弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

生物

2013年4月22日

犬とぼくの微妙な関係

著者  日高 敏隆 、 出版  青土社

適応度増大のためにとるべき戦略は、オスとメスとではまったく逆である。メスはオスに迫られても、すぐには応じない場合がほとんどである。知らん顔をしてみたり、逃げたり、明からさまに拒んだりする。複数のオスに近づかれると、メスはその中からどれかを選ぶ。
 メスは対称的な体をもつオスを選ぶ。対称的なオスを美しいと思うからではない。身体がより対称的な個体は、極端に非対称になっている個体より遺伝的にしっかりしたところがあることになる。そこでメスは、体つきの対称性を手がかりにして、そのようにしっかりしたオスを選ぶのだろう。
母親にとってかわいいのは子どもではなく、子どもがもっている自分の遺伝子なのだ。つまり、母親があらゆる苦労を身の危険もいとわずに子育てに努力を傾けるのは、子どものことを思ってではなく、あくまで自分の適応度増大というまったく母親の利己的な動機によるものなのだ。
 ワシ・タカ類は、卵を二つうみ、ヒナがかえる。そして、第一のヒナが無事に大きくなると、第一のヒナは二番目のヒナを殺してしまう。そして、親はそれを見て見ぬふりをする。
 これは、第一子が無事に育たないときの「保険」として第二卵をうんでおくことによる。第一子が第二子を殺せるくらい頑丈に育ったら、保険はもう要らない。そこで、第一子の食物を確保するために、第二子は第一子に殺させる。うむむ、自然の摂理はよく出来ていますね。
 性があることによって、動物は、単に遺伝子を混ぜあわせて多様性をつくりだせるだけでなく、偶然に生じてくる突然変異を急速に集積して有利な特徴をもつ個体を次々に生じることができる。これは性の存在のもたらす大きな利益である。
 ツバメは、渡るときには夫婦別々に飛んでくるようで、たいていオスが先に帰ってくる。そして、前の年に巣をかけた場所を覚えていて、結局は夫婦とも同じ地域に戻る。前年と同じペアで巣づくりを始める。しかし、旅先や旅の途中で不幸にあうものもいるので、半分ほど。
 ツバメが人家を好むのは、巣やひなに悪さをするスズメが来ないから。人の出入りが多い家や店ほどツバメがよく巣をかけるのは、そのため。店が繁盛しているからツバメが来る。
 コウモリは、鳥はなく、モグラとかハムスターに近い哺乳類だ。巣ではなく、赤ちゃんを産み、乳を飲ませて育てる。そして、コウモリは鳥よりも上手に空を飛ぶ。
猫も実は、人間に深く依存している。絶えず人間の動きを気にしている。その状況が猫にとって実に幸せなのである。猫はまず視覚によって世界を認知する。嗅覚はその次である。猫は視覚もすぐれている。
 たくさんの生き物について、語られている面白い本でした。さすがは動物学者です。
(2013年1月刊。1900円+税)

2013年4月15日

「野生動物」飼育読本

著者  横山雅司・なんばきび 、 出版  彩図社

猛獣をペットのように家庭で飼うことは不可能だということをよくよく分からせる本です。ですから、いわばパロディー本です。
 でも、現実に、アメリカでは大金持ちが自宅でトラを飼い、日本でも若い女性が自分のマンションでヘビを飼ったりしています。他人の迷惑を考えない人には困りますよね。
 日本人が飼っているイヌは1193万頭、飼いネコは960万匹。日本人の6人に1人がイヌかネコを飼っている。なぜか。人間が動物から癒しをもらっているからではないか。
自宅でチンパンジーを飼うのは許されない。自宅を霊長類研究所にしたら可能になる。ただし、施設の建設費は7億円、学者を雇う人件費は年に4000万円、チンパンジーの購入価格は最大8000万円、そして年間36万円の食費がかかる。すごいですね。
チンパンジーは賢いし、実は性質が非常に凶暴で、サルの肉が大好物。チンパンジーが興奮して暴れはじめたら死を覚悟するしかない。ええーっ、本当ですか・・・。
 コアラを飼うとしたら、新鮮なユーカリの葉を確保するのが大変。東京の多摩動物園では、コアラ3頭のエサ代として年に6300万円もかかっている。
ゾウは人工的な環境ではきわめて繁殖しにくい動物でほとんど増えていない。ゾウは知能と記憶力がすぐれ、人間の顔を覚えることができる。
 ペンギンのうち日本ではフンボルトペンギンは繁殖に成功し、数を増やしている。
米国全土に7000頭ものトラが飼われている。アメリカには、ペット用のトラを育てるブリーダーが存在する。
 わが家の庭にもモグラがいます。生きているモグラを見たことはありませんが、死んで干からびたモグラは見たことがあります。
 モグラは鳥獣保護法によって、一般人が勝手にとるのは違法である。ええーっ、そうなんですか・・・。
 モグラが農作物を食べて荒らすことはない。誤解がある。モグラは肉食性で、ミミズや昆虫を食べる。モグラは半日何も食べないと餓死してしまう。モグラは、1日で自分の体重と同じ量のエサを食べる。モグラはトンネル状の壁が身体に触れていないと不安になる性質がある。だから、パイプですみかをつくるときには、必ずトンネル状の構造にする必要がある。
 人間が野生の生き物を飼うのが難しいことが実によく分かる本です。
(2013年2月刊。912円+税)

