弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

社会

2014年10月30日

国家の暴走


著者  古賀 茂明 、 出版  角川ワンテーマ21新書

 経産省のキャリア官僚だった著者が安倍政権の危険性を鋭く告発した本です。
 その現状分析と大胆な問題提起について、ついつい、「そうだ、そうだ」と同感の叫び声をあげてしまいました。ただ、最後の「第四象限の党」のところは、首をかしげてしまいましたが・・・。
 安倍首相は、自ら中国や韓国との関係を悪化させて国民の不安感を煽り、両国に対する日本国民の敵意を高めている。こうした国民感情は、安倍政権の暴走を助けている。
 安倍政権が暴走すれば、中国・韓国の日本への敵対的な言動も高まる。そうなれば、ますます安倍政権は暴走しやすくなる。こうして、「暴走スパイラル」が始まると、もう誰も止められなくなる危険性が高まる。これって、怖いことですよね・・・。
安倍首相のいう「立派な国、強い国」とは、「軍事的に立派な国、強い国」であることが明らかとなった。
 多くの若者が、「自分たちの生活を良くしてくれそうだ」と感じている。この意味で、安倍首相は、なんと「改革派」なのだ。これは、若者に対する安倍政権の広報戦略がきわめてうまくいっていることを意味している。
 月1億円、年に10億円もの税金を好き勝手に使っていいという内閣官房機密費がマスコミ対策や世論対策に使われている。そして、その効果は非常に大きい。マスコミの社長たちは、安倍首相の声がかかるのを喜ぶだけ。批判精神を忘れ去っていますよね・・・。
 ここ数年の日本は、経済主導から、軍事主導の国づくりに転換されつつある。
 日本の国土を守るうえでは、経済的基礎がガタガタでは、その上に軍事力をのせて、国を支えることが出来ない。日本経済の再生なくして、国を守ることなんかできない。
 安倍首相の願望は、「世界の列強」になること。列強国を名乗るために、強い軍隊を保有し、すぐに戦争ができるようにする。そのため、「産めよ、増やせよ」政策を推進し、憲法9条を変えて国防軍の保持を義務づけ、集団的自衛権の行使や、国の集団安全保障にもとづく武力行使を容認する。
 軍事産業が大きな政治力をもてば、日本は軍事費を削減できなくなる。そして産業構造が大きく変わり、日本は「戦争を待ち望む国」になる。
 安倍首相は、議論する能力がない。いつも質問と答弁がかみあわない。
 日米安保条約は、片務条約ではない。
 最終的な抑止力となるのは、強い軍隊ではない。国際世論であり、国際的な経済の結びつきである。現実に、これらが戦争に対する最大の歯止めになっている。
著者の指摘は、いずれもきわめてまっとうなものです。しかし、依然として安倍政権の暴走は止まりません。その点について、マスコミの責任はきわめて重大だと私は思います。しかし、国家の暴走を止めるためには、他人事(ひとごと)みたいに傍観せず、私たち国民がいっそう自覚し、行動に起ちあがるべきなのではないでしょうか・・・。
(2014年9月刊。800円+税)

