弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
生物
2013年1月 7日
細菌が世界を支配する
著者 アン・マクズラック 、 出版 白揚社
細菌は地球上の元素をリサイクルして、ほかのすべての生き物の栄養補給を支えている。私たちに食べ物を与え、私たちの排泄物を浄化してくれる。気候の調節に役立ち、水を飲めるようにしてくれる。なかには、水蒸気の小さな水滴を集めて雲をつくる化合物を空気中に放出している細菌まである。
細菌は単純でも、その単純さにだまされてはいけない。複雑とはいえないその構造が、実は地球の生態系で起こっている大切な生化学反応のすべてを進めている。
細菌は小さくても、膨大な数で地球を占領している。細菌は地表から6万メートルも離れた上空にも、深さ1万メートルの深海にも住んでいる。
細菌の総数は10の30乗にもなる。すべての細菌の細胞をあわせた質量は1×10の15乗キログラムに近く、これは地球上に暮らす人間65億人すべてをあわせた質量の2000倍以上にあたる。その細菌の圧倒的多数が土の中に住んでいる。
細菌は生物学的な作用によって、人間が生きる条件をも整えてくれる。
細菌には、大切な酵素、タンパク質、そして遺伝の仕組みを入れておくだけの大きさがあれば十分だ。進化を経て、余分なものはすべて切り捨ててきた。小さくて単純な構造のおかげで増殖にかかる時間が短いから、適応が早い。また、小さいから体積に対する表面積の割合が大きく、細菌の代謝は効率の良さの手本になる。
細菌にどれだけの種があるかは、まだわかっていない。これまでにおよそ5000種の特性が明らかになっていて、そのほかの1万種も部分的に確認されている。
どんな方法をつかっても、たとえ最強の消毒剤でも、皮膚からすべての細菌を取りのぞくことはできない。皮膚は無菌にはならない。ヒトに住みついた通常の細菌(常在細菌)は、健康で傷のない皮膚にはまったく問題を起こさない。
ステーキや牛乳が食卓にのぼるのも、牛のルーメン(第一腸)のなかで、嫌気性細菌が草を消化したから。ルーメン発酵は、無酸素の状態で糖を微生物のエネルギーに変え、副産物として酸やアルコールを生みだす。アルコールを生みだす細菌を利用したワインづくりは、紀元前6000年にはメソポタミアで行われていた証拠が見つかっている。
多くの細菌は、水が不足してくると休眠状態に入り、周囲に水が戻ってきたとき、ふたたび増えることができる。
EUとカナダは、食肉用動物に対して抗生物質の使用を禁止している。しかし、アメリカでは抗生物質の使用が続いている。第一次世界大戦の1000万人にのぼる死者の半数は感染症が死因だ。
緑色植物、海藻、シアノバクテリアは、太陽エネルギーを動物が利用できるエネルギーに変える、地球上の主要な経路になっている。始生代から原生代までのあいだにシアノバクテリアの光合成によって大気の成分が変わり、酸素のない状態から酸素を豊富にふくんだ状態になった。
古代のシアノバクテリアの痕跡は葉緑体に姿を変え、植物細胞のなかで日光エネルギーを糖のかたちの化学エネルギーに変換する場所になった。
シアノバクテリアの増殖はほかの細菌にくらべて非常に遅く、およそ一日に1回しか分裂しない。それでも十分に競争に耐えられるのは、丈夫なうえ、ほとんど栄養素なしでも生きられるからだ。シアノバクテリアには、エネルギー源の日光と炭素のもとになる二酸化炭素、そしてほんのわずかな塩分があれば十分だ。
私たちの口に入るステーキの窒素は、遠い海に住むシアノバクテリアが、別の大陸の土からやってきたものと考えても、決して大げさなことではない。
身近な存在である細菌について、認識を改めさせてくれる本でした。
(2012年9月刊。2400円+税)
2012年12月17日
狼の群れと暮らした男
著者 ショーン・エリス 、 出版 築地書館
アメリカのロッキー山脈に入って2年間、狼と一緒に暮らした男性の手記です。信じられない話です。いったい、2年間、どうやって森の中で生活していたのでしょうか。
狼がとってきた獲物の生肉を分けてもらっていただなんて、信じられませんよね。そんな過酷な体験をもとにオオカミの生態が詳細に紹介されています。
