弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

司法

2013年3月22日

ライファーズ

著者  坂上 香 、 出版  みみず書房

私は見ていませんが、『ライファーズ』という映画があるそうです。
 ライファーズとは、無期拘禁刑渡河された受刑者のこと。2種類の無期刑がある。仮釈放のない絶対終身刑(LWOP)と、もう一つは仮釈放の可能性が残されたもの(LWP)。2002年には全米で12万のライファーズがいた。LWDPはその4分の1の3万人ほど。10年後の2011年にはライファーズは15万人に増えたものの、LWOPは4万人で、あまり増えてはいない。カリフォルニア州は全米でもっともライファーズが多く、2011年に3万2000人、全米の受刑者の2割にあたる。LWOPも4000人いる。
仮釈放があるといっても、現実に釈放されるライファーズは極端に少ない。
 この本は、そんなライファーズの回復・立ち直りを支援する地道な取り組みを紹介しています。
 アメリカでは「犯罪には厳しく」というスローガンのもと、1970年代半ばから厳罰化政策がうち出され、それが1980年代から90年代にかけての刑務所ブームともいえる状況を生み出した。1970年代半ばから顕著になった福祉「改革」と自己責任論、それらの結果として貧困層の犯罪化がある。
 「産獄(産業と刑務所)複合体」という用語まである。民間企業と国家が安全な労働確保するために、厳罰化政策を拡大した。アスベスト除去や炎天下での雑草除去作業などを刑務所が請け負うが、受刑者には最低賃金すら支払われなかったりする。有名ブランドの多くも、刑務所の安価な労働力をつかって法外な利益をあげている。
 1990年代半ば、刑務所の建設ラッシュとなった。1990年からの10年間で245もの刑務所、年平均で25件ほどが新設された。そして、アメリカは「監獄大国」となった、拘禁されている人は230万人。人口比では人口10万人あたり750人。日本は、その12分の1の60人ほど。しかも、保護観察や仮釈放中の人間を含めると720万人にも膨れあがる。これはスイスの全人口に匹敵する。
カリフォルニア州は監獄化のトップランナーである。2008年度の受刑者数は全米トップの17万3000人であり、テキサス州に次いで2倍だった。カリフォルニア州の矯正予算は教育予算を大幅に上回り、刑務所の職員は6万6000人である。
 過去30年間のうち、刑務所の数は3倍に増えた。ただし、監獄人口が激増しているからといって、犯罪も激増しているわけではない。1960年から1990年までの30年間の犯罪率は、フィンランド・ドイツ・アメリカの順番ですすんでいった。
 アメリカで刑務所人口が4倍に増えたといっても、アメリカの刑務所人口がもっとも顕著だった1980年代、犯罪の発生率は25%も低下した。
 受刑者の立ち直りのためにライファーズの力を借りた。終身刑のライファーズは刑務所というコミュニティで大きな影響力をもつ。
 母親が父親が刑務所に服役中の受刑者の子どもが、アメリカには少なくとも190万人から230万人はいる。その大半が10歳以下で、アメリカの43人の子どもに一人もしくは、
2.3%の子どもの親が刑務所に服役中の受刑者だ。
 刑務所問題は、受刑者本人の問題だけではなく、子どもの福祉に大きく関わってくる。さらに受刑者の3分の2あまりが非白人であることから、マイノリティにとって切実な問題であることが分かる。アフリカ系の子どもでは15人に1人、ラテン系では42人に1人、白人は111人に1人である。受刑者の子どもが共通して体験することとしては、経済的・物理的・精神的に不安定な生育環境、犯罪者の子どもという恥の意識、拒絶感、社会的・組織的偏見、サバイバーブバルト、虐待、親族への依存と負担、学業の不振や素行の問題があげられる。親が死刑囚の場合には、さらに深刻だ。
 アメリカの刑務所には、刑務所の掟と呼ばれる暗黙のルールが存在する。人種別のギャングが受刑者の生活を仕切っているため、人種が違えば「敵」になる。外のギャングと刑務所内はつながっていて、刑務所内の動きは外にも影響を及ぼす。その逆もまた、しかり、服役前にはギャングに所属していなかった者も、刑務所暮らしを生き延びるために巻き込まれてしまうことが多い。
日本の刑務所では、受刑者同士が自由に言葉を交わしたり、触れあうことが許されていない。誕生日も例外ではない。ひと言も言葉をかわすことなく、前を向いて黙々と誕生日の食事をとる。
アメリカの更生施設では、日常的に恥や屈辱的な思いをさせることは人を卑屈にさせ、人間的成長の妨げになると考えられている。罪に向きあうためにも日常的な会話や語りが奨励され、受刑者を孤立させない工夫が随所にあった。日本の刑務所とは正反対のアプローチである。
男性刑務所のなか、しかも重罪を犯した粗暴犯のいる場に、普段着の女性があたり前のようにしていて、受刑者と談笑し、受刑者のグループに混じって話をする。このように、アミティは、女性を積極的に雇用する。管理職に占める女性の割合も高い。
 自分の心を開いていくこと、それをどうやっていくのか、真剣な試みがアメリカでも続いていることがよく分かりました。受刑者の大半がいずれ社会に出てくることを考えたとき、このような取り組みが本当に必要だと、長く弁護士をしていて痛感します。
(2012年8月刊。2600円+税)

