弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

アメリカ

2015年8月 4日

アメリカの法曹倫理

                               (霧山昴)
著者  ロナルド・D・ロタンダ 、 出版  彩流社

 Eメールなどのインターネット社会において弁護士の守るべき法曹倫理が新しく追加された第4版が翻訳・出版されました。
 アメリカの弁護士にとって守るべき倫理のほとんどは日本の弁護士にとっても同じく共通するものです。最新の社会環境に照応する法曹倫理として、日本人弁護士にとっても大いに参考にすべきものだと思います。
 依頼者が弁護士の職務怠慢を訴えるとき、真に意味するのは、弁護士が依頼者と十分にコミュニケーションをとっていなかったというところにある。もしも弁護士が依頼者に常時情報を伝えていたならば、依頼者は無為な遅延ではなかったことを知ったであろう。にもかかわらず、弁護士が正当な理由もなく依頼者に情報提供しないまま放置するとき、それは弁護士に対して依頼者とのコミュニケーションを要請する倫理規則に反することになる。
 ここで指摘されているように、弁護士は依頼者へきめこまかな情報伝達(連絡)を欠かすことは許されません。
弁護士は、「弁護士と依頼者との間のコミュニケーションを、それが王冠ではないにせよ、宝石のように扱わなければならない」。
 FAXやEメールの誤送信についても論じられています。
 Eメールは、考えようによっては、封書のような安全性はない。専門知識のある人なら、Eメールをのぞくことができる。それでも、弁護士が依頼者とのやりとりについて、暗号化されていないEメールを使うことは許されているというのが、多くの倫理的見解である。
 「やかましい辞任」という概念があることを認識しました。悪事をたくらむ依頼者に対して弁護士がいかに対処すべきという問題です。
 弁護士は、その通知が依頼者の不正行為への渓谷になる可能性があろうとも、やかましい(Noisy)「辞任通知」を送付することができる。
 依頼者は、弁護士がやかましい辞任することに先立ち、弁護士を解任することによって、それを防げることは許されない。
 「ホットポテト法則」という面白い名前のついたドクトリンがあります。
 もし、ある法律事務所が、同時に敵対する二人の依頼者を別々の訴訟で代理していることに気がついたとき、「ホットポテト」から手を離すように、一方の当事者を軽んじて厄介払いをしたり、新規の依頼者を旧来の依頼者と入れ替えようとしてはならない。
 法律事務所は、依頼者を熱いジャガイモを放り投げるがごとく扱ってはならない。ましてや金銭的に大幅な利益増になる理由をもって依頼者を選択するなど、論外である。
弁護士は、さまざまな業務を秘書、事務員、弁護士補助職員(パラリーガル)にまかせることができる。そして、その弁護士が、かれらの仕事を監督し、最終的な責任をとる限りにおいて、それは無資格法律事務とはならない。
弁護士は、事務所を訪れる依頼者が、いかなる依頼者であれ、受け入れることを要求されるものではない。しかし、不当な理由によって事件の依頼を拒絶するのは適切でない。法律サービスが完全にいきわたるという目標を達成するためには、弁護士は与えられた任務を軽々しく断ってはならない。たとえ、その仕事が弁護士にとって魅力のないものであっても、同じである。
昨今の法律事務所への入所は、現代の結婚に似ている。つまり、終生の契りといえるものは、ほとんどなくなってしまっている。元の法律事務所から、ビジネスを手に入れて成功すると、事務所を去る弁護士がいるという事実は、この新たな現実を反映している。
 依頼者のほうでも、担当していた弁護士についていきたいと思う場合がある。依頼者は商品ではない、だから依頼者は、弁護士が法律事務所を替えれば、その弁護士についていく権利がある。そこには、無視できない言論の自由の問題が横たわっている。
 アメリカでは、弁護士について、直接の電話または対面式勧誘に加えて「リアルタイムの電子的接触」も禁じている。チャットルームに弁護士が参加するのは完全に自由ということはない。
 アメリカの弁護士(法曹)倫理は、一歩遅れてインターネット社会になっている日本人弁護士にとっても大いに参考になることを実感させられる本です。
 沖縄で、今も元気に大活躍している、敬愛する当山尚幸弁護士から贈呈を受けました。当山弁護士自身も前の第3版から翻訳に関わっていますが、本当に頭が下がります。ありがとうございました。ひき続きのご健闘を心より祈念します。
(2015年4月刊。3500円+税)

