弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
生物
2007年12月 7日
昆虫がヒトと救う
著者:赤池 学、出版社:宝島社新書
ひゃあ、そうだったのか、知らなかったー・・・。つい、そんな叫びをあげてしまいました。
ウジ虫が劣悪な衛生環境の中で生きていけるのはなぜなのか?
こんな発想をもったことがありませんでした。ウジ虫は自分のもっている自然免疫を活性化させているから、ひどい環境のなかでも成長できる。その抗菌力はザルコトキシンによる。これは小型タンパク質の一種、ペプチドである。
その殺菌力は協力で、1ミリリットルの体液中、1ミリグラムの1万分の1というわずかな量さえあれば、細菌類を殺すことができる。それでいて、動物の培養細胞には何の悪影響も及ぼさない。つまり、悪い菌だけ殺して必要な細胞は殺さない。
そして、このザルコトキシンは、一度つくられて永久に体内に存在するわけではなく、体が傷つくたびに生成される。この物質から、人間のある種のガンにピンポイントで効果をあらわすものが発見された。うむむ、なんと、なんと、すごい発見です。
次はシルク。シルクはタンパク質で、糸はタンパク質同士が水素結合でくっついてできた集合体。シルクは昆虫の体内にあるときには液体なのに、外に吐き出されたとき一気に美しい糸になる。糸は直径10ミクロンで、長さは1500メートルもつながっている。
このシルクには、カビにくいし、質感を変えておいしくする作用がある。カビの発生を遅くし、味が滑らかになる。ふーん、シルクって光沢があるだけではないのですか・・・。
スズメバチに刺されて死ぬ人が毎年25人ほどいる。それほど猛毒をもつ昆虫である。このスズメバチは巣がないと2〜3日しか生きられない。なぜか?スズメバチは虫などを食べる肉食昆虫なのに、自分で捕ったエサ(肉ダンゴ)を食べることができない。というのは、スズメバチの胸と腹をつなぐ胴がものすごくくびれているため、液体しか通らない。これは、どの方向、どの位置にいる敵に対しても毒針を刺せるよう、自由自在に腹を動かせるためのもの。ところが、その結果、スズメバチは液体流動食しかとれない身体になってしまった。では、そのエサはどうやってとるのか。なんと、幼虫からもらうのです。幼虫は親のスズメバチからもらった肉団子を食べて、大量のアミノ酸ドリンクをつくり、それを親に与える。だから、幼虫がいないと、親は栄養をとることができない。スズメバチの親子は、栄養の交換を通じて、固い絆で結ばれている。
うむむ、これはすごーい。そして、このアミノ酸ドリンクが、スズメバチの高い運動能力をもたらしていたのです。そこに気がつき、着目した学者は偉いですよね。このアミノ酸ドリンクは、ふだん燃えにくい脂肪を燃やして、エネルギーにして運動しているのです。そして、これは運動しなくても脂肪が燃えるということから、運動なしでやせられる夢のダイエット飲料として着目されました。これが有森裕子と高橋尚子が宣伝するVAAMなのです。
いやあ、驚きました。ちっぽけな昆虫たちが、たまに人間を殺してしまったり、嫌われもののウジ虫が実は人間のためにすごく役立つ存在でもあったなんて・・・。ホント、世の中は不思議なことだらけです。
(2007年10月刊。700円+税)
2007年11月22日
犬はきらい?
