弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

生物

2008年3月31日

犬たちがくれた音

著者:高橋うらら、出版社:金の星社
 聴導犬誕生物語、というサブ・タイトルのついた本です。現在、日本で認定されている聴導犬は10頭あまり。
 補助犬には、盲導犬、聴導犬、介助犬の三つの種類がある。
 アーク(アニマルレフェージ関西)は大阪府の山の中にある。阪神大震災のあと、1年間で600頭の動物を預かった。たとえ雨の日でも、一人一日20頭の犬を散歩させる。
 聴導犬に向いているか、いくつかのチェックポイントがある。犬が、もし、おなかを上に向けたままだっこされたり、足をさわられたりしても怒らなければ、それは人間になついて、リラックスしている証拠だ。おもちゃを取りあげられて怒る犬は不向き。なんでも自分だけのものにしたがる犬は、聴導犬の仕事に集中できない。
 このテストに合格できる犬は、300頭に1頭ほど。
 盲導犬の場合は、子犬育てのボランティアをパピー・ウォーカー(子犬と一緒に歩く人)と呼ぶ。 聴導犬についてはソーシャライザー(人間の社会にあうように育てる人)と言う。
 ソーシャライザーになる条件は、1日3時間以上、犬を一人きりにしない、室内で犬を飼えること、ほかの犬を飼っていないこと、月1回のパピー・クラスに参加できること、協会の方針に従えること、人間の子どもを育てるように、甘やかさず、愛情をもって育てられること、があげられる。
 ソーシャライザーは、預かった犬に愛情をたっぷり与え、家族の一員としてかわいがる。人と一緒に暮らしたり、人のために働くことが好きになるようにする。
 犬の育て方の基本は、犬を決して叱らず、どんどんほめて、ものを覚えさせる。
 ソーシャライザーは、やさしい言葉をかけながら子犬の相手をし、子犬がいいことをしたら、それをほめて、やる気を出させる。
 しかし、犬をいつもかまっていると、犬は相手をしてもらえないとすねるようになる。そのため、わざと短い時間だけでも、犬を無視する時間をつくる。かまってやるときは、思いきりかまってやる。すると、少しの間待つように言われても、犬は安心してじっとしていられるようになる。
 トレーニングは犬が集中できる短い時間(せいぜい15分間)だけ行い、楽しい気分で終わらせることが大切。犬がトレーニングは楽しいものだと思えば、次も喜んで人の言うことを聞こうとする。犬は、もともと人にほめられるのが大好きなのである。
 生まれて1年のあいだに、犬は人間でいうと17〜20歳に育ってしまい、性格もどんどん変わっていく。聴導犬として育てる犬には、人と同じものは食べさせない。レストランで料理をほしがったりしては困るから。犬がいたずらして困ったときには、さわがないで無視し、かまわない。騒ぐと喜んでくれたと犬は勘違いしてしまう。
 ソーシャライザーは、育てる子犬を数ヶ月ごとにほかのソーシャライザーと取り換える。これは、さまざまな環境で育つようにするため。なーるほど、ですね。
 犬のことがよく分かる本でした。といっても、犬も人間も変わらないところがあるんだなと、つい思ってしまいました。
(2007年12月刊。1300円+税)

2008年3月14日

フクロウ

著者:石川 勉ほか、出版社:文一総合出版
 フクロウの生態を紹介する素敵な写真集です。
 フクロウは、メンフクロウとフクロウの2科からなる。
 最小のフクロウは、中南米にすむコスズメフクロウで、前身12センチ、重さ40グラム以下。最大のフクロウは、ワシミミズクなどで前身70センチ、体重も4キロをこえ、翼を広げると2メートル近い。
 フクロウの耳は、左右の穴の高さと向きが非対称のため、音源から左右の耳までの距離に差が生じ、両耳に達する音の時間差と音圧の差から音源を立体的に突き止めることができる。
 フクロウは森の忍者と言われるほど、音もなく飛ぶことができる。それは、身軽な体重であるうえ、幅広く丸みのある翼と体の羽毛には表面に細かく柔らかい毛が生えており、初列風切の外側がギザギザと鋸歯状に発達していて、飛行中に音がしないことによる。新幹線のパンタグラフや風力発電は、この構造をヒントに開発されていて、すぐれた消音効果を発揮している。
 フクロウの平均寿命は8年で、3〜4年目に初めて繁殖し、その後5年くらい繁殖を続ける。しかし、20年以上も生きる個体もいる。
 フクロウは、通常は一夫一婦で、つがいが分かれる割合は低く、どちらか死なない限り生涯、つれ添う。
 実は動物園でしかフクロウを見た覚えはありません。フクロウって、あまり身近な動物ではありませんが、なんとなくユーモラスな顔つきに魅かれてしまいます。
(2007年11月刊。1600円+税)

