弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
社会
2024年12月15日
ウォークマン、かく戦えり
(霧山昴)
著者 黒木 靖夫 、 出版 ちくま文庫
今ではソニーって、あまりパッとしない会社になってしまいました(今もありますかね...)が、かつてのソニーは、それこそ飛ぶ鳥を落とすほどの勢いがありました。そんなソニーの商品の一つが世界の話題を集めたウォークマンです。それまでのカセット・レコーダーと違い、録音できず、再生するだけの小型・ポケットタイプのものです。爆発的な人気を集めました。
ウォークマンの原型ができたのは1978(昭和53)年11月のこと。売り出すとき、事業部は5万円にするというのを盛田昭夫会長は3万3千円にしろと注文した。ところが、今度は販売部門から反対の声が上がった。「録音もできない機械が売れるはずはない」という。
そこで、売れるかどうか、中学・高校そして大学生を100人集めて視聴させた。すると、いける反応が出た。それで、2万台を売り出して市場の様子をみてみようということになった。
さて、名前をどうするか...。はじめウォーキィ・ウォッチという案があったけれど、すでに登録されていてダメ。そこで、ウォークマンになった。しかし、これは英語ではない。ウォーキングマンにしたらどうか。いや、それは名前として長すぎる。
そして、ついに1979年6月、ウォークマンが発売された。すると、人々は争って買い求めた。全国一斉といっても、実は、東京、大阪、名古屋だけで、7月1日から売りに出したが、反応が鈍い。ところが、8月に入ると急に売れだした。口コミと雑誌が紹介記事を書いたことによる。
小柳ルミ子そして西城秀樹が「明星」などでウォークマンとともにグラビアで紹介されると、品切れ店が続出した。そうすると、品切れ店続出が話題になって、みんなが買いたいという気になる。
ソニーは増産に次ぐ増産。そして、二代目のウォークマンが売り出されたのは1981(昭和56)年2月。ヘッドフォンが28グラムという驚異的軽さのものになった。
1986年9月、ソニー・アメリカはアメリカで1000万台のウォークマンが売れたと発表した。1986年11月、ソニー本社は、2500万台のウォークマンが売れたと発表。1日1万台も売れたという、とんでもないヒット商品になった。
1987年の1年間で、ソニーは850万台のウォークマンを生産、月産70万台になる。
私ももちろんウォークマンを購入し、聴いていました。といっても、あまり音楽を聴く習慣はありませんので、フランス語の勉強を兼ねてシャンソンを聴いていました。私のお気に入りはパトリシア・カースです。フランス語の先生にそう言ったら、おっ、渋い趣味だなと驚かれてしまいました。今は、もちろんスマホ全盛時代です。スマホでは日本は遅れをとっているようですね、残念です。日本の技術力は、今のように大企業のなかも非正規社員ばかりだと伸びないということでもあるのでしょうね。同じ課で懇親会をしようとしても、非正規(パート、派遣など)がいろいろいて、出来ずに、結局、意思疎通が難しくなっていると聞きます。大企業の経営者が近視眼症状になっているようです。もっと若者を大切にしないと、日本の明日はありません。
(1990年2月刊。500円)
2024年12月11日
日本のデジタル社会と法規制
(霧山昴)
著者 日本弁護士連合会 、 出版 花伝社
2022年9月、旭川市で開かれた人権擁護大会のシンポジウムの内容が本になりました。私もシンポジウムに参加していましたが、今や日本のデジタル化はすさまじいものがあります。SNSの活用(乱用)によって選挙のやり方まで大きく変わってしまいました。活字人間の私にはなかなかついていけませんが、黙って指をくわえて見守るだけではいけないと考えています。
大手IT企業が収集するスマートフォン(スマホ)の履歴から、個人情報が収集され、私たちは丸裸にされてしまっている。たとえば、グーグルテイクアウトの利用履歴から、自宅マンションの居住フロア、家族構成、年収、職歴、性別、年齢まで判断し、さらには仕事を転職し、体調を悪化させるという近い将来まで予測する。
いやあ、これは恐ろしいことです。私は自分を誰かが管理するというのが本能的に嫌いですので、スマホは持たず、ポイントカードも使いません。どこで、いつ、何を買ったなんて知られたくないし、私の趣味・性向なども第三者に教えたくなんかありません。
