弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

司法

2018年1月15日

明るい失敗


(霧山昴)
著者 原 和良 、 出版  クロスメディア・パブリッシング

 いい本です。読んでいるときから、気持ちが軽くなっていき、読み終わったときには、さっぱりした気持ちになって、さあ、あすはどんなあしたが待っているかなと期待できるようになります。軽い本です。200頁の本に明日から明るく生きていくヒントが満載です。そうか、そういうことだったのか、自分を振り返ることができます。
 忙しいとは、心をなくすと書く。充実した人生を送ろうとすると、人生は本当に時間がない。人は、世の中で大切にされていない、と感じたとき、やり甲斐や充実感を失い、同時に自分の生きている時間を奪われていると感じ、忙しいという感情をもってしまう。
忙しい人に仕事が集中する。なぜか・・・。本当に忙しい人は、短時間で質の良い仕事を仕上げる努力をする。
 忙しい人が忙しいなかで、長期にわたって効率的に仕事を続けるには必要条件がある。それは心身の健康状態を常に最高レベルに保つこと。
 忙しいと思うときこそ、適当なリフレッシュや休息が必要。
 ビジネスで一番大事なのは、貯金ではなく、他者からの信頼の貯金である。
 大なり小なり、人生には思いがけない災難がふりかかってくる。どんな災難がふってかかろうとも、前進するためには、いったんその災難を受け入れ、そこから前に進むしかない。
 他人(ひと)に助けを求めることが必要なときもある。しかし、自分自身に乗り越える覚悟がなければ、他人は助けようがない。
 弁護士である著者は、離婚事件を見ていて、何が幸福かを決めるのは、社会や他人ではなく、その当事者本人であることをつくづく感じると言います。私も、それは同感です。
 そしてまた、著者は弁護士として、たくさんの逆境を見てきた。弁護士の仕事は逆境を引き受け業とも言える、と言います。
逆境は永遠に続くものではない。どんな嵐も時間の経過とともに過ぎ去っていき、乗り越えることができる。
 まったく私も同感です。私は、付け加えると、辛い思いをした依頼者には、しばらく旅に出たらどうですかと進めています。時と場所を変えてみると、なあんだ・・・、なんで、あんなに苦しんでいたのだろう・・・と、自分を客観的にとらえ直すきっかけをつくってくれることがあるのです。
 失敗したときこそ笑いましょう。著者のこの呼び替えに私は大賛成です。人生には笑いが必要です。辛さや悔しさを乗り越えるためには、笑い飛ばす力が欠かせません。
 佐賀県出身で、東京で大活躍している弁護士の本です。映画『それでもボクはやっていない』のモデル事件となった痴漢冤罪事件の弁護人でもありました。一読を強くおすすめします。

(2017年10月刊。1380円+税)

