弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
生物
2011年10月11日
イカの心を探る
著者 池田 譲 、 出版 NHKブックス
なんという奇妙なタイトルでしょう。イルカじゃあるまいし、イカに心なんてあるはずないじゃないのさ。そう思ってしまいました。ところが、どっこい、なのです。なんと、イカは意外なことに巨大な脳をもち、ちゃんと学習効果をあげるのです。
しかも、ほとんど養殖できない。イケスに入れると、たちまち死んでしまうというのです。ウッソー、マサカでしょ・・・。そんな叫び声が聞こえてきそうです。食べて美味しいイカに、なんとなんと心があったなんて・・・。これから気安くイカが食べられなくなりそうです。
イカは情報を伝達する細胞である神経が発達し、それを統合したところの脳が大きい。イカは海の賢者とも言える存在なのだ。
南氷洋だけで、イカは年間3400万トンも捕食者に食べられている。これは人間が食べている量より、はるかに多い。世界の海洋には、総量でで2億トンのイカがいると推定されている。
淡水に生息するイカ、そしてタコなんていない。海にだけいる生き物だ。イカは変態しない。卵から孵化した時点から親と同じイカの形をしている。
イカの寿命は1年ほど。それなのに、日本列島を南北に往復する大回遊をしている。
イカの親であるオスもメスも我が子を見ることなく死んでいく。
イカの養殖はできていない。水族館で生きたイカを常時展示しているところは少ない。イカを水槽に入れると、半日もしないうちにポロリと死んでしまう。
ヤリイカ飼育成功の秘訣は水質にあった。ヤリイカは清水を好む。
イカ、とくにスルメイカは神経質というか慎重であり、人が与えるものを簡単には受けとってくれない。しかも、エサが生きた状態でないと受けとってくれない。
イカは仲間のお互いの行動を実によく見ている。
スルメイカは、今もって全生涯を水槽内で飼育することができない。
イカの眼はヒトと構造がよく似たレンズ眼だ。コウイカの視力は0.6ほど。
イカは、体の色もパターンも瞬間的に変えることができる。
群れをつくるアオリイカには順位制が認められる。繁殖相手のメスをめぐり、また、エサをとるときにも順位が形成される。
イカは奥行きがあることが分かり、記憶力を持つ。
アオリイカを鐘の前に置くと、強い関心を示す。鐘に映っているアオリイカは自分だと認識している可能性がある。
イカは体色を変えてカモフラージュするが、それは貝殻という楯を捨てた代替戦略として、神経系を発達させ、高精度のレンズ眼をもち、高度な情報処理が可能な巨大脳を手に入れた。
うむむ、こうなると、イカの活きづくりも、ただ単に美味しいというだけでは食べられなくなりますよね。学者って、すごいです。
(2011年9月刊。1300円+税)
2011年9月12日
アシカ日和
著者 鍵井 靖章 、 出版 マガジンハウス
かわいい、かわいいアシカの写真集です。
好奇心旺盛、自由きまま、そして基本的にはぐうたらな生活。そんなアシカたちの住むアメリカにあるアシカ島にまで出かけて撮った、心いやされる写真集です。眺めているだけで、心が和みます。ストレスがスーッと発散していきます。なにをそんなにアクセクしているの?つぶらなアシカの瞳が問いを投げかけてきます。そうなんです。流れにまかせて目をつぶっていればいいのです。そのうち、きっといいことがあるでしょう。
アシカ科の特徴は前あしと後ろあしで身体を支えて歩くこと。アザラシ科は、あしを使っては歩けない。
アシカには耳があるが、オットセイにはない。とは必ずしも言えないようです。
アシカは頭が良くて、ひとなつっこい性格。生まれたてのアシカは体長75センチ、体重は6~10キロほど。9歳以上のオスのなかには体長3メートル、体重は500キロになるものもいる。
子どもアシカは、とりわけ好奇心が旺盛で、とても遊び好き。ヒトデを口にくわえておもちゃにしたり、仲間に見せびらかしたり。つぶらな大きな目で近寄ってきます。
手を差し出すと、あまかみしたり、髪の毛を引っぱってみたり。ところが、メスや子どもにあまりに接近しすぎると、ブルと呼ばれるコロニーのボス(オス)がやってきて威嚇する。これは本当に怖い。