2008年2月18日

犬の科学

著者:スティーブン・ブディアンスキー、出版社:築地書館
 アメリカの犬は人間への咬みつき事故を年間100万件以上おこす。その被害者の多くは子どもで、年に12件は人が死んでいる。保険会社は犬による傷害事件で年に2億5000万ドルを支払っており、傷害保険費用の総額は10億ドルをこす。
 犬は、体重あたり人間の2倍の食糧を消費する。アメリカにいる1500万頭の犬は、ロサンゼルスの全人口と同じ量の食料を消費し、その費用は年に50億ドルをこえる。獣医にかかる費用が年に70億ドル。アメリカの公園や街路で回収される犬の糞は年に  200万トン。
 狼は犬ではない。原始犬の体型が化石となって残るよりはるか以前に、犬は狼から分かれて犬になっていた。犬は、狼より人間と親しくなった。犬の出現は、広く信じられている以上に古い出来事だった。
 300をこす現代犬の犬種は、過去2世紀内の、ごく最近に登場した。1870年にケネル・クラスが設立され、80種の犬を分類して登録した。
 化石によると、犬の体型の変化は、1万4000年前に始まった。
 犬の遺伝子プールは、何万年もの進化の過程で、世界中でよく混ぜあわされ、均質な大海のようなものになっている。
 犬は成犬でも子どもっぽく見える行動をする。犬はエサをねだり、子犬のような格好の服従姿勢を示し、必要もないのに吠えるし、大きくなっても遊び好きだ。野生狼にみられる狩猟行動のパターンを明らかに失っている。犬は、成長することのない子狼のようなものだ。
 狼たちも犬たちも、すべて出世主義者である。目上の者の弱み、躊躇、自信喪失の徴候をうかがっている。
 狼の群れの移動は、しばしば、リーダーに無条件に従うのではなく、多数決で決める。
 狼のアルファ雄とアルファ雌は、ふつう後肢を上げて排尿する。群れのほかのメンバーは、しゃがんで用を足す。
 犬には、広い場所をきれいにしておく本能がないだけではなく、反対に、すみかの周辺をくまなく糞や尿でマークしたくなる衝動がある。
 生後14週まで、まったく人間と接触しなかった子犬は、強い恐怖感を示し、床に静かに腰をおろしている人間に決して接触しようとはしなかった。
 子犬には、3週齢から12週齢の間の臨界期がある。子犬が人間を何とも思わず、恐れないようになるのは、生後3週間目に人間と接触するのが好ましく、いくら遅くとも7週目までのこと。
 子犬を6週齢で母犬や兄弟姉妹の犬と引き離すと、その後の健康にも、社会化にも悪影響がある。6週齢で子犬を新しい家庭に移すと、12週齢のときより強い不安感を示し、食欲も病気に対する抵抗力も低下する。子犬は生後2ヶ月間で、社会規範について決定的に重要な知識を獲得する。
 犬は、あらゆる点で狼と同じくらい利口だし、チンパンジーにも匹敵する。
 しかし、犬の脳は狼より25%は小さい。犬を訓練するのにエサを与える必要はない。実は、労働それ自体が犬にとっての喜びなのだ。犬にとって最高の報酬のひとつは、社会的に優位に立つ者とのきずなが強まること。自分をあるがままに受けいれてもらえること。
 なーるほど、なるほど、よく分かりました。
 犬が思考し、感情をもっていること、まわりの人や生き物の行動に絶えず気を配っていることは、まぎれもない事実である。
 アメリカでは、年に1500万頭の犬が収容所に送られるが、獣医師によって安楽死させられる。たいていは攻撃行動が原因であり、飼い主は犬に裏切られたのだ。
 飼い主が神経症の場合は、犬が問題行動を起こす割合が高い。
 ひとたび犬が自分をお山の大将だと確信すると、誰かがその権利を剥奪しようとしたとき、犬は真剣に反撃する。犬は、自分より優位にあると感じた相手からの攻撃に対して、いっそう攻撃的な反応を示すことも、またおびえることも、絶対にない。そんなときには、犬はひたすら服従的な態度を示す。
 犬が人間なら、ただの間抜けだ。犬は犬だからすばらしい。そのことを直視しよう。うーん、納得です。犬について、科学的に知ることができました。
(2004年2月刊。2400円+税)