オオカミは臆病で、とても高度な社会組織をもった知能の高い動物である。血に飢えた動物という印象は正しくない。その昔、オオカミと人間は共生しており、互いに尊敬し、互いの生き方を学びあっていた。
野生のオオカミが雪の中を走るときには、先頭のオオカミはしばらくすると隊列の後尾につく。これは狩猟のとき、すべてのオオカミが十分なエネルギーを残して、すばやく先頭につけるようにするためだ。軍隊の雪中行軍も同じようにする。
オオカミは新入りが来たとき、信頼できるかどうかを見きわめる。どうやるのか・・・。咬まれたことに新入りがどう反応するかを見る。群れに加わろうとする新入りのオオカミは、自分の一番攻撃されやすい喉をすぐに差し出し、ケンカに来たのではないことを示す。受け入れ側のオオカミは本当に脅威がないと納得するまで、新入りの圧力を加える。それに抵抗したり、悲鳴を上げたりしたら、受け入れられることはない。
著者も新入りテストを受けたとき、喉をオオカミに差し出し、歯がたをつけられていたといいます。ガブリとやられたら、そこで、一巻の終わりです。うひゃあ、す、すごーい・・・。
オオカミの世界では、いくつかの咬みあいがコミュニケーションの大切な要素である。
群れの下位のオオカミたちは、上位のオオカミの決定に疑問をさしはさまない。彼らは歩兵であり、考えることは彼らの仕事ではない。
オオカミのコミュニケーションでもっとも頻繁につかう体の部位はクビと喉だが、そこはまた一番手厚く守られた場所でもある。
アルファ・オオカミは意思決定者であり、彼らはいないと群れにはリーダーがいなくなるから、彼らが一番重要なメンバーである。だから、彼らが生き残ることが何より優先される。食べ物が少ないときは、彼らがまず食べ彼らしか食べないこともある。ほかのメンバーは、子オオカミさえも、空腹になり必要なら餓死する。だから、群れの他のメンバーは、ベータ・オオカミの匂いのついたものに手をつける馬鹿なまねはしない。
オオカミは殺戮の力をもっており、いつでもそれを使えることを示すが、どうしようもないときにしかそれを行使しない。彼らは、家族を守るためと、家族が冬を越せるだけの食糧を確保するためには徹底的に戦う。
オオカミにライバルの群れがいないと、生きることが楽すぎて、群れの中で互いに歯向かいはじめる。
前向きに考え続けることが命をつなぐのだ。どんな状況にいようと、どんなに絶望的に見えても、急いで選択肢を探さなければいけない。気持ちを強くもたねば、死あるのみ。オオカミも同じで、決してあきらめない。決して自分をみじめだとは思わない。彼らは致命傷を負っても走り続ける。
オオカミが再会を喜ぶ儀式は、顔や口のまわりを強烈に舐めまくる。
オオカミの妊娠期間は63日。求愛期になると、オスたちのエネルギーは、とんでもなく高まる。
アルファ(首領)のメスが狩猟係のオオカミに対し、ちょうどそのときの彼らの生活に必要な食糧となる餌を狙ってこいと命令するのであり、それが彼らの群れにおける社会的序列を維持するうえでも、大切な役割を果たしている。
オオカミの位は食べ物で示される。捕まえた獲物のもっとも栄養分の多いところと内臓は常にアルファ・ペアのものである。それゆえ、アルファの匂いとその結果の権威は、それ以外のうま味の少ないものしか食べない、位の下位のオオカミとはまったく違う。
オオカミの必要としている栄養を提供できる健康な動物だと目をつけたら、一週間半かけても追いかける。
アルファのペアが首領になり、子を産む。彼らは、群れという家族全体の福利のための意思決定をする。ほかにベータつまりエンフォーサー(用心棒)と、テスター(品質管理担当)がいる。
オス・オオカミの役割は、ケンカを仲裁し、群れのなかの緊張を緩和すること。
アルファは意思決定のオオカミ。アルファは頭脳であり、群れでもっとも知能の高いオオカミ。だから、一番価値の高い存在である。ベータは用心棒、ボディーガードであり、しつけ係であり、純粋な攻撃タイプである。考えることは役目でないので、考える必要はない。
ハンターは、多くの場合、メスがなる。メスのほうが軽く、オスより足が速いから。
ハンターは追跡と殺しはするが、何を殺すかを決めるのはアルファのメスの仕事である。オオカミの食べる食物は3種類に分けられる。基礎体力と健康維持のための食物、極寒の気象条件の中でも体を温めるような脂肪分の多い動物などの生命維持食物、群れの構造を維持するための社交的食物である。
