弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
社会
2023年12月13日
肥料争奪戦の時代
(霧山昴)
著者 ダン・イ―ガン 、 出版 原書房
三大肥料要素のリンについて深刻な状況にあることを初めて知りました。
リンは植物の生長に欠かせないし、人類にとっても必要不可欠。
リンは、人間が食べたものを筋肉を動かす化学エネルギーへ変換してくれる。人間の骨も歯もリンから出来ている。リンは人間のDNAにも含まれている。いや、リンこそDNAそのものと言ってよい。
リンは生命の輪を完成させる根本的な結び目だ。貴重な資源であるリンの埋蔵量が減少しているのに、人類は無駄に消費したうえ、事態をますます悪化させている。
世界のリン埋蔵量の8割近くがモロッコなどの西サハラ地域に偏在している。
リンは悪魔の元素と呼ばれる。1815年6月、ナポレオンが敗退したワーテルローの戦場で何千もの兵士が亡くなった。戦場では死んだ兵士からの略奪が横行していた。着ていたもの、ポケットに入っていたもの、人間の頭髪(かつら製造業者へ)、歯(義歯をつくる歯医者)、そして遺体は肥料となってイングランドの農業振興に役立たされた。知りませんでした。
1950年代のアメリカで、洗剤にリンが使われた。泡立ちが良いというので主婦から大歓迎された。ところが、河川も海も、いつまでも消えない泡に悩まされることになった。しかも、緑藻が水面にはびこり、湖は死んでしまった。
1990年代に入って、アメリカの洗剤業界は自主的に家庭用洗剤からリンを取り除いた。
しかし、牧畜場から排出される汚水のなかにリンは含まれている。シカゴの五大湖は3000万人もの人々にとって飲料水の水源である。そこの汚染が止まらない。
農場主が何十年にもわたって肥料を大量にまき続けた時代のリンが、農地の土壌に大量に蓄積されている。この農地から、過剰なリンがしみ出していくことになる。
人糞のなかにもリンが含まれている。なのでトイレの流水からリン・窒素・カリウムを取り出し、安全な肥料に変換する技術の開発が進められている。
地球の温暖化も心配ですが、リンをめぐる環境悪化からも目を離せないことがよく分かりました。知らない、恐い話がたくさんありました。
(2023年7月刊。2800円+税)
2023年12月12日
仁義ある戦い
(霧山昴)
著者 杉山 大二朗 、 出版 忘羊社
アフガニスタンで中村哲医師が殺害されたのは、もう4年前のことになります(2019年12月4日)。
福岡県飯塚市の生まれである著者は、ペシャワール会の現地派遣ワーカーとして数年間、中村哲医師の下で働いていました。その様子が著者によるマンガも添えられていて、とてもよく分かります。
現地のワーカーとして、事務作業にも従事していますが、日本人スタッフのまかない料理づくりのところはとくに興味を惹きました。日本人はアフガニスタンに行っても日本料理を食べたいのですよね。よく分かります。重労働のうえ、安全確保のため、町に出てウロウロするなんてことも許されないのですから、せめて美味しい日本食を食べたいですよね...。
中村医師は、カレーが大好きで、カツカレーが好物だそうです。貧しい九大医学部生のときの食事以来のようです。
それにしてもよく出来たマンガが途中にはさまれています。誰かプロに依頼したのではないのか、そう思わせるほど素晴らしい出来事のマンガなので、状況がよく理解できました。
ハンセン病の患者であり、ペシャワール会の守衛もしていたサタール氏についてのマンガは出色です。これだけでも、この本を読んだ甲斐があります。
患者は日本人スタッフの舌に合うような「まかない料理」をつくるよう中村医師に指示されました。でも、問題は食材の確保です。食材がなければ、どうにもなりません。
