弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

社会

2023年1月12日

統一教会との闘い


(霧山昴)
著者 山口 広、 川井 康雄 ほか 、 出版 旬報社

 統一協会(この本では、本当は統一協会だけど、世間に広く知られている統一教会とすると断っています)と長く闘ってきた全国300人あまりの弁護士による全国霊感商法対策弁護団(全国弁連)によって緊急出版された本です。さすがに、長年の取り組みを反映して、本文は170頁ほどですが、ずっしり詰まった内容です。
 私がもっとも驚いたのは、2012年に死亡した文鮮明が教祖様であって、今も崇拝の対象とばかり思っていたのですが、今の代表者である韓鶴子は夫の文鮮明をけなしているということです。これには開いた口がふさがらないほどショックでした。
 韓鶴子は、アメリカで三男・顕進派との訴訟において、文鮮明には「原罪」があった、この文鮮明の「原罪」は、「独生女」であり、無原罪である自分と結婚したことでなくなったと証言した。これまで、文鮮明こそ「再臨のメシア」であり、無原罪だとしてきた教えを根本から否定するもの。なので、これに反発して韓鶴子派から脱退した幹部もいるとのこと。いやあ、統一協会の創始者の文鮮明を、その妻だった韓鶴子が批判するだなんて...。内部亀裂の深刻さを物語っています。
 そして統一協会は家庭平和連合として、あたかも家庭を守るように装っていますが、肝心要の文鮮明と韓鶴子の14人もの子どもたちは、両親から放ったらかされ、子育てに親が関わらず、信者まかせだったため、早死したり、事故死したり、浪費が激しくて社会的に能力がなかったり、散々のようです。実の母親と息子が利権争いをして、アメリカで10年以上も裁判を続けているというのも異常すぎますよね。
 最近、統一協会の「二世問題」の深刻かつ悲惨な状況が明らかにされつつありますが、本当に育児放棄、家庭崩壊、借金まみれ、社会的にも孤立という状況に追いやられた「二世」たちは哀れとしか言いようがありません。そんな「二世」が5万人以上もいるというのですから、大変な社会問題として放置できないと思います。ところが、そんな統一協会の幹部たちが表向きでは家庭を大切にしようというのですから、まさしく憤飯ものです。
 文鮮明は、日本を「エバ国家」と呼びました。韓国は「アダム国家」です。エバはアダムを墜落させた。「エバ国家」である日本は、「アダム国家」である韓国に侍(はべ)らなければならない。「万物復帰」として、サタンある日本の財物はすべて神(統一協会)の側に戻さなければいけないとした。
 信者に対して、国民を欺して大金を奪うが、そのとき、小さな「悪」にこだわってはいけない、統一協会に尽くすという「善」をなさないことこそが、大罪だと統一協会は説きます。
 冷静な頭で考えたら、そんなバカな...というところですが、もうろうとした頭になって聞かされた、有りがたい説教に、ついつい盲従させられてしまいうのです。
 統一協会は、文鮮明という男のホラ話を信じ込んで、本当に神が地上につかわした再臨のメシアだと絶対視する信者たちで構成されている。とはいうものの、教会のナンバー2だった郭錠煥が安倍元首相の襲撃事件のあと記者会見して「事件に責任がないとは言えない」と言ったり、大打撃を受けているようです。
 そして、一般の信者も8割ほどは自分で脱会していると山口宏弁護士はみているそうです。脱会する気になったのは、文鮮明が本当はメシアなんかではなく、単なる「ハッタリかます欲ばりじいさん」だと分かったから、という話は、聞いていて本当にそのとおりだし、むなしい日々を過ごして哀れだと思いました。
 統一協会の勧誘は、正体を隠して勧誘し、深みにはまっているところで文鮮明を登場させて、もはや抜け出せない状況に追いこむという巧妙なもの。
 信者の8割は女性。青年(男性)のほうは、もっと綿密な教化システムがある。
 統一協会問題が深刻なのは、自民党を丸かかえしていること、そして、自民党は今なお、統一協会と決別しておらず、関係を温存したまま、世間の忘却を待っていることです。その典型が萩生田光一政調会長です。萩生田議員は落選していたとき、統一協会の「教会」に何度も行って、「一緒に日本を神の国にしましょう」と言っていました。こんな議員を政調会長にしたままの自民党、そして自公政権が日本をダメにしてしまうのは明らかなのではないでしょうか...。
 いずれ日本の国民は忘れるから、しばらく黙っておこうなんていう自民党の政治を、あなたは許せますか...。私は許しません。とてもタイムリーな本です。ぜひ、読んでみてください。
(2022年11月刊。税込1650円)

