弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

社会

2011年12月23日

カジノ解禁が日本を亡ぼす

著者   若宮 健 、 出版   祥伝社新書

 今後、大阪市長になった橋下徹は府知事のとき、次のようにいってギャンブルを礼讃しました。
 「日本はギャンブルを遠ざけるがゆえに、坊ちゃん、お嬢ちゃんの国になった。小さい頃からギャンブルをしっかり積み重ね、国民全員を勝負師にするためにも、カジノ合法化法案を通してください」
 信じられない暴言です。子だくさんで有名な橋下徹が、自分の子どもをギャンブル漬けにするのは勝手でしょうが(我が子を本当に勝負師にしようと考えているのでしょうか・・・?)、子どもをみな勝負師になんて正気の沙汰ではありませんよね。
ギャンブル依存症はパチンコ依存症をふくめて病気なのである。パチンコ依存症による被害は恐ろしいものがあります。橋下徹は、そのことに故意に目をつぶり、ギャンブル業界のために笛吹きピエロになっています。
 大阪にカジノをつくることを呼びかけるなんて、一見目新しいようですが、実はいかにも古くさい政治手法です。自分と、その取り巻きだけでよければいいという、エゴむき出しの発想を感じます。
 マカオは、ラスベガスを抜いて世界一のカジノ王国となった。しかし、世界一といっても、売上高は2兆円にみたない。日本のパチンコ業界の売上高20兆円の1割でしかない。パチンコ店で業界トップのマルハンの売り上げは2兆円を超しているので、一社でマカオを陵駕している。日本は、すでに世界一のギャンブル大国である。
 カジノをつくって日本人が幸せになれるはずはありません。カジノ解禁は日本社会に今以上の混乱と貧困そして犯罪をもたらすだけでしかありません。韓国でもパチンコやカジノは規制されました。日本でもパチンコ店の規制は強化すべきなのではないでしょうか。
 著者から贈呈していただきました。引き続きのご健闘を期待しています。
(2011年11月刊。760円+税)

2011年12月21日

権力VS調査報道

著者  高田 昌幸 ・ 小黒 純     、 出版  旬報社   

読んでいるうちに久々に血の沸き立つ思いがしました。さすがプロの言うことは違います。マスコミ人は、ここまで徹底したプロ意識をもって権力と対峙してほしいと強く思ったことでした。西山太吉記者は国会議員をうっかり信用してしまって、大変なことになりました。
 アメリカの有名なボブ・ウッドワード記者はディープスロートが名乗ったあと、彼が情報源だと認め、さらに本まで書きました。このことについて、著者は厳しく批判しています。取材源の秘匿がなっていないというのです。本人が認めても、ときと場合によっては知らぬ存ぜぬを貫き通すべきことがあるというのです。
 20年前、朝日新聞社の広告収入は年2000億円、読売しんぶんは1500億円。ところが、発行部数は朝日800万部で、読売は1000万部と、200万部の差がついていた。朝日の広告単価は読売に比べて非常に高かった。
調査報道に国民が共感すると、内部告発に結びつく。内部告発がもっとも多かったのは談合である。
 取材するときには、録音テープを必ずとる。それも隠しどりである。ニュースソースの秘匿とオフレコは必ず守る。
 今、朝日新聞は、政治部と経済部と社会部の合同チームをつくった。著者は、そんなことは「ナンセンス」と言い切る。
 当局は、ジャーナリズムを使って情報を操作している。
いま、しんぶんは未曾有の危機にある。アメリカでも調査報道はまったく衰退している。インターネットによる広告収入はペーパー広告の1割にしかならない。紙をやめて新しいサイトで飯食っていくには言葉でいえても、実際に計算してみれば、きわめて難しい。
訴えられることに、社内の上級幹部はあまりに臆病になりすぎている。
一つのものを徹底的にすべて掘り尽くせば、調査を徹底すれば、そのこと一つですべての真実を尽くせる。世界を知るのに、世界を回る必要はない。自分が立っているそこを深く掘れば、真実はそこに全部ふくまれるものだ。なーるほど、そういうことなんですよね・・・・。
 大阪地検特捜部であった証拠のフロッピー書き換え事件をどうやって調べていったのかは迫真の出来事でした。証拠の改ざんなんて、「想定外」のことですからね。
 ほかにもリクルート事件、沖縄の地位協定関連の秘密文書、高知県のカラ出張と解同ヤミ融資が調査報道されるまでの緊迫した状況が語られています。
 いまでしたら、原発がらみでもっとインパクトある報道をしてもらいたいものです。「今すぐには人体への影響はない」という大本営発表ばかりをマスコミ、とりわけテレビがたれ流ししているようでは、責任を果たしたとは言えません。なにしろ、国家の政策として、本当は危険な原発を推進してきたのにマスコミは応援してきたわけですからね。もう少し、ざんげの意味をこめて、本質と問題点を深く掘り下げていいように思います。そうしない限り、依然として電力会社の御用新聞じゃないとはいえませんよね。一読に値するいい本です。
(2011年10月刊。2000円+税)

