弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

アメリカ

2008年11月18日

ジェローム・ロビンスが死んだ

著者:津野 海太郎、 発行:平凡社

 アメリカのアカ狩りの様子が分かる本です。
 映画「ウェスト・サイド・ストーリー」が上映されたのは、私が中学生の時でした。おそらく3年生だったと思います。新しい友人だった古田君が、「オレはもう3回見た」と言ったのを聞いて驚きました。私も1回は見たのですが、同じ映画を3回も見るなんて、私には考えられもしないことでした。そして、古田君は、ジェスチャー入りで歌をうたいはじめるのです。このシーンは、なぜか今でもよく覚えています。
 この本は、その『ウェストサイド物語』 の監督兼振付家だった人が、アカ狩りのとき密告者になった状況を描いています。「密告者」という点では、エリア・カザンが有名です。『波止場』や『エデンの東』の名監督として有名なのですが、密告者として、よぼよぼの老人になって死ぬまで非難を浴びていました。
 ロビンスは、1953年2月にワシントンの非米活動委員会室で証言し、5月にニューヨーク連邦裁判所の法廷で証言した。
「あなたが共産党員だったという情報は正しいですか?」
「正しいです」
「党員だった期間は?」
「入党申請したのは1943年のクリスマスのころ。初めて会合に出席したのは1944年春。最後に出席したのは1947年春です」
「グループにいた人の名前をあげてください」
 ロビンスは、その問いに答えて、次々と人の名前をあげていきます。これでは密告者と呼ばれても仕方がありません。
 非米活動委員会は、すべてのアメリカ人に、のっぴきならない場に追い込まれた左翼やリベラル派のぶざまなふるまいをリアルタイムで見せつけるのが狙いだった。
 アカ狩りの背景として、1948年6月にベルリン封鎖、1949年8月にソ連が原爆実験に成功、1949年10月に中華人民共和国の成立、1950年6月に朝鮮戦争の勃発があげられる。それまで戦勝気分もあって未来に対して楽観的だったアメリカ社会の空気が一変し、ソ連による原爆攻撃と共産主義による世界制覇への恐怖が広がった。機を逃さず、非米活動委員会は、共産主義者はソ連のスパイとみなし、すべて死刑ないし終身刑に処すべし、という法案を提出した。この脅迫に、ハリウッドの世論は屈してしまった。
 エリア・カザンは、アメリカでもっとも有名な監督だった。誰もが、彼こそはその影響力で非米活動委員会と戦えるだろうと思っていた。なのに、カザンは屈してしまった。
 ロビンスに対して、質問した下院議員は次のように問いかけた。
 「ここで証言して、ほかの人びとの名前を挙げた人をイヌとか密告者と呼んだ者がいる。もちろん、あなたは、他の人の名前をあげた以上、その部類に入れられることは覚悟していますよね?」
「はい」
 非米活動委員会は、彼らを地獄の底に突き落とすこと、その裏切りと自滅の現場をマスメディアを通じてアメリカ国民にしつこく見せ続けること、みせしめと宣伝と愛国イデオロギー教育、これが目的だった。
 ロビンスが若いころ、ナチスの反ユダヤ主義を恐れるアメリカのユダヤ人の多くが、スターリンのソ連に親愛感を抱き、そのうちの少なくない若者がアメリカ共産党に入党した。
1919年の結成当初から、アメリカ共産主義の中心にロシア系のユダヤ人移民がいた。
 1930年代のアメリカ社会で、ユダヤ人差別が比較的少ない場が2つあった。芸能界と共産党である。そして、ロビンスは同性愛者(ゲイ)だった。それこそがロビンスにとって最大の問題だった。ロビンスに対する脅迫の核心は、ゲイであることを暴露するということだったのだ。その当時、公然とゲイだと名指しされるのは、今考えるよりずっと致命的なことであった。
 非米活動委員会によるアカ狩りは、単なる反共キャンペーンというだけでなく、ニューディールの申し子世代に対する集団的リンチであった。それはニューディール時代に冷や飯を食わされた共和党や右派勢力による報復という性格をもっていた。いやあ、そんなこととはちっとも知りませんでした。そうだったんですか……。
 いまさらアカ狩りでもあるまいという気がする。しかし、9.11同時多発テロ以来のアメリカ社会の空気は、急速に変化し、自分と異なる人間の在り方に対して、またたく間に不寛容になっていった。これでは、とうていアカ狩りが過去のものになったとは言えない。
 なるほど、なるほど、そうなんですよね。「自由・平等の国」というイメージのアメリカですが、実際にはひどく民主主義に反することをたくさんやっています。日本にも乗り移ってきましたが、毛色の変わった人をすぐ異端視して排除しようとする不寛容な社会になりつつありますよね。日本で死刑賛成の人が増えているというのも、そのあらわれだと私は考えています。困ったことです。つい最近、国連は日本政府に対して、世論の動向にとらわれず死刑廃止に向かって行動するように、また、国民に対して死刑廃止の意義をよく普及するよう勧告しました。私も、まったく同感です。
(2008年6月刊。2800円+税)

