弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

社会

2012年10月30日

オスプレイとは何か?

著者   石川厳、大久保康裕 ほか 、 出版   かもがわ出版 

 オスプレイとは、ミサゴという島の名前。ミサゴは魚をとって食べる島。獲物を見つけると、空中に静止し(ホバリング飛行)、その後、急降下して両足で獲物をとらえる。
オスプレイはアメリカ軍(主に海兵隊)が導入した新しい軍用機。
 海兵隊の作戦では、垂直に離着陸する軍事的な必要性が高い。戦争の初期の段階で、強襲揚陸艦に乗って適地に近づき、兵員と物質を上陸させて、アメリカ軍の作戦を遂行する拠点を築きあげる。
オスプレイは、GH-46というヘリコプターの代替機だが、行動半径は4倍、積載量は3倍、速度も2倍である。オスプレイは、イラクとアフガニスタンに派遣されている。オスプレイは、開発段階で事故が多発し乗員30人が命を失っている。「未亡人製造機」というあだ名までつけられている。
オスプレイは、輸送機なので対人兵器は着陸時の自衛用のライフル1丁、機関銃2丁しかもたない。重量がある割に、揚力があまりないので、兵器で機体の重さを増やせない。だから、作戦時は戦闘機の護衛が必要になる。
 海兵隊のオスプレイが海外に配備されるのは、日本のみ。海兵隊がまとまった戦闘部隊を配置しているのは、海外では日本だけだから。
 オスプレイの回転翼(ローター)は一般ヘリより小さい。これは強襲揚陸艦に積む場合の限度があるから。
 オスプレイは臨機応変の戦闘機動性に欠ける。これはコンピューター操縦のため。
CH-46ヘリの機体には、その平衡感覚を保つバランサーに劣化ウランが使用されている。
オスプレイが日本で事故を起こしたら、公務中だと考えられるので日本で裁判はできない。
オスプレイの低空飛行訓練は、地上の武装勢力の仕掛け爆弾設置とか、特攻自爆車が突っ込んでくるのを監視する。だから、低い上空を30分も40分もぐるぐる旋回する訓練をする。
日本地位協定にも、アメリカ軍は日本の法律を尊重する義務がありことを定めている。ドイツでは、ドイツ側の同意があって、低空飛行訓練のルートが設置されている。日本でも同じように交渉できないはずがない。
アメリカの言いなりで、何もものの言えない日本政府、民主党政権のだらしなさには呆れてしまいます。民主党政権とまったくかわりません。こんなことで日本人の生命・財産を守る政府と言えるはずもありません。腹立たしい限りです。
(2012年9月刊。1000円+税)

2012年10月24日

災害派遣と「軍隊」の狭間で

著者   布施 祐仁 、 出版    かもがわ出版 

 戦う自衛隊の人づくり、というサブタイトルのついた本です。
3.11災害で出動した自衛隊に対する国民の肯定的評価が圧倒的に高まりました。もちろん、それは自然な流れだと私も思います。でも、自衛隊って本当に災害救助隊なのでしょうか・・・。いえ、もちろん違います。この本は、その違いを多方面から迫っています。
 自衛隊の最大の任務は「国防」であり、災害派遣は「従たる任務」の一つにすぎない。そして、「同盟国アメリカの要求」を加えた三つの狭間(はざま)で揺れているのが現在の自衛隊である。
 陸上自衛隊がアメリカの要請でイラクのサマワに行ったとき、その宿営地に対して迫撃砲やロケット弾攻撃は13回22発もあり、移動中の陸上自衛隊の車列がIED(仕掛け爆弾)攻撃を2回も受けた。いずれも幸いなことに死傷者は出なかったが、その可能性は高かった。小泉首相(当時)は、イラクへ「戦争に行くのではない」と断言したが、実際には自衛隊が「武力行使」に踏み込む危険性がおおいにあった。
 イラクへ自衛隊を派遣した費用721億円の大半は600人の部隊を駐留させるために使われた。そして、費用対効果の面からいったら「自衛隊でなければならなかった」理由はない。
 結局、陸上自衛隊のイラク、サマワ派遣は、日米同盟の下での「派遣のための派遣」だった。つまり、災害派遣は日々の訓練のおまけでしかない。
アメリカ軍は、このところ新兵募集に成功している。2009年度は17万人近い新兵の獲得に成功した。景気が悪くなって志願者が増えたのだ。同じことは日本でも言える。2007、8年度は8万人台だったが、2009年度には10万4000人にまでなった。
なにしろ、高卒で衣食住がついて月16万円というのですから、たとえば母子家庭の子が早く親孝行したいと思って応募する気持ちは分かりますよね。
 そして、自衛隊の募集ポスターには銃などの武器がどこにも見あたらない。自衛隊は「軍隊色」を隠している。そこはアメリカ軍の募集ポスターとまったく異なる。
 自衛隊員のストレスは増大し、自殺者が増えている。年間50人だった自殺者が今では、80人から90人台へと増加している。イラクに派遣された自衛隊員については3倍の割合で自殺している。全体で5600人のうち16人が在職中に自殺している。
これについて、「自殺者は自然淘汰として対処する発想も必要」という内部文書があるのを知って、驚きました。「軍」になると、自殺も損耗率の一つにすぎないということなのでしょうね。
 自衛隊に若者を送り込むために学校、とりわけ中学・高校がターゲットにされているようです。そして、そのとき、若者に安定した仕事がないことが格好の材料にされているという悲しい現実があります。
20万人をこえる自衛隊を一挙に解消することができない以上、大災害救助隊に再編成するにしても、いろいろ考えることがあるというわけです。
(2012年7月刊。1500円+税)

