弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

生物

2013年7月 8日

先生、大型野獣がキャンパスに侵入しました

著者  小林 朋道 、 出版  築地書館

鳥取環境大学のコバヤシ先生のシリーズ7冊目です。こんなに自然環境に恵まれた大学で学べる学生は幸せだと思います。とは言っても、卒業後の就職先探しの点では、なかなか大変なのかもしれませんが・・・。
 この大学にはヤギ部という学生サークルがあります。そして、最古参のヤギコが、なんと昨年2月、11歳で亡くなったとのことです。ヤギコの話も面白かっただけに、本当に残念でした。寿命だったのでしょうか・・・。それでも、ヤギ部自体は続いているとのこと。
そして、この本を読むと、モモンガの森のエコツアーに誌上参加することができます。モモンガパン・モモンガゴロゴの焼き印など、子どもたちだけでなく、大人も年寄りも楽しめそうです。
 この本の初めに登場するのはヒバリの子育て。春先、頭上高くヒバリのさえずりを聞くと、いつも、ついつい心がなごみます。春を実感させるヒバリの鳴き声だからです。
 ヒバリは人間に対する警戒心が強いと思っていました。すると、なんとこの大学では、みんなが通る通路というか階段の脇の茂みに巣があって、子育てしているというのです。本当に大丈夫なのでしょうか・・・。
そして、ヒバリの巣の近くにシマヘビを見つけて捕まえ、手をかまれた学生がいました。シマヘビは、よく人物をかむのだそうです。
アオダイショウもシマヘビも、そしてマムシも、まったく違いが見分けられない私は、ヘビと聞いただけで、おじけづいてしまいます。
このコバヤシ先生は、なんとハチも育てています。アシナガバチです。よくよく観察が行き届いているところは、さすがにプロの目は違います。
 いつもながら、生物の生態を細かく教えてくれる楽しい本です。
(2013年5月刊。1600円+税)

2013年7月 1日

巨鯨の海

著者  伊東 潤 、 出版  光文社

圧倒的な迫力のある捕鯨の話です。思わず、手に汗を握り、鯨とのたたかいに目を見張ります。和歌山県は太地(たいじ)の鯨組の話です。
本方(ほんかた)と呼ばれる鯨組棟梁(とうりょう)。刃刺(はざし)とは、鯨に銛(もり)を打ち込む勢子船(せこふね)の頭(かしら)のこと。沖合とは、船団の指揮をとる軍配役。親父とは、一から三番船の刃刺のこと。
 能野太地の鯨組では、刃刺に昇進すると、それまでの名を捨て、鯨組棟梁からそれぞれにちなんだ大夫名が下賜される。若太夫(わかだゆう)は、すでに齢(よわい)60を超えた老練の沖合である。筆頭刃刺を勘太夫(かんだゆう)という。
太地は、紀伊半島南端の潮岬から東北4里(20キロ)、那智の滝で有名な那智勝浦のすぐ南に位置している。気温は温暖で、冬でも過ごしやすい。
 夏のあいだ、鯨は蝦夷地や千鳥半島でオキアミをたらふく食べ、一尺をこす皮下脂肪をさらに厚くし、北の海が氷で閉ざされる前に、繁殖のために南に向かう。これを、上り(のぼり)鯨と呼ぶ。上り鯨が太地沖を通過するのは9月から12月で、北に向かう下り鯨は、3月から4月に太地沖を通過する。それぞれ冬漕ぎと夏漕ぎと呼ばれ、それ以外の期間は大漁となる。
 古代より日本列島の沿岸は鯨の宝庫だった。しかし、大型の鯨は人の手に負えなかった。ところが、17世紀に入って、太地の人々が網取り漁法を考案したことから、太地は鯨取り熱狂の季節を迎えた。1683年には、太地だけで大型鯨96頭の水揚げがあった。貧しい寒村が一転して長者村となった。太地の人々は鯨を「夷様(えびすさま)」と呼んで敬った。
新宮(しんぐう)藩の領内にありながら、太地は治外法権も同じ扱いを受けていた。というのも、太地鯨組の頭領である太地角右衛門家は、名にし負う大分限(だいぶげん)で、財政難の新宮藩にお金を貸したり、新宮藩がいずこからお金を借りるときの保証人になったりしているからである。
 江戸時代の鯨取りの様子をまざまざと再現しつつ、そこにうごめく人間模様をこまやかに描く語り口はあざやかと言うほかありません。
 感嘆しながら、読書の幸せをかみしめつつ、残念ながら読了してしまいました。
(2013年4月刊。1600円+税)
 土曜日の午後からフランス映画をみました。別れた夫と新しい彼とのあいだで揺れ動く女性の話なのですが、いかにもフランス映画で少々退屈しました。フランス語の勉強のつもりで最後までみました。映画のあと、ジャック・ドワイヨン監督本人のトークがありました。もちろん通訳つきですが、それでも、けっこう話は分かりました。この監督は1シーンをとるのに、最低でも15回はやり直させるようです。そうやって役者は自分のものにするとのこと。主役の女性は監督の娘です。美人というより個性的なアクトレス(女優さん)です。8歳くらいの女の子が実におませで、可愛かったのが印象的でした。

