弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

司法

2018年5月24日

刑務所の風景


(霧山昴)
著者 浜井 浩一 、 出版  日本評論社

大学教授の著者が、その前に刑務所の矯正職員としての3年間の勤務によって認識した状況をまとめた興味深い本です。著者が刑務所で勤務したのは2000年4月からの3年間ですので、現在とは少し状況が異なります。
たとえば、当時は過剰収容が大きな問題となっていました。要するに、どこの刑務所も定員オーバーに悩まされていました。この点は、今では解消されています。
ところが、収容者の高齢化にともなう介護問題は当時に比べてはるかに深刻になっています。刑務所は、受刑者を選べず、受刑者が何か問題を起こしても、外に追い出すことはできない。
刑務所には、「経理夫」なる存在が刑務所を支えている。元教員や元公務員は、有能であっても刑務所内の経理夫には向かないことが大きい。
刑務所内で、「経理要員」として働くためには、特別な資質は必要としない。その要件はごく単純。健康であり、60歳未満、普通レベルの知的能力を有すること。暴力団に所属していないこと。ところが受刑者のほとんどが、作業をするうえで支障となるハンディキャップをもっている。
増加する受刑者の多くは、労働力として一般社会で需要がなくなった者でもある。刑務所の収容者の高齢化は、一般社会をはるかに上回るスピードで進行し、それにともない刑務所で死亡する受刑者も急増している。刑務所は、社会をうつし出す鏡である。
アメリカには、福祉予算の比率が低く、弱者を切り捨てる不寛容な社会(州)ほど、刑務所人口比が高いという研究がある。
収容者は、毎日、同じ時間に、同じ場所で、同じことを繰り返すのみ。彼らにとって、一日一日は長くても、ふり返ると、そこには何の変化もないから、時間が止まったかのように感じる。
刑務所生活に適応した人々のなかには、家畜同様に扱われ、外ではいきていけない。
刑務所では、食事は、収容者の最大の関心事である。私も弁護士会による刑務所視察に加わり、食事を試食したことが何回かありますが、なかなか美味しいと実感しました。
収容者の妄想も、その内容は多様である。刑務所の独居にいる限り、夢を見続けるのかもしれない。
刑務所と少年院とには本質的な違いがある。少年院では、少年を信頼し、信用することが共感の基本的な心構えでもある。これに対して、刑務所では受刑者を信用しないことが刑務官の基本的な心構えである。
刑務所とは、どのような世界なのか、よく分かる本です。
(2010年4月刊。1900円+税)

2018年5月23日

治安維持法と共謀罪

(霧山昴)
著者 内田 博文 、 出版  岩波新書

アベ政権は明治150年を手放しで礼賛して、祝賀行事を大々的にしたいようです。
でも、明治維新から終戦まで、日本は繰り返し戦争をしてきました。「平和な国・ニッポン」のブランドは戦後に生まれ、なんとか定着したものです。
アベ政権の言うとおりに戦前に回帰したら、まさしく軍部独裁の暗い、人権無視の政治に変わることでしょう。
治安維持法が制定されたのは、大正14年(1925年)。治安維持令と治安維持法とでは内容が大きく異なっている。治安維持令は、言論等規制である。これに対して治安維持法は結社規制法だった。
治安維持法は1925年(大正14年)4月に公布され、5月より施行された。このとき、治安警察法も存続させる運動を展開した。
東京弁護士会は、1934年(S9年)に臨時総会を開いて、治安維持法の改正に賛成した。
戦時体制がすすむ中で、個人の権利主義は反国家的であるという風潮が強まり、自然に民事裁判は減少していった。刑事裁判についても、被疑者・被告人になったとき、個人の権利主張をしていると、反国家的であるのと同じだとして敵視する風潮が強まった。こうして弁護士の業務は目立って減り、活動範囲が狭まった。
共謀罪法が施行され、国家に異議申立することが事実上抑制されている。
戦前の治安維持法は共産党対策を名目として全面改正され、民主主義運動や自由主義運動、反戦運動の取締りに猛威をふるった。
テロ対策を口実として共謀罪が再び猛威をふるう危険がある。
戦前と現代日本とをリンクさせながら、共謀罪法の恐ろしさを明らかにした新書です。
(2017年12月刊。840円+税)

