弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

生物

2014年10月 6日

ペンギンが教えてくれた物理のはなし


著者  渡辺 佑基 、 出版  河出ブックス

 不思議な信じられない話のオンパレードです。世界は不思議とミステリーに満ち満ちているんですよね・・・。
 バイオロギングによって明らかになったこと・・・。
・アホウドリは46時間で地球を一周する。
・ウエッデルアザラシは、1時間ほど息を止める
・クロマグロは太平洋のハシからハシまで横断し、また戻ってくる
・グンカンドリは、3日3晩、着地することなく、ふわふわと舞い続ける。
 ええーっ、みんな、それってホントなの?と、問い返したいことだらけですよね。
 アホウドリは2年に1度しか子育てをしない。アホウドリのヒナは大きいので、ヒナが要求するだけのエサを運ぶのは親鳥にとって肉体的な負担が大きすぎるので、1年働いたら、翌年は休憩するというサイクルになっている。アホウドリが東向きに地球を一周するのは、偏西風に乗っているため。
 青森県の大間(おおま)で水揚げされる体重100キロ以上の大きなクロマグロは、日本の近海で生まれ育って、アメリカ留学を経験した、インターナショナルなクロマグロだ。
 体重250キロの大きなクロマグロは、平均時速7キロで泳ぐ。
 マグロの体温は高い。マグロは、まわりの水温よりも10度ほど高い体温を常に保っている。体温が高いと筋肉の活性が上がるので、マグロは尾びれをすばやく振り続けることができる。尾びれの振りの速さは、そのまま遊泳スピードに直結するので、マグロは他の魚に比べて早く、持続的に泳ぐことができる。
 しかし、クロマグロがなぜ太平洋を横断するのか、その理由は今も判明していない。
 ペンギンは生態系の頂点に立つ捕食動物である。だから天敵はいない。その代わり、種内の争いが熾烈だ。
ペンギン、アザラシ、クジラ、みな時速8キロがいいところだ。いずれも、バイオロギングの成果である。
 つまり、マグロの時速80キロ、カジキの時速100キロというのは、まったくの間違いだ。ええっ、そ、そうなの・・・、と思わずうなってしまいました。
 あの大きなマンボウは、浮き袋なんか持っていない。では、どうやって浮いていられるのか・・・?
 特殊なゼラチン質の皮下組織から浮力を得ていた。ウェッデルアザラシは、東京タワーをすっぽり包むほどの300~400メートルの深さまで、毎日、繰り返し潜っている。1回の潜水は20分ほど。深さで741メートル、長さ67分というのが最高記録。ゾウアザラシはもっとすごくて、その最深潜水は、1日35メートル。
 マッコウクジラがより深く潜水するのは、体が大きいから。体重が50トンもあり、長く息を止めることができる。酸素保有量に対して、酸素消費量のきわめて大きいシロナガスクジラは、実はまめまめしく水面に出て呼吸している。
 日本の近海でみられるアカウミガメは、潜水時間10時間という記録がある。アカウミガメは、変温動物である。恒温動物よりも省エネだ。
 アザラシは、息を吐き出してから潜りはじめるのは、潜水病という地誌的な病気を避けるため。アザラシが体内に持つ大きな酸素ボンベは、肺ではなく、血液と筋肉なのである。ヘモグロビンは、酸素の運搬装置としてだけではなく、酸素の貯蔵庫としても機能している。
 アザラシは、赤血球の量が多い。濃い血をたくさんもっているから、血中にたくさんの酸素を貯蔵できる。そして、筋肉、赤黒い筋肉は、酸素と結合している。
 海中の動物について、こんなに研究がすすんでいるのですね。驚嘆しました・・・。
(2014年7月刊。1400円+税)

