弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

生物

2013年3月 4日

スズメの謎

著者  三上 修 、 出版  誠文堂新光社

日本では町内にいるスズメが、ヨーロッパでは林にいる。ヨーロッパの町内にいるのはイエスズメ。ヨーロッパの人はイエスズメをスズメという。
 スズメの重さは25グラム。卵1個の重さは60グラムあるから、卵よりもっともっと軽い。
 鳥をじかに触ってみると、とても温かい。鳥の体温は40度くらい。
スズメは、人がいるところを利用して天敵に襲われないようにしている。人がいないところにはスズメはいない。これって不思議ですよね。人間をとても警戒しながら、人間と共生しているのですから・・・。
 巣立ったヒナは、一度巣立てば巣に帰ってくることはない。スズメ(母鳥)は、全部の卵を産み終えてから卵を温めはじめる。すると、ちょうど同じころにみんなが孵化する。そして、母鳥のお腹の羽は抜けて、皮膚で直接、卵を温める仕組みになっている。
 卵を温めて2週間すると、ヒナが卵からかえる。親鳥がヒナに与える餌は昆虫と植物。とくに昆虫を運んでくる。タンパク質をたくさん与えるため。
生まれたばかりのヒナは2グラムなのに、2週間で10倍の20グラムになる。植物の種子(タネ)をよく与える。巣立ったヒナは1週間ほど親鳥と行動をともにする。親鳥のあとをついてまわり、エサをもらったりして、エサのとり方や、何が危険なのかを教わる。
 ヒナが自分で行動できるようになると、親鳥は、次の巣づくり、子育てを始める。春の頃は、昆虫がたくさんいるから、子育ての季節。1年に2回から3回、子育てをする。春にたくさんの子スズメが生まれ、秋から冬にかけてスズメたちは減っていく。天敵に襲われたり、冬の寒さに負けて死んでいく。体が小さいだけに体が冷えやすく、寒さに対してより弱い。
 スズメのヒナの声は、シャリシャリシャリという声。こんど気をつけて聞いてみることにしましょう。
 スズメは減っているし、スズメの子も少なくなっている。30年前までは5羽の子スズメも珍しくなかったのに、今では子スズメは1羽から2羽になってしまった。スズメが減っているのは、スズメが巣をつくれる場所が減っていることにもよる。
 スズメが減ると、稲の害虫や雑草の種を食べてくれるスズメが減ることになり、農業に打撃を与える。そして、スズメを食べるチョウゲンボウやツミなどのタカの仲間のエサが減るため、町内からチョウゲンボウなどがいなくなる心配もある。
 たしかに、我が家のスズメたちも減ったことを実感しています。
 庭にせっせと硬くなったパンくずをまいているのですが・・・。
(2012年12月刊。1500円+税)
 左肩がしびれる感じがしたり、首がこったりしますので、娘にお灸をしてもらっています。リンパの流れがとどこおっていると指摘されました。毎日、人の悩みに真剣に向きあうなかで、ストレスが身体のなかにこもらないような工夫が必要です。
 ストレス発散になるのが、孫の写真です。いまはスマホで動画つきで長男が送ってくれます。赤ちゃんの動作って、本当に心が癒されますよね。そして、孫が私に似ていると言われたら、なおさらです。うれしい限りです。

