弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
生物
2014年7月14日
観察の記録、60年
著者 矢島 稔 、 出版 平凡社
すごい写真のオンパレードです。その息を呑む美しさに圧倒されます。
アオスジハエトリというクモがいる。昆虫を食べて生きている。このクモは、前脚をいかにもありの触覚のように動かして、ときどきアブラムシの背中をトントンと叩く。すると、アブラムシが尻から甘い液を分泌する。クモは、それを飲むのではなく、アリになりきって、アブラムシの回りを動きまわっている。そこへクロオオアリがやって来る。すると、クモは体をひるがえしてアリに飛びかかってきた体をおさえこむ。牙でかみついて、そのままクモの餌食になってしまう。
クモはアブラムシのいる所にアリが集まってくるのを知っていて、アリそっくりの動きをして待っているのだ。この瞬間を写真に撮っているのですから、すごいものです。よほど辛抱強くなければなりません。
クヌギがコナラの樹液を求めて昆虫たちが寄り集まる。だいたい勝つのは、カブトムシのオスで、次がクワガタのオス。カミキリの大型種は、脚が長いせいか、力負けしてしまう。意外に強いのは、スズメバチ。
樹液にはお酒というより、薄いビール程度のアルコール分が入っている。木から樹液がしみ出してくるのは、篩管に穴を開けるものがいるからのこと。それは、ボクトウガの幼虫である。
ニホンミツバチが天敵であるスズメバチを取り囲んで熱死させる情景をとった写真もあります。これも、すごいと思いました。
ニホンミツバチは、集団で体温を上げ、48度でスズメバチを殺す。自らの体温を限界ぎりぎりまで上げて相手を熱死させる。これは、いわば捨て身の戦法だ。この習性は、セイヨウミツバチにはない。おそらく、ニホンミツバチが長い間、同じ地域にスズメバチとともに生活してるために生まれた護身術であり、それが世代をこえて伝えられているということだ。
驚異の写真といえば、カンガルーの袋のなかの、生まれたばかりの「胎児」の写真はすごいものです。「胎児」は、目が見えなくても、生まれ落ちたあと母親の乳首を目ざして、ついにたどり着くのです。感動しました。
写真をめくるだけでも楽しい大自然のすばらしさを語る本です。
(2014年4月刊。1800円+税)
2014年6月30日
先生、ワラジムシが取っ組みあいのケンカをしています
著者 小林 朋道 、 出版 築地書館
鳥取環境大学のコバヤシ教授による先生シリーズも、なんと8冊目です。すごいですね、驚嘆するばかりです。
この書評コーナーでずっと紹介してきました。生き物観察を通じて生物の神秘を知るのは面白くもあり、人間の存在を深く考えさせられます。
私が今回の本を読んでもっとも印象に残ったのは、ツバメにコバヤシ教授が何回も襲いかかられたというくだりです。親ツバメたちにとって、子どもを襲う危険な存在だったのでした。
ツバメは、つがいで共同して巣作りをし、子育てする。つがいの2個体が相次いで巣に戻ってきたとき、巣づくりや子どもたちへの餌やりを先に終えたほうは、そのまま飛び立つのではなく、あとの個体が作業を終えるまで待っている。そして、あとの個体が作業を終えると、そのまま飛び立っていくのではなく、待っている相手の横に止まる。そして、互いの労をねぎらうかのように顔を見合わせて、それから一緒に飛び立つ。
ええーっ、これって、夫婦のコミュニケーションが大切にされているっていうことですよね・・・。驚きました。
コバヤシ教授が、親鳥のいない留守に巣に接近し、ヒナたちと目線を交わし、写真をとったころ、親鳥が巣に戻ってきた。ピチーッ、ピーッ、ピーッという甲高い、強烈な声がした。ヒナたちは一斉に身をかがめ、巣の奥に身を隠す。急いで巣から離れたコバヤシ教授の頭上を飛びかい、その数が次第に増えてきた。攻撃するように飛びかうツバメたちにはかなり迫力があった。
さすがのコバヤシ教授もタジタジになってしまったのです・・・。
写真もたくさんあり、学生たちのさまざまな反応も面白おかしく紹介されていて、今日もコバヤシ教授は元気いっぱいなのでした。いつ読んでも面白いシリーズです。
(2014年5月刊。1600円+税)
2014年6月 2日
