弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

社会

2014年8月20日

転換期の日本へ


著者  ジョン・W・ダワー/ガバン・マコーマック 、 出版  NHK出版新書

 日本は、アメリカへの従属を続けるのか、それともアジア中心の新たな安全保障体制を構築するのか、その選択が迫られている。まことに、そのとおりだと私は思います。
日本にアメリカ軍基地が置かれている理由の一つに、万一、日本が再び自立的に軍国主義的な道に進もうとしたときに備えて、日本に対する管理を確実にすることがある。
憲法は、自衛隊の持てる兵器と参加できる任務の双方を制限するうえで、十分な影響力を保ち続けている。
 日本の再軍備に対する制限を取り除くために改憲を支持する人々は、改憲すれば、日本は国連が後押しする平和維持活動に参加する「あたりまえの国」になることができ、自国を防衛する自立的な能力を高めることができる、と論じる。だが、実際のところ、日本は再軍備すればするほど、アメリカの戦闘活動に実質的な貢献をしなければならなくなるという、逆らい難い圧力の下に置かれることになる。
 サンフランシスコ講和は、中国と韓国という、もっとも謝罪と償いを受けるべき国々を排除したばかりでなく、無理やり歴史を前に進め、忘却を促した。
 アメリカは、少なくとも3回、中国に対して核兵器を使用することを真剣に検討した。1度目は1954年9月の第一次台湾海峡危機、2度目は1958年8月の第二次台湾海峡危機、そして3度目は1962年10月のキューバ・ミサイル危機である。
 1972年に施政権が日本に返還されるまで、沖縄には19の型の核兵器が貯蔵されていた。その大半は嘉手納基地にあり、1000発近い核兵器が常置されていた。これらの核兵器は沖縄返還時に撤去された。
 それでも、その後も現在に至るまで、いつでも核兵器をアメリカは持ち込めるというのが、例の有名な「密約」です。
米・中・日の三角形は、不均衡である。米・中という二つの自立した国家に対して、三番目の国・日本が今もって真の自立を欠いたままになっているからだ。これこそ、サンフランシスコ体制のもっとも厄介な遺産である。
日本はアメリカの属国としての地位にあり、先見性がなく、逆効果を抱くことも多いアメリカの外交政策に対して、ほぼ無制限といってよい支持を与えてきた。
 2008年、中国は日本を除いて、外国としては最大のアメリカ国債保有国となり、世界最大の債権国となった。中国の国内総生産(GDP)は2010年に日本を追い抜き、「国家資本主義」の下の中国経済はアメリカに次ぐ世界第二位の規模となった。
日米中すべてが強力な機能障害に陥っている。中国に透明性が欠けていることは明らかだが、秘密性や説明責任の欠落は中国に特有のものではない。堕落、腐敗、妄想、希望的観測といったものは、すべて日米中の三国すべてに存在する。
日米同盟と言うが、「同盟とは名ばかりで、実態はない」、「現実にはアメリカが一方的に決定する」だけのもの。その建前は、日本を守るためだが、それはアメリカの防衛と国益拡大のためだと解釈したほうが正しい。
 アメリカが同盟国としての日本を失えば、超大国として世界の指導的地位にはとどまることは出来ない。
 アメリカは、毎年、詳細な年次要望書を日本に送り、アメリカの利益にとって「障害」なるものを取り除くように支持する。そのようなことは日本以外の国との関係では考えられない。
 日本の政官界における属国性が、あまりにも深く強靱であるため、自主性と独立を回復する機会が訪れるたびに、それとは逆のコースと選ぶ傾向が見られる。
 およそ1300年以上ものあいだ、日本は大国の従属国となることに抵抗してきたが、この60~70年ほどのあいだに、海の彼方のアメリカに対して喜んで「属国」の割合を担うようになったのは、なんという歴史の皮肉だろうか。
政策遂行のために暴力や戦争に訴えようとする強い傾向があるのは、アメリカに他ならない。
 アメリカは、中国に対してきわめて両義的に振る舞っている。一方で、中国を最重要の仮想敵とし、もう一方で、緊密なパートナーのように接している。
 内向きの愛国主義は大局的には日本にとって有害になる。それは国際社会で尊敬されないどころか、不信や増悪さえ買うことになる。
 日本はアメリカに従属すべきだと主張する人々がナショナリストを名乗り、他方で日本の利益をアメリカのそれよりも優先させる人が「反日」ではないかと疑われるという倒錯がある。
 私も、日本を愛し、未来を憂うからこそ、日本を壊してしまおうとする安倍首相を許せないと考えるのです。
(2014年4月刊。860円+税)

