弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

アフリカ

2023年7月20日

獣医師、アフリカの水をのむ


(霧山昴)
著者 竹田津 実 、 出版 集英社文庫

 大分県に生まれ、北海道で獣医師として活動してきた著者がアフリカに出かけて出会った動物たちの話を生き生きと語っています。
サファリとは、「旅」を意味するスワヒリ語だそうです。
 小倉寛太郎(ひろたろう)ともアフリカで出会っています。かの『沈まぬ太陽』(山崎豊子)の主人公のモデルです。
 マサイ族の男性を写真に撮ってはいけないと禁じられたのに、こっそり撮った旅人がいた。それを60キロ先からやってきて「自分を返せ」と叫んだ。マサイの人の視力は、なんと6.0。いやはや...。
 福岡の女性がマサイ族の男性と結婚して、ガイドしていましたよね。今も元気にガイドしておられるのでしょうか...。きっと、コロナ禍で大変だったことでしょうね。
 フラミンゴは、赤くないともてないとのこと。つまり、たっぷり食物を食べた健康体であることが必要十分条件。羽毛の赤は、藻類の中に含まれるカロチノイド系色素によるもの。ミリオン(百万)単位の群れのなかで、集団お見合いの儀式が終日、少し儀式を変えて、パレードよろしく演じられる。
アフリカには、ツェツェバエがいるところがある。ところが、乳牛が放牧されているところは、ツェツェバエのいないところなので、安心できる。
 シロアリが雨季が始まると、アリ塚から飛び立っていく。そのハネアリは捕まえて食用としてマーケットで売られている。酒のつまみに最高。
 サバンナ・モンキーが木にのぼって両手を広げて飛んでいるハネアリをはたき落とし、口の中へ入れてモグモグ、クチャクチャと食べる。シロアリの脂肪は牛肉の2倍、タンパク質は同じくらい。「肉よりうまい」とのこと。本当でしょうか...。
人間の乗れるゾウはアジアゾウで、アフリカゾウには乗れない。これまた、本当でしょうか...。そんなに気性が荒いのですか、人間は飼い慣らせないのですか。
アフリカにもバナナはあるが、バナナの原産地は東南アジアで、アフリカには2千年前に導入された。
 アフリカに50年前はライオンが45万頭いたのが、今では3万頭にまで激減した。今はどうなっているんでしょうか...。ライオンとか虎って、見るからに怖いですよね。でも、ゾウもカバも本当はライオンより怖いんだそうですね...。
アフリカに行く勇気も元気もありませんので、「アフリカの水をのむ」人の話を読むだけにしておきます。といっても、近所の知人の娘さん一家は今もナイロビ在住なんです。案外、アフリカも身近な存在でもあるのが世の中ですよね。
(2022年12月刊。840円+税)