2017年12月 1日

反核・平和を貫いた弁護士・池田眞規

(霧山昴)
著者 池田 眞規 著作集刊行委員会 、 出版  日本評論社

昨年(2016)11月に88歳で亡くなった池田眞規弁護士を追悼する著作集です。その一生涯を反核・平和のために過ごしたと言ってよい池田弁護士は世界中に知己をつくっていたようです。
問題を多方面から見ながら生まれる豊かな発想、ときに周囲をはらはらさせる天衣無縫、自由な行動、そしてそれを進める強い意思と頑固さ。
池田弁護士は、ものすごいバイタリティーで世界中を駆け巡りました。
この本の圧巻は、反核・平和のための世界法廷での池田弁護士の活躍ぶりを紹介した部分です。このとき、日本の外務省は核兵器廃絶に反対する立場から、陰に陽に足をひっぱったようです。本当に残念なことです。たとえば、広島・長崎の市長は世界法廷に出廷するとき、証人として意見は言えないと外務省はタガをはめようとしました。とんでもないことです。しかも、両市長の発言内容への干渉もしたのです。
外務省は両市長に対して事前に発言原稿を見せろと求め、それに応じた長崎市長は12回も訂正を求められた。他方、広島市長は、「原稿ができていない」と言って逃げた。また、事前に公表するのは、裁判所に対して失礼にあたると言って逃げきり、当日は、核兵器の使用等は違法だし、国際法にも反すると陳述した。日本の外務省は政府の方針を忠実に実践しているだけとは言え、あまりにも情ない限りです。アメリカの核兵器によって日本の平和が守られているなんて神話に取り込まれすぎです。
池田弁護士は百里(ひゃくり)基地の訴訟にも関与しています。一審で敗訴したとき、原告団が弁護士たちを次のように言って励ました。
「裁判だから、勝つこともあらあな・・・。敗けることもあらぁな、へへへ・・・」
自衛隊が憲法違反かどうか調べるため、防衛庁(当時)の統幕部長や空幕長(源田実)を証人として呼んで法廷で質問しています。合計9人です。そして、二審でも12人もの学者などを証人として調べています。すごいことです。
いま、全国で安保法制が憲法違反だということを明確にさせる裁判が係属中です。ぜひ裁判所に明確な違憲判決を出してほしいものです。
故池田弁護士の遺思を受け継ぎ、次世代に反核・平和の動きの橋をつないでいくうえで、大いに役に立つ追悼集だと思いました。
(山形・T氏)

2017年11月26日

知らぬは恥だが役に立つ法律知識

(霧山昴)
著者 萩谷 麻衣子 、 出版  小学館新書

弁護士生活も40年を過ぎてしまうと、自分の法律知識は果たして大丈夫なのかと、つい不安になってしまうことがあります。いえ、認知症の心配をしているのではありません。そうではなくて、新しい法律がどんどん生まれていて、法改正も次々になされているので、ちゃんと追いついているのか不安になるのです。
それで、ときどき、こんな一般向けの法律解説書を読んでみます。すると、やっぱり教えられることが多々あります。
自転車は、車両の一種である軽車両にあたるので、お酒を飲んで運転したら飲酒運転が成立するとのこと。恥ずかしながら、私は知りませんでした。そして、自転車の運転に青切符的な制度が導入されている。自転車についても賠償保険に入っておかないと大変です。
痴漢と間違われたとき、堂々と立ち去れる状況なら立ち去るのがベスト。下手に駅長室に入ってきちんと事情を説明して冤罪だと分かってもらおうとすると、現行犯逮捕されたとして勾留されることがあるのです。怖い世の中です。
過払金の返還について、「消費者問題に取り組む弁護士たちが、苦労の末に勝ち取ったもの」だと著者は正しく評価しています。本当にそのとおりです。過払金の取戻は全国のクレサラ問題対策協議会のメンバーの血と汗の結晶だったのです。
未払残業代の請求について、先日、相談を受けました。2年間の時効の問題もありますが、残業したことをどうやって立証するかがポイントになります。記録、メモ、タコグラフなど、なにか手がかりになるようなものがほしいです・・・。
不倫の慰謝料の相場を、この本は300万円から400万円としています。これは合計金額で、その内訳を夫が200~250万円、愛人が100~150万円とします。福岡でも同じようなものではないでしょうか・・・。
離婚不受理届について、6ヶ月という有効期間がなくなっていることを初めて知りました。取り下げ申請するまで効力があります。
死後離婚というのは姻族関係終了届です。姻族の了解を得る必要はなく、いつでも提出可能。
不倫した社員をそれだけで懲戒処分することは出来ない。何らかのトラブルが起きて業務に支障をきたしていれば別だが・・・。
テレビでコメンテーターしている女性の弁護士のようですが、私も勉強になりました。
(2017年10月刊。780円+税)

2017年11月22日

汚染訴訟(上)(下)