2014年8月19日

過労自殺(第二版)


著者  川人 博 、 出版  岩波新書

 初版は1998年4月に出ています。今回は全面的に内容が改訂されています。
 過労自殺とは、仕事による過労・ストレスが原因となって自殺に至ることを意味する。過労自殺は、過労死の一種である。
 新しい産業として注目を集め、多くの若者が働いているIT関連業界で、若い技術者、とくにシステムエンジニア(SE)が過労の末に死亡するケースが増えている。
 SEは、実はスレイブ・エンジニア(奴隷技術者)なのではないか。労務管理が変化し、多くの若者に過度のプレッシャーを与え、精神疾患の増加と過労自殺の原因となっている。
 一年目から過度の成果をあげることを性急に求められる。このような目先の成果を追い求めようとする経営姿勢は、職場のゆとりを奪い、労働者の健康を損なうことによって、従業員の労働能力を減退させ、企業の社会的評価を低下させ、結局のところ経営自体の発展を阻害している。若者に対する労務対策は早急に改善されなければならない。
 私もそうだと思います。非正規労働者として使い捨てにし、死ぬまで働かせるなんて、とんでもない労働環境です。
 この是正のためには、労働組合も強くなければいけません。「連合」って、いったい何をやっているのでしょうか・・・。かつての総評と違って、残念なことに、まるで存在感がありません。
パワハラに似たものとして、部下からの執拗な嫌がらせ、脅迫にあって、ついに自死してしまった中間管理職の話が出てきます。そういうことも大いにありうると、弁護士である私も自らの体験をふまえて思います。何しろ、弁護士に対してすら、横柄な口のきき方しか出来ない人がいるのです。いえ、別に弁護士を上にもちあげろというのではありません。人間として対等であり、平等のパートナーであるのに、そう思うことのできない人が皆無ではないどころか、少なくないということを言いたいのです。
過労自殺者は年間2000人以上にのぼると思われる。20歳前後から60歳以上まで、広範に広がっている。若い世代の割合が多い。
 過労自殺者は、程度の差こそあれ、事前に体調不良を訴え、一般内科で受診していることが多い。残念なことに、多くの人がこの初診の段階でうつ病などの精神障害の診断を受けずに、精神科での適切な受診の機会を逸している。
 多くの企業は、労働条件や労務管理の問題をタナにあげ、自殺を労働者個人の責任としてとらえる傾向が強い。
 そして遺族に対して、「会社に迷惑をかけた」として高圧的な態度をとり、遺族は、「申し訳ない」とお詫びする立場に立たされる。自殺の基本的原因をつくった加害者側が、遺族=被害者側をしかりつけるという、まことに本末転倒な事態がおきている。さらに、企業を監督すべき立場にある労働行政が十分に機能していないことも多く、その結果、過労自殺が発生しても、企業側に真摯な総括がなされず、職場の問題点がそのまま放置されてしまうことも多い。
 カローシは国際語になったようですが、その一種としての過労自殺の実情と問題点、さらには対策と予防法について、この問題を長く専門としてきた弁護士が明快に解説している好著です。
 大学生のときから敬愛する著者(私の方が一学年だけ上です)から贈呈していただきました。ありがとうございます。今後とも一層のご活躍を祈念します。
(2014年7月刊。820円+税)

