弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
アメリカ
2016年10月26日
移民大国アメリカ
(霧山昴)
著者 西山 隆行 、 出版 ちくま新書
アメリカには毎年100万人の合法移民が入国している。不法滞在者は1000万人をこえる。移民大国であるアメリカは、このところ中南米系とアジア系の移民が急増しており、2050年までには、中南米系を除く白人は人口の50%を下回ると予測されている。
日本と違って住民票の存在しないアメリカでは、10年ごとに人口統計調査が行われる。
アメリカの黒人は、1960年に人口の11%だった。2011年には12%で、2050年には13%と、横ばいで推移するとみられている。
中南米出身者は人口の17%であり、黒人をすでに上回っている。
アジア系は2011年に人口の5%で、2050年には9%にまで増大するとみられている。
共和党は、非白人票をあまり獲得できていない。中南米系は一貫して共和党より民主党を支持している。
白人ブルーカラー労働者は、1980年代以降、支持政党を民主党から共和党に変える傾向がある。主として黒人の福祉受給者に対する反発からである。
近年のアメリカでは、中南米系、アジア系、黒人のすべてにおいて、民主党に政党帰属意識をもつ人は、共和党に政党帰属意識をもつ人よりも多い。その結果、共和党は白人の政党、民主党はマイノリティの政党という傾向が顕著になりつつある。
オバマ大統領は、奴隷を祖先にもたない。アメリカの全黒人の10%が奴隷と関わりのない人々になっている。
日本では、人口10万人あたりの収監者数は58人。アメリカは730人。収容者には黒人男性と中南米系男性の比率が非常に高い。
アメリカは移民を受け入れることによって発展してきた国。アメリカは先進国のなかでも、生産年齢人口が増大し続けている稀有な国だが、それは比較的若年の移民を受け入れ続けているから。
なぜアメリカでトランプのような大統領候補が生まれ、一定の強固な支持を得ているのか、その理由を探る本でもあります。
(2016年6月刊。820円+税)
2016年10月14日
バーニー・サンダース自伝
(霧山昴)
著者 バーニー・サンダース 、 出版 大月書店
思わず涙が出てくるほど感動しました。大学生時代の初心を、こうやって今なお貫いていること、そしてそれが多くの心あるアメリカ市民に支持されていること、それを知って私の心まで熱く震えてしまいました。すごい人です。
バーニー・サンダースはアメリカで民主党の大統領候補にあと一歩というところまで迫りました。ヒラリー・クリントンが金持ち階級の代弁者だとして人気がないことにも助けられたのでしょう。でも、バーニー・サンダースの主張は、アメリカの多くの若者の心をがっしりつかんだのです。ここに私は、アメリカの未来があると思いました。
バーニー・サンダースは社会主義者を名乗り、一貫して無所属だった。大統領選挙に向けてだけ民主党員になった。
今のアメリカには貧困層と弱者を代表する主要政党がない。そして、貧困層を叩くことは、今や「上手な政治」だ。
「この国の貧困層は、母豚の乳を吸う大きな子豚だ。彼らは、この国のもたらす便益をみんなもっていってしまう。いつも人を食い物にしているんだ」
アメリカでも日本でも、保守反動の政治家は貧困層を叩いて、中間層の喝采を得ています。自らは金力も権力もある自民党の政治家が、ことあるごとに生活保護受給者を目の敵にして、ぜいたくな生活をしているかのように叩いています。そして、その尻馬に乗る、決してリッチではない中間層がいます。悲しい現実です。
アメリカの現在の主たる危機は、失業ではなく、労働者階級の賃金が急送に低下していること。失業率が高いことは問題だが、それよりさらに深刻なのは、アメリカの労働者の実質賃金が過去20年間に16%も低下したこと。
これは、日本も同じですよね。アベ政権下で、労働者の賃金が低下する一方なので、消費・購買力が低下しているため、日本の経営回復の目途がいつまでたってもたちません。アベノミクスの失敗は明らかです。
