弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

社会

2024年6月28日

祝福二世


(霧山昴)
著者 宮坂 日出美 、 出版 論創社

 安倍元首相を射殺した山上容疑者の裁判がようやく始まりそうです。
 統一協会のために一家が大変悲惨な状況に陥ったことから、その責任を追及すべく安倍首相を射殺したと伝えられています。もちろん私も、どんな事情があったとしても、「元首相暗殺」という手法を肯定するつもりはまったくありません。ただ、統一協会が昔も今も日本社会に多大な害悪をもたらした(もたらしている)団体、エセ宗教団体であることは間違いありません。
 著者は統一協会の解散命令には反対のようですが、私は、一刻も早く政府は解散命令を出し、税法上の特典なんか統一協会から奪うべきだと思います。
 それにしても、山上容疑者の母親は、今なお現役の信者のようです。本当に怖いことです。「洗脳」とは、こんなにも人間を変えてしまうものなのですね...。まともな判断力を奪ってしまう怖さです。
 この本の著者も長く統一協会の信者として活動していて、今でも信仰を捨てたとしながら、この本の最後に「今は味方が少ないからこそ、統一協会を応援したいと私は思っている」と書いています。信じられません。
 著者は、あるとき突然に統一協会を脱会したというのではないそうです。いくつかの出来事があって、次第に疑問がふくれ上がっていったとのこと。
 その一つが、「祝福結婚」の実態です。韓国の結婚できない若い男性が日本人女性と結婚できると思って申し込むのです。その実例の日本人女性の話を著者は会って聞いたのでした。男性は信者でも何でもありません。片方が信者ですらない「祝福結婚」が存在することを知って、「祝福結婚」への意欲を完全に見失った。そして、それは「祝福二世」として生きつづける意味が崩壊したことも意味した。まったくショックだったと思います。
 次に、文鮮明が、あわれみの涙をこぼした話。ある日本人信者が、寄付集めの物品販売を7年も続け、その間に新しい下着を買うことすらできなかった。それを聞いた文鮮明は「かわいそう」と泣いたという。しかし、著者はそれは違うと考えたのです。むしろ、堂々と、ほめたたえるべきではなかったか...。
 「万物復帰」という物品販売・寄付金集めは、「救い」になるというのではなかったか...。文鮮明が「あわれみを感じて泣いた」というのは、「自己洗脳」が足りていなかったということではないか...。
 日本人の信者には厳しい献金ノルマが課されるのに対して、韓国人信者には、そのようなものはない。日本人の著者からみると、韓国人は「選民」としてあぐらをかいているだけ。
統一協会の信者として活動するなかで、著者は自分の頭で考えることができなくなった。それは自己中心的だとして批判の対象にされるから...。
 統一協会での物品販売活動は「堂々と嘘をつく」ことが基本。こんなのを「宗教」と呼んでいいのでしょうか...。
 自民党議員の秘書には今も少なくない統一協会の信者がいて、彼らは相互に連絡をとりあっているとみられています。そんな秘書をかかえた自民党議員が、今なお夫婦別姓の実現を阻止しているのです。ひどい話です。
 著者が出会った信者たちは、もともと真面目な、真面目すぎるほどの人たちがほとんどだったと思います。そのような人々を大切にすることは理解できますが、元凶である統一協会に「味方」するというのは、ぜひ考え直してほしいです。
 なお、私は、「統一教会」という略称は間違いなので、使いません。教会ではないのです。
(2024年3月刊。1800円+税)

