弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
アメリカ
2013年6月18日
核時計・零時1分前
著者 マイケル・ドブズ 、 出版 NHK出版
背筋の凍る怖いドキュメントです。核戦争が勃発する寸前だったのですね、キューバ危機って・・・。
ときは1962年10月。アメリカはケネディ大統領、ソ連はフルシチョク首相です。どちらもトップは核戦争回避の道を真剣に探ります。しかし、部下たち、とりわけ軍人たちは「敵は叩け」と声高に言いつのります。日本を空襲して焼野原にし、ベトナム戦争でも空爆によってベトナムを石器時代に戻すと叫んでいたカーチス・ルメイ大将(空軍参謀総長)がタカ派の先頭にいます。あんな、ちっぽけ島(キューバ)なんか「島ごとフライにしろ」、つまり燃やし尽くしてしまえばいいという怖い考えにこり固まっています。このルメイ将軍は日本列島を焼け野原にした張本人ですが、戦後、日本政府は勲章を授与しています。日本の支配層の卑屈さには呆れます。
部下たちの暴走は、いったい止められるのか。既成事実が次々に危ない展開を見せていき、トップ集団は方針をまとめることができません。怖いですね・・・。なにしろ、キューバに持ち込まれていたソ連の核弾頭は半端な数ではありません。そして、アメリカだって核爆弾を飛行機に積み、船に積み、ミサイルに装着していたのです。よくぞ、こんな動きが寸前に回避できたものです。
ケネディ大統領にとって戦争とは、軍部が常に何もかも台無しにする場であった。
要するに、軍部を信用してはいけないということです。
マクナマラ国防長官はキューバに配備されたソ連軍に配備されたソ連軍の兵力を6000~8000と見積もった。しかし、実際には4万人のソ連軍がキューバにいて、うち1万人は精鋭の将兵だった。
キューバ駐留のソ連軍はアメリカ軍の侵攻には抵抗せよと命じられたが、核兵器の使用は禁じられた。フルシチョフは、核弾頭の使用についての決定権は誰にも渡さないと決めていた。キューバに運び込まれたソ連の核兵器(核弾頭)は90発だった。
ソ連からの「要注意船」は10月24日の前日に既に引き返しはじめていた。その点、『13日間』は事実に反したことを書いている。
アメリカの戦略空軍総司令官のパワー大将は既に空中にあり、15分以内に使用可能な核兵器を2962基も指揮下においていた。爆撃機1479機、空中給油機1003機、弾道ミサイル182機が「即応兵力」を形成していた。そして、その優先攻撃目標として、ソ連国内の220地点が選ばれていた。パワー大将は、ソ連との戦いが終わったとき、アメリカ人2人とロシア人1人が生き残っていれば、我々の勝ちだと考えていた。
うひゃあ、これはなんとも恐ろしいことです・・・。
キューバにいるソ連軍は、ワシントンだけでなく、ニューヨークも核弾頭の標的として想定していた。ソ連はキューバにFKR聯隊を2個配備した。いずれの聯隊も、核弾頭を40発と、巡航ミサイル発射機を8基そなえていた。キューバにあるアメリカ軍のグアンタナモ海軍基地にも核ミサイルをうち込む計画だった。
ケネディが学んだ教訓は、政治家たるもの、わが子を戦争に送り出すときは、よくよく考えた末にしたほうがよいということだ。
10月27日(土)、事態はケネディそしてフルシチョフにも制御できないスピードで進行していた。キューバ上空では、アメリカの偵察機が撃墜された。ソ連領空には、別の一機が迷い込んだ。
ケネディは、自分のアメリカの軍隊さえ完全に掌握できていなかった。フルシチョフにとって、ソ連が最初に核兵器を使う案は、どんなに脅されようと、怒鳴られようと、絶対に受け入れられない。カストロと違って、フルシチョフはソ連がアメリカに核戦争で勝てるなど思ってもいなかった。
この当時、核戦争が勃発してもアメリカ政府が確実に生きのびられるように秘密計画が作成され、そのための精鋭ヘリコプター部隊が待機していた。大統領は、閣僚、最高裁判事、そして数千人の高官とともにワシントンから80キロ離れたウェザー山に避難する。そこには、緊急放送網、放射能除汚室、病院、緊急発電所、火葬場などが完備されていた。腰痛に悩むケネディ大統領のための15メートルプールもあった。ところが、そのとき家族を連れて行くことは許されていなかったのです。夫が妻子を残して、自分だけ助かるというのです。みんな、そうするでしょうか・・・。
