弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
社会
2015年5月19日
NHK-危機に立つ公共放送
(霧山昴)
著者 松田 浩 、 出版 岩波新書
私はテレビを見ませんので、NHKを利用しているのは、毎朝のラジオ・フランス語講座と日曜日の「ダーウィンが来た」(録画しておき、寝る前に見ます)だけです。
昔々は、朝の連続テレビ小説の「おはなはん」(樫山文枝の主演)を楽しみにしていました。その後は、「Nスペ」などの真面目な番組を見ることもありません。映像よりも活字の世界で生きていたほうが、私の要求を満たしてくれると思っているからです。
それにしても、いまの籾井(もみい)という会長はお粗末すぎます。恥を知らない日本人という典型ではないでしょうか。いくら安倍首相のお気に入りといっても、これほど愚劣な人物が日本を代表する天下のNHKの会長とは信じられません。自分に、資格がないことの自覚がないのは安倍首相と同じで、救いようがありません。
三井物産出身ということですが、その会社も大したことがないと言うしかありませんよね。だって、こんな大会社の副社長が、こんなつまらない男でもつとまるというのですから・・・。いやはや、日本の大会社のレベルも地に墜ちたものです。
NHKの元総合企画室局長が、「NHKは、創設以来、過去最大の危機に直面している」と言うのに、同感するばかりです。
公共放送にとって大切なことは、政治家を監督すること。「籾井発言」の問題の本質は、公共放送にとって生命である「自主・自立」が根底から脅かされているということにある。
NHKには、公権力に対峙して、国民の「知る権利」や言論・表現の自由を守るためにたたかったという実績はない。常に永田町(自民党)の動向にばかり気をつかい、政府による政治介入に対して妥協と譲歩を重ね、自主規制に終始してきた。したがって、「権力監視」の意識はNHKでは育ちようがない。なんだか、そこまで言われると、悲しくなってきます。
戦争に反対し、抗議デモをしている人々について、全国的そして国際的な現実の一部として報道すべきなのだ。
私も、本当にそうだと思います。いまのNHKは、本当に不甲斐ないとしかいいようがありません。
公共放送の「自主・自立」を守るためにたたかわない、そしてたたかってこなかったNHKの不甲斐なさに問題がある。
まったく同感です。あまりにも安倍政権の言いなりになりすぎです。
NHKのなかにも、リベラルな人材や見識を持った幹部がいないわけではない。しかし、そんな良識派が多数派になり、主流派になることができない権力構造がある。組織として権力とたたかってでも自主・独立を守ろうという伝統はない。
これって、本当に残念ですよね。そこが、イギリスのBBC放送とNHKの最大の違いではないでしょうか・・・。困りました。
(2014年11月刊。840円+税)
2015年5月15日
日本はなぜ基地と原発を止められないのか
(霧山昴)
著者 矢部 宏治 、 出版 集英社
憲法論のところでは、疑問も感じましたが、本書の指摘は日ごろの私の実感によくあっていましたので、つい、うんうんと大きくうなずきながら、どんどん読みすすめていきました。
まずは沖縄です。安倍首相が、沖縄県民が選んだ翁長知事を無視しているのは、とんでもないことです。
アメリカ軍の飛行機は、日本の上空をどんな高さで飛んでもよい。日本政府は、そのことについて文句は言えない。
もちろん、私たち国民は文句が言えるわけですが・・・。
アメリカ軍の飛行機は、アメリカの棲んでいる住宅の上空では、絶対に低空飛行訓練はしない。なぜか? それは、危険だから。では、それ以外の土地で低空飛行しているのはなぜか? 日本人は、アメリカ人ではないから。つまり、日本人は保護する必要がないからなのです。
アメリカ軍の飛行機は、沖縄という同じ島のなかで、アメリカ人の家は危ないから飛ばないけれど、日本人の家の上は平気で低空飛行する。ところが、アメリカ本土ではアメリカ軍がアメリカ人の住む家の上を低空飛行することは、厳重に規制されている。これは当然のことです。要するに、日本人の生命がアメリカ人とは比較にならないほど軽んじられているのです。
アメリカべったりの右翼・保守陣営は、このような現実を見ようとはしません。アメリカにタテつくなどということは、恐ろしくて出来ないのです。そのくせ、愛国心を、ことさら強調するのですから、矛盾過ぎますよね・・・。
