弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
社会
2023年7月19日
3.11大津波の対策を邪魔した男たち
(霧山昴)
著者 島崎 邦彦 、 出版 青志社
著者は東大名誉教授で日本地震学会の元会長です。3.11の前に、大津波への対策をとる必要があると提言したのに、上から圧力がかかってもみ消されてしまったことを明らかにして、その圧力をかけた人たちを糾弾しています。
2002年夏、専門家たちは大津波がありうると警告した。この警告にしたがって対策をとっていたら、3.11の大災害は防げたはずだ。著者はこのように強調しています。私は、このくだりを読んで怒りに震えました。
この提言(警告)について、当時の防災大臣が発表するのに反対し、内閣府の防災担当が発表を止めようと圧力をかけた。結局、発表されることにはなったが、その文章には「津波対策はとらなくてもよい」と読めるくだりが入れられた。
東京電力は大津波なんか起こらないと役所をだまし、津波の計算をしなかった。東京電力は福島原発が大津波に弱いことを知っていた。しかし、対策はしなかった。対策をとる代わりに、対策の延期を専門家に根回しし、役所に延期を認めさせた。そのうえ、これまで大津波に襲われたことはないと言いはじめ、だから大津波は来ないから対策しなくてもよいと役所に認めさせた。
著者は、地震学の専門家として(権威ですよね)、3.11大津波は人災だったと断言しています。東京電力も社内では子会社に計算させていて、予想される大津波の高さは15.7メートルというのが分かっていた。実際の3.11大津波は高さ15.2メートルだったから、ほぼ予測どおり。なので、この予測にもとづいてしっかり対策をとっておけば3.11原発大事故は起きなかった。
いやはや、東電の無責任さは犯罪的としか言いようがありませんよね。でも、東電の歴代社長たちは刑事責任を問われることなく、今ものうのうと暮らしています。許せません。
著者は原子力ムラなるものは確実に存在すると断言しています。そして、厄介なのは、村の住人が入れ替わること。そこで、誰かが主(ぬし)となって一人で仕切っているのではない。ただ、住人は入れ替わっても、ムラの根底に存在するものは変化しない。それは、原発を推進しなくてはいけない、という空気。組織としての惰性(だせい)。「今だけ、カネだけ、自分の会社だけ(良ければいい)」という意識が貫いている。
3.11のあと、著者は日本記者クラブでこのことを明らかにした。しかし、メディアはまったく無視した。そうなんです。原子力ムラにはマスコミも同じ穴のムジナなのです。
地震が起こると原発は危険だと思われると、電力会社は裁判で不利になる。原発の建物や運転にストップがかかる心配がある。こんな電力会社の主張が国を動かしている。いやはや、国民の生命や健康なんか、二の次。まっ先に優先されるのは東電や九電のような電力会社の利益なのです。
東電は高さ15.7メートルの大津波に備える防潮堤をつくるのには4年の歳月と数百億円が必要になるので、武藤副本部長を先頭としてそんな対策は必要ないことにした。
著者は政府の関わる各種会議のメンバーになっていますが、実は大事なことは政府事務局の主導する秘密会議で決まっているという実態も暴露しています。要するに、学者は表向きのお飾りの役目を果たすだけということです。これまた怖い現実です。
政府も東電も、3.11福島原発事故の責任をとらないまま、自民・公明の岸田政権はまたぞろ原発の新増設に動き出しています。歴史の教訓に学ばず、それどころか逆行しています。選挙での投票率の低さがそれを支えています。
日本人は一刻も早く目を覚まさないと、本当に明日が危ういと本気で私は心配しています。
(2023年6月刊。1540円)
2023年7月 4日
統一教会
(霧山昴)
著者 桜井 義秀 、 出版 中公新書