2013年4月 8日

シロアリ

著者  松浦 健二 、 出版  岩波科学ライブラリー

シロアリがゴキブリだったなんて、おどろきです。シロアリとアリとは、全然ちがう昆虫らしいのです。ええーっ、と思わずのけぞってしまいました。
 アリとシロアリは分類上は、まったくちがった昆虫だ。アリはミツバチなどハチに近いのに対して、シロアリはゴキブリに近い。アリは翅をなくしたハチであり、シロアリは社会性を高度に発達させたゴキブリ。食べているのも、体の形も、成長の仕方だって、まったく違う。さらには、オスとメスの役割や遺伝子の伝わり方まで、社会の仕組みが大きく異なる。
 シロアリ目は7つの科に分けられ、知られているもので3000種いる。もっと研究がすすむと5000種になるだろう。地球上のシロアリを全部足しあわせると、なんと24京匹になる。アリは全部で1京匹なので、シロアリははるかに多い。
 シロアリの巣には、王と王女が存在する。ハチ目のワーカーはすべてメスで構成されている。シロアリのコロニーでは、ワーカーや兵アリも基本的にオスとメスの両方で構成されている。アリの社会は女性社会、シロアリの社会は男女共同参画社会である。
 シロアリは不完全変態の昆虫であり、孵化した幼虫はすでに立派なシロアリの形をしている。シロアリの社会は、カワイイ幼虫たちの社会である。王と女王を除けば、巣の構成員はワーカーも兵アリもみんな幼虫なのである、
 ヤマトシロアリのコロニーで最大のものは、一匹の王に対して、670匹の女王を保有していた。創設王はコロニーの終焉まで長生きする。女王のほうは比較的早期に二次女王に入れ替わる。
 創設女王は単為生殖で分身を産み、それから後継の女王にすることで、自分の死後も遺伝的には生前と同様に次世代に遺伝子を残す。しかし、女王の分身は二次女王のみで、ワーカーや羽アリは通常の有性生殖、つまり女王と王との交配によって産まれている。つまり、女王は単為生殖と有性生殖を適材適所で使い分けしており、その両方の利点をいかしている。
移動しないキノコシロアリ属の女王は、1日に2万から8万個もの卵を産む。移動するヤマトシロアリの女王は1匹で、産むのは1日あたり25個ほどでしかない。若い二次女王が分化したあと、高齢の創設女王は、その役目を終え、生きながらワーカーに食べられ、子どもたちの栄養となって消えていく。
 しかし、食べられていく女王に苦痛の色はない。その表情は死ぬべきときに死ねる喜びに満ちている。分身を残したあとは、むしろ速やかに死んで二次女王に産卵を委ねたほうが自分自身にとっても多くの遺伝子を残せることになる。この時点では、彼女にとって迷うことなく死こそが適応的であり、まさに至上の喜びなのだ。
 ええーっ、これって本当でしょうか・・・。単なる偽った感情移入にすぎないのではありませんか・・・。いや、それにしても、見事なものですね。
野外の巨大コロニーの王は、どんなに短くも30年以上は生きているだろう。
 これまた、すごい長命ですね。シロアリのことを少し知って、大いにトクした気分になりました。でも、住んでいる家に入ってこられては困る生き物ですよね。わが家もシロアリ予防策を講じています。
(2013年2月刊。1500円+税)