地位の高い者ほど、今の聞きが平和的に解決されることについて悲観的だった。軍人に任せると戦争が現実化してしまうことがよく分かります。口先だけで勇ましいことを言う石原慎太郎のような人物ですね。自分と家族は後方の安全なところにひっこんでいて、兵隊には「突撃!」と叫ぶような連中です。
「キューバ危機」って、本当に笑えない綱渡りの連続だったことがよく分かる本です。その圧倒的迫力は『13日間』をしのぎます。
(2010年1月刊。3100円+税)
2013年6月 8日
アメリカン・コミュニティ
著者 渡辺 靖 、 出版 新潮選書
現代アメリカの背筋がぞくぞくするような現実が紹介されている本です。日本がこんなアメリカになってはいけないと思いつつ、実はアメリカ型の超格差社会に近づいていることに思い至ると愕然とします。
テキサス州には刑務所が106ある。カリフォルニア州に次いで、全米第2位。そして、その急増ぶりは史上例のない速さ。テキサス州の収監者は16万人。日本は6万人ほど。なので、3倍近い。アメリカはロシア、南アフリカよりも多い。そしてテキサス州の民営刑務所は全米一多い。
テキサス州最古のウォールス刑務所では、11日に1人の割合で死刑が執行されている。死刑執行は電気椅子ではなく、(1964年まで)、薬物の静脈注射による。午前6時10分に注射を始め、6時20分に死亡を確認する。わずか10分あまりで執行が終了する。ちなみにアメリカでも、死刑判決は減少傾向にある。1990年代には年間300件だったが、2006年には114件となった。
アメリカ全体の収監者は220万人。中国の収監者数より50万人も多い。刑務所関連の仕事に従事するアメリカ人は230万人もいる。
収監者の70%は非白人。アフリカ系アメリカ人が全体の人口比では13%にすぎないのに、49%を占める。アメリカのホームレスは75万人。
カリフォルニア州にゲーテッド・コミュニティがある。住民からの招待状がない限り、住民以外の人間は入れない。20平方キロメートルのタウンだから、東京都港区と同じ広さ。東京ドームの400倍。縦10キロ、横2キロと細長い。そこに4つのゲートがある。コミュニティには、コンビニくらいの大きさの日用雑貨店が一軒しかない。白人85%、アジア系5%、黒人は0.7%。平均年齢は35歳、平均世帯収入は1500万円。アメリカ全土にあるゲーテッド・コミュニティの住民人口は、1995年に400万人だったが、2001年には1600万人(全米世帯数の6%近い)になっている。
実は、ゲーテッド・コミュニティは決して安全ではない。そのうえ、人付きあいがとても希薄になる。
子どもを無菌培養することなんてできません。結局、ゲーテッド・コミュニティで自分の家族だけは守ろうという発想では、社会全体の安全性は保証されませんので、自分の家族だって安全に生活できなくなるのです・・・。いやな発想ですよね。檻のなかに閉じこもって身の安全を確保しようなんて。
(2013年4月刊。1300円+税)
月曜日、恒例の一泊ドックに入りました。
日頃はなかなか読めない分厚い本を持ち込み、一心不乱に読書に集中します。
今回はアメリカのイラク戦争そして、キューバ危機の内情を再現した本が印象に残りました。いずれ、どちらも紹介したいと思いますが、アメリカの支配層も決して一枚岩ではなく、激しい内部抗争が続いていることを再認識させられる本でした。
健康診断の結果は、やがて送られてきますが、少しばかりダイエットの成果があがり、久々に体重が65キロとなりました。やれやれです。
2013年5月 5日
誰もやめない会社
著者 片瀬京子・蓬田宏樹 、 出版 日経BP社
従業員を大切にする会社なら日本にはたくさんありますよね。今度はどこの会社を紹介してくれるのかなと思うと、なんとアメリカの会社でした。しかも、シリコンバレーにある会社なんです。驚きました。やはり、会社は従業員あって成り立つものですよね。法律事務所にしても、事務員の下支えがなければ成り立ちませんし、まわっていきません。
アメリカのシリコンバレーで、どんな会社が従業員を大切にしているかと思うと、アナログの半導体部品を専門とする開発・設計会社です。そして、日本のメーカーもお得意先なのです。業績が良くて、報酬もまた良い会社です。ですから、従業員が辞めません。でも、それだけではありません。
東京スカイツリーのLED照明の安定運用に欠かせない部品をこの会社が提供している。トヨタのプリウスにも同じく・・・・。ええーっ、そうなんですか・・・。
会社の名前はリニアテクノロジー。従業員は4400人。操業は1981年。営業利益率は50%をこえる。そして、この利益率を20年も維持している。
