弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

生物

2009年7月12日

タカの巣とり

著者 猪崎 隆、 出版 鉱脈社

 楽しく読める童話のような話の本です。山里育ちではない私でも、なんだか身近なものとして想像できる少年時代のなつかしい話でした。
 いまでは、宮崎でも、このような山里の体験をしている少年は少ないのではありませんか。実にうらやましい少年時代の思い出です。ですから、サブタイトルに「我が生涯の最良の日々」とあるのも、素直に、そうだろうなとうなずけます。
 というのも、あのサシバをヒナを巣から獲って育てて、野に戻したという貴重な経験が淡々と語られているからです。すごいですよね。おかしなことに、タカと間違ってフクロウの子を巣から奪って育てようとした話も紹介されています。
 そうはいっても、成鳥にまで育てる苦労は大変なものですね。毎朝、早くから田んぼなどに出て、カエルだけでなく、カナヘビまでとってきて、餌として与えるのです。
 私も、子どものころはザリガニ釣りに夢中でした。ですから、カエルを捕まえると、片足を持って地面に思い切りたたきつけ、両手でカエルの両足を引き裂き、ザリガニ釣りのエサにすることに何の抵抗もありませんでした。今は、とてもそんなことはできません。子どもって、本当に残酷です。
 タカ(サシバ)の子を巣から奪うにしても、あまりに早すぎると、人間の手で育てるのは難しい。卵の様子を見て、いつごろにヒナがかえるか判断する。これもすごいですね。
 卵の汚れ具合で、だいたいの産卵時期を予想できる。産みたての卵は真っ白だ。日が経つにつれて茶色っぽくよごれていく。それで、ヒナがかえる日を想定する。なーるほど、ですね。そして、ヒナがかえっても、すぐには奪ってはいけないのです。
 カラスは、人の目につく場所でも大木なら巣をつくる。しかし、サシバは木の大きさよりも、まず場所を選ぶ。人の近寄らない、見晴らしのよくきく山腹の急斜面を選ぶ。
 サシバの喉には、子どもがいたずら書きでもしたような、一本の黒いタテの線があり、こっけいな感がする。この千から、サシバの名前がついた。
 そして、サシバを育て上げ、ついに野に放すまでの日々が描かれています。
 著者は、よき父と母をもったものだと感心しながら読みました。
 我が家の庭にも小鳥たちはやってきますが、さすがにタカは来ません。私と同世代の著者の少年時代を描いた、いい本でした。
 
(2009年5月刊。1000円+税)

