弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

人間

2019年4月22日

胎児のはなし


(霧山昴)
著者 最相 葉月、増﨑 英明 、 出版  ミシマ社

人間が生まれる前の胎児についての本です。赤ちゃん学には大いなる関心がありますが、胎児についてどれだけ科学的に判明しているのか知りたくて読みました。
産婦人科医との問答として書かれていますので、大変読みやすく、一気に読み終えました。
父親のDNAが胎児を介して母親に入っているなんて、ええっ、ホントですか・・・と叫びたくなりました。
女性の性染色体がXX、男性はXY。Xの大きさが手の小指とすると、Yって小指の爪くらいしかない。おまけだ。
女性にXが2つあるというのは、一つが壊れてもいいようにということ。
女性はXを二つもっているのに、男性は一つしかないので、男性は早く死んでしまう。
えっ、えっ、本当ですか・・・。
小さいころの胎児は、みんな女性の性器の形をしている。
やっぱり、人間は女性が原型なんですよね・・・。
2000年ころに3Dの器械がつくられて、立体表示ができるので、今では胎児が立体のまま動いているのが見える。
「十月十日」って嘘。実際には9ヶ月ちょっとで生まれる。胎児の大きさは妊娠20週くらいまで、個体差がほとんどない。
超音波が登場して、予定日は完璧にクリアした。今では、予定日は、プラスマイマス2日。
胎児はおしっこを出して、それを飲む。30ccたまると、おしっこを出す。これは60分の間隔。1日に700cc
初期のころの羊水は血清と一緒。母親の血液。それが生まれる頃には、おしっこと同じ。
胎児は便はしない。9ヶ月間、出さないでためておく。出産したあと、緑色の便を出す。ビリルビン(胆汁色素)のせいで緑色になっている。
出産と潮の満ち引きは関係ない。
胎児はずっと寝ている。レム睡眠が長い。だから、胎児は夢ばっかり見ている。
自然分娩だろうと、帝王切開だろうと、元気に生まれたら、それでいい。
1950年ころの母体死亡率は600分娩に1つ。今は3万分の1。今でも毎年50人ほどがお産で亡くなっている。1950年代には毎年3000人が亡くなっていた。
妊娠中にアルコールを飲んだら、アルコールは胎児にいく。胎児性アルコール症候群というものがある。
体外受精による出産は、世界で700万人、日本で50万人ほどいる。
人間とは何かを知ることができる本でもあります。
(2019年3月刊。1900円+税)

2019年3月30日

人類との遭遇

(霧山昴)
著者 イ・サンヒ 、 出版  早川書房

人類の発祥の地がアフリカ大陸にあることは確固たる定説だと思いますが、欧米の学者はそんなはずはないと、なかなか信じなかったようです。優れた白人の祖先が知能の劣った黒人であるはずはないというわけです。
人間のような優れた種の祖先がアフリカ大陸を出どころとするというのは、西洋の科学界が容易に受け入れられるものではなかった。
ネアンデルタール人はクロマニヨン人とちがって、現生人類とは無縁の存在だと考えられてきた。しかし、DNA解析によって、ネアンデルタール人の遺伝子を4%も私たちは受け継いでいることが判明した。そして、この4%は、嗅覚、視覚、細胞分裂、精子の運動能力、免疫系筋収縮など日々の生の営みにとって重要な機に関連したものだった。そして、言語に関連する遺伝子まで含まれていた。
ヒトは直立二足歩行することができるようになって、自由になった手と腕で道具をつくり、使えるようになった。また、上半身が動きまわることから解放されて横隔膜が自由になり、呼吸の制約がなくなったことから発声が可能になった。発声によって言語が実現した。
農業は人類にとって、決していいことずくめではなかった。しかし、悪いことばかりでもなかった。それは、遺伝子の多様性をもたらした。農業がはじまると、食生活の質が明らかに落ちた。そして、定住生活するようになると、人類は感染症に弱くなった。
非農耕民族の母親の出産間隔は4~5年だったが、農業に従事している母親はわずか2年の出産間隔で子育てができるようになり、人口が急速に増えた。
チンパンジーは類人猿であって、サルではない。類人猿とサルは尾があるかどうかで区別される。サルには尾があり、類人猿には尾がない。
人類とは何なのか、どこから来て、どこへ向かうのか・・・。韓国人の女性人類学者による面白い本です。
(2018年12月刊。2300円+税)