2011年12月20日

ルポ・下北核半島

著者   鎌田 慧・斉藤 光政 、 出版   岩波新書

 青森県は、日本でもっとも危険な県である。
こんな文章で始まります。ええーっ、そうなんですか・・・。いったい、何が青森県にあるのでしょうか?
 アメリカ軍の三沢基地は、米ソ冷戦時代には「核攻撃基地」だった。今なお、アメリカによる世界軍事支配の世界戦略を支えている。
 この三沢基地に隣接して天ヶ森射撃場がある。戦闘爆撃機が模擬爆弾を投下する直下に、六ヶ所村がある。猛毒プルトニウムや使用済み核燃料を収容したプールや再処理工場がそこにある。さらに、航空・陸上・会状の各自衛隊の基地が配置されている。
 青森県は軍事と各産業の集中地帯なのである。
 猛毒のプルトニウムを生産する「再処理工場」は、一基の原発が1年間に搬出する放射能をたった一日で環境中に排出する。六ヶ所村の核燃料再処理工場は、事故続きで2008年末から停止したまま。世界でもっとも危険で、技術も安定していない。1993年に着工されて以来、トラブルが続いて、既に18回も施工延期を発表している。
 六ヶ所村の核基地化は、政府と電力会社が新全総当初から方針化していた。
 再処理工場だけで2兆円の工事、5施設の全部をあわせると3兆円近い工事費となる。
 原発を誘致したら、出稼ぎに行く必要がなくなるという宣伝がなされた。たしかに仕事は増えたが、技術的な資格がなければ日雇い仕事だけだった。人口の推移を見ると、1960年に東通村は1万2500人だったのが、2009年には7500人になった。第一原発が稼働しはじめた2005年の人口は8000人だったから、原発が動き出しても、人口は下げ止まりとはなっていない。
 1基で3000億円とか4000億円という原発の建設工事は、「地域開発の起爆剤」「過疎地経済のカンフル剤」と言われたことがあった。しかし、7ヵ年限定の交付金が切れると、禁断症状が出て、もっと新たな原発を、と要求するようになる。
 使用済み核燃料は「キャスク」と呼ばれる、高さ5.4m、直径2.5mの金属製、重さ120トンのドラム感情の円筒に、10トン分が収納され、50年間、保有される。保有は地中にではなく、地上の平屋建て倉庫に縦に並べられる。26ヘクタールの土地に幅60m、奥行き130mの建物がつくられ、その床に3000トンの使用済み核燃料が貯蔵される。最終的な貯蔵量は5000トン。建屋の建設費は1000億円。そのうち7~8割は金属キャブクの費用。50年間寝かせておいて、それから再処理工場へ搬出される。
 福島第一原発の4号炉に使用済み核燃料がありましたよね。そして、この核燃料がどうなっているのかは、事故から7ヵ月たった今でもまったく分からないというのです。
 放射能が30年とか50年で消え去るはずはありません。「地域振興」の名のもとで絶対に原発を建設してはいけません。
 危険を直視すべきです。わずか100年程度しか稼働しない非効率な工場が排出する、何十万年後の世代にまで放射能の悪影響を及ぼす危険があるものを扱うなんて、子孫に対して申し訳ないですよね。ノーモア原発をご一緒に叫びましょう。
(2011年10月刊。1900円+税)

