弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

生物

2015年8月24日

心地いい里山暮らし

(霧山昴)
著者  今森 光彦 、 出版  世界文化社

 うらやましい里山生活の日々を写真で紹介している楽しい本です。
 著者は高名な写真家です。生物や自然をたくさん撮ってきました。そして、ペーパーカット作家でもあり、この本にも見事な作品が紹介されています。
 琵琶湖の西岸、大津市の郊外に居を構えたのです。近くには棚田があります。アトリエをつくり、雑木林があり、ガーデニングエリアをもうけました。近くには水田環境もあります。四季折々の花や蝶そして小鳥たちの素敵な写真が紹介されています。私も花の名前を前よりは知っていますが、著者は知識は数段上回ります。
アトリエの庭先にテーブルを出して休憩中の著者の写真が紹介されています。緑ふかいなかで、時間がゆったり流れていくのです。うらやましいほど、ぜいたくなひとときです。
 ガーデニングをも、私とは違って、明確な目的があります。たとえば、チョウの集まる庭づくりです。
幼虫のエサになる食草も、チョウによって異なる。そして成虫となったチョウの好む花も異なっている。アゲハチョウは、ミカン類が好き。カラタチに目がない。エノキは、オオムラサキ、ゴマダラチョウ、ヒオドシチョウに欠かせない。
 そして土づくりにも精を出します。これは私も及ばずながら努力しています。我が家の庭も、黒づんで、ふかふかしています。おかげで、ミミズも大盛況。そして、モグラが生活しています。
著者が私と違うもののひとつが料理です。いかにも美味しそうな料理に挑戦します。もちろん、地元産の食材をつかうのです。
 里山生活には、いろんな不便も実際にはあると思うのですが、こんな素晴らしい四季折々の風景写真を眺めると、里山生活を誰だって堪能したくなりますよね・・・。といっても、私自身も自然のすぐ近くで生活する楽しみを、日々、実感しています。
(2015年4月刊。2000円+税)

2015年8月 3日

先生、洞窟でコウモリとマナグマが同居しています

                                (霧山昴)
著者  小林 朋道 、 出版  築地書館

 なんと、この先生シリーズも9冊目です。第1刷は2007年3月に出た『先生、巨大コウモリが廊下を飛んでいます』でした。それからの8冊は、このコーナーで全部を紹介させていただきました。
 鳥取環境大学の教授がキャンパスの内外での自然観察を軽妙なタッチで面白く紹介しています。この大学にはヤギ部があります。今や7頭ものヤギが飼われていますので、世話をする学生は大変だろうと推察します。
 ちなみに、ヤギは1歳で成熟し、メスなら子どもを産めるそうです。
 ヤギが出産した状況は、なるほど、人間とはまるで違います。ヤギの赤ちゃんはうまれて1日か2日は母乳を吸わないで生きているようなのです。ええっ、そ、そうなの・・・。おどろきました。そして、赤ちゃんヤギには乳母が登場します。なんと、出産していないのに、乳母のヤギに乳が出るようになるというのです。本当に不思議な現象です。
 先生は、洞窟探検に出かけます。勇気がありますね。私なんか、とてもダメです。お化けが出てきたら、どうしますか・・・。そして、ヘビがいたら、どうするのでしょう。実際、洞窟内には、とぐろをまいたアオダイショウがいました。うひゃあ、こ、怖い・・・。
 そして、洞窟内にいるコウモリを種別に観察するのです。コウモリの顔って、はっきり言ってグロテスクですよね。よくよく見たら、案外、可愛いのかもしれませんが、あまり好きになれそうもありません。
 私が小学校の低学年のころは、なぜかコウモリが夕方になると、家のまわりを何匹も低空飛行していました。長い物干し竿をもって、コウモリをはたき落として遊んでいました。今思えば無用の殺生の典型ですが、子どもの私にとっては単なる面白い遊びの一つでしかありませんでした。
コウモリは、犬のような格好で水を飲む。
 コウモリは、紙にしがみつき、引きちぎり、紙を食べる。
 「先生」は、ヘビは何ともないのです。平気です。ところが、なんとヘビに比べようもない無害そのものの大ミミズが怖いというのです。なんという逆転現象でしょうか。信じられません。
 サルには、ヘビだけに特別強く反応する神経が見つかっている。人の脳も同じような神経を指定する遺伝子があるのではないか・・・。私も、きっとあると確信しています。だって、本能的反応なのですから・・・。
 いつものように写真がたっぷりありますので、生きものたちの自然な姿がよく見え、素直な文章によって理解が深まります。
 「先生」のますますのご健筆を祈念します。
(2015年6月刊。1600円+税)