2023年6月22日

生命の旅、シエラレオネ


(霧山昴)
著者 加藤 寛幸 、 出版 集英社

 国境なき医師団日本会長をつとめ、昨年はウクライナ現地での医療活動にも参加した小児科医による、2014年に西アフリカのシエラレオネに派遣され、エボラ患者に対する医療活動の体験記です。
シエラレオネは、アフリカ西部の、日本の5分の1ほどの国土に814万人が住む国。クーデターが繰り返され、内戦もあっていた。ダイヤモンドなどの鉱物資源に恵まれている。平均寿命は55歳(2020年)。2000年は39歳だった。シエラレオネでは、5歳の誕生日を迎えられない子どもは1000人のうち109人(日本は2人)。同じく妊産婦の死亡数(10万人あたり)は1120人(日本は5人)。
エボラ患者に接するときは、宇宙飛行士のような完全防備の黄色い防護服を着用する。上下つなぎの作業服のような構造で、防水性の高い素材。一度着用したら焼却するので、高価なゴアテックスは使えないから透湿性・通気性が悪い。そのため、防護服の中はとても蒸し暑く、蒸し風呂のような状況。
 そのうえ、さらに安全を図るため、目以外の頭が全部覆われるフードを被り、特殊なマスクで鼻と口を覆い、その上にスキーのゴーグルをかける。また、二重の手術用手袋をつけて長靴をはき、最後にゴムでできた腹から膝下までの分厚いエプロンを巻いている。この暑さは、想像を絶する。いやあ、聞きにまさる重装備ですね...。
防護服を脱衣するとき、エボラに感染してしまう危険がある。なるほど、コロナでも、たしかそうでしたよね...。また、ハイリスクエリアでの針刺し事故に感染も避けなければいけない。
エボラ患者のいるハイリスクエリアは三つに区画されている。まずはサスペクト(疑い)エリア。エボラ患者との接触歴はあるが症状がなかったり軽かったり、血液検査による確定診断の出ていない人のいるエリア。次は、プロバブル(かなり可能性の高い)エリア。重い症状があるが、まだ確定診断が出ていない人のいるエリア。最後のエリアは、コンファームド(確認された)エリア。
エボラウイルス病は非常に致死率が高い。60~90%と言われている。エボラウイルスの自然宿主はアフリカの熱帯雨林に住むフルーツコウモリと考えられている。ひとたびエボラウイルスに感染すると、最短で2日、最長で21日間の潜伏期間(平均4~10日間)を経て発症する。病気の進行は急激で、発症して5日以内に亡くなることが珍しくない。
医療従事者がハイリスクエリアで活動するのは60分以内という厳格なルールがある。著者は、このルールにわずかに違反したとして、結局、国外退去となったのでした。
「熱心に診察していることは誰もが認めるところだけど、針を捨てる容器を準備せずに点滴確保した今回の過ちは重大であり、見逃すことはできない。任期を短縮して帰国してもらうことが決まった」
いやあ、厳しいルールですね。毎日を精一杯やっていても、そういうことが世の中にはありうるわけなんです...。
欧米がアフリカのエボラウイルス病にあまり関心をもたず、対策をとらなかった(とらない)のは、欧米のエボラ患者が減少したから。つまり、アフリカにエボラ患者がとどまっている限り、自分に危険が及ばないのなら、無関心であり続けるということ。
国境なき医師団の活動の実際を知ることのできる貴重なレポートです。
(2023年2月刊。1800円+税)

2023年3月29日

ヒエログリフを解け

(霧山昴)
著者 エドワード・ドルニック 、 出版 東京創元社

 エジプトでロゼッタストーンが発見されたのは1799年。ナポレオンのエジプト遠征のとき。
 そこには、3種類の文字が彫られていた。最下段にギリシャ文字、最上段はヒエログリフで、真ん中部は何か不明。学者はギリシャ文字は解読できたが、上の2種類の文字は、まったく分からなかった。
 この謎は、フランス人とイギリス人という2人の天才によって解明された。どちらも幼いときから神童として呼ばれていた。
 イギリス人のトマス・ヤングは世にまれな多芸多才の天才。フランス人のシャンポリオンは、エジプトを偏愛する一点集中型の天才。クールで洗練されたヤングと、熱血漢で激しやすいシャンポリオン。
 エジプトの文化は驚くほど「死」に執着している。ピラミッド、ミイラ、墓、神々、死者の書など、これらすべては、死を追い払い、ねじ伏せ、死後の世界で迷うことなく生きていくためのもの。祈祷文や呪文は、どれも死は終わりではないと訴えている。
 ファラオは、「あなたは、まだ若返って再び生きていく、また若返って永遠に生きていく」という呪文とともに死後の世界へ送られていった。だから、エジプトでは輪廻転生(りんねてんしょう)は信じられていなかった。もし信じていたら、魂が新しい肉体に宿るわけだから、わざわざ古い肉体をミイラ化して保存する必要はない。人間のミイラをはるかに上まわる数の動物のミイラがつくられた。ネコ、イヌ、ガゼル、ヘビ、サル、トキ、トガリネズミ、ハツカネズミ、はてはフンコロガシまで...。
 麻布でくるまれたネコのミイラが無数に出土している。
 ロゼッタストーンのギリシャ文字はやがて解読された。それによると、次のとおり。
 「この宣言は、神々の文字(ヒエログリフ)、記録用の文字(真ん中の段の文字)、ギリシャの文字をつかって堅牢な石版に刻み、永遠に生き続けるファラオの像とともに、最高位の神殿、二位の神殿、三位の神殿に置くものとする」
 楕円形のカルトゥーシュは、支持標識。この楕円形の中に入っているヒエログリフは、王の 名前をつづったもの。そして、クレオパトラが判明した。
 ガチョウと卵と思われていたのは、アヒルと太陽だった。この二つを合わせると「太陽の息子」。アヒルは息子を意味する。
 ヤングとシャンポリオンはライバル関係にあった。だが、天才の二人が競いあったことで、ヒエログリフは解明されたのだと、この本の著者はまとめています。そうなんでしょうね...。
(2023年1月刊。税込2970円)