鳩山由紀夫首相(当時)が、アメリカに独自姿勢を示そうとしたとき、外務防衛官僚は、真正面から堂々と鳩山首相に反旗をひるがえした。日本の高級官僚はアメリカべったりの思考にこり固まっているからです。
沖縄のアメリカ軍基地には、最大で1300発もの核兵器が貯蔵されていた。そして、日本からソ連や中国を核攻撃できるようになっていた。三沢基地では、連日、すごい訓練が実施されていたようです。
日米合同委員会のなかで、日本側は、アメリカの言いなりになるのだが、その日本側の委員はみな各省庁で大出世していった。
次に、福島原発事故について取りあげています。
私は前にも書きましたが、東電の当時の会長や社長たちが刑事訴追されることなく、のうのうとしていることを許すことができません。彼らこそ、日本をダメにした元凶です。少なくとも有罪を宣告され、無期懲役刑が相当だと思います。なにしろ、15万人もの日本人の住む家を奪ったのです。その罪責は途方もなく大きいと思います。許せません。
先日の鹿児島地裁における原発差止仮処分の却下決定は、3.11福島第一原発事故の教訓をまったく学んでいない裁判官による、とんでもなく勇気の欠如したものでした。残念です。東大工学部出身の裁判官だということですが、人間としての勇気がないと、目まで曇ってしまうのですね・・・。困ったものです。
(2014年11月刊。840円+税)
2015年5月13日
子どもに貧困を押しつける国・日本
(霧山昴)
著者 山野 良一 、 出版 光文社新書
とても豊かになった日本ですが、そのなかで子どもの貧困が深刻化しているのです。
「強い国」づくりを目ざす安倍政権の弱者切り捨て政策によってつくられた現象です。なかなか目に見えてこない現象ですが、日本の国を底辺から大きくむしばんでいます。
子どもの貧困は、見ようとしなければ見えないものになっている。日本の貧困ラインは、個人単位で年収122万円。親子2人世帯では月14万円、年173万円。親子4人世帯だと月20万円、年244万円。
貧困率は16%。ここを切り捨ててしまうと、日本経済は全体として底上げができず、結局、消費向上、景気回復はできません。
日本のひとり親世帯の貧困率は、先進国のなかで2番目に高い。
保育を受けられないこと、保育から排除されることは、貧困な子どもに非常に大きな影響を与える。
乳幼児期に身につけた認知能力、社会性、情緒的な安定性などは、より効果的に、より継続的に、より困難な障壁なしに、その後の学習への取り組みの支えとなる。つまり、学習が学習を生む。
大学への進学は、貧困の世代間連鎖から抜け出すためのもっとも適切な手段でもある。
日本は、もっとも大学に行きにくい国だ。ヨーロッパは、大学の授業料がタダか、とても安い。高くても年間15万円。
そして、私立大学は、ヨーロッパにはほとんどない。私立大学に学生の大半が通うのは、日本と韓国くらい。アメリカでも、3割ほどでしかない。
子どもを日本はもっと大切にすべきです。道徳教育を子どもに無理矢理押しつける前に、大学まで全部の授業料をタダにして、学生への生活援助制度をもうけるべきです。利子のつく奨学金貸与なんて、論外です。
軍需産業育成ではなく、人材育成にこそ国の予算をつかうべきだと思います。
人間こそ、国の宝なのです。
(2014年10月刊。820円+税)
2015年5月10日
遺品整理士という仕事
(霧山昴)
著者 木村 榮治 、 出版 平凡社新書
遺品整理士という仕事があることを初めて知りました。まだ国家資格ではありません。でも、今の日本には必要な仕事だと私も思います。だって、一人暮らしの年寄りがたくさんいて、孤独死で発見される人が次々にいるんですから・・・。
遺品整理とは、故人のもちものを受け継ぐものと、受け継がないものとに分け、リサイクルに出すか、ゴミとして処分する。遺品整理は、分別、清掃、査定、搬出、処分である。
遺族の指示のもと、この一連の作業を、心をこめて請け負うのが遺品整理士の仕事である。遺品整理士の仕事は大まかに言うと、分別と運搬に分けられる。そして、作業する前に、召集・消毒・脱臭の専門業者に来てもらうことがある。
遺品整理の関連業者は、今や日本全国に5000~6000業者もいる。
そして、高額請求によるトラブルが目立つ。
「ゼロ円回収」と無料をうたう業者は、「ゼロ円」という値段をつけて引きとったのだから、受けとった品物はリサイクル価格のあるもので、廃棄物ではない。だから、廃棄物処理法は適用されない。つまり、許可がなくても回収できると主張する。
