弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

司法

2014年1月31日

管理組合物語


著者  二木 朋子 、 出版  文芸社

 マンションの管理組合をつくり、その理事会を運営していくのが、いかに大変なことか、この本を読むと本当に痛いほどよく分かります。
舞台は東京から少し離れた風光明媚なところにある、大きなリゾートマンションです(総戸数262戸)。マンションを建設した会社は、さらに大きくもうけるため、タイムシェア制を売り出し、マンションは大混雑します。そして、管理会社を設立して、そこでも法外な利益を手にするのです。
 その仕組みに不満をもつ税理士は一人たちあがろうとするのですが、仲間(同志)は簡単には見つかりません。リゾートマンションなので日常的な交際が乏しいうえ、規約上も建設会社と管理会社の意向が貫徹する仕組みになっているからです。
 負けじと立ち上がり、苦闘するなかで、共感する住民が少しずつ増えてきます。
 かと思うと、裏切り者も出てきます。自分だけ管理会社と手打ちして、有利な条件をもらうのと引きかえに昨日の友が脱落していくのでした。
 いやはや、マンションで同志を見出すって、大変なことなんですね。
専有部分と共有部分の使い分けも微妙なところがあります。
 管理会社に対抗するため、管理組合をつくり、理事会を設立します。それも大変でした。管理会社がさまざまな嫌がらせをしてくるのです。郵便だって、きちんと配達されません。宅配便も冷凍物が玄関前に放置されて、溶け出してしまうのです。
管理会社のひどさをマンション住民に訴えようとしても、あまりに「過激」だと反発を買って、みんなから敬遠されてしまうので、それなりの配慮が必要です。
マンションの修理・修繕についても、どこからお金を出すのか、誰に頼むのか、どうやって決めるのか、いろいろ大変です。それを面倒だと思って管理会社に任せっきりにすると、とんでもなく高額になったり、手抜き工事をされたりします。
 議事録作成も、なあなあで、やっておくと、あとで後悔することも起きます。むしろ理事会のメンバーはどんどん変わっていくので、きちんと記録しておかないと、みんなの記憶に頼っていたら、すべてが曖昧になってしまうのです。
 この本では、いちおうハッピーエンドで終わっていますが、実際にリゾートマンションの管理・運営の大変さ、そして、それを解決するための手順と問題点が実践的によく分かるものになっています。貴重な小説だと思いました。
(2013年10月刊。1100円+税)

2014年1月26日

新・検察捜査


著者  中嶋 博行 、 出版  講談社

 14年ぶりの書き下ろし小説とのことです。
 横浜の弁護士が江戸川乱歩賞を受賞(『検察捜査』1994年)したのには驚きました。弁護士会の内情を多少とも知るものにとってはいささかの無理もありましたが、読ませるストーリーではありました。
 今回もまた、かなりの無理はあるものの、官僚機構、そして精神医療の問題点も考えさせるストーリーとして、緊迫した展開が続いていきます。弁護士は大没落の時代を迎えている。超難関だった司法試験が骨抜きになり、弁護士人口のビッグバンが起きた。
 生き残るには競争相手を蹴落とし、限られたパイから収入を確保しなければならない。
 大手法律事務所は、依頼人をごっそり取り込むためにマスメディアを利用した派手な広告合戦をくり広げている。法律家の世界が、今や家電の格安量販店なみに、客寄せにしのぎを削っている。
 広告資金を捻出できない個人弁護士が手っ取り早く有名になるには目立つ事件の弁護士を担当すればいい。なかでも、異常犯罪は世間の注目を集めるには再興だ。
法テラスと目される「法ロビー」が登場します。
 法ロビーは、もともと法律上の紛争をかかえた市民に向けて、敷居の高い弁護士へのアクセスと手助けする公的制度だった。若手弁護士の多くは、「法ロビー」から依頼人の紹介をうけてささやかな報酬にありつき、事務所経費を工面していた。
 弁護士人口が過剰になって、いまや逆転現象が起きている。「法ロビー」は、仕事のない貧乏弁護士に依頼人を斡旋する「弁護士の職安」へと変貌している。
女性検事と警察官のコンビのようなスタイルで捜査が展開していきます。
 官僚機関のなかに特殊な部隊があるという設定です。自衛隊になら、ありうるのかなという印象をもちました。
 ハードボイルド小説として読めば面白いと思います。
(2013年10月刊。1600円+税)