2013年3月14日

アメリカの危ないロイヤーたち

著者  リチャード・ズィトリンほか 、 出版  現代人文社

弁護士という職業は、日本もアメリカの共通するところが大きいと思います。ところが、アメリカでは弁護士の社会的評価がとても低いというのです。といっても、オバマもクリントンもヒラリーも、みんな弁護士なんですけれど・・・。
アメリカ人は、ずっと永く、弁護士を疑いと批判の眼で見てきた。150年前、エイブルラハム・リンカーンは、「一般の人が抱いている、弁護士はすべからく不正直だという考え」に言及した。多くの人は、典型的なアメリカの弁護士とは、不道徳であるか、あるいは道徳に無頓着であると考えている。
 弁護士は、しばしば依頼者の視点から事実をねじ曲げてみる。公衆は、法制度を正義に奉仕するためのものであると期待するのに対し、弁護士は「誰にとっての正義か?」と問い、何よりも依頼者の視点からみた正義を実現するという自らの義務を指摘する。
日本の弁護士の一人として、これは違うぞと私は叫びたくなります。
 弁護士は、決して故意に裁判所に対する偽もう行為に関与することがあってはならない。しかし、刑事弁護人は、その承認が真実を語っていると知っているときでも、「検察側の主張する真実をテストするために利用可能な合法的な手段すべて」を使用しなければならない。
 1960年代初め、50人以上の弁護士を擁する法律事務所は、ほんの数えるほどだった。30年後、このサイズの法律事務所は500をこえた。1978年には、300人をこえる弁護士を擁するアメリカの法律事務所は一つであり、200人以上は15ほどだった。1996年までに、200人の弁護士を擁する法律事務所は161となった。
 1970年代の後半、上位100の大規模法律事務所の多くは単一の大都市に単一の事務所を構えていた。そして、同じ州のどこかに臨時の出先機関をもっていた。1997年には、最大のベイヤー・アンド・マッケンジー法律事務所は国内に9ヶ所の事務所を構え、海外にはサウジアラビア、ベトナムからカザフスタンまで47の事務所をもつに至った。他の30の法律事務所は500人をこえる弁護士を擁し、平均して、全世界に12の事務所を構えていた。
 スラップ訴訟とは、公衆の参加を断念させるために戦略敵に提起される訴訟のこと。この訴訟は大企業によって提起され、十分に資力のない人を相手どって巨額の賠償を請求する。この訴訟は被告側の防御費用が多額になるように考案される。この訴訟は提起する側の利益を想定していない。この種の訴訟の80~85%は結果として敗訴する。しかし、多くのケースで、被告側が費やす時間と費用の点で、そして被告と第三者の言論の自由に及ぼす萎縮効果によって損害は生じている。
 日本でも、かつての巨大サラ金の武富士がフリージャーナリスト相手に起こした訴訟がこれにあたりますね。
 アメリカでもっとも裕福な法律事務所の一つである370人の弁護士を擁するクラバスは、パートナー弁護士の一人あたりの年間総売上は250万ドル以上であり、パートナー弁護士一人あたりの平均利益は100万ドルを超えている。また、250人の弁護士を擁するウィルマー・カトラーでは、パートナー弁護士一人あたりの総売上は100万ドル以上であり、パートナー弁護士一人あたりの実利益はその半分の50万ドルである。25歳の新人弁護士でも、年俸8万5000ドル。初任給7万500ドルの弁護士の労働について、1時間あたる150ドルを依頼者に請求するので、事務所にとって30万ドルの価値がある。
 年間1800時間という請求可能時間のノルマを達成するためには、自分自身を殺さなければならない。
 アメリカの弁護士の10%、8万人から10万人が企業のなかで働いている。
 最高の法廷弁護士は誰でも、役者として法廷では、少しばかりの人間性を示すのが重要な意味をもつことを意識している。法廷弁護士の多くが、服装が弁護士像を形づくることに同意する。
カーター大統領は、1978年にこう言ったそうです。
 弁護士の9割は人民の1割に奉仕している、私たちはあまりに多くの弁護士をかかえながら、十分に弁護の恩恵を受けていない。ロースクールは、アメリカの大学にとって利益のあがる事業体である。
 カネと権力のすべてを手中に収めながら、弁護士自身は、今日ほど、その専門職に満足していない時代はない。
 こんなアメリカ、そして弁護士にはなりたくないと思った本でした。
(2012年7月刊。2200円+税)

