弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

生物

2016年4月11日

なぜニワトリは毎日卵を産むのか

(霧山昴)
著者  森 誠 、 出版  こぶし書房

私と同世代の農業博士です。ニワトリの専門家でもありますから、ニワトリをめぐる面白い話が満載の本です。
なま卵を食べるのは日本だけ。それだけ、日本の卵は安全なのでしょうが、驚きますよね・・・。古代ローマ人は、なま卵に穴をあけて、寝転がって中身をすすっていた。ちなみに、キリストの最後の晩餐でも、使徒たちはテーブルに向かってイスに座っていたのではなく、臥台に寝そべっていた。それが当時の風習(習慣)だったのです。
バイオリニストの先住真理子は、毎朝、3~6個のなま卵を呑む。これが彼女のスタミナ源。私も、おでんには卵がほしいと思いますが、毎日、なま卵という感じではありません。
温泉玉子とかたゆで玉子の違いを識りました。かたゆで玉子は、白身も黄身も固くなっています。それに対して、温泉玉子は、黄身は固まるけれど、白身は固まらない温度である70度のお湯に30分ほどつけておくと出来上がる。この温泉玉子も、日本独特のもの。ガイジンは半熟玉子を好む。
 フランスはモンサン・ミッシェルにある有名なレストランでオムレツを食べたことがあります。泡立てた卵を使って厚さが10センチにもなるものです。このときは、卵を銅製のボールで力一杯泡立てるのです。この銅イオンのおかげで、泡が安定するのだそうです。ですから、見かけこそ巨大オムレツですが、実は、一人前なんてペロリと食べることができます。食べ過ぎの心配は無用なのです。ぜひ、一度、ためしてみてください。
ニワトリは、1日に1個以上の卵は産まない。
日本人は、江戸時代は卵は食べても、ニワトリはあまり食べなかったようです。明治のはじめに東北地方を旅行したイギリス女性のエザべㇻ・バードは、結局、ニワトリを食べることはなかったと旅行記に書いています。
江戸時代の日本人は、動物の肉をおおっぴらに食べることはなかった。それで、鶏肉をカシワと呼び、猪肉はボタン、鹿肉をモミジと呼んだ。馬肉はサクラだ。
江戸時代の日本で、鶴は最高のごちそうだった。しかし、さすがの中国人も鶴は食べていない。なぜか・・・?つまり、鶴はまずいから。なーるほどですね。
ニワトリにまつわる興味深い話が満載の本でした。

(2015年12月刊。2000円+税)

2016年4月 4日

植物はすごい、七不思議篇

(霧山昴)
著者 田中  修 、 出版  中公新書

 春は、なんといってもチューリップと桜です。チューリップは昔ながらの色と形、桜はソメイヨシノのピンクですよね。
桜の開花宣言が、九州より東京のほうが早いことが多いのはなぜなのか・・・。
開花宣言は、標本木として定められている木に、わずか5~6輪の花が咲いたときに出される。実際に満開となるのは、それから一週間くらいしてからのこと。
桜は、冬にきびしい寒さを感じなければ、春の暖かさを感じても開花が遅れてしまう。九州では冬でも暖かいので、春の暖かさに敏感に反応せず、開花が遅れてしまう。東京の桜は寒さがきびしいので、春の暖かさに敏感に反応して早く開花する。なーんだ、そういうことだったのですか・・・。
 北海道で、梅と桜の花が同時に咲くのは、梅の花が全国的にほぼ同じ気温(6~9度)で咲くから。梅の花が咲いた頃、北海道でも厳しい冬の寒さから少し暖かくなったと桜が感じるので花を咲かせる。
アサガオの花が夏に早朝から咲くのは、暗さを感じはじめて10時間後に咲くという習性があるから。10時間後に真っ暗な箱に入れられていても、アサガオは花を咲かす。
ゴーヤの果実の表面にブツブツがあるのは、このデコボコによって影をつくり、太陽の光が実全体に直接あたらないようにしている。強すぎる光があたると、かえって種に害を与える有害な物質が発生する。
植物の不思議な行動がとても分かりやすく解明されていました。


(2015年8月刊。820円+税)