2024年6月23日

湖池屋の流儀


(霧山昴)
著者 佐藤 章 、 出版 中央公論新社

 イモカリントは良く食べますが、ポテトチップスを食べることはほとんどありません。なんとなく油がきついといいうイメージがあるからです。
 ポテトチップスは料理に近く、その延長のようなもの。湖池屋は、昔から、料理をつくるような感覚でポテトチップスをつくってきた。
 ははん、料理をつくる感覚のポテトチップスって、一体どんなものなんでしょうか・・・。
 日本中のじゃがいもを取り寄せて、何度も揚げて、ポテトチップスとして一番おいしいじゃがいもを探求した。
 ふむふむ、これはすごいことですね。わが家の庭でも6月にじゃがいもを収穫して、美味しくいただきました。
いま、「湖池屋プライドポテト」なるものがあるそうです。すごいらしいです。なにしろ、他社100円のところを、150円にして、競争に打ち勝ったというのです。質が良くなければ、ありえませんよね・・・。
 他社との安売り競争に巻き込まれたら、社員も会社も疲弊してしまって、泥沼にはまり込んでしまうだけ。
 そうなんです。弁護士だって同じです。低料金で何でもやりますなんていうのは、いくらでも手抜きしますよといっているようなものです。
 湖池屋は国産原料にこだわり、本物志向を創業以来貫いている。これは大いに評価できますよね。
日本人の味覚にあった、日本人が美味しいと感じるポテトチップスを目ざす。いやあ、いいですね、これって・・・。
 物量で押しきるようなパワーマーケティングではなく、付加価値を生み出す経営。価値あるものを生み出してきちっと光る存在になる。そのために明快な商品をつくり出す。安売り市場なんか一切見るな。ライバル社と対極的な企業ポジションをつくって打ち勝て。原料となるじゃがいもは100%国産を貫く。そのためには、北海道、東北、関東、九州など全国の農家と提携する。
 2017年2月に全国のコンビニで売り出した「プライドポテト」は、初年度だけで40億円もの売り上げを達成。いやはや、なんともすごい・・・。
 新規社員を採用するときは、会話がちゃんと壁打ちになって返ってくることが前提。一言いえば返ってきて、返ってきたことを受け返すと、またはね返ってくる。人の言葉を受けとめる力、聞く力は、いま改めて大切だ。
 モノづくりの最前線でがんばってきた人のコトバには、さすがに重みがあります。
(2023年12月刊。1600円+税)

2024年6月20日

公園の木はなぜ切られるのか


(霧山昴)
著者 尾林芳匡・中川勝之 、 出版 自治体研究所

 東京でも大阪でも、そして福岡でも、公園の木がつぎつぎと大量に切り倒されています。
 まず先行したのは、維新がリードする大阪です。なんと1万9000本を伐採します。「身を切る改革」ではなく、「木を切る改革」です。ひどいものです。
 次は、インチキ経歴(「カイロ大学をトップで卒業」どころか、中退)の小池百合子の東京です。明治神宮外苑のイチョウ並木を切り倒して、伊藤忠商事の本社ビルの建て替え、三井不動産による再開発を進めようとしています。そして福岡は須崎公園です。
どうして、大阪も東京も、こんなに大量の木を伐採しようとしているのか・・・。その理由は、ズバリ、お金です。公園の維持・管理にあまりお金をかけたくない、そして大企業に公園を「切り売り」して収益事業の場を提供するのです。これまで、お荷物でしかなかった公園が自治体はガッポガッポと収益を上げる金の卵になるのです。いやあ、さすがは維新、そして小池百合子です。表ではキレイゴトを言っておいて、裏にまわったら、自分たちのフトコロだけは豊かにしようという魂胆です。
 でも、公園って、住民の良好な生活環境のために、また災害時には避難場所になる防災拠点になるのです。それを目先の経費削減、民間事業者への収益の場の提供に代えるなんて、許されません。
 もともと、大阪も東京も、緑が少ないことが問題なのです。それをさらに切り詰めてしまおうというのですから、ひどいものです。
 この冊子を読んで、会計検査院が経費節減効果を疑問だとし、むしろ住民サービスの低下(約束違反)をもたらしていると指摘していることを知りました。それほど、大阪の維新、東京の小池百合子のやっていることはひどいのです。ごまかされてはいけません。
 私が毎月1回、日弁連の会議のため上京するたびに足を踏み入れる日比谷公園も大改装中です。公園と銀座をつなぐ大型デッキを2ヶ所につくるんだそうです。私は、そんなデッキなんて必要ないと思います。
わずか60冊の小冊子ですが、公園の木を切り倒してはいけない理由が簡潔によくまとめられています。ぜひ、手にとってお読みください。
 著者の尾林弁護士は、東大でセツルメント活動をしていました。その意味で、私の後輩になります。今も水問題など旺盛な活動を展開していて、日頃から大いに尊敬しています。
(2024年5月刊。990円)