2014年10月29日

永続敗戦論


著者  白井 聡 、 出版  太田出版

 いまの日本社会と政治について、大変鋭く、かつ面白い指摘・分析がなされています。
 私たちは侮辱のなかに生きている。これは大江健三郎の言葉。
 忘れてはならないのは、原発事故は「収束」したというにはほど遠い状態にあり、いまもなお、現場で被爆しながら作業に従事している多くの人々がいるという事実である。
 「侮辱」の内容として、東京電力という会社がいまだに存在していることを挙げなければならない。だが、政府のみが批判されるべき対象ではない。構造的腐敗に陥っているのは政府と電力会社だけではない。本来、国家権力に対する監視者たる役割を期待されているはずのマスメディアや大学・研究機関の多くも、荒廃しきった姿をさらけ出した。
 「日本の経済は一流」というのは、干からびた神話にすぎなかった。経済界を代表する人物は、原子力行政についてもっと胸を張るべきだと高言した。これって、本当にとんでもない言い草ですよね。
 第二次大戦に突入していった戦争指導層の妄想的な自己過信と空想的な判断、裏付けのない希望的観測、無責任な不決断と混迷、その場しのぎの泥縄式方針の乱発。これらすべてが2011年の福島原発事故の時に、克明に再現された。残念ながら、まことにそのとおりですよね。
 鳩山内閣はアメリカの圧力によって倒れた。それは、日本においては、選挙によって国民の大部分の支持を取りつけている首相であっても、「国民の要望」と「アメリカの要望」とのどちらかを選択させられるとき、「アメリカの要望」をとらざるをえないことを明らかにした。つまり、日本での政権交代は、実質的に政権交代ではない限りにおいてのみ許容されるものなのだ。
 沖縄は、戦略的重要性から冷戦の真の最前線として位置づけられてきた。そのため、沖縄では、暴力支配が返還の前も後も、日常的なものとして横行している。これは、日本の本土からみると、沖縄は特殊で例外的なものに見える。しかし、東アジアの親米諸国一般からすると、日本の本土こそ特殊、例外的なものであって、沖縄こそ一般的なものなのである。
 ことあるごとに「戦後民主主義」に対する不平を言い立て、戦前的価値観への共感を隠さない政治勢力が、「戦後を終わらせる」ことを実行しないという言行不一致を犯しながらも、長きにわたって権力を独占してこられたのは、それが相当の安定性を築きあげることに成功したからである。
 彼らの主張においては、大日本帝国は決して負けておらず、「神州不敗」の精神は生きている。彼らは、国内とアジアに向かっては敗戦を否認することによって自らの「信念」を満足させ、自分たちの勢力を容認し支えてくれるアメリカに対しては卑屈な臣従を続ける。
 敗戦を否認するため、敗北が無制限に続くことになる。日本の支配権力は、敗戦の事実を公然と認めることができない。それは、その正統性の危機につながる。そのため、領土問題について、道理ある解決に向けて前進する能力を根本的にもたない。
 こうした状況のなかで、「尖閣も竹島も北方領土も、文句なしに日本のものだ」「不条理なことを言う外国は討つべきだ」という、国際的にはまったく通用しない夜郎自体の「勇ましい」主張が、「愛国主義」として通用するという無惨きわまりない状況が現出している。
 北朝鮮による拉致被害者について、安倍首相は次のように述べた。
 「こういう憲法でなければ、横田めぐみさんを守れたかもしれない」
 安倍首相の発言の非論理性・無根拠は、悲惨の一語に尽きる。韓国は「平和憲法」をもたず、戦争状態にありながらも、多くの拉致被害を防ぐことが出来なかった。安倍首相のような政治家にとって、北朝鮮による拉致被害事件は、永続敗戦レジームを維持・強化するための格好のネタとして取り扱われている。
 占領軍の「天皇への敬愛」が単なる打算にすぎないことを理解できないのが戦後日本の保守であり、これを理解はしても、「アメリカの打算」が国家としての当然の行為にすぎないことを理解しないのが戦後日本の左派である。前者は絶対的にナイーヴであり、後者は相対的にナイーヴである。
 憲法問題に限っては、親米右派は大好きなアメリカからのもらいものをひどく嫌っており、反米主義者は、珍しくこの点だけについてはメイド・イン・USAを愛してやまない。
 日本の親米保守勢力の低劣さ、無反省ぶりにアメリカは驚き呆れ、怒りの悲鳴を上げているほど。しかし、この低劣なる勢力こそ、ほかならぬアメリカ政府が育てあげ、甘やかしてきた当のものにほかならない。
 なぜ、アルカイダのテロが東京で起きていないのか?
 それは、イスラム圏の人々が日本について大変な幻想をいだき、また誤解しているから。それによって東京はイスラム圏の爆弾テロの脅威から辛じて救われる。
 本当に、なかなか鋭い指摘です。目からウロコが落ちるとは、このことを言うと思いました。重苦しい胸のつかえがとれ、スッキリした気分に浸ることができます。
 それにしても安倍首相の原発事故「収束」宣言って、大嘘ですし、許せませんよね。
 今度、子どもたちへの道徳教育が始まるとのこと。道徳教育が今、一番必要なのは国会議事堂のなかと首相官邸なのではありませんか・・・。ともかく、見えすいた嘘は止めてください。安倍首相(さん)。
京都の川中宏弁護士のすすめで読みました。ありがとうございます。
(2014年8月刊。1700円+税)