2016年3月28日

植物は「知性」をもっている


(霧山昴)
著者  ステファノ・マンクーゾ、アレッサンドラ・ビオラ 、 出版  NHK出版

 結論からいうと、植物は「知性」をもっているということです。この本は、いろんな角度から、それを論証しています。日曜ガーデニング派の私は、まったく同感です。
植物は、どこから見ても知的な植物だ。根には無数の司令センターがあり、たえず前線を形成しながら進んでいく。根系全体が一種の集合的な脳であり、根は成長を続けながら、栄養摂取と生存に必要な情報を獲得する分散知能として、植物の個体を導いていく。
 動物は、植物が作り出した物質とエネルギーを利用する。植物は、太陽のエネルギーを自分の必要を満たすために利用する。つまり、動物は植物に依存しているが、植物は太陽に依存している。
 植物は地球上の生命に対して、あまねく作用している。動物にそんなことは出来ない。
 植物に脳はない。しかし、脳は本当に知性の唯一の「生産」の場なのか・・・。人間だって、脳だけでは知性が生まれてはいない。脳は単独では何もつくり出すことは出来ない。どんな知的な反応をするにも、体のほかの部分から届けられる情報が必要不可欠だ。
 植物は、口がないのに栄養を摂取し、肺がないのに呼吸している。植物は見て、味わって、聞いて、コミュニケーションをし、おまけに動いている。だったら、どうして植物が思考しないと決めつけられるのか・・・。
 「知性」とは、問題を解決する力なのだ。だったら、植物にあると言って、おかしいことではない。植物には神経がない。しかし、植物は体のある部分から別の部分に情報を送るため、三つのシステムを活用している。その一つは電気信号をつかうこと。電気信号は、細胞壁に開いた微小な穴を通って、一つの細胞から別の細胞への伝えられる。
 植物は、水や化学物質も信号として使っている。光は、人間の血管系とそっくり。ただし、体の中心部にポンプはない。さらに、化学物質(植物ホルモン)の信号も送られる。
植物は、自分でも「におい」をつくり出す。ローズマリー、バジル、レモンなど・・・。「におい」は植物の言葉だ。
 植物が害虫に食べられたとき、警報を発する。トマトがその一例だ。植物に「知性」があるというのは間違いありませんよね・・・。

         (2016年2月刊。1800円+税)

2016年3月22日

ひとと動物の絆の心理学

(霧山昴)
著者 中島 由佳 、 出版  ナカニシヤ出版

 私は犬派です。というのも、物心ついたときから、ずっと犬と一緒に生活してきたからです。それは高校生まで続きました。大学に入って、愛犬(ルミといいます。スピッツのオスです。座敷犬でした)が車にはねられて死んだことを聞いて、本当に残念でした。それでも、大学に入って忙しかったので、ペットロスにはなりませんでした。そして、子どもたちが小学生になったとき、柴犬を飼いました。メスなのに、マックスと呼んでいました。私の責任なんですが、室外に飼っていてフィラリアにやられて死なせてしまいました。申し訳ないことです。
 私の小学生のころには小鳥の飼育も流行していましたし、鶏も飼っていました。ニワトリのエサになる雑草をとってきたり、貝殻を叩きつぶすのも小学生のころの私の仕事でした。生来、生真面目な私は、一生懸命、ニワトリの世話をしていました。そして、父が飼っていたニワトリを「つぶす」のも、しっかり見ました。そのおかげで、ニワトリの卵の生成過程も、この目で確認することができました。娘が小学生のころ、ウナギを催物の会場で釣りあげ、家で飼いたいと言ったとき、私はダメと言いました。そして、慣れないまま、ウナギをさばいてウナギの蒲焼きをつくってみました。泣いていた娘も食べてくれました。
 日本人で動物を飼っている世帯は全世帯の3分の1。そして、犬と猫が人気だ。犬は6割、猫は3割を占める。犬も猫も、今では8割が室内飼い。
 一昔前までは、犬は番犬として屋外の犬小屋で暮らし、猫はねずみ獲りと近所のパトロールが日課という生活スタイルだったが、今やほとんど見られない。今では、犬も猫も、8割が家の中で家族と一緒にヌクヌク暮らしている。
人は動物と「会話」をする。人は社会的な生きものだ。たしかに自分のことを話したい。自分のことを話して理解してもらえることで、心の健康を保つことができる。
 動物が友人と家族とは違うのは二つある。一つは、傾聴してくれること、もう一つは評価しないこと。つまり、ありのままの自分を動物はしっかり受けとめてくれる。
 動物とのふれあいが、病気の人の生存率を伸ばすことも実証されている。人生にストレスはつきもの。しかし、動物の存在が、ストレス度の高いできごとによる心身のダメージをある程度は防いでくれている。
犬とのふれあいは、やはり愛犬とのふれあいが一番。飼い主とその犬とのふれいあいこそが強い愛着で結ばれている。
 非行少年や情緒障害の子どもにとって、動物は、ワン・アンド・オンリーの存在なのだ。つまり、彼らにとっては、動物こそ唯一の「家族」だった。逆に言うと、児童虐待や配偶者に対する家庭内暴力(DV)には、しばしば脅しや見せしめとしての動物虐待や殺害をともなっている。
 子どもたちが、幼いころから小鳥や犬・猫の世話をするというのは、とてもいい原体験になると思います。手抜きしたり、へますると、小鳥や犬・猫が死んでしまうという重大な、取り返しのつかない結果を生じさせるからです。
 子どもたちが大きくなってからは、旅行優先のために、犬を飼うのはあきらめています。
(2015年12月刊。1800円+税)

