福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

声明

2023年12月 6日

Statement Calling for an Immediate and Permanent Ceasefire against Israeli and Palestinian Militants, including Hamas, and Urging the Japanese Government to Work toward its Implementation

The conflict between Hamas and other Palestinian militants (hereinafter referred to as "Hamas") and Israel, which escalated due to the attacks carried out by Hamas on October 7 of this year, has persisted for over two months. While a temporary cessation of hostilities is currently in place, concrete steps towards a lasting ceasefire have yet to be taken.


The damage caused by the above conflict is extremely serious. As of December 2, the death toll on the Israeli side has exceeded 1,200 (according to the United Nations Office for the Coordination of Humanitarian Affairs), and in the Gaza Strip, the reported casualties have exceeded 15,000 (as announced by local authorities in Gaza). Gaza's Health Ministry data reveals that more than 6,150 children and 4,000 women as well as at least 198 medical personnel were counted among the casualties in the Gaza Strip as of December 2. In addition, approximately 240 individuals, including around 30 children, who were held hostage by Hamas have not yet all been freed,
although some of them have been released in stages.


Parties involved in a conflict must always adhere to international humanitarian and human rights law. Specific provisions exist to protect children and medical personnel, and there is no justification for the loss of countless lives, including children and medical personnel. The actions taken by both Hamas and Israel violate international humanitarian law and international human rights law.


Fukuoka Bar Association hosted the LAWASIA Human Rights Conference in Fukuoka from September 2 to 4, and discussed the role of bar associations in time of armed conflicts on the session titled ""Armed Conflicts and Gross Violation of Human Rights: Bar Associations to Co-work for Victims". Our association cannot remain an idle spectator against this conflict that occurred immediately after the above event.


Fukuoka Bar Association calls for the immediate ceasefire against Israeli and Hamas and the immediate release of all hostages held by Hamas, and urges Israel to take immediate action toward permanent ceasefire.


Furthermore, we also call on the Japanese government to continue to persistently and directly approach both sides and to collaborate with the international community in advocating for a permanent ceasefire, the release of hostages, and adherence to international humanitarian law and international human rights law by both parties.


December 6, 2023
Masanori Ogami
President of Fukuoka Bar Association

ハマス等パレスチナ武装勢力及びイスラエル双方に対して直ちに停戦を求め、日本政府に対して停戦の実現に向けて働き掛けることを求める会長声明

 ハマス等パレスチナ武装勢力(以下「ハマス等」という。)が本年10月7日に行った空爆で激化したハマス等及びイスラエル間の紛争は、約2か月が経過し、一時的な戦闘休止がなされたものの、未だ恒久的な停戦に向けた動きはみられない。
 上記紛争による被害は極めて深刻である。12月2日時点において、イスラエル側の死者数が1200人以上(国連人道問題調整事務所(UNOCHA)発表)、ガザ地区での死者数が1万5000人以上(ガザ地区地元当局発表)とされている。また、ガザ保健省のデータによると、12月2日時点のガザ地区での死者数のうち、子どもが6150人以上、女性が4000人以上とされているほか、少なくとも198人が医療従事者とされている。さらに、ハマス等側に捕らえられたとされる約30人の子どもを含む約240人の人質について、その一部が複数回にわたり解放されているものの、未だ全員解放には至っていない。
 紛争当事者に遵守が求められる国際人道法及び国際人権法では、特に子ども及び医療従事者を保護するための特別の規定が用意されているにもかかわらず、上記のように多数の子ども及び医療従事者を含む人命等の犠牲が生じており、ハマス等及びイスラエル双方が行っていることは国際人道法及び国際人権法に違反するものであり、正当化することはできない。
 当会では、2023年9月2日から4日にかけてローエイシア福岡人権大会を開催し、「武力紛争や大規模人権侵害:被害者救済のための弁護士会の協働」というテ ーマの下、武力紛争時の弁護士会の役割について議論したところであり、その直後に発生したこの紛争を、当会は座視することはできない。
 当会は、ハマス等及びイスラエル双方に対し直ちに停戦するよう求める。ハマス等においては人質全員を即時に解放し、イスラエルにおいては直ちに恒久的な停戦に向けた行動をとるべきである。
 また、日本政府に対しては、引き続き粘り強く双方に直接働きかけるとともに、国際社会と連携して、双方に対し停戦及び人質の解放、国際人道法及び国際人権法の遵守を求めるように働き掛けることを求める。