2018年5月18日

法の番人として生きるー大森政輔回顧録

(霧山昴)
著者 牧原 出 、 出版  岩波書店

著者は青法協の会員裁判官でした。今も、安倍首相の集団的自衛権の解釈は憲法違反だと断言します。
著者は灘中・高から京都大学法学部に進学しました。学問の自由を戦った京大法学部にあこがれたのでした。京大法学部では社会主義に大きな関心をもち、自治会活動にも参加します。そして、司法試験を目ざして在学中に合格します。
司法修習生になったら、当然のように青法協に入りました。青法協は、市民に足を置く良心的な法律家の集団と思われていて、青法協に入る意欲のないような法律家は良識に欠ける存在だと思われていた。実際、最高裁のなかの所付判事補の多くが優秀であり、青法協の会員でした。
 学園紛争、70年安保ぐらいから、青法協会員だというのは、よほど過激な者だということになったようで、非常に残念。
私は、著者が青法協を脱会したことを責めるつもりはまったくありませんが、青法協会員だった最高裁のエリート裁判官たちがこぞって脱会したあと、裁判所内に自由闊達な雰囲気がなくなり、ヒラメ裁判官だらけになってしまったことについては、厳しく指摘してほしいと思いました。
著者が裁判官になるときの面接で、「政治活動はしないだろうな」という質問を受けたといいます。とんでもない質問ではないでしょうか。今は、こんな質問なんかする必要がない状況ですが、それをつくり出したのが、このような質問をする司法当局だと思います。
最高裁にいた若い局付判事補はほとんどが青法協の会員だった。若い時代には日本国憲法を擁護する意識をもつのが通常で、その意識のない若い裁判官は腰抜けだと考えられていた。結局、著者は、司法反動の嵐のなかで配達証明付の脱会届を送るのです。
岡山に赴任したときには、事務総局から青法協を逃げ出した男だという前評判で迎えられた。それでも岡山のあと東京に戻れなかったのは、青法協脱退をぐずぐずして抵抗したからだという理由があげられています。ひどい話です。
そのあと、法務省へ出向します。さらに内閣法制局への出向です。
安倍内閣の集団的自衛権の憲法解釈変更は明らかに暴挙だというのが著者の考えです。
舌先三寸で、黒を白と言いくるめられたら何でもできると思い上がった人が総理になるということほど恐ろしいことはない。このように著者は言い切ります。胸のすく思いです。
わが国を取り巻く安全保障環境の変化を考慮しても、憲法9条の改正がない限りは、集団的自衛権の行使は、今後とも憲法9条の下で許容できる余地はない。内閣の権限をこえたもので、とうてい認められない。
気骨あふれる裁判官の語るオーラル・ヒストリーは興味深いものがあり、一気に読了しました。
(2018年2月刊。2800円+税)