日本は、ひとり暮らしのおばあさんの多い国。女性における単独世帯の割合のピークは、80~84歳。独居していた女性の部屋の9割から、現金が出てくる。男性の場合には、お金よりもいかがわしいものが出てくる。
仏壇は、海外へ日本の高給民芸品として輸出されることがある。
セルフネグレクト。怠慢、無関心が自分自身に向けられること。ゴミ屋敷で生活している人です。風呂に入らない。規則正しい生活をしない。きちんとした食事をとらない。ゴミを捨てず、家の中を悪臭の漂うままにする。自分を社会的な存在として保とうとしないので、周囲とも交流しない、引き込もってしまう人が大半。孤立死の8割は、生前、セルフネグレクトだった。
著者は、遺品整理士鑑定協会をたちあげ、通信制で認定している。受講期間は2ヶ月間。合格率70%。現代日本に必要な職業だと思いました。
(2015年3月刊。760円+税)
2015年5月 8日
税金を払わない巨大企業
(霧山昴)
著者 富岡 幸雄 、 出版 文春新書
大企業がもうかっているというのは間違いありません。その従業員の賃金も上がっているようです。問題は、それが社会全般にきちんと還元されているか、ということです。
誰だって、大企業は、もうかっているだけ税金もちゃんと国に治めていると思いますよね。ところが、この本によると、それが全然ちがうというのです。驚きました。呆れてしまいます。
日本を代表する世界的な大企業は日本国へ税金を納めていない。
ソフトバンク。あの孫さんの超大企業は、800億円近い純利益を上げているのに、納税額はわずかに500万円。うひゃあ・・・。ケタがいくつも違いますよね。
では、柳井さんのユニクロは?
純利益が750億円で納税額は50億円。少しはましです。でも、本当に、そんなことでいいのでしょうか・・・。読めば読むほど、腹の立つ本です。血圧が高い人は読まないほうがいいかもしれません。この本を読んで。プチッと脳血管がキレてしまっても、決して私の責任ではありません・・・。
三井住友フィナンシャルグループは、1500億円近い利益を上げているのに、税金は、わずか300万円しか納めていない。300万円といったら、小さな小さな零細企業レベルの納税額でしかありません。
みずほフィナンシャルグループも2400億円の純益に対して2億円ほどの納税額。同じく三菱UFJフィナンシャルグループも900億円近い純益に対して51億円ほどの納税額でしかありません。
あまりにも低すぎます。「政商」をかかえているということで有名なオリックスも、1700億円という純利益に対して、納税額は、わずか210億円。やめられませんよね。超大企業にとって、日本は天国そのものです。
日本の法人税は高い、いや高すぎるから下げろと経団連や一部のエコノミストが声高く主張しています。
実のところ、日本の法人税率は35%で、ドイツの30%、フランスの33%、アメリカの40%に比べて、そんなに高いわけではない。
日本の法人税の現状はまるでタックス・ヘイブン(租税回避地)と言うしかない。
日本の法人税は高い、高すぎると言っている超大企業のすべが、実は、驚くほど軽い税金しか納めていない。信じられませんね。超大企業というのは、世の中に貧しく、苦しんでいる人がいることなんて忘れ、切り捨ててしまっているのです。
企業グループ内の各企業が、株式を保有しあえば、各企業の利益による配当金を、グループなの企業で、ほとんど支払わずに内部留保することも可能になる。
日本の富裕層の税金は世界一安い。
5000万ドル(49億円)以上の純資産をもつ超大金持ちが、日本に2885人もいる。すごーい、ですよね・・・。安倍内閣は、消費税を10%に必ずすると断言しています。これでは、私たち庶民の経済状況を直撃し、苦しめます。
日本のヒドイ経済格差を強めている安倍政権は、本当に血も涙もない、あこぎな政治をすすめています。怒り、そして、それを支える事実と論理を身につけてくれる本でもあります。
(2015年2月刊。700円+税)
ゴールデンウィークは、どこにも出かけず、庭の手入れにいそしみました。今は、キョーブ、ハナショーブが花盛りです。ところどころにジャーマンアイリスも咲いています。ライトブルーだけでなく、黄・茶色そして純白の花もあり、心が惹きつけられます。5月の庭は、色とりどりで心も楽しく軽やかになります。
2月に植えたジャガイモの苗が大きくなってきました。6月が楽しみです。