2015年7月30日

アメリカン・スナイパー

                               (霧山昴)
著者  クリス・カイル 、 出版  ハヤカワ文庫

 映画をみましたので、その原作を読みたいと思いました。
 映画も原作も、アメリカのやっていることは、まったくの間違いだと言わざるをえません。
 「敵」の有力者を一人ずつスナイパーを殺していったとしても、その国を全体として支配できるわけがないのです。一人の狙撃手が敵軍の戦闘員160人の殺害に成功した。これは、局所(ミクロ)に見たら、すごい人数です。しかし、大局的にみると、なんという数字でもありません。何万、何十、いえ何百万人もの大衆を一人のスナイパーが支配できるはずもありませんから・・・。
 そして、そんなにたくさんの「敵」を殺した兵士の多くは、精神的におかしくなってしまうのです。160人を殺した伝説の英雄は、なんと「狂った」味方の兵士からアメリカで射殺されてしまうのです。
 シール(SEAL)の兵士の離婚率は、異常に高い。
 スナイパーとして、照準器を除いているときには、両方の目を開けておく。右目は照準器腰にみていて、左目は全体を見ている。これで、状況把握がしやすくなる。
 スナイパーは、市街地では、180メートルから360メートル内を狙う。郊外だと730メートルから1100メートルを狙う。そして、頭ではなく、体の中心を狙って討つ。はずしにくい。どこにあたっても、相手は必ず倒れる。
 民主主義をイラクにもたらすために命を危険にさらしたわけではない。命を危険にさらしたのは、友人のためであり、友人や同じ国の仲間を助けるため。戦争に行ったのは祖国アメリカのためであり、イラクのためではない。祖国が自分をイラクに送り込んだのは、あのくそったれどもがアメリカに来ないようにするためだ。つまり、イラク人のために戦ったことなど、一度もない。
 3日間、戦闘に出かけ基地に帰って一日休む。まず眠り、それからテレビゲームをやったり、家に電話をかけたり。基地から発信される通話は、すべて録音されている。
 イラク(ラマディ)で殺されたいのなら、警察官になるのが手っとり早い。また、警察組織には汚職がはびこっている。
 バグダッドのなかにあるサドル・シティでは、市民は普通に仕事に出かけ、市場で買い物をしていた。その一方で、銃を手にして脇道から忍び寄り、壁をつくっているアメリカ人兵士を狙う連中もいる。
 ファルージャは、ひどかった。ラマディは、さらに辛かった。サドル・シティは最悪だった。
 今の自分は、初めて戦争に行ったときの自分ではない。誰もが変わってしまう。戦場に行くまでは純真な心を持っているが、とつぜん世の中の裏側を目にする。
 戦争は、まちがいなく人を変える。死を受け入れるようになる。
 2013年2月、カイルは、テキサスの射撃場で射殺された。
 カイルは、このとき、除隊したあとで民間軍事訓練会社を経営する一方で、心身に障害を負った元兵士を支援する活動に従事していた。カイルを撃ったのは、PTSDを患う元海兵隊員だった。
 武力・戦争に頼るだけでは何も解決しないことに、一刻も早くアメリカ国民は気がついてほしいと思います。そして、日本にはアメリカの過ちを繰り返してほしくはありません。
 安倍首相の強引にすすめる戦争法案の成立を阻止するため、引き続きがんばります。
(2014年10月刊。860円+税)