2015年7月21日

ハトはなぜ首を振って歩くのか

                               (霧山昴)
著者  藤田 祐樹 、 出版  岩波科学ライブラリー

 鳥の飛行ではなく、歩行を研究している学者がいるのです。驚きました。
 たしかに、ハトが地上を歩いているとき、異様なほど左右に首を振って歩いていますよね。でも、それがなぜなのかって、私ら一般人は考えに及びません。ところが、学者は、ほかの鳥類と比較しながら、その謎を解明していくのです。そこには、涙ぐましいウソのような努力と工夫があるのです。この本を読んで、そこあたりを理解しました。
ハトは歩行するが、スズメはホッピングする。スズメは歩行を基本的にしない。やればできるけれど、普通はやらない。
 ハトは歩きながら頭を静止している。ハトが歩くと、体はおおむね一定の速度で前進する。体が前進しているのに、頭を静止させるためには首を曲げて縮めなければならない。首をある程度まで縮めると、今度は首を一気に伸ばして頭を前進させる。この動作の繰り返しが、歩行時の首振りの実態なのである。
 景色が動くと、ハトは首を振る。ハトに対して景色が動くと、ハトは景色に対して頭を静止させようとして、首を動かす。これは、景色を目で追っているということ。
 ハトの視野は人間よりずっと広くて316度もある。真後ろ以外は、だいたい見える。その代わり、左右の視野の異なる部分が小さく、たった22度しかない。
鳥類の眼球は、頭の大きさに比べて非常に大きい。視覚情報をより正確に得るためには、眼球が大きいほうがよい。眼球が大きいとそれだけ網膜も大きくなり、視細胞を増やすことができる。眼球が動かないなら、首を動かせばいい。
 ハトの首振りは、視覚的な理由がある。鳥の目は横を向いているので、ハトが歩くと、景色は視軸に直交する向きに流れる。その景色を目で追う必要がある一方、鳥の眼球は大きく、形もやや扁平で、きょろきょろ動かしにくいから、頭を景色に対して静止させる。それが首振りである。
 首を振りながら歩く鳥たちは、みな歩きながら食物を探してついばむタイプの鳥たちだ。眼球運動が十分にできず、視軸が横を向いている鳥たちは、視覚のブレを軽減するために、よく動く首で頭の位置を調整している。それが首振りの一番大切だ。そして、首振りは、歩行の安定性を高めるタイミングで行われ、首を振る鳥たちは、歩幅が大きく回転数の少ない歩行をしている。歩きながら食べ物を探し、ついばむタイプの採食行動が首振り歩きと関係している。近距離の視覚情報をきちんと得る必要があるので、そのためには視覚のブレを少なくする必要がある。
 学者ってスゴイですね。仮説を立てて、それを観察データから実証していくのです。
(2015年6月刊。1200円+税)