2011年12月13日

被爆者医療から見た原発事故

著者   郷地 秀夫 、 出版   かもがわ出版

 この30数年間、被爆者の診療に携わり、2000人もの被爆者の健康管理に関わってきた医師としての体験にもとづく本です。
 著者は、放射線障害は軽微であり、原子力は有用だ、こんな考え方に日本人が気づかないうちに洗脳されてきたことに警鐘を乱打しています。
 1日で3発分の広島型原爆を燃やし、そのエネルギーで電気を起こしているのが原子力発電所なのである。原子炉の建屋内にある核燃料と放射性物質の量は790トンで、広島に落とされた原爆「リトルボーイ」の75キログラムの1万倍以上、とてつもなく多い量なのである。
 そうなんです。あの、すさまじい威力によって何十万人もの人々を一瞬のうちに地球上から消滅させた広島のピカドンよりも福島第一原発によって放出されている放射性物質のほうが、とんでもなく多いのです。信じられないけれど、これが事実です。少ない日本人がそれを早く忘れたがっているように思えるのが残念です。
 日本は原爆を体験していながら、被爆者に学んでいない。多くの日本人にとって、被曝は自らのものになっていない。
 シーベルト(Sv)は放射線の量を表す単位であり、ベクトル(Bq)は放射能を表す単位である。
 国は、内部被曝の影響は無視しえるというのが確立した科学的知見であると裁判で主張している。果たして、そう言い切れるのか?
 内部被曝は外部被曝と違って、同じ場所にとどまり、細胞の遺伝子に放射性を放出し続ける。 内部被曝とは、放射性物質が体内にある限り、ずっと被曝し続けることになる。そして、内部被曝は被曝線量を測定しにくい。
 2009年、長崎の被爆者の臓器標本が60数年たってなお、プルトニウムのα線を出し続けているのが確認された。うへーっ、これって、ものすごく怖いことですよね。プルトニウムにとって、数十年なんて経過はほんの一瞬なんでしょうね。何万年という年月を要して徐々に減っていくものなんですね。とても一個人の人間がどうにか出来るものではありませんよね。
放射線の感受性は、子どもは大人と比べて数倍から10倍以上も高い。そして、数十年後に出してくるであろう放射性障害にめぐりあう確率も高い。
 福島には中年以降、壮年以降ががんばっていくのがいい。子どもに福島に行かせることはない。そして、子どもたちに無理して安全だと言い切れないものを食べさせることはない。
 放射線物質は浴びないほうがいいこと、とりわけ子どもにとっては浴びないようにすべきだと提言されています。まことに、そのとおりだと思います。
 「今すぐ心配はない」というごまかしは許されません。
(2011年10月刊。1000円+税)

2011年12月11日

3.11 メルトダウン

著者   日本ビジュアル・ジャーナリスト協会 、 出版   凱風社

  3月11日の直後からの写真が紹介されている貴重な写真集です。
 3月12日とか14日の写真もありますので、遺体が路上で収容されるのを待っている状況も撮られています。そして吹雪のなかを人々が食料や水を求めて歩いています。ガソリンがないため車が走れないのです。少し落ち着くと、仮埋葬(土葬)され、お寺に真新しい骨壺が並びます。
 全校生徒108人のうち68人が死亡、6人が行方不明になった大川小学校では、児童がつかっていたランドセルやカバンが大量に並べられています。見るだけで涙がにじみ出てくる情景です。
 そして原発事故。4月1日に浪江町で撮られた写真には、1ヵ月近くも捜索されず放置されていた遺体の一部(男性の足)が写っていました。なにしろ、ここは原発から20キロ圏内なのです。無人となった浪江町を牛たち、豚たちの群れが歩いています。牛舎のなかには餓死寸前の牛がいて、モオーッと叫ぶ姿が写し出されて哀れを誘います。
 なにしろ20マイクロシーベルトという高濃度なのです。見えない放射能の恐ろしさが伝わってきます。
 目を背けたくなる、でも、見なければいけない貴重な写真集です。
(2011年7月刊。1800円+税)
同窓会の最後の話です。
 大学2年生のとき、6月が東大闘争が始まりました。クラスのなかにもセクトの対立抗争が持ち込まれました。私のクラスでは全共闘のほうが多かったと思います。メンバーというよりシンパ層が多いということですが、アクティブなメンバーが何人もいました。
 あらかじめ東大闘争のころの写真をメールで送っていたのですが、それに言及する人はほとんどいませんでした。当時の対立抗争を語るのはまだタブーのようで、幹事から、たびたび今日はその話はしないようにと制止の声が飛んでいました。
 それでも、私の本(『清冽の炎』1~5巻。花伝社)をネットで探して1万円で買って読んでいるという人もいました。
 学生時代に何をしていたのか、それがどうつながっているのかは、みんな知りたいことですよね。あの東大闘争を歴史の闇に埋もれさせたくはありません。
 私のブログを見てくれている人もいました。あれだけ大量の本を読んで、本当に理解しているのかと訊かれて、一瞬、答えに詰まりました。まあ、この書評を書けるくらいは理解しているということなんですが・・・。

