弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

司法

2012年7月27日

比例定数削減か民意の反映か

著者   坂本 修 、 出版   新協出版社

 一票を投ずると政治がかなり大きく変わり、自分たちの要求が実現することを国民が本気で思うようになると、院外の運動を発展させる可能性、財界からみると危険性が出てくる。だから、アメリカと財界は民主党の公約実行を許すわけにはいかなかった。
ここでいう民主党の公約というのは、「海外移転、少なくとも県外移転」というものです。
財界は、政権をとった民主党に対してさまざまな圧力をかけ、その公約(マニフェスト)の裏切りを実行させた。
 財界の機関紙とも言われている「日経新聞」は、二大政党離れが、鮮明になったと評価したが、これは真実を言い表している。支配層の考えていた「二大政党制」は、二つの同質の保守政党でなれあい政治をする。悪政による矛盾が深まっても保守二党間の政権交代でとりあえず国民の目はごまかして、政治をすすめる。
 小選挙区制のインチキは、サッカーでゴールの幅がいびつに設定されているようなものだという、著者の例えには目が大きく開かれました。
 サッカーの一方のチームのゴールの幅は2倍、地方のチームは4分の1、ゴールキーパーがいたら、ほとんどゴールできない。こんなサッカー試合だったらバカバカしくて誰も見にいくはずがない。ホント、そのとおりですよね。
いま政権をとっている民主党は2009年8月の選挙の得票率42%なので、204議席しかないはずなのに、現実には308議席。なんと104議席もの水増し議席がある。4割の得票で7割の議席を得た。少数政党である公明党は、得票率11%だから本来なら55議席なのが21議席。同じように得票率7%の共産党は、34議席のはずが9議席。社民党は、得票率4%で21議席のはずが7議席しかない。これって、どう考えてもおかしいと私は思います。でも、新聞、テレビはおかしいとは言いません。それもまたおかしなことです。そして、これって、本当に「少数意見の切り捨て」なのだろうかと著者は問いかけています。
 憲法9条守れ、原発ノー、消費税増税反対そしてTPP参加反対というのは少数意見でしょうか? 私はそうは思いません。ところが、国会では明らかに少数意見になってしまっています。こんな奇妙な「ねじれ」状況は打破する必要がありますよね。
小選挙区制に切り替えたときの選挙制度審議会には、27人のうち12人はマスコミのトップでした。読売、日経、毎日、朝日、NHK、テレビ東京などです。今も、マスコミは消費税増税賛成の一大キャンペーンをやって、同じことを繰り返しています。上から目線でみている限り、貧困の実相は分からないということなんでしょうね。
年間320億円という政党助成金がマスコミの宣伝費に使われていることも明らかにしています。税金のムダづかいの典型です。怒りが湧きあがります。
 2007年の参議院選挙でテレビCMに50億円、電通などの広告代理店に90億円も使われた。比例定数を80削減して「節約」されるのは56億円でしかない。だったら、それを削る前に320億円というムダな政党助成金を全廃すべきでしょう。
政党助成金はイタリアとアメリカにはなく、イギリスはわずか3億円ほど。フランスは98億円、ドイツは174億円。日本の320億円というのは、ずば抜けて大きい。
私は、大勢の国会議員がいること自体をムダだとは考えていません。でも、今は、たしかにあまりに役に立たないような議員が多いとは思います。かといって、下手に議員の数を減らすと、役に立つ議員まで失ってしまう危険があります。現に、私のよく知る弁護士は国会で大活躍していたのに、残念なことに落選してしまいました。役に立つ議員を失うと、劣化した政治の被害を受けると著者は指摘していますが、まったくそのとおりだ実感しています。
 わずか120頁、350円という薄いブックレットです。ぜひ、あなたもお読みください。世の中には考えるべきことがたくさんあることを知ってほしいと切に思います。
(2012年6月刊。350円+税)