2019年3月25日

ヴィオラ母さん


(霧山昴)
著者 ヤマザキ マリ 、 出版  文芸春秋

生きていると、きっとなんだかいいことにめぐりあえる、そんな気がしてくる不思議に楽しい本です。私は残念ながら、「テルマエ・ロマエ」はマンガ本も映画もみていません。
女手ひとつ、たくましい音楽家の母親のもとで、けなげに生き抜く幼い姉妹の話は涙が出てきそうになってしまいます。でも、最後はなんだかほっとする話でしめくくられます。
なにしろ音楽ひとすじ、自分のやりたいように生きている、アッケラカンの母親にならって娘たちも生きる度胸をつけて、野生児さながらのたくましさを身につけていくのです。そのあたりの心理描写が見事です。
母親とは少し距離を置きつつ、実は知らず識らずのうちに、似たような人生を歩いていく娘の様子が手にとるように分かります。母は音楽家で、娘はマンガ家です。
著者の母リョウコは黒柳徹子と同じ年(1933年)に生まれ、今年(2019年)で86歳になる。良家のお嬢様としてばあやの送り迎えのあるように大切に育てられたが、27歳のときに勤めていた会計事務所を辞め、まったく縁のない北海道でオーケストラに入ってビオラ奏者として生活を始める。良き伴侶を得て娘2人をもうけたものの、夫は早く病死してしまって、シングルマザーとして幼い娘たちを育てながら音楽家として生き抜いていく。
若いころのリョウコの写真がありますが、きりりと引き締まった、いかにも意思の強そうな美人です。なよなよ感がまったくありません。
幼い娘たちを置いて演奏に明け暮れ、娘たちは寂しい思いをしていた。しかし、小学生のころ、娘は不満も不服も母親に感じていなかったというのです。
アップルパイやドーナツをつくってくれるという、おやつの演出もあり、毎日、娘たちのためにつくっておいてくれる、手作りの丸くて少し固いおにぎり、留守を詫びる手紙には似顔絵が描かれていて、いつも自分たちを気にかけてくれる感触をしっかり得ていた。
家族の愛情は、接触時間が短くても、ちゃんと通じる。やむを得ない距離感を強いられても、愛情はその力を必ず発揮する。リョウコは、それを教えてくれた。
リョウコは、自分が生き甲斐だと思うことを職業としてやってきた人間だ。リョウコが仕事でストレスをためている状態はあまり見たことがなかった。なんだかガサツで、いい加減だし、とにかく日々忙しそうだけど、トラブルがあってもそれを話しているうちに笑いに出してしまうなど、いつも楽しそうに見えた。
本当に、この人は音楽に支えられて生きているんだなと、娘として自然に感じとっていた。だから、著者も子どものころから本当に自分にできること、ずっと続けていけそうなこと、やりがいのあることを職業に選んで当然だと思っていた。自分が選んだことに熱意を注ぎ、これなら続けていけると思えることであれば、何でもいいのだと思えた。
やりたいことに全身全霊を注いで生きるリョウコには、うしろめたさはなかった。だから、娘である著者のなかにもくよくよする性質がはぐくまれることはなかった。
親というものは、子どもにとって、まず強く生きる人間の手本であるべきだと思うし、手放しでも、子どもがしっかり育っていけること、生きていけることを信じてあげるべきだと思う。
そして、小学校の担任がすばらしかったのです。娘に、こう語りかけました。
「この社会でいきいきと生きること、たとえいつも一緒にいられなくても、一生懸命に働き、満足していること、それを知ってもらうことも、素晴らしい母親のあり方です」
大いに変わった母親を教師がしっかり支えてくれて、著者は安心して伸び伸びと育つことができたのでした。
リョウコは新聞大好き人間。朝日新聞、北海道新聞、しんぶん赤旗の3紙を読み比べ、娘たちとも社会で起きたさまざまなことを話すのが楽しい団らんだった。
娘に対しては、「悩むだけ時間のムダ。楽しいことしてりゃ、すぐに気にならなくなる」と話す。
「大人になってもふさわしい男性に出会えなかったら、無理に結婚なんかしなくていい。本当に尊敬できる相手でもないのに、自分の面倒をみてもらうだけのために結婚するのはどうかと思う。そういう人に出会えなかったら、むしろ独りでバリバリやったほうが良い人生を過ごせるはず」
このように思春期を迎えようとしている娘たちに言っていた。す、すげえ・・・。腰を抜かしそうになります。あまりのド迫力に圧倒されながら、一気読みしてしまいました。すばらしい本です。このごろ少し元気をなくした、そんなあなたにぴったりですよ、どうぞ読んでみてください。
(2019年1月刊。1300円+税)