2016年2月22日

昆虫のハテナ


(霧山昴)
著者  盛口 満 、 出版  山と渓谷社

  教えてゲッチョ先生、というサブタイトルがついています。今は沖縄の大学で教えている著者は前に埼玉県にある自由の森学園高校で15年のあいだ教えていて、私の長男も教えてもらっていました。
ゲッチョとは、カマキリとトカゲをさす方言とのことです。
フユシャクガは成虫になると口が退化して、何も食べない。幼虫時代にたくわえた栄養だけで、2週間ほどの成虫期間を終える。成虫は、交尾し、卵を産むだけ。食べて歩いてという、まっとうな生活は、数ヶ月の幼虫期間のみ。
 アシナガバチもスズメバチも、営巣の初めには、越冬した1匹の女王バチしかいない。この1匹の女王で子を育てているときには、近づいてもめったに襲ってこない。ハチに人が刺されるのは、夏過ぎ、巣が大きくなって多数の働きバチが活動しているころ、ハチの巣を刺激してしまったことによる事故が多い。
 ハチの毒針は、産卵管に使っていたものを変化させたものなので、メスのハチしか刺さない。
 ハチは黒いものや動くものを攻撃する習慣がある。だから、髪の毛や眼が要注意。
 ゴキブリを食べるアシダカグモがいる。
 オナガグモという、クモ専門食のクモがいる。ヤマトゴキブリは産卵から成虫になるまで丸2年かかる。
 原ゴキブリ類は3億年前に出現している。
 カマキリは、ゴキブリの親戚筋の昆虫。
 日本には、50種のホタルの仲間がいるが、幼虫が水中生活を営むのは、わずか3種。残りのホタルは、陸生。陸のホタルは、もっぱらカタツムリを食べている。なかにはミミズ食というものもいる。そして、ホタルの成虫は必ず光るわけでもない。
 昆虫にもいろんなものがいるのですね。楽し昆虫の話が満載です。
(2016年2月刊。880円+税)

 仏検(準一級)に合格しました。
金曜日に帰宅したら、大型封筒が届いていました。これは開封するまでもなく合格したことを意味しています。大型封筒の中にはA4サイズの合格証書が入っているのです。これで5枚目になりました(何回受験してもいいのです)。
 口頭試問は最低合格点が23点のところ26点でした。きわどいところです。自分でも不出来でしたが、年齢に負じてゲタをはかせてくれたのでしょう。それでも合格したというのはうれしいものです。
 今でも毎日毎朝、NHKラジオ講座を聴いて、今はニュースの書き取りに挑戦しています。ボケ防止には語学が一番だからです。

