弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

社会

2023年5月30日

消された水汚染


(霧山昴)
著者 諸永 裕司 、 出版 平凡社新書

 ピーフォス、PFOS、ペルフルオロオクタンスルホン酸。航空機火災用の泡消火剤に入っている。沖縄の嘉手納基地、そして東京の横田基地でアメリカ軍が大量に使用してきた。このPFOSによる水汚染が基地周辺の住民の健康を損なっている。しかし、アメリカ軍は実態を明らかにしないし、日本政府も日米地位協定の壁もあって被害解明にまったくの及び腰。いやはや怒りを通りこして涙が出てきそうなほど、情けない状況です。
 日本国民が、なんとなく、日本にアメリカ軍がいるおかげで日本は守られている、安全だという、何の根拠もない幻想に浸っているなかで、実際には日本国民の生命・健康が現実に脅かされているのです。
 横田基地のある多摩地域の井戸がPFOS汚染によって使用停止が命じられているなんて、知りませんでした。水汚染は深刻な状況にあります。
 横田基地の周辺にある、立川市、国立市、国分寺市、府中市では井戸も浄水所もPFOSの汚染はきわめて深刻。多摩地区の地下水は、西から東に向かってゆっくり流れている。1年で130メートル、1日36センチという動きだ。横田基地では、2012年に泡消火剤3000リットルが漏出した。
 日米地位協定によって、アメリカの同意なしに日本が基地内に立入調査することはできない。日本は泣き寝入りするしかない。
 ところが、アメリカが基地を置いている国は、どこも、そんな治外法権を許していない。ドイツもイタリアも、イギリスもベルギーだって、アメリカ軍基地への立入調査が認められている。国内法がアメリカ軍に適用されないというのは日本だけ。まさしく日本はアメリカの従属国であって、独立国ではないのです。多くの日本人は自覚していませんが...。
しかも、アメリカ軍とその兵士が日本人に損害を与えたとき、賠償金はアメリカが75%負担することになっているのに、現実には日本政府が日本人の納めた税金で全額負担し、アメリカは1円も負担していない。まさしく、開いた口がふさがらないとは、このことです。
 これほどまでアメリカに馬鹿にされていながら、多くの日本人はアメリカを神様のように考えているのですから、まさしく植民地根性そのものとしか言いようがありません。本当に残念です。
 妊婦のPFOS血中濃度が高いと、出生後の低体重をもたらし、アレルギーや感染症のリスクが高まり、免疫機能や性ホルモンにも影響する。世代をこえて汚染が伝わっていくのが、PFOSの怖いところ。
しっかり現実に目を向け、声を上げないといけない。つくづくそう思いました。自分自身というより、子どもや孫が健康に育つ環境を保障してやるのは私たち大人の義務ですよね。
(2022年1月刊。980円+税)

2023年5月20日

巨大おけを絶やすな!