フェイスブック(FB)には、月間20億人のユーザーが1日あたり3億5000万枚の写真をアップロードした。これも実は2017年のデータですので、今はもっとすごい数字になっていることでしょう。
同じことは電子マネーについても言えます。キャッシュレスは、個人情報の集積を促進するものでもあります。
今では、外部から自動車のエンジンを切ったり、ワイパーを動かすことも出来る。
そして、データを活用したら、選挙での投票行動に影響を与えることが出来る。この本でも、SNSによるフェイクニュースの拡散の恐ろしさが指摘されていますが、東京都知事選の石丸、衆院選の玉木、そして兵庫県知事選の立花と斉藤。恐るべきペテン師の横行に、身が震える思いです。
中国ではAIによる信用スコアリングが普及している。中国ではキャッシュレス決済比率は8割近い(2018年)。そのほとんどがアリババグループのアリペイとテンセントのウィーチャットペイ。この2つでモバイル決済の9割を占める。社会信用システムは、顔認証技術と信用スコアから成っている。信用スコアによる評価を回避するのは、きわめて困難。この信用スコアは、第二の身分証のようなものになっている。信用スコアが低い人は、社会の下層で固定されてしまう。
世界には7億7000万台(2019年)の監視カメラがあり、うち54%が中国にある。2021年末には10億台をこえた。
顔認証システム搭載の監視カメラは、旧来型の監視カメラと情報の精度やボリュームの次元がまったく異なる。顔認証システムは、顔に着目した外形による生体認証の一種である。
ジュンク堂書店は、万引き防止のため、顔認証システムで入店を検知している。顔認証システムも人がつくるシステムである以上、完全ではなく誤りを含む。
台湾では、故意・危害・虚偽の3要素がそろったときは、各省庁に設置された即応対策チームが60分以内に対策として正しい情報を発信することになっている。
デジタル庁に対する国家予算は4720億円(2022年度)です。これは司法予算3222億円よりはるかに大きいのです。そして、いずれ8000億円の予算になるとのこと。うひゃあ...、です。
マイナンバーカードの普及・宣伝のため国は1兆8000億円も使いましたが、笛吹けど、踊らず、でした。いつものように、一部の広告会社などに巨額の税金が流れこんだことでしょう。そんなお金があるのなら、大学の学費の無料化が実現できたはずです。
SNSを規制することが簡単にできるはずもありませんが、現状のような野放しは、さすがにまずいと思います。それと同時に、選挙を金もうけビジネスにしている立花某については、やはりきちんと取締の対象とすべきと私は考えます。だって、「他人を当選させるために立候補しました。私には投票しないで下さい」と候補者が呼びかけるなんて、どうしてもおかしいでしょう。明らかに公選法の趣旨に反しています。
このシンポジウムの実行委員長をつとめた武藤紗明弁護士(大牟田市出身)から贈呈していただきました。ありがとうございます。大変勉強になりました。
(2023年10月刊。2500円+税)
2024年12月10日
半導体有事
(霧山昴)
著者 湯之上 隆 、 出版 文春新書
熊本にTSMCが進出して、巨大な工場をつくりあげました。日本政府は1兆円でしたか、莫大な税金を投入しました。外国の営利企業にそんなに巨額の税金を投入していいものなんでしょうか...。著者は、それに批判的です。
営利企業であるTSMCのために、日本の税金を使うのは、はっきり言って間違っている。TSMCの工場を熊本に誘致しても、日本の経済安保はまったく担保されないし、サプライチェーンも強靭(きょうじん)化されない。このように、土地、インフラ、助成金など、日本の税金を使うことは許されないと断言しています。
TSMCの熊本の工場でロジック半導体を生産する前工程は日本国内で行うとしても、マスク設計、製造と後工程は今までと同じく台湾で行われ、中国本土で最終製品に組み込まれることに変わりはない。中国の工場というのは、ホンハイという本社は台湾の会社がもっている工場のことで、そこでアイフォンなどのスマートフォンに組み込まれる。