2014年1月24日

砂川事件と田中最高裁長官


著者  布川 玲子・新原 昭治 、 出版  日本評論社

 日本に司法権の独立なんて、実はなかったということを暴露した本です。
 ときは1959年3月の東京地裁・伊達判決のあとに起きたことですから、今から50年以上も前の話ではあります。ときの最高裁長官(田中耕太郎)が最高裁の合議状況を実質的な当事者であるアメリカ政府にすべて報告し、その指示どおりに動いていたのでした。そのことを知っても、今の最高裁は何の行動も起こそうとしませんので、結局、同罪なわけです。
 この本は、まず、そのことが明らかになった経過を明らかにしています。
 砂川事件に関するアメリカ政府の解禁文書が日本で明らかにされたのは、新原昭治がアメリカ国立公文書館(NARA)で2008年に発見した14通の資料に始まる。その後、2012年に末浪靖司が同じくNARAで2通の資料を発見し、2013年に布川玲子がアメリカ情報自由法にもとづく開示請求で入手した資料1通によって、一審の伊達判決が日本とアメリカ両政府に与えた衝撃、安保改定交渉に与えた影響、そして跳躍上告に至る経緯をリアルタイムに知る手がかりが得られた。このなかに、田中耕太郎・最高裁長官が自らアメリカへ最高裁内部の情報を提供していたことを明らかにする資料がふくまれていた。
 ダグラス・マッカーサー駐日大使が本国へ送った電報が紹介されています。このマッカーサー大使は、かの有名なマッカーサー将軍の甥にあたります。よくぞ、こんなマル秘電報が開示されたものです。このたび成立した日本の特定秘密保護法では、このようなマル秘電報の電文が将来、開示されるという保障は残念ながらありません。
 「内密の話し合いで、田中長官は、日本の手続きでは審理が始まったあと、判決に至るまでに少なくとも数ヶ月かかると語った」(1959.4.24)
 「共通の友人宅での会話のなかで、田中耕太郎裁判長は、砂川事件の判決はおそらく12月であろうと考えていると語った。
 裁判長は、争点を事実問題ではなく、法的問題に閉じ込める決心を固めていると語った。
 彼の14人の同僚裁判官たちの多くは、それぞれの見解を長々と弁じたがる。
 裁判長は、結審後の評議は実質的な全員一致を生み出し、世論をゆさぶる素になる少数意見を回避するようなやり方で運ばれることを願っていると付言した」(1959.8.3)
 「田中裁判長は、時期はまだ決まっていないが、最高裁が来年の初めまでには判決を出せるようにしたいと語った。
 裁判官のいく人かは、手続き上の観点から事件に接近しているが、他の裁判官たちは法律上の観点からみており、また他の裁判官たちは憲法上の観点から問題を考えていることを田中裁判長は示唆した」(1959.11.5)
 ところが、厚かましいことに田中耕太郎は1959年12月16日の判決後の記者会見において、「判決は政治的意図をもって下したものではない。アカデミックに判決を下した。裁判官の身分は保障されており、政府におもねる必要はない」、などと高言したのです。
 田中耕太郎にとって、「秘密の漏洩」は問題ではなかった。なぜなら、アメリカと共同関係にあるのだから・・・。この田中耕太郎は、「裁判所時報」において「ソ連・中共は恐るべき国際ギャングと公言していた。
 しかし、このような田中耕太郎の言動は裁判所法75条などに明らかに反するものであり、即刻、罷免すべきものであることは明らかです。そして、少なくとも最高裁長官としてふさわしくなかった人物だとして、裁判所の公式文書に明記すべきです。
 そんなこともできない日本の最高裁であれば、司法権の独立を主張する資格なんてありません。日本の司法の実態を知るうえで欠かせない貴重な本として、一読を強くおすすめします。
(2013年12月刊。2680円+税)

