弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
司法
2018年2月 7日
ブラック職場
(霧山昴)
著者 笹山 尚人 、 出版 光文社新書
電通に入社して2年目、24歳の女性社員が過労自殺してしまったことは本当に心の痛むニュースでした。電通には前科があります。何度も繰り返すなんて、ひどい会社です。憲法改正国民投票が実施されたら、またまた電通は大もうけするとみられています。テレビ番組の編成を事実上、牛耳っているからです。アベ改憲と手を組んで日本を変な方向にもっていきかねないので、ますます心配です。
それはともかくとして、なぜブラック職場が日本社会からなくならないのか、本書はその根源をたどっています。
労働事件を担当して、たくさんの経営者と接してきたが、個々の経営者は、それぞれ普通の人間であり、他者の人生を平気で切り捨てることに何ら痛痒を感じない人には見えないことが多い。つまり、経営者個人が悪質な人間だというのではなく、そうした経営者が動かす企業体が組織の論理で利益を追求するという価値判断を行ったとき、人の人生を押しつぶすことをいとわなくなる。
資本主義の世の中では、企業はとにかく無限に利益を追求する。したがって、事業の運営を人が理性をもってきちんと制御しないかぎり、利益の追及は無限の欲求となってたちあらわれてしまう・・・。
職場に労働契約が根づいておらず、労働組合が有効に機能していない。そもそも労働組合が存在しないところが多い。労働法が労働者を保護するために存在するということを知らず、考えたことのない労働者は多い。
著者は「やりがい搾取」というコトバを使っています。私は初めて聞くコトバでした。
仕事自体はとてもやり甲斐のある仕事。それを日々感じることができる。だから、給料が安くたっていいじゃないか、サービス残業が多いからといって問題にしなくていいじゃないかという考えで経営者があぐらをかいている。そのため長時間労働の問題にメスを入れず、長時間の拘束にきちんと対価を支払おうとしない。これを「やりがい搾取」という。なるほど、ですね。
「やりがい搾取」の本質は、「やりがい」を隠れ蓑にして、使用者が法律上そして契約上果たすべき責任をとらないことにある。
最近、裁判所で解雇事件についての解雇の正当性のハードルが以前に比べて下がってきているようだ。つまり、解雇しやすくなっている。
これは私の実感でもあります。やはり非正規雇用があたりまえ、ありふれた世の中になっていますので、クビのすげかえなんて簡単にできるものという風潮が社会一般にあって、裁判官もそれに乗っかかっているのです。
この本で労働基準監督官が全国に3000人しかいない、本当は現場に出る人が5000人は必要だと指摘していますが、これまたまったく同感です。
労働基準法違反は犯罪だという感覚を日本社会は取り戻すべきで、そのためにも労働基準監督官の増員が必要なのです。
ブラック職場をなくすためには労働法の規制を強化すべきですが、いまアベ内閣はますます規制緩和しようとしています。残業時間の規制をゆるやかにし、解雇の自由をおしすすめようとしています。
若者を職場で使い捨てするような社会に未来はありません。安定した職場で、まっとうな賃金をもらって安心して働ける条件をつくり出す必要があります。
本書は職場の実情の一端を紹介するとともに解決策が示されています。若い人にも、中高年にも、ぜひ読んでほしい新書です。
(2017年11月刊。780円+税)
2018年2月 1日
転落自白
(霧山昴)
著者 内田 博文 八尋 光秀、鴨志田 祐美 出版 日本評論社
「日本型えん罪」は、なぜうまれるのか、というサブタイトルのついた本です。
現実にあった間違った裁判のほとんどで、やってもいない人が「自白」をしています。この本は、やってもいない犯行を「自白」してしまうカラクリを明らかにします。