2009年5月25日

凍った地球

著者 田近 英一、 出版 新潮新書

 ええっ、地球が雪玉(スノーボール)のように凍りついていた時期があった……。とんでもない仮説です。地球って、火の玉地球から始まったはずなのに……。
 かつて地球の表面は氷で完全に覆われていた。こんな衝撃的な事実が明らかとなったのは、この10年来のこと。火山活動による二酸化炭素の供給が現在の10分の1以下になると、地球は全球凍結を避けられないことが理論上の計算で導かれた。
 でも、本当にそんなことが起きたのでしょうか……?
 地球が誕生したのは、今から46億年前のこと。そして、その後の6億年間は、地質記録がほとんどない。
 今から5000万年前のころ、地球は最温暖期だった。パリやバンクーバー(カナダ)のような緯度50度あたりまで、今のアマゾンにあるような熱帯雨林が分布していた。その原因は二酸化炭素濃度の増加にあった。
 今から46億年前、誕生したばかりの太陽の明るさは、現在の70%程度だった。太陽は。時間とともに徐々に明るさを増しており、現在でも1億年に1%程度の割合で明るくなっている。うーん、そういうことってあるんですかね。地球も進化してるんですか……。
 地球の大気組成は、時間とともに大きく変わっている。それは進化しているとも言える。原生代において、主要な生物のほとんどは海の中に生息していた。全球凍結が生じると、海は表層1000メートル程度が完全に凍結してしまうため、光合成生物が活動できる場は失われる。しかし、海洋は表層の1000メートルほどが凍結するだけで、深層領域は凍結しない。やがて、大気中の二酸化炭素分圧が0.12気圧にまで達すると、氷は赤道から一気にとけはじめる。
 全球凍結現象というのは、全球平均気温の変動が100度にも及ぶような極端な気候変動である。
地球には、もともとオゾン層はなかった。生物が陸上に進出できたのは、大気中の酸素濃度が増加したことでオゾン層が形成され、それが太陽の紫外線を吸収してくれるようになったおかげだ。地球と生命は、お互いに影響を及ぼしあいながら、ともに進化してきたのではないか。これを、地球と生命の共進化という。
 地球の全球凍結が生物進化のフィルターとしての役割を果たした。全球凍結によって生物の多様性が大幅に減少することでボトルネックが生じ、その直後に生物の多様化が促進された可能性がある。また、全球凍結の直後に大気中の酸素濃度が増加したことによって、生物の大進化が促進された可能性がある。
 全球凍結イベントという破局的な地球環境変動が生じれば、生物進化に与える影響は計り知れない。全球凍結による生物多様性の大幅な低下と大気中の酸素濃度の増加が重なり、真核生物や多細胞動物の出現という、生物進化史上の大進化をもたらしたのだとしたら、全球凍結は生物の進化にとって決定的な役割を果たしたことになる。つまり、全球凍結がなかったら、地球上の生物は、いまだにバクテリアのままだったかもしれないのだ。うむむ、なんという逆説的な指摘でしょうか……。
 地球は、いま、新生代後期氷河期のまっただなかにある。氷期と間氷期が10万年の周期で繰り返しており、ほんの1万年前までは寒冷な氷期だった。その後、地球は温暖な間氷期となり、人類は文明を発展させてきた。しかし、あと数千年から一万年のうちに、また再び氷期が訪れることは確実なのだ。
 地球温暖化が叫ばれているなかで、いずれ地球に氷河期が来るという指摘がなされています。地球と私たち生物体との関わりを考えさせてくれる好著です。
 
(2009年1月刊。1100円+税)

2009年5月18日

蝶の道

著者 海野 和男、 出版 東京農工大学出版会

 いのちあふれ、きらきらと輝く蝶の写真にただただ圧倒されます。魚眼レンズですから、蝶が目の前をヒラヒラ飛んでいるようです。
 蝶は水たまりから水を飲む習性がある。土から溶け出したミネラル分を摂取するためだ。ただ、不思議なことに、集まるのは全部オスの蝶だ。
 なんと、蝶が勢いよくオシッコしている写真まであるのです。すごい、ですよ。水をたくさん飲んでは、しょっちゅう排出するのです。
 蝶にも飛んでいく蝶道がある。沢沿いに、開けた林道に沿って蝶道があり、そこでカメラを構えて待ち続ける。魚眼レンズを使っても、蝶までわずか1センチというところまで近づくため、逃げらることも多い。
 蝶は、同じ種類同士で集まる習性がある。一匹が水を飲みに地面に降りると、まわりを飛んでいた同種の蝶も次々に舞い降りて、集団をつくる。繁盛しているレストランに、さらに人が集まるのに似ている。
 蝶は、子孫を残すために交尾をする。オスの仕事はメスを探すこと。オスがとどまらずに草むらをとんでいたら、メスを探していると思っていい。それに対して、メスの仕事は卵を産むこと。メスが飛んでいるのは、産卵に適した植物を探しているのだ。
 蝶は交尾しながら飛ぶこともある。たいていは、交尾直後に安全な場所に移動しようとするからだ。オスとメスのどちらが飛ぶかは、種によって決まっている。モンシロチョウの場合は、オスがメスをぶら下げて飛ぶ。
 モンキチョウのメスは、オスに誘われると交尾する気がなくても後をついて飛ぶという面白い習性がある。
 モンシロチョウは、農薬を使わない家庭菜園に多い。モンシロチョウが食べているキャベツなら、人間も安心して食べられる。
 いやあ、そうなんですか。実際にキャベツを栽培してみたことがあります。そのとき、その大変さが身にしみて分かりました。毎日毎日、青虫取りに追われるのです。割りバシを使って青虫をつまんで踏みつぶす作業を続けましたが、とても追いつかず、まさしく虫食いだらけのキャベツとなり、人間はあえなくモンシロチョウに敗退してしまいました。2年ほどキャベツづくりに挑戦しましたが、ついに断念してしまいました。ということは、いま、店頭に並んでいる見事なキャベツには相当の農薬がふりかけてあるはずです。
 表紙にある蝶の道の写真は、アマゾン(ペルー)の林道だということです。色とりどりのおびただしい蝶が舞う道です。こんな道が12キロも続いているというのですから、地球は広いですね。心の軽くなる、豪華絢爛たる蝶の写真集です。
 
