弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
生物
2007年8月16日
鳥が教えて教えてくれた空
著者:三宮麻由子、出版社:NHKライブラリー
山のふもとと言ってよいところに住んでいますので、夏の朝、ウグイスを一番に聞くことができます。朝6時ころに鳴き出します。春とは違って、安定した、明るい鳴き声です。ホー、ホケキョという鳴き声を聞くと、今日もいい一日を過ごせそうだと思うことができます。そして、そのうち、蝉の大合唱がはじまります。
トイレに座ると、スズメたちが元気に鳴いています。わが家には、少なくとも2ヶ所にスズメの巣があり、一家が住みついています。にぎやかなものです。でも、正確にいうと、トイレの窓のすぐ上にあるスズメの巣をスズメたちが出入りするときには、ほとんど物音をたてません。ときに羽ばたく音がするくらいです。スズメなりに気づかれないようにしているのです。巣から少しはなれたところにとまって、にぎやかに鳴きはじめるのです。この本の著者はスズメの鳴き声について、次のように書いています。
午前5時台には、スズメも寝ぼけ気味のようで、チュンチュンと小さめの声でまばらに鳴きあっている。6時過ぎると、突然にぎやかになり、ジクジクジク、チーユン、チョン、チーエムなど、いろいろ変化がつく。起きているかい、起きてるよ、というような一種の喧噪に聞こえてくる。7時を過ぎると、声はにわかに落ち着きを取り戻し、宴のあとの雑談よろしく、そこここに散っていく。8時にはエサを求めて出勤していくのだろう。通りがかりのスズメがチュンと鳴きながら、バタバタと飛んでいく音くらいになり、外はかなり静かになっていく。
たくさんのスズメが来ている日は天気が良く、近くであまり声のしない日は、曇りか雨になる。
著者が全盲であるのを知ったのは、このあとのくだりを読んでからでした。耳だけでよく観察しているなと感心したものでした。著者が全盲になったのは4歳のとき。眼圧を下げる手術によって、一日で光を失ってしまったのです。
カナリアはひどい寂しがり屋で、そばでチイとつぶやくと、何回でもチイという地鳴きを返してくる。
鳥は、神様のハシ休めだと思う。小さかったり、弱かったり、またワシやタカののように空の王者と言われても、生態系の頂点の微妙な場所にいる繊細な生きものだ。でも野鳥がいなければ、地球の生活はどんなに無味乾燥なことだろう。
森の中で、自分が今どんな地点にいるかを知るためには、まずしゃがんで、できるだけ低い姿勢をとりながら耳を澄ますこと。しゃがまなければ、手に入れることのできる情報量は半分ほどに減ってしまう。
いま、著者が聞き分けられる鳥の鳴き声は100種を超えるそうです。鳥の歌を、そのまま耳に残して覚えたものといいます。すごいですね。
ソウシチョウは一羽ずつ歌が違うので、簡単に区別がつく。
ええーっ、そうなんですかー・・・。著者の家ではソウシチョウをゲージの中で飼い、また、放し飼いにしていたとのことです。時間になると、きちんと戻ってくるといいます。たとえば、昼ごろに放すと、午後3時ころに戻ってきて、とまり木にお座りしているというのです。頭がいいし、可愛いですよね。
ソウシチョウは水が好きな鳥で、水を入れ替えてやると、間髪を入れずに水浴びを始める。しかも、水浴び用と飲み水用の水入れは自分でつかい分ける。水浴びのときでも、必ずくちばしで水質を確かめる念の入れようだ。うむむ、小鳥がそこまでやるのですか。
ソウシチョウは、自分の名前は一ヶ月で聞き分けて寄ってくる。一羽ずつまったく違う歌を十数種も生み出していく。放し飼いにすると、人間が探しているのを見て、先回りして家に帰っていたりする。ええーっ、ウソでしょ。と言いたくなるような話です。ホントなんでしょうが、まるで信じられません。
わが家の庭にやってくるのはスズメのほかは、例のあのうるさくて厚かましさ天下一品のヒヨドリ、そして図体のでかいキジバトです。ときどき白と黒のツートンカラーのカササギも庭におりたちますが、何を食べているのか、よく分かりません。春先にはメジロもやってきます。ウグイスは来ますが、姿が目立ちませんので、見たことはありません。
(2002年2月刊、830円+税)
2007年7月 9日
犬も平気でうそをつく?
