弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
生物
2009年8月14日
深海魚
著者 尼岡 邦夫、 出版 ブックマン社
深海にすむ魚たちの、グロテスクとしか言いようのない姿と形を、しっかり堪能できる大判の写真集です。暗黒街のモンスターたち、というサブタイトルがぴったりです。
深海魚の多くは発光器を身に着けている。なかには、肝門から発光液を出す魚もいる。これを塗って餌で魚を釣る漁法がポルトガルやインドネシアにあるそうです。面白いものですね。
体内に発光器をもっている魚は、発光細胞内でのルシフェリンとルシフェラーゼの化学反応で発光する。ヒレの先端が光ったり、ヒゲが光ったりと、発光する場所はいろいろあります。しっぽの先が光ったりもするのです。
長い柄の先に目が付いていたり、長い長い腸を体外にぶら下げていたり(消化と吸収の効率を高めるためとのこと)、なんとも奇妙な形の深海魚たちのオンパレードです。
でも、もっとも悲しいのは、メス魚に寄生して一生を終わる哀れなオス魚です。大きなメスにくっついた小さな付属物としてしか存在しえないのです。ここまでくると、哀れというより、悲惨としか言いようがありません。
スイスでは、今回は高級料理店はやめて、町なかのレストランに入ってスパゲッティやピザを食べるのがほとんどでした。町の広場に張り出したテラスで、道行く人たちを眺めながら(眺められながら)、ゆっくり赤ワインを味わいました。私はビールはやめました。シシリー島産の赤ワインの渋みのある重厚な味が一番印象深く残っています。
(2009年6月刊。3619円+税)
2009年8月 3日
ニホンミツバチが日本の農業を救う
著者 久志 冨士男、出版 高文研
いやあ、日本にはニホンミツバチがいて、病気知らずで元気に飛びまわって日本の農業を支えてきたんですね。ちっとも知りませんでした。ミツバチと言えば、セイヨウミツバチとばかり思っていました。セイヨウミツバチは、人類と同じで、アフリカが発祥の地だそうです。
ニホンミツバチはトウヨウミツバチの亜称。アジアの多湿な環境に強いトウヨウミツバチの中でも、さらに寒冷地に適しており、強健なミツバチだ。ニホンミツバチは病気にかからない。
いまミツバチがいないと騒がれているのはセイヨウミツバチ。一群あたりの集蜜力が他の種に比べると抜群に高く、そのため世界中で飼われている。湿気に弱いため、病気にかかりやすい。人の手を離れたら、1年も生きていくのは難しい。だから野生化することはない。
ニホンミツバチは生活力が強い。冬は、セイヨウミツバチよりも低い温度で仕事を始めるし、夏は日没後まで働き、暗闇の中を巣箱に帰ってくる。ただ、ニホンミツバチは、セイヨウミツバチのように女王蜂を人工的に産出して群れを増殖させたり、花粉媒介用として利用する技術は、まだ確立していない。
古来、ニホンミツバチは日本の森林や農業を守ってきた。ニホンミツバチは野生種である。だけど、人間が優しく接すると、優しく対応してくれる。
ニホンミツバチがいないのは、北海道と沖縄のみ。あとは、日本中どこにでもいる。
ニホンミツバチを飼うのは容易である。ニホンミツバチは人に馴れるし、とてもおとなしい。面布や燻煙器も必要ない。
ニホンミツバチは黒っぽい色の縞模様の幅が均等であり、上を向いてとまる。セイヨウミツバチは、腹部の中央部がオレンジ色で先端が黒く、下を向いてとまる。
ニホンミツバチは、巣箱の中でお互いに寄りあって丸くなって過ごせるので、体温が逃げにくく、ミツも体温で柔らかくなるので、食べやすい。
ニホンミツバチは一つの巣に平均5000匹いる。その半数が花蜜や花粉を集めに飛びまわる外勤。半数が巣づくりや子育てをする内勤。この仕事分担は生まれつきに決まっているのではなく、年齢ならぬ日齢で決まっている。