2023年(令和5年)12月6日
福岡県弁護士会
会長 大 神 昌 憲

2023年11月20日

「送還忌避者のうち本邦で出生した子どもの在留特別許可に関する対応方針について」に対する会長声明

 2023年8月4日、出入国在留管理庁は、「送還忌避者のうち本邦で出生した子どもの在留特別許可に関する対応方針について」(以下「対応方針」といいます。)を発表し、斎藤健前法務大臣が臨時記者会見を行いました。また、小泉龍司法務大臣も、同年9月13日の初登庁記者会見にて、前法務大臣の見解を引き継ぐ考えを示し、「よく実態を見ながら、その制度の包摂性も必要でありますけれども、より多くの子どもたちを救えるように、その家族も一緒に救えるよう」に対応していきたいと述べました。
 この対応方針では、①2023年6月に改正された出入国管理及び難民認定に関する法律(以下「改正入管法」といいます。)の施行時までに、②日本で出生して、小学校、中学校又は高校で教育を受けており、引き続き日本で生活していくことを真に希望している③子どもと、④その家族を対象に、家族一体として在留特別許可をして在留資格(基本的には、子どもは「留学」、親には子どもを監護養育するために就労可能な「特定活動」)を与えるとしています。
 これにより日本に在留する在留資格のない子どもとその家族の一部に在留資格が認められることで、これまで長期にわたり自由を制限されてきた子どもと家族が、普通の生活を送れるようになることを歓迎します。 しかしながら、対応方針には、次のような問題点があります。
1 恒常的、原則的な措置として行い、在留特別許可のガイドラインにも明記すべきこと(前記①の点について)
 対応方針では、改正入管法の施行後には、送還忌避者である親の迅速な強制送還が進み、在留資格のないまま在留が長期化する子どもが減少することを前提として、改正入管法の施行時までに既に在留が長期化した子どもに対し、「今回限り」の一時的、例外的、恩恵的な措置として行うように読めます。
 しかしながら、改正入管法の施行後においても、親の失業等による在留資格の喪失に伴い、子どもが在留資格を失う事態は想定されます。
 そもそも、国が子どもの最善の利益を考慮する義務、家族生活を尊重する義務は、子どもの権利条約や自由権規約に定められた国際法上の義務であって、今回の対応は、国が行うべき当然の措置といえます。そして、この点は、改正入管法の参議院付帯決議でも「在留特別許可のガイドラインの策定に当たっては、子どもの利益や家族の結合、日本人又は特別永住者との婚姻関係や無国籍性への十分な配慮を行うこと」とされているところですので、恒常的、原則的な措置として行い、在留特別許可のガイドラインにも明記すべきです。
2 対象範囲が狭いことについて
(1)本邦で出生したことを要件とすべきではないこと(前記②の点について)
 対応方針によると、「本邦で出生し」たことを在留特別許可の要件としています。しかしながら、日本で生まれた子どもと、幼少期に日本に来た子どもで、日本への定着性に違いはありません。「本邦で出生し」たことについては、要件から削除するべきです。
(2)18歳以上の者についても対象とすべきこと(前記③の点について)
 対応方針は、「子ども」、つまり18歳未満の者を対象にしています。しかし、日本で幼少期を過ごし、成人した者は、より一層、日本に定着性を有し、生活基盤を築いているはずです。日本で幼少期を過ごした18歳以上の者に対しても、在留特別許可を認めるべきです。
(3)諦めて帰国した子どもも対象とすべきこと(前記③の点について)
 対応方針によると、2022年末時点の本邦で生まれ育った在留資格のない子ども201人のうち、「自らの意思で帰国した者を除き」、少なくとも7割に在留特別許可をすることが見込まれるとされています。しかし、自らの意思で帰国した者の中には、これまでの国際人権条約に反する我が国の運用の結果、家族との別離を避けるために、日本への在留を諦めて帰国した者が含まれているはずであり、その救済も図られるべきです。
(4)祖父母やきょうだいについても対象とすべきこと(前記④の点について)
 対応方針では、「対象は、...子どもとその家族」、「家族一体として在留特別許可を」するとされ、父母以外の祖父母やきょうだいの扱いについては不透明となっています。斎藤前法務大臣の臨時記者会見では、対応方針の原則から外れるケースについては「諸般の事情を総合的に勘案して在留特別許可をする場合もある」と述べられていますが、家族結合の観点からは明確に対象とし、在留資格を付与すべきです。
3 親の事情を考慮すべきでないこと
対応方針によると、「親に看過し難い消極事情」がある場合、具体的には、不法入国・不法上陸、偽造在留カード行使や偽装結婚等の出入国在留管理行政の根幹に関わる違反、薬物使用や売春等の反社会性の高い違反、懲役1年超の実刑、複数回の前科を有している場合には、対応方針に基づく在留特別許可の対象から除くとあります。
 しかしながら、日本に定着性を有する子どもは、等しく保護すべきであって、子どもには何の責任もない親の事情によって、差別することがあってはならず、父母の地位、活動等によるあらゆる形態の差別を禁じた子どもの権利条約に違反します。親の不法入国や前科など、親の事情によって対象外とする要件は、いずれも削除すべきです。
 そして、このように子どもに特別在留許可が与えられる場合には、「看過し難い消極事由」のある親のみを強制送還して子どもと分離することも避けるべきです。そもそも、刑事事件については処罰が終わっています。また、対応方針では「看過し難い消極事情」の例として複数回の前科も想定していますが、この点は改正入管法50条1項が在留特別許可の除外事由としている事由に比べても広すぎます。そして、同項が、除外事由がある場合でも「本邦への在留を許可しないことが人道上の配慮に欠ける特別な事情がある」ときには在留特別許可をすることができるとしていることを考えると、上記のような場合には子どもの利益や家族の結合という特別に配慮すべき事情があるものとして、出来る限り親にも同時に在留特別許可が認められるべきです。
 以上のとおり、当会は、全ての子どもが国際人権条約によって認められた基本的人権が尊重されるよう、法務省及び出入国在留管理庁において、これらのことを考慮し、対応方針の実施等について、適切な対応をとるよう求めます。