2014年8月18日

南極観測隊のしごと


著者  国立極地研究所南極観察センター 、 出版  成山堂書店

 日本の南極観察も50年の歴史を刻んできた。
 タロ・ジロの冬の南極基地置き去り事件も、久しい昔の話となりました。今も一年中、日本人が南極にいて観測を続けているのです。たとえば、その一つが南極で隕石を発見し、回収する仕事です。これまで、4万個が見つかっていますが、うち日本は1万7000個の隕石を保有しています。しかも、隕石は月からだけでなく、火星からのものもあるのです。これには驚きました。よく、その違いが分かるものですよね。
 南極や北極は、地球規模の大気循環を駆動させるエンジンとして作用している。氷におおわれている南極大陸では、大気が冷やされて大陸斜面を加工するカタバ風が、1年を通じて吹き続ける。このカタバ風を補うように、大気が南極大陸の中央上空に収れんする。
 南極周辺部の海水は冷やされ、表層から深層へと沈みこみ、南極底層水を形成し、地球規模の海洋大循環駆動エンジンの役割を果たしている。
観測隊は、観測系と設営系で形成される。また、夏隊と越冬隊に分かれる。
 1987年の第29次隊から、女性隊員が参加している。39次隊では、女性越冬隊員が2名参加した。2006年の48次隊には、7名もの女性隊員が加わった。
 隊員は、感情の起状をうまく収めて仲間と協調できることが必要だ。高度の専門的能力だけではなく、想定外の問題が発生したときにも、迅速かつ柔軟に対応できる資質が求められる。型にとらわれない、自由な発想で対処すべし、ということ。
 基地での最大の楽しみは「食」。公募に応じた人のなかから、2人がコックとして選ばれている。基地では、モヤシ30キロ、カイワレダイコン20キロを生産している。レタス20キロの水耕栽培にも成功した。
 南極でのフリーズドライ食料が成功したので、宇宙食にも採用された。
これまでの事故で亡くなった隊員は一人のみ。猛烈なブリザードのなか、自分のいる場所が分からなくなる「ロストポジション」と呼ばれる状況に陥った。その隊員の遺体は7年後、行方不明の地点から4キロ離れた場所で発見された。
 コウテイペンギンの雄たちが集団でブリザードに耐えて、必死に子どもを守っている状況を連想してしまいました。
 行ってみたいけれど、とてもいけそうもない南極の基地の様子を知ることが出来ました。
(2014年3月刊。2400円+税)

2014年8月12日

官房長官、側近の政治学


著者 星 浩、出版 朝日新聞出版
内閣総理大臣(首相)が「主任」であるのが内閣官房であり、その内閣官房の「事務を統轄する」のが官房長官である。
 官房長官は、首相の「補佐役」「女房役」といわれる。
 首相という強大な権力を支え、時には利用していくのが、官房長官の役割であり、力の源だ。
 では、なぜ首相は強いのか?
 第一に解散権をもっている。衆議院を解散する権限を有している。
 第二に、多くの人事権をもっている。大臣、最高裁長官、日銀総裁、東電会長、NHK会長も首相が決定する。
 第三に、予算編成権をもつ。
 官房長官は、明治憲法下では「内閣書記官長」と呼ばれていた。
 現憲法下では、はじめは天皇の認証の対象ではなかった。1963年の池田内閣から認証官となった。それまでは大臣よりも格下のポストだったが、大臣待遇となった。
 官房長官の仕事は、三つある。
 第一に、記者会見。実質的に権力の中枢にいて、実際の政策決定にも関与している政府首脳が、定例で記者会見しているところが、諸外国とは異なる。
 第二に、霞が関全体の調整役という役割を果たしている。そして、いわゆる危機管理の中心になる。
 第三に、政権与党との調整をしている。
 子分型の官房長官は、大先輩である首相から宰相学を学び、その経験をステップにして幹事長などの実力者を目指す。
 毎日、首相を近くから見ていて、「俺もいつかは首相に」「このくらいの首相なら、俺にだってつとまる」と考えるようになる。
 しかし、首相と官房長官との間には目に見える距離からは考えもつかない「大きな距離」がある。
 官房機密費というものがある。領収書なしで内閣が支出できる14億円もの予算だ。正式には、「内閣官房報償費」という。この官房機密費の支出は、官房長官の専権事項だ。
 かつては、外務省分の20億円とあわせて、総額30億円もの官房機密費があった。毎月1億円が野党などへの国会対策費につかわれている。要するに、野党を買収・接待する費用だ。もちろん、税金である。
 もう一つ政権中枢に対する批判的コメントが欲しいところだと思いました。
(2014年7月刊。1200円+税)