2016年2月 8日

身近な鳥の生活図鑑

(霧山昴)
著者  三上 修 、 出版  ちくま新書

 わが家からスズメがいなくなりました。10年くらい前までは家の2ヶ所スズメの巣がありました。トイレに入ると、子スズメたちのにぎやかな声が聞こえてきたものです。親スズメは巣に入るときは、そっとして音を立てません。今でも、古くて固くなったパンくずを庭にまくのですが、何日もそのままなのが残念です。
 毎年やって来るジョウビタキが今年は、なぜかほとんど姿を見せてくれません。愛嬌ある仕草で、大好きな小鳥が来てくれないので庭仕事が物足りません。
 相変わらず多いのがヒヨドリです。ヒヨドリ夫婦がいつのまにか庭のスモークツリーに巣をつくっていて、ヘビに狙われてヒナが食べられてしまったことは、このコーナーで報告しました。ヒヨドリ自体は毎日うるさいくらいに鳴きかわしてやって来ます。
 この本は、スズメ、ハト、カラス、ツバメなど、身近な鳥の生活習慣を教えてくれます。
 スズメは、オスもメスも同じ色をしているので、観察しているだけで見分けるのは不可能。スズメの足の指は4本。前に3本、うしろの1本。スズメが巣をつかうのは1ヶ月ほど。子育てのため。スズメは同じ巣を何度もつかう。スズメは、合計4~6卵を産み、全部うんでから卵を温めはじめる。そして2週間ほどで孵化する。
 スズメは雑食だが、ヒナに与えるのは昆虫が多い。親鳥による子スズメへの世話は、巣立ちして10日間ほど。
 子スズメは秋になると一部は長距離を移動する。なかには数百キロ先まで移動する。
巣立った子スズメのうち半数以上は、その冬を越せない。しかし、6年以上も生きたスズメがいる。スズメが群れている時に鳴きかわしているのは、個体同士で意思疎通をしているということ(ではないか・・・)。
 スズメの数は1990年に比べて、半減している。日本にスズメは1800万羽いる(だろう)。
 減ったのは、スズメが巣をつくれる場所が減ったから・・・。そして、エサをとれる緑地が減っていることから。
 スズメを飼ってみると、スズメは人を見分けていることが分る。
ハトはミルクで子育てをしている。ハトの食道でミルク(ピジョンミルク)を作り出す。オスもこのミルクを出せる。
 鳥はおしっこはしない。糞と一緒に、水の必要のない形で排出する。
 鳥は一般に、あまり水を飲まない。飛ぶために身体を軽くする必要があるから。
 ハシボソカラスは繊細なカラスなので、開けた場所を好む。ハシフトカラスは神経が図太く、高いところから見下ろしてエサをとる。ボソとフトでは、体重差が1.5倍もある。地上を歩いているカラスはハシボソカラス。フトは、ぴょんぴょん跳ねて移動することが多い。
 わが家には、メジロもよくやって来ます。
ヒヨドリが10羽ほど一度にやって来て、収穫間近のほうれん草をたちまち食べ尽くしてしまったこともあります。
 身近な小鳥をもっと知りたいと思っている人に一読をおすすめします。

          (2015年12月刊。940円+税)

2016年1月25日

金魚

(霧山昴)
著者  岡本信明・川田洋之助 、 出版  角川ソフィア文庫

可愛い金魚がオンパレード。写真満載の文庫本です。
熊本県長洲町には有名な金魚の館があります。筑後地方のみやま市も金魚産地のようです。知りませんでした。
日本産金魚は33品種。金魚はフナ。学名は金色のフナ。室町時代(1502年)に中国から渡来した。それから今日まで500年余にわたって、日本の文化的背景や美意識によって改良され、愛玩されてきた。金魚は日本が世界に誇る平和の象徴の一つ。金魚は、まさしく生きた伝統工芸品とも言える。
金魚の祖先であるフナは、現在も盛んに変異を生み出す進化途上にある生きもの。 
改良された金魚は、特段に目立つ色やゆったり泳ぐ体形になっているため、厳しい自然の中では淘汰され、生きていけない。
すきあれば、金魚はフナの色や形に戻ろうとする。それで、品種の維持・管理に手を抜けば、どんどん先祖返りしようとする摂理が常に働いている。
金魚の起源は、古代の中国。晋(265~420年)の時代にフナの中に赤い色をしたフナを見つけたという文献がある。金魚が中国より日本に渡来したのは室町時代の1502年(文亀2年)、大坂の堺。ワキン(和金)。その後、別に琉球を経由した琉金も渡来した。
明治38年に開かれた金魚の品評大会の番付表が写真で紹介されています。大相撲そっくりの番付表です。当時の金魚人気のすごさを表しています。
当初、金魚は特権階級のステータスシンボルだった。しかし、やがて、庶民にも広く愛される存在になった。
金魚のオスとメスの見分けかたが写真で紹介されています。肛門の形が丸ければメス、細いだ円形ならオスなのです。素人にも見分けられるのでしょうか・・・。
金魚の寿命は毎日きちんと世話していたら15年ほど。犬や猫と同じ。ギネスブックに記録されているのは43年。なんという長寿の金魚でしょう・・・。
そして、なんとなんと、「どんぶり」でも金魚を飼えるというのです。意外に生命力があるのですね、金魚って・・・。
楽しい金魚の話が満載の文庫本です。

