弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
社会
2024年11月 1日
西南諸島を自衛隊ミサイル基地化
(霧山昴)
著者 土岐 直彦 、 出版 かもがわ出版
沖縄と西南諸島の島々で自衛隊によるミサイル基地化が急速に進んでいます。
台湾有事になれば、米軍基地が集中する沖縄やミサイル要塞の島々は真っ先に標的になる。「ミサイル戦争」下、島の住民が逃げ惑う惨状がやってくる。
有事の際には米軍と自衛隊とが「統合軍」を形成する。もちろん自衛隊は、米軍の指揮下に置かれる、「目下の軍隊」である。いま、日米の司令部統合体制は事実上、できあがっている。
自衛隊は平時から米艦を防護するし、基地は共同で使用し、訓練に使う。物品・役務も提供させられる。
理不尽のきわみは米兵器を「爆買い」させられること。それも米海兵隊が買わなくなった古い型の水陸両用車(1両8億円)を52両も買うなど、米軍にとって不要になった兵器をアメリカの軍需産業を救済するために買わされる。これが日本の「軍事力強化」の内情というのですから、思わず涙が出てくるほど情けない話です。
馬毛島(まげしま)の基地建設にあたって、反対派の行動を監視するため、漁師を4時間5万円で雇っている。これは、月に100万円もの収入になる。こうやって札束で反対派を黙らせてしまうのです。ひどいものです。
宮古島駐屯地の造成工事が始まったのは2017年10月30日。住民への説明会は11月19日に開かれ、翌日が起工式。説明会の開催は単なるアリバイづくりのため。そして、「保管庫」ということだったのに、実は「弾薬庫」で、中距離多目的ミサイルや追撃砲、弾薬を置いておく弾薬庫だった。この弾薬庫は、民家から、250メートルしか離れていない。また、この弾薬庫にはまったく逃げ場がない。
西南諸島の住民を台湾有事の際には九州へ避難させる計画だそうです。冗談なんか言ってほしくありません。いったい九州のどこに島の住民10万人以上を受け入れる場所があるのですか。
また、船や飛行機で運ぶそうですが、ミサイル攻撃を受けているなかで、そんなことしたら、まさに対馬丸の悲劇の再現ではありませんか。
軍事には軍事で対抗する、なんて古い発想をきっぱり止めましょう。平和は軍事力では決して得られないものなんです。目を覚ましましょう。
(2022年4月刊。1600円+税)
2024年10月31日
「帰れ」ではなく「ともに」
(霧山昴)
著者 師岡 康子 ・ 崔 江以子 ・ 神原元 ほか 、 出版 大月書店
川崎市は、人口155万人の大都市です。京浜工業地帯の工場群のすぐ近くに「桜本(さくらもと)」があります。東日本有数の在日コリアン集住地区になっています。
大学に入ってすぐ、高校の先輩に誘われて私は川崎セツルメントというサークルに入りました。そして、セツルメントなるものが何なのか、何をするのかまったく知らない状況で、現地に出向きました。そこが桜本だったのです。
桜本で川崎セツルは子ども会活動を展開していました。そして、そこに学生が下宿していたのです。いかにも安そうな古びた木造アパートの2階に先輩セツラーの部屋があり、学生が5人ほど膝を詰めて話を聞きました。なにしろセツルメントに入ったばかりで、桜本という下町そのものの町並みも珍しくて、今もって忘れようがありません。
今、桜本の子どもたちが通う市立さくら小学校では、毎年1回、キムチ漬けの体験教室が開かれる。6年生になると参加できる。お楽しみの授業。6年生70人分の白菜を3日前から塩漬けにして、キムチを生徒たちがハルモニたちと一緒につくっていく。
近くに、1988年に開設された川崎市立の「川崎ふれあい館」がある。崔さんは「ふれあい館」で職員として働いている。
そこにヘイトデモが押しかけてきた。2013年5月のこと。レイシスト(差別者)たちが「日本浄化」などを叫んで襲いかかった。
当初、川崎市はヘイトデモに慎重な姿勢を示し、重い腰を上げることはなかった。そこで国会議員に桜本へ視察に来てもらい、実情を訴え、見てもらった。そして、ついにヘイトスピーチ解消法が成立した。2016年6月のこと。
川崎市長は、「自治体でやれることをして、ヘイトスピーチがおこなわれないようにすると答弁し、実行した。また、法務局はレイシストに対して、ヘイトスピーチ解消法を踏まえ、人格権を侵害する不法行為だと認定して勧告した。