ペンギン
著者 藤原 幸一 、 出版 講談社
私は、ペンギンも大好きです。
ええっ、ペンギンって鳥だったの、しかも大空を飛んでいたの・・・、と思ってしまいました。
海の中をすいすいと気持ちよさそうに泳ぎ、陸の上で子育てするペンギンを、いつのまにか人間と同じ哺乳類だと勘違いしていたのでした。
1億年前、ペンギンの祖先は大空を飛ぶ鳥だった。そして7000万年前に、ペンギンの祖先は空を飛ぶのをやめてしまった。空中より水中により長くいて、大好物の魚をとれるように進化したのだ。
地球にすむペンギン19種のうち、南極を繁殖地とするペンギンは5種類だけ。赤道直下や、人間と共生して街に住む種もいる。森の中にすむペンギンもいる。ただし、北半球には人間が連れてきたもの以外には、いない。
夏はペンギンにとって衣替えの季節。羽毛が抜けかわる。その換羽のあいだは海に入れないので、ペンギンは絶食状態となって、体重も半減してしまう。ええーっ、そうなんですか。犬のようにはいかないのですね。
ペンギンのオスとメスを見分けるのは、至難の業だ。混ざっていたら、判別不可能。つがいがそろって並んで初めて、オスとメスを判別できる。メスがオスよりひとまわり小さい。
メスは主としてオキアミを食べ、オスは魚を多く食べる。
メスは繁殖地から200キロ以上、オスは160キロもの旅をする。
集団で一糸乱れぬ行動をするペンギンは、捕食者であるアザラシに襲われにくい。
アデリーペンギンにとって巣作りの材料となる小石は、マネー(貨幣)のような価値をもっている。
小石のほしいメスは、独身オスに売春まがいの行為をして小石を手に入れる。連れあいのオスは、メスが小石を手に入れて帰ってくると大歓迎する。
見ていて楽しくなるペンギンの写真がどっさりの写真集です。写真を撮る苦労は大変なものがあったことだと思います。ありがとうございました。
(2013年12月刊。2800円+税)
2014年5月12日
海への旅
著者 中村征夫 、 出版 クレヴィス
海中の生物の、不思議で、素敵な生きざまを紹介する写真集です。
海中に、なんとカラフルで、意表をつく形をした生き物がたくさんいることでしょうか・・・。
ともかく圧倒されます。すごいです。
世界各地の海に潜って、魚たちの見事な色と形と生きざまを紹介してくれる写真集です。
これだけ生命の神秘を満載した写真集を2000円で手にして、何度でも見直すことができるなんて、本当に安いです。ありがたいことです。
鮮やかな色と形のオンパレードです。朱色あり、黄色あり、紅白あり。量の形をしたもの、円塔形のもの。光るものも、さまざまです。いったい、何のために、どうやって光っているのか、不思議です。神秘にみちた世界が海中にもあるのですね・・・。
天使のような可愛らしいクリオネ。プランクトンの一種です。その多くが他の生物に食べられてしまいます。しかし、それが、この生物界を底辺で支えているのです。
イカは子を産むと、海底に沈み、他の生物に食べられてしまいます。
クマノミの顔のおかしさには、つい笑ってしまいます。ホヤの仲間は、はじめからマンガチックな笑い顔です。
ウミムシは、まるで海中の宇宙船。どこの星から来たのでしょうか・・・。
海中に潜り、海底を探しまわり、ときにはサメやトドと遭遇したり・・・。危険をものともせずに、海中写真をとり続ける勇気に対して、心から敬意を表します。
(2014年1月刊。2000円+税)
2014年5月 7日
犬が私たちをパートナーに選んだわけ
著者 ジョン・ホーマンズ 、 出版 阪急コミュニケーションズ
犬派の私ですから、このタイトルなら読まざるをえません。
アメリカの犬は、1996年に5300万頭だったが、2010年には7700万頭になった。
ペット用品は、年商380億ドルという一大産業に成長した。
飼い主のほとんどは、犬に話しかけることがある。81%は犬を家族の一員とみなしており、犬のなかには飼い主と同じベッドで寝る特権まで享受している。
犬は、人間がビクトリア時代に「発明」した文化の産物である。
犬は全世界に3億頭いる。人間は70億人。牛と羊は、それぞれ13億頭いる。
犬の経済的貢献度はほとんどゼロに等しい。犬の社会性は、人間自身の性癖を繁栄している可能性がある。