2013年6月29日

日本の絶滅古生物図鑑

著者  宇都宮聡・川崎梧司 、 出版  築地書館

いやあ、古代日本にもこんなに奇妙な古生物がいたのですね・・・。そして、化石として日本各地に残っていたなんてちっとも知りませんでした。
いえ、日本に恐竜の化石があることくらいは私も知っています。まだ見ていませんが、熊本県の天草に恐竜化石があるようですし、福井県は恐竜化石の宝庫だというのは聞いています。
北海道にも恐竜がいたのでした。体長10メートルに達するモレノサウルスです。
 クビナガリュウの仲間です。10メートルの復元骨格は圧巻ですね。
 日本にはワニだっていたのですね。しかも、なんと大阪府豊中市にいたとは・・・。
大阪が世界に誇る化石、それがマチカネワニだ。体長7メートル、体重1.3トンという巨大なワニです。頭部だけで、1メートルという大きさです。大阪大学のキャンパス工事現場で保有状態のよいワニの頭部が発見されたのでした。
 岐阜県には、ゾウの化石が見つかっています。日本にも野生のゾウが生息していたわけです。ナウマンゾウになると、日本各地で化石が見つかっています。マンモスは、さすがに北海道だけのようです。マンモスの臼歯化石が発見されています。
オールカラーの見ているだけで楽しい図鑑です。日本だって、古代世界の一部なんだと実感できます。眺めていると気分転換になる図鑑として、一見をおすすめします。
(2013年2月刊。2200円+税)

2013年6月24日

マタギとは山の恵みをいただく者なり

著者  田中 康弘 、 出版  枻出版社

東北地方には、今なおマタギが存在しているんですね。もちろん、昔ながらのマタギのままとはいかないようですが・・・。
 本書は食堂である。出てくるメニューは、実際にマタギたちが食べてきたものばかり。
 山の神から授かったマタギの食べものを、よくとれた写真でイメージをふくらませながら堪能することができます。
 でも、それにしても雪深い山中を2時間も3時間も、ひたすら歩きまわるなんて、私にはとても出来ません。せいぜい、こうやってマタギの写真を眺めて、その苦労を彼方のものとして少しばかりの実感をおすそ分けさせていただくだけです。それでも、腹ふくるる心地はしてきます。なにしろ、ナマの肉にあふれていますから・・・。
 マタギは、狩った熊をさばいて鍋料理で食べる。山菜を入れると鍋の味がひときわ引き立つ。
 昔は熊が捕れると、集落がわくわくした気分になった。子どもが小皿に熊の肉を入れて近所に配って歩いた。それくらい、昔は熊の肉は貴重品だった。熊の胆は今では薬品に指定されているそうです。
 金と同じ価値があるとされた熊の胆は、冬眠中にできる。冬眠しているときは何も食べない。だから、消化に必要な胆汁は使用されずに、たっぷりと貯めこまれる。これを加工して貴重品としての熊の胆ができあがる。
熊の肉はほとんど流通しない。並の肉でも、100グラム500円以上する。熊の肉は煮込み専門、味噌との相性がいい。ブナの実ばかりを食べた熊の肉がいちばん美味しい。
昔から熊はどこも捨てるところがないほど活用されてきた。肉は食用、熊の胆や血は薬になり、毛皮は敷物に利用されていた。ところが、今では、熊の皮は、山の中に捨てられるようになった。加工業者が減って、加工賃が値上がりしたのも理由の一つ。
 野ウサギを食べるときには、頭を半分に割って加える。そうすると、脳みそがウサギの味としてプラスされる。これって、本当に美味しいのでしょうか・・・。
このほか、山菜、バター餅、ヤマメやカジヤなどの川魚もあります。
 自然に恵まれた山深い森の自然の恵みを食する悦楽が写真で手にとるようにイメージできる楽しい本でした。
(2013年4月刊。1500円+税)
 日曜日にフランス語検定試験(1級)を受けました。この2週間ほど、必死にフランス語の書き取りをしていましたので、長文読解、書き取り、聞き取り試験はまあまあでした。分からない単語があっても、文脈から想像がつくほどにはなりました。でも、文法はまるで歯が立ちません。いつものように第1問から5問までは、ほとんど全滅でした。自己採点で68点(150点満点)。4割をこえたようです。当面の目標は5割をクリア―することです。(合格は6割)。
 やはり試験ですから、とても緊張します。昼食は結局、抜きました。お昼を食べる気分にならなかったのです。
 6月21日はフランスは全国で音楽祭をやったようです。ちょうどパリにいる娘が驚いて、ラインで知らせてくれました。街頭でもどこでも一日中、音楽をみんなで楽しむそうです。いい祭りですね。