そもそも、半導体とは、演算するロジック半導体、データを保存するメモリ半導体、電気、音、光、温度、圧力などを処理するアナログ半導体に分かれる。このなかで、とくにロジック半導体の不足が深刻となり、今やTSMCが9割を占めている。
半導体は一国や一地域で閉じて生産できるものではない。TSMCの最先端技術なくして、最新のアイフォンも、高性能コンピューターも、AI半導体も、製造することはできない。
人類の文明の進歩は、TSMCの微細加工技術に大きく依存している。
TSMCは、世界中のファブレスが設計しやすい世界標準の仕組みを構築した。つまり、TSMCは、受託生産専門だが、設計を制しているのだ。
TSMCの売上高の成長はすさまじいし、その営業利益率は50%に近い。売上高の半分が利益だ。
EUVは、オランダの露光装置メーカーASMLLしか製造できない。
中国の半導体産業は、市場規模で世界最大だが、自給率が低い。
日本は、この分野で、韓国に、技術でもビジネスでも負けている。日本は、過剰技術で、過剰品質をつくってしまう。
昨年(2023年)4月に刊行された新書なので、事態はさらに変化しているとは思いますが、半導体をめぐる動向を少しばかり理解することができました。
(2023年12月刊。950円+税)
2024年12月 5日
大阪・関西万博「失敗」の本質
(霧山昴)
著者 松本 創 、 出版 ちくま新書
維新の会の「目玉商品」だった関西万博の「失敗」は今から目に見えていますよね。多くのマスコミが万博盛り上げに必死になっていますが、国民のほとんどは冷ややかです。
この本は、どうして万博が「失敗」必至なのかを具体的な事実をあげて論証しています。
この「失敗」で泥をかぶるのは維新の会ではありません。私たちの納めた税金がその穴埋めに使われるのです。維新の会が国からもらっている巨額の政党交付金をそっくり充ててもらいものです。
イメージ・キャラクター「ミャクミャク」って、本当に奇怪な姿と形をしています。万博自体がつかみどころがないのを体現しています。
維新の会の新しい代表になった吉村知事は、万博とIRによって大阪成長の起爆剤とすると豪語してきました。でも、このIRって、要はカジノを主体とする大型の公営ギャンブル場です。そんなのでもうけようなんていうのは愚策の最たるものです。そして、たくさんのギャンブル依存症の人々を生み出し、社会不安を増大させることになります。ひどい話です。
万博がはじまったら、ピーク時には夢洲には1日22万人もの来場者が見込まれている。ところが、夢洲へのルートは2つだけしかない。夢舞大橋と、夢咲トンネル。大地震が起きたら、夢洲に取り残された15万人もの人をこの2本(橋と海中トンネル)だけで避難・脱出させることになっている。本当に、そんなことが出来るのだろうか。
夢洲の地盤は、粘土層と呼ばれる弱い地層が20数メートル堆積しているので、40~50メートルという長い杭を打つ必要がある。杭の長さだけで、15階建てのビルの高さぐらいある。その上、地上部分には3階程度の建物しか建てられないので、非常にバランスが悪い。掘削制限があるので、地下室はつくれない。
夢洲には埋立にヘドロが使われているので、そこからメタンガスが発生してくる。それが爆発してしまう危険がある。
関西万博には電通が関わっていない。というのは、オリンピック汚職に電通OBが関わり、逮捕・起訴されたから。同じく吉本興業も関西万博にそれほど深く肩入れはしていない。
関西万博には「哲学」がなく、素人集団が動かしている。これでは失敗しないほうが不思議です。
関西万博の会場設計予算は1250億円だったのが、今や2倍の2350億円にふくれ上がっている。そして、来場者を「2800万人から3000万人」と見込んでいた。
しかし、現実には、これまでの世界の万博の入場者は2000万人ほど。3000万人近くになることには無理がある。
今どき、高いお金を払ってまで万博を見覚してこようという奇特な人や家族がどれだけいるものでしょうか...。
メタンガスがぶくぶく吹き出し、爆発するかもしれないという旧埋め立て地の会場。大地震が発生したら、2本のルートでしか逃げることが出来ず、大勢の取り残される人々が出てきてしまう夢洲...。本当に怖い話ばかりです。
身を削る改革と言いながら、税金からなる巨額の政党交付金を削減しようともせず、今なお「都構想」にしがみついて、自分たちの野望の実現に狂奔する維新の会...。もういいかげん万博なんてムダづかいは止めてください。そんな叫び声を上げたい気分です。またまた維新の会の正体を見てしまった思いのする本です。