2012年10月18日

「橋下総理」でいいんですか?

著者   小西 進 、 出版   日本機関紙出版センター 

 日本に新しい政治が生まれる。アメリカのような二大政党が選挙の結果で政権交代していくシステムが出来た。
 こんな大きな期待を背負ってスタートして二大政党制ですが、今ではすっかり期待はずれの感があります。日本人の忘れやすさを代表するのが橋下徹・大阪市長が代表も兼ねる日本維新の会です。この本は、今や人気絶頂にある橋下徹の内実・真相に迫っています。
橋下徹の言葉は、いつも、いつもながらシンプルである。
 橋下徹は、TPP賛成で、ブレない。労働市場は基本的に自由化すべしと主張する。
 橋下徹は、昔から核武装論者を自認していた。日本は、アメリカの核の傘の中で守ってもらい、原子力空母や潜水艦によって守ってもらっていると主張する。
 橋下徹は次のように演説した。
 「自分でしっかり生きていくことができる力を持つ。分かちあい、助けあい、弱者切り捨てだけ、このような甘い言葉こそ、本当に危険。国民が自立することを忘れてしまい、他人を頼ることを根本原則にすれば、もはや国家として地域として成り立たない。社会保障は、もうもたない。もたれあい、たよりあい、依存しすぎ、悪しき流れをきちっと絶つ」
 驚くべき冷たさ、弱肉強食そのもの超保守政治家です。非正規社員、派遣社員ばかりで、とりわけ若者が自立できない労働環境になっていることを橋下徹は、すっかり忘れてしまっています。こんな政治家は無用です。
 高校生に向かって、「いまの日本は、自己責任がまず原則」と開き直る橋下徹。これほど政治家として無責任な放言はありません。「自己責任」ではどうしようもなくなっている現実をなんとかすることこそ、政治家の果たすべき使命ではありませんか・・・。
橋下府政は、その前の太田府政のときの借金2848億円(年平均)を上回る3587億円を借金した。
 大阪府の財政危機の大きな原因は、関西空港2期事業などの巨大開発。りんくうタウン、阪南スカイタウン、水と緑の健康都市の3事業だけで4440億円の赤字を生んだ。そして、同和対策事業に年50億円も投入して継続した。
その反面、橋下徹の弱い者いじめは徹底しています。
 敬老パスの有料化、コミュニティーバスへの補助費削減、国保料減免の縮減、障害者スポーツセンターの統廃合、などなど・・・。
 橋下徹は、能や文学が好きな人を「変質者」と呼んだ。
 2011年6月29日、橋下徹は有名な演説をした。
 「日本政治で一番重要なのは、独裁だ。独裁と言われるくらいの力、これが日本の政治に一番求められている」
 橋下徹の政治の中身は、民主党や自民党とまったく同じ、いや、もっとひどい政治を一気にすすめようとしています。右側から民主主義を攻撃する突撃隊の役割を果たしているのです。
 「決める政治」と言っても、悪い方向にどんどん強引に決められ、すすめられたら大変なことになりますよね。もう、いいかげんマスコミが橋下徹をもてはやすのは止めてほしいとつくづく思います。
(2012年8月刊。1143円+税)