リニアテクノロジーは、創業以来、企業買収や合併をほとんどしていない。
一度販売した製品は基本的に製造を中止しない。今でも、30年前の創業当時に発売した製品をコツコツと売り続けている。うっそー、と思いました。
一度入社した社員はほとんど辞めない。退職の95%以上は定年退職による。
コンシューマ製品市場とは距離を置いている。価格競争が激しく、収益があがらないから。そんな低収益の市場で、貴重なエンジニアのリリースを消耗させるわけにはいかない。すごい見識ですね。見上げたものです。
平均年収は15万ドルを上回る。1500万円ですよね。そして、年収の50%以上のボーナスを会社員に提供することもあった。さらに、ストック・オプションもある。
すべてがデジタルになるわけではない。アナログは必ず生き残る。先見の明がありましたね。30年前のアナログIC市場は世界で20億ドルほどだった。今や、世界のアナログ市場は20倍の420億ドルにまで拡大している。
営業マンは、製品価値を下げるような値引きをしてはならない。従業員が辞めないのは、仕事が楽しいからだ。そして、エンジニアも常に利益のことを考えている。エンジニアの仕事は回路を設計し、社会の会議のもとへ足を運び、顧客の要求を聞き、本当に求められているのは、どの製品なのかを探し出す。値引き合戦という悪循環にはまらないよう、高い顧客価値を提供する努力をしている。
弁護士も安かろう、悪かろうではいけません。私も値引きはせずに一生懸命に仕事をすることで弁護士としての販路を拡大したいと考えて頑張っています。
(2012年11月刊。1650円+税)
2013年4月30日
アメリカの国防政策
著者 福田 毅 、 出版 昭和堂
アメリカの国防政策の継続性を考慮するうえで避けては通れないのが、ベトナム戦争の影響である。科学技術信仰や戦争の合理化といった傾向は、ベトナム戦争にも明確に見出すことができる、ベトナム戦争後には、二度と第三世界の泥沼の内戦には関与すべきではないという風潮が強まり、米軍は戦略の焦点をソ連との大規模通常戦争へと回帰させた。この結果、技術重視や非対称戦の忌避という傾向が助長された。冷戦後に顕著となった米兵死傷者に対するアメリカの敏感さも、ベトナム戦争の影響によるところが大きい。
アメリカ軍は、アフガニスタとイラクでは迅速な「レジーム・チェンジ」(政権変更)に成功した。しかし、政権打倒後の治安維持には失敗し、軍事における革命(RMA)の限界が露呈された。
冷戦後のアメリカの軍事的優越は、その経済力に大きく依存している。
兵員1人あたりにして、アメリカはヨーロッパ装備庁(EDA)参加国の5倍の金額を装備調達と研究開発に費やしている。先端軍事技術の領域で、ヨーロッパ諸国がアメリカに太刀打ちできない一因はここにある。アメリカが兵士1人あたりに投入する資金の額は、年を追うごとに増大している。
アメリカ軍の最大の特徴は、遠隔地への兵力投射能力にある。
アメリカ軍と他の軍隊との最大の相違点は、兵力を海外に無期限に展開し、作戦を継続する能力にある。この能力の核心は、戦闘部隊の迅速な展開能力、グローバルな基地ネットワーク、大量の物資を調達し前線部隊に輸送する兵站能力があげられる。
「招かれた帝国」という言葉が示唆するように、アメリカ軍の前方展開を望んだのは、アメリカよりも、むしろヨーロッパ諸国や日本であった。
ベトナム戦争と異なり、1991年1月に始まったイラクとの湾岸戦争(砂漠の嵐作戦)は、典型的な正規戦であり、この戦いにアメリカ軍は圧倒的な兵力を投入して勝利した。アメリカ軍内に存在していた非正規戦や限定戦争を軽視あるいは嫌悪する風潮は、湾岸戦争後に強化された。そして、兵器のハイテク化の重要性が再確認された。
湾岸戦争の成功によって、航空作戦の可能性に対する楽観的見解が広まった。アメリカは「世界の警察官になることはできない」が、唯一の大国として世界に関与し続けるとブッシュ政権は断言した。
クリントン政権は、ソマリアでの失敗の責任を国連に転嫁しようとした。クリントンがブッシュと異なるのは、アメリカ軍の優位を維持しつつも、国防費をさらに削減することは可能だと主張した点にある。
ワインバーガーもパウエルと同じく、アメリカ兵の命はきわめて重視していたが、他国民の命の保護を強調することはあまりなかった。
1993年ハイチや1994年のルワンダで軍事介入をアメリカに躊躇させたのは、1993年のソマリアの記憶であった。ボスニアの内戦でも、アメリカは地上戦への関与を避けた。