著者:エミリー・ヨッフェ、出版社:早川書房
私は犬派です。猫は、どうしても好きになれません。幼いころから、ずっと我が家に犬が飼われていたので、犬にはすごくなじみがありますが、猫はいませんでしたので、なんとなく敬遠してしまいます。
猫と犬とは根本的に違う。犬は美人コンテスト出場者のようなもので、他人を喜ばせたいと思っている。サーシャ(著者の飼い犬)は、家の中で粗相すると著者が怒ると理解してからは失敗しない。猫はスーパーモデルのようなもので、他人に喜ばせてもらいたいと思っている。
なーるほど、そうなんですね・・・。私は犬が散歩しているのを見ると、犬の表情を見ます。生き生きとした犬の顔を見ると、私までうれしくなってきます。
猫の知性を試す方法は、まずない。猫はごほうびに釣られないため、賢さをはかるのは難しい。それこそ猫が人間というものを天才的に理解している証拠だ。はいはい、それをやればエサをくれるっていうんだね。でも、知ってるんだ。ここに寝そべって、のんびりうたた寝したり毛づくろいしたりしていても、結局は、エサをもらえるんだよね。
むむむっ、敵は見抜いていたのか・・・。
猫が粗相するのには理由がある。たとえば飼主夫婦の結婚生活に緊張が生じているから。夫婦が離婚してしまうと、猫の粗相も止む。ええっ、そうなんですか・・・。
犬を飼い慣らすことの面白さに味をしめた人間は、夢中になって、次々と動物を家畜化していった。イノシシも豚として飼いはじめた。それが農業に変革をもたらし、やがては近代の文明化につながっていく。
ロシアで驚くべき実験がやられた。野生のギンギツネを飼育した。個体の人間に対する反応を調べ、生まれつき人慣れしたキツネ同士をかけあわせていった。すると、わずか6世代で子孫のなかに人間を恐れない、それどころか人間のそばにいたがる個体が誕生した。さらに数世代を経ると、行動だけでなく、ぶち模様の毛や垂れた耳をもつ子どもが生まれた。キツネの犬化がはじまりかけていた。
うひゃあ、そういうことができるのですか。本当なんでしょうか。
ペットの飼い主にとっての最大の悩みは、犬においては攻撃的であること、猫においてはトイレ以外の場所に粗相すること。
子犬の発達のためには生後16週間までの時期が重要だ。原則として、犬の生涯にわたる社会性は、この16週間で決まる。
オオカミには、集団での狩りを成功させるには大きな脳を必要とする。しかし、捨ててある鶏の足をかぎつけて食べる犬には大きな脳は必要ない。人間にとって、犬の知性の後退はプラスとなった。
ビーグル犬を飼い、一時預かりに挑戦する著者の犬との共存日記です。ベッドでも犬と一緒に寝ているようですが、本当でしょうか。犬好きの私でも、とても考えられません。でも、猫を冬の寒いときに湯たんぽがわりにしている人は多いようですから、そういう人も多いのでしょうね。
私の家でも、私が高校生までスピッツを座敷犬として飼っていましたから、家のなかはいつもザラザラしていました。そのころは何とも思わず平気でしたが、今では、とても耐えられません
(2007年10月刊。1333円+税)
2007年11月19日
森の「いろいろ事情がありまして」
著者:ピッキオ・石塚徹、出版社:信濃毎日新聞社
カラー写真を眺めているだけでも楽しい本です。長野の森に生きる大小さまざまな動植物が生き生きと紹介されています。
軽井沢に野鳥の森があり、クマが町中にも出没していることを知りました。小鳥たちのたくさん棲む森なのですが、かつては、今の何十倍もの小鳥たちがいたというのです。人間の乱開発は小鳥たちの棲み家を奪っているわけです。
春夏秋冬の四季に分けて、長野の森とそこに躍動する生き物の姿が描かれています。早春に咲くアズマイチゲの白い花は、地上に芽を出してから花が咲くまで、わずか3日、その後10日間咲いて、実をつけた半月後には葉も枯れはじめ、芽を出して1ヶ月半後には地上から姿を消す。1年間も姿をあらわさず、その間に葉はあわただしく光合成して、その養分を地下にたくわえる。これを毎年くり返し、10年目にしてようやく花をつけるという。つまり多年草なのです。
スミレは、種をたくさん詰めこんだ袋をはじけさせて遠くへ子どもたちを飛ばす。このほか、アリに食べてもらって、遠くへ運んでもらう。こうやって、遠くへ遠くへ子孫を残していく。