2021年4月11日

ちょっとケニアに行ってくる


(霧山昴)
著者 池田 正夫 、 出版 彩流社

団塊世代より少し上の著者がフランス経由でアフリカに渡って、ケニアでオーナー・シェフとして活躍する話です。日本人男性も捨てたものではありません。最近の日本人の若者も料理の世界でがんばってるよね、感心だなと思っていると、そんな日本人男子は昔からいたのですね...。
著者はケニア人女性と結婚して、ケニアで無国籍料理(フュージョン料理)で人気のフランス料理店「シェ・ラミ(友だちの家)」をはじめた。2009年にケニアの内乱のため営業不可能となって閉店して日本に帰国し、今もコックとして活躍しているとのことです。
静岡の中学校を卒業して上京し、芝大門の精養軒での修行を皮切りに国内でコック見習いを始めた。そして、海外に行きたくて、まずはフランスへ。
パリの屋根裏部屋(7階)に日本人の若者3人で住む。家賃は1ヶ月900フラン。フランス語学校の学費は1ヶ月40フラン。日本食レストランのアルバイトは1ヶ月600フラン。1フランは70円。1968年のパリ「五月危機」のころのこと。
パリの次は南フランスのエクサンプロヴァンス。ここは私も2回訪れたことがあります。1回目は40代前半で、学生寮に3週間泊まりました。外国人向けのフランス語集中講座を受講したのです。今思えば夢のような毎日でした。2回目は、還暦前祝い記念旅行で2泊3日しました。ともかく夏の南フランスは最高です。夜は8時まで昼間と同じく明るく、雨は降らない。そのうえ、食べもの、飲みものが美味しくて、たまりません。著者はフォアグラの美味しさに魅せられたようです。そして、フランスの生クリームの味...。
そして、ついにアフリカへ...。コンゴ、アルジェリア、サハラ砂漠。羊の丸焼きは4時間ほどかけて焼く。柔らかい。ただただ、焼いた羊を手づかみで食べる。肉をはぎ取って、「熱い、熱い」と言って、手で食べる。うむむ...、そんな食べ方、したことがありません。
ケニアに、日本人向けのスワヒリ語学院を開設した人がいるのですね。星野芳樹という1909年生まれの人です。戦前の活動家で、戦後は撰議院議員も1期つとめ、1974年アフリカ・ケニアに移住したのでした。
著者の営むレストラン「シェ・ラミ」では野生の肉も供したとのこと。シマウマのフィレ肉が一番柔らかかった。ダチョウの肉も柔らかいが、シマウマにはかなわない。
店の庭の隅にバーベキュー小屋をつくった。ゲームミート(野生の肉類)専用のバーベキュー。インランド(鹿の一種)、シマウマ、キリン、ヌー、ガゼル、そしてダチョウとワニ。欧米人の客が好んだ。フォンデュ鍋にゲームミートを入れて、6種類のソースをつけて食べるのは、フランス人に大好評だった。
ワニ肉料理は、ムニエルにする。ワニの肉質はチキンと同じで、匂いもなく、黙っていたらワニ肉とは分からない。ワニの焼き鳥風は、鶏肉の焼き鳥を食べている感じ...。
著者は、各国をまわって、郷に入れば郷に従えを実践したとのこと。そうですよね、大切なことですよね。そして、フランス語、英語、スワヒリ語を話せたのが人々と交流するうえで欠かせなかった。語学は大切だ、と強調しています。なので、私は、今もフランス語を毎日、勉強しているのです。
とても面白い本でした。読んで元気が湧いてきます。ますますの活躍を祈念します。
(2020年8月刊。税込1980円)