2008年2月12日

ゾウ!

 これは凄い写真集だ。オビに書かれた文句ですが、文字どおり信じていい写真集です。野生のゾウの素晴らしい写真が満載です。こんなに近くで野生ゾウを写真にとれるなんて、すごいことです。
 まず、1枚目のアフリカの乾いた大地を砂嵐をまき起こしながら進むゾウの大群の迫力に圧倒されます。そして、2枚目は、大自然とはうって変わって、人工的にペインティングされ、ごてごてと派手な衣裳を着せられたインドのお祭りに参加しているゾウに呆気にとられます。
 ゾウは人間と同じ家族構成をもっている。ゾウはお互いの信頼を大切にし、地域への愛着心をもつ。個体それぞれが特有の個性をもち、互いに低いグルグルという声で話しあうことさえする。幼い子ゾウの叫び声を聞くと、あまえる人間の赤ん坊を思い起こす。ゾウは偉大さを感じさせる動物である。
 ゾウの魂は人間そっくりだ。水飲み場で水をかけあって遊ぶ子ゾウをお母さんゾウは愛情あふれる目で見守る。いたずらな赤ん坊ゾウがあまり深いところに行くと、お母さんゾウがさっさと引き戻す。お母さんゾウが、もうおしまい、行くわよ、といえば誰もがただちに、さからうことなく、いつもいっしょに、やってきた時と同じようにキビキビと引き揚げていく。
 ゾウも人間と同じように、親を失った孤児の悲惨な環境で育つと、しばしばひどい情緒障害に陥る。
 年上のオスゾウは、自分がすることを見せて、大人のゾウの考え方を年下の若いオスに伝え、導く。若いオスが強暴になる(マストといいます)前に、群れを支配する年上のオスがいると、問題行動は起きない。
 ゾウの体は実にさまざまな色を発散する。日没時にはゾウの体に反射した光でゾウはピンク色。夜は青色で、朝にはオレンジ色になる。土ぼこりをかぶったゾウは茶色である。ゾウは色彩に富んだ動物である。
 なるほど、ゾウの色といえば、せいぜい茶色か泥まみれの灰色しか思いつきません。でも、この写真集には、たしかにさまざまな色のゾウが登場してきます。
 アフリカの水飲み場で、あまり大きくない子ゾウは自由に水飲み場に近づくことが許される。しかし、青年期から上の世代のゾウは、強くなければ池の縁に近づけない。ほかのゾウから押し戻され、順番はなかなかまわってこない。
 この100年間にゾウは1000万頭から50万頭にまで減ってしまった。ゾウのすむ国は46ヶ国だったのが、今や5ヶ国のみ。
 かつてアフリカの人々は、白人のハンターがゾウを狩るために船に乗って探検隊をつくって驚くほど多くのゾウを殺しまくる理由がさっぱり理解できなかった。かつて象牙はピアノの鍵盤をつくる最高級の材料とされていた。象牙は触感がよく、指の汗をほどよく吸収する。人間の音楽のために多くのゾウが殺された。
 かつてイギリスのビクトリア朝時代には、ビリヤードの球が象牙からつくられていた。一つの競技テーブルでつかう1セットの球をつくるのに2頭のオスゾウの牙が必要だった。
 ゾウは人間と同じようにいやな経験を忘れない。ゾウは個性的で、人間と同じように怒りやすい個体もいれば、おとなしいものもいる。いやな経験を恨みに思って復讐するものも、根がおだやかで平和的なものもいる。ゾウの個性は、祖先から受け継いだ遺伝的な素養と経験との不思議な組みあわせによっている。
 ゾウは体に空調装置を備えている。大きな耳はその一部で、パタパタとうちわのようにふって暑さを防いでいる。朝から昼へと気温が上昇するにつれ、耳のうちわをふるテンポが早くなる。大きな耳がたてたそよ風は、耳の血管を流れる血液をひやすばかりでなく、体をわたって体から熱を奪う。
 ゾウの長い鼻は、あらゆる動物の様々な器官の中で最高傑作といっていい。それは、手、唇、鼻を見事に統合したもので、多様な機能を兼ね備えている。ゾウは鼻で木を倒す。木をもち上げ、水を吸って吹き上げ、トランペットのように響く大きな鳴き声を発し、小さな一粒の植物のタネをつまみあげる。鼻は、きわめて敏感な長くのびるアンテナであって、空に向かってつきあげて風の運ぶ危険な臭いをかぎあてる。
 そして、強力な武器でもある。
 鼻で目に入ったゴミをとり、仲間のなでて安心させる。鼻をからめあう親愛の情のあらわしかたは、素晴らしい表現方法だ。
 足の裏と足の骨との間には、厚い繊維組織のクッションが働いて、接地の衝撃をやわらげる。
 海の中を泳ぐゾウの写真があります。タイでゾウが木材運びのため海に入って泳ぐのです。泳いでいるゾウって実にユーモラスな写真です。
 少々値がはる写真集ですが、ゾウの保存にささやかな貢献をしたいと思って買って手にとってみてください。
(2007年9月刊。6800円+税)