2014年10月28日

資本主義の終焉と歴史の危機


著者  水野 和夫 、 出版  集英社新書

 資本主義の死期が近づいているのではないか。このような問題意識で書かれた本です。衝撃の問題提起なのですが、そこで言われているのは、しごくまっとうな内容のものばかりです。そうだ、そうだと、ついつい何度も深くうなずいてしまいました。
昨今の先進各国の国債利回りは、利子率が際立って低下している。日本の10年国際は、2.0%以下という超低金利が20年近く続いている。
 金利は、資本利潤率と同じなので、利潤率が極端に低いということは、すでに資本主義が資本主義として機能していないという兆候なのだ。
 利子率=利潤率が2%を下回れば、資本側が得るものはほぼゼロ。そうした超低金利が10年をこえて続くと、既存の経済・社会システムはもはや維持できない。
 10年国債の利子率が2%を下回るということは、資本家が資本投資をして工場やオフィスビルをつくっても、資本家や投資家が満足できるリターンが得られなくなったことを意味する。
 利潤率が異常に低下したのは、1974年に始まる。
 資本配分を市場に任せたら、労働分配率を下げ、資本側のリターンを増やすので、富む者はより富み、貧しい者がより貧しくなっていくのは当然のこと。これは、中間層のための成長を放棄することも意味している。
 国境の内側で格差を広げることもいとわない「資本のための資本主義」は、民主主義も同時に破壊する。民主主義は、価値観を同じくする中間層が存在してこそ機能するもの。
グローバリゼーションとは、「中心」と「周辺」の組み替え作業であり、ヒト・モノ・カネが国境を自由にこえ、世界全体の繁栄に導くなどといった表層的な言説に惑わされてはいけない。
 中間層が没落した先進国で、消費ブームが戻ってくるはずがない。
 資本主義は、中産階級を没落させ、粗暴な「資本のための資本主義」に変質していった。
これは、資本主義の「退化」である。
 これまでは、2割の先進国が、8割の途上国を貧しくさせたままで発展してきたため、先進国に属する国では、国民全員が一定の豊かさを享受することができた。ところが、グローバリゼーションのすすんだ現代では、貧富の二極化が一国内で現れてしまう。
 中国で「13億総中流」が実現しないとなれば、中国に民主主義が成立しないことになり、中国内で階級闘争が激化するだろう。これは中国共産党による一党独裁体制を大きく揺さぶることになる。そして、中国にバブル崩壊が起きるのは必然。成長率の高い中国バブル崩壊が世界経済に与える影響は日本の比ではない。
 バブルとは、資本主義の限界と矛盾を覆い隠すために、引き起こされるもの。資本主義の限界とは、資本の実物投資の利潤率が低下し、資本の拡大再生産ができなくなってしまうこと。
 アベノミクスのような、過剰な金融緩和と財政出動、さらに規制緩和によって成長を追い求めることは、危機を加速させるだけであり、万国崩壊と過剰設備によって国民の賃金はさらに削減されてしまうことになる。
 マルクスの『共産党宣言』とは真逆に、現在は、万国の資本家だけが団結し、国家も労働者も団結できずにいる状態である。
 法人税や金融資産課税を増税して、持てる者により負担してもらうべきなのに、逆累進性の強い消費税の増税ばかりが議論されている。
 法人税に至っては、財界は下げろというだけで、新自由主義とは実は無政府主義(アナーキスト)なのかとも思える。法人税を下げたところで、利益は資本家が独占してしまい、賃金には反映されていない。
 労働規制を緩和するのは資本家の利益のためでしかない。逆に規制を強化して原則として正社員としての雇用を義務付けるべき。
 財界本位のアベノミクスを一刻も早く止めさせる必要があることを痛感しました。胸のすく思いのする新書です。ぜひ、ご一読ください。
(2014年8月刊。740円+税)
 今年もジョウビタキが来てくれました。土曜日の朝、あっ、声がすると思ったら、すぐそばにジョウビタキが来ていました。ぷっくら可愛い姿のジョウビタキは、人なつっこく、いつも身近に来て、尻尾をチョンチョンと下げて挨拶してくれます。
 日曜日の午後、チューリップを植えました。畳一枚分の広さにぎっしり詰めて球根を植えます。すぐそばには黄色いエンゼルトランペットの花がたくさん咲いています。酔芙蓉の花は終わりましたので、また来年ねと声をかけて、せんていバサミで切りました。