2012年7月11日

最高裁回想録

著者   藤田 宙靖 、 出版   有斐閣

 学者出身の最高裁判事は、何を見、何を聞き、何を考えたか、と本のオビに書かれています。著者の最高裁判事としての在任期間は2002年(H14)9月から2010年(H22)4月までです。
 最高裁判事に学者からなるのは、要するに、一本釣りのようです。ある日突然、最高裁の人事局長から電話があったのでした。弁護士の場合には、弁護士会の推薦手続が必要です。最高裁判事になるのは65歳ころが多いように思います。
最高裁判事の宿舎は塀の上に有刺鉄線と警報機を巡らせ、庭の各所を照らす照明器具に囲まれた物々しい要塞。専用車で、この宿舎と最高裁のあいだを送り迎えされる。これはほとんど「囚われ人」の日常生活である。最高裁判事は朝8時半に宿舎に専用車の迎えが来て、9時過ぎに最高裁に到着する。昼は昼食が裁判官室に運ばれてくる。途中3時にお金をのみ、あとは5時まで記録よみ。自宅に5時半には帰着する。トイレは裁判官室内に専用のものがあり、外に出る必要はない。そこで、一日に500歩しか歩かない日もある。そこで、著者は毎朝4時半すぎに起床して45分間ほど周辺を歩いた。
 最高裁の裁判官会議は、原則として毎週水曜日の朝10時半から開かれる。裁判官会議に出席して何よりも驚いたのは、その時間の短いこと。毎回せいぜい30分から1時間。なかには、会誌の定刻前に終わったこともあった。
これって、まさしく最高裁が事務総局によって牛耳られていることを意味しています。そして、著者は、それでよしと合理化しています。いちいち検討するのは時間的にも能力的にもできるわけがないというのです。まあ、実際はそうなんでしょうが、本当にそれでいいのでしょうか、疑問です。
2週間に1回、15人の裁判官のみで昼食をとるということもある。同じ小法廷の裁判官同士のあいだでも、審議の際を覗けば、日常的に顔を合わせることはほとんどない。
 最高裁の内部構造ははなはだ複雑を極めていて裁判官室から小法廷にたどり着くのも容易ではない。
最高裁に係属する事件の95%、つまりほとんどは、持ち回り審議案件で占めている。残り5%が重要案件として、評議室における審議の対象となる。
 最高裁に来る事件は毎年6000件。これに特別抗告などの雑件をふくめると9000件にもなる。小法廷への配点は機械的になされる。
 最高裁では、判決を言い渡しするとき、主文のみということであった。しかし、これは刑事規則の明文に反するという指摘もあり、判決理由の要旨も読みあげるようになった。理由を読みあげなかったのは、法廷の適正な秩序の維持という目的によるものであった。
 裁判官と調査官の共同作業によって裁判したというのが実感。
 最高裁判事を7年半つとめて、つくづく思うことは、裁判、とりわけ最高裁の判決というのは、しょせん常識の産物だということ。学者は分からないことは分からないと言ってはいけないが、裁判官は、本当には分からなくても、ともかく決めなければならず、判断を先送りすることができない。
最高裁の多数意見というのは、その性質上、常に、ある程度の妥協の産物であることを避けられない。今日、最高裁は、むしろ最高裁の意向を意識するあまりに下級審の裁判官が萎縮してしまうことのないよう意を払っている。
 ある年齢以降、「出世」を逃げていくものと、地家裁や支部を転々とするもののグループに分かれていき、後者から前者へ移行するのは困難だという現象もたしかにあるような気がする。これは組織体のなかでの協調性と、リーダーシップの有無についての所属庁における評価いかんではないかと思われる。器用な人間はトクをするし、不器用な人間はやはり損をする。しかし、これは、裁判所に限らず、組織一般に見られる現象である。
最高裁判事の日常生活や評議の様子がちらりとうかがえる本でした。
(2012年4月刊。3800円+税)