仕事から帰ったときに出迎えてくれる犬がいるのは、誰にとってもうれしいものだ。
犬が人間を注視することをいわない性質は、犬とオオカミの基本的な違いのひとつだ。
犬には人間に敏感に反応する驚くべき能力がある。
犬は、どんなときでも人間に支援されることをいとわない。その典型が、冷蔵庫をじっと見つめてから、飼い主の顔を振り返ること。
犬は、基本的に自分で自分を家畜化していった。犬の家畜化が起きたのは、1万5000年前にすぎない。そして、犬の遺伝的多様性は東アジアでもっとも大きい。
犬の最大の強みは、決して人間の助けを断らないことにある。
犬がこの瞬間を精一杯生きようとする姿は、人間の心を打たずにはおかない。どんなに困難な状況に置かれても、犬は快活さを失わず、新たな体験に自ら進んで飛び込んでいく。
多くの遺跡で、犬は人間と同じように埋葬されており、犬が死後も「名誉人類」として扱われていたことを意味する。
犬をもう一度、飼ってみたいと思いつつ、旅行優先で断念している私でした。
(2014年2月刊。2500円+税)
天神の映画館「KBCシネマ」で『チスル』をみました。「済洲島4.3事件」を映画化したものです。
1948年4月3日、済洲島で300人ほどの武装隊が警察署(支所)を一斉攻撃してはじまった惨劇です。韓国軍がアメリカ軍をバックとしてゲリラ部隊の鎮圧作戦に乗り出し、以来、完了するまでの7年間に3万人の島民が犠牲になりました。その大半は政治やイデオロギーとは無縁の島民でした。済洲島から日本へ避難した人も多く、そのほとんどが大阪にたどり着いています。
この映画では、3万人の虐殺場面が出てくることはほとんどありません。島内を逃げまとう島民の姿が静かに描かれ、鎮圧する側の部隊の兵士たちの葛藤も浮きぼりにされています。
いまや年間観光客が1000万人をこえる済洲島ですが、65年前にこんな悲劇があったことを思い返すのは決して無意味なことではありません。
情感あふれるシーンに見入るばかりでした。
2014年4月21日
パンダが来た道
著者 ヘンリー・ニコルズ 、 出版 白水社
パンダの写真は、いつ見ても心がほわっと浮き立ちます。なんで、こんなに愛くるしい生物が存在するのでしょうか・・・。
でも、そんなパンダですが、人類と接触するようになったのは、今から150年前のこと。もちろん、パンダはその以前から存在していました。しかし、棲息地である中国の山奥深くに、ひっそりと生きていたため、中国の古典文献にすら登場してこなかったのです。いかにも不思議な生物です。
そして、中国革命で有名な毛沢東の東征のころ(国共内戦のころ)、パンダはしきりに欧米白人から捕獲されていたのでした。そんな、パンダの不思議な話がまとめられた本です。
私は、かつて上野動物園で眠っているパンダの実物を見たことがありますが、あとは写真集ばかりです。和歌山には、たくさんのパンダがいるようですし、四国・四川省にはパンダの保育園があるとのことです。ぜひ見てみたいものだと思います。
パンダは、1869年まで、中国の外では存在すら知られていなかった。実は、中国でも、ほとんど知られていなかった。150年足らずの間に、まったく無名だった動物が、世界でもっとも人気のある動物になったことになる。
パンダは、レッサーパンダより、クマに近い。このことがDNAの解説で判明した。
竹ばかり食べるパンダは、肉食のクマの仲間なんですね。
1937年、アメリカでパンダの展示が始まったとき、初日だけで、5万3000人の入園者があり、1週間の入場料収入でパンダの取得費用をすべて回収した。
1972年4月に、中国からアメリカにパンダが贈られたとき、最初の日曜日だけで7万5000人が見に来た。
今では、パンダに何を食べさせるかは非常にきびしく管理されている。竹のみを与え、それ以外は最小限にとどめている。
パンダは、よく眠る動物で、エサにおかゆを食べさせると、とりわけよく眠る。
赤ちゃんパンダの体重は、100グラムほど。母親の1000分の1にすぎない。
パンダの赤ちゃんは、人間で言えば赤ちゃんは妊娠20週あまりで生まれてくるようなもの。
メスのパンダが生殖可能になるのは3年半。毎年1回の春、発情期を迎える。しかし、わずか数日間のみ。