軽井沢の町周辺に出没するツキノワグマの生態も明らかにされています。電波発信器をつけて探ったのです。それによると、オスとメスとでは、断然、行動範囲が違います。メスは東西5キロ、南北4キロとか、東西2キロ、南北2キロという狭い範囲でしか行動していない。オスは、東西15キロ、南北10キロ、また東西15キロ、南北8キロという広さで行動していた。
軽井沢の町はクマの行動圏内なのですね。
ニホンザルも軽井沢の町周辺に2群いるそうです。同じようにサルにも電波発信器をつけて調べました。
ミソサザイという小鳥の調査も面白いですよ。大きな鏡を彼のナワバリのなかにすえつけ、テープレコーダーで仲間の声を流したのです。すると、すぐに飛んできてさえずりして応戦します。鏡にうつった自分の姿を見て、反応しました。くるっ、くるっとその場で一周ずつ回転しては、翼をぱっぱっと半開きしたり閉じたり、鏡の中のライバルに自分の姿を見せつけ、回転ダンスの儀式で決着をつけようとした。ミソサザイは尾を立てて歌い、それを回す動作は模様のコントラストを誇示し、それで相手をひるませたり、メスに選ばれたりする効果があるのだ。その写真を見ると、なるほどね、と思います。鏡にうつった自分の姿に真剣に対抗しようとする姿には笑ってしまいます。
秋になってヒタキの声がします。ジョウビタキと思うのですが、残念なことに、まだ姿を見ていません。いつも秋から冬にやって来る、お腹ぷっくりの可愛らしい姿を早く拝みたいものです。
(2007年7月刊。1600円プラス税)
2007年11月12日
ウナギ
著者:井田徹治、出版社:岩波新書
ウナギは私も大好物です。私の事務所には、ヘビみたいで苦手だという女性がいますが、それは気にしすぎです。とても美味しいし、栄養満点なんですからね。柳川が本場のウナギのセイロ蒸しなんて、最高ですね。熱々のごはんと一緒にいただくと、ほっぺたが落ちそうです。思い出すだけでも、ゴクンと喉がなります。
でも、この本を読むと、いやあ、このまま日本人はウナギを食べ続けていいのかな、と反省させられます。
ウナギの資源は危機的な状況にある。日本人が長く食べてきたニホンウナギはもちろん、アメリカやヨーロッパのウナギ資源が急激に減少し、その将来が危ぶまれている。
日本人は世界のウナギの70%を食べている。しかも、日本人の食べるウナギの量は過去15年間に急増した。
ニホンウナギは日本から200キロも離れたグアム島近くの海で生まれる。生まれた直後のプレレプトセファルスほとんど泳げず、海流に乗ってながされるようにして移動する。
日本のウナギ資源が大きく減った原因の一つは、湿地や干潟など汽水域の環境が開発によって破壊されたことにある。ウナギはそこで骨休みをし、長旅の準備をする。
ウナギは長い距離を長時間かけて遡上する。川を上り、自分の気に入った場所を探す。50キロや100キロはざらで、信濃川では河口から200キロ、木曽川では180キロの地点まで遡った記録がある。
ウナギは大食漢で、長寿だ。飼育下で37年間も生きた記録がある。世界でもっとも長生きしたウナギは84年。
自分のすみかを見つけたウナギは、オスの場合に3〜5年、メスはさらに10年かけて成熟する。成熟したウナギは再び川を下って海に向い、そこで産卵して一生を終える。この降りウナギが一番美味しい。脂肪をたっぷり蓄えているから。
ウナギは生では食べられない。ウナギの血液中には毒性物質が含まれていて、人間が食べると下痢や嘔吐をおこし、ひどいと呼吸困難をもたらす。ただ、65度以上の高熱にさらされると、無害になってしまう。だから蒲焼きしたら大丈夫。
ウナギを養殖して得られるのは、ほとんどオス。ウナギの養殖は大変で、お金もかかる。ウナギの親は、1回に100万個の卵を産む。その卵のなかで100日まで生きるのは、0.026%だけ。さらに、シラスウナギにまで変態するのは3分の1だけ。養殖するときのエサが大変。今は、サメの卵を主成分とするエサを与えている。このサメが絶滅の危機にある。