2013年5月27日

鳥たちの驚異的な感覚世界

著者  ティム・バークヘッド 、 出版  河出書房新社

わが家にはスズメが棲みついていますが、前に比べてかなり減ったような気がします。外食のとき、ランチのパンは持ち帰ってスズメのエサにしているのですが・・・。
春はなんといってもウグイスです。声がさわやかなので、聞きほれてしまいます。カササギは、すぐ近くの電柱に、3コも巣をつくっています。高い所にある巣が強風で吹き飛ばされないように、うまく小枝を組み合わせているのに、いつもながら驚嘆するばかりです。
 ウミガラスは人間によく似ている。なにより、この鳥は、非常に人間的だ。コロニーで隣りあう者同士が友情を結び、ときに子育てを手伝う。たまに浮気をすることがあるにせよ、ウミガラスは単婚で、つがいのオスとメスが一緒に子どもを育て、20年間も連れ添うことがある。うむむ、これはすごいことです。
 鳥の雄のさえずり習得と、さえずり方をコントロールする脳の部位は、繁殖期が終わると縮み、翌春に再び大きくなる。
 コウモリは、眼をふさがれても空を飛んでいける。ところが、両耳をロウでふさいでしまうと障害物にことごとくぶつかってしまう。
 キンカチョウは飼い主の娘の足音を識別することができる。
鳥には磁気感覚があるため、地球磁場からコンパス方位を読みとることができる。そして、鳥は磁気図をもっているので、自分の位置を認識することができる。このように、鳥は地球磁場を利用している。鳥は、全身にある個々の細胞内部での化学反応に介して磁場を感知している。
 オオツチスドリは、遊ぶのもねぐらにつくのも砂遊びするのも仲間と一緒にやる。休憩するときも、横枝に一列に並んで羽繕いしあう。
 シロカツオドリのメスが、ある日、小さなひなの世話をつかいオスにまかせて姿を消した。オスはひなの世話をずっと続けた。5週間たって、メスが戻ってきた。再会できたオスとメスは、熱烈な挨拶を延々17分間も続けた。このように鳥は感情をもっている。
 アメリカチョウゲンボウは、18メートル離れていても、体長2ミリの虫を見逃さない。
 カモは捕食者を警戒して、片眼を明けたまま眠ることができる。
鳥って、すごい能力をもっているのですね。先日、ユーチューブで踊っているオウム(キバタン)を見ましたが、セキセイインコもテーブルの上で踊れるのですね。そして、上手にしゃべれるのを知って、今さらながら驚きました。日曜夜の『ダーウインが来た』は私が唯一みる(ビデオで)テレビ番組です。毎回、驚きの映像です。
(2013年3月刊。2200円+税)