(霧山昴)
著者 ジョン・グリシャム 、 出版  新潮文庫

アメリカの若い女性弁護士が進路選択に苦悩していく姿を描いた司法小説でもあります。いま、日本では、地方に根ざして弁護士活動をしてみようという若手弁護士が急減しています。いまや雪崩をうってビジネス界へ一目散という雰囲気のようで、怖い気がします。
この本に描かれているように、ビジネス弁護士は、下手すると、へとへとになるまで超こきつかわれて、しかも、実は悪(わる)の手伝いをさせられていたということになりかねません(もちろん、すべてだなんて決して言いません。超高給取りの一部に、そんな弁護士がいるようです、と言っているのです)。
なんのために弁護士になったのか、弁護士として何を生き甲斐にするのか、主人公の女性弁護士は真剣に悩んでいます。ぜひ、日本の若手弁護士も同じように悩み、そのうち何人かは、ビジネス弁護士から華麗なる転身をとげてほしいものです。
この本の主人公は、ついに、ニューヨークではなく、超高級取り(年俸16万ドル、1600万円を提示されます)ではなく、アメリカのド田舎で年3万9000ドル(390万円)の給与で働くことを選択したのでした。
「お願いですから、助けてください。私たちを助けてくれる弁護士さんは、あなた以外にはいません。石炭会社を相手にして戦おうとした勇敢な弁護士さんは、あなただけなんですから・・・」
石炭会社、つまり○○鉱山ですね、は森林を大規模に破壊して地域の環境を破壊するうえ、働く労働者をじん肺にし、その補償をしないで切り捨てる。医学的立証ができない状況に追いやり、証拠隠滅を図るのです。そのため、強力な法律事務所をかかえています。
労働者たちは会社に反抗しようという気力を失っているし、孤立している。労働組合はとっくの昔になくなってしまった。わずかな労働者を原告として裁判をしていた弁護士には尾行がつき、盗聴され、ついには不可解な事故で死んでしまう。
さあ、そんな大変な現場に、まだ弁護士としての力量もない、都会育ちの女性が弁護士としてやっていけるのか・・・。
さすがジョン・グリシャムです。ぐいぐい引っぱって読ませます。
ケンタッキー州に本拠を置く地方住民法律センターに取材したり、NPO法人に取材して出来あがった本のようですから、大変な迫力があります。旅行の友の文庫本として、一読をおすすめします。
(2017年10月刊。1600円+税)

天神で韓国映画「密偵」をみてきました。日本の統治下にあった朝鮮が舞台です。日本警察の下で働く朝鮮人が二重スパイのようになって活躍するのですが、日本警察が朝鮮独立運動の志士たちを拷問するシーンはとても残虐です。小林多喜二を拷問死に追いやった特高警察を思い出しました。
朝鮮半島を植民地として支配する日本の醜い姿が描かれています。史実をベースにしたフィクションですが、爆弾で世の中を変えようとしたこと自体は本当にありました。今の自爆テロと共通したところがあります。でも、結局のところ暴力ではうまくいくはずがありません。日本人として大いに考えさせられる、いい映画でした。