アルファのペアは、地位を守るために食事の大部分を内臓で賄わねばならない。
オオカミと一緒に暮らしていたとき、著者はオオカミの飼ってきた獲物の肉をナマで食べていたといいます。とても信じられませんが、テレビで放映したそうですので、ぜひみてみたいと思いました。BBC放送の「ウルフマンと暮らす」「オオカミの中の男」です。ユーチューブでもみられるのでしょうか・・・。
(2012年10月刊。2400円+税)
2012年11月26日
亀のひみつ
著者 田中 美穂 、 出版 WAVE出版
亀を飼うのも大変のようです。亀って、じっとしているものとばかり思っていましたが、意外にあちこち動きまわる生き物のようです。
亀は意外なことに、歩くのも泳ぐのも速い、運動量の多い生き物である。
亀は好奇心旺盛で、遊び好きの生き物だ。
家に飼っている猫が大好きで、猫の気配を感じると全速力で猫に向かって駆けていく。
亀は意外にかしこくて、愛嬌もある生き物だ。しかし、デリカシーはないため、互いの空気を察しあって生きている猫たちには、あまり好かれていない。だから、容易に猫に気づかれないように、潜んでじっと待っている。猫も機嫌がいいと、しばらくは亀の相手をしてやる。
亀は迂回はあまりせず、直進するのが基本。しかし、亀は不思議に方向感覚が冴えている。亀ははじめから頭を隠した状態でも動くことができる。
亀は、薄暗くて狭くて暖かい場所が落ち着く。
亀はソーラーパワーで動いているような生き物なので、なくてはならないのが太陽のあたる場所。亀にとって、エサと同じか、それ以上に大切なのが日光浴。亀は、この甲羅干しによって紫外線を吸収して必要な栄養分を活性化させている。
亀は、基本的に夜に眠る。水の中でも布団のなかでも眠れる。まぶたは、下から上に向かって閉じる。
亀のあくびは、平和でのんびりした光景の典型。
亀には歯がなくて、鳥と同じくちばしがある。基本的に丸のみする。亀は雑食性なので、ミミズや小魚、リンゴなどを食べる。ミミズが一番人気。しかし、飼育下では、亀は食べすぎて太りすぎることがあるので要注意。
多くの亀は、性決定のための性染色体をもたず、卵がかえるまでのある一定時期にさらされる温度によって性別が決まる。生みつけられた場所が日当たりのよいあたたかい場所ならメスが、木陰などの低めの場所ならオスが生まれてくる。
うひゃあっ、そ、そんなことってあるんですか・・・。おどろきますよね。
大人の亀なら1週間くらい、いやひと月くらいは何も食べないで生きられる。徹底的に代謝を低くすることで生きのびてきた生き物だからこその技。
子亀は、1歳になるまで生きのびられる個体はわずか。とても弱くデリケートな生き物。
起きていたら水の中でおぼれることもあるのに、冬眠中は何ヶ月も一度も水面に顔を出さずにおぼれない。
たくさんの種類の亀を写真で知ることもできる楽しい本です。
(2012年10月刊。1600円+税)
2012年11月19日
イノシシ母ちゃんにドキドキ
著者 菊屋 奈良義 、 出版 白水社
害獣と、みられがちなイノシシの生態をよくよく観察し、面白おかしくつづった生態観察報告です。野生のイノシシたちが見せてくれる生態写真とともにユーモアたっぷりに活写されています。
イノシシの平均寿命は6年のようです。1歳になるかどうかのころに、早くも母になって出産します。知りませんでした。
それにしても、ウリ防、ウリンコたちの可愛らしいことったら、ありゃしません。ウリンコたちは、それぞれの乳首を誰が吸うのか決まっている。
母ちゃんがウリンコのおしりをひょいと鼻でつつくと、そのウリンコはコロリと横になります。母ちゃんはウリンコの全身をなめつくすのです。それも、ウリンコ全員を平等になめてやります。
そして、ウリンコたちがウリンコの模様の消えたころ、今度は母ちゃんを全員でなめまわします。それは、お別れの儀式でもあるのです。次の日、母ちゃんは子どもたちを激しく追い出し行動を始めるのでした。
イノシシは前向きだけでなく、上手にあと下がりする。猪突猛進は後退もできるのです。
イノシシはやさしい野生動物であり、人を怖がっていて、賢い子育てをする母である。
イノシシは草や根っこを食べる。個体によっていろいろ好みが異なる。