2013年2月25日

アリの巣をめぐる冒険

著者  丸山 宗利 、 出版  東海大学出版会

アリに限らず、昆虫を調べている学者の語る物語です。
甲虫目は、あらゆる陸上の動物のなかで最大の種数を誇る分類群で、世界に37万もの種が知られている。その大部分は5ミリメートル以下の小型種。
 昆虫のなかでも、とりわけ甲虫が大きな繁栄をとげている理由の一つに小型化がある。甲虫のもっとも重要な、特徴は、前翅を甲羅のように硬くし、後翅と腹部をおおったこと。この特徴は、水分の奪われやすい乾燥した場所や病原菌に感染しやすい加湿な場所でも体の小型化を可能にした。硬くて小さな体は、石の下や朽ち木の隙間などの隠蔽的な場所を中心に、さまざまな環境への適応を可能にし、それが現在の甲虫の繁栄につながっている。
 甲虫学者にとって作図も大切だ。手先の技術という点で、解剖の次に重要なのは作図、絵描きだ。分類学では、写真技術の発達した今なお絵描きの方が有用な手段である。その一番の利点は、利用者にとって重要な部分のみを絵に示し、また強調できること。写真では形を理解することができないことがある。まさに図は命である。百聞は一見に如かずというように、長い文章による種の区別の説明よりも、わかりやすい図が一枚あるほうが、ずっと役に立つ。なーるほど、たしかに写真だと分かりにくいことがありますよね。
 ずっと顕微鏡をのぞいていて目を悪くし、果ては片目を失明してしまった昆虫学者もいた。学者って、本当に大変なんですよね。
 ヒメサスライアリは、アリを専門に食べるアリ。ほかのアリの巣を襲って、成虫や幼虫を狩って食べる。2~5ミリの小さなアリだが、毒針をつかって、自分よりはるかに大きなアリを仕留める。そして、ヒメサスライアリは軍隊アリの仲間でもある。
 グンタイアリは、膨大な数の働きアリから成り、兵アリの顎は湾曲し、女王は巨大である。
 グンタイアリの太い行列の先は団扇のように広がり、数メートル四方がアリで埋まる。絨毯攻撃はすごい。バッタやコオロギ、ゴキブリが飛び出す。捕らえられたバッタはすぐに脚をもがれ、バラバラになってアリに運ばれる。
ヒメサスライアリは、引っ越しを見つけてから、その終了を観察するまで丸々3日かかった。おそらく100万頭以上の規模だ。
昆虫の世界も底が深いこと、学者家業も楽ではないことがよく伝わってくる本でした。
(2012年9月刊。2000円+税)

2013年2月12日

ぼくは猟師になった

著者  千松 信也 、 出版  リトルモア

著者は京大文学部に在学中、狩猟免許を取得し、ワナ猟、網猟を学んで実践している現役の猟師です。
兵庫県では河童(カッパ)を河太郎と書き、ガタロと呼ぶそうです。小さいことから野山を駆けめぐって育ち、動物好きになって、自宅では蛇まで飼ったそうです。さすがに、そのときはおばあちゃんが叱りました。その叱り方がすごい。うちの守り蛇が出ていったらどうするの。もう我が家は終わりになるじゃないの・・・。
 実は、我が家にも守り蛇がいます。一度だけ怖さのあまり殺してしまいましたが、大いに反省しました。それ以来、決して蛇を見つけても殺しません。とは言うものの、遭遇したら怖いです。
 著者が大学3年生のとき、4年間の休学を申請したいというのもすごいですね。そして、アルバイトをして軍資金を貯めて、海外放浪の旅に出かけたのです。勇気がありますよね。私には、とても真似できません。韓国を皮切りに、東南アジアへ出かけて、最後に東ティモールに入ったそうです。
 そして、日本に戻ってきて、大学4年生のとき狩猟免許をとったのでした。ワナ猟です。猟銃で殺傷するのではありません。
シカがワナにかかっているのを見つけた。ナイフで頸動脈を切断し、後ろ脚を持ち上げて逆さにして血抜きする。まだ心臓が動いているので、すごい勢いで血が噴き出す。血がある程度出たら、その場で腹を割いて内臓を取り出す。膀胱と肛門周辺の処理は慎重にする。これをおろそかにすると、内容物や糞尿で肉に臭いがついてしまう。腹の中で両手を血まみれにしながら、なんとか内臓を全部取り出す。食べない内臓の部位は土の中に埋める。あとで、いろんな動物がやってきて掘り起こして食べ、きれいになくなる。動物たちのごちそうだ。
 大学の寮で、このシカ肉を解体して、たき火を囲んだシカ肉大宴会が明け方近くまで続いた。20キロを優に超すシカ一頭を丸々食べ尽くした。若者の食欲はすごい。
仕掛けるワナ猟のワナの臭いを消すのが大変。大鍋で、カシやクスノキなど、臭いのきつい樹皮と一緒に10時間以上も煮込んで臭いを消す。
 そして、ワナを仕掛ける前日は風呂場で石けんを使わず、身体を念入りに洗う。タバコもしばらく前から禁煙する猟師が多い。猟師のあいだでは、獲物がかかるのは、一雨降って、臭いが一通り流れたあとというのが定説だ。
イノシシの行動を特定するのに一番よいのは、ヌタ場を見つけること。ヌタ場というのは、イノシシがダニを落とし、体を冷やすために泥浴びをする沼のようなところをいう。
 ワナは、ひとつの山で5丁から10丁を30分か長くても1時間ほど見回れる範囲にしかける。それ以上広げると、毎日の見回りが不可能になる。何日も放っておくと、ワナにかかった獲物が傷ついたり、場合によっては死んでしまう。死んでしばらくたった動物の肉は、血が抜けず臭みが残ってしまったり、腐敗して食べられなくなる。
 見回るときは、トドメ刺し用のナイフ、刃渡り20センチ以上のナイフを持っていく。タヌキやキツネは、煮ても焼いても食えない、臭い。これに反して、アナグマは非常に美味。
 イノシシがワナにかかったのを見ると、まずは心臓をナイフで一突きする。イノシシが意識を取り戻して反撃してくる危険がある。山の動物は、たくさんのダニやイノシシがついているので、運ぶときに背負ったりはしない。
 内臓を処理するとき、胆のうは破らない。これを破ると、とてつもなく苦い汁、胆汁が出て、肉に苦みが付いてしまう。
狩猟は残酷だと人は言う。しかし、その動物に思いをはせず、お金だけ払って買って食べるのも、同じように残酷なことではないのか。
自分で命を奪った以上、なるべくムダなくおいしくその肉を食べるのが、その動物に対する礼儀であり、供養にもなる。だから、解体も手を抜かず、丁寧にやる。とれた肉をなるべく美味しく食べられるよう工夫する。
シカ肉は、全身が筋肉で、脂肪のないきれいな赤身の肉。焼き肉で食べると、やや淡白で味気ない感じ。
 若いイノシシの肉は、市販の豚肉のようにやわらかい。
 イノシシもシカも、オスのこう丸が食べられる。魚肉ソーセージのような感じ、なかなか美味しい。小さめに切ってフライにして食べると、カキフライのようだ。
シカの脳みそは、頭蓋頭を割って取り出し、ムニエルにして食べる。豆腐のような、チーズのような、白子のような感じ、なかなか美味しい。
 私も、一度だけ仔牛の脳みそをムニエルで食べたことがありますが、とても美味しくいただきました。
 猟師に関心のある人には強く一読をおすすめします。
(2008年9月刊。1600円+税)