ウナギのメスに卵を産ませる最後のきっかけをつくるPHPという物質は10ミリグラムで2万円もする高い薬。今の手法では年に100匹程度のシラスウナギをうみ出すのが限界。しかし、日本で1年間に必要なシラスウナギの数は何と1億匹。とても釣り合わない。
日本のウナギ市場は年間、数千億円にもなる。だから、世界のウナギ資源の保全に大きな責任がある。
天然ウナギの漁獲量は、600トン程度でしかない。2000年に日本人が食べたウナギの消費量は、原魚換算で17万トン。だから、日本人が食べているウナギの99.5%は養殖ウナギ。
外来種であるヨーロッパウナギが、日本各地の河川に定着している。日本固有のウナギの遺伝子は、ヨーロッパウナギの遺伝子によって攪乱されつつある。
ウナギは体内に脂肪の量が多いため、それだけ有害物質を体内に蓄積しやすい。
ウナギは、有害化学物質の影響を受けやすい条件を多くもっている。
ヨーロッパやアメリカのシラスウナギを飛行機で、中国の内陸部に運び、そこで養殖し、加工までして、最終的に日本の市場に大量に流れこんでいる。
いやあ、なんだかウナギを食べるのが怖くなってきましたね・・・。
(2007年8月刊。740円+税)
2007年11月 2日
野の鳥は野に
著者:小林照幸、出版社:新潮選書
「日本野鳥の会」の中西悟堂の一生をたどった本です。改めて、すごい人だったと思いました。ただ、晩年は、組織を私物化した面もあるようです。やはり、どんな偉人であっても老害は避けられないのでしょうね。
中西悟堂は明治28年(1895年)に金沢市で生まれた。1歳のときに両親を失った(父は戦傷死。母は行方不明)。10歳のとき、虚弱体質の改善のため秩父の寺に預けられ、山中で150日間、滝行、座行、断食行を課された。この修業により体質を改善し、一種の透視力を得た。
18歳のとき、遊泳中に眼を痛めて失明状態となり、兵隊検査は不合格となった。
30歳のとき、世田谷区にあった山野(武蔵野)の一軒家を5年分の家賃を前払いして借りた。3年半のあいだ、米食と火食を断った木食(もくじき)採食生活を送った。主食は水でこねたソバ粉。茶碗もハシもつかわず、木の葉や野草は塩でもんで食べた。風呂がわりに川に入り、雑木林の中に敷いたゴザの上を書斎として、多くの書に触れた。木食生活は自然との一体感を養い、鳥、昆虫、魚、蛇などをじっくり観察する時間でもあった。
33歳のとき、杉並区善福寺に移り住んだ。悟堂は鳥の習性を徹底的に把握すべく、小鳥屋から鳥を買い、鳥の放し飼いを始めた。籠に入れず、書斎の隣に金網で囲った部屋をつくり、鳥が慣れたころ書斎に通じるようにした。鳥の放し飼いは悟堂が考案した。
鳥の糞を見て汚い、と思う人に鳥は馴れない。糞をとっさに見分けて、腸の具合を考える神経をつかう者に鳥は馴れるのだ。
なーるほど、ですね。でも、これってなかなか出来ないことですよね。
悟堂は愛鳥の観念を変えたかった。当時、鳥は鳥かごに入れて飼うことが当たり前だったが、これを止めたい。鳥かごをふみつぶし、野に自然のままの鳥を観賞する。それが本来の愛鳥である。
昭和27年、57歳となったとき、梧堂は冬でもパンツ一枚、上半身は裸で過ごすようにした。朝食は梅干し一つに番茶だけ。それから、庭に出て一時間たっぷり柔軟体操する。お昼は、そばがきか食パン一枚。夕食は、玄米に菜っ葉のごく平凡なもの。
家にいるときは、いつも活字を離さず、つい夢中になって徹夜してしまう。夜が勝手に明けたといって怒った。常識というものをどこかに置き忘れてきたような人だ。これは、妻の評言。睡眠時間は3時間。すごい人です。まさに超人的な生き方です。とても真似できません。
わが家の建物には恐らく2家族のスズメ一家がすみついています。建物を出入りするときには静かに、そして庭ではチュンチュン大きな声で鳴いて飛びまわり、下の田んぼでも楽しそうに群れをなして遊んでいます。カササギがたまにやってきます。朝一番にうるさいのはヒヨドリです。秋は百舌鳥の甲高い声が響きます。モズのテリトリー争いを解説した面白いテレビ番組をビデオで見たことがあります。彼らも自分のナワバリを守るのに汲々としているようです。あっ、もうひとつ、ヤマバトもいました。そろそろエサをやりましょう。春になると、メジロがやって来ます。せわしく桜の花を蜜を吸っています。庭に小鳥のための水場をつくってみようかなと考えています。