初めは幼虫の世話をして、そのうち外から持ち込まれる花蜜の受け取りやら整理をし、やがて番兵となり、外勤になる。役割はフレキシブルで、必要に応じて変わる。
女王蜂は1匹だが、1年前に生まれた女王と、今年うまれた女王の2種類がある。
今年うまれの女王は護衛をともなって1週間ほど毎日、交尾飛行に出かける。このとき交尾をした雄蜂が多いほど産卵力が強い。女王蜂は2年間、毎日、数百個の卵をうみ続ける。そのための精子を1週間で貯めこむ。
ミツバチの巣分かれは働き蜂の総意で決まることで、女王蜂はそれに従っている。何の卵をうむのかも女王が決めるのではなく、働き蜂たちが決める。
働き蜂の寿命は忙しいときで2ヶ月、越冬ハチで4ヶ月。
女王蜂が老齢化し繁殖力がなくなるときは必ずやってくる。それは突然やってくる。女王が誕生して2年数ヶ月後のこと。女王に繁殖力がなくなると、働き蜂は少しずつ数を減らし、王国は消滅に向かう。女王が何らかの事故にあっていなくなると、働き蜂たちは絶望し、生きる意欲をなくし、何もしなくなる。ニホンミツバチは、人間と同じように、愛と生き甲斐をもって生きる動物である。
ニホンミツバチとは対話ができる。人に馴れ、仲直りすることもできる。最初の出会いが肝心で、これをパスしたら、敵ではないという認識が巣全体に共有され、その後は警戒されなくなり、少々のことをしても寛大に扱われる。
ニホンミツバチは人間は認識するが、個人の認識まではしない。ニホンミツバチは巣内では、お互いの身体を接触させているので、一匹のハチの感情は瞬時に全体のものになる。
うれしいときにはうれしそうな羽音を出し、いらだつときには苛立たしそうな羽音、怒ったときには甲高い羽音を出す。まるで人間と同じ心をもっているかのようだ。
セイヨウミツバチは、いちど手荒く扱うと、いつまでも忘れないくせに、優しく扱っても、なかなかそれに応えてくれるようにはならない。ニホンミツバチのもつ知的能力はオオスズメバチとの戦いを通じて培われてきた。
ニホンミツバチはオオスズメバチに集団で飛びつき、蜂球の中に取りこんで、体温を上げて5分で熱殺する。このとき44度にまで上がる。
ニホンミツバチ養蜂が生業として成り立っていないのは、一群あたりの生産量がセイヨウミツバチの8分の1でしかないから。
ニホンミツバチを長崎県五島で復活させた経験が紹介されています。ニホンミツバチをすっかり見直してしまいました。
(2009年7月刊。1600円+税)
2009年7月13日
ダチョウ力
著者 塚本 康浩、 出版 朝日新聞出版
ええっ、ホントなの…!思わず、そう叫びたくなることばかり書かれた本です。これじゃあ、ダチョウって、まるで天才、人類の救世主じゃん…、と、つい思ってしまいました。
身長は2.5メートル超。巨体から振り下ろすキック力のすごさ。時速60キロを超える駿足。年間100個も卵を産む高い生殖能力。60年も生きる生命力。すごーい……。
鳥の中で世界一大きいのは、ダチョウだ。ところが、ダチョウの脳はネコなみに小さく、ネズミのように脳のしわがない。体重100キロを超す巨体でありながら、脳みそは300グラム。人間の脳の5分の1しかない。ええーっ。
ダチョウは集団行動をする。群れをなして行動する。軍隊行進のように足並みをそろえて走り出す。しかし、ダチョウの群れにリーダーはいない。一羽が動き出すのも、危険を知らせて仲間を守るというような高尚なものではない。何も考えていない一羽が何かのきまぐれで走りだし、それにつられて周囲のダチョウも走り出すというだけ。それぞれのダチョウが勝手に動いて、勝手に群れが振り回されて、右往左往しているだけ。いやはや……。
ダチョウのオスは、メスの前で求愛ダンスをする。くちばしが真っ赤になり、長い首をくねらせながら、羽を大きく広げて踊り出す。うむむ、ちょっと気味悪いかな……。