2014年10月18日

波よ、鎮まれ


著者  沖縄タイムス「尖閣」取材班 、 出版  旬報社

 尖閣諸島付近の漁業の実情を知ることのできる本です。この海域は、かつて日本人も中国人も共存共栄していた漁業だったのです。知りませんでした。
 偏狭な領土ナショナリズム思想をもつ活動家たちが魚釣島に上陸して緊張感を高めた。そして、石原慎太郎都知事(当時)が尖閣諸島の購入計画を発表して、緊張関係は一挙にエスカレートした。
 中国漁船の衝突事件では、日本政府も中国政府も対応を誤った。
 中国漁船による尖閣諸島周辺の操業は、日中漁業協定によって合法である。中国漁船と沖縄漁船のトラブルはほとんどない。起きるトラブルの大半は、台湾漁船のマグロはえ縄漁による漁具の交差・切断や漁具盗難である。
小さな徴発の応酬が戦争にまで発展した事例は世界にはいくつもある。
 マグロはえ縄漁船は、最前線で台湾漁船と激しい漁場の競合に直面している。
 尖閣海域は、高級魚(フエダイ、ムツ、ハチビキ科など)が捕れる好漁場だが、近年は漁場を利用する人はほとんどいない。
 尖閣海域は、石垣島から170キロ離れ、自船で行くと、10時間かかる。そして、尖閣諸島周辺の海は荒い。
 尖閣海域は、かつて沖縄と台湾の農民が魚を分けあう「生活圏」だった。この背景には、台湾の漁場が日本に比べて圧倒的に「視野」が狭かったことにある。
釣魚台周辺は、好漁場。サバの産卵地域でもある。
安倍首相のように、中国や韓国・北朝鮮について頭から敵視して、対話交流もしないというのは、信じがたいほどの誤りです。70人もの大企業代表国を引きつれて世界各地に出かけている安倍首相が、今もって中国にも韓国にも行ってないなんて、許せないことです。
(2014年4月刊。1600円+税)