統一協会(本書では教団の自称であり、世界や学術書で定着した名称として「統一教会」としていますが、「統一神霊協会」の名称で宗教法人として認証されているのですから、私はあくまで統一協会と表記します)の組織の実体にも踏み込んでいる新書です。
統一協会において、日本は単なる「資本提供者」であり、組織の指導部に日本人はほとんどいない。
「統一教」(韓国での呼称。韓国では、一般に財閥のような事業体と目されている。韓国人から大金を巻き上げるようなことはしていない)を多額の資金で支えてきた日本の統一協会組織は、文鮮明ファミリーや韓国の幹部たちから完全に蚊帳(カヤ)の外に置かれ、資金提供者としてのみ、有効に活用されている。
日本の統一協会は、2016年までは16ブロック制であり、ブロック長16人のうち、韓国人は6人。2017年に11ブロックに減らされ、そのうち韓国人は6人のまま。2018年には5ブロックとなったが韓国人が3人で、韓国人の比重は高まっている。そして、日本総会長は、韓国人。
韓国本部の最高委員会13人のうち、日本人は1人だけ。このような推移は日本の統一協会の資金収集能力の減衰と韓国人支配の持続・強化を示している。
文鮮明と韓鶴子とのあいだに子どもが14人いて、長男は薬物中毒・心臓発作で45歳のとき死亡、次男は自動車事故死(17歳)、六男は飛び降り自殺(21歳)。長女と四女は統一協会と距離を置いている。表に出てくるのは、三男・文顕進、四男・文國進、七男・文亨進だけ。
文鮮明が2012年9月3日に92歳で死亡したときの葬儀は七男が主宰し、三男は出席を拒まれた。三男のグループは文鮮明の存命中から両親とは距離を置いていて、統一協会の海外企業をおさえている。
統一協会の教義の根本に、「血分け」がある。文鮮明が女性の信徒と性交し、その女性信徒が男性の信徒と性交することによって教義を広めていくもの。
日本の統一協会の幹部たちは認めないが、韓国では広く知られていることに「六人のマリア」がある。要するに文鮮明と性交した女性信者たちです。血分け(性交)によって女性は神性を得る、そして文鮮明が「再臨のメシア」だと確信するというもの。彼女たちは、資産と自身の半生を文鮮明と教団に捧げた。もちろん、「六マリア」は、6人の婦人信者にとどまらない。
文鮮明が17歳の看護学生の韓鶴子と結婚したとき、120人以上の女性たちが韓鶴子に嫉妬し、毒でも盛りかねない状況になったので、韓鶴子は別宅に住まわされた。いやはや、とんだ「宗教」であり、「教祖」です。
文鮮明がメシアであることの証(あか)しは何より血分け(性交)という実践そのものにあった。だから、集団結婚式のあとの初夜では性交の体位まで統一協会は介入し、指定するというこだわりをみせるのです。
統一協会の伝道方法は非常にシステム化されているため、各協会員が自分で伝道した人を最後まで育成することはない。
街頭での物売り、戸別訪問の別売りといういかにも非効率的な勧誘は、いわばショック療法だ。これによって、それまでのプライドや人間関係を切り捨てさせ、ルビコン河を渡ってしまったと覚悟させる。また、苦難を共有することで、協会員を文鮮明に結びつける。そして、この苦難に耐えられないような「お荷物」は早々に切り捨てる。統一協会は、生活保護家庭や100万円未満の預金しかもたない「貧しい」人は相手にしないのです。
国際合同結婚によって韓国に渡った日本人女性信者は7000人。結婚相手となった韓国人男性は必ずしも統一協会の信者ではない。結婚難の農村男性が多い。日本人女性にとっては下降婚。ひどい仕打ちを受け、奴隷のような待遇。まるで人身売買同然。でも彼女らは、親も何もかも捨てて韓国までやってきたのだから我慢するしかない。
日本人は韓国人に仕えるのが努め...。過去の日本が植民地支配したことの恩讐に報いるため、日本人女性の心も体も韓国人男性に捧げるという論理が堂々と展開されている。