2023年1月11日

過労死


(霧山昴)
著者 過労死弁護団全国連絡会議 、 出版 旬報社

 KAROSHIはカラオケと並んで世界に通用するコトバです。なんと不名誉なことでしょう。しかも、過労死の企業の典型といったら、なんと日本を支配する電通です。まったくひどいものです。
 日本の過労死問題について、世界の人々の理解を広げるため、過労死弁護団は、1991年に「KAROSHI」英語版を刊行した。それから30年あまりが経過した今日でも過労死はなくなっていない。なくなっていないどころか、ますます増えそうな状況にある。
 それというのも、日本ではあまりに労働組合が弱体化し、労組への加入率は激減したまま低迷し続けていて、ストライキは現代日本では死語も同然。
 他人(ひと)への迷惑をかけたらいけないから、自分の権利主張も控えるのが当然だという風潮、他人の足をひっぱるのが「常識」になっている。いやいや、昔は日本でもストライキがあり、職場占拠も珍しくなかったのです。それは江戸時代の百姓一揆の伝統を良い意味で承継していたのです。でも、今では...。
 過労死とは、働きすぎによる過労・ストレスが原因で死亡すること。この分野で第一人者である川人博弁護士は、過労死が現代日本では毎年1万件ほど発生していると推定している。厚労省が労災と認定する脳・心臓疾患や精神症疾患等の疾病(死亡を含む)は毎年800件で、そのうち死亡者は200件。これは氷山の一角。
 過労死弁護団連絡会議が設立したのは1988年6月のこと。最初の10年間は、死因のほとんどは脳卒中や心臓病死だった。
 1998年以降は自殺が急増した。そして、40代、50代の男性が多かった。
 1998年以降は20代、30代の労働者のケースが増え、女性のケースも増えている。
 過労死KAROUSHIは3K、Karaoke、Kaizenと並んで、世界的に有名な日本語。
 日本の労働組合は、欧米に比べると、活動力が弱い。そのうえ、組織率は17%だけ...。
 労働時間が1日に12~13時間、2週間連続勤務、月350時間労働、そして、年間4000時間をこえる過重労働。これでは病気にならないほうが不思議ですよね。
 電通に入った東大卒の高橋まつりさんは、上司からのパワハラもひどく、24歳になったばかりのクリスマスの朝に、会社の借り上げ寮から投身自殺。
 「今週10時間しか寝ていない。1日2時間の睡眠時間」なんて、信じられません。
 ところが上司は、こう言ったのです。
 「会議中に眠そうな顔をするのは、管理ができていない」
 「髪ボサボサ、目が充血したまま出社するな」
 「今の業務量で辛いのは、キャパ(能力)がなさすぎる」
 まつりさんは、こう書いています。
 「死にたいと思いながら、こんなにストレスフルな毎日を乗り越えた先に何が残るんだろうか」
 将来ある若い女性をここまで追い込む会社に存在価値があるのか、疑ってしまいます。ところが、先日の東京オリンピックの汚職事件の主要な舞台もまた電通でした。
 そして、アベ首相を押し上げていたのも電通。どこか、狂っているとしか言いようのない会社が日本を表でも裏でも動かしているのです。ここまでくると、日本の社会がおかしくなっている責任の一端が電通にあると言って、言い過ぎではないと私は思います。
 労災認定された過労死は2002年の160人を最高に、近年は減少傾向にある。それでも2020年は67人もいた。過労自殺のほうは、1999年の11件が少し増え、過去13年間は63~99人で横ばい。2020年は81人。2020年の過労死と過労自殺者の合計148人は、業務上死亡802人の2割を占めている。
 長時間労働は、うつ病、不安障害、睡眠障害の原因になる。
 メンタルヘルス休職者比率の高い企業のほうが、時間の経過とともに企業の利益率は悪化していく。
 では、電通はいったいどうなのでしょうか。相変わらず、超々大儲けしているように外見上は見えますが...。川人博弁護士は、過労死は、日本社会の構造的な原因によるものだと断言しています。本当にそのとおりだと思います。
 労働組合なんて、あってないような存在と化している現代日本において、労働者が自分の生命・健康そして基本的な権利を守り、主張することがとても難しくなっています。でも、あきらめてはいけません。そのための手引書もたくさん出ています。ぜひ活用したい本です。
 長年の知己である川人博弁護士から、本書の英語版と一緒に贈呈していただきました。ありがとうございます(英語版のほうの活用は検討課題です)。
(2022年12月刊。税込1430円)