2015年7月13日

植物の体の中では何が起こっているのか

                               (霧山昴)
著者  嶋田 幸久・萱原 正嗣 、 出版  ベレ出版

 植物にも、植物ホルモンと呼ばれる化学物質があるのだそうです。
 植物の体内でつくられ、ごくわずかの量で自身の成長や反応を調節する働きをする。植物ホルモンには、オーキシンとベレリン、エチレン、サイトカイニンなど9種がある。
 人間が地球上で生きられるのは、呼吸のための酸素があるから。そしてオゾン層で紫外線から守られているため。これは、いずれも植物のおかげだ。
 植物は光合成で酸素をつくり出し、酸素は紫外線にあたってオゾン層となり、それが上空に集まってオゾン層を形成する。
 植物は、二酸化炭素と水からエネルギー源である炭水化物とつくり出す。生きていくために必要なエネルギーを自分でつくることができる。
 花の誕生は、植物のみならず、その後の生物の進化における画期的な出来事だった。
植物は生まれた場所でじっと動かずに生きているが、その一生は変化に富んでいる。
 光合成によって炭水化物に固定される化学エネルギーの総量は、世界のエネルギー需要の10倍に相当する。光合成は、この地球上で行われている、もっとも巨大なエネルギー変換である。しかし、葉っぱが集めた光のエネルギーのうち、じっさい光合成に活用できるのは4分の1弱でしかない。
 地球上に降り注ぐ太陽光のうち0.1%のそのまた5%、地球に届くエネルギーのわずか0.005%を元手に、植物は地球上の生命活動のほぼ全てを支えている。光合成とは、光のエネルギーを元手に化学エネルギーを蓄えた炭水化物をつくり出す、エネルギーの変換作業といえる。
 植物は光のもたらす過剰なエネルギーから身を守るためのさまざまな仕組みを備えている。
 ヤナギから採取され、人の解熱剤として使われていたのが、植物ホルモンとして認定されたサリチル酸。医薬品としては「アスピリン」。
 ツタンカーメン王の墓から見つかったエンドウのタネは芽を出して花を咲かせた。3300年前のタネ。
 私たち人間の細胞のなかにあるミトコンドリアも、元をたどれば光合成の能力を蓄えていた。
 人間は、有機物や酸素の生産を植物に頼っているという以上に、もっと深い細胞の仕組みの次元で、植物と分かちがたくつながっている。人間が生きる仕組みの一部(呼吸)は、植物が生きる仕組み(光合成)から派生したものである。
 植物を知ることが人間を知ることにもなるという、想像以上に面白い本でした。
(2015年5月刊。1800円+税)
 なかなか梅雨が明けません。むし暑い日が続いています。
 土曜日に帰宅したら、先日の仏検の結果を知らせるハガキが届いていました。恐るおそる開封すると、「不合格」の文字とともに、74点だったというのでした。
 ヤッター!内心、叫んでしまいました。150点満点で5割りなんて、過去最高です。自己採点の70点より4点も上回っていました。もっとも、合格基準点は6割に近い88点ですから、まだまだ道は遠いのです。それでも、あと14点まできたのですから、もう「不可能」ではなくなりました。引き続き、毎朝のNHKフランス語と毎週の日仏学館通いをがんばります。

2015年6月29日

愛猿奇縁

                               (霧山昴)
著者  村﨑 修二 、 出版  解放出版社

 猿回し復活の旅というタイトルのついた本です。猿回し芸の実際がよく分かります。
 猿は、着物を着るとか、烏帽子をかぶるのを大変いやがる。そうなんですね・・・。この本を読むまで、猿は平気でチャンチャンコを着ているとばかり思っていました。
 猿回しは室町時代に一般化し、戦国時代から爆発的に増えた。戦国時代に生活の手段としての「軍兵」をやっていた人々が、戦がなくなり、生まれた土地に帰れず仕事もないという中で、大量の流浪の民が生まれた。この流民たちが大道芸、放浪芸をするようになり、たくさんの河原者(かわらもの)が生まれた。
江戸時代、浅草には猿屋があって、猿を売っていた。
 猿の性格は、みんな違う。十人(猿)十色。
 「反省」のポーズをしている猿は、単に休憩しているだけ。それを口上で「反省」と解説してやっている。
猿飼の基本は、猿を健康にすること。まず首輪をつける。2,3日もしたら猿は首輪になれる。二番目に紐のたすきがけをする。
 猿が一番きついのは、しばられること。そうとうな恐怖を感じて、一日中うずくまって動かないし、オシッコもウンチもたれ流してしまう。
猿の要求は、外へ出て遊ぶこと。猿が小さければ小さいほど遊びたい。外に出て自由に遊びたかったら、たすきをかけてもらうしかない。じっとこらえて、タスキをかけてもらうまで待つようになる。タスキをかけたとたん、飛び出して、いさんで遊びまわる。
 猿が舞台で芸をするのは、外に出られて、皆にほめられ、あとではご褒美でおいしいものを食べられ、休める。猿は外へ出ると喜ぶ。それで、またオリに入りたがる。休めるから。
 ただ、ずっと家にいると旅に出たがる。旅が長くなると、猿は今度は帰りたがる。
 猿まわしは、使う人と仕込む人が分業化している。
猿は飼い主のもとで、衣・食・住のすべてに責任をもってもらって毎日を過ごす。猿は家族なのだ。細やかな芸や動作を仕込むときには、今の仕草のどこが悪かったのか、すぐに知らせてやる。あとではダメ。
 猿は、非常に恐怖心が強い。そして、好奇心が強く、すぐにほかに目が行ってしまう。
 猿が、「もう、あんたがおらんと、私は困る」と言う関係を、一年ほどかけてつくりあげる。
 罰には、当面なくしたいと思うときには効果があるけれど、永続性がない。罰を与えると、その場ではやらなくなる。でも、罰を与える者の目が聞かないところでは、かえってひどくなる。
 早く調教したほうがお金になる。しかし、長い目でみれば、本仕込みで、のんびりと猿と旅行したほうが、みんなから好かれるし、猿も長生きする。
 猿がゆっくり歩行するのは難しいこと。走るのは本能的に出来る。しかし、ゆっくり歩くためには随意性の筋肉をコントロールしなければいけない。
猿の子どもを親離れさせる前は、6ヶ月間、母親にしがみつかせる。とにかくしがみついていて、あの感覚を自分の皮膚できちんと感じるのが、猿にとって大切なことだ。
 猿は体温調節がすごく悪い。だから、猿を追っかけて15分以上というのはヤバイ。続けると、体温が上がりすぎて、ショック死してしまう。
 猿は気に入っていると、耳をかんでくれる。「あんた、好きだ」と・・・。話す代わりに、猿はかんで感情を伝える。
 猿のことがよく分かる本でした。
(2015年4月刊。1800円+税)