(霧山昴)
著者 竹内 早希子 、 出版 岩波ジュニア新書

 しょうゆやみそは、大きなホーロー製のタンクでつくられているとばかり思っていましたが、なかには昔ながらの木桶(きおけ)でつくっている業者もいるのですね。ところが、木桶って100年もつというのですよ。それじゃあ、木桶をつくる業者が営業として成り立つはずはありません。そこをどうやって乗りこえるのかも本書のテーマのひとつです。
 瀬戸内海の島、小豆島(しょうどしま)。映画『二十四の瞳』の舞台となり、オリーブでも有名ですよね。私も一度だけ行ったことがあります。そこで大きな木桶がつくられているのです。木桶は直径2.3メートル、高さ42.3メートル、30石(5400リットル)入りです。
 木桶の中で2年かけてむろみをつくります。木桶や蔵にすみついている酵母や乳酸菌などたくさんの菌の働きによって、蒸した大豆と砕いた小麦でつくった醤油こうじを塩水と一緒に仕込んでもろみをつくるのです。
 2年かけてつくりあげたもろみを、醤油さんが買っていき、その店独特の醤油を完成させるのです。
冬に仕込んだもろみは、はじめは原料の大豆や小麦そのままのベージュ色。春先に気温が上がってくると微生物が活発に働いて発酵しはじめる。このころのもろみは、リンゴやバナナのような香りを放つ。そして、醤油を使って仕込んだもろみは、チョコレートのような香りを放つ。
 醤油を分析すると、300種以上の香り成分が入っている。
 今、日本でつくられている醤油のうち木桶でつくられているのは、わずか1%のみ。99%は、ステンレス、FRP、コンクリート、キーローなどのタンクでつくられている。
 木桶の板は多孔質で、目に見えない小さな穴がたくさんあいていて、その小さな穴に「蔵つき」と言われる蔵独自の微生物がたくさんすみついている。
 木桶以外の容器で醤油をつくるところでは、容器に微生物がすみつけないため、発酵にかかわる微生物を買って、加える。醤油には塩分があり、塩の効果で木桶は腐りにくく、塩分が固まって隙間を埋めるので、漏れにくいため、木桶は100年も使うことができる。
 木桶で使う杉は、樹齢100年以上のもの。
 桶を締める「たが」は、孟宗竹ではなく、フシ(節)が少なく割りやすい真竹を使う。15メートル以上の長さが必要。この真竹の秋から冬にかけて休眠する時期、吸い上げる水分の少ないときに、伐(き)る。
一つの「たが」を編むには、削った竹が4本必要。1本の桶に7本の「たが」が必要なので、30本、削った竹を準備する。
杉が世界で日本にしかない固有種だというのを初めて知りました。うひゃあ・・・、です。伐り倒された杉は、葉をつけたまま、頭を山の上に向けて半年ほど寝かされる。「葉枯らし」といって、葉を通して水分やアクが抜けていく。
写真とともに桶づくりが紹介されます。とても大変な作業だということが分かりましたし、欠かせない仕事だと実感もしました。
(2023年1月刊。860円+税)