2015年7月24日

帰還兵はなぜ自殺するのか

                               (霧山昴)
著者  デイヴィッド・ファンケル 、 出版  亜紀書房

 アメリカからアフガン・イラクへ戦争に行った兵士たち、小隊30人、中隊120人、大隊800人は、元気な人ですら、程度の差はあれ、どこか壊れて帰ってきた。悪霊のようなものにとりつかれずに帰ってきたものはひとりもいない。その悪霊は動き出すチャンスを狙っている。
 アメリカに戻ってきた元兵士の一人は次のように語る。
 ひっきりなしに悪夢をみるし、怒りが爆発する。外に出るたびに、そこにいる全員が何をしているのか気になって仕方がない。
200万人のアメリカ人がイラクとアフガニスタンの戦争に派遣された。アメリカに帰還したとき、戦争体験などものともしない者もいる。しかし、200万人の帰還兵のうち20~30%にあたる50万人の元兵士がPTSDやTBIを負っている。
PTSD・・・・心的外傷後ストレス障害、ある種の恐怖を味わうことで誘発される精神的な障害。
TBI・・・・外傷性脳損傷、外部から強烈な衝撃を与えられた脳が脳蓋の内側とぶつかり、心理的な障害を引きおこす。
苛立ち、重度の不眠、怒り、絶望感、ひどい無気力。なげやりな態度・・・。
繰り返し外国の戦場に派遣された兵士は自殺しやすい。既婚兵士は自殺しにくい。
戦争のあいだ、毎日が同じように始まった。兵士たちは幸運のお守りをポケットに入れ、最後の言葉にまつわる冗談を言い合った。素早く円陣を組んで祈りあげ、最後の煙草を吸った。
防弾チョッキのベルトをきつく締め、耳栓をし、耐破損性サングラスを下ろし、耐熱性グローブをはめた。「出発」という号令とともに、ハンヴィー(アメリカ軍の装甲車)に乗り込んで進んでいった。道路の先で自分たちを待ち受けているのが何か、よく分かっていた。
兵士たちは、ハーレルソンのハーヴィーが宙に高く吹き上がり、火に包まれるのを見た。エモリーが頭を打たれて倒れ、自分の血にまみれていくのを見た。兵士たちが脚を失うのを、腕を失うのを、脚を失うのを、手を失うのを、指を失うのを、つま先を失うのを、目を失うのを見た。
次々に起こる爆発音を聞き、何十台ものハンヴィーが消えて、凄まじい炎の雲と化し、死骸へと変わるのを見た。そして、しまいには、兵士たちの大半がその雲に取り込まれてしまう。恐怖の瞬間に、雲に囲まれて何も見えないまま考えた。
自分は生きるのか、死ぬのか、無傷のままか、ばらばらになるのかと。やがて耳鳴りがし、心臓が激しく鼓動し、精神が暗黙に落ち、目には時折涙があふれてくる。
彼らは分かっていた。分かっていたのだ。それでも毎日、戦闘に出かけ、戦争がどのようなものが分かってくる。
 勝者はいない。敗者もいない。勇敢なものなどない。ひたすら家に帰るまでがんばり、戦争のあとの人生でも、同じようにがんばり続けなければならない。
アメリカからイラクへ侵攻した兵士たちの多くが貧困家庭出身の若い志願兵だった。ある大隊の平均年齢は20歳だった。そして、毎年240人以上の帰還兵が自殺を遂げている。自殺を企てた人は、その10倍いると推定されている。なぜなのか。
本書では、そのいくつかのケースを家庭訪問するなどして明らかにしています。
 経済徴兵制というのは、アメリカにならって、日本でも取り入れられる恐れがあります。
 自民・公明の安倍政権のすすめている戦争法案は必ず廃案にしなければいけません。
 日本の未来を担う若者から、その輝かしい未来を奪わないようにしましょう。あなたも、ぜひお読みください。
(2015年6月刊。2300円+税)