1990年代後半になると、アメリカ軍の海外展開能力が低下しつつあるのではないかとの懸念が広まった。主として二つの要因による。第一は、同盟国や友好国がアメリカ軍への基地提供を拒むケースが増加したこと。第二に敵対的勢力がアメリカ軍の接近を拒否する能力を向上させつつあること。
アメリカ軍の位置づけの経過を系統的にたどることのできる本です。それにしても、戦後68年たってもアメリ軍基地が国内いたるところにあって、それを不思議と思わない日本人って変ですよね。これで本当に独立国なのでしょうか。そして、右翼・保守の人々がこんな日本国を愛せと押しつけるのって、何なんでしょうか。不思議でなりませんね。この本は大変な労作だと思いました。
(2011年6月刊。3800円+税)
2013年3月30日
鷲たちの盟約(上)(下)
著者 アラン・グレン 、 出版 新潮文庫
舞台は第二次世界大戦直後のアメリカです。
失業者がたくさんいて、ナチス・ドイツからゲシュタポが乗り込んできて、大威張りしています。知られざる不気味なアメリカ社会が描かれています。アカ攻撃が激しくなり、ハーバード大学の教授も職場から追放され、貧しい下宿人です。
そして、主人公の警察官の自宅がいつのまにか地下鉄道の「駅」になっています。夫である警察官の了解なく妻が手助けをしているのです。もちろん、南北戦争のときの地下鉄道ではありませんから、脱走した黒人を北部に逃亡させるというのではありません。政府ににらまれた人々をカナダへ逃亡させようというのです。警察官の兄は労働組合の結成をはかろうとして逮捕され、強制収容所に入れられています。
戦中に日系人の強制的収容所があったことは知っていましたが、労働組合活動家などを入れる強制収容所がアメリカにあったというのは、私には初耳でした。本当のことなのでしょうか・・・。
まだ、アメリカはドイツと宣戦布告していません。ドイツとソ連がスターリングラードで市街戦をたたかっているという時代です。FBIがナチス・ドイツゲシュタポに協力して動いています。信じられませんが、これは恐らく本当のことなのでしょう。FBIの長官がフーバーだったころのことです。日頃はゲイを口汚くののしっていながら、実は自らゲイだったというフーバー長官です。
ナチス・ドイツが逮捕・収容していたユダヤ人をアメリカ政府が買い受け、強制収容所でひそかに働かせていたという話が登場します。本当にそんなことがあったのでしょうか・・・。アメリカの闇世界ですね、これは。シカも、そこで働くユダヤ人は、ヨーロッパで抹殺されるよりも良いと満足していたと言います。
アメリカは今カネを必要としている。アメリカは10年以上、この大恐慌から抜け出せずにいる。そういうときに、あのユダヤ人たちの労働力が輸出で稼いでいる。
ナチスはユダヤ人なきヨーロッパを手に入れ、アメリカは格安の労働力を手に入れたのだった。
下巻にたどり着き、その解説を読んで、ようやく、この本が歴史的事実をふまえつつ、それを改案した小説だということを知り、安心もしました。なんだ、なんだ、そういうことだったのか・・・。すっかりだまされてしまいました。人騒がせな小説です。
(2012年11月刊。1500円+税)
2013年3月22日
ライファーズ
著者 坂上 香 、 出版 みみず書房
私は見ていませんが、『ライファーズ』という映画があるそうです。
ライファーズとは、無期拘禁刑渡河された受刑者のこと。2種類の無期刑がある。仮釈放のない絶対終身刑(LWOP)と、もう一つは仮釈放の可能性が残されたもの(LWP)。2002年には全米で12万のライファーズがいた。LWDPはその4分の1の3万人ほど。10年後の2011年にはライファーズは15万人に増えたものの、LWOPは4万人で、あまり増えてはいない。カリフォルニア州は全米でもっともライファーズが多く、2011年に3万2000人、全米の受刑者の2割にあたる。LWOPも4000人いる。
仮釈放があるといっても、現実に釈放されるライファーズは極端に少ない。
この本は、そんなライファーズの回復・立ち直りを支援する地道な取り組みを紹介しています。
アメリカでは「犯罪には厳しく」というスローガンのもと、1970年代半ばから厳罰化政策がうち出され、それが1980年代から90年代にかけての刑務所ブームともいえる状況を生み出した。1970年代半ばから顕著になった福祉「改革」と自己責任論、それらの結果として貧困層の犯罪化がある。
「産獄(産業と刑務所)複合体」という用語まである。民間企業と国家が安全な労働確保するために、厳罰化政策を拡大した。アスベスト除去や炎天下での雑草除去作業などを刑務所が請け負うが、受刑者には最低賃金すら支払われなかったりする。有名ブランドの多くも、刑務所の安価な労働力をつかって法外な利益をあげている。