子どもは安全な岩場に隠れ集まる。大人は海底で仲間同士、集まって楽しむ。
アシカは泳ぎながらも眠る。海中で、うつらうつら、ユラリユラリと漂います。ときに家族を枕に眠る。波の音を聞きながら気持ちよさそうに眠る。
アシカ島には400頭ものアシカがいる。アシカは100メートルは潜ることができる。母アシカが子どもにお乳を与えるのは1年から3年に及ぶ。アシカは、最大時速40キロで泳げる。
いやあ、よく撮れたアシカの写真集です。そのほのぼの、おとぼけ顔には心が洗われます。価値のある1500円でした。
(2011年6月刊。1500円+税)
上京した折、久しぶりに上野の西洋美術館に入りました。古代ギリシャの彫刻を鑑賞したのですが、ビデオ解説によって、次第に動きのある像へ進歩していったことが分かり、現物を見て実感しました。実に生き生きとした躍動感あふれるアフロディテ像など、見ていると心まで洗われる思いでした。
隣のギャラリーで水彩画展があっていたのでこちらものぞいてみました。心の静まりを感じる落ち着いたタッチの風景画です。私も画が描けたたらいいなと思いました。小学生のときにスケッチ大会で銅賞をもらったのは今でもうれしい思い出として残っているのですが・・・。
2011年8月15日
海に暮らす無脊椎動物の不思議
著者 中野 理枝 、 出版 サイエンス・アイ新書
ウミウシは、色も形も綺麗なことから、ダイバーにとても人気のある軟体動物の一種です。ちょっと前までは、色のついたナメクジ、気持ち悪い、といって片付けられてしまう可哀想な存在だった。
ネクトンとは遊泳動物、つまりイカのように潮流に逆らって泳ぐ能力のあるもの。
プランクトンとは、浮遊生物。エチゼンクラゲのように傘の直径が最大2メートルをこえる巨大なものでも遊泳能力がなければプランクトンだ。ただし、同じクラゲの仲間でもかつおノエボシのように水面近くで生活するものは、プランクトンと区別して、ニューストンと呼ばれる。
ベントスとは、海底近くに暮らす動植物のこと。底生生物という。
遊泳能力の高いイカは魚などを狩る有能なハンターだ。遊泳能力のやや劣るタコは甲殻類を餌にする。
スナギンチャクには、長寿であり、猛毒をもつという特性がある。2742歳という長寿の個体が見つかった。
多くのウミウシは、毒を含んだ餌を食べ、その毒を再利用して自分の身を守る武器にしている。ウミウシはほとんど肉食だ。カイメンやホヤ、ヒドロ虫といった固着動物。これらの多くは動いて捕食者から逃れることができない代わりに、多くが捕食者に食われないように毒を蓄えている。ウミウシはこの毒を再利用している。
ホヤは仙台に行ったときにその近郊の秋保温泉の旅館ででっかいものを食べました。さすがに美味しい味つけでした。ちょっと気色悪い形ではありましたが・・・・。
海底あたりにうごめく生き物たちは色も形もとても変わっていて、奇妙かつ美的なセンスにあふれています。面白い写真が満載のカラー新書でした。
(2011年6月刊。952円+税)
2011年8月 1日
花の国・虫の国
著者 熊田 千佳慕 、 出版 求龍堂
理科系美術絵本というサブタイトルのついた本です。
野山の花に虫や蝶が集まっている様子が見事にスケッチされています。
この前の日曜日、我が家の庭にはクロアゲハチョウが花のミツを吸いに何度もやってきました。暑い夏に咲く花は少ないので、チョウも大変なんだろうなと思いました。
トンボのデッサンもあります。なんだかトンボの姿を見かけませんね。うちの庭にやって来るのは夏の終わりころのアキアカネくらいのものです。オニヤンマとかシオカラトンボなど、久しく見かけません。いったい、どこへ行ってしまったのでしょうか。それとも絶滅しかかっているのでしょうか・・・・。
セミの泣き声もまだまだです。今年の夏は、アメリカに素数セミがあらわれているそうです。17年に1度なんて、不思議なこと限りがありません。地球が氷河期に入ったときに生き延びたセミのようですから、すごいものです。セミの身を凍らしてアイスクリームにして食べるという記事を読みました。美味しいということですが、信じられません。セミはアフリカではフライにしてパリパリかじると言います。まだそっちのほうがよほど美味しそうです。