2012年10月17日

地熱エネルギー

著者    江原 幸雄 、 出版    オーム社 

 この夏、電力不足で停電になると電力会社と政府・財界からさんざん脅されましたが、猛暑のなかでもなんとか停電もなく耐え抜きました。原子力発電所に頼らなくてもやっていけること、原子力発電所に頼ってはいけないことが次第に国民に浸透していることを実感します。
原発以外のエネルギーとして、地熱発電にもっと力を注ぎこむべきだと強調している本です。先日、同じことを伊藤千尋氏(朝日新聞)も言っていました。九州には、既に九重に大きな地熱発電所があります。それを大いに活用すればいいのです。
 地熱発電所の歴史は古く、いま世界各地で地熱発電も非常に熱心に進めている。世界最初の地熱発電は、1904年、イタリア北部のラルデレロに始まった。
現在、世界中30ヶ国で地熱発電がおこなわれ、2010年には世界の地熱発電所は1000万kwをこえた。2015年には1850万kwをこえる見込みである。
 日本では、1999年までに全国18ヶ所、54万kwの地熱発電国になったが、その後は原発推進のため、すすんでいない。日本の地熱資源ポテンシャルは2000万kwをこえると推定されている。
地球の中心は6000度Cと推定されており、偶然だが、太陽の表面温度と同じ。地球も堆積の99%は1000度C以上、100度C以下は0.1%にすぎない。したがって、地球は巨大な熱の塊と言うことができる。
 日本の地熱ポテンシャルが2000万kwというのは、アメリカ、インドネシアに次いで世界第3位。日本は世界に冠たる地熱資源大国なのである。ところが、現在、わずか2%、54万kwしか利用されていない。
安全で安いと言われてきた原発が、実のところ、人類がコントロールできないほど危険なものであり、その始末することが不可能なことを考えたら、コストは無限大のようなものだ。このことが明らかになってきた今、私たちは地熱エネルギーのコストが少しくらい割高でも、これを活用しない手はないと思います。
 とってもタイムリーな本でした。
(2012年3月刊。2800円+税)

2012年10月14日

舟を編む

著者    光浦 しをん 、 出版    光文社 

 辞書は、モノ書きを自称する私にとっては必須不可欠なものです。いまも本の最終校正の真最中ですが、辞書を引く手間を惜しまないようにしています。思い込みによる間違いも多々ありますし、何より同じ言葉を繰り返さず、異なった表現にするためには辞書を引いておかないと、とんだ恥さらしをしかねません。
 この本は、辞書づくの過程を面白く、ドキドキワクワクの世界に仕立て上げたものです。思わず応援したくなります。なんといっても、言葉との名義性には目を大きく見開かされます。
 めれんという言葉をはじめて知りました。慌てて私の愛用する角川国語辞典で探しましたが、幸いのっていませんでした。酩酊を意味する言葉です。「仮名手本忠臣蔵」に出てくる言葉のことです。
それにしても、声という言葉に、季節や時期が近づくけはいという意味があったなんて。信じられません。でも、たしかに「四十の声を聞く」という文章はありますよね・・・。
 辞書は、言葉の海を渡る舟だ。だから、海を渡るにふさわしい、舟を編む。
ここに、この本のタイトルは由来しています。
 辞書を作るのに、何年、いや10年以上かかるのは珍しくない。そして出来上がった辞書は出版社の誇りであり、財産だ。人々に信頼され愛される辞書をきちんと作れば、その出版社の屋台骨は20年は揺るがない。
山にのぼるとは言うが、山にあがるのが、まず言わない。天にものぼる気持ちといっても、天にもあがる気持ちとも言わない。なぜか?
 「こだわり」の本来の意味は、拘泥すること、難癖をつけていること。だから、いい意味で使ってはいけないのだ。そうだったんですか・・・。これまた、知りませんでした。
 辞書用の紙は特殊なもの。厚さは50ミクロン。重さも、1平方メートルあたり45グラム。そして裏写りはしない。問題は、ぬめり感。指に吸いつくようにページがめくれる。しかも、紙同士がくっついて複数のページが同時にめくれてしまうことがない。
 辞書づくりの人は用例採集カードを常時もって歩いている。何か目新しいコトバに出会うと、その場ですぐにカードに書きとめる。
 うむむ、辞書の作成にかかわる人々は、相当重症のオタクとみました。でも、そんなオタクの人々が、日本の文化を下支えしているのですね。とても面白い本でした。
(2012年2月刊。1500円+税)