著者:スタンレー・コレン、出版社:文春文庫
犬の鼻は、よく見ると、こまかい畝ができている。この模様と鼻孔の輪郭で構成される鼻紋は、人間の指紋のように個体によって違い、一つとして同じものはない。
犬は人間より積極的に臭いを集める。左右の鼻孔を別々に動かして、臭いがどの方向から来たかを探る。そして、一瞬、息をとめて臭いを嗅ぐ。犬の鼻がいつも冷たく濡れているのは、匂いの分子を集めやすくするため。鼻の中には、こまかい毛のようなものがあり、それが匂いの分子を鼻腔へと送りこむ。この毛状のものが溶けた匂いの分子を内側へ押していき、匂いを感じとる特別な細胞の近くに分子を集める。この仕組みを常に効果的にはたらかせるためには、大量の粘液が必要になる。
人間の嗅細胞は500万個しかないが、ジャーマン・シェパードは2億2,500万個ももっている。最高はブラッドハウンドで3億個。だから、1グラムの酪酸を10階建のビルの中で蒸発させても犬は嗅ぎ分けることができる。
これに反して、犬の視力は、最高で0.26しかない。犬は飼い主が動いているときは1.5キロ離れても見分けることができるが、動かないとわずか90メートルしか離れていなくても見分けられない。ただし、犬の視界は270度ある。
犬は人間ほど味にこだわらない。犬の味蕾(みらい)は、人間の5分の1しかない。犬は塩分をほしがらないし、敏感でもない。それは肉食だから。肉にはナトリウムが含まれている。犬は慣れ親しんだ味より、新しい味を好む。新しいもの好きだ。
犬のヒゲが切られると、犬は不安になり、ストレスを感じる。そして、自分の周囲を十分に感じとれなくなる。
犬は、人間と違って痛みを表現せず、じっとガマンする。群れの仲間から襲われないためだ。だから犬が痛みをあらわすのは、身を守るためのガマンを限界を超えたということ。
犬は抱かれることをいやがる。動きを制限され、拘束されたように感じるからだ。
犬が生まれて3週目から12週目までの期間内に人間にふれあうことが大切で、それによって子犬は人間との関係に自信をもつ、知らない人を怖がらなくなる。生まれて8週間きょうだいと一緒に育った子犬に比べて、すぐに引き離された子犬は、相手を強くかんでしまう傾向がある。
生後10週目までにまったく罰を受けずに育った子犬は、ほとんど訓練不可能な犬になる。犬に罰を正しく与えるのは、非常に難しい。不適切な懲罰は、犬に非常にマイナスの心理的影響を与え、飼い主と犬とのきずなを完全に壊してしまう。
10歳以上の犬の62%に認知症の症状があると推定されている。認知症でない健康な老犬でも、加齢によって頭の働きは鈍ってくる。
うちの犬は、自分を人間だと思っている。この考えは間違っている。犬は、私たち人間を犬だと思っている。二本足で歩く、妙な姿をした犬。犬的な行動に完全に反応できない、あまり頭の良くない犬。こう思っている。
犬は人間について、擬犬化をしている。だからこそ、犬は、ほかの犬にするように人間に向かって尾をふり、前脚をのばして遊びに誘うおじぎをし、人間の匂いをかいでいるのだ。
最後に、この本のタイトルにあるとおり、犬はほかの犬も人間に対してもうそをつくことができます。だますのもゲームのうちなんです。
古くからの人間の良き友、犬についてまたまた認識を深めることのできる本でした。
雨の少ない梅雨になりそうだというので、水不足の夏になるのかと心配していましたが、このところ大雨が降っています。蝉の鳴き声を7月2日に一度だけ聞きましたが、その後は、雨のため地上に出てこれないようです。実は鳴き声を聞く前、まだ雨の降らない6月末(6月30日だったと思います)に蝉の死骸が路上に落ちているのを早くも見つけ、えっ、今年は早いなあと思ったものでした。参院選も今週から始まります。世の中をいい方向に変えたいものですよね。