1990年代半ば、刑務所の建設ラッシュとなった。1990年からの10年間で245もの刑務所、年平均で25件ほどが新設された。そして、アメリカは「監獄大国」となった、拘禁されている人は230万人。人口比では人口10万人あたり750人。日本は、その12分の1の60人ほど。しかも、保護観察や仮釈放中の人間を含めると720万人にも膨れあがる。これはスイスの全人口に匹敵する。
カリフォルニア州は監獄化のトップランナーである。2008年度の受刑者数は全米トップの17万3000人であり、テキサス州に次いで2倍だった。カリフォルニア州の矯正予算は教育予算を大幅に上回り、刑務所の職員は6万6000人である。
過去30年間のうち、刑務所の数は3倍に増えた。ただし、監獄人口が激増しているからといって、犯罪も激増しているわけではない。1960年から1990年までの30年間の犯罪率は、フィンランド・ドイツ・アメリカの順番ですすんでいった。
アメリカで刑務所人口が4倍に増えたといっても、アメリカの刑務所人口がもっとも顕著だった1980年代、犯罪の発生率は25%も低下した。
受刑者の立ち直りのためにライファーズの力を借りた。終身刑のライファーズは刑務所というコミュニティで大きな影響力をもつ。
母親が父親が刑務所に服役中の受刑者の子どもが、アメリカには少なくとも190万人から230万人はいる。その大半が10歳以下で、アメリカの43人の子どもに一人もしくは、
2.3%の子どもの親が刑務所に服役中の受刑者だ。
刑務所問題は、受刑者本人の問題だけではなく、子どもの福祉に大きく関わってくる。さらに受刑者の3分の2あまりが非白人であることから、マイノリティにとって切実な問題であることが分かる。アフリカ系の子どもでは15人に1人、ラテン系では42人に1人、白人は111人に1人である。受刑者の子どもが共通して体験することとしては、経済的・物理的・精神的に不安定な生育環境、犯罪者の子どもという恥の意識、拒絶感、社会的・組織的偏見、サバイバーブバルト、虐待、親族への依存と負担、学業の不振や素行の問題があげられる。親が死刑囚の場合には、さらに深刻だ。
アメリカの刑務所には、刑務所の掟と呼ばれる暗黙のルールが存在する。人種別のギャングが受刑者の生活を仕切っているため、人種が違えば「敵」になる。外のギャングと刑務所内はつながっていて、刑務所内の動きは外にも影響を及ぼす。その逆もまた、しかり、服役前にはギャングに所属していなかった者も、刑務所暮らしを生き延びるために巻き込まれてしまうことが多い。
日本の刑務所では、受刑者同士が自由に言葉を交わしたり、触れあうことが許されていない。誕生日も例外ではない。ひと言も言葉をかわすことなく、前を向いて黙々と誕生日の食事をとる。
アメリカの更生施設では、日常的に恥や屈辱的な思いをさせることは人を卑屈にさせ、人間的成長の妨げになると考えられている。罪に向きあうためにも日常的な会話や語りが奨励され、受刑者を孤立させない工夫が随所にあった。日本の刑務所とは正反対のアプローチである。
男性刑務所のなか、しかも重罪を犯した粗暴犯のいる場に、普段着の女性があたり前のようにしていて、受刑者と談笑し、受刑者のグループに混じって話をする。このように、アミティは、女性を積極的に雇用する。管理職に占める女性の割合も高い。
自分の心を開いていくこと、それをどうやっていくのか、真剣な試みがアメリカでも続いていることがよく分かりました。受刑者の大半がいずれ社会に出てくることを考えたとき、このような取り組みが本当に必要だと、長く弁護士をしていて痛感します。
(2012年8月刊。2600円+税)
2013年3月21日
秘密戦争の司令官、オバマ
著者 菅原 出 、 出版 並木書房
最新のアメリカ映画『ゼロ・ダーク・サーティー』はオサマ・ビン・ラディンをCIAが暗殺するまでを描いています。そして、その前に、CIAは『三重スパイ』の自爆テロ攻撃によって大打撃を受けていたのでした。
この本は、それらすべてがオバマ大統領の指示によるものいうこと明らかにしています。これではノーベル平和賞が泣きますよね。
2011年5月2日、オバマ大統領は米軍特攻部隊シールズをパキスタンに送り込み、オサマ・ビン・ラディンを暗殺した。そして、このビン・ラディン殺害はオバマ大統領の4年間の外交・安全保障政策のなかで、最大の実績と位置づけられている。