著者は、小学生のころから、自分で釣った魚を三枚におろしてさばけたというのです。偉いものです。そして、世界中を放浪したときにも各地の料理を見よう見まねでつくったのでした。いやあ、たいしたものです。その腕をペシャワール会の現地スタッフとしてアフガニスタンで思い切り生かしたのでした。
ジャララバード(アフガニスタン)にあった日本人舎舎のキッチンでヘッドライトの灯りで料理している著者の写真があります。チャーハンでもつくっているのでしょうか...。
あちらでは、インスタントラーメンは、病人しか食べることが許されない貴重品だったのです。
著者が手がけたまかない料理もマンガで紹介されています。白菜を手に入れて漬物をつくったというのです。すごいですね、塩と昆布を使います。
豚肉はタブーなので、豚肉以外のもので代用する豚汁もどきというものもあります。鶏肉や羊肉は高くて、牛肉のほうが安上がりなのです。
鯉の南蛮漬けもつくりましたが、日本人スタッフには好評でも、アフガニスタン人スタッフには不評でした。やはり、人の好みは生来のものがありますよね。
アフガニスタンはイスラムの国なので禁酒。日本人スタッフはこっそり飲むこともなかったようです。酒を飲まなくても平気になったと著者は書いています。日本に帰国したら、浴びるように飲んだそうですが...。
それにしても中村医師はよく働いたようですね。毎日、毎晩、1時間以上もミーティングをしていたそうです。いやあ、これはすごいことです。よくも倒れませんでしたね。疲れますよね、ミーティングって...。中村医師は後継者はいるかとの質問に対して、「用水路そのものが後継者だ」と答えたとのこと。
日本政府は今、世界各地に武器を輸出しようとしています。自民党と公明党の政権が戦争でもうけようとしているのです。
私は中村医師そしてペシャワール会のような、地道な用水路づくりこそ日本のやるべきことだと改めて思いました。
武器をつくって輸出して、軍需産業はもうかり、そのおこぼれを自民・公明の政治家たちはもらえるのかもしれません。でも、それって平和のためではありません。戦争で私腹を肥やそうとしているだけではありませんか...。ホント、腹が立ちます。
いい本でした。お疲れさまでした。
(2023年5月刊。1700円+税)
2023年11月21日
引き裂かれた海
(霧山昴)
著者 吉崎 健 、 出版 論創社
福岡高裁が開門を命じ、その判決は確定したのに、国がその判決を無視して、結局、開門しなくてよいという判決を別にもらって、こちらも確定したという、日本の裁判史上、初めての奇想天外な出来事が起きました。
現在、諫早湾干拓は開門されないまま、深刻な漁業被害が今も続いています。そして、国は漁業被害と干拓事業との因果関係を肯定も否定もせず、ずっとずっと不明だとして、開門しないことを前提とする協議を求めているのです。
国って、冷たい権力そのものなんだと実感させられる話なんです。
諫早湾干拓は2008年3月に完成し、4月から営農が始まった。672ヘクタールの広大な干拓農地で、現在35経営体が営農している。当初41事業体でスタートして、13事業体が撤退した。
諫早湾を閉め切った「ギロチン」は、1997年4月なので、すでに26年たっている。
ギロチンのあと、有明海では赤潮が頻発し、タイラギ漁が不振となり、養殖アサリもたびたび死滅した。「ギロチン」のとき、漁業が続けられなくなる8漁協には202億の補僓金が、その外側の4漁協には41億円が支払われた。
干拓の目的は当初は稲作のための耕地づくりだった。でも、全国的に減反政策が進むなかで、ここだけ稲作のためというのはおかしい(ありえない)ので、途中から「畑作」に変わった。つまり、もともとが「食糧増産」という目的ではないのです。
ところが、ここに2530億円もの事業費(税金)が投下されました。ともかく、大型公共事業をしたかったというホンネを元長崎県知事(高田勇)が吐露しています。全国各地ですすめられている新幹線の延伸、リニア新幹線そして地方の飛行場の新増設と同じです。ゼネコンの仕事づくりなのです。「国民の利便」は、あとから取ってつけた口実でしかありません。
