弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

生物

2015年10月25日

恐竜は滅んでいない


(霧山昴)
著者  小林快次 、 出版  角川新書

 とっくに絶滅したはずの恐竜が、今も私たちの身のまわりに存在しているなんて言われたら、びっくりしますよね。アベ首相のようなウソを言う。と、叫びたいところですが、実は、こちらはウソではないのです。
 今も生き続けている恐竜とは何か・・・。それは鳥なのです。
 私の庭には、朝からいろんな小鳥がやってきます。大きいのは、カラス、カササギです。春には、うぐいすも鳴いてくれます。
恐竜の定義は・・・。
 「トリケラトプスと鳥類(イエスズメ)のもっとも近い共通祖先から生まれた子孫すべて」
 これじゃあ、まるで、何のことを言っているのか、さっぱり分りませんよね・・・。
 恐竜の化石から、恐竜の羽毛の色が知られるようになった。それは、古代イカの化石を調べるとき、イカスミの研究をしていた大学院生が技術を応用して分かったこと。
始祖鳥には、竜骨突起がない。また、肩の関節も、現在の鳥のようには動かせない構造だ。これでは飛ぶのは不可能だ。
  ティラノザウルスの化骨を調べると、痛風を患っていた形跡がある。
戦国時代に日本にいたルイス・フロイスは、日本に痛風がないことを驚いている。明治になって日本の痛風患者が増えはじめ、10年前に87万人の患者がいて、今や500万人もの予備軍がいる。
 福井県には有名な恐竜博物館がありますので、ぜひ一度いってみようと思います。
 九州には、天草にあるそうですが、まだ行けていません。


(2015年7月刊。900円+税)

2015年9月24日

オキノタユウの島で

(霧山昴)
著者  長谷川 博 、 出版  偕成社

 アホウドリという名前は、人間がいかに無知で馬鹿な存在であるかを意味しています。
 実際の鳥は、賢く、優雅です。ですから、著者は、昔のようにオキノタユウと呼ぶことを提唱しています。これには私もまったく同感です。
 著者は私とまったく同じ年に生まれ、長く20年以上も無人島に渡って、一人で1ヵ月に及ぶ生活をしながらオキノタユウの繁殖を手助けし、観察を続けてきました。
 その苦労には、心より敬意をささげます。すごいです。
 オキノタユウは、長く一夫多妻で連れ添う。片方が亡くなると、しばらくして再婚はする。
 オキノタユウは、荒れくるう海をものともせず、悠然と飛翔する。きっと、荒れる海が好きなのだ。
 火山島の鳥島には、沢など淡水の流れはない。雨水をためて生活用水を確保する。雨水を飲料水にはしない。生息しているクマネズミのふんが貯水槽に入り込んでいるかもしれないから。
 着陸の不得手なオキノタユウは、けっして無理に着陸することなく、何回も慎重に進入を試みて、安全を確信したときに初めて着陸する。
 オキノタユウを近づいて観察するときには、なるべく低い姿勢をとり、すこしずつ、ゆっくりとコロニーの縁に近づく。そこにすわってじっとしていると、鳥たちは次第にこちらを気にしなくなる。
 オキノタユウのコロニーには病気を媒介するダニやツツガムシなどが生息している。そこで、コロニーの中を歩いたあとは、全身を石けんで洗い、着換えをするほうが安全だ。
 はじめのうち、島には、オキノタユウを招き寄せるため、デコイや音声装置を設置していた。しかし、2006年5月に撤去し、今はない。
今や成鳥と若鳥の数は200羽をこえ、ひなは80羽いる。長年の苦労がついに報われたのです。大きな心からの拍手を送りたいと思います。
(2015年5月刊。1800円+税)