2018年5月17日

ほどよく距離を置きなさい


(霧山昴)
著者 湯川 久子 、 出版  サンマーク出版

著者は九州で第一号の女性弁護士として活躍してきました。90歳の今も現役の弁護士です。事件を扱うときには稲村鈴代弁護士と共同作業のようですから、心配は無用です。
弁護士生活61年という体験をふまえていますので、その言葉には重みがあります。
先日、たまたま赤坂近くのけやき通りで著者に出会い、ほんの少しだけ言葉をかわしました。腰を痛めて能のほうはやめて、座ってできる謡(うたい)だけにしているとのことですが、足取りはしっかりしていて、とても90歳をこえているとは思えない元気の良さでした。
相談に来て目の前に座った人がうつむいてボソボソと力なく話しはじめたときには、こう言う。「顔を上げて、私の目を見てお話ししなさい」
すると、顔を上げ、目に光が戻ってくる。声のトーンが変わり、背筋が伸びてくる。問題をかかえた姿から、問題と向きあう姿勢に変わった瞬間だ。顔を上げ、前を向くだけで、未来を見る姿勢になる。
本当にそうなんです。逃げの姿勢から、物事に向きあい、乗りこえていく。これが求められています。
弁護士の事務所は、悩める人たちにとって、その心の病気の治療室のようなものである。
これまた、まったく同感です。
離婚問題をかかえたとき、長引けば長引くほど、人生の再起は遅れ、再起するためのエネルギーも失われていく。
たった1回だけの人生です。大切に扱いたいものです。
和解は、させられるときには納得いかないけれど、主体的に和解を選ぶようにする。発想を転換させるのですね・・・。
「話す」ことは「離す」こと。
話していくと、自分というものが、客観的に見えてくるようになるのです。
子どもは成長する過程で百粒をこえる喜びと幸せを親に与えてくれる。子どものことで傷ついた親は百粒の涙を流す。子どものことで苦労した親は、人として成長し、人にやさしくなる。
数多くの熟年離婚を見てきて、我慢の先に幸せはないと痛感する。
私は子どものために離婚をガマンしてきたという言葉を聞かされると、それは、子どもこそ気の毒だったと思います。もっとはやく親が別れてくれていたら、たとえ片親であっても笑顔の絶えない、明るい生活を過ごせたはずなのです。それを親の都合で子どもから奪いながら、子どもにあんたのせいだと責任をおしつけるなんて、親としてすべきことではありません。
こころに余裕がある人は、他人に寛大になれる。他人の幸せを妬んだり、うらやんだりすることもない。未来を向いて、今を楽しんでいると、幸福度は、ますます高まっていく。そのためには、いくつになっても好奇心をもち、新たな挑戦をしてみることです。
長生きは、ごほうびの時間だと考えている著者に、ますますのご健勝を心から祈念します。10万部も売れているとのこと。これまたすばらしいです。
(2017年11月刊。1300円+税)

2018年5月15日

つくられた恐怖の点滴殺人事件

(霧山昴)
著者 阿部 泰雄 ・ 山口 正紀 、 出版  現代人文社

私の弁護士生活も45年となりましたが、残念なことに勇気ある裁判官、真実を直視しようとする気骨ある裁判官が本当に少ないと実感します。たまに出会うと感激ものです。
2001年に仙台で起きた「筋弛緩剤点滴殺人事件」が、実は何の科学的根拠もない警察による見込み捜査にもとづくものであり、警察とマスコミのつくりあげた「犯罪」だったことを明らかにした本です。
亡くなった小学6年生の女児は、その症状から筋弛緩剤中毒ではなく、別の急性脳症(ミトコンドリア病)だったというのです。ところが、医療の素人である裁判所が専門医の鑑定結果を受け入れないとは、いったいどういうことなのでしょう・・・。
そして、鑑定資料が警察鑑定によって全量消費されてしまって、残っていないというのにも驚かされます。これでは、追試ができません。警察による証拠隠し(いん滅)としか言いようがありません。
有罪が確定した守大助氏の父親は警察官でしたが、定年退職までつとめあげ、今では息子の無罪を訴えて、夫婦で全国をまわっているとのこと。すばらしいことです。
守大助氏は当初「自白」していますが、これを重視すべきではないのに、裁判所は鬼の首でもとったかのように考えています。まったくの間違いです。古今東西、やってない人が「自白」するのは、いくらでもあることです。その「自白」が客観的証拠と矛盾しないのかどうか、慎重に裁判所は検証していかねばなりません。
事件からすでに17年がたっています。裁判所には無罪の扉をぜひ開けてほしいと思います。私と同期の阿部泰雄弁護士の奮闘には心から敬意を表し、多くの人に一読をおすすめします。
(2016年12月刊。1700円+税)