2013年4月 1日

サボり上手な動物たち

著者  佐藤 克文・森阪 匡通 、 出版  岩波科学ライブラリー

野生動物たちは、適当にサボっている。しかし、よくよく考えてみれば、このやり方こそ、厳しい自然環境で生き抜いていく動物たちの本気の姿なのである。
 イルカやクジラは、野生でもかなり遊んでいる。ザトウクジラを滑り台にして遊んでいたのが目撃されている。
 ペンギンは、潜水を開始する前に、深いところまで潜るか浅く潜るかを決め、それに応じて吸い込む空気量を調節している。ペンギンは浮力を利用して水面に浮上している。
 小笠原などの静かな海ではイルカは周波数が高く、複雑で音の大きさは小さい。それに対して、海のうるさい天草では鳴き音が低くて単調で、音量は大きい。水中では、同じ温度なら、1秒間に音は1500メートルも進む。つまり、水中は音が非常に速く、効率よく伝わる環境にある。だから、水中の動物の多くは、音を使ってコミュニケーションをとる。実は、海の中は、「音の世界」なのである。
 イルカの音を調べると、イルカの「見て」いるものが分かる。
 ペンギンやアザラシにカメラを装着して、野生での実際の生活を見ることができるようになりました。超小型・軽量カメラがそれを可能にしたのです。それによって、海中の動物の生態がどんどん分かりつつあるのです。
 この本は、それを写真とともに伝えてくれます。こんな科学・技術の発達を知るのは楽しいことです。
(2013年2月刊。1500円+税)

2013年3月25日

孤独なバッタが群れるとき

著者  前野 ウルド 浩太郎 、 出版  東海大学出版会

あれ、この著者は日本人なのかしらん。どこの人だろう・・・。
 なんと著者は生粋の日本人。それも、なまりのたっぷりある秋田県民です。では、ウルドとは何か。ウルドとは、アフリカはモーリタニアで最高敬意のミドルネーム。「~の子孫」という意味。モーリタニアに住みついてサバクトビバッタ研究に人生を捧げると宣言したところ、そこの研究所長から命名されたのでした。それほどサバクトビバッタ研究に明け暮れる著者の涙ぐましい奮戦記です。面白くないはずがありません。
 いやはや、学者って、こんなに大変なんだと、私は何回もため息をついたほどです。でも、それだけに目に見える成果を得たときの喜びは一入(ひとしお)のようです。
 バッタとイナゴの定義は混沌としていて、両者を明確に区別するのは難しい。
サバクトビバッタは、サハラ砂漠などに生息しているバッタ。成虫は2グラムほど。自分と同じ体重に近い量の新鮮な草を食べる。だから、1トンのバッタは1日に2500人分の食糧と同じ量だけ消費する計算になる。
飛翔能力が高く、1日に5~130キロほど移動する。通常は30ヶ国に分布しているが、大発生時にはサバクトビバッタによる被害は60ヶ国に及ぶ。それは地球上の陸地面積の20%になる。
 サバクトビバッタを殺すために殺虫剤をつかうと、すべての生命が沈黙してしまう。そして人間の健康まで脅かす。そこで、サバクトビバッタの生態を知って対策を立てる必要があるわけです。アフリカでの研究はあまりすすんでいないようで、日本人の学者が活躍する余地があるのでした。
 バッタの孤独相は、カメレオンのような能力をもっていて、生育環境の背景に似た体色を発色させることができる。
 バッタは、体内のホルモンを巧みに操ることでダイナミックな変身を遂げている。
 サバクトビバッタは敵に体をつかまれると、口から醤油のような茶色の液体を吐き出す。これは胃のなかにため込んでいた植物由来の毒だ。手についてもなんともないが、きわめて不快だ。服につくとシミになる。
 バッタが悪魔になるのは群生しているから。では、どうやって混みあいを認識するのか。視覚か臭いか、接触のどれか。結局、接触だということが判明した。メス成虫は、他個体と直接ぶつかりあうことで混み合いを認識していることが分かった。
 そして、触覚が接触刺激の感受部位であることが判明した。
 バッタの触覚を切除してその結果を対比させていくのです。そのときには、バッタの目をみえなくする必要がありました。バッタの複眼に修正液を塗り、その上をマニキュアで塗りつぶすのです。残酷といえば残酷な実験ではあります。でも、いたしかたありません。悪魔由来(その誕生秘話)を調べるために欠かせないものなんです。
 メス成虫は、大きな卵をうむのに混みあいと光の両方が必要である。
 まだ33歳の若手研究者です。こんな元気な日本人男性がいて、大いに安心しました。今もサハラ砂漠で研究中のようですが、健康に気をつけていただき、ますますのご健闘を期待します。
(2013年1月刊。2000円+税)