2014年10月17日

虚像の抑止力


著者  猿田 佐世、マイク・モチヅキほか 、 出版  旬報社

 この本の発行主体である新外交イニシアティブ(ND)の事務局長である猿田佐世弁護士は、日本とアメリカで弁護し活動しながら、アメリカ議会で活発なロビー活動を進めています。その猿田弁護士が企画した沖縄でのシンポジウムが本になっていますので、大変読みやすく、問題の本質が明快にえぐり出されています。
 柳沢協二氏は、海兵隊が沖縄に存在することが抑止力であるという論理は成り立たないと力説しています。
 そもそも、抑止力とは何か? 抑止力とは、相手が侵略してきたとき、これを抑止し、その目的に見合う以上の損害を与える意思と能力を認識させることによって、侵略を思いとどませることを言う。
 いま、アメリカと中国とは、相互にライバル意識を持ちながら、経済的には切っても切れない関係にある。それは、冷戦時代のアメリカとソ連との関係は決定的に異なっている。つまり、相互に最大の貿易・投資のパートナーであり、国の存立の基盤である経済活動において互いに必要としている。だから、両国のあいだには、相互に相手を破滅させるような戦争をする動機はない。
 アメリカは、尖閣諸島をめぐる日中の対立軍事衝突に発展し、そこに巻き込まれることを心配している。
 沖縄の海兵隊は、能力はともかくとして。投入の意思がない以上、抑止力とはなりえない。
 沖縄にアメリカ軍の基地が集中していることは、中国にミサイル能力が向上するに伴い、基地の脆弱性が増していることを意味する。いざというとき、中国のミサイルの格好の標的になって、破滅してしまう恐れが強い。
 屋良朝博氏は、なぜアメリカ軍の海兵隊が沖縄に移ってきたのか、いまも謎だという。沖縄には、そもそも海兵隊はいなかった。知りませんでした。
 尖閣諸島を中国軍が占拠したとき、沖縄にいるアメリカ軍海兵隊が奪還してくれるはずだ。日本人の多くは、このように思い込んでいる。しかし、アメリカ軍の海兵隊トップは、小さな島の奪還に、海兵隊は無用だと断言する。海兵隊は地上戦闘兵力であり、シーレーン防衛とか中国の艦船と対決するような事態には投入されない。
 アメリカの国防総省(ペンタゴン)は、海兵隊を沖縄から全面撤退するように提言した。
在日アメリカ軍の駐留経費は年間3600億円。日本の負担は、ヨーロッパのNATO諸国の負担の2倍。イタリアの12倍、韓国の8倍。まさしく大盤振る舞い。「おもてなし」だ。
 半田滋氏は、日本政府はアメリカ政府に対して盲目的な主従関係にあるという。
 アメリカ軍の駐留経費の75%を日本政府が負担している。
 いえ、決して安倍首相のポケット・マネーで負担しているのではありません。私とあなたの税金によって、まかなわれているのです。毎日、苦労して働いて納めている税金がアメリカのために使われているなんて、とんでもないことです。プンプン・・・。
 アメリカ軍の海兵隊は、沖縄に常駐しているのではない。海兵隊は、沖縄に1年の半分以上はいない。
 新書版より少し大きなポケット・サイズの本です。190頁しかありませんので、大切なポイントをつかみやすい本になっています。それにしても、猿田弁護士は会うたびに若々しく、美しくなっています。やっぱり、時代の要請にこたえて活動すると、人は若返ることができるんですね。こんな外交活動を支えるためにも、ぜひ本屋の店頭で手をとり、お買い求めください。あなたの、そのささやかな行動が日本を救うのです。
(2014年8月刊。1400円+税)

2014年10月 9日

限界にっぽん


著者  朝日新聞経済部 、 出版  岩波書店

 ほんの少し前まで、「ジャパン・アズナンバーワン」とされ、安定雇用のもと、経営と働き手が一体になった日本型経営は、日本の強い競争力の根源だと言われていた。終身雇用と手厚い福利厚生で企業が従業員を支え、分厚い中流層が社会の安定の基盤だった。
 いま、社内に首切り旋風が吹き荒れている。残った社員にも不安と不信が強まり、職場では誰もが孤立し、会社は乾いた荒漠としたものになった。
 雇用の危機を放置したままで、経済は成長できるのか・・・。
マクドナルドの店内は、午前0時になると、店内の風景が一変する。サラリーマンや学生たちと入れ替わりに、しびれた手提げ袋を抱えた男性たちが入ってくる。「マクド難民」と呼ばれてくる人たちだ。
お金がないから、ネットカフェには泊まらない。ネットカフェは1000円かかる。マックなら100円のコーヒー1杯で午前2時までいられる。
マック閉店のあとは、「ブックオフ」に向かう。マックの店員は大半が非正規社員。17万人がアルバイトで働く。
 大阪では、働く人の45%が非正規社員だ。
 非正規社員が広がったのは、1990年代後半の「派遣の原則自由化」による。これは、本当に罪深いと思います。大企業本位の自民党政治の最大の誤りの一つだと思います。大企業は栄えても、日本の若者からは将来展望を奪ってしまいました。
 生活保護のバッシングがひどい。しかし、不正受給は全体の2%。保護を受ける資格が十分にあるのに、わずかな収入でガマンしている人が圧倒的に多い。ところが、残念なことに、そのような人が身近な生活保護受給者の足を引っ張るような行動もするのです・・・。
 安倍内閣は生活保護費の給付水準を引き下げるのに狂奔しています。強いものには税金を安くしてやって、弱者には「自己責任」を押しつけるのですから、政治家失格です。
 現実の日本社会には、ばりばり仕事をするサラリーマン男性だけがいるわけではない。高齢者も障害者も社会に適応できない若者など、さまざまな人がいる。みんなが、それぞれにがんばれる多様性を組み込まないと、経済も社会も活性化しない。
日本の超有名大企業が社員に自主退職を促し、株主や銀行に約束した「人減らし」計画を達成するために「追い出し部屋」をつくっている。
 パナソニック、NEC、ソニー、朝日生命などなど・・・。
 ノエビア化粧品は、「苛酷なノルマ」を押しつけて、社員を追い出す。その手口が明らかになった。会社側は「辞めろ」とは決して言わない。社員が自ら「辞める」と言い出すまで、じりじりと追い込む。
 2012年8月、東京地裁立川支部は、ベネッセコーポレーションの「追い出し部屋」を違法と断じる画期的な判決を出した。
 人減らしをすすめるとき、人事担当は、「解雇・クビ・やめろ・やめてくれ」とは絶対に言ってはならない。会社に残るのを、いかにあきらめさせるか、だ・・・。
 ユニクロは、ブラック企業としても有名です。新入社員が入社して3年内に退職した割合(離職率)は、2006年組で22%、2007年組は37%、2008~2010年組は46~53%と高まっていった。同期の入社組の半数は会社を去っていく。そして、休職している人の42%はうつ病などの精神疾患にかかっている。これは正社員の3%にあたる。
もっと働く人を大切にすること、とりわけ若者が安定して長く働ける職場を確保すること、これをなくして日本社会の平和と安定的成長はのぞめないと思います。
 いま安倍首相のやっていることは、それに真っ向から逆行しています。働く中高年を大切にせず、若者を使い捨てにして、超大企業のみを優遇しています。そして、軍需産業だけは栄えるというのです。本当に、戦後最悪の政治が進行中だと思います。
(2014年月刊。760円+税)