2018年5月10日

天文館強姦えん罪事件報告書

(霧山昴)
著者 伊藤 俊介 ・ 西田 隆二 ・ 野平 康博ほか 、 非売品

天文館事件が福岡高裁高崎支部で無罪判決が出て、検察官の控訴がなく確定したあと、控訴審弁護団がその教訓を座談会を通じて明らかにしたものです。私はゴールデンウィーク中は自宅に籠っていましたので、一気に読了しました。
控訴審(裁判長・岡田信、増尾崇・安部利幸裁判官)の無罪判決は30頁もあって詳細をきわめていて、読むとなるほどと説得力があります。それにひきかえ、一審で有罪とした判決文は9頁しかなく、拙劣としか言いようがありません(裁判長・安永武央、植田類・竹中輝順裁判官)。この3人の裁判官の名前はしっかり記憶しておくことにします。
一審判決は「典型的な路上強姦の事案」だとしながら、しかも路上に2回も倒されたという被害女性の着衣にも人体にも何ら損傷がなかったことを検察官も認めているのに、「客観的事実と矛盾」しないとしているのです。でも、まあ、これは許される事実認定の幅なのかもしれません。さらに重大なのは、路上での強姦行為が「45秒間」で成立したかのような事実認定をしたり、行動手順の時間経過を裁判所が勝手に入れかえたうえで「客観的に不可能」とまでは言えないとしているのです。そして、きわめつけは、被害女性から検出された精液が被告人のものとは認められていないのに、被告人を強姦罪で有罪としたのです。信じられません。開いた口がふさがりませんでした。
この点、控訴審はあらためてDNA鑑定をした結果、被告人とは別の男性の精子が検出され、被告人のものは検出されていないとしています。そして、これは、警察の鑑定結果が被告人のものではなかったことから、虚偽の報告をしてごまかしたのではないかと指摘しています。モリ・カケ事案においてアベ政権がやったことと同じですね。権力(警察と検察庁)がウソとごまかしをしてはいけません。
控訴審判決は精子のDNA鑑定で被告人のものが検出されなかったので、それだけで無罪にできるところを、前述したように、さらに他の論点まで触れて、被告人の無実を完璧に明らかにしています。ついでに、和久本圭介検察官(この人の名前も覚えておきます)が、こっそり鑑定したことを厳しく弾劾しています。
弁護団の座談会は47頁もあり、やや未整理で冗長なところもありますが、それだけに臨場感をもって苦労話を追体験できます。
そもそも鹿児島一の繁華街である天文館で、たとえ夜中の2時であり、裏の路地であっても、路上強姦が果たして可能なものなのか・・・。弁護士たちはその時間に現場に立ってみます。そして、街頭や店舗の監視カメラの映像を求めて聞き込みに歩くのです。なるほど、弁護人の無罪立証のためにはそこまでしなくてはいけないのですね・・・。今村核弁護士をテーマとしたNHKの「ブレイブ」を思い出しました。
それにしても、逮捕されてから保釈が認められるまで、被告人が2年4ヶ月も拘留されていたというのは裁判所は本当はひどいです。DNA鑑定で被告人とは別の男性の精子が出たことが分かってからかのことです。いま、モリトモ事件でカゴイケ夫妻が半年以上も拘置所に入れられています。逃亡も証拠隠滅もまったく心配ないのに、裁判所が保釈を認めないのです。人質司法というより、政治におもねる裁判所を許せません。広島で民商の女性事務局員が否認したら1年以上も拘留されていたことがありました。裁判所は、自分の頭で考えるべきですし、過ちを素直に認めるべきだと思います。本件で一審の安永武央裁判官たちは無罪確定のあと少しは反省しているのでしょうか・・・。
裁判所に青法協会員がいなくなり、裁判官懇話会が消滅してしまって久しくなります。真面目な裁判官は、どうやって励ましあっているのでしょうか・・・。大いに心配です。
いい冊子でした。DNA鑑定の実際を知ることができるなど、実務的にも大変勉強になる報告書です。弁護士のみなさん、ぜひ手にとって読んでみてください。
(2018年4月刊。無料)