2013年3月18日

進化を飛躍させる新しい主役

著者  小原 嘉明 、 出版  岩波ジュニア新書

モンシロチョウについて新しい知見を得ることができました。読んで楽しい本です。なにしろ、モンシロチョウはヨーロッパで発生して、はるばる日本へやって来たというのです。そして、紫外線メガネでメスが白く見えるのは日本型で、ヨーロッパのチョウはそうではない。そして、モンシロチョウにも個性があることを発見したというのです。
 もちろん、それに至るまでには、涙ぐましい調査・研究があったのでした。学者の世界も厳しいのです。
モンシロチョウの寿命は夏だと2週間、晩秋には、4週間近くになる。モンシロチョウは、東京あたりでは1年に8回も発生する。
 モンシロチョウの雌は、はね(翅)が紫外線を反射している(紫外線色をふくんでいる)ため、白くみえる。オスは、容易にメスを見分けることができる。
 ところが、白ではなくピンク色にみえるメスがいることが分かった。なぜか・・・。
 メスが日向にいるか日陰にいるかで色は変化する。日陰にふりそそぐ光は、明らかに紫外線が相対的にリッチ(豊富)である。メスが紫外線を反射しているのは、日本や中国などの東アジアのモンシロチョウだけで、ヨーロッパをはじめユーラシア大陸のメスは日本のメスほど紫外線を反射していない。
 モンシロチョウを採取すると、冷蔵庫に入れて保管する。冷温麻酔である。それでも5~6回しかもたない。ヨーロッパからモンシロチョウを日本に持ち帰って実験したのです。本当に大変です。
 紫外線の反射が非常に弱いメスが沖縄にいる。また、ヨーロッパのメスにとって同じ強さで紫外線を反射するメスもいる・・・。
モンシロチョウは、ヨーロッパで進化し、その後、マレーシア大陸の東方に公布を広げ、中央アジア、東アジアを経て日本にたどり着いたのである。モンシロチョウの東アジアへの分布拡大を支えたのは、人間の交易を利用したヒッチハイクである。このように、モンシロチョウは日本在来種ではなく、海外から移り住んできたものである。
 ところで、ヨーロッパのモンシロチョウのオスは行きあたりばったりでメスを探し求めている。
 『モンシロチョウの結婚ゲーム』を前に読んで魅惑させられたことを今も鮮明に覚えています。本書は、さらに深く掘り下げています。
春の野にせわしなく飛びかうモンシロチョウの生態に魅せられます。
(2012年9月刊。920円+税)