この本の面白いところは、まず、やってもいない人が「自白」する流れを、一つの話としてまとめたところです。なるほど、無実の人がこうやって「自白」させられていくのが、読み手がぴんと来る仕掛けです。
次に、実際にあった足利事件、富山氷見事件、宇都宮事件、宇和島事件を取りあげて問題点を解説します。警察官も検察官も、裁判官も、さらに弁護士までが、やってもいない「ウソの自白」を「ホントの自白」だと信じた。ところがひょんなことから、無実だと判断した。
死刑判決が言い渡された事件でも冤罪事件はあった。免田(めんだ)事件、財田川(さいたがわ)事件、島田事件そして松山事件の4つ。死刑判決でも間違っていた。あやうく死刑が執行されそうになった人が少なくとも4人はいるのです。
いま、飯塚事件が問題となっています。死刑が確定して執行されてしまった人が無実だったのではないかという事件です。これは、そんな古い話ではありません。今でも、日本のどこかで無実なのにぬれ衣を着せられて泣いている人がいるかもしれないのです。
調書を中心とする供述分析は、世界中を見渡しても日本のほかには、あまり行われていない。日本の裁判は調書にもとづいてなされている。
取り調べ場面を録音か録画されるのは、アジアでは韓国、台湾、香港ですでに実施されている。しかし、日本では、依然として取り調べ場面の全面的な可視化は実現していない。
DNA鑑定の古いものは足利市の人口にあてはめると、同じ型の人が男性でも、100人もいるというレベルだった。ところが、新鑑定では、型が一致する確率は4兆7000億人に1人である。地球人口が70億人だとされているので、地球上に型の一致する別人はいないということを意味している。
供述調書の心理学的特性を究明する試みも紹介されています。
犯行供述に被害者が不在であるという特徴のある供述調書は、体験記憶にもとづいて供述していると評価することは困難。
逮捕されたら、全生活を他者のコントロール下に置かれてしまう。食事、排泄、睡眠という基本的生活まで他者に支配され、自分が自由にできる範囲が大きく限局される。その結果、自己コントロール感を失う。誰も自分の無実を信じてくれる人がいないとの絶望感は、もはや無実を主張する気力を奪ってしまう。警察で認めたのに、検察庁や裁判所で否認すると厳しい取り調べをする怖い人にもどってしまうことを何より恐れる。
裁判官には、検察そして警察に対する仲間意識がある。裁判官は独立しているために孤立しがちである。
えん罪を日本からなくすために頑張っている若手弁護士との学者が、その勢いをもって書き上げた本です。広く読まれることを願います。ご一読ください。
(2012年7月刊。1900円+税)
2018年1月31日
気概
(霧山昴)
著者 小田中 聰樹 、 出版 日本評論社
著者は司法改革に一貫して反対してきた学者です。当然、ロースクールも反対です。したがって、現在のロースクールの悲惨な状況は当然のこととみています。
私自身は今回の司法制度改革を間違っていたと一刀両断するのには反対です。何事によらず歴史はジグザグしながらすすんでいくものです。司法改革のすべてをアメリカと財界の要求にもとづき発動したものとみるのは一面的すぎると考えています。
それはともかくとして、長年にわたって司法制度の民主化のために奮闘してきた学者としてその主張には耳を傾けて、学ぶべき点が大きいと思います。この本は著者を3人の学者がインタビューした成果を基本としていますので、大変読みやすくなっています。
著者が権力と戦ってきた原点は、小学生のとき中国大陸へ出征中の父に対して特高が治安維持法違反容疑で家宅捜索したのを目撃したことにある。たしかに、大変なショックだったでしょうね・・・。
著者にとっての一番の教師は両親だった。このように言い切れるというのは、尊敬できる両親と良好な関係を維持していたということですね。うらやましい限りです。