ところが、インターネット上のヘイトスピーチはエスカレートしていった。インターネットなんか見なければいい、気にしすぎだというのは、あまりに現実を知らなさすぎる空論だ。なにより仕方がないとして、やり過ごすのは、差別を放置することになる。
インターネットこそ、ヘイトスピーチの震源地であり、拡声器だ。
そこで、裁判を起こし勝訴したのです。一審は人格権を侵害していることを認め、レイシストに対して91万円を支払えと判決した。さらに二審の東京高裁は賠償額を40万円も積み増しを認めました。すごいです。拍手します。
ヘイトスピーチとは、差別的言動のこと、言動による差別。悪質・異質な人々と決めつけ、人間の尊厳を攻撃している。ところが、ヘイトスピーチがネット上で展開すると、たちまち236万件もの閲覧数となる。いやですよね...。
ヘイトスピーチには、「排除類型」「害悪告知類型」「侮辱類型」の4つに分類されている。
ヘイトスピーチそのものが違法である。在日朝鮮人・韓国人に対しての「帰れ」発言は、理不尽だ。彼らの大半は望んで日本にやって来たわけではない。
在日朝鮮人の多くは、現在、特別永住者の在留資格をもつ。「帰れ」発言は、「日本に住まわせてあげている」という意識に裏づけられている。しかし、自分たちの力でなんとか生活してきた在日朝鮮人の歴史を踏まえると、それは「倒錯的な主人意識」というよりほかにない。
誤った右翼へのヘイトスピーチを真実だと思い込んで行動している日本人の若者が少なくないのが、本当に残念です。でも、ヘイトスピーチを許さない社会づくりは着実に前進しています。本書は、その歩みを具体的に紹介し、読み手を励ましてくれます。
(2024年10月刊。1800円+税)
2024年10月25日
檻を壊すライオン(改訂版)
(霧山昴)
著者 楾 大樹 、 出版 かもがわ出版
「おりライ」とも呼ばれている「檻(おり)の中のライオン」講演会は全部の都道府県で累計1000回をこえて開催しているそうです。すさまじいばかりの著者のエネルギーには圧倒されます。
久留米でも近く(11月24日の午後2時から、筑後弁護士会館にて)2回目の講演会が予定されています。
国家権力をライオン、憲法を檻にたとえた憲法解説書「檻の中のライオン、憲法がわかる46のおはなし」が刊行されたのは2016年のこと。それから8年たち、その続編になります。
この改訂版は岸田政権が退場し、石破政権に交代した瞬間に刊行されました。見事な早技(はやわざ)です。
選挙で深く考えることもなく自民党に投票する人が少なくありません。裏金議員を公認してはばからない(公認しない候補者に2千万円も政党助成金、つまり税金を支出したことがバクロされました。ひどいものです)のが自民党ですが、天賦人権説も攻撃しています。人権なんて、国が与えたもので、もともと個人が持っているなんて、間違った考えだというのです。国民は国の言うとおりに従っていればよい、生きるも死ぬも国が決めたことに文句を言わずに従え。それが自民党の考え。どうして、こんな考えに共鳴する人がいるのか、私には不思議でなりません。
そして、自民党は、国民に知る権利なんてないとも言うのです。昔の知らしむべからず、由らしむべしを今も貫いているのが自民党です。あまりにも古臭くて、カビがはえすぎているのが自民党です。
「アベノマスク」のムダづかいはひどいものでした。少なくとも543億円もの税金がムダにつかわれました。安倍の息のかかった企業や公明党関連の企業が丸もうけしたと小さく報道されました。上脇博之教授が裁判を起こしたら、国側はこのアベノマスクはすべて口頭契約で実行されたもので、書面はないと開き直って、裁判官を唖然とさせたと報じられました。許せません。
自民党は憲法改正が必要な理由として、大災害のとき国会議員の選挙ができないときは国会議員の任期を延長できるようにしないと、法執行の行政がやれずに国民が困るというのを理由としています。だけど、正月の福井大地震では、今なお復旧工事が十分ではありません。そして、国会で十分に救済策が審議されないうちに投票日を迎えることになりました。
「大災害が起きたときに困るから」という口実の化けの皮がはがれたのです。大災害がおきたのに、国会で十分な審議もせず、国会を解散してしまうなんて、とんでもないことです。
