ働きに来る人たちは、平均して100万円以上を負担(借金)している。
技能実習生の資格で日本にいる外国人は28万5千人をこえ、やがて30万人になろうとしている。中国出身者が減った分をベトナム人6万7千人が埋めている。
ベトナムは、「労働力輸出」と呼んで、日本への出稼ぎを奨励している。ベトナムにある労働輸出会社はあくまでも営利目的のビジネスをする会社の組織だ。ところが、技能実習生は3年で本国へ帰国するのが原則。なので、日本人は技術をまともに教えたがらない。
ベトナム人技能実習生が40平方メートルの室内に6人が暮らしていて、1人あたり月2万円を「家賃」として支払わされている。すると、日本に来る前には好印象だったのが、来てみたら悪印象のまま帰国するベトナム人が37%もいる。大変残念な現実です。
ベトナムの経済は海外から送金される巨額のお金が下支えしている。推定で123億米ドル(2015年)だ。
ベトナムで働くと月2万5千円ほどの収入。ところが、日本だと10万円は軽くこえる。しかし、日本側の監理団体があり、技能実習生1人あたり月に3~5万円を徴収している。
日本にいるベトナム人技能実習生が残業すると、時給400円の計算というのが多いとのこと。なんということでしょう。まったく違法です。
そして、職場では上司や同僚から「ベトナムへ帰れ」と怒鳴られたり(パワハラ)、お尻をさわられたり(セクハラ)という被害もあっているのです。
ベトナム人実習生の「逃走」が目立つ。ベトナム人は中国人の1500人に次いで多く、1000人をこえる(2015年)。
海外からの技能実習生を安くこきつかうのが許されている限り、日本人の労働条件が向上するはずもありません。ベトナム人技能実習生の実態を刻明にレポートしていて、大変勉強になりました。
(2019年5月刊。2000円+税)
2019年7月24日
東大闘争と原発事故
(霧山昴)
著者 折原 浩、熊本 一規、三宅 弘ほか 、 出版 緑風出版
著者の一人である折原浩助教授(当時)は東大闘争において全共闘支持を公然と表明した数少ない教官の一人です。私もその授業を受けたようには思うのですが、記憶が定かではありません。城塚登教授だったかもしれませんが、マックス・ウェーバーの『プロテスタントの倫理・・・』の授業を受けて、大学ってこんなに深く物事をつき詰めて考えるところなんだな・・・と衝撃を受けたことは今でもよく覚えています。
でも、東大解体を叫び、民青のインテリゲンチャ論を鼻先でせせら笑っていた全共闘の論理に賛同しながら、東大助教授であることをやめないことには、当時も今も理解できなかったし、できません。
全共闘の活動家とシンパ層の多くは東大解体、自己否定を叫びながらも、東大卒として社会に出て行きました。私の知る限り、ごく一部の人が東大を中退したくらいです。
折原浩は、本書においても「実力行使」という言葉しか使っていませんが、東大全共闘は、暴力を賛美し、バリケード封鎖を狙って行動していました。それは暴力支配でしたし、バリケードの先にいる「敵」は「殺せ」と叫んでいたのです。今でも折原浩はそれを認めていないようなのが、残念です。
そして、1969年3月の「授業再開」闘争を非難しています。このころ、多くの(大半の)学生が授業再開を待ち望んでいました。もう暴力の日々にはうんざりしていたのです。大教室でもいい、ゼミ室でもいい、実験室でもいいから授業を受けたい、議論したい、学問の精髄に触れたいと学生が望んだことのどこが悪いというのでしょうか・・・。
全共闘シンパ層も、再開された授業には、なだれを打つように参加し、すぐに授業は軌道に乗りました。それまでつなぎでやられていた自主ゼミは、たちまち雲散霧消してしまいました。
この本には、「日共・民青系の暴力部隊導入(1968年11月12日夜半)という表現が出てきます。あたかも「日共・民青系」が外部から外人部隊(暴力部隊)を導入したため、東大闘争で全共闘が敗退したかのような表現です。しかし、宮崎学の『突破者』に登場してくる「あかつき戦闘隊」というのはたしかに存在していましたが、実際にはきわめて限られた役割しか果たしていないのを針小棒大に誇大宣伝しているだけのことです。実際には、全共闘の暴力に対して多くの東大生が反対して立ち上がり、身をもって全共闘の反対を乗りこえて東大当局と確認書を締結して、学内を正常化し、授業が再開されたのです。
東大闘争を全面的に語るためには、「暴力」(ゲバルト)の行使をどう考えるのか、という考察を抜きにしてはいけないと最近あらためて私は痛感しています。もちろん、暴力賛美ではなく、暴力否定の立場からの反省と総括が必要だという意味です。