2014年9月 8日

小さき生物たちの大いなる新技術


著者  今泉 忠明 、 出版  ベスト新書

 バイオテクノロジー(生物工学)というのは、よく聞かれる言葉ですが、バイオミミクリー(生物模倣)という言葉は聞いたことがありませんでした。自然をよく観察してヒントを得て、その優れた点を真似することで効率のいい進んだ技術を生み出すというものです。
 新幹線の先頭車両の形状は、カワセミのくちばしから頭部にかけての形状に似せている。
 フクロウが音を立てずに飛ぶことのできる秘密は風切羽にある。端が綿毛のようにほつれているため、翼を羽ばたいて飛ぶときにも音がほとんど出ない。そこで、新幹線のパンタグラフの支持装置に風切羽をまねたギザギザを付け、30%の騒音削減に成功した。
 フンコロガシは、糞球の頂上にのぼって「ダンス」をすることによって、どの方向から光が来ているのかを認識して自分の進むべき方向を定めている。
 暗い夜には、脳は小さく、視力の弱いフンコロガシは、天の河の星々の光を頼りにまっすぐに糞をころがして進んでいく。これが、自動車の夜間運転支援システムのヒントになった。赤外線カメラでとらえた映像をディスプレイに表示し、夜間の視界を拡大することによって安全走行に寄与しようというもの。
 カメレオンの体色が代わるのは、皮膚細胞に白・赤・青・黄・黒の粒があり、紫外線を浴びると、その粒の大きさに変化が生じて、体色が変化する。
 温度によって光る色が変わる染料を開発した北大チームは、紫外線をあてると光る希土類(レアアース)に着目した。温度によって色が変わる「カメレオン発光体」は、宇宙船の開発に大いに役立っている。この塗料を機体表面に塗って、その色の変化によって温度を正確に検知できるというわけである。
 ガラガラヘビは、ピット器官における温度センサーが、0.002度の変化を感じるほど敏感なため、狙った動物の体温によって捕まえることができる。この熱追尾装置が追突空ミサイル「サイドワインダー」に応用されている。
 クモの糸を鳥もちの代用品として使うのが紹介されていますが、私も実際、鳥もちの代わりにクモの糸を二又の枝先にからませて、子どものころセミを捕まえていました。
 クモの糸(縦糸)は、同じ重量で比べたら、鋼鉄の5倍もの強度をもつ。人間の毛髪の10分の1の太さしかないのに、時速30キロをこえる速さでハチが飛んできても破れることなく捕まえる強度がある。
 ヤモリが窓ガラスに張り付いているのは、ヤモリの足の裏の微細な毛の先端と壁面の凹凸が分子レベルで吸い付いて、粘着力が生まれるから。
 カタツムリの殻がいつも汚れずにきれいなのは、その殻にとても細かいミクロの「溝」が刻まれているから。その溝に水が入り込んで、殻の表面にごく薄い水の膜が張られている。汚水は、殻の本体には付着せず、水にくっついているから、簡単に流れ落ちる。
 そこで、空気中の水分になじみやすい外壁タイルを開発し、雨が降ったら自動的に汚れが落ちる外壁システム「ナノ親水」をつくった。
 知らないことがたくさんあり、生物の隠れた能力を人間が少しずつ生かしていることも教えられました。生物の多様性を尊重したくなる本でもあります。
 ということは、自然をむやみに破壊してはいけないということです。大型公共工事、辺野古の埋め立てなんて、とんでもありませんよね。
(2014年2月刊。819円+税)

2014年9月 7日

生命の惑星・青島


著者  芥川 仁 、 出版  鉱脈社

 8月の初めに久しぶりに宮崎の青島に行ってきました。ところが、あいにくの大雨で、飛行機すら引き返すかもしれないという事前アナウンスが流れる始末でした。少しばかり揺れたものの、宮崎には無事に到着しました。しかし、青島のホテルについても、雨はやむことなく、せっかくデジカメを持参していったのですが、あえなく断念してしまいました。
 そんな悔しい思いを吐露していたところ、先輩の成見弁護士夫妻から送られてきたのが、この写真集です。
 宮崎日日新聞の文化欄に連載された写真と文章を本にまとめたものです。さすがに20年以上も宮崎に住んでいる写真家によるものですので、写真の質が違います。
 青島にすみつく小動物、そして植生が生き生きと紹介されています。写真の説明がまた克明です。青島が隅々まで手にとるように分かります。
 私の中学校の修学旅行先の一つが宮崎・青島でした。かつては、日本中の新婚旅行客があこがれ、集中していた、宮崎・青島は、今では見る影もなく衰退しています。それでも、気候温暖な宮崎、そして風土豊かな青島の魅力をたっぷり楽しめる写真集です。
 成見正毅・幸子の両先生、ありがとうございました。
(2014年5月刊。760円+税)