石破政権は「日本を守る」と称して、大軍拡予算を執行中です。5年間で43兆円。その財源は明らかにされていません。財政法4条で、防衛費のための国債は、発行できないとしています。ところが、「建設国債」でまかなうことにしました。これまた、とんでもないことです。戦前の「帝国ニッポン」に逆戻りしてしまったのです。
石破内閣が誕生したことで、何が問題なのかを改めて総おさらいした感のある本書は、なんと318頁もの分厚いものになっています。でもでも、本当に分かりやすいうえに、読みごたえがあります。さすがは、「憲法講師、分筆業」を自称する著者だけのことはあります。ご一読を強くおすすめします。
(2024年10月刊。1800円+税)
2024年10月23日
中村哲という希望
(霧山昴)
著者 佐高 信 ・ 高世 仁 、 出版 旬報社
この本を読んで一番うれしかったのは、中村哲さんが亡くなったあと、アフガニスタン現地につくられた用水路がどうなっているか知ることができたことです。
2022年11月に行ったら、想像以上に現地がうまくいっていた。用水路は毎年少しずつ手入れしたり、補修しなくてはいけないけれど、地元住民が自発的にやっている。自分たちがつくったものだという思いが強いから、きちんと維持しようとしている。しかも、新しい用水路をつくっていた。
そして、ジャララバード市内に中村哲さんの公園「ナカムラ広場」が出来ている。中村哲さんの笑顔のでっかい肖像が設置されていて、夜はライトアップまでされている。偶像崇拝を禁止しているはずなのに...。
道路の検問所でも、「日本人だ」と言うと、銃を持ったタリバン兵がにこっと笑って「ナカムラ!」と大声で叫んで、「行ってよし」と手を振ってくれる。
いやあ、ホント、うれしい反応ですよね。
ヨーロッパ系のNGOの事業はみんな失敗してしまった。上から目線でやってもダメ。
用水路に水を流すのには傾斜をつける必要がある。100メートルで傾斜7センチ。これで25キロメートルの長さのマルワリード用水路ができた。これによって2万3800ヘクタールの緑の沃野(よくや)をつくり出し、そこで65万人の暮らしを支えている。ただし、水が来るようになって地価が100倍になったところも出てきて、トラブルは絶えないという。その状況で中村哲さんを殺害しようとしたグループが出現したのでしょうね...。本当に残念です。
中村哲さんが殺されたのは2019年12月4日ですから、もう5年にもなります。一緒にいたアフガニスタン人5人も亡くなりました。
中村哲さんは国会に参考人として招かれ意見を述べています。自衛隊を現地に派遣するのは有害無益だと断言しました。それで自民党議員が散々ヤジを飛ばしたうえ、取り消しを求めました。もちろん、中村哲さんは撤回していません。
日本の自衛隊は外国からみた立派な軍隊。そんな軍隊に来てもらったら自分たちは困ると訴えたのです。
自衛隊派遣によって、治安はかえって悪化するとも言いました。人殺しをしてはいけない。人殺し部隊を送ってはいけないと国会で断言したのです。たいしたものです。
中村哲さんは、こんな文章も書いています。
アメリカ軍は、人々の人権を守るためにといって空爆で人を殺す。そして、「世界平和のため」に戦争をするという。いったい、何を、何から守るのか...。本当に、そのとおりです。
いま、日本政府、石破首相がやろうとしているのも同じことです。アメリカの求めに応じて、日本は武器も兵士も戦場に送りだそうとしています。そんなものが平和に役立つはずもありません。必要なことは、軍事力に軍事力で対抗するのではなく、中村哲さんのような、地道に汗を流すことです。決して武器をとることではありません。
(2024年7月刊。1600円+税)
2024年10月17日
保守のための原発入門
(霧山昴)
著者 樋口 英明 、 出版 岩波書店
著者は大飯(おおい)原発の運転差止請求裁判を担当した裁判官です。そして、原発の操業はあまりにも危険だとして操業(運転)差止請求を認容しました。
2017年に裁判官を定年退官したあと、弁護士にはならず、脱原発のため全国に出かけて講演活動しています。
原発のとてつもない危険性を知ってしまったので、愛国心から、「やむにやまれぬ大和魂」(吉田松陰)から原発の危険性を訴えているとのこと。心から敬意を表します。
著者は熊本地裁玉名支部の裁判官でしたから、私も面識があります。