2007年6月14日
うなぎ丸の航海
著者:阿井渉介、出版社:講談社文庫
日本人の食べるウナギの相当量はヨーロッパから輸入される大西洋ウナギだそうですが、この大西洋ウナギの収穫量が激減しているそうです。この本は、日本産ウナギの産地探しの苦労話です。『アフリカにょろり旅』の主人公の先生たちも登場します。ウナギの産卵地調査は、年々減少の一途をたどるウナギ資源の確保のためでもあるのです。
ヨーロッパウナギそしてアメリカウナギの産卵地が大西洋にあるサルガッソ海の数千メートルの深海であることが突きとめられたのは1922年のこと。
では、ニホンウナギの産卵地は一体どこなのか。1967年、台湾の南、バミュー海峡でレプトセファルス(ウナギの仔魚)が発見された。1991年、マリアナ諸島の近くで、さらに小さなレプトセファルスが採集された。しかし、それ以上はなかなかつかめなかった。
ウナギは群れをつくる魚ではない。一尾いっぴきが孤独に旅をして産卵場にたどり着く。
ウナギの耳石によると、4月から11月、とりわけ6月から7日の新月の夜がウナギの産卵の日。6月の新月以前に到着したウナギは新月を待ち、それに遅れたものは海底の岩穴にひそんで7月の新月を待って、その日に産卵する。これを新月仮説という。
レプトとして黒潮に乗ったウナギは、沿岸で体長を縮め、薄い葉っぱの形から初めて親と同じ姿になる。形は同じだが、透明なシラスウナギだ。これが河川に遡上すると黒くなる。そして、7月から10年くらいで、体長60から100センチ、銀色の光沢をもつ銀ウナギに成長する。すると眼を胸びれが大きくなって、台風の増水に乗って海に下る。そして黒潮に逆らうか横切るかして、延々数千キロを泳いでいく。海に入ると一切餌をとらず、胃や腸は縮んで消えてしまう。かわりに雌は卵、雄は精子で腹がはちきれそうに膨らむ。
ただし、黒潮に乗って沿岸に達したウナギたちの中には、河川に遡上せず、一生を海水中に暮らすものもいるようだ。これはウナギの耳石に含まれるストロンチウムの解析から最近になって判明したこと。
ウナギはなぜ数千キロの旅をして、卵を産みにふるさとに帰るのか。
ウナギが数千キロを泳いで、この海まで卵を産みに来るのは、1億年もちきたったDNAによる。恐竜がのし歩く白亜紀にウナギの祖先は地上に現れた。現在のボルネオのあたりに。ウナギは熱帯のぬるく浅い水の中で、豊かな餌を食べて繁栄し、分布を広げていった。グアムに近い熱帯の海で産卵し、孵化した卵は、プランクトンとして北赤道海流と黒潮で運ばれつつ成長し、半年して親の姿になったところで接岸、そして河川に遡上、成熟して降海し、生まれ故郷まで、また数千キロの旅をして産卵という大回遊路を生きる形としてつくりあげた。
すごいウナギの生き方です。これからは心してウナギのカバ焼きをいただくことにします。ハイ。
いま、わが家の庭には白、黄色、ピンクそして朱色の百合の花が咲いています。まるで空に青い花火をうち上げたようなアガパンサスの花も咲きました。アジサイと同じで、梅雨の雨にうたれる風情がいいのですが、残念なことに今年は雨が少ないようです。田植えの準備がすすみ、あとは雨が降るだけです。
2007年5月18日
タヌキのひとり
著者:竹田津 実、出版社:新潮社
面白く、やがて悲しき物語です。森の獣医さんの診療所便りというサブ・タイトルがついています。すさまじいまでの苦労話を読むと、野生動物とつきあうのがいかに大変なことか、ノミに喰われたかゆみ・痛さとともに伝わってきます。でも、写真だけを眺めていると、カッワユーイと、つい叫んでしまいそうです。
森に帰らなかった一人っ子タヌキの「ひとり」。子どもを連れて里帰りしたキタキツネの娘、集団入院したモモンガ、溺れたカモ・・・。いろんな森の動物たちが登場します。
今日も森の診療所は大忙し!