2023年1月 4日

決戦!株主総会

(霧山昴)
著者 秋場 大輔 、 出版 文芸春秋

 ドキュメント、LIXIL死闘の8ヶ月。辞任させられたCEOが挑んだ勝目の薄い戦いは、類例を見ない大逆転劇を生んだ。これが、サブタイトルであり、オビの文章です。
 創業者の一族がいつまでも大企業を牛耳るというのは、まるで感心しませんが、天下のトヨタも相変わらず創業者一族がトップなのですから、嫌になります。こうやって、下々の庶民階級とは別レベルの上流階級が日本の支配層として君臨しているのでしょうね・・・。
 創業家出身者といっても、株式自体は3%しか持っていないのです。なのに、天下の大企業を支配できるというのは、どんなカラクリがあるのか・・・。それも知りたくて読みすすめました。
 3%しか持っていない少数株主であり、会社に顔を出すことも滅多になく、月の半分以上はシンガポールで過ごしているというのに、日本の大企業を牛耳って、自分の思うように動かすなんて、信じられません。シンガポールでは、骨董品を収集したり、プロの声楽家を呼んで発声練習したり、悠々自適の生活。こんな生活を送りながら、鋭敏な経営感覚を持ち続けるなんて、ありえないことだと、しがない弁護士でしかない私は思います。
 ところが、世の中には、現場の実務なんて経営者は知らなくてもいい、大きな方向性を打ち出すだけでいい、そう考える人がいるのです。驚きです。
株主総会をめぐる死闘において、その背景にうごめいているのが弁護士。この本では、森・濱田松本法律事務所ともう一つ、西村あさひ法律事務所が登場します。CEOの解任が正当な手続を踏んでなされたのかどうかを検証する委員会が立ち上げられ、そこにも弁護士が関与しています。問題は、その内容を会社として、どういう形で外部に公表するか、です。あまりに会社に不利なないようだったら、会社としては隠しておきたくなりますよね。
財界、経済界の人脈は大切なようです。麻布・開成・武蔵という「私立御三家」の人脈、そして東大の人脈も登場します。私のような田舎の名もない県立高校の出身だと、人脈なんか、何もないわけです。大企業に就職しなくて本当に良かったと思います。
 アクティビストとは「物言う株主」。臨時株主総会の開催要求を常に視野に入れている。
プロキシーファイトとは、委任状・争奪戦のこと。ここでも弁護士の助言が求められます。機関投資家は、アクティブ投資家と、パッシブ投資家に大別できる。
こんな有象無象と渡りあう仕事なんて、私は絶対やりたくありません。なんで、こんな職業に大勢の若い人が興味があるのでしょうか・・・。私には理解できません。地方で人間と向きあっていたほうが、やはり一番私の性にあっています。田舎で弁護士をやるって、本当に面白いのですよ・・・。
(2022年6月刊。税込1870円)