著者は、自公政権が「日本を守る」として大軍拡を進めていることにも批判的です。現実を見ていない「お花畑」は、むしろ自称保守政治家のほうだ。彼らは、仮想敵国やテロリストが我が国の原発を攻撃目標とすることはないというテロリストたちに対する強い信頼を持っているようである。
我が国の海岸ぞいに50基余の原発を並べている状況では、開戦と同時に敗戦が確定する。戦争は絶対にしてはならない。
まったくもって同感です。原発をミサイル攻撃から守ることは不可能なのです。原発が一つでもミサイル攻撃されたら、それが日本のどこであろうと、日本列島が全体として壊滅状態になってしまうのは間違いありません。だって、わずか数グラムのデブリを取り出すのに何年もかかっていて、いつ出来るか分からないのです。ましてやミサイル攻撃にあって放射能が飛散しはじめたら、どんなに「特攻隊」を組織しても、近づくことすら出来ません。どんどん拡散するばかりなのです。
自民党の政治家の多くは裏金まみれですが、原発再稼動を唱えてもいます。自分たちの金もうけのためなら、後世の人々にいかなる負担を負わせても構わないという心根しかありません。まさしく、今だけ、金だけ、自分だけです。そんなことを許してはいけません。
原発の基本的な仕組みは18世紀のワットの蒸気機関と同じで、「大きなやかん」。ところが、違うのは、「停電してもメルトダウン」、「断水してもメルトダウン」。
原発の安全三原則は、「止める」「冷やす」「閉じ込める」。
3.11の福一原発は信じられないような数々の奇跡の連続によって東京をふくむ「東日本壊滅」の事態が避けられたというのが真相。このとき、内閣は天皇をはじめとする皇族に京都へ避難するよう内々に打診したほど。
そして今、国も東京電力も楽観的見通しを述べたて、国民が原発事故の深刻さに目を向けないようにマスコミを必死で統制している。
日本は地震が頻発する国です。今年(2024年)に入ってすぐ(1月1日)、能登半島で大地震が発生しました。マグニチュード7.6です。この被災地の珠洲(すず)市に原発を立地する計画があり、住民の反対で幸いにも実現しませんでした。もし原発があったら、福島原発事故以上の大惨事になっていたことでしょう。日本の原発は、いずれも耐震性が明らかに不足しているのです。著者はこのことを実に分かりやすく説明しています。いま読まれるべき本だと私は思いました。
(2024年9月刊。2500円+税)
2024年10月11日
学校では教えてくれない生活保護
(霧山昴)
著者 雨宮 処凛 、 出版 河出書房新社
名古屋で開かれた日弁連の人権擁護大会のシンポジウムに参加したときに購入した本です。著者が目の前でサインしてくれました。
「生活保護を受けるくらいなら、死んだほうがまし」
「生活保護を受けるなんて、人間終わり」
こんな声を私もよく聞きます。最後のセーフティーネットなのに、それを利用したがらない人のなんと多いことでしょう...。
借金をかかえて二進も三進もいかなくなっている人には、私もためらいなく自己破産をおすすめしています。そして、働けない状況なら、とりあえず生活保護を申請したらいいとアドバイスします。
生活保護を受けたほうがいいのに受けているのは、2~3割だけ。それくらいの捕捉率。ところが、スウェーデンは8割、フランスは9割。圧倒的に日本は低い、低すぎる。
生活保護の利用者が増えないなかで、増えたのは自殺者。とくに女性に増えた。日本全国で年間の自殺者は2万1千人。1日あたり57人が自ら命を絶っている計算だ。異常に多い。これは本当にひどい状況です。すぐに手をうつべきです。
生活保護受給者を担当するケースワーカーは、都市部では1人が80世帯を担当するのが標準。これが自治体の窓口における悪名高い水際作戦の背景になっている。
現代日本の片隅に、「オニギリ1個。腹一杯食べたい」と日記に書きつけた人がいる。
片山さつき議員など、自民党の国会議員が生活保護受給者を繰返し、バッシングしている。「タダ飯暮らし」を許さないという。その人の置かれた状況を知ろうともせずに...。ひどい。
「いのちのとりで裁判」は、本当に大切な裁判です。国は争うのをやめてほしいです。全国29都道府県で原告1000人以上という大裁判。すでに勝訴判決が相次いでいる。
持ち家があっても生活保護は受給できる。
車も絶対に保有できないわけではない。
ペットと一緒に生活するのも、各種制約はあっても出来る。