いやはや、なんということでしょう。これこそまさしく典型的な「反日」の論理です。その「反日」が日本の自民党の中枢とがっちり根深くまじわっているという世の中の皮肉さに、呆れるというより、心の底から怒りを覚えます。
日本の統一協会の専従職員が数千人もいることの異常さが指摘されています。800万人の信者を擁する創価学会の職員が4千人ほどなのに対して、数万人規模の統一協会の職員は異常に多いということです。
また、統一協会の宗教法人としての認証が解消されても、統一協会はすぐには消滅しないだろうと著者は予測しています。たしかに、オウム真理教も、依然として全国30ヶ所以上の施設を有し、1650人の信者がいるという信じられない状況を踏まえると、そうなんだろうと思います。
そして、二世信者の問題もあります。統一協会問題について、改めて、その根の深さを思い知らされる本でした。
(2023年3月刊。960円+税)
2023年7月 3日
つげ義春、流れ雲旅
(霧山昴)
著者 つげ義春 ・ 大崎紀夫 ・ 北井一夫 、 出版 朝日新聞出版
つげ義春といったら、大学生のころ寮で誰かが買った月刊マンガ雑誌『ガロ』で読んでいました。「ねじ式」など、独特の画風ですが、とても味わい深い雰囲気があり、魅きつけるマンガでした。
団塊の世代の私よりひとまわり上の世代ですが、昨年、漫画家では初めて日本芸術院の会員になったことでも注目されました。日本のマンガを高く評価している私はいいことだと考えています。たかがマンガというべきではありません。もちろん、マンガがすべてだとも思いませんが、マンガもひとつの芸術分野だし、ときには入門の手がかりになると思うのです。たとえば、先日、小学4年生の孫の誕生日記念に「日本の歴史」のマンガ版をプレゼントしましたが、これなんか私だって読みたいものなんです。
そして旅です。コロナ禍の3年間で、旅行が制限されましたが、今やその反動のように旅行が大人気です。でも、あのゴートゥー・トラベルそして今の「全国旅行支援」はまったく税金の使い方の間違いです。なんと3兆円もの税金を使った(っている)のでしょう。教育や福祉分野にこそ3兆円はまわすべきです。
それはともかくとして、著者たち3人組は東北、四国そして大分・国東(くにさき)半島を旅してまわります。写真を見ながら、いやあ、今どきこんな状況はないはずだけど、いったいいつの旅なのか不思議だと思っていました。最後の頁で疑問が氷解しました。なんと1970年前後の旅なのです。今からもう50年も前の日本各地を旅したときのものなんです。でも、この本が発行されたのは今年(2023年)1月なんです。1967年に上京して大学生になりましたから、1970年というと、まだ私は大学生です。アルバイトと大学紛争に明け暮れていました。司法試験の論文式試験を終えて、息抜きに出かけた東北の一人旅では、田沢湖のほうから後生掛(ごしょがけ)温泉、そして蒸(ふけ)の湯にも泊まりました。
東北の温泉場には、農閑期に農家の人たちが自炊しながら長期滞在する習慣があることもそのときに知りました。
さすがに、いかにもつげ義春らしいタッチのカットと当時の写真に心がなごみます。ところが、巻末の座談会を読むと、衝撃的な事実が判明します。
なんと、つげ義春は、旅行のマンガを描いていても、ほとんど自分の部屋で寝っころがって、考え出して作るもの。実在の地名を使うから、いかにも旅行しているように見えるけれど、実際は頭の中で作っているだけ。旅をしながら、考えても逆に物語にならないとまで言い切っています。作品を描きたくて、わざわざ地方を訪ねて、生活を観察したいという気持ちには全然ならないとのこと。
松本清張は、詳細な地図をじっと眺めて町並みを想像して、行ったこともない土地の雰囲気を文字で再現するのが常だったという話を読んだことがあります。同じことなのでしょうか...。古い時代の旅行見聞記として、なつかしく面白く読みました。
(2023年4月刊。2600円+税)