2012年10月12日

テレビは原発事故をどう伝えたのか

著者   伊藤 守 、 出版   平凡社新書  

 ふだん、リアルタイムでテレビを見ることはまったくない私ですが、さすがに去年の3.11のときには、日本はこれからどうなるのかという不安とともにテレビを注視していました。
この本は、テレビが原発事故をきちんと国民に伝えていたのかどうか、それを検証しています。
 結論としては、ノーと言われざるをえません。「大本営発表」と同じで、心配ないと根拠なく繰り返した政府発表をなぞっただけでした。
 政府の「ただちに人体に影響のあるものではない」との発表をただ繰り返すだけのテレビ報道に対して、多くの人が不安や苛立ちをいだいた。
 NHKの解説は、政府の会見内容をより詳しく説明し、解説することに終始した。
だから、NHKって、本当に公共放送なのか、政府を唯一のスポンサーとする民法なのではないかと思ってしまうのです。
福島第一原発から飛散する放射性物質の量がはっきりしていないのに、放出される放射能は微量だと断定的に主張され、かつ、健康への被害はないと断定された。ところが、政府の中枢も、警察も、すでに放射能が飛散していることを承知していた。メディアは、その事実を把握できていなかった。
3月11日の15時30分に1号機が爆発した。日本テレビ系列の副島中央テレビのカメラがとらえていた。ところが、この映像が日本テレビ系列の全国ネットで放映されたのは、爆発から1時間14分も過ごした16時50分だった。
テレビは、政府や保安院の発表に依拠して、事態をむしろ楽観視する方向にリードしていった。政府発表にのみ依拠して、傍観者的に事態を説明するだけ。
 「即、人体に影響が出る値ではない」
 私たちは、3.11のあと、何度となくこのセリフを聞かされました。でも、本当でしょうか・・・???即死しなくても緩慢死というものがありますよね。本当に心配です。
(2012年6月刊。780円+税)

2012年10月10日

地方都市のホームレス

著者   垣田 裕介 、 出版    法律文化社 

 ホームレスの人々がいるのは、決して大都会である東京そして福岡市だけではありません。福岡県内の小都市にも少なからず存在しています。この本は大分市のホームレスの実情を聞きとりしつつ究明しています。
日本の野宿生活者は、1990年代に著しく増えた。2002年8月ホームレス自立支援法が制定、実施された。
 ホームレスのうち野宿生活をしていないものを、「野宿状態にないホームレス」と呼ぶ。厚生労働省によるホームレスの目視による概数調査の結果、全国には2003年に2万5千人、2007年に1万8千人、2008年に1万6千人を割るといった減少傾向にある。
野宿生活者は50~60代に集中している。野宿が5年以上の者が4割強。
 生活保護を野宿生活者が申請したとき、路上、公園のままでも開始決定するのは、自治体の2割にすぎない。
野宿生活者のなかで女性が1割を占める。
野宿生活の7割は収入のある仕事をしていて、その7割はアルミ缶などの廃品回収する都市雑業である。1割は建設日雇。仕事をしている者の平均月収は4万円。
年金を受給しながら野宿生活している人の年金月額は3万円、8万円、10万円そして14万円となっている。借金をかかえているため、その取立から逃れるため、野宿をしている。
 収入としては、自動販売機やコインパーキングのおつり拾いもある。食事としては、パン屋が廃棄する売れ残りのパンがある。コンビニの賞味期限切れ弁当は、以前と違って食べられなくなった。コンビニ側が食べられないようにしているから。
 野宿生活者の4分の1が、ひとり親世帯に生まれ育っている。
野宿生活者の最終学歴は、中学卒業が5割強、高校卒業(大学中退をふくむ)が4割強。
刑務所から出所した者が、野宿生活をすることも少なくない。
地方都市でもホームレスが増えているということは、それだけ家族の絆が弱まっているということですよね。人と人とのつながりをもっともっと強めたいものです。
(2011年6月刊。3000円+税)