2018年5月 1日

きょうも傍聴席にいます

(霧山昴)
著者 朝日新聞社会部 、 出版  幻冬舎新書

法廷傍聴していると、世の中の断面をくっきりとつかむことが出来ます。そして、弁護人席にいると、傍聴席に誰がいるのかはとても気になることです。傍聴席に誰もいないと、法曹三者と被告人しかいませんので、気が楽です。たった一人の傍聴人であっても、傍聴人の眼を意識して手を抜けないね、法令どおりに発言・主張しないといけないな、そう思って緊張するのです。
全国各地の裁判所で法廷を傍聴し、そこで明らかにされた事情を掘り下げていますので、読みごたえがあります。通り一遍の新聞記事ではなく、事件の背景や本質に記者が迫ろうとしているのです。
祖母と母親が絶対君主のように君臨して娘たちを虐待していた家庭。ある日、姉妹が一致して反抗して祖母と母親に包丁を向けて殺害する。信じられない事件が起きています。
私は45年近くの弁護士生活で、担当した被告人が死刑判決を受けたというのは1件だけしか経験がありません。実に重たい事件でした。確定死刑囚として拘置所に入っている元被告人とは盆と正月にハガキのやりとりを続けていますが、年月とともに思考が深まっている気配を感じます。
いま、オウム真理教の「犯人」たちの死刑執行が迫っていると報道されていますが、私は早期執行はすべきでないと考えています。なぜ、あのような残虐な事件を「宗教」団体のメンバーが起こしたのか、もっともっと本格的に究明し、日本社会として大いに議論すべきだと思うのです。麻原を死刑にしてしまったら、そのような深いところでの議論ができにくくなると心配します。
副支店長をつとめる銀行員が5年間に10億円以上を横領・着服していた事件も紹介されています。不倫相手の女性にマンションを買い与え、自宅にも現金3億円があったというのです。銀行の内部監査は厳しいはずなのに、全国各地で相変わらず、昔も今も預金の横領事件が繰り返されています。
私が弁護士になって驚いたことの一つが、この横領事件の多さでした。現金を扱う職場では、どんなところでも横領事件はつきものなのです。目が覚める思いでした。
私自身は残念なことに裁判員裁判事件の弁護人をやったことがありません。それでも、裁判員裁判事件の法廷を傍聴したことがあります。弁護人も検察官も、もちろん裁判官も一生懸命に裁判の意義を説明していました。裁判官も一般市民に手続きを説明するので緊張しているように見受けました。いいことだと思います。
文庫本で280頁ほどの手軽な本です。世の中で何が起きているのかを知るためにも広く読まれることを大いに期待します。

(2017年11月刊。880円+税)

2018年4月28日

弁護士50年、次世代への遺言状

(霧山昴)
著者  藤原 充子 、 出版  高知新聞総合印刷

高知県での弁護士生活が50年になった著者が、その生い立ちから弁護士になるまでの苦闘の日々を振り返っています。
戦前は高等女学校に入ると、戦争たけなわですから、軍需産業へ女子挺身隊として駆り出され、勉強どころではありませんでした。学徒動員で働いていた工場がアメリカ軍の爆撃で焼失し、恩師も亡くなっています。
戦後は、大学に入ることができず、神戸経済大学専門部に入ります。そして、中学教師になるのでした。英語と高等科目を教え、日記は英語で書いていたのです。すごいですね。私もフランス語で日記を書こうかなとチラッと考えたことがありますが、すぐあきらめました。語学の勉強は毎日それなりの時間を確保する必要があるからです。私は読書のほうを選びました。
教師生活1年半のあと、三菱信託銀行神戸支店で働くようになりました。銀行では男女差別と果敢にたたかい、労働組合に婦人部をつくろうと必死でがんばります。銀行内には、男女差別は当然だという声が強くて、著者が支店で活躍するのを心良く思わない上司がいたようです。残念ですが、本当でしょうね・・・。
銀行で与えられた仕事についての不満から、次第に銀行を辞めて法曹界への転身を考えるようになったのです。著者は苦労したあげく司法試験に合格し、司法修習20期生になりました。同期には、江田五月、横路孝弘、高村正彦、そして宮川光治・元最高裁判事がいます。
著者は、原発と同じくアベ改憲は許さないと叫んで訴え、これまでスモン訴訟をはじめとする大型裁判にはいくつも加わっています。弁護士としての50年の歩みは下巻で紹介されていますので、今から楽しみです。
(2017年6月刊。1389円+税)