2013年2月 2日

カラスの教科書

著者  松原 始 、 出版  雷島社

可愛い気のない鳥、ゴミをつつく邪魔ものの鳥、そんなカラスのすべてを知ることのできる本です。
 日本語の「からす」は、「から」プラス「す」で、「から」は鳴き声、「す」は鳥を示す古語。
ハシブトカラスは「カア、カア」と鳴き、ハシボソガラスは「ガー、ゴアー」と、しゃがれ小声で鳴く。ハシボソガラスが「カア」と鳴くことはない。
 地上に降りたとき、ピョンピョン跳びはねるが、「よいしょ、よいしょ」と大儀そうに歩くのはハシブトガラス。脚を伸ばしてスタスタ歩き、急ぐときは早足になるのがハシボソガラス。
 飛んでいるときに尾羽が長くて丸いのがハシブトガラスで、角尾に近いのがハシボソガラス。ハシブトガラスは青っぽく見える。ハシブトガラスは森林と都市部に分布している。ハシボソガラスは農耕地や河川敷など、開けて見通しのいい場所に住んでいる。ハシブトガラスほど鳴かないのは、遠く目で見通せる所に住んでいるからだろう。
両者の雑種ができることはない。これには私は大変おどろきました。そんなに両者は違いのある生きもの(鳥)なんですね・・・。
 カラスは一夫一妻の配偶システムをもち、縄張りをつくる。カラスの離婚率は低い。
 3月から4月にかけて産卵し、1ヵ月ほどでヒナは巣立つ。ところが、カラスが独りだちするのには2ヵ月から半年かかる。鳥としては異例ほど、親子で過ごす時間が長い。
 巣立ちするのは、2羽くらい。カラスが一世代に72個の卵を産むとしても、そのうち2個しか生きのびない。
飼育下のハシブトガラス集団には非常に明確な順位がある。オスが優位で,攻撃性の高い個体が強い。
 カラスの平均寿命は20年。カラスは何でも食べる。極端な雑食性だ。
 カラスはマヨネーズが大好き。フライドポテトとフライドチキンは大好物。
 カラスは、よく遊ぶ。公園の滑り台にしゃがみ込んで滑ったりもする。鉄道線路の置き石もカラスの仕業のことが多い。
 カラスは、しばしば人間の言葉をまねる。九官鳥やオウムほどではなくても、なかなか上手にしゃべる。
 「カラス避け」グッズは、あまり効果がない。はじめは用心するが、すぐに慣れてしまう。カラス相手に特効薬はない。
 カラスは視覚で餌を探す。カラスをふくめて鳥類は嗅覚がとても鈍い。カラスが人間に敵対的な態度をとるのは、ヒナを守るときだけ。まず、音声によって威嚇する。繰り返しの早い連続した鳴き方、カアカアカアカア!と一声ずつも大きい。しゃがれた声でガララララ・・・・と言い出したら、かなり怒っている。鳴いても効果がないときは、とまった枝をくちばしで叩きはじめる。それでも、ダメなら、威嚇をはじめる。そのときは、必ずうしろから、それも最初はちょっと間合いをとって飛ぶ。うしろから頭を狙って飛びかかる。
 カラスのことがよく分かる本でした。
(2013年1月刊。1600円+税)