2023年7月 2日
エキセントリック・ジャーニー
(霧山昴)
著者 やく みつる 、 出版 帝国書院
週末の博多駅の混雑ぶりはコロナ禍前と同じか、それ以上です。
外国人旅行客も増えましたが、ともかく多いのは、日本人旅行客です。新聞広告も旅行会社による旅行プランが国内国外、すごいものです。
私もコロナ禍で自粛していましたので、全国へ旅したいと思いますが、なかなかチャンスがありません。残念です。
マンガも文章も書ける著者は海外にも旺盛に出かけています。100ヶ国も行ったとのこと。それも辺境旅行を企画する旅行会社のプランに乗っているようです。さすがに石橋を叩いて渡る私には出来ない旅行です。なので、こんな他人の旅行体験記を読むのが大好きなのです。これだったら、読み手の私はチョー安全で、退屈してしまったら寝てしまえばよいからです。
著者は、旅行した先々でちょっとした物を買い集めているとのことです。私も似たところがあります。大きなものではなく、ほんのちょっとした小物です。これだと、かさばる荷物にならないし、隅にいくらも押し込んで日本のわが家で心ゆくまで眺めることができます。
著者が海外旅行に初めて出かけたのは30歳のとき。私も同じころだったでしょう。一度行ったら病みつきになり、年に1度は海外旅行しようと決意しました。フランス語の勉強を真剣に始めたのも、その動機からです。おかげで、フランスだけは、今や列車もレストランも、電話での予約も心配無用です。
アフリカも南アメリカも、よくこんなところへ行ったもんだと思うところにまで著者は足を運んでいて、驚嘆するばかりです。そして、小物を買い写真をとり、またマンガの描ける著者は風景をスケッチしています。たいしたものです。私は国内それも北海道や信州に行きたいです。
(2023年4月刊。1980円)
2023年6月21日
「事務次官という謎」
(霧山昴)
著者 岸 宣仁 、 出版 中公新書ラクレ
私も世間知らずの田舎の高校生のころ、高級官僚になって、国家を動かす歯車の一員となって、それなりの地位と収入が得られるのもいいかなと思ったことがありました。
でも、今では法学部より経済学部のほうが人気があり、入試の難易度も優っているとのこと。なんだか残念な気がします。
この本によると、自己都合を理由として退職したキャリア官僚(20代)は、2019年度は86人。キャリア官僚の採用は年に800人なので、1割強が辞めたことになる。2014年に31人、15年34人、16年41人、17年38人、18年64人ですから、年々ふえている。
そして、キャリア官僚のうち、東大出身者の比率は26.6%から14.5%に下落した。それはそうですよね。あの国会審議での無様(ぶざま)な答弁、平気でシラを切る、明らかな嘘をつき通す...。見ているほうが恥ずかしくなってきます。
キャリア官僚の激務ぶりは昔も今も変わりません。「せめて暗いうちに帰宅したい」このコトバを聞いたとき、ええっ、一体、なんのこと...、と思いました。要するに、夜も明けて白々となってからタクシーで帰宅し、ちょっと寝たらすぐ出社する、なんて生活をしているというのですよ。たまりませんよね、こんな生活は...。
そのうえ、キャリア官僚は現職のときは、それほどの高給取りでは決してありません。キャリア官僚トップの事務次官の年収は2327万円(2017年)です。民間の一部上場企業の社長は平均5千万円というなかで、事務・常務クラスを下回るのです。
ただし、退官したあと、天下り先を「渡り」あるくと、それなりの高級優遇が待っていますので、それを含めたら、決して悪くはありません。
それよりなにより、自分たちのやってる仕事に誇りをもてない、国民に堂々と申し開きのできないことが多い、多すぎるから、キャリア官僚の志望者も中途退職者も増えるのだと思います。