バーニー・サンダースは、シカゴ大学の学生のとき、人種平等会議、学生平和連合、青年社会主義者同盟の一員だった。図書館では、マルクス、エンゲルス、レーニン、トロッキー、フロイト、フロム、そしてもちろん、ジェファーソンもリンカーンも読んだ。すごいですね。そして、ベトナム反戦運動にも取りくんでいます。
サンダースが公職に立候補しようと思ったのは、今日この国の政治状況が本当に危険であることに多くの人が気がついていないと思ったから。
はじめは1%、そして2%・・・。バーリントン市長に選出されたときには、わずか14票差(数え直しの結果、10票差)だった。ところが、その後は市長に3回も再選された。
サンダースの選挙運動の基本は戸別訪問。運動員が組んで、一軒一軒を歩いてまわり、対話して支持を広げていくのです。日本で戸別訪問が禁止されているのは、本当におかしいと思います。買収の温床になるというのですが、とんでもないことです。個別訪問を一律に禁止するのは憲法違反だとする下級審の判決がいくつも出ましたが、自民党は一向に公選法を改正しようとしません。買収で摘発されるのは圧倒的に自民党なんですけど・・・。
アメリカ社会の重大な政治的危機は、働く人々が黙ってしまうことだ。もし組織労働者の5%が政治的に活発になれば、アメリカの政治的・社会的政策を根本的に変えることが出来るだろう。今日、大多数の低所得労働者は投票に行かない。働く人々の圧倒的多数は無力感を抱いている。
そして、投票率をあげるだけでなく、政治プロセスについて、市民への教育をもっとしっかりやらなければいけない。今こそ、学校で若者に民主主義の教育をすべきだ。
労働組合の積極的役割について、テレビのゴールデンタイムで語られ、紹介されるべきなのだ。
戦争は政治家が始める。そして、戦場で政府のために命を危険にさらした男女がいざ助けを必要としているとき、その同じ政府に背を向けられてしまう。許しがたい非道だ。
これは、アメリカのことですが、今、同じ状況が日本にも起きようとしています。
アフリカ(南スーダン)へ日本の自衛隊を派遣して、なんで日本の平和が守れるというのですか。反対ではありませんか。日本の若者がアフリカの地で、殺し、殺されることを日本にいる私たちは黙って見ていいのですか。私は、そんなことは止めてほしいと思います。弁護士会も、そのための行動を起こしています。
久しぶりにたぎる思いに接し、胸が熱くなりました。あなたも、ぜひ手にとってお読みください。
(2016年6月刊。2300円+税)
2016年9月27日
トランボ
(霧山昴)
著者 ブルース・クック、 出版 世界文化社
映画を見逃してしまったのは残念でした。東京では満員で入れず、福岡では上映時間が1回のみで、時間が合わず入れなかったのです。
素晴らしいヒーローがいる。大きな障害と戦い、強力な敵の迫害にあったヒーローが。それに、すべて本当に起こったこと。おまけにハッピーエンドの実話だなんて、めったにお目にかかれない。
アメリカ映画の有名な脚本家は、アカというレッテルを貼られて映画界から追放された。しかし、才能ある彼は友人の名前を借りて発表し続けた。生活のためだ。そして「ローマの休日」など、誰でも知っている映画の脚本を書いて大当たりをとった。
「オレはハリウッド一の脚本家ではないかもしれない。でも、仕事の早さにかけては並ぶものなしだ」
トランボは、小説「ジョニーは戦場へいった」の著者でもある。
トランボは、急速な社会変革を求める急進主義者だった。
戦争が始まったとき、限られた選択肢のなかから、共産党員になる道を選んだ。
トランボはスイミングプール・コミュ二ストと呼ばれ、裕福だった。
ハリウッドでは、才能ある人は、ドルをたくさんもらえた。そして、あとでブラックリストに載せられたとき、仲間を密告するより、そのプールを進んで手放した。
トランボは、刑務所から出てすぐから、すさまじい不屈の精神と攻撃性で仕事を勝ちとり、苦難を乗り切った。
トランボは、苦境にあっても抜け目なく、前向きな男だった。
トランボは仕事を頼まれて、断ったことがほとんどない。いつも限界以上の仕事を引き受けた。貧しかった少年・青年時代を忘れていなかったからだろう。
トランボは、衝動的でありながら、粘り強く、その集中力は、ほとんど執念にひとしいものだった。