生活保護受給者であっても大学に行きたい人は行かせるべきです。だって、そこで貧困の連鎖が止まるようにしたらいいのです。
韓国は、生活保護を基礎生活保障に変えました。そこに学ぶ必要があります。そして、韓国では、単給。この単給化で貧困率が下がっている。2015年の受給世帯は100万世帯。そして2020年には、140万世帯超となった。
日本の生活保護システムは非常に古いまま。日本では、コロナ禍の下で国の特例貸付となった。国が国民に借金させた。これって、ホントに支援なのか...??
ドイツでも生活保護バッシングをする議員はいた。ところが、ドイツ連邦裁判所は現在の規定は無効だとする最高裁判決を出した。ドイツでは、よほどのことが発生したとしても、たとえば1年間は審査しない。
日本にいる外国人は276万人。国保に加入できない外国人は100万人超、働くことを禁じられている仮放免の人は6千人。2021年6月時点で、実習生は19ヶ国・地域から、35万人が来日している。ベトナム人が一番多くて6千人近くいる。
大変勉強になる本でした。
(2024年4月刊。1562円)
2024年10月 6日
釜ヶ崎、まちづくり絵日記
(霧山昴)
著者 ありむら 潜 、 出版 明石書店
大阪・釜ヶ崎に生きる不思議なおっちゃん・カマやんを主人公にした4コマ漫画を中心にした本です。
釜ヶ崎とは、大阪市のJR新今宮駅の南側あたりのエリア。「あいりん地域」とも呼ばれる、日本でも有数の貧困集中地域。
著者は、大学卒業直後の1975年(23歳)から今日まで50年間も関わってきました。単行本としては著者の9冊目になるというから、偉いものです。
『カマやんの夢畑』(明石書店)、『カマヤンの野塾』(かもがわ出版)もあります。
この釜ヶ崎もどんどん変わっているようです。今では釜ヶ崎を含む西成(にしなり)区の高齢化率は止まり、人口減も止まって、むしろ人口増に転じている。外国人住民が増えている。たとえばベトナム人の家族が入ってきている。それで、子どもたち相手に日本語を教えるのではなく、ベトナム語教室が開かれている。子どもたちにとっては日本語のほうがネイティブになっているから...。
1960年代に釜ヶ崎にある小学校には1300人の児童がいた。ところが2015年には全校でわずか50人になってしまった。子どもたちがいなくなった。住んでいるのも男8対女2の比率で、60~70歳台ばかり、しかも生活保護受給者の男ばっかりになってしまった。そこで、子育て世代も住めるマチづくりを目ざして取り組んだ。
今や新今宮駅の周辺はホテル、しかも海外からの観光客の泊まるホテルがたくさん立地している。それで、ベッド・メイキングの仕事が新しく生まれた。
2018年4月に、世界銀行の視察団60人が「あいりん地域」を視察にやってきた。貧困地域なのに、清潔で安全、包摂的でレジリエントなまちづくりが進んでいると評価されたのだ。
今夜一晩の寝床のない人々のための「あいりんシェルター」は2015年度に建て替えられた。ベッド数530床。そして、ここのトイレは大変清潔。NPO法人のスタッフのおかげで、いつもピッカピカ。もちろんウォシュレット。
トイレの清潔さは人権でもある。ここを利用すると、自分は世間から人間として対等に扱われていると実感できる。
釜ヶ崎の50年の移り変わりがマンガで知ることのできる貴重な記録になっています。
(2024年6月刊。2800円+税)
2024年9月27日
生きのびるための事務
(霧山昴)
著者 坂口恭平(原作)、道草晴子(マンガ) 、 出版 マガジンハウス
どうやら著者は有名な人のようですね。私はまったく知りませんでした。早稲田大学の建築科を卒業して、作家であり、画家であり、また音楽家、建築家というマルチタレントです。
私は音痴で、楽器はまるでダメ。せめて絵が描けたらと思いますが、小学校のとき銅賞で入選したのが最高です。マンガが描けたらいいなと思いますが、写実的な絵は残念ながら描けません。写真は好きで、そこそこの写真集を出しましたが、趣味の域を出ません。やっぱり写真は被写体のよさと、シャッターチャンスに恵まれるかどうかです。なので、いい写真をとろうと思ったら、四六時中カメラを携帯していて、チャンスを逃したらいけません。
