弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
社会
2013年1月28日
日本人は、なぜ世界一押しが弱いのか?
著者 齋藤 孝 、 出版 祥伝社新書
私は一般的な日本人論を読むのを好みません。聖徳太子の「和をもって貴となす」というのは、当時あまりに紛争(裁判)が多かったので、日本人よ、もめごともほどほどにせよと諭したということなのです。ところが、今ではまったく逆に昔から日本人はもめごとを好まなかっただなんて、とんでもない使い方がされています。
また、イザヤ・ベンダサンにも一時期ころっと騙されてしまいました。なあんだ、正体は日本人だったのか、よくぞなりすましてくれたものだと思いました。とは言っても、この本には得るところがありましたので、紹介します。
テレビのワイドショーでは、思いついたことの8割は言えない、言ってはいけない。なぜなら、本当のことは、ほとんど人を怒らせることだから。日本のテレビでは、人を怒らせることや傷つけることを言う人は、だんだん出演が減っていく。
私も、30年ほど前にNHKの朝「おはようニッポン」の全国生中継番組に出演したことがあります。事前の打ち合わせのとき、たとえば国内の先物取引業者を悪く言ってはいけないと釘をきつく刺されました。同じようなだましの手口を使っても、政府公認の業者は許せということです。
日本人は大陸から渡ってきた民族だ。つまり、押しが弱いために土地を追われ、大陸から押し出されてしまった人々の末裔なのではないか。
ええっ、これって、ホントでしょうか・・・。信じられません。
中国人や朝鮮人に比べて日本人は肉食が向いていない。肉は日本人の弱い胃腸には適さない。同じように、胃腸の弱い日本人は量をたくさん食べることもできない。
日本人は、超肥満になれない。超肥満になるには、それだけインシュリンを多く分泌する能力があるということ。内臓の弱い日本人は、インシュリンもたくさんは出ない。そのため、超肥満になる前に糖尿病になってしまう。
日本人には「個」が弱いから、一人では生きていけない。集団でなければ生きていけないので、集団で生きるために忍耐力と協調性が必要となった。
日本は、場の空気を読むことが常に求められる社会である。
葦原(あしはら)の瑞穂(みずほ)の国は神(かむ)ながら、言挙(ことあ)げせぬ国
これは『万葉集』におさめられた柿本人麻呂の歌。日本は太古から「言葉にしてはっきり言わないこと」をよしとしてきた。それをしてしまうと争いになるからだ。
日本人の微笑(ほほえ)みは、人間関係を穏やかにするための相手の配慮である。
セックスは全身的な行為なので非常に疲れるうえに、気を遣うので、精神的にも負担を感じてしまう。セックスは対人行為なので、ストレスが生じるが、自慰はストレスがないから気が楽だ。
日本人の学校好きは筋金入りだ。その証拠に日本人は同窓会が大好きだ。
日本の古文は、世界に誇るべき奇跡の文章だ。古文は、誰が、誰にというのがほとんど書かれていない。読み手が、それらをすべて補わなければならない。古文は、すべてが曖昧である。
日本の文化には、お笑いと温泉と食べ物という三つの世界に誇るべきものがある。
日本人は押しが弱いけれど、その分穏やかという特性をもっている。性格は、明るくまじめ、几帳面で粘り強い。
今どきの学生は、ケータイ(スマホ)がネットしか使っていない。一人ひとりが自分の見たいときの自分の見たい情報しか見ないようになっている。これは、とても危険なこと。情報の共有ができなくなっている。
多くの人が同時に情報を共有していることは、それ自体がとても大切なこと。なぜなら、みんなが知っていることで初めから話がすすむということがあるから・・・。
弁護士の中にも口頭での討論を不得意とする人が増えてきて、心配です。
(2012年6月刊。780円+税)