2015年7月 4日

孤児列車

                               (霧山昴)
著者  クリスティナ・ベイカー・クライン 、 出版  作品社

 実話にもとづくアメリカの小説です。舞台は戦前のアメリカです。
 1854年から1929年まで、身寄りのない子ども、家のない子どもたちが、アメリカ東海岸の都市から中西部の農村へ続々と送られた。引き取り先を見つけるためだったが、現実には労働力として期待された。
 20万人をこえる子どもたちが列車で運ばれた。多くの子どもたちは、働き手として、きびしい環境に置かれ、虐待され、逃げ出していった。
 このような現実は、やがて闇に埋もれていった。それを2013年に掘り起こしたのが、この本であり、全米で180万部も売れた。
 戦前、1930年代のアメリカでは、常に1万人以上の子どもたちがニューヨーク州の路上で暮らしていた・・・。
 新しい家庭と町に温かく歓迎される子もいたが、殴られたり、虐待されたり、ののしられたり、無視される子もいた。
 子どもたちは、自分の文化的アイデンティティや生い立ちを忘れ去った。兄弟姉妹が引き裂かれるケースも多く、連絡をとりあうことも認められなかった。
 心も体も成熟していない都会の子どもが、農場のきつい仕事をこなすよう求められた。多くは、イタリア、ポーランド、アイルランドからの移民の子で、なまりが変だとからかわれた。英語がろくに話せない子もいた。
 新しい家庭でのしっとや競争が不和を生み、多くの子どもが自分はどこにも属していないという気持ちを抱くようになった、自分を求めてくれる人を探して、家から家へ転々とする子もいた。逃げ出した子は多かった。
 たくさんの写真が紹介されています。
 小説で、その辛い日々が再現されています。それにしても、累計20万人とは、大変な人数です。それが忘れられていたというのです・・・。ここにはアメリカン・ドリームは影も形もありません。
(2015年3月刊。2400円+税)

2015年6月30日

キューバ危機

                               (霧山昴)
著者  ドン・マントン、デイヴィッド・ウェルチ 、 出版  中央公論新社

 私はアメリカのケネディ大統領もソ連のフルシチョフ首相も、故人としてはそれほど傑出した人物とは考えていませんが、それなりの常識はもっていた人だと考えています。
 この二人のおかげで、地球は破局を迎えることがなかったのです。それが、安倍首相のような、ウソを平気でついて、反省することもないという非常識きわまりない人物が、どちらかのトップにいたら、今の地球はなかったでしょう。
 安倍首相の支持率が今なお50%を割っていないことに、私は心の底から不安を感じています。日本人の知性のレベルって、それほどまでに低下したのでしょうか・・・。
 安全保障法制が成立しても自衛隊員のリスクは増えないと断言する安倍首相のウソを許してはいけません。日本人は、もっと怒るべきです。あなたまかせではいけないのです。
 1962年のキューバ危機をふり返るのは、安倍のようなとんでもない人物を首相とする日本にとって、大いなる教訓です。
1962年10月のキューバ危機は、人類史上もっとも危険な出来事だった。
 ケネディとフルシチョフは、ともに事態が制御不能となる危険をしっかり認識するようになった。二人は、事故や誤解、意図せぬ行動によってのぞまざる聞きがエスカレートしはじめることを心配した。
 米ソの冷戦期は、アメリカのほうがソ連に比べて圧倒的に裕福だった。
 しかし、陸軍力ではソ連がアメリカを優っていて、本格的な熱戦がおきたら、ソ連はヨーロッパのNATO戦力を短期間で圧倒できると考えていた。だから、NATOは、ソ連を牽制すべく、核による報復の脅しに頼った。
 多くのキューバ人は、アメリカが1898年にご都合主義的に介入したと感じている。その怒りは、今日までに尾を引いている。キューバ人は、スペインからの独立を求めて命を賭けて戦った。アメリカは、その栄光を手中から奪い去り、今度はアメリカ流の植民地支配を押しつけてきた、と学校で習っている。
 ちなみに、アメリカ軍は、キューバを1902年まで占領し続けた。
 アメリカ大使は、政界の実力者であり、キューバ大統領より強大な権力を行使していた。
 このころ、ソ連もキューバの情報機関も、ともにアメリカが侵略してきそうだとは考えていなかった。
 CIAは、キューバにある8基ものミサイルが8時間以内に発射可能となる予測をした。CIAは、キューバにソ連軍は5000人、せいぜい1万人と考えていた。本当は、4万2千人ものソ連兵がいて、戦術核兵器で武装していた。
 ケネディは、キューバをいじめ、脅かしたことで、恐れていた挑戦を誘発した。フルシチョフのほうも荒々しく大言壮語をくり返し、ベルリン問題でたえまなく脅しをかけ、ケネディに嫌がらせをして大人しくさせようとしていた。ソ連の軍部は、劣勢ではあれ、十分な戦略核能力があるため、アメリカの攻撃は抑止されるはずで、譲歩は不要だと確信していた。ケネディもフルシチョフも、自国軍の司令官たちの自信におおむね懐疑的で、彼らの進言に毅然と抵抗したのは幸運だった。
 政府や軍は複雑なシステムで、そこでは間違いも起こる。大規模な軍隊が戦闘準備を整え、命令一下で行動に移ろうと身構えているとき、間違いが起これば、あっという間に破局的な結果をもたらしかねない。
 核兵器の保有国が増えてしまった核時代の今日、共感の欠如は大きな懸念材料となる。
 左右のバランス感覚がなく、ないことを高言して恥じない人物を首相とする日本は、いま不幸の極みにあります・・・。
(2014年9月刊。2300円+税)