2013年1月 7日

細菌が世界を支配する

著者  アン・マクズラック 、 出版  白揚社

細菌は地球上の元素をリサイクルして、ほかのすべての生き物の栄養補給を支えている。私たちに食べ物を与え、私たちの排泄物を浄化してくれる。気候の調節に役立ち、水を飲めるようにしてくれる。なかには、水蒸気の小さな水滴を集めて雲をつくる化合物を空気中に放出している細菌まである。
 細菌は単純でも、その単純さにだまされてはいけない。複雑とはいえないその構造が、実は地球の生態系で起こっている大切な生化学反応のすべてを進めている。
細菌は小さくても、膨大な数で地球を占領している。細菌は地表から6万メートルも離れた上空にも、深さ1万メートルの深海にも住んでいる。
細菌の総数は10の30乗にもなる。すべての細菌の細胞をあわせた質量は1×10の15乗キログラムに近く、これは地球上に暮らす人間65億人すべてをあわせた質量の2000倍以上にあたる。その細菌の圧倒的多数が土の中に住んでいる。
 細菌は生物学的な作用によって、人間が生きる条件をも整えてくれる。
 細菌には、大切な酵素、タンパク質、そして遺伝の仕組みを入れておくだけの大きさがあれば十分だ。進化を経て、余分なものはすべて切り捨ててきた。小さくて単純な構造のおかげで増殖にかかる時間が短いから、適応が早い。また、小さいから体積に対する表面積の割合が大きく、細菌の代謝は効率の良さの手本になる。
 細菌にどれだけの種があるかは、まだわかっていない。これまでにおよそ5000種の特性が明らかになっていて、そのほかの1万種も部分的に確認されている。
 どんな方法をつかっても、たとえ最強の消毒剤でも、皮膚からすべての細菌を取りのぞくことはできない。皮膚は無菌にはならない。ヒトに住みついた通常の細菌(常在細菌)は、健康で傷のない皮膚にはまったく問題を起こさない。
 ステーキや牛乳が食卓にのぼるのも、牛のルーメン(第一腸)のなかで、嫌気性細菌が草を消化したから。ルーメン発酵は、無酸素の状態で糖を微生物のエネルギーに変え、副産物として酸やアルコールを生みだす。アルコールを生みだす細菌を利用したワインづくりは、紀元前6000年にはメソポタミアで行われていた証拠が見つかっている。
多くの細菌は、水が不足してくると休眠状態に入り、周囲に水が戻ってきたとき、ふたたび増えることができる。
 EUとカナダは、食肉用動物に対して抗生物質の使用を禁止している。しかし、アメリカでは抗生物質の使用が続いている。第一次世界大戦の1000万人にのぼる死者の半数は感染症が死因だ。
緑色植物、海藻、シアノバクテリアは、太陽エネルギーを動物が利用できるエネルギーに変える、地球上の主要な経路になっている。始生代から原生代までのあいだにシアノバクテリアの光合成によって大気の成分が変わり、酸素のない状態から酸素を豊富にふくんだ状態になった。
 古代のシアノバクテリアの痕跡は葉緑体に姿を変え、植物細胞のなかで日光エネルギーを糖のかたちの化学エネルギーに変換する場所になった。
 シアノバクテリアの増殖はほかの細菌にくらべて非常に遅く、およそ一日に1回しか分裂しない。それでも十分に競争に耐えられるのは、丈夫なうえ、ほとんど栄養素なしでも生きられるからだ。シアノバクテリアには、エネルギー源の日光と炭素のもとになる二酸化炭素、そしてほんのわずかな塩分があれば十分だ。
私たちの口に入るステーキの窒素は、遠い海に住むシアノバクテリアが、別の大陸の土からやってきたものと考えても、決して大げさなことではない。
 身近な存在である細菌について、認識を改めさせてくれる本でした。
(2012年9月刊。2400円+税)