2013年5月13日

犬のココロをよむ

著者  菊水 健史・永澤 美保 、 出版  岩波書店

犬派の私は、犬について論じている本を見逃すわけにはいきません。
 犬は5万年前から1万5000年前には人間と共に生活を営みはじめた。そして、400種をこえる犬種がつくり出された。といっても、この400種は、わずか数百年のあいだに作成されたモノ。地球上の生物の中で、犬ほど多様性に富んだ動物はいない。なぜ、犬がこれほどまでに短期間のうちに遺伝的多様性を獲得できたのかは未解決なのである。
犬は発達時期に人間の社会と接触することによって、成長したあと人に対する恐怖反応が減少し、同時に訓練能力が向上する。8週齢までに人の家庭的な環境で飼育されなかった犬は、成長後に人を回避する行動をしたり、見知らぬ人への攻撃性が高くなったりする。
 6週齢より前に子犬を親や兄弟犬から離れてしまうと、その後、その子犬はほかの動物やまわりの人との関係を良好に保つ、いわゆる社会化が阻害され、さらに体重が減少したり死亡率が高くなったりする。
 犬は、そもそも生活の場にはトイレをしない。必ず、自分の安心した住みかから離れた場所に排泄する習慣性をもっている。
 子犬にとってもっとも大切なことは、飼い主との関係をうまくつくること、成長して社会性を身につける時期にできるだけ多くの経験を積むこと、あとは行動を制御することを覚えること。
 犬の世界は、人の世界とは異なる。たとえば、犬の視神経には、赤色光に反応する細胞がない。犬の嗅覚は人の1000倍、感知能力は100倍から1万倍もある。
 犬が人間の匂い嗅ぎをするとき、親しみのある相手だと、太ももから足の付け根にかけて匂いを嗅ぐ。見知らぬ相手だと、手から腕、さらには胸部にかけて匂いを嗅ぐ。
 犬は、個々の人間を見分けることができる。そして、少なくとも3年間は記憶が残っている。
 犬は東アジアに起源をもち、世界に広がっていった。もっともオオカミに似た遺伝子をもつ犬種として、柴犬、チャウチャウ、秋田犬があげられる。うひゃあ、柴犬がオオカミに似ているだなんて、信じられません。
 日本古来の犬は、オオカミと犬をつなぐ素質をもつ、非常に貴重な犬である。
生物学的には犬とオオカミは同じ動物種である。
 オオカミは、生後3年の性成熟過程を過ぎると、遊びの行動をしない。しかし、犬はいくつになっても遊びに飽きることがない。犬は年老いてきても見知らぬものへの興味や探索心をもち、学習能力や友好な態度がいつまでも高い。見知らぬ犬や人への寛容性などは犬の特徴だ。
 犬のことをさらに知ることのできる本です。130頁の薄い本なので、すぐに読み終えてしまいました。また、犬を飼ってみたいのですが、自由に旅行に出かけられなくなるのも困るので、あきらめています。
(2012年11月刊。1200円+税)

2013年5月 7日

つながりの進化生物学

著者  岡ノ谷 一夫 、 出版  朝日出版社

ユーチューブで、ギバタンというオウムが音楽にあわせて足と頭でリズムをとって踊る様子を見ました。まさに圧巻でした。なんかの間違いではないのかと目を疑いました。音楽にあわせて本当に踊っているのです。これって、CGかしらんと疑ってしまいましたが、あくまで実写フィルムです。ぜひ、見てください。オウム、スノーボールと入力して検索すれば見ることができます。
人間が環境を認知するときに使われる五感の割合は、視覚83%、聴覚11%、嗅覚3.5%、触覚1.5%、味覚1%。聴覚は危険の検出のために生まれた感覚である。人間の安心感には超音波の存在が大事。人間の赤ちゃんは触覚を中心に世界を認識している。
 ジュウシマツのオスは、メスに一生けん命に歌いかけてアピールし、ご機嫌をうかがう。ジュウシマツは、ペットとして飼われているうちに、より効果的にメスにアピールするため歌えるように進化していった。
大人のジュウシマツは、みんなに聞こえるように踊りながら歌う。子どものジュウシマツは、あまり人に聞かれないように、小さな声で自信なさそうに歌う。息子のジュウシマツは、父親が歌いだすと、近くに寄ってきて、一生けん命に歌をきく。このように、ジュウシマツが歌うには、学習が必要である。
子どものジュウシマツは、お父さんの歌だけじゃなくて、まわりのオスのいろんな歌の一部を切りとって、それを組みあわせて新しい歌をつくり出している。
世界には6000の言語があるが、人間の使う言葉は基本的に1種類で、あとは全部が方言だと考えていい。
 人類が12万年前にアフリカから出たころ言葉は生まれた。文字が出来たのは、1万年前のこと。10万年前に言葉ができたとすると、1世代20年として5000世代。そして文字が出来たのが1万年前だとすると、まだ500世代しかたっていない。
言語は、発音という外にあらわれる部分だけでなく、心の中での概念の組み立てをつかさどる。この部分がないと、人間の言語のような構造は誕生しない。人間の言葉には文法がある。
スズメは、「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」としゃべることができる。発声学習する鳥は、ハチドリ目、スズメ目、オウム目の3つに属する鳥たち。
ええっ、スズメが話せるなんて・・・。
歌をうたっていた人間の祖先は、だんだん言葉をもつようになっていった。
いろんな生き物と対比させながら人間を考えてみると、人間とはどんな存在なのかがよく分かってきます。
(2013年3月刊。1500円+税)