2018年4月27日

小説・司法試験

(霧山昴)
著者 霧山 昴 、 出版  花伝社

ほとんどの弁護士にとって、司法試験とは悪夢のようなもので、とても思い出したくない、早く忘れ去ってしまいたいものです。ところが、著者は、その悪夢の日々を当時の日記やメモをもとに刻明に再現していきます。
それは、司法試験の勉強って、どうやって何を勉強するのか、授業には出席したほうがいいのか、ゼミでは何をどうやって議論するのか、それがまず明らかにされます。
そして、毎日の味気ない勉強をどうやったら集中して続けることが出来るのか、スランプに陥ったときの脱出法も語られます。たまには息抜きも必要です。アルコールにおぼれないように、健康管理しながら、意気高く、集中力を維持するにはどうしたらよいか。そのときには、笑いだって必要です。ええっ、受験生が笑って過ごしていいのか・・・。いや、むしろ必要不可欠だと著者は断言します。何を、どうやって笑うのか。
ついに試験本番に突入します。試験会場で心を落ち着ける秘訣は何か、もっている実力を過不足なく発揮するには、どうしたらよいのか。体調管理、とりわけ良質な睡眠時間をいかに確保するか・・・。時間配分はどうするか、正解なのか迷ったときの対処法、論文式試験で答案を書きすすめるときの筋道(アウトライン)のたて方をどうするか、そもそも文章を書きなれておくために有効なことはないか・・・。最後に遭遇する口述式試験で、試験官と気持ちよく対話するためにはどんな心構えが必要か。頭が白紙状態になったとき、どうやったら泥沼から脱出するか・・・。条文をおさえ、定義を述べて重要な論点を落とさない、そんな受験生になるためには、毎日、何が必要なのか・・・。
夏に試験勉強をはじめて5月に短答式を受けてなんとか乗り切り、7月の論文式には実力のすべてを出し切って、8月に山歩きをして、9月下旬の口述式試験では、試験官となんとか対話して合格にこぎつけた。そんな苦闘の日々が手にとるように刻明に再現された画期的な本です。
悪夢の日々が目の前によみがえってきます。全国の受験生を大いに励ましてくれると確信しています。480頁もある大作なのに、なんと定価は1500円。価値ある1500円です。ぜひ、手にとって読んでみてください。『司法修習生』(花伝社)の前編にあたります。
(2018年4月刊。1500円+税)

2018年3月28日

ライブ講義・弁護士実務の最前線

(霧山昴)
著者 東京弁護士会法友全期会 、 出版  LABO

これはすばらしい。もちろん内容もいいし、本当に勉強になりますが、編集がすばらしい。表や写真のつかい方、カコミ記事の工夫など、編集も業と自称している私ですが、これは良く出来ていると驚嘆しました。
内容は4つのテーマですが、私には会社法とシステム開発をめぐる話は無縁ですので、パスしました。
第1講のGPS操作についての亀石倫子弁護士の話は別なところでも読みましたが、その語りが明快なので、実によく分かります。いったいGPS事件で弁護士報酬はいくらもらったのかなという下世話な関心を前からもっていましたが、報酬ゼロで着手金30万円を弁護団6人で分配して1人5万円ほどだということです。ただし、実費100万円は本人に負担してもらえたそうです。こんな事件だったら、私も同期の弁護士に呼びかけられたら手弁当で参加します。だって勉強になるし、同期で刺激しあえるじゃないですか・・・。
アメリカの連邦最高裁が前例のないGPS捜査は憲法違反だという判決を出していたのだそうです。でも、日本でもすぐに同じような判決がもらえるほど世の中は甘くありません。そして、先行事件では、GPS捜査では問題ないという判決が出てしまいました。
亀石弁護士たちは、GPSを実際に車に装備してラブホテルや病院の駐車場に置いて誤差を調べました。そして最高裁の弁護では、紙の文章を読みあげるのではなく、裁判官の目を見て弁論したのです。
実は、私も一般民事事件で最高裁の法廷で2回弁論したことがあります。どちらも逆転敗訴判決になったのですが、せっかくの機会ですので10分近く口頭弁論をしましたし、その場には東京で学生をしていた私の子どもたちを傍聴させ、社会科見学の機会としました。
亀石弁護士は、弁護団の作り方と運用についての工夫も語っていて、とても参考になります。亀石弁護士は、チームリーダーとして、人一倍の仕事をしたそうです。また、毎回の弁護団会議にお菓子持参だったとのこと。先ほどの5万円は、これに消えたのでしょうね・・・。
第2講の竹花元弁護士のメンタルヘルスと労働審判の話は、とても実務的で、ものすごく勉強になりました。ともかく詳しいのです。86頁も使って、様々な角度からアプローチし、実務的な問題点を解明しています。
会社側の代理人として訴訟に応じるときには、判決までいくと事件名として会社の名が公表されるという問題があることを依頼者である会社には知らせておくべきだということも参考になります。
メンタルヘルスの場合には、職場復帰が容易ではありませんし、会社側による休職命令も軽々しくは出せません。
本分250頁で2830円(単価のみ)というのは高いようですが、私などは前記2つの講義を受けただけでも十分にもとをとった気がしました。
(2018年2月刊。2830円+税)

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