これはオビの文句です。しかも、まだまだ登場するんです。ノネズミは愛娘の布団のなかで圧死してしまいました。キツツキは朝5時なると診療所の窓ガラスを叩きます。エサくれ、とねだっているのです。野ネコ(野良猫とは違います)は、キタキツネとナワバリをめぐって熾烈な戦いをくり広げます。
獣医師は、助けた患者から感謝されることのない職業。それどころか、助けた患者からありがたいお礼参りで、何度も痛い目にあわされる。ひゃあーっ、損な役回りなんですね。でも、それを承知でこの仕事を続けているのですから、ホント、偉いものです。森の中にリハビリセンター小屋まで建てたというわけで、すごいすごい。
モモンガは空を飛ぶ。でもその前に、人間はモモンガのノミにやられてしまう。痒さとしつこさはたまらない。読むだけで背筋がゾクゾクしてきました。お風呂に入ると、身体のビミョーな部分ほどたまらなくかきむしってしまうというのですから、おっとっと、近寄りたくありません。それでも、飛べないモモンガをリンゴでつって飛行訓練させているところの写真なんか、つい痒みを忘れて私もしてみたくなります。
カモのヒナが水に溺れて、本当に死んでしまった。実はカモは水に浮かない。浮くには条件がある。カモのヒナが水に浮くのは、ひとつは体を覆う綿毛といわれる羽毛が静電気を帯びていること、もうひとつは羽毛に油脂がぬられていて、それが水をはじき、結果として水面に浮く。さらに、カモのヒナは親鳥の翼の中に出入りをくり返す。このふれあい、こすりあいの摩擦によって静電気が生じる。では、親鳥がいなかったらどうするか。絹製の風呂敷のなかにカモのヒナを入れて、上下・左右にふりまわす。油脂を体中にぬりこむ作業のほうは、お手本もなく大変だった。それでも、ちゃんと空を飛べるようになって仲間と一緒に渡り鳥になっていくのです。
うーん、素晴らしい写真ばかりで、たんのうしました。
2007年5月11日
野生のカメラ
著者:吉野 信、出版社:光人社
オビに動物写真家の世界冒険撮影記と書かれていますが、まさに納得のキャッチ・コピーです。すごい迫力の動物写真のオンパレードです。これで1900円とは、実に安い。
クマが出没する地域でキャンプするときには、食料は車の中か、特別にもうけられた食料貯蔵庫に入れておかねばならない。そんな規則は分かっていたはずなのに、友との久しぶりの再会を祝って、夜遅くまで語りあってマグカップを机の上に置いたままテントに入りこんで寝てしまった。そこへ夜中、グリズリーが登場した。危機一髪。その友というのは、1996年にシベリアでヒグマに襲われて亡くなった星野道夫氏のこと。いやあ、いつも危険と隣りあわせだったんですね。
トラの写真をとりに行ったとき、一番近づいたのはわずか3メートル。このとき、著者はゾウに乗っていました。オープンのサファリカーに乗ったときには5〜6メートル。いずれも襲われる心配はしなかったということです。トラがジープのすぐ横を通り過ぎながら、軽く口を開けて、「やあ」といわんばかりの顔で著者に挨拶していったこともあるそうです。えーっ、そうなんですかー・・・。でも、やっぱりトラって怖いですよね。
この本には、ジープの屋根の上にチーターが乗っかっていて、著者がその脇に頭を出している写真までもあります。こうなると、何メートルどころではありません。何センチという近接した距離です。チーターがひょいと爪を立てたら一生の終わりです。
ネコ科の動物は基本的に水を嫌う性質があるが、トラは例外で、暑い夏の日などには好んで水に入る。なるほど、それででしょう。インドでベンガルタイガーが水浴びしている瞬間をとらえた迫力満点の写真もあります。
アフリカでもっとも恐ろしい動物は、なんとアフリカスイギュウだというのです。驚きました。ライオンやトラ、そしてワニではないんです。ホントなのかなあ、思わずつぶやいてしまいました。