シルバーウィーク、久しぶりに近くの小山にのぼりました。ところが、ちょっと前に直撃した台風のために至るところ倒木だらけで、いつものコースがのぼれず、危く道を間違えそうになりました。といっても間違えたからといって遭難するような状況ではありません。汗びっしょりになって頂上にたどり着きました。
秋の終わりを告げるツクツク法師の声を聞きながら、山頂でおにぎりを美味しくいただきます。山では梅干しおにぎりが最高です。360度のパノラマ光景で下界を見おろして英気を養います。黄金色のススキの穂が風に揺れています。山頂のコスモス畑は、まだ花がちらほらとしか咲いていません。山をおりる途中のミカン畑は、まだ青いミカンが鈴なりです。今年は台風直撃によって梨は8割も落果してしまったと聞いて心配です。
ふもとまでおりてくると、見渡す限り緑のじゅうたんです。いえ、黄色の稲穂が垂れはじめていますので、黄色の混じった緑色が広がっています。それを縁取っているのが紅い蔓珠沙華です。空をカラスの群れが飛びかい、アオサギが一羽、悠々と飛んで行きます。
いかにものどかな田園風景。心が和みます。

2015年9月14日

ウルフ・ウォーズ


(霧山昴)
著者  ハンク・フィッシャー 、 出版  白水社

 アメリカのイエローストーン公園にオオカミを復活させる取り組みをたどった本です。
 オオカミは、かつては嫌われものの筆頭でした。赤ずきんちゃんの話でも、オオカミは悪い奴として登場します。なので、オオカミを打ち殺すのは当然という風潮がしっかり社会に定着していました。同じようにピューマが家畜を襲っても、ピューマを根絶やしにしろという声が起きたことはありません。ピューマを見た人が少ないこともありましょうが・・・。
 アメリカ北部のオオカミの回復は軌道に乗っている。そのための一つは、家畜生産者がオオカミの被害にあったとき、民間の基金によって補償金を支払うという制度をつくったことです。その二は、自分の土地でオオカミが子を産んだとき、その土地の所有者に5000ドルを提供するようにした。
 オオカミを復活させるためには、やはり、このような経済的手当も必要なのですね・・・。
 1930年、アメリカのほとんどの州からオオカミの姿は消えてしまった。かつて、イエローストーン地域だけでも、オオカミは3万5000頭以上いると推定されていた。オオカミがいなくなると、シカが急速に増えはじめた。
 1995年1月、アメリカの魚類野生生物局は、カナダから空輸してきたオオカミ4頭を原生地域に放した。
 いま、イエローストーン公園には、年間350万人もの観光客が押し寄せる。そして、その相当部分がオオカミ目当てだ、ここではオオカミによる人身事故は起きていない。オオカミ目あての観光客は、地域経済をうるおし、オオカミの復帰で回復した自然は世界中から来る観光客を魅了するだけでなく、教育の場として、多くの親子連れや学生たちでにぎわっている。
 オオカミの大半は、発信機なしの野生のままの状態で生息している。人々は、それを見て、当たりまえのことと思っている。
日本でも、北海道でエゾシカやキタキツネが増えすぎていることが以前から問題になっています。それもオオカミがいないことによる現象の一つです。
 日本でオオカミを復活させるのはできないのでしょうか?
 ちなみに、オオカミが人を襲う心配は、ほとんどないということです。
            (2015年4月刊。2600円+税)