2014年1月10日

この人たちの日本国憲法


著者  佐高 信 、 出版  光文社

 安倍首相は、まるで気が狂ったように日本国憲法を破壊しようと狂奔しています。日本の将来を暗いものにしてしまう安倍首相の支持率が5割というのは恐るべきことです。
宮澤喜一は、最期まで護憲を貫いた。「いまの憲法を変える必要はないと考えている人間です」と言った。
 「わが国は、どういう理由であれ、外国で武力行使をしてはならない。多国籍軍なんかでも、どんな決議があっても参加することはできないと考える」
 「日本は軍隊をもっていて、過去に大変なしくじりをしたしまったのだから、もういっぺんそういうしくじりをしないようにしないといけない。だから、軍隊はなるべくもたないほうがいいんです」
 私は、本当にそのとおりだと思います。
 城山三郎は、自衛隊は軍隊とは違うと強調する。自衛隊の本質は人を救うことにあり、人を殺す組織である軍隊とは違う。人を救う使命を持つ組織というユニークさにおいて、日本の自衛隊は恐らく世界でも例をみない存在であり、これは自衛隊の誇るべきいい伝統だ。日本の自衛隊は、普通の軍隊になる必要はない。
これには、私もまったく同感です。自衛隊は国土災害救助隊でいいのです。
城山三郎は、軍隊に入ってすべてを失い、戦争で得たものは憲法だけだと高言していた。
城山三郎は、佐藤栄作内閣のとき、公安警察がつくった「寄稿の望ましくない著作家」のリストに載せられた。ええーっ、ウソでしょ・・・。
 通産省次官だった佐橋滋は、軍備は経済的にいえば、まったくの不生産財だ。人間の生活向上になんら益するところがないどころか、大変なマイナスであると強調した。
 世界の人類に平和を希求して、自ら実験台になる。これほどの名誉がほかにあろうか。
 非武装国家になれば、軍備に要する膨大な財源がまったく不要になり、国内的には文化国家建設に必要とされる施設に充てられ、対外的には近隣国に対する援助が可能になる。脅威に代えて喜びをまくことになる。佐橋滋の非武装論こそ現実感がある。本当ですよね。
 後藤田正晴は、骨の髄から軍人や軍国主義が嫌いだった。
 「ワシが50年間生き残ったのは、再び日本を軍国主義にしないためじゃ。学徒出陣でいくさに出た学友の3分の1が還らなかった。この死んだ仲間のためにも、ワシは再び軍国主義へ引き金を引いた官房長官とは言われたくない」
まったく、そのとおりです。
 今の自民党には、安倍政権の暴走を止めようという気骨のある国会議員がほとんど見あたりませんね。残念なことです。でも、安倍首相も、そんなに長くはもてないでしょう。アメリカから見離されたらおしまいですから・・・。
(2013年9月刊。1600円+税)

2014年1月 8日

四分の三世紀の回顧


著者  白井 正明 、 出版  白井法律事務所

 著者は日弁連公害対策・環境保全委員会でご一緒させていただきました。私よりひとまわり年長の先輩弁護士です。このたび大変な大作を贈呈いただきました、まだ全文通読したわけではありませんが、ここに少しだけ紹介させていただきます。
 なにしろ本のタイトルがすごいのです。なんと1分冊目のタイトルは「宇宙・人類・法」です。なぜ宇宙なのかと言うと、著者は都立高校時代に天文気象部に所属し、天文学者になろうとして以来、宇宙に関心を持ち続けているからです。それは隕石やクレーターの踏査に出かけるまでの熱中度です。
そして、人類というと、歴史、それも日本史から世界史まで。なんと古代エジプト史までさかのぼります。世界各地を旅行し、その旅行記も印象深いものがありますが、皆既日食を見に、世界各地へ出かけていく行動力には驚嘆するばかりです。
 そして二分冊目のタイトルが、この「四分の三世紀の回顧」なのです。弁護士生活50年を振り返り、弁護士会活動そして弁護士としての奮闘記をまとめた弁護始末記など、とても役に立つ内容になっています。
 著者は、よほど書くのが好きなようです(私も同じですが・・・)。よくもまあ、ここまで微に入り、細には入り、書きまったくものだと思うほどの弁護士奮戦記になっています。
 弁護士3年目にして、古展ちゃん事件(小原保被告)の上告審の国選弁護人になったとのこと。昭和43年のことです。子どもの誘拐事件です。結局、死刑判決で確定したわけですが、犯人が要求した身代金が50万円だったのを知り、時代の差を感じました。なにしろ、例の3億円強奪事件で世間があっと驚いた時代のことです。
 著者には、ぜひとも引き続き健康で、ご活躍されますよう祈念しています。
(2013年9月刊。2800円+税)