たくさんの論文を書いて本にしていますが、著者は体系的な教科書を書かなかったことが残念だということです。著者は、無罪判決請求権を中核とした刑訴法の体系をつくりたかったとのこと。いったい、どんな内容の法体系なのでしょうか・・・。
弁護人と検察官がたたかい、最後には人民の力に依拠して勝訴し、そのことによって真実が明らかになるというのが著者の発想。これに対して松尾浩也教授は、裁判官の賢明さに信頼し、裁判官の権力によって真実が明らかになるとする。これは裁判官司法だ。
平野竜一教授は、裁判官を信頼するという立場で、誤判はめったにありえないと考えた。
東大の学者は、権力にすがって権威をもつという抜き難い考え方がある。権力の権威を笠に着て、その範囲でときどきは批判する。しかし、権力の真正面からぶつかることはしない。これが東大法学部の権威の原点。
弁護人は被告人の意思に従属する存在ではない。弁護人には独立性があって、被告人とはある意味で対立してでも被告人の権利を守るためにたたかうべき場合がある。弁護士には弁護士固有の権利と義務があって、雇われ弁護士では言い尽くせない、独立性と権限がある。
著者の人物評は面白いです。宮本康昭さんは素晴らしく頭のいい人で、どこか飄々としたところのある心に余裕がある人だ。心に余裕があるから屈しなかった。岩村智文弁護士(川崎)は、ものすごく頭のいい人で、知恵袋、戦略家。寺西和史裁判官は、何があってもめげない、何というか不思議な人。非常に独特な個性の人。
司法改革は、ロースクールにせよ、法曹人口の増加、刑事訴訟法の部分的な改正といい、あらゆる面で失敗だった。やはり権力は狡知に長けている。権力を侮ってはならない。部分的な改正に目がくらんで、全体として見る目を失ってはいけない。
なるほどと思うところは確かに多い本でした。いろいろ問題はありますが、私はそれでも司法制度は前より少しはましになってきているところが多々あると私は考えています。引き続き著者には鋭い指摘を期待します。
(2018年1月刊。1400円+税)
2018年1月16日
粉飾決算VS会計基準
(霧山昴)
著者 細野 祐二 、 出版 日経BP社
この本を読むと、大企業の経理って、本当にいいかげんなものだと思いました。また、大手の監査法人も大企業の言いなり、その召使でしかない存在だと痛感します。これじゃあ真面目に税務申告して税金を払っているのがバカらしくなってきます。まあ、国税庁の長官が例の佐川ですから、「アベ友」優先の税務行政はひどくなるばかりでしょうね・・・。それにしても、公認会計士って、実に哀れな職業なんですね。みんな何のために苦労して資格をとったんだろうかと信じられない思いがしました。
360頁もある大作ですし、会計学のことは分かっていませんので、誤解しているところも多々あるかもしれませんが、ともかく最後まで読んでみました。
公正なる会計慣行は常に二つ以上ありうる。アメリカに上場している日本の大企業は、日本の会計基準ではなく、アメリカの会計基準にしたがった財務諸表を作成して開示している。目的による優劣に差のある複数の公正なる会計慣行のなかで、さらに目的により優劣に差のある複数の会計処理の方法が並存可能であり、それは会計の常識であって、社会はこれを許容している。ところが、日本の裁判所は最高裁も含めて、「公正なる会計慣行は唯一だ」としている。これは、そもそも前提が間違っている。
税法基準とは、税務上損金処理できるものが計上されてさえいれば、あとは何をやってもいいということで、このようなふざけた会計慣行が、当時の大蔵省銀行統一経理基準において、公正なる会計慣行として立派に認められていた。
粉飾決算とは、事実と異なる重要な財務情報を悪意をもって財務諸表に表示する決算行為をいう。悪意がなければ、たとえ重要な虚偽表示があろうと、それを粉飾決算とは言わない。悪意が経営者にあったかどうかは、経営者の心の中の問題である。外形的かつ客観的にこれを判別することはできない。会計基準の錯誤は、故意を阻却する。