2022年11月29日

テレビ番組制作会社のリアリティ


(霧山昴)
著者 林 香里 ・ 四方 由美 ・ 北出 真紀恵 、 出版 大月書店

 私はリアルタイムでテレビを見ることはありませんし、ドラマを見ることもありません。ただし、「ダーウィンが来た」とかドキュメントものを録画で見ることはあります。若者のテレビ離れが叫ばれて久しいわけですが、この本はテレビ番組をつくるほうの現状と問題点をレポートしています。
 テレビ局にとって、視聴率はイコール収入。なぜなら、広告収入の多くを占めるスポットセールスは、視聴率によって料金が決まる仕組みだから。
 持株会社グループとしては、番組を1本完全パッケージで外注するのではなく、必要なスタッフを労働力として「購入」することで、経費削減を図る。そのとき、自社系列の制作子会社に製作委託を集中させ、そこから番組にスタッフを派遣させ、また外部に孫請けさせる方法も増えている。
 製作会社のプロデューサーは、責任者ではあるが、あくまで下請けでしかなく、最終的な決定権は放送局の側にあるため、「調整役」だ。
 中堅世代の空洞化。スピーディーな意思決定が必要になるため、末端の若手制作者たちは全体像を見渡す時間的余裕がないまま歯車となって働くことを強いられている。そこで、入職して数年で辞めていく者が後を絶たない。
 制作会社と放送局の関係は、最近は「植民地」状態になっている。対等になるどころか、完全に子会社になっている。
 放送局では、入館証を首から下げる紐(ひも)の色で放送局員と制作会社の人の区別がつく。「番組」チームとして一体になって働いているが、実は、見えないけれど、厳然として「壁」が存在している。
 ディレクターになることで「Dに上がる」として「昇格」という感覚が共有されている。ところが、その判断基準は不透明だ。
 自主制作率は、大阪で3割、名古屋で2割、その他の地方は1割というのが目安だ。
 放送局内部の製作現場の厳しさがひしひしと伝わってくる本でした。
(2022年8月刊。税込2860円)

2022年11月22日

自民党の統一教会汚染


(霧山昴)
著者 鈴木 エイト 、 出版 小学館

 読めば読むほど腹の立ってくる本です。もう、ホント、つくづく嫌になります。これが日本の政権党の実体かと思うと、恥ずかしいやら、悲しいやら、いえ、はっきり言って、吐き気をもよおします。衆院議長の細田博之は依然としてダンマリを決めこんでいますよね。萩生田光一・政調会長も同じです。逃げきりを許してはいけません。ひどすぎます。
 統一協会(この本は「教会」としていますが、協会が正しいのです)の教義は、日本人について、「人間的に考えれば、許すことのできない民族」と決めつけ、原爆投下も引きあいに出して悔い改めを迫っているのです。
 文鮮明(元教主。故人)は、儀式のなかで日本の天皇を自分の前でひざまづかせました。その妻であり、絶対君主のように君臨している韓鶴子現総裁は、安倍元首相について、自分たちに侍(はべ)るべき存在とみて、「教えてあげ、教育しなければならない」としていました。
 安倍元首相や桜井よしこなどは「美しい国・ニッポン」などと声高に叫んできた(いる)わけですが、日本は韓国に隷従すべき存在であるから、贖罪(しょくざい)するのは当然のこと、莫大な献金をしても、まだ足りないという統一協会の教義とはまったく相反するはずですが、お金と票、そして「反共」の点で醜い手を結んだのです。
 この本は、自民党議員が、いかに統一協会と手を結んでいるのかについて、突撃取材も繰り返しつつ明らかにしています。大変貴重な労作です。発表以来の3週間で4刷というのも当然ですし、もっともっと読まれるべき本です。
 たとえば、自民党の北村経夫参議院議員は統一協会の組織票8万票を上乗せして当選したこと、その裏では、アベやスガが画策したことが明らかにされています。
 統一協会が日本の政治家へ働きかけ、抱き込みを図っている目標は、真(まこと)の父母様(文鮮明と韓鶴子)の主権によって日本という国を自由に動かすこと。人類の使命は、真の父母様の民となること、というのです。実に恐ろしい教義です。
 菅元首相は、首相官邸に統一協会の幹部たちを招待していました。これまた、とんでもないことです。
 そして、安倍内閣のとき、統一協会と関係の深い議員たちが次々に内閣や自民党の要職に抜擢(ばってき)されたのです。これまた驚くべき事実です。これは、今の岸田政権でも同じことです。その典型が萩生田政調会長でしょう。
 統一協会は日本は過去に間違ったことをした、とんでもない民族なので、自分をかえりみることなく(すべてを捨ててでも)、全てを惜しみなく(韓国の人々に)与えなければならないと教えています。もちろん、受けとるのは韓国の民衆ではなく、文鮮明・韓鶴子とそのファミリーです。その利権をめぐって、文鮮明の死後に、母親と息子たちとのあいだで醜い争いがあり、アメリカでは裁判にまでなったのでした。なにしろ、日本から韓国に送金された金額は毎年300億円以上(何十年と続いています)なのです。
 体当たり取材も重ねて自民党と統一協会との深い関係、その闇を明らかにしている大変貴重な労作です。300頁ほどの本ですが、怒りをおさえながら、1時間あまりで読みあげました。
(2022年10月刊。税込1760円)