2013年1月24日
ブラック企業
著者 今野 晴貴 、 出版 文春新書
だれでも知っている日本有数の大企業までもブラック企業なんですね。おどろきました。まあ、たしかに日本経団連は人間とりわけ若者の使い捨てを率先してすすめていますから、有名大企業がブラック企業だとしても驚くことはないのでしょう。
でも、こんな事をしていたら、日本の若者をダメにしてしまうし、ひいては日本の将来をお先まっ暗にしてしまいます。一企業の私的利益に日本の若者ひいては日本の将来を奪わせてはなりません。
「おまえたちは人間のクズだ。なぜなら、今の時点で会社に利益をもたらすヤツが一人もいないから。お前たちは先輩社員が稼いできた利益を横取りしているクズなのだ」
こんなことを堂々と新入社員の前で演説する人事担当役員がいるというのです。ひどい話です。自分の胸に手をあてて考え直してほしいものです。実は、あなたもかつてはクズだったんですよね。そして、定年退職してからの年金を負担しているのは誰なんですか。あなたが、「クズ」と決めつけた「若者」たちではないのですか・・・。
人事担当役員が「カウンセリング」を始めると、徹底的に自己否定することを強いられる。会社によるハラスメント手法に共通するのは、努力しても何をしても罵られ、絶え間なく否定されるということ。新入社員研修では、ひたすら精神面の指導が行われる。
技術の向上や基本的な社会人としてのマナーを教えることが目的というより、従順さを要求し、それを受け入れる者を選抜することにある。
○○シロでは、店舗運営のマニュアルを暗記することが求められる。社外秘の資料なので、自宅で復習するためには店で書き写すことが求められる。明らかに不効率な方法だが、そこでは、根気があるか、会社に忠実かを見ている。
半年で店長になれるのは、4分の1から3分の1くらい。入社して2年間は本当に採用されるために活動しているようなもの。その間に半分は辞める。店長になる過程は、同時にリタイアする過程でもある。
○○シロでは、みずからの過剰労働やパワハラを労働災害だと実は理解している。
成果主義のような目に見える効率一辺倒の企業体質は労働基準法を無視し、働く人を使い捨てします。
ブラック企業問題は、若者の未来を奪い、さらには少子化を引き起こす。これは日本の社会保障や税制を根幹から揺るがす問題である。同時に、ブラック企業は、消費者の安全を脅かし、社会の技術水準にも影響を与える。ブラック企業の規制を実現してこそ、日本経済の効率性を高め、社会の発展を実現できる。
なんでも「規制緩和」万能の風潮が強まっていますが、とんでもありません。労働者保護は、日本社会の健全な発展に必要不可欠なものです。ぜひ立ちどまって考え直してほしいと思いました。
まだ30歳という若手の著者です。大変勉強になりました。ひき続き、がんばってください。
(2012年12月刊。770円+税)
2013年1月20日
「移民列島」ニッポン
著者 藤巻 秀樹 、 出版 藤原書房
現代日本にも、アメリカやヨーロッパほどではありませんが、たくさんの移民が住んでいるのですね。
その実情を現場に足を運んで取材した日経新聞記者のルポルタージュです。
フランスには全人口の8%にあたる490万人の移民がいる。
日本の外国人登録者数は208万人近い(2011年末)。総人口に占める割合は1.63%にすぎない。
日系ブラジル人やペルー人がデカセギ労働者として日本に来ている。ブラジル人は21万人いて、東海地方に日系人が集中している。
浜松市は人口82万人のうち、外国人が3万人いて、その6割が日系ブラジル人だ。その子どものなかには、日本語も母国語のポルトガル語も身に付いていない子どもがいる。
新宿区大久保はコリアンタウン化がすすんでいる。地価も上昇している。大久保には、1980年代以降に来日したニューカマーが多い。