監査報告書の製品差別化ができない監査業界において、監査法人が営業努力により新規の監査契約をとるのは難しい。しかし、監査法人がいったんとった監査契約を解約するのは、それ以上に難しい。上場会社の監査契約は適正意見を暗黙の前提として継続されるというのが社会的通念となっている。監査法人が交代するというのは、世間には言えないのっぴきならない事情があると考えられる。監査法人により不正会計処理が発見されるのは、監査法人が交代したあとの、新しい監査法人による新年度監査のときが圧倒的に多い。
日本の4大監査法人のうち最大級の2監査法人(あずさと新日本)がこのざまでは、他の監査法人も推し知るべしで、社会は粉飾決算の発見防止機能について、もはや何の選択の余地も残されていない。日本の公認会計士監査制度については、抜本的な検討がおこなわれるべきだ。
ほとんどの日本の監査法人は、監査調書のドキュメンテーションと、有価証券報告書の作成補助に汲々としており、会社の内部統制から独立した会計監査などできもしなければ、事実としてやっていない。日本社会は、この現実を直視すべきである。
東芝は、監査法人にとってまことに良い顧客で、結果として何の意味もなかった例年の監査において、新日本監査法人に10億円、EYに17億円という、美味しい監査報酬を支払っていた。しかも、粉飾への共謀が明らかとなった2016年3月期には、粉飾訂正のためという口実で、新日本監査法人に53億円、EYに26億円、合計79億円の報酬を支払っている。ちなみに金融庁が、東芝の粉飾決算に対する監査について新日本監査法人に課した課徴金は21億円あまり。これでは新日本監査法人は焼け太りで、金融庁の課徴金など、たいた意味をもたない。
今では公認会計士ではない著書の一連の鋭い指摘について、公認会計士側からの反論があれば、それもぜひ読んでみたいと思いました。
(2017年10月刊。2400円+税)
2018年1月15日
明るい失敗
(霧山昴)
著者 原 和良 、 出版 クロスメディア・パブリッシング
いい本です。読んでいるときから、気持ちが軽くなっていき、読み終わったときには、さっぱりした気持ちになって、さあ、あすはどんなあしたが待っているかなと期待できるようになります。軽い本です。200頁の本に明日から明るく生きていくヒントが満載です。そうか、そういうことだったのか、自分を振り返ることができます。
忙しいとは、心をなくすと書く。充実した人生を送ろうとすると、人生は本当に時間がない。人は、世の中で大切にされていない、と感じたとき、やり甲斐や充実感を失い、同時に自分の生きている時間を奪われていると感じ、忙しいという感情をもってしまう。
忙しい人に仕事が集中する。なぜか・・・。本当に忙しい人は、短時間で質の良い仕事を仕上げる努力をする。
忙しい人が忙しいなかで、長期にわたって効率的に仕事を続けるには必要条件がある。それは心身の健康状態を常に最高レベルに保つこと。
忙しいと思うときこそ、適当なリフレッシュや休息が必要。
ビジネスで一番大事なのは、貯金ではなく、他者からの信頼の貯金である。
大なり小なり、人生には思いがけない災難がふりかかってくる。どんな災難がふってかかろうとも、前進するためには、いったんその災難を受け入れ、そこから前に進むしかない。
他人(ひと)に助けを求めることが必要なときもある。しかし、自分自身に乗り越える覚悟がなければ、他人は助けようがない。
弁護士である著者は、離婚事件を見ていて、何が幸福かを決めるのは、社会や他人ではなく、その当事者本人であることをつくづく感じると言います。私も、それは同感です。
そしてまた、著者は弁護士として、たくさんの逆境を見てきた。弁護士の仕事は逆境を引き受け業とも言える、と言います。
逆境は永遠に続くものではない。どんな嵐も時間の経過とともに過ぎ去っていき、乗り越えることができる。