好きなことをやっていて本人はとても幸せだと思うのですが、臆病な私なんかにはとても真似できない話のオンパレードです。でも、このような冒険写真家がいてくれるおかげで、野生動物の生態が茶の間で居ながらにして楽しめるのですから、感謝、感謝。大いに感謝しています。
2007年4月27日
子犬のカイがやって来て
著者:清野恵理子、出版社:幻冬舎
犬好きの人にはこたえられない本です。スソアキコの絵もまたいいんですよ。ワンちゃんが実に愛らしく生き生きしています。まさに、犬に笑い、犬に泣く本なのです。
イギリスからラブラドールの子犬が届きます。ひょろっとしていて、お世辞にも可愛いと言えない妙なおっさん顔。目は小さい。たちまち寝息をたてる天使のようなカイ。
ところが、初対面のカイが殊勝におとなしくしていたのは、長時間の空旅による疲労のせい。ぐっすり眠って、お腹いっぱい食べて元気を取り戻したカイのパワーは、予想をはるかに上まわった。
まあ、その腕白ぶりをこれでもか、これでもかと紹介していくことになるわけですが、それがまた犬好きにはたまらないんですよね。たとえば。防犯システムの特別なリモコンを見つけてガシガシかじったばかりに、パトカー6台が出動する騒動を起こしてしまう。
やんちゃ盛りの犬たちが日々繰り広げる悪戯に、ついついご近所に聞こえそうな大きな声も出す。そのたびにカイたちは、「大変なことをしてしまって、本当に申し訳ない」とばかりに、がっくりと首をうなだれ、殊勝な様子で尻尾を落とす。それでも、声を張り上げる飼い主の興奮がおさまるのを、しばらく我慢して待ちさえすれば、何事もなかったように甘えられることをちゃんと知っている。上目づかいで見つめられれば、それまですごい剣幕で叱っていた飼い主も、ついほっぺたが緩む。そうなると、カイたちの思うつぼ。あっという間に、ターボエンジン全開の腕白小僧に逆戻りしてしまう。
犬も人間の幼児のように、特定の縫いぐるみを気にいることがあるというのに驚きました。熊の縫いぐるみに執心したワンちゃんがいたのです。
著者は八ヶ岳のふもとに別荘をもち、冬と夏などを犬と一緒に過ごす。犬たちは生まれつき人間を友だちと思っているふしがあり、ためらうことなく体当たりで甘えてくる。
犬種による性格の違いはたしかにある。柴犬やハスキーはシャイで、少しだけ距離をとってこちらを観察している。時折、気が向けば遠慮がちにやって来て、人間に背中を向けてお座りし、なでてと健気な様子で催促する。眠るのは、リビングのソファーや部屋の隅においた座布団の上で、あくまでも慎ましさを忘れない。
しかし、「待て」をさせられていたレトリバー犬たちは、「よし」の号令で、ベッドに飛び乗ってくる。暗黙のポジション決めがなされているらしく、それぞれの定位置に落ち着くと、安心したように寝息をたてて眠る。掛け布団の上だから、40キロの体重の犬たちに囲まれて眠ると、からだ中に布を巻かれたミイラの状態で、寝苦しいことこの上ない。
犬たちは言葉こそ話はしないが、目や尻尾、からだ全部をつかって饒舌に思いのたけを私たち人間に伝えようとする。なかでも目がすごい。私たちを信じきった無垢なまなざしに勝てる術はなく、いつだって勝利をおさめるのは、彼ら犬たちである。
うーん、そうなんですよね。福岡の斉藤副会長も3歳のラブラドールを飼っていて、毎朝、早朝から海岸を散歩させているそうです。いいですよね。うらやましいです。
2007年4月13日
擬態、だましあいの進化論(2)
著者:上田恵介、出版社:築地書館