2023年(令和5年)11月17日

福岡県弁護士会     

会長 大 神 昌 憲

2023年10月25日

「袴田事件」の再審公判において検察官が再審請求審と同じ争点について有罪立証を行う方針を示したことに対し強く抗議するとともに、改めて速やかな再審法改正を求める会長声明

1 検察官は、本年(令和5年)7月10日、いわゆる「袴田事件」について、東京高等裁判所の同年3月13日の即時抗告棄却決定(以下「本決定」という。)に対し、特別抗告を断念し、再審開始決定が確定していたにもかかわらず、再審公判において、有罪立証を行う方針を明らかにした。
2 「袴田事件」は、1966年(昭和41年)6月30日未明、静岡県旧清水市(現静岡市清水区)の味噌製造・販売会社の専務宅で、一家4名が殺害された強盗殺人・放火事件の犯人とされ死刑判決を受けた元プロボクサーの袴田巖氏(以下「袴田氏」という。)が無実であることを訴えて再審を求めている事件である。 
2020年(令和2年)2月22日の最高裁判所による差戻決定後、第2次再審請求審の争点は、事件の1年2カ月後に犯行現場近くの工場内味噌タンクから「発見された」「5点の衣類」に付着した血痕の色調(赤み)に影響を及ぼす要因という点に絞られていたが、本決定は、この「5点の衣類」が「犯行着衣」であり袴田氏のものであるという認定に合理的疑いが生じたとする2014年(平成26年)3月27日の静岡地方裁判所の再審開始決定を支持したものである。
本決定に至る過程では、検察官は、上記「5点の衣類」について実験などを繰り返し、最高裁による差戻後も、東京高等検察庁が1年2カ月にわたりいわゆる「みそ漬け実験」を行うなどしていたが、これについては、2022年(令和4年)11月1日に東京高裁の裁判官による視察が行われ、血痕の赤みが消えていることが明らかになっていた。
当会は、本決定を受けて、本年3月13日、検察官に対し、不服申立て(特別抗告)を行うことなく、速やかに再審公判に移行させることを求めるとともに、再審公判において、一刻も早く、袴田氏に対し無罪判決が下され、その救済が実現されることを期待する旨の声明を発出したところである。
3 ところが、今般、検察官は、今後開かれる再審公判において、有罪立証の方針を表明した。
しかし、報道によると、検察官が再審公判に提出予定としている245点の証拠のうち、大半は既に再審請求審で提出された証拠であって、新証拠とされる16点についても、再審請求審における争点であった「5点の衣類」の血痕の赤みに関する法医学者による共同の鑑定書等とのことであるから、検察官の有罪立証は、既に決着のついた争点について、蒸し返しをするものに他ならない。
そもそも、本件は、事件発生から57年が経過し、第2次再審請求だけでも約15年間経過している。静岡地裁の再審開始決定がされた後も、検察官の不服申立手続において約9年間もの長期間に渡り審理が行われた。袴田氏が87歳(同氏を支えてきた実姉の秀子氏も90歳)と高齢であることに鑑みれば、検察官が再審請求審と同じ争点について再審公判で有罪立証をするなどということは、袴田氏の迅速な裁判を受ける権利ひいては個人の尊厳を侵害する不当な対応であるといわざるを得ない。
したがって、当会としては、検察官のこのような方針に強く抗議するものである。
4 当会は、本年9月13日に再審法の改正を求める総会決議を行った。この決議でも指摘したとおり、再審請求審が長期にわたることが多いこと、再審開始決定が出されること自体が極めて稀であることの大きな原因は、再審請求手続における手続規定の不備、証拠開示制度の未整備、再審開始決定に対する検察官不服申立てが認められている点にある。
  検察官が確定判決の結果が妥当だと主張するのであれば、本来は、再審請求審ではなく、その立証の機会が保障されている再審公判においてその旨を主張するべきであり、不服申立てを認めるべきではないのである。
袴田事件においても、再審開始決定に対する検察官の不服申立てを許容することにより、約9年間、非公開の再審開始の判断のための審理に長期間を費やすことになったのであるが(手続規定の不備や証拠開示制度の未整備も長期化の原因となっていたことは論を俟たない)、さらに再審公判において検察官が同じ争点を蒸し返してこれ以上長期の主張立証を尽くすことを認める必要はない。
当会は、えん罪被害者の迅速な救済を可能とするため、また、第2の袴田事件を生まないためにも、国に対し、①再審請求手続における手続規定の整備、②再審請求手続における証拠開示の制度化、③再審開始決定に対する検察官による不服申立ての禁止を中心とする再審法の改正を速やかに行うよう求める次第である。