2014年10月 5日

自衛隊と防衛産業


著者  桜林 美佐 、 出版  並木書房

 自衛隊と防衛産業を積極的に評価した本です。
 10式戦車は「ひとまる」戦車。90式の50トンと比べて44トンと大幅に軽量化された。90式戦車は重すぎて北海道でしか使えなかった。
 10式戦車は、完全国産。2000メートル先の目標に対して畳一枚の大きさの制度で撃ち込むことができる。そして、車体がどんなにブレても、照準点が変わらないように制御できる高度な技術がある。ジグザグにスラローム走行しながら射撃し、命中させる能力は世界初。追尾を90式の熱源方式から、映像方式に替えたことで実現した。そして、眼鏡式だった標準あわせが、10式ではタッチパネル式に変わっている。
 現在、戦車をエンジンまですべて国産にできる国は、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イスラエルそして日本だけ。戦車を製造しているのは、相僕原市にある三菱重工業の汎用機・特車事業本部。最盛期には年に72両の戦車を製造していたが、いまは8両ほど。かつての1200両が今では3分1まで減らされている。
 ヘリ搭載型護衛艦というのは、ヘリ空母のこと。「ひゅうが」「いせ」に続いて「いずも」が就航した。2万トン、ヘリコプター9機を同時に運用できる。F35も搭載可能だ。
 「いずも」の建造費は1200億円。潜水艦を製造しているのは、川﨑重工業と三菱重工業の二社のみ。大気に依存しないスターリングエンジンAIP発電システムによって、水中航続性能が大幅に向上した。
 日本の自衛隊を装備面から政府広報のように紹介した本です。
(2014年8月刊。1500円+税)