2013年3月10日

司法修習QUEST

著者  赤ネコ法律事務所 、 出版  新書館

司法修習生の生活実態がマンガで紹介されています。
 現役弁護士の手になるマンガですので、そこに描かれている情景にほとんど間違いはありません。リアルなマンガに、つい笑ってしまいます。でも、内容はかなりシリアスです。
 ふだん私が読むマンガと言えば、新聞の4コマ、マンガです。秀逸なのは、なんと言ってもオダ・シゲ氏でしょうね。かつては、サトウ・サンペイがすごいと思っていました。まんまる団地は、どこでもある日常的な情景がよくぞマンガでとたえられていると思って、毎朝の楽しみです。くすっと笑えるところがいいですね。最近読んだマンガ本では、『ちいさいひと』、そして『ヘルプマン』がすごく勉強になりました。
 私は、新人弁護士には、いつも『家栽の人』と『ナニワ金融道』を必須文献として推奨しています。弁護士も実はなかなか硬い本を読みませんから、せめてマンガ本くらい読んでほしいという願いがあります。今どきの若手弁護士は少なくない部分が新聞すら読んでいないし、購読していません。インターネットで十分というのですが、それでは情報が片寄る(偏る)のですが・・・。自分の趣味・志向にあわせた情報にだけ目が向きがちです。
 司法修習生のとき、それまでの本の世界から初めて現実に直面します。そのとき、経験ある先輩の手ほどきが必要になります。私は、この時期に大いに世話役活動をしなさいねと言っています。わがまま勝手の人間集団の世話役として苦労していると、それが弁護士になったときに生きてきます。人間は、誰だって複雑な存在です。とても一筋縄では処理できません。
 それを自ら体験して実感しておくと、あとで必ず生きてきます。机上の空論がいかに得意でも、それでは食べていけません。
この本には就職難のことが面白おかしく紹介されています。もちろん、それは現実です。でも、もう少し、大都会志向から目を転じてほしいと常々私は思っています。
 同時に、受け入れ側の弁護士にも安定志向が強すぎます。若い人たちと苦難をともにするという覚悟が今こそ求められていると思います。
 よく出来たマンガでした。
(2013年1月刊。740円+税)

