弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
社会
2016年1月 6日
ザ・ブラック・カンパニー
(霧山昴)
著者 江上 剛 、 出版 光文社
マックじゃありませんが、ハンバーガー店がブラック企業であり、そこで働く人々が過労死したり、その寸前の状況にあることを告発している本です。
日本のマックも身売り話が出ているようですが、私はマックを食べないことを自慢にしている者の一人です。いえ、マックだけではありません。化学調味料と促成ホルモン材漬けの牛肉なんか食べたくないということです。
ハンバーガー店の店長が店内で過労死してしまった。なにしろ、店内に寝泊まりせざるをえないという過酷な労働条件。そして、売上高を確保するためには、店長自身が商品を買い取るしかない。パート従業員の賃金だって、人件費割合を削減するためには、店長が自腹を切っている。
あまりにも長い拘束時間、ノルマに追われて精神的余裕をなくし、過酷なストレスにさらされたら、過労死しなくても、いずれ病気になるのは必至だ。しかし、本社だけではぬくぬくとしている。
そんな商社こそ、ブラック企業そのものです。そして、理不尽な客がいて、トラブルになったり、フェイスブックやツイッターで店の悪評が書きたてられたり・・・。いやはや、大変な職場ですね。
そして、マックに対抗する独立系のハンバーガーのチェーン店があると思うと、実はアメリカのファンド会社の支配下にある会社であり、社長以下、いつでも首のすげ替えは出来るというのです。強欲なアメリカ資本の言いなりになってはたまりません。
過労死するまで働かされるなんて、ゴメンですよね。
ハンバーガー店という典型的なブラック企業の実情が、面白い読み物として生き生きと書かれています。マックなどのハンバーガー店の内情を知りたいという人には必読です。
(2015年11月刊。1500円+税)
2016年1月 2日
会計士は見た
(霧山昴)
著者 前川 修満 、 出版 文芸春秋
ソニー、東芝、スカイマークなど、世にも名高い超大企業が次々に大きく揺らいでいます。なぜ、そうなったのか、公認会計士が公表された企業決算書を読んで鋭く指摘しています。大塚家具では創業者の父親は従業員を大切にしてきたことがよく分りました。パートは正社員数の1割未満しかいない。ほとんど正社員で運営されている。たとえ実績が悪化しても、従業員を解雇せずに切り抜けようとしてきた。
「お客様への対応は、ちゃんと教育を受けた正社員にのみ行わせる」
「縁あって入社した従業員は、簡単にクビにはしない」
大塚家具は無借金経営できた。誠実かつ堅実な経営をしてきた。企業者である父親は、従業員と家具をこよなく愛する社長だった。娘との争いが続いていましたが、これからどうなるのでしょうか、、、。
ヤマダ電機に対抗していたコジマは、大塚家具と同じく、ほとんどの従業員が正社員だった。ヤマダ電機は、成長期にパートを増やしたが、同時に正社員も増やした。それに対して、コジマは、正社員を減らしてパートを増やしたため、従業員の士気が低下してしまった。
ケーズデンキは、「がんばらない経営」をモットーにしている。ポイント制をとらず、社員に売上ノルマを課さない。社員に無理はさせない。あえて一等地にも出店しない。
ケーズデンキの社員は平均年齢32歳、平均勤務年数6.5年、平均給与は426万円。そして、ヤマダ電機は、29歳、4.8年、370万円。これに対してコジマは、28歳5.6年、383万円。
結局、従業員を切り捨てる企業よりも、大切にする社会のほうが、長い目で見て、大きく伸びるということなんですね・・・。
目先の株主への高配当を最優先するような企業だったら、つぶれても仕方のないことだと改めて思いました。
(2015年12月刊。1200円+税)
2015年12月30日
あの人はなぜ、東大卒に勝てるのか
(霧山昴)
著者 津田 久資 、 出版 ダイヤモンド社
灘高そして東大法学部を卒業した著者は東大卒よりお笑い芸人のほうがすごいと強調しています。なぜ、どこが、すごいのか・・・。
テレビに出ているお笑い芸人の大半は、かなり優れた思考力を持っている。彼らは、深く考える習慣をわがものとしているので、強い。
アイデアの質の高さは、アイデアの量が大きい。つまり、一流と言われる人ほど、発想量が多い。トップクラスのコピーライターは、100本のコピーを仕上げてもってくる。三流とか四流のコピーライターは、100本持ってくることはなく、あれこれ弁解する。