2008年2月 8日

犬語の話し方

著者:スタンレー・コレン、出版社:文春文庫
 人は、強い犬よりも、怯えた不安な犬にかまれるほうが多い。
 犬から威嚇されたときは、どうしたらいいか。まず第一に、背中を向けて走り出してはいけない。犬の追跡本能を刺激してしまうから。第二に、視線をやや横斜め下に落として、一、二度まばたきをする。これは服従を示し和解を求める反応だ。そして、口を少し開いて、犬が攻撃をしかけたら受けて立つ構えを示す。次に、ゆっくり二、三歩うしろに下がる。そのとき、犬とは絶対に目を合わせない。なんとか呼吸を整えられたら、顔を少し横に向けてあくびをするか、高い声でなだめるように何か話しかける。犬とのあいだに十分な距離があいたら、犬に対して横向きになるように体を回す。このとき犬が近づいてきたら、ふたたび犬と向きあい、大げさに何度かまばたきをし、横斜め下に視線を落とし、もう一度ゆっくりうしろに下がる。犬に対して横向きになったときに、犬の興奮や威嚇の度合いに変化がなければ、ゆっくり、犬と視線を合わせることなく、自然な足どりで遠ざかる。
 いやあ、難しいですね、これって。できるでしょうかね、こんなことが自然に・・・。
 犬のオスはセックスに常に関心があるものの、実際に性欲をかきたてられるのは、発情期のメスを目の前にしたり、その匂いをかいだときだけ。メスは交尾の態勢が整って積極的になるのは、年2回の短い発情期のときだけ。
 メスの発情期は、21日間続き、3つの段階がある。第一の段階は、発情前期で、9日間ほど続く。この時期のメスは、ひどく落ちつかなく、さかんに歩きまわる。水を飲む量がふえ、歩く先々で放尿する。この尿の匂いがオスをひきつける。犬の場合、出血は排卵の前に起こり、膣の壁に変化が生じて排卵の用意が整ったあかしとなる。メスは性的魅力たっぷりの香水を尿と一緒にあたりに振りまき、膣分泌物の匂いを風とともに運び、だれかれかまわずオスを誘う。だけどメスは、夢中になったオスたちをはねつける。
 メスは、オスをじらせているのではない。まだ排卵していないのだ。排卵は本当の意味の発情期に入って2日目くらいに起こる。分泌物の水分が多くなり、色が透明になると、交尾に対して膣の準備が整ったことになる。そして、排卵があっても、精子に対する卵子の受け入れ態勢が整うまでに、およそ72時間かかる。排卵期は2、3日しか続かないので、それまでに自分のまわりに大勢のオスをひきつけておき、いざというときに選べるようにしておくのが肝心なのだ。たいてい、選択権はメスにある。父親候補は、強い拒絶にあうものと、熱心に求められるものとに分かれる。
 進化は、すぐれた遺伝子を残すには、優位な強いオスを選んだほうがいいという知恵をメスに与えた。野生の犬に比べて家犬は、それほど交尾の相手を選ばない。これは人間による意図的な犬種をつくる計画のことである。
 犬の気持ちが手にとるように分かります。本のオビに、このように書いてあります。たしかに、犬の生態について、また深く知ることができました。
(2007年9月刊。705円+税)