2015年9月 7日

日本の森・列伝


(霧山昴)
著者  米倉 久邦 、 出版  ヤマケイ新書

 私は、秋田県の白神山地のブナを見学に行ったことがあります。見事なブナの木でした。
 日本のブナの北限は北海道。
 ブナという種が地球上に誕生したのは150万年前のこと。そしてブナの森は、今よりずっと北側にまであった。しかし、地球が氷河期に入ると、ずっと南へ生息域を移していった。
 地球が再び温暖化して、1万2000年前に、ブナは反転攻勢して北上していった。本州の北端にブナがたどり着いたのは9000年前のこと。
 ブナが北上するといっても、根があるから、タネを誰かが運んで芽を出すという方法しかない。ブナは発芽してからタネをつけるまでに50年かかる。だから100年で100メートルしか北上できない。ブナのタネを運んだのは鳥だ。ホシガラスやカケスが「犯人」として考えられる。
 北海道において、道南のブナは、アイヌの人々の暮らしとともに栄えてきた。
 北海道のブナは、葉が大きい。その代わり、葉の枚数が少ない。ブナの若木は、ミズナラやホオノキが葉をつける前に太陽の光を独占しようとして、早く太り、背を伸ばして大きな葉を広げる。
 北限のブナは、まっすぐに幹を伸ばし、高いところに枝葉を広げる。下枝もない。
ブナの寿命は一般には250年。しかし、北限のブナは170年で枯死する。
 ブナは雪の申し子だ。冷温で、たっぷりの水を供給してくれる土地が好き。でも、湿地は好まない。水はけがよくないと困る。
 ブナが実生で、発芽してから育つのは10%未満でしかない。ブナの実は、ヒグマの大好物だ。
 ブナは、保水力のある土壌が好きだ。ブナの森の土壌は、スポンジのようになっている。ブナの葉は、とても固い。そこで、まずは菌類が分解する。そして、ミミズやダニが食べられるようになり、フカフカの土壌になる。
 ブナは保水力があるところが好きだ。ブナがあるところは、さらに保水力がアップする。
 東北地方に、もともとクロマツはなかった。海岸防災に一番適した木だと分かって、クロマツの評価が一挙に高まった。クロマツが海岸林として形を成すまでに20年以上もかかった。
 動くことのできないブナは、水を寄せ集める仕組みを、木全体でつくり上げている。雨も霧も、樹幹流といって、水を見事に誘導するシステムがある。
 ブナの次は、スギ。スギにもいろいろな形があるのですね・・・。
佐渡には一度だけ行ったことがあります。あまりに人間にとって劣悪な自然の環境のためにスギの天然林があるといいます。樹齢500年の大木まであるそうです。
 木も動いていく生物なのですよね。楽しい、不思議な話が満載でした。
(2015年6月刊。880円+税)
大刀洗町に今村天主堂という立派なカトリックの教会堂があります。この地域は江戸時代を通じて潜伏キリシタンがいて、明治になって「発見」されたのでした。
 江戸時代の直前、1600年ころ筑後地方のキリシタン人口は7000人、1605年には8000人をこえていた。現在、筑後地方のカトリック信者は2900人ほどなので、当時のほうがはるかに多い。
 この今村地域は、今もほとんどがキリスト教信者です。
 なぜ、陸の孤島でもないのに大量の潜伏キリシタンがなぜ可能だったのか。秘密が厳守されていたこと、全村が潜伏キリシタンだったこと、年貢を確保するためには藩としても農民を殺すわけにはいかなかったこと、そのため村役人は「見ざる、言わざる、聞かざる」を通していたことが理由として考えられるとされています。
 私の個人ブログに、その堂々たる教会堂の写真を紹介していますので、のぞいてみてください。