国の財政赤字を問題にするとき、軍事予算が歯止めなく増大している現実、しかもアメリカの中古かつ危険な軍用機などを買わされていることはまったく問題とすることなく、福祉、教育についてだけは「自己責任」論をふりかざすなんて、本当に間違っています。前川喜平氏(元文化省事務次官)のような気骨のある人もいるはずですが、まったく見えないのが残念でなりません。
子育てを大切にし、日本の科学・技術の振興を真剣に考えるなら、大学にもっとお金をつぎこみ、自由に伸びのび研究・開発に打ち込めるようにすべきでしょう。子ども手当とか、単発のごまかしはやめるべきです。
ヨーロッパのある国では、大学の学生食堂は学生だったら無料で食事できるそうです。学生が大学に出てきやすくするためです。こんなことは日本でもやろうと思えば明日からでもやれるでしょう。トマホークを400発もアメリカから購入するより、よほど日本のためです。
事務次官というのは官僚のトップ。そこに、これまで厚生労働省に女性が2人いるだけというのもおかしな状況です。腹立たしい思いをしながら車中で一気読みしました。
(2023年5月刊。920円+税)
2023年6月16日
宗教2世
(霧山昴)
著者 荻上 チキ ほか 、 出版 太田出版
統一協会(教会ではありません)と文科省は質問と回答を往復していますが、まったく上辺だけで、宗教法人に対する解散命令を出す気はないとしか思えません。でも、統一協会というのは「宗教」の仮面をかぶった巨大な詐欺集団であることはあまりに明らかではないでしょうか...。少なくとも国家が宗教法人として税法上その他で優遇するなんて間違いそのものです。
宗教2世の問題は、一般的な「親子問題」とは異なる一面を有する。この点、私もまったく異論ありません。
宗教2世問題は、家族問題のみならず、帰属する(させられた)コミュニケーションの問題とも関わっている。
身体的な脱会は意外と簡単にできるけれど、心のほうは依然として囚われたままなので、自分の主体性、自立性を確保するには、入信していた期間とほぼ同年、つまり10年、あるいは人生をかけたライフワークになる。
自分で決めるということをずっとやっていなかった人は、脱会しても、自分で決めることがなかなかできない。たとえば、食堂に入って、何か好きなものを食べなさいと言われたとき、えっ、自分で決めていいんですか?と思ってしまう。いやあ、そうなんですか、そこまで主体性を奪われてしまうんですね...。なので、自分が決めていいものなんだと理解できたら(したら)、その人は自分の足で踏み出すことができる。
統一協会の信者であり続けている人たちは、心の中で疑問を抱いていても、いまさら協会を抜けられるわけはない。今までどれだけの犠牲を払ってきたのか、と自己正当化して、協会のなかで我慢して生活しているという人が少なくないだろう。
ううむ、この葛藤は理解できますよね。それで脱会に踏み切れないのですね。無惨です。
カルト宗教、そして自民党右派は同性愛者より人口の少ないトランスジェンダーを集中的にバッシングするというのは、国際的な状況。まずは弱い環を叩け、という戦法ですね。
自民党に山谷えり子という議員がいます。安倍晋三議員と一緒になって、学校での性教育をえげつなく攻撃した議員です。そのおかげで、学校での性教育はタブーのようになって、大きく後退してしまいました。自分たちは散々、浮気、不倫しているくせに、子どもたちにはもっともらしい道徳論を押しつけるというのが、この連中の手口です。学校で、もっと大らかに性教育が進められるべきだと私は思います。
統一協会問題が終わってしまったかのようなマスコミ報道の現状に腹が立って仕方ありません。自民党の萩生田政調会長に統一協会について今どう考えているのか、マイクをつけてぜひ質問してほしいし、それをテレビで報道すべきです。
彼には、子どもの健全育成は、そのあとで語ってほしいものです、まったく...。
(2022年11月刊。2200円+税)
2023年6月15日
難民鎖国ニッポン
(霧山昴)