中国人が67万5000人とトップを占め、池袋には1万2000人が住んでいる。
江戸川区には2000人のインド人が住んでいる。ほとんどがITの技術者である。そのため、2、3年でインドに帰っていく。
新宿区の高田馬場には1000人のミャンマー人が住んでいる。カチン族も500人いる。
日本にいる移民の実情を多角的に知らせてくれる本でした。
(2012年10刊。3000円+税)
2013年1月18日
感情労働シンドローム
著者 岸本裕紀子 、 出版 PHP新書
上司が部下に注意をしたとき、部下が逆ギレして過剰反応することがある。
「そういう、上から目線、やめてくれませんか」
そんな部下は、自分に自信がなく、劣等感にさいなまれている。そして実は、主導権を握って、それでバランスをとろうとしているのだ。
ところが、問題は、それを言われたときの上司の対応。意外にも深く気にして、その言葉に縛られてしまうのだ。それは、今という時代が、「他人から気に入られる」ことにポイントが置かれた時代だから、下から上への攻撃に対して、狼狽するばかりになってしまう。
感情労働は、相手が期待している満足感や安心感をつくり出したり、不安感を解消させるために自分の感情をコントロールするものである。
感情労働が求められる職業には三つの特徴がある。
第一に、対面、声による顧客との接触が不可欠である。第二に、他人に感謝の念や恐怖心など何らかの感情の変化を起こさせなければならない。第三に、雇用者は研修や管理体制を通じて、労働者の感情活動をあるある程度支配するものであること。
感情労働がそのまま要求される職種としては、看護師、介護士、保育士、そして医師や弁護士。いずれも困っている人の悩みにより添う仕事。また、役所や銀行の窓口業務なども、感情労働が要求される仕事である。
感情労働とは、仕事において、相手が望んでいる満足感や安心感をつくり出したり、不安感を解消させるために、自分の感情をコントロールする労力のこと。
弁護士にも営業力が求められている。クライアントをいかに獲得するか、そしてかに引き留めておけるか。この営業力が採否を決める大きなポイントになる。
これは、本当にそのとおりです。クライアントの心をつかみながら仕事を進めることのできる弁護士が求められています。きちんと会話ができて、問題点を正確につかむ。そのうえで法律構成を考える。さらに事件の処理の進行過程を逐一クライアントに報告して信頼を増していく関係を築きあげる。
「オレにまかせておけ!」
こんな旧来のやり方の弁護士ではもう時代遅れです。
新しい視点を提供してくれる本でした。弁護士にも実務的に役に立つ内容がたくさん書かれています。
(2012年11月刊。760円+税)
2013年1月16日
「本当のこと」を伝えない日本の新聞
著者 マーティン・ファクラー 、 出版 双葉新書
ニューヨーク・タイムズ東京支局長というアメリカの記者が日本の新聞は「本当のこと」を伝えていないと厳しく批判しています。残念なことに、まったくそのとおりと言わざるをえません。
先日の総選挙のときもひどかったですよね。民主党大敗、自民党大勝を早々と大きく打ち出して世論を露骨に誘導しましたし、「第三極」を天まで高く持ち上げました。まさしく意図的です。月1億円の勝手放題に使っていい内閣官房機密費の最大の支出費は大手マスコミの編集幹部の買収費に充てられているのではないかと思えてなりません。
とは言うものの、アメリカの新聞・テレビも、遠くから眺めている限り「権力者の代弁」という点では日本と同じではないかとしか思えません。民主党と共和党の違いは、カレーライスかライスカレーかの違いと本質的にはあまり変わらないのではありませんか。オバマ大統領への期待もすっかり薄れてしまいました。
日経新聞は企業広報掲示板である。