優れたアイデアを出せる人は、自分の直観力に信頼を置いていない。一流のクリエーターほど、愚直に考えて発想の数をギリギリ増やしている。
発想することの本質は、思い出すこと。発想すると思い出すの両者は、頭の中から何かを引き出す点で共通している。
「思い出す」のは、頭の中の情報(知識)を顕在化させること。「発想する」とは、頭の中に潜在的に眠っているアイデアを顕在化させること。
ひとが考えているかどうかを決めるのは、その人が書いているかどうかである。アイデアを引き出すとは、アイデアを書き出すこと。
私も絶えず、頭の中に浮かんだことをメモに文字化するようにしています。車を運転中に、ふとひらめくことがあります。そんなときには、安全に心がけながらもメモを素早くとります。文字にしないと、すぐに忘れてしまうからです。
頭の中に、いくらいいアイデアがあっても、それが文字にならない限り、どうしようもない。
頭の中の情報は「絶対量」を増やすよりも、多様性(幅)を重視すべき。
頭の中の情報を「知識」で終わらせず、「知恵」へと深めるべき。
知恵とは、成り立ちや、理由までふくめて理解された知識のこと。知恵に転化された知識は、ほかの知識とより結びつきやすい。メモをとったら、なるべく早く文章にしておくこと。これが大切。
このあたりは、まったく同感です。こまめにメモをとり、文章化していくのです。私が日頃実践している手法が高く評価されていて、とてもうれしく思いました。
(2015年11月刊。1400円+税)
2015年12月24日
優しいサヨクの復活
(霧山昴)
著者 島田雅彦 、 出版 PHP新書
政権中枢にいる人々の発言には唖然とするばかりで、ある朝、目覚めたら、日本は全体主義国家になっていたようなもの。
安倍首相「みっともない憲法ですよ」
中谷・防衛大臣「憲法を安保法案に合わせる」
西田昌司・副幹事長「国民に主権があるのがおかしい」
船田元・憲法改正推進本部長代行「公益のために私有財産を没収できるようにしたい」
礒崎陽輔・同本部事務局長「立憲主義なんて聞いたことがない」
石破茂・前幹事長「出動を拒む兵員は死刑。反対デモはテロ行為と同じ」
これは、みな悪い冗談なんかではなく、公の席で高言したものです。言った本人だけでなく、それに頷く人々がいるのも恐ろしい。公然と国会議員に課された憲法擁護尊重義務に反し、平和主義に反する主張をしている人々が、現在の日本の舵取りをしている。これって、本当に危険ですよね。
これまで、多くの日本人があまりに政治に無関心だったことを深く恥じ入らなければいけない。
国家が戦争に加担し、原子力発電を推進するなら、市民は国家に対する不服従運動を展開するしかない。今、実に40年ぶりに人々が路上から声を上げている。
図らずも、安倍政権は若者に大いなる政治的錯覚を促すことに逆説的に貢献したといえる。そもそも自民党は、戦後、アメリカが日本を反共の防波堤にしようとしたときに受け皿としてつくられたもの。その出自から、アメリカへの服従を宿命づけられている。そして、民主党は、自民党に劣化版でしかない。おおさか維新は自民党と一体のようですね。
いまこそサヨクの存在価値を見直すときが来た。日本には共産党という、自民党よりも古い歴史をもつ政党があり、ブレない野党として、異議申立し続けている。国会論戦での志位和夫委員長は舌鋒鋭く、発言も真を突いている。
現行憲法を「平和ぼけ」と攻撃する人は、憲法に背いてでも、「世界の警察」であるアメリカの片棒を担ぎたくてしようがないようだ。しかし、「世界の警察」としての正義は達成されたことがない。
現行憲法を押しつけたからと言って改めようとするくせに、おなじ押しつけである日米安保条約はかたくなに守ろうとする。つまりは、日米安保条約を憲法の上位に置こうとする。
彼らは国家を最優先するように見せかけながら、実は国家を私物化している。
表向きは勇ましいことを高言しながら、その実、戦争法をテコに産業界を大もうけさせ、賄賂をせしめようとするさもしい連中に負けてなんかおれません。
どの子も殺させない。本当に大切なスローガンです。
安保法制が運用される前に、ぜひともその息の根を止めましょう。
読んで元気の湧いてくる新書です。
(2015年10月刊。800円+税)
2015年12月21日
さらばアホノミクス
(霧山昴)