2013年4月22日

犬とぼくの微妙な関係

著者  日高 敏隆 、 出版  青土社

適応度増大のためにとるべき戦略は、オスとメスとではまったく逆である。メスはオスに迫られても、すぐには応じない場合がほとんどである。知らん顔をしてみたり、逃げたり、明からさまに拒んだりする。複数のオスに近づかれると、メスはその中からどれかを選ぶ。
 メスは対称的な体をもつオスを選ぶ。対称的なオスを美しいと思うからではない。身体がより対称的な個体は、極端に非対称になっている個体より遺伝的にしっかりしたところがあることになる。そこでメスは、体つきの対称性を手がかりにして、そのようにしっかりしたオスを選ぶのだろう。
母親にとってかわいいのは子どもではなく、子どもがもっている自分の遺伝子なのだ。つまり、母親があらゆる苦労を身の危険もいとわずに子育てに努力を傾けるのは、子どものことを思ってではなく、あくまで自分の適応度増大というまったく母親の利己的な動機によるものなのだ。
 ワシ・タカ類は、卵を二つうみ、ヒナがかえる。そして、第一のヒナが無事に大きくなると、第一のヒナは二番目のヒナを殺してしまう。そして、親はそれを見て見ぬふりをする。
 これは、第一子が無事に育たないときの「保険」として第二卵をうんでおくことによる。第一子が第二子を殺せるくらい頑丈に育ったら、保険はもう要らない。そこで、第一子の食物を確保するために、第二子は第一子に殺させる。うむむ、自然の摂理はよく出来ていますね。
 性があることによって、動物は、単に遺伝子を混ぜあわせて多様性をつくりだせるだけでなく、偶然に生じてくる突然変異を急速に集積して有利な特徴をもつ個体を次々に生じることができる。これは性の存在のもたらす大きな利益である。
 ツバメは、渡るときには夫婦別々に飛んでくるようで、たいていオスが先に帰ってくる。そして、前の年に巣をかけた場所を覚えていて、結局は夫婦とも同じ地域に戻る。前年と同じペアで巣づくりを始める。しかし、旅先や旅の途中で不幸にあうものもいるので、半分ほど。
 ツバメが人家を好むのは、巣やひなに悪さをするスズメが来ないから。人の出入りが多い家や店ほどツバメがよく巣をかけるのは、そのため。店が繁盛しているからツバメが来る。
 コウモリは、鳥はなく、モグラとかハムスターに近い哺乳類だ。巣ではなく、赤ちゃんを産み、乳を飲ませて育てる。そして、コウモリは鳥よりも上手に空を飛ぶ。
猫も実は、人間に深く依存している。絶えず人間の動きを気にしている。その状況が猫にとって実に幸せなのである。猫はまず視覚によって世界を認知する。嗅覚はその次である。猫は視覚もすぐれている。
 たくさんの生き物について、語られている面白い本でした。さすがは動物学者です。
(2013年1月刊。1900円+税)

2013年4月15日

「野生動物」飼育読本

著者  横山雅司・なんばきび 、 出版  彩図社

猛獣をペットのように家庭で飼うことは不可能だということをよくよく分からせる本です。ですから、いわばパロディー本です。
 でも、現実に、アメリカでは大金持ちが自宅でトラを飼い、日本でも若い女性が自分のマンションでヘビを飼ったりしています。他人の迷惑を考えない人には困りますよね。
 日本人が飼っているイヌは1193万頭、飼いネコは960万匹。日本人の6人に1人がイヌかネコを飼っている。なぜか。人間が動物から癒しをもらっているからではないか。
自宅でチンパンジーを飼うのは許されない。自宅を霊長類研究所にしたら可能になる。ただし、施設の建設費は7億円、学者を雇う人件費は年に4000万円、チンパンジーの購入価格は最大8000万円、そして年間36万円の食費がかかる。すごいですね。
チンパンジーは賢いし、実は性質が非常に凶暴で、サルの肉が大好物。チンパンジーが興奮して暴れはじめたら死を覚悟するしかない。ええーっ、本当ですか・・・。
 コアラを飼うとしたら、新鮮なユーカリの葉を確保するのが大変。東京の多摩動物園では、コアラ3頭のエサ代として年に6300万円もかかっている。
ゾウは人工的な環境ではきわめて繁殖しにくい動物でほとんど増えていない。ゾウは知能と記憶力がすぐれ、人間の顔を覚えることができる。
 ペンギンのうち日本ではフンボルトペンギンは繁殖に成功し、数を増やしている。
米国全土に7000頭ものトラが飼われている。アメリカには、ペット用のトラを育てるブリーダーが存在する。
 わが家の庭にもモグラがいます。生きているモグラを見たことはありませんが、死んで干からびたモグラは見たことがあります。
 モグラは鳥獣保護法によって、一般人が勝手にとるのは違法である。ええーっ、そうなんですか・・・。
 モグラが農作物を食べて荒らすことはない。誤解がある。モグラは肉食性で、ミミズや昆虫を食べる。モグラは半日何も食べないと餓死してしまう。モグラは、1日で自分の体重と同じ量のエサを食べる。モグラはトンネル状の壁が身体に触れていないと不安になる性質がある。だから、パイプですみかをつくるときには、必ずトンネル状の構造にする必要がある。
 人間が野生の生き物を飼うのが難しいことが実によく分かる本です。
(2013年2月刊。912円+税)