私は日経新聞の長年の愛読者ですが、実は、そのつもりで読んでいます。大企業をいかなる場合でも露骨に擁護する新聞だからこそ、企業のホンネがにじみ出ているものとして価値があると考えています。
日経新聞は、当局や一部上場企業が発進する経済情報を独占的に報道している。それは寡占というレベルではない。日経新聞の紙面は、まるで当局や起業のプレスリリースによって紙面が作られているように見える。大きな「企業広報掲示板」と同じだ。大手企業の不祥事を暴くようなニュースを紙面を飾るようなことは、まずない。
日本の新聞記者は日経新聞に限らず、大企業の重役たちと近く、べったり付きあっている。だから、いざというときに踏み込んだ取材をしたり、不正を厳しく指摘することがない(できない)。たとえば、民主党の有力参議院議員の誕生日を祝う会が担当記者50人の出席で開かれた。もし、こんな誕生会を企画して国会議員にプレゼントまで記者たちが贈っていることが分かれば、ニューヨークタイムズの記者なら即刻クビを宣言されるだろう。ジャーナリストとしての基本が疑われる重大問題なのだ。
日本の記者はあまりにエリート意識が強すぎる。記者は東大や京大といった有名国立大学、そして早稲田や慶應という難関私立大学の出身者ばかりだ。つまり、官僚とジャーナリストは、同じようなパターンで生みだされている。大学で机を並べていた者たちが、官庁と新聞社という違いはあるにせよ、「同期入社組」として同じように出世していく。権力を監視する立場にあるはずの新聞記者たちが、むしろ権力者と似た感覚をもっている。
このことにアメリカの記者である著者は率直に驚いています。
日本のマスコミ(記者)は、政治家に対しては割と批判的なのに、行政バッシングはできるだけ避けようとする。
東大法学部を卒業してマスコミ業界に入っていく人は昔から多いのですが、その彼らが官僚や政治家そして自民党に何重ものしがらみでからめとられている実情を聞かされて大変おどろいたことがあります。
日本のマスコミには、大いに反省してほしいと思わせる本でした。
(2012年9月刊。800円+税)
2013年1月15日
人間形成障害
著者 久徳重和 、 出版 祥伝社新書
人間形成障害とは、簡単に言うと年齢(とし)相応にたくましく成長していないということ。医学的に言うと、「親・家庭・社会などの文化環境(生育環境)の歪みに由来する心身の適応能力の成熟障害」と定義されるもの。
人間形成障害は、「一人でも生きていく」(個体維持)、「群れをつくる」(集団維持)、「子どもを育てあげる」(種族維持)のための適応能力が障害を受ける。
人間形成障害は遺伝的な疾患ではなく、ましてや原因不明の疾患でもない。
人間は、日常生活という「通常業務」を直接つかさどる性格や体質の相当多くの部分を、生まれたあとに完成させる生物である。
子どもは、まずたくましくなり、賢くなり、それから優しくなることによって、「どこに出しても恥ずかしくない一人前の大人」に育っていく。人間の成長とは、幼さと臆病さを克服していく過程ともいえる。
人間形成障害は、「幼い」をベースとする適応障害と言える。ここで「幼い」とは、第一に、自分の実力を正しく認識しておらず、根拠のない自信と万能感、身のほど知らずのプライド。第二に、先の見通しが甘く、ピントはずれの判断をする。状況が読めない。
第三に、うまくいかないときに悩んで落ち込み、キレるか、いじけてしまう。打たれ弱い。第四に、最終的に放り出すか、誰かに頼って解決してもらう(甘えと依存)。
「幼さ」と「怒りと拒否」の背景に共通しているのは、健全とは言えない親子関係である。
普通の子どもが突然キレるのではなく、突然キレるような社会的抑制に欠ける子どもが普通になってきた。
中高生の不登校は成人後のひきこもりのリスクファクターのひとつである。
子どもは1歳までに「お母さんはいいもの」をつくりあげ、そのうえに3歳までに「仲間はいいもの」という感性をつくりあげる必要がある。3歳までの子どもに、その周りに「みんな仲良く」とか「笑顔と会話と優しい気持ち」が満ち満ちていることが大切だ。