(2009年2月刊。3600円+税)

2009年5月 7日

風の中のマリア

著者 百田 尚樹、 出版 講談社

 オオスズメバチの30日という短い一生をたどった物語です。知識としては知っていましたが、読み物仕立てになったストーリー展開は見事なものです。一気に読み上げ、オオスズメバチの雄々しくも(実のところ、戦士はメスたちばかりなのですが…)短い一生を知って、感慨深い余韻がありました。
 オオスズメバチは、最大のスズメバチである。女王バチは50ミリほど、ハタラキバチは40ミリ以下、オスバチは40ミリ前後もある。非常に獰猛(どうもう)で、攻撃力も極めて高く、他の昆虫を襲って幼虫のエサにする。
 大アゴの力は強力で、固い甲虫類の甲殻も噛み砕いてしまう。太い針から噴出する毒液は、大型の哺乳動物も殺傷する力がある。秋の繁殖期には、ミツバチや他のスズメバチの巣を集団で襲い、サナギと幼虫を奪い取る。
 オオスズメバチは幼虫時代は肉食だが、成虫になると、逆に肉などの固形物は一切食べない。そのため、樹液や花密が食物の代わりとなる。最高の栄養源は、幼虫の出す唾液だ。そこには特殊なアミノ酸化化合物が含まれていて、そのおかげでオオスズメバチのワーカーは体内の脂肪を直接燃やしてエネルギーに変換できる。
 脂肪を直接燃やすことのできるオオスズメバチは、体内に乳酸を発生させないので、どれほど運動しても、ほとんど筋肉疲労を起こさない。オオスズメバチが一日に100キロ以上も飛べる驚異的な運動量を誇る秘密は、そこにある。
 ミツバチはエサ場を見つけると巣に戻って尻振りダンスで仲間にその場所を知らせる。オオスズメバチは、フェロモンで仲間をあつめる。フェロモンを察知して集まったワーカーは、3頭以上になると行動を一変させ、殺りくに終始する。飛来してくるワーカーの中には、仲間に栄養を補給するものもいる。戦場から巣にもどるときには、殺した敵の肉だけでなく、死んだ仲間の肉も持ち帰る。
 攻撃は、たいてい一日で終わるが、ときに2~3日もかかる。集団攻撃を受けたスズメバチ類は、ほとんど全滅してしまう。
 ニホンミツバチは、オオスズメバチの偵察ワーカーが分泌する「エサ場マークフェロモン」に反応して「蜂球」行動に移る。つまり、ニホンミツバチは、オオスズメバチがやってくると、大勢で取り囲んで、蜂球をつくる。そのなかは、摂氏46度まで上がる。オオスズメバチは、46度を超える高温にさらされると死んでしまうのだ。ニホンミツバチは46度までは耐えられる。その差が彼らの死生を分ける。
 女王バチ、兵隊バチ、そしてオスバチなどがそれぞれ書き分けられていますし、隣接するハチなどが襲われていく状況などは憐れみも誘います。でも、そうしないとオオスズメバチは生き残れないのです。
 自然界の過酷な生存競争について考えさせる面白い小説でした。
 連休中、久しぶりに近くの小山へハイキングに出かけました。昼から雨はあがるという天気予報を信じて、小雨が少しぱらついていましたが、おにぎり弁当をもって小さなリュックを背負って出かけました。
 土手には野アザミが一面に咲いていました。すっくと伸び立つ紫色のアザミの花は気品を感じさせます。山のふもとにあるミカン畑では、白いミカンの花が満艦飾でした。隣にビワ畑もあり、こちらは袋かけがおわっています。
 ポツポツ降っている小雨が止みそうもありませんでしたので、頂上まで行くのは断念し、見晴らしのいい丘で腰をおろして弁当開きとしました。ウグイスやら名前のわからない小鳥がきれいな声でさえずってくれるなかで、おにぎりを美味しくいただきました。
 なかなか晴れ上がってくれないなと思いながら帰路に着きました。家に戻って休んでいると、やがて雨は本格的に降り出し、天気予報もあてにはならないと思ったことでした。
(2009年3月刊。1500円+税)