2012年12月17日

狼の群れと暮らした男

著者  ショーン・エリス 、 出版  築地書館

アメリカのロッキー山脈に入って2年間、狼と一緒に暮らした男性の手記です。信じられない話です。いったい、2年間、どうやって森の中で生活していたのでしょうか。
 狼がとってきた獲物の生肉を分けてもらっていただなんて、信じられませんよね。そんな過酷な体験をもとにオオカミの生態が詳細に紹介されています。
オオカミは臆病で、とても高度な社会組織をもった知能の高い動物である。血に飢えた動物という印象は正しくない。その昔、オオカミと人間は共生しており、互いに尊敬し、互いの生き方を学びあっていた。
野生のオオカミが雪の中を走るときには、先頭のオオカミはしばらくすると隊列の後尾につく。これは狩猟のとき、すべてのオオカミが十分なエネルギーを残して、すばやく先頭につけるようにするためだ。軍隊の雪中行軍も同じようにする。
オオカミは新入りが来たとき、信頼できるかどうかを見きわめる。どうやるのか・・・。咬まれたことに新入りがどう反応するかを見る。群れに加わろうとする新入りのオオカミは、自分の一番攻撃されやすい喉をすぐに差し出し、ケンカに来たのではないことを示す。受け入れ側のオオカミは本当に脅威がないと納得するまで、新入りの圧力を加える。それに抵抗したり、悲鳴を上げたりしたら、受け入れられることはない。
 著者も新入りテストを受けたとき、喉をオオカミに差し出し、歯がたをつけられていたといいます。ガブリとやられたら、そこで、一巻の終わりです。うひゃあ、す、すごーい・・・。
オオカミの世界では、いくつかの咬みあいがコミュニケーションの大切な要素である。
群れの下位のオオカミたちは、上位のオオカミの決定に疑問をさしはさまない。彼らは歩兵であり、考えることは彼らの仕事ではない。
オオカミのコミュニケーションでもっとも頻繁につかう体の部位はクビと喉だが、そこはまた一番手厚く守られた場所でもある。
 アルファ・オオカミは意思決定者であり、彼らはいないと群れにはリーダーがいなくなるから、彼らが一番重要なメンバーである。だから、彼らが生き残ることが何より優先される。食べ物が少ないときは、彼らがまず食べ彼らしか食べないこともある。ほかのメンバーは、子オオカミさえも、空腹になり必要なら餓死する。だから、群れの他のメンバーは、ベータ・オオカミの匂いのついたものに手をつける馬鹿なまねはしない。
 オオカミは殺戮の力をもっており、いつでもそれを使えることを示すが、どうしようもないときにしかそれを行使しない。彼らは、家族を守るためと、家族が冬を越せるだけの食糧を確保するためには徹底的に戦う。
オオカミにライバルの群れがいないと、生きることが楽すぎて、群れの中で互いに歯向かいはじめる。
前向きに考え続けることが命をつなぐのだ。どんな状況にいようと、どんなに絶望的に見えても、急いで選択肢を探さなければいけない。気持ちを強くもたねば、死あるのみ。オオカミも同じで、決してあきらめない。決して自分をみじめだとは思わない。彼らは致命傷を負っても走り続ける。
 オオカミが再会を喜ぶ儀式は、顔や口のまわりを強烈に舐めまくる。
 オオカミの妊娠期間は63日。求愛期になると、オスたちのエネルギーは、とんでもなく高まる。
 アルファ(首領)のメスが狩猟係のオオカミに対し、ちょうどそのときの彼らの生活に必要な食糧となる餌を狙ってこいと命令するのであり、それが彼らの群れにおける社会的序列を維持するうえでも、大切な役割を果たしている。
 オオカミの位は食べ物で示される。捕まえた獲物のもっとも栄養分の多いところと内臓は常にアルファ・ペアのものである。それゆえ、アルファの匂いとその結果の権威は、それ以外のうま味の少ないものしか食べない、位の下位のオオカミとはまったく違う。
オオカミの必要としている栄養を提供できる健康な動物だと目をつけたら、一週間半かけても追いかける。
 アルファのペアが首領になり、子を産む。彼らは、群れという家族全体の福利のための意思決定をする。ほかにベータつまりエンフォーサー(用心棒)と、テスター(品質管理担当)がいる。
 オス・オオカミの役割は、ケンカを仲裁し、群れのなかの緊張を緩和すること。
 アルファは意思決定のオオカミ。アルファは頭脳であり、群れでもっとも知能の高いオオカミ。だから、一番価値の高い存在である。ベータは用心棒、ボディーガードであり、しつけ係であり、純粋な攻撃タイプである。考えることは役目でないので、考える必要はない。
 ハンターは、多くの場合、メスがなる。メスのほうが軽く、オスより足が速いから。
 ハンターは追跡と殺しはするが、何を殺すかを決めるのはアルファのメスの仕事である。オオカミの食べる食物は3種類に分けられる。基礎体力と健康維持のための食物、極寒の気象条件の中でも体を温めるような脂肪分の多い動物などの生命維持食物、群れの構造を維持するための社交的食物である。
 アルファのペアは、地位を守るために食事の大部分を内臓で賄わねばならない。
オオカミと一緒に暮らしていたとき、著者はオオカミの飼ってきた獲物の肉をナマで食べていたといいます。とても信じられませんが、テレビで放映したそうですので、ぜひみてみたいと思いました。BBC放送の「ウルフマンと暮らす」「オオカミの中の男」です。ユーチューブでもみられるのでしょうか・・・。
(2012年10月刊。2400円+税)