2014年8月 9日

黒部の山賊


著者  伊藤 正一 、 出版  山と渓谷社

 昭和39年(1964年)に刊行された本の復刻本です。ですから、この本で最近とか現在とあるのは、1960年代前半のことになります。つまり、今から50年も前の日本アルプスの山々の情景が描かれているのです。
 山小屋をつくり、道をつくり、熊に出会い、山賊のような人々がアルプスの山々を歩いている時代です。大勢の凍死者も出しています。救援活動も命がけでした(これは今も同じなんでしょうが・・・)。
 そして、モノノケに驚き、脅かされます。死んだ人が山小屋に顔を出すのです。
 北アルプスの尾根筋は、真夏でも最高14~18度。朝には氷が張ることがある。高度3000メートル。晴れた日でも秒速30メートルの風が吹く。荒れると秒速70メートルにもなって、小屋が土台ごと舞い上がって空中分解してしまう。
 人体の感じる温度は、風速1メートルにつき、1度下がったのと同じ。雨で身体が濡れていると、気化熱のために体温が奪われるので、その何倍にもなる。こうして、体温が28度ほど下がって、真夏でも簡単に凍死してしまう。
 凍傷の場合は急激に温めてはいけない。しかし、凍死寸前の場合には、一刻も早く温めるのがよい。温まると、忘れたように治ってしまう。
 ゴアテックスが発明される前は、山で雨が降ると、凍死寸前の人々が2~30人も山小屋に飛び込んできた。うへーっ、こ、こわいですね。
 熊は耳と鼻は非常に敏感だが、目はあまりよくない。したがって、風下から、音を立てないようにして近づくのが熊狩りのコツである。熊を殺して、大きな鍋で肉を煮て食べる。熊の腸を鍋の中に入れる。腸の中には、排泄寸前の糞がぎっしり詰まっている。これを入れなければ味が出ない。これが山賊たちの食事だ。うへーっ、こ、これはなんとも食べたくありませんよね・・・。最後に、熊の足の裏を薄く切って焼いたのを食べる。どんな味がするのでしょうか。
 健全な者でも、山小屋に入って20日間もすると、ぐっと能率が低下する。忘れっぽくなり、計算も出来なくなる。最盛期を過ぎてひまになってくると、ボケかたがひどくなり、しまいには気力がおとろえてくる。そして、山々が新雪におおわれることになると、底知れない孤独感と人間社会に対する限りない郷愁におそわれる。これは、奥地の小屋ほど、人数が少ないほど、そして未経験者ほど、強くあらわれる。
 山で熊に出会ったら、恐れずににらみあっていること。背中を見せて逃げてはいけない。背中を見せたら、飛びかかってこられる。ピッケルで殴ったりしても熊に致命傷を与えられず、かえって熊を怒らせてしまう。身をかわしているうちに、熊のほうがやめてしまうだろう。
戦後まもなくの、のどかな時代でもあったようです。写真もあって、当時の雰囲気をよく忍ぶことができます。貴重な山の本だと思いました。
(2014年4月刊。1200円+税)

2014年8月 8日

校閲ガール


著者  宮本 あや子 、 出版  メディアファクトリー

 とても面白い本でした。『舟を編む』のパロディー本かと錯覚してしまいました。あちらは辞書を編集する現場の変人たちの話でしたが、こちらは編集の下に位置づけられる校閲部の変人たちのオンパレードです。
 校閲(こうえつ)とは、文書や原稿などの誤りや不備な点を調べ、検討し、訂正したり、構成したりすること。
 私はモノ書きを自称すると同時に、編集も業としてきました。他人の書いた文章を反復継続して手直ししてきたということです。ほとんどペイしていませんので、「対価」がなければ「業」とは言えない・・・。それでも他人の変な文章を見ると、すぐに赤ペンを入れたくなります。
カギカッコの直前に句読点はつけないという不文律があります。しかし、このことは意外に、多くの人が知りません。そして、エッセーの小見出しに数字を付すのもやめてほしいです。
 まあ、それはともかくとして、好きでもない校閲部にまわされ、泣く泣く嫌な校閲の仕事をしている独身女性の悦子が主人公です。
 平凡でお気楽な女子大生だった悦子は、気合いと根性だけで難関の景凡社の入社試験を乗り切った。ファッション雑誌の編集者になることを夢見て入社した悦子が配属されたのは、地味な裏方仕事の校閲部。がーん。・・・・。
通常、仕事に慣れた校閲者が一日で完璧にできるのは、1日25頁ほどだとされている。
 私も、他人のあらを探すのは得意なのですが、自分の書いた準備書面を裁判所に提出したあとに読み返すと、たくさんのボロを見つけてしまい、赤面の至りです。そうなんです。思い込んでしまうと、あらは見えなくなるものなのです。
 表に出ないはずの閲覧部の悦子がなぜか作家本人と直接話すようになり、果てはその作家が「逃亡」すると、その所在探しにまで駆り出されるのでした。そのあたりには謎解きも入って、ちょっとしたミステリー小説の気分を味わうことが出来ます。
 今どきの女性の乱暴な男言葉が、話の展開を軽快なものにしています。
 軽いタッチでテンポよく話が展開していきますから、ふむふむ、この次はどうなるのかなと、おもわず話に引きずりこまれてしまいました。軽い気持ちで読める、うさ晴らしにもってこいの本です。
(2014年3月刊。1200円+税)