2019年3月 2日

廃園

(霧山昴)
著者 井本 元義 、 出版  書肆侃侃房

幻想花詩譚というサブタイトルのついた本です。オビには、花の精、花の香、花の色。それは美しく、怪しげに揺れる業火。妖花が悪夢を呼び・・・、退廃の美へ、とあります。なにやら、エロスの花園へ招き入れられそうな本です。
たしかに表紙のカラーからして、森の奥深いところにある秘密の池の色のような、あくまで濃い緑色をしていて、吸い込まれそうです。
13の短編から成り、そのすべてに牡丹から食中花まで花の名前がついています。
その一つは「ある弁護士の手記」で、これには、なんと「ヒットラーの白い花」と名づけられています。事件は当番弁護士として出動し、55歳のガードマンが実子の乳幼児を死なせたというもの。その男はフランスの外人部隊に勤務した経験があります。
実は私は、日本人青年がフランスの外人部隊に所属していた体験記を書いた本を読んだばかりでした。そして、主人公が先輩の長尾弁護士事務所に所属していたというのには驚きました。
依頼者の心理描写は、心の奥底にまで入っていこうとする著者の筆づかいで、息が詰まりそうになりました。弁護士の次には、司法書士も登場してきます。夜想曲20番を妻がピアノで弾きはじめるのです。
いきなり白い花が大雪のように晩春の曇り空から降ってきた。曲に合わせてロン(飼い犬)が唸っていた。というより、泣きはじめた。それは、いかにも悲しげな遠吠えになった。曲が続くと、その声はますます深い悲しみを帯びて流れていった・・・。
著者は私のフランス語勉強仲間です。その旺盛な執筆意欲にいつも刺激を受けています。フランスにも単身で何ヶ月もアパート生活していたという行動派でもあります。私にはとてもそんな勇気はありません。その経験を生かしたと思われる短編もふくまれています。
しばし幻想の花園に迷い込んだ気分に浸ることのできる連作小説集です。ありがとうございました。
(2019年2月刊。1500円+税)

2019年2月25日

神さまがくれた漢字たち

(霧山昴)
著者 山本 史也 、 出版  新曜社

はじめ、漢字は、おおむね亀のお腹の甲らや、牛や羊や鹿の肩胛骨に刻まれていた。なんと人の頭骨にも刻まれた。
殷(いん)の国が安陽に定着し、武丁(ぶてい)という王の時期に漢字の世界は成立した。
王は漢字をたよりに神の許しや助けをしきりに求めた。そして、もし要求が実現したときには、それは神の認めによるものだと確信した。そして、神と王とは溶けあい、一体化した。この融合によって、王自身は神とひとしく、神聖な存在となった。
漢字は3300年にわたって生き続けている。漢字ほど時間をこえて生命力をもち続けている文字は世界のどこにもない。
エジプト王朝にも文字があった。ヒエログリフだ。しかし、このヒエログリフは滅びてしまった。シュメール文字も線刻文字も学者の研究対象ではあっても、世界の誰もが使うことがない。
「民」の字は、もとは、大きい矢か針で目を突き刺す形だった。殷王朝を脅かす異民族を戦争で補え、その「人」の「目」に加える処罰を示すものだった。
「童」は、もとは「目」の上に入れ墨(ずみ)がほどこされた形。刑に処せられて僕(しもべ)の身分に落とされた者を「童」(どう)という。
「取」(しゅ)は、戦場で敵の首を討ち取ったとき、敵の左の耳を手で切りとるさまを示す字。
「文身」(ぶんしん)とは、身体に図柄や模様を彫りつけたり、塗りこめたりする聖化の方法のこと。「文」は、もともとは身体を清めるために施す図柄や模様を指していう語だった。
日本の江戸時代、大坂では初生児の男の子には「大」、女の子には「小」の文字を、その額に朱色をもって記した。そのしるしを「あやつこ」と呼んだ。
「女」の字は、両手を交えてひざまずく「女」の姿勢を表している。それは「男」に屈服しているのではなく、つつましく神に仕えて従っている姿。「女」とは、本来、神のかたわらにあることを許された特権的な性をいう。それが「女」の本質であった。
「母」の字は、「女」の胸にゆたかな乳房を加えたもの。「たらちね」とは、本来、満ちたりた乳房の意味。「母」の子をはらむ姿は、「身」の字で示される。
漢字の成りたちを、その根源から説明されていて、とても興味深く読みました。
(2018年5月刊。1300円+税)