トランボは、アイデアノートをもっていた。使いきれないほどのアイデアが書き込まれていた。将来必要になったときのために、アイデアを書きためていた。それをもとに脚本を書き、売れたら、アイデアノートから、その項目を消してしまう。
1943年12月トランボはアメリカ共産党に入った。1944年5月アメリカ共産党の党員は8万人だった。ニューヨーク市で1945年に2人の市議会議員が当選した
「入党を後悔したことはない。いや、入党しなければ後悔していただろう。それは、生きることそのもので、歴史上の重要な時期、今世紀で、もっとも重要な時期、もっとも壊滅的な時期の一部になることだった」
1935年から45年のあいだに、共産党にかかわった人は100万人に近い。
トランボは、ハリウッドのなかで、表だって共産党員として激しくたたかった。協調路線はとらなかった。
トランボは現実主義者だったから、刑務所行きになることが分かっていた。それで、しっかりと目を見開き、志を高くもって、苦難の道を歩きはじめた。
トランボに励ましや称賛の電報が殺到した。しかし、トランボには汚点がついた。
トランボは1948年に共産党を離党した。
トランボが刑務所に入ると、そこには、トランポを刑務所送りにした元国会議員のバーネル・ノーマスと出会うことになった。給与の水増し請求をして、実刑をくらったのだった。せこい国会議員は、アメリカにも日本にもいるのですよね・・・。
刑務所には入れられたけれど、トランボは自分のしたことに自ら罪の意識はなかった。HUACへの協力を拒否したことは誇らしい行為だったと確信していた。
トランボは模範囚として2ヵ月の減刑があり、10ヶ月間で刑務所から出てきた。
トランボは、1975年に正式にオスカー賞が与えられた。そして、翌76年9月に亡くなった。
アメリカにも、すごい映画人がいたのですね。マッカーシー旋風、そして今なお激しいアカへの偏見が根づいているアメリカで果敢にたたかった、その勇気と才能には驚嘆するばかりです。
(2016年7月刊。2000円+税)
2016年9月 8日
ハーレムの闘う本屋
(霧山昴)
著者 ヴォーンダ・ミショー・ネルソン 、 出版 あすなろ書房
むかし、私も一度だけ夜のハーレムに足を踏み入れたことがあります。小さなライブハウスに行き、生演奏のジャズを間近で聞かせてもらいました。
昼間、ハーレムを観光バスで案内されたとき、ガイド氏がここは火事が多い、それは火災保険が目当てだったり、立退き要求のいやがらせだったり、と説明してくれました。昼間から何をするでもなく街角にぼさっと突っ立っている人々を見て、やはり怖い気がしたものです。
この本は、そんなハーレムの一角に堂々と黒人専門書の本屋を営んできた黒人男性の生きざまを紹介しています。その知恵と勇気に、読んだ私も大いに励まされました。
映画『マルコムX』の本物のマルコムも、この書店の常連だったそうです。何枚もの写真が紹介されています。
わたしは、「いわゆるニグロ」ではない。「いわゆる」とつけたのは、ニグロは物であって、人間ではないからだ。この言葉はつくられた言葉だ。ニグロは、使われ、虐げられ、責められ、拒まれる「物」なのだ。それがニグロの役割だ。それを受けいれ続ける黒人に未来はない。すごい言葉ですね。43歳のときにこう言ったのでした。
ルイスは、19歳のときに泥棒して捕まったとき裁判官にこう言った。
「俺は、生計を立てるためにやったことがもとで、ここに入れられたんだ。白人だって、同じことをしてるのにさ」
「何のことだ?」
「盗みだよ。あんたたちはアメリカにやって来て、インディアンからアメリカを盗んだ。それに味をしめて、今度はアフリカへ行って俺の祖先を盗み、俺たちを奴隷にしたんだ」
まったく、そのとおりなんですよね・・・。
人々は、ルイスを「教授」と呼んだ。その理由について、ミショーはこう答えた。
「黒人関係の本については、人に教える立場だからだろう。大学で習う知識が悪いわけではないが、ひとつのことで生きてきた人間の経験を見くびっちゃいけない。それに私には、これ以上は言えないという制約がない。口ごもることはなし、原稿を見てしゃべるわけでもない。飼い慣らされたニグロは、靴をみがいてやっている連中の機嫌を損ねないように言葉を選ばなければいけないからな・・・」