2015年5月22日

モンサント

                                (霧山昴)
著者  マリー・モンク・ロバン 、 出版  作品社

 アメリカって、本当にいやな国だとつくづく思いました。自分さえ良ければいい。目先の利益が最優先。あとは野となれ、山となれ、という国なのですね。もちろん、アメリカ人にも良心的な人々がたくさんいるとは思います。それでも、アメリカの軍隊、そして大企業の力の強さには、げんなり、うんざりしています。
 今回のテーマは軍事ではなく、企業のエゴの話です。その名も、モンサント。
 四日市コンビナートにもいましたよね。世界中を荒らしまわっている、とんでもない公害まき散らし、環境破壊の大企業です。
 1万7500人の従業員をかかえ、2007年には75億ドルの売上高をあげ、うち10億ドルが純利益。世界全体で遺伝子組換え作物の90%はモンサントが特許を有している。その耕作面積は1億ヘクタール。半分がアメリカ、次いでアルゼンチン、ブラジル、カナダ、インド、中国、パラグアイ、南アフリカ・・・。
 これらの国から農産物は輸入すべきではないということです。農薬まみれの野菜を食べさせられるからです。
 モンサントは、PCBが健康被害をもたらすことを1937年から知っていた。しかし、何も知らないかのように行動していた。モンサントは無責任という以上に、犯罪行為をしている。
そして、モンサントを訴えた人についての裁判では、強力な弁護団を組み、「不屈の敵」というイメージを相手に与えるべく、無限のお金をつぎ込んだ。もう裁判なんてしようと思わせないようにする魂胆だ。
 アメリカには、4つの「回転ドア」がある。その一は、ホワイトハウスからモンサントへ就職する。その二は、議会メンバーが、モンサントのためのロビイストになる。その三は、環境規制機関からモンサントへ天下りする。その四は、モンサントから政府機関その他へ向かうドアがある。
モンサントは、年間1000万ドルの予算と74人のスタッフを使って「調査」している。モンサントから買った種子をつかい、翌年、それによって得られた種子をつかうことは禁じられている。「同意書」にサインされているのだ。違反者に対する制裁金は巨額であり、破産するしかない。
 モンサントの供給する種子は、1回目は効果がある。しかし、次からは、化学肥料を大量投入しなければいけなくなるので、農地はダメになっていく。遺伝子組換えといっても、実際には、殺虫剤成分が組み込まれているだけ。だから、人間が食べると、殺虫毒素の残留物を摂取していることになる。
 うひゃあ・・・。こんなの、いけませんよ。
 ランドアップ耐性大豆の栽培地帯では、ガン患者が増加している。
 自分さえ良ければ、今さえ良ければ、お金さえもうかれば・・・、そんな企業って、この社会に存在する価値なんてありませんよね。
 フランス人女性のルポルタージュです。彼女自身が農家の生まれだといいます。
 私も完全無農薬の野菜を庭で育てていますが、すべてというわけにはいきません。
 ドキュメンタリー映画もあるそうです。ぜひ見てみたいです。
(2015年3月刊。3400円+税)