2013年12月26日

穂積重遠


著者  大村 敦志 、 出版  ミネルヴァ書房

穂積重遠というと、私にとっては民法学者というより、セツルメント活動を戦前に後援してくれた有力者として親しみを覚えます。私が学生セツルメント活動にうち込んだのは1960年代の後半です。
 穂積重遠は1938年にセツルメントが解散を表明するまで「大黒柱というよりも、巨大な防波堤として」セツルメントに深くかかわった。
セツルメント運動は、1884年にイギリスはロンドンのスラム街にトインビー・ホールと呼ばれる建物が建てられたことに始まる。大学拡張運動の一環として、貧困地域に根ざした学生の福祉活動を志していた。
 日本では、関東大震災の直後に始まり、救援活動から発展し、浮浪者ではなく労働者を対象とした。そして、戦後、セツルメント活動は復活した。1950年に発足し、1955年には全国セツルメント連合(全セツ連)が結成された。
 私の大学生のころには全セツ連大会が年に2回、東京や大阪、名古屋などで開かれていましたが、毎回、1000人近い男女学生が参加する活気あふれた大会でした。
 1980年代にセツルメント活動は一気に退潮し、1991年に氷川下セツルメントは閉鎖された。
穂積重遠は女性運動家を支援した。平塚らいてう、高群逸枝など。
 我妻栄は、直接には鳩山秀夫の弟子だったが、本人は鳩山、穂積、末弘厳太郎という三人の民法学の統合を目ざした。鳩山は債権法、穂積は家族法、末弘は物権法。
重遠が目ざした、立法・社会教育・社会事業を引き継いだのは我妻だった。
 我妻法学を承継したのは、加藤一郎、星野英一の利益考量法学だった。私も星野英一の民法講義を聞いていますが、その利益考量法学の価値はさっぱり理解できませんでした。なんだか、いい加減なやり方だなあという感想を抱いていました。
 穂積重遠の議論は星野英一の議論に、ある種の奥深い影響を与えているように感じられる。穂積重遠は最高裁判事として、尊属殺規定を違憲だとする少数意見を書いている。1950年のこと。それから23年たって、違憲判決が出た。
 穂積重遠は東宮大夫となって皇太子の教育にあたった。今の平成天皇である。
 私は、今の平成天皇を個人として大変尊敬しています。国民主権を柱とする現憲法の趣旨を率先して実践していると認めるからです。
 近くは、熊本に来て水俣病患者やハンセン病の元患者と親しく懇談するなど、その努力は実に目ざましいものがあります。
 穂積重遠の全体像を、よくとらえることのできる本でした。
(2013年6月刊。1000円+税)

2013年12月14日

「裁判官の品格」


著者  池添 徳明 、 出版  現代人文社

裁判官13人が実名、似顔絵つきで紹介されている本です。
 私はこんな本がもっとあっていいと思います。裁判官については、三権分立の担い手として身分保障は必要ですが、もっともっと国民から厳しく批判されるべき存在だと思うからです。私も、弁護士生活40年になりますが、尊敬すべき裁判官が少なくないことを認めたうえで、すぐに辞めてほしいと思った裁判官が、その何倍もいる(いた)ことを隠すつもりもありません。威張りちらすばかりの裁判官、まったく当事者の主張に耳を傾けようとしない裁判官、こまかいことばかり気にして、大局観を忘れてしまっているとしか思えない裁判官が、世の中になんと多いことでしょうか。裁判官の6割は優柔不断で右顧左眄型だという元裁判官の指摘がありますが、私の実感もそのとおりです。
 二人目に登場してくる川口宰護判事は、今、福岡地裁の所長ですが、最高裁調査官もつとめたエリート・コースを歩んできた人です。
 福岡の弁護士のなかで、川口裁判長の評判は「意外なまでにとてもいい」。エリートにもかかわらず、きちんとした裁判をする。エリート裁判官にしては意外なくらい賢くて、事実認定もしっかりしている。情に流されたりしないけれど、かといって冷たくもない。
 強権的な訴訟指揮をすることはないし、ていねいで説得力のある判決を書くと評価されている。
大渕敏和判事(25期)については、厳しい評価が加えられています。
 東電OL殺人事件の公判中、居眠りが目立っていた。「この裁判長は、いつも居眠りしていた」と本に書かれている。
 小倉正三・元裁判官については、いつも威丈高で、横柄な言葉づかいと態度で被告人に接していたと評されています。この小倉裁判長の法廷にかかったら、もうダメだと、名前を聞いただけで、弁護士はみなあきらめてしまう。そう思わせる裁判官だった。
 そうそう。そんな裁判官が少なくないのが現実です。そして、当の裁判官本人は、少なくとも外見上は自信満々なのです・・・。
 優秀な裁判官ほど柔軟な訴訟指揮をする。できの悪い裁判官ほど強権的だ。強権的な裁判官は、実のところ自信がなくて気が弱い。
 とても面白い本です。裁判所の内情を知ることができます。
(2013年11月刊。1700円+税)