2009年4月29日

自然に学ぶ・粋なテクノロジー

著者 石田 秀輝、 出版 化学同人

 土は私たちの生活には不可欠の材料である。西洋紙のなか30%、光沢のあるアート紙は40%以上の粘土鉱物が含まれている。軽い和紙に対して洋紙が重いのは、このため。6Hの鉛筆には55%、化粧品の口紅に15%、ファンデーションには40~70%も含まれている。
 うへーっ、ちっとも知りませんでした。
 カタツムリや卵は、表面に分泌液を出すこともなく、いつもピカピカ、きれいな表面をしている。なぜか?
 カタツムリの表面を電子顕微鏡で見てみると、数十ナノメートルからミリメートルにいたる小さな凸凹がたくさん存在する。この凸凹が材料の表面エネルギーを変化させているから。なんだかよく理解できませんが、いろんな細かい仕掛けがあるのですね。
 水のいらないお風呂が作られている。4リットルのお湯を泡にする。まったく水による圧力のかからない入浴感を楽しめる。うむむ、なるほど、そういうこともできるのですね。
 シマウマの縞は風を起こす役割をもっている。縞の白い部分は熱を吸収しにくく、黒い部分は熱を吸収しやすくなっている。そのため、身体の表面で温度差が発生し、微妙な風の流れ(対流)が起こる。このおかげで、シマウマは常に身体を快適な温度に保つことができている。
 むひょう。す、すごいですね。敵から見つけられにくくするためとばかり思っていましたよ。
 アワビの貝殻は落としたくらいではびくともしない。ハンマーで叩いても、なかなか壊れないほど強靭だ。アワビの貝殻は、厚さ1マイクロメートル以下の薄い炭酸カルシウムの板を有機質の軟らかい接着剤で貼り合わせた「積層構造」になっていて、厚さ1ミリメートルの中に、その薄い板が1000枚以上重ねられている。貝殻にヒビが入っても、柔らかい接着層でヒビが止まり、薄板が一枚一枚、少しずつ壊れることで破壊エネルギーを吸収し、なかなか割れない。破壊するためには、炭酸カルシウム単体と比べて、3000倍の破壊エネルギーを与える必要がある。
 ふむふむ、自然の驚異、そのすごさを改めて実感させられました。
 
(2009年1月刊。1700円+税)