2024年6月14日

密航のち洗濯


(霧山昴)
著者 宋恵媛・望月優太 、 出版 柏書房

 戦後(1946年)、尹紫遠は朝鮮から日本へ密航し、東京(中目黒当たり)で洗濯屋「徳永ランドリー」を営んだ。日本人の妻と結婚して子ども3人をもうけた。そして自伝的要素の色濃い作品を書き続けた。文筆では食べられないので、洗濯屋をした。
 1964年9月、53歳で無名のまま亡くなった。ところが、2022年になって、生前に書き続けていた日記が出版され、にわかに脚光を浴びた。
 植民地期に日本にやってきた在日朝鮮人一世が日本語で書いた日記はきわめて珍しく貴重なものとして注目された。
 この本は、2人の子どもの協力も得て、日記に登場してくる場所をたどったりして、当時の社会状況を明らかにしています。
 1946年の来日は、韓国の蔚山(うるさん)からの密航。沿岸警備隊に発見されないよう深夜に出港。小さな船に30数人の朝鮮人が乗っていた。このとき、洋上を飛びまわって監視している飛行機はアメリカではなく、イギリス連邦占領軍。つまり、イギリスやオーストラリア、ニュージーランドなど。
このころ、日本人が海外から大量に帰国していた。そのなかで、コレラが発生した。検疫のため、14日間上陸地にとどめおかれ、何事もなければ日本人は上陸を許され、朝鮮人は強制送還される。
 尹紫達は東京で生まれ育ったが、徴用を恐れて朝鮮に渡ったのだった。
 佐世保におけるコレラ患者の死亡率は日本人26.8%、朝鮮人32.6%。
 佐世保での死亡者27人のうち半数の死因はコレラで、残りの半数も栄養失調や急性大腸炎。幼い子どもたちの栄養失調死が目立つ。
 尹紫遠は、東京に戻ってから1年あまり、夕刊紙「国際タイムス」の準社員として働き、月給をもらった。
 日本人の妻・登志子と結婚したあと洗濯屋を開業した。妻の登志子は満州に渡っていたが、戦後、なんとか日本に帰国できた。裕福な家庭の令嬢として育ってきたが、朝鮮人と結婚するということで、実家とは断絶の関係となった。そして、尹紫遠と結婚したことから、登志子もまた朝鮮人とみなされた。
子どもは、両親の夫婦げんかが聞くに耐えなかったという。父親は「日本人の女が・・・」と言い、母親は「朝鮮人は・・・」と言って、ののしりあうのが嫌でたまらなかった。
「やっぱりブルジョアジー崩れの女はダメだ。おれの敵だ」と日記に書いたのでした。
息子は、日本の会社には入れないと分かっていたので、外資系の企業に入った。
このあと、逆転劇がありました。尹紫遠は「金さん」と結婚していて、そのままになっていたので、登志子の結婚は「重婚」ということになり、認められない。すると、登志子は初めから今までずっと「日本人」戸籍のままだったということになる。そこで、登志子たちは日本人であることが改めて確認されたのでした。
「日記」に書かれていることの大半は、お金の心配と妻登志子の悪口。拍子抜けしてしまうとのこと。
戦後日本における在日朝鮮人の生活状況を知ることができました。
(2023年3月刊。1800円+税)