2013年3月 8日

東電OL事件

著者  読売新聞社会部 、 出版  中央公論新社

1997年3月、東京電力の総合職社員(女性、39歳)が渋谷の円山町で殺害された。犯人としてネパールから日本へ出稼ぎに来ていたゴビンダが逮捕され一審の東京地裁は無罪としたものの、2審は逆転有罪そして最高裁も有罪判決を維持して確定した。2003年11月のこと。
ゴビンダ受刑者は再審請求したが、その手がかりとなったのがDNA鑑定。
 1997年は、DNA鑑定の過渡期だった。鑑定の精度は上がってきていたが、今のようにコンピューターでDNA型の判定はできず、肉眼で判定していた。
 DNA鑑定技術は、1989年には、別人と一致する確率は200人に1人だった。
 1996年には、PM型検査によって2万3000人に1人と精度が上昇した。
 2003年に、STR型検査法によって1100万人に1人と、飛躍的に精度が向上した。
 2006年には、STR検査法がさらに、それまでの9ヶ所から15ヶ所のDNA配列を調べるSTR型検査法に変更されて、4兆7000億人に1人となった。これではほとんど100%の精度である。このように刑事事件におけるDNA鑑定の歴史は、まだ30年足らずしかないが、この30年で飛躍的に精度が高まった。
 被害者は、手帳に売春相手の使命、会った時間、受けとった金額などを克明に記録していた。いかにも日本人ですね。なんでも記録するのですよね。
 ネパール人は、正規ルートで海外に出稼ぎに出ている人だけで230万人。把握できる人だけでも全人口の10人に1人近くが海外で働いていることになる。9割以上が、カタール、UAE、クウェートなど、オイルマネーに沸く中東地域やマレーシアにいる。収入は日本円にして1~2万円。それでもネパールにいるときよりははるかに大きい。若者による出稼ぎは、ネパール経済を支える主力産業だ。
 再審の扉をこじあけて無罪となったゴビンダは、今、ネパールの自宅で家族と生活をともにしています。それにしても15年間も獄中にいたわけです。
最新のDNA鑑定の威力とあわせて、それまでの精度の低さに改めて驚嘆させられました。
(2012年11月刊。1400円+税)