2019年2月18日

脳からみた自閉症


(霧山昴)
著者 大隅 典子 、 出版  講談社ブルーバックス新書

自閉症は、正式には自閉症スペクトラム障害という。スペクトラムとは、連続体のことで、症状が重いものから軽いものまで幅が広いことを意味している。
自閉症は、いわゆる発達障害の一つで、世界のどこの国でも80人から140人に1人は自閉症とされていて、珍しい障害ではない。
自閉症の三大特徴は、社会性の異常、コミュニケーションの障害、常同行動だ。
社会性の異常とは、親とも目をあわさない、人が指をさした方向を見ようとしない、まるで耳が聞こえないかのように名前を読んでも反応がないというもの。そして、自分が知っていること、他人が知っていることの区別ができない。
常同行動とは、同じ行動を繰り返すということ。同じコトバを何度も反復する、同じ動きをやり続ける、一定の場所にとどまって動かないなど、そのあらわれ方はさまざま。ただし、自閉症の常同行動は、極端な集中力のあらわれでもあり、あながち否定されるべきものではない。
ある種の音、光、匂い、触感などに過敏な自閉症児は少なくない。
アスペルガー症候群とは、知的障害をともなわないタイプの自閉症。
ニュートン、アインシュタイン、モーツァルト、ベートーベン、ビル・ゲイツも、みな高機能自閉症だ。
発達障害は、親の「育て方」によって生じるものではない。
自閉症とは、脳の器質的な障害である。すばやい神経伝達ができていないと思われる自閉症の症状には、シナプスの刈り込み不足や、刈り込みムラなどが関与している可能性がある。
自閉症といっても、それぞれの病態は、みな少しずつ違う。
自閉症の人は、脳の左右差が健常者よりも大きい。
親も子も自閉症になるケースは少ない。3%でしかない。
自閉症は、この40年間に、なんと70倍以上に患者数が増加した。その急増の原因は何か・・・。
「パルプロ酸」という抗てんかん薬は、自閉症につながる可能性がある。
父の加齢と子の自閉症のあいだには相関性が認められる。
自閉症をはじめとする発達障害において「親の育て方」が原因であることはない。基本は、脳の発生や発達に関するトラブルから起こる生物学的な障害。ただし、育つ環境が、症状のあらわれ方にまったく無関係だとは言い切れない。
人間と脳について、基礎的なところから深く追求している様(さま)がよく分かりました。
(2016年4月刊。900円+税)

