弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

生物

2007年4月13日

擬態、だましあいの進化論(2)

著者:上田恵介、出版社:築地書館
 魚類に限らず一般に、体の大きな雄は小さな雄よりも競争に強く、より繁殖場所を占有したり、多くの雌を独占したりして高い繁殖成功を得ることができる。では、小さな雄は繁殖から締め出されているのかというと、必ずしもそうではない。小さな雄は小さいなりに、さまざまな手段を駆使して繁殖成功を上げようとしている。その手段のひとつが雌への擬態である。なわばりをつくらずに雌に擬態している雄は、なわばり雄よりも小さく、年齢も若い。このような雄は体色などが雌にとても似ているので、なわばり雄からさかんに求愛を受ける。ときには誘われるまま巣の中に入って、なわばり雄と産卵行動にいたってしまう。そのとき、雌擬態している雄は、もちろん卵を産むわけはなく、あくまで産卵しているふりをしているだけ。そして、本物の雌が巣にやってきて産卵しはじめると、そこへ割り込んで精子を放出し、本物の雌が生んだ卵に授精する。産卵後、雌擬態している雄は雌とともになわばりから去っていき、残された卵は、なわばり雄が面倒をみる。つまり、雌擬態している雄は、なわばり雄に対して、巣の維持や雌の勧誘などの面で寄生しているだけでなく、子の保護まで寄生している。
 小さなオスの魚がメスのふりして、大きなオスの魚をだましてちゃっかり自分の子孫を増やすのに成功してるなんて、面白いですよね。
 ランの花、オフリスは、ハチをだまして誘いこみ、受粉の手伝いをさせている。
 オフリスの賢いところは、まだ本物の雌バチが発生する前に花をつけて雄バチを誘うこと、偽交尾はさせるものの、本当の交尾(射精)まではさせないこと。 したがって、ハチは性的興奮状態を保ちながら、次なる花を求め、次々に他花受粉させていく。
 うーん、植物の花がハチをだますなんて・・・。
 チャバラニワシドリの鳴き声を聞いてみよう。建築現場からの実況中継だ。ベルトコンベアーか何かの機械がまわり、ガラゴロと建材が運びこまれ、何かが組みたてられているような音や、現場で働く大工たちの話し声や合図のような音まで聞こえてくる。まるでトランジスターラジオが勝手に鳴りだしたかのようだ。
 カッコウのヒナも同じようなだましの音をたてている。
 カッコウのヒナは、ヨシキリのヒナと同じ「シッ」というねだり声を出すが、鳴き方はまばらに繰り返すのではなく、「シシシシシ・・・」と詰めて、まるでたくさんのヒナがいるかのように鳴く。つまり、カッコウのヒナは、たった一羽でも十分に食べて成長できるように、そのねだり声をヨシキリ一巣分のねだり声に擬態させる仕組みを生み出し、宿主の行動を操っている。これは前提として、カッコウのヒナが、ヨシキリのヒナを巣から全部け落としてしまい、巣の中は自分一人だけで占有しているということがあります。あつかましくも、ヨシキリの親をだまし続けるわけです。
 残念なことに、私はまだこれらの小鳥の鳴き声を聞いたことがありません。ぜひ一度聞いてみたいものです。それにしても、これって、大自然の神秘そのものですよね。