2023年(令和5年)10月25日

福岡県弁護士会     

会長 大 神 昌 憲

2023年8月 3日

入管法改正法の成立に強く抗議し、国際的な人権基準を満たす 入管行政・難民保護法制の構築を求める会長声明

2023年6月9日、出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という)等の一部を改正する法律(以下「改正法」という)が参議院本会議で採決され成立した。当会は、同年3月2日付「入管法改正案の再提出に強く反対し、国際的な人権水準に沿った真の入管法改正を求める会長声明」において改正法の問題点を指摘したところであるが、改めて改正法の成立に対して強く抗議する。
 自由権規約の第7回日本政府報告書審査において出された勧告(2022年11月)では、①国際基準に則った包括的な難民保護法制を早急に採用すること、 ②十分な医療支援へのアクセスを含む収容施設での処遇を改善すること、 ③仮放免者に対して必要な支援を提供し、収入を得るための活動に従事する機会の確立を検討すること、④ノン・ルフールマン原則が実際に尊重され、国際的保護を申請する全ての人々に、(その申請への)否定的な決定について、執行停止効を有する、独立した司法機関に対する不服申立制度へのアクセスを確保すること、 ⑤行政機関による収容措置に対する代替措置を提供し、入管収容における上限期間を導入するための措置を講じ、収容が、必要最小限度の期間のみ、かつ行政機関による収容措置に対して存在する代替措置が十分に検討された場合にのみ、最後の手段として用いられるよう確保することなどが指摘されており、入管法に改正が必要であったことは間違いない。
 ところが、今回の改正法ではこれらの勧告を導入する改正は一切行われなかった。①の勧告のいう国際基準に則った包括的難民保護法制として必要な、入管から独立した難民審査機関の設置への方向性は示されず、②の医療制度について何ら改善策は導入されず、③についての手当もなされず、④については、むしろ、送還停止効に例外規定を設け、3回目以降の難民申請中に申請者を送還できるようにした結果、ノン・ルフールマン原則をさらに侵害する危険性を高め、⑤の求める収容期間の上限は設けられず、いまだに無期限の収容が可能な状態である。このように、今回の改正法は、国際人権水準からさらに後退する内容となった。
 実際、国連人権理事会の移民の権利に関する特別報告者などが本年4月18日に改正法案について提出した共同書簡でも、改正法案が国際的な人権基準を下回っている」と切り捨て、「国際人権法の下での義務に沿うために、徹底した内容の見直しを」と強い口調で求めていたところである。
 このように、今回の改正法の内容には問題が多いが、2023年6月8日の参議院の附帯決議が、改正法案の審議の中で顕在化した問題点を踏まえて、「難民該当性判断の手引」のみならず事実認定の手法も含めた包括的な研修の実施や同手引を定期的に見直し・更新すること、難民審査請求における口頭意見陳述の適正な活用や難民認定に関連する知識等を十分に考慮した上で難民審査参与員を任命すること、送還停止効の例外規定について入管法53条3項のノン・ルフールマン原則に違反する送還を行うことがないようにしその適用状況についてこの法律の施行後5年以内を目途として必要な見直しを検討しその結果に基づき必要な措置を講ずることなどを求めている点は必ず実現されなければならない。
 当会は、入管法が国際的な人権基準を満たしたものとなるよう、引き続き、その 抜本的な改革を求めるとともに、問題点の多い改正法のもとで、本来難民として認定されるべき者が迫害を受けるおそれのある国へ送還されたりすることのないよう、 外国人の人権保障に向けた取組に全力を尽くす所存である。