2012年11月26日

亀のひみつ

著者   田中 美穂 、 出版   WAVE出版 

 亀を飼うのも大変のようです。亀って、じっとしているものとばかり思っていましたが、意外にあちこち動きまわる生き物のようです。
 亀は意外なことに、歩くのも泳ぐのも速い、運動量の多い生き物である。
 亀は好奇心旺盛で、遊び好きの生き物だ。
 家に飼っている猫が大好きで、猫の気配を感じると全速力で猫に向かって駆けていく。
亀は意外にかしこくて、愛嬌もある生き物だ。しかし、デリカシーはないため、互いの空気を察しあって生きている猫たちには、あまり好かれていない。だから、容易に猫に気づかれないように、潜んでじっと待っている。猫も機嫌がいいと、しばらくは亀の相手をしてやる。
 亀は迂回はあまりせず、直進するのが基本。しかし、亀は不思議に方向感覚が冴えている。亀ははじめから頭を隠した状態でも動くことができる。
 亀は、薄暗くて狭くて暖かい場所が落ち着く。
 亀はソーラーパワーで動いているような生き物なので、なくてはならないのが太陽のあたる場所。亀にとって、エサと同じか、それ以上に大切なのが日光浴。亀は、この甲羅干しによって紫外線を吸収して必要な栄養分を活性化させている。
亀は、基本的に夜に眠る。水の中でも布団のなかでも眠れる。まぶたは、下から上に向かって閉じる。
亀のあくびは、平和でのんびりした光景の典型。
 亀には歯がなくて、鳥と同じくちばしがある。基本的に丸のみする。亀は雑食性なので、ミミズや小魚、リンゴなどを食べる。ミミズが一番人気。しかし、飼育下では、亀は食べすぎて太りすぎることがあるので要注意。
 多くの亀は、性決定のための性染色体をもたず、卵がかえるまでのある一定時期にさらされる温度によって性別が決まる。生みつけられた場所が日当たりのよいあたたかい場所ならメスが、木陰などの低めの場所ならオスが生まれてくる。
 うひゃあっ、そ、そんなことってあるんですか・・・。おどろきますよね。
 大人の亀なら1週間くらい、いやひと月くらいは何も食べないで生きられる。徹底的に代謝を低くすることで生きのびてきた生き物だからこその技。
 子亀は、1歳になるまで生きのびられる個体はわずか。とても弱くデリケートな生き物。
起きていたら水の中でおぼれることもあるのに、冬眠中は何ヶ月も一度も水面に顔を出さずにおぼれない。
 たくさんの種類の亀を写真で知ることもできる楽しい本です。
(2012年10月刊。1600円+税)