2013年2月27日

白鳥事件・偽りの冤罪

著者  渡部 富哉 、 出版  同時代社

かの有名な白鳥事件の真相に迫った本です。冤罪ではなかったという主張ですが、読んで、なるほど説得力があると思いました。なにしろ、当時の関係者である北大生立ちが何人も中国へ密航し、亡くなるまで中国で生活していたのです。教養を生かして中国では、日本人教師として活躍していたようです。
 故村上国治氏と話したことはありませんでしたが、遠くから見かけたことはあります。出獄後、村上氏が日本国民救援会の副会長をしていたときのことです。再審事件の審理でも、疑わしきは被告人の有利に扱えという最高裁の判断を引き出しましたが、白鳥事件そのものでは有罪のままでした(と思います)。
 著者は、村上氏は白鳥射殺を指示する立場にいたと断言しています。
 白鳥事件とは、1952年1月21日夜、白鳥一雄警部(警備課長・36歳)が路上で射殺された事件。政府と警察は事件直後から、共産党の軍事方針によって射殺されたと宣伝し、村上国治をはじめ多くの共産党員が逮捕された。1949年7月の下山国鉄総裁怪死事件、三鷹事件、松川事件と同じように警察の謀略・冤罪事件と見る人も多かった。
 1950年6月には朝鮮戦争が勃発していて、レッド・パージも始まっていた。
 村上国治は1922年に北海道に生まれ、軍隊に入り、フィリピンに上陸したがマラリアにかかって国内に生還した。戦後、日本共産党に入って北海道オルグになり、ついには札幌委員会委員長になった。そして、軍事委員長を兼任した。
 日本共産党は朝鮮戦争が進行中の1951年10月、五全協を開いて軍事方針を打ち出した。
著者は白鳥警部を射殺した実行犯は佐藤博だと断言します。
 佐藤博は、戦中は海軍特攻隊員であり、ボルネオ島まで行ったが生還した。そして戦後は井戸堀職人(ポンプ職人)として働いていた。
白鳥警備課長が射殺された翌々日の1月23日早朝から札幌市内のあちこちで、「見よ、点誅堂に下る」という日本共産党札幌委員会の署名の入ったビラがまかれた。これでは、いわば犯行を自白したようなものである。ところが、この点誅ビラに対する市民の反応が厳しいことから、村上国治たちは動揺し、自己批判するに至った。
 なぜ、2種類のビラがあり、警察が増刷したと言えるかというと、増刷したほうに明らかな校正ミスがあったからだ。たとえば、「下る」を「降る」と書いている。よほど印刷を急がせたのだろう。白鳥事件は、スパイ山本らを通じて情報をつかんでいた国警が、あえてこれをなすがままに「泳がせる」ことで、思惑どおりにことを進めさせたものでもある。
うひゃあ、警察って、「大義」のためには身内の幹部の生命だって容赦なく犠牲にするということですね。
 実行犯の佐藤博は、事件のあと北海道内を点々と逃げまわった。石炭の積込人夫になったり、オホーツクのニシン漁場に住み込んだり、千蔵の建設現場に入ったり、そして開拓農家から、ついに九州に来て、それから中国へ渡った。
 1952年10月、日本共産党は衆議院総選挙で前回35議席から、一挙ゼロになってしまいました。得票数は300万票が65万票に激減したのです。極左胃険主義は国民に支持されませんでした。当然です。歴史の闇を明るみに出した労作です
(2012年12月刊。2800円+税)

2013年2月24日

紫陽花、愛の事件簿

著者  渡部 照子 、 出版  花伝社

じっくり読ませる本です。実際にあったケースを小説風に描き出していて、なるほどそういうことあるよな、そうなんだよなと思わせるストーリーになっています。
著者は私もよく知っている東京の弁護士です。熊本生まれとははじめて知りました(いえ、前に聞いたことがあるのかもしれませんが・・・)。
一度だけの不倫で生まれた子。それを疑いつつも我が子として育ててきた父親。子どもが大きくなって、いよいよ耐えかねて家出したのは父親だった。
果たして、家庭は崩壊してしまうのか・・・。血のつながりが大切なのか、家族の団らんの体験を大切にするのか、選択が迫られます。
 エリート医者が結婚相手に選ぶ女性はやはりエリート家系なのか、それとも「馬鹿な女」を選ぶのか。人は何のために結婚するのか・・・。
 私の近所にも高齢の女性が一人で暮らしています。いつも元気に出かけていますが、認知症になったとき、身内が財産目当てで近づいてきたら、どうなるのか・・・。
身内の成年後見人が解任されて弁護士が成年後見人に就任し、前任者の不正を暴きはじめます。しかし、結局、その身内も相続人の一人。本人が死んだとき、「不正」額を精算することになります。
誰にだって老後は来ます。そのとき、誰が本当に頼りになるのか心配ですよね。成年後見制度も悪用されたら大変なことになります。
 7つの短篇が、それぞれの人生の断片を、優しく、鋭く、えぐりとっていて考えさせられる内容の本になっています。ご一読をおすすめします。
(2012年7月刊。1200円+税)