2015年8月24日

心地いい里山暮らし

(霧山昴)
著者  今森 光彦 、 出版  世界文化社

 うらやましい里山生活の日々を写真で紹介している楽しい本です。
 著者は高名な写真家です。生物や自然をたくさん撮ってきました。そして、ペーパーカット作家でもあり、この本にも見事な作品が紹介されています。
 琵琶湖の西岸、大津市の郊外に居を構えたのです。近くには棚田があります。アトリエをつくり、雑木林があり、ガーデニングエリアをもうけました。近くには水田環境もあります。四季折々の花や蝶そして小鳥たちの素敵な写真が紹介されています。私も花の名前を前よりは知っていますが、著者は知識は数段上回ります。
アトリエの庭先にテーブルを出して休憩中の著者の写真が紹介されています。緑ふかいなかで、時間がゆったり流れていくのです。うらやましいほど、ぜいたくなひとときです。
 ガーデニングをも、私とは違って、明確な目的があります。たとえば、チョウの集まる庭づくりです。
幼虫のエサになる食草も、チョウによって異なる。そして成虫となったチョウの好む花も異なっている。アゲハチョウは、ミカン類が好き。カラタチに目がない。エノキは、オオムラサキ、ゴマダラチョウ、ヒオドシチョウに欠かせない。
 そして土づくりにも精を出します。これは私も及ばずながら努力しています。我が家の庭も、黒づんで、ふかふかしています。おかげで、ミミズも大盛況。そして、モグラが生活しています。
著者が私と違うもののひとつが料理です。いかにも美味しそうな料理に挑戦します。もちろん、地元産の食材をつかうのです。
 里山生活には、いろんな不便も実際にはあると思うのですが、こんな素晴らしい四季折々の風景写真を眺めると、里山生活を誰だって堪能したくなりますよね・・・。といっても、私自身も自然のすぐ近くで生活する楽しみを、日々、実感しています。
(2015年4月刊。2000円+税)

2015年8月 3日

先生、洞窟でコウモリとマナグマが同居しています

                                (霧山昴)
著者  小林 朋道 、 出版  築地書館

 なんと、この先生シリーズも9冊目です。第1刷は2007年3月に出た『先生、巨大コウモリが廊下を飛んでいます』でした。それからの8冊は、このコーナーで全部を紹介させていただきました。
 鳥取環境大学の教授がキャンパスの内外での自然観察を軽妙なタッチで面白く紹介しています。この大学にはヤギ部があります。今や7頭ものヤギが飼われていますので、世話をする学生は大変だろうと推察します。
 ちなみに、ヤギは1歳で成熟し、メスなら子どもを産めるそうです。
 ヤギが出産した状況は、なるほど、人間とはまるで違います。ヤギの赤ちゃんはうまれて1日か2日は母乳を吸わないで生きているようなのです。ええっ、そ、そうなの・・・。おどろきました。そして、赤ちゃんヤギには乳母が登場します。なんと、出産していないのに、乳母のヤギに乳が出るようになるというのです。本当に不思議な現象です。
 先生は、洞窟探検に出かけます。勇気がありますね。私なんか、とてもダメです。お化けが出てきたら、どうしますか・・・。そして、ヘビがいたら、どうするのでしょう。実際、洞窟内には、とぐろをまいたアオダイショウがいました。うひゃあ、こ、怖い・・・。
 そして、洞窟内にいるコウモリを種別に観察するのです。コウモリの顔って、はっきり言ってグロテスクですよね。よくよく見たら、案外、可愛いのかもしれませんが、あまり好きになれそうもありません。
 私が小学校の低学年のころは、なぜかコウモリが夕方になると、家のまわりを何匹も低空飛行していました。長い物干し竿をもって、コウモリをはたき落として遊んでいました。今思えば無用の殺生の典型ですが、子どもの私にとっては単なる面白い遊びの一つでしかありませんでした。
コウモリは、犬のような格好で水を飲む。
 コウモリは、紙にしがみつき、引きちぎり、紙を食べる。
 「先生」は、ヘビは何ともないのです。平気です。ところが、なんとヘビに比べようもない無害そのものの大ミミズが怖いというのです。なんという逆転現象でしょうか。信じられません。
 サルには、ヘビだけに特別強く反応する神経が見つかっている。人の脳も同じような神経を指定する遺伝子があるのではないか・・・。私も、きっとあると確信しています。だって、本能的反応なのですから・・・。
 いつものように写真がたっぷりありますので、生きものたちの自然な姿がよく見え、素直な文章によって理解が深まります。
 「先生」のますますのご健筆を祈念します。
(2015年6月刊。1600円+税)