8ヵ月ほどの養育期間で母親から1人前と決めつけられると、母親のもとから追い出される。
イノシシはピーマンは食べず、大根もあまり食べない。イノシシの声は聞き分けられる。
ブフォン・・・じゃまだ
ブフフォン・・・来るな
ブフンフォン・・・警戒しろよ
ブブブフォンンン・・・帰るぞ
ウフォン・・・そろそろ出てこい
ギャフフン・・・わかった
ギャアッ・・・痛ぇ
ブブ・・・おいで、おいで。こっちじゃよ
グァフフン・・・逃げろ
イノシシの母ちゃん軍団には、父ちゃんイノシシがいない。オスは子育てにはまったく関与しないのです。
イノシシは「攻撃するぞ!」という勢いを見せる。猪突猛進。さも怖い動物であるかのように見せて、実は自分が怖くて逃げ出す機会をつくっている。相手が一瞬ひるんだすきに、パッと身を翻して走り去る。
身近なイノシシの生態を長いあいだじっくり観察していると、いろんな発見があるものなんですね
(2012年10月刊。1800円+税)
2012年11月12日
セミたちの夏
著者 向井 学 、 出版 小学館
夏にあれほどうるさく鳴いていたセミも、今は昔。大人のセミたちは死に、子どもたちははるか地中に潜んでいます。では、地中のセミはどんなにしているのでしょうか・・・。この本は、私の長年の疑問を写真で明らかにしてくれました。
セミの生態写真集です。あのうるさいセミの鳴き声は、みんなオスのセミが、「ぼくはここにいるよー」、そして、「寄っといでよ。おヨメさん募集中なんだよ」と誇示しているのです。
セミは、はりのような尖った口をかたい幹に突き刺して木の汁を吸っている。
そして、木の汁を吸おうと、おしっこを出す。それも、5分に1回も・・・。
セミは、油断していると、カマキリや鳥に食べられてしまう。
セミがうまく交尾できるチャンスはあまり多くはない。セミの成虫が地上で生きているのは、わずか2週間だけ。
メスは、8月のお盆が過ぎたころ、卵を木の幹の表面に産みつける。2ミリほどの細長い小さな卵を300個ほど・・・。雨がたくさん降る梅雨のころ、木の枝の中の卵から、小さなセミの幼虫が顔を出す。そして、地面にぼとぼと落ちていく。ところが、地面にはアリたちが待ちかまえている。ほとんどの幼虫が地中に潜り込む前に食べられてしまう。
幸い土中に潜り込んだ幼虫は、木の根っこを目ざして掘りすすむ。そして、木の根にたどり着くと、木の根の汁を吸いはじめる。
4齢幼虫にまで達すると、たくさん汁の出る根っこを探してトンネル掘りをする。5齢幼虫になると、からだが白からあめ色になる。
6年目の夏、土中からはい出してきて、木にのぼる。そして、成虫へと羽化する。夜の8時から9時のあたり羽化のピーク、夜明けと同時に飛び立っていく。
これが全部、写真で紹介されています。素晴らしい写真集でした。
(2012年7月刊。1300円+税)
2012年9月24日
ジュゴン
著者 池田 和子 、 出版 平凡社新書
見ていると、何かしら心がほのぼのと温まる、人魚のモデルになったジュゴンについての本です。
ジュゴンは、イルカやクジラと同じ、海に棲み哺乳類。ところが、ジュゴンは、浅い海で草を食む唯一の草食性哺乳類だ。どおりで、牛に似たのんびりした雰囲気があるわけです。
ジュゴンがいるのは、日本では沖縄周辺のみ。いま話題の辺野古(へのこ)海岸あたりを活動分野としている。
ジュゴンは、かつては食料として、また骨製品の素材として使われていた。
イルカには体毛がないが、ジュゴンには全身に毛がある。ジュゴンの脳は、軽くて、のっぺりしている。ジュゴンの骨は組織が緻密で、堅く、重い。これは水中生活に適応したもので、海底に沈みやすくなっている。
ジュゴンは、脱力すると、自然に体が沈み、海底に着地するようになっている。海底の海草を自然に食べられるように発達してきた。
ジュゴンは、基本的に海藻は食べないし、消化できない。うひゃあ、これには驚きました。ジュゴンが食べられるのは海草であって、海藻ではない。ジュゴンは、食べたものを長い腸で長時間、微生物の働きを借りて消化し、陸上の植物と比較して栄養価の低い海草を最大限に利用している。
何もなければジュゴンは50年以上も生きる。もっとも長寿のジュゴンは73歳だった。
現在、世界中のジュゴンは10万頭。東南アジアに100頭、インドに150頭いると推測されている。オーストラリアの7万7000頭が最多。