そして、農水官僚の「天下り」先の確保でもあり、大手の受注企業に次々に「天下り」していきました。ひどいものです。許せません。そのとき、事業は「官製談合」が常態化しました。
福岡高裁(岩本宰裁判長)は、「抜本的解決のために話し合い解決をするよう」文書で勧誘しました。ところが、国は問答無用として、話し合いのテーブルにつきませんでした。沖縄の辺野古基地建設をめぐる国の態度とまったく同じです。ひどいものです。ひどすぎます。
国はゼネコン優遇、自分たちの「天下り先」の確保しか念頭になく、有明海がどうなろうと知ったことではないという無責任な態度に終始しているのです。こんな国のあり方は是正されるべきです。司法がそれをしないとき、いったい国民はどうしたらよいのでしょうか...。
(2023年9月刊。1800円+税)
日曜日、朝から仏検(準1級)のペーパーテストを受けました。午後1時に終わったときは、へとへと、まさしく疲労困憊でした。この1ヶ月ほど、朝と晩、いつものNHKラジオとCDの勉強に加えて、過去に受験した問題冊子をひっぱり出して復習しました。この5年とか10年ではありません。もう30回近く受験しているので、2往復はできません。
頭をすっかりフランス語仕様に仕立てて臨んだつもりですが、いやはや難しいのです。つくづく自分は語学の才能がないと悲観してしまいました。単語は覚えられないし、仏作文もつまづきばかりです。自己採点したら71点でした。120点満点で6割が合格ラインですから、今年は危いです。さて、どうなりますか...。
帰宅して、庭いじりで気分転換を図りました。チューリップの球根を60個ほど植えつけたのです。
2023年11月15日
ルポ・国際ロマンス詐欺
(霧山昴)
著者 水谷 竹秀 、 出版 小学館新書
会ったこともないのに、メールの文章だけで結婚しようと思い、相手の言いなりになって、大金を次から次に送金していく人が後を絶ちません。会ったことがないといっても、ネット上で相手のハンサムな顔は見れますし、声も聞けるのです。といっても、「国際」というからには、日本語に変換したものです。ところが、それが、みーんなニセモノ。怖いですよね、ここまでネットで社会は「すすんで」いるのですね...。「顔」も「声」も変換できて、いかにも本物らしく対応するのです。
そして、信じ込むほうにも、いささか問題があります。ちょっと怪しいなと思いつつ、夢心地に浸っていたい気分から、その疑問を自ら打ち消してしまうのです。騙される人の特徴は、寂しさや失望感をかかえ、心に隙間のある人。
自分は不幸であるというイメージをもち、悲観的にとらえている人、ある程度教養があり、異文化に関心をもっている人。損を現実化させたくない心理が働く。
素直で、真面目な、いわゆる「いい人」が多い。自分が善意だから、相手も善意だと思い込んでしまう。
でも、結局のところ、騙される人が悪いのではない。騙す人間が悪い。これは私も弁護士としてまったく同感です。
この本では、騙す人間の正体を探るため、著者はアフリカのナイジェリアにまで行ってきました。そこで出会った騙す悪人の正体は...。
なんとなんと、ナイジェリアの大学生たちが、お金欲しさに「ロマンス詐欺」をやっているというのです。ナイジェリアの若者たちは、10人のうち8人までもがサイバー犯罪に関わっている。彼らは深刻な犯罪をしているとは考えていない。彼・彼女らを「ヤフーボーイ」とか「ヤフーガール」と呼ぶ。