2015年6月15日

タコの才能

                               (霧山昴)
著者  キャサリン・ハーモン・カレッジ 、 出版  太田出版

 オクト・パスは受験生必勝グッズです。
 タコは8本の足に3つの心臓をもち、変幻自在に皮膚の色を変えることができる。血液は青く、賢い生物。
 タコは、一生のほとんどをひとりぼっちで過ごす。タコは繁殖のときのほかは、仲間と付き合おうとはしない。タコは単独行動で、引っ込み思案のうえ、夜行性である。
 タコは、タラやイカとちがって群れない。巣穴にひとりで暮らし、ひたすら人目を忍んで自分の居場所を確保する。タコには、縄張り意識はあまりない。
 タコのスミには、チロシナーゼという成分が含まれている。敵の目をひりひりさせ、嗅覚や味覚を混乱させて追っ手をまくためのもの。
 タコはアメリカの食卓では、めったに見かけないにしても、世界じゅうでは何百万人もの人々が口にしている。アジアや地中海では、何千年もの前からタコは定番料理になっている。
 タコは、ほぼ全身が筋肉と言ってよい。だから、タコを捕まえたら、石で30~40買いたたくべきだとも言われる。タコは冷凍すると、食感が良くなる。冷凍されると、いちだんと身がやわらかくなる。
タコを解剖すると、青い血が出る。タコの血は、酸素を含んでいるときには青く、酸素が欠乏してくると、だんだん色味が薄れて透き通ってくる。
 タコは、横歩きするカニや逃げようのない二枚目が好物だ。
 太平洋のタコは、1時間のうちに177回も色や模様を変えることができる。
 タコには、3億個の神経細胞がある。人間は1000億個だ。
 タコは、おもちゃと遊ぶのを好む。
 タコって、賢いのですね。バカには決して出来ません。それにしてもタコ焼きって久しく食べていませんが、おいしいですよね。タコの見直しを迫られる本です。
(2014年3月刊。2300円+税)

2015年6月 8日

ネムリユスリカのふしぎな世界

                              (霧山昴)
著者  黄川田 隆洋 、 出版  ウェッジ

 生物とは何か、死ぬとは、生き返るとは何のことか・・・。
 いろいろと根本的なことを考えさせてくれる生物がいることを知りました。それも、アフリカの灼熱の地に生きる小さなユスリカの話です。
 カラカラに干からびても、水をかけるだけで、たちまち息を吹き返す。100度に近い高温にも、マイナス270度という超低温にも、人が耐えられる1000倍近い放射線にも、アルコールに1週間浸しても、全然平気。宇宙に放り出しても死なない状態で存続し続ける。
 ネムリユスリカは、アフリカにしか生息しない昆虫だ。ナイジェリアに多く見られる。
 ネムリユスリカは、卵の時期から2~3日間、幼虫の時期が1ヶ月間、さなぎが1~2日間、成虫が2~3日間。幼虫の時期が一番長く、その本来の姿だと言ってよい。
 成虫は口がなく、血も吸わない。エサを食べられないので、成虫になったら、すぐに交尾をして、卵を産む。
 幼虫のときに、乾燥耐性(アンヒドロビオシス)の能力が発揮される。卵やサナギ、成虫の時期には、この乾燥耐性は発揮できない。
 ネムリユスリカは、身体を構成するさまざまな細胞のすべてが乾燥という情報を受けとり、乾燥の準備をする。細胞のなかだけの自己完結的なメカニズムで乾燥耐性が実現できている。
 水がなくなったとき、水があった場所と置き換われるように、たんぱく質の表面にトレハロースがくっつくことで、タンパク質が形を変えずにすむ。つまり、体のいろいろな成分の元々の状態を維持させることができるので、水がなくなっても細胞が壊れることがない。
 トレハロースには、2つの特質すべき能力がある。たんぱく質や細胞膜、油の成分の表面にとりついて、水の変わりの役割をするだけではなく、水が元々あった空間の領域も、自分がガラス化することで空間を埋めてやる。
 乾燥というシグナルあるいはストレスが来て初めてグリコーゲンを分解してトレハロースに変える。グリコーゲンを全部分解して、トレハロースに入れかえるのに、2日間かかる。
ネムリユスリカは、乾燥すると、大量のレアたんぱく質をつくる。
 ネムリユスリカでは、27個のさまざまなレアたんぱく質がたまることによって、全たんぱく質の10%以上を占め、それが乾燥耐性に寄与している。
 たんぱく質は、温めたり、干からびたりさせると固まりやすくなる。
 乾燥した時期に、レアたんぱく質とトレハロースが一杯たまることによって、体の細胞の中味を保護している。凝集しないように保護することで、水に入れたときにすぐに元に戻るようにしている。
 ネムリユスリカは、劣化してしまったアスパラギン酸になったものを治す酵素があるおかげで、イソアスパラギン酸に戻すことができる。
 本当に不思議きわまりない生き物です・・・。しかし、よくもこんなことを発見したものです。
(2014年7月刊。1600円+税)