2014年8月 5日

集団的自衛権の何が問題か


著者  奥平 康弘  、  山口 二郎  、 出版   岩波書店

集団的自衛権の問題点について、いろんな人が多角的に明らかにした本です。とても時宜にかなった内容です。
 個人を離れた実体としての国家の権威を個人の上に置きたいと考える国家主義者にとって、国民に死を強いることのできない国家は、欠陥国家である。
 日本をそのような欠陥国家にした最大の元凶は、敗戦後に押し付けられた憲法9条であり、これを改正することによって日本はまともな国家に復権できる。安倍首相は、このように考えている。
 安倍は、政治家の名門であるが、祖父や父と違って、学歴エリートではない。だから、若いころから、祖父や父に対して劣等感を持っていたに違いない。
 安倍とその取り巻きの政治家は、「つよい劣等感をもった少年兵」である。彼らは、実際の戦争も戦闘も知らないゆえに、戦争を封印してきた政治体制に対して過剰に暴力的になっている。
  安倍首相は、1990年代以来の日本民主化の試みから生まれた鬼子である。安倍や橋下にとって、民主主義とは「決める人を決める」手続に矮小化されている。
 民意の絶対化、政治主導の絶対化は自分自身が要するに民意そのものであるから、自分に反対するものは民意に反するという権力の絶対化につながる。
 安倍首相の手法は、「必要は法を知らない」、目的を達成するためにはルールにかまっていられないという国際法の発想である。
 安倍首相の言葉の裏に、「戦争の火種」を小さく生んで大きく育てようという騙しの手口が見える。
 防衛省には、1993年につくられた、朝鮮半島有事に際して、日本人を救出する極秘計画がある。自衛隊は、米軍には一切頼ることなく、自衛隊だけで海外邦人を救出できることになっている。
 集団的自衛権とは、自衛ではなく、「他衛」を指している。売られていないケンカを買ってでる。そうなんです。自衛ではないんです。
 安倍首相の記者会見における発言は、
①戦争は突然に起きると思い込んでいる。
 ②日米の権力が同等だという前提に立っている。
 ③軍事技術の限界を無視している。
 まさに、安倍首相は軍事オンチである。安倍首相のいう「限定」容認論とは、結局のところ、日本が本格的な戦争に巻き込まれる入口に過ぎない。
 いま、日本人は、保守政治を自認する安倍首相の憲法破壊によって戦場に駆り立てられようとしている。「国民の戦死」と「戦費の増大」という巨大な負担は、日本人に重くのしかかる。21世紀の日本は、狂信的な首相の登場によって、世界が注視するなか不幸のどん底に転げ落ちようとしている。
 安倍首相は、いまが千載一遇のチャンスだと考えている。彼は、自分が自民党の中で、多数派でないことを自覚している。
 今の天皇は、戦後デモクラシーを全面的に容認している。
安倍首相は、集団的自衛権を本来の目的にそくして行使したとき、日本が戦争当事国となることにともなうリスクをまったく説明していない。
 抑止力というのは、相手より強いことが前提となって成り立つ概念である。相手国だって、抑止されまいと強くなるはずで、安全保障のジレンマに陥る危険がある。
 日本が攻められていないときに、集団的自衛権を行使すれば、日本が先に戦争の火ぶたを切ることになる。
 今の日本社会には漠然とした「脅威」を共有する空気ができつつあるのではないか・・・・。陸海空すべての司令部レベルで米軍との一体化がなされることになった。
 もし日本政府が歯止めを設けられないとなると、自衛隊を用いるにあたっての歯止めが国内には存在しない。それは、文民統制がきかないことを意味している。
 安倍首相は、集団的自衛権を行使した「後」のことについてはまったく言及しない。日本が攻撃すれば、日本本土への報復攻撃を行われるだろう。
 国の安全保障中心は、「攻められない」ようにする条件をいかにしてつくりあげるか、にある。
 「怖いのか、臆病者め」と言われたとき、「はい、怖いです」と答えられる社会は健全だ。「平和ボケ」より、「軍事中毒」のほうが、はるかに有害だ。
 憲法9条を集団的自衛権を認める意味に解釈変更することは、解釈の限界をこえ、立憲主義に対する挑戦である。
何度も、そうだ、そのとおりだと叫んでしまいました。
(2014年7月刊。1900円+税)