著者 浜 矩子 、 出版 毎日新聞出版
小柄な著者の講演を何回か聴きましたが、そのたびに小気味のいい切れ味で、すっかり共感したものです。この本は、著者の語りそのままが活字になっていて、読んでスッキリ、納得できます。
なんで、こんなアホなアベ首相を支持する人が今なお4割を超えているのか、私には理解できず、不思議でなりません。
アベノミクスは、経済政策とも呼べない。まともな政策の体(てい)をなしていない。「三本の矢」といっても、矢どころか、的そのものかはずれ。
アベノミクスは、強さと力と大きさのみ。これらに固執していると、人間不在の世界になる。経済活動は人間の営みなのに、その中で人間が主役になれない。労働者ではなくて労働力。技術者ではなくて技術力。国民ではなくて国力。関心の商店が「人」から「力」へ移っている。
アベ首相は、アベノミクスは外交安全保障政策と表裏一体だと高言した。防衛費を増すことは考えても、国民福祉の考えはない。防衛費は3年連続で増やし続け、今や5兆円をえている。他方、生活保護費は削減するばかり。
アベノミクスは、貧乏人を救うためには、金持ちをより金持ちにすることが必要だという。何ともおかしな考え方である。今の日本でやるべきことは、分配政策。豊かさの中の貧困の解消だ。今の日本経済は成熟経済だ。成熟経済に必要なのは、分かち合いの論理であって、奪い合いの論理ではない。一握りの強者が栄えることで、全体が元気になれるという発想は幻想だ。
政策は強き者をより強くするためにあるわけではない。弱き者の生きる権利を守ることが、その本源的役割だ。
とても切れ味よく、爽やかな読後感のある小冊子(190頁)です。すぐに読めます。あなたも、ぜひ、ご一読ください。
(2015年12月刊。1100円+税)
2015年12月17日
NHKはなぜ、反知性主義に乗っ取られたのか
(霧山昴)
著者 上村 達男 、 出版 東陽経済新報社
NHKの籾井会長が今もなお罷面されずに居座っているのが不思議でなりません。
九大を出て三井物産に入り、副社長にまでなっているので、グローバル人材と言えるはずなのですが、その内実は粗野にして卑、なにかというと怒鳴り散らすという、知性のかけらもない人物のようです。残念です・・・。
「政府が右と言ってるものを、我々が左と言うわけにはいかない」
「特定秘密保護法案は成立したのだから・・」
NHKが政府の方針に反する報道はできないというのは、放送法に明らかに反する。NHKの会長が、そんなことも理解できないとは・・・・。
籾井会長は、理事全員に日付のない辞表の提出を強要した。それが国会で問題になったときには、理事にカン口会を敷いたが、理事たちが造反して、事実を証言した。
籾井会長は、人を敵か味方かに分けて、自分を批判する人は、敵だからと受け止める。いかにも単純な二分法なので、これでは議論が成り立たない。
「不偏不党」「自立と表現の自由の確保」を定めた放送法の精神は、籾井会長とそれに追従する人々によって、危機に瀕している。
NHKの会長は経営委員会によって選任される。著者も3年間、その経営委員12人の一人でした。
従軍慰安婦問題について、籾井会長は、「どこの国にもあったことです」と言い、「日韓条約で全部解決している」と高言した。とんでもない間違いだ。籾井会長は、これを失言と認めるつもりは、今もない。
籾井会長は、人の話を聞けないし、人のいうことが理解できない。だから、議論ができない。建設的なコミュニケーション能力がまったくない。理事が報告書を出しても読まないし、読めない。
今のNHKは、物事をまともに考えている人たちを、何も考えていない人が支配し、結果として、その人たちの人生を好きにもてあそんでいる。
籾井会長は、ふだんからNHKの番組は見ていない。ところが、偏向番組という評価だけは、しっかり認定している。
「俺は宴会は得意だ」。こんなことを籾井会長は言うのだそうです。やり切れませんね。
2015年3月の国会におけるNHK予算の審議においては、それまでの与野党全会一致という原則が崩れて、可否同数になった。実質的には否決されたということ。
日本の文化を世界に発信してきた天下のNHKが、今、泣いています。モミイなんて会長は一刻も早く更迭すべきです。
(2015年10月刊。1500円+税)
2015年12月13日
小泉今日子・書評集
(霧山昴)
著者 小泉今日子 、 出版 中央公論新社