2015年7月21日

ハトはなぜ首を振って歩くのか

                               (霧山昴)
著者  藤田 祐樹 、 出版  岩波科学ライブラリー

 鳥の飛行ではなく、歩行を研究している学者がいるのです。驚きました。
 たしかに、ハトが地上を歩いているとき、異様なほど左右に首を振って歩いていますよね。でも、それがなぜなのかって、私ら一般人は考えに及びません。ところが、学者は、ほかの鳥類と比較しながら、その謎を解明していくのです。そこには、涙ぐましいウソのような努力と工夫があるのです。この本を読んで、そこあたりを理解しました。
ハトは歩行するが、スズメはホッピングする。スズメは歩行を基本的にしない。やればできるけれど、普通はやらない。
 ハトは歩きながら頭を静止している。ハトが歩くと、体はおおむね一定の速度で前進する。体が前進しているのに、頭を静止させるためには首を曲げて縮めなければならない。首をある程度まで縮めると、今度は首を一気に伸ばして頭を前進させる。この動作の繰り返しが、歩行時の首振りの実態なのである。
 景色が動くと、ハトは首を振る。ハトに対して景色が動くと、ハトは景色に対して頭を静止させようとして、首を動かす。これは、景色を目で追っているということ。
 ハトの視野は人間よりずっと広くて316度もある。真後ろ以外は、だいたい見える。その代わり、左右の視野の異なる部分が小さく、たった22度しかない。
鳥類の眼球は、頭の大きさに比べて非常に大きい。視覚情報をより正確に得るためには、眼球が大きいほうがよい。眼球が大きいとそれだけ網膜も大きくなり、視細胞を増やすことができる。眼球が動かないなら、首を動かせばいい。
 ハトの首振りは、視覚的な理由がある。鳥の目は横を向いているので、ハトが歩くと、景色は視軸に直交する向きに流れる。その景色を目で追う必要がある一方、鳥の眼球は大きく、形もやや扁平で、きょろきょろ動かしにくいから、頭を景色に対して静止させる。それが首振りである。
 首を振りながら歩く鳥たちは、みな歩きながら食物を探してついばむタイプの鳥たちだ。眼球運動が十分にできず、視軸が横を向いている鳥たちは、視覚のブレを軽減するために、よく動く首で頭の位置を調整している。それが首振りの一番大切だ。そして、首振りは、歩行の安定性を高めるタイミングで行われ、首を振る鳥たちは、歩幅が大きく回転数の少ない歩行をしている。歩きながら食べ物を探し、ついばむタイプの採食行動が首振り歩きと関係している。近距離の視覚情報をきちんと得る必要があるので、そのためには視覚のブレを少なくする必要がある。
 学者ってスゴイですね。仮説を立てて、それを観察データから実証していくのです。
(2015年6月刊。1200円+税)