2012年7月 5日

弁護士道の実践

著者   鈴木 繁次 、 出版   民事法研究会

 昔なつかしい大恩ある先輩弁護士の本です。新聞広告で知って、すぐに注文しました。この本の印税は、全額、東日本大震災の義援金として寄付しますと書かれているのを読んで、さすがと思い、昔のまま変わりない先輩の存在を改めて認識しました。
 私が著者にお世話になったのは、弁護士になりたてで、横浜(川崎)にいたころのことです。私はまだ20歳台でしたから、まさに生意気ざかりの年頃でした。裁判官出身で、キリスト教徒の著者は、血気盛んな私たちとともに公害問題の現地調査の出かけ、また、公害裁判に取り組まれたのでした。
 この本にも、横浜弁護士会の公害対策委員会の活動が紹介されています。京浜工業地帯である川崎の大気汚染公害に取り組んだのでした。このころ、横浜弁護士会は全国の公害委員会の活動をリードしていたと書かれていますが、本当にそのとおりであり、私も末席を汚していたのでした。福岡に戻ってきたとき、ひどい落差があるのを実感しました。
 著者が働き盛りのときの一日のスケジュールは次のようなものでした。
 朝9時までに事務所に出勤する。夕方5時ころまでは来客、電話の応対、弁護士会の委員会に出席する。それまでは落ち着いて書類がきはできない。5時以降に書類作成に入り、6時から7時に軽い外食をして、9時から10時まで事務所で書類がきと調べものをして帰宅する。その後、自宅で夜食をとる。だから、どうしても栄養過多になって、太ってしまった。
 うへーっ、夕食と夜食と2回も食べるなんて、それはいけませんね。私は夜8時までは食べずに我慢しています。それでも太ってしまうのですが・・・・(現在の体重66キロ)。
 著者が私と決定的に違うのは、8つもの「学会」に加入していることです。実は、私もそのうちの2つには加入しているので、残る6つが違います。日本私法学会、日本民事訴訟法学会、日本交通法学会、日本土地法学会、日本マンション学会、日本賠償学会です。すごいですね。著者が、いかに勉強熱心なのかがよく分かります。
 さらに私との違いできわめつけは、司法試験委員、それも民法の委員になったということです。私なんか、恐れおおくて、とてもこの委員にはなれません。毎年、5~600通の答案を採点しておられたようで、頭が下がります。
 優良答案が5%、不良答案が10%、あとは内容のあまり変わらない紙一重のものばかり。大変ですよね、公平に採点するって・・・・。
 著者は、昔から毎年合格者を100人ずつ増やしていたらよかったんだという意見です。
これには私もまったく大賛成です。今のように一気に2000人に増やしてしまったから、ひずみが生まれたのです。ですから、逆に合格者を減らせという動きに著者は懐疑的ですし、私も同じ気持ちです。
 裁判官から弁護士になり、法科大学院の教授にもなった著者は、弁護士会の会長にだけはなりそこなったそうです。これもケンカしたくない著者の温和な人柄によるものでした。ますますのご健勝を心より祈念します。
(2012年5月刊。952円+税)

2012年6月21日

自衛隊員の人権は、いま

著者  浜松基地自衛官人権裁判を支える会 、  出版  社会評論社

 自衛官の自殺は多い。1998年に全国で75人、1999年も62人。そして、いじめが多く、それによる自殺も頻発している。
 自衛隊に対して裁判を起こすときは、調査不足のため弱点を突かれないよう、訴状を出す前に十分に調査しておく必要がある。相手は閉鎖社会なので、すべての情報と資料は自衛隊が独占している。
徒手格闘は、銃剣格闘、短剣格闘と並ぶ、自衛隊格闘術の一つ。武器が使用できない状況下で、素手で敵を倒すために編み出された。
 このところ、格闘訓練に名をかりたイジメやしごきが行われている。
なぜ自衛隊員の人権侵害が起こるか。その一つに、軍隊としての本質の問題がある。軍は武器をもって外敵と対戦する戦闘集団である。ここでは、戦時、通常の道徳規範に反する器物損壊、人員の殺傷が公然と行われ、生命を省みない危険な行動が求められる。そこで、軍では、軍人の基本的な人権が制約され、組織に特別の秩序を科し、任務を強制するなど、行動を強く規制する必要がある。
 要するに、「軍紀」とは通常の「道徳規範」とは正反対の、一般社会では許されない器物の損壊、人員の殺傷などの戦争遂行行為を、命令・規律という強制力をもって、自他の生命を省みないで行わせることにある。ここに、兵士の人権保障と軍隊の職務とのあいだの本質的な矛盾が存在する。
 自衛隊では、服務指導は、勤務に関する事項のほか、私生活にわたる事項もふくめ、組織に影響するものは、すべてを対象とする。これは隊員が職務に専念するためであり、隊員間の心情把握および私的な悩みに注意するとともに、任務遂行に支障を来す範囲の事項の除却にある。つまり、このように自衛隊では公私の区別がなく、プライベートの部分も自衛隊はきちんと把握している。
 ドイツには軍事オンブズマンが軍隊の中に置かれていて、軍隊をコントロールする一つの仕組みとなっている。ドイツの軍事オンブズマンは、連邦議会の指名により、議会の補助機関として置かれている。
 軍事オンブズマンにはスタッフが50人いる。軍事オンブズマンは年間6000件の苦情を処理している。一人の兵士を大切にすることが、軍隊を誤らせないことにつながるという考え方にもとづいている。
自衛官も、国民の一人として、憲法で保障された人権は守られなければなりませんよ
ね。全国25万人の自衛隊の人権を守ることは、私たち日本国民全体の人権を守ることに直結しているものだと痛感しました。私と同期の岡田尚(横浜)、塩沢忠和(浜松)という弁護士2人がこの分野でも活躍しているのを知って、うれしく思いました。
(2012年3月刊。1800円+税)