2015年5月20日

スノーデン・ファイル

(霧山昴)
著者  ルーク・ハーディング 、 出版  日系BP社

 権力は知らせたくない、しかし知りたい。自分に都合の悪いことは一般に知られたくないので、「特定秘密」に指定する。そして、国民が何をしているのか、何を考えているのかは知りたいので、無断で傍聴する。どこの国でもやっているのですが、アメリカの場合は、それがケタはずれです。そして、日本の自公政権も、アメリカに習って特定秘密保護法を制定・施行してしまいました。
 今や、世界はスパイ天国と化している。グーグル、スカイプ、ケータイ、GPS、ユーチューブ、トーア、Eコマース、インターネットバンキングなどは、監視マシーンと化している。
 アメリカのNSAはGCHQと協力して、海底の光ファイバーケーブルに盗聴器を仕掛けていた。そのおかげで、アメリカとイギリスは、全世界の通信内容の多くを読みとることができた。
NSA本部には、4万人が働いている。アメリカ最大の数学者の雇用主だ。
 スノーデンは、10代になったころ、日本に熱を上げていて、日本語も1年半ほど勉強した。
諜報機関は、ケータイをマスクや追跡装置に変えられる。
 2009年にイギリスのロンドンでG20サミットの会議があったとき、GCHQは諸外国の首脳を盗聴していた。
 アメリカのNSAには、光ファイバーケーブルの盗聴という、大きな極秘任務がある。
 NSAは外国の情報だけでなく、アメリカを通過する、すべての通信を収集している。アメリカ本土には、通信が監視・収集・分析されずに出入りできる地点は一つもない。
 2003年の電話通信1800億分のうち、20%がアメリカを発着し、20%がアメリカを通過していた。通信会社にとって、NSAとの協力関係は、ずい分とお金になった。国際通話の81%にアクセスする見通りにアメリカ政府は、毎年、大手通信会社に何億ドルもの大金を払っている。
 フェイスブックは、2012年後半に、1万8000~9000人のユーザーの個人データを、NSAだけでなく、FBI、地方警察など、さまざまな法執行機関に提供した事実を認めている。
 スノーデン・ファイルの恐ろしい現実が紹介されています。
(2014年5月刊。1800円+税)

2015年4月24日

ヴェトナム戦争研究

                                 (霧山昴)
著者  藤本 博 、 出版  法律文化社

 50年近く前の大学生のころには「アメリカのベトナム侵略戦争に反対」と叫んだのは数え切れないほどです。あれ以来、アメリカ帝国主義という言葉は、私の血となり肉となって定着しています。そして、最近のイラク侵攻です。サダム・フセインは残虐な帝王だったと私も思います。でも、それをアメリカ軍が一方的に侵攻して殺害してよいなんて思えませんし、思いません。
 最近のアメリカ映画『アメリカン・スナイパー』をみて、ますます意を強くしました。アメリカがイラクの民衆を敵として戦争していたのです。だから、アメリカが戦争に勝てるはずがありません。一人のスナイパーが何百人のイラク人「テロリスト」を殺したところで、戦争に勝てるはずもないのです。その意味で、本当の「反戦映画」だと思いました。
 この本は、久しぶりにアメリカにとってのベトナム戦争を考えています。ベトナムからアメリカがみじめに脱出したのは1975年4月。これは私が弁護士になって2年目の春でした。
 ベトナム戦争が終結するまでの10年間にアメリカ軍は無差別攻撃・殺戮を繰り返し、膨大な数のベトナム民間人が犠牲となった。およそ数百万人にのぼる。
 ベトナム戦争に関しては、これまで3万冊の本が出ている。
 どうでしょう、私の書庫にも、正確には数えていませんが、ベトナム戦争だけで、500冊ほどの本があると思います。
 アメリカは、ベトナム戦争の全期間中に、東南アジア全域に延べ340万人、南ベトナムに260万人の兵員を展開した。南ベトナムへは、ピークの1969年に、54万人の軍事要員を派遣した。アメリカ兵の戦死者は5万8000人。うち戦闘中の戦死者は4万7000人。戦争での負傷者は30万4000人。うち7万5000人は、重度の身体障害者。
 ベトナム戦争では、砲弾による死者は36%で、むしろ小火器そして地雷や罠による戦死者が60%をこえる。
 南ベトナム軍は、死者25万4000人負傷者78万3000人。
 北ベトナム軍と人民解放軍の戦闘中の死者は100万人、行方不明者は30万人。
 ベトナム戦争における民間人の死者は200万人以上。
 アメリカによる北ベトナム爆撃(北爆)は、年に2万5千回から、10万8千回に及んだ。700万トンの爆弾をアメリカ軍は投下した。枯れ葉剤は、7万キロリットルが散布された。北爆よりも南ベトナム省内に多くの爆弾が投下された。北ベトナムには100万トン、南ベトナムには328万トンだった。地上での爆弾使用量は688万トンなので、合計すると100万トンが南ベトナムで使われた。これは北ベトナムへの爆撃の10倍になる。
 ベトナム解放勢力は、アメリカ軍との正面作戦を避け、小部隊による遭遇戦や奇襲作戦を展開した。
 1967年までに300万人の難民を生み出し、汚職が横行し、社会の不安定化を招いた。
 ソンミ虐殺事件を起こしたチャーリー中隊は、「敵」と遭遇しない状況で犠牲者がふえ、不満が募り、一般の住民が「敵」に同調しているのではないかと疑っていた。部隊は当初の132万人が105万人にまで減っていた。ベトナム人を人間とは思わず、動物としか思えなくなっていた。「村にはいるものを全部殺せ」という命令が出た。1968年3月16日、4時間のうちに504人の住民が無差別に殺害された。
1971年3月29日、カリー中尉のみが有罪となったが、3年半後に自由の身となった。
 アメリカ軍は、ソンミ村の虐殺以外にもたくさんの事件を起こしたが、起訴されたアメリカ兵は50人、有罪となったのは23人のみ。
 このようなアメリカ軍の犯罪を告発するものとして、「ラッセル法廷」があり、それなりに機能した。
 アメリカは、ベトナム戦争敗北の後遺症を中東の湾岸戦争で「克服」した。
 ところが、アメリカ兵のPTSDはますます深刻になっていくのでした。そして、ベトナム戦争からの帰還兵たちがベトナムを再訪し、いい方向での「和解」も起きていくのです。
 昔のベトナム戦争反対の声を思い出させてくれる本でもありました。
(2014年12月刊。6800円+税)