ダチョウには声がない。だから、群れがあっても物静かな集団だ。
ダチョウを飼うときには、主食はもやしを1日4キロ与える。オスはもやしとおからのみ。メスは卵を産むため、殻の原料になるかきがらを1.5キロ、おから、大豆のくず、ペレットを混ぜる。ダチョウの腸は直径10センチもあり、長さも2メートルと非常に長い。この腸管で消化吸収に40時間もかける。主食のもやしは水分と食物繊維がほとんど。ダチョウは食物繊維をムダなく消化している。ダチョウの糞に臭いが少ないのは、腸内環境がいいから。
食中毒に対応させたダチョウ抗体を口から摂取すると、悪玉といわれる大腸菌などの腸内細菌を減らし、腸内環境を整える働きがある。
ダチョウは、乾燥してホコリっぽいサバンナが原産だから、砂が目に入らないように、まつげがびっくりするほど長い。成鳥になると、警戒心が強く、何年付き合っても人になつかない。
ダチョウは脱走しても単独行動が苦手なので、放っておくと習性で必ず仲間の元に戻る。逆に、追い詰めれば追い詰めるほど、警戒して凶暴になり、かえって危険だ。
ダチョウの卵は、机の角にぶつけて割ることができない。殻は陶器のように硬くて分厚い。
2005年に日本全国に1万羽のダチョウがいた。それが3年で5000羽に減った。ダチョウは飼育に大変だし、お金にならないから。ダチョウは、ビジネスとしてはまったく成り立たなかった。ダチョウは人間の女性は襲わない。中肉中背の男性をライバルと見て襲う。
ダチョウは1個の卵から4グラムの抗体がとれる。ダチョウマスクに使うとしたら、卵1個から8万枚のマスクが作れるうえ、品質の均一性もある。
ダチョウ抗体マスクは、新型インフルエンザを食い止めることが出来る。ダチョウ抗体マスクの表面に塗っておくと、ウィルスが侵入しようとして攻撃をしかけてきたとき、ウィルスの増殖に関わる突起部分に抗体がカギとカギ穴のようにパカッとはまり、マスクの内側にまで侵入してこようとするウィルスの動きを止めてしまう。
ダチョウは簡単には死なない。ダチョウの傷の治り方は、並はずれて早い。ダチョウの傷の治りが早いのは、傷口の組織の細胞の歩き方が早く、傷口がふさがりやすいから。アトピー性皮膚炎、ひいてはガンの治療薬としても有望なようです。
うへーっ、こんなお馬鹿なダチョウがこれほど人間の役に立つ動物だなんて、信じられませんね。
それにしても命がけでダチョウ飼育に挑戦した学者と学生の皆さん、お疲れ様でした。ありがとうございます。
(2009年3月刊。1300円+税)
2009年7月12日
タカの巣とり
著者 猪崎 隆、 出版 鉱脈社
楽しく読める童話のような話の本です。山里育ちではない私でも、なんだか身近なものとして想像できる少年時代のなつかしい話でした。
いまでは、宮崎でも、このような山里の体験をしている少年は少ないのではありませんか。実にうらやましい少年時代の思い出です。ですから、サブタイトルに「我が生涯の最良の日々」とあるのも、素直に、そうだろうなとうなずけます。
というのも、あのサシバをヒナを巣から獲って育てて、野に戻したという貴重な経験が淡々と語られているからです。すごいですよね。おかしなことに、タカと間違ってフクロウの子を巣から奪って育てようとした話も紹介されています。
そうはいっても、成鳥にまで育てる苦労は大変なものですね。毎朝、早くから田んぼなどに出て、カエルだけでなく、カナヘビまでとってきて、餌として与えるのです。
私も、子どものころはザリガニ釣りに夢中でした。ですから、カエルを捕まえると、片足を持って地面に思い切りたたきつけ、両手でカエルの両足を引き裂き、ザリガニ釣りのエサにすることに何の抵抗もありませんでした。今は、とてもそんなことはできません。子どもって、本当に残酷です。