2013年2月13日

議論に絶対負けない法

著者  ゲーリー・スペンス 、 出版  三笠書房

アメリカのナンバーワン弁護士が議論に絶対負けない方法を教えてくれるというので、買って読んでみました。
 なーんだ、と思いました。決して突飛なことは書いてありません。むしろ、なるほどそうだよね、と同感するようなことばかりが書いてありました。
 これなら、明日から私だって実践できそうです。さあ、やってみましょう。
ありのままの自分こそ、最高の自己主張である。大げさに騒ぎ立てる人が議論の勝つことはまずない。
 まずは相手の言うことをよく聴くという技術が必要である。相手を一度は自分のなかに受け入れること、相手と一体になる技術が必要である。
自分を自由に解放するためのカギは、自分自身に扉を開ける許可を与えること。
 勝利とは、相手に降伏の白旗をあげさせることだと思っているとしたら、それは大間違いだ。最高の議論は、沈黙がもつ絶対的な力と忍耐とを持ち合わせることだ。
 妨げになっているのは、拒否されるかもしれないという恐怖だ。
 怒って復讐に燃える相手には、議論をふっかけても意味はない。
勝利をおさめるひとは、他人の話をよく聴いている人である。
 書くことが大切なのは、自分の心を探索するためだ。
 議論を人間味のある言葉で思い描くことによって、無味乾燥な抽象的概念を避けることができる。動作を大切にし、抽象的概念は避けること、これが鉄則だ。
ストーリーに力があるのは、ストーリーは動作をつくり出し、抽象的概念を避けることができるからだ。言葉が跡形もなく耳を通りすぎてしまう、そんな話し方をしてはいけない。
笑顔を、感情を隠すために使ってはいけない。ほほ笑みたいと感じるときに、ほほ笑むべきだ。相手に対して喜びや親しみを感じたときにほほ笑むべきだ。愉快に感じたときにほほ笑むべきだ。相手の心を開かせるためにほほ笑むのはやめよう。
まずは自分自身の感情を完全に意識し、理解することができなくては、相手の感情を感じることはできない。すべては自分自身から、自分の感情から始まる。
 内容を伝えるのは、言葉だけではない。言葉は、それほど重要ではない。音、リズム、身体、ジェスチャー、目、つまりはその人全体なのだ。
 力は心の底から生まれる。書いた議論をいかに上手に読んだとしても、絶対に聞き手の心を動かすことはできないし、陪審員を心変わりさせることもできない。魔術的な議論は常に心の底から生まれ、心の底の言語をつかって、相手の心の底に語りかける。常に相手の感情に語りかけることが大切だ。
 迷ったときには、主導権を握り、攻撃を開始する。それが最良の戦略だ。
 相手を侮辱する言語は慎むこと。相手に敬意を払うことによって、私たちは高い次元に上がることができる。相手を軽蔑する人は低い次元にとどまるだけ。敬意とは、相互に働くもの。
子どもらしい見方を絶対に失わない。喜怒哀楽を感じる子どもの部分を絶対に捨てない。子どもの素晴らしい自発性、魔法のような創造性、純真な心を投げ捨てないこと。
いい言葉が山盛りの本です。ぜひ、あなたも一読してください。
(2012年3月刊。1400円+税)