2011年12月 9日

沖縄と米軍基地

著者    前泊 博盛 、 出版   角川ワンテーマ21

 日本人が全体として真剣に考えるべきテーマだと改めて感じ入りました。沖縄におけるアメリカ軍基地の問題は決して沖縄という一地方のものではなく、日本という国はどういう存在なのかを考え直させるものなのです。本当のことなど知らないほうが良いし知ったところでどうなるものでもない。多くの日本人がそんな気持ちになっているのが「日米安保」と沖縄のアメリカ軍基地問題ではんないか。まことにそのとおりだと私も思います。
 アメリカの国防長官は、普天間にあるアメリカ軍の飛行場を視察したあと「こんなところで事故が起きないほうが不思議だ。ここは世界一危険な飛行場だ」と言った。そうなんですよね。ところが、自民党政権そして今の民主党政権も、そのことを表明しないのです。なんという薄っぺらな「愛国心」でしょうか。日本人の生命・身体そして領土の安全を守る気概がまったく感じられません。
沖縄で起きたアメリカ軍の航空機事故(450件)の19%を「普天間」が占めている。アメリカ軍機の事故発生率は、民間機の80倍となっている。海兵隊の事故発生率は4.55。これは陸軍1.98、空軍1.64、海軍2.55に比べて、ずば抜けて高い。アメリカ軍の基地を移転・建設するために反対運動をしている住民が機動隊などと激突して血を流せば、いったい「日米安保なるものは何らか何を守っているのか」という根本的な疑問に日本政府は答えられなくなる。
アメリカ軍がすすめようとしている再編・変革の狙いの第一は、アメリカの国防予算の削減である。そして、アメリカ軍と自衛隊を融合させ、自衛隊を後方支援部隊として強化、活用する方策を打ち出している。アメリカ軍を沖縄からグアム島に移転する費用のうち日本が負担しようとしている3兆円は、日本側が負担しなければならないという法的な根拠は何もない。
 うへーっ、恐れいりますね。3兆円もの巨額の税金を法的根拠もなく、アメリカ様に差し上げようというのですから、それこそ開いた口がふさがりません。
 東日本大震災で復興資金をどうやって捻出するのかという議論をしているのに、もう一方では気前よく3兆円もアメリカへくれてやるというのです。信じられない野放図さです。こんなことがまかり通るのなら、復興計画なんてやる気があるのか根本的な疑問を感じます。
 いま、日本の軍需産業の規模は2兆円。三菱重工、IHI、東芝、日立などで戦車などの軍事兵器を大量に生産している。
 このあたりがまったく報道されていませんよね。「死の商人」は日本にも存在しているのです。
 沖縄に大量に駐留しているアメリカ軍海兵隊について、アメリカ連邦議会(下院)の歳出委員会は次のように述べた。
 「アメリカが世界の警察だという見解は、冷戦の遺物であり、時代遅れだ。沖縄に海兵隊がいる必要はない」
 シンクタンクの所長も次のように断言する。
 「中国脅威編は、予算が欲しい国防総省のでっちあげ。沖縄に海兵隊は必要ない。アメリカ軍に普天間基地の代替施設なんか不要だ」
 さらに、この所長は日本人に疑問を投げかける。
 「沖縄では少女暴行事件のあともアメリカ兵による犯罪が繰り返されているが、アメリカはこの問題に本気で取り組もうとしていない。日本の政府や国民は、なぜそれを容認し、アメリカに寛大な態度を取り続けているのか。アメリカ軍基地は世界中に存在するが、こういう状況を容認しているのは日本だけなのだが・・・?」
 うむむ、ここまで言われてしまうと、私たち日本人って、いったい恥を知る民族だったはずなのですが、なんと答えたらよいのでしょうか・・・。
 さらに同所長は指摘しています。
 「中国に関するあらゆる情報を分析すると、中国は自ら戦争を起こす意思のないことが明らか。中国の脅威なるものは存在しない。それは、ペンタゴン(国防総省)や軍関係者などが年間1兆ドルにのぼる安全保障関連予算を正当化するために作り出したプロパンガンダにすぎない」
 軍需産業という利権の力に私たち日本人も目をくらまされているわけです。
 ところで、アメリカ軍がいるために沖縄経済は成り立っているという見解に対して鋭く反論しています。
 アメリカ軍基地オアシス論。基地がなくなったら、沖縄はイモとハダシの極貧生活に逆戻りするというものです。アメリカ軍基地は9000人の雇用を提供している。これは県庁職員を上回る。520億円の従業員所得をうみ出す。
 基地内外の4万人の住民は700億円の消費支出をうんでいる。そして、アメリカ軍の400億円もの財・サービスを県内企業が受注している。
 しかし、沖縄県の試算によると、アメリカ軍基地が撤去されると、莫大な経済効果をもたらすというのです。生産誘発額は209倍、雇用誘発者数は252倍。そして、これは、実はフィリピンで既に立証されていることである。
 なんだ、なんだ。アメリカ軍基地って百害あって一利なしという存在なんだ。このことを知って、これまで以上にアメリカ軍は沖縄だけでなく日本全土から出て行けと叫びたいと思いました。ご一読をおすすめします。実に充実したタイムリーな新書です。
(2011年9月刊。724円+税)