ジュゴンについて簡単に知ることのできる貴重な新書です。
(2012年6月刊。840円+税)
福岡で弁護士の不祥事が続いていますが、とても残念なことです。これらのケースは弁護士が大量に増えたことは関係ありません(少なくともほとんど関係ないと思います)。なぜなら、懲戒された弁護士は、弁護士生活30年、20年、10年といったベテラン弁護士だからです。個別にいろいろ理由はあるのでしょうが、そもそも弁護士に向いていなかったのではないかという感想をもつようになりました、
弁護士は毎日毎日、他人のトラブルに首を突っ込んでいます。ほとんどのケースで、どちらかが一方的に悪くて、どちらかは一方的な被害者であり、善であるということはありません。そうでなくて、双方に大小の差はあっても言い分があります。そのなかで、社会的にも適正妥当な解決を見出していくよう努めます。そのとき肝心なのは、信頼者への説得です。弁護士の意見を押しつけるわけはいきませんが、依頼者に利害損失をよく理解してもらって、一緒に落としどころを探っていきます。このとき、人生観、価値判断がぶつかりあいます。そして、弁護士はそれに「勝ち抜く」ことが求められるのです。
処分を受けた弁護士には、その点がとても弱かったような気がします。依頼者の「言いなり」になって、しかも、事件がまわらない、まわせない。これでは弁護士としてやっていけません。
受けるべきではない事件は受任してはいけませんし、途中でそのことが分かったら、さっさと手を引く必要があります。
弁護士が急激に増えている昨今は、文書作成能力はあるけれど、対人折衝が弱いという若手弁護士が増えている気がします。
自分に向かない職業だと思ったら、さっさと転身を図る、また周囲がそれを勧めるのは相互の利益になるように思います。いかがでしょうか・・・。
2012年9月10日
植物はすごい
著者 田中 修 、 出版 中公新書
これは、とても面白い本でした。そうか、植物って、こんなにすごい力をもっているのか、人間も植物の力で生きているのが、よくよく分かりました。
野菜も果実も、みんなみんなすごい力をもっていることを知り、なんだか、ついついうれしくなってきました。本当に、世の中は知らないことだらけです。
キャベツの種は、1粒が5ミリグラム。4ヵ月後の1玉のキャベツは1200グラム。つまり、4ヵ月で24万倍にも成長する。これは、わずか1000円のお金が4ヵ月後に2億4000万円になったというのと同じこと。ふえーっ、このたとえには腰を抜かしそうになってしまいました。
植物は、水と二酸化炭素からブドウ糖をつくるが、そのとき光エネルギーを使う。そして、ブドウ糖のなかに光エネルギーを取り込み、蓄える。人間は、摂取したブドウ糖をからだの中で分解する。その途上で、ブドウ糖の中に蓄えられていたエネルギーが放出される。ブドウ糖から得たエネルギーは、人間が歩いたり走ったりするためのエネルギーに使われる。
ブドウ糖は、蓄えていたすべてのエネルギーが取り出されてしまうと、原料であったものと水と二酸化炭素にもどって、人間の身体から出ていく。
植物はエネルギーの源となるブドウ糖やデンプンを自分でつくっているから、何も食べなくても生きていける。
植物は、人間と違って、自分でアミノ酸をつくることができる。だから、植物は肉を食べる必要がない。人間は、タンパク質を食べて、それを消化してアミノ酸を取り出す。そのうえ、アミノ酸を並べ直して、自分に必要なタンパク質をつくっている。
植物は、肉を食べなくても、肉の成分であるアミノ酸をつくり出すことができる。植物がアミノ酸をつくるためには窒素が必要。そこで、根から養分として窒素を地中から取り込む。
植物は、このほか、成長のため、健康のため、必要な脂肪やビタミンもつくり出すことができる。だから、何も食べてなくても植物はすくすく成長することができる。
こう言われてみると、じっと動かない植物って、実はすごい能力をもっているんだと感動していますよね。まったく人間なんてかないませんね。足元にも及びませんよ。
植物は、すごい生産能力で、あらゆる植物の食糧をつくり出している。しかも、植物は動物に実を食べてもらうことによって、タネをまき散らしている。動物を利用しているわけだ。