それにしても、3.11原発事故のときに果たした東大の原子力学者たちの哀れさは、見るも無残でした。ところが、問題は、当の本人たちがそのような自覚と反省が今もないということです。私は、この点も本当に残念です。
この本は、情報公開分野で第一人者である三宅弘弁護士から贈呈されたものです。三宅弁護士の日頃の活動には大いに敬意を表しているのですが、単なる一学生として東大闘争にかかわった者として、率直に意見を申し述べました。
(2013年8月刊。2500円+税)
2019年7月23日
消費者教育学の地平
(霧山昴)
著者 西村 隆男ほか 、 出版 慶應義塾大学出版会
これまで長年にわたって消費者教育の研究や実践にかかわってきた著者の到達点を集成した本です。著者は高校教育の現場に15年いたあと、大学教育の現場で25年間つとめています。私も監事として関わっている熊本の「お金の学校」にも、著者は創立以来、深く関与しています。
消費者教育推進法が議員立法として提案され、2012年8月に成立し、12月から施行されていますが、著者はこの立法過程にも深く関わりました。
この推進法では、消費者教育の推進を国の責任によって行うと明示されています。地方の消費者教育、消費者センターは、予算、人員ともに削減されてきたという現実がありますが、国はもっと予算措置を講じるべきです。有害無益なイージス・アショアやF35につかうお金の、ほんの一部をこちらにまわせばいいのです。
ところが、現実には、例の「なんでも自己責任論」という風潮が強まるなかで、消費者責任論、買い手注意論が今もってはばをきかしています。本当に残念です。
消費者教育は、もちろん子どもを対象とする学校教育だけでなく、社会人への生涯教育です。それにしても、インターネットの発達のなかで子どもたちは、いかにも保護されていない存在になっています。
子どもは不完全な判断能力をもつ消費弱者であるにもかかわらず、保護されていない存在となっている。子どもをターゲットとして発達した音楽、ファッション、ゲーム、漫画、アニメに関する情報はインターネットによって瞬時に提供されている。
子どもは、自らの生活を主体的に運営する能力を身につける前に、経済活動に参加する消費者となる。生きるための消費よりも先に、娯楽としての消費に直面する。その傾向をインターネットが加速させた。
金額によって勝敗が決まる、結果や見た目がすぐに反映され、相手に伝わるサービスとの接触が、お金を過剰に重視する拝金主義的な価値観の形成につながっているのではないか・・・。拝金主義的で、自分自身の生活や意思決定をかえりみる余裕のない子どもたちに消費者として現代のサービスにいかに関わるのかを考えさせる機会を与える必要がある。
クレサラ多重債務者に長らく関わってきた者として、「家計管理支援論」(石橋愛架・鹿児島大学准教授)に注目しました。最近、自己破産申立がじんわり増加傾向にあります。かつてのようなサラ金会社の過剰貸し付けは激減していますが、その穴を埋めるように銀行が貸し付けをすすめていますし、生活基盤がいかにも危ない人々が増えるなか、自らの家計状況や感情をコントロールできない人々が増え、結局高リスク、高コストの借入れに頼るというパターンだと分析されています。大いに説得力のある分析だと思いました。
350頁もの貴重な労作です。著者より贈呈されましたので、私の理解できた限りで紹介させていただきました。少々高価な本ではありますので、全国の図書館にせめて一冊は備えてほしい本だと思います。
(2017年3月刊。4500円+税)
2019年7月19日
黒いカネを貪(むさぼ)る面々
(霧山昴)
著者 一ノ宮 美成 、 出版 さくら舎
私も弁護士の一人として、ときに社会のドス黒い裏面の一端に接することがあります(といっても、ほんの少しだけで、全貌はとても見えてきません)が、この本を読むと、世の中には、ドス黒いお金が、何億円という大金のレベルで黒社会を漂流していることを感じさせます。まったく嫌になります。
最近、法科大学院で教えている大学教員の話を聞く機会がありました。以前は、社会的弱者のために何か役に立つ弁護士になりたいという学生がいたけれど、今では稼げる弁護士になりたいとか、大きなローファームに入って大企業の力になりたいという学生ばかりになっている・・・、とのことでした。残念です。とんでもない自己責任論が横行して、お金がない者は切り捨てられて当然だという社会風潮が強まるなかで、頼れるものはカネ、おカネを稼ぐしかないという拝金主義の発想に少なくない学生がとらわれているようです。本当に残念です。
福岡で起きた金塊160キロの強奪事件は、私も目を見張りました。7億6千万円もの金塊が白昼、博多駅前のビル正面で警察官を装った男たちから強奪されたのでした(2016年7月)。