2015年4月22日

沈みゆく大国 アメリカ


                               (霧山昴)
著者  堤 未果 、 出版  集英社新書

 アメリカのような日本には、絶対になってほしくありません。なんといっても、病気になったとき、アメリカでは悲惨です。まさしく「自己責任」。お金がなければ、さっさと死ねというのがアメリカです。
アメリカの医療費は高すぎる。突然のケガや病気のために破産する先進国なんて、アメリカ以外にはない。どう考えても狂っている。どんなに仕事があっても、今のように無保険では、病気やケガしたら、いつでも自己破産コースだ。リーマンショック以降ふえ続けている個人破産の半数以上が、医療破産である。医療破産者の8割は、保険加入者が占めている。これは、保険会社が保険給付をしぶったり、必要な治療を拒否するケースが多いからだ。
 オバマケアの法律を医療保険・製薬業界が呑んだのは、全国民加入というのが大きかった。数千万人の新規客の獲得は、業界にとって損にならない。
年間150万人が自己破産者になる。その理由のトップは医療費。国民の3人に1人は、医療費の請求が支払えないでいる。
 民間保険は高いため、多くの人は、安いけれど適用範囲が限定された「低保険」を買うか、5000万人もいる無保険者になっている。
世界最先端の医療技術を誇るアメリカでは、毎年4万5000人が適切な医療を受けられずに亡くなっていく。
 アメリカで毎年5万人ずつ増えているHIV感染者の6割は、同性愛者などの男性が占めている。全米に110万人いる患者のうち、保険に加入しているのは、わずか13%のみ、患者の多くは、貧しく、無保険で、感染に気づかないまま、次々に新しい相手に感染させてしまう。
 オバマケアは、労働組合の存在そのものを脅かす危険性を秘めていた。そのことに労組幹部が気づいたのは、法律が成立したあとのこと。組合の保険では政府からの補助金が出ないため、労働者は組合保険をあきらめてオバマケア保険に入らざるをえなくなる。労組の提供する医療保険は、オバマケア保険の基準より充実しすぎているとして、「キャデラック保険」と名づけられ、今後、40%の課税対象になる。
メディケイド患者は、民間保険の加入者より50%、無保険加入者より13%も死亡率が高い。その最大の理由は、国からの治療費支払い率がメディケイドは民間保険の6割と非常に低く、メディケイド患者を診れば診るほど、医師や病院は赤字になってしまうから。
アメリカの医療費を毎年、異常に押しあげている最大の原因は、民間医療保険と薬価だ。オバマケアは、この二つの業界を野放しにしたまま、民間保険の購入を義務化し、医師と病院には、高齢者医療を減らせという。このことによって、金持ちの高齢者は高い民間保険を買い、現金払いで好きな医師にかかれるけれど、中流以下の高齢者は、早く死ねと言われているようなものだ。
 もし民間保険を廃止し、日本のような政府管掌の国民健康保険一本にすれば、医師を事務作業から解放するだけでなく、事務費用が節約できて、アメリカは年間40兆円もの医療費を下げることができる。
 オバマケアの問題点をしっかり認識できる本です。ところが、こんな問題のある内容でもオバマ大統領に対して、アカだ、共産主義者だと罵倒するアメリカ人が少なくないというのです。本当に、アメリカって狂った国ですよね・・・。日本を、そんな国にしたら、大多数の日本人は不幸になります。
アベノミクスによって、株高で恩恵を蒙っている人にとっては「天国」なのでしょう。それでも、その老後は分かりませんよ。そして、子どもや孫は不安な日々を過ごすことになります。そんなことって、本当にいいことなんですか・・・?
 日本の国民皆保険制度を絶対に守り抜きましょうね。
(2014年11月刊。720円+税)