2009年4月27日

サルが木から落ちる

著者 スーザン・E・クインラン、 出版 さ・え・ら書房

 サルが木から落ちるというのは、たとえ話だと思いながら読み始めたのですが、なんと本当にある話だというのです。驚きました。ジャングルの木の下で、じっとひそんでサルを観察し、その原因を地べたをはいつくばって、サルの糞まで拾い集めて調査・研究するのです。恐れ入ります。ホント、学者って、こんな地道な作業を延々と続けているのですね。頭が下がります。
 それが現代に生きる私たち人間にどんな関係があるの? そんな疑問をもった方は、少し現代社会に毒されすぎていませんか。なんとなんと、それが大ありなんですよ。ジャングルの植物そしてあらゆる生き物の成分は、まだまだ人間に未解明のものがすごく多いわけです。ですから、サルにとって有害または有益な植物の成分を発見したら、人間にとってガンのような病気の特効薬になるかもしれないっていうわけです。そんなわけで、種の多様性を保全するのは、私たち現代人にとっても決して趣味的な世界だけの話ではないのです。
 熱帯に生きる鳥は、温暖地方に住む鳥より、平均するとずっと小さい。それは、熱帯では毎年えさ不足に悩まされる現実にもとづいている。えさ不足の時期があるため、熱帯林では、大部分の野生動物は数も大きさも制限がある。そうなんですか、ちっとも知りませんでしたよ。
 熱帯林の生きものの多くが夜行性で、夜しか活動しない。
 熱帯林に全部で何種類の動物が住んでいるのか、まだ分かっていない。森をくまなく調べれば調べるほど、新しい種が発見される。
 学者は、ホエザルを追跡した。ホエザルは、食べられるときは出来るだけ新しい葉を食べる。果実や花や成熟した葉は、たまにしか食べない。そして、葉柄の部分だけを食べる。サルたちは、好きな種類の木ならどの木の葉でも食べているのではなく、2,3本の木を選んで葉を食べていた。毒のない木を選びとっていた。つまり、ホエザルは、森の自分たちの領分で手に入る木の葉のうち、もっとも栄養があって消化がよく、しかも毒の少ない葉を選んでいた。ホエザルは毒がいっぱいの森で、用心深く、食べ物をより分けて食べているのだ。
 ところが、木のほうも誰かに食べられたときには、それまでより多くの毒を作り出す。同じ植物でも、動物に食べられなければ、少ししか毒を作らない。毒の強さは常に変わり続けているので、サルたちは、どの木の葉の毒で、どの木の葉が食べられるのか、経験で学ぶことが出来ない。そこで、定期的に注意深く地域の中を試食してまわっている。
 サルが木から落ちるのは、ひどい干ばつの年で、ホエザルが食べ物を選り好みできないときだった。すなわち、木から落ちるサルは、まちがった時期にまちがった木の葉を食べたので、毒にあたったのだ。熱帯林は、食べものと、毒の混合物がいっぱい詰まった食料貯蔵室のようなものだ。
サルたちの毒だらけの食料貯蔵室は、人間に希望をあたえてくれるものでもある。有毒な化学物質は、少量使うと薬になることが多い。たとえば、アスピリン、キニーネ、モルヒネ、ジキトキシン、そして抗がん剤など……。
 この本を読むと、熱帯のジャングルを切り開いてハンバーガーを食べるための牛を飼う牧場につくり変えるなんて、そんなバカげたことはやめたいものだと、つくづく思います。第一、ハンバーガー自体も、健康にいいものとはとても思えません。赤坂交差点のハンバーガーショップがいつも客で満員なのを横目で眺めていますが、複雑な気持ちになります。
 
(2008年4月刊。1500円+税)

2009年4月25日

カンブリア爆発の謎

著者 宇佐見 義之、 出版 技術評論社

 5億4000万年前から始まるカンブリア紀に、生命は突如として爆発的な進化を起こした。うむむ、5億4000万年前と言われても、ちょっとピンときませんよね。宇宙の年齢が140億年と言われると、なんだか5億年前というのも少しは分かったような気にはなるのですが。
 カンブリア紀の前の時代にも多くの生物がいたことが分かっている。9億年前に遺伝子が大きく進化したことが判明した。つまり、生物は少しずつ進化していたのであって、急に、突然進化したわけではない。
 単細胞の生命が誕生したのは、今から30数億年前のこと。それから20億年以上、単細胞生物の時代が続いた。6億3000万年前から、5億4000万年前にわたるのがエディアカラ紀である。この紀に生物相は多様に進化していた。
 そしてカンブリア紀の初期になると、2メートルもの大きさのアノマロカリスがいた。アノマロカリスにも、いろんな種類のものがいる。
 アノマロカリスの化石の写真が紹介されていますが、実に珍妙な形をしています。頭部の下面にはリング状の口がついていて、尾部には垂直方向に尻尾状の構造があります。
 そして、人類の祖先ではないかというふれこみのピカイアなるものも紹介されています。脊椎動物に近いというのですが、ピカイアは脊索動物です。脊索動物は脊椎動物に近いというわけです。
 有名な三葉虫は、カンブリア紀にもっとも繁栄した生物です。デボン紀に絶滅しましたが、魚類に覇権を奪われたからではないかと、この本は見ています。
 生物の形造りの基本は、繰り返しの構造にある。繰り返しの構造の一部を変形させて、特殊な機関を作り出せば出すほど、進化的に後に位置する生物といえる。
 たくさんの図版があって、理解しやすいのですが、本当に奇妙きてれつな形の生物のオンパレードです。海岸に無数いて、もじょもじょしている、そんなフナムシ(船虫)が人類の祖先だなんて言われても、ちっとも実感がわきません。
 それにしても、9億年前とか5億年前とか、聞くだけでも気が遠くなりそうな時代の生物の化石と対面するのも楽しいものですよ。
 