2012年6月16日

憲法が教えてくれたこと

著者   伊藤 真 、 出版   幻冬舎ルネッサンス

 みずみずしい感覚で憲法の条文を読み直すことのできる画期的なケンポーの本です。著者は司法試験受験界では名高いカリスマ講師です。ところが、情熱をかけているのは受験指導だけではありません。日本国憲法を本当に国民生活のなかに根づかせたいという気持ちで、毎日がんばっているのです。すごいですね。私も、憲法を日々の暮らしのなかに根づかせ活かしたいという同じ願いから、日弁連の委員会で一緒に活動させていただいています。
 実は、この本は著者から贈呈を受けた3冊のうちの1冊なのです。まっ先に読んだのが、この本です。なんといっても、サブタイトルに魅かれました。
 それは、「その女子高生の日々が輝きだした理由」とあるからです。
 そして、読み終わった直後に著者に会ったので、女子高生に「密着取材」をしないとかけないと思いますが・・・、と尋ねたのでした。すると、著者は照れ隠しの笑いのなかで女子高生に「取材」したことを認めたのです。
 女子高生は、なんと走るのが好きで、高校駅伝に出場するのが夢だったのでした。そして、その女子高生の父親は弁護士なのです。ところが、父親の弁護士の陰は薄く、むしろ今ではリタイアした祖父の影響力のほうが強いんです。
それにしても、県立高校の陸上部に入った主人公の女子高生を取り巻くストーリー展開のなかで、憲法前文や条文が自然に組み込まれ、その意義が解説されていく手法は見事なものです。
 こんなかたちで、すーっと胸に落ちるような憲法の話を私も若い人たちにしたいものだと思いました。著者のますますのご活躍を心から祈っています。
(2012年4月刊。1200円+税)

2012年6月14日

ショージとタカオ

著者  井手 洋子  、 出版  文芸春秋
 
 布川事件で被告人とされた桜井昌司(ショージ)と杉山卓男(タカオ)の両氏について、仮釈放以来、ずっと映像をとり続け、ついに映画にまでした監督が書いた本です。
 私は、残念ながら映画はみていませんが、このお二人の話は直接聞いたことがあります。実は、二人とも私とまったく同世代なのです。でも、私が大学に入って東京で生活を始めた年の10月に逮捕され、それ以来、29年のながきにわたって獄中にいたのでした。そして、ついに1996年(平成8年)仮釈放されました。ときにタカオは50歳、ショージは49歳でした。女子高生のルーズソックスがブームだったころです。
そんなわけで、このお二人は見かけこそ中年のおじさんなのですが、その心は若者のままなのです。私がお二人の話を聞いたときも、見かけは私と同じでも、その心持ちはずいぶん若い気がしました。それはともかく二人コンビで何か悪いことをしたわけでもないのに、運命のいたずらで事件は二人の「共犯による犯行」とされてしまい、それぞれ「自白」して、相手を「まき込み」、それがずっとお互いのわだかまりの元になっていたのでした。
そして、そんな二人の歩みをずっと映像にとっていたというのですから偉いですよね。だけどそのとき、この監督(この本の著者です)はどうやってメシを食べていたのか(収入を得ていたのか)、いささか疑問も感じました。配偶者の稼ぎに頼っていたということでしょうか・・・・?
ショージは、刑務所の独房のなかで、毎日、腕立て伏せを100回、腹筋を50回していた。部厚い広辞苑を鉄アレイ代わりにつかって、腕を振る運動もしていた。
1987年7月に無期懲役が確定して、千葉刑務所に暮らすようになってからのことです。偉いですね。さすがですね。
そして、ショージは刑務所のなかで靴を縫う仕事で法務大臣賞をもらったのでした。逮捕される前は定職についていなかったショージは、この際、しっかり働いて誰にも負けない、日本一の靴の作り手になることを心の中で誓っていた。
ショージもタカオも長い刑務所生活のなかで心の支えになっていたのは手紙だという。たまにある面会ではない。
支援者からの手紙に写真を同封するのは一切ダメだというのを、「保護者」が写っているのはOKだということになった。
タカオは六法全書を入手し、舎房のなかで、日々研究した。
ちょっぴりぐれかかった20歳前後の若者2人を警察が目をつけ強盗殺人の犯人に仕立てあげ、「自白」させた事件です。そして、それを40年以上もかかって再審無罪にしたというのです。もちろん二人がもっとも大変だったと思いますが、それを支えた周囲の人たちもすごいですよね。そして、日の目を見る保障がないなかで映像をとりはじめたというのも、すごいです。
   無実の人が「自白」するなんて簡単なことだという実例です。ぜひ映画を見てみたいものです。
(2012年4月刊。1200円+税)