魚類に限らず一般に、体の大きな雄は小さな雄よりも競争に強く、より繁殖場所を占有したり、多くの雌を独占したりして高い繁殖成功を得ることができる。では、小さな雄は繁殖から締め出されているのかというと、必ずしもそうではない。小さな雄は小さいなりに、さまざまな手段を駆使して繁殖成功を上げようとしている。その手段のひとつが雌への擬態である。なわばりをつくらずに雌に擬態している雄は、なわばり雄よりも小さく、年齢も若い。このような雄は体色などが雌にとても似ているので、なわばり雄からさかんに求愛を受ける。ときには誘われるまま巣の中に入って、なわばり雄と産卵行動にいたってしまう。そのとき、雌擬態している雄は、もちろん卵を産むわけはなく、あくまで産卵しているふりをしているだけ。そして、本物の雌が巣にやってきて産卵しはじめると、そこへ割り込んで精子を放出し、本物の雌が生んだ卵に授精する。産卵後、雌擬態している雄は雌とともになわばりから去っていき、残された卵は、なわばり雄が面倒をみる。つまり、雌擬態している雄は、なわばり雄に対して、巣の維持や雌の勧誘などの面で寄生しているだけでなく、子の保護まで寄生している。
小さなオスの魚がメスのふりして、大きなオスの魚をだましてちゃっかり自分の子孫を増やすのに成功してるなんて、面白いですよね。
ランの花、オフリスは、ハチをだまして誘いこみ、受粉の手伝いをさせている。
オフリスの賢いところは、まだ本物の雌バチが発生する前に花をつけて雄バチを誘うこと、偽交尾はさせるものの、本当の交尾(射精)まではさせないこと。 したがって、ハチは性的興奮状態を保ちながら、次なる花を求め、次々に他花受粉させていく。
うーん、植物の花がハチをだますなんて・・・。
チャバラニワシドリの鳴き声を聞いてみよう。建築現場からの実況中継だ。ベルトコンベアーか何かの機械がまわり、ガラゴロと建材が運びこまれ、何かが組みたてられているような音や、現場で働く大工たちの話し声や合図のような音まで聞こえてくる。まるでトランジスターラジオが勝手に鳴りだしたかのようだ。
カッコウのヒナも同じようなだましの音をたてている。
カッコウのヒナは、ヨシキリのヒナと同じ「シッ」というねだり声を出すが、鳴き方はまばらに繰り返すのではなく、「シシシシシ・・・」と詰めて、まるでたくさんのヒナがいるかのように鳴く。つまり、カッコウのヒナは、たった一羽でも十分に食べて成長できるように、そのねだり声をヨシキリ一巣分のねだり声に擬態させる仕組みを生み出し、宿主の行動を操っている。これは前提として、カッコウのヒナが、ヨシキリのヒナを巣から全部け落としてしまい、巣の中は自分一人だけで占有しているということがあります。あつかましくも、ヨシキリの親をだまし続けるわけです。
残念なことに、私はまだこれらの小鳥の鳴き声を聞いたことがありません。ぜひ一度聞いてみたいものです。それにしても、これって、大自然の神秘そのものですよね。
2007年4月 6日
パンダの育児日記
著者:中国パンダ保護研究センター、出版社:二見書房
子どもパンダが、あっちゴロゴロこっちゴロゴロ。ウヒャー、可愛い。パンダって、こんなに愛らしかったんだー・・・。パンダ好きのあなたに必見の写真集です。安い値段(1400円)で、至福のひとときをあなたは手にすることができます。まさに、パンダは地球自然の至宝の一つです。
パンダの初乳は緑色。免疫力があって、栄養もたっぷり。初日から4日間は黄緑色で、5〜9日間は薄い緑色。10〜11日にクリーム色となり、12日から乳白色となる。それでも笹を食べるから緑色になるということでもない。これもパンダの神秘の一つ。
一時期、中国のパンダは1000頭にまで減ってしまったけど、今は1600頭に回復した。それでも絶滅の危機にある。
パンダの飼育は試行錯誤を経て、今では、なんと100%の成功率。しかも2005年には16匹のパンダの赤ちゃんが誕生して、全部、無事に育っている。ワー、良かったー・・・。2007年には、さらに17匹の赤ちゃんが誕生。飼育員にだっこされて勢ぞろいしている姿の可愛らしいことったら、ありません。パンダ幼稚園があり、盛大な入園式まであるんです。すごいですね。現地に行って本物を見てみたいですね。