2011年12月 8日

隠される原子力、核の真実

著者  小出裕章  、 出版  創史社   

 著者は私と同じ、団塊世代です。高校生のとき、茨城県東海村に商業用原子発電所「東海一号炉」が誕生し、原子力の開発に命をささげようと決意したのでした。
 そして、夢に燃えて東北大学工学部原子核工学科に入学。ところが、原子力を学びはじめてすぐに、その選択が間違っていたことを悟った。
 なぜ、電気を一番使う都会に原子力発電を建てないのか?
この疑問こそ、原発問題の本質を鋭く衝いたものです。京湾の埋立地「お台場」(かつての夢の島)に原発を作れるのに作らないはなぜなのか?
 その答えは、とても単純なもの。原発は都会では引き受けられない危険をかかえたものであるから・・・。
 「原発は安全」。国と原子力産業は、このように言い続けてきた。仮に作業員がどんなにミスをしても、原子力ではフール・プルーフ(誤っても安全性は確保)になっているので、安全だ。しかし、3.11は、そのことがまったくの嘘だということを明らかにした。
 放射線の被曝によるリスクは低線量にいたるまで直線的に存在し続け、しきい値はない。最小限の被曝であっても、人類に対して危険を及ぼす可能性がある。被曝量が少なければ安全だというのは根拠のない妄言である。
 日本がヒロシマ・ナガサキをかかえた被爆国であることは言うまでもない。しかし、アメリカはネバダの核実験場で核実験を繰り返し、周辺住民が被曝した。同じことはマーシャル諸島についても言える。さらに、旧ソ連のセミパラチンスクでも起きた。
 石油がいずれ枯渇するというが、実際には50年はとれる。少なくとも、予想可能な未来において化石燃料が枯渇しない。
 高速増殖炉は、技術的、社会的に抱える困難が多すぎる。一度は手を染めた世界の核開発先進国はすべて撤退してしまった。
 原子炉「もんじゅ」は1994年に始動した。しかし、17年たっても、今もって1キロワット時の発電すらしていない。すでに、この高速増殖炉には、1兆円もの巨額のお金を捨ててしまった。こんなでたらめな計画をつくった歴代の原子力委員会の委員は誰一人として責任をとらなかった。全員を刑務所に入れるべきだ。
「もんじゅ」を開発した技術者はすでに定年でいなくなった。15年も動かなかった機械を動かすなど、普通ではありえない。
 ところが、高速増殖炉を動かすことができれば、そこから核分裂性プルトニウムの割合が98%という超優秀な核兵器の材料が生み出される。政財界の一部が原発にこだわれるのは、核兵器の材料づくりという一面があるからだ。この意味でも原発は本当に怖いものです。
 原子力発電所は都会につくれない。そこで東京電力は自分の給電範囲内に原発をつくることができなかった。原発が絶対に安全だというのなら、大事故のときには国が援助するという原子力損害賠償法は不要だし、原発を都会につくることも出来た。
 標準の100万キロワットの原発は、1年間の運転で1000キロ、広島原爆に比べると  1000倍ものウランを燃やす。当然、燃えた分だけの死の灰ができる。
 原子力発電所は、正しく言うなら海温め装置である。というのも、300万キロワットのエネルギーを出して、200万キロワットは海を暖めている。残りのわずか3分の1を電気にしているだけ。メインの仕事は海温めである。100万キロワットの原発は、1秒間に70トンの海水の温度を7度も上げる。
 うひゃあ、すごい温度上昇です。これって海中の生物にいい影響を与えるはずはありませんよね。
 原発から出る使用済み核燃料は、100万年にわたって人間の生活環境から隔離しなければならない危険物である。しかし、100万年後の社会など、今の私たちに想像すらできない。
いまある国は日本をふくめてすべて消滅しているでしょうし、人類そのものが存在しているかというかだって分からないですよね。このことひとつとっても原発には反対せざるをえません。