2012年6月12日

バイバイ・フォギーデイ

著者  熊谷 達也  、 出版   講談社

 面白い本です。まったく期待せずに、読み飛ばすつもりで読み始めたのですが、案に相違して抜群の面白さでした。なんだか函館の町にいて、高校生に戻った気分で本に没入し、最後まであっというまに読みふけっていました。いやはや、すごい書き手です。
なにしろテーマは憲法改正なのです。こんな堅苦しいテーマをじっくり面白く読ませてくれる手法には、恐れいりました、としか言いようがありません。
舞台は函館のH高校。そして五稜郭が出てきます。私も一度だけ五稜郭に行き、タワーにものぼりましたし、五稜郭の周囲の池の端を少しだけ歩いてみました。もう、20年近くも前のことです。
オビの裏には、こう書かれています。
一見ミスマッチな青春と政治が、鮮やかな恋物語を紡ぎだす。
憲法改正についての国民投票実施が決まった春、函館H高校女子生徒会長の杉本岬は、全国の高校生による模擬国民投票に向けて動き出す。メディアに取り上げられ、有名人になった岬だが、掲示板サイトには彼女を批判する書き込みがされて苦境に陥る。岬の同級生の田中亮輔は、地元パンクバンドのギタリストだが、憎からず思っている岬を助けたいと願いながらも、なすすべがない。国民投票の結果は? そして、二人の恋と未来はどうなるのか?
すごいんです。なにしろ焦点は憲法9条なのです。国民投票で否決されたら自衛隊は解体されるのか、という重大な問いかけがなされます。その点にきちんと答えないまま国民投票で勝負しようというのはインチキじゃないかと高校生が迫るのです。まことに、そのとおりです。
そして、日本の海上保安庁の船が不審船に沈没させられると、世論は一気に憲法改正に賛成するムードになっていきます。そして、ネット社会で有名人になった女子高生の岬は、憲法改正による賛否を明らかにせよと迫られるのです。
憲法改正は9条がメイン。それ以外にも環境権とかいくつかあるけど、あくまでも憲法9条をどうするかが議論の中心よね。
改正案は、最小限度の項目にしぼられた。そして、国民投票については18歳以上のはずだが(今は、まだ決まっていません・・・・引用者)、今年度末までに満18歳になる人は、18歳以上とみなすということになった。
これまで、我々は憲法9条の解釈に常にふりまわされてきた。霧とか靄(もや)とかがかかったような状態に長いこと置かれてきた。それが、今度の国民投票で、よかれ悪しかれ、霧が晴れてすっきりした状態になる。どういう方向に向かうかは投票の結果によるけれど、いずれにせよ、視界が良好な世界へと踏み出すことができるだろう。だから、バイバイ・フォギーデイ。もやもやした霧の日よ、さようならというわけです。
今回の憲法改正案が否決されたとき、現行憲法を文字どおりに解釈して、自衛隊を解体するのか、あるいは改正案が否決されたのだから、現状維持でよしとするのか。
私は、自衛隊なんていう軍隊は日本からなくなってほしい、必要なのは災害救助隊だと、3.11東日本大震災のあと、痛切に思います。
インターネットの世界では抜きさしならない事態に見舞われ、大きな危機に瀕している。なのに、実際の風景は、いつもと変わらず、いたってのどかなものだった。
そして、いよいよ国民投票の日が迫ります。改正キャンペーンはやや下火になったものの、結局、改正賛成が多数を占めます。ああ、こんなことにならないようにしようと思ったことでした。
巻末に主要参考文献のリストがあります。ぜひ多くのみなさんに読んでほしい本ばかりです。
(2012年4月刊。1600円+税)