 博多駅で映画「ザリガニの鳴くところ」をみてきました。原作はアメリカで2019年、2020年に一番売れた小説です。全世界で1500万部突破したというのですから、すごいものです。
 私は昨年読んで、まさしく圧倒されました。なので、もちろんこのコーナーでも紹介しましたし、本好きの人に勧め、感謝されました。
 ともかく自然描写がすごいのです。森の中、沼地で生活する、しかも家族がどんどんいなくなり、少女が一人で生きていくのです。
 ところが、世の中には蔑視するだけではなく、親切な人もいて、やがて学校に行かなくても読み書きが出来るようになり、ついには恋人までもつくれました。しかし、それが裏切られてしまい、ついに殺人の疑いで起訴される...。
 いやあ、原作ほどの感銘はありませんでしたが、すばらしい映像です。必見です。そして原作を読むことを絶対おすすめします。

2022年11月18日

小さな労働組合、勝つためのコツ


(霧山昴)
著者 鈴木 一 、 出版 寿郎社

 今の日本社会ほど労働組合の存在が忘れられている時代はないように思えます。
 著者は、あとがきに次のように書いていますが、まったく同感です。
 先進資本主義国のなかで、日本ほど実質賃金の下がった国はない。その原因は、労働運動が弱くなったことにある。労働組合の多くが、企業で不祥事が起きても、それを告発したり防止しようとはせず、ただ傍観するだけの「名ばかり組合」になっている。政府や資本を牽制・対峙するような労働運動が日本にほとんどなくなった。
 そして、このような状況を打破するため、著者はその32年間の血と汗、苦労のエッセンスをこの本に実例とともに分かりやすくまとめました。いわば労働相談の手引書です。
 著者は、これまで150をこえる職場で労働組合を結成したというのです。すごいですね。そして、その8割で組合つぶしの不当労働行為が発生して、たたかったのでした。
 労働組合の結成を成功させるコツは、組合員に労働者の権利と不当労働行為制度を理解させること。当事者が腹をくくり、専従オルグがしっかりサポートすれば、職場での多数派を直ちに形成するところまでいかなくても、組合結成は必ず成功する。
 組合員がパニックに陥らないように、あらかじめ対策を立てておく。会社側が表の顔と裏のそれを使い分けているようなときには、裏で何を企むのか、想像力を働かす必要がある。
 団体交渉では、ハッタリにひるまないようにするのが肝心。団体交渉は、格闘技であり、相手をどう抑え込むかにかかっている。
 何の計画性もなく、ただ「その場で思いついた」という争議行為はとても危険だ。
 32年間ものあいだ、労働組合づくりと団交等に生き甲斐をかけた日々を振り返って後進に自分の経験から学べるものを伝えるべく、整理しています。とても実践的かつ分かりやすい本です。どうぞ手にとって読んでください。
(2022年10月刊。税込1980円)