「ここに知識がある。頭に知識を入れることより大事な仕事はない」
ルイス・ミショーの本屋はハーレムの7番街にあって名所になっていた。
65歳のルイス・ミショーは朝起きたとき、今日は何も起きそうにないと思えば、何かを起こす。そういう人間だ。もめごと大歓迎。
ルイス・ミショーの弟は、こう言った。「本屋は大成功だった。俺の考えは間違っていた。頭のいかれた兄貴は、黒人に本を買わせた。白人にもだ。それも、アフリカ中心主義の本を。俺なら絶対買わない」
マルコムXが暗殺される前に、ルイス・ミショーはマルコムXにこう教えた。
「白人には責任をとってもらわなければいけないことがたくさんある」
「マルコム、そんなときには、ニワトリは最後にはねぐらに帰るものだ、と言えばいい」
マルコムXは1965年2月22日、教会で説教を始めたとたん散弾銃を持った男たちに殺された。まだ39歳だった。
ブラック、イズ、ビューティフル。しかし、知識こそが力だ。ハーレムで暴徒が荒れ狂って略奪が横行したときにも、ルイス・ミショーの本屋は無事だった。誰も手を出さなかった。ルイス・ミショーは言った。
「私は暴力を好まない。言葉を武器としてたたかっている。でも、なぜこれほど多くの黒人が怒りに駆られているかは理解できる。暴力は天国から始まった。神は敵である悪魔に対して暴力をふるった。神は悪魔を天国から追い出したが、それは暴力だろう。旧約聖書は、神が暴力を認めていることを一貫して描いている。神にとって暴力をふるうことが正しかったのなら、必要なときが来れば、私にとっても正しいはずだ。切り倒されるときに、黙って立っているのは樹木だけだ」
すごい人がいたものです。本好きの私には、こたえられない本でした。同好の士に対して強くご一読をおすすめします。
(2016年4月刊。1800円+税)
2016年8月24日
クリントン・キャッシュ
(霧山昴)
著者 ピーター・シュヴァイツァー 、 出版 メディア・コミュニケーション
アメリカで民主党の大統領候補として、社会主義者を自称するサンダースが予想以上に健闘して、アメリカの民主主義もまだまだ捨てたものじゃないと思いました。
大富豪のトランプに比べたらヒラリー・クリントンのほうがよほどましな候補だと私は考えています。ところが、この本は、ヒラリー・クリントンがオバマ政権の国務長官だったころ、夫のビルと組んで「違法」な荒稼ぎをしていたことを暴露しています。
その手口は巧妙なので、「違法」とは言いにくいかもしれませんが、汚れた権力者たちと一緒になって汚い金もうけをしていた事実は隠せません。
ヒラリーもビルも、やっぱりアメリカの大統領として金持ち本位の政治しかしていないんだな・・・、そう思うと、悲しい気持ちにもなりました。
クリントン財団は、これまで外国の政府、企業、資産家から巨額の資金を受けとってきた。そして、それは「愛のしるし」だと説明されている。
クリントン夫妻は、しばしば外国の団体からお金を受け取っている。
その結果、クリントン夫妻は現在、異常なほど裕福になっている。
2001年から2012年にかけてクリントン夫妻の総所得は少なくとも1億3650万ドル。
ビル・クリントンの個人純資産は5500万ドルと推定されてる。
つい先日の新聞では、クリントン夫妻の年収は10億円だと報道されていました。
ビル・クリントンは、年平均で800万ドルを世界各地での講演料として受け取った。
1回あたり50万ドル(5000万円)、75万ドルをこえることもある。
なぜ、そんなに高額の講演料が支払われるのか、一体誰がそんな巨額のお金を支払うのか・・・。
クリントン大統領は、任期最後の日に、マーク・リッチに対して恩赦を与えた。マーク・リッチは石油トレーダーであり、資産家であり、脱税犯であり、逃亡者だった。
ヒラリーが上院議員であるあいだに、ビル・クリントンが得た巨額の講演料の3分の2は外国から入ってきた。ヒラリーが国務長官になってからは、さらに膨れあがり、数千万ドルがサウジアラビアやクウェート、アラブ首長国連邦といった外国政府や海外の資産家からクリントン財団に流れ込んだ。