発情が近づくと、繁殖に発声する。通常は、あまり声をあげず、音よりも、匂いにおいてコミュニケーションをとる。
野生のメスのパンダは、1年すぎに8月に出産し、そのときには山を下り、心地のいい洞穴や木の洞を見つけて子を産む。
パンダは不安を感じているときは、歯をすり合わせたり、くちびるを摩擦させたりして音を立てる。悲しいときは、短く鼻を鳴らすような叫び声。身の危険を感じているときは、いかにも悲痛な呻き声。そして、発情が近づいたときには、ヤギの鳴き声やさえずりにも似た短く鋭い声を発する。
そうなんですね、パンダの声もいろいろあるのですか・・・。
中国は、文化大革命のあと、パンダの人工授精に力を入れた。
パンダは冬眠はしない。パンダは、5平方キロほどの狭い土地をテリトリーにしている。平均すると、1日の移動距離は500メートルほどでしかない。パンダは基本的に単独行動を好み、交尾のときだけ数日間、一緒に過ごす。
パンダとは何か。どうしてパンダが今も生き残っているのかが、よく分かる楽しい本です。
(2014年2月刊。2400円+税)
2014年4月14日
死なないやつら
著者 長沼 毅 、 出版 講談社ブルーバックス
生物、そして生命の不思議さを紹介した本です。ええっ、ありえない。そう叫びたくなる話のオンパレードです。
生命とは、エネルギーを食って構造と情報の秩序を保つシステムであると定義することが出来る。むむっ、これって難しすぎる定義ですね。
この宇宙で炭素化合物が安定して存在するには、メタンか二酸化炭素になるしかなく、それ以外の炭素化合物は、どれも不安定な状態にある。
クマムシは、151度の高温でも、絶対零度の低温にも耐える。放射線に対しても、57万レントゲン(5700シーベルト)が致死線量。人間なら500レントゲン(5シーベルト)だから、1000倍もの耐久力がある。ただし、これは、クマムシが体重の85%を占めている水分を0.05%にまで減らしたときのこと。
ネムリユスリカは、乾燥状態で放置して17年後に吸水させたら、元に戻った。
ふつうのバクテリアである大腸菌は、少しずつ高圧に馴らすようにしていくと、なんと、2万気圧でも生きることができた。
深海に生きるもののなかには、無機物の鉄を酸化させて、そのときに生じるエネルギーを利用して有機物をつくって、それを栄養としているものがいる。これを「暗黒の光合成」という。
太陽光線による光合成のようなものが、暗黒の深海でやられているなんて、本当に驚いてしまいます。
アフリカのフラミンゴはピンク色をしているが、本来の体色は白色。赤い藻を餌として食べているので、ピンク色になった。
バクテリアの仲間の「バチルス」は、2億5000万年前の岩塩のなかに見つかったものがあり、生きていた。
こうなると、生命とは何なのか、さっぱり分かりません。
重力は普通1G。ジェットコースターでかかる最高は5G。戦闘機のパイロットは、9Gにまで耐える訓練を受けている。ところが、大腸菌などは、40万Gの重力を受けても、平気だった。
南極大陸の氷の下に、ボストーク湖がある。ここには、これまで誰も見たことのないような遺伝子をもつ微生物がたくさん発見された。1500万年前の生物に、生きたまま会えたことになる。
人間の体内には、合計すると、1キログラムほどの腸内細菌が棲んでいる。種の数は1000以下。個体数にすると100兆個。それだけ多くの「別種の生物」が体内で人間と共生している。
本当に、生命体の不思議さは驚くばかりです。
(2013年12月刊。900円+税)
KBCシネマでやっている映画「アクト・オブ・キリング」をみました。
1965年にインドネシアで起きた大虐殺事件「9.30事件」について、加害者が何をしたのか、自らの体験を喜々として再現していくというすさまじいドキュメンタリーです。どのように人を殺したのか実際にやってみせるのです。主人公は1000人もの人を殺したと高言するプレマンと呼ばれるギャングの親分です。
今から45年以上も前のことですが、虐殺した側は、今もインドネシアの権力の側にいて、犯罪者どころか英雄視されてきました。ナチス・ドイツが戦争に勝って、その蛮行を自慢げに語っているようなものです。
ところが、虐殺犯が自己の体験を再現してくなかで重大な転機を迎えるのです。次のような解説があります。