庭のアスパラガスをとって口にすると、香りもよく、春を実感します。ウグイスの声が元気に響きわたります。カササギの巣は完成しましたが、産卵にはまだ至らないようです。二羽で、ときどき巡回しています。
2015年5月 4日
希望の牧場
(霧山昴)
著者 森 絵都・吉田 尚令 、 出版 岩崎書店
福島第一原子力発電所。そこから20キロ圏内にあった牧場。330頭の肉牛がいた。
3.11のあと、放射能をあびた牛たちは、もう食えない。食えない牛は売れない。それでも、生きてりゃのどがかわくから、水くれ、水くれってさわぐんだ。エサくれ、エサくれって、なくんだよ。
だれもいなくなった牧場に、オレはのこった。そりゃ放射能はこわいけど、しょうがない。だってオレ、牛飼いだからな。まったく牛たちはよく食うんだ。エサ食って、クソたれて、エサ食って、クソたれて、まいにち、それだけだ。
それが肉牛の仕事だもんな。牧場の牛たちは、そのために生きて、死ぬ。それがこいつらの運命。人間がきめた。そして、原発事故によって、人間がくるわせた。
国は、そんな牛について、殺処分することをきめた。オレは、そうしなかった。
売れない牛を生かしつづける。意味がないかな。バカみたいかな。売れない牛に、まいにちエサをやる。もうからないのに、金だけかかる。
いま、牧場には360頭もの牛がいる。原発事故の前よりもふえている。ふしぎだろ?
知覚の牧場主からたのまれた牛や、迷子になっなってた牛を、ひきとったのだ。
力強いタッチの絵で原発事故による悲惨さを描き出した大判の絵本です。
(2014年9月刊。1500円+税)
2015年5月 2日
オーガニックラベルの裏側
(霧山昴)
著者 クレメンス・G・アルヴァイ 、 出版 春秋社
従来型の養鶏や条件の悪い有機養鶏場で発症するのがカニバリズム。鶏は、互いに首や背中、尾そして尻周りの羽をつつきあう。そのため、体表が広く羽がむしりとられて皮膚が露出するため、感染症が発症しやすくなる。
群れの上下関係が確定していないときにも、カニバリズムが起きやすい。
鶏は鶏舎から出ようとしない。自然界では、鶏は森の周縁部に生息しているので、広い場所で身を隠すところがないようなところに出るのを鶏は恐れる。
オスのヒナは、生まれたその日に工場内のベルトコンベアーでシュレッダーまたはガス室に送られる。オスは卵を生まないから。
鶏は、はじめに濃度の薄いガスにさらされる。呼吸困難になり、パニックに陥って大暴れする。その後、より高い濃度のガスで気絶させられる。そして、回転シャッターにのせられて、一秒に3羽のペースで鶏は解体され、全自動工程でプラスチック容器にきれいに収まる。
この本は、有機畜産・有機農業といえども、家畜は劣悪な環境で飼育されていること、天然の在来種ではなく、ハイブリッドが利用され、農薬も使われ、形が悪いというだけで大量の作物が廃棄されていることを明らかにしています。
有機農業が本来の理想とかけ離れてしまった理由は、大規模化、産業化にある。それをスーパーマーケットなどの大規模な小売企業が推進している。
スーパーマーケットが納品量や形などについて理不尽な要求をするから、生産者は生き残るためには有機農業の理想を捨てるしかない。
有機農業だからといって、手放しで礼賛したり、安心してはいけないということのようです。
(2014年11月刊。2200円+税)
2015年5月 1日
老人喰い
(霧山昴)
著者 鈴木 大介 、 出版 ちくま新書
大変勉強になりました。振り込め詐欺(今では呼び名が特殊被害詐欺と変わったようです)が、こんなに高度に発達した詐欺集団による者だと知って、本当に認識を新たにしました。欺すほうの進化と、欺される側の一般国民と弁護士の認識は昔ながらのものでしかありません。その意味で、この本は消費者被害に関わる弁護士にとっては必読だと思いました。
昔、私は豊田商事とか海外先物取引による被害救済にあたっていました。欺す側の正当化論理は、世の中の眠っている資金をオレたちは活性化してやっているというものでした。
振り込め詐欺集団も、まったく同じ論理で自らを正当化しつつ行動しているのですね・・・。
お年寄りから老後のために貯め込んでいた大金を奪い去る当事者(若者)は、決して生まれ育ちの貧困が生み出した犯罪者だとは言い切れない。親の愛を十分に受けた者もいれば、大学教育を受けた者もいる。だが、それでも彼らは明確な敵対感情をもって、高齢者に牙をむく存在となった。なぜなのか?