  今日は私の誕生日です。赤穂浪士の打ち入りの日と同じです。年金支給の通知が来ました。まだ頭の中は30代の気分ですが、頭髪は白っぽくなりましたし、肉体的にはやっぱり60代なのかなあと思わせます。
 でも毎朝NHKのラジオ講座を聴いてフランス語を勉強していると、大学生の気分に一瞬戻ることができます。また、学生生活、寮生活、セツルメント活動を素材とした小説に再挑戦してみたいなという思いもあって、まだまだ学生気分も脱けきれません。というか、その気分にいつまでも浸っていたいという思いが募ります。
 まあ、これが私の若さの秘訣だと思います。
 今年はヒミツ保護法やら国防軍構想などで忙しく飛びまわっていましたので、読んだ本も例年より多く、600冊をこえました。引き続き、この書評を続けていくつもりです。ぜひ、今後ともお読みください。

2013年12月13日

憲法が変わっても戦争にならない?


著者  高橋 哲哉・斎藤 貴男 、 出版  ちくま文庫

アメリカは世界中で支出されている軍事費の半分(年に50兆円)をたった一国で支出している、異常なまでの超軍事大国である。
 日本の自衛隊は、人員でも、艦艇・航空機でも、ヨーロッパ軍事大国に比べて小さいどころか、ずいぶん大きな存在である。
 今でも十分に自衛隊をコントロールできていないのに、憲法を改正してしまったら、ますますコントロールできなくなる。
 自衛隊が軍隊(国防軍)になったら、自主性が増すどころか、ますますアメリカの手駒として、アメリカ軍の負担軽減のために、どんな任務につかされるか分からない。
 日本の安全にとっては、いかに「脅威」をつくらないか、いかにして日本に攻めてくる国をつくらないか、逆に、その国にとって日本が大切な存在になるかが大切で、そのための外交努力こそが求められている。
北朝鮮をやぶれかぶれに追い込まない。もし北朝鮮が爆発してしまったら、北朝鮮だけでなく、韓国も日本も破滅に陥ってしまう。
 デンマークの陸軍大将だった人が「戦争絶滅うけあい法案」というのを20世紀の初めに発表した。戦争が始まったら、10時間以内に、まず次の者を最下級の兵卒として召集し、最前線に送り込む。
 第1に、国家の元首。
 第2に、国家元首の男性親族で、16歳以上の者
 第3に、総理大臣以下の大臣。そして官僚のトップ。
 第4に、国会議員。ただし、戦争に反対した者は除く。
 そうですよね。いいアイデアです。戦争になったら、国家元首をはじめとする権力者、支配者は戦場に行かず、うしろの安全なところにいて、国全体に命令を発する。
 「愛する人のために戦う」といっても、実は、国家が発動した戦争にただ動員されていくしかない状況になってしまう。
 そして、戦争に行けば、また、その人を銃後で支えると、愛する人とともに、自分が加害者になってしまう。
 憲法改正というのは、戦争をしかける国にするということです。そんな怖い話に、うかう乗せられないようにしたいものです。
(2013年7月刊。740円+税)