2008年11月 7日

シャドウ・ダイバー(上)

著者:ロバート・カーソン、 発行:ハヤカワ・ノンフィクション文庫

 水深が20メートルより深くなると、判断力と運動能力が低下する。これは、窒素酔いとよばれている状態だ。深く潜れば、窒素の作用はいっそう顕著になってくる。沈没船のある水深30メートル以上になると、条件は著しく不利になる。
 もし、何かが起きても、ただちに海面へ泳いであがることはできない。深い海で一定の時間を過ごしたダイバーは、水圧に身体を慣らしながら、あらかじめ決められた時間をおいて、徐々に上昇していかなければならない。空気が足りずに窒息することが分かっていても、そうしなければならない。パニックに陥って、「太陽とカモメ」を目ざして一目散に浮上するダイバーは、ベンズとも呼ばれる減圧症を発症する危険がある。重症のベンズでは、身体に障害が一生残ったり、麻痺したり、死に至ることもある。重症のベンズの苦痛にもだえ苦しみ、悲鳴を上げる患者を目にしたことのあるダイバーは、長時間のディープ・ダイビングのあとで減圧せずに浮上するよりは、いっそ海底で窒息して死ぬ方がましだと口をそろえて言う。
 水深40メートルでは5気圧となり、ほとんどのダイバーの頭は正常には働かない。手先がぎこちなくなり、紐を結ぶといった簡単な作業にも苦労する。知っていることでも、苦労して思い出さなくてはいけない。
 さらに、50〜55メートルに降りると、幻覚を見ることもある。
 水深60メートル以上になると、窒素酔いによって、恐怖、喜び、悲しみ、興奮、失望などの感情を、いつものようにうまく処理できない。
 急速に浮上すると、気圧は急激に下がる。それによって、組織に蓄積した窒素ガスは、ソーダのボトルのふたをポンと開けたときのように、大量の大きな泡となる。この窒素の大きな泡が、ディープ・ダイバーの憎き敵である。血流の外側で大きな泡が生まれれば、それが組織を圧迫して、血液循環を妨げる。関節内部や神経のそばなら激痛を引き起こし、痛みは数週間、悪くすれば終生つづく。脊髄や脳で発生した泡は、身体の麻痺や致命的な発作の原因となりかねない。大量の大きな泡が肺に流れ込むと、肺機能が停止してチョークスと呼ばれる障害が起き、呼吸が停止する恐れがある。大量の大きな泡が動脈系に入り込むと、空気塞栓症という肺気圧障害を陽子お越し、卒中、失明、意識不明もしくは死に至ることもある。
 水深60メートルに25分間もぐったダイバーは、1時間かけて海面へ浮上する。まず水深12メートルで5分間停止し、ゆっくり9メートルまで上がって、そこで10分間待ち、そのあと6メートルで14分、3メートルで25分を費やす。減圧のための時間は、もぐった深さと時間で決まる。時間が長くなるほど、水深が深くなるほど、減圧停止の時間は長くなる。2時間もぐったとすると、なんと9時間もの減圧が必要になる。
 うひゃーっ、す、すごーいですね。ダイビングってこんなに危険な行為なのですね。そういえばスキューバダイビングを趣味とする私の姪っ子が沖縄に飛行機で行ったら、その日は海中に潜れないって言ってました。
沈没船を見つけて、そこに入り込んだダイバーは、死の危険と隣りあわせだ。出口を見つけられなかったら溺れて死ぬ。出口を見つけても、それまでに空気を使い果たしたら、適切な減圧をするための空気がもはやないことになる。
大西洋の沖の海底でドイツ軍のUボートを発見したダイバーの話です。ダイビングって、こんなに死の危険と隣り合わせのものだということを知って、大変驚いてしまいました。
 