(2008年4月刊。1580円+税)

2009年4月 1日

ハチはなぜ大量死したのか

著者 ローワン・ジェイコブセン、 出版 文芸春秋

 2007年の春までに、北半球のミツバチの4分の1が失踪した。
 花には非常に機能的な役割がある。その役割とは、ずばりセックスだ。花粉交配の仕事こそミツバチの仕事である。今日の養蜂業界は、アーモンドの花粉交配だけで年間2億ドルもの収益をあげている。それに対して、蜂蜜生産の売り上げは1億5000万ドルでしかない。ふむふむ、なるほどですね。
 ミツバチは、個々のメンバーの風采はあがらないけれども、忠誠心に富み、マルハナバチがガリア人の村人だとすれば、ミツバチはローマ帝国の軍団だ。
 ミツバチは15度以下の温度では飛ぼうとしない。雨の日も飛ばない。ミツバチにおいて、知性は個々のハチにではなく、コロニーに宿る。
 巣箱に5万匹のミツバチがいるとして、そのうち4万9000匹ほどは子どもの産めない働き蜂である。女王蜂は、合計すると自分の体重と同じになるくらいの重さの卵(最大2000個)を毎日生み続ける。女王蜂が交尾をやめるのは、数回の飛行で10~36匹に及ぶ求婚者からの貢物を手に入れたあとのこと。
 女王蜂は、ときどき未受精卵を生むことがあり、これが雄蜂になる。雄蜂は、要するに「飛ぶ精子」だ。だから、交尾シーズンが終わると、用なしになってしまう。秋になって気温が下がり、巣の資源が減ってくると、働き蜂は雄蜂を巣から追い出す。路頭に迷った雄蜂は、じきに凍えて死んでしまう。いやはや、オスはどこの世界でも哀れなものです。合掌。
 コロニーにいる採餌蜂の4分の1が花粉の採集を専門に行う。採餌蜂は、蜂蜜以外はほとんど何も食べない。
 女王蜂の寿命は2~3年もある。これに対して働き蜂の寿命はたったの6週間でしかない。女王蜂になるのは、ローヤルゼリーを浴びるように潤沢に与えられたもの。
 巣が混雑していることと、花が咲き乱れていることが分蜂の前提条件だ。この分蜂を決めるのは女王蜂だと最近まで信じられていた。しかし、実は、老練な働き蜂たちが討議をしたあと、巣の残りの成員に合図を送っていることが観察によって判明した。つまり、巣分かれも集団で意思決定されているのだ。うひゃあ、そうだったんですか……。
 ミツバチの大きな魅力のひとつは、幾何級数的に増えていくことだ。
 1970年代、80年代は、アメリカの養蜂業の黄金時代だった。1980年代には、何年も続けて巣箱当たり90キロの蜂蜜が収穫できた。巣箱によっては130キロもの蜂蜜がとれるものがあった。ところが、今では4000箱の巣箱から、1本分のドラム缶しか取れない。
 蜂蜜は私の大好物でもあります。午後のひととき、紅茶に蜂蜜を入れ、ブランデーを注いで味と香りをつけて楽しむのが、私の楽しみです。そんな蜂蜜が将来とれなくなったら、それは大変なことです。そして、それ以上に、花が受粉できなくなったら大変も大変、人類は絶滅の危機に立たされるのです。
 ミツバチを一度買ってみようかなとまで思わせる楽しい本でもありました。
 我が家の庭のチューリップが8割方は咲きました。400本ほどは咲いていると思います。といっても、庭のあちこちに植えていますので、例年よりはチューリップのオンパレードという感じでもありません。
 ハナズオウの赤紫色の花も咲いています。春爛漫の候です。
 ちなみに、私の法律事務所のホームページの私のブログに、チューリップの花の写真をアップしています。
(2009年1月刊。1905円+税)