貧困だけが理由ではないようですが、貧困が主要な要因であることは間違いありません。それにしても、「国際ロマンス詐欺」がアフリカの大学生のアルバイトの舞台になっているとは驚きました。世の中は狭いものです。なにはともあれ、ネットだけでのつながりというのは、映画をみているようなものなんです。目の前のスクリーン(大画面)に見とれているうちに、吉永小百合と結婚できるなんてことが絶対にありえないのを、いつのまにかありうると錯覚して大金を投げ捨ててしまうというものです。ちょっと例え話に品がありませんでしたね、失礼しました。
(2023年8月刊。1100円)
2023年11月14日
台湾侵攻に巻き込まれる日本
(霧山昴)
著者 半田 滋 、 出版 あけび書房
「北朝鮮や中国が攻めてきたら、どうする!」
この不安と焦燥に駆られた人々が5年間に43兆円もの超巨大軍事予算を精神的に支えています。これまで軍事費は年に5兆円を上回っただけでも大問題だったのに、今や年間7兆円を軽く上回る軍事予算です。
「北朝鮮がミサイルを発射した」と言ってJアラートを発令し、恐怖をあおり立てる政府広報。同じことを韓国がやっても、報道すらされません。北朝鮮のロケット(「ミサイル」の正体)は宇宙空間を飛んでいるのです。「日本の上空」ではありません。「ミサイル対策」と称して、学校や役所で机の下に潜り込む訓練をしていますが、戦前の防火(消火)バケツリレーと同じく、単なる気休めでしかありません。意味のないことはやめるべきです。政府は、それよりイスラエルに軍事行動の停止を求めるべきです。
自民・公明の岸田政権はアメリカの兵器を「爆買い」し続けています。トマホークなんてスピードが遅いので、もはやアメリカ軍は使っていないとのこと。そして、オスプレイは多くのアメリカ兵を殺してしまった「未亡人製造機」と言われるほどの欠陥機。それを今度は佐賀空港に配備するのです。本当に許せません。
「戦争が始まったら、シェルターに逃げて...」
地下のシェルターに逃げ込めて一時的に助かったとしても、地上に誰もいなかったら、どうやって生活していくというのですか...。食料がいつまでもあるはずはありませんよ。
宮古島に住む全住民を避難させるのに必要な飛行機は363機、船は109隻。そんな大量の飛行機と船が確保できるはずはありません。同じく、沖縄県民146万人を九州に避難させるとのこと。うまく運べたとしても(ありえませんが)、いったい九州のどこにこれだけの人を収容するというのでしょうか...。
日本政府は、公式見解では台湾を独立国としてみていません。なので、台湾は日本と「密接な関係にある他国」とは言えません。
アメリカは大量の半導体を必要としている。台湾のメーカー(TSMC)は、世界の半導体シェアの6割を占めている(高性能のものに限れば9割)。だから、台湾を確保しておかないと、アメリカという国自体が存続できない。
中国は既に空母を2隻保有し、戦闘機も2000機もっている。無人の岩があるだけの尖閣諸島をめぐって武力侵攻するのは、中国の国益に合わない。
アメリカとアメリカ軍を守るため、日本は集団的自衛権を行使する。つまり、日本を守るためではなく、外国(アメリカ)を守るため、日本人青年の血を流させようということ。
日本がアメリカから「爆買い」するトマホーク400発を保有したとしても、中国は巡航ミサイルをすでに2200発も保有している。こんな格差があるのだから、「抑止力」が働くはずもない。
アメリカからオスプレイ17機を購入する代金は3000億円。日本全体の司法予算はそれとほぼ同じの3300億円。しかも年々少しずつ減っている。裁判官の人数は増えていないどころか、減っている。思わず涙が出てしまいます。
大軍拡予算がすすめられるなかで日本の軍需産業(「死の商人」たち)は喜びに奮いたっている。三菱重工業は誘導弾の新規開発に奔走している。まさしく、金もうけのためなら、何事も身を惜しみませんという姿勢です。
自民党・公明党の脅しとウソに負けないようにしましょう。それにしても先日の参院選(補選)の投票率の低いこと...。6割以上の人が投票所に行っていません。これでは日本は救われません。