タカ(サシバ)の子を巣から奪うにしても、あまりに早すぎると、人間の手で育てるのは難しい。卵の様子を見て、いつごろにヒナがかえるか判断する。これもすごいですね。
卵の汚れ具合で、だいたいの産卵時期を予想できる。産みたての卵は真っ白だ。日が経つにつれて茶色っぽくよごれていく。それで、ヒナがかえる日を想定する。なーるほど、ですね。そして、ヒナがかえっても、すぐには奪ってはいけないのです。
カラスは、人の目につく場所でも大木なら巣をつくる。しかし、サシバは木の大きさよりも、まず場所を選ぶ。人の近寄らない、見晴らしのよくきく山腹の急斜面を選ぶ。
サシバの喉には、子どもがいたずら書きでもしたような、一本の黒いタテの線があり、こっけいな感がする。この千から、サシバの名前がついた。
そして、サシバを育て上げ、ついに野に放すまでの日々が描かれています。
著者は、よき父と母をもったものだと感心しながら読みました。
我が家の庭にも小鳥たちはやってきますが、さすがにタカは来ません。私と同世代の著者の少年時代を描いた、いい本でした。
(2009年5月刊。1000円+税)
2009年5月25日
凍った地球
著者 田近 英一、 出版 新潮新書
ええっ、地球が雪玉(スノーボール)のように凍りついていた時期があった……。とんでもない仮説です。地球って、火の玉地球から始まったはずなのに……。
かつて地球の表面は氷で完全に覆われていた。こんな衝撃的な事実が明らかとなったのは、この10年来のこと。火山活動による二酸化炭素の供給が現在の10分の1以下になると、地球は全球凍結を避けられないことが理論上の計算で導かれた。
でも、本当にそんなことが起きたのでしょうか……?
地球が誕生したのは、今から46億年前のこと。そして、その後の6億年間は、地質記録がほとんどない。
今から5000万年前のころ、地球は最温暖期だった。パリやバンクーバー(カナダ)のような緯度50度あたりまで、今のアマゾンにあるような熱帯雨林が分布していた。その原因は二酸化炭素濃度の増加にあった。
今から46億年前、誕生したばかりの太陽の明るさは、現在の70%程度だった。太陽は。時間とともに徐々に明るさを増しており、現在でも1億年に1%程度の割合で明るくなっている。うーん、そういうことってあるんですかね。地球も進化してるんですか……。
地球の大気組成は、時間とともに大きく変わっている。それは進化しているとも言える。原生代において、主要な生物のほとんどは海の中に生息していた。全球凍結が生じると、海は表層1000メートル程度が完全に凍結してしまうため、光合成生物が活動できる場は失われる。しかし、海洋は表層の1000メートルほどが凍結するだけで、深層領域は凍結しない。やがて、大気中の二酸化炭素分圧が0.12気圧にまで達すると、氷は赤道から一気にとけはじめる。
全球凍結現象というのは、全球平均気温の変動が100度にも及ぶような極端な気候変動である。
地球には、もともとオゾン層はなかった。生物が陸上に進出できたのは、大気中の酸素濃度が増加したことでオゾン層が形成され、それが太陽の紫外線を吸収してくれるようになったおかげだ。地球と生命は、お互いに影響を及ぼしあいながら、ともに進化してきたのではないか。これを、地球と生命の共進化という。
地球の全球凍結が生物進化のフィルターとしての役割を果たした。全球凍結によって生物の多様性が大幅に減少することでボトルネックが生じ、その直後に生物の多様化が促進された可能性がある。また、全球凍結の直後に大気中の酸素濃度が増加したことによって、生物の大進化が促進された可能性がある。
全球凍結イベントという破局的な地球環境変動が生じれば、生物進化に与える影響は計り知れない。全球凍結による生物多様性の大幅な低下と大気中の酸素濃度の増加が重なり、真核生物や多細胞動物の出現という、生物進化史上の大進化をもたらしたのだとしたら、全球凍結は生物の進化にとって決定的な役割を果たしたことになる。つまり、全球凍結がなかったら、地球上の生物は、いまだにバクテリアのままだったかもしれないのだ。うむむ、なんという逆説的な指摘でしょうか……。