2014年7月25日

夜間保育と子どもたち


著者  櫻井 慶一 、 出版  北大路書房

 夜間保育と聞くと、なんとなくマイナス・イメージがありますよね。でも、この本を読むと、これがすっかりプラスイメージに変わってしまいます。やっぱり、体験者の話には耳を傾けるだけの価値があります。
 「夜間保育は、子どもの成長・発達に悪影響を及ぼすだろう」
 この予言が、実はあたっていないことが、長年にわたる調査・研究によって明らかにされた。夜間保育は、現実には、決して子どもの成長・発達に悪影響を及ぼすものではない。むしろ、こどもの成長・発達に悪影響を及ぼす環境を改善し、子どもの健全育成に資するものである。
 夜間保育が望ましくないのではなく、夜間保育を必要とする子どもの置かれた環境が望ましくないのであり、その厳しい環境に置かれた子どもを夜間保育によって、少しでも望ましい状態に替えることが児童福祉の精神なのである。まことにそのとおりだと思いました。
 全国にある認可保育園は2万3700カ所。そのなかで認可された夜間保育園は、なんとわずか80カ所。全国のベビーホテルは1830カ所、3万3000人ほど。
 夜間保育園は、夜間のみではなく、夜間まで開いている保育園。24時間いつでも預かれる保育態勢にあるということ。
夜間保育で育った子どもたちは社会のために役立ちたい、人とのつながりを大切にしたい、前向きに一生けん命努力したい、誠実で人から信頼される人になりたいと思う子が全国平均よりも高くなっている。
これには理由がある。子どもたちは、乳幼児期に保護者のがんばっている姿を見て育ち、夜中まで保育士が自分を支えてくれたという体験をしていることが大きい。
 夜間保育園で、子どもが昼夜二食、安全でバランスがとれ、おいしい食事をとっていること、園によっては、入浴・寝かしつけも担っていることが、親の安心とストレス解消につながり、逆に短くても子どもとの時間を満喫し、楽しめるようになっている。
 入眠時に、深い安心のなかで眠りにつける、そのためのゆとりある体制が必要。
 眠りの途中で目覚めた子どもが、そのときいつでも大人がいることを感じて安心し、再び眠りにつくことのできる体制を確保する。
 あわせて、仕事が終わってホッとしている、お迎えの保護者から雑談的に子育てや生活の悩みが聞ける体制が必要。
 そうなんですよね。そこまでゆとりある夜間保育園なら、かえって安心ですよね。イライラするばかりの親と一緒よりも・・・。
 福岡の宇都宮英人弁護士からすすめられて読みました。生活が困難ななかで、子どもと一緒にがんばっている親をしっかり支えている夜間保育所について、認識を改めることができました。全国夜間保育園連盟の創立30周年記念の本です。
 子どもの福祉行政の貧困さを告発する本でもあります。読んでいて、なんだかうれしくなる、心が温まる体験記がたくさんある、いい本です。ぜひ、ご一読ください。
(2014年3月刊。2000円+税)