「今も権力の座にあり、誰からも糾弾されたことがないため、今でも自分を正当化することができる。しかし、その正当化を本当は信じていないため、自慢話は大げさになり、より必死になる。人間性が欠けているからではなく、自分の行いが間違いだったと気づいているからのこと」
前に紹介しました『民主化のパラドックス』(岩波新書)が参考になります。
2014年4月 7日
旭山動物園で出会った動物の子育て
著者 小菅 正夫 、 出版 静山社
旭山動物園の元園長が動物たちの子育ての様子を話してくれる、楽しい本です。
元園長は私と同世代です。動物たちが本当に好きなんですね。その息づかいが、そくそくと伝わってきます。
ハツカネズミは、出産したあと、人間にのぞかれただけで不安になり、自分が生んだ子を食べてしまった。わが子を殺されるくらいなら、自分で食べて殺してしまったほうがまし、と本能的に考えた。うむむ、考えさせられますよね・・・。
動物は、交尾や妊娠、出産といった生命の根源にかかわることに自らの身を置くとき、神経が鍼のように尖(とが)り、自分以外はすべて敵に見える心理状態になり、完全に野生状態に戻っている。
アムールヒョウの赤ちゃんは、声を立てることの危険性を本能的に知っている。どんな動物でもそうだが、動物園で世代を重ねてきたとしても、野生の心を決して失わない。アムールヒョウの母親は、子どもに何事かがあったときに、自分が助けることができなくなると判断した状況では、大きな声をあげながら子どもの首をくわえて引きずりおろし、かみついていた。事前に、危険の芽をつんでおくのだ。
哺乳類の動物の感覚で、もっとも重要なものは嗅覚だ。人間の生まれたばかりの赤ちゃんも、においで母親のおっぱいを識別できる。
アザラシの子は何の準備もなく、大自然に放り出されてしまう。ところが、持ち前の好奇心が子に食べ物を教え、飢えから救う。こうして、好奇心の強い子だけが生き残るので、アザラシは「種」として、好奇心の強い動物になっている。なーるほど、ですね・・・。
オオカミは、例外的に父親が子育てをする、まれな動物である。
オオカミの遠吠えは、子どもたちが1ヵ月ほど、父親の真似をして身につけるもののようです。それは父親が1日に何度も、根気よく練習されていた努力のたまものだ。
旭山動物園には私も行ったことがあります。この本を読んで、また行きたいと思いました。
とりわけ、日本では絶滅してしまったオオカミの生態について関心があります。
(2013年12月刊。1300円+税)
2014年2月24日
狼が語る
著者 ファーリー・モウェット 、 出版 築地書館
カナダ人が、北極圏で狼の身近なところ、もちろん大自然のなかです、一人でテントを張って居をかまえ、じっとオオカミの生態を観察した記録です。
信じられないような話のオンパレードなので、本当に体験記なのかを疑いたくなります。
1921年生まれのカナダ人である著者は兵士として第二次大戦の戦場にも行っています。それだから、こんな北極圏でのオオカミ生態調査という恐ろしい仕事に従事できたのでしょうね。
ホッキョクオオカミは、体重80キロほどもある。鼻先から尾の先まで260センチ。肩までの高さは100センチ。
著者がオオカミの観察を始めて何日かすると、何世紀にもわたって普遍的に受けいれられてきたオオカミの性格についての人間の観念は明々白々な嘘だということが分かった。オオカミたちは、「残忍な殺し屋」ではなく、慈悲深く、軽蔑をこめながらも自制した態度で、著者に接した。
北極圏でもっとも血に飢えた生き物は、オオカミなどではなく、飽くことを知らない蚊の大群だ。
オオカミは、週に1度、一族で家族の土地を巡回し、境界の印を更新する。これは、一種の、オオカミ式抗打ち作戦だ。
オオカミは、きわめて規則正しい生活を送る。しかし、なお、決まったスケジュールに、ただ闇雲に従っているだけでもない。夕方早く、オオカミのオスは猟に行く。それは4時ころのこともあれば、6時か7時ころのこともある。夜の猟に出かけるが、それは家族の縄張り内に限定されている。通常の猟では夜明けまでに50~60キロの距離をカバーする。日中は、眠って過ごす。