2008年1月25日

進化で読み解くふしぎな生き物

著者:北海道大学サイエンスライターズ、出版社:技術評論社
 地球上には、さまざまな変な色と形をした生き物がうごめいています。この本は、写真と絵で、それを具体的に紹介してくれます。でもでも、もっとも不思議な生き物って、やっぱりヒト、そう人間ですよね。必要もないのに殺しあったりして、多くの人を無意味に殺した人間が英雄になったりして、ですね。まったく合理的な存在ではありません。どうして、ヒトはこうなったんでしょうね。それはともかく、変な生き物のいくつかを紹介することにしましょう。
 コウモリは、かつて自分が困っていたときに食物である血を分けてくれた個体に、自分が吸ってきた血を与える傾向がある。コウモリは飢え死にしそうな個体のうち、どのコウモリに血をあげて、どのコウモリを見殺しにするか、きちんと考えている。
 アデリーペンギンは、巣づくりの石が足りなくなると、メスは、他のつがいのオスか独身のオスの巣に行き、交尾をするのと交換条件で石をもらう。石を手に入れたメスは自分の巣に戻り、その石をつかって巣をつくり、つがいのオスと仲良く子育てする。
 アリはハチの仲間であり、シロアリはゴキブリの仲間である。つまり、アリとシロアリは、全く分類上は異なっている。
 ジュウシマツは江戸時代初期にインドから輸入されたスズメの仲間コシジロキンパラを祖先とする。オスのジュウシマツはカゴの中に好みのメスを見つけると、自慢の鳴き声をきかせる。その歌は文法をもっていて、それが複雑であるほどメスは強く反応する。オスは頭をつかって、なるべく良い歌をうたってメスの注意をひいて、口説き落とそうと努力するのである。ペット化されてわずか200年のあいだに、この技を身につけた。
 タマシギは一妻多夫で、メスがオスに求愛し、オスが抱卵、子育てする。メスは一腹分の産卵を終えると、オスに卵を残して移動していき、新しいオスと次々につがって産卵する。オスが子育てをする鳥では、オスがメスを選ぶ傾向にあるため、メスがきれいな羽色を発達させ、一妻多夫となる。
 寄生虫のサナダムシは、卵を2年間、休みなしに毎日うみ続ける。1日に20万個〜 100万個にものぼる。2年間の一生のうちに1億4600万個もうむ。ところが、1億個以上うんでも、終宿主にたどり着けるのは1匹程度。それでも、ヒトの小腸に入ると、1日に5〜20センチの割合で成長し、2週間で成虫になる。このとき、5〜10メートルになる。1ヶ月後から卵をうみはじめる。
 ホヤは、体液中に硫酸をもっている。ペーハー2以下というので、たいしたもの。それで捕食者から身を守っている。ところが、人間はそのホヤを美味しい珍味として食べるのですね。私も仙台に行ったとき何度か食べてみました。それほど美味しいとは思えませんでした。たしかに珍味ではありましたが・・・。
(2007年5月刊。1580円+税)