著者はそううつ病であることを公言しているそうです。とても偉いと思ったのは、2012年から、死にたいと思った人ならだれでもかけられる電話サービス「いのちの電話」(090-8106-4666)を続けているというのです。24時間、365日、著者につながるそうです。1日15人、年に6000人から電話を受けているとのこと。まったく頭が下がります。
この本は5月に刊行されて、7月初めにすでに5刷、5万部も売れているそうです。読んでみて、ナットクでした。
著者が20年前、ほとんど無一文の状態にあったとき、この苦境をどうやって脱出したのか、マンガで紹介されていきますので、よく分かります。そのときでも、「きっと、うまくいく」という確信があったそうです。シンプルに一つずつ、起きた順に対処していく。そうすると、別に死ぬことはない。大丈夫だと思ってやってきた、というのです。
もし、人が自らの夢の方向に自信をもって進み、頭に思い描いたとおりの人生を生きようと努めるならば、ふだんは予想もしなかった成功をおさめることが出来る。これは、『森の生活』という本を書いたアメリカの哲学者ソローの言葉。著者は、この言葉どおりに生きていったのでした。
すべての行動をコトバや数字に書きかえる。「事務」とは、行動をコトバに置きかえること。楽しいことは続けたくなるし、継続すること自体が才能になって、そして最後は、どうせうまくいく。いやあ、すごいですね。この自己肯定感にみちあふれたコトバの威力って・・・。
生きてるあいだにすることって、自分が何が好きなのかを探して、それが見つかったら、死ぬまでそれをやり続けるだけのこと。それ以外の人生は、どれもつまらない、ただの退屈な時間だ。
私にとっては、調べものをして、少し考えて、書いていくこと、これが楽しいことです。
すべての自由な人間は冒険を恐れずに楽しむ。そして、冒険があるところには「事務」がある。冒険を始めないかぎり、事務なんて存在しない。
「事務」とは、抽象的なイメージを数字や文字に書きかえて、具体的な値や計画として見える形にする技術。
この本を読んでいると、何かしら元気が湧いてきます。そうか、自分でもできるかもしれないと思わせるのです。
ヘタウマなマンガによるシンプルなストーリー展開なので、心にすっと入ってくる良さもありました。
(2024年7月刊。1600円+税)
2024年9月26日
内閣官房長官の裏金
(霧山昴)
著者 上脇 博之 、 出版 日本機関紙出版センター
政権を握るということは、毎月1億円を好き勝手に使っていいということ。税務調査の心配もないし、領収書も不要。飲食代金に使おうが買収・供応資金に使おうが勝手次第。
月1億円を自由に使える。これが官房長官の機密費です。
ところが、実は、外務省にも同じような裏金があるのです。外交交渉で、外国の政府要人を買収・供応するための資金として「活用」されているようです。ときには、大使や外務省の担当官が、着服しているのが発覚して問題になったりもしますが、たいていは闇の中です。
この本で取り上げている裏金は、正式には「内閣官房報償費」と呼ばれます。月1億円、年12億円がきっちり支出され、使い残ったとしても国庫に返納するということはありません。
会計検査院の実質的な審査はありませんし、領収書のチェックもありません。
消費税を導入するとき、この官房機密費が十数億円も使われたことが明らかになっています。表向き反対していた公明・民社の議員を「買収」したのです。
与野党対決の予想される重要法案を成立させるための国対費は1件あたり5千万円、ときに数億円になる。つまり、野党議員を裏金で「買収」していた(る)ということです。ひどいものですね...。
沖縄県知事選挙にも、この官房機密費が使われました。1998年11月の知事選のときには1億7千万円が支出されたとのこと。
国会議員が「海外視察」に行くときには餞別(軍資金)として、与党議員だと新人でも30万円、中堅以上なら100万円。いやあ、おいしいエサですね...、これって...。
退任する日銀総裁、検事総長、会計検査院長にも百万円単位が渡される。最高裁長官には渡されないのでしょうかね...。
著者は、この裏金の実態を明らかにしようと、裁判を起こしました。そして、ついに最高裁ですら、全面的ではないにしても、一部の開示を明示するよう判決したのです。
著者の執念には、ほとほと頭が下がります。
(2018年7月刊。1200円+税)
2024年9月20日
政党助成金、まだ続けますか?