ところで、日本書紀には、唐の女帝・則天武后が685年に生きた雌雄の白熊(ペアのパンダ)を日本の天武天皇に贈呈したと書いてあるそうです。ちっとも知りませんでした。本当でしょうか。
ちなみに、今、日本では、和歌山のアドベンチャーワールドにパンダが8頭もいるそうです。ぜひ見に行かなくっちゃ。あと、上野動物園に1頭、神戸の王子動物園に2頭。合計11頭のパンダが日本にいる。
パンダの妊娠期間は平均5ヶ月。出産は夏の7月から9月にかけて。生まれた赤ちゃんは100〜200グラム。肌は全身ピンク色で、白い体毛におおわれている。口を開けて鳴き声は大きいが、臭覚もなく、目も見えない。
1ヶ月たつと白黒の模様がはっきりしてくる。2ヶ月たって、やっと目が見えるようになる。前足で上半身を支えることができるようになり、遊びはじめる。
パンダは人間の子と同じように、とても繊細な感情をもっている。人によくなついてじゃれるし、すきを狙って報復したりする。
細やかな感情を表すように、パンダの鳴き声は11種類もある。羊の声、鳥の声、犬の声、牛の声、泣き声、叫び声、呻き声、舌打ち、呼吸の音、鼻を鳴らす音そして吠え声。
パンダは大人になるまで木登りが大好き。幹に抱きついて、枝を上手にお尻にはさんで、じっとしている。お昼寝タイム・・・。
ひゃー、えかった、えかった。かわゆーい、パンダのオンパレード。たんのう、たんのう。
2007年3月 9日
トビウオは何メートル飛べるか
著者:加藤憲司、出版社:リベルタ出版
まず、答えから。トビウオは、最大400メートルも飛べるそうです。飛行速度は時速55キロ。7〜8秒間は飛べます。羽を鳥のようにバタバタさせるのではなく、長短4枚の羽を目一杯に広げてグライダーのように滑走する。
サンマもトビウオの仲間なので、1メートルくらいは飛びはねる。
ただし、この本はトビウオのことだけを書いてた本ではありません。魚類全般についての百科全書みたいなものです。
魚は、高齢になっても成長は止まらない。コイは養殖すると70年以上も生きる。一般に魚の体温は、ほとんど周辺の水温と同じ。しかし、カツオとマグロなど外洋を広く回遊する魚は、恒温動物のように周囲の水温よりも10度以上高い体温を保っている。
氷点下の海にすむコウリウオは体液の中に凍結防止物質があり、不凍液状態になっている。すごーい。
キンギョは水温が10度以下の冬にはエサをあまり食べない。5度以下になると冬眠状態になる。冬眠前にたっぷりエサをやって脂肪を蓄えさせる。それで冬の3ヶ月の寒さに耐え、春になってたくさんの良質な卵を産む。
魚屋で魚を買うときには、目玉を見る。眼球の表面に張りがあり、濁りのないものが新鮮。目が血走って濁っているものは鮮度が落ちている。エラブタを開けて、中のエラが鮮やかな赤い色をしているものは間違いない。
ほとんどの魚にはウキブクロがある。これが肺の原型となっている。
魚の目の水晶体は球形でとても固い。人に比べて、はるかに近視。
コイの口ヒゲには味蕾(みらい)があり、エサを探すときの味覚センサーになっている。コイは、甘い、塩辛い、酸っぱい、苦いの四感覚を識別できる。
水中で暮らす魚は主な呼吸はエラでしており、鼻は呼吸につかっていない。
サケやマスの鼻の穴に栓を詰めてしまうと、母川に回帰する割合はぐっと低くなる。
魚は泳ぎながら眠っているそうです。戦争中、行軍の兵士が歩きながら眠っていたという話を思い出します。人間にとっての極限状態に追いこまれたのですね。
他の先進諸国が食糧自給率を向上させているのに、日本は低下する一方だ。日本の漁獲量は半減している。水産物の国内自給率は60%になってしまった。
なんでもアメリカ頼みの日本です。自動車を輸出できたらいい。農産物なんて海外から輸入すればいいんだ。政府はこんな考えのようです。それでは日本の将来が本当に心配です。安心して食べられるものは、やっぱり近くでとれた農産物ですよね。