2020年9月17日

あれから―ルワンダ・ジェノサイドから生まれて


(霧山昴)
著者 ジョナサン・トーゴヴニク 、 出版 赤々舎

1994年4月から6月にかけての100日間で、中央アフリカのルワンダで80万人もの人々が「インテラハムウェ」と呼ばれるフツの民兵によって残虐に殺された。そして、このとき多くの女性民兵によって繰り返し暴行された。この性暴力によって、2万人と推定される子どもが産まれた。また、母親の多くはHIV(エイズ)に感染して苦しんだ。
著者は2006年に訪れたときに撮った写真と、それから12年たった2018年に撮った写真を並べ、母親と子どもたちに心境をたずねています。
子どものなかに大学に進んだという人もいて、救われる気持ちでした。もちろん、母親も子どもも生物学的な父親を許すはずもありません。ところが、ここでも父親に会いに行ったり、許すと言う子どもがいるのです。まことに人生は複雑・怪奇です。
自分が人殺しで暴行犯の子だと知ったことによる悪影響はある。人殺しと暴行犯の娘だというレッテルを貼られたくないので、もし父親が生きていても、あんなことをした人と自分とを結びつけたくはない。母にひどいことをしたのだから、許すことなど考えられない。きっと他の女性も暴行したことだろう。いったい、どうやってそんな人を許せるというのか...。
性暴力の結果とともに生きていくのは、簡単なことではない。今でもフラッシュバックがある。これはきっと死ぬまで続くんだろう。
娘が性暴力から生まれたことによる最悪の結果は、娘には家族も、祖父母も、父も叔母も、私以外には誰もいないということだ。
一度だけ、父親と会った。父が刑務所にいるときに会いに行った。父にひとつ質問した。なぜ、刑務所にいるの、そしてぼくが聞いたことは本当なのか...と。父は恥じて、話したがらなかった。真実を伝えることを避け、沈黙が流れた。
自分の経験を子どもに話せていなかったら、おそらく気が狂っていただろうと思う。自分の心を解放してやる必要があった。今はもう、何も恥ずかしいことはない。
自分の父親が誰かを知る必要はない。知っても悲しくなるだけだろう。父親は人殺しで、ひどいことをしたんだから、そんな父親と自分を結びつけたくはない。知りたくない。父親は普通の人間ではないだろうから、知らないほうが、まだいい。ジェノサイドのときの性暴力から生まれたことによって、悲しさ、恥、そして低い自己肯定感が自分に植えつけられた。自分が誰であるかをめぐる真実を知ったことで、ようやく自分自身を受け入れることができた。
自分の父親が誰かを知る気はまったくない。自分が人殺しから生まれたと、人間性にとって何の価値もない人間から生まれたと考えるだけで、とてもひどい気持ちになる。正直に言って、自分の民族性が何なのか分からない。自分はフツでもツチでもない。ツチかフツのどちらかとして認められたいとも思わない。ぼくはルワンダ人として認められたい。
自分の父親を許せるかどうかは分からない。難しい。父がフツなので、自分もフツだと思う。子どもは父親の民族を受け継ぐものだから、私はフツ。
ジェノサイドの追悼週間になると、母はトラウマのせいで、私を人殺し呼ばわりする。母にジェノサイドの犯人と言われるのは、やはり辛い。母は私が父親と同じフツだという。でも、自分がツチかフツかというのは、自分にとっては重要なことではない。私はルワンダ人であり、それが大切。
以上、いくつか紹介しましたが12年たって、大学に行く年齢の子どもたちにもインタビューした結果が紹介されているのが大きな特徴の写真付きの証言集です。
ビフォー・アフターというか、2006年に撮った母と子(息子または娘)の写真が、12年後の2018年に撮った写真と対比させられていて、子どもたちが、内面の苦悩はともかくとして、たくましい大人になっていることに、少しだけ安心できます。それにしても、人物写真がくっきり鮮明に、よく撮れていることに驚嘆しました。
(2020年6月刊。3500円+税)