2019年2月 5日

AIと教科書が読めない子どもたち

(霧山昴)
著者 新井 紀子 、 出版  東洋経済新報社

一橋大学法学部を卒業したあと、アメリカのイリノイ大学で数学科を学んだ数学者という著者の経歴は、私には驚きです。というのも、私は高校では理系クラスにいたのですが数学の才能がないことを自覚して、法学部に志願を切り替えたからです。
そして、著者は、「東ロボくん」と名付けた人工知能(AI)を我が子のように育て、東大合格を目ざしてチャレンジしてきた。そして、この「東ロボくん」は、東大には合格できないが、MARCHレベルの有名私立だったら合格できるほどの偏差値に達している。
AIはコンピューターであり、コンピューターは計算機であり、計算機は計算しかできない。
なので、ロボットが人間の仕事をすべて引き受けてくれたり、人工知能が意思をもち、自己生存のために人類を攻撃したりするという考えは、まったく妄想にすぎない。
つまり、AIが人間にとって代わるころはありえない。
コンピューターができるのは、基本的に四則演算だけ。
「東ロボくん」につかった予算は、年間3000万円。このチームはのべ100人以上の研究者が参加した。半分が大学、残る半分は企業からの参加者。
AIがすすむと、かなりの職業がなくなってしまう。たとえば、電話販売員(テレマーケター)、保険業者、融資担当者、銀行の窓口係、スポーツの審判員。
アメリカの職業702種について、その半分が消滅し、全雇用者の47%が失職する恐れがある。
大学入試では、ビッグデータは集めようがない。
ツイッターは、脅迫などの不適切ツイートや残酷画像やアダルト画像などの不適切画像の削除に常に追われている。適切と不適切をAIが自動判定できるか否かが、ツイッターの存続そのものを左右する。
国語と英語の二つは、「東ロボくん」の数式処理では克服できない。行く手を阻んだのは「常識」の壁だった。
AIには、意味を理解できる仕組みが入っているわけではなく、あくまでも「意味を理解しているようなふり」をしている。
AIが計算機であることは、AIには計算できないこと、基本的には、足し算と掛け算の式に翻訳できないことを意味している。
AIはロマンではない。
日本の中学生・高校生の多くは、中学校の歴史や理科の教科書程度の文章を正確に理解できない。これは、とても深刻な事態だ。日本の中高校生の読解力は危機的と言ってよい。その多くは、中学校の教科書の記述を正確に読みとれない。大学教員の多くが、学生の学力の質の低下を肌で感じている。学生との会話が成立しないことがあまりに多いし、増えている。
就学援助の率が高い学校ほど読解能力値の平均が低い。貧困は、読解能力値にマイナスの影響を与えている。
ある中学校では、社会科の教科書の音読を授業中にさせている。文章を正確に、しかも集中してすらすらと読めなければ、スタート地点に立つことさえできない。
東大に入れる読解力が12歳の段階で身につけていると、東大に入れる可能性は圧倒的に高い。
なるほど、そうですよね。日本文の問題を素早く理解することが解決の第一歩です。
なるほど、なるほどと思いながら読みすすめていきました。
(2018年12月刊。1500円+税)

2019年1月28日

腸で寿命を延ばす人、縮める人

(霧山昴)
著者 藤田 紘一郎 、 出版  ワニブックス新書

免疫と腸内細菌は、相互に頼りあう関係。
腸内細菌の世界の多様性が豊かになるほど、免疫力も高まっていく。赤ちゃんが、人の指でもおもちゃでも、道に落ちているものでも舐めたがるのは、腸内フローラを豊かにして強い免疫力を築こうとする本能のようなもの。
腸は、人が食事をし、排便する日中はもちろんのこと、人が眠っているあいだも活動を活発に続けている。生まれてから死ぬまで片時も休むことなく、フル活動できるだけの持続的で膨大なエネルギーを求めている。
腸内細菌は、ホルモンの合成にも働いている。セロトニンやドーパミンなど、幸せホルモンの前駆体を脳に送り出すのも腸。
悪玉菌には免疫細胞を刺激する作用がある。悪玉菌がまったくいないと免疫もまた育たない。
腸内環境を整えるためには、毎日の食事で水溶性食物繊維と不溶性食物繊維をバランスよくとることが大事。それにはキャベツを食べること。キャベツには、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維がバランスよく含まれている。1日に身体が欲するビタミンCは、キャベツの葉を4枚食べたら摂取できる。酢キャベツは、とくにおすすめ。
肉をまったく食べないと、たんぱく質が不足して、新型の栄養失調を起こしてしまう。
菌を敵視していては、決して健康にはなれない。まずは、抗菌グッズの使用をやめよう。テーブルの上やその周辺の床に落ちたものは、食べたほうが免疫は強くなる。家庭内に落ちたものならば、腸内フローラが対応できないほど困った菌が付着する心配もない。
がんを防ぐには、1に、糖質の摂取を控える。2に、食べ過ぎない。3に、ミトコンドリアエンジンをもっと意識して使う。4に、身体を温める。
毎日風呂に入って、身体を温かく保ち、免疫細胞を鍛える。運動は好きなことをする。
著者は週1回、プール通いを実行しています。私も同じです。週1回、夜に30分間で1キロを自己流のフォームで泳いでいます。
がんになると、冷たいものや甘い物が欲しくなる。冷えていて、糖分の多い飲料は、がん細胞の大好物だ。
としをとってきたら、「おいしくない」と感じる食品を無理してとる必要はない。
とても実践的で、大変わかりやすいので、即実行できるものばかりです。
さあ、今日からやってみましょう。
(2018年12月刊。880円+税)