2015年6月 1日

森にすむ人々

                               (霧山昴)
著者  前川 貴行 、 出版  小学館

 森にすむ人々というので、ジャングルのなかに今も生活している集落を紹介するのかと思うと、まったく違います。サルやチンパンジー、ゴリラや、ボノボなどを紹介した大判の写真集です。
 「彼らと我々は、同じヒトの仲間である」
 このように表紙に書かれています。本当に私もそうだと思うのですが、現実には、「彼ら」は絶滅しかかっています。人間(ヒト)が彼らの安住できる環境を大々的に奪いつつあるからです。諸悪の根源は、まさしく人間なのです。
 ジャングルのなかの彼らの生態が、こんなによく撮れるものかと、思わず驚嘆してしまうほど、よく撮れています。
 オランウータンは、雨が降ると、濡れるのをいやがり、葉の茂った枝をかき集めて、頭に載せます。
 ゴリラの子どもたちが仲良く遊んでいる様子も可愛いですね。
オスの大人のゴリラは、シルバーバックと言われるように、でっかい体格をしていて、背中が白くなっています。ところが、平和主義者で、草食なのです。ヒレアザミが鉱物なので、大きな口を開けてかじります。
チンパンジーは、イチジクの実が大好物です。そして、アカンボウを背中に乗せて、母チンパンジーは森の中を自由に移動します。
 森の中の大型類人猿の迫力あるアップ写真を眺めると、彼らにも個性があり、「人格」というか威厳があることがよく分かります。
 たかがサルなんて言うことは絶対にできないド迫力の写真集です。せめて図書館で手にとって眺めてください。
(2015年3月刊。2700円+税)

2015年5月18日

新世界ザル(上)