(2007年8月刊。1100円+税)
2007年10月26日
花はなぜ咲くのか
著者:鷲谷いづみ、出版社:山と渓谷社
花の世界の不思議を解明する楽しい写真集です。ホント、花って不思議ですよね。わが家の庭にトケイソウがあります。その花は、まさしく時計の文字盤そっくりです。小さく折り畳まれていたツボミが、ぐんぐん開いていって、見事な大輪の花に変わっていくさまは、見事なものです。よくも間違って折り畳んでしまわないものです。
花は、虫たちに紫外線を反射してシグナルとメッセージを送っている。花が虫たちに蜜(みつ)のありかを教える標識をネクターガイド(蜜標)という。
植物たちが心待ちにしているのは、配偶相手と結びつけてくれる仲人、つまり花粉の運び手となる動物(ポリネータ)である。いかにポリネータを操って、よき配偶者と出会い、健全な子孫を残すのか。花には、そのための知恵が結実している。
花とその花粉を運ぶ動物との関係は、お互いに利益を得ることで成り立つ相利共生関係である。花は動物に花粉を運んでもらうことでタネを結ぶことができ、動物は蜜や花粉などのエサにありつける。お互いに利益を得ることで、相手を必要としている。
タンパク質やミネラルの豊富な花粉を報酬とするのは、植物にとっては相当な経済的負担となる。もっと安上がりにしたいと思って選ばれたのが甘い蜜。これは光と水さえ十分にあれば、二酸化炭素と水を材料として、いくらでも光合成でつくり出すことができる。そして、ポリネータに気に入ってもらえるように、蜜には糖以外の滋養分もほどよく混ぜこまれている。たとえば、アミノ酸。
早春に咲くザゼンソウのお礼は、暖かい部屋。つまり、積極的に発熱し、暖かい部屋を用意して虫たちを招き寄せる。
マルハナバチは、その個体それぞれに、蜜や花粉を集める植物の種類を決めて、同じ種類の花だけを選んで訪れるという性質がある。これを定花性という。同種の花だけを次々に訪れるため、植物からみれば、同種の花に効率よく花粉を送り届けてもらえるわけだ。だから、定花性をもつマルハナバチ類は、ポリネータとして花に絶大な人気がある。
ふむむ、なーるほど、そういうことだったんですか・・・。わが家の庭にもマルハナバチはよくやって来ます。丸っこいお尻が特徴の愛らしい姿をしています。
このほか、性転換する植物も登場します。テンナンショウ属マムシグサは性転換する。環境条件に応じた栄養成長と有性生殖の成功に応じて、オスからメスへ、ときにはメスからオスへと、ダイナミックに起きる。
大自然の奥行きの深さは尽きぬものがあります。
いま、わが家の庭には秋明菊の淡いクリーム色の花が咲いています。とても上品で、可憐な雰囲気の花なので、私は大好きです。黄色いリコリスの花も咲いています。ヒガンバナは終わりました。芙蓉の花も次第に咲かなくなりました。今年はキンモクセイの香りがしないと新聞のコラムに書かれていました。なるほど、わが家もそうです。たくさん花は咲いているのですが・・・。でも、そのうち例の甘い香りを漂わせてくれると期待しています。実は鉢植えのシクラメンが小さな花を咲かせています。去年の暮れにもらったものを今回はじめて生きのびさせることができました。
(2007年7月刊。1600円)
2007年10月19日
ゆりかごは口の中
著者:桜井淳史、出版社:ポプラ社
魚の子育てを追跡した楽しい写真集です。人類発祥の地として名高いアフリカ大陸の大地溝帯にあるタンガニーカ湖にすむ魚も登場します。そこには300種類もの魚がいて、口の中で子育てをする魚、何かにたまごを産みつけ、そこでたまごと稚魚を守る魚など、いろんな魚がいるのです。
著者はまず、自分の家の水槽でエンゼルフィッシュを飼い、その子育てを撮影しようとします。エンゼルフィッシュは南米のアマゾン川が原産地であり、オスとメスが協力して子どもを育てる、なかのよいペアは死ぬまで一緒に暮らします。ふむむ、すごーい。
エンゼルフィッシュは、シクリッドフィッシュと呼ばれる魚のグループ。シクリッドフィッシュは、アメリカ大陸とアフリカ大陸の熱帯地方の川や湖、海ぞいに1200種ほどいる。どの魚も面白い産卵の仕方であり、子育てが上手である。