2015年7月13日

植物の体の中では何が起こっているのか

                               (霧山昴)
著者  嶋田 幸久・萱原 正嗣 、 出版  ベレ出版

 植物にも、植物ホルモンと呼ばれる化学物質があるのだそうです。
 植物の体内でつくられ、ごくわずかの量で自身の成長や反応を調節する働きをする。植物ホルモンには、オーキシンとベレリン、エチレン、サイトカイニンなど9種がある。
 人間が地球上で生きられるのは、呼吸のための酸素があるから。そしてオゾン層で紫外線から守られているため。これは、いずれも植物のおかげだ。
 植物は光合成で酸素をつくり出し、酸素は紫外線にあたってオゾン層となり、それが上空に集まってオゾン層を形成する。
 植物は、二酸化炭素と水からエネルギー源である炭水化物とつくり出す。生きていくために必要なエネルギーを自分でつくることができる。
 花の誕生は、植物のみならず、その後の生物の進化における画期的な出来事だった。
植物は生まれた場所でじっと動かずに生きているが、その一生は変化に富んでいる。
 光合成によって炭水化物に固定される化学エネルギーの総量は、世界のエネルギー需要の10倍に相当する。光合成は、この地球上で行われている、もっとも巨大なエネルギー変換である。しかし、葉っぱが集めた光のエネルギーのうち、じっさい光合成に活用できるのは4分の1弱でしかない。
 地球上に降り注ぐ太陽光のうち0.1%のそのまた5%、地球に届くエネルギーのわずか0.005%を元手に、植物は地球上の生命活動のほぼ全てを支えている。光合成とは、光のエネルギーを元手に化学エネルギーを蓄えた炭水化物をつくり出す、エネルギーの変換作業といえる。
 植物は光のもたらす過剰なエネルギーから身を守るためのさまざまな仕組みを備えている。
 ヤナギから採取され、人の解熱剤として使われていたのが、植物ホルモンとして認定されたサリチル酸。医薬品としては「アスピリン」。
 ツタンカーメン王の墓から見つかったエンドウのタネは芽を出して花を咲かせた。3300年前のタネ。
 私たち人間の細胞のなかにあるミトコンドリアも、元をたどれば光合成の能力を蓄えていた。
 人間は、有機物や酸素の生産を植物に頼っているという以上に、もっと深い細胞の仕組みの次元で、植物と分かちがたくつながっている。人間が生きる仕組みの一部(呼吸)は、植物が生きる仕組み(光合成)から派生したものである。
 植物を知ることが人間を知ることにもなるという、想像以上に面白い本でした。
(2015年5月刊。1800円+税)
 なかなか梅雨が明けません。むし暑い日が続いています。
 土曜日に帰宅したら、先日の仏検の結果を知らせるハガキが届いていました。恐るおそる開封すると、「不合格」の文字とともに、74点だったというのでした。
 ヤッター!内心、叫んでしまいました。150点満点で5割りなんて、過去最高です。自己採点の70点より4点も上回っていました。もっとも、合格基準点は6割に近い88点ですから、まだまだ道は遠いのです。それでも、あと14点まできたのですから、もう「不可能」ではなくなりました。引き続き、毎朝のNHKフランス語と毎週の日仏学館通いをがんばります。