著者の本は、いつ読んでも具体的な状況が的確に紹介されていて、大変勉強になります。
一読を強くおすすめします。
(2023年10月刊。1980円)
2023年11月11日
闇バイト
(霧山昴)
著者 廣末 登 、 出版 祥伝社新書
「高額案件、即金、仕事」
「案件次第で日給3万円~50万円可能」
こんなネット上のコトバにつられて申し込んでしまう若者が後を絶ちません。申し込むと、免許証を写メして、メールで送らされる。個人情報が丸ごと先方に渡ってしまう。やめたいと言うと、「今さら何を言うのか。キミは立派な犯罪者だ。キミの個人情報は承知しているから、まずはネットにさらして、詐欺犯人と公表するかな。それとも警察に通報するかな」と脅される。
さらに、こんな甘言のささやきもある。
「持つ者から、持たない私たちが少しいただくだけですよ。あの人たちは数百万円のおカネを寄付しても、何も困りませんよ。これは資本の公平な分配だと思えばいいんです」
今、こうやってお金に困った若者が闇バイトの世界に足を踏み入れる。警察に検挙された少年の7割が「受け子」で、受け子の5人に1人は少年。
きのうまではフツーの青少年だったのに、自宅から一歩も出ないまま特殊詐欺グループの一員になってしまう可能性(危険性)がある。この契約の先に待っているのは、社会的破滅に続く、あと戻りできない一方通行の道だ。
闇バイトの人員を募るのはSNSが多い。特殊詐欺では、かけ子は20%、受け子は10%の報酬がもらえることになっているが、実際に手にできるという保障は何もない。
闇バイトの末端要因である受け子と出し子(UD)は消耗品。
電話をかける「かけ子」は言葉巧みな演技が求められるので、熟練工だ。電話をかけるのはマンションの一室(「ルーム」と呼ぶ)。ここはタコ部屋。「かけ子」は外出禁止、朝の8時から夕方5時まで、電話をかけまくるのが仕事。500万円を被害者から騙し取るのに成功すると、20%の100万円の報酬がもらえる。2~3ヶ月で、ルームは移動する。
闇名簿は高く売買されている。詳しい名簿は1件1万円することもある。使い古された名簿だと、1件300円とか500円とか、安い。金持ち、押し入ったらお金のありそうな人(家)の名簿がつくられ、売買されている。デイサービスや家政婦派遣の情報も売買されている。
自治体のもっている情報、たとえば税金をいくら納めているとか、そんな情報が売買されている。リフォーム申込者の名簿もよく使われる。
闇バイトは、一時のおカネを選ぶのか、一生の破滅を選ぶのか、という選択。闇バイトをやったら、破滅するのみ、必ず後悔する。
特殊詐欺で逮捕されて起訴されると、たいてい実刑となり、刑務所か少年院に入れられる。次に失うものがない「無敵の人」になってしまって、フツーの市民生活を送るのが、とても難しい状況に置かれる。ただ、処罰を厳しくすればよいという考え方は、あまりに安易で、ますます新たな被害者を増やすことになる可能性(危険性)がある。
闇バイトの危険性、そこに引きずり込もうとするテクニックを知ることができました。
(2023年8月刊。930円+税)
2023年11月 7日
僕の好きな先生
(霧山昴)
著者 宮崎 亮 、 出版 朝日新聞出版
「維新」は大阪の教育をメチャクチャにしてしまいました。その結果、大阪の学校の教員を志望する人が激減し、途中退職者も続出しています。
維新は学校を「商品」製造工場のように錯覚し、成績主義・競争主義で教師と先生を追い立てています。学校を学力成績の点数で評価するなんて、根本的な間違いです。聞くだけで、「アホちゃうか」と関西弁でこきおろしたくなります。
松井一郎大阪市長(当時)が、コロナ禍がひどい状況で「小中学校は自宅オンライン学習を基本とする」と、突然に言い出して、大阪全市の学校が一大パニックに陥りました。