 日曜日の朝、仏検(準一級)の口頭試問を受けました。この1ヶ月ほど、頭のなかは、それで占められていて、落ち着きませんでした。なにしろ、何が出題されるか分かりませんが、3分前に与えられたテーマについて、3分間スピーチをするのです。事前に私が予想したのは、人工知能(AI)は仕事を奪うかと、黄色いベスト現象をどう考えるか、でした。ところが、当時医学部受験で女性が不利に扱われたことが発覚したが、どう考えるか、でした。もう一つは、動物保護の問題です。医学部受験で女性が不利に扱われていたことは、私には驚きでしたので、そのことをまず言って、大学の弁明は理解できなかった、女性医師の労働条件の改善が必要だと述べました。ところが、なにしろフランス語で話すのです。単語がスムースの頭に浮かびません。そして、何が問題の本質なのか、解決のためにどうしたらよいのか、うまく展開できません。3分間スピーチなのに、2分あまりで終了し、あとはフランス人試験官の質問に答えます。質問は分かりますが、うまくフランス語で答えられません。あっというまに7分が終わって、冷や汗がどっと吹き出しました。
 受付の女性は顔見知りですので、「どうでしたか?」と尋ねられ、「いやあ、いつも緊張します。ボケ防止なんですけど・・・」と答え、そそくさと試験会場をあとにしました。1年に1度の口頭試問が終わり、肩の重荷をおろして天神に向かうと抜けるような青空が広がっていました。

2019年1月21日

人体は、こうしてつくられる


(霧山昴)
著者 ジェイミー・A・ディヴィス 、 出版  紀伊國屋書店

もっとも身近な驚異の世界、ワンダーランド、それは私たちの人体です。
人間は体内で病気を治す薬まで合成しているのですから、本当に不思議な存在です。
生物が自らを構築するとき、発生に必要な情報は胚(はい)のなかにあり、それを胚自身が読みとって自らをつくりあげていく。外部の図面にもとづくものではなく、外からの指示によるものでもない。
生物構造の場合は、構築にかかわる全要素が責任を共有する。DNAは、いわゆる設計図ではない。そこには詳細な設計図はなく、現場監督もいない。ましてや既存の機械や工具を使えるわけでもない。
生物の材料は三つ。タンパク質、メッセンジャーRNA(mRNA)、DNAの三つだ。
成人の細胞は、数十兆の単位で(37兆個か・・・)、これは銀河系の星の数の10倍以上だ。
細胞には厳密に定められた形がない。ほとんどの細胞は、周囲の環境に応じて形が決まる。ヒトの典型的な体細胞は直径が0.01ミリ。
当初の細胞は、どれも同じ能力をもっていて、人体のどの部分にでもなりうる。たとえば頭部となると決められた細胞が初めからあるわけではないし、指令塔のような細胞が最初からあるわけでもない。
細胞はとても小さいが、細胞内の反応を担うタンパク質はもっと小さく、10万分の1ミリメートルほど。そのタンパク質が溶け込んでいる液体の水分子は、さらに小さい。
胚は、最初の血液細胞を大動脈の壁だった細胞からつくる。これは血管のなかにいる細胞なので、どうやって血管のなかに血液細胞を入れるのかという「難問」は考える必要がない。
人が学習するとは、脳のニューロン同士がシグナルのやりとりを介して結合を変えること。大脳には、数百億のニューロンがあり、成人では一つのニューロンが1000ほどのシナプスをもつので(子ども時代はもっと多い)、大脳全体のシナプスはまさに無数にあると言える。
健康な腸には、組織1グラムあたり10億から100億の微生物がいる。
腸内細菌は、酵素を分泌して、消化や代謝を助けてくれる。
腸内細菌は、毒素あるいは発癌物資になりうる食物分子を細菌酵素によって攻撃してくれるので、食物を安全なものにする役割も果たしている。
人体に有益な菌が豊富な環境として女性の膣もあげられる。
共生細菌は、ヒト細胞とシグナル伝達による会話をする。
腸の共生細菌は、シグナルを出すことで、自らの生存を確保する。
ヒトと腸内寄生虫は、長いあいだ、ともに進化してきた関係にある。
ぜん息は、免疫系のバランスが崩れ、ほこり、動物の毛、花粉といった無害な物質に過剰に反応してしまうのが原因だ。
目のレンズ機能の3分の2は角膜が担っていて、「目のレンズ」と呼ばれる水晶体は3分の1でしかない。
どの動物も、メンテナンス重視で長生きするか、それとも精力的に短く生きるかという選択肢のあいだでバランスをとっている。たとえば、マウスは捕食されるリスクが非常に高いので、短期間で繁殖することに注力する。
ヒトの活力と長寿への投資配分は、祖先がアフリカの平原でさらされていた捕食リスクによって決まったもの。ヒトが生まれながらにもつメンテナンスシステムは、100歳をこえる人はごく一部という仕様だ。
人体の不思議な仕組みの一端を知ることのできる興味深い本です。
(2018年11月刊。2500円+税)