2009年3月16日

世界初!マグロ完全養殖

著者 林 宏樹、 出版 化学同人

 マグロ属のなかでもクロマグロはもっとも体長が長く、大きいもので全身3メートル、そして、体重は400キロを超えるものがいる。
 クロマグロの名は、身体の背側が黒いところによる。むなびれが、他のマグロと比べて短いのも特徴。幼魚から成長するにしたがい、ヨコワ、メジ、チュウボウと呼び名が変わる出世魚でもある。クロマグロは、奇網(きもう)と呼ばれる毛細血管を体側筋の中や肝臓の表面に発達させている。これによって冷水域でも体温を水温より5~10度は高く保つことが可能となり、筋肉の活動を低下させず高速で遊泳できる仕組みとなっている。
 クロマグロは、時速80キロで泳いでいる。
 マグロは、生まれてから死ぬまで泳ぎ続けなければならない宿命にある。というのも、マグロには鰓を動かす能力がない。だから、口を開けて泳ぎ続けることでしか呼吸のための酸素を取り込むことができない。それで、休息時も口を開けて泳がなければ窒息してしまう。
 マグロの寿命は20~30年。マグロは肉食の魚である。エサはイワシやアジ、そしてイカ、タコ、オキアミなども食べる。
 江戸時代の初めころまで、マグロは「シビ」と呼ばれ、「死日」に通じるので忌み嫌われ、あまり好んで食されていなかった。
 クロマグロの著養がもっとも盛んなのは地中海であり、世界で3万5000トンが生産され、、そのほとんどが日本に輸入されている。
 クロマグロを養殖するには、まず、幼魚のヨコワをとり、生簀に活け込む。太平洋のクロマグロの産卵域は、日本南方からフィリピン沖の西太平洋で孵化後、黒潮に乗って北上し、夏から秋にかけて10~20センチのヨコワになって日本沿岸にやってくる。ヨコワは、非常に酸素要求量の高い魚である。そのため、酸欠状態となるとすぐに死滅してしまう。
 また、光や音の刺激でパニックを起こしやすく、生簀に突進して衝突死する個体が続出した。クロマグロ完全養殖の研究を始めてから32年たって、ようやく実現することができた。味も、天然ものとまったく遜色なかった。
 成魚になったクロマグロは、病気になりにくいのでワクチンなどの薬を投与する必要もない。
 いま、クロマグロは1日2回、午前と午後、アジやサバを中心に生餌が1日当たり体重の数%の換算で与えられている。出荷するときは、電気針を使って一本釣りをする。マグロが針についた餌に食いついた瞬間に電気が流れ、仮死状態にして釣り上げる。時間をかけて釣り上げると、マグロが暴れて体内に乳酸がたまり、俗に言う身にやけが入るからである。商品価値が落ちてしまう。
 世界のクロマグロの8割を日本人が消費している。
 本当に日本人はマグロが大好きですよね。もちろん、私も大好きです。ネギトロ巻きなんか、うっとりするほどの美味しさです。
 最近、ある業界紙を読んでいたら、次のようなコラムを発見しました。いやあ、本当にひどいものです。私もあらためて怒りを感じました。

日本長期信用銀行に8兆円ともいわれる莫大な公的資金をつぎこんだ挙句、わずか10億円で2000年に米投資ファンドのリップルウッドに買収させた。一時的には国有化された旧長銀をである。そして、リップルウッドは2200億円の株式売却益を得た。なぜ、銀行ではない外国のとうっしファンド会社に売却されたか、その舞台裏で何があったのかは今も不明である。
 原価2400億円の『かんぽの宿』が109億円で落札云々も、事例としては相手が米国か日本かの違いだけ。郵便局員は公務員だが、給料は税金からは払われていない。350兆円もの郵便局の資産を外資や民間に解放することがターゲットだったのだろうか?
 アメリカが日本を安く買収できるように道筋をつくり、日本の金融資産をアメリカのために活用できるように仕組みを変えたのが、一連の構造改革であったことが次第に明らかになってくる.
(週刊先物ジャーナル987号、沼野 龍男氏)
(2008年11月刊。1400円+税)