2007年4月 6日

パンダの育児日記

著者:中国パンダ保護研究センター、出版社:二見書房
 子どもパンダが、あっちゴロゴロこっちゴロゴロ。ウヒャー、可愛い。パンダって、こんなに愛らしかったんだー・・・。パンダ好きのあなたに必見の写真集です。安い値段(1400円)で、至福のひとときをあなたは手にすることができます。まさに、パンダは地球自然の至宝の一つです。
 パンダの初乳は緑色。免疫力があって、栄養もたっぷり。初日から4日間は黄緑色で、5〜9日間は薄い緑色。10〜11日にクリーム色となり、12日から乳白色となる。それでも笹を食べるから緑色になるということでもない。これもパンダの神秘の一つ。
 一時期、中国のパンダは1000頭にまで減ってしまったけど、今は1600頭に回復した。それでも絶滅の危機にある。
 パンダの飼育は試行錯誤を経て、今では、なんと100%の成功率。しかも2005年には16匹のパンダの赤ちゃんが誕生して、全部、無事に育っている。ワー、良かったー・・・。2007年には、さらに17匹の赤ちゃんが誕生。飼育員にだっこされて勢ぞろいしている姿の可愛らしいことったら、ありません。パンダ幼稚園があり、盛大な入園式まであるんです。すごいですね。現地に行って本物を見てみたいですね。
 ところで、日本書紀には、唐の女帝・則天武后が685年に生きた雌雄の白熊(ペアのパンダ)を日本の天武天皇に贈呈したと書いてあるそうです。ちっとも知りませんでした。本当でしょうか。
 ちなみに、今、日本では、和歌山のアドベンチャーワールドにパンダが8頭もいるそうです。ぜひ見に行かなくっちゃ。あと、上野動物園に1頭、神戸の王子動物園に2頭。合計11頭のパンダが日本にいる。
 パンダの妊娠期間は平均5ヶ月。出産は夏の7月から9月にかけて。生まれた赤ちゃんは100〜200グラム。肌は全身ピンク色で、白い体毛におおわれている。口を開けて鳴き声は大きいが、臭覚もなく、目も見えない。
 1ヶ月たつと白黒の模様がはっきりしてくる。2ヶ月たって、やっと目が見えるようになる。前足で上半身を支えることができるようになり、遊びはじめる。
 パンダは人間の子と同じように、とても繊細な感情をもっている。人によくなついてじゃれるし、すきを狙って報復したりする。
 細やかな感情を表すように、パンダの鳴き声は11種類もある。羊の声、鳥の声、犬の声、牛の声、泣き声、叫び声、呻き声、舌打ち、呼吸の音、鼻を鳴らす音そして吠え声。
 パンダは大人になるまで木登りが大好き。幹に抱きついて、枝を上手にお尻にはさんで、じっとしている。お昼寝タイム・・・。
 ひゃー、えかった、えかった。かわゆーい、パンダのオンパレード。たんのう、たんのう。

2007年3月 9日

トビウオは何メートル飛べるか

著者:加藤憲司、出版社:リベルタ出版
 まず、答えから。トビウオは、最大400メートルも飛べるそうです。飛行速度は時速55キロ。7〜8秒間は飛べます。羽を鳥のようにバタバタさせるのではなく、長短4枚の羽を目一杯に広げてグライダーのように滑走する。
 サンマもトビウオの仲間なので、1メートルくらいは飛びはねる。
 ただし、この本はトビウオのことだけを書いてた本ではありません。魚類全般についての百科全書みたいなものです。
 魚は、高齢になっても成長は止まらない。コイは養殖すると70年以上も生きる。一般に魚の体温は、ほとんど周辺の水温と同じ。しかし、カツオとマグロなど外洋を広く回遊する魚は、恒温動物のように周囲の水温よりも10度以上高い体温を保っている。
 氷点下の海にすむコウリウオは体液の中に凍結防止物質があり、不凍液状態になっている。すごーい。
 キンギョは水温が10度以下の冬にはエサをあまり食べない。5度以下になると冬眠状態になる。冬眠前にたっぷりエサをやって脂肪を蓄えさせる。それで冬の3ヶ月の寒さに耐え、春になってたくさんの良質な卵を産む。
 魚屋で魚を買うときには、目玉を見る。眼球の表面に張りがあり、濁りのないものが新鮮。目が血走って濁っているものは鮮度が落ちている。エラブタを開けて、中のエラが鮮やかな赤い色をしているものは間違いない。
 ほとんどの魚にはウキブクロがある。これが肺の原型となっている。
 魚の目の水晶体は球形でとても固い。人に比べて、はるかに近視。
 コイの口ヒゲには味蕾(みらい)があり、エサを探すときの味覚センサーになっている。コイは、甘い、塩辛い、酸っぱい、苦いの四感覚を識別できる。
 水中で暮らす魚は主な呼吸はエラでしており、鼻は呼吸につかっていない。
 サケやマスの鼻の穴に栓を詰めてしまうと、母川に回帰する割合はぐっと低くなる。
 魚は泳ぎながら眠っているそうです。戦争中、行軍の兵士が歩きながら眠っていたという話を思い出します。人間にとっての極限状態に追いこまれたのですね。
 他の先進諸国が食糧自給率を向上させているのに、日本は低下する一方だ。日本の漁獲量は半減している。水産物の国内自給率は60%になってしまった。
 なんでもアメリカ頼みの日本です。自動車を輸出できたらいい。農産物なんて海外から輸入すればいいんだ。政府はこんな考えのようです。それでは日本の将来が本当に心配です。安心して食べられるものは、やっぱり近くでとれた農産物ですよね。
 私は釣りが好きでした。風のない穏やかなクリークの水面をじっと目つめ、ウキがピョコピョコ沈んでいくのを見るのが何より好きでした。これは、幼いころ父がフナ釣りに連れていってくれたことから来た好みでもあります。短気な父に釣りは似合っていたのでしょう。ゆったりかまえているように見える釣り人には、実は短気な人が多いというのは逆説的真実です。