2023(令和5)年8月2日

福岡県弁護士会

会長 大 神 昌 憲

「大崎事件」の再審請求即時抗告棄却決定に強く抗議する会長声明

1 福岡高等裁判所宮崎支部(矢数昌雄裁判長)は、2023年(令和5年)6月5日、いわゆる大崎事件第4次再審請求事件につき、請求人の即時抗告を棄却し、鹿児島地方裁判所の再審請求棄却決定(以下「原決定」という。)を維持する決定(以下「本決定」という。)を行った。
2 「大崎事件」は、1979年(昭和54年)10月、原口アヤ子氏(以下「アヤ子氏」という。)、同人の元夫(長男)及び義弟(二男)の3名が共謀して、被害者(義弟・四男)の頚部に西洋タオルを巻き、そのまま絞め付けて窒息死に至らしめて殺害し、その遺体を義弟(二男)の息子も加えた4名で被害者方牛小屋の堆肥内に埋めて遺棄したとされる事件である。
アヤ子氏は、逮捕時から一貫して無実を主張し続けたものの、別に起訴されていた元夫(長男)、義弟(二男)並びに義弟の息子の3名の「自白」、その「自白」で述べられた上記犯行態様と矛盾しないとする法医学鑑定(「旧鑑定」という。)、義弟(二男)の妻の目撃供述等を主な証拠として、1980年(昭和55年)3月31日、懲役10年の有罪判決を受けた。その後、アヤ子氏は、控訴・上告したが容れられず、一審判決が確定したことにより、服役した。また、元夫(長男)は義弟(二男)とその息子とともに、各自白に基づいて有罪判決を受け、それが確定した。
3 アヤ子氏は、服役・出所後の現在に至るまで一貫して無実を訴え続け、第1次再審請求の再審請求審で再審開始決定を得たほか、第3次再審請求の再審請求審及び即時抗告審においても再審開始の判断を得た。
にもかかわらず、検察官が特別抗告をしたところ、最高裁第一小法廷は、2019年(令和元年)6月25日、刑訴法433条(同法405条)の理由がないとしながらも、第3次再審請求の再審開始決定及び即時抗告棄却決定のいずれについても「取り消さなければ著しく正義に反する」として、自ら再審請求を棄却するという異例かつ不当な決定を行った。
当会は、最高裁のこの暴挙を看過することができず、同年8月8日付会長声明を発出し、誤判えん罪の被害者を救済するための制度であるはずの再審制度の制度趣旨を没却し、また、刑訴法435条6号の新証拠の明白性に関する判断基準のハードルを著しく引き上げるもので、「疑わしきは被告人の利益に」という刑事司法制度全体の基本理念をも揺るがしかねない危険な判断であるとして、強く批判した。
4 今般の第4次再審請求は、アヤ子氏の親族により同氏と元夫(長男)のために2020年(令和2年)3月30日に申し立てられた。同請求審においては、新証拠として、確定判決が認定した殺害行為時よりも早い時点で既に被害者が死亡していたことを明らかにする救急救命医の鑑定書などが提出され、5名の専門家の証人尋問が実施された。
とりわけ救急救命医の鑑定は、確定判決が被害者の生存を前提としていた被害者が自宅に運び込まれた時点で、被害者が既に死亡していたことを確実であるというものであった。
そして、原決定も、上記救急救命医の鑑定が前提とする被害者の転落事故の態様が道路脇の溝に顔面から突っ込むようにして転落した可能性があることを認め、条件付きではあるが、その後自宅に運び込まれるまでの間に呼吸停止を来した可能性があるという限度では上記救急救命医の鑑定の証明力を認めた。