うひゃあ、食べられることによって、うまく利用しているというわけなんですか・・・。
植物は、タネができあがると、強い子どもが育つように、子どもたちを遠い新天地に放り出す。動物に食べられることによって、広い範囲にまき散らしてもらうことは、植物にとって大切なこと。
渋柿の渋さのからくりも解明されています。渋さのもとはタンニン。タンニンが果肉や果汁に溶け込んでいると、渋柿になる。しかし、そのタンニンが不溶性の状態になると、タンニンが柿のなかにあっても口の中にタンニンが溶け出して来ないので、渋みを感じることはない。決してタンニンがなくなったのではなく、タンニンが不溶性になったため、隠されていた甘みが目立つようになっただけ。タンニンを不溶性にするには、カキの実の呼吸を止めればいい。そのため、渋柿を湯につける。湯に浸かると呼吸が出来なくなり、アセトアルデヒドができる。そうすると、渋みが抜ける。甘柿のなかにある胡麻のような黒い斑点はタンニンが不溶性になってできたもの。
辛みという味はなく、辛いというのは、舌が痛いと感じること。
アジサイの葉っぱには、青酸を含んだ物質をもっているので、人間に有毒。うへーっ、知りませんでした・・・。
コアラの食べるユーカリの葉には、青酸が含まれている。コアラは、ユーカリの葉っぱを食べても、青酸を無毒にするしくみを持っている。ところが、実はコアラ自身にこの毒を無毒化する力があるわけではない。コアラの腸のなかに青酸を無毒にする細菌を住まわせている。そして、生まれたばかりの赤ちゃんコアラの腸内には、この細菌がいない。さあ、どうするか・・・。
なんと、子どもコアラが生まれると、食い初めに、親コアラは子コアラに自分の糞を食べさせる。生まれたばかりのコアラは、食い初めで親に糞を食べるばかりでなく、親の肛門のあたりを激しくなめる。こうやって、自分の腸に青酸を無毒化する細菌を住まわせ、子どもコアラはユーカリを食べられるようになる。この仕組みによって、コアラは、大切な腸内細菌を親から子どもへ伝えている。な、なんと、すごい仕組みですよね、これって・・・。
スイセンは、ヒガンバナの仲間なので、同じくリコリンという有毒な物質を含んでいる。
ソテツは根に根粒菌を住まわせており、この菌はソテツから栄養をもらう代わりに空気中の窒素を吸収して窒素肥料に変えてソテツに供給する。そのおかげで、ソテツは痩せた土地でも生育できる。ソテツのタネにはサイカシンという有毒物質がふくまれている。
ジャガイモの根や緑色の部分には、ソラニンという有毒な物質が含まれているので、きちんと取り除かなければならない。煮ても焼いても、その毒性は消えない。
モロヘイヤの葉っぱは食べられるし、健康に良い。だけど花やタネにはストロフェチジンという有毒物質が含まれている。
植物は太陽光線を浴びている。有毒な紫外線を受けているのに、元気なのはなぜか?
紫外線は有毒な活性酸素を発生させる。活性酸素はからだの老化を促し、多くの病気の原因となる。そこで、植物はビタミンCやビタミンEなどの抗酸化物質をつくり出し、活性酸素の害を消すという仕組みを発達させた。
そして、花が美しくキレイに装う理由も紫外線対策の一つである。それは、アントシアニンとカロテン。花びら野色を出すもと(素)になる物質なので、色素と呼ばれる。アントシアニンとカロテンは、花びらを美しくキレイに装う二大色素だ。植物は、これらの色素で色を装い、花の中で生まれてくる子どもを守っている。つまり、二大色素は、紫外線の害に対する二大防御物質なのだ。
アントシアニンは、容易に色が変わる性質がある。酸性の液に反応して濃い赤紫色になり、アルカリ性が強くなるにつれて青色から緑色そして黄色へと変色していく。
カロテンは、赤や橙、黄色の色素で、あざやかさが特徴。カロチンはドイツ語よみ。
マリーゴールドの花には、多くのカロテンが含まれている。橙色のように赤みを帯びているのは、アントシアニンを含むため。
花々が花びらを美しくきれいに装うのは、紫外線に当たって生み出される有害な活性酸素を消去するため。植物の生き残り戦略の一つ。紫外線や強い花という有害なものが多ければ多いほど、植物は色あざやかに魅力的になる。逆境に抗して植物は美しくなる。
冬の寒さを通り越したダイコンやハクサイ、キャベツは甘い。糖分が増して甘みが増している。なぜか?