(2011年6月刊。1400円+税)
 東京で40年ぶりに大学時代のクラスの同窓会があるというので、参加してきました。当日は20人が参加したのですが、実は顔に見覚えのある人は半分もいませんでした。私は学生時代、セツルメント活動に没頭していて、あまり真面目に授業に出ていませんでしたので、そのせいかと思うと、そうでもないことが分かりました。今は立派に会社社長をしている人が、大学ではほとんど授業に出ていなかったと告白する人が何人かいて、なるほど、それにしても原因なのかと思いました。
 今では、もっとも講義を受けておけば良かったものを反省しきりなのですが、そのころは生意気盛りでしたから、大学の講義なんて本を読めばカバーできるなんて、小馬鹿にしていたのです。いま思うと、顔から汗が吹き出しそうなほどの恥ずかしさを覚えます。
 クラス46人のうち、2人が亡くなっていて(うち1人は大学2年生のとき)、あとは健在なのですが、消息不明と言うか、応答拒否という人も何人かいて、全員の住所・氏名を完成させるのはなかなか困難だと幹事が報告していました。
(続く)

2011年12月 4日

フォー・エベレスト

著者  石川 直樹 、 出版   リトルモア

 8848メートルのエベレストの頂上に2度も登った人の体験記です。すごいですね。シェルパの研修学校訪問記もあります。それにしても、高山病って本当に恐ろしいものですよね。
 5000メートルを超えると、多かれ少なかれ、ほとんどの人に高山病の症状が出る。そして、ゆっくり、その標高に身体が順応していく。人間の体は高所の薄い空気に対応するため呼吸が速くなる。その分、体から水分が失われる。だから、毎日、数リットルの水を飲み、何度もトイレに行くのが順応を助けてくれる。
 高所では1日3リットルの水を飲むのが常識。しかし、それも苦しい試練ではある。スポーツ飲料が一番のみやすい。高山病になると、食欲不振、食欲減退、頭痛、倦怠感、顔がむくむ、嘔吐などの症状が、ひどいときには一度にやってくる。
 昼間、眠ると高山病になるのでパソコンに向かって仕事していた、という記述があります。そうなのでしょうか・・・。
 シェルパは男性ばかりでなく、たまに女性もいる。エベレスト登頂した女性のシェルパもいる。ちなみに女性初のエベレスト登頂者は日本の田部井淳子氏。
 エベレストは英語の名前。チベットではチョモランマ。ネパールでは、サガルマータ。
 ネパール側からエベレストに登るのに1人1万ドル(100万円)がかかる。シェルパやヤクや食費などの費用をふくめると、1人300~600万円が相場。個人ガイドを頼むと1000万円以上にもなる。
 標高5300メートル地点にあるベースキャンプでは、朝7時にシェルパがテントまでおしぼりとミルクティーを持ってきてくれる。
 ベースキャンプでの楽しみは、ぬくぬくすること。ベースキャンプにはトイレがある。それより上のキャンプ地にはトイレがないので持ち帰る。袋に入れて外に置けば一晩で凍ってしまう。小はピーボトルと呼ばれる小便ボトルにする。
 なーるほど、ですね。でも、おしりを出したら寒いことでしょうね。
エベレストの頂上で撮った写真があります。さぞかし気持ちのいい光景だと思いますが、それに至る苦労を思えば、この写真で満足するしかありません。
(2011年10月刊。1200円+税)