2017年11月14日

破天荒弁護士クボリ伝

(霧山昴)
著者 久保利 英明・磯山 友幸 、 出版  日経BP社

私の先輩になりますが、まだまだ若い、現役バリバリの弁護士です。
日本一訪問した国が多い弁護士。なんと170ヶ国。私の自慢はもっとささやかです。日本全国、行ってない県はありません。
日本一著作の多い弁護士。本書が76冊目にとのこと。巻末に、そのタイトルが紹介されていますが、私が読んだのは数冊だけだと自覚しました。私も自費出版の小冊子を含めて40冊ほど刊行していますが、せいぜい半分ですね。
よく働き、よく遊べ。これは真似できません。なにしろ著者は、年に5週間(夏3週間、冬2週間)も、海外へ出かけているのです。私も30歳代から年に1回は海外旅行してきましたが、最長40日で、あとは長くて1週間から2週間です。とても著者にはかないません。
23期司法修習生の終了式のとき「騒動を起こした」首謀者として罷免された阪口徳男修習生について、この終了式に携帯用テープレコーダーを持ち込んでいたのは著者だったことを初めて知りました。阪口修習生の発言時間はわずか1分13秒間だったのです。明らかな冤罪事件です。これも権力犯罪ですよね。
弁護士とは闘争業だ。法律という「権力の言葉」を操りながらも、弱者の側、正義のある側に寄り添って、より良い社会を実現するのが弁護士の役割。目的と手段に正義を要求する。単なる法律解釈から一歩も二歩も踏み出して、戦略を練り、戦術を工夫して、武器を改良し技量を練磨して、依頼者の思いに応えるのが弁護士の仕事。必ず解決法を明確に提示する。
社長と専務(この二人は親子)を同時に解任するという離れ技(わざ)を実現したというのには驚きました。綿密に計画を立て、入念に予行演習して成功したとのこと。さすがです。そして、取締役会のスタートと同時に社長室と専務室に鍵をかけて入れないようにしたのでした。うむむ、見事ですよね・・・。
目立った存在になってから、著者は東京地検特捜部から狙われたことが2度もあるとのこと。さすが大物です。そして、そのとき、裁判官面前調書として尋問を受けたのでした。いやはや、この手があったのか・・・。と驚きました。私が弁護士になった40年以上も前のことですが、同じように裁判官面前調書を活用するという話をしていたのを懐しく思い出してしまいました。
ヤクザや総会屋だけでなく、ときには依頼者の側に立って国家権力と対峙する。それが他の職業では味わえない弁護士の醍醐味である。
著者が1日1食主義だというのに驚きました。タバコを吸い、酒は毎日欠かさず、塩分もカロリーも紫外線も気にしない。嫌なことはせず、やりたいことだけする。
新しい弁護士の活躍できる分野を次々に開拓していった著者ならではの意気込みあふれた本です。後輩にあたる私も、いささか発奮してしまいました。多くの若手弁護士に一読をおすすめします。
(2017年11月刊。1700円+税)