(霧山昴)
著者 上脇 博之 、 出版 日本機関紙出版センター
2019年7月の参議院議員選挙で自民党の河井克行・案里夫婦の公選法違反(買収)事件のとき、自民党本部から1億5千万円もの大金が河井夫婦に渡されたが、そのうち1億2千万円は政党交付金だった。つまり、私たちの納めた税金が自民党議員の当選のための買収資金として使われたということです。とんでもない税金の使途です。
政党助成金の根拠となる政党助成法が制定されたのは1994年なので、もう30年にもなります。「政治改革」の名のもとに導入されたのですが、かえって政治が悪くなり、国民に無力感を植えつけてしまいました。
自民党本部のお金は幹事長マターだが、このときの1億5千万円は安倍首相の強い意向によるもの。河井克行は、安倍首相補佐官を長く勤めていて、対立候補は安倍にケチつけていた人物なので、その恨みを安倍は晴らしたかった。そして、1億5千万円のうちの1億円は自民党本部の使途不明金(つまりは裏金)だった。
政党交付金の原資は国民の支払った税金。なので、残金が生じたら、当然、国庫に返納すべき。しかし、自民党は返納していない。そして、政党基金とか支部基金として貯めこんでいる。その総額は、なんと277億5千万円をこえる。いやあ、とんでもない税金の使い方です。許せません。
「残金」を返納しないのは自民党だけではない。
政党交付金は税金を原資としているのに、政党交付金の使途は透明度が高くない。とくに、人件費は明細が不明。いつ、誰に、いくら支払ったという明細が記載されない。
自民党本部は、政策活動費に12億円ほど使ったことにしている。
そもそも、私的な存在である政党のために税金を投入してよいものなのか・・・。
政党交付金は317億円超。その半分以上の172億円が自民党本部に入っている。25年間でみると、政党交付金の72%、総額8221億円を自民党本部が吸い上げている。自民党本部の「人件費」の98%は政党交付金でまかなっている。自民党は大きな口を叩いていますが、政党交付金への依存度が高く、いわば国営政党というべき存在なのです。もっと謙虚に、大企業・金持ちのためではなく、庶民のための政治をしてほしいものです。
税金である政党交付金をもらっていると、国民から政治資金を集める努力をしなくなる。政治資金規正法を改正して、政党が公職の候補者に寄付することを禁止すべき。私も、この著者の提案にまったく賛成です。
自民・公明政権は領収書を10年後に公表するという、まことに奇妙奇天烈な法律を先日制定しました。信じられないほどの愚法そのものです。今いる国会議員のうち、10年後も国会議員だという人は、それだけいるでしょうか・・・。恐らく、ほとんどいないでしょう。
著者は、今のような小選挙区制ではなく、完全比例代表選挙にして、民意を正確に反映する国会の構成にすることを提唱しています。まったく異議なしです。
著者のweb講演を福岡の会場で視聴しました。その受付で販売されていた本を買って、読んでみたのです。大変勉強になりました。
(2021年2月刊。1200円+税)