ええーっ、他国の実権を侵害して、裁判にかけることもなく敵対する政治家を暗殺したのが「最大の実績」だなんて、悲しすぎますよね。
ソフトなイメージとは裏腹に、オバマ大統領は、ブッシュ政権時代に始まった多くの政策を引き継ぎ、さらに攻撃的に拡大・発展させた。とりわけ、ブッシュ政権時代に始まった秘密工作のプログラムを劇的に拡大して、「秘密の戦争」をエスカレートさせた。
オバマ大統領は、イラクからアメリカ軍部隊を撤退させ、アフガニスタンからも正規軍も撤収する一方で、無人機をつかった暗殺作戦、特殊部隊をつかったテロリスト掃討作戦、そしてサバイバー攻撃による敵の重要施設の破壊・妨害工作を激化させた。「オバマの戦争」は、私たちの目の届かないところで、秘密裏に、そして激しく展開されている。
ビン・ラディン暗殺計画の中でアメリカ側が心配したのは、屋敷内に地下の秘密シェルターがあることだった。この心配があるため、上空から爆弾を落とすという作戦はとれなかった。
なーるほど、と思いました。映画では、その点はカットされています。
アフガニスタン政権の腐敗はとてつもない。カルザイ政権の腐敗は上から下まで、あまりにひどくて、行政機構は機能していない。だから、国民はまったく政府を信頼していない。
アメリカは、そんなカルザイ政権に対して巨額の援助を今なお続けているのです。自らの利益があるからに他なりません。
オバマ政権の高官たちを悩ませたもっとも深刻な問題の一つがカルザイ政権の正当性の低さだった。つまり、アフガニスタン国民のカルザイ大統領への支持の低さである。
カルザイ政権の腐敗は生半可なレベルではなかった。カルザイ政権の腐敗がひどすぎるため、何の条件も付けずにアメリカ軍を増派して、支援を強化してもムダだと考えられた。
2007年から、少なくとも30億ドルの現金がスーツケースや箱に入れられてカブール国際空港から国外に持ち出された。
2009年12月30日、アフガニスタン東部にあるCIA基地で自爆テロが発生し、7人のCIA要員ほかが死亡した。アメリカの諜報史上に残る大惨事だった。これは『三重スパイ』で描かれた事件です。
当時のCIAのパネッタ長官は、この自爆テロ事件について、「アルカイダとの戦いが本当に戦争だと思い知った」と回想している。
腐敗したカルザイ政権であっても、カルザイ大統領に居直られてしまえば、オバマ大統領としては打つ手がなくなってしまう。このことをカルザイ大統領は十分に見透かしていた。カルザイ大統領の弟ワリ・カルザイはカンダハル州議会議長をつとめていたが、実際には「キング・オブ・カルザイ」と呼ばれ、カンダハル政権の「腐敗の総元締め」とみられていた。「カルザイ政権の腐敗」をもっとも具現化した人物がワリ・カルザイだった。
カルザイ大統領の警備車両は58台だ。王宮を要塞化し、そこまでしないとわが身を守れない人が大統領をやっている。
無人機「プレデター」によるミサイル攻撃は、ブッシュ政権は2008年にパキスタン領内へ38回おこなった。オバマ政権によってからは、2009年に55回、2010年は3ヵ月だけで22回だった。12月30日のCIA基地の自爆テロ攻撃の直後の3週間のみで12回というハイペースでミサイル攻撃を行った。
いま、オバマ政権がやっていることは、1980年代にソ連がやったこととまったく同じだ。
CIAのなかで対テロセンター(CTC)のスタッフが急増している。9.11当時は300人ほどだったのが、今や2000人のスタッフを擁している。CIA全体の1割だ。CIAの分析官の35%が軍隊作戦を支援するための分析作業に従事している。
2012年5月1日、オバマ大統領はアフガニスタンを電撃訪問し、カルザイ大統領と会談した。しかし、夜の10時過ぎに訪問し、真夜中に首脳会談と協定の調印式を、夜中のうちにアメリカに帰国した。それほどアフガニスタンの現状はアメリカにとって厳しいというわけである。事前にオバマ大統領の訪問は報道されず、「長居は無用」と立ち去った。
タリバン側の人材供給源は無尽蔵。カルザイ大統領だって、いつ殺されるか分からない。オバマ政権には時間がないが、タリバンには時間があり、人間がいる。
オバマの秘密戦争に勝ち目がないことははっきりしています。軍事力で他国を支配することは出来ないのです。日本国憲法の前文と9条の意義が光っています。
(2013年1月刊。1600円+税)
2013年3月17日
ケインとアベル
著者 ジェフリー・アーチャー 、 出版 新潮文庫