2008年1月18日

空の王者 イヌワシ

著者:真木広造、出版社:新日本出版社
 翼を広げると2メートルをこえる日本最大の山ワシ。北海道から九州までの深山霊谷、険しい山や谷にすんでいます。日本全国にたった400〜650羽しかいません。絶滅が心配されています。そのイヌワシを追い続けてきた著者による素晴らしい写真集です。
 イヌワシは目がいいので、近づいて撮るのではなく、来るのを待ち構えて撮る。だから、イヌワシのくせを読んで、この時期には、この木にとまると読んで待ちかまえる。撮影の9割は観察。遠くから望遠鏡で見てイヌワシの行動をつかみ、撮影ポイントを決める。重さ20キロをこえる機材を背負い、息を切らして1時間半かけて山頂に達し、そこから尾根を縦走する。岩棚で転落しないよう注意する。姿をかくすブラインド(小型テント)を張り終えるまでにイヌワシに見つかってしまうこともある。
 500ミリの望遠レンズを三脚にセットし、待つこと4時間。むむむ、長い。大変な忍耐です。天気がいい日ばかりではないでしょうから、すごい苦労です。好きでないと絶対にやれませんよね。
 イヌワシは、1年のサイクルで子育てする。一山に1ペアとは必ずしも限らず、秋田と山形の境にある鳥海山には5ペアいる。2月に産卵し、4月にヒナが誕生する。エサは1日1回から2回。獲物となるのは、カモシカ、サル、キツネ、アナグマ、タヌキ、テン、ノウサギ、イタチ、ネズミ。ヤマドリやヘビもいる。大きなカモシカを空から襲いかかるような行動で威嚇して岩場から落とし、獲物にしたり、子グマも獲物にしてしまう。ひゃあ、すごいですね。こんな大型動物まで狩りの目標にするなんて信じられません。
 雪の中、猟師がイヌワシに体当たりされることがあるのは、サルとまちがえられたことによるだろう。それでもイヌワシは人間と気がつくと、それ以上は追わないようです。
 6月にヒナは巣立つ。その前になると、親鳥はエサを運ぶ。回数が減り、ヒナをダイエットさせて空腹の状態を利用して巣立ちをうながす。
 11月、親鳥は子どもをテリトリーの外へ追い払い、1年間の子育てが終わる。
 著者は、どうやら私と同世代のようです。36歳で脱サラして、高校を卒業して以来41年間、ずっと野鳥の写真撮影をしてきたというのです。偉いものです。
 軽自動車に寝泊まりしながら、一食100円、1日16時間労働、年中無休の生活をしてきたというのですが、辛いと思ったことはないそうです。そうですよね、好きなことをしていたら、充実感があるわけですからね。
 日本の野鳥632種類を写真にとり、残る20数種にトライ中だというのですから、頭が下がります。心躍る見事な写真集です。
 福岡の小さな映画館で『once ダブリンの街角で』というイギリス映画を見てきました。街角で歌をうたうストリート・ミュージシャンがチェコから移民できた女性と出会い、素晴らしいCDをつくってデビューしていくという音楽映画です。本物の歌手が主人公なのですが、その歌唱力には圧倒される思いでした。英語はまったく聞きとれませんでしたが、歌詞が新鮮で、詩人のつくったような心うつものでした。やはり映画っていいですね。
(2007年10月刊。1400円+税)