2014年7月24日

「新富裕層」が日本を滅ぼす

著者  武田 知弘 、 出版  中公新書ラクレ

 いつのまにか、日本という国は中身がすっかり変わってしまったのですね。
 この本を読むと、アベノミクスを手放しで礼讃する人々がたくさんいる理由がよく分かります。私のまわりには不景気な話ばかりなのですが、世の中には、もうかって仕方がない人、ありあまったお金の使いみちが分からずに困っている人が、なんとたくさんいることでしょう・・・。信じられない思いです。
 日本には、世界的に見ても巨額の資産がある。個人金融資産は1500兆円に達している(2006年)。バブル末期の1990年には1017兆円だったから、わずか16年で50%増となった。「失われた20年」のあいだに、潤っている人間は、しっかり潤ってきたのだ。
 今の日本は億万長者が激増している。2004年に134万人だったのが、2011年には182万人になった。これは、世界全体の富裕層の17%を占める。世界の人口の2%でしかない日本人が、世界の富裕層の17%も占めている。アメリカの307万人に次いで世界第2位である。7人口比率から言えば、日本のほうが富裕層が多い。
 ところが、大金持ちへの減税が進んでいる。所得税率は、1980年に75%、1986年に70%、1987年に60%、1989年に50%、そして2010年には40%にまで下げられた。住民税のほうも、18%だったのが10%になっている。このため、最高時に27兆円近くあった所得税収入が、2009年には13兆円にまで激減している。
金持ちは、元からいい生活をしているので、収入が増えても消費はあまり増えない。結局、貯蓄にまわってしまう。
日本の金持ちの所得税には、いろいろな抜け穴があり、名目税率は高いけれど、実質的な負担税率は驚くほど安い。アメリカ、ドイツ、フランスは、どこもGDP比で10%以上の負担率であり、イギリスは13.5%なのに、日本はわずかに7.2%でしかない。アメリカの所得税の税収は、日本の7倍もある。
 つまり、日本の貧乏人はアメリカの貧乏人よりも多くの税負担をしている。
日本の相続税は大幅に減税された。1988年までに最高税率は75%だったが、2003年には50%に下がった。この結果、相続税は税収としての機能をまったく失った。
 ピーク時には3兆円あった相続税の税収は、いまでは1兆円となって、2兆円も減収した。
 しかも、この55%というのは名目上のことで、実際には、驚くほど税金は安い。
 今の日本では、富裕層とともに、大企業もお金をため込みすぎている。日本の企業の業績は、バブルの崩壊後も、決して悪くはなかった。バブルの崩壊後、国民の多くは、日本経済は低迷していると思い込まされ、低賃金や増税に耐えてきた。しかし、その前提条件は、実は間違いなのである。
日本の法人税は、たしかに名目上は非常に高い。しかし、いろいろ抜け穴があり、実際の税負担は、まったく大したことがない。総合的に考えると、日本企業の社会的負担は先進国のなかでは低いほうであり、もっと負担すべきだ。
法人税が減税されたら、サラリーマンの給料は下がる。だから、サラリーマンは、間違っても法人税の減税に賛成などしてはならない。
 企業は人件費を削って、配当にまわすという愚を普通に犯してきた。大企業は、この20年間で人件費を20%もカットし、内部留保金を100兆円以上、ふやしてきた。そんなことをすれば、お金の流れが滞るのはあたりまえだし、景気が低迷するのも必然だ。
賃金が上がっていないのは、主要先進国では、日本だけ。政府が最低賃金を上げてこなかったのは、財界の反発が強かったからだ。
 週40時間まともに働いても家庭を養っていけないような国で、まともな人材が育つわけがない。
 先進国のなかで、これほど非正規雇用がふえているのは、日本以外にはアメリカだけ。日本は非正規雇用の言い合いが35%にもなっている。
 日本で生活保護レベル以下の生活をしている人は1000万人以上いると推定されている。実際に保護を受けている人は、200万人なので800万人が生活保護の受給からもれている。
 人件費を削減すれば、短期的には企業の実績は上がるだろう。しかし、長期的に見れば、日本企業の破滅を招くことになる。日本の消費税は、経済を停滞させ、格差社会を助長する最悪の税金である。
 日本社会構造、そして、日本人の意識を根本的に変革する必要があると思いました。
 とても分かりやすい本です。ご一読を強くおすすめします。
(2014年2月刊。780円+税)