メスの狼と子どもたちは、昼型の生活を送る。夕方、オスが出かけると、メスは巣穴に入り込み、そこにとどまる。ときに、大急ぎの軽い食事をとりに食糧貯蔵庫に出かける。
食物を巣穴の近くに蓄えたり、食べ残しをそのままにしておくことはない。いつも、当座に消費するだけの量が運び込まれる。
食糧貯蔵庫は、近くに巣穴をもつキツネも使っていた。オオカミはキツネと共存している。オオカミの使っている巣穴のほとんどは、キツネが放棄した巣穴であり、オオカミがそれを拡張したものだった。
オオカミのメスは、ただ一頭のオスとしか関係を結ばないし、しかも、一生連れそう。オオカミは厳格な一夫多妻主義である。
オオカミは、ネズミを丸ごと食べ、お腹につめて単に戻る。そして、子どもたちの前で、すでに半分消化されたものを吐き出して与える。
オオカミは自分たちの言語をもち、仲間同士で会話している。遠吠え、嘆き声、震え声、クンクンいう声、不満の声、怒りの声、キャンキャン声、吠え声。お互いの声に知的に反応する。
オオカミは犬より長生きする。20歳のオオカミもいる。
オオカミでは、実際の親が誰なのかは、たいして重要ではない。孤児という言葉もない。
交尾するのは、通常3月の2、3週間だけ。
メスの狼は2歳に達するまで出産しない。オスは3歳になるまで子どもを作らない。
繁殖可能年齢に達するまで、若者オオカミたちは両親のもとにとどまる。
年寄りオオカミ、とくに連れあいを亡くしたオオカミたちは独身のままでいることが多い。
オオカミは、体内に組み込まれた産児制限メカニズムによって抑制されている。食料となる動物が豊富なとき、あるいはオオカミの数がわずかなときは、メスは8頭といったように多くの子どもを産む。しかし、オオカミの数が多すぎたり、食料が少ないときには、1回の出産数は1頭あるいは2頭まで減少する。
健康なオスのカリブーは簡単にオオカミから走って逃げられるし、生後3週間の子どもカリブーでも、特別に足の速いオオカミ以外なら逃げきることができる。だから、カリブーはオオカミを恐れる必要がない。オオカミが追跡の標的に選ぶのは、もっとも弱い個体か、何らかの欠陥をもったカリブーだ。
オオカミは、決して楽しみのためにカリブーを殺したりはしない。労力の節約こそ、オオカミの行動指針だ。捕獲に適した虚弱なカリブーに出会うまで試験(テスト)の過程は、しばしば何時間にも及ぶ。いったん、そうした個体が選び出されると、狩りは新たな展開を迎える。攻撃するオオカミは、長い探索のあいだ保持してきたエネルギーを思いきり発散し、見事なスピードとパワーの高まりのなかで餌食を追い、カリブーの背後に迫る。
オオカミをやみくもに危険視するのは間違っていることを実感させる本です。
(2014年2月刊。2000円+税)
2014年2月16日
足下の小宇宙
著者 埴 沙萠 、 出版 NHK出版
NHKテレビで放映されて、大きな反響を呼んだそうです。私は残念ながらそのテレビ番組はみていません。
でも、なるほど、ほんとうに見事な写真ばかりで、ついつい見とれてしまいます。
著者は大分県出身ですが、今は群馬県みなかみ町の山里に住んでいます。82歳の植物生態写真家です。
名前は、「はに しゃぼう」と読みます。シャボテンの研究からスタートしたことを反映した名前です。
ツチグリというキノコは、雨で濡れて、胞子袋も濡れて、膨らんで、雨つぶがあたると胞子が噴出する。
著者は、なんと、その胞子が噴出する一瞬を写真に撮るのです。
カテンソウも同じ。花粉袋がオシベの柱からはずれると、「ピン!」と弾けて、その勢いで花粉が放り出される。
花粉が飛び出る瞬間の撮影のときには、閃光時間が2万分の1秒という特別なストロボを使わなければいけない。
春先に我が家にも出てくるツクシの胞子を顕微鏡をつかって撮影する。
その胞子が散る様子を写した写真には躍動感があります。
二つに分かれた日本の手が、バネのように伸びたり、縮んだりする。息を吹きかけると、ダンスするように踊り出す。
シャボテンは、私も庭の一角で栽培しています。そのシャボテンが乾燥した地面にもぐり込んでいる写真があります。驚きのワザです。
ホームページもあるそうですので、私のお気に入りに登録して、ときどきのぞいています。
(2013年11月刊。1600円+税)