2022年11月13日

若葉荘の暮らし


(霧山昴)
著者 畑野 智美 、 出版 小学館

 40歳以上の独身女性というのが入居条件となっているシェアハウスに入居するようになり、そこでの生活にいつのまにか安らぎを覚えるようになる主人公の日常生活が描かれています。とくに何か大事件が起きるわけではありません。
 主人公は一度も結婚したことがなく、ずっと独身。それでも、彼氏はいたのです。ところが、なんとなく踏み切れないまま別れてしまったのでした。仕事は、洋食屋のウェイトレス。小さな店なので、正社員ということではなく、アルバイト。
 ところが、コロナ禍で客が激減し、店の存続が心配になる。オーナー夫婦はいい人だし、従業員同士の人間関係も悪くはない。シェフ見習いは、新しいメニューを開発しようとしていて、試作品を店員みんなに持ち帰らせて、意見を求める。主人公もシェアハウスに試作品のコロッケなどを持ち帰って、その住人に意見を求めてみる。
 飲食店はコロナ禍の下、客が減って大変だ。主人公は、かといって簡単に転職するなんて考えられない。まったく移る先の宛(あて)がない。
 主人公が5年前までつきあっていた彼氏は、別の女性とも交際していて、結局、そちらを選んだ。浮気とか二股とかとは、少し違う。なので主人公は怒ってはいない。彼氏が対等に生きていける女性を人生のパートナーとして選んだ。そのことをとがめだてするつもりはない。今は、洋食店に客としてやって来る男性と交際してもいいかなとは思うものの、なかなか踏み切れない。
 彼氏とは別れる直前までセックスもしていたけれど、それは特別なことではなくて、日常的な行為だった。セックスは、若いときほど貴重でないというが、そんなに大事にすることなのかなという感じ。経験した人数は、そんなに多くはないし、どちらかというと少ないとは思うけど、ひとりとしか寝ないということでもない。もっと色んな人と寝ておけば良かったと考えることもある。
 もう子どもを産むこともないだろう。そうすると、セックスになんの意味があるのか、悩んでしまう。これから彼氏ができたとして、なんのためにセックスするのか...。それが愛の証(あかし)と言えるような、重要なことには思えない...。
 これが40代の独身女性の心境なのでしょうか...。
 このシェアハウスは、もとは学生向けのアパートだった。それを改装して、台所と風呂場とトイレを共有スペースにして、40歳以上の独身女性限定のシェアハウスにした。
 学校でちゃんと勉強してきた人と、そうでない人で、ベースが違うと感じたことがあった。中学生や高校生のときに、まったく興味がもてないと文句を言いながらも暗記した日本史や世界史、なんの話をしているのか分からないと思いながらも考え続けた生物や化学や物理、見るだけで頭が痛いと感じながらも解き続けた数学。役に立ったとはっきり思えるような出来事があったわけではないけれど、たしかに覚える力や観察する力、そして考える力が養われていたのだ...。
 女性にも、男性にも、それぞれ抱える問題がある。本来は、政治がどうにかしていくべきことなのだろう。でも、それを期待できるような国でないことも、分かっている。声を上げることは必要だ。でも、変わることを待つばかりでなく、自分たちで助けあう方法も考えなくてはいけない。
 いろいろ、しみじみと考えさせられるストーリー展開でした。
(2022年9月刊。税込1980円)

2022年11月 9日

統一教会とは何か


(霧山昴)
著者 有田 芳生 、 出版 大月書店

 2022年7月8日、奈良市の大和西大寺駅前で安倍晋三元首相が銃撃を受け暗殺された。その映像は生々しく、警察の警備があまりにスカスカだったことにも驚かされました。容疑者は特定の宗教に恨みがあったからと供述していると報道されましたが、参院選の投票日(7月10日)のあとになって、ようやく、統一協会がらみだと報道されはじめました。
 この本では「統一教会」となっていて、一般の報道もそうなっていますが、正式名称は統一協会ですから、「教会」ではないのです。あたかもキリスト教の教会の一種かのような誤解を与えようとしているのに乗せられてはいけません。なので、私は「協会」とします。
 日本の警察も、オウム真理教の次は統一協会だとして情報収取を始めていたそうです。それがいつのまにか、「天の声」によって雲散霧消してしまったのでした。要するに、「政治の力」がかかったのです。文科省が下村博文大臣のとき、名称変更を急に認めたのと同じです。安倍―下村ラインは、それまで拒否され続けていたのに名称変更を受理しました。
 統一協会の信者に若い女性が多いのは、「堕落論」に惹(ひ)かれるほど、日本社会に歪みが多いということの反映だ。
 統一協会に入る若者には、何でも受け入れてしまう性格で、それが本当かどうかを他の方法で確認せず、論理よりも感覚的という共通点がある。
 統一協会への入信テクニックは強烈で、個人のニーズに合わせて多様だ。
 統一協会の信者をやめるときのポイントは、本人が自分の頭で考える姿勢になること。
 ノルマは1日に3万円。人を騙しているという罪悪感は一切ない。すべてはお父様のため、地上天国実現のため。早朝から深夜まで、押しつけ的なモノ売りに走らされます。
 統一協会を離れたりしたら、家族や先祖が霊界でどんなひどい目にあうか分からない。だから、どんなに辛くても、逃げ出すわけにはいかない。こんなひどい心境に置かれています。
 お父様(文鮮明)は、不本意ながら、ぜいたくな生活をしていらっしゃる。信者(食口。くっく)は、北朝鮮の人々より高い生活水準をもつと、霊界からのしっぺ返しをくうことになる。
 いやはや、文一族のぜいたくざんまいは「不本意」だと思わされているのですね、アベコベです。
 合同結婚式のあと、4割くらいのカップルが実際には破綻していると言われている。家庭を大切にと言いながら、自分たちは実践してもいないのです。
 統一協会は国会議員の選挙を応援するに際して、議員(候補者)本人に確認書にサインさせています。
 ①統一協会の教養を学ぶためセミナーに出席する。②国際勝共連合系であることを認める。③統一協会を応援するというもの。
 そして、統一協会は議員秘書養成所で教育した若者たちを自民党の議員秘書として送り込んでいるのです。統一協会秘書軍団が議員を動かし、自民党を動かしています。
 韓国人が人間であるのに対して、日本人は、パンくずを拾う犬の立場、乞食に等しい存在だ。文鮮明の前に、日本の天皇はひざまずく存在だ。日本は韓国に仕える国であり、いずれ世界の言語は韓国語に統一される。
 こんな極端な韓国中心主義、いわば「反日」の典型の教団と安倍派を筆頭に自民党の国会議員たちが文鮮明と韓鶴子夫婦を最大限もち上げてきた(いる)のです。信じがたい、また日本人として許せないことではないでしょうか...。
 統一協会のいわば僕(しもべ)として活動してきた萩生田議員(自民党の政調会長)、細田衆議院議長が議員辞職することもなく、ひたすら、ほとぼりのさめるのを待っているなんて、日本の政治の醜悪の極致です。いま広く読まれるべき本です。
(2022年10月刊。税込1650円)