2013年3月 4日

スズメの謎

著者  三上 修 、 出版  誠文堂新光社

日本では町内にいるスズメが、ヨーロッパでは林にいる。ヨーロッパの町内にいるのはイエスズメ。ヨーロッパの人はイエスズメをスズメという。
 スズメの重さは25グラム。卵1個の重さは60グラムあるから、卵よりもっともっと軽い。
 鳥をじかに触ってみると、とても温かい。鳥の体温は40度くらい。
スズメは、人がいるところを利用して天敵に襲われないようにしている。人がいないところにはスズメはいない。これって不思議ですよね。人間をとても警戒しながら、人間と共生しているのですから・・・。
 巣立ったヒナは、一度巣立てば巣に帰ってくることはない。スズメ(母鳥)は、全部の卵を産み終えてから卵を温めはじめる。すると、ちょうど同じころにみんなが孵化する。そして、母鳥のお腹の羽は抜けて、皮膚で直接、卵を温める仕組みになっている。
 卵を温めて2週間すると、ヒナが卵からかえる。親鳥がヒナに与える餌は昆虫と植物。とくに昆虫を運んでくる。タンパク質をたくさん与えるため。
生まれたばかりのヒナは2グラムなのに、2週間で10倍の20グラムになる。植物の種子(タネ)をよく与える。巣立ったヒナは1週間ほど親鳥と行動をともにする。親鳥のあとをついてまわり、エサをもらったりして、エサのとり方や、何が危険なのかを教わる。
 ヒナが自分で行動できるようになると、親鳥は、次の巣づくり、子育てを始める。春の頃は、昆虫がたくさんいるから、子育ての季節。1年に2回から3回、子育てをする。春にたくさんの子スズメが生まれ、秋から冬にかけてスズメたちは減っていく。天敵に襲われたり、冬の寒さに負けて死んでいく。体が小さいだけに体が冷えやすく、寒さに対してより弱い。
 スズメのヒナの声は、シャリシャリシャリという声。こんど気をつけて聞いてみることにしましょう。
 スズメは減っているし、スズメの子も少なくなっている。30年前までは5羽の子スズメも珍しくなかったのに、今では子スズメは1羽から2羽になってしまった。スズメが減っているのは、スズメが巣をつくれる場所が減っていることにもよる。
 スズメが減ると、稲の害虫や雑草の種を食べてくれるスズメが減ることになり、農業に打撃を与える。そして、スズメを食べるチョウゲンボウやツミなどのタカの仲間のエサが減るため、町内からチョウゲンボウなどがいなくなる心配もある。
 たしかに、我が家のスズメたちも減ったことを実感しています。
 庭にせっせと硬くなったパンくずをまいているのですが・・・。
(2012年12月刊。1500円+税)
 左肩がしびれる感じがしたり、首がこったりしますので、娘にお灸をしてもらっています。リンパの流れがとどこおっていると指摘されました。毎日、人の悩みに真剣に向きあうなかで、ストレスが身体のなかにこもらないような工夫が必要です。
 ストレス発散になるのが、孫の写真です。いまはスマホで動画つきで長男が送ってくれます。赤ちゃんの動作って、本当に心が癒されますよね。そして、孫が私に似ていると言われたら、なおさらです。うれしい限りです。

2013年2月25日

アリの巣をめぐる冒険

著者  丸山 宗利 、 出版  東海大学出版会

アリに限らず、昆虫を調べている学者の語る物語です。
甲虫目は、あらゆる陸上の動物のなかで最大の種数を誇る分類群で、世界に37万もの種が知られている。その大部分は5ミリメートル以下の小型種。
 昆虫のなかでも、とりわけ甲虫が大きな繁栄をとげている理由の一つに小型化がある。甲虫のもっとも重要な、特徴は、前翅を甲羅のように硬くし、後翅と腹部をおおったこと。この特徴は、水分の奪われやすい乾燥した場所や病原菌に感染しやすい加湿な場所でも体の小型化を可能にした。硬くて小さな体は、石の下や朽ち木の隙間などの隠蔽的な場所を中心に、さまざまな環境への適応を可能にし、それが現在の甲虫の繁栄につながっている。
 甲虫学者にとって作図も大切だ。手先の技術という点で、解剖の次に重要なのは作図、絵描きだ。分類学では、写真技術の発達した今なお絵描きの方が有用な手段である。その一番の利点は、利用者にとって重要な部分のみを絵に示し、また強調できること。写真では形を理解することができないことがある。まさに図は命である。百聞は一見に如かずというように、長い文章による種の区別の説明よりも、わかりやすい図が一枚あるほうが、ずっと役に立つ。なーるほど、たしかに写真だと分かりにくいことがありますよね。
 ずっと顕微鏡をのぞいていて目を悪くし、果ては片目を失明してしまった昆虫学者もいた。学者って、本当に大変なんですよね。
 ヒメサスライアリは、アリを専門に食べるアリ。ほかのアリの巣を襲って、成虫や幼虫を狩って食べる。2~5ミリの小さなアリだが、毒針をつかって、自分よりはるかに大きなアリを仕留める。そして、ヒメサスライアリは軍隊アリの仲間でもある。
 グンタイアリは、膨大な数の働きアリから成り、兵アリの顎は湾曲し、女王は巨大である。
 グンタイアリの太い行列の先は団扇のように広がり、数メートル四方がアリで埋まる。絨毯攻撃はすごい。バッタやコオロギ、ゴキブリが飛び出す。捕らえられたバッタはすぐに脚をもがれ、バラバラになってアリに運ばれる。
ヒメサスライアリは、引っ越しを見つけてから、その終了を観察するまで丸々3日かかった。おそらく100万頭以上の規模だ。
昆虫の世界も底が深いこと、学者家業も楽ではないことがよく伝わってくる本でした。
(2012年9月刊。2000円+税)