(2008年7月刊。700円+税)

2008年10月28日

イラク米軍脱走兵、真実の告発

著者:ジョシュア・キー、 発行:合同出版

 陸軍に入るとき、海外に送られることはないと徴兵担当者は固く約束した。きみはアメリカ本土で橋を建設し、夜は毎日、家族と一緒に過ごせる、と。ところが、実際に軍隊に入って練兵担当軍曹から言われた言葉は、次のようなものだった。
 お前らがサインした契約書に書いてあったことは、みんな大嘘だ。そんな約束は、すべて破られるだろう。
 うん、うん、そうなんです。軍隊って、どこの国でも大嘘つきなんですよね。
 アメリカ陸軍の将校と兵士にとって、イラク人は決して人ではなかった。イスラム教徒は決して市民ではなかった。ぼろ頭であり、砂漠のニガーであり、軽蔑すべき奴らだった。人権があるなんて、誰も微塵も考えなかった。
イラクでは、家宅捜索へ行くと、ほしいと思ったものは何でも盗んだ。だって、我々はアメリカの軍隊なのだから、何でも好きなことが出来るのだ。家宅捜索の後は、いつもアドレナリンのせいで興奮し、2時間以上続けて眠ることは決してできず、常にぼんやりと麻痺したような状態だった。
 ファルージャに派遣され、その2週間で10数人の市民を殺した銃撃音を聞いた。分隊が2人の市民を殺すのを見た。もう十分だと思えるほどの血と死を見た。このような暴虐を市民に対してふるうのは間違っていると考えた。それでもまだ、イラクにアメリカ軍がいるのは正しいと考えた。テロを根絶するために、イラクにいるのだと信じていた。
 イラクでもっとも恐ろしい任務は、小隊で行う徒歩のパトロールだ。パトロール中、まったく無防備で、敵にさらされていると感じていた。アメリカ兵に笑いかける人はなく、多くの人は憎悪を隠そうともしなかった。
 それは奇妙な戦争だった。アメリカ兵を狙って銃撃する者の姿も、迫撃砲も、アメリカ兵を目がけてロケット弾を飛ばす者の影も、まったく見えない。いつまでも敵が姿を現さないことで、アメリカ兵の恐怖といらだちは頂点に達した。そして、そのいらだちは、いつでも一般市民に向けることができた。
 戦場を知らない人には奇妙に思えるだろうか、イラクでは手榴弾はごく普通の日用品である。これというはっきりした敵がいないので、アメリカ兵は無力で抵抗できない市民に攻撃の矛先を向けた。自分たちの行為に対して責任を持たなくていいことは知っていた。恐怖でいっぱいで、眠りを奪われていて、カフェインやアドレナリンやテストステロンで興奮していた。上官は、いつも兵士に、イラク人は全員が敵だ。民間人もだと言っていた。
 2時間以上のまとまった睡眠をとれたためしはほとんどなかった。
 アメリカ兵自身がテロリストなんだということに、初めて気がついた。アメリカ兵はイラク人に対してテロ行為を働いている。脅かしている。殴っている。家を破壊している。アメリカ人は、イラクで、テロリストになってしまっている。もはや戦場に戻ることは良心の呵責に耐えかねる。そこで、著者は法務担当者に電話し、問いかけた。担当官は次のように答えた。
 君に出来ることは、次の2つのどれかしかない。一つは、予定されている飛行機に乗ってイラクへ戻ること。二つ目は、刑務所に入ること。このどちらかだ。
 この言葉を聞いて、著者はアメリカ軍に戻らないと決め、アメリカ国内で家族とともに潜伏生活を過ごし、インターネットで見つけたカナダの脱走兵支援事務所の援助を受けてカナダに入国したのです。すごい行動力です。
 この本を読んだあと、いま上映中の映画『リダクテッド』を見ました。イラクに派遣され、サマラの町の警備を命じられた兵士たちの日常生活が紹介されています。そして、イラクの人々を人間と思わず、ストレスもあって、15歳の少女をレイプしたうえで一家皆殺しにした実際に起きた事件を想像をまじえて再現しています。もちろん、許されない犯罪であることは言うまでもありませんが、そのような状況を作り出しているアメリカ政府の責任を厳しく弾劾しないことには、末端兵士を厳罰に処しても問題は何も解決しないと思わされたことでした。今のイラク戦争がいかに間違ったものなのか、すさまじい映像に圧倒されました。背筋の凍る映画というのは、こういうものを言うのでしょうね。でも、現実を直視するために、ぜひ多くの人に見てほしいものだと思いました。「リダクテッド」というのは、編集済みの、という意味だそうです。マスコミが報道するニュースは、すべて当局、つまり政府の都合のいいように編集されているということです。日本も、アメリカとまったく変わりません。イラク戦争の実情なんて、ちっとも放映されませんよね。 
(2008年9月刊。1600円+税)