ビル・クリントンの講演料と国務長官時代のヒラリーの意思決定とのあいだには相関性が認められる。
クリントンの講演料は大統領を退任したあと、減っていった。ところが、ヒラリーが2009年に国務長官になると、ビルの海外での高給の講演は劇的に増えた。ヒラリーが国務長官として外国に直接的な影響を与える問題について絶大な力をもっているときに、ビルの講演料は高額だった。
クリントン夫妻は、クリントン財団への主要な寄付者の名前を公開していない。
クリントン財団の評議員のうちの4人は、金融犯罪で告発され、有罪判決を受けている。独裁者や王族、法的な問題をかかえた海外投資家がクリントン財団への主要な寄付者にいるのは間違いない。
こうなると、トランプにしろ、ヒラリーにしろ、「1%」のための大統領でしかないということになりますね。それをアベ首相が見習っているわけです。なんとかして早く変えたいものです。
(2016年2月刊。1800円+税)
2016年8月17日
戦地の図書館
(霧山昴)
著者 モリー・グプティル・マニング 出版 東京創元社
いい本です。読書は人に欠かせないもの、本を読むと人間は楽しくなる、そんなことを実感させてくれます。
根っからの活字中毒症である私にとって、我が意を得たりの思いで、満足感もありました。ナチスドイツは大学生に本を読むなと言って、禁書を燃やす「祭典」をしました。なんと野蛮なことでしょう。アメリカは、その反対に戦地にいる兵士へどんどん本を送り届けました。
そのなかにはボストンで禁書とされたような本まで含まれていました。そして、そのために国民の本の供出を呼びかけ、さらには軽いペーパーバックの兵隊文庫まで大量生産したのです。そして、戦場で傷ついた兵士から、本を読んだ感想文が作家のもとに届きます。
戦友が死んでいくのを見た日から、ぼくは世の中が嫌になり、冷笑的になった。
何も愛せず、誰も愛せなくなった。心は死んで、動かなくなり、感情を失った。
ところが、本を読んでいるうちに感情が湧いてきた。心が生き返った。自信まで湧きあがり、人生は努力次第でどうにでもなるんだと思えるようになった。
兵隊文庫には、すばらしい物語がある。軽くて携行に便利なペーパーバックで、手に入れやすかった。兵隊文庫をもっていない兵士はほとんどいなくて、みな尻ポケットに入れている。
ナチスドイツが葬り去った本は1億冊。アメリカは1億2千万冊の兵隊文庫を兵士に無料で提供した。
アメリカが戦争に勝ったのは物量の差だけではなかったのですね、初めて知りました。
兵隊文庫の本に入った作家は、多くの兵士と文通友だちになった。兵隊文庫は数知れぬ兵士の心を動かした。精神面で勝利すれば、戦場で勝利できるだろう。戦場で負傷した多くの兵士が、本を読むことで癒され、希望をもち、立ち直った。読書には心身の傷を癒す効果があることが証明された。
1939年に販売されたペーパーバックは20万冊。それが1943年には400万冊をこえた。
あれこれ迷うな。一冊つかめ、ジョー。そして前へ進め。あとで交換すればいいんだから。
これは兵士たちへの呼びかけ。人気の本は兵士たちに徹夜で読まれ、他の兵士へまわされた。
日本軍との死闘がくり広げられたサイパン島には、海兵隊の先発隊が上陸して4日後に兵隊文庫を満載した船が到着し、その3日後には、図書館が建設された。
これでは日本軍が負けるのは、ごくごくあたりまえ、必然ですよね・・・。
戦争前には読書週間のなかったアメリカの青年が読書好きとなり、アメリカは世界最高の読書軍団を擁することになった。だから、戦後、復員した元アメリカ兵は大学に入って勉学にいそしむのです。その年齢制限も徹廃されたのでした。
戦争の実相についても、いろんなことを教えてくれる本でした。
(2016年5月刊。2500円+税)
2016年7月22日
パークアヴェニューの妻たち
(霧山昴)
著者 ウェンズデー・マーティン 、 出版 講談社
ニューヨークはマンハッタン島に住むセレブ族の女性の生態が著者の体験を通じて明らかにされています。いやはや、大変なところです。
マンハッタンのアッパー・イーストサイド、70丁目台のパークアヴェニューに住み、子どもたちのためにママ教室に通い、子守と言い争い、他のママとお茶をして、富裕層向けの音楽レッスンに願書を出し、保育園の審査を受けた。