2014年8月25日

象にささやく男


著者  ローレンス・アンソニー 、 出版  築地書館

 アフリカで野生のゾウの保護のために奮闘した男性の話です。
 残念なことに、1950年生まれの著者は、2012年に心臓発作のために亡くなっています。
 そのとき、ゾウたちが長い道のりを後進して、「弔問」にやって来たそうです。ゾウは超能力をもっているのです。
アフリカ象は40万頭から65万頭ほど。ところが、2011年だけで2万5000頭が殺された。象牙のために密漁団が暗躍している。日本も印鑑のために、その象牙の密輸入国です。
 オスのゾウはメスよりも人間に近づかれても平気だ。その理由は簡単。大きなオスは、自分を守る能力に大変自信をもっているから、人間が近づいても、その分、大丈夫なのだ。ゾウが小さくなればなるほど、自信がなくなるので、より大きな空間を要求する。ゾウは、自分のことを皇帝のように偉い存在だと思っている。
 野生のゾウとつきあいたいのなら、こちらから近づいていってはならない。ゾウのほうから近づいて来るのを待つべきだ。ゾウが近づいてこないのなら、あきらめるしかない。
 ゾウにとっての不変の原則は、すべての生き物は、自分たちに譲るべきだということ。
 アフリカの野生の生き物は、最初はぐらつくにしても、生後すぐに歩き始める。地面に赤ん坊が横たわっているのでは、どうぞ召し上がってくださいとお願いしているようなもの。捕食動物の格好のおやつになってしまう。身体の大きいゾウにしても、生まれたら、出来るだけ早くその場をあとにする。胎盤の臭いで、肉食動物が集まってくるから。
 ゾウの仲間(家族)が死ぬと、ゾウたちが周囲をぐるりと取り囲む。そして、遺骨になってしまったあとも、近くを通りかかると歩みを止め、臭いをかぎながらその骨を突っつきまわし、おもちゃのようにして戯れる。それは、ゾウの亡き者を偲ぶ一つに儀式だった。
ゾウは、地球上で唯一、飛び跳ねることのできない動物である。だから、飛びおりることもできない。
 ゾウは人間の可聴周波数帯よりはるかに低いゴロゴロという音を胃のあたりで発し、数キロ離れた先からもそれを聞きとることができる。
 ゾウは金属の肌触りが好きらしく、放っておくと、何時間も自動車の車体に触り続けている。エンジンの発する熱も大好きで、とくに寒いときがそうだが、鼻をボンネットの上に長いことくっつけたままにしている。
 ゾウは、人間のゆっくりした落ち着いた動きを好む。人間が近づくときには、わざとらしく草を手で折ったり、止まって木の様を調べたりして、時間をかせぎながら、ゆっくり近づいていく。すると、鼻が伸びてきて、人間の身体に優しく触れる。
 ゾウと心を通わせるまでの苦労、そして、ゾウたちの集団との関わりが、てらいなく紹介されています。仔ゾウに、一度は触ってみたいものだと思いました。
ゾウの賢さを改めて認識させられる本でもあります。
(2014年2月刊。2600円+税)