日曜日には見かけませんでしたが、マルハナバチもやって来ます。丸っこいお尻をさらけ出して、夢中になって花のミツを吸っている姿を見ると、いとおしくなります。
自然は美しいから美しいのではなく、愛するからこそ美しい。まったくそのとおりだと思います。
さすがはチカボ先生のデッサンです。目も心も洗われます。
(2011年5月刊。1800円+税)
2011年7月25日
チョウはなぜ飛ぶか
著者 日高 敏隆・海野 和男 、 出版 朝日出版社
チョウの楽しい写真が満載の素敵な本です。
チョウは、はね(翅)の根元ではなく、どうたいに背中と腹をつなぐ筋肉があり、この筋肉が伸びたり縮んだりすると、背中と腹が動く。それにくっついてはねも動くから飛べる。
チョウとガは、ともに鱗翅類という、羽に鱗粉がついた昆虫の仲間である。昼間に飛ぶのがチョウ、夜に活動することにした仲間がガと呼ばれる。
チョウは紫外線を光として感じる。モンシロチョウは、紫外線をふくめた色の違いでオスとメスを見分けている。
人間には紫外線は見えない。というのも、紫外線の作用はとても強く、もし目の奥まで入ってくると、目の奥が日焼けしたようになって、見えなくなってしまう。それでは困るので、紫外線を吸収するレンズのようなものが入っていて、紫外線がそこでとまり、奥まで入ってこないようになっている。モンシロチョウは紫外線が見えるけれど、赤色は見えない。
チョウの飛ぶ道(チョウ道)は一定だが、それは地形によるのではなく、光と温度による。だから、春と夏ではチョウは道は異なる。季節によって、天候によって、一日のうちの時間によって、そして気温によってさまざまに変わる。しかし、個々のチョウによって変わるのではないチョウ道が存在する。だから、チョウ道は確実に予言できる。しかし、チョウ道があるのは、アゲハチョウの仲間だけでモンシロチョウにはチョウ道はない。
チョウは花を見るとき、姿、形、大きさによって判断していない。モンシロチョウは、赤、黒、緑には寄ってこない。チョウは、すぐ近くからしか見えないから、いつも一生懸命はねをヒラヒラさせて、自分の近くを探している。
こんな見事なチョウの写真集が1900円で手に入るなんて、申し訳ない気がするほどでした。
(2011年6月刊。1900円+税)
2011年7月11日
ツキノワグマ
著者 大井 徹 、 出版 東海大学出版会
残念ながら、九州にはクマは絶滅したようです。といっても、山で野生のクマと出会いたくはありませんよね。
もし、山でいきなりクマと出会ったらどうしたらよいのかまで書かれています。死んだふりはダメです。逃げてもいけませんし、木にのぼってもダメなのです。では、どうすべきか?
逃げない。走って逃げると、追いかけてくる可能性がある。クマに注意しながら、静かにゆっくり後退する。クマとは目をあわせず、クマとの間に木や岩をはさむようにする。クマと目を合わせると、威嚇していると思われる。クマは木登りも水泳も上手だということを忘れない。クマの逃げ道をつくっておく。
死んだ真似はせず、地面のくぼ地にしずまり、腹や首筋、顔を守る。防御的な攻撃だとクマは後退する。クマが耳を立てて静かにどんどん近づいてきたら、捕食的な攻撃だ。そんなときは、大声をあげながら、ナイフなどで攻撃する。目や鼻への攻撃が有効だ。動き続けてクマに咬まれないようにする。ひやひや、とてもこんなことって、出来ませんよね。
ツキノワグマは飼育下で30歳、野生で28歳というのがいる。
九州のツキノワグマは、戦前1941年に絶滅した。今から20万年前から2万年前の本州には、ヒグマとツキノワグマが同居していた。ツキノワグマのように体が大きいと、天敵が少ない、エネルギーの利用効率が小型動物よりもいい。クマは、植物を食物とすることによって体を大型化することができた。クマは雑食性で、動物質よりも栄養価の低い植物質を食物として利用している。ツキノワグマは雑食性であり、消化の良い栄養価の高い食物を好み、それを選択的に採食している。
クマが立ち上がるのは、一般には攻撃のためではない。クマは、嗅覚と視覚に強く依存している。