にもかかわらず、原決定は、結論として上記救急救命医の鑑定の新証拠としての価値を否定した。被害者が自宅に搬送されたときには既に死亡していたとなると、2名の救護者(近隣住民)が被害者の死体を遺棄したということにもなりかねないが、そのような可能性はおよそ考え難いというのである。
しかし、原決定がいうのは、あくまで一つの可能性にすぎないから、「そのような可能性はおよそ考え難い」からといって、「被害者が自宅に搬送されたときには既に死亡していた」ことを否定する論拠にはならない。
大崎事件の再審請求の核心は、2名の救護者(近隣住民)が被害者を同人方に搬送したときには、被害者が既に死亡していたということであって、被害者の死体を遺棄したのは誰であるかを詮索することではない。この点において、原決定は重大な誤りを犯していると言わざるを得ない。
当会は、このような原決定に対して、2022年(令和4年)8月24日付「「大崎事件」の再審請求棄却決定に抗議する会長声明」を発出し、厳しく批判したところである。
5 本決定も、救急救命医の鑑定は、旧鑑定の信用性を減殺するものであることを認めながら、確定判決の事実認定において旧鑑定が重要な位置を占めるものではなく、救急救命医の鑑定により旧鑑定の証明力が減殺されても、確定判決の事実認定に合理的な疑いを差し挟むものとはいえないと結論づけて、即時抗告を棄却した。
  しかし、救急救命医の鑑定は、旧鑑定の信用性を減殺するにとどまるものではない。上記4で見たとおり、被害者が生存していたことを前提とする元夫(長男)や義弟(二男)の自白の根底をも覆すものである。
  そして、本決定は、上記の最高裁決定に倣って、救急救命医の鑑定自体について、直接被害者の遺体を検分しておらず、当時の遺体解剖時の限定された写真等から鑑定したものであって、十分な所見に基づくものとは言えず、証明力は高くなく、被害者の死因や死亡時期を高い蓋然性をもって推論するような決定的なものとはいえないと断じているが、このような評価は孤立評価そのものともいうべきものであり、再審事件で事後的に行われる鑑定に対して、およそ新証拠としての証明力を否定することに繋がるものである。ひいては再審制度を否定することにつながるものであり、到底是認できるものではない。
本決定は、「原決定は、論理則、経験則等に照らしておおむね不合理なところはないから、当裁判所としても是認できる。」と原決定を追認するものであるが、原決定と同様に、新旧全証拠の総合評価を適切に行っておらず、「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則の適用を求めた白鳥・財田川決定に反するとともに、無辜の救済という再審制度の趣旨を没却する不当なものであるとの非難を免れない。したがって、当会としては、本決定に対して改めて強く抗議する。
6 「大崎事件」においては、上記のとおり既に三度も再審開始を認める判断がなされているにもかかわらず、検察官の即時抗告や特別抗告により未だ再審公判に至っていない。
当会としては、アヤ子氏が96歳の高齢に達していることからして、同氏の生あるうちに汚された名誉の回復を図るべく、アヤ子氏が無罪になるための支援を続けるとともに、あわせて、本年6月16日の日弁連の「えん罪被害者の迅速な救済を可能とするため、再審法の速やかな改正を求める決議」のとおり、再審における証拠開示の制度化や、再審開始決定に対する検察官の不服申し立ての禁止をはじめとする再審法改正など、えん罪救済のための刑事司法改革の実現を求める次第である。