まったく私も同感です。私は、付け加えると、辛い思いをした依頼者には、しばらく旅に出たらどうですかと進めています。時と場所を変えてみると、なあんだ・・・、なんで、あんなに苦しんでいたのだろう・・・と、自分を客観的にとらえ直すきっかけをつくってくれることがあるのです。
失敗したときこそ笑いましょう。著者のこの呼び替えに私は大賛成です。人生には笑いが必要です。辛さや悔しさを乗り越えるためには、笑い飛ばす力が欠かせません。
佐賀県出身で、東京で大活躍している弁護士の本です。映画『それでもボクはやっていない』のモデル事件となった痴漢冤罪事件の弁護人でもありました。一読を強くおすすめします。
(2017年10月刊。1380円+税)
2017年12月 1日
反核・平和を貫いた弁護士・池田眞規
(霧山昴)
著者 池田 眞規 著作集刊行委員会 、 出版 日本評論社
昨年(2016)11月に88歳で亡くなった池田眞規弁護士を追悼する著作集です。その一生涯を反核・平和のために過ごしたと言ってよい池田弁護士は世界中に知己をつくっていたようです。
問題を多方面から見ながら生まれる豊かな発想、ときに周囲をはらはらさせる天衣無縫、自由な行動、そしてそれを進める強い意思と頑固さ。
池田弁護士は、ものすごいバイタリティーで世界中を駆け巡りました。
この本の圧巻は、反核・平和のための世界法廷での池田弁護士の活躍ぶりを紹介した部分です。このとき、日本の外務省は核兵器廃絶に反対する立場から、陰に陽に足をひっぱったようです。本当に残念なことです。たとえば、広島・長崎の市長は世界法廷に出廷するとき、証人として意見は言えないと外務省はタガをはめようとしました。とんでもないことです。しかも、両市長の発言内容への干渉もしたのです。
外務省は両市長に対して事前に発言原稿を見せろと求め、それに応じた長崎市長は12回も訂正を求められた。他方、広島市長は、「原稿ができていない」と言って逃げた。また、事前に公表するのは、裁判所に対して失礼にあたると言って逃げきり、当日は、核兵器の使用等は違法だし、国際法にも反すると陳述した。日本の外務省は政府の方針を忠実に実践しているだけとは言え、あまりにも情ない限りです。アメリカの核兵器によって日本の平和が守られているなんて神話に取り込まれすぎです。
池田弁護士は百里(ひゃくり)基地の訴訟にも関与しています。一審で敗訴したとき、原告団が弁護士たちを次のように言って励ました。
「裁判だから、勝つこともあらあな・・・。敗けることもあらぁな、へへへ・・・」
自衛隊が憲法違反かどうか調べるため、防衛庁(当時)の統幕部長や空幕長(源田実)を証人として呼んで法廷で質問しています。合計9人です。そして、二審でも12人もの学者などを証人として調べています。すごいことです。
いま、全国で安保法制が憲法違反だということを明確にさせる裁判が係属中です。ぜひ裁判所に明確な違憲判決を出してほしいものです。
故池田弁護士の遺思を受け継ぎ、次世代に反核・平和の動きの橋をつないでいくうえで、大いに役に立つ追悼集だと思いました。
(山形・T氏)
2017年11月26日
知らぬは恥だが役に立つ法律知識
(霧山昴)
著者 萩谷 麻衣子 、 出版 小学館新書
弁護士生活も40年を過ぎてしまうと、自分の法律知識は果たして大丈夫なのかと、つい不安になってしまうことがあります。いえ、認知症の心配をしているのではありません。そうではなくて、新しい法律がどんどん生まれていて、法改正も次々になされているので、ちゃんと追いついているのか不安になるのです。
それで、ときどき、こんな一般向けの法律解説書を読んでみます。すると、やっぱり教えられることが多々あります。
自転車は、車両の一種である軽車両にあたるので、お酒を飲んで運転したら飲酒運転が成立するとのこと。恥ずかしながら、私は知りませんでした。そして、自転車の運転に青切符的な制度が導入されている。自転車についても賠償保険に入っておかないと大変です。