メスグマは、冬眠中に出産と育児という大事業をおこなう。ツキノワグマのメスは、2~3年に1回しか繁殖しない。オスとメスの関係は一時的なもので、交尾期が終わると、それぞれ単独生活に戻る。メスグマは、子別れのあとも、子がメスのときには、母グマの近くに行動圏をもつ。
大人のオスは40平方キロ、メスは20平方キロの行動圏をもっている。
ツキノワグマが冬眠するのは、食物が不足する冬だから。冬の間はじっと動かず、エネルギー消費をできるだけ抑えながら、蓄積脂肪でしのぐ。冬眠中のクマの心拍数や体温は、他の哺乳類ほど顕著に低くはない。冬眠中のクマは、排尿も排便もしない。しかし、血液組成は正常に保たれている。
クマの冬眠は、摂取も飲みもしないという特徴がある。冬眠中、クマは飲まず食わずの状態にある。冬眠中のエネルギーの素は、ほとんど脂肪である。冬眠中のクマは、特別な方法でタンパク質の代謝が行われ、筋肉が維持されている。
クマの冬眠って、不思議ですよね。冬眠していて、じっとしていて筋肉が維持できるなんて・・・。そして、尿も便も排出しないのに健全な身体を維持できるなんて・・・。
決して出会いたくはありませんが、森の住人の一人であることは間違いありません。日本から絶滅したと言われないようにしましょうね。
(2009年11月刊。3200円+税)
2011年7月10日
化石から生命の謎を解く
著者 化石研究会 、 出版 朝日新聞出版
原発で発生する使用済み核燃料をどう始末するか、今なお確定していません。地中深くに埋めるというのですが、10万年間は放射能が出てくるというのです。そのとき、人類がいま私たちが話している英語や日本語が分かるとは限らないので、危険性や扱い方を図解する必要があって、その工夫がすすめられているというのです。10万年というのはそれほど気の遠くなるような将来です。
ところが、モンゴルのコビ砂漠に残された恐竜の足跡の化石は10万年どころか7000万年も前のものなのです。うひゃーっ、なんというタイムスパンでしょうか。同じく、8000万年前の恐竜の化石も写真で紹介されています。
北海道にはマンモスが4万年前までは暮らしていました。そして、本州にはナウマンゾウがいたのです。12万年前、地球規模で非常に温暖な時期にあたり、北海道にも落葉広葉樹の森が広がっていた。そこにはナウマンゾウたちがいた。
7万年前に寒冷な気候が始まり、ナウマンゾウたちは南下していった。北海道には針葉樹林になりマンモスたちがサハリンから南下してきた。そして、3万5000年前ころ、温暖化して再びナウマンゾウが海を渡って北海道にあらわれた。しかし、またもや寒冷化してきたため、マンモスたちが南下してきた。この状況が2万年前までに終わった。なるほど、それで、北海道にもマンモスもナウマンゾウも、どちらの化石も見つかるわけです。
恐竜の絶滅は、隕石の衝突による水蒸気や火山活動によるじん灰がもたらす地表到達電磁波エネルギーの減少によってビタミンD2の生成ができなくなったことによるのではないか・・・。
化石によって、いろんなことを分かるって、すごいですよね。
(2011年4月刊。1500円+税)
2011年6月20日
森のハヤブサ
著者 与名 正三 、 出版 東方出版
日本は奈良、その高山の里に棲みついているハヤブサの写真集です。大自然の生き物であるハヤブサの伸びやかな生き様がよく写し撮られています。日本の山に、こんなにも身近にハヤブサがいるのですね。その躍動する姿をとらえた感動の写真集です。どうぞ、ぜひ手にとって眺めてみてください。
ハヤブサは留鳥。毎年、同じ場所に生息している。しかし、8月から10月は行動圏が広がって、営巣地の近くで姿を見ることは少ない。ハヤブサの獲物の一つがハト(鳩)。レースバトです。ヒヨドリも、ツグミも、ハヤブサのエサになります。
小鳥を獲るときのスピードは時速300キロ以上にもなる。メスが卵を温めているときには、オスが狩りをする。メスはオスと交代して抱卵する。オスがメスに獲物の小鳥を受け渡す行動は、求愛の行動であり、メスがヒナに対して給餌するための一環でもある。
狩りに疲れたオスが休息をとろうとすると、メスがやって来て、鳴き叫び、早く狩りに行くように促す。うへーっ、これって、まるで人間と同じではありませんか・・・・。男はつらいよ、ですね。