マンハッタン島のなかには、母親という別のシマがある。アッパー・イーストサイドの母親たちは、一般人とは違う特殊な種族だった。彼女たちの社会は、ある種の秘密社会で、独自のルールや儀式、制服や移動パターンが行きわたっている。
アッパー・イーストサイドの子どもの日常は、誰の目から見ても尋常ではない。専属運転手、子守、ハンプトンズまでの自家用ヘリ。2歳児のための「まっとうな」音楽教室。幼稚園の入園試験と面接に合格するための3歳からの家庭教師。4歳になったら遊びの約束のコンサルタント。そして、子どもの送迎にふさわしい服を母親たちにアドバイスしてくれるワードロープ・コンサルタントもいる。
ここのママたちの日常は、まさしく奇怪と言える。彼女らは愛情あふれる母親であると同時に、勝ち組になる、ひいては勝ち組の子どもの母になることを固く決意した、企業家なみの野心をもった君主でもある。
あちこちのアパートメントのロビーで、おしゃれバトルが繰り広げられる。女性たちが、来る日も来る日も、服装を競いあうのだ。ブルネロクチネリやロロ・ピアーナを着てめかしこんだ女性が、西部劇の決闘場面さながらに明け方に一堂に会する。
そして、服とともにバッグがことさら重要なのだ。バッグは、甲冑(かっちゅう)であり、武器であり、旗であり、さらにはそれ以上のものらしい。攻撃する女性は、みな高級バッグを持っていて、標的にそれをこすりつけるのを喜んでいるようだ。
バーキンのバッグ。1年に2500個しかつくられない。8千ドル(80万円)とか、15万ドル(1500万円)のバッグ・・・。マンハッタンの誰もがバーキンを欲しがる。なぜか・・・。バーキンは、とりわけ高いステイタスシンボルであり、女性にとっては究極のシンボルといってよい。憧れの的であると同時に、希少なバーキンは女性同士の敵対心を、マンハッタンの女性たちのあいだであまりにも頻繁にみられる接触や視線のなかに潜在する女性の執着心を引き出す。
マンハッタンの女性のヒエラルキーで上の位置する女性が美容にかける1年分の費用は、最低でも9万5千ドル(950万円)かかる。靴は600ドル(6万円)とか1200ドル(12万円)。
たとえば、ハイヒールを一晩中はくためには、足に注射しておく。足の一部の神経を麻痺させておくのだ。
体裁を取つくろって、体面を保つ。それが、この地域の掟であり、生き方なのだ。
セレブ女性たちの生態は恐ろしすぎて、とても近寄れません・・・。
(2016年4月刊。1600円+税)
2016年7月12日
スポットライト
(霧山昴)
著者 ボストン・グローブ紙 、 出版 竹書房
映画をみに行こうと思っていたら、上映期間が短くて見逃してしまいました。
宗教国家アメリカの恥部を暴いた映画として、必見だと考えていましたから、残念です。
「カトリック教会の大罪」というのが、本のサブタイトルについているように、カトリック教会の司祭たちが信者の子どもたちに性的虐待を加えていて、それをカトリック教会が長いあいだ見て見ぬふりをして許していた、助長していたという事件です。ですから、訳者は、「決して楽しいお話ではありません。覚悟して読んでください」と、訳者あとがきに記しています。
いま、全米6700万人のカトリック教徒のうち、4人に1人しか毎週のミサに参加しない。2015年、アメリカの司祭3万8千人は、1967年のピーク時の64%にすぎない。
カトリック教会の長年の怠慢は、財政的な代償を払わされた。二つの教会が保険会社から見捨てられ、破産の瀬戸際にある。過去20年間で、聖職者の餌食になった人々への訴訟和解金は13億ドルにのぼる。
ボストン教区のゲーガン司祭の被害者は、小・中学生にあたる年頃の少年たちだった。虐待行為の数々の証拠にもかかわらず、カトリックの司教や枢機卿は、問題の司祭たちを雇い、昇進させ、ねぎらった。
虐待に関与したとされて職を解かれた司祭は、2002年はじめの4ヶ月で176人にのぼった。ゲーガン司祭は、救いがたい小児性愛者だった。2002年までに200人もの子どもたちがゲーガンにレイプされ、また触られた。そして、教会当局は、ゲーガン司祭の小児性愛癖を承知していた。