2017年4月には、福岡空港から、現金7億3500万円を香港に持ち出そうとした韓国人4人が逮捕されました。この日は、天神で2億円近い現金の強奪事件が起きていましたから、その関係かと思っていると、無関係だったとのこと。
金地金の密輸が2017年には、6トン、280億円も税関によって摘発されているそうです。今の世のなかでは、とんでもない金額の現金や金塊が人知れず動いているようで、恐ろしいばかりです。
ヤミ金については、ビジネスとしてのヤミ金はすたれていて、素人のような個人のやる「見えない貧困ビジネス」になっているとのことです。フツーの市民がサイドビジネスとしてヤミ金融をやっているのだそうです。これもネット社会の怖さでしょうか。
積水ハウスが地面師グループから63億円も騙しとられた裏話も紹介されています。
要するに、土地所有者になりすます人間を用意し、本人確認のために必要なパスポートや運転免許証などを精巧に偽造するグループが存在するのです。弁護士も巻き込まれていて、その騙しに一役買ったりしています。それが金に困っての犯行であれば当然に責任をとってもらわなければいけませんが、騙しを見破れなかったとしたら哀れです。
まったく楽しくなく暗い気持ちになるばかりの本なのですが、ときに現代日本社会の現実を知るために必要な本だと思って速やかに読了しました。
(2019年10月刊。1600円+税)
2019年7月 7日
直及勝負
(霧山昴)
著者 たつみコータロー 、 出版 清風堂書店
国会議員って、何をしているのかな・・・、そんな疑問に対して真正面から答えてくれる本です。本というより、少し厚みのあるブックレットというべきでしょうか・・・。200頁あまりの薄さで、1000円ほどですから、手頃な感じです。私は電車内で30分で読みました。
著者は大阪市西淀川区に生まれ、高校時代はラグビー部でがんばり、生徒会長もつとめたあと、なんとアメリカに渡り、エマーソン大学で映画づくりを学んだと言います。映画監督を目ざしていたのです。そして、大学を出てからはヨーロッパや東南アジアをバックパックでまわり、大阪に戻ってからは、「生活と健康を守る会」の事務局員としてつとめ、7000件もの生活相談を受けました。たいしたものです。DVや借金相談で東奔西走の日々でした。そして、今では日本共産党の国会議員(参議院)として、森友学園問題、コンビニ問題で大活躍中です。
その国会論戦が本当に分かりやすく紹介されていて、いやあ国民に役立つ国会議員って、こうでなくてはいけないよね、そう思わせる内容になっています。
森友学園の籠池氏夫妻は、安倍首相夫妻に裏切られて、今では反アベの急先鋒になっています。財務省による国有財産の払い下げに関して、安倍首相夫妻への忖度(そんたく)はひどいものがありました。
そして、辞めるはずの安倍首相は今も居すわったままですし、財務省の幹部たちはみな昇進しています。ひどすぎます。国を私物化しているのが許せないと著者は強調していますが、まったく同感です。
著者が国会の内外で追及しているコンビニの不当なロイヤルティーの計算、ノルマ、24時間営業の強制、ぜひぜひ改めてほしいと思います。
金もうけのためなら人間らしい生活を踏みにじっていなんて、時代錯誤の発想でしかありません。何が「働き方改革」ですか・・・。コンビニの働き方改革こそ先決でしょう。
カジノ問題、ブラック企業問題、そしてスナック営業など、現代日本のかかえる大きな問題にズバリ切り込んでいる40歳台の青年政治家の活躍に大きな拍手を送ります。読んで元気の出てくる楽しい本として、一読をおすすめします。
(2019年4月刊。1112円+税)
2019年7月 5日
技術が変える戦争と平和
(霧山昴)
著者 道下 徳成 、 出版 芙蓉書房出版
科学技術の発達が戦争の姿を変えている状況を知ることのできる本です。
インターネットの発達によって、前線にいる兵士と司令部にいる指揮官とのリアルタイム・映像つきの情報交換を可能にした。これによって、指令の伝達や状況把握は、より迅速かつ正確になされる。そして、それは前線の兵士が、司令部への報告そして司令部からの命令が大量となり、兵士は多忙をきわめることになった。
犠牲者回避が主目的化すると、軍隊全体に軍人としての職業倫理・士気の低下をもたらしかねない。