2009年2月16日

昆虫の知恵

著者 普後 一、 出版 東京農工大学出版会

 いやはや、昆虫って、すごいですね。昆虫に学べ、とは、よく言ったものです。そのとおりですね。
 ヒトの皮膚にとまった蚊は、皮膚の下にある毛細血管を探り当てるために、足の裏にある感覚器官から超音波を発信し、その反響を利用して血管の位置を感知する。
 うへーっ、まるで腹部エコー検査みたいですね。
蚊が吸血するとき、体重の2倍ほどのヒトの血液を一気に吸って消火器に流し込む。一度に腹いっぱい吸血するため、異なったヒトの血液型が混じり合うことはない。そして消化酵素ですぐに消化吸収されるため、血液が凝固することはない。ふむふむ、なるほど。
 蚊のもつ抗血液凝固物質は、酵素反応の最終段階をストップさせる。このプロリキシンSという物質は、血液を凝固させないほか、血管の平滑筋を弛緩させる作用を持っている。蚊は、吸血するとき、ヒトの皮膚感覚を麻痺させるために唾液を注入し、ヒトに気づかれないようにしている。蚊の唾液がアレルギー反応を引き起こし、かゆみの原因となる。ただし、本来、蚊の唾液は吸血終了とともに蚊の体内に戻る。そのため、かゆみも止まる。ところが、吸血が中断されると、蚊の唾液がヒトの体内に残されるので、ヒトはかゆみを感じる。
 つまり、蚊の気が済むまで血を吸わせたら、かゆみはほとんど感じないわけである。
 うひょう、な、なーんと、蚊を叩き潰すことによってかゆみを感じるというわけです。でも、蚊って見つけたらすぐに叩き潰してしまいたいですよね。
 ちなみに、蚊は一般には花の蜜や果物の汁、樹液などを吸っているが、交尾したメスの蚊だけが卵のためにヒトの血を吸う。蚊のオスは人間の敵ではないということなんですね。
 生ゴミを処理するのに、アメリカミズアブを使うといいそうです。初めて知りました。50センチ角の箱にアメリカミズアブを100頭入れて高温にしておくと、有機廃棄物が効率よく分解処理される。ふーん、そうなんですか……。いま、我が家はEMボカシで生ゴミを処理していますが、これより、もっと簡単で効率が良さそうです。
 モンシロチョウからピエリシンという物質がとれ、抗がん作用に役立つという話も初めて知りました。昆虫って、偉大なる遺伝子資源なのですね。絶滅させたら、人類にとって巨大の損失です。ミズスマシやセミの抜け殻が糖尿病に良いなんて、本当でしょうか。
 傷口にウジ(ハエの幼虫)を這わせておくと、早くよくなるという話にも驚きました。戦場での実際の体験的知見による発見だそうです。
 ウジは、自分の持つタンパク質分解酵素を分泌して壊死状態の組織を溶かし、それを吸い上げることによって壊死組織を除去する。このタンパク質分解酵素は、健全な組織を融解することはないので、壊死組織だけが選択的に取り除かれる。そして、この物質はMRSAなどの薬剤耐性菌をふくむ病原菌に対する殺菌作用ももっている。ただし、ウジを使った治療法には健康保険が適用されない。見かけによらず、ウジも人間に役立つということなんですね。
 将来の宇宙食として有望なのは、昆虫(カイコガ)である。カイコガの蛹は、栄養的に非常に優れ、絹は用途が広く、微粉末にして食材にもできる。カイコガをキャットフードに25%混ぜると、猫は喜んで食べるそうです。
 バッタが幼虫時代に劣悪な環境で育つと、身体が褐色となり凶暴化して、大害虫と化す。これまた人間に似た話ですね。
 うひゃあ、すごいすごい。昆虫ってバカにできませんね。人間は昆虫に大いに学ぶべきです。
 先週末、春一番の突風が吹き荒れました。まともに傘をさして歩けず、電車も乱れていました。でも、風が温かいのです。ああ、春一番だとすぐに思いました。隣家の庭に今年も黄水仙が列をなして咲いています。輝くばかりの黄金色です。そして、近所にはしだれ紅梅も咲き誇り、春到来を感じさせます。
(2008年5月刊。1400円+税)

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