2007年2月26日

サルの子どもは立派に育つ

著者:松井 猛、出版社:西日本新聞社
 高崎山のサルを30年間観察してきた人の本です。大変勉強になりました。なにしろ2500人のサル(最近は、匹などとは言わず、人間と同じく、人と呼んでいると思います)を全部、見分けることができるというのです。たいしたものです。どう見ても同じような顔をしていると思うのですが・・・。でも、日本人もアメリカ人からすると、みんな同じような顔に見え、まったく見分けがつかないという話を聞いたことがあります。
 母サルは母乳だけで育てる時期は、赤ん坊がお乳を欲しがると、いつでも飲ませる。生後3ヶ月すると、赤ん坊たちは遊びに飽きると母ザルの元に戻って、お乳を飲もうとする。
 赤ん坊のしつけに一番効果があるのは、授乳拒否。赤ん坊は泣きつかれると、母ザルはつい赤ん坊の背中に手をかけてしまう。これが授乳許可を出したサインとなる。
 母ザルは授乳拒否に時間をかける。これによって、それまで赤ん坊のペースにあわせてきた子育てが、次第に母ザルのペースに変わる。赤ん坊は、授乳拒否を経験して、お乳を飲みたくなっても、そーっと乳房に手を伸ばし、母ザルの反応を気にするようになる。
 母ザルは授乳拒否するとき、赤ん坊の目をのぞきこんで叱る。赤ん坊は母ザルから目をそらそうとするが、母ザルは赤ん坊の後頭部を握って正面を向かせ、お母さんの目を見なさいとばかり、荒々しくふるまう。このとき、母ザルは自分の気持ちを赤ん坊に伝えようと真剣、一生懸命だ。
 母ザルは赤ん坊にお乳は与えるが、それは、餌を与えることは絶対にない。餌のある場所に連れていって、見守るだけ。野生の世界で生きていくには、食べ物を与えないことこそが愛情なのだ。
 赤ん坊が手に入れたイモを母ザルが奪う。それは母ザルが奪わなくても、必ずほかの大人ザルから奪われる。そのとき、かみつかれて、大ケガしてしまうかもしれない。こうやって子ザルはイモを奪われないようにしてから食べることを学ぶ。
 ニホンザルの妊娠期間は人間の半分、5ヶ月半。6月が出産のピーク。母ザルは、2〜3年に1回、出産する。赤ん坊は出産当日から1ヶ月内が一番危険。赤ん坊が母ザルとはぐれると、ほとんど死んでしまう。
 双子が生まれる確率は低い。1万回の出産で9組のみ。そのうち2人とも1歳まで育ったのは3組だけ。
 サルの母と娘の上下関係は、死ぬまで母親の立場が強い。サルは母子家庭。メスザルの出世は血筋で決まる。母ザルは、子どもたちが兄弟ゲンカしたときは、必ず年下の側を応援する。だから、弟や妹の方が威張っている。
 メスザルは、一生のうちに10〜12人の赤ん坊を出産する。オスは4〜5歳のとき、故郷を離れる。
 ボスザルはもてない。メスザルと関係して生まれた娘たちを交尾する危険があるから。だから、群れに入ったばかりの血縁のない若いオスザルがもてもてになる。
 写真がたくさんあって、楽しい本です。中学生のとき、修学旅行で高崎山に行きました。餌場で右手をサルにがぶりとかまれて痛い思いをしました。私は、すぐ近くのサルにまず餌をやったのですが、次に今度は遠くのサルに餌をやろうとしたのです。それを見て、近くにいたサルがどうしてそんなことをするのかと怒ったのです。私としては、サルに公平に餌をやりたいという善意の気持ちからしたことでした。その痛みで、サルと人間の常識の違いが身をもって分かりました。

2007年1月19日

葉の上の昆虫記

著者:中谷憲一、出版社:トンボ出版
 葉っぱの上に昆虫がとまっています。蜜を吸っているのでしょうか・・・。
 モンシロチョウのメスが交尾を拒否する姿勢を見せています。チョウチョもオスを選ぶのです。オスも、さっとあきらめたり、なかなかあきらめきれずに、その辺をウロウロしたりします。まるで人間のオスと同じです。
 アリとアブラムシ。アブラムシは植物の篩管を流れる糖分の多い栄養液を吸っている。ところが、アブラムシはその栄養液の一部しか吸収せず、たっぷり糖分を含んだ甘い液を、お尻から出してしまう。この甘露をなめようと、たくさんの昆虫が集まる。チョウやハナアブ、アシナガバチなどがやってくる。
 ほかの昆虫とちがって、アリとアブラムシは特別な関係にある。アリはアブラムシのお尻から、直接、この甘露をもらう。アリが触角でアブラムシのおなかを叩くと、アブラムシは甘い液を出す。アブラムシがアリを特別扱いするかわりに、アリはアブラムシを保護する。テントウムシなどがアブラムシを食べようと近づいてくると、アリはテントウムシを攻撃して追い払ってくれる。いってみれば、アブラムシが出す甘い液は、警備員として働いてくれるアリへの報酬なのだ。
 アリはハチの一種。翅がないだけで、からだつきはハチそのもの。その生態もハチそのもの。アリとシロアリは、昆虫という大きなグループの一員ではあるが、昆虫のなかのグループ分けでは、なかり違う。
 擬態。毒ともつ生き物のまねをして、毒があるように見せかける。簡単に毒をもつことができるのなら、毒をもって身を守ればいい。しかし、毒をもつのは実際には大変なこと。だから、見かけだけ毒のある生き物に見せかけるほうが簡単で、てっとりばやい。
 昆虫のいろんな生態がよくも微細に写真で紹介されています。昆虫好きの人には、絶対おすすめの写真集です。