ドイツでは、2011年から志願制となったが、人材確保が以前より重要な課題となった。そして、軍隊に対する忠誠心の減退や離職者対策として、海外派遣中の兵士に対するストレス緩和についての支援が重要なものの一つとなった。たとえば、前線にいる兵士に対して家族からのメールは、自分は何もできないという不安や無力感を感じて、かえってストレスになる。そこで、デジタルが発達していても、昔ながらの絵葉書や小包を前線の兵士への送るということが、兵士と家族の双方にとって、ストレス緩和の効果が高い。
インドが得意とする技術は、ジェネリック医薬品のように、すでにニーズの定まった医薬品をよりコストの安い代替物で生産し、広く普及させる技術。たとえば、人質をとるテロリストを制圧する手段として、インド軍特殊部隊は、突入直前に発光手榴弾の代わりに、世界一辛いとうがらしをつかった手榴弾をつかう。これは値段が安いので、広く普及させることができる。
韓国は、2014年に、世界最大の武器輸入国であり、それはほとんどアメリカからの輸入で占められていた。F35戦闘機40機、グローバル・ホーク機4機、など・・・。しかし、対北脅威の対応としては過大装備ではないかという批判・反省もあらわれている。
北朝鮮は、資金不足のため、ほとんどの武器が旧式だが、戦略・訓練・企画・思考は現場にかなっている。
日本企業100社の上位10社の市場占有率は50%をこえている。そして、10社内に3社が上がった。トップの三菱重工(28位)、2位が川崎重工(18%)だった。日本企業の特徴は、防衛上の施設に対するニーズが低いことにある。
武器の製造に3Dプリンターが活用されている。アメリカ軍は、B52戦略爆撃機やC-5輸送機などの旧式航空機の補修部品の製造に3Dプリンターを利用したときのコストが問題となる。3Dプリンターは、まずまずの性能をおさめ、国内外の雇用の奪いあいを生んでいる。
科学・技術の発達は戦争のあり方も大きく変えていることがよく分かる本でした。
(2018年9月刊。2500円+税)
2019年6月26日
団地と移民
(霧山昴)
著者 安田 浩一 、 出版 角川書店
団地は日本の象徴です。私の身近な団地も高齢化がすすんでいます。幸いアメリカのようなスラム街にはなっていませんが、エレベーターがなくて、ひきこもり、またゴミ部屋になっていたり、孤独死していて何週間もたって発見されるというのを聞きます。
この本では、団地に外国人が集中して居住している状況がレポートされています。なるほど、と思いました。
千葉県松戸市にある常盤平(ときわだいら)団地には5000世帯が住む。住民の半数が65歳以上の高齢者。単身高齢者が1000人。
いま団地で大きな問題となっているのが「孤独死」。2016年には、10人が自室で亡くなり、死後しばらくして「発見」された。2001年春には、69歳の男性の白骨死体が見つかった。死後3年が経過していた、これには驚きます・・・。
団地は、いまや限界集落にひとしい。
ええっ、限界集落って、交通の途絶した農山村のことかと思っていると、大都会でも起きているんですね・・・。
団地では、孤独死が出ると、壁紙も床もすべて外し、むき出しのコンクリート状態にしてから、内装工事をやり直す。というのは、いくら清掃しても床や壁から死者のニオイが消えることはないから・・・。
埼玉県川口市にある芝園(しばぞの)団地が全2500世帯。半数が外国人住民で、その大半がニューカマーの中国人。
広島市の基町(もとまち)高層アパート(最高20階建)は、戸数3000戸、9000人が暮らす大規模集合住宅。隣接する県営の中層アパート1500戸とあわせて基町団地とも総称される。半数が高齢者、残り半分が外国人。基町アパートの高齢化率は46%。外国籍住民は20%。残留孤児のような中国人が多い。日本語教室が取り組まれている。
愛知県豊田氏の保見(ほみ)団地は日系ブラジル人が多い。1985年、日本にいるブラジル人は1900人。1990年に5万5000人となり、今や20万人。保見団地の全住民8000人の半分がブラジル人など日系南米人。まさに、「小さなブラジル」だ。1999年、保見団地抗争が起きた。右翼と暴走族が「ブラジル人の一掃」をとなえ、ブラジル人グループも全面対決を覚悟した。幸い、機動隊の出動によって、大がかりな衝突は未然に防止できた。
日本社会は移民国家化を避けることができない。いや、すでに日本は事実上の移民国家だ。外国籍住民の人口は、すでに250万人。これは名古屋市の人口を上まわりもはや京都府全体の人口に近い。たそがれていた団地にとって、外国籍住民は救世主となる可能性がある。そして、団地でニューカマーの外国人が自治会役員になるケースもふえている。団地は多文化共生の最前線。移民国家に向けた壮大な社会実験が進行中なのである。
なるほど、現実をしっかり受けとめ、視点を変える必要があると痛感させられました。
(2019年3月刊。1600円+税)