2007年12月 7日

昆虫がヒトと救う

著者:赤池 学、出版社:宝島社新書
 ひゃあ、そうだったのか、知らなかったー・・・。つい、そんな叫びをあげてしまいました。
 ウジ虫が劣悪な衛生環境の中で生きていけるのはなぜなのか?
 こんな発想をもったことがありませんでした。ウジ虫は自分のもっている自然免疫を活性化させているから、ひどい環境のなかでも成長できる。その抗菌力はザルコトキシンによる。これは小型タンパク質の一種、ペプチドである。
 その殺菌力は協力で、1ミリリットルの体液中、1ミリグラムの1万分の1というわずかな量さえあれば、細菌類を殺すことができる。それでいて、動物の培養細胞には何の悪影響も及ぼさない。つまり、悪い菌だけ殺して必要な細胞は殺さない。
 そして、このザルコトキシンは、一度つくられて永久に体内に存在するわけではなく、体が傷つくたびに生成される。この物質から、人間のある種のガンにピンポイントで効果をあらわすものが発見された。うむむ、なんと、なんと、すごい発見です。
 次はシルク。シルクはタンパク質で、糸はタンパク質同士が水素結合でくっついてできた集合体。シルクは昆虫の体内にあるときには液体なのに、外に吐き出されたとき一気に美しい糸になる。糸は直径10ミクロンで、長さは1500メートルもつながっている。
 このシルクには、カビにくいし、質感を変えておいしくする作用がある。カビの発生を遅くし、味が滑らかになる。ふーん、シルクって光沢があるだけではないのですか・・・。
 スズメバチに刺されて死ぬ人が毎年25人ほどいる。それほど猛毒をもつ昆虫である。このスズメバチは巣がないと2〜3日しか生きられない。なぜか?スズメバチは虫などを食べる肉食昆虫なのに、自分で捕ったエサ(肉ダンゴ)を食べることができない。というのは、スズメバチの胸と腹をつなぐ胴がものすごくくびれているため、液体しか通らない。これは、どの方向、どの位置にいる敵に対しても毒針を刺せるよう、自由自在に腹を動かせるためのもの。ところが、その結果、スズメバチは液体流動食しかとれない身体になってしまった。では、そのエサはどうやってとるのか。なんと、幼虫からもらうのです。幼虫は親のスズメバチからもらった肉団子を食べて、大量のアミノ酸ドリンクをつくり、それを親に与える。だから、幼虫がいないと、親は栄養をとることができない。スズメバチの親子は、栄養の交換を通じて、固い絆で結ばれている。
 うむむ、これはすごーい。そして、このアミノ酸ドリンクが、スズメバチの高い運動能力をもたらしていたのです。そこに気がつき、着目した学者は偉いですよね。このアミノ酸ドリンクは、ふだん燃えにくい脂肪を燃やして、エネルギーにして運動しているのです。そして、これは運動しなくても脂肪が燃えるということから、運動なしでやせられる夢のダイエット飲料として着目されました。これが有森裕子と高橋尚子が宣伝するVAAMなのです。
 いやあ、驚きました。ちっぽけな昆虫たちが、たまに人間を殺してしまったり、嫌われもののウジ虫が実は人間のためにすごく役立つ存在でもあったなんて・・・。ホント、世の中は不思議なことだらけです。
(2007年10月刊。700円+税)

2007年11月22日

犬はきらい?

著者:エミリー・ヨッフェ、出版社:早川書房
 私は犬派です。猫は、どうしても好きになれません。幼いころから、ずっと我が家に犬が飼われていたので、犬にはすごくなじみがありますが、猫はいませんでしたので、なんとなく敬遠してしまいます。
 猫と犬とは根本的に違う。犬は美人コンテスト出場者のようなもので、他人を喜ばせたいと思っている。サーシャ(著者の飼い犬)は、家の中で粗相すると著者が怒ると理解してからは失敗しない。猫はスーパーモデルのようなもので、他人に喜ばせてもらいたいと思っている。
 なーるほど、そうなんですね・・・。私は犬が散歩しているのを見ると、犬の表情を見ます。生き生きとした犬の顔を見ると、私までうれしくなってきます。
 猫の知性を試す方法は、まずない。猫はごほうびに釣られないため、賢さをはかるのは難しい。それこそ猫が人間というものを天才的に理解している証拠だ。はいはい、それをやればエサをくれるっていうんだね。でも、知ってるんだ。ここに寝そべって、のんびりうたた寝したり毛づくろいしたりしていても、結局は、エサをもらえるんだよね。
 むむむっ、敵は見抜いていたのか・・・。
 猫が粗相するのには理由がある。たとえば飼主夫婦の結婚生活に緊張が生じているから。夫婦が離婚してしまうと、猫の粗相も止む。ええっ、そうなんですか・・・。
 犬を飼い慣らすことの面白さに味をしめた人間は、夢中になって、次々と動物を家畜化していった。イノシシも豚として飼いはじめた。それが農業に変革をもたらし、やがては近代の文明化につながっていく。
 ロシアで驚くべき実験がやられた。野生のギンギツネを飼育した。個体の人間に対する反応を調べ、生まれつき人慣れしたキツネ同士をかけあわせていった。すると、わずか6世代で子孫のなかに人間を恐れない、それどころか人間のそばにいたがる個体が誕生した。さらに数世代を経ると、行動だけでなく、ぶち模様の毛や垂れた耳をもつ子どもが生まれた。キツネの犬化がはじまりかけていた。
 うひゃあ、そういうことができるのですか。本当なんでしょうか。
 ペットの飼い主にとっての最大の悩みは、犬においては攻撃的であること、猫においてはトイレ以外の場所に粗相すること。
 子犬の発達のためには生後16週間までの時期が重要だ。原則として、犬の生涯にわたる社会性は、この16週間で決まる。
 オオカミには、集団での狩りを成功させるには大きな脳を必要とする。しかし、捨ててある鶏の足をかぎつけて食べる犬には大きな脳は必要ない。人間にとって、犬の知性の後退はプラスとなった。
 ビーグル犬を飼い、一時預かりに挑戦する著者の犬との共存日記です。ベッドでも犬と一緒に寝ているようですが、本当でしょうか。犬好きの私でも、とても考えられません。でも、猫を冬の寒いときに湯たんぽがわりにしている人は多いようですから、そういう人も多いのでしょうね。
 私の家でも、私が高校生までスピッツを座敷犬として飼っていましたから、家のなかはいつもザラザラしていました。そのころは何とも思わず平気でしたが、今では、とても耐えられません
(2007年10月刊。1333円+税)