2008年10月23日

格差は作られた

著者:ポール・クルーグマン、 発行:早川書房

 今度、ノーベル賞(経済学)を受けた学者の本です。たまたま読みました。ブッシュ政権を強い口調で批判しています。はっきり言って反政府系の硬骨漢です。こんな学者によくぞノーベル賞が授与されるものです。いえ、批判(非難)しているのではなく、ノーベル賞選考委員会をほめているのです。
第2次大戦後のアメリカでは、富裕層は少数で、中産階級と比べるときわめて裕福というわけではなかった。貧困層は富裕層より多かったが、それでもまだ相対的には少数だった。アメリカ経済には驚くほどの均質性があり、ほとんどのアメリカ人は似たような生活を送り、物質的にも非常に恵まれていた。
 経済が平等であったことに加えて、政治も穏便だった。民主党と共和党の間に外交や国内政策で広いコンセンサスがあった。
 ところが、1990年代に入ると、アメリカは政治的に中道で中産階級が支配的な国へと成長していくのではないことが徐々に明らかになっていった。小数のアメリカ人が急激に裕福になっていく一方、ほとんどの人々が経済的には、まったくか、ほんの少ししか向上していなかった。政治が両極に分裂し始めていた。
 今日、所得格差は1920年代と同等の高い水準にあり、政治的な分裂はかつてないほど進んでいる。共和党は右傾化し、所得の不平等が広がるのと同時に、今日の厳しい党派主義が生まれている。
 急進的な右派が力を得たことで、ビジネス界は労働運動にたいして攻撃を仕掛けることができるようになり、労働者の交渉力は劇的に減退した。経営陣の給与に対する政治的社会的抑制力は消えうせ、考慮特赦に対する税金は劇的に軽減され、そのほか実に様々な手段によって不平等と格差は助長されてきた。
 すべて諸悪の根源は、アメリカの人種差別問題にある。今でも残る奴隷制度の悪しき遺産、それはアメリカの原罪であり、それこそが国民に対して医療保険制度を提供していない理由である。
 うむむ、な、なーるほど、そういうことだったのですか。アメリカに国民皆保険制度が今なお存在しておらず、民間の営利会社である保険会社が保険制度を担っている本当の理由がやっと分かりました。
 先進諸国の大政党のなかで、アメリカだけが福祉制度を逆行させようとしているのは、公民権運動に対する白人の反発があるからなのだ。
 第二次大戦前のニューディール政策が始まると、富裕層は、所得税率が今35%なのに対して、63%から79%へと大幅に上昇した。最高時は91%にまでなった。法人税も14%だったのが、45%以上にまで上昇した。これによって富の集中が弱まった。
 ニューディール政策は、金持ちの資産の多くを税金でもっていった。ルーズベルト大統領は、その階級からは「裏切り者」だと見られていた。逆に、ニューディール政策の下で組合員の数と影響力は増大した。
 アメリカで起きたベトナム反戦運動は、1960年代そして1970年代初めのアメリカ社会に重くのしかかっていた。1973年に徴兵制度が終わり、ベトナムからアメリカ軍が撤退したあと、驚くほどのスピードで消滅した。反戦運動家はほかの事に関心を移し、過激な左派主義は重要な政治勢力として根付くことは無かった。
 レーガンは、共産主義の脅威に対する大衆の被害妄想をくすぐることに成功した。
 アメリカ人は自国を危うくするものは非常に簡単に運動力によって排除できると思い込んでいる。自制を唱えるものは、よくて弱腰、悪くて国家への反逆。
 保守派は、一般大衆の感情にアピールするための二つのことを発見した。その一は、白人の黒人解放運動に対する反発と、共産主義に対する被害妄想であった。
 1970年に平均的な労働者の給料の30倍だったCEOの所得は、今日では300倍以上にも跳ね上がっている。1970年代、大企業のCEOは平均120万ドルの給与を得ていた。ところが、2000年に入ると、その報酬は年900万ドルを平均とするまでに上がった。これにより、今や平均して307倍になっている。
 アメリカの経営者には羞恥心というものがないのでしょうか。まさに自分さえ良ければということです。これでは、他人からも馬鹿にされてしまいます。ところが、今、日本の経営者もアメリカの経営者にならおうとしています。あの御手洗日本経団連会長(キャノン)も、自分のことしか考えていません。いやですね。口先では偉そうなことを言うのですからね。
 一人当たりの医療保険額で一番低いのはイギリスで、アメリカはその2.5倍。カナダ、フランス、ドイツと比べて2倍も高い。
 アメリカ国民全員に健康保険を与えるとしたら、当然のことながら、黒人、ヒスパニック、アジア系などの非白人を含むことになる。それを税金によって一番多く負担するのは、アメリカの富裕層である。そのほとんどは白人だ。一般の白人にとってはそれはとうてい受け入れられない。一部の白人は、黒人と同じ病院を使用することに猛反対した。
 今日でも、白人と黒人とが同化した教会はアメリカ全土で10%に満たない。え、えーっ、そうなんですか。博愛精神って、フェアプレイの精神と同じく今も生きる名言だと思いますけどね・・・・・・。 
(2008年6月刊。1900円+税)