2023年5月10日

南風に乗る


(霧山昴)
著者 柳 広司 、 出版 小学館

 沖縄の戦後の歩みが生き生きと紹介されている本です。アメリカ軍の支配下にあった沖縄で、沖縄の人々は本当に泣かされていました。少女を強姦しても、人々を殺してもアメリカ兵はまともな裁判にかけられることもなく、アメリカ本土に逃げてそれっきり...。日本に裁判権がないのは、昔も今も実質的に変わりません。そして、目先のお金につられ、また脅されて、アメリカの言いなりの人々が少なくないのも現実です。
 今、沖縄の島々に、自衛隊がミサイル基地を設置し、弾薬庫を増設し、司令部は地下へ潜り込もうとしています。島民はいざとなったら、九州へ逃げろというのですが、いったいどうやって九州へ行くのですか。また、九州のどこに行ったらいいというのでしょうか。
 軍隊は国民を守るものではない。軍隊は軍隊しか守らない。むしろ、軍隊にとって国民は邪魔な存在でしかない。沖縄戦のとき、先に洞窟にたどり着いていた人を遅れてやってきた軍隊が戦火の中へ追い出した。
 ところで、この本のタイトルは何と読んだらいいのでしょうか...。「まぜ」と読むそうです。文字どおり南からの風のこと。マは「良」ですから、「良い風」でもあります。
 この本に登場してくる主要な人物は3人。まず、ビンボー詩人の山之口獏(ばく)。沖縄出身の天才詩人で、日本語で書いた詩がフランスで賞をとったそうです。2人目は瀬長亀次郎。戦前、川崎市で働いているうちに治安維持法違反で逮捕され、懲役3年となり服役。終戦時は沖縄にいて、避難しているうちにひどい栄養失調になって入院した。
 戦後の沖縄はアメリカ軍政下にあり、アメリカ軍の少佐はこう言った。「アメリカ軍はネコで沖縄はネズミ。ネコが許す範囲でしか、ネズミは遊ぶことができない」
 これって、今の日本でも本質的に同じですよね...。オスプレイを押しつけられ、佐賀空港の隣に基地ができるなんて、たまりません。
カメジローは、1952年3月の立法院議員に立候補し、那覇区でトップ当選。そして、琉球政府創立式典のとき、カメジローは、ただ1人、起立せず、さらにアメリカ軍民政府への協力宣誓を拒否した。
 いやあ偉いです。勇気があります。君が代斉唱の拒否どころではありません。
カメジローは、演説中は一切メモを見ない。終始、聴衆に自分の言葉で話しかける。独特のユーモアと明るさ、庶民性を兼ねそなえている。カメジローの演説は聴き手にとって、胸のすく思いのする、またとない娯楽だった。
「海の向うから来て、沖縄の土を、水を、そして沖縄の土地を勝手に奪っているアメリカは、泥棒だ。泥棒はアメリカにはいらない。アメリカは沖縄から出ていけ」
 アメリカ軍政下の沖縄です。ユニーク、かつ大胆なカメジローの演説は聴衆のどぎもを抜いた。
沖縄では、アメリカ兵がどんな重大犯罪を犯しても、日本の法廷で裁かれることはなく、非公開の軍事法廷で裁かれ、判決結果は公表されず、被害者へ知らされることもない。殺され損の泣き寝入り。これは本質的には今も変わらない。アメリカ軍に代わって日本政府がなぜか肩代わり補償するようで、まるで植民地システム。
1954年10月、カメジローは逮捕された。容疑は犯人隠匿(いんとく)幇助(ほうじょ)。不法滞在の人間を匿ったという罪。沖縄人民党員の活動をアメリカ軍が嫌ったというのが、実質的な逮捕理由。有罪となり、直ちに刑務所へ収監。控訴・上告のない一審制。
刑務所から出獄して8ヶ月後、カメジローは那覇市長に当選。アメリカ軍は、カメジロー市長の那覇市にはお金を支給しないと宣言。すると、那覇市民は、自らすすんで納税にやってきた。500メートルもの市民の行列ができ、納税率はなんと97%。銀行が税金の預りを拒否したため、大型金庫を買って、職員が交代で番をした。日本全国から5千通をこえる応援の手紙が届いた。いやあ、泣けてきますよね。アメリカ軍の言いなりにならない、我らがカメジロー市長を応援しようと心ある市民が立ち上がったのです。
そして、ついに市長不信任が可決。するとカメジロー市長は議会を解散して選挙へ。その結果は、カメジロー派の議員が6人から12人に倍増。反カメジロー派は7議席も減らした。
そこでアメリカ軍政府は、カメジロー市長を追放し、被選挙権まで奪った。このときの市長追放抗議市民集会には10万人をこえる市民が集まった。この集会でカメジローは勝利を宣言した。
「セナガは勝ちました。アメリカが負けたのです」
市民が投票で選んだ市長を、アメリカの任命した高等弁務官の意にそわないからといって追放するだなんて、「民主主義の国、アメリカ」が泣きますよね...。でもこれがアメリカという国の、今も変わらない本質だと私は思います。
カメジローの不屈な戦いは、岸田政権のJアラートを頻発し、「北朝鮮は怖いぞ、怖いぞ」と思わせて大軍拡路線に突っ走っている現代日本で、待って待って、と声を上げ、平和を守ってともに闘いましょうという勇気をわき立たせてくれました。思わず元気の湧いてくる本です。ぜひ、あなたにご一読をおすすめします。
(2023年3月刊。1800円+税)

2023年5月 4日

ある男


(霧山昴)
著者 平野 啓一郎 、 出版 文春文庫

 著者の社会批判は、いつも的確で、小気味良さを感じながら共感することがほとんどです。
 映画はみていませんので、どんな話なのか、まったく知らないで東京出張の途中で読みはじめました。いやあ、ぐいぐい引っぱられてしまいました。読ませます。
 弁護士活動の体験談のような体裁の本でもあります。これは、著者が京都大学法学部出身なので、身近に弁護士が多数いることから来るのかもしれません。
 ともかく、弁護士である私が読んで、まったく違和感がありませんでした。
 これから、少しネタバレになることをお許しください。私は弁護士として、たくみに噓をつく人には少なからず接触してきましたが、戸籍の交換というのは私の見聞したなかにはありませんでした。外国籍の人が日本の国籍を得るために「偽装」結婚したというケースは関与したことがありますが...。
 誰かになりすますというのは、たとえ戸籍を交換できたとしても容易なことではないはずです。それぞれの生活背景を語り尽くせるはずがないからです。
 また、統一協会やエホバなどの信者2世の悲惨な状況が話題になっていますが、殺人犯などの加害者2世の問題も深刻だと、私も思います。だから、戸籍をとりかえてまで、他人になりすましたいという気持ちは、それなりに理解できます。
 父親が殺人犯だとして、その父親とそっくり、よく似ていると言われたとき、それは、この世にいてはいけない存在だと言われたも同然のこと...。いやあ、きっとそう思いつめるんだろうな、そう思いました。でも、よく考えてみたら、父と子って、子が大人になったら、全然、別の存在なんですよね。
 私は、大学でセツルメントというサークルに入って、親を敵視しているという学生に出会って、それこそ腰が抜けるほど驚いてしまいました。私自身は、親のおかげで大学に入れたのに、親を小馬鹿にしていた自分の愚かさに気がついて、ガク然としました。このことを今もはっきり覚えています。
 いい本にめぐりあえたという思いで一杯になった本でした。
(2021年9月刊。820円+税)