(2015年7月刊。920円+税)
 日曜日、大雪のため交通機関が大きく乱れているなかで、フランス語の口頭試問を受けてきました。この一週間は、ずっとそれが頭にあり、緊張していました。思うように単語が出てきませんので、頭の中をフランス語モードにするため、3日間は車中で本を読まず、アイフォンでCDを聴いていました。NHKラジオ講座のCDです。
 本番は3分前に2問を渡され、1問を選んで3分間スピーチをします。日本は亡命者をもっと受け入れるべきかを選択しました。私は賛成なのですが、いったいこれをフランス語で3分間どう話せばいいのでしょうか。日本語を考えて頭の中がまとまらないうちに、3分間たってしまいました。あと4分間、フランス人の質問を受けて答えます。本当にいつも冷や汗をかいてしまいます。ぐったり疲れました。

2016年1月18日

山と河が僕の仕事場

(霧山昴)
著者  牧 浩之 、 出版  フライの雑誌社

  宮崎県高原(たかはる)町で、猟師であり毛鉤釣り職人として生活する著者の素敵な日々を写真とともに紹介する本です。とても面白く、一心に読みふけりました。
  神奈川県川崎市に生まれ育ったシティボーイが南九州の山地でシカやイノシシを狩り(ワナと鉄砲)、川や海で釣りをし、また、フライフィッシングの毛鉤を手づくりするのです。
  都会っ子なのに、すごい才能があるんですね、驚嘆しました。
  フライフィッシング用の毛鉤の材料としては、キユウシュウシカの毛皮が大変良い。
  罠にかかったシカを殺すとき・・・。いざ止め刺しをしようというとき、ものすごい罪悪感に襲われた。生きている獣を自らの手で殺そうとしているのだ。それでも意を決し、長柄の剣鉈を構えてシカとの間合いを始める。シカの胸元に狙いを定め心臓を一刺ししようとした瞬間、シカは殺気を感じて激しく逃げ回った。油断すると、こちらが怪我をする。「ごめん」シカの心臓に狙いを定めて剣鉈で一気に突いた。
  シカは足をばたつかせたかと思いと、そのまま眠るように動かなくなった。剣鉈を抜くと、真っ赤な血が湯気を立てながら流れ出した。
  捕獲した獲物は素早く適切な処理を施さないと、肉に臭みが生じて美味しくいただけなくなる。血液は時間とともに凝固するので、仕留めた獲物はすぐに血抜きする。血抜き処理が遅れると、肉の中に血液が残留し、臭みが残って、鉄臭い味が出てしまう。血抜きが終われば、自宅の作業場へ運んで、内臓の摘出にとりかかる。
  シカは作業場の梁から頭を下にして吊るし、内臓が傷つかないように注意しながら腹部を開いていく。肛門と膀胱を剥離するときは、とくに慎重に行う。内臓を摘出したら、腹腔内を冷たい水道水で冷やしながら、血液などの汚れをしっかり落とす。
  血抜きから内臓摘出までは30分以内、遅くても1時間以内には終わらせる。
  肉を食べるというのは、本来、このようにとても大変なことなのだ。しっかり、血抜きしたシカの心臓を、にんにくと一緒に炒めたハツ焼き。猟師の特権とも言うべく、酒のあてに最高。
  ストーブの上で、イノシシのカシラを焼く。これだけは誰にもあげたことがない。
  カラー写真があります。本当においしそうです。
  シカもイノシシも畑を荒らす害獣なのです。一定の駆除はやむえません。
  山と川を駆けめぐる生活は、とても充実していて、うらやましい限りです。でも、私にはとてもマネできそうにもありません。それで、本を読み、写真を眺めて想像に浸ることにします。
  山と川と人がつながる暮らし。それは、人生で今が一番楽しいと思える毎日。
  著者のこの言葉が素直にうなずけます。奥さんの弘子さんが写真に登場してこないのが残念でした。
  山と川好きのみなさんに、ぜひ読んでほしい本です。
  
(2015年12月刊。1600円+税)