ハヤブサのオスとメスは、同色なので識別は難しいが、オスの喉の部分は真白なのに対して、メスの喉にはゴマ状の斑点がある。
獲物の管理は、メスが主導権を握っている。古来、日本の家庭では、妻が家計を握ってきました。まるで、同じですね。ハヤブサに親近感を覚えます。
ヒナが成長すると、獲物の形を認識させるため、親鳥は獲物を解体せずに生きたままで与える。だから、獲物となったスズメが逃亡に成功することだってある。
巣立ったばかりのハヤブサの幼鳥はなかなかと飛ぼうとしない。飛翔力を高めるため、親鳥(メス)は獲物の肉片をもって周囲を飛びまわり、幼鳥を飛び立たせようと努力する。親鳥は、幼鳥の飛翔力を高めるため、すぐには獲物を渡さない。
奈良の森に棲みつくハヤブサの生態がよく撮られた写真集です。
(2011年2月刊。1500円+税)
きのうの日曜日、雨の中を年に2回恒例のフランス語検定試験(1級)を受けてきました。結果は本当に惨々です。1問目分からず、2問目も3問目も全滅。4問目の小問にやっと一つだけ正解にあたりました。動詞を名詞に変えて文章をつくりかえたり、慣用句など、まるで歯が立ちません。後半の長文読解で少し点が取れるようになり、仏作文は少し手ごたえがあるかなというレベルです。それでも小休止のあとの書き取りはかなりうまくいき、聞き取りも、まあまあでした。やはり毎朝の書き取り練習がモノを言います。
自己愛みちみち大甘の自己採点で61点(150点満点ですから、やっと4割)でした。
挑戦することに意義があるとは言うものの、終わると毎回どっと疲れを感じます。大学の同じ構内の別の校舎で漢検もあっていました。そちらの方が受験生は多そうです。
2011年6月13日
地球200周。ふしぎ植物探検記
著者 山口 進 、 出版 PHPサイエンスワールド新書
私と同世代の写真家です。世界の珍しい生物を求めて世界を駆けめぐりました。それは地球200周分に相当するといいますから、圧倒されます。ともかく、この地球上には奇想天外の生き物がこんなにもいるのか、信じられません。まさしく「想定外」の世界です。
たとえば、土のなかで花を咲かせるランがいるというのです。ええーっ、なんで、暗い地中で花を咲かせるの・・・?まるで想像できません。植物が自分の身体にコブをつくり、そこにアリを住まわせます。そして、ご丁寧にも、アリの巣まで植物のほうでつくってあげるというのです。ええっ、まさか・・・。
口絵のカラー写真とともに、たくさんの写真が盛りだくさんの楽しい本です。といっても、取材のほうは、並大抵の苦労ではありません。
特殊な花を観察するには、花の前で定住観察する以外に方法はない。新根が見つかったら、花である可能性が出てきたときには、その近くに簡単な小屋を建て継続観察する。小屋は住民の協力で作る。材料は周囲にある竹を使う。観察が終わったら、小屋は分解・放棄されるが、高温多雨のスマトラでは2ヵ月もたたないうちに打ち果て、半年もたつと跡形もなくなる。
著者は、こんな小屋を十数年で30件ほども建てたといいます。うひゃあ、すごいですよ。山のなかに一人で寝泊まりするのですから、心寂しい限りでしょうね。
時間と体力、そして何よりも現地の人との付きあいがうまくできないと花探しは不可能だ。その基本は、相手を信じることに尽きる。それも本気で信じないと相手に気持ちが通じないし、受け入れてもらえない。
スマトラの夜。夕刻7時にショクダイオオコンニャクは開花しきった。突然、肉穂から、もうもうたる湯気が出はじめた。その瞬間、ただならぬ匂いが漂いはじめた。湯気はとどまることなく、煙のように肉穂から立ちのぼっている。ときには流れるように、ときには渦巻きながら、湯気は激しく立ちのぼるこの湯気こそ、匂いのもとのなのだ。肉穂を触ると熱を感じる。温度計で計ると39度もある。発熱することによって白い成分を蒸発させるのだ。夜8時、花の周囲は匂いで満たされた。1キロも離れた家でも匂いを感じたという。彼らは、「ネズミの死体が腐るときの匂い」という。著者は、腐った魚と砂糖が焦げる匂いと書いています。
匂いを出す目的はただ一つ。送粉者を引き寄せること。大型のシデムシが白いに魅かれて飛んできた。