2008年10月 9日

最後の授業

著者:ランディ・パウシュ、 発行:ランダムハウス講談社

 ドーデーの『最後の授業』ではありません。46歳の教授がすい臓がんで余命いくばくもないと宣告され、カーネギーメロン大学で最後の授業を行ったのです。
 いやあ、すごいですよ。自分の生命があとわずかだと告知されたとき、あなたなら、何をしますか?
私も父を癌で亡くしましたので、癌という病気についてはすごく関心があります。そして、癌の告知については、してほしい反面、怖さに耐えられるだろうかという不安があります。
それにしても、あなたの生命はあとわずか数ヶ月だと宣告されたら、どうするでしょうか。
 最近、私の大学時代のセツルメント仲間から、亡きご主人の追悼集(『一途に進む私の道』)が贈られてきました。私も近くに住んだことのある神奈川県川崎市の法政二高の英語の教師だった人(故橋本保氏)についての追悼集です。それによると、2月に「夏まで」と家族は告知されたそうです。癌が再発・転移したわけですが、本人はそのこと自体は知っていても、どうやら「あと何ヶ月」というのは知らされなかったようです。知ったところで、既に入院中の身であれば自由に行動できるわけでもありませんので、どうしようもなかったのでしょう……。緩和ケアー病棟での生活をご本人が報告しているのを読むと、大変に意思の強い人だと感嘆してしまいました。私なんか、いったいどうするだろうと思いながら、追悼集を読み進めました。
 さて、この本に戻りますが、最終講義は無事に終了し、これがインターネットでも配信され、のべ600万ものアクセスがあったそうです。私は戦争好きのアメリカなんて大嫌いなのですが、こんなアメリカは大好きです。アメリカの草の根民主主義は今の日本国憲法にも生きていると思っています。アクセスした「600万人」は、そんな草の根民主主義を体現していると勝手に思い込んでいるのです。
 大切なのは完璧な答えではない。限られた中で最善の努力をすることだ。
 うーん、これって、なかなかいい言葉ですよね。
 今回の講義がなぜ大切なのか考え直した。生きていると自分も確認したいし、みんなにも分かってほしいから? まだ講義をする元気があることを証明するため? 自分の最期を見てほしいという目立ちたがり屋の精神? この答えは、すべてイエスだ。傷を負ったライオンはまだ吼えられるかどうかを確かめたいものだ。これは威厳と自尊心の問題だ。虚栄心とは少しだけ違うんだ。だから、僕の講義は死ぬことについてではなく、生きることについてでなくてはならなかった。な、なーるほど、ですね。最後の最後まで、自分の存在というのを世の中に認めてほしいものです。
 子供はなによりも、自分が親に愛されていることを知っていなくてはならない。
 ホント、そうなんですよね。
 幼い子供たちと、やがて悲しい別れがやってくる。そして、彼らには父親の記憶が残らない。これほどつらいことがあるでしょうか・・・。ここを読んでいるうちに、ついつい涙してしまいました。 著者はお元気のようです。ぜひ、これからもお元気にお過ごしください。