2024年6月11日

中村哲さん殺害事件、実行犯の遺言


(霧山昴)
著者 乗京 真知 、 出版 朝日新聞出版

 2019年12月4日午前8時すぎ、アフガニスタンにおいて中村哲さんは出勤途上で銃撃され、護衛の警察官ともども殺害されました。この本は、この殺害状況を詳しく明らかにすると同時に、殺害犯人たちの素性を突きとめようとしています。
 この本を読んで浮かんだ私の疑問は2つ。その一つは、「犯人」は中村哲さんを殺す気はなかった、誘拐するつもりだったといいますが、銃撃状況は最初から全員を殺害するつもりだったとしか考えられません。護衛の警官はみな反撃するまもなく殺害されていますが、それは四方から一度に銃撃されたため、どの方向に反撃していいか分からなかっただろうとされているのです。誘拐なら、威嚇射撃をして、抵抗を抑圧して交渉に入るはずですが、そんなことはなく、「犯人」たちは四方から一斉に銃撃しています。
 また、その二は「犯人」の黒幕はパキスタン政府だという説が紹介されていますが、これまた本当なのでしょうか。クナール川の水をアフガニスタン側に導水したことをパキスタン政府は苦々しく思っていたというのです。それが中村哲さんを殺害する動機になるのか、私にはいささか疑問です。
 中村哲さんの出勤路はいつも決まっていたようです。近くの太い通りは、朝は一方通行になっていて通れず、別のルートは遠まわりになってしまうのです。
犯行グループは、通りに先回りしている待ち伏せ班と、待ち伏せ班の目の前に中村医師の車列が止まるよう進路をふさぐ白いカローラに乗った班と2手に分かれていた。彼らは、単なる強盗(犯罪)集団ではなく、計画的に中村哲さんを狙った。
 護衛たちは、反撃するまもなく、全員が撃たれた。四方から銃弾が飛んできたので、どこに撃ち返したらよいか分からないまま次々に殺害されてしまった。
そして、中村哲さんが、銃撃のあと、ふっと頭を上げ、左右を見渡した。それを見た「犯人」の1人の若い男が「日本人が生きている」と声を上げたので、それを聞いた自動小銃の男が四駆のフロントガラス越しに3発、中村哲さんに向けて弾を撃ち込んだ。
 そのあと、自動小銃の男は「全員死んだ。行くぞ」といって、中村さんの護衛人たちの銃を奪ったあと2台の車に分乗して現場から立ち去った。
 若い男は中村哲さんのことを「ジャパニ(日本人)」と呼んだから、標的が「日本人」であることを知っていたと思われる。
 この殺害現場の近く、50メートル先には、防犯カメラがあり、殺害前後の状況が残っている。防犯(監視)カメラは、アフガニスタンの田舎にもあるのですね・・・。
 中村哲さんを殺害したのは9人前後で、パシュトゥー語を話していた。
犯人の一人として疑われている人物がハズラット・アリ(57歳)という政治家です。クナール川流域における水や土地にからむ紛争にからんでいるそうです。
 主犯の一人と見なされたアミールは2021年1月に銃撃戦で死亡している。
 中村医師と同時に殺されたのは、運転手1人と護衛役の4人、計5人。護衛役の4人は、中村医師を守るために遠くから派遣されてきた警察官。
それにしても、中村哲さんを殺害するなんて、とんでもない馬鹿な男たちがいたものです。残念でなりません。私は中村哲さんが日本に帰ってきたとき、自宅のある大牟田で、JRの駅のホームに見かけたことがあります。日本は、中村哲さんのような平和的方法でこそ国際貢献をすべきだと思います。
(2024年2月刊。1600円+税)