2020年8月 1日

アフリカから、あなたに伝えたいこと


(霧山昴)
著者 島岡 由美子 、 出版 かもがわ出版

アフリカのタンザニアに暮らしはじめて30年の日本人夫婦の生活を妻である著者が語ります。なにしろ夫(島岡強)は、アフリカ独立革命を志とする革命家なのです。
革命家といっても、武力闘争ではない。一人ひとりが、地域が、国が、アフリカ全体がベストの方向に向かえるよう、その時点で自分にできることから順に具体化していく。そんな気の遠くなるほど地味な日常の積み重ねこそが、著者と夫のアフリカ独立革命だ。
夫は1983年5月、19歳のときアフリカを目ざし、ソ連からヨーロッパをまわってアフリカに入った。
そして、著者は革命児たる夫と結婚して、1987年に夫と1週間遅れてアフリカに入った。
その後、タンザニアのザンジバルを拠点として漁業を始めた。そして、妻は、ザンジバルで柔道も教えた。道場も無からつくり出した。
著者のマラリア闘病記は、まさに壮絶です。よく、これで生命が助かったものだと思います。現地のドクターの献身的な医療のおかげです。このとき、最後に効いたのは中国製のマテメサリーというマル秘特効薬だったとのこと。1日1本、5日間の注射です。
日本人の子どもを迎え入れた経験も紹介されています。日本で表情が乏しく、何を考えているか分からないような女の子が、ザンジバルに来て、みるみるうちに生気をとり戻していったという話です。日本とはまったくちがった異文化に接することの大切さを感じます。
日本には、いじめはあるけど、ぬるま湯的なところもある。しかし、アフリカでは、人々がみな必死で生きようとしている。その姿に感じるところがあるというわけです。
一期一会を毎日実践してきたというのもすごいことです。とてもマネできないなと思いつつ、その行動力とたくましさに心惹かれて、コロナ休業中(ゴールデンウィーク中)に一気読みしました。お元気にお過ごしください。
(2020年1月刊。1800円+税)

2020年4月18日

ブッシュマンの民話


(霧山昴)
著者 田中 二郎 、 出版 京都大学学術出版会

アフリカ原住民ブッシュマンに長いあいだ密着取材した成果が本になっています。
ブッシュマンは南アフリカ共和国の隣のボツワナにあるカラハリ砂漠に住む狩猟採集民です。今ではブッシュマンのなかから大学に入り、学者も生まれているようですが、砂漠と草原地帯で上半身裸で生活している人々もまだいるようです。
カラハリ砂漠といっても灌木の混じる平原もあるようです。
ブッシュマンは、5万年ほど前からここに住みついているとのこと。
ブッシュマンは野生動物の狩猟(これは男性の仕事)と植物採集(女性の仕事)という100%自然にのみ依存した生活を送っている。なので、長くて3週間から4週間したら10キロから20キロ先の場所へ移動する。一緒に生活する集団は10人から多くて50人ほど。
大きな獲物はめったにとれないが、とれたらキャンプにもって帰ると、居合わせた全員に分配される。大きな獲物の狩りに成功すると、解体にとりかかり、肉を細切りにして、手近のアカシアの枝にかけて日干しする。軽くして持って帰るためだ。
主食は植物性食物で、これは女性の仕事。男女とも、平均して1日に3時間から4時間は外出労働をしている。
ブッシュマンは動物の肉は大好物だ。でも、毒矢をつかった弓矢による狩猟の効率はそれほど良くない。大きなレイヨウ類が仕留められるのは、平均50人のグループで1ヶ月に1回くらい。
ブッシュマンの摂取カロリーの80%が植物に依存している。水は雨季以外にはほとんどなく、必要な水分はスイカ、メロン、草の根などに完全に依存している。井戸があるという話は出てきません。スイカの糖度は非常に低いが、生のままでも食べられるので、重要な水資源となっている。ダチョウの卵は水筒としても貴重だ。
ブッシュマンは、歌と踊りが大好きだ。ゲムズボック・ダンスは楽しみのためだけでなく、治療のためにも行われる。悪霊を退治して病気を治し、社会にはびこった邪悪なものを取り去って、社会に平安と安寧をもたらす。
少女が初潮を迎えると、小屋の中に寝かされ、その小屋の周囲を女性たちが専用の小さなエプロンだけをつけて、エランド・ダンスを踊ってまわる。おっぱいとお尻をあらわにして強調し、少女の健やかな成長と安産、多産を祈願する。
ブッシュマンにとって、すべてをつくったのはガマと呼ばれる精霊かカミサマ。民話に登場する動物たちは、どれも人間の姿をしていて、場面に応じて獣や鳥の姿に変身し、その習性を顕現する。
ブッシュマンにとって、ライオンは太陽とならぶ悪の代表格だ。人々もライオンには太刀打ちできず、かまれたり、かみ殺されたりする。
日本の昔話にウサギとカメの競争する話があるが、ここでは、ウサギの代わりにリカオンが登場する。ウサギはいたずらばかりする動物として民話によく登場する。ウサギが悪知恵をつかってライオンを殺し、ライオンの皮をかぶってライオンに化けるという話もある。
すごいですね。カラハリ砂漠に住み込んで民話を採集して、それを活字にしていったのです。そんな学者の根気強さには、ほとほと感心します。
(2020年1月刊。2800円+税)