松井市長の思いつき、いつものパフォーマンスでした。学校を所管する教育委員会の意見も十分聞かないまま記者会見したのです。まったく無責任きわまりありません。
これに対して、現職の小学校校長であった久保敬(たかし)氏が大阪市の教育行政を批判する文書を松井市長に送ったのです。現職の校長が市長を批判する文書を送付した。これは大きなニュースになりました。その結果、自宅オンライン学習は撤回されたのです。ところが、久保さんに対しては「文書訓告」処分が下されました。ひどい話です。
久保校長の教え子にお笑いコンビ「かまいたち」の濱家隆一がいました。久保校長の退職お祝い会に濱家は5分間のメッセージ動画を送ったそうです。そこでは、30年も前の小学校の担任との出来事を昨日のことのように濱家は紹介しました。そして、濱家は小学生のときにもらっていた「学級便り」も全部保管していたのです。それほど記憶に残る担任(教師)でした。
濱家は、「学級便り」のなかで、将来の夢は「マンガ家、まんざい師」と書いていました。これは実現したのですね。すばらしいことです。
「細かいことをバーッて思い出せるのは、本当に楽しかった人やと思いますね。久保先生からは、まわりの友だちを思いやることを教わりました。みんなで目標に向かって一致団結することとか、まわりの人と調和するとかっていうのは、ほんまに久保先生から学んだことです」
先日、大阪で久保先生の話をじかに聞くことができました。腹話術も少しする久保先生は、なるほど教師人生に全力で打ち込んだというオーラを感じました。こんな教師にめぐりあえた子どもたちは本当に幸せです。
子どもを大切にする教師をもっともっと大切にしなければいけないと、つくづく思いました。維新や自民党のような、表面的な成績だけしか目を向けない教育なんて最悪です。
久保先生の話を聞いて、すぐに会場で売られていたこの本を買い求め、帰りの新幹線の中で完読しました。
(2023年9月刊。1760円)
2023年11月 1日
日本維新の会の「政治とカネ」
(霧山昴)
著者 上脇 博之 、 出版 日本機関紙出版センター
これまで日本にもたくさんの政党が生まれては消えていきましたが、維新の会ほど厚顔無恥というコトバがぴったりくる政党は珍しいと私は思います。大阪万博とカジノ(IR)誘致です。夢洲(ゆめしま)で来年盛大に開催されるはずの万博は工事が遅れに遅れ、パビリオン建設が具体化している国はいくつもない有り様です。維新の会は税金を全然使わないと公言していたのに、工事費は当初の1.9倍にふくれあがり莫大な税金が投入されつつあります。今からでも中止したほうが、よほど安上がりになるというのが衆目の一致するところです。
カジノ(IR)のほうもデタラメです。誰がいったいカジノをするのか、それでもうかるのは誰なのか...。カジノなんて有害あって一利なしです。
この本は「身を切る改革」と言っている維新の会が、実は、自分の身は切らないどころか、税金をうまく私物化していることを鋭く暴いています。読みすすめるほどに、維新の会のえげつなさに呆(あき)れかえってしまいます。
維新の会は政党助成金を平気で受けとっています。それも27億円近い税金(2015年)を受けとっているのです。しかも、政党助成金を受けとって「使い果たす」ためなら、トンネル・ペーパー団体まででっち上げてしまいます。
政党助成金が維新の会の財政(収入)に占めるのは80%をこえています。
政党交付金は、年度末に残金があれば、国庫に返還することになっています。ところが、年度末に残金が出そうだというとき、維新の会は「基金」をつくって貯めこみ、国庫に返還していません。「身を切る改革」は、自分自身については実行しないのです。
国会議員に交付される「文書返信交通費滞在費」についても、維新は残ったお金を身内に寄付して国庫へ返還していません。