地球は、いま、新生代後期氷河期のまっただなかにある。氷期と間氷期が10万年の周期で繰り返しており、ほんの1万年前までは寒冷な氷期だった。その後、地球は温暖な間氷期となり、人類は文明を発展させてきた。しかし、あと数千年から一万年のうちに、また再び氷期が訪れることは確実なのだ。
地球温暖化が叫ばれているなかで、いずれ地球に氷河期が来るという指摘がなされています。地球と私たち生物体との関わりを考えさせてくれる好著です。
(2009年1月刊。1100円+税)
2009年5月18日
蝶の道
著者 海野 和男、 出版 東京農工大学出版会
いのちあふれ、きらきらと輝く蝶の写真にただただ圧倒されます。魚眼レンズですから、蝶が目の前をヒラヒラ飛んでいるようです。
蝶は水たまりから水を飲む習性がある。土から溶け出したミネラル分を摂取するためだ。ただ、不思議なことに、集まるのは全部オスの蝶だ。
なんと、蝶が勢いよくオシッコしている写真まであるのです。すごい、ですよ。水をたくさん飲んでは、しょっちゅう排出するのです。
蝶にも飛んでいく蝶道がある。沢沿いに、開けた林道に沿って蝶道があり、そこでカメラを構えて待ち続ける。魚眼レンズを使っても、蝶までわずか1センチというところまで近づくため、逃げらることも多い。
蝶は、同じ種類同士で集まる習性がある。一匹が水を飲みに地面に降りると、まわりを飛んでいた同種の蝶も次々に舞い降りて、集団をつくる。繁盛しているレストランに、さらに人が集まるのに似ている。
蝶は、子孫を残すために交尾をする。オスの仕事はメスを探すこと。オスがとどまらずに草むらをとんでいたら、メスを探していると思っていい。それに対して、メスの仕事は卵を産むこと。メスが飛んでいるのは、産卵に適した植物を探しているのだ。
蝶は交尾しながら飛ぶこともある。たいていは、交尾直後に安全な場所に移動しようとするからだ。オスとメスのどちらが飛ぶかは、種によって決まっている。モンシロチョウの場合は、オスがメスをぶら下げて飛ぶ。
モンキチョウのメスは、オスに誘われると交尾する気がなくても後をついて飛ぶという面白い習性がある。
モンシロチョウは、農薬を使わない家庭菜園に多い。モンシロチョウが食べているキャベツなら、人間も安心して食べられる。
いやあ、そうなんですか。実際にキャベツを栽培してみたことがあります。そのとき、その大変さが身にしみて分かりました。毎日毎日、青虫取りに追われるのです。割りバシを使って青虫をつまんで踏みつぶす作業を続けましたが、とても追いつかず、まさしく虫食いだらけのキャベツとなり、人間はあえなくモンシロチョウに敗退してしまいました。2年ほどキャベツづくりに挑戦しましたが、ついに断念してしまいました。ということは、いま、店頭に並んでいる見事なキャベツには相当の農薬がふりかけてあるはずです。
表紙にある蝶の道の写真は、アマゾン(ペルー)の林道だということです。色とりどりのおびただしい蝶が舞う道です。こんな道が12キロも続いているというのですから、地球は広いですね。心の軽くなる、豪華絢爛たる蝶の写真集です。
(2009年2月刊。3600円+税)
2009年5月 7日
風の中のマリア
著者 百田 尚樹、 出版 講談社
オオスズメバチの30日という短い一生をたどった物語です。知識としては知っていましたが、読み物仕立てになったストーリー展開は見事なものです。一気に読み上げ、オオスズメバチの雄々しくも(実のところ、戦士はメスたちばかりなのですが…)短い一生を知って、感慨深い余韻がありました。