2014年10月 3日

ブラボー、隠されたビキニ水爆実験


著者  高瀬 毅 、 出版  平凡社

 3.11のあと、福島第一原発の後始末が難行しているのに、平然と原発を再稼働させようとしている政府と企業がいます。信じられないほどの無責任さです。
 安倍首相とその親族は福島第一原発周辺に別宅をもうけて、週末はそこでゆっくり過ごすようにしたらいいのではありませんか。なにしろ、「収束」宣言をしたのですから、安全のはずでしょう。
 放射能の怖さは、それが目に見えず、何の臭いもしないので、近寄ってみても、手でさわってみても、その危険は実感することが出来ません。
 60年前、太平洋で漁業に従事していた漁船に突如として「死の灰」が降りかかってきました。何も知らされていなかった漁船員は、白い灰をまともに浴びて、日本に帰り着いてから、たちまち発症していったのです。「第五福竜丸」事件の始まりです。
 ところが、この本によると、アメリカの水爆実験によって被爆した漁船は、実は、第五福竜丸以外にもたくさんいたというのです。
 アメリカによる巨大な水爆実験は、膨大な放射能を太平洋の広い範囲に拡散させた。そこには、たくさんの漁船がいた。日本の港に入ってきた何十隻もの漁船から放射能が検出された。放射能に汚染されたマグロを廃棄しなかったマグロ漁船も13隻いた。被災した漁船は、のべ1000隻にのぼった。
 1954年3月1日あら5月14日まで、アメリカは6回にわたって原水爆実験を実施した。
 何が起きているのか知らされていない漁船の乗組員たちは、海水で体を洗い、海水の風呂に入っていた。
太陽が昇るときのような明るさが3分ほど続いた。それから3時間すると、粉のような灰が船体に一面降りかかった。その晩は、飯も食えず、酒を飲んでも酔わなかった。2日目あたりから、頭痛を訴える人が出てきた。3日目には、灰のかかった皮膚がひやけしたように黒ずみ、10日くらいたってから、水ぶくれの症状になった。
 これは、当時39歳だった久保山愛吉氏の証言です。やがて亡くなられました。
 いま、「第五福竜丸」は、元の夢の島に保存されているとのこと。私も一度みてみたいと思いました。
(2014年6月刊。1800円+税)

2014年9月26日

「おこぼれ経済」という神話


著者  石川 康宏 、 出版  新日本出版社

 私の身のまわりは、本当に不況が深刻です。宅配業に従事している人は、この夏のお中元は激減しましたと言います。お菓子屋さんに勤める人も、同じくお中元商品はさっぱりですと言いました。中長距離トラックの運転手の人たちも、物流に勢いがないと断言します。
 アベノミクスの恩恵を蒙っているのは、超大企業とごく一部の人々ではないでしょうか。多くの庶民は、賃金や年金が減る一方で、消費税が上がって食費と出費を切り詰めて、生活防衛に走っています。だから、外食産業もアップアップしているのです。
 この本は、アベノミクスにだまされてはいけない、そのカラクリを見抜くことをおすすめしています。いま、たくさんの人に読んでほしい一冊です。
 アベノミクスは、国民生活の改善につながるものとはなっていない。それは経済政策が古い「おこぼれ経済」という発想の枠にしがみついているからだ。
 「おこぼれ経済」というのは、「大企業がうるおえば、そのうち国民もうるおってくるだろう」式の神話にすぎない。そうではなくて、国民がうるおってこそ、大企業も中小企業もうるおいということに経済の根本をおく必要がある。
 日本では、国内消費の最大勢力である個人消費を拡大させることによって、日本経済の生産力と消費力の均衡を回復していくべきだ。
 バブルの崩壊のあと、日本経済は長く停滞の時代に入っている。1991年から2011年までの20年間の年平均成長率は、わずか0.9%。この不活性さが20年以上も続いている。
 労働者の給与総額(ボーナスをふくむ)は、1997年をピークとして、減少している。1997年に月額37万円をこえた平均給与は、2012年には31万円ちょっととなり。この15年間で月5万余、年間で70万円近くも減ってしまった。その直接の原因は、非正規雇用の増大。
 日本経済の輸出依存度は14%で、世界185ヶ国のうち148位。高くはない。
 日本経済の成長を支えてきたのは、日本国民の個人消費だった。
 日本は、G7のなかで賃金が減少している唯一の国である。
日本の保険業界は、アメリカの大企業に乗っとられつつある。郵政民営化によって、結局、ゆうちょはアフラックに支配されつつありますよね。
 日本経団連会長を出している東レは、典型的な多国籍企業である。その海外生産比率は、センイで59%、フィルムで77%。グループ全体でも海外比率は45%を占めている。
 これでは、日本経団連が日本の一般庶民を大切にしようと思うはずもありませんね。
 政党助成金が始まったのは、財界からの政治献金を禁止するとの引きかえだった。ところが、日本経団連は自民党への政治献金を再開すると宣言した。これでは、国民をペテンにかけたも同然です。税金のムダづかいではありませんか。政党助成金は直ちに廃止すべきです。
そして、国政選挙に民意を反映するように、あまりに民意にかけ離れた国会議席構成をつくりだしている小選挙区制度なんか、すぐにやめて比例代表制を基本とする選挙制度へ大転換してほしいと思います。
(2014年6月刊。1100円+税)

2014年9月23日

紙つなげ!