エンゼルフィッシュを水槽で飼おうとして、適当な2匹を入れても、ケンカばかりして、とてもうまくいかない。エンゼルフィッシュは、実は、人間の都合によるお仕着せのカップルではダメで、自分で相手を選ぶ恋愛結婚でしかうまくいなかい。
ひゃあ、そうなんですか・・・。魚と思ってバカにしてはいけないのですね。
エジプシャンマウスブルーダーは、口の中に子どもを入れて子育てをする。その写真があります。信じられません。子どもたちを守り育てるのに一番安全な場所は、親の口の中だというわけです。子どもが口の中にいたら、親はエサを食べられませんよね。でも、そこもうまく解決しているようです。
親が子育てをしない魚では、たとえばマンボウは1回に3億個のたまごを産み、イワシは1回に10万個ものたまごを産む。その大半が食べられる運命にある。
しかし、親が子育てをする魚は、一回に産むたまごは、500個とか30個というように、とても少ない。
魚の子育てにも人間の子育てのような苦労があるということを知りました。
(2006年12月刊。950円+税)
2007年10月12日
犬と私の10の約束
著者:川口 晴、出版社:文藝春秋
犬好きの人にはこたえられない感動本です。可愛らしいゴールデンレトリバー犬の仔犬の写真が入っていて、まるで実話の世界です。
犬の名前はソックス。友だちがつけた名前はタビ。たしかに、写真を見ると、右足の先っぽだけ白色になっていて、まるで靴下をはいているかのようです。
犬を飼うときには、犬と10の約束をしないといけない。それが守れないのなら飼ってはダメだし、飼っているあいだは、この約束をいつも思い出すこと。
1、犬語は分かりにくいかもしれないけれど、私と気長につきあってくださいね。
2、私を信じて。それだけで私は幸せです。
3、私にも心があることを忘れないで。
4、言うことをきかないときは、理由があります。
5、私にたくさん話しかけて。人のことばは話せないけれど、わかっています。
6、ケンカはやめようね。本気になったら私が勝っちゃうよ。
7、私が年齢(とし)をとっても仲良くしてください。
8、私は10年くらいしか生きられません。だから、一緒にいる時間を大切にしようね。9、あなたには学校もあるし、友だちもいるよね。でも、私にはしかいません。
10、あなたと過ごした時間を忘れません。お願いです。私が死ぬとき、そばにいてね。 どうか覚えていてください。私があなたを愛していたことを。
なーるほど、いい約束ですね。でも、人間って、すぐ自分の都合で動いて、こんな約束をしたことを忘れてしまうんですよね。
私が小学生のころ飼っていたのはスピッツ犬で、座敷犬でした。上も下もかまわず歩いていましたから、畳の上はいつもザラザラしていました。今なら、とてもそんなことは耐えられませんが、一家5人(そうです。子どもが5人もいて、私は末っ子なのでした。姉たちにおしめをかえてもらっていたそうですが、もちろん、そんな記憶は私にはありません)、だれも気にせず、平気で犬と同居していました。ルミ(オスのスピッツ犬なのですが、勝手にそう呼んでいました)は、私が大学に入って1年もしないうちに、家の前の道路で車にはねられて死んでしまいました。だから、私は死に目には会えませんでした。遠く、東京で泣きました。恐らく老衰して、足がよく動かなくなっていたので、モタモタしているうちに車にはねられてしまったのでしょう。
ゴールデンレトリバーも、大きくなるのはすごく速いんですね。大きくなったソックスの写真もあります。映画になるそうです。見てみたいですね。
朝7時すぎ、雨戸を開けると清々しい純白の芙蓉の花がこぼれんばかりに咲いています。夕方には赫い花になってしまう酔芙蓉がいま盛りです。下の田んぼの稲刈りが終わって、スッキリしました。ヒマワリを刈りとり、見通しのよい庭になりました。チューリップやアネモネなど、春の花を少しずつ植えています。土いじりは楽しい作業です。
(2007年7月刊。1143円+税)
2007年9月 3日
有機化学美術館へようこそ
著者:佐藤健太郎、出版社:技術評論社
直径わずか100億分の7メートルのフラーレンのなかに物を詰めるというのです。まったく想像を絶する世界です。