(2024年8月刊。990円)
2024年12月 1日
筆の音
(霧山昴)
著者 中山 伸 、 出版 大田文化の会
東京都大田区で活動している民主的な人々が創立46周年を記念して発行した本です。私が大学生のころ川崎セツルメントに所属して活動していたときの先輩(太田政男さん)から贈呈されました。
今は亡くなられた人を含め、有名人がずらり並んでいて壮観です。
まずは、マルセ太郎(2001年1月22日没、67歳)。私は直接、その劇を見聞きしたことはありませんが、映画「泥の河」をひとり舞台で演じたのは圧巻でした(と聞いています)。50歳すぎまで売れなかったそうです。でも、最後は華々しい活躍でした。
そして、井上ひさし(2010年4月9日没、75歳)。私のもっとも敬愛する作家です。「知の巨人」、「稀有(けう)の文豪」という評価に、まったく偽(いつわ)りはありません。
井上ひさしの人生は、「言葉」で時代や世の中と真剣勝負をしつづけた生涯だった。日本語の素晴らしさを身をもって示した人間だった。何事も笑いに変える能力にたけた人間だった。これは畑田重夫の井上ひさしの評言ですが、ずばりそのとおりです。
そして永井智雄(1991年6月17日没、77歳)の名前に久しぶりに接しました。NHKテレビ「事件記者」の相沢キャップ役が大当たりでした。私が小学生のころに観ていた、なつかしい番組です。いかにも知的で、いつだって物事を深く考えようとする表情・姿勢がとても印象深く残っています。この本を読んで、戦前から劇団員として活躍していて、召集されて兵隊にもとられていたことを知りました。戦後は、劇団員、俳優として活動しながら、革新懇話会などでも活躍していたのですね...。
そして、映画「ドレイ工場」です。大学生のころに観た映画です。「男はつらいよ」では倍賞千恵子の夫役の前田吟が主役を演じました。志村喬が社長を演じています。
この映画の苦労話として、ギャラが日給制だったということが紹介されています。すべてのスタッフ・キャストが1日3500円から2000円までの日給制だったなんて、信じられません。
そして、撮影はすべてオールロケ。12ヶ所でロケした。エキストラも、のべ2700人。1968年に始まった上映運動は150万人の観客動員を成功させた。いやあ、すごい映画でしたし、迫力がありました。いまの日本でも、労働組合は労働者の生活を守り、権利を伸ばすために不可欠なものだということを広めるため、ぜひ見てほしい映画です。
いま、アメリカでもヨーロッパでも、労働組合運動が盛り上がっていて、どんどんストライキをやっていて、成果を勝ちとっています。今どきストライキをやっていないのは日本くらいです。委員長に人を得て(連合の芳野女史のような自民党べったりのダラ幹部ではなく、資本家と対等にわたりあえる人)、若者を広く結集して活動しているのです。
日本だって、出来ないわけがありません。投票率53%という低すぎる壁を打ち破る力が労働組合にはあると確信しています。
(2024年9月刊。2000円)
2024年11月30日
栄光の松竹歌劇団史
(霧山昴)
著者 小針 侑起 、 出版 日本評論社
浅草を舞台に激動の昭和を駆け抜けたスターたちの50年史です。
私が知っているのは、SKD(松竹歌劇団)のなかでは、水の江瀧子、淡路恵子、草笛光子そして倍賞千恵子です。
倍賞千恵子はトップの成績で卒業したのですね。でも、映画「男はつらいよ」は、まさに当たり役(はまり役)だったと思います。
私がこの本を読んだのは、戦前のターキーの活躍ぶりを調べたかったからです。ターキーが舞台で活躍しはじめたころ、私の父も20歳前で、ちょうどそのころ東京にいたのでした。
1931(昭和6)年11月、新宿の新歌舞伎座での公演のとき、水の江はカウボーイの親分役を演じ、「俺は、ミズノーエ・ターキーだ」と大見得(みえ)を切ったのが大受けして、それから「ターキー」の愛称で親しまれるようになった。このとき、ターキーは、まだ16歳でした。怖いもの知らずの年齢ですよね。
ターキーは、それまでのオカッパ頭をショートカットにして、シルクハットの燕尾(えんび)服という颯爽(さっそう)とした舞台姿で舞台に登場した。