2011年12月 2日

日本のソブリンリスク

著者  土屋剛俊・森田長太郎  、 出版 東洋経済新報社   

 なんだか難しいタイトルですし、ハードカバーの本ですから、数字にからっきし弱い私なんかが読んでも分かるものかな、そんな心配をしながら恐る恐る読みはじめましたのでした。すると、案に相違して、すんなり内容が頭に入ってくるのです。いい本でした。ぜひ、あなたもご一読ください。なにより、この本の結論がいいのです。
 日本経済の根幹である「内需」をないがしろにしては、持続的な経済成長を達成することはできない。日本の経済構造は、韓国や中国の輸出比率が40~50%達している状況とは、あまりにも異なる。中国や韓国の経済構造が「資材・部品を輸入・加工して、輸出する」という極端なまでの「輸出国家」であるのに対して、日本はあくまで「国民の消費」によって経済成長を達成してきた「内需」の国なのである。
 これは赤旗新聞によく出てくる日本共産党の主張とまったく共通しています。ところが、著者たちは次のように念のために断っています。
 私たちは、マルクス主義者でも、左翼的思想の持ち主でもない。
そこで、何歳くらいなのか、巻末を見てみると、1985年とか1988年に大学を卒業していますので、せいぜい40代の後半です。大学を出たあと外資系の銀行や証券会社にも勤め、日本を海外から眺めていた経験もありますから、視点はグローバルなので、とても説得的です。
 1980年代、中南米諸国におけるソブリン・デフォルトは、対外、対円をふくめて30件近くもあった。1980年代前半にボリビア、アルゼンチン、そして1980年後半のブラジル、ペルー、アルゼンチンでは、対外デフォルトと同時にインフレを招来した。
 これらの1980年代の中南米危機の根底にあった問題は、ブレトンウッズ体制下の安定的な国際通貨制度が崩壊したことに続けて石油ショックが発生し、グローバルな過剰流動性の発生を招いたことにあった。
 1990年代は、1980年代の51件に対して、ソブリン・デフォルトは19件と、数の上では大幅に減少した。
 1990年代に韓国で起こったことは、他のアジア諸国と同様に、先進諸国から短期資本が流入し、危機の発生とともに資本が急激に逆流するという現象であった。
 ユーロがスタートした当初から指摘されていたユーロの構造的な問題は、異なった生産性、インフレ率、そして財政政策をもつ国々を一つの通貨、一つの金融政策で束ねてしまうことの歪みであった。
 アメリカの住宅バブル崩壊の余波を受けて、2008年以降、東ヨーロッパからバルト海、アイスランド、アイルランド、そしてギリシャ、ポルトガルへと、ヨーロッパの周縁部分において危機は広がっていった。
  高齢化の問題は必ずしも日本のみの特殊事例ではない。先進国の主要民族は、おしなべて民族の最終的な成熟段階、すなわち「高齢化」のフェーズに入りつつある。
  高齢化の最大の問題は、国全体としての社会保障費を劇的に増加させること。
 日本では、「資金不足」がほとんど存在しない特殊な経済環境のなかで、日本の銀行は「金貸し」のビジネスを行わざるをえないという未曽有の事態に直面している。
 日本以外の先進国においても、最近では貸出需要の低速、あるいは「資金不足」あるいは「資金需要」の不足という新たな現象が1990年代以降の日本と同様に顕在化しつつある。
 日本の財政悪化の主たる要因は、行政府のコスト構造に問題があるのではなく、日本の財政問題の本質は、「所得再配分機能の不全」にあるとみる以外にない。
 日本の国民の受益水準は「大きな政府」であるどころか、先進国中で「最小の政府」となっている。「最小の政府」であるにもかかわらず、「最大の財政赤字」を発生させているのが、現在の日本の状況なのである。
 「政府規模の縮小」を目指すことで、国民負担を引き上げずにとどめようという政治的な主張が果てしなく続くことこそが、日本ソブリンにおける最大のリスクなのである。そもそも、削減すべき政府の規模は既にもう十分に小さい。要は、現在、政治が考えて決定しなくてはならないのは、国民間の最適配分の構造なのである。
 政府の投資は、まず何より国民生活の安定と健全な内需の創出を目指して行われるべきである。「健全な内需」なくして、持続的な経済成長と国民生活の向上はありえない。
 今回の原発事故から得られる重要な教訓は、「目先の費用を惜しんで、長期的なリスクを抱え込んではいけない」ということである。
まことに同感です。ちなみにソブリン・リスクとは、国家の信用リスク、つまり、国債の信用リスクを意味するものです。