2012年6月 7日

徹底解剖・秘密保全法

著者   井上 正信 、 出版   かもがわ出版

 3.11東日本大震災の直後、福島第一原発のメルトダウンに至る状況は国民に十分知らされないままでした。知らぬが仏というコトワザはたしかにありますが、あのとき、むしろ欧米のほうがメルトダウンを察知して自国民の避難を急がせたのでした。
 そして、官邸の対応はあまりにも不手際が重なったと思います。それは東電の隠蔽体質によるところが大きいのでしょうが、最大の「敵」は「原子力村」と呼ばれ、今も根強い産学官複合体ではないでしょうか。
 そして、とんでもない「秘密」を当然視している人たちが、現状を法制化しようというのが、この秘密保全法制です。いやはや、その本質を知るにつれ、権力や権力にすり寄る人たちの厚顔無恥ぶりには怒りを通り越して呆れてしまいます。
 この本は、広島(尾道)で活動している弁護士が秘密保全法制をめぐる情勢とその問題点を分かりやすく多面的な視点から解き明かしています。
 秘密保全法は、その制定過程から秘密にされている何が秘密なのか、なぜ秘密にしなければいけないのか。それを明らかにできないのが、秘密の秘密たる所以なのです。
うむむ、なんだか、分かったようで、分からない話ですよね。早い話が、もし秘密保全法違反で逮捕され、裁判にかかったとしても、公開の法廷で、何が秘密だったのかが明らかになることはありません。もし、それが明らかにされたら、それをバラしたことで処罰されるなんてことは考えられないからです。いわばヤミからヤミへと処刑されるようなものです。
 だから、高名な憲法学者も入った有識者会議の報告書には、次のようなくだりがあります。
 「ひとたび、その運用を誤れば、国民の重要な権利利益を侵害するおそれがないとは言えない」
 この秘密保全法制は、対米公約の成果としてつくられようとしているものであります。つまりアメリカから押しつけられた法案でもあるのです。
国の秘密は、国民に対して秘密にするもの。秘密をつくる官僚や政治家にとっては秘密ではない。つまり国民には内緒にして、一部の官僚や政治家だけが知っている情報なのである。
といっても、著者も、国に秘密があることを認めないというのではありません。
 しかし、秘密が認められるためには、秘密が厳格に限定され、一定の時期が来れば必ずすべて公開され、秘密にすることが合理的であるかをチェックする第三者機関が必要だ。なーるほど、と思いました。
 既に日本には、秘密保護のために刑罰法規はある。自衛隊法96条の2、122条、刑事特別法、MDA秘密保護法など。
 「特別秘密」という概念はあいまいであり、限定がない。そのうえ、未遂を処罰するというのでは、あいまいすぎて、罪刑法定主義に反する。
 この秘密保全法制については、報道の自由を侵害するものなのですが、マスコミの反応が今ひとつ鈍いように思えます。マスコミの権力スリ寄り志向のせいなのでしょうか・・・。
 正当な取材活動も捜査の対象となるのですから、もっとマスコミは自覚してほしいところです。
 なお、1974年ウォーターゲート事件で内部告発したディープスロートは「最後まで誰かは不明」というのは正しくありません。そうではなく本人が名乗り出ています。こんな玉にキズがあるのも愛嬌です。
いつも難しい論文を書いている著者には珍しいほど平易な文章で一貫しています。本文150頁あまりのハンディな本です。ぜひ買ってお読みください。
(2012年5月刊。1600円+税)