オオスズメバチは、最大のスズメバチである。女王バチは50ミリほど、ハタラキバチは40ミリ以下、オスバチは40ミリ前後もある。非常に獰猛(どうもう)で、攻撃力も極めて高く、他の昆虫を襲って幼虫のエサにする。
大アゴの力は強力で、固い甲虫類の甲殻も噛み砕いてしまう。太い針から噴出する毒液は、大型の哺乳動物も殺傷する力がある。秋の繁殖期には、ミツバチや他のスズメバチの巣を集団で襲い、サナギと幼虫を奪い取る。
オオスズメバチは幼虫時代は肉食だが、成虫になると、逆に肉などの固形物は一切食べない。そのため、樹液や花密が食物の代わりとなる。最高の栄養源は、幼虫の出す唾液だ。そこには特殊なアミノ酸化化合物が含まれていて、そのおかげでオオスズメバチのワーカーは体内の脂肪を直接燃やしてエネルギーに変換できる。
脂肪を直接燃やすことのできるオオスズメバチは、体内に乳酸を発生させないので、どれほど運動しても、ほとんど筋肉疲労を起こさない。オオスズメバチが一日に100キロ以上も飛べる驚異的な運動量を誇る秘密は、そこにある。
ミツバチはエサ場を見つけると巣に戻って尻振りダンスで仲間にその場所を知らせる。オオスズメバチは、フェロモンで仲間をあつめる。フェロモンを察知して集まったワーカーは、3頭以上になると行動を一変させ、殺りくに終始する。飛来してくるワーカーの中には、仲間に栄養を補給するものもいる。戦場から巣にもどるときには、殺した敵の肉だけでなく、死んだ仲間の肉も持ち帰る。
攻撃は、たいてい一日で終わるが、ときに2~3日もかかる。集団攻撃を受けたスズメバチ類は、ほとんど全滅してしまう。
ニホンミツバチは、オオスズメバチの偵察ワーカーが分泌する「エサ場マークフェロモン」に反応して「蜂球」行動に移る。つまり、ニホンミツバチは、オオスズメバチがやってくると、大勢で取り囲んで、蜂球をつくる。そのなかは、摂氏46度まで上がる。オオスズメバチは、46度を超える高温にさらされると死んでしまうのだ。ニホンミツバチは46度までは耐えられる。その差が彼らの死生を分ける。
女王バチ、兵隊バチ、そしてオスバチなどがそれぞれ書き分けられていますし、隣接するハチなどが襲われていく状況などは憐れみも誘います。でも、そうしないとオオスズメバチは生き残れないのです。
自然界の過酷な生存競争について考えさせる面白い小説でした。
連休中、久しぶりに近くの小山へハイキングに出かけました。昼から雨はあがるという天気予報を信じて、小雨が少しぱらついていましたが、おにぎり弁当をもって小さなリュックを背負って出かけました。
土手には野アザミが一面に咲いていました。すっくと伸び立つ紫色のアザミの花は気品を感じさせます。山のふもとにあるミカン畑では、白いミカンの花が満艦飾でした。隣にビワ畑もあり、こちらは袋かけがおわっています。
ポツポツ降っている小雨が止みそうもありませんでしたので、頂上まで行くのは断念し、見晴らしのいい丘で腰をおろして弁当開きとしました。ウグイスやら名前のわからない小鳥がきれいな声でさえずってくれるなかで、おにぎりを美味しくいただきました。
なかなか晴れ上がってくれないなと思いながら帰路に着きました。家に戻って休んでいると、やがて雨は本格的に降り出し、天気予報もあてにはならないと思ったことでした。
(2009年3月刊。1500円+税)
2009年4月29日
自然に学ぶ・粋なテクノロジー
著者 石田 秀輝、 出版 化学同人
土は私たちの生活には不可欠の材料である。西洋紙のなか30%、光沢のあるアート紙は40%以上の粘土鉱物が含まれている。軽い和紙に対して洋紙が重いのは、このため。6Hの鉛筆には55%、化粧品の口紅に15%、ファンデーションには40~70%も含まれている。
うへーっ、ちっとも知りませんでした。
カタツムリや卵は、表面に分泌液を出すこともなく、いつもピカピカ、きれいな表面をしている。なぜか?