2022年11月 8日

ウトロ、強制立ち退きとの闘い


(霧山昴)
著者 斉藤 正樹 、 出版 東信堂

 京都府宇治市にあった在日朝鮮人集落ウトロ地区に建てられたウトロ平和祈念館を10月24日に見学しました。秋晴れの日の午後のことです。
 ウトロ地区は、今では地区改造がすすみ、市営住宅が2棟建築中(1棟は完成して入居ずみ)で、昔の「不良住宅」の面影はわずかに残っているだけです。
 その一角に、ヘイト思想にこり固まった若者が放火した建物の残骸がまだ残っています。
 なぜ、ここが在日朝鮮人集落になったのかというと、戦前、日本軍が近くに飛行場をつくろうとして、朝鮮人労働者を朝鮮半島からひっぱってきたからです。戦後も、彼らはそのまま住みつきました。
 戦前、1300人もの朝鮮人労働者が集められました。慶尚南道の農民が多かったとのこと。
 飯場は連棟式長屋で、単身者だけでなく、家族もちも多かったそうです。
 戦後は、国有地ではなく、民間企業の所有地でしたが、低湿地のため、大雨が降るたびに水びたしになり、水道もない、まさしくスラム街。そこに在日朝鮮人が固まって生活していました。住民の3分の1は戦前の飛行場建設に関わって働いていた人たち、残り3分の2は、他地域からの転入者。
 ウトロは土地全体が、ここに住む在日朝鮮人の共有財産のような感覚だった。
 1970年2月、ウトロの住民代表は、土地の売却を要望する文書を土地所有者に送った。これが、あとで時効取得の成立を妨げることになった。
 そして、1988年に、土地所有者はウトロの住民を被告として、建物収去土地明渡訴訟を提起した。これに対して、住民側は、土地(地上権)の取得時効を主張した。
 裁判所の和解案は、住民側が土地を14億円で買いとること。とても、そんなお金はない。そして、敗訴判決が1998年1月に出た。先の要望書がウトロの住民に所有の意思がなかったことの証明にされたのです。
判決にもとづき強制執行がされるのを防ぐため、住民は結束して立ち上がった。道路を占拠して座り込んでいる住民の写真があります。実に壮観です。
 それだけではありません。住民は学者の応援を得て、国連に訴え出たのです。国際人権規約にもとづいて、日本政府は、もっとも効果的な救済措置を即時にとるべきであって、これは人権条約上の国の義務だという申立をし、これに対して、国連は政府に同趣旨の勧告をしたのでした。いやあ、こんなときに国連と国際人権規約が使えるのですね。
 そして、これが日本政府だけでなく、韓国の政府と世論を大きく揺り動かしたのでした。その結果、2つの財団ができて、ウトロ地区の土地は財団の所有となり、住民は市営住宅に入ることができたのです。そして、立派なセンターとつくりあげました。すごーい。
 知恵と工夫が、住民の団結を後押しし、世論を大きく動かしたことはよく分かりました。何事も、あきらめたらいけないんですよね...。
 この付近で育ったという福山和人弁護士(京都弁護士会)が案内してくれました。ありがとうございました。
(2022年4月刊。税込1320円)