派手な衣裳に身を包んだ17歳のターキーの男装ぶりは瑞々(みずみず)しく美しく、観客を完全に魅了した。
ターキーには熱烈なファンが大勢いて、強力なファンクラブもつくられていました。月刊誌「タアキイ」まで発行されていたのです。会員はなんと2万人もいました。
そして、18歳のターキーは争議団の委員長にかつぎあげられるのです。
ときは、1933(昭和8)年6月のこと。ともかく出演料が安かったのです。ターキーらスター級でも80~100円、群舞のメンバーだと10~20円といいますから、あまりに安すぎます。そこから通勤費も化粧代も自己負担。
少女歌劇の生徒227人のうち258人が争議に参加したのでした。そして賃上げなどを要求しました。たとえば、研究生は15円、本科生になったら40円とせよ、組合加入の自由を認めよとか、40項目近くを要求しました。ところが、松竹側はほとんど拒否。そこで、争議団は本部を構えて本格的なストライキに突入。このとき、若い女性たちの保護者会として、父兄も同調して応援しています。
会社が争議団の切り崩しを図り、争議を脱落した女性もいましたが、舞台に立つと「お詫びガール」として観客から冷たい視線を浴びたとのこと。
そして、ついに7月15日、それなりに要求を満たして、円満解決。争議費用として、会社は争議団に6000円もの大金を見舞金名目で支払いました。
このとき、争議団は会社側の切り崩しを避けるため、湯河原温泉に120人も籠城したのでした。これらの動きをメディアは大きく取り上げ報道しました。これが世間を騒然とさせた「桃色争議」です。ターキーたちは、特高警察に検挙され留置場にも入れられています。
そして、ターキーの復帰第一作が松竹歌劇史上最高傑作といわれる「タンゴ・ローザ」。1933年10月29日から東京劇場、11月6日から浅草松竹座で公演。ターキーは闘牛大服に身を包んで登場したのでした。この「タンゴ・ローザ」の公演は浅草草松竹座だけでも74回、大阪・京都をふくめると160回も公演が開かれた。
いやはや、ターキーへの熱狂ぶりはすさまじいものだったようです。美空ひばりの母親もターキーの熱烈なファンの一人だったそうです。
戦前、労働争議がいかに盛んだったか、それを父兄も観客の女性も応援していたことも分かります。今ではちょっと考えられませんよね...、いささか残念というほかありません。いや、日本だって、アメリカと同じようにストライキが頻発する日がきっと来るはずです。
(2024年10月刊。2500円+税)
2024年11月28日
商店街の復権
(霧山昴)
著者 広井 良典 、 出版 ちくま新書
近ごろ都に流行(はや)るもの。コンビニ、ドラッグストアー、コインランドリー、そしてシャッター街の商店街。全国どこに行っても、まともな商店街に出会うことが残念ながらほとんどありません。
先日、大阪で長い長い商店街を歩いてきました。そこは、車の入らない路地のような通りで、両側に小売店が延々と並んでいて、通行人と買物客で一杯でした。
自動車と商店街が共存するのは至難の業(わざ)です。車があれば、ショッピングモールに少し遠くてもみんな出かけていきます。
では、商店街の再生(復権)は不可能なのか・・・。本書(新書)は、その可能性を探っています。豊田高田市の「昭和の町」は商店街を観光資源としている。東大阪市では商店街に泊まるホテルを設けた。ここでは、まち全体をホテルと見立て、空き家も活用している。
京都府長岡京市にあるセブン商店会は、かつては30店舗を下まわっていた会員数が2倍をこえているとのこと。ここには、保育園や法律事務所もあるというので驚かされます。
東京は荒川区の西尾久では、商店街に5つの店を新しく同時にオープンさせた。ここは最寄り駅がなく、駅前商店街でもない。ここでは銭湯で落語やヨガなどのイベントも実施した。
東京の下北沢、新潟の沼垂のように、ほぼゼロから商店街が生まれ変わり、にぎわっている。
日本全国に空き家が850万戸も存在している。全国の住宅の実に14%近い。日本の空き家率は、諸外国と比較しても、かなり高い。
ドイツなどのヨーロッパの商店街には、日本の商店街にあるようなアーケードはほとんど見られない。日本でも、シャッター街になっていた商店街を再活性化しようとしているところがあるのを知って、すこしうれしくなりました。いい新書です。
(2024年2月刊。1200円+税)
2024年11月20日