2012年11月19日

イノシシ母ちゃんにドキドキ

著者   菊屋 奈良義 、 出版   白水社 

 害獣と、みられがちなイノシシの生態をよくよく観察し、面白おかしくつづった生態観察報告です。野生のイノシシたちが見せてくれる生態写真とともにユーモアたっぷりに活写されています。
 イノシシの平均寿命は6年のようです。1歳になるかどうかのころに、早くも母になって出産します。知りませんでした。
 それにしても、ウリ防、ウリンコたちの可愛らしいことったら、ありゃしません。ウリンコたちは、それぞれの乳首を誰が吸うのか決まっている。
母ちゃんがウリンコのおしりをひょいと鼻でつつくと、そのウリンコはコロリと横になります。母ちゃんはウリンコの全身をなめつくすのです。それも、ウリンコ全員を平等になめてやります。
 そして、ウリンコたちがウリンコの模様の消えたころ、今度は母ちゃんを全員でなめまわします。それは、お別れの儀式でもあるのです。次の日、母ちゃんは子どもたちを激しく追い出し行動を始めるのでした。
 イノシシは前向きだけでなく、上手にあと下がりする。猪突猛進は後退もできるのです。
 イノシシはやさしい野生動物であり、人を怖がっていて、賢い子育てをする母である。
イノシシは草や根っこを食べる。個体によっていろいろ好みが異なる。
8ヵ月ほどの養育期間で母親から1人前と決めつけられると、母親のもとから追い出される。
 イノシシはピーマンは食べず、大根もあまり食べない。イノシシの声は聞き分けられる。
 ブフォン・・・じゃまだ
 ブフフォン・・・来るな
 ブフンフォン・・・警戒しろよ
 ブブブフォンンン・・・帰るぞ
 ウフォン・・・そろそろ出てこい
 ギャフフン・・・わかった
 ギャアッ・・・痛ぇ
 ブブ・・・おいで、おいで。こっちじゃよ
 グァフフン・・・逃げろ
 イノシシの母ちゃん軍団には、父ちゃんイノシシがいない。オスは子育てにはまったく関与しないのです。
 イノシシは「攻撃するぞ!」という勢いを見せる。猪突猛進。さも怖い動物であるかのように見せて、実は自分が怖くて逃げ出す機会をつくっている。相手が一瞬ひるんだすきに、パッと身を翻して走り去る。
 身近なイノシシの生態を長いあいだじっくり観察していると、いろんな発見があるものなんですね
(2012年10月刊。1800円+税)

2012年11月12日

セミたちの夏

著者   向井 学 、 出版   小学館 

 夏にあれほどうるさく鳴いていたセミも、今は昔。大人のセミたちは死に、子どもたちははるか地中に潜んでいます。では、地中のセミはどんなにしているのでしょうか・・・。この本は、私の長年の疑問を写真で明らかにしてくれました。
 セミの生態写真集です。あのうるさいセミの鳴き声は、みんなオスのセミが、「ぼくはここにいるよー」、そして、「寄っといでよ。おヨメさん募集中なんだよ」と誇示しているのです。
セミは、はりのような尖った口をかたい幹に突き刺して木の汁を吸っている。
 そして、木の汁を吸おうと、おしっこを出す。それも、5分に1回も・・・。
セミは、油断していると、カマキリや鳥に食べられてしまう。
 セミがうまく交尾できるチャンスはあまり多くはない。セミの成虫が地上で生きているのは、わずか2週間だけ。
 メスは、8月のお盆が過ぎたころ、卵を木の幹の表面に産みつける。2ミリほどの細長い小さな卵を300個ほど・・・。雨がたくさん降る梅雨のころ、木の枝の中の卵から、小さなセミの幼虫が顔を出す。そして、地面にぼとぼと落ちていく。ところが、地面にはアリたちが待ちかまえている。ほとんどの幼虫が地中に潜り込む前に食べられてしまう。
幸い土中に潜り込んだ幼虫は、木の根っこを目ざして掘りすすむ。そして、木の根にたどり着くと、木の根の汁を吸いはじめる。
 4齢幼虫にまで達すると、たくさん汁の出る根っこを探してトンネル掘りをする。5齢幼虫になると、からだが白からあめ色になる。
 6年目の夏、土中からはい出してきて、木にのぼる。そして、成虫へと羽化する。夜の8時から9時のあたり羽化のピーク、夜明けと同時に飛び立っていく。
 これが全部、写真で紹介されています。素晴らしい写真集でした。
(2012年7月刊。1300円+税)