2006年12月28日

マーリー

著者:ジョン・グローガン、出版社:早川書房
 アメリカで200万部をこえる大ベストセラーになった本だそうです。世界一おバカな犬が教えてくれたこと、というサブタイトルがついていますが、愛犬は人生の伴侶だということがしみじみ実によく分かる面白い本です。
 マーリーはラブラドール・レトリバーです。ところが、実は2系統あるのだそうです。イングリッシュ系は体が小さくてずんぐりしていて、角張った頭とおとなしく落ち着いた性格ドッグショーに向いている。もう一つのアメリカン系は、見るからに大きく、たくましく、流線型の体型をしている。エネルギーにあふれて疲れ知らず、気性が悪く、ハンティングや競技向けの犬。野山で真価を発揮するアメリカン系ラブラドール・レトリバーを家庭でペットとして飼うと、大変なことになる。そうです、マーリーは、まさにアメリカン系の犬だったのです。その破天荒なやんちゃぶりが、これでもか、これでもかと紹介されています。それでも、老衰するまで著者はつきあいました。
 著者の妻が死産して悲しんでいるとき、マーリーは静かに寄り添い、全身で妻を慰めた。待望の赤ん坊が生まれたとき、マーリーは大切に扱い、決して赤ん坊を危ない目にあわせることはなかった。そんなエピソードがいくつも紹介されています。犬は人の心が分かるのですよね。
 老犬は人間にいろいろのことを教えてくれる。いつしか時が流れて、身体のあちこちが傷んでくるにつれ、生命には限りがあって、それはどうしようもないことだと。
 マーリーは次第に老いて、耳が遠くなり、身体にがたがきた。老いは生きとし生けるものすべてに忍び寄ってくるけれど、犬の場合には、その足取りが驚くほど急だ。12年間というあいだに、元気な仔犬だったマーリーは、手に負えない若者になり、そして筋骨たくましい成犬から、足腰が弱った老犬へと変化した。
 マーリーは、人生において本当に大切なのは何なのかを、身をもって人間に示してくれた。忠誠心、勇気、献身的愛情、純粋さ、喜び。
 そして、マーリーは、大切でないものも示してくれた。犬は高級車も大邸宅もブランド服も必要としない。ステータスシンボルなど、無用だ。びしょぬれの棒切れ一本あれば、それで幸福だ。犬は、肌の色や宗教や階級ではなく、中身で相手を判断する。金持ちか貧乏か、学歴があるかないか、賢いか愚かか、そんなことはちっとも気にしない。こちらが心を開けば、向こうも心を開いてくれる。それは簡単なことなのに、にもかかわらず、人間は犬よりもはるかに賢く高等な生き物のはずでありながら、本当に大切なものとそうでないものとをうまく区別できないでいる。
 人間は、ときとして、息が臭くて素行は不良だが、心は純粋な犬の助けが必要なのだ。
 著者がマーリーの死を悼むコラムを新聞に書いたところ、読者からなんと800通ものメールが来たそうです。心の優しい動物好きはアメリカにも多いのですよね。
 わが家でも、子どもたちが小さい頃に犬を飼っていました。小型の芝犬です。メス犬でしたが、息子がマックスと名付けました。子どもたちと犬を連れて散歩するのが、私の大いなる楽しみでした。世界一のバカ犬とは決して言いませんが、飼主に似たのか、間抜けな犬でした。庭にクサリでつないでいると、同じところをぐるぐるまわっているうちにクサリがからまって身動きとれなくなるのです。それでもバカな犬ほど可愛いというように大切にしたつもりでしたが、ジステンバーにやられて早死にさせてしまいました。マックスが死んでもう何年もたちますが、動物霊園に遺骨をおさめていますので、年に一回は今もお参りしています。
 犬は人間の古き良き伴侶なんだとつくづく思います。

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