2017年11月 7日

合理的配慮義務の横断的検討

(霧山昴)
著者 大分県弁護士会 、 出版  現代人文社

すごい本です。私は、心底から驚嘆しました。この本を私が手にとったのは10月末に大分市内で開かれたシンポジウムの会場です。
障害者権利条約が2006年に国連で採択され、日本は2014年に批准した。そして、前年の2013年に障害者差別解消法が成立し、2016年4月に障害者雇用促進法が改正・施行された。そのなかで「合理的配慮義務」が公法上の義務として規定されている。
この本は、障害者法制における「合理的配慮」の現状と課題を確認し、その合理的配慮の視点から、その他の法分野についての裁判例に至るまで広く分析・検討していて、まさしく「チャレンジングな試み」となっています。
この本のサブタイトルは「差別・格差等をめぐる裁判例の考察を中心に」とあり、本当に広い視野で問題点を網羅的にすくいあげ、そして、それに対して的確なコメントを付しています。しかも、鋭い問題提起をするだけでなく、実務的にも大変役立つ実務的手引書になっています。実際、私は本書にあるようなケースで法律相談を受けたばかりでしたので、すぐに役立ちました。私が実践的に役立ったところから説明しますと、本書(299頁以下)には、「不動産取引において心理的瑕疵が問題になる場面」という項があり、「心理的瑕疵」を扱った判例を紹介し、コメントしています。
「心理的瑕疵」とは、その物件で自殺や自然死があったときの扱いです。私も相談者の息子が東京の賃借マンションで自殺した案件について代理人として対応したことはあったのですが、「人夫出し」企業の社長から、長期滞在型のホテルで突然死(心筋梗塞)した従業員について、そのホテルから50万円もの弁償要求を受けたというので、法律上の見解を求められたのでした。
本書は、「階下の部屋で半年以上前に自然死した者がいる」というとき、そのような事実は「社会通念上、賃貸目的物にまつわる嫌悪すべき歴史的背景等に起因する心理的欠陥に該当するものとまではいえないから、かかる事実を告知し、説明すべき義務を負っていたものとは認め難い」との判例(東京地判、H18.12.6)を紹介しています。私にとっては、大変参考になる判例であり、コメントでした。
日本の障害者差別解消法や障害者雇用促進法で規定された合理的配慮義務には、私法上の効力は認めておらず、合理的配慮義務違反に対する救済は、公序良俗・信義則などの民法上の法理を理由として当該行為について無効ないし権利濫用を主張するか、あるいは債務不履行ないし不法行為を理由とする損害賠償請求によって解決するほかない。この点は、合理的配慮の不提供に対する一種の履行請求が認められるアメリカなどと大きく異なっている。
合理的配慮論を障害者分野以外の法分野に適用ないし展開することは不可能ではない。その視点から、本書では、労働法分野(人事、セクハラ雇用平等、母子保護、非正社員、外国人労働者など)、その他の性的少数者、信仰、消費者契約についてまで広く合理的配慮論を展開しています。その視野の広さには思わず息を吞むほど圧倒されました。
ところで、合理的配慮とは、障害者が日常生活や社会生活において受ける様々な制限をもたらす原因となる社会的な障壁を取り除くため、その実施にともなう負担が過重でない場合に、特定の障害者に対して個別の状況に応じて講じられるべき措置です。
なお、最近では「障がい者」と表記することが多いことを知ったうえで、本書では法律上「障害者」になっているので、そちらに統一したという断りも明記されています。
私は、この本をシンポジウム会場入口で受けとりました。堂々350頁もある大作です。判例もたくさん紹介されていて、しっかり読みごたえがありますから、シンポジウムそっちのけで読みふけってしまったのでした。そして、千野博之弁護士を先頭とする大分県弁護士会のシンポジウム部会の理論的レベルの高さはほとほと敬服しました。
九州のなかでは何かと異論を唱えることも多い大分県弁ですが、本書のような理論書をまとめあげる集団的力量の高さを私は率直に高く評価したいと思います。
実務的にも大いに価値ある本として一読を強くおすすめします。
(2017年10月刊。3600円+税)