維新の会も自民党と同じく、政治資金パーティーを開催します。維新の会は総額1億円ほどの収入を計上しています。1口2万円のパーティー券(会費)を企業が何十口も購入するのです。パーティーに参加しなくてもよいのです。つまりは隠れた企業献金です。維新の会は、これの改革は言いません。自分を告発してしまうからです。
なんとひどい、えげつない政党でしょうか...。腹の立つ本です。でも、目をそらしてはいけません。
(2023年7月刊。1300円+税)
2023年10月31日
原発は大丈夫と言う人々
(霧山昴)
著者 樋口 英明 、 出版 旬報社
南海トラフ巨大地震が来たら原発(原子力発電所)が大丈夫なわけはありません。
著者は、原発が他の一般的な技術施設とはまったく異なることを繰り返し強調しています。
一般の施設なら、何かトラブルが起きたとしたら、そこで運転を止めてしまえば、いずれ安全な方向に向かって落ち着いてしまう。しかし、原発では絶対に放っておいてはいけない。常に人が原発を管理して、水と電気を送り続けなければならない。停電してもメルトダウン、配管が切れて断水してもメルトダウンになってしまう。メルトダウンになったら、莫大な放射能が拡散し、やがて日本に住むところがなくなってしまいます。もはや手の打ちようがありません。
原発の技術は、根本的に他の技術とは異なっている。3.11福島原発事故のとき、1号機から3号機までで、広島型原爆の170倍もの「死の圧」が大気中にまき散らされた。
原発を推進している勢力は、「硬い岩盤の上に原発は建っている」と主張し、大々的に宣伝している。しかし、これは明らかなウソ。日本全国にある50基以上の原子炉のうち半分の原発はたしかに岩盤の上に建っている。ところが、残る半数は岩盤の上には建っていない。つまり、弱い地盤の上に原発はあるのです。
四国にある伊方(いがた)原発について、四国電力は「南海トラフ地震が発生したとしても、そのとき181ガルをこえる地震は来ないから安心して下さい」と強調している。
ところが、伊方原発の基準値振動である650ガルをこえる振動を記録した地震は30回以上も起きているのが現実。
日本の原発は、そもそも耐震性がきわめて低い。その原発が老朽化したら、さらに危険性が増してしまう。
日本は日本海の沿岸に50基以上の原発を並べている。たとえ原子炉に敵弾が命中しなくても、配電や配管がやられたら、手の打ちようがない。日本の防衛省は、テロリストが日本の原発を攻撃することはないと考えているようだが、客観的にみて、ありえないストーリー展開になっている。日本は、戦争開始を宣言したら、その時点で原発をやられてしまい、日本の敗戦は確定してしまう。
著者は元裁判官。熊本地裁玉名支部にいたこともあります。福井地裁の裁判長のとき、原発の安全性に疑問を抱き、操業差止の決定を下しました。
165頁という手頃な本ですから、ぜひ一度、あなたも手にとって読んでみてください。
(2023年9月刊。1300円+税)
2023年10月28日
北岳・山小屋物語
(霧山昴)
著者 樋口 明雄 、 出版 ヤマケイ文庫
残念なことに私は本格的な登山をしたことがありません。日本アルプスを縦走したという話を聞くと、大変だったろうなと同情をこめて感嘆の声をあげるばかりです。
本州の山と言えば、奥鬼怒(きぬ)の三斗小屋温泉に登り、そこで4泊5日、煙草屋旅館で合宿したことは今も忘れることができません。私の大学生活の最大のハイライトです。そして翌年の6月に尾瀬沼を歩きました。それ以来、尾瀬沼に行ったことはありません。最近、三斗小屋温泉から登山した人(60代)が強風のため低体温症になって死亡したというニュースに接しました。山は怖いですよね。
九州では、阿蘇を縦走しましたが、完走したのかは定かではありません。
南アルプスの北岳(きただけ)には、いくつも山小屋があるようです。著者はそれらの山小屋の管理人を訪ね、山小屋事情を明らかにしています。