2024年6月10日

カレー移民の謎


(霧山昴)
著者 室橋 裕和 、 出版 集英社新書

 ネパール人が営むインド料理店が日本全国に5000軒ほどある。
ええっ、そ、そんなにあるの...。インド料理って、インド人がやってるんじゃないんですね...。
 ネパール人は日本のインド料理店で8年とか10年のあいだ働いて、それから独立する人が多い。
ネパール人の人口3000万人のうち40%は貧困層。1人あたりの年間所得は20万円ほど。家族・親戚のうち、誰かは必ず海外で働いている。
 海外からネパール本国への送金額は1兆1千億円に直し、GDPの3割を占めている。ネパールは世界屈指の「出稼ぎ国家」。
在日ネパール人は15万6千人(2023年)。10年前(2013年)は3万人だったので、10年間で5倍に増えた。
 日本に来たネパール人10人のうち成功するのは2人くらい。ネパール人の営むインド料理店は必ずしもうまく行っているとは限らない。うまくいっている店は、地域の日本人としっかりつながっているところが多い。
ネパール人は安全運転、まず失敗しないことを選ぶ。なので、初めに入って学んだ料理を独立してからも同じもの(味)をつくる。そして、自分のまかないは、ネパールの家庭料理で、店でつくっているものとは全然違う。
 インド人は男性が稼いで女性を養う。でも、ネパール人は妻も働く、家族で働く。いま日本にいるネパール人の3分の1が「家族滞在」。インド人は、カースト制度の意識が反映して、自分の仕事しかしない。ネパール人は、ひとりで何でもやる。
 ネパール人は、インド人と違って食材のタブーがない。イスラム教徒のインド人は豚肉を扱えない。
 カレー屋は、ネパールの貧困を固定化する装置にもなっている。
ネパール人が来日するとき、紹介料として100万円以上支払うことが多い。
 日本のカレーは、どろっとしたものが多いのに対して、インドやネパールのカレーは、もっとスープ状のもの。
 「インネパ」なるコトバを初めて聞き、その内実を知ることができました。
(2024年3月刊。1200円+税)

2024年6月 9日

パラサイト難婚社会


(霧山昴)
著者 山田 昌弘 、 出版 朝日新書

 戦前の日本社会は「離婚大国」だった。明治時代も、その前の江戸時代も離婚は多かったのです。東北地方では2組に1組は離婚した。結婚が50万5千組で離婚は18万組ですから、およそ3対1の割合です(2022年)。
 離婚の8割は協議離婚で、裁判離婚は1%。私も常時、離婚裁判をかかえています(現在2件)。結婚して10年以内の離婚が半数に近い。私も、弁護士として、子どものいないカップルには気安く離婚するよう勧めています。
離婚の多くに経済問題がある。
 非嫡出子の割合は明治時代の半ばまで10%だった。今では2%。ところが、フランスではなんと60%にもなる。うひゃあ、これはすごいことですね。
 離婚は二極化している。富裕層と貧困層に離婚が多い。経済条件があまり変わらないからでしょう、きっと...。
 離婚は、今では「人生を左右する非常事態」ではなくなり、「人生の一大イベント」にすぎない。離婚は人生のステップアップなのです。ためらう必要はあまりありません。
 男性の3割弱、女性の2割弱が結婚せずに人生を終えている。
 生涯未婚率は、50歳の時点で「未婚」の人たちの割合をいう。
日本人の結婚観、そして離婚についての考え方は大きく変わりつつあるという実情がよく分かる新書です。
(2024年2月刊。990円)