人間は3歳までにかなりの言葉を覚えるが、この時期に覚える言葉は脳の深い部分に書き込まれて、その書き込みは「一生を支配する」ほど強固である。だから、人間は年老いて認知症になっても母国語は忘れないのだ。
3歳までの脳への入力は、「深いところへ強固に」そして「自動的」である。
だから、この時期に、本人に影響を与えるような不安感や緊張感・攻撃性を家庭内・身内に発生させるのは絶対に避けるべきだ。そのため、子どもに伝えないような頓智と芝居すら必要だ。
家庭内に緊張感があるため、子どもが大人(親)の顔色を見るような臆病さをもった3歳児になるのは極力さけなければならない。それは成長したあと、まわりに人がいると緊張するという本能レベルでの臆病さになって、無意識のうちに本人を支配してしまう。これが成人してからの対人不安・対人緊張、社会不安の芽になってしまう。
3歳から6歳までは、「親はいいもの」「仲良くはいいもの」をベースとして、自分もそのまわりの「いいもの」に加わっていきたい、一緒になりたいという「同一化の欲求」があらわれ、まわりに認められることを求めて頑張り始める時期である。反抗期と言われる時期は、人間の基礎を確立するための自己拡張期なのである。ままごと遊びを好むのも、大人の役割を意識しはじめた結果なのである。年上に引っ張られて伸びていくのが本来の姿である。
10歳前後の子どもには批判精神が発達していない。だから、親に問題があっても、それを批判するよりは、自分なりに合理化して納得させ従ってしまう。10歳前後の子どもが親から虐待されても親をかばったりするのは、このためなのだ。
10歳から15歳までのギャングエイジは、ピンチや修羅場を乗り越える力をつけるための実地訓練の時期とも言える。この時期のコーチは、親ではなく、新しい仲間とか頼りになる先輩、兄貴分、姉御分であるのが本来の姿である。
この時期の親は、子どもとのディベートをリードするだけの「人生の先輩としての見識」を高めておかなければいけない。
大変かんがえさせられる内容の多い本でした。
(2012年9月刊。820円+税)
2013年1月11日
「橋下維新」は3年で終わる
著者 川上 和久 、 出版 宝島社新書
先の総選挙のとき、マスコミが「第三局」そして「橋下維新」を天まで高く持ち上げるのは異常でした。視聴率さえ取れれば、現実社会がどうなろうとかまわないという軽率さに、多くの国民が振りまわされてしまいました。
この本は、「橋下維新」はナポレオンやヒトラーと同じ危険をもっているとしています。なるほど、と思わせる内容でした。
世論は、熟慮なしに「邪悪な意図」に操られると、方向を誤る凶器になる。社会への不満、不安と、それを解決できない統治システムがあるとき、必然的にそれを解決しようとする、強烈な上昇志向と権力欲を持った政治リーダーが登場する。
橋下徹は、メディアの眼前で、分かりやすい「敵」を設定し、テレビカメラの前で攻撃する。「対立構造を作らないと、メディアに分かってもらえない」と言う。それは相手を説得するというよりも、激しく戦っている姿をメディアを通じて印象づけ、大阪市民の支持を得た。
橋下徹の「敵」を際立てる手腕は見事だ。歯切れのよい弁舌で、テレビなどでニュースとして取り上げられるようにアピールし、「敵」に悪のレッテルを貼ったうえで、容赦なく叩いていく。潜在的な市民のもつ「敵意」を橋下徹は巧みに利用している。
私(橋下)の役割は、街頭で無党派をつかむこと。
有権者の感情に訴えるときには、政策は言わない。相手を批判するときも、「繰り返し」で、自らの「怒り」を強調し、自分がいかに相手に対して憤懣やるかたない思いであるかを受け手に強く印象づける。