まずは、白根御池(しらねおいけ)小屋です。管理人は吾妻潤一郎。この山小屋がオープンしているのは、6月から11月まで。山小屋で働くアルバイトの確保が難しくなっている。応募する若者が少ない。面接したとき「通り一遍な答え」しかしない(できない)若者は現場では、まず使えない。
ありふれたフォーマットの言葉でしか自分を表現できない若者は、仕事でもフォーマット通りにしか働かない。つまり、応用が利かない。
応募してくる若者とは電話で話すだけで、その口調と話しぶりで、だいたいのスキルが分かる。多くの若者はプロ意識をもとうとしない。遊び感覚の延長線上にあるから、率先して働いたり、手伝ったりしない。働くことから何かを学んだり、経験として自分の血肉にしようという意識がなく、ただそこで時間を過ごすという意識だけ...。
料理がちゃんと出来る若者は、だいたい何をやらせても上手。他で器用な子も、すぐに料理を覚える。料理は、視覚、嗅覚、味覚、触覚、聴覚という五感のすべてを駆使して行われる。材料を選別し、何をどう組み合わせ、どうやって作るかという想像力を働かせ、さらに包丁を使って切ったり、混ぜあわせたり、こねたりなど、手先と指先の細やかな働きを必要とし、火を使って茹(ゆ)でる、炒(いた)める、そして盛りつけるというプロセスにおいて、脳は休むことなくフル稼働する。
私は残念ながら料理できません。ひたすら食べる側です。
山小屋で働き始めた若者は、最初のころは基本を守るし、行動も慎重なので、あまり失敗ではない。ところが、慣れてきたことにミスが目立つようになる。
予約しているのに来ない客は個人に多い。団体客は旅行会社を通しているから、キャンセルが少ない。
山小屋の仕事でも体力の温存は重要。むやみに夜更かしすると体調を崩して風邪をひいたりする。ひとりでもスタッフが抜けると、山小屋にとっては貴重な力を喪って、痛い。
山小屋のスタッフで一番に起きは午前3時半。朝食の炊飯を担当する人が地下のプロパンを開けて、スイッチを入れる。食堂を開けるのは午前4時半ころ。早寝早起きが登山の基本。お昼の弁当を予約している人は、朝食時にフロントで受け取り、次々に出発していく。午前5時半には客の全員が出発し、山小屋ではスタッフが掃除を始める。
いやはや、すごいんですね...。そして、山小屋の管理人は遭難事故の連絡が入ったら、救助に向かう義務があるのです。これは大変ですよね。
山小屋のスタッフにとって、眠ることも仕事のうち。睡眠不足は自分に不利になるばかり。そして、入浴時間は、きっかり30分。まあ、私も風呂を毎日に欠かせませんが、30分で出ています...。
遭難救出に行くときは最低2名が必要で、できたらもう1名の連絡係を連れていく。
山では水分補給が足りず、脱水症になる人が多い。体重1キロにつき、1時間で5ミリリットルの水分が必要。体重60キロなら、1時間に300ミリリットルの水分を補給する必要がある。
山小屋のトイレの屎尿(しにょう)はバキュームポンプを差し込んで吸い出し、タンクに密閉してヘリコプターでふもとまで搬送して処理する。うむむ、これは大変な仕事ですね...。
山梨県警の管内では、2022年の1年間に遭難事故として155件の発生があり、19人が死亡した。いやあ、これって多いですよね...。
登山客が増えると、いい人もいるけれど、悪い人も目立ってくる。万引きする人だっている。トイレを汚して平気で出発する人もいる。まあ、登山客が全員、善人ということは、やはりありえないことでしょうね。
そして、山小屋は世代交代の時期を迎えている。まあ、そうでしょうね。下界でも、みんな後継者の確保に苦労しているんですからね。
スマホに頼りきりの登山者が、バッテリー切れでスマホが使えなくなって遭難寸前ということも起きているとのこと。スマホに頼れないときのバックアップが山でも必要だということです。
山小屋で働く人々の苦労が少し分かった気がしました。
(2023年8月刊。1210円+税)