著者 志葉 玲 、 出版 かもがわ出版
先日、国会で入管法のひどい改悪が成立してしまいました。本当に残念です。自民・公明そして維新は日本に難民を一人も入れたくないホンネをむき出しにしました。人道主義とか国際人権というのは、この3党の議員の眼中にはないようです。今でも難民申請して認定されるのは1%ほどでしかありません。その難民認定が、いかに杜撰なものであるか国会の質疑を通じて明らかになったのに、まったく目を向けて反省しようともしません。我らが仁比弁護士(参議院議員)の国会での質問は胸を打つものがありました。
難民申請は3回以上だと、申請中でも強制退去させることができるなんて、法律としてひどすぎませんか。外国人労働者を大量に導入して安くこき使うのはいいけれど、政治的・社会的に政府からにらまれた人の逃げ場所と日本がなってはいけないなんて、自分の都合しか考えないということではないでしょうか...。
スリランカ人女性のウィシュマ・サンダマリさん(当時33歳)が、名古屋入管(出入国在留管理局)の収容施設で亡くなったのは2021年3月のこと。本人が助けて下さいと何度も訴えたのに、まったく無視され、十分な医療を受けることなく衰弱して死に至ったのです。ひどすぎます。このウィシュマさんについて、維新の会の女性議員が国会質問のなかで公然とデマ宣言したのも許せません。
ウィシュマさんはひどいDV被害を受けていて、その結果、留学生としての在留資格を失ったのでした。ウィシュマさんについては、ビデオによる映像記録があるとのこと。入管当局は2週間分の映像を2時間に編集してウィシュマさんの遺族だけに見せました。弁護士の立ち会いを入管当局は拒否したのです。これまた、許せません。
日本の法務省は、現在、国際的に問題となっている「紛争難民」について、難民条約上の「難民」と決して認めようとしない。ともかく、狭く解して、一人でも多く入国させまいという姿勢なのです。
日本各地にある収容施設に収容されている在日外国人は1253人。うち1年以上も約束されている人が531人(42.3%)もいる。入管による予防拘禁については、裁判所の判断が介在せずに無期限に拘禁するというのです。これは戦前の治安維持法による予防拘禁より悪質。
わずか150頁というハンディーな小冊子です。タイムリーなものとしてじっくり読んでみました。
(2022年2月刊。1600円+税)
2023年6月13日
半導体戦争
(霧山昴)
著者 クリス・ミラー 、 出版 ダイヤモンド社
知らなかったこととはいえ、大変なショックを受けました。
中国のコンピュータの大半は、機能するのにアメリカ製のチップが不可欠。中国は2000年代そして2010年代の大半の時期を通じて、半導体の輸入に石油以上の資金を費やした。半導体の設計に使われるソフトウェアツールはアメリカ企業が独占していて、中国のシェアは1%未満。
IPコアの分野では、中国の市場シェアは2%で、大半をアメリカとイギリスが占めている。
中国は世界のシリコン・ウェハーその他の半導体材料の4%しか供給していない。
中国が占める半導体製造装置の市場シェアは1%、半導体設計は5%、半導体製造は7%。しかも、その製造能力に、付加価値の高い最先端の技術は一切ふくまれていない。
半導体のサプライ・チェーン全体にわたって、半導体設計、装置、製造等の工程について、中国の市場シェアは6%で、アメリカ39%、韓国16%、台湾12%に遠く及ばない。
ファーウェイの隆盛は、同社が市場シェアを獲得し、自社の機器を世界の通信網に組み込むにつれ、中国国家の利益になってきた。
ファーウェイが中国国家によって目的をもってつくられたという説を裏づける強力な証拠はない。しかし、中国指導部がファーウェイの世界的な拡大を支援してきたのは間違いない。世界の有名な人工知能(AI)研究者の国籍をみると、中国29%、アメリカ20%、ヨーロッパ18%となっている。しかし、結局のところアメリカで働くことになる専門家はアメリカが59%も占めている。