ナポレオンも、メディアのコントロールには十分な注意を払った。警察に世論を監視させ、「郵便物検閲室」で手紙の内容を調べさせた。このほか、1810年の法令で、一県につき1つの新聞、パリには4つの新聞紙か存続を許さなかった。だから、すべての新聞が「体制派の新聞」になった。
同じ「一県一紙政策」は、戦前の日本でも行われた。いつまでも多くの道府県に有力な一つの地方新聞があるのは、その名残で全国紙を凌駕して圧倒的な講読率を誇っている地方新聞も少なくない。
テレビの長時間視聴層の多くが自民党を支持している。これは、テレビの操作が国民を操作することに直結していることを意味していますよね。
今の日本で一番重要なのは独裁。独裁と言われるくらいの強い力だ。
こんな橋下徹を「弱者」が強く支持しているというのは、まったくの矛盾ですよね。はやいとこ、「橋下維新」への幻想から目を覚ましたいものです。
(2012年10月刊。743円+税)
2013年1月 5日
売れる作家の全技術
著者 大沢 在昌 、 出版 角川書店
売れる作家のプロ作家養成講座です。作家と名乗るのは我ながら恥ずかしく、いつもモノカキと自称する私ですが、小説にも挑戦中なので、ぜひ読んでみようと思って手にとったのでした。
さすが当代有数の売れる作家の言うことは違います。含蓄のある指摘に、ついついうーんと心がうなってしまいました。同感、同感。でも、実行は難しい。トホホ・・・。ただし、『新宿鮫』などで今や大いに売れている著者も、かつては売れない作家だったのです。
23歳でデビューし、11年間、まるで本が売れなかった。28冊の本がすべて初版どまり。だから「永久初版作家」とまで呼ばれた。うへーっ、それはそれは・・・という私も、再版したのは1回のみで、あとは初版どまりで、大量の在庫は、みな知人にありがたく贈呈してしまいました。
初版4000部、定価1700円として、印税10%だとすると、作家の収入は68万円となる。半年かけて書いて68万円の収入をあげたとすると、コンビニのあるバイトよりも低い金額でしかない。うむむ、そうなんですね。現実はチョーキビシイのです。
辞書は、いつも手元に置いておく。少しでも怪しいなと思ったら辞書を引くこと。一日に最低でも4、5、6回は辞書を引いている。
著者はパソコンはではなく、手書きです。これは私と同じです。
原稿をすばやく仕上げるには、毎日、必ず決まった分量を習慣を身につけることが大切。書いた原稿を、少し時間を空けて読み返す。時間をあけることによって、あたかも他人の文章を読むように自分の文章のように読み返す。
どんなに苦しくても、決められた枚数を書ききる。それがプロ作家である。
ストーリーも大事だけど、キャラクターも大事だ。
アイデア帳をいつも身近に置いておく。何か思いついたら必ずメモをとる。私も、ポケットにはメモ帳を必ず入れています。車中にも、ペンとメモ用紙を置くようにしています。車中でひらめいたときには、交差点の赤信号で止まったとき、素早くメモします。
ストーリーが進むにつれて主人公は変化する。ストーリーが登場人物を変化させていく。この変化の過程に読者は感情移入する。これをしっかり意識して小説を書くべきだ。
私には、この点の意識が欠けていました。反省すべき点です。
小説の登場人物は論理的でなければいけないし、その論理には一貫性が要求される。
人物に過去を語らせない。回想シーンは、会話にもっていく。
ミステリーは、基礎知識のない人間が書いてはいけないジャンルだ。最低でも1000冊は読んでいないと、ミステリー賞に応募することはできない。自分の書いたものを何度でも疑う。とにかく、たくさんの本を読む。これしかない。今の作家志望者は読書量が圧倒的に不足している。
作家になるというのは、コップの水である。コップの水に読書量がどんどんたまっていって、最後にあふれ出す。それがかきたいという情熱になる。