2023年5月 2日

「父・坂井孟一郎」


(霧山昴)
著者 嶋 賢治 、 自費出版

 今は長崎市の一部になってしまった香焼(こうやぎ)町で、「憲法町長」というネーミングをもつ革新町長を永くつとめた人の息子(娘の夫)が紹介した冊子があるというのを知り、取り寄せて読みました。
 坂井孟(たけ)一郎は、明治43(1910)年6月生まれで、戦前、治安維持法違反で検挙された。日本大学予科をストライキ指導で退学させられ、満州に渡った。このとき、香焼村の村長をしていた父親が政治力を発揮して起訴留得にしたうえで満州で逃がした。
満州では4人の子(全員が男の子)を日本敗戦の前後に次々に亡くした。そして、日本に引き揚げたあと、36歳のとき(1947年4月)香焼村長に当選した。
村長として、戦後の農地解放の波に乗って、川南造船所から進航軍(マッカーサー)の指示より4倍もの土地を農民のものとした。
 ところが、昭和天皇の長崎行事に階し、村長として県下ただ一人お迎えに行かなかったことからリコール運動が起きた。そのとき、父のすすめもあって、小学校建設とひきかえに村長を辞任した。
昭和30年、香焼村の財政が破綻したことから村民に呼び戻されて村長に立候補して当選。川南造船所が破産間近と知って、財産差押を断行して村財政の再建に貢献する。水道施設を村有として上水道を創設し、中学校の校舎を建設した。
その後も、香焼町長として活躍。町村で初めての下水道100%計画、図書館、ごみの毎日収集などを実現。昭和62(1987)年4月末に町長を退任するまで革新自治体の長として活躍した。
1985(昭和60)年の町長の施政方針演説の一部を紹介する。
 「核兵器の保有において世界の第一、第二という保有国の一方とだけ同盟を結んで対処していこうとするのが今の日本政府の方針。アメリカという国は、核兵器の廃絶、使用禁止とかに国連で賛成したことはない。
 日本が核保有国の一方と同盟を結ぶというのは日本民族の将来の厄災につながりかねない。そういう危険な方向は廃すべきだ」
 これが田舎の町議会での町長の演説だなんて、信じられませんよね。今の岸田首相にしっかり聞かせたいものです。野党多数の町議会だったので、坂井孟一郎の生涯はケンカの一生だった。それでも本人は「どうもケンカを途中でやめられないタチらしくて...」とウソぶいて、貫き通したのです。偉いものです。
 通算10期35年ものあいだ、村長そして町長として「憲法をくらしの中にいかそう」という大看板を町役場にかかげていたのです。涙が出るほど元気の出る、うれしい話です。
 わずか70頁の冊子ですが、こんな首長の登場を今ふたたび待望したいものだと思い、勇気づけられました。この冊子を刊行された(株)嶋会計センターに感謝します。
(2022年9月刊。非売品)