台湾がもつ半導体製造能力を他国で再現するのには長い年月がかかる。それまでは、全世界は引き続き台湾に依存することになる。したがって、もし戦争によって台湾のTSMCの工場が破壊されたら、ひどいことになる。つまり、世界経済や、アジア台湾海峡を縦横無尽に交差するサプライ・チェーンは、このような不安定な平和を大前提としている。アップル、ファーウェイ、TSMCなど、台湾海峡の両側に投資してきた企業は、暗黙のうちに平和が続くことに賭(か)けている。
台湾は世界のメモリ・チップの11%、世界のロジック・チップの37%を製造している。
コンピュータ、ケータイ、データ、センターその他の電子機器の大半は、こうしたチップなしでは動作しないので、台湾の工場が稼働を停止したら、計算能力は37%も減少する。これが世界経済に及ぼす影響は甚大だ。
スマートフォン向けプロセッサの大半は台湾製、一般的なケータイに搭載されている10枚以上のチップも、多くは台湾製だ。台湾有事による経済損失は、数兆ドル規模になるだろう。計算能力の年間生産の37%が失われる。これは、コロナによるパンデミックや、経済に壊滅的な影響を及ぼしたロックダウンより、ずっと甚大な損失が生じる可能性がある。しかも、失われた半導体製造能力の再建には、少なくとも5年はかかる。
アメリカの国防総省(ペンタゴン)には、10億ドルの潜水艦や150億ドルの空母専用の造船所があるが、使用される半導体の多くは台湾を主とした民間業者から購入している。最先端の半導体を設計するだけでもコストは1億ドルをこえるので、国防総省にとっては手に余る状態になりつつある。
最先端のロジック・チップの製造工場を建設するには、空母の2倍の費用がかかる。そこまでしても、数年たったら時代遅れになってしまう。
500頁をこす大作ですが、いま心ある人はぜひ読むべきです。これが世界の現実だと思いながらも、いつのまに台湾のー私企業が世界の根本を牛耳るようになったのか、その理由と事情について、ぜひ明らかにしてほしいと思います。
(2023年4月刊。2700円+税)
2023年6月 8日
小川さゆり、宗教2世
(霧山昴)
著者 小川 さゆり 、 出版 小学館
今も、たくさんの宗教2世の子どもたち(とっくに大人になっている人も)が苦しみ、泣いているのだろうと、この本を読みながらひしひしと実感しました。著者は統一協会2世です。父は教会長をつとめ、母も熱心な信者です(今でも、二人とも信者のようです)。
両親は合同結婚式で結婚しています。1988年10月に韓国のメッコールの工場での合同結婚式です。メッコールは統一協会系の企業・一和が製造・販売する炭酸飲料です。私の事務所にも、それを知ってかどうか知りませんが、贈答品として持ってきてくれた人がいました。あまりうまくはないコーラです。
協会長までつとめた父は、大学生のころ原理研究会に誘われ、アメリカに渡って統一神学校に留学したエリートのようですが、教会長の座はおろされたようです。著者が大好きだった母は、家のなかと外の統一協会でのニコニコ顔の落差が激しかったようです。
家には、祈禱室があり、文鮮明夫婦の写真が飾ってありました。母は6人の子を産み、著者の下の3人の妹は養子に出されています。経済的には楽ではなかったようですが、それは統一協会に献金した結果でもなさそうです。
「神の子」として育てられた著者は統一協会の試験(原理試験)を受け、高校3年生のときには父の指導も受けて原理講義大会に出場し、全国2位に選ばれました。
大学は、韓国にある統一教会系の鮮文(ソンムン)大学に入ることを希望していました(入学はしていません)。