2019年12月 4日

アフリカを見る、アフリカから見る


(霧山昴)
著者 白戸 圭一 、 出版  ちくま新書

日本のメディアではアフリカについての報道・ニュースがとても少ないですよね。ルワンダで大虐殺が起きた、スーダンに自衛隊が派遣されたということは断片的に報道されますが、アフリカの各国が今いったいどんな様子なのか、さっぱりわかりません。
アフリカが登場するのは、相変わらず自然公園内の野生動物たちばかりのような気がしますが、今、アフリカでは中国の存在感がすごいようです。
21世紀初頭のアフリカで起きた最大の「事件」は、アフリカ諸国に対する中国の影響力の劇的な増大である。2015年までの15年間で、サハラ砂漠以南のアフリカ(サブサハラ・アフリカ)から中国への輸出は11倍に、中国からの輸入は12倍になった。中国は、今やサブサハラ・アフリカにとって最大の貿易相手国である。
2017年の中国の対アフリカ投資残高は430億ドル。フランスは640億ドルなので、それには及ばないものの、日本の90億ドルの5倍に近い。エチオピアの首都アディスアベバにあるアフリカ連合(AU)本部ビルは中国の援助で建設された。
日本では、そうはいっても中国はアフリカで嫌われているという認識が根強いが、果たしてそうなのか・・・。
実は、ナイジェリア人の85%、ガーナ人の67%、ケニア人の65%が世界に対する中国の影響を肯定的にみている。日本人は「信じたくない」ものかもしれないが、実は全体として中国は、アフリカで肯定的に評価されているのだ・・・。
それは中国のインフラ投資や開発を評価(32%)、中国製品は安い(23%)、中国のビジネス投資(16%)が根拠となっている。
「中国はアフリカで嫌われている」という日本の認識は、「中国はアフリカで嫌われていてほしい」という日本人の願望の反映でしかない・・・。
日本は素晴らしい国だと見る人は、世界の客観的な状況に目をつぶっているのではないか・・・。
自衛隊も恒久的基地を置いているジブチには、アメリカと中国の基地がある。そして、北朝鮮もアフリカに進出している。エチオピアには、北朝鮮の技術支援を受けている兵器工場がある。ウガンダの警察官4万3千人のうち1万7千人近くが北朝鮮の講師100人から訓練を受けた。
安部首相は毎月のように海外へ出張していますが、その外交で成果をあげた話は見えてきません。アフリカ諸国とも交流していても、パッとしない話ばかりです。平和憲法をバックとして、軍事ではなく平和外交を強めたら、アフリカ諸国とももっといい関係がもてると思うのですが、軍事一辺倒の安倍首相には無理な注文のようです。
アフリカの実際を知ることのできる貴重な新書でした。あなたも手にとって読んでみてください。
(2019年8月刊。820円+税)

2019年7月17日

すべては救済のために

(霧山昴)
著者 デニ・ムクウェゲ 、 出版  あすなろ書房

ノーベル平和賞を受賞したアフリカ(コンゴ民主共和国)の医師が自分の半生を語った本です。
女性へのむごい性暴力の実際、著者自身が何度も九死に一生を得て助かった話など、読みすすめるのが辛くなる本ですが、なんとか最後まで読み通しました。
コンゴの女性虐待はすさまじいものがあります。
レイプは始まりにすぎない。その後に暴力行為が続く。膣に銃剣を突き入れる。棒にビニールを被せ、熱で溶かしてから挿入する。下腹部に腐食性の酸を注ぐ。性器内に銃身を差し入れて撃つ。目的は、殺すのではなく、徹底的に傷つけること。その結果、被害女性の多くは糞尿を垂れ流す状態となる。
汚物にまみれて悪臭を放ち、日常の仕事をこなすのにも苦労する。性の営みをもつなど問題外。子どもは産めない。夫からは穢(けが)れ者とみなされる。無理やり犯された事実など関係ない。社会から締め出されてしまう。
コンゴでは、性暴力自体が最大の武器となっている。なぜか・・・。
村を制圧しようとするとき、最初に標的となるのは女性だ。社会全体での女性の地位は低くても、家の仕事をほとんどこなしている女性は、家庭では重要な地位を占めている。女性に暴力を振るうことは、必然的にその家族を傷めつけているのと同じこと。
働き者で責任感の強いコンゴの女性は、家族がつつがなく暮らしていけるよう毎日、心を砕いている。そんな女性を襲うことは、家族全体を攻撃し、その安全を損なう行為でもある。同時に、夫を深く傷つける方法でもある。多くの男性にとって、凌辱された妻と暮らすことほど屈辱的なことはない。
村々を破壊し、蹂躙するのに戦車や爆撃機は必要ない。女性をレイプするだけでよいのだ・・・。
ムクウェゲ医師の活動を紹介しているドキュメンタリー映画『女を修理する男』(2015年、ベルギー)がDVDになっているそうです。みなくてはいけませんね・・・。
生命の危険にさらされながら奮闘しているムクウェゲ医師の活躍に頭が下がります。
それにしても、長く独裁者として君臨していたモブツ大統領が中国の毛沢東個人崇拝をとり入れていた、というのには驚きました。そして、この独裁者の統治方式を他のアフリカ諸国の独裁者がとり入れて広がったといいます。恐ろしいことです。
コンゴでは豊富な地下資源があり、それを狙って各勢力が争っているようです。ケータイ(スマホ)の重要な部分もコンゴのレアメタルのおかげのようです。大虐殺のあったルワンダは、今では平和で落ち着いているとのこと。コンゴも早く安定した社会になってほしいものです。そのためには武器に頼らない平和的な取り組みをすすめるしかないと思います・・・。
アフリカの実際を知るために欠かせない本だと思いました。
(2019年6月刊。1600円+税)