2017年10月27日

弁護士日記 タンポポ

(霧山昴)
著者 四宮 章夫 、 出版  民事法研究会

倒産法の分野で高名な大阪の弁護士が日記を本にしたものです。これが3冊目です。
この本を読んで、著者が私と同じ年に生まれていることを知りました。私と違って、8年間の裁判官生活のあと、弁護士になっています。ですから私と同じ団塊世代です。
団塊世代について、「団塊の世代こそ、戦後の一時期、花開いた民主主義を満喫できた、幸せな時代を生きた世代であった」としています。なるほど、そうなのかもしれないと私も思いました。ただ、「幸せ時代」を団塊世代が独り占めしてはいけないとも考えます。やはり、後の世代になんとかして平和な時代を受け継がれるようにするのも団塊世代の義務ですよね。
その点、著者はこの日記のなかで、いくつも需要な指摘をしています。
日本は急激に貧困化している。日本の格差社会は国際金融資本から強制された構造改革がもたらしたもの。日本の富裕層が、グローバル資本の圧力を追い風として、自民党政府に対して構造改革の推進を迫り、積極的に自らの所得の拡大を図り、その結果、日本の格差は拡大した。
金持ち優遇税制は、所得税と住民税の最高税率が1986年に88%だったのが、1994年には65%、2006年からは50%というようにあらわれている。1億円以上の報酬を得ている会社役員が408人もいる。
新自由主義と呼ばれる経済運営の手法は、経済規模を拡大し、資本家を喜ばせるだけの政策にすぎず、もたらされる利益が労働者に還元されるというのは誇大宣伝にすぎない。
連合(日本労働組合総連合会)は、「高プロ」に同意するなど、全国の労働者を裏切っている。
以上のような著者の指摘に、私はまったく同感です。
ロータリークラブの会員が1997年に13万人だったのが、2015年に9万人にまで減っているというのを初めて知りました。これも日本の中小企業の衰退を反映しているのではないでしょうか・・・。
著者は、裁判所、調停委員に対して苦言を呈しています。この点も、私は同感するところがあります。裁判所は伝統的に権力と大金持ちに甘いですが、今も同じです。
家庭裁判所の裁判官の劣化は著しい。調停委員にしても、当事者の主張に十分に耳を傾けず、自分の意見を押しつけようとするばかりだ・・・。
著者は最高裁長官が司法権の独立を自ら踏みにじっていたことを厳しく批判しています。私も前に指摘している田中耕太郎のことです。
田中耕太郎は自衛隊違憲の判断をした伊達判決をひっくり返すためアメリカ大使と面談し、その指示を受けて、裁判官の評議内容まで全部もらしていたのです。この事件ではアメリカは実質的な当事者ですが、その一方当事者から判決内容についてことこまかく打合せ(実際には指示されていた)をしていたというわけです。こんな男が最高裁判官だったというのですから軽蔑するしかありません。まさに唾棄すべき男です。今からでも遅くありません。最高裁長官だったことを取り消すべく、何らかの措置を今の最高裁長官はとるべきです。そそて、国民に向かって謝罪すべきです。それは、ハンセン病患者の法廷を非公開でしていたことについて、その非を認めたのと同じ措置をとるべきだということです。やろうとすればやれないはずありません。なにしろアメリカ政府側の公文書公開によって明らかとなった事実なのですから。そのような措置をとらない限り、今の最高裁には司法権の独立を唱える資格はないということになります。
著者は6年前に電車に乗っていて脳梗塞の発作を起こしたとのことです。幸い後遺障害がないので、本書のように書くことも弁護士の仕事も出来ているとのこと。これからも健康に留意されて活躍されんことを心より祈念します。
(2017年10月刊。1300円+税)

2017年10月26日

PC遠隔操作事件

(霧山昴)
著者 神保 哲生 、 出版  光文社

ひところ、大いにマスコミで騒がれた事件の詳細を明らかにした本です。
この本を読んで私が驚き、かつ怖いと思ったことが二つあります。その一は、インターネット上では簡単に他人になりすますことが出来ること、そして、警察だって簡単には見破れないということです。そして、その二は、やってもいないのに、自分が犯人だと「自白」してしまう人が、今もこんなに多いのか、また、警察は罪なき人を容易に「犯人」に仕立てあげるものなのだ、ということです。
なりすまし事件の犯人は、飛行機に爆弾を仕掛けたと脅しました。毎月のように飛行機に乗る私としては決して他人事(ひとごと)ではありません。世の中には言ってはならない「冗談」があるのです。
真犯人の母親は、一緒に住んでいて、本人がシラを切っているのに、ずっと疑っていたということです。さすがに母親の直観は鋭いですよね。
その生育過程には、いろいろあったようですが、真犯人は、いってしまえば、フツーの社会人でした。そんな人が社会への挑戦(リベンジ)のようにして、してはいけない「冗談」(許せないレベルです)をしてしまったのです。人を殺してないのだからいいだろうということで許せるものではありません。
550頁もの大作ですが、息を詰めて一気読みしてしまいました。
騙された弁護人は私と同世代の、大学生のとき以来よく知っている高名な刑事弁護のプロです。弁護人としては、本人の言うことを尊重しなければいけませんので、真犯人が告白したとき大変なストレスを抱えたものだと同情します。
自分のパソコンが何者かによって遠隔操作され、犯罪に利用される。そして、その「被害者」たちが、次々に警察に逮捕されたときに、やってもいない犯行を「自白」していった。そのうえ、何の落ち度もない一方的な「被害者」が、その実名を広く報道されたことによって多大な二次被害にあっていた。
いったん「犯人」(被疑者)として報道されると、あとで無実だと判明したとしても、その受けたダメージの回復は容易ではありません。
なぜ、やってもいない人が「自白」してしまうのか。その理由の一つとして、次のようなケースがありました。つまり、同棲中の女性が自分の知らないところで犯行したのだと思い込み、その彼女をかばうために警察の言いなりにウソの自白をしていたのでした。
うむむ・・、なんとも身につまされますよね。警察は、そんな「犯人」(実は無実の人)を逮捕したとしてマスコミに大きく報道させます。江戸時代の「市中ひきまわしの刑」のように、テレビカメラのライトにあて放映させるのです。たまったものではありません。
真犯人は、結局、懲役8年の実刑になりました。少年時代のいじめ、成人してからの刑務所での暴力的な仕打ちを受けたことが、社会への「報復」に走らせたようです。他人(ひと)に優しくすることが日本社会全般に乏しくなったことがその背景にあるような気がしてなりません。ネット社会の危険な落とし穴を明らかにする本だと思いました。
(2017年5月刊。2400円+税)