2023(令和5)年8月2日

福岡県弁護士会     

会長 大 神 昌 憲

「オンライン接見」の早期実現に向けた議論を求める会長声明


 現在、法務省の「刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会」(以下、単に「検討会」という。)において、被疑者・被告人との「ビデオリンク方式」による接見(以下「オンライン接見」という。)を刑訴訟39条1項の接見として位置付けることが検討対象となっている。
 身体拘束されている被疑者・被告人の権利を保護するためには、一刻も早く接見を実施し、身体拘束の当初から弁護人の援助を受ける必要が高いことは言うまでもない。憲法は弁護人の援助を受ける権利を定め(34条)、これを受けて刑訴法39条1項は、弁護人が被疑者・被告人と立会人なく面会し、書類の授受ができるとする接見交通権を定めている。IT が進展している現代において、遠隔地にいる弁護人と被疑者・被告人とのビデオ会議システムを用いた対面、電子データ化された書類の授受を行うことなども、弁護人の援助をうける現実的な手法であって、オンライン接見も刑訴訟39条1項に含まれると解するべきである。したがって、オンライン接見は権利性を持つ制度として立法されるべきである。
 今日においても、身体拘束された被疑者が、弁護人による援助を受ける前に、自白を強要されるような事態が多く存在しており、逮捕直後における迅速な接見を行う必要性は特に高い。対面による接見を速やかに行うことが重要であることは当然であるが、オンライン接見が可能となれば、弁護人が、被疑者に対し、対面による接見以前にいち早く権利告知や法的助言を行うことができ、被疑者の権利保護に資することとなる。また、オンライン接見は、被疑者・被告人からの緊急の接見要請への対応、比較的遠方の留置施設に被疑者・被告人が留置されている際の早期対応なども可能となり、より一層、被疑者・被告人の権利保護に資する。
いち早く当番弁護士に取り組んだ当会でも対面による接見の重要性は十分に理解されている。しかし、より早期の接見が可能となるだけでなく、当会においても、筑豊地域の警察署で他の地域の弁護人が接見する場合(筑豊地域に所在する飯塚警察署は福岡市内から車で片道約1時間、田川警察署は福岡市内から車で片道約1時間20分)や弁護人が遠隔地の刑事施設での接見を余儀なくされる場合もあり、オンライン接見の必要性はいささかも減じられない。
 弁護活動は被疑者・被告人との信頼関係を前提とし、先に指摘したようにオンライン接見によって緊急の接見要請に対応することが可能となれば、一層被疑者・被告人との信頼関係の確立にも資する。
 したがって、オンライン接見を早期に実現する必要性は高い。
以上のとおりであるから、当会は、検討会に対し、オンライン接見が弁護活動に必要であって刑訴法39条1項の接見交通権の行使に含まれるものとして早期に実現するために議論を加速することを求める。
 なお、オンライン接見が導入されたとしても、対面による接見の重要性・必要性がなくなるわけではないから、オンライン接見の導入により拘置所・拘置支所の統廃合が進められるようなことがあってはならないことを付言する。

以上

2023(令和5)年8月2日

福岡県弁護士会     

会長 大 神 昌 憲

2023年7月14日

令和5年7月豪雨災害に関する会長声明

福岡県では、令和5年7月7日からの記録的豪雨により、各地で大規模浸水、河川の氾濫、土砂災害などの災害が発生しました。当会は、引き続きの警戒が必要なことを注意喚起するとともに、これらの災害により被害を受けた方々に心からお悔やみとお見舞いを申し上げます。

当会では、令和5年7月11日に災害対策本部を設置しました。
今後、法律の専門家として被災者の皆様の不安を解消すべく、県内16カ所のすべての法律相談センターにおいて令和5年7月豪雨災害関連の法律相談を無料とすること、臨時の無料電話相談や出張相談を実施すること、災害ADRを実施することなどを検討しています。また、自然災害に伴う二重ローン等の多重債務の問題に対応するため、被災減免ローン制度(自然災害債務整理ガイドライン制度)の相談体制を充実させます。

当会は、災害によって被害に遭われた方々を支援するため、平時より、福岡県との間で災害時における法律相談業務等に関する協定を締結し、また、専門士業団体やNPO団体と連携して、様々な取組を行っています。当会は、福岡県、関連自治体等と連携し、会をあげて被害を受けた方々の支援に取り組み、被災地域の復旧・復興に尽力する所存です。

2023年(令和5年)7月14日

福岡県弁護士会

会長 大神昌憲

2023年6月22日

トランスジェンダーである弁護士へのヘイトクライムを非難し、差別のない社会を目指す会長声明

 大阪弁護士会に所属する弁護士に対し、2023(令和5)年6月3日から5日にかけて、事務所のホームページの問い合わせフォームで、トランスジェンダーであることを揶揄するようなメッセージや、殺害予告が書かれたメッセージがあわせて15通届いたことが報道された。
 上記メッセージの送信行為は、当該弁護士がトランスジェンダーであることやトランスジェンダーをはじめとする性的少数者の人権活動に取り組んでいることを理由として脅迫するもので、特定の属性を持つ個人や集団への偏見や憎悪に基づくヘイトクライム(憎悪犯罪)に他ならない。
 人権活動に取り組む弁護士に対する業務妨害行為であるだけでなく、当該弁護士のみならず、これを見聞きした性的少数者をも深く傷つけ、その平穏に生活する権利を害するものであって、非常に悪質である。このような行為を断じて許すことはできない。
 さらに、かかる行為は、憲法の基礎原理である個人の尊重、人格の尊厳を否定するものであり、決して看過することはできない。
 当会は、殺害予告を受けた弁護士が表明した脅迫に屈しないとの決意への連帯を表明するとともに、全てのトランスジェンダー当事者の人格が尊重され、平穏に生きることができる差別のない社会の実現に向けて、今後とも力を尽くす所存であることをここに表明する。