特殊詐欺犯罪に手を染める若者たちは、夜露(よつゆ)の世代である。彼らは砂漠のなかで、夜露をすすって生きている。ところが、その横には、たっぷり水がたまった革袋をかかえた高齢者がいる。渇き切った若者たちは、血走った目で高齢者のかかえる水袋を奪い去ろうとする。
老人喰いをしている若者たちは、とてつもなく分厚い停滞感、閉塞感の雲を突き抜けた者たちだった。非常に優秀で、異常なほど高いモチベーションの持ち主だった。
振り込め詐欺の集団が活動するマンションに持ち込んでいいのは、タバコと現金、そしてケータイのみ。免許証とか自分名義のケータイなどは厳禁、マイカーやオートバイでの通勤も許されない。
毎朝、唱和される「御法度九ヶ条」。酒、薬、女、博打、喧嘩、他業、服装、家族、銀行。これは、詐欺の現場が警察の摘発を受けないため。
詐欺業界において、名簿屋の進化は著しい。警察署の生活安全課や行政の名をかたって電話をかける。高齢者の安全確認や社会的な調査業務のためといって電話をかけてくる。こんな電話には素直に応じてしまうのが普通の人だ。これは、下見調査と呼び、下見屋が業務委託を受ける。
詐欺のターゲットになりそうな高齢者は「下見」調査のすべてに非常に丁寧にこたえ、かつ訊かれてもいないことまで自発的に長時間にわたって話してくれる。
欺しの電話の手口は、問題を起こした息子役以外に二役が代わるがわる電話口に出ることで、ターゲットを混乱させる。お金が奪えないと判断した相手には、さっさと興味を失う。騙す側は、圧倒的に洗練されている。
詐欺集団は、徹底的に管理された高度な集団である。自分の役まわりの技術を徹底的に磨きあげている。そして、詐欺に関与する裏の名簿屋がいる。情報を強化した名簿によれば60%もひっかかる。
詐欺犯罪者集団のトップに暴力団が接近している。今、詐欺集団を完全に組織化しようとする動きがある。暴力団による系列化である。
彼らは、金主たちのお金をまとめ、詐欺に必要な設備、事務所や荷電するための通信回線、ターゲット名簿などを準備して、現場展開する。これが振り込め詐欺の裏側の状況です。 1店舗9人体制。2、3人一組で、役割を分担して電話をかける。話す。切られる。かける。話す、切られる。これを一日中、やるのです。まさに非人間的な作業です。
老人は、日本社会が今後発展しようとするのに対するガンだ。だから、大金を奪ってもいいというのです。
あなたも、ぜひお読みください。きっと目が開けます。
(2015年2月刊。800円+税)
2015年4月28日
大阪都構想が日本経済を破壊する
(霧山昴)
著者 藤井 聡 、 出版 文春新書
5月17日に、大阪市民の投票によって決まるものは何か?
大阪都構想と言うけれど、実は、今回の投票によって大阪都が成立するというわけではない。そうではなく、大阪市がなくなって、5つの特別区が出来るというだけのこと。大阪府はそのままなので、5つの特別区のうえに大阪府が君臨することになる。
本書は、政令市としての大阪市がなくなってしまうことによる大阪市民にとっての大きなダメージというか損失を明らかにしています。ええーっ、そんなこと知りませんでしたがな・・・、とは言えませんよ。橋下市長の口先にごまかされては大変なことになります。
政令市である大阪市は、255億円の事業所税を自由に使える。549億円の都市計画税も使える。固定資産税2707億円も、1259億円の法人市民税も使える。ところが、「都構想」が実現したら、大阪市民が、これらのお金を使うことはできなくなる。大阪市は、年間2200億円を自由に使えなくなる。そして、この年間2200億円は、大阪府の予算に組み込まれる。すると、どうなるか・・・?
大阪府の借金返済に使われるのは避けがたい。そして、その結果として、大阪市民サービスは削減されてしまうだろう。
大阪市をなくして5つの特別区を作るというのが、橋下市長の「都構想」。では、東京の都区制度はうまくいっているのか?
都区制度はやめて、市にしてほしいと東京の23区は言っている。それなのに、大阪では東京にならって都区へ移行するというのか・・・?