イギリス人の著者が20世紀前半のアメリカ社会の断面を見事に小説化して描いています。驚嘆しながら、手に汗を握る思いで、上下2冊の文庫本を息を呑みつつ、頁をめくるのももどかしい思いで読みすすめていきました。たいした筆力です。
なにしろ、ポーランド社会から始まり、収容所の厳しい生活、アメリカへの移民、アメリカの銀行とホテル業界の内幕、これらがこと細かく描写されていくのです。その迫力にはただただ圧倒されてしまいます。
そのうえで、若い男女の物語が変貌を遂げ、新たな恋愛物語に変転しながら結実していくのです。そのスケールの大きさには息を呑まざるをえません。
歴史をよく調べ、経済構造を頭にたたきこみつつ、やはりストーリー展開の素晴らしさです。
気分転換にはもってこいの一冊です。旅行のおともにいかがでしょうか・・・。
(2008年8月刊。705円+税)
2013年3月14日
アメリカの危ないロイヤーたち
著者 リチャード・ズィトリンほか 、 出版 現代人文社
弁護士という職業は、日本もアメリカの共通するところが大きいと思います。ところが、アメリカでは弁護士の社会的評価がとても低いというのです。といっても、オバマもクリントンもヒラリーも、みんな弁護士なんですけれど・・・。
アメリカ人は、ずっと永く、弁護士を疑いと批判の眼で見てきた。150年前、エイブルラハム・リンカーンは、「一般の人が抱いている、弁護士はすべからく不正直だという考え」に言及した。多くの人は、典型的なアメリカの弁護士とは、不道徳であるか、あるいは道徳に無頓着であると考えている。
弁護士は、しばしば依頼者の視点から事実をねじ曲げてみる。公衆は、法制度を正義に奉仕するためのものであると期待するのに対し、弁護士は「誰にとっての正義か?」と問い、何よりも依頼者の視点からみた正義を実現するという自らの義務を指摘する。
日本の弁護士の一人として、これは違うぞと私は叫びたくなります。
弁護士は、決して故意に裁判所に対する偽もう行為に関与することがあってはならない。しかし、刑事弁護人は、その承認が真実を語っていると知っているときでも、「検察側の主張する真実をテストするために利用可能な合法的な手段すべて」を使用しなければならない。
1960年代初め、50人以上の弁護士を擁する法律事務所は、ほんの数えるほどだった。30年後、このサイズの法律事務所は500をこえた。1978年には、300人をこえる弁護士を擁するアメリカの法律事務所は一つであり、200人以上は15ほどだった。1996年までに、200人の弁護士を擁する法律事務所は161となった。
1970年代の後半、上位100の大規模法律事務所の多くは単一の大都市に単一の事務所を構えていた。そして、同じ州のどこかに臨時の出先機関をもっていた。1997年には、最大のベイヤー・アンド・マッケンジー法律事務所は国内に9ヶ所の事務所を構え、海外にはサウジアラビア、ベトナムからカザフスタンまで47の事務所をもつに至った。他の30の法律事務所は500人をこえる弁護士を擁し、平均して、全世界に12の事務所を構えていた。
スラップ訴訟とは、公衆の参加を断念させるために戦略敵に提起される訴訟のこと。この訴訟は大企業によって提起され、十分に資力のない人を相手どって巨額の賠償を請求する。この訴訟は被告側の防御費用が多額になるように考案される。この訴訟は提起する側の利益を想定していない。この種の訴訟の80~85%は結果として敗訴する。しかし、多くのケースで、被告側が費やす時間と費用の点で、そして被告と第三者の言論の自由に及ぼす萎縮効果によって損害は生じている。
日本でも、かつての巨大サラ金の武富士がフリージャーナリスト相手に起こした訴訟がこれにあたりますね。
アメリカでもっとも裕福な法律事務所の一つである370人の弁護士を擁するクラバスは、パートナー弁護士の一人あたりの年間総売上は250万ドル以上であり、パートナー弁護士一人あたりの平均利益は100万ドルを超えている。また、250人の弁護士を擁するウィルマー・カトラーでは、パートナー弁護士一人あたりの総売上は100万ドル以上であり、パートナー弁護士一人あたりの実利益はその半分の50万ドルである。25歳の新人弁護士でも、年俸8万5000ドル。初任給7万500ドルの弁護士の労働について、1時間あたる150ドルを依頼者に請求するので、事務所にとって30万ドルの価値がある。
年間1800時間という請求可能時間のノルマを達成するためには、自分自身を殺さなければならない。
アメリカの弁護士の10%、8万人から10万人が企業のなかで働いている。