2023年(令和5年)6月21日

福岡県弁護士会

会長 大神昌憲

2023年6月21日

中小企業への支援策を拡充しながら労働者の生活を支えて経済を活性化するために、最低賃金額の大幅な引上げを求める会長声明

 福岡地方最低賃金審議会は、昨年度、福岡県最低賃金を前年度比30円増額の時間額900円とする答申を行い、当該答申どおりの改正が行われた。しかし、時給900円は、未だ、いわゆるワーキングプアと呼ばれる水準にとどまっている。
 原材料価格の高騰や円安の進行、長期に及んだ新型コロナウイルス問題やロシアのウクライナ侵攻などの影響で、食料品や光熱費など生活関連品の価格が急上昇していること、そしてこの傾向はもはや一過性のものではないことをふまえると、労働者の生活を守り、経済を活性化させるためには、全ての労働者の実質賃金の上昇又は維持を実現する必要があり、そのためには最低賃金額を大きく引き上げることが必要である。


 また、最低賃金の地域間格差が依然として是正されていないことは重大な問題である。2022年の最低賃金は、最も高い東京都で時給1072円であるのに対し、最も低い10県では時給853円であり、その間には219円もの開きがある。上述のとおり福岡県も時給900円にとどまっており、東京都とは172円もの開きがある。なお、2021年の最低賃金は、福岡県が870円、東京都が1041円(171円の差)であり、格差はむしろ拡大している。
 地域の最低賃金の高低と人口の増減には強い相関関係があり、最低賃金の格差は、最低賃金が低い地域の人口減ひいては経済停滞の要因ともなっている。大都市部への労働力の集中を緩和し、他の地域に労働力を確保することは、地域経済の活性化のみならず、大都市部への一極集中から来る様々なリスクを分散する上でも極めて有効である。
 地域別最低賃金を決定する際の考慮要素とされる労働者の生計費は、最近の調査によれば、都市部と地方の間でほとんど差がないという分析がなされている。これは、都市部以外の地域では、都市部に比べて住居費が低廉であるものの、公共交通機関の利用が制限され、通勤その他の社会生活を営むために自動車の保有を余儀なくされることが背景にある。そもそも、最低賃金は、労働者が「健康で文化的な最低限度の生活」を営むために必要な最低生計費を下回ることは許されない。労働者の最低生計費に地域間格差がほとんど存在しない以上、最低賃金の地域間格差を維持することは適切ではなく、地方の最低賃金を都市部の水準まで引き上げることが求められる。


 厚生労働省の中央最低賃金審議会に設置された「目安制度の在り方に関する全員協議会」が本年4月6日にまとめた報告では、現行のAないしDの4段階の目安区分を3段階とすることが提案されている。しかし、これではCランクの引上額を、Aランクの引上額より大幅に上回るものとするなど抜本的な方策でも採られない限り、地域間格差の迅速な解消は望めない。中央最低賃金審議会は、現行の目安制度が地域間格差を解消できなくなっていることを直視し、全国一律最低賃金制度実現に向けた提言をするなど、地域間格差の解消に向け、目安制度に代わる抜本的改正策を検討すべきである。


 最低賃金引上げに伴う中小企業への支援策について、現在、国は「業務改善助成金」制度による支援を実施している。しかし、その支援は未だ十分とは言い難く、日本の経済を支えている中小企業が、最低賃金を引き上げても円滑に企業運営を行うことができるよう十分な支援策を講じることが必要である。例えば、社会保険料の事業主負担部分を免除・軽減すること、原材料費等の価格上昇を取引に正しく反映させることを可能にするよう法規制することなどの支援策も有効であると考えられる。


 当会は、引き続き国に対し中小企業への十分な支援策を求めるとともに、本年度、中央最低賃金審議会が、厚生労働大臣に対し、地域間格差を縮小しながら全国全ての地域において最低賃金の引上げを答申すべきこと、福岡地方最低賃金審議会が、福岡労働局長に対し最低賃金の大幅な引上げを答申すべきことを強く求める。


2023年(令和5年)6月21日

福岡県弁護士会

会長 大 神 昌 憲

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