2013年4月 8日

シロアリ

著者  松浦 健二 、 出版  岩波科学ライブラリー

シロアリがゴキブリだったなんて、おどろきです。シロアリとアリとは、全然ちがう昆虫らしいのです。ええーっ、と思わずのけぞってしまいました。
 アリとシロアリは分類上は、まったくちがった昆虫だ。アリはミツバチなどハチに近いのに対して、シロアリはゴキブリに近い。アリは翅をなくしたハチであり、シロアリは社会性を高度に発達させたゴキブリ。食べているのも、体の形も、成長の仕方だって、まったく違う。さらには、オスとメスの役割や遺伝子の伝わり方まで、社会の仕組みが大きく異なる。
 シロアリ目は7つの科に分けられ、知られているもので3000種いる。もっと研究がすすむと5000種になるだろう。地球上のシロアリを全部足しあわせると、なんと24京匹になる。アリは全部で1京匹なので、シロアリははるかに多い。
 シロアリの巣には、王と王女が存在する。ハチ目のワーカーはすべてメスで構成されている。シロアリのコロニーでは、ワーカーや兵アリも基本的にオスとメスの両方で構成されている。アリの社会は女性社会、シロアリの社会は男女共同参画社会である。
 シロアリは不完全変態の昆虫であり、孵化した幼虫はすでに立派なシロアリの形をしている。シロアリの社会は、カワイイ幼虫たちの社会である。王と女王を除けば、巣の構成員はワーカーも兵アリもみんな幼虫なのである、
 ヤマトシロアリのコロニーで最大のものは、一匹の王に対して、670匹の女王を保有していた。創設王はコロニーの終焉まで長生きする。女王のほうは比較的早期に二次女王に入れ替わる。
 創設女王は単為生殖で分身を産み、それから後継の女王にすることで、自分の死後も遺伝的には生前と同様に次世代に遺伝子を残す。しかし、女王の分身は二次女王のみで、ワーカーや羽アリは通常の有性生殖、つまり女王と王との交配によって産まれている。つまり、女王は単為生殖と有性生殖を適材適所で使い分けしており、その両方の利点をいかしている。
移動しないキノコシロアリ属の女王は、1日に2万から8万個もの卵を産む。移動するヤマトシロアリの女王は1匹で、産むのは1日あたり25個ほどでしかない。若い二次女王が分化したあと、高齢の創設女王は、その役目を終え、生きながらワーカーに食べられ、子どもたちの栄養となって消えていく。
 しかし、食べられていく女王に苦痛の色はない。その表情は死ぬべきときに死ねる喜びに満ちている。分身を残したあとは、むしろ速やかに死んで二次女王に産卵を委ねたほうが自分自身にとっても多くの遺伝子を残せることになる。この時点では、彼女にとって迷うことなく死こそが適応的であり、まさに至上の喜びなのだ。
 ええーっ、これって本当でしょうか・・・。単なる偽った感情移入にすぎないのではありませんか・・・。いや、それにしても、見事なものですね。
野外の巨大コロニーの王は、どんなに短くも30年以上は生きているだろう。
 これまた、すごい長命ですね。シロアリのことを少し知って、大いにトクした気分になりました。でも、住んでいる家に入ってこられては困る生き物ですよね。わが家もシロアリ予防策を講じています。
(2013年2月刊。1500円+税)

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