2023年4月28日

平和憲法で戦争をさせない


(霧山昴)
著者 寺井 一弘 ・ 伊藤 真 、 出版 自費出版

 昨年(2022)年2月にロシアがウクライナに侵攻して始まった戦争は、いつになったら終わるのか、不安な日々が続いています。
 そんな人々の不安につけこんで、自民・公明の政権は相変わらずアメリカの言いなりに高額な兵器を買わされ続け、日本もアメリカに続けとばかりに戦争する国になりつつあります。怖いのは、少なくない日本人がそれに慣らされ、モノ言わぬ人々になってしまっていることです。それが裁判所(裁判官)の意識も包み込み、出る杭は打たれるとばかりに、政権の言いなりに判決を書き続けています。司法が行政の歯止めの役割を果たそうとしていません。
 「そんなこと、オレたちばかりに押しつけるなよ...」という、弱々しい告白がもれ聞こえてきます。でも、あきらめずに、安保法制法は憲法違反だという裁判を意気高くすすめているグループがいます。私も、そのグループに加わり、微力を尽くしています。
 この70頁ほどの小冊子は、そんな安保法制違憲訴訟を引っぱっている二人のリーダーによるものです。さすがは憲法伝導士を自称するだけあって、格調高い内容です。
 まずもって驚かされるのは、戦前の明治憲法をつくった伊藤博文が立憲主義の本質を理解していたということです。君主の権力を制限し、国民の権利を守ることが憲法の目的だと、伊藤博文が言っているのです。自民党の政治家にぜひ読んでほしいところですよね...。
 ただ、残念なことに、「個人の尊重」は理解していなかったようです。だって、女性の参政権は認めていない時代ですから、当然の限界なのでしょう...。
 明治憲法は天皇が強かったわけですが、実のところは、天皇を通じて国民を自由に操(あやつ)る実質的な権力者が天皇の裏にうごめいていたのです。
 明治憲法では、親権天皇、軍隊、宗教が三位一体の構造をなしていた。これに対して、戦後の日本国憲法は、象徴天皇制、9条による戦争放棄、政教分離を規定した。
 今の日本国憲法を「押しつけ憲法」というのは事実にも反しますが、このコトバは1954年の自由党の憲法調査会で初め登場したもの。
日本国憲法は、国連憲章ができたあと、それも人類がヒロシマ・ナガサキで原爆(核兵器)を使ったあとに制定されたもの。このことを忘れてはいけない。
 日本は、今日までの戦後77年間、戦争することなく、少なくともこれまでは無用な軍備拡張競争に乗ることなく、ただ一人として国民・市民が戦争で死なず、そして自衛官が戦死することもなく今日があるのです。
抑止力の本質は、戦争する意思と能力があることを相手に示して威嚇すること。
 日本が敵基地攻撃能力を持ち、「やられる前にやれ」といって攻撃したら、「敵国」は必ず反撃してくる。ミサイル攻撃の応酬になってしまう。どちらも共倒れ、廃墟になってしまうまで続くことになりかねない。
 戦争が始まったら、なかなか終息しない。なので、戦争にならないようにするしかない。そのためには、私たちはもっともっと声を大きく強く平和を求めて叫ぶべきなのです。
(2023年5月刊。カンパ)

2023年4月17日

武蔵野、狭山丘陵


(霧山昴)
著者 高橋 美保 、 出版 現代写真研究所出版局

 蔦(ツタ)が締め付け、蜘蛛(クモ)が舞う。クヌギが朽ち、湧水が浸みる。これはオビにあるフレーズです。写真で、その情景が見事に切り取られています。
 狭山丘陵は武蔵野台地の西北にあって、古多摩川の削り残した残丘。周囲は約30キロ、高さは最高で200メートルほど、平均海抜100メートルの台地。長年の風雨に浸食され、細かい山襞(やまひだ)や斜面から滲(にじ)み出る雨水と湧水によって、谷戸が点在し、複雑な地形になっている。内部には、人工的につくられた二つの湖があり、水源涵養林として、周囲に深い緑を残している。
 太古は原生林だったが、徐々に人間が伐採して、コナラ、クヌギ、クリなどの人工林として育ってきた。湿地にはカエルの卵塊があり、またヘビ(ヒバカリ)も生息している。
 コナラの大木をカズラが巻きついている。クモは見事にラケットの形をした巣をかけている。
 カモもアオサギも湿地あたりでエサを探している。
 狭山丘陵の荒廃の原因は、台風が強力になり、夏冬の変動の振れ幅が増大しているように、気候変動の影響が過酷になっていることにある。
 コロナ禍によって狭山丘陵に立ち入る人が減ったため、荒廃がすすむ一方で、動植物が人目に触れないところで自由を満喫して競争している。
 湿地のカエルが増え、ササ林のクモも一時、急増したが、最近はまったく見かけなくなった。このように増減は不安だ。
 集中豪雨や強風で倒木が増えると、雑木林がまばらになる。一時的に地衣類が増えたとしても、日照が良くなると、湿地が乾燥して草原部分が増加する。
 そんな狭山丘陵という自然の移り変わりが見事な画像として切り取られている写真集です。目の保養にもなりました。
(2023年2月刊。2700円+税)