2016年1月12日

はしっこに、馬といる

(霧山昴)
著者  河田 桟 、 出版  カディブックス

 沖縄県にある与那国島にウマと暮らす女性の話です。
 馬語を話せるというのです。すごいですね。この本を読んでいると、なぜだか不思議に心がほんわり、温まってきます。詩を読んでいるような気分で、とても分かりやすい文章でウマの生態がやさしく描かれています。 
 ウマと一緒に暮らすと言っても、ウマは夜は森の中で仲間の野生馬たちと過ごします。
 与那国島には野生のようにして生きている与那国馬という体高120センチほどの小さなウマたちがいる。与那国馬は、数百年ものあいだ、この島の草を食べ、この島の水を飲み、台風の暴風雨に耐え、冬の雨や強風にもまけずに生きてきた。
 この本には、ウマ百態とも言うべきウマのスケッチがたくさんあって、ほのぼのとした雰囲気に包まれています。
ウマたちは、順位をはっきりつけることによって群れとして平和に暮らしている。
 著者はウマと一緒に暮らすといっても、ごはんの青草をあげ、手入れをする以外には、何もせず、ただそばにいるだけ。動きもゆっくりで、ぼうっとしていて、空気みたいな存在。だから、ウマたちも「なにもないヒト」と認知している。
 このヒトは身内だというウマに認めてもらうために一番大切なのは、毎日、そばにいること。
 ウマは、「なにも起こらない」おだやかな状況に幸福を感じる生き物。
 ウマは、警戒心の強い、群れで生きる動物。身内なのか、そうでないのかによって、相手にたいする反応はずいぶん違う。
 ウマは変化に敏感な生き物。いつもと違う感じが何かあると、すぐに気がついて緊張する。そして嫌そうな顔をする。
ウマは、からだをぴったりくっつけあうことに心地よさを感じない動物。いつでも逃げられるように、からだを自由に動かせるように、ある程度の距離があるほうが安心する。
ウマは、常にこころとからだの言葉が一致している。
ウマは、群れから離れたくない、ひとりで前にすすみたくない不安なことがあったら逃げ出したい生き物。
ヒトが馬語を話そうと思ったら、何をするかより、はるかに大切なのは、タイミング。
ウマに馬語で話しかけると、必ず何か答えてくれる。
カディと名づけられた与那国馬の写真をみてみたいものです。心安まる、いい本でした。ありがとうございます。

(2015年5月刊。1700円+税)

2016年1月 7日

動物翻訳家

(霧山昴)
著者  片野 ゆか 、 出版  集英社

 日本の動物園がリニューアルしつつあり、そのなかでの飼育担当者の奮闘ぶりを描いた傑作です。登場する動物は、ペンギン、チンパンジー、アフリカハゲコウそしてキリンです。
 動物園は旭山動物園ではなく、埼玉県こども動物自然公園、日立市かみね動物園、秋吉台自然動物公園サファリランド、そして、京都市動物園です。
 かつて動物園は絶大な人気を集めるスポットの一つだった。ところが、1990年ころ、転機が訪れた。退屈そうな動物の姿を見るのに人々が飽きてしまったのです。入場者が激減して、存続の危機にさらされるのでした。
 ペンギンは、ほとんど絶滅を危惧されている。ところが、日本では、動物園での繁殖に成功し、全国に2600羽のフンボルトペンギンがいて、世界の半数を占めている。
ペンギンは大食い。一日に体重とほぼ同じだけの魚が必要。
 ペンギンは、夫婦とその子どもたちで成り立っている。ペンギンの社会にボスはいない。
ペンギンのクチバシはナイフ並みの切れ味。ペンギンが人間になつくことはないし、またその必要もない。ペンギンは、強く、賢く、環境適応能力の高い動物だ。
ペンギンキャンプ。1人2食付で8000円。定員20人。5月末の土曜日に、テントでペンギンヒルズで一晩を過ごす。午前3時すぎがもっとも面白い。うひゃあ、そんな企画があるのですね。
 チンパンジーは、人間の言葉を確実に理解している。チンパンジーは50年ほど生きる。
ジョーに出演しているチンパンジーの子どもも、5歳か6歳になると人間への反抗心が芽生えてきて、人間による制御が難しくなり、ショーを引退する。
 飼育員は、朝夕、必ずリーダー以下、全員に声かけする。かならず一対一でコミュニケーションをとるのだ。不公平間を与えない。そして、仲間の前で叱ってはいけない。ささいなことでも、ともかく褒める。
 アフリカハゲコウは自分で狩りをする鳥ではない。大空を自由に飛べるようにしたところ、エスケープして、和歌山まで飛んで行った。どうやって連れ戻すのか・・・。すごい忍耐です。
 キリンは、1頭につき1000万円以上もして、海外から譲り受けることが不可能になっている。
 キリンはとくに怖がりの動物。細心の注意が求められえる。
動物園には子どもが大きくなって久しく行っていません。今度、孫が大きくなったら行きたいと思います。大変興味深い話が満載の本でした。
 
       (2015年10月刊。1500円+税)

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