                                (霧山昴)
著者  伊沢 紘生 、 出版  東京大学出版会

 学者って、本当に偉いと思います。南アメリカのジャングルの中に入って、毎日、サルをじっと観察し続けるのです。すごいです。その大変な苦労のおかげで、居ながらにしてサルのことを知り、人間とは何者なのかを少しずつ理解できるのです。
 アマゾンのジャングルでの調査を30年も続けてきたということに、まず感嘆します。私も、いつのまにか弁護士生活40年を過ぎてしまいました。私も現役ですので、判決も勝ったり負けたり悲喜こもごも毎日を過ごしています。人間相手の仕事ですので、アマゾンのジャングルではありませんが、人間ジャングルの中でもがいているという実感はあります。
 新世界ザルは、熱帯雨林の樹上をもっぱらの棲みかとして、ゆっくり進化していった。ないし、長い時間をかけて森林の樹上になじみきってしまったサルたちだ。
 熱帯雨林こそ、サル類を誕生させ、進化させた元々の環境なのである。
ホエザルは、新世界ザルのなかでは、とりわけ神経質なサルである。人への警戒心も強い。林床からは決して見えない樹々の茂みに逃げ込んだら、1時間でも2時間でも隠れ続け、出て来ない。
 そのホエザルを著者は追い続けるのです。
 水平に延びるツタの中ほどで止まる。ホエザル8頭全員が身体を寄せあって、来た順に横一列に並ぶ。そして、次の瞬間、一斉に大量の小便をし、続いて大量の糞を排泄する。
 ホエザルは、早寝遅起のサル。朝8時過ぎに起き、夕方は、まだ森の中が明るい午後4時ころには寝てしまう。
 まさか、一日のうち16時間も寝ているなんて・・・。おどろきです。
 ホエザルは、移動ルートを3日から5日で一周する。かなり規則正しい生活を送る。
 ホエザルは大声で吠える。しかし、それ以外は、めったに鳴かない。お互いの毛づくろいをほとんどしない。
 ホエザルに表情の変化はほとんど見られない。喜怒哀楽が、表情から伝わってこない。
 ホエザルは葉っぱ食いの道を選んだ。葉を食べて生きるには、直接消化できないセルロースをバクテリアによって発酵させなければならず、そのぶん休む時間が長くなる。それに発酵によって熱が発生するため、体温調節からいっても、できるだけ緩慢に動くほうがいい。
 ホエザルのオスの寿命は、20年ほど。オスにとっては、生きのびるのも大変、中心オスになるにも大変、子孫を残すのも大変な社会だ。
 フサオマキザルは、新世界のなかで、これほど表情豊かなサルはいない。
 フサオマキザルは、介護サルとしても活躍している。手足が不自由で、車いす生活を送る人の日常生活を手助けする。フサオマキザルは、動物園では、最長47年も生きる。
 すごいですね。ずっとずっとアマゾンのジャングルで寝泊まりしていたなんて・・・。
(2014年11月刊。3600円+税)

2015年5月11日

パンダ

                                 (霧山昴)
著者  倉持 浩 、 出版  岩波科学ライブラリー

 ネコをかぶった珍獣とされています。パンダのことです。
 上野動物園で10年以上もパンダの飼育係をしている人によるパンダ紹介本ですので、パンダの素顔、その正体を知ることができます。
 飼育員にとって、パンダは敬遠されがちだ。なぜなら、とても気をつかう動物だから。
 パンダは、基本的にただのクマだ。だから、パンダのいる部屋に一緒に入ったことはない。飼育係をしていると、かわいいと思うよりも、むしろ怖い思いをすることの方が多い。
 パンダは、昼も夜も寝ている。夜の方が寝ている時間が長いので、夜行性というのでもない。
 飼育されているパンダの寿命は25歳。野生では20歳ほど。
 パンダの赤ちゃんは100~200グラムで生まれ、大人になると100キロにまで成長する。
 一頭のメスが生涯に育てられる子どもはせいぜい6頭。
エサはタケ。毎日5~6種類を与える。副食としては、ニンジンやリンゴ、パンダだんご(トウモロコシや大豆の粉などでつくるエサ用の蒸しまんじゅう)。
 パンダの視力は、良くて0.3ほど。それでも、パンダは自分の飼育係は目で追っている。
 パンダは、おいしいか、おいしくないか、匂いで選び分けているようだ。
 金属音や震動音は嫌がる傾向が強い。
 パンダの足腰の関節は、とても柔らかい。
 パンダは高いところに登るのが大好き。幼いパンダほど、よく木に登る。もっとも、降りるのは苦手。驚いたり不安になったりしたとき、パンダは高いところに上がる傾向がある。
 パンダの主食のタケは、ほとんど消化吸収されないので、そのままの色で排泄される。だから、パンダのフンも多くはタケ色だ。フンは笹団子のような匂いがする。匂いも悪くはない。
パンダの食事の90%以上はタケなのに、盲腸はもっていない。
 パンダは、クマの一種であり、肉食を忘れてはいない。
パンダも鳴いている。お腹がすいた時、不満や要求がある時には、メーメーとヒツジのように鳴く。怒ったときには、「ワン」と、犬のように鳴く。
 発情期のオスとメスは、メーメーというヒツジ鳴きと、「キュッキュッ」というような鳥泣きでコミュニケーションをとっている。メスが雄を選ぶ時には、体格やルックスだけでなく、声にも好みがある。
 パンダにとっては、ひとりボッチのほうが性にあっている。パンダは単独生活で、孤独を愛する派なのだ。しかし、パンダは、3歳位までは共通の施設で育てている。
 パンダも病気になる。野生のパンダの多くは寄生虫に感染している。
 パンダの受精のチャンスは1年に1度しかない。
可愛らしいパンダの現実を知ることのできる新書です。
(2014年9月刊。1500円+税)

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