2013年2月 5日

更生に資する弁護

著者  奈良弁護士会 、 出版  現代人文社

私は面識ありませんが、刑事弁護で有名な故高野嘉雄弁護士の追悼集です。読んで大変勉強になりました。情状弁護に力を注いだ弁護士です。
無実の人を無罪にするのは当たり前で、情状弁護に刑事弁護の真髄がある。
 被告人が刑務所から出所するとき、高野弁護士は作業服と小遣いもって迎えに行った。すぐ働けるところ、社員寮もあるところを探して用意して。ところが、その人は一日で逃げてしまった。そのとき高野弁護士は、こう言った。
 「これでもええねん。おれに済まんことをしたなと思うだけでも、こいつええねん」
 これは、なかなか言えないセリフですよね。刑務所に13年間入って出所してきた人を迎えに行ったこともあるもあるそうです。私にはとても考えられません。
 100人に1人でもうまく更生してくれたらいいんだ。期待はし過ぎない。自分はやりたくてやっているんだから、それでがっかりもしない。
 結局、弁護士は自分の感性しか拠るべきものはない。建前の議論ではなくて、人間としてのコアに忠実に従わないと、弁護士として納得できる事件処理というのはできない。
 人間は多面的な存在だから、自分でも気づいていない多面性の一角を照らしてあげることによってかわっていくことができるという信念をもっている。
 弁護人は最後の情状証人だというのが持論である。
捜査弁護においては、被告人が自分の嫌疑を晴らそうと焦ってしまって、不利益な証拠についてウソだと分かるような供述をする、あるいは結果的に誤った供述をするのをいかに防止するかが大切だ。
 摂食障害を基礎疾患としているクレプトマニア(窃盗癖患者)は、20代、30代の女性が圧倒的に多く、摂食障害患者の44%が万引している。
 高野弁護士は万引をして捕まった女性を1年間も入院させて治療し、その結果、3度目の執行猶予を得たというのです。信じられない話でした。
 そして、高野弁護士とその被告人との間に往復した手紙が、弁号証として、裁判に有利な情状証拠として提出されました。そのとき、高野弁護士も手紙のなかで自分のことを赤裸々に語っていて、読ませます。心をうつ内容になっています。
 人間が反社会的行動に走るのは、その人が自分にとってかけがえのない存在というものを有していないからだ。自分にとってかけがえのない人々を有しているとき、その人を苦しませ、泣かせ、また絶望のどん底に陥らせ、あるいは経済的、社会的な苦境に陥らせるようなことは絶対にしない。
 これは、1970年代の厳しい社会状況の下で学生運動や党派活動のはざまの中で体験させられたり、あるいは20年間の弁護士生活の中で、いわゆる過激派の事件や一般の刑事事件を多数経験するなかで実感した結論である。
 弱い社会的立場にいるということが犯罪を犯した人々の劣等感、あるいは心情的歪み(社会に対する敵意等)をもたらしているというのが現実である。被告人らが有しているその劣等感、歪みを克服しなければ更生への意欲を形成できない。そういった立場の中で苦しみ、人間らしく生きてきた人々の生の声を聞くなかで、初めてこのような劣等感は消え、人間としての誇りを取り戻し、あるいは父母たちに対する否定的感情を克服できる。
 したがって、在日朝鮮人や被差別部落の出身者に対しては、そのようななかで苦しんできた父母の生きざま、苦しみ、嘆き、そして、そのなかで誕生した我が子に対する思いというものを法廷のなかでさらけ出せ、あるいは手紙等という形でさらけ出す必要がある。
 とても鋭い指摘だと感嘆しました。奈良弁護士会の皆さん、ありがとうございました。
(2012年10月刊。2700円+税)

2013年1月 8日

おかげさま老人ホーム選びの掟

著者  外岡 潤 、 出版  ぱる出版

介護弁護士を自称する著者は介護マンガ『ヘルプマン』を読んで発奮したということです。私も『ヘルプマン』は、ついに21巻全部を読み通しました。とても教えられました。
 私の依頼者、相談者に介護施設で働く人はたくさんいますので、共通の話題づくりにも役立ちました。
 それにしても、東大を出て一流の法律事務所に勤めていたのに、いきなり独立開業し、しかも専門分野が介護というのですから勇気があります。
 そのうえ、奇術が出来て、日本舞踊まで演じるというのですから、多芸・異能の若手弁護士ですね。
 介護マンガ『ヘルプマン』こそ、著者の人生を大きく変えた。よし、それなら、介護現場で起きるトラブル解決に特化した弁護士になろうと決意した。
 今の日本の介護現場はトラブルの温床であり、当初の想像以上に事態は深刻である。
 介護業界は現場のスタッフの待遇が賃金面で絶望的に悪すぎる。仕事内容もいわゆる3Kで、あたりまえかもしれないが、職場には若々しい活気などなく、新卒にも人気がない。だから、健全な競争が起きず、優秀な人材がなかなか来ない。来ても定着して育つのはまれで、慢性的に人手が足りない。その悪循環のなかで、カバーしきれない事故が続出している。
老人ホームを選ぶときには、その施設の現場全体の雰囲気、ありように着目すべきだ。
 施設が、すみずみまで清潔にしていること。それは職場の雰囲気、職員の意識の高さの反映でもある。
有料老人ホームとの契約では契約を結んでから90日以内なら一時金の返還を求められることが多い。
 3年前に出張型介護、福祉系専門法律事務所「おかげさま」を開業してがんばっているとのこと。うれしいですよね、こんな若手弁護士がいるなんて。
 引き続き、ぜひがんばってください。
(2011年10月刊。1400円+税)