2024年6月 8日

「漢語四方山話」


(霧山昴)
著者 一海 知義 、 筧 久美子・文生 、 出版 岩波書店

 呉(ご)音と漢音の由来(ゆらい)と相違点。
 呉音は昔の中国の南方音で、漢音は北方音が日本に伝わったもの。
 仏教は奈良朝より前、つまり漢音が日本に渡来するより前に日本に伝わったものなので、お経は呉音で読まれてきた。したがって、仏教関係の言葉はだいたい呉音で読む。
 792(延歴11)年以降、朝廷はこれから漢文は漢音で読むようにという布令を繰り返し発した。ところが、なかなか徹底しなかった。
 たとえば、元号についてみると、大正は漢音ならタイセイで、ダイショウは呉音。昭和も漢音ならショウカであり、呉音でショウワとなる。つまり、現実には、呉・漢混同で読まれている。
生は、呉音ではショウと読み、セイというのは漢音。
 漢文の読み方は、いろいろあって難しい。捲土重来は「けんどちょうらい」と読むべきもの、ただ、「じゅうらい」と読んだら間違いかというと、そうでもない。この語句は唐の杜牧(とぼく)の詩に由来するもので、土を捲(ま)きあげ、重ね来たらんという意味。
 傍若無人を、「そばに若い人がいない」などと間違って理解されることがある。本当は、「傍(かたわ)らに人無きが若(ごと)し」と読むべきもの。つまり、世間体を気にせず、心のおもむくままに自由に行動することをいう。
 御用は、もともとは皇帝が使用するもの、という意味の言葉。明治維新のころ、官尊民卑の風潮のなかで、政府のお先棒をかつぐ新聞は、自ら「御用新聞」という看板を掲げ、それによって民衆の信用と尊敬を得ていた。ところが、自由民権運動の高まりのなかで、「御用」の価値が逆転した。それから、「御用学者」というと、軽蔑の意味が込められて用いられている。
 不夜城というのは、たとえば夜の銀座を指して使われたりする。もとは、古代中国の幻の町につけられた名前。遊仙志向の方士が架空の世界をあたかも実在するかのように語り伝えてつくり出した地名。それが、唐の玄宗皇帝のとき、夜も昼間のように灯火が明るく輝いているという意味で使われるようになった。
 「春風に坐するが如し」とは、まるで春風にでも吹かれているかのような心地よさを意味している。
 漢語について、認識を深めました。
(2005年2月刊。2400円+税)

2024年6月 6日

社会を変える学校、学校を変える社会


(霧山昴)
著者 工藤 勇一 、 植松 努 、 出版 時事通信社

 著者の工藤さんは、東京の麹(こうじ)町中学校の校長を6時間つとめ、定年後の今は横浜の中学・高校の校長です。
麹町中学校の校長として、学級担任制を廃止して学年担任制とし、中間・期末テストそして宿題を廃止して単元テスト・再テストをセットで導入し、校則を廃止し、また数学の一斉指導を全廃しました。いやあ、すごいことです。日本でも、校長がその気になれば、今だって、これくらいの画期的な革命は実現できるのですね...。ぜひ、全国の校長先生に勇気をもって追従・普及してほしいと思います。
 「先生が教えない授業」をすると、子どもたちが自分の意思で教師に質問するようになるそうです。子どもは、言われて嫌々やれば、教師への反発する気持ちが生まれるし、サービスに慣れ切ってしまった子どもは、他力本願で自己決定ができない。逆に自分の意思でやれば、とんでもない力を発揮する。なるほど、そうなんですね。自発性が大事なんです。
 親が先回りして、どんどんやってしまうと、子どもが自分で考えたり、リスクを取って挑戦することができなくなってしまう。子どもには、どんな小さなことでも、自己決定させることが大切。  
学年担任制にすると、子どもたちや保護者が相談したい教師を自由に選べる。すると、教師へのクレームが劇的に減る。教師のほうもメンタル的に解放されて、連携しやすくなる。たしかに教師が学校で伸び伸びしていると、子どもたちへの好影響は甚大だと私も思います。
 日本は明治維新から、ずっと毎年70万人ずつ人口が増加してきた。ところが、今では毎年80万人ずつ人口が減っている。山梨県クラスが毎年一つずつなくなっているということ。これは大変なことですよね。結婚しない、子どもをつくりたくないという主要な要因の一つに、若者に収入の不安定な非正規雇用が多いということがありますよね。
 もう1人の著者の植松さんは、北海道の赤平市で会社を経営している。この会社は小さいながらも、世界的に注目されているモノをつくっている。たとえば、低電力で強力なマグネットを発明したので解体した資材の中から、鉄だけを拾い上げる機械をつくっている。そして、その業界シェアは、なんと日本一。
 また、宇宙空間と同じ微小重力状態を地球上でつくり出せる実験装置を生み出した。これは世界に3台しかない。なので、アメリカの企業も実験したいと日本にやって来る。いやはや驚きますね...。
 植松さんは、大卒理系はすぐに「それは専門外です」とかいうので採らず、高卒文系の子を採用している。その豊かな発想を大切にしているというのです。
 植松さんは、大学に入るのに「学歴」という他者評価のためだけに行くのでは、時間とお金がもったいないと考えている。
 また、宇宙のことだけをやりたいと就職希望の学生がいたら、採用しないようにしている。宇宙専門の会社ではないから...。このように、植松さんの発想は「あたりまえ」ではありません。
植松さんの会社では「ベーシック」インカムの給料制度をとっている。具体的にはどうなっているのか、知りたいところです。
 植松さんが従業員を選ぶ基準は、雑談が弾(はず)む人、いい文章が書ける人である。
 国立大学の学費が再び値上げされようとしています。年に10万円も値上げするというのです。とんでもないことです。政府はオスプレイやトマホークを購入するのを大胆カットして、その分を教育・福祉にまわせば、値上げなんかする必要がないどころか、学費をタダにできるのです。すべては自民・公明の間違った軍事予算偏重政策のせいです。
 子どもにもっと「投資」すべきだし、豊かな発想を育てる環境を大人はつくりあげるべきだと、改めて痛感しました。
(2024年3月刊。1800円+税)