2022年11月 2日

玉城デニーの青春


(霧山昴)
著者 藤井 誠二 、 出版 光文社

 「オール沖縄」候補が那覇市長選挙において大差で自公のアメリカ軍基地増設容認候補に敗北したのはショックでした。何より市長選の投票率が50%に達しないというのが残念です。
 なんだか、どっちもどっちだな。そんなら、わざわざ投票所に足を運ぶこともないんやな...。
 有権者の半分も投票所に行かないなんて、日本はそれだけで異常な国だと思います。よその国は、投票に行きたくても行けなかったり、監視つきでしか投票できなかったりしているのに、日本国民は、あまりに怠慢です。まさしく惰眠をむさぼっています。そのツケはすでに来ていて支払わされているのに、そのことに気がつかずに、毎日、オレ(ワタシ)は忙しいんだし(忙しいのよ)、なんてウソぶいているのです。本当に残念です。
 でも、私は絶望してはいません。やれば、たたかえば出来ることを、この本の主人公が示してくれているからです。玉城デニーが沖縄県知事選挙で当選したことは万鈞の重みがあります。このとき、自由と民主主義を求め愛好する人々の良心が勝ったのです。
 その沖縄県知事の青春を振り返った本です。ああ、そういう人だったのか、それで沖縄の厳しい選挙選を勝ち抜くことができたのか、よく分かりました。
 何よりも人柄がいい。強さと明るさには頭が上がらない。
 沖縄は日本の中で差別され、沖縄の中でハーフは差別され、そのねじれの間を生き抜いてきて、差別がトラウマになって脱しきれない人がたくさんいるなかで、デニーはそうではない。デニーという名前はいじめられる。
デニーの父親は沖縄に来ていたアメリカ海兵隊員。でも今、どこで何をしている人なのかは明らかにされていない。玉城デニーも、父親の素性には触れない。
 「十人十色で10本の指のかたちも長さも違うのだから、気にする必要なんかない。容姿は皮一枚なんだよ。皮を脱いだら、みんな赤い血が流れていて、同じなんだよ」
 これは玉城デニーに母親が言ったコトバ。すごいですね、まったくそのとおりですよね。
 玉城デニーは、高校生のときにロックバンドを結成し、素人グループながら、米軍基地内でも演奏していたそうです。デニーは、ボーカル。ロックバンドの名前は、「ウィザード」。魔法使いですかね...。
 デニーは強い。母ひとり、子ひとりで、ハーフとして差別もされて、それが強さになっている。東京で生活して、苦労して、沖縄に戻ってきた。そして、誘われて音楽をやるようになった。
 ハーフであり、見かけで差別されたこともあったのに、よくぞいい性格のままで大人になれたものだ。そういう扱いを受けたからこそ、反発として性格の良さが磨かれたのかもしれない。
 そうかもしれない、きっとそうだろう。私もそう思います。弁護士になって、いろんな人と出会い、苦労したことが必ずしも人格を円満にするとは限らないという人を嫌になるほど見てきました。トゲトゲしさばかり、他人(ひと)を見下してばかりの「苦労人」がいます。そして、まともなことを言って、少しでも政権にタテつくと、「アカ」というレッテルを貼りつけて切り捨てるのです。その心の狭さに私は何度も呆れてしまいました。
玉城デニーには、2人の母がいる。産みの親(玉城ヨシ)は「おふくろ」で、育ての母(知花カツ)は「おっかあ」と呼んだ。この二人は、とても仲が良かったので、産みの親が育ての母にデニーをまかせたのだった。子どもって、愛情たっぷりに育てたら、産みの親かどうかは関係ないんですよね...。
沖縄の現実の一つを知ることのできる貴重な本だと思いました。
(2022年8月刊。税込1760円)

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