2023年4月13日

武器としての国際人権


(霧山昴)
著者 藤田 早苗 、 出版 集英社新書

 久しぶりに目を洗ってすっきりする思いのした本です。
 生まれてきた人間すべてに対して、その人が能力を発揮できるように、政府はそれを助ける義務がある。その助けを政府に要求する権利が人権。人権の実現には、政府が義務を遂行する必要がある。その義務は次の三つ。
①人がすることを尊重し、不当に制限しないこと(尊重義務)
②人を虐待から守ること(保護義務)
③人が能力を発揮できる条件を整えること(充足義務)
 人権は、すべての人が持っているとされる権利で、あらゆる人間の尊厳を重視して、自分の仲間であってもなくても同等に扱われるべきというもの。
日本では、この意識が希薄だ。弱者があわれまれる「かわいそうな状態」にとどまっている限りは同情される。しかし、自らを弱者に追い込んだ社会の問題を指摘し、権利を主張すると、それは否定的に受けとられ、「わがまま」「身の程知らず」と批判されることが多い。
日本政府は国連の勧告を受け入れず、無視した。あげくに国連への任意拠出金を支払わなかった。
 日本の相対的貧困率は、アメリカに次いで2番目に高い。日本の生活保護の捕捉率は2割。残る8割、数百万人が生活保護からもれている。
イギリスでは同居している夫婦間と、16歳未満の子どもに対して以外に扶養義務はない。
 つまり、日本のように生活保護の支給にあたっての「親族への照会」というのはないのです。しかも、日本では生活保護の支給がどんどん切り下げられています。軍事予算のほうはアメリカの言いなりになって不要不急でムダづかいばかりしているのに...。
従軍「慰安婦」は、かつては中学校の教科書に記述されていましたが、今ではすっかり姿を消してしまいました。ひどいです...。
日本のメディアの独立性は脅かされています。高市大臣(自民党)の「ねつ造」発言も、いつのまにかウヤムヤになって終わってしまいそうです。許せません。
 そして、日本の投票率が低いことの要因の一つとして、マスコミの選挙報道の少なさがあります。たとえば維新の「嘘」はそのまま垂れ流しても、その真実、たとえばカジノ誘致、保健所の大幅な削減、首長の退職金「ゼロ」(実は増額)はほとんど報道されません。
 日本の女性警官は8%。イギリスは30%。
「夫婦別姓」の選択肢がないのは、世界で日本だけ。江戸時代まで、日本も夫婦別姓だったのに...。統一協会の影響力から自民党(右派)は脱却できないままなのです。
 日本の女性医師は21%で、OECD加盟国37国の中で最下位。アメリカですら34%なのに...。
マスコミは国連のルールを知らないまま、日本政府の言いなりに、それを垂れ流している。外国人の人権をないがしろにする国(日本)が、女性や障害のある人生活困窮者、性的マイノリティなどの社会的弱者の人権を尊重するだろうか...。
 この本の冒頭で、イギリスにはコンビニはないし、町の店は夕方6時には閉店するし、宅配の最終便は夕方5時。それでも社会はまわっていることが紹介されています。おかげでイギリスには過労死はありません。「カローシ」は国際語になったといっても、日本特有の現象です。
 フランスでは、頻繁にストライキがあって地下鉄やバスが止まり、ゴミ収集もない。みんな不便。でもストライキは労働者の権利だから、我慢する。
日本も多少の迷惑をかけても要求して行動していいんだという国にしたいものです。
(2023年3月刊。1100円+税)