2013年2月12日

ぼくは猟師になった

著者  千松 信也 、 出版  リトルモア

著者は京大文学部に在学中、狩猟免許を取得し、ワナ猟、網猟を学んで実践している現役の猟師です。
兵庫県では河童(カッパ)を河太郎と書き、ガタロと呼ぶそうです。小さいことから野山を駆けめぐって育ち、動物好きになって、自宅では蛇まで飼ったそうです。さすがに、そのときはおばあちゃんが叱りました。その叱り方がすごい。うちの守り蛇が出ていったらどうするの。もう我が家は終わりになるじゃないの・・・。
 実は、我が家にも守り蛇がいます。一度だけ怖さのあまり殺してしまいましたが、大いに反省しました。それ以来、決して蛇を見つけても殺しません。とは言うものの、遭遇したら怖いです。
 著者が大学3年生のとき、4年間の休学を申請したいというのもすごいですね。そして、アルバイトをして軍資金を貯めて、海外放浪の旅に出かけたのです。勇気がありますよね。私には、とても真似できません。韓国を皮切りに、東南アジアへ出かけて、最後に東ティモールに入ったそうです。
 そして、日本に戻ってきて、大学4年生のとき狩猟免許をとったのでした。ワナ猟です。猟銃で殺傷するのではありません。
シカがワナにかかっているのを見つけた。ナイフで頸動脈を切断し、後ろ脚を持ち上げて逆さにして血抜きする。まだ心臓が動いているので、すごい勢いで血が噴き出す。血がある程度出たら、その場で腹を割いて内臓を取り出す。膀胱と肛門周辺の処理は慎重にする。これをおろそかにすると、内容物や糞尿で肉に臭いがついてしまう。腹の中で両手を血まみれにしながら、なんとか内臓を全部取り出す。食べない内臓の部位は土の中に埋める。あとで、いろんな動物がやってきて掘り起こして食べ、きれいになくなる。動物たちのごちそうだ。
 大学の寮で、このシカ肉を解体して、たき火を囲んだシカ肉大宴会が明け方近くまで続いた。20キロを優に超すシカ一頭を丸々食べ尽くした。若者の食欲はすごい。
仕掛けるワナ猟のワナの臭いを消すのが大変。大鍋で、カシやクスノキなど、臭いのきつい樹皮と一緒に10時間以上も煮込んで臭いを消す。
 そして、ワナを仕掛ける前日は風呂場で石けんを使わず、身体を念入りに洗う。タバコもしばらく前から禁煙する猟師が多い。猟師のあいだでは、獲物がかかるのは、一雨降って、臭いが一通り流れたあとというのが定説だ。
イノシシの行動を特定するのに一番よいのは、ヌタ場を見つけること。ヌタ場というのは、イノシシがダニを落とし、体を冷やすために泥浴びをする沼のようなところをいう。
 ワナは、ひとつの山で5丁から10丁を30分か長くても1時間ほど見回れる範囲にしかける。それ以上広げると、毎日の見回りが不可能になる。何日も放っておくと、ワナにかかった獲物が傷ついたり、場合によっては死んでしまう。死んでしばらくたった動物の肉は、血が抜けず臭みが残ってしまったり、腐敗して食べられなくなる。
 見回るときは、トドメ刺し用のナイフ、刃渡り20センチ以上のナイフを持っていく。タヌキやキツネは、煮ても焼いても食えない、臭い。これに反して、アナグマは非常に美味。
 イノシシがワナにかかったのを見ると、まずは心臓をナイフで一突きする。イノシシが意識を取り戻して反撃してくる危険がある。山の動物は、たくさんのダニやイノシシがついているので、運ぶときに背負ったりはしない。
 内臓を処理するとき、胆のうは破らない。これを破ると、とてつもなく苦い汁、胆汁が出て、肉に苦みが付いてしまう。
狩猟は残酷だと人は言う。しかし、その動物に思いをはせず、お金だけ払って買って食べるのも、同じように残酷なことではないのか。
自分で命を奪った以上、なるべくムダなくおいしくその肉を食べるのが、その動物に対する礼儀であり、供養にもなる。だから、解体も手を抜かず、丁寧にやる。とれた肉をなるべく美味しく食べられるよう工夫する。
シカ肉は、全身が筋肉で、脂肪のないきれいな赤身の肉。焼き肉で食べると、やや淡白で味気ない感じ。
 若いイノシシの肉は、市販の豚肉のようにやわらかい。
 イノシシもシカも、オスのこう丸が食べられる。魚肉ソーセージのような感じ、なかなか美味しい。小さめに切ってフライにして食べると、カキフライのようだ。
シカの脳みそは、頭蓋頭を割って取り出し、ムニエルにして食べる。豆腐のような、チーズのような、白子のような感じ、なかなか美味しい。
 私も、一度だけ仔牛の脳みそをムニエルで食べたことがありますが、とても美味しくいただきました。
 猟師に関心のある人には強く一読をおすすめします。
(2008年9月刊。1600円+税)