カタツムリの表面を電子顕微鏡で見てみると、数十ナノメートルからミリメートルにいたる小さな凸凹がたくさん存在する。この凸凹が材料の表面エネルギーを変化させているから。なんだかよく理解できませんが、いろんな細かい仕掛けがあるのですね。
水のいらないお風呂が作られている。4リットルのお湯を泡にする。まったく水による圧力のかからない入浴感を楽しめる。うむむ、なるほど、そういうこともできるのですね。
シマウマの縞は風を起こす役割をもっている。縞の白い部分は熱を吸収しにくく、黒い部分は熱を吸収しやすくなっている。そのため、身体の表面で温度差が発生し、微妙な風の流れ(対流)が起こる。このおかげで、シマウマは常に身体を快適な温度に保つことができている。
むひょう。す、すごいですね。敵から見つけられにくくするためとばかり思っていましたよ。
アワビの貝殻は落としたくらいではびくともしない。ハンマーで叩いても、なかなか壊れないほど強靭だ。アワビの貝殻は、厚さ1マイクロメートル以下の薄い炭酸カルシウムの板を有機質の軟らかい接着剤で貼り合わせた「積層構造」になっていて、厚さ1ミリメートルの中に、その薄い板が1000枚以上重ねられている。貝殻にヒビが入っても、柔らかい接着層でヒビが止まり、薄板が一枚一枚、少しずつ壊れることで破壊エネルギーを吸収し、なかなか割れない。破壊するためには、炭酸カルシウム単体と比べて、3000倍の破壊エネルギーを与える必要がある。
ふむふむ、自然の驚異、そのすごさを改めて実感させられました。
(2009年1月刊。1700円+税)
2009年4月27日
サルが木から落ちる
著者 スーザン・E・クインラン、 出版 さ・え・ら書房
サルが木から落ちるというのは、たとえ話だと思いながら読み始めたのですが、なんと本当にある話だというのです。驚きました。ジャングルの木の下で、じっとひそんでサルを観察し、その原因を地べたをはいつくばって、サルの糞まで拾い集めて調査・研究するのです。恐れ入ります。ホント、学者って、こんな地道な作業を延々と続けているのですね。頭が下がります。
それが現代に生きる私たち人間にどんな関係があるの? そんな疑問をもった方は、少し現代社会に毒されすぎていませんか。なんとなんと、それが大ありなんですよ。ジャングルの植物そしてあらゆる生き物の成分は、まだまだ人間に未解明のものがすごく多いわけです。ですから、サルにとって有害または有益な植物の成分を発見したら、人間にとってガンのような病気の特効薬になるかもしれないっていうわけです。そんなわけで、種の多様性を保全するのは、私たち現代人にとっても決して趣味的な世界だけの話ではないのです。
熱帯に生きる鳥は、温暖地方に住む鳥より、平均するとずっと小さい。それは、熱帯では毎年えさ不足に悩まされる現実にもとづいている。えさ不足の時期があるため、熱帯林では、大部分の野生動物は数も大きさも制限がある。そうなんですか、ちっとも知りませんでしたよ。
熱帯林の生きものの多くが夜行性で、夜しか活動しない。
熱帯林に全部で何種類の動物が住んでいるのか、まだ分かっていない。森をくまなく調べれば調べるほど、新しい種が発見される。
学者は、ホエザルを追跡した。ホエザルは、食べられるときは出来るだけ新しい葉を食べる。果実や花や成熟した葉は、たまにしか食べない。そして、葉柄の部分だけを食べる。サルたちは、好きな種類の木ならどの木の葉でも食べているのではなく、2,3本の木を選んで葉を食べていた。毒のない木を選びとっていた。つまり、ホエザルは、森の自分たちの領分で手に入る木の葉のうち、もっとも栄養があって消化がよく、しかも毒の少ない葉を選んでいた。ホエザルは毒がいっぱいの森で、用心深く、食べ物をより分けて食べているのだ。