2014年7月23日

日本は戦争をするのか


著者  半田 滋 、 出版  岩波新書

 安倍内閣がついに閣議決定を強行して、集団的自衛権の行使を容認しました。本当に、とんでもない暴走内閣です。安倍首相は、外遊したときには日本は一変した(一新した)と言い、日本人向けには、いや前どおりです、戦争をするわけではありません、などと、まさしく二枚舌を「器用に」使い分けています。その点の追及がマスコミに弱いのが、もどかしくてなりません。とりわけ、NHKはひどいですよね。まるで政府広報番組のオンパレードです。
 ジャーナリストきっての軍事通である著者の本です。サブタイトルは、まさしく集団的自衛権と自衛隊です。私たちの知りたいことが満載の本です。いま必読の新書ですよ。
 国民の疑問に丁寧にこたえ、不安を解消して行くのが政治家の務めのはずだが、安倍首相は違う。国内においては、「わが国を取り巻く安全保障環境がいっそう悪化している」と繰り返して国民の不安をあおり、だから憲法解釈を変更して集団的自衛権の行使を容認しなければならないと声をはり上げる。
 だから、国民の中にも、アジアの危機的状況に立ち向かうためには憲法改正手続なんか、やってられないという焦った声があがるのです・・・。
 アメリカの「行くべきではない」というメッセージを無視して、安倍首相は靖国神社への参拝を強行した。外交においては、中国、韓国ばかりでなく、アメリカまでも刺激し続け、安全保障環境を自ら悪化させている。靖国神社には、東條英樹元首相らA級戦犯14人が合祀されている。そして、そのことから昭和天皇は参拝をやめた。いまの平成天皇も、もちろん一度も行っていません。
 安倍首相が靖国神社を参拝すると、アメリカ政府は失望しているとのコメント発表した。
 アメリカは、「靖国神社」参拝は見送るべきだという考え方で一貫していた。安倍首相と、その取り巻き連中は、アメリカの考えを知っていながら、これをあえて無視した。
 4月に来日したオバマ大統領は、国賓にもかかわらず、赤坂の迎賓館には宿泊せず、都内のホテルに泊まった。
 安倍首相がアメリカに行ったとき、韓国の朴大統領とは扱いに大きな差があった。共同記者会見はなく、アメリカ議会での演説もない。明らかに冷遇されたのですよね。
いま、アメリカにとって最大の輸出相手国は日本ではなく、中国である。
 安倍首相は、立憲主義を時代錯誤だと考えています。
 「最高の責任者は私です」
 「政府の方針に私が責任を負って、そのうえで選挙で国民の審判を受ける。審判を受けるのは法制局長官ではない。私なんですよ・・・」
 安倍首相の強気を支えるのは、高い内閣支持率だ。就任から1年を経過しても50%の支持率を維持する政権は珍しい。安倍首相は危機意識をあおり、国民の不安に乗じて、憲法解釈を変えようというのだ。
興味深いことに、集団的自衛権を行使して戦争に介入した国々は「勝利」していない。
 「北朝鮮から攻撃されたら、どうする?」
 「中国に尖閣諸島を奪われるかもしれない」
 これらを根拠に集団的自衛権の行使を容認してはならない。いずれも個別的自衛権で対処できないはずはない。
年間に30~40回もあった日中交流が、第二次安倍政権ではゼロになった。
 日本が中国と競い合って軍事費を増やし、自衛隊の出動規定をゆるめたら、アジア全体の軍拡競争につながり、地域情勢は不安定化するだろう。
 北朝鮮がアメリカを攻撃するより、アメリカによる北朝鮮攻撃のほうが、はるかに可能性が高い。いずれにせよ、アメリカと北朝鮮が戦争すれれば、全国にアメリカ軍基地をかかえる日本は必然的に戦争に巻き込まれるだろう。
 安倍首相のいう「積極的平和主義」とは、日本国憲法の柱のひとつである平和主義とはまるで違うものである。
現代の戦争に、戦場そのものの「戦闘正面」と、補給したり、休養したりする「後方地域」を区別することに意味はない。燃料、弾薬、食糧の補給なしに戦争を継続するのは不可能だ。
日本には、使用済み核燃料棒を補完する原発や関連施設が55カ所もある。その一つでもテロ攻撃されたら、日本という国は破壊してしまうのです。それを考えただけでも身震いします。
 自衛隊には「人助け」を目的として入隊してくる若者が少なくない。初任給は16万円。2年任期までまわっていく。一佐(47歳)は1243万円の年収がある。
 自衛隊がどう変わっていくのか。そのとき、大半の自衛隊員にとっては、単なる内輪ゲンカのレベルではありません。生か死の瀬戸際に立たされるのです。
いま、自衛隊から目を離せません。ぜひとも広く読まれてほしい本です。
(2014年5月刊。740円+税)

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