2014年8月16日

「毎日パンダ」


著者  高氏 貴博 、 出版  平凡社

 いま、私のブログでも和歌山・白浜のパンダを連続して紹介しています。
 パンダって、本当に不思議な生き物ですよね。熊なのに、竹を主食とするなんて・・・。そして、黒と白のツートンカラーで、白い顔に黒いフチ取りの大きな目。とても愛らしくて、ついなでなでしたくなります。でも、子どもパンダはともかくとして、大人パンダだと、飼育員も同室にいるのは危険なので禁じられているそうです。
 白浜では、1時間ほどじっくりパンダを観察させてもらいました。
 小さな池に半身つかって眠りこけているパンダ。岩にもたれかかって爆睡中のパンダ。そして、やおら動きまわったかと思うと、青竹をバリバリとかみくだいて食べるパンダ。
青竹なんて、美味しいとも思えないのに、ひたすら食べるパンダの姿を見て、とてもクマの仲間だとは思えませんでした。
 初めてパンダを見た都会人は、なかに人間が入っているとばかり思ったとのこと。さもありなんですね・・・。
 この本は、なんと、上野動物園に毎日通っているという、物好きなおじさんのとったパンダの写真集です。
 パンダって、眠りながらもいろんなポーズをするのですね。それがまた、面白いのです。
通いはじめのうちは、二等のパンダの見分けがつかなかったのが、次第に即座にオスのリーリートメスのシンシンを見分けることができるようになったのでした。といっても、両者を並べてくれないと、ちょっと見分けるなんて、できませんね。
 動物園生活のパンダをいじめに来るのがカラスだというのを知り、なるほど、と思いました。パンダの背中の毛を抜いて巣材にしたりするのです。
 パンダの肩にとまったり、カラスは遊びたい放題。それでもパンダは相手にしません。別に殺し合いに発展するわけではありませんから、いいか・・・。
 パンダは、大胆のように見えて、実はとてもデリケートな動物だ。といっても、人がたくさんいても、あまり気にすることはない。
「毎日パンダ」はブログでも見られるとのことで、私も眺めてみました。
 著者は、よほどヒマな年寄りかと思うと、仕事で忙しいとのこと。青年というより壮年のようです。それでも、3時間の行列に並んでまでパンダの写真を毎日とるなんて、見上げた根性をしていますね。この著者は・・・。
(2013年6月刊。1100円+税)

2014年8月13日

オオカミ

著者  ギャリー・マーヴィン 、 出版  白水社

 日本は西欧諸国に比較すると、オオカミへの親和性の高い国だということです。
 なるほど、そうかもしれません。日本のオオカミはとっくに絶滅してしまっていますし・・・。
 オオカミは、1日あたり、3.3キロの肉を必要とする。獲物があるとき、食べられるだけ食べておく。獲物が大きいときは、大量に食べる。オオカミの成獣の胃の容量は7~9キロで、大きな獲物を食べるときには、体重の25%も詰め込む。
 オオカミの群れは、平均して3~11頭のあいだ。みな、夫婦と兄弟姉妹だ。
 仔オオカミは、1年から3年のあいだ、何をするにも両親と一緒に過ごす。
典型的な巣穴は、体高よりも広い入り口と、長さ4メートルにも及ぶトンネル。入り口は水が侵入しないように上向きのことが多い。
 繁殖するのは両親だけで、最初の年に育てた仔が、新たに生まれた仔オオカミをさまざまな方法で世話する。
仔オオカミは成獣のオオカミに遊んでもらい、その鼻面をなめて餌をせがむ。
 オオカミの遠吠えは、オオカミ自身にとって大事なことを伝えあうためのもの。たとえば、競合関係にある群れ同志が互いに遭遇してしまうのを避けるための仕組みになっている。
 群れのメンバーは、個体それぞれの感情の状態や物理的な存在を他の個体に伝える複雑なシグナルを通じて、また他の個体からの合図に対する自身の応答を通じて、その社会生活を営んでいる。
 ヒトラーは、個体的にも軍事的にも、オオカミを思わせる用語で、自らを包んでいた。自分の名前が古ドイツ語で「高貴なオオカミ」を表すコトバに語源があることを誇りに思っていた。
 ヒトラーは、お気に入りのジャーマンシェパード犬のブロンティの仔犬の一匹をヴォルフと名付けた。それは、彼が触れることを許した唯一の生き物だった。
 1930年代から、狼などの補食動物を殺戮することに疑問を感じる人々があらわれた。
 自然のバランスという視点で物事をとらえる発想が生まれた。オオカミは貴重であるだけでなく、捕食を通じて野生の草食獣の群れが健全に生存していく能力を維持するのに欠かせない役割すら演じる存在だと理解されるようになった。
 アメリカでもオオカミをよみがえらせる取り組みがすすんでいる。
日本では、もう無理なのでしょうか・・・。オオカミを見直すことも必要だと思ったことでした。
(2014年5月刊。2500円+税)