痴漢と間違われたとき、堂々と立ち去れる状況なら立ち去るのがベスト。下手に駅長室に入ってきちんと事情を説明して冤罪だと分かってもらおうとすると、現行犯逮捕されたとして勾留されることがあるのです。怖い世の中です。
過払金の返還について、「消費者問題に取り組む弁護士たちが、苦労の末に勝ち取ったもの」だと著者は正しく評価しています。本当にそのとおりです。過払金の取戻は全国のクレサラ問題対策協議会のメンバーの血と汗の結晶だったのです。
未払残業代の請求について、先日、相談を受けました。2年間の時効の問題もありますが、残業したことをどうやって立証するかがポイントになります。記録、メモ、タコグラフなど、なにか手がかりになるようなものがほしいです・・・。
不倫の慰謝料の相場を、この本は300万円から400万円としています。これは合計金額で、その内訳を夫が200~250万円、愛人が100~150万円とします。福岡でも同じようなものではないでしょうか・・・。
離婚不受理届について、6ヶ月という有効期間がなくなっていることを初めて知りました。取り下げ申請するまで効力があります。
死後離婚というのは姻族関係終了届です。姻族の了解を得る必要はなく、いつでも提出可能。
不倫した社員をそれだけで懲戒処分することは出来ない。何らかのトラブルが起きて業務に支障をきたしていれば別だが・・・。
テレビでコメンテーターしている女性の弁護士のようですが、私も勉強になりました。
(2017年10月刊。780円+税)
2017年11月22日
汚染訴訟(上)(下)
(霧山昴)
著者 ジョン・グリシャム 、 出版 新潮文庫
アメリカの若い女性弁護士が進路選択に苦悩していく姿を描いた司法小説でもあります。いま、日本では、地方に根ざして弁護士活動をしてみようという若手弁護士が急減しています。いまや雪崩をうってビジネス界へ一目散という雰囲気のようで、怖い気がします。
この本に描かれているように、ビジネス弁護士は、下手すると、へとへとになるまで超こきつかわれて、しかも、実は悪(わる)の手伝いをさせられていたということになりかねません(もちろん、すべてだなんて決して言いません。超高給取りの一部に、そんな弁護士がいるようです、と言っているのです)。
なんのために弁護士になったのか、弁護士として何を生き甲斐にするのか、主人公の女性弁護士は真剣に悩んでいます。ぜひ、日本の若手弁護士も同じように悩み、そのうち何人かは、ビジネス弁護士から華麗なる転身をとげてほしいものです。
この本の主人公は、ついに、ニューヨークではなく、超高級取り(年俸16万ドル、1600万円を提示されます)ではなく、アメリカのド田舎で年3万9000ドル(390万円)の給与で働くことを選択したのでした。
「お願いですから、助けてください。私たちを助けてくれる弁護士さんは、あなた以外にはいません。石炭会社を相手にして戦おうとした勇敢な弁護士さんは、あなただけなんですから・・・」
石炭会社、つまり○○鉱山ですね、は森林を大規模に破壊して地域の環境を破壊するうえ、働く労働者をじん肺にし、その補償をしないで切り捨てる。医学的立証ができない状況に追いやり、証拠隠滅を図るのです。そのため、強力な法律事務所をかかえています。
労働者たちは会社に反抗しようという気力を失っているし、孤立している。労働組合はとっくの昔になくなってしまった。わずかな労働者を原告として裁判をしていた弁護士には尾行がつき、盗聴され、ついには不可解な事故で死んでしまう。
さあ、そんな大変な現場に、まだ弁護士としての力量もない、都会育ちの女性が弁護士としてやっていけるのか・・・。
さすがジョン・グリシャムです。ぐいぐい引っぱって読ませます。
ケンタッキー州に本拠を置く地方住民法律センターに取材したり、NPO法人に取材して出来あがった本のようですから、大変な迫力があります。旅行の友の文庫本として、一読をおすすめします。