2019年2月 1日

国境なき助産師が行く

(霧山昴)
著者 小島 毬奈 、 出版  ちくまプリマ―新書

「国境なき医師団」って、すごいですね、心から尊敬します。先日は女性看護師の活動を紹介しましたが、今回は、同じく日本人女性ですが、助産師です。
2014年から、6ヶ国で8回も出動しているそうです。本当に大変そうな仕事を著者が生き生きとやっている様子に心を打たれます。中村哲医師が活動しているパキスタンのペシャワールに著者も助産師として出動しました。
パキスタンの女性は、とにかく多産。最高記録は16人。5人目、6人目の出産はあたりまえ。女性が人として価値を認めてもらえるためには、出産して多くの子どもをもつこと。それだけ・・・。
トイレがない、汚い、そんな状況にあわせるため鍛えあげられた著者の肛門はウォシュレット不要になっているとのこと。いやあ、信じられない訓練です・・・。
日記を書いて、思ったことを吐き出す。そして、ウクレレをひいて楽しむ。さすが、です。
MSFに入る前は年収600万円をこえていたのに、月給手取り11万円のNGOスタッフの身分。いやはや、すごい覚悟ですね・・・。
現地スタッフと折り合いをつけるのも容易なことではないようです。それはそうだろうと私も思います。だって、生まれ育った環境がまったく違うわけですから、日本からちょっと出かけて簡単に仲良くなれるはずはありません。スタッフに何かというとお菓子を配って、ごきげんとりをするメンバーもいたようです。もちろん、悪いことではありませんが、次の人が困ることもありますよね、それって・・・。
レバノンの難民キャンプに行ったとき、この国で謙虚な人はつぶされる。日本では謙虚な人が高く評価されるけれど、レバノンではまずは自己主張が必要。どんな人と知りあいで、どれだけの資産をもって、持ち家があるか、どれだけの高級車に乗っているのかによって、人としての価値が大きく左右される。
レバノンでは、治療費だって交渉して負けてもらう。半額から4分の1ほどに・・・。医療もビジネスという精神が定着している。
2016年から2017年にかけて、8000人近い難民がリビアからイタリアに向けて地中海を渡る途中で亡くなっている。大変なことですよね、これって・・・。
船上で出会った妊婦の半分以上は、売春やレイプからの妊娠。
生まれてホヤホヤの新生児を抱いている母親は、本当にいい顔をしている。新生児を抱いているときにしか出ない、何とも言えない柔らかい表情が最高。
母体死亡の理由の多くは出血。多児の出産は、産後多量出血になることが多く、一度出血すると、水道の蛇口をひねったようにとめどなく続いてしまう。
南スーダンの非難区域にある病院の現地スタッフは500人。みな生き生きと働いている。仕事があること、自分が求められている存在であることは、たとえどんな環境にいても生き甲斐になる。
日本人も、海外で、こうやって献身的に人道支援活動をしていることを知ると、うれしくなります。アベ首相がしているような「軍事の爆買い」なんかやめて、日本政府も本格的な人道支援こそやるべきです。
(2018年10月刊。840円+税)

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