ところが、木のほうも誰かに食べられたときには、それまでより多くの毒を作り出す。同じ植物でも、動物に食べられなければ、少ししか毒を作らない。毒の強さは常に変わり続けているので、サルたちは、どの木の葉の毒で、どの木の葉が食べられるのか、経験で学ぶことが出来ない。そこで、定期的に注意深く地域の中を試食してまわっている。
サルが木から落ちるのは、ひどい干ばつの年で、ホエザルが食べ物を選り好みできないときだった。すなわち、木から落ちるサルは、まちがった時期にまちがった木の葉を食べたので、毒にあたったのだ。熱帯林は、食べものと、毒の混合物がいっぱい詰まった食料貯蔵室のようなものだ。
サルたちの毒だらけの食料貯蔵室は、人間に希望をあたえてくれるものでもある。有毒な化学物質は、少量使うと薬になることが多い。たとえば、アスピリン、キニーネ、モルヒネ、ジキトキシン、そして抗がん剤など……。
この本を読むと、熱帯のジャングルを切り開いてハンバーガーを食べるための牛を飼う牧場につくり変えるなんて、そんなバカげたことはやめたいものだと、つくづく思います。第一、ハンバーガー自体も、健康にいいものとはとても思えません。赤坂交差点のハンバーガーショップがいつも客で満員なのを横目で眺めていますが、複雑な気持ちになります。
(2008年4月刊。1500円+税)
2009年4月25日
カンブリア爆発の謎
著者 宇佐見 義之、 出版 技術評論社
5億4000万年前から始まるカンブリア紀に、生命は突如として爆発的な進化を起こした。うむむ、5億4000万年前と言われても、ちょっとピンときませんよね。宇宙の年齢が140億年と言われると、なんだか5億年前というのも少しは分かったような気にはなるのですが。
カンブリア紀の前の時代にも多くの生物がいたことが分かっている。9億年前に遺伝子が大きく進化したことが判明した。つまり、生物は少しずつ進化していたのであって、急に、突然進化したわけではない。
単細胞の生命が誕生したのは、今から30数億年前のこと。それから20億年以上、単細胞生物の時代が続いた。6億3000万年前から、5億4000万年前にわたるのがエディアカラ紀である。この紀に生物相は多様に進化していた。
そしてカンブリア紀の初期になると、2メートルもの大きさのアノマロカリスがいた。アノマロカリスにも、いろんな種類のものがいる。
アノマロカリスの化石の写真が紹介されていますが、実に珍妙な形をしています。頭部の下面にはリング状の口がついていて、尾部には垂直方向に尻尾状の構造があります。
そして、人類の祖先ではないかというふれこみのピカイアなるものも紹介されています。脊椎動物に近いというのですが、ピカイアは脊索動物です。脊索動物は脊椎動物に近いというわけです。
有名な三葉虫は、カンブリア紀にもっとも繁栄した生物です。デボン紀に絶滅しましたが、魚類に覇権を奪われたからではないかと、この本は見ています。
生物の形造りの基本は、繰り返しの構造にある。繰り返しの構造の一部を変形させて、特殊な機関を作り出せば出すほど、進化的に後に位置する生物といえる。
たくさんの図版があって、理解しやすいのですが、本当に奇妙きてれつな形の生物のオンパレードです。海岸に無数いて、もじょもじょしている、そんなフナムシ(船虫)が人類の祖先だなんて言われても、ちっとも実感がわきません。
それにしても、9億年前とか5億年前とか、聞くだけでも気が遠くなりそうな時代の生物の化石と対面するのも楽しいものですよ。
(2008年4月刊。1580円+税)