著者  佐々 涼子 、 出版  早川書房

 この5月に石巻に行ってきました。そのとき日和山にのぼって、海岸線のほうを見渡すと、広大な草原が広がっていました。かつて住宅街があったところです。そして、そのすぐ下に日本製紙石巻工場があり、操業しているのを見ました。大きな工場です。
 この本は、あの3.11のとき、この石巻工場が壊滅的打撃を受けながらも、そのとき工場内にいた人が全員助かったこと、そして、半年で製紙工場としてよみがえった過程を生き生きと紹介しています。
 なにより驚いたのは、この石巻工場で日本の本の多くがつくり出されているということです。
 そして、工場に働く人たちは、本を手にしたとき、その手ざわりから、自分たちの工場の製品かどうか分かるというのです。製紙についても、いろいろ教えてくれる貴重な本でもありました。
 印刷用紙の原料には、ユーカリなどの広葉樹チップ(木片)とラジアータパイン(松の一種)などの針葉樹チップが使われる。
 広葉樹は針葉樹と比べて繊維が短く、柔らかいのが特徴だ。広葉樹の柔らかさは、この紙の手触りの良さをうみ出している。
石巻工場の震災前の生産量は年に100トン。世界屈指の規模を誇る。
工場に押し寄せた津波は高さ4メートルに達した。工場の敷地内で41名の遺体が発見された。8号マシンは、おもに徴塗工紙や中質紙を生産している。マシンの全長は111メートル。
8号マシンが止まれば、日本の出版は倒れる。
日本の出版用紙の4割が日本製紙で生産されるが、石巻工場はその基幹工場である。
津波のあと、においがすごかった。日和山には1万人ほど避難していた。
 工場が燃えなかったのは、奇跡みたいなものだった。工場の一階部分はすべてが泥水に埋まり、そのうえに周辺地域から流入してきた瓦礫が2メートルは積もっていた。
 石巻工場で働いていた1306人の全員が無事だった。
最近の読者から好まれているのは、紙が厚くて、しかも柔らかく、高級感のあるもの。読者は、めくったときの快楽を無意識のうちに求めている。
 紙を抄くためには、豊かで良質な水が必要。石巻には、豊かな水量を誇る北上川が流れている。そして、良質な森林資源がパルプの原料となった。さらに、首都圏への製品輸送ルートが確立している。
 最新鋭のN6抄紙機ラインは、抄造スピードが毎分1800メートル。1日の生産量が1000トンをこえる世界最大級の超大型設備。日本製紙は630億円を投入した。ちなみに、東京スカイツリーの総工費は650億円。すごいマシーンですね、これって・・・。
徴塗工紙とは、紙の表面に女性のファンデーションのように薄づきの化粧を施し、ナチュラルな風合いを出したもの。
 文庫は、出版社によって紙の色が異なる。講談社は若干黄色、角川は赤くて、新潮社はめっちゃ赤。
 かつての文庫用紙は酸性だった。だから、退色しやすかった。中性紙は、ずっと色もちしやすい。
子ども用のコミック本は、手にとってうれしくなるように、ゴージャスにぶわっと厚くつくって、運ぶのに重くないようになっている。
半年後、石巻工場は息を吹き返した。半年復興を言った工場長すら、内心では3%の可能性しかないと踏んでいた。誰もが想像し得なかった半年復興だった。
 いい本でした。ただ、今後の津波対策はどうなっているのかなと、ちょっぴり不安も感じました。
 日和山にのぼったあと、庄司捷彦弁護士(石巻市)から大川小学校の跡地にまで案内してもらいました。川から少し離れた小学校が廃墟になっていました。黙って手をあわせたあと、仮設住宅を遠くに眺めながら石巻市内に戻りました。仮設住宅はとても狭くてプライバシーの点からも十分でないと不安にかられました。
 「誇るに足る日本」によるというのなら、安倍首相はこの状態の解消こそ最優先にすべきだと思います。原発再稼働を優先させるなんて、とんでもない首相です。
(2014年8月刊。1500円+税)

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