 明けましておめでとうございます。本年もどうぞご愛読ください。
 おせちもほどほどに食べ、ガーデニングに励んだり、静かに正月休みを過ごしました。嵐の前の静けさ、といった気分でした。

2012年12月29日

法廷弁護士・3

著者  徙木 信 、 出版  日本評論社

法廷弁護士シリーズ、第3弾です。これまた大変勉強になりました。
 第一話は、労働審判申立に至った事件です。定年退職後、嘱託で勤めていたところ、退職金の請求権が5年で時効消滅したと会社が主張した。まさか、そんな主張を会社がするなんて・・・。と思っていると、なんと、それは顧問弁護士の入れ知恵だった。
ひどい弁護士がいるものですね。たしかに、自分の利益しか考えないような弁護士が実際にいるのは、残念ながら現実です。
 裁判で書く書面の宛先は裁判所だ。だから、裁判所が読んでも不快に感じないような書面でなければならない。不快な書面は誰しも読む気が失せてしまう。
 私は、交渉段階で出す書面も、あとで裁判所が読むものと思って起案するようにしています。
 書面は、依頼者の話をそのまま鵜呑みにしないで、必ず裏を取るべきだ。
これは、実際には難しいものです。事実をもっとも知るのは依頼者ですから・・・。
 第二話は万引き事件です。万引きは摂食障害の症状の一つとみなすことができる。
初めて知りました・・・。
 彼らは手のかからない良い子として育ってきた人が多く、その過剰反応の故にパーソナリティに分裂がみられる。独自の超自我が形成されており内的空虚感を埋めるため、統制感の喪失あるいは放棄として万引きがおこなわれる。そのため、治療においては、この万引きの背景にある内的空虚感や依存について患者自身が自己理解を深めることが必要であり、家族や治療社自身も、患者自身がこの内的空虚感を解消して自己統制感を回復し育てていける見守る態度が必要となる。
万引きのみに着目して犯罪者や非行少年として対処すれば、家族や治療者に支えられながら内的空虚感や依存についての自己理解を深める作業を行っている患者の治療過程が中断されてしまい、治療効果に重大な悪影響を及ぼすことになる。
 再養育療法とは、主として摂食障害の患者のために開発された治療法。母親が一生懸命にまるで赤ん坊を育てるように患者を大切にしているケースは治りが早く、かつきれいに治っている。
摂食障害の患者の7割が万引きする。一番万引きの危険が高いのは、体重が減っているとき。食べ物をとってしまう。
 摂食障害の患者の多くは慢性の低血糖状態にあるので、食べ物をどうしても発作的に盗ってしまう。
摂食障害は心の病気である。母親以上の治療者はいないというのが現実である。
 とても実務的に勉強になりました。ただ、同じ弁護士として気がかりなのは、答弁書を見せながら打ち合わせした(44頁)という点です。これは、私だったら事前に送付しておいて、そのうえで打合せをすすめます。私の読み違いかもしれませんが・・・。
 同じように、第2巻に初回の相談日を1週間以上先に指定するというのも、私はしていません。初回だったら、今日、明日、少なくとも3,4日内には無理してでも入れるようにしています。上得意の客(依頼者)になるかもしれない機会を逃さないためです。
 いずれにしても、この本の贈呈、ありがとうございました。引き続きのご健闘を祈念します。
(2012年11月刊。1300円+税)

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