2007年11月19日

森の「いろいろ事情がありまして」

著者:ピッキオ・石塚徹、出版社:信濃毎日新聞社
 カラー写真を眺めているだけでも楽しい本です。長野の森に生きる大小さまざまな動植物が生き生きと紹介されています。
 軽井沢に野鳥の森があり、クマが町中にも出没していることを知りました。小鳥たちのたくさん棲む森なのですが、かつては、今の何十倍もの小鳥たちがいたというのです。人間の乱開発は小鳥たちの棲み家を奪っているわけです。
 春夏秋冬の四季に分けて、長野の森とそこに躍動する生き物の姿が描かれています。早春に咲くアズマイチゲの白い花は、地上に芽を出してから花が咲くまで、わずか3日、その後10日間咲いて、実をつけた半月後には葉も枯れはじめ、芽を出して1ヶ月半後には地上から姿を消す。1年間も姿をあらわさず、その間に葉はあわただしく光合成して、その養分を地下にたくわえる。これを毎年くり返し、10年目にしてようやく花をつけるという。つまり多年草なのです。
 スミレは、種をたくさん詰めこんだ袋をはじけさせて遠くへ子どもたちを飛ばす。このほか、アリに食べてもらって、遠くへ運んでもらう。こうやって、遠くへ遠くへ子孫を残していく。
 軽井沢の町周辺に出没するツキノワグマの生態も明らかにされています。電波発信器をつけて探ったのです。それによると、オスとメスとでは、断然、行動範囲が違います。メスは東西5キロ、南北4キロとか、東西2キロ、南北2キロという狭い範囲でしか行動していない。オスは、東西15キロ、南北10キロ、また東西15キロ、南北8キロという広さで行動していた。
 軽井沢の町はクマの行動圏内なのですね。
 ニホンザルも軽井沢の町周辺に2群いるそうです。同じようにサルにも電波発信器をつけて調べました。
 ミソサザイという小鳥の調査も面白いですよ。大きな鏡を彼のナワバリのなかにすえつけ、テープレコーダーで仲間の声を流したのです。すると、すぐに飛んできてさえずりして応戦します。鏡にうつった自分の姿を見て、反応しました。くるっ、くるっとその場で一周ずつ回転しては、翼をぱっぱっと半開きしたり閉じたり、鏡の中のライバルに自分の姿を見せつけ、回転ダンスの儀式で決着をつけようとした。ミソサザイは尾を立てて歌い、それを回す動作は模様のコントラストを誇示し、それで相手をひるませたり、メスに選ばれたりする効果があるのだ。その写真を見ると、なるほどね、と思います。鏡にうつった自分の姿に真剣に対抗しようとする姿には笑ってしまいます。
 秋になってヒタキの声がします。ジョウビタキと思うのですが、残念なことに、まだ姿を見ていません。いつも秋から冬にやって来る、お腹ぷっくりの可愛らしい姿を早く拝みたいものです。
(2007年7月刊。1600円プラス税)

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