2012年6月 6日

記憶する技術

著者   伊藤 真 、 出版   サンマーク出版

 としをとってもやれるものはたくさんある。いつのまにか還暦をすぎてしまった私のようなもの(決して老人なんて呼ばせません)を大いに励ましてくれる本です。
記憶するために必要なのは、頭のよさでもなければましてや気合いでもない。「記憶する技術」をもっているかどうかである。情報にあふれた現代において、たくさんの引き出しがあるだけではなく、それを適宜引き出せるということが大事だ。整理された引き出しが多ければ多いほど、アウトプットしやすい。そうすれば、それは生きた知識になる。同じことを何度も飽きずにくり返すことができること。あたりまえのことかもしれないが、これこそ記憶する技術の極意だ。つまり、対象に強い興味をもち、意識のポイントを変えることによって、何度となく学びを得ることができる。
人は、自ら欲した情報しか得ることができない。
 著者は教えている塾生、1年に300人を大体覚えているそうです。しかも、15年分です。すごいですね。
 対象に対して、強く興味や関心があると、記憶しやすい。だから、記憶するには、以下に対象に興味をもてるかに尽きる。
 いつまでも若々しい感性をもち、喜怒哀楽のはっきりしている人は記憶力もよい。喜怒哀楽の感情と結びつけて覚えると、あたかもそれを経験したかのような経験記憶となって、忘れにくくなる。
記憶のゴールデンタイムは「1時間以内」と「寝る前5分」。講義が終わったあと、席を立つ前に、その場でそのまま復習する。そして、毎日5分。それも寝る前の5分がいい。ポイントは、それまですべてをざっと復習すること。
部屋の整理ができず、整理が苦手だという人は、記憶力も弱い。ど忘れというのは、脳の前頭葉からの情報が求められているのに、側頭葉から答えが出ない状態をいう。
過去の記憶にどんな意味を与え、これからどんな記憶をインプットしていくのか。その技術こそが、生き方そのものだ。記憶とは量ではない、生き方なのだ。そして、忘れる力は、いわば生きる力なのだ。情報を消すこと、記憶を忘れることこそが命であり、生きている証拠だ。変化すること、忘れること、それこそが生きるためには不可欠なのだ。
生命にとっては、変化そのものが情報であり、変化の幅こそが次の反応をひきおこす手がかりになる。
 記憶力に自信がない人はいろいろ工夫するので、ゴールに到達しやすい。実際、早く合格する傾向がある。考える前提として、基礎的な知識は記憶していなければならない。つまり、記憶とは考えること。記憶を定着させるには、何度もくり返し、刺激を与えることが大切だ。
 考えるのをやめるというのは、つまり決断するということ。決断する訓練をしておかないと、試験に受からないし、実務家としても使いものにならない。技術が使いこなせない。
 記憶することは、人間が知的に感情豊かに生きるためにきわめて大切なことだ。
いい本でした。自らをふり返ってみるうえで大切なことがたくさん書かれている本です。若さを保とうとするあなたもぜひお読みください。
(2012年4月1300円+税)

2012年6月 3日

刑務所なう。ホリエモンの獄中日記

著者   堀江 貴文  、 出版   文芸春秋

 いま長野刑務所に入っているホリエモンの刑務所体験記です。もちろん自由を奪われた生活なのですから、実際にはなにかと大変な苦労を味わっているのでしょうが、この本を読むと、開き直って楽しんでいるような印象さえ受けます。
 ともかく、よく書いています。もとから作家志望で、書くことは苦にならないようです。その点は、私とよく似ています。ともかくなんでも書いて、書きまくってしまうのです。そして、刑務所のなかでも新聞を読み、よく本を読んでいます。
 刑務所の臭いメシとよく言われますが、本当はとても美味しいようです。一人あたりの食費は安くても大量につくったら案外おいしいものができます。
 なにしろ、日頃の収容生活で最大の楽しみは食べることなのです。これがまずかったら、暴動が起きてしまうでしょう。
 ホリエモンは長野刑務所は全国屈指の美味しさだと誇っています。なかでもメンチカツは本当に美味しいようです。
 私も福岡刑務所を見学したとき、昼食を食べさせてもらいましたが、文句なしに美味しいと思いました。当初、それは見学者用だから美味しいのかと疑いましたが、そうではないようです。
 刑務所のなかの生活が、ときに実録マンガでも紹介されていて、500頁もある本ですが、飛ばし読みして1時間足らずで一気に読了しました。ホリエモンはこりることなく、意気軒高でした。ここらあたりは、人によって好き嫌いがあるところでしょうね。
(2012年3月刊。1000円+税)

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