2017年10月24日

憲法学からみた最高裁判所裁判官

(霧山昴)
著者 渡辺 康行・木下 智史・尾形 健 、 出版  日本評論社

法律時報の連載が一冊の本にまとめられていますが、田中耕太郎のところを読んで、正直いって、がっかりという以上に、あまりにひどいと、情なく思いました。田中耕太郎という男は(私は、この男を軽蔑していますから、呼び捨てします)、かの砂川事件の裁判で司法の独立をなげ捨て、実質的な裁判当事者であったアメリカに裁判の合議状況の秘密をもらしたうえ、その指示どおりに判決を書きあげたのです。にもかかわらず、評者(尾形健)は、そのことに知ってか知らずか(知らないはずはないでしょう。万一、知らなかったとしたら、学者としてあまりに恥ずかしいことです)。一言も触れず、「不世出の法律家」などと尊称をつけています。読んでいる私のほうが恥ずかしくなりました。やめてください。
私は田中耕太郎という恥ずべき裁判官が日本にいたことは日本の戦後司法の最大の汚点だと考えています。にもかかわらず、タイトルは「不撓の自然法論者」となっているのです。砂川事件判決の裏の事情が判明するまでなら許されたタイトルでしょうが、今では裁判官罷免事由に該当しますし、退職金の返納を命じ、もし肖像画が裁判所に掲げられているのなら、直ちに取り外すべきものです。
私は、このコーナーでは本の非難をしたことがありません(今後もするつもりはありません)が、最高裁判所の裁判官の一人に、法曹界に身を置くものとして絶対に許せない人物を無条件で評価する本を見てしまった以上、書かざるをえませんでした。
この田中耕太郎以外については、私も怒りを静めて読み、大変勉強になりました。
この本のなかで私の印象に残っている最高裁判事としては滝井繁男判事と泉徳治判事です。「過払い」バブルを生んだ滝井判事は、憲法の理念にそっていない法律はもっとあるのではないかと自戒をこめて指摘したとのことです。まったく同感です。
そして、泉徳治判事は、典型的なキャリア裁判官のエリートコースを自ら歩んでいながら、憲法の求める司法の役割を強調しました。このコーナーでも紹介しました『一歩前へ出る司法』には深い感銘を受けました。
最後にもう一回、繰り返します。学者には、最高裁判所のあり方を、もっと端的に遠慮なく批判してほしいと思います。アメリカの指示するとおりに書き上げた判決をあれこれ解釈するだけって、本当にむなしいことではありませんか・・・?
(2017年8月刊。4600円+税)