人間らしく働くための九州セミナー
(霧山昴)
著者 現地実行委員会 、 出版 左同
11月16日、17日に大牟田市で開かれた第34回セミナーの報告集。筑波大学人文社会系の田中洋子名誉教授の講演はドイツとの対比させて、日本がいかに遅れているかを明らかにするもので、驚くと同時に胸をうたれました。
ドイツにもパートで働く労働者はいる。しかし、日本と違って非正規ではなく、働く時間が短いという正社員(短時間正社員)。ドイツの労働者は働く時間を自由に選べるし、そのことで処遇に差別されることはない。そもそも、正規と非正規という処遇格差がない。なので、裁判官や検察官、そして官僚から企業の管理職に至るまで、パート勤務の人々は多い。家族と自分の都合・希望により、働く時間を短くしたり、長くしたりできる。ドイツでもかつては主婦のパートが多く、パートの社会的評価は低かった。しかし、2001年のパート法によってそれが変わった。いやあ、これは日本と全然違いますね。うらやましい限りです。日本では、パートは正社員と雇用身分が別で、別体系の低い処遇ですよね...。
スーパーや外食チェーン店だけでなく、公共サービスでも非正規が急増している。
看護師の給与がドイツでは平均で月60万円といいますから、日本の倍くらいです。それでも、病院経営は黒字だというのですから、日本人としては信じられない、の一言です。日本では残念なことに労働条件が悪いうえに低賃金なので、看護師になりたいという若者が減少しています。ドイツに学ぶところ、大ですね。
韓国から非正規労働センターとして活動しているナム・ウグン氏、キ・ホウン氏を招いて、韓国における非正規労働者の現状だと対策について報告してもらいました。
すると、2020年9月、ソウル市のソンドン(城東)区で「必須労働者の保護及び支援条例」が制定され、翌2021年5月、必須業務従事者法が制定された。エッセンシャルワーカーを保護する条例であり、法律です。これによって、必須労働者は、コロナ対策ワクチンを優先してうてるようになりましたし、防疫マスクも1人あたり30枚が交付されました。
支援内容は決して十分とはいえないようですが、条例そして法律によってエッセンシャルワーカー保護のため、市や国が取り組んでいることには敬意を表したいと思いました。
(2024年11月刊。非売品)
2024年11月15日
従属の代償
(霧山昴)
著者 布施 祐仁 、 出版 講談社現代新書
先の衆議院選挙では大軍拡の是非が争点となりませんでした。残念です。5年間で43兆円もの大軍拡予算が着々と現在進行形です。石破首相は日本の防衛力を強化する必要があるといって、これまでの安倍-岸田路線をそのまま踏襲しています。公明党はもちろん与党として、それを推進し、維新も国民民主党(玉木)も同じく、軍事予算は聖域扱いで、縮小なんて一言もいいません。本当にそれでいいのでしょうか?
安保三文書を批判的に検討する討議資料を日弁連は作成中ですが、安保三文書には実は国民を守るための施策は何ひとつありません。たとえば、私たちの毎日の生活は水と電気が不可欠ですし、ガソリンと食料品がなければ行動できませんし、生きていけません。ところが、このようなインフラ・システムを守る手だては何も講じられていません。上下水道施設、火力発電所そして港湾がミサイルで攻撃されたら、多くの日本人は、その時点から生活できなくなります。船舶が動かなくなったら、食料自給率が4割もない日本ではたちまち食べ物がなくなります。車だってガス欠になります。
そして、主として日本海沿いに50基以上も原子力発電所(原発)があります。地上から「デモ隊」が押し寄せてきたら対抗・排除できる体制はあるようですが、問題はミサイル攻撃です。これには対策の打ちようがありません。放射能がダダ洩れはじめたら、「決死隊」を送り込んでも、止めようがないのです。日本列島のどこにも逃げ場はなく、住むところがありません。
いま、自衛隊はミサイルの放射距離を200キロから1000キロにのばしました。中国内陸部へミサイルを撃ち込もうというわけです。そんなミサイル収納庫(大型弾薬庫)が大分に新増設されようとしています。防衛省は、2032年までに全国で130棟もの弾薬庫を増設するというのです。日本列島はミサイル列島になりつつあります。
こんなミサイル基地が身近にあったら、あなたは安心ですか...。いえいえ、ミサイル基地は、「敵」から真っ先に狙われるのですよ。周辺の民家は爆発の巻き添えを喰うことでしょう。