2023年4月12日

先制攻撃できる自衛隊


(霧山昴)
著者 半田 滋 、 出版 あけび書房

 3月初め、福岡で講演会があったとき、著者のサインをもらいました。著者の話は、いつも明快なうえに、豊富な映像をともなっていますから、視覚的にもよく分かります。いえ、よく分かって楽しいのではありません。すごく腹が立つのです。方言で言うと、「腹かいた気分」になります。もちろん、著者に対して腹を立てているのではありません。話を聞いて、自民・公明政権のやっている軍事予算「爆買い」路線に対して、です。
たとえば、日本はF35Bを42機もアメリカから買うことになっています。ところが、このF35というのは、とんだ欠陥機であり、「未完成の機体」なのです。開発以来、20年もたっているのに、完成していないというのですから、ひどいものです。そして、アメリカでも日本でも重大(死亡)事故を何回も引き起こしています。そんな欠陥機を日本はアメリカのトランプ大統領の口車に乗せられ、アメリカ軍事産業を助ける目的で「爆買い」した(している)のです。もう、やめて...。
北朝鮮がロケットを打ち上げたといっても、日本政府とマスコミは「ミサイルが打ち上げられた」としか報道しない。
 でも、ロケットとミサイルは、まったく同じ技術。日本政府とマスコミはそれが分かったうえで、国民に対してロケット打ち上げとは言わずにミサイルと呼んで、その怖さをことさら言い立てて恐怖心をあおり、利用しようとしているのです。
 今や日本の防衛予算は5兆円を軽く突破。なにしろ5年間で43兆円も支出するというのです。アメリカの軍事産業は、それによって大いに懐を肥やします。日本はアメリカの「死の商人」を肥え太らせるばかりです。
そして、日本に駐留するアメリカ兵士の生活まで面倒見てやっています。アメリカ人技術者40人が、青森県の三沢基地に滞在することになるので、国はアメリカに代わって30億円もの生活費を負担するというのです。アメリカ人兵士Ⅰ人あたりでは年間7500万円もの巨額を日本政府は負担します。「なぜ、アメリカ人技術者の生活費まで負担するのか?」と問いかけると、「彼らはアメリカ本土での生活を捨てて、日本のために働くのだから」という回答。
 ええっ、嘘では。こんなこと、アメリカ人以外にはしていませんよ。
 日本を守ると言いながら、中味としては、軍事予算を増やしてアメリカと日本の軍事産業を喜ばせています。
 安保法制法が成立してから何年もたつのに、幸いというべきか、実施されたことはありません。
軍事予算の一部、ほんの一部でも教育予算にまわせば、大学の入学金や授業料をゼロにすることは簡単なんです。日本の「国」ではなく、「国民」を守る政治に切り替える必要がありますよね。

(2020年12月刊。1500円+税)

2023年4月 8日

君のクイズ


(霧山昴)
著者 小川 哲 、 出版 朝日新聞出版

 私はテレビを見ませんし、ましてやクイズ番組なんて関心もありません。でも、その裏側がどうなっているのかは関心があるので、つい手にとって読んでみました。
 著者は、先日『地図と拳』で直木賞を受賞しています。そっちは戦前の満州が舞台で、歴史をよく調べてストーリー構想もすごいと驚嘆しました。こちらは、歴史ではなく、クイズ番組の仕組みと、その優勝者たちの心理がよく調べて、本物そっくりに描かれています。あとがきに友人のクイズプレイヤー2人に助言してもらったと書かれています。
この本では、ぶっつけ本番のクイズ番組で優勝するのは、なんと問題文が読み上げられる前に「正解」を回答したという大学生です。どうやら、問題文を読み上げる人の口元を見て、そこから連想ゲームのようにして問題文を推測し、正解を回答したというのです。ありえない・・・と思いました。もちろん、「ヤラセ」じゃないかと疑いますよね。でも、最近のクイズ番組では、ヤラセがあったという話は聞かないというのです。
クイズとは、覚えた知識の量を競うものではなく、クイズに正解する能力を競うもの。クイズには、さまざまな形式がある、早押しクイズ、ペーパークイズ、ボードクイズ・・・。
 Q.日本で最も高い山は富士山。では大阪市港区にある、日本で最も低い山は?
 A.正解は「日和山」
 リスクを負うことも必要だ。展開によっては、まだ五分五分でも、他より先に押さなければいけない。『恥ずかしい』という感情は、クイズに勝つためには余計だ。そんな感情は捨てたほうがいい。クイズの強さとは、相手に先んじて正答を積み上げる強さだ。
早押しクイズでは、答えが分かってから押していると、相手に解答権をとられてしまう。「わかりそう」と思ったら打つ。ランプが点(つ)いて、答えを口にするまでの短い時間で、「分かりそう」だった解答を考える。いやはや、とんだ厚かましさだ。
数列に例えるなら、「クイズの強さ」とは、さまざまな数列の可能性を見つけられる知識と、リスクを計算しながらベストのタイミングで解答ボタンを押す技量と、計算の速さと正確さ、これらの総合値だ。
世界は知っていることと、知らないことの二つで構成されている。クイズに正解したからと言って、答えに関する事象をすべて知っているわけではない。まったく、そのとおりです。
(2023年3月刊。1400円+税)

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