歌手であり、女優としても有名な著者の10年分の書評が本になりました。
キョンキョンというそうですが、テレビを見ない私には、どんな女性なのか全然知りません。
「あまちゃん」に母親役で出演していたそうですね。
でも、この書評はよく出来ていると感嘆しました。文章が生きています。思わず手にとって書評で紹介されている本を読んでみたいと思わせます。そして、著者の息づかいとともに著者の日常生活の一端が伝わってきます。そして、それによって著者を身近に感じることが出来て、親しみを感じるのです。
紹介されている97冊のうち、私が読んだと思った本は9冊しかありませんでした。
私は毎年500冊以上の本を読んでいますので、10年間だと5000冊になります。そして、10年以上にわたって1日1冊の書評を書いていますが、それでもわずか1割しか本が重ならないのですね。これは、ホント不思議な気がしました。でも、読書傾向が異なると、そうなるのでしょうね。
私は、知りたいから読むという感じが強いのです。何を知りたいのかというと、世の中の仕組み、そして人間なのです。まだまだ探求の旅は続きます。
本を一冊読み終えると心の中の森がむくむくと豊かになるような感覚がある。その森をもっと豊かにしたくて、知らない言葉や漢字を辞書で調べてノートに書き移した。
本を読めば勉強になるし、頭の中のことではあるけれど、どこにでも行くことができる。未来でも過去でも、ここにはない世界にでも。ただ文字が並んでいるだけなのに、不思議だなって思う。
同じ日本語を使っているのに、作家ごとに全然違う世界がつくられているというのもすごいこと。
家から一歩もでなくても、宇宙でもどこにでも行ける。そして、本を読みながら、自分のこと、誰かのことを考える。それが自分にとって大事だった。
小説はタイムマシーンだ。ページをめくれば、どこにでも、どの時代にも旅することができる。とても贅沢で、かけがえのない時間が、そこにある。
本は、心を豊かにしてくれます。そして、そんな本を紹介してくれる書評の本です。
私も、この書評コーナーを2001年から始めました。
(2015年11月刊。1400円+税)
2015年12月 4日
涙のあとは乾く
(霧山昴)
著者 キャサリン・ジェーン・フィッシャー 、 出版 講談社
日本に住むオーストラリア人の女性がアメリカ軍の兵士にレイプされ、不屈にたたかっているというのは、ときどきのニュースで読んで知っていました。今回、その真相と女性の心境を知ることができました。
痛ましい話です。誰かが飲みものにデートレイプドラッグを入れたというのです。これって、本当に許せませんよね。冗談として見過ごせる話ではないと思います。
問題は、日本で起きたレイプ事件が刑事手続でどう処理されるのか、ということです。
まず、犯人がアメリカ兵だということです。結局、アメリカ兵は、公務遂行とは何の関係もないのに、日本の法と法廷で処罰されることなく、アメリカ本国へ帰ってきました。ひどい話です。日本政府は、それを許しているのです。
アベ政権が日本国民の安全を守るために安保法制が必要だと言っていますが、それが真っ赤なウソだというのは、これだけでも明白です。
そして、レイプ被害者は、レイプ状況の再現を求められます。これが「第二のレイプ」と言われるものです。ある意味で仕方のないことではありますが、それにしても、被害者への温かい配慮は必要ですよね。
そして、著者は日本にレイプ被害者の助けを求めるセンターがないことを憤ります。なるほど、ですよね。著者の怒りはあまりにも正当です。
日本人がアメリカの将兵によって被害を受けたとき、実は日米政府の密約があって、アメリカ人は刑事上も民事上も責任を負うことはない仕組みになっているのです。これが現実の日本地位協定の運用です。日本って、本当にアメリカの従属国なのですね、、、。日米安保条約は、本当に不平等条約そのものです。でも、日本政府さえしっかりしていれば、日米安保条約は通告によって廃棄できるのです。
アメリカ頼みの平和って、危ないばかりではありませんか。
個人の安全だけでなく、国の安全までよくよく考えさせられる本になっています。
(2015年5月刊。1600円+税)
2015年12月 2日
下流老人
(霧山昴)
著者 藤田孝典 、 出版 朝日新書
いま、日本に下流老人が大量に生まれている。下流老人の存在が日本社会に与えるインパクトは計り知れない。