2012年10月 5日

マインド・コントロール

著者   紅藤 正樹 、 出版    アスコム 

 今もオウム真理教の信者が全国に1500人もいるそうです。信じられない現実です。出家(専業)信者400人、存家信者1100人です。そして、あの死刑囚の麻原を今も教祖としてあがめているというのですから、世の中は一体どうなっているのかと、歯がゆい思いがつのります。これは、橋下現象なんていう浮ついたブームが起きるのと本質的に同じことなんでしょうね。当の本人たちは深く考えているつもりでも、実は肝心の足元をしっかり見ていなくて、流されるままだということでしょう。
 「依存心」は、マインド・コントロール状態に置かれた人の心理状態において、もっとも重要な要素の一つである。
 マインド・コントロールを施されると、以前にも増して活発になる場合の方がむしろ普通である。
 マインド・コントロールは強迫な手法なので、強迫に耐えきれなくなると、被害者がパニック障害を発症したり、うつ病を発症したりするケースがある。
 マインド・コントロールされた人を取り戻すとき、司法手続や警察に頼るだけではほとんど効果がない。脱会は心の問題なので、脱会カウンセラーの意見を聞くことと並行してすすめる必要がある。
中途半端な方法を親がやればやるほど、かえって親に対する憎悪心がふくらみ、親との断絶がすすんでしまう。
脱会後、精神的に急激に落ち込んだり自己嫌悪に陥ったりしてしまうことがある。精神的な高揚感そのものが、精神を強く抑圧するマインド・コントロールの後遺症なのだ。抜け出そうとして再び精神的な高揚感を求めて、新たな信教にはいることも珍しくはない。
だから、きちんと話しのできる人によるカウンセリングを受ける必要がある。
脱会させても、場所の次に心を引き離すプロセスが重要。戻ってきて、「もう大丈夫」と判断してカウンセラーや弁護士の世話になる必要もないと思うと、かえって失敗してしまうケースが少なくない。本当に立ち直るまで、最低でも1~2ヵ月、場合によっては何年もかかることがある。
日本は、カルトの世界的な穴場であり、カルトの世界的な吹きだまりになっている。日本は、カルトに対して、もっとも甘い。だから統一協会がもっとも繁栄することができた。
カルトにはまった子どもを前にして、親は子どもをほとんど説得できないものだ。自分がいちばん知っているという発想自体が、子どもに対する強引な押しつけなので、親との関係は悪化し、子どもは元のカルトに戻ってしまう。
マインド・コントロールは、ある日突然、パッと解けるもの。ただし、脱マインド・コントロールは、元の人格に戻すという変化をもたらすだけのこと。たとえば、優柔不断な性格の人は、元の優柔不断な性格に戻るだけ。だから、カルトから抜け出しても、社会に出ると、自分の努力が大切なのだ。
 フランスには、「無知・脆弱(ぜいじゃく)性不法利用罪」というものがあって、マインド・コントロールするものは3年の拘禁刑と37万5千ユーロの罰金に処せられる。
 統一協会は、その教祖(文鮮明)と本体の組織が日本で逮捕・処罰されたことがないそうです。驚きます。しかし、日本でも、フランスにらなった法律を検討すべきだという気がします。いかがでしょうか・・・?
(2012年6月刊。952円+税)