編集者は、作家に対していろいろダメ出しするが、「こうすれば、もっと面白くなりますよ」とは言われない。それを言えるくらいなら、編集者のほうが作家になったらいい。最終的には作家の自助努力しかない。作家の作業は孤独なものである。
自分が面白いと思わなければ、面白いものは絶対に書けない。
主人公に残酷な物語は面白い。主人公が苦しめば苦しむほど、物語は面白くなる。読み終えたあと、読書の心の中にさざ波を起こすような何か、これを「トゲ」と呼ぶ。面白くするには、泣くほど考えるしかない。
漢字を使うことによって、小説の雰囲気が変わってくる。小説を読んでいるとき、人は自分の年齢を忘れている。
改行は、文章のリズムをつくるうえでの数少ないテクニックだ。
冒頭の20枚の原稿用紙こそが長編小説の「命」なのである。説明なしで、いかに主人公を印象づけるか、魅力的な主人公だと読者に思わせるが、その点をとことん考える。
アイデアの出ない人はプロになれないし、万一プロのなれたとしても、とても食べてはいけない。
ある水準以上のものを必ず出せるのが、プロの条件である。何十冊も書きつづけなければならない。一作一作が勝負の作品だ。前の作品よりもいいものを書くことを常に求められる。それがプロの世界だ。根性のない人間は生き残れない。頼まれた仕事は絶対に断ってはいけない。そして締め切りは絶対に厳守する。
本は商品である。4000部売れても、出版社はほとんどもうからない。
ある程度売れるようになったらテレビは出ないほうがいい。なぜなら、作家はどこか神秘性をもっていたほうがいいから。イメージが合わないと読者は離れていってしまう。
新人作家は、決してインターネットでの自分の評判を気にしないこと。なるほど、とても実践的なプロ養成講座でした。私もさっそくすこしばかり実践することにしましょう・・・。
(2012年7月刊。1500円+税)
2013年1月 3日
ルポ・イチエフ
著者 布施 祐仁 、 出版 岩波書店
福島第一原発事故をマスコミは忘れたような気がします。でも、まだ依然として大量の放射能が出ているなかで、その後始末に大勢の労働者が働いているのです。その労働のすさまじい実情がほとんど報道されていません。この本は、その労働現場に迫っています。貴重な証言集です。
僕らは被曝することを「食った、食った」と言う。作業が終わったあと、0.6(ミリシーベルト)も食っちゃったよ。キミは何ミリ食った・・・?
これが原発現場で働く労働者の会話というのです。福島第一原発を「ふくいち」とも呼ぶが、原発作業員は「イチエフ」と呼ぶ。
原発労働員の大半は日給月給の非正規雇用。
2011年3月11日、フクイチには東電社員755人と下請け労働者5660人、合計6400人が勤務していた。
作業員が100人も並ぶ。というのも、免震重要棟に入るときには、なかに放射性物質を持ち込まないために、まず入り口でタイベックや全面マスク、ゴム手袋などを脱ぎ、そのあとに身体汚染のサーベイを担当する担当者が数人しかいないため、作業員が集中するとあっという間に行列ができてしまう。長いときは1時間近く、被曝しながら待たされる。
ここでの食事は1日2食。朝食はビスケットと野菜ジュース。夕食は湯をかけて食べるアルファ米と野菜ジュースだけ。肉体労働で汗をかいてもシャワーを浴びるどころか顔を洗うこともできない。
それでいて、もらう賃金は最高でも通常時の日当にプラス危険手当が10万円。大半は危険手当も数千円から1万数千円ほど。
2011年5月23日まで、ホールボディカウンターによる内部被曝の検査を受けたのは、それまでに緊急作業に従事した7800人のうち1800人だけ。そして、内部被曝が1万カウントをこえた人が見つかった。それでも、誰も大騒ぎせず、そのまま、「どうぞ、お帰りください」と言われるだけだった・・・。