私は釣りが好きでした。風のない穏やかなクリークの水面をじっと目つめ、ウキがピョコピョコ沈んでいくのを見るのが何より好きでした。これは、幼いころ父がフナ釣りに連れていってくれたことから来た好みでもあります。短気な父に釣りは似合っていたのでしょう。ゆったりかまえているように見える釣り人には、実は短気な人が多いというのは逆説的真実です。
2007年2月26日
サルの子どもは立派に育つ
著者:松井 猛、出版社:西日本新聞社
高崎山のサルを30年間観察してきた人の本です。大変勉強になりました。なにしろ2500人のサル(最近は、匹などとは言わず、人間と同じく、人と呼んでいると思います)を全部、見分けることができるというのです。たいしたものです。どう見ても同じような顔をしていると思うのですが・・・。でも、日本人もアメリカ人からすると、みんな同じような顔に見え、まったく見分けがつかないという話を聞いたことがあります。
母サルは母乳だけで育てる時期は、赤ん坊がお乳を欲しがると、いつでも飲ませる。生後3ヶ月すると、赤ん坊たちは遊びに飽きると母ザルの元に戻って、お乳を飲もうとする。
赤ん坊のしつけに一番効果があるのは、授乳拒否。赤ん坊は泣きつかれると、母ザルはつい赤ん坊の背中に手をかけてしまう。これが授乳許可を出したサインとなる。
母ザルは授乳拒否に時間をかける。これによって、それまで赤ん坊のペースにあわせてきた子育てが、次第に母ザルのペースに変わる。赤ん坊は、授乳拒否を経験して、お乳を飲みたくなっても、そーっと乳房に手を伸ばし、母ザルの反応を気にするようになる。
母ザルは授乳拒否するとき、赤ん坊の目をのぞきこんで叱る。赤ん坊は母ザルから目をそらそうとするが、母ザルは赤ん坊の後頭部を握って正面を向かせ、お母さんの目を見なさいとばかり、荒々しくふるまう。このとき、母ザルは自分の気持ちを赤ん坊に伝えようと真剣、一生懸命だ。
母ザルは赤ん坊にお乳は与えるが、それは、餌を与えることは絶対にない。餌のある場所に連れていって、見守るだけ。野生の世界で生きていくには、食べ物を与えないことこそが愛情なのだ。
赤ん坊が手に入れたイモを母ザルが奪う。それは母ザルが奪わなくても、必ずほかの大人ザルから奪われる。そのとき、かみつかれて、大ケガしてしまうかもしれない。こうやって子ザルはイモを奪われないようにしてから食べることを学ぶ。
ニホンザルの妊娠期間は人間の半分、5ヶ月半。6月が出産のピーク。母ザルは、2〜3年に1回、出産する。赤ん坊は出産当日から1ヶ月内が一番危険。赤ん坊が母ザルとはぐれると、ほとんど死んでしまう。
双子が生まれる確率は低い。1万回の出産で9組のみ。そのうち2人とも1歳まで育ったのは3組だけ。
サルの母と娘の上下関係は、死ぬまで母親の立場が強い。サルは母子家庭。メスザルの出世は血筋で決まる。母ザルは、子どもたちが兄弟ゲンカしたときは、必ず年下の側を応援する。だから、弟や妹の方が威張っている。
メスザルは、一生のうちに10〜12人の赤ん坊を出産する。オスは4〜5歳のとき、故郷を離れる。
ボスザルはもてない。メスザルと関係して生まれた娘たちを交尾する危険があるから。だから、群れに入ったばかりの血縁のない若いオスザルがもてもてになる。
写真がたくさんあって、楽しい本です。中学生のとき、修学旅行で高崎山に行きました。餌場で右手をサルにがぶりとかまれて痛い思いをしました。私は、すぐ近くのサルにまず餌をやったのですが、次に今度は遠くのサルに餌をやろうとしたのです。それを見て、近くにいたサルがどうしてそんなことをするのかと怒ったのです。私としては、サルに公平に餌をやりたいという善意の気持ちからしたことでした。その痛みで、サルと人間の常識の違いが身をもって分かりました。