2014年8月 4日

サルなりに思い出す事など


著者  ロバート・M・サポルスキー 、 出版  みすず書房

 アフリカに単身わたって、ヒヒの群れに近づき長く研究を続けている学者の面白体験記です。といっても、著者は何度もアフリカ各地で怖い思いをし、死にそうになっています。それも、今となってはなつかしい笑い話として語ってくれるのです。
 著者の研究テーマは、ストレスの起因する疾病と患者の行動との関係を探ること。だから、ヒヒの群れを観察し、ストレス状況にあるヒヒを吹き矢で麻酔をかけて採血する。もちろん、仲間のヒヒに悟られないようにしなければいけない。危険と紙一重の命がけの研究だ。
 ヒヒは大規模で複雑な社会集団を形成する種。
群れのヒヒが食糧を確保するための狩りに費やす時間は、1日に4時間ほど。そして、ヒヒが誰かのエサになる心配はほとんどない。つまり、ヒヒは、通常、日中のおよそ6時間を、おたがいを精神的に煩わせることだけに使っている。まるで人間の社会と同じだ。
ヒヒの誰が誰と何をしたか。けんか、逢い引き、友だちづきあい、協力、恋愛...記録する。そして、ヒヒに吹き矢で麻酔をうち、ヒヒの身体の状態、つまり血圧、コレステロールのレベル、ケガの治癒率、ストレスホルモンの程度を調べる。
ヒヒの狩りは、無秩序に、勝手気ままにおこなわれている。最優位のオスは、いざというときに、群れをエサ場に導くことができない。
 捕食者に襲われたとき、最優位のオスは先陣切って戦い、子どものヒヒを守ろうとする。ただし、それは、その子どもが自分の子だと確信できるときに限る。それ以外の場合は、最優位のオスは、もっとも高く、もっとも安全な木の枝の上に陣取り。高見の見物を決め込んでいる。
 ええーっ、そ、そんな・・・。どうやって自分の子どもだと確信できるのでしょうか。人間だって我が子の判定は難しいというのに・・・。
オスのヒヒの地位は刻々と変化する。誰かが栄華を極めれば、他の誰かが権力を失い失脚する。ソロモンと名付けられたヒヒは3年間も最優位のオスの地位を守った。それは桁外れに長い。
メスのヒヒは母親の地位を受け継いでいく。姉が母親に次ぐ地位を獲得し、妹はその次の地位につき、やがて娘たちがそれぞれの地位で新たな家族をつくりあげる。
 近親相姦を防ぐため、ヒヒは、オスがもやもやした漂泊の思いに駆られて、群れの外へ出ていく。
 仲のいいオスのヒヒ同志が道で出会うと、挨拶がわりに、互いのペニスをひっぱりあう。
 高位のメスを両親に持つ幸運に恵まれた子どもは、低位のメスの子よりも、より早く、より健康的な発達をとげ、厳しい困難にあっても生きのびる可能性が高い。
 雄のヒヒにとって魅力的なメスの条件は、すでに何人かの子持ちで、その子どもたちが立派に育っていること。そのメスに繁殖力とよい母親になる能力があることを証明している。
雄のヒヒは、手強い敵に遭遇すると、他のヒヒに頼んで協力的な連合を形成することがある。
 ものごとが思い通りにならないとき、ヒヒたちがまず一番に考えるのは、どこかに憂さをはらせる相手はいないか、ということだ。戦いに敗れたオスたちは、周囲を探して大人になりかけの誰か、若者を追いかける。追いかけられた若者は苛立ち、大人のメスに突進し、メスは思春期の子どもをたたき、子どもは幼児を殴り倒す。ざっと15秒ですべてが終わる。
 これは、専門用語で「攻撃の置き換」と呼ばれる行動だ。ヒヒの攻撃行動のうちの信じられないほどの割合を、不機嫌な誰かによる、何の罪もない傍観者への八つ当たりが占めている。
 雄のヒヒに勤勉という言葉は似合わない。自分の欲望を抑えられないし、公共心もない。ついでに言えば、頼りがいもない。
 ヒヒの群れがついていくのは、年取ったメスのヒヒなのである。最優位のオスにつけ込む隙があるとき、頭の良いメスはすぐに気がつく。
60頭ほどのヒヒの群れの近くでずっと観察したのです。21歳のときから23年間です。すごいですよね。1頭1頭に名前をつけました。それも旧約聖書に出てくる名前です。
ひげもじゃの著者の顔写真が巻末にあります。ユダヤ人ながら無神論者を自認するスタンフォード大学の教授です。専門は生物学、神経科学、神経外科ということです。勇気があり、頭もすぐれている実践的な学者です。
この本を読んで、人間を知るためには、ヒヒも知る必要があると思ったことでした。
(2014年5月刊。3400円+税)