父も母も、統一協会に行くと、いつもニコニコしていて、「いい人」であり続ける。しかし、家では、まったく違う顔を見せる。二人の親が言っていることとやっていることが違いすぎるのに、著者はついていけないと思い、ついに脱会します。自分の家族を幸せにしようとしないのに、統一協会では家庭の完成や、世界の幸せと統合を祈る。あまりにかけ離れた姿に、いよいよついていけないと思ったのです。
あんなに噓つきで、家族に対して逃げてきた父を許せない。
こんなにボロボロになった娘を気にも留めず、統一協会に行ったらニコニコといい人を演じている母が許せなかった。
著者は、日本外国特派員協会で記者会見しました。仮名ながら、顔を出してのことです。ところが、記者会見の途中に、統一協会の代理人弁護士から直ちに中止しろというFAXが届きました。そして、そこには著者の両親のサインもあったのです。
宗教2世をこんなに苦しめる宗教って、いったい何なんだろうと、つくづく思いました。自分と家族の幸せを願って入信したはずなのに、それは主観的な満足だけで、客観的には子どもたちを肉体的にも精神的にも苦しめているという現実があるわけです。
この本とあわせて、ノンフィクションコミック「『神様』のいる家で育ちました」(文芸春秋)も読みました。マンガですが、とてもシリアスな内容で、笑える話ではありません。統一協会、エホバの証人、幸福の科学、創価学会、いろいろな「宗教」の2世たちの苦悩がとても分かりやすく描かれています。
心の迷いを救ってくれるはずの「宗教」が、ますます苦悩を深めてしまう現実があることを知り、空恐しくなりました。
(2023年3月刊。1500円+税)
2023年5月31日
憲法改正と戦争・52の論点
(霧山昴)
著者 清水 雅彦 、 出版 高文研
今や「戦争前夜」になりつつありますよね。岸田首相は広島でG7の会合を開いて司会席にすわっていながら、核兵器禁止条約を結び核廃絶を具体的にすすめようとは全然訴えませんでした。アメリカの核は良くて、ロシアの核は悪いなんて言っても、誰もまともにとりあいません。
ところが、広島に集まって何か宣言を出したというので、その中味を抜きにして外交上の成果を上げたとマスコミが持ち上げるので、岸田内閣の支持率がぐーんと上がったというのです。騙されやすい日本国民の悪いところが見えて、悲しくなります。
この本は行動する憲法学者として著名な著者が、Q&A方式で憲法改正の問題点を具体的かつ簡潔に指摘しています。
朝鮮(著者は北朝鮮とは呼びません。韓国と朝鮮と呼んでいます)と中国と日本にとって脅威だと考えるのは、「タカ派というよりバカ派」だと軍事ジャーナリスト(田岡俊次)が言っているそうです。朝鮮がミサイル発射したのは、アメリカを交渉のテーブルに着かせるためのものであって、日本を目標としたものではない、本当に、そうなんです。日本に陸上イージス基地を置くという計画はアメリカ本土とアメリカ軍基地を守るためのものでした。
敵基地攻撃能力(自民党は反撃能力と言い換えて、ごまかそうとしています)は先制攻撃そのものになります。実際、朝鮮は移動式ミサイル発射機を200機もっていて、攻撃すれば必ず反撃されます。核兵器による報復だってありえます。
ロシアのウクライナ侵攻を見て、やはり日本も軍備を持てと短絡的に叫ぶ(考える)人が増えているようです。果たして、そうでしょうか。日本が軍事力を強化しても、中国にはかないっこありません。人口が10倍以上もあるのですから、中国と「過度の」軍拡競争に陥るだけなんですよ...。それでは国際平和は守れません。
災害などの緊急事態のときに備える必要があるといいますが、ナチス・ドイツは、国会の多数を占めると、今や非常事態になっていると一方的に宣言して、すべて政府が決め、国会を無視しました。それと同じなんです。有害なだけです。歴史にきちんと学ぶ必要があります。
防衛費は青天井で増大していくのに、文教・福祉予算は伸びないどころか削減という自民・公明の岸田政権は間違っています。
分かりやすく、元気の出てくる憲法改正論点集でした。ぜひ、ご一読ください。
(2023年3月刊。1280円+税)