もっとも辛い化合物カプサイシンは、1600万分の1の濃度で辛味を感じる。もっとも甘い化合物ラグドゥネームは、砂糖の22〜30万倍も甘い。もっとも苦い化合物である安息香酸デナトニウムは1億分の1の濃度で苦味を感じる。もっとも生産量の多いアスピリン(消炎鎮痛剤)は年間に1000億錠もつくられる。世界で売上げの一番多い薬であるリピトール(高脂血症治療薬)は、年間に1兆3000億円の売上げがある。
私は高校3年生まで理科系の進学クラスにいました。結局は、数学が自分にできないことを悟って、文化系に転向したのですが、物理も化学も好きで、得意な科目ではありました。でも、今では、理科系にすすまなくて、本当に良かったと思います。物理や化学が好きだといっても、とてもそちらの方面で研究を続けられたはずはないと確信するからです。それでも、この本が紹介するような化学の話には依然として興味・関心があります。十分に理解できなくても、見ているだけで楽しいのです。
この本には多面体分子の美しい姿がたくさん紹介されています。まさしく自然の不思議とも言うべき美しい姿をしています。
亀の甲、つまり六角形のベンゼン環が基本になっています。
有機化学の研究室は、実際にはかなりの修羅場である。きつい、汚い、危険、厳しい、苦しい、臭い、悲しい、体に悪い、給料がない、教授が恐い、彼女ができない。8Kも 10Kもありうるところ。
エステルやアルコールをふくむこのは、一般的に比較的よい香りがする。カルボン酸やアミン(窒素化合物)、硫黄化合物などは、たいてい耐え難い悪臭がする。
カルボン酸のにおいは、動物的なにおがする。ヨーロッパのチーズに臭いものがあるが、それはカルボン酸や酪酸による。銀杏のにおいも、ヘキサン酸やヘプタン酸が主成分。
精液のにおいは、アミンの分解物のにおである。
鋼鉄の数十倍の強さをもち、いくら曲げても折れないほどしなやかで、薬品や高熱にも耐え、銀よりも電気を、ダイヤモンドよりも熱をよく伝える。コンピューターを今より数百倍も高性能にし、エネルギー問題を解決する可能性を秘めている。それが、カーボンナノチューブである。
ナノチューブの太さは、その名のとおりナノメートル(10億分の1メートル)のオーダーで、長さは、その数千倍にもなる。半導体のナノチューブは、コンピューターの素子として大きな可能性が考えられる。たとえば、一般的な銅線では、1平方メートルあたり 100万アンペアの電流を流すと焼き切れるが、安定かつ丈夫なナノチューブは10億アンペアを流すことができる。
また、ナノチューブは、とてつもなく丈夫な素材なので、これを編みこめたら、素晴らしく頑丈な繊維ができあがるはず。欠陥のないナノチューブだけでロープをつくることができたとしたら、直径1センチのロープが1200トンを吊り上げることができる計算になる。
化学のことがよく理解できなくても(私のことです)、分子の世界の造形の美しさだけは、よく伝わってくる本でした。
わが家の近くの田圃の稲に、やがて米粒となる稲穂がつきはじめました。稲の花は白くて地味ですので、緑々した稲に見とれていると、ついうっかり見過ごしてしまいます。稲刈りまで、あと1ヶ月あまりとなりました。早いものです。今年も秋となり、4ヶ月しかないのです。暑い暑いと言っているうちに、やがて師走を迎えるようになるのですからね・・・。還暦を迎える年が近づいてくると、一日一日がとても大切に思えてきます。
(2007年6月刊。1580円+税)
2007年8月27日
終生、ヒトのオスは飼わず
著者:米原万里、出版社:文藝春秋
いかにも著者ごのみのタイトルです。実は、これは、自分で書いた死亡記事のタイトルでした。多くの著名人が自分の死亡記事を書いていて、文春文庫『私の死亡記事』になっています。それによると、著者は2025年に75歳で死んだことになっています。
この本の大半は、雑誌『ドッグワールド』の2003年5月から2005年12月まで32回にわたって連載されたエッセイがおさめられています。要するに、著者の親愛なる家族たち(犬と猫のことです)の、大変でもあり、愛らしくもある行状記です。いやいや、ペットを飼うというのは大変なことだと思いました。
猫にミドニングというのがあるのを初めて知りました。