冬の寒さに凍らない工夫として、糖分を増やしている。水の中に糖が溶け込めば、溶け込むほど、その液の凍る温度は低くなる。食用部が地中にあるダイコンやニンジンでも、果実までも同じ仕組みで、冬の寒さをしのいでいる。冬の寒さにさらされると甘みが増える。
イチゴにもバナナにもタネがある。ええーっ、ウソでしょ・・・。イチゴの表面のツブツブの中にタネが入っている。そのタネからイチゴの実を大きく肥大させるオーキシンが出て、イチゴの実を大きくしている。だから、ツブツブを取り除いてしまうと、イチゴの実は大きくならない。バナナにもタネのあるものが沖縄などに残っている。タネのなごりは、中心部に小さな黒色の点々となっているもの。
植物の不思議を改めて実感しました。わが庭も、もう一度、見直してみようと思いました。
(2012年7月刊。840円+税)
2012年9月 3日
イルカの認知科学
著者 村山 司 、 出版 東京大学出版会
イルカは親子間の絆が深い。イルカは、一般に授乳期間は2年くらい。子イルカは、母イルカの上部にくっついている。母親のつくる水流に乗って前進できるので、楽になる。
イルカは、「音感の動物」とも言われるように、優れた聴覚能力を反映して音を使ったコミュニケーションを行っている。
バンドウイルカは個体固有のホイッスルを一度獲得したら、一生変わらない。発信者の特定や個体を識別するための信号の役割をしている。
イルカは、アイコンタクトが大切だ。イルカは、なんの報酬(エサ)も与えていないのに、嬉々として実験に応じる。かといって、どのイルカも、みんな喜んでずっと遊んでまわるというわけではない。
ヒトがタバコをふかすしぐさをまねすると、子イルカが口から空気の泡を吹き出す。ヒトが手を上げるとイルカは胸ビレを上げ、ヒトが身体を回転させるとイルカが自分もそれに合わせるようにまわる。このように、イルカはヒトの動作をまねしたりする。
シロイルカは、海のカナリアと呼ばれるように、ふだんから、さまざまな鳴音を発する。実に、にぎやかで、美しい声である。
海中にすむイルカの生態を研究するというのは、実に根気のいる仕事だと思いました。でも、そんな真面目な努力がこうやってまとまると、生物の能力のすごさを、私のような一般人が理解できるわけです。早いとこ、天草のイルカ・ウォッチングに行ってみたいものだと思ったことでした。
(2012年3月刊。3400円+税)
2012年7月30日
愛犬が教えてくれること
著者 ケヴィン・ビーアン、 出版 早川書房
犬について、改めてよくよく考えさせてくれる本でした。
犬の行動は、たとえどんなものであろうとも、常に飼い主の心に訴えかけているのだ。なぜなら、人は、自分では気づいていなくても、潜在的に犬と同じ動物的な意識を心のなかにもっているから。犬と飼い主の心を結びつけるのにもっとも重要なのは、人が動物の中に人間性を読みとることではなく、動物が人間の中にある動物性を読みとることである。
犬は人の感じることを感じる。これによって犬は自分の立場やこの世界に適応していくためにしなければならないことを「知る」。
犬は、あるもの、あるいはある瞬間をほかと比較してみるという世界観をもっていない。犬の心はエネルギーの回路である。
犬と人間は、基本的に同じ環状構造をもっている。犬は、人から発散された潜在的エネルギーに非常な興奮を示す。
犬は人が注目しているものに心を奪われる。飼い主が棒を指差し、「取ってこい」と命じると、犬にとって棒は手や足と同様、飼い主の体の一部となる。犬は飼い主が棒に対して発した感情のエネルギーを感じとる。犬からみると、棒は生き物であり、飼い主の体そのものなのだ。
犬と人の意識は、犬のいる場所で交わる。犬は「心のエネルギー」である。心のエネルギーとは、肉体と神経のエネルギーが交わり、頭と体が結合し、人間が自然とつながる場所である。こうして、犬は人間の内面を映す鏡となる。犬は自分が欲しいと思ったものは、人間も欲しがっていると「感じる」。
わがままな犬を飼っている家庭では、しばしば子どももわがままである。
犬は、きわめて社会的で協調性に富んだ動物である。だが、狩りの最中は、リーダーを識別するのは容易ではない。
きちんと育てられ、訓練された犬は飼い主のライフスタイルに適応する術を身につけている。
去勢された雄犬は、されていない雄犬より問題が多い。犬に不妊治療は必要ない。
犬には思い出すことがなく、それでいて、忘れることがない。犬に時間の感覚がないのは、犬が感情に動かされる生き物であり、完全に感情によってのみ動くから。
犬がなにをするにしても、そこに意図はない。犬は、まさに今の瞬間のみを生きており、犬の行動と学び方は、感情が犬の体の中でどう動き、そしてどう発展して特定の感覚を引き起こすのかによって決まる。犬には時間という概念が全くなく、他者がどんなものの見方をするかを想像することもできない。
感情こそが犬の全意識であり、認識するすべてだ。感情の流れが犬の意識の流れだ。犬は感覚そのものだ。
犬にとって、一瞬は永遠と同じであり、物事がどうやって、なぜ起こるのかを犬が「考える」ことはない。
犬が生まれつき社会的なのは、個々にもつはずの感情の回路が半分は相手の中にあるからだ。犬はみな、持ちつ持たれつの関係を築いている。
犬とは、どういう生き物なのか?