(2011年9月刊。2800円+税)

2011年12月 1日

就活前に読む

著者   宮里 邦雄・川人 博・井上 幸夫 、 出版   旬報社

 いい本です。でも、読んでいて悲しくなる本でもあります。日本企業のモラルって、ここまで墜ちてしまったのかと思うとやりきれません。橋下大阪府知事(前)の言うような、なんでも競争、強い奴だけが生き残れたらいいという企業ばかりになったら、日本社会も終わりです。TPPにしてもそうですよね。競争力のある者だけが生き残れたらいい、安ければいいんだ、そんな考えで日本の農業がつぶされようとしています。とんでもない話です。弱い人でも、みんなが支えあって生きていく社会にしましょう。だって、みんな、誰だって年老いていくのですよ。あの橋下徹だって、そのうち老化現象が始まります。病気するかもしれませんよ。まあ、彼はお金があるからなんとか出来るとタカをくくっているかもしれませんね。
だけど、お金だけに頼っていると、痛いしっぺ返しをくらう人も少なくありません。お金亡者に取り囲まれて泣いている人は多いのです。弁護士を37年間もしてきましたが、お金ばかりで世の中を渡ってきた人の行く末は悲しく寂しいものがほとんどだと実感しています。
 それはともかくとして、話を戻しましょう。企業に入ることが夢ではなくなってしまいました。まともな企業に入って、まともに、つまり普通に働くというのが難しくなってしまったようですね。残念で悲しい現実です。その意味で若い人はこういう本を読んでおかなければならなくなりました。そして、そのために若者の親も読まなければいけない本なのです。
 内定取消、解雇、過労死など多くの労働紛争の相談を受け、日本の企業の現実に接している弁護士の立場からみると、就活一辺倒の大学の状況には大変な危惧を抱いている。学生が十分な情報を得て就職先を選択しているとは思えない。また、学生が働く者の情報の権利や労働条件に関する法のルール(ワークルール)の基本的な知識をもって就活しているとも思えない。
 社員を過労死させることは企業内犯罪である。
 使用者は、業務の遂行にともなう疲労や心理的員荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う。
 当然のことですが、最高裁の判決で明確にされたことに大きな意味があります。
 サービス残業の横行。時間外労働させておきながら、手当を一定額で打ち切る。あらかじめ決めた一定額のみを支払う。これらは、いずれも違法である。
 入社して1年目とか2年目の労災死亡事故が後を絶たない。
 残業時間が毎月80時間をこえる労働者は少なくない。そして、うつ状態に陥る。残業代込みの金額を月給いくらと求人情報で表示している会社もあるので、要注意。ええっ、これっておかしいですよね。本来の基本給が明示されておくべきは当然ですよね。
 これも、就活に困っている、弱い者につけ込んだ悪徳商法の一つです。
 残念なことに、ぜひ、ご一読を強くおすすめします。日本経団連なんて、自らの襟をまずは正してから物をいってほしいなと思います。世の中、お金もうけだけではないでしょ!
(2011年10月刊。940円+税)

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