ミドニングとはトイレの場所を間違えたり、排便しそこねて外にしてしまうというものではなく、きわめてはっきりした行為である。猫はトイレ以外の特定の場所を選び、そこに糞を残すことによって、なわばりの占有・使用・通行などの権利を示そうとする。およそ、前から少し神経質だとか、気の弱い性質の猫が、何らかの大きな変化やチャレンジに遭遇したとき、こうなることが多い。
著者は飼い猫(龍馬という名前です)をしっかり抱きしめ、そのストレスを軽減させることによって、その症状を半年で完治させたのです。獣医師は感嘆の声を上げました。うむむ、なるほど、ですね。
著者のペットに対する愛情の深さを示すエピソードを紹介します。飼犬(ゲン)が落雷のあった日に家をとび出して行方不明になってしまいました。そのあと、著者はなんと1年にわたって、4日に一度、近くの動物管理事務所に電話を入れて確認したのです。犬はそこに保護されると5日目には薬殺処理へ回されてしまう。だから、その前日、4日目の午後4時から5時に、動物管理事務所に電話を入れる。それは、日本国内にいようと、アメリカにいたときも、チェコにいたときも、4日に一度の電話を欠かしたことはなかった。そして、それを1年も続けた、というのです。すごーい、頭が下がります。
犬は、たしかに雷をひどく怖がります。私が子どものころ飼っていたスピッツ犬(ルミという名のオス犬で、座敷犬でした)は、雷鳴を聞くと、家中を走りまわったあげく、押し入れの奥に頭を突っこんで、全身をブルブル震わせていました。哀れなほどです。
結局、ゲンは出てきませんでした。きっと、どこかの家で飼われたのだろうと思います。なかなか頭の良い犬だったようですから、おおいにありうることと思います。
私が小学1年生のとき、我が家は大きな引っ越しをしました。同じ市内でしたが、トラックに乗って引っ越したのです。そして、その途中で、飼犬(ペット)がいなくなってしましました。泣き叫んで、親にバカバカ、どうして、どうして、と大声で抗議したことを今もはっきり覚えています。
猫一般の常識がある。見知らぬ猫であれ、子猫には優しくすることになっているようだ。たとえば子猫が食べ終わってからでないと、大人猫は食べない。同居していた親しい仲間の猫が死んだとき、猫たちはいつもの夕食の催促をせず、ほとんど口をつけなかった。
真夜中、死んだ猫の周囲にしっかり目を見開いて座り、まんじりともせず夜を明かした。
ええーっ、これって、まさにお通夜の光景ではありませんか。驚いてしまいます。猫がお通夜をしてるなんて・・・。今では人間社会のお通夜はほとんど形式ばかりになってしまいましたのに・・・。
共産党の高名な代議士(米原いたる)の長女として生まれた著者は、小学3年生のときチェコスロバキアに両親とともに渡ります。著者の年譜によると、チェコにいたのは5年間ほどのようです。私はもっと長くいたのかと思っていました。
父の米原いたる代議士も語学の才能があったようです。英語、ドイツ語、フランス語、ロシア語ができたというのです。でしたら、著者の語学力は父親譲りの才能だったのでしょうね。
何回も繰り返しますが、本当に惜しい人を早々と亡くしてしまいました。75歳まで生きて、大いに世間に対して毒舌もふるってほしかったと思います。残念でなりません。それにしても、ヒトのオスも飼っていてほしかったですね・・・。
日曜日の朝、異変を感じました。妙に静かすぎるのです。蝉の声がまったくしません。うむむ、これは一体どうしたことだろう。わが家の庭木で鳴かないどころか、近隣でもまったく蝉が鳴いていません。夏の終わりを告げるツクツク法師もクマ蝉も鳴いていないのです。連日の猛暑のために蝉たちも一休みしているのでしょうか・・・。
蝉の声といえば、10年以上前、南フランスで一夏を過ごしたことがあります。フランスの蝉の鳴き声はジジジジと、とても単調です。しかも、めったにいません。ですから、フランスの夏は、日本と違って基本的に静かです。ついフランスでの夏の朝まで連想してしまいました。また南フランス、プロヴァンスに行きたくなりました。そうなんです。すごく料理が美味しいんです。よーし、来夏は、行ってこようっと・・・。
(2007年5月刊。1381円+税)