2015年6月29日

愛猿奇縁

                               (霧山昴)
著者  村﨑 修二 、 出版  解放出版社

 猿回し復活の旅というタイトルのついた本です。猿回し芸の実際がよく分かります。
 猿は、着物を着るとか、烏帽子をかぶるのを大変いやがる。そうなんですね・・・。この本を読むまで、猿は平気でチャンチャンコを着ているとばかり思っていました。
 猿回しは室町時代に一般化し、戦国時代から爆発的に増えた。戦国時代に生活の手段としての「軍兵」をやっていた人々が、戦がなくなり、生まれた土地に帰れず仕事もないという中で、大量の流浪の民が生まれた。この流民たちが大道芸、放浪芸をするようになり、たくさんの河原者(かわらもの)が生まれた。
江戸時代、浅草には猿屋があって、猿を売っていた。
 猿の性格は、みんな違う。十人(猿)十色。
 「反省」のポーズをしている猿は、単に休憩しているだけ。それを口上で「反省」と解説してやっている。
猿飼の基本は、猿を健康にすること。まず首輪をつける。2,3日もしたら猿は首輪になれる。二番目に紐のたすきがけをする。
 猿が一番きついのは、しばられること。そうとうな恐怖を感じて、一日中うずくまって動かないし、オシッコもウンチもたれ流してしまう。
猿の要求は、外へ出て遊ぶこと。猿が小さければ小さいほど遊びたい。外に出て自由に遊びたかったら、たすきをかけてもらうしかない。じっとこらえて、タスキをかけてもらうまで待つようになる。タスキをかけたとたん、飛び出して、いさんで遊びまわる。
 猿が舞台で芸をするのは、外に出られて、皆にほめられ、あとではご褒美でおいしいものを食べられ、休める。猿は外へ出ると喜ぶ。それで、またオリに入りたがる。休めるから。
 ただ、ずっと家にいると旅に出たがる。旅が長くなると、猿は今度は帰りたがる。
 猿まわしは、使う人と仕込む人が分業化している。
猿は飼い主のもとで、衣・食・住のすべてに責任をもってもらって毎日を過ごす。猿は家族なのだ。細やかな芸や動作を仕込むときには、今の仕草のどこが悪かったのか、すぐに知らせてやる。あとではダメ。
 猿は、非常に恐怖心が強い。そして、好奇心が強く、すぐにほかに目が行ってしまう。
 猿が、「もう、あんたがおらんと、私は困る」と言う関係を、一年ほどかけてつくりあげる。
 罰には、当面なくしたいと思うときには効果があるけれど、永続性がない。罰を与えると、その場ではやらなくなる。でも、罰を与える者の目が聞かないところでは、かえってひどくなる。
 早く調教したほうがお金になる。しかし、長い目でみれば、本仕込みで、のんびりと猿と旅行したほうが、みんなから好かれるし、猿も長生きする。
 猿がゆっくり歩行するのは難しいこと。走るのは本能的に出来る。しかし、ゆっくり歩くためには随意性の筋肉をコントロールしなければいけない。
猿の子どもを親離れさせる前は、6ヶ月間、母親にしがみつかせる。とにかくしがみついていて、あの感覚を自分の皮膚できちんと感じるのが、猿にとって大切なことだ。
 猿は体温調節がすごく悪い。だから、猿を追っかけて15分以上というのはヤバイ。続けると、体温が上がりすぎて、ショック死してしまう。
 猿は気に入っていると、耳をかんでくれる。「あんた、好きだ」と・・・。話す代わりに、猿はかんで感情を伝える。
 猿のことがよく分かる本でした。
(2015年4月刊。1800円+税)

2015年6月15日

タコの才能

                               (霧山昴)
著者  キャサリン・ハーモン・カレッジ 、 出版  太田出版

 オクト・パスは受験生必勝グッズです。
 タコは8本の足に3つの心臓をもち、変幻自在に皮膚の色を変えることができる。血液は青く、賢い生物。
 タコは、一生のほとんどをひとりぼっちで過ごす。タコは繁殖のときのほかは、仲間と付き合おうとはしない。タコは単独行動で、引っ込み思案のうえ、夜行性である。
 タコは、タラやイカとちがって群れない。巣穴にひとりで暮らし、ひたすら人目を忍んで自分の居場所を確保する。タコには、縄張り意識はあまりない。
 タコのスミには、チロシナーゼという成分が含まれている。敵の目をひりひりさせ、嗅覚や味覚を混乱させて追っ手をまくためのもの。
 タコはアメリカの食卓では、めったに見かけないにしても、世界じゅうでは何百万人もの人々が口にしている。アジアや地中海では、何千年もの前からタコは定番料理になっている。
 タコは、ほぼ全身が筋肉と言ってよい。だから、タコを捕まえたら、石で30~40買いたたくべきだとも言われる。タコは冷凍すると、食感が良くなる。冷凍されると、いちだんと身がやわらかくなる。
タコを解剖すると、青い血が出る。タコの血は、酸素を含んでいるときには青く、酸素が欠乏してくると、だんだん色味が薄れて透き通ってくる。
 タコは、横歩きするカニや逃げようのない二枚目が好物だ。
 太平洋のタコは、1時間のうちに177回も色や模様を変えることができる。
 タコには、3億個の神経細胞がある。人間は1000億個だ。
 タコは、おもちゃと遊ぶのを好む。
 タコって、賢いのですね。バカには決して出来ません。それにしてもタコ焼きって久しく食べていませんが、おいしいですよね。タコの見直しを迫られる本です。
(2014年3月刊。2300円+税)

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