犬とは自然界で最も共感力の強い生き物である。犬は心で理解する。犬は感情そのものなのだ。犬は飼い主の姿を映し出している。
犬は飼い主を心で理解する。犬の行動は、飼い主いや自分のグループの心を写し出す感情の超音波映像のようなものだ。
犬は感情を理解する達人として高度に進化した生き物だ。
犬と飼い主との関係について、これほど深い関係があることを指摘した本を読んだことがありませんでした。犬好きの人には犬という生き物を深く理解するため一読をおすすめします。
(2012年3月刊。1800円+税)
2012年7月 9日
ウイルスと地球生命
著者 山内 一也 、 出版 岩波新書
2000年、ウイルスが人間の胎児を守っていることが明らかにされた。それまで、病気の原因とだけ見られていたウイルスが、実は、人間の存続に重要な役割を果たしていることが示された。ええっ、ウイルスって役に立つものだったんですか・・・。
ヒトゲノムの9%は人内在性レトロウイルス、34%がレトロトランスポゾン、3%がVNAトランスポゾンだということが判明した(2003年)。
トランスポゾンとは、生物の間を自由に移動できる、いわば「動く遺伝子」であり、その大部分を占めるレトロトランスポゾンは数千万年前に感染したレトロウイルスの祖先の断片とみなされている。われわれ人類のもっている遺伝子情報の半分はウイルスに関連したものになる。ということは、ウイルスは、単に病気に原因というだけの存在ではありえないということを示している。
ウイルスは30億年前には存在している。これに対して最古の猿人は700万年前、ホモ・サピエンスが出現したのは20万年前にすぎない。
人類(女性)は、妊娠すると、それまで眠っていた人内在性レトロウイルスが活性化されて大量に増えてくる。そして、この内在性レトロウイルスのエンベロープ・たんぱく質が胎盤を形成するのに重要な役割を果たしていることが実証された。
ウイルスは、細胞外では単なる物質と言える。しかし、細胞の中では、自主性をもった生物として振る舞う存在である。そして、無生物との間には、常識的なはっきりした線を引くのは難しい。
生物とウイルスとの大きな違いは、細胞の有無と増殖様式。ウイルスには細胞は存在しない。生物は、二分裂で増殖する。しかし、ウイルスは部品組み立て方式である。
エイズの原因であるウイルス(HIV)には、二つのタイプがある。そして、全世界に広がったのは1型のHIVであり、20世紀のはじめに西アフリカでチンパンジーのウイルスにひとりの人間が感染して、それが人間のあいだに広がった。2型のHIVは、アフリカ産サルであるスーティマンガベイのウイルスに人間が20世紀半ばに感染したもの。これは西アフリカの中だけで広がっている。
子孫を残すために共生するウイルスが貢献している側面は、哺乳類よりはるか以前に地球上に出現した昆虫に既に見られる。
海に存在するウイルスを推算すると、少なくとも海水1ミリリットル中に、深海で100万個、沿岸だと1億個のウイルスが存在する。海洋全体では、10の31乗個のウイルスが存在する。ウイルスは、海洋の至るところで、さまざまなプランクトンに感染することで、地球規模の炭素循環に多大な影響を与えている。
深海底から採取した堆積物に、1平方メートルあたり28兆個のウイルスが存在していた。また、ウイルスの活動は、地表の温度上昇を防ぐ雲の性瀬にも影響を及ぼしている。ウイルスは、硫化物の循環を介して地球の気候変動にも関係している可能性がある。
人間の腸内には100兆個もの最近がすみついているが、ウイルスはそれを上まわる数で共生している。それが腸内細菌とどのような相互作用をしているのか、まだ未知の領域である。
ウイルスって、人間にとって有害なだけの存在かと思っていました。実は違っているんですね。ほんとうに、世の中って、知らないことだらけですよね。
(2012年3月刊。2800円+税)
土曜日に、先日うけたフランス語検定試験(1級)の結果通知のハガキが届きました。61点でした。初めて5割を超えることができました。信じられない成績です。もちろん合格基準点は82点ですから、あと20点以上も上回らなければいけません。それにしても、続けていると少しずつ良くなるのが、うれしいものです。
フランス語の授業のとき、原発はすぐなくすべきだと言ったら、みんなが電力不足が心配だからと反論してきました。そんなのウソだ、政府と電力会社にだまされてはいけないと言い返せず、悔しい思いをしました。まだまだです。