東京23区が豊かなのは、日本の中での東京一極集中があるから。そんな特殊事情は、大阪にはないし、あてはまらない。
「都構想」は大阪市から、権限と力、そしてお金をむしり取るもの。
これは橋下・大阪市長が大阪府知事当時に言ったセリフ。そのとおりなのだ。
大阪市長がいなくなってしまう。5つの特別区長には、それほどの権限はない。
大阪市長がいなくなり、大阪市議会議員がいなくなったうえ、大阪市役所も存在しなくなる。強力なパワーが大阪になくなったとき、大阪市民は、自由に力を発揮できるのだろうか・・・?
5つの特別区をつくったら、「一部事務組合」というプチ大阪市役所がどうしても必要になってくる、そこに大阪府が介入してきたら、なんともややこしい「三重構造」が生まれる。
「都構想」は、二重行政を解消するという。当初は年間4000億円もの節約になると言っていた。それが、1000億円となり、いつのまにか155億円、さらには11億円にまでなってしまった。実は、むしろ年間13億円もの赤字を出す可能性すらある。
橋下市長の「都構想」のウソを明らかにした本です。
この5月17日の大阪市民の投票は、憲法改正の予行演習だという見方があります。低い投票率のなかで、「橋下」「維新」人気だけで、「過半数」をとろうというのです。マスコミ操作をあくまで重視しているのも、そのためなのでしょう・・・。
本当に恐ろしい、「都構想」です。ぜひ、大阪市民のみなさん、物事の本質をつかんでくださいね。
(2015年4月刊。740円+税)
日曜日、初夏らしい晴天でしたのでチューリップの地上部分を始末しました。スイセンなどと違って、チューリップの球根は毎年うえるしかありません。
いま、庭には黄色のアイリス、ライトブルーのジャーマンアイリス、紫色のクレマチス、純白のカラー、橙色のヒオウギが咲いています。
2月に植えて霜枯れを心配したジャガイモは、なんとか生きのびました。白い花を咲かせているのもあります。
アスパラガスが毎朝のびていて、一日一本食べられます。電子レンジで1分間チンして、そのまま口にふくみます。春の香りをかみしめることができます。春ですよね・・・。
2015年4月18日
プラチナタウン
(霧山昴)
著者 楡 周平 、 出版 祥伝社
舞台は東北のさびれゆく町です。冬に雪に埋もれてしまうという点こそ違いますが、東北も九州も、田舎に残っているのは年寄りばっかりという点では、まったく同じです。
そんな町が、ハコモノだけはどんどん造ってしまうのです。もちろん、その利用者なんかいなくて、宝の持ち腐れ、町は大赤字を抱え込んでしまいます。それでも、公共工事を請け負った土建業者と政治家は大もうけするのです。この本に欠けているのは、公共工事を取り仕切っている暴力団が登場しないという点です。そして、悪役として、古狸の町会議員はいるのですが・・・。
主人公は大手総合商社の部長にまで登りつめているサラリーマンです。ところが、実力ある取締役ににらまれて、子会社へはじき飛ばされようとするのです。そこへ、故郷の町をよみがえらせる救世主になってほしいという話が飛び込んできたのでした。
なんとかマッケンジーといったコンサルタント会社への、次のような痛烈な皮肉もあります。まったく同感至極です。
コンサルタントの話をまともに受けて事業が成功するのなら、苦労はしない。連中の能力がそれほど高いというのなら、世の中につぶれる会社なんて、ありやしない。世の中に存在する会社で、少なくとも一流と目される企業でコンサルタント出身の社長なんて、ただの一人も存在しない。それが何よりの証拠だ。
真の公共事業とは、一時のカンフル剤であってはならない。恒久的に利益を生み、雇用を確保するものでなければならない。
この本では、工場を誘致しようとして整備した3万坪の土地に定年退職後の人たちの住める町づくりをしようという企画が進行していきます。たしかに、私たち団塊世代が引退後の生活を、どこで、いかに過ごすかは、国家的な関心事のはずなのです。ところが、いま十分な対策がとられているとは、とても思えません。
この本では、赤字再建団体寸前の田舎を、外国に住んだこともある総合商社の部長が町長になって、町の特産を生かしつつ、高齢者本位の町づくりに成功したというストーリーです。現実には、それほどうまく行かないように思いますが、こんな取り組みが本当にあってほしいものだと思いました。介護施設というのは、若者の働く場でもあるのですから・・・。ご一読をおすすめします。
(2008年7月刊。1800円+税)