2019年1月17日

脳の誕生

(霧山昴)
著者 大隅 典子 、 出版  ちくま新書

身体を構成する細胞は、基本的に70%が水分。その水分を除いた乾燥重量のなかで、脳の脂質は55%を占めていて、タンパク質(40%)よりも多い。脳のなかでも脂質が多いのは「白質」と呼ばれる部分。白質は灰白質に比べてコレステロールが2倍、糖脂質が6倍程度多い。
脳は重量でいうと体重の2%ほどしかないのに、血液量としては心拍出量の15%を占め、安静時の酸素消費量では身体全体の20%を消費する。
このように脳は、すべての臓器のなかでもっともエネルギーを消費する贅沢な臓器だ。
脳は活動するために多量のエネルギーを必要としている。脳に存在するニューロンのほとんどは、胎児期に産生されて生涯働く、非常に長生きする細胞だ。したがって、脳のエネルギー産生には、なるべくカスの出ないクリーンな栄養が必要で、これに最適なのがグルコース(ブドウ糖)。グルコースは余分な燃えカスが出ない。グルコースはグリコーゲンという貯蔵のための糖質から供給される。グルコースやグリコーゲンは脳に蓄えることができないので、血中のグルコース濃度(血糖値)は、一定に保たれている必要がある。
グルコースから効率よくエネルギーを生成するには、ビタミンB1、B2などの微量栄養素が必須となる。
不思議なことに、ニューロンは最終的に配置されるところから離れたところで産生され、場合によっては非常に長い距離を移動する。
ヒトの脳には1000億にも及ぶ膨大な数がつくられるニューロンは、すべてが生き残るのではない。標的(パートナー)と正しく結合できて神経活動をするニューロンは生き残るが、それができなかったニューロンは死んで排除されていく。その量は、脳の領域によって20%から80%にも上る。
運動の制御に関する領域の成熟がもっとも遅く、その変化は21歳まで続いていた。
このように、「ヒトの脳は3歳ころまでに出来上がる」という「3歳児神話」は事実ではない。
前頭葉の発達が遅いことは、思春期の子どもたちの価値判断や意思決定が大人並みになるには、かなりの時間がかかることを意味している。
現在では、脳の特定の領域では、生涯にわたって脳細胞が産生されることが分かっている。
突然変異があったからこそ、地球上に人類が存在している。脳の進化についいていうと、遺伝子の重複が生じ(過剰コピー)、さらにその遺伝子に変異が生じる(コピーミス)ことが繰り返されることによって、人類はより高度な脳を獲得することができたと言える。
人間を人間たらしめている特徴の一つは「言語」を操ること。ネアンデルタール人も舌骨が発見されていて、言語をもっていたと思われる。
脳について最新の知見を得ることができました。
(2017年12月刊。860円+税)

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