2014年8月 3日

かえる!かえる、かえる!


著者  松井 正文 、 出版  山と谿谷社

 世界のカエルが大集合した写真集です。同じカエルでも、こんなにいるのかと。びっくり仰天です。わが家には、梅雨時になると門柱に鎮座まします緑色の小型アマガエルがいます。なぜか、今年は今のところ姿を見せてくれません。
 庭のコンポストの水たまりには、これまた小さなツチガエルがたくさん棲みついています。すぐ下は、今は広々とした休耕田になっていますが、水田にしていたときには、ウシガエルのくぐもった低い鳴き声に悩まされていました。
 スズガエルは、緑と茶と黒の迷彩服を着た格好です。いわば戦闘服でしょうか・・・。
 緑色のニホンアマガエルもちゃんと紹介されています。わが家の門柱に座り込んでいるのと同じカエルです。
 トウキョウダルマガエルは、池の中にいて、両頬に大きな風船をふくらませています。
ワラストトビガエルは、どうやら空中をモモンガのように飛翔できるようです。カエルが空中を滑空するなんて、いささか不気味ではあります。
 カエルが笑っている写真があります。ナタージャックヒキガエルです。口の中に歯がないので、笑顔が本当に可愛らしいのです。
 中南米にいるヤノスバゼットガエルは、ブンブク茶ガマのような変な格好のカエルです。
オレンジヒキガエルは、前進が赤味の濃いオレンジ色をしています。
 ジョウメドクアマガエルは、白と濃茶のツートンカラーです。
 ヤドクガエルは、体内に毒をもつカエルです。
 アラハダヤドクガエルは、不気味に青く光る体色です。毒々しげです。
 トマトガエルは、イチゴのように真っ赤なトマト色の体色をしています。びっくりです。
 世の中のさまざまなカエルの写真を手軽にみれるなんて、なんて便利な世の中でしょうか。
(2014年6月刊。1600円+税)