最高の法廷弁護士は誰でも、役者として法廷では、少しばかりの人間性を示すのが重要な意味をもつことを意識している。法廷弁護士の多くが、服装が弁護士像を形づくることに同意する。
カーター大統領は、1978年にこう言ったそうです。
弁護士の9割は人民の1割に奉仕している、私たちはあまりに多くの弁護士をかかえながら、十分に弁護の恩恵を受けていない。ロースクールは、アメリカの大学にとって利益のあがる事業体である。
カネと権力のすべてを手中に収めながら、弁護士自身は、今日ほど、その専門職に満足していない時代はない。
こんなアメリカ、そして弁護士にはなりたくないと思った本でした。
(2012年7月刊。2200円+税)
2013年3月13日
なぜ、世界はルワンダを救えなかったのか
著者 ロメオ・ダレール 、 出版 風行社
著者はカナダの軍人として、ルワンダに駐留していました。
運命に委ねられ、なぶり殺しにされた何十万ものルワンダの人々に捧ぐ。
この本のはじめに書かれている言葉です。なるほど、目の前で無数の罪なき人々が当局に煽動されて暴徒化した人々によって虐殺されていくとき、精神がおかしくならないはずはないでしょうね。
そして、著者はこの本を「私の命令に従って平和と人間性のために勇敢に死んでいった15人の国連軍兵士に捧」げています。著者はルワンダから帰国したあと、外傷後ストレス障害(PTSD)にかかったのです。
1994年にルワンダに起きたこと。裏切り、失敗、愚直、無関心、憎悪、ジェノサイド、戦争、非人間性、そして悪に関する物語だ。
カナダに帰国してから気力、精気を取り戻すまで7年も要した。
アメリカ、フランス、イギリスなどの国は何もせず、すべてが起こるのをただ傍観していた。部隊を引き上げる、そもそも最初からまったく部隊を派遣しなかった。
ラジオは、聴衆にツチ族を殺すように呼びかけ、穏健派のフツ族の死を求め、彼らを裏切り者と呼んだ。この声明は、人気歌手の録音された音楽とともに流された。その音楽は「フツが嫌いだ。フツは嫌いだ。ツチを蛇だと思っていないフツは嫌いだ」といった歌詞で、暴力を煽りたてるものだった。
マスコミを握って煽動すると、フツーの人々が鉈(マチェーテ)をもって人を簡単に殺すようになるのですね・・・。これは日本だって決して他人事(ひとごと)ではありません。
マスコミの一致した消費税増税、TPP参加、比例定数削減キャンペーンは本質的には同じようなものではありませんか。生活保護バッシングにしても同じです。怖いです。
どの国連機関のある敷地にも、恐怖にかられたルワンダ人が何千人も囚われていた。虐殺は自然発生的な行為ではなかった。それは、軍・憲兵隊、インテラハムウェ、そして公務員を巻き込んで周到に実行されたものだった。
ルワンダで金もうけし、多くのルワンダ人を召使いや労働者として雇ってきた白人が、彼らを見捨てた。そこには自己利益と自己保存があった。
アメリカ、フランス、イギリスに率いられたこの世界がルワンダでのジェノサイドに手を貸し、そそのかした。いくら現金と援助を積んでも、決してこれらの国の手に染みついたルワンダの血は落とせない。
これは痛切な叫びです。厳しく「人道的」大国を糾弾しています。ルワンダに天然資源があったら、これらの国も、もっと真剣に軍隊を派遣していたことでしょう・・・。
アメリカ(ペンタゴン)の判断は、ジェノサイドによって、1日に8000人から1万人のルワンダ人が殺されていても、その生命には高い燃料代を払ったり、ルワンダの電波を妨害したりするほどの価値はないということだ。
死者の数は4月来に20万人と見積もられていたのが、5月には50万人となり、6月末には80万人に達した。
ルワンダのネズミは今やテリアと同じサイズにまで肥大化した。ネズミは無尽蔵に供給される人間を食べたり、信じられないサイズにまで成長したのだ。
飢えた子どもたちは生のトウモロコシを食べた。ごつごつした粒は、子どもたちの消化器官を傷つけ、内出血を起こした。子どもたちは、それが原因で腸から出血して死んでいった。
誰もがジェノサイドで誰かを亡くしていた。紛争前の人口の10%近くが100日間に殺害された。少なくとも1人も家族を失わなかった家族はほとんどなかった。ほとんどの家族がもっと多くの人を失った。
ルワンダで生き残った90%の子どもたちは、この期間に自分の知っている人間が暴力的な死を迎えるのを目の当たりにしたと推定されている。
ルワンダの悲劇をくりかえしてはならないと思いました。それにしてもアメリカ、イギリス、フランスの御都合主義な「人道支援」には、言うべき言葉もありません。
(2012年8月刊。2100円+税)