2012年9月30日

インバウンド

著者   阿川 大樹 、 出版    小学館 

 コールセンターの実際を知ることのできる面白い小説です。私の町にもコールセンターがあります。深夜に淋しい男どもが女性の声を聞きたくて、女性と話すだけを目あてに用もないのに電話をかけてくるとのことです。その電話を切るのが大変です。下手すると、すぐ上部にクレームをつけるからです。
 東京の人が通販カタログを見て注文しようと電話をかけると、それを受けるのは沖縄にあるコールセンターというのが実際にあります。同じことは、アメリカの市民がコールセンターにかけると、それを受けるのはインドにある会社だったりします。日本でも同じです。国内にかけているつもりなのに、電話を受けているのは中国の大連にあるコールセンターだというのは少し前からありました。大連には日本語学校がいくつあって、一度も日本に行ったことがないのに日本語ペラペラの学生がたくさんいるそうです・・・。
インバウンドとは、たとえば通販の申し込み受付のように、電話を受ける仕事のこと。アウトバウンドとは、コンピュータの画面で指示される番号に電話をかけて、世論調査をしたり、インターネットの光回線をセールスする仕事だったりするもの。
まずは話し方の研究を受ける。
アエイウ、エオアオ、カケキク、ケコカコ。
お綾や親にお謝り。お綾や親にお謝りとお言い。
話し方をアナウンサーみたいにするのには、理由が二つある。
その一は、電話の向こうの人が聞きやすいように。その二は、感情が相手に伝わらないようにするため。声の仮面、美しく優しい仮面をかぶるのだ。真心はいらない。
大切なことは、真心を込めて対応してもらったと客が感じることであって、本当の真心は必要ない。毎日毎日、仕事で接する何百人もの相手に真心をもつなんて、そもそもできないこと。不可能だ。真心の代わりに、完璧な技術で客に対応する。客が大切に扱ってもらったと感じるようにプロとしての演技をすることが求められる。
仕事をするときは、本名とは別に芸名を名乗ってする。職業上の名前で電話の対応をする。仕事についたら、本名の自分から芸名の職業人になりきる。
役をこなす俳優になって通販の営業窓口の役を演じるわけだ。
コールセンターでの仕事ぶりを別の会社がアトランダムにモニタリングをしている。不定期に回線をモニターして、日常業務のやりとりを第三者が聞いている。
営業成績を追いかけると、客への応対がぞんざいになったり、むりやり売上を伸ばそうと押し売りしたりして、応接の質が下がってしまう。客からみて、感じの悪いコールセンターになってしまうことがある。
小説としても、なかなかよく出来ていました。読んで、2つもトクした気分になりました。
(2012年7月刊。1300円+税)

2012年9月27日

「清冽の炎」(第6巻)それから(上)

著者   神水 理一郎 、 出版   花伝社  

 1968年6月に始まり、翌1969年3月まで続いた東大闘争にかかわった学生たち、そしてセツラーの35年後を明らかにしたノンフィックションのような小説の第6巻です。いよいよ完結編となり、その前半です。
2004年のある朝、銀座でコンサルタント業を営む青垣が警察に逮捕された。東大駒場で同窓だった久能は懇意の若手弁護士、聖徳一郎に青垣の弁護を依頼した。一郎が警察署に面会に行くと、青垣は無罪を主張する。
 事件は、ベンチャー企業への融資詐欺。青垣は、北町セツルメントが活動していた磯町出身のカズヤと組んで銀行にベンチャー企業へ5億円を融資させていた。このとき、やはり同窓の芳村の勤めるメーカーが買い付け証明書を発行していたが、芳村は取締役就任を目前にしながら成績が低迷していて焦っていた。
 果たしてベンチャー企業には、どれだけの実体があったのか、銀行が融資した五億円は、どこに消えていったのか。
 青垣の刑事裁判が東京地裁で始まった。担当裁判官は佐助と駒場寮で同室だった沼尾だ。沼尾はエリートコースを歩いている。果たして学生時代の信念を裏切ってしまったのか・・・。
 法廷に被害者のメーカーを代表して証言を求められた芳村は、青垣に騙された、無能な部下をもっていたためベンチャー企業の実態を見抜けなかったと言い放ち、被告人の青垣を厳しく弾劾して自己の非を認めなかった。そして、芳村の部下の一人は、追いつめられたあげく、ホームから転落して亡くなった。
 北町セルツメントで子ども会活動をしていたヒナコは、東京の下町で中学校の理科の教師としてスタートすることができた。生徒指導をふくめて忙しくも充実した教師生活ではあったが、生物学への探究心を抑えきれず高校教師への転身を図った。ヒナコは実直な会社員と結婚して一子をもうけ、教師生活を続けていった。
 一郎は青垣と話しているうちに、1968年に起きた東大闘争のとき、青垣が東大全共闘の活動家だったことを知る。そして、意外なことに母・美由紀も青垣の活動家仲間だったという。美由紀が駒場時代のことを一郎に語ろうとしないのはなぜなのか・・・。
 東大出身の起田たちは、同窓会を開いていた。そこには官僚たちも貴重な情報交換の場として顔を出していた。
団塊の世代が一斉に定年退職し、年金生活に入っています。ところが、年金は切り下げられ、介護保険料は値上げされる一方です。そのうえ、庶民のフトコロを直撃する消費税は税率アップが決まりました。
 なぜ、かつてあれほど反逆精神が旺盛だった団塊世代なのに、今ではこんなにもおとなしく政治の流れに身をまかせてしまっているのでしょうか。今こそ再び声を上げるときではないのでしょうか・・・。眠れる獅子である団塊世代に対して熱いエールを送る本として、いま強く一読をおすすめします。
(2012年9月刊。1800円+税)

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