絶望し、問題をかかえた若者が助けを求めて訪れる教区のカウンセリング・ルームで、シャンリー司祭は、権力と地位をつかって、彼らを餌食にし、性的虐待とレイプを続けた。
司祭が子どもにいたずらをするという考えは、当時も今も信者にもちろんない。だから被害にあった子どもは両親には言えなかった。誰も信じてくれない。司祭は万能の存在だった・・・。
このような状況をボストンの地方紙が暴いていったわけです。すごいですね・・・。それにしても、教会って、そんなところなんですね。まったく呆れてしまいました。
ゲーガン元司祭は、服役中の刑務所で白人至上主義の死刑囚に絞殺されたとのこと。68歳でした。
宗教国家アメリカの恥部、そして民主主義の担い手のいるアメリカ。両面を知ることができる本です。
(2016年4月刊。1500円+税)
投票日の日曜日、夕方から小雨の合間を縫って庭の手入れをしました。このところ雨が続いていたので、雑草が伸び放題だったのです。
草刈りバサミを使いすぎて、しまいには両腕が痛くなってしまいました。
アジサイの花が終わり、カンナとヘメロカリスの花が咲いています。どちらも黄色の花です。
今年はブルーベリーが豊作でした。夕食のデザートとして美味しくいただきました。
2016年7月 8日
米軍基地がやってきたこと
(霧山昴)
著者 デイヴィット・ヴァイン 、 出版 原書房
米軍基地は世界中に展開する超大型フランチャイズだ。アメリカ国内には独立した外国の基地はひとつもないのに、外国には米軍基地が800近くもあり、何十万人もの米兵が駐留している。
米国国防総省(ペンタゴン)によると、戦後70年たった現在でも、ドイツに174、日本に13、韓国に83の米軍基地が存在する。世界の70ヶ国以上に米軍基地はある。
アメリカ以外の国々のもつ在外基地は30。それに対してアメリカは800。
海外で暮らす50万人以上のアメリカ人が基地関係者だ。日本やドイツのように受け入れ国が費用を一部負担していても、アメリカの納税者の負担は、国内にいる兵士と比べて年間平均で4万ドルも増える。在外基地や軍の駐留を維持する費用総額は少なくとも年間718億ドルにのぼる。
アフガニスタンやイラクにおける基地と兵士にかかる経費をふくめると、総額では1700億ドルをこえてしまう。
在外基地を維持するためには、アメリカは好ましくない相手と手を組むこともいとわない。イタリアでは、米軍とマフィアが癒着している。
基地の存在が受け入れ国の安全を実際にどこまで高めているのかは疑問である。
輸送技術が進歩した現在、アメリカが海外に軍を駐留させておくメリットは、実は、ほとんどない。アメリカ本土やハワイから軍を配備するのにかかる時間は、海外にある多くの基地とほぼ変わらなくなっている。
外国の基地は、危険な地域を安定させるどころか、軍事的緊張を高め、紛争の外交的解決を妨げることが多い。
米軍は、アフガニスタンから正式に撤退したあとも、少なくとも9つもの大規模な基地を残している。イラクから撤退したあと58か所の持続的な基地を保持しようとして失敗したが、要塞のような大使館は基地のような存在であり、アメリカの民間軍事会社の大規模部隊も残っている。そして、ISとの新しい戦争が始まると、何千人もの米兵がイラクにある5つの基地に戻っている。
1980年代に起きた大虐殺で、ニカラグアでは5万人、エルサルバドルでは7万5千人、グアテマラでは240万人が死亡あるいは行方不明となっている。犠牲者の大部分は、貧しい一般市民だった。そして何十万人もの難民が近隣の国々やアメリカに殺到した。その原因は、アメリカ政府が供与した銃弾にある。
1980年代、アメリカ政府は麻薬取引に関与する残忍なコントラや、ホンジュラス、グアテマラ、エルサルバドルの圧倒的な政権を支援し、中米の汚い戦争をあおった。その戦争によって何十万人もの人々が殺傷され、社会的関係がずたずたに壊された結果、貧困と危険、麻薬密売が蔓延し、かなりの人々がアメリカなどへの移住を強いられた。
在外米軍基地からは、すさまじい量のゴミが出る。平均的な沖縄住民の出すごみの量は年間270キロであるのに対して、米軍兵士はその3倍近い年間680キロものゴミを出す。