下流老人とは、生活保護基準相当でクラス高齢者とその恐れがある高齢者のこと。
下流老人には、次の3つがない。
第1に、収入が著しく少ない。
第2に、十分な貯蓄がない。
第3に、頼れる人間がいない。困ったときに頼れる人間がいない。
65歳以上の一人暮らしが増えている。1980年には、男性19万人、女性69万人だった。2010年には、男性139万人、女性341万人。
下流老人は、あらゆるセーフティネットを失った状態。
下流老人には、日本人の誰もがなりうる。つまり、私たちの問題なのである。
団塊世代より上の層の老人には、日常生活力が驚くほど乏しい。仕事一筋できた男性は老後に離婚しないこと、されないことが必要。
これからの日本社会には、もはや中流は存在しない。いるのは、ごく一握りの富裕層と大多数の貧困層だ。
自己責任論、努力不足論が、明日のあなたを殺す。
下流老人になったのは怠けていたからだ、自己責任だと現役の正規労働者の多くが考えている。しかし、現実はそうではない。
自民党の片山さつき議員は、生活保護を受けるのを恥ずかしいと思えと言わんばかりのことを言っている。しかし、社会保障制度を利用するのは憲法上の権利であって、何も恥ずかしいことではない。国会議員のインチキパーティーなどで金もうけしているほうがよほど恥ずかしいことではないでしょうか・・・。
生活に困ったら、困る前に、変なプライドなんか捨てて、公的援助制度を利用すること。
私も本当に、そう思います。軍事予算が5兆円をこすというのは、福祉や教育予算を切り捨てたうえでのことです。とんでもないアベ政治は許せません。
(2015年10月刊。760円+税)
2015年12月 1日
「大国」への執念、安倍政権と日本の危機
(霧山昴)
著者 渡辺治・岡田知弘ほか 、 出版 大月書店
アベ政権は本当に怖いと私は考えています。ところが、一般的な支持率が4割もあるというのです。不思議でなりません。安保法制とかTPPや、労働法規制などでは、圧倒的に不評なのですが・・・。
安倍政権は、戦後の歴代政権のなかで特異な性格を有する政権である。その特異性とは、安倍政権が一方では保守支配層が長年にわたり実現を待望しながらできなかった課題を強行する支配層待望の政権であると同時に、保守支配層が望まないことまでやってのけるという、きわめて扱いにくい政権だという二面性があるから。
安倍政権は、発足以来、つねにマスメディアに話題を提供し続けている。
欧米のメディアが注目しているのは、アベ政権のタカ派的言動への警戒と懸念である。
もう一つは、アベノミクスへの関心である。
なんとも厄介な政権だということは、一方で、アベでなければ出来ないことをやってくれるが、他方、その制止を振り切って歴史修正主義にこだわるから。
二つの顔は、当のアベにとっては何ら矛盾していない。それどころか、どちらの顔もアベにとって、なくてはならない顔なのである。
アベ首相の目指す「大国化」は軍事大国になることを意味する。そのためには、自衛隊の海外派兵の自由は不可欠の土台である。
アベ政権は、日本の大国化を、あくまで対米従属、つまり日本同盟の枠内で、日米同盟を強化する方向でしか展望していない。アベ首相の言う「強い国家」とは、第日本帝国以外にない。
アメリカのオバマ政権も日本の財界も決断した。こんなアベでなければ、長年の課題達成は無理だ。アベの見るからに危険な顔を前面に出さないようにコントロールしながら、アメリカ政府はアベ政権をいつものように、なんとかの一つ覚えのように全面的に支えてきた。
アベ政権は、官邸主導の集権的意思決定の体制をつくりあげている。
自民党は弱体化し、新自由主義の抵抗体とはならなくなった。
自民党って、かつての民主党と同じほど、古臭くて、非民主的な政党ですよね。
アベ首相は、全世界を専用機で飛び回っています。しかし、残念なことに、そのとき憲法9条の素晴らしさ、教訓がまったく生かされていません。
「政治主導」を標榜し、官僚機構に敵対した民主党政権のもとで、むしろ、政権の依存度は高まった。
アベ内閣の閣僚のほとんどが日本会議の国会議員である。
アベ政権内でハト派の政策と政治的影響力が低下している最大の原因は、グローバル競争国家に対抗する独自の国家構想がないからだ。
先の9月国会で「成立」した安保法制法については、古賀誠、与謝野馨、加藤紘一、山崎拓など自民党の元有力議員が名前を出して否定ないし消極だった。
(2014年10月刊。2400円+税)