2014年7月28日

アルゼンチンアリ


著者  田付 貞洋 、 出版  東京大学出版会

 アルゼンチンアリとは、聞き慣れないアリですが、日本と無関係のようでいて、いまや全世界にネットワークを拡大中の史上最強の侵略外来種であるアリなのです。当然、日本でも大いに繁殖しています。といっても、この本によると、九州ではまだ見つかっていないとのこと。本当でしょうか・・・。
 アルゼンチンアリは体長3ミリたらずの、チョコレート色をした小さい、ごく普通のアリ。強大なキバや毒針もない。それなのに、過去15年あまりのあいだに原産地南米の一隅から世界中に分布し拡大し、「史上最強の侵略的外来種」とまで言われる存在になった。
 アルゼンチンアリは、一つの巣のなかに多数の女王が存在する。大きな巣では、1000頭を優にこす女王がいる。女王は巣内で何度も交尾する。ワーカーのアリの寿命は半年ほど。女王の寿命も短く、10ヵ月程度。女王のいない巣であっても、そこに幼虫がいれば、それを女王に育て上げることができる。
 日本へのアルゼンチンアリの侵入によって、在来の地上徘徊性のアリ類が著しく排除されている。イチゴやイチジク、スイカなどの果実にアルゼンチンアリが来集する被害が生じている。
アルゼンチンアリの行列は、線状の1列のものではなく、2~3列以上の帯状である。大きな行列では幅が20センチをこえるときがある。
 アルゼンチンアリは巣分かれの繰り返しによって、多数の巣が協力しあうスーパーコロニーを形成し、なわばり争いをしない。雑食性で、なんでもエサとする。アルゼンチンアリの巣は、一生固定した巣ではなく、営巣場所の環境が悪くなると、すぐに巣を移動する。
 アルゼンチンアリが日本で発見されたのは1993年7月広島県廿日市市でのこと。
 2013年8月現在、1都11府県に広がっている。ゴミ箱に頻繁に来集するのでゴミとともに運搬される機会も非常に多い。
 アルゼンチンアリは地球規模で一つのスーパーコロニー、つまりメガコロニーを形成している。この大きさは人間社会以外に匹敵するものがない。
 アルゼンチンアリの分布拡大は、人間活動に強く依存していることから、人間は知らず識らずのうちに、自分たちの社会に匹敵するアルゼンチンアリの巨大社会をつくっていたことになる。
 これは、二匹のアリをプラスチックシャーレに入れて観察し、敵対行動をとるかどうかで判定して判明したのです。
 侵略的外来種対策の基本は根絶。アリの巣に持ち帰らせて根絶を図るベイト剤は有効のようです。とりあえずは「タダの虫」にして、そして根絶する。
アルゼンチンアリについての百科全書のような本(300頁)です。勉強になりました。
(2014年3月刊。4800円+税)

2014年7月22日

光る生物の話


著者  下村 脩 、 出版  朝日新聞出版

 身近な光る生物といえば、なんといってもホタルです。私の家から歩いて5分のところにホタルが飛びかう小川が流れています。コンクリート三面張りにした部分も、やがて土で覆われて、少しずつホタルが回復しています。
 本格的な梅雨入りすると、このあたりのホタルは季節は終わります。よそは8月に入ってもホタルが飛びかうようですから、私のところは早いのでしょう。
ホタルが光るのは、雌雄間の求愛行為。ホタルの点滅は、誤差20ミリ秒という正確さで同調している。ただし、雄ホタルの点滅発光は、同調しているが、雌ホタルの点滅発光は、同調発光しない。だから、雄ホタル発見できるのですよね。
雄ホタルの発酵時間は0.1秒で、発行間隔は1秒。ただし、種によって、多少異なる。
 生物が光を放つのは、化学反応である。ルシフェリンは、ルシフェラーゼの触媒作用により酸化されて、発光エネルギーを与える有機化合物である。発光量は反応したルシフェリン量に比例する。
 発光反応では、ルシフェリンが酸化され、大きなエネルギーをもつ励起状態の酸化物(発光体)を生じ、それが、通常のエネルギーの基底状態に変わるときに、余分のエネルギーを光子(フォトン)として放出する。
 著者は、光るウミホタルの研究のため500万匹のウミホタルをつかった。オワンクラゲの研究では、18年間に85万匹を、1匹1匹、手網で採取して使った。採取ノルマは、1日300匹だった。すごいですね。大変だったでしょうね・・・。
 オワンクラゲは緑に光るが、それから得た発光タンパク質イクオリンはカルシウムで青く光る。これは、オワンクラゲの発光細胞中には、イクオリンと緑色蛍光たんぱく質GFPが共存するためである。
 ノーベル賞を受賞した学者の涙ぐましい努力のあとがしのばれる本です。
(2014年4月刊。1300円+税)

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