2017年10月18日

「人間力」の伸ばし方

(霧山昴)
著者 萬年 浩雄 、 出版  民事法研究会

萬年節(まんねんぶし)が炸裂している本です。なにより驚かされるのは、著者はこの25年間、帝国データバンクの帝国ニュース(九州版)に月2回、「弁護士事件簿」を連載しているということです。私も、この書評は2001年以来の連載になりますし、月1回の全国商工新聞の法律相談コーナーを1989年以来担当していますので、もう28年になります。ですから、お互いに健闘をたたえあいたい気分です。
それはともかくとして、「弁護士事件簿」がそれなりのジャンル別に編集してありますので、大変読みやすくなっています。それこそ、経営者にとっても、また若手弁護士にとっても学ぶところの大きい内容になっています。
依頼者の気持ちを共感できるか否か。共感できないなら、受任を断る。自分の主義主張と異なり、事件処理にあたって自分の哲学と違い、説得しても耳を傾けない依頼者と判断したときには、「私は頭が悪いから、私より頭の良い弁護士のところに行ったほうがいいよ」とやんわり言って断る。
なるほど、こんな言い方もあるのですね、今度つかってみましょう。
当方の提出した書面はもちろん、相手方の書面や書証、そして証言調書も全部コピーして依頼者に送る。依頼者にとって、自分の裁判が今どうなっているのか、弁護士として説明するのは当然だという考えから実行している。だから、依頼者と打合せするときには、同じ内容のファイルをそれぞれ持っていることになる。
私もまったく同じ考えで、昔から実行しています。ところが、今なお、それをしない弁護士がいるようです。私には信じられません。
著者は土地境界争い事件はなるべく受任しないようにしているとのこと。たしかに、これは法律紛争というより感情レベルの紛争であることが大半で、法律家泣かせです。ですから、私は、着手金を「弁護士への慰謝料なんですよ」と説明し、納得していただいたら受任しています。
相手方と交渉しているときなど、これ以上、相手と話をしても時間の無駄と思ったときには、深追いせずに中断する。そして、双方とも頭を冷やして、交渉を再開する。
この点も、私は同感です。ダラダラとやっても時間ばかり過ぎていきます。ちょっと間をおいたほうがよいことが多いものです。
著者は毎朝5時に起きて新聞を5紙読んでいるとのこと。これは私も朝5時を6時にすれば同じです。そして、読書タイムは移動するときの交通機関の中だというのもまったく同じです。私のカバンには、常時、単行本が2冊、そして新書・文庫本が2冊入っています。
著者は速読派ではないようですが、私は速読派です。東京へ行く1時間半の飛行機のなかで本を2冊読むようにしています。それも部厚い単行本です。いつだって飛行機は怖いのです。ですから、その怖さを忘れることのできるほど集中できそうな本を選んでおき、機中で必死に集中して読むのです。飛行機が無事に目的地に着いたときには、いつも心の中で「ありがとうございました」とお礼を言うようにしています。なぜ速読するのかというのは、たくさんの本を読みたいからです。世の中には私の知らないことが、こんなにたくさんある。そのことを知ると、ますます多くの本を読んで知りたくなります。要するに好奇心からです。
弁護士の仕事はケンカ商売である。だから、役者的要素が不可欠だし、交渉には計算し尽くしたシナリオと演技で勝負する。
そうなんですよね。私も、最近は大声をあげることはほとんどありませんが、以前は大声をあげることがよくありました。著者は今でも怒鳴りあげているようです。それで、金融村で、「ケンカ萬年」と呼ばれているそうです。今でも、でしょうか・・・。
著者が怒鳴る相手に裁判官もいるとのこと。実際、私も裁判官に向かって怒鳴りあげたい思いを過去に何回もしましたが、勇気もなく、怒鳴ってもムダだろうなと思って怒鳴りませんでした。
思い込みの激しい裁判官、やる気のない裁判官、上ばかり見ていて、重箱の隅をつっつくことしか目にない裁判官、この40年以上、いやというほど見てきました。気持ちの優しい、しかも気骨ある裁判官にたまにあたると、心底からほっとします。
弁護士は嘘をつかない、約束を守ることが信用を築く基本だというのも、まったくそのとおりです。価値ある150話になっています。300頁あまりで3000円。安いものです。若手弁護士にはぜひ読んでほしいものです。
(2017年8月刊。3000円+税)

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