南西諸島にミサイル部隊を配置して「南西の壁」がつくられようとしています。台湾有事に備えてのことです。では、「敵」の反撃を受けたら、この南西諸島の住民はどうしますか...。船や飛行機で戦火の島から脱出できると思いますか...。出来るはずがありません。戦前の「対馬丸」の悲劇を繰り返すことになるでしょう。
中距離ミサイルを中国本土に届かせるためには、日本かフィリピンのミサイル基地を九州に置くしかない。これがアメリカの考えです。日本を捨て石にしようというのです。
いざというときに、アメリカから見捨てられたら、どうしようと悩む若者が少なくないとのこと。そんな奴隷のような心情は一刻も早く、きっぱり脱ぎ捨てましょう。
巡航ミサイルや極超音速滑空兵器はステルス性があり、発見されにくい。
本当に「台湾有事」が現実化したとき、先島(さきしま)諸島や南西地域だけの「局地戦」にとどまる保証はどこにもない。そうなんです。
ミサイルが、核弾頭でないというだけで安心してはいけません。核弾頭が使われたら終りという前に、日本は破滅してしまうのです。
安保三文書にもとづく大軍拡は、実のところ日本国民を死に追いやってしまう、危険きわまりないシロモノなのです。国を本当に守るのなら、軍備増強ではなく、話し合いしかありません。
(2024年10月刊。980円+税)
2024年11月13日
旧統一教会元広報部長懺悔禄
(霧山昴)
著者 桶田 毅 、 出版 光文社新書
1992年に統一協会(私は「統一教会」とは書きません)の広報担当になり、1999年まで7年間、広報部長をつとめた大江益夫に取材した新書です。
大江益夫は私とほとんど同じ団塊世代です(私の1学年下)。福知山高校の1年生のとき民青同盟に加盟し、生徒会の副会長にもなっています。ところが高校2年生のとき統一協会(当時は原理研究会)に出会って「論破」され、信者になります。大学は私より2年遅く早稲田大学教育学部に入ります。
当時、早稲田大学は民青系ですが、あとは革マル派が支配していました。ノンポリ学生(川口大三郎君)が中核派のメンバーと誤認されて革マル派から虐殺されるという事件も起きています。
大江と一緒に早大原理研の有力メンバーとなった河西徹夫は、元革マル派でした。大江は今なお文鮮明を再臨のメシヤだと信じているようです。それは、「文先生」と呼び、文鮮明と呼び捨てしないことで分かります。
大江は統一協会の霊感商法には批判的です。1975年から1984年までの10年間で、日本から韓国の統一協会本部へ2000億円という莫大なお金が送金されました。日本の罪なき、善良な人々を脅迫し、騙しとったお金が文鮮明一家の不正蓄財にまわったのです。
統一協会の信者は最大60万人、今でも8万人ほどいる。離れていった人々は、信仰の夢が破れ、生きるすべなく経済的に困窮している人が多い。実に悲惨な状況にある。かの山上容疑者の母親もその一人ですよね。
統一協会(国際勝共連合)は、公安調査庁とも連絡をとっていて、「関係はきわめて良好」だった。
大江が広報部長をつとめた7年間、統一協会の会長は、1年1人の割合で、7人が交代した。ストレスがたまって精神的におかしくなって辞めた人間もいる。ひどい組織です。
大江は統一協会の広報部長を辞めたあと、疑問をまとめた『統一教会の検証』という本を刊行した。すると、待っていたのは、ブラジルのアマゾン川の上流の奥地(パンタナール)への左遷。3年間、大江はそこにいた。いやあ、大変ですね...。
朝日新聞阪神支局が襲撃され、記者1人が亡くなり、もう1人の記者も重傷を負った赤報隊事件(1987年5月3日)にも統一協会がからんでいるという話は初耳でした。被害者の記者に対する脅迫状は統一協会(国際勝共連合)を取材したことによるものと解されるものだったそうです。これまた知りませんでした。
国際勝共連合には諜報部隊があり、その武闘派グループは400人もいて、散弾銃をもって、クレー射撃などの訓練もしていたとのこと。
犯行を指揮したリーダーは武闘派を中心とした末端の信者である可能性があり、散弾銃で射殺した実行犯は、闇社会のヤクザ組織の人間ではないか...。
いやあ、世の中、ホント、知らないことだらけです。怖いし、また、それを知るのが面白くもあります。
(2024年9月刊。990円)