このショクダイオオコンニャクが7年に一度しか花を咲かせない理由は、貧栄養の土壌を好むからだ。貧栄養の環境下で、ゆっくりと生育することが巨大化につながっていく。
同じような花として、ラフレシアがある。著者は、その開花に3度も立会したそうです。いずれも夕方から夜8時という時間に始まる。ラフレシアが開花しはじめると、すぐにたくさんのハエが集まってくる。花の匂いは田舎の古い便所のようなもの。花を探して森の中を歩いていると、その匂いで花の存在を知ることができるほど鼻につく独特の匂いだ。
ハエが花のなかに入り、やがて出てくるが、そのとき背中にべったりと花粉がついている。そして、ハエは花粉を担いだまま花から飛び立つ。
オーストラリアには、地下に花を咲かせるランがいる。ピンクの色がついた直径2センチもある大きな花だ。冬は雨が多い。保水性の低い砂地にはえる地下のランにとって、水分の心配から解放される。それに冬は他の植物との競争が少ない。
まあ、それにしても不思議な花ですね。そして、よくも人間が見つけたものです。それを調べている学者がいるというのも、すごい話です。
たまにこんな本を読み、写真を眺めていると、地球上生き物とはなんてへんてこりんなんだろうと思いつつ、それを探しまわれる人間いて、それを面白がる私のような人間がいるというのも、まさにへんてこりんな存在だと思い至るのです。そして、それこそ、私が生きている意味なのかもしれないと思ってしまうのでした。
(2011年2月刊。880円+税)
2011年6月11日
しばいぬ
著者 岩合 光昭 、 出版 平凡社
かわいい。りりしい。なつかしい。世界一かわいいニッポンの犬。柴犬の写真集です。私も、前に柴犬を飼っていましたので、本当になつかしい思いで写真集を眺め、しばし幸せな気分に浸ることができました。
柴犬の子犬は本当にコロコロして、可愛いったらありやしません。元気いっぱい。小さくても、立ち耳、巻き尾で、前脚は太い。気骨あふれる日本の犬だ。
良い子犬を選ぶとき、目の輝きはとても大事なポイントだ。素直で明るく、好奇心いっぱいの、元気な子犬を選びたい。犬の性格は多様である。子犬を選ぶときは、何よりも性格を重視したほうがよい。目が輝いていて、ゴムまりのように軽快に動き、誰でもじゃれつくような明るい性格の犬を選ぶ。成長とともに、適度な警戒心は出てくる。
日本犬の目は、丸目よりもやや沈んだ不平等三角形が好まれる。日本犬は顔の品位が大切にされる。顔や体形を見て、オスとメスの判断ができる。全体として社交性には乏しいが、飼い主と他人を区別する能力を備えている。
柴犬は、飼い主とその家族のかたわらで生活することに幸せを感じる想いを強く受け継ぐ特異性がある。逆にいうと、他人に群れにくい性質がある。
柴犬は日本人の好みの性格を持っている。
悍威(かんい)に富み、良性にして素朴の感あり。
悍威とは、気迫と威厳。良性とは、飾り気のない、地味な気品と図格を指す。
柴犬のオスは、強さを主張する傾向があり、気持ちは外界に向いて活発で力感がある。メスは自己主張が少なく、家族の動向に関心を寄せる傾向をもっている。こまやかな表情で飼い主にも柔和に接する。
柴犬は余分な手を加えず、生まれたままの自然の姿を楽しむ犬種だ。爪切りやトリミングなどのおしゃれ感覚の手入れは不要。渋い伝統美こそ、柴犬の持ち味である。
飼いやすい犬とは、側に置いていても邪魔にならない犬、飼い主の気持ちを察することのできる犬をいう。柴犬は利口な犬種だが、訓練所での教育には向いていない。飼い主や家族とのスキンシップのなかで、ことあるごとに潜在する能力を引き出していく必要がある。犬が人間社会に適応する能力を学習できるかどうかは飼い主次第である。
犬は飼うもの。飼われないようにする。犬には、まず何より我慢することを覚えさせること。どんなときにも、飼い主は絶対であるということを教え、服従する心を植えつけることが肝心。犬の知能は人間の3歳から5歳くらい。犬は、終生、この精神年齢で飼い主に接する。
いやはや、柴犬、シバイヌって、本当に可愛いんです。カワユイ・・・!!もうとろけてしまいそうです。
(2011年3月刊。1500円+税)