2013年2月 2日

カラスの教科書

著者  松原 始 、 出版  雷島社

可愛い気のない鳥、ゴミをつつく邪魔ものの鳥、そんなカラスのすべてを知ることのできる本です。
 日本語の「からす」は、「から」プラス「す」で、「から」は鳴き声、「す」は鳥を示す古語。
ハシブトカラスは「カア、カア」と鳴き、ハシボソガラスは「ガー、ゴアー」と、しゃがれ小声で鳴く。ハシボソガラスが「カア」と鳴くことはない。
 地上に降りたとき、ピョンピョン跳びはねるが、「よいしょ、よいしょ」と大儀そうに歩くのはハシブトガラス。脚を伸ばしてスタスタ歩き、急ぐときは早足になるのがハシボソガラス。
 飛んでいるときに尾羽が長くて丸いのがハシブトガラスで、角尾に近いのがハシボソガラス。ハシブトガラスは青っぽく見える。ハシブトガラスは森林と都市部に分布している。ハシボソガラスは農耕地や河川敷など、開けて見通しのいい場所に住んでいる。ハシブトガラスほど鳴かないのは、遠く目で見通せる所に住んでいるからだろう。
両者の雑種ができることはない。これには私は大変おどろきました。そんなに両者は違いのある生きもの(鳥)なんですね・・・。
 カラスは一夫一妻の配偶システムをもち、縄張りをつくる。カラスの離婚率は低い。
 3月から4月にかけて産卵し、1ヵ月ほどでヒナは巣立つ。ところが、カラスが独りだちするのには2ヵ月から半年かかる。鳥としては異例ほど、親子で過ごす時間が長い。
 巣立ちするのは、2羽くらい。カラスが一世代に72個の卵を産むとしても、そのうち2個しか生きのびない。
飼育下のハシブトガラス集団には非常に明確な順位がある。オスが優位で,攻撃性の高い個体が強い。
 カラスの平均寿命は20年。カラスは何でも食べる。極端な雑食性だ。
 カラスはマヨネーズが大好き。フライドポテトとフライドチキンは大好物。
 カラスは、よく遊ぶ。公園の滑り台にしゃがみ込んで滑ったりもする。鉄道線路の置き石もカラスの仕業のことが多い。
 カラスは、しばしば人間の言葉をまねる。九官鳥やオウムほどではなくても、なかなか上手にしゃべる。
 「カラス避け」グッズは、あまり効果がない。はじめは用心するが、すぐに慣れてしまう。カラス相手に特効薬はない。
 カラスは視覚で餌を探す。カラスをふくめて鳥類は嗅覚がとても鈍い。カラスが人間に敵対的な態度をとるのは、ヒナを守るときだけ。まず、音声によって威嚇する。繰り返しの早い連続した鳴き方、カアカアカアカア!と一声ずつも大きい。しゃがれた声でガララララ・・・・と言い出したら、かなり怒っている。鳴いても効果がないときは、とまった枝をくちばしで叩きはじめる。それでも、ダメなら、威嚇をはじめる。そのときは、必ずうしろから、それも最初はちょっと間合いをとって飛ぶ。うしろから頭を狙って飛びかかる。
 カラスのことがよく分かる本でした。
(2013年1月刊。1600円+税)

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