線量が高いため、作業は文字どおりの「人海戦術」で進められる。作業時間は、1班あたり30分。3回まで昇り降りする時間を差し引くと、現場で実際に作業できるのは、せいぜい10数分が限度。だから、大量の作業員を投入して、次から次へと交代して工事を進めていく。
6次下請けで入っている経営者に5次下請けの会社が支払う日当は1人あたり1万8000円。そのうち、1万5000円を労働者に渡す。
九州の原発で働く作業員の日当は1万4000円が相場だった。原発では、偽装請負は当たり前。しかも、実態は二重派遣、三重派遣。そして、中間に暴力団が絡んでいる。結局、そうしないと人が確保できない。
東電が認めているのは三次までだけど、実際のところ、一番下は10次くらいまでいく。もし、完全に法人登録していないとダメとか、暴力団が絡んでいるのを排除しようとしたら、原発は成り立たない。放射性物質は、まだ漏れ続けているし、汚染水も地下水が流入してどんどん増え続けている。こんな状況で「収束」はありえない。
「誰かがやらなくてはいけない」被曝労働が、これから数十年間にわたって続く。いえ、数十年では絶対に終わるはずがありません。何百年でもないでしょう。永遠に地球を汚染し続けるのです。原発、放射性物質を生みだすもとと人類の平和共存はありえません。
今こそ、原発なんて直ちに「ノー」の声をあげるべきです。
大変いい本でした。著者のご苦労に感謝します。
(2012年10月刊。1700円+税)
2012年12月26日
告発!隠蔽されてきた自衛隊の闇
著者 泉 博子 、 出版 光文社
自衛隊の内部では一般社会の想像を絶するいじめが横行しているようです。それは自殺者の比率が以上に高いことに示されています。
2001年から2008年度まで、日本人の自殺者は10万人あたり27.4人。ところが、陸上自衛官は37.0人、海上自衛隊官は36.3人、防衛省事務官は28.2人。
直近の5年間では、自衛官の自殺率は日本国民の平均を45%も上回っている。
今年3月末で自衛隊を定年退職した著者は、40年近く自衛隊に事務官として働いていました。ところが、平成6年に職場の不正を内部告発してからの18年間、組織ぐるみの陰湿ないじめを受け続けてきたのです。
内部告発者が組織の敵、異端者として、徹底的なパワハラを加えられた。その結果、心身ともに疲れ果て、入退院を繰り返した。
この本に顔写真がありますが、とてもお元気そうで、そんな入退院を繰り返した人だとは、とても思えない若々しさです。
部隊は、奄美群島の一つ、沖永良部島にある航空自衛隊那覇基地の分屯基地。著者は、この沖永良部島で生まれ育ち、今も島に暮らしています。
自衛官の不正とは・・・。
コピーキャットを購入していないのに、納品をねつ造して、購入したことにして、業者に支払わせる。そのお金をゴルフ大会とか利用に使う。
業者の印鑑を部隊が預かっているので、本人の知らないうちに見積書や納品書がつくられ、納めてもいない品物が納品されたことになっている。
私物の不正購入や補給物品の持ち帰りはあたりまえだった。息のかかった出入り業者に対し、実際の物品購入代金よりも多目に振り込み、業者がその差額をプールして自衛官の遊興費に充てる。
地元業者とは特異な関係にあり、競争入札はせず、調達担当の独断で発注する。自衛隊と業者は持ちつ持たれつの関係にある。
こんな不正を内部告発したあとは、「同僚を犯罪者にしたてた怖い人」というレッテルを貼られ、隊員が近寄らなくなった。
著者は、23年間、一度も昇任しなかったといいます。これは辛いです。悔しいですね。明らかに報復措置です。それでも、3人の娘さんからは高く評価されているというのは、うれしい限りです。
そして、TBS報道特集でも全国放送されたとのこと。北海道の佐藤博文弁護士からもアドバイスをもらったとあとがきに書かれていました。佐藤弁護士とは、日弁連で一緒の委員会ですので、とてもうれしく思いました。
(2012年9月刊。1500円+税)