(2017年10月刊。1600円+税)
天神で韓国映画「密偵」をみてきました。日本の統治下にあった朝鮮が舞台です。日本警察の下で働く朝鮮人が二重スパイのようになって活躍するのですが、日本警察が朝鮮独立運動の志士たちを拷問するシーンはとても残虐です。小林多喜二を拷問死に追いやった特高警察を思い出しました。
朝鮮半島を植民地として支配する日本の醜い姿が描かれています。史実をベースにしたフィクションですが、爆弾で世の中を変えようとしたこと自体は本当にありました。今の自爆テロと共通したところがあります。でも、結局のところ暴力ではうまくいくはずがありません。日本人として大いに考えさせられる、いい映画でした。
2017年11月14日
破天荒弁護士クボリ伝
(霧山昴)
著者 久保利 英明・磯山 友幸 、 出版 日経BP社
私の先輩になりますが、まだまだ若い、現役バリバリの弁護士です。
日本一訪問した国が多い弁護士。なんと170ヶ国。私の自慢はもっとささやかです。日本全国、行ってない県はありません。
日本一著作の多い弁護士。本書が76冊目にとのこと。巻末に、そのタイトルが紹介されていますが、私が読んだのは数冊だけだと自覚しました。私も自費出版の小冊子を含めて40冊ほど刊行していますが、せいぜい半分ですね。
よく働き、よく遊べ。これは真似できません。なにしろ著者は、年に5週間(夏3週間、冬2週間)も、海外へ出かけているのです。私も30歳代から年に1回は海外旅行してきましたが、最長40日で、あとは長くて1週間から2週間です。とても著者にはかないません。
23期司法修習生の終了式のとき「騒動を起こした」首謀者として罷免された阪口徳男修習生について、この終了式に携帯用テープレコーダーを持ち込んでいたのは著者だったことを初めて知りました。阪口修習生の発言時間はわずか1分13秒間だったのです。明らかな冤罪事件です。これも権力犯罪ですよね。
弁護士とは闘争業だ。法律という「権力の言葉」を操りながらも、弱者の側、正義のある側に寄り添って、より良い社会を実現するのが弁護士の役割。目的と手段に正義を要求する。単なる法律解釈から一歩も二歩も踏み出して、戦略を練り、戦術を工夫して、武器を改良し技量を練磨して、依頼者の思いに応えるのが弁護士の仕事。必ず解決法を明確に提示する。
社長と専務(この二人は親子)を同時に解任するという離れ技(わざ)を実現したというのには驚きました。綿密に計画を立て、入念に予行演習して成功したとのこと。さすがです。そして、取締役会のスタートと同時に社長室と専務室に鍵をかけて入れないようにしたのでした。うむむ、見事ですよね・・・。
目立った存在になってから、著者は東京地検特捜部から狙われたことが2度もあるとのこと。さすが大物です。そして、そのとき、裁判官面前調書として尋問を受けたのでした。いやはや、この手があったのか・・・。と驚きました。私が弁護士になった40年以上も前のことですが、同じように裁判官面前調書を活用するという話をしていたのを懐しく思い出してしまいました。
ヤクザや総会屋だけでなく、ときには依頼者の側に立って国家権力と対峙する。それが他の職業では味わえない弁護士の醍醐味である。
著者が1日1食主義だというのに驚きました。タバコを吸い、酒は毎日欠かさず、塩分もカロリーも紫外線も気にしない。嫌なことはせず、やりたいことだけする。
新しい弁護士の活躍できる分野を次々に開拓していった著者ならではの意気込みあふれた本です。後輩にあたる私も、いささか発奮してしまいました。多くの若手弁護士に一読をおすすめします。
(2017年11月刊。1700円+税)
2017年11月 7日
合理的配慮義務の横断的検討
(霧山昴)
著者 大分県弁護士会 、 出版 現代人文社
すごい本です。私は、心底から驚嘆しました。この本を私が手にとったのは10月末に大分市内で開かれたシンポジウムの会場です。