基地の外で女性を搾取するように若い兵士にけしかけておきながら、その舌の根も乾かないうちに、軍の女性を仲間のひとりとして扱えなどといっても、それは無理な注文だ。
米軍の女性兵士は、敵の兵士に殺されるよりも、軍の仲間であるはずの男性兵によってレイプされることのほうが多かった。人間の社会では、ある種の条件でレイプや性的暴行が起きやすくなる。そうした条件がそろっているのが米軍であり、世界にある在外基地だ。そこでは、女性が男性より劣った存在とみなされる。ポルノやショーで女性はセックスの対象でしかない。男性は男らしさを発揮するよう教え込まれ、そそのかされる。その男らしさの概念の中心を占めるのは自分より弱く劣っていて、支配されてもしかたのない人間に対しては、いくら力と権力をふるってもかまわないという思想なのだ。
沖縄にいる海兵隊は、緊急時に重要な活動に参加するための輸送手段をもたない。沖縄から単独で、迅速に作戦行動がとれないということは、この地域に海兵隊がいても抑止力があると言えるのか、疑問だ。海兵隊が沖縄に配属されるのは、訓練に絶好の場所だからだ。
この本は、アメリカ軍の海外基地が日本にとっても有害無益であることを実証しているといって過言ではありません。
(2016年4月刊。2800円+税)
2016年6月29日
ハンター・キラー
(霧山昴)
著者 T・マーク・マッカリー 、 出版 角川書店
遠隔操作による無人機で「テロリスト」をいくら殺しても、何の解決も導かない。こんな単純な真理をなぜ賢いはずのアメリカ人が分からないのでしょうか・・・。凡人の私は不思議でなりません。
「テロリスト」を生み出した土壌(原因)をよくよく考察したら、たとえばペシャワール会の中村哲医師のような砂漠に水路を引いて農地をつくって農業を成り立たせることこそ、一見すると迂遠のようだけど、実は解決への早道だと思うのです。
それはともかくとして、この本はドローン(無人機)を遠隔操縦してきたアメリカ空軍中佐の体験記です。ですから反省の弁というより、いかに「テロリスト」発見と暗殺が大変なのか、苦労話を語っています。アメリカ軍の内情を知るという点で面白く読めます。
ジブチ共和国は、アメリカの対テロ作戦において最高の立地を誇る砦である。ええっ、ジブチって、日本の自衛隊が基地を設けているところですよね・・・。
プレデター(無人機)は、悪天候でも、標的の上空から高解像度の映像を送信できる。1機320万ドルと安価だ。F22ラプター(有人戦闘機)は1機2億ドルもかかる。
プレデターに初めて兵器が搭載されたのは、2001年。目標指示ポッドが改良され、標的へのロックオンが可能になった。
アル・ザルカウィは、唯一、「白い悪魔」、プレデターを恐れた。無言で忍び寄る殺人鬼だ。
最近はプレデターの生産が徐々に減らされ、リーバーのほうがよく活用されている。リーバーはプレデターよりも大きく、A-10攻撃機と同じサイズで搭載量も多い。ヘルファイア・ミサイル4つと、225キロ爆弾2つを搭載する。
プレデターの難点は、気候対策が出来ていないことに起因する。機体は、丸一日飛んで、任務が終わると、湿気の多い基地に着陸する。湿った空気が高空で冷え切った期待に触れると空気の中の水分が凝結することがある。
プレデターやリーバーを操作するのは本物の空軍パイロットたち。アメリカ本土そして、近くの基地に出向いて操縦している。シブチでは1年間にプレデターを4機も失った。
プレデターを操作する兵士は現場から1万キロ以上も離れているから殺傷行為から精神的にも距離を置けるので、ダメージが少ないというのは大変な誤解だ。むしろ、逆に距離が近すぎて、あまりにも多くのことを知ってしまううえ、敵を撃つ直前はズームインして相手をモニターに大きく映し出すから、その敵が殺される残像を頭にかかえたまま帰途につく。
自分たちは決して殺されることがないのに、相手の生存するチャンスはゼロ。冷酷な殺し方だが、決して感情抜きではない。「敵」の遂げた最期の残像が家に戻ってからも、頭からぬぐえない。
人を殺すことの重みなんでしょうね・・・。こんな戦争に日本が関わるなんて、とんでもありません。憲法違反の安保法制の廃止を求めます。
(2015年12月刊。2100円+税)