2012年9月24日

ジュゴン

著者   池田 和子 、 出版    平凡社新書 

 見ていると、何かしら心がほのぼのと温まる、人魚のモデルになったジュゴンについての本です。
 ジュゴンは、イルカやクジラと同じ、海に棲み哺乳類。ところが、ジュゴンは、浅い海で草を食む唯一の草食性哺乳類だ。どおりで、牛に似たのんびりした雰囲気があるわけです。
 ジュゴンがいるのは、日本では沖縄周辺のみ。いま話題の辺野古(へのこ)海岸あたりを活動分野としている。
ジュゴンは、かつては食料として、また骨製品の素材として使われていた。
 イルカには体毛がないが、ジュゴンには全身に毛がある。ジュゴンの脳は、軽くて、のっぺりしている。ジュゴンの骨は組織が緻密で、堅く、重い。これは水中生活に適応したもので、海底に沈みやすくなっている。
 ジュゴンは、脱力すると、自然に体が沈み、海底に着地するようになっている。海底の海草を自然に食べられるように発達してきた。
 ジュゴンは、基本的に海藻は食べないし、消化できない。うひゃあ、これには驚きました。ジュゴンが食べられるのは海草であって、海藻ではない。ジュゴンは、食べたものを長い腸で長時間、微生物の働きを借りて消化し、陸上の植物と比較して栄養価の低い海草を最大限に利用している。
 何もなければジュゴンは50年以上も生きる。もっとも長寿のジュゴンは73歳だった。
現在、世界中のジュゴンは10万頭。東南アジアに100頭、インドに150頭いると推測されている。オーストラリアの7万7000頭が最多。
 ジュゴンについて簡単に知ることのできる貴重な新書です。
(2012年6月刊。840円+税)
 福岡で弁護士の不祥事が続いていますが、とても残念なことです。これらのケースは弁護士が大量に増えたことは関係ありません(少なくともほとんど関係ないと思います)。なぜなら、懲戒された弁護士は、弁護士生活30年、20年、10年といったベテラン弁護士だからです。個別にいろいろ理由はあるのでしょうが、そもそも弁護士に向いていなかったのではないかという感想をもつようになりました、
 弁護士は毎日毎日、他人のトラブルに首を突っ込んでいます。ほとんどのケースで、どちらかが一方的に悪くて、どちらかは一方的な被害者であり、善であるということはありません。そうでなくて、双方に大小の差はあっても言い分があります。そのなかで、社会的にも適正妥当な解決を見出していくよう努めます。そのとき肝心なのは、信頼者への説得です。弁護士の意見を押しつけるわけはいきませんが、依頼者に利害損失をよく理解してもらって、一緒に落としどころを探っていきます。このとき、人生観、価値判断がぶつかりあいます。そして、弁護士はそれに「勝ち抜く」ことが求められるのです。
 処分を受けた弁護士には、その点がとても弱かったような気がします。依頼者の「言いなり」になって、しかも、事件がまわらない、まわせない。これでは弁護士としてやっていけません。
 受けるべきではない事件は受任してはいけませんし、途中でそのことが分かったら、さっさと手を引く必要があります。
 弁護士が急激に増えている昨今は、文書作成能力はあるけれど、対人折衝が弱いという若手弁護士が増えている気がします。
 自分に向かない職業だと思ったら、さっさと転身を図る、また周囲がそれを勧めるのは相互の利益になるように思います。いかがでしょうか・・・。

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