障害者権利条約が2006年に国連で採択され、日本は2014年に批准した。そして、前年の2013年に障害者差別解消法が成立し、2016年4月に障害者雇用促進法が改正・施行された。そのなかで「合理的配慮義務」が公法上の義務として規定されている。
この本は、障害者法制における「合理的配慮」の現状と課題を確認し、その合理的配慮の視点から、その他の法分野についての裁判例に至るまで広く分析・検討していて、まさしく「チャレンジングな試み」となっています。
この本のサブタイトルは「差別・格差等をめぐる裁判例の考察を中心に」とあり、本当に広い視野で問題点を網羅的にすくいあげ、そして、それに対して的確なコメントを付しています。しかも、鋭い問題提起をするだけでなく、実務的にも大変役立つ実務的手引書になっています。実際、私は本書にあるようなケースで法律相談を受けたばかりでしたので、すぐに役立ちました。私が実践的に役立ったところから説明しますと、本書(299頁以下)には、「不動産取引において心理的瑕疵が問題になる場面」という項があり、「心理的瑕疵」を扱った判例を紹介し、コメントしています。
「心理的瑕疵」とは、その物件で自殺や自然死があったときの扱いです。私も相談者の息子が東京の賃借マンションで自殺した案件について代理人として対応したことはあったのですが、「人夫出し」企業の社長から、長期滞在型のホテルで突然死(心筋梗塞)した従業員について、そのホテルから50万円もの弁償要求を受けたというので、法律上の見解を求められたのでした。
本書は、「階下の部屋で半年以上前に自然死した者がいる」というとき、そのような事実は「社会通念上、賃貸目的物にまつわる嫌悪すべき歴史的背景等に起因する心理的欠陥に該当するものとまではいえないから、かかる事実を告知し、説明すべき義務を負っていたものとは認め難い」との判例(東京地判、H18.12.6)を紹介しています。私にとっては、大変参考になる判例であり、コメントでした。
日本の障害者差別解消法や障害者雇用促進法で規定された合理的配慮義務には、私法上の効力は認めておらず、合理的配慮義務違反に対する救済は、公序良俗・信義則などの民法上の法理を理由として当該行為について無効ないし権利濫用を主張するか、あるいは債務不履行ないし不法行為を理由とする損害賠償請求によって解決するほかない。この点は、合理的配慮の不提供に対する一種の履行請求が認められるアメリカなどと大きく異なっている。
合理的配慮論を障害者分野以外の法分野に適用ないし展開することは不可能ではない。その視点から、本書では、労働法分野(人事、セクハラ雇用平等、母子保護、非正社員、外国人労働者など)、その他の性的少数者、信仰、消費者契約についてまで広く合理的配慮論を展開しています。その視野の広さには思わず息を吞むほど圧倒されました。
ところで、合理的配慮とは、障害者が日常生活や社会生活において受ける様々な制限をもたらす原因となる社会的な障壁を取り除くため、その実施にともなう負担が過重でない場合に、特定の障害者に対して個別の状況に応じて講じられるべき措置です。
なお、最近では「障がい者」と表記することが多いことを知ったうえで、本書では法律上「障害者」になっているので、そちらに統一したという断りも明記されています。
私は、この本をシンポジウム会場入口で受けとりました。堂々350頁もある大作です。判例もたくさん紹介されていて、しっかり読みごたえがありますから、シンポジウムそっちのけで読みふけってしまったのでした。そして、千野博之弁護士を先頭とする大分県弁護士会のシンポジウム部会の理論的レベルの高さはほとほと敬服しました。
九州のなかでは何かと異論を唱えることも多い大分県弁ですが、本書のような理論書をまとめあげる集団的力量の高さを私は率直に高く評価したいと思います。
実務的にも大いに価値ある本として一読を強くおすすめします。
(2017年10月刊。3600円+税)