2013年12月12日

「無罪」を見抜く

著者  木谷 明 、 出版  岩波書店

目の覚めるほどの面白さです。読み出したら止まりません。いやあ、よくぞ、ここまで裁判所の内情を思う存分に語ってくれたものです。その勇気に心から敬意を表します。
 無罪を見抜く極意は?
 被告人に十分、弁解させることが大事だ。弁解を一笑に付さないで、「本当は被告人の言っているとおりなのではないか」という観点から検事の提出した証拠を厳しく見て、疑問があれば徹底的に事実を調べること。これに尽きる。
 そうやって、著者は、いくつもの事件で無罪判決を書き、そのほとんどが検事控訴されることなく確定しています。これって、とてもすごいことです。
私の同期である金井清吉弁護士(東京)の書いた上告趣意書がよく書かれていて、驚いたという話も出てきます。
まだ弁護士になって数年目。国選弁護人として書いたものだが、問題点が鋭く指摘され、大変な説得力があった。
鹿児島の夫婦殺し事件で無罪になった事件です。最高裁の調査官として著者が担当したのでした。
 最高裁のなかの合議の実情も、かなり具体的に紹介されていて、興味深いものがあります。著者の書いた報告書を上席調査官が頭越しに批判して、結果がねじ曲げられたことも暴露しています。やっぱり、そういうことがあるのですね。
弁護士出身の裁判官については、とても批判的です。
 審議でほとんど発言しない。弁護士なのに、被告人に利益な方向で意見を述べることがない。ただし、最近の弁護士出身の判事は、昔と比べると、しっかり発言している。
 最高裁の裁判官のなかにも、全然重みがなく、ともかく威張っていて、他の裁判官の口を封じてしまう人もいた。これは、地裁も高裁も同じです。
 最高裁の調査官になる前、札幌時代には平賀書簡問題に直面しています。
 平賀所長が福島裁判長に担当事件の記録を読んでないように干渉しようとしたという事件です。著者は、所長を厳重注意するという結論を出した裁判官会議で相当がんばったようです。ところが、国会は平賀所長はとがめず、書簡を公表した福島裁判官の方をむしろとがめたのでした。本当におかしな話です。まるでアベコベです。
 この事件は「青法協いじめ」の幕開けになった。そして、裁判所にあった自由闊達な雰囲気が萎縮していくことになった・・・。
 著者は取調の全過程を録画するのに賛成です。
これまで取調は、英語でインテロゲーション(尋問)と言っていたけれど、今やインタビューだとされている。
 これは、私は恥ずかしながら知りませんでした。
 無罪判決を次々に出していると、警察がなんだかんだと言ってきた。
 これは、たまりませんよね。警察官が裁判官室に面会を求めてくる。表面的には強談ではなく、丁寧な態度だけれど、魂胆は見え見えだ。面倒くさくなるし、こんなことで軋轢を起こさないでおこうという気にさせる。
 裁判官には三つのタイプがいる。3割は迷信型。捜査官はウソをつかない、被告人はウソをつくと頭からそういう考えにこり固まっていて、そう思い込んでいる。6割強は、優柔不断・右顧左眄型。こんな判決をしたら物笑いになるのではないか。上級審の評判が悪くなるのではないか。警察・検察官からひどいことを言われるのではないかと気にして、決断できずに検察官のいう通りにしてしまう。残る1割が、熟慮断行型。「疑わしきは罰せず」の原則に忠実に、そして自分の考えでやる。
 冤罪は本当に数限りなくあると考えられる。刑務所の中には冤罪者がいっぱいいると思わないといけない。
やっぱり、ここまで内情を書いてくれる人がいないといけません。裁判所改革が遅れていることを実感させてくれる本でもありました。
(2013年11月刊。2900円+税)

2013年12月 3日

池上彰の憲法入門


著者  池上 彰 、 出版  ちくまプリマ-新書

テレビ解説者として高名な著者による分かりやすい憲法入門書です。
 さすがに、大切なことが、実に明快に語られています。
 憲法は「法律の親玉」のようなものだが、法律とは違う。
 法律は国ひとり一人が守るべきもの。憲法は、その国の権力者が守るべきもの。
 法律は、世の中の秩序を維持するために、国民が守らなければならないもの。
 憲法は、権力者が勝手なことをしないように、国民がその力をしばるもの。
 明治憲法の制定過程で伊藤博文は次のように述べた。
 「憲法を創設する精神は.第一に君権(天皇の権利)を制限し、第二に臣民(天皇の下の国民)の権利を保護することにある」
 日本国憲法の草案はアメリカ(GHQ)がつくったが、その内容の多くは日本の学者グループの改革案を参考にした。誰が草案をつくったにせよ、その内容は当時の多くの日本人から歓迎された。
 「アメリカからの押しつけ憲法」とよく言われるが、実質的には日本の学者たちの改正案がベースになっていること、日米間で激しい議論がなされて日本側の意見が認められた部分があり、国会審議のなかで内容の変更があり、日本国民の代表である国会議員によって承認された。だから必ずしも「押しつけ憲法」とは言えない。
 私自身は、「押しつけ」であっても、内容が良ければ変える必要なんてないという考えです。
 憲法で「戦争放棄」を定めている国はいくつもある。しかし、戦力の放棄まで明記しているのは、中米のコスタリカと日本くらいのもの。
教育を受け就職し、働いて税金を納め、国家が運営される。この構造があるため、この三つは日本国民の義務とされている。
 イラクにいた日本の自衛隊は、二重の危険にさらされていた。武力勢力から攻撃される危険と、日本の国際的信用を失墜させる危険である。自衛隊を「軍隊ではない」と言い続ける一方で、国際貢献しなければと考えたあげく、こんな状態になってしまった。自衛隊は、サマワでは、オランダ軍に守ってもらう形になっていた。
 大切なことが、優しい語り口で明らかにされているハンディーな文庫です。
(2013年10月刊。840円+税)

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