2015年4月14日

反知性主義


著者  森本 あんり 、 出版  新潮選書

 アメリカって、本当に怖い国です。すべては自己責任ですから、会社のトップは、とんでもない超高額の報酬をもらっています。取締役会は現実には何の歯止めにもなりません。
反知性主義とは、実証性や客観性を軽んじ、自分が理解したいように世界を理解する態度のことだ。
 ダーウィン以来の科学的な進化論を真っ向から否定するような議論が責任ある地位の人々の口から平然と語られるのは、アメリカだけ。
 キリスト教は、アメリカにとっても外来の宗教である。
 神は人々に約束した。人々はその約束を守り、なすべきことをした。だから今度は、神が約束を守る番だ。神を相手としてアメリカ人は契約の履行を迫っている。
 リバイバリストの説教は、言葉も平明で分かりやすく、大胆な身振りや手振りを使って話がうまい。聞かせる。
「熱心」は、とても悪い意味だ。あの人は、常軌を逸した危険人物だという。
 万人の平等を説いたジェファソンからして、自分自身は広大なプランテーションを所有しており、多くの黒人奴隷を使い、そのうちの一人の黒人女性と関係をもって子どもを生ませていた。
目の前の現実が、これほど不平等だというのに、我々はなおも万人が平等だと信じている。
 クエーカー教徒は今は温厚な平和主義者として知られているが、最初はかなり過激な集団だった。新渡戸稲造もクエーカー教徒だった。
世俗的な成功は、それ自体が目標ではなく、自分の生き方の正しさを計るバロメーター。
 信仰とはすなわち道徳な正しさであり、世俗的な成功をもたらすもの。だから、もし自分が世俗的に成功しているならば、それは神の祝福を得ていることのしるしなのである。
 本人はいつまでも自信がなくて、不安に脅かされていて、何かにすがっていたい。あくまでも自分が愛されていて、認められていることを、手にとるように実感し続けていたいのだ。
 宗教と実利という二つの成分要素で成立したはずの反知性主義は、まさにその大衆的な成功ゆえに、本来の反エリート主義的な性格を失っていく。きわめて皮肉な結末である。
アメリカ史には、政治における妥協性と、道徳における極端性が共存している。
 アメリカは、一方では欲望全開で何でもありのフロンティア社会であり、かつ同時に禁欲的で厳格な法律をもったお上品の国である。
 都会は売春と飲酒と賭博が蔓延する一方で、プロテスタント的、中流階級的な倫理観は、他のどの国よりも強い。
 アメリカという複雑怪奇な国について考えさせられる本です。
(2014年2月刊。1300円+税)

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