 庭のジャガイモを掘り上げました。今年は不出来じゃないかと心配していましたが、まあまあの収穫ではありました。
 でも、大きいのは赤い細い虫が食い込んでいて、中くらいのと小さいのばかりで、昨年ほどはとれませんでした。
 ポテトサラダは最高です。とはいうものの、私は「食べる人」なので、何でも美味しくいただいています。ブルーベリーがもう少しで食べられそうになっています。
 ノウゼンカズラの橙色の花が咲きはじめました。
 朝顔のタネをまいたら、少しずつ芽が出ています。夏の朝には、真紅の花がよく似合います。

2024年6月 4日

流出する日本人


(霧山昴)
著者 大石 奈々 、 出版 中公新書

 海外移住の光と影というサブタイトルがついています。
 最近は聞きませんが、少し前までは退職して年金生活者になったら、物価の安い東南アジアの国に移り住んで優雅な生活を送っている日本人高齢者がいるというのがニュースになっていました。でも、コトバも生活習慣もまるで違い、何より身近な友だちもいないなかで、何を楽しみに生きていくことになるというのか、私にはまったく想像できない話でした。
 通産省は「シルバー・コロンビア計画」なるものをすすめていたのですね。オーストラリア、カナダ、スペインなどに、退職した日本人の移住者村を建設して、老後の海外生活を支援する計画でした。でも、「老人輸出」とか「棄民計画」と批判されて頓挫してしまいました。当然です。そんなものがうまくいくわけがありません。思いつきで良いことは何ひとつないのです。  
日本人の海外移住は52万人。アメリカに41万5千人、中国に10万人強、オーストラリア10万人、カナダ7万人、タイ7万人。そしてアメリカには20万人以上の日本の永住者がいる。
海外移住するのは、女性のほうが多い。カナダでは8割近いし、オーストラリアでも7割が女性。
日本人の帰化率は5割に達しない。中国は7割、インドは8割近いのと対照的。
日本人の大卒率で海外に永住するのを希望するのは25%。
この40年間に、ワーキングホリデー制度を利用した日本人は50万人以上。
この30年間に、20万人の日本人女性が国際結婚によって海外へ流出した。
離婚をきっかけに単身で海外に出る日本人女性もいる。ただ、海外に移住したあと、クレ被害者となった女性も少なくなく、帰国したくても帰国できないというケースもある。
海外で暮らすことのメリットとあわせてデメリットも考えておく必要があることがよく分かる新書でした。
(2024年3月刊。840円+税)

 久しぶりに筑後川でしかとれないエツのフルコースをいただきました。刺身は、叩きみたいにしてミソだれで食べます。塩焼き、煮つけ、天ぷら、つみれ(団子)、どれも美味しく、すっかり満腹となりました。
 目下、6月中旬のフランス語検定試験(1級)を目ざして猛勉強中です。過去問が1995年からありますので、30年も受験していることになります。残念ながら、成績は低下する一方で、最高で5割近くまでいった(6割で合格)のですが、今や4割もとれず、3割ほどでしかありません。ボケ防止のつもりで、がんばっています。

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