 世界遺産に登録された白川・五箇山のうち、五箇山のほうへ行ってきました。気持ちよく晴れ上がった秋の日の朝のことです。大きな萱葺きの家がよく保存されていました。そこで生活する人にとってはかなり不便を多いことでしょうが、やはり、こういう風景はぜひ攻勢まで伝えたいと思ったことでした。稲穂が重く垂れたそばで、コスモスが咲いていました。チューリップのような淡いピンクの花が珍しかったのですが、名前が分かりませんでした。あとで、ぺシニアという花だと教えられました。大きな村上邸では、火の起きている囲炉裏のそばでお年寄りが語り部として故事来歴を語ってくれ、また、ササラを演じて見事なコキリコ節を聞かせてくれました。
 川向こうに流刑小屋が唯一つ残っているというので、見学してきました。独房です。これでは冬の寒さに耐えられません。富山は加賀百万石の一部になっていたそうです。
(2008年6月刊。1500円+税)

2008年10月 8日

サブプライムを売った男の告白

著者:リチャード・ビトナー、 発行:ダイヤモンド社

 アメリカのサブプライムローンをめぐる破綻が全世界の経済を大きく揺り動かしています。この本は、サブプライムローンの実体が、いかにインチキであったか、体験を通して暴露しています。
 アメリカでは、夫婦の一方が病気になれば、たちまち経済的に破綻してしまう。国民皆保険制度がなく、営利企業である保険会社に加入できなければ、高額の自費負担を余儀なくされるからだ。
 サブプライムローンの借り手の大半、少なくとも80%の人々は期日通りに返済している。滞納件数がかなり多いのは明らかだが、5人のうち4人は返済している。
 サブプライムローンの借り手は、伝統的な住宅ローンなどを借りる資格のない人々である。信用度は良くない。前にローン返済が延滞したり、不履行になったりした事実がある。だから、借り手はリスクの増加と相殺するため、より高い利息やローン手数料を支払わされる。
 クレジットスコアというのがある。300点から850点までの範囲がある。
 2000年までに、アメリカでは、25万人以上のモーゲージブローカーが活動していた。モーゲージブローカーにライセンスを要求する州は少なかったので、業界への参入障壁は低かった。
 住宅ローンで不正行為が横行した。本来なら住宅ローンを借りる資格のない借り手が融資を受けた。たとえば、居住物件のはずが、投資物件であった。借り手が友人や親類の会社で勤めているとして職歴をデッチ上げる。ローンに関わる重要情報を隠してしまう。
 信用度の高い人が、第三者に自分の借入の実績を使わせ、その都度、手数料をもらうということもあった。このような「信用強化」は人を欺くものである。
 不動産鑑定士が価値以上の評価を出すこともある。あらゆる数字をぎりぎりまで操作して評価額の数字を導き出す。借り手は望みのものを手に入れ、レンダーとブローカーは手数料を稼ぎ、投資家は優良債権を受け取ることになる。
 しかし、こんなことは長続きはしない。いずれは破綻する。
 アメリカの非金融企業で、最上級のトリプルAに値するのは、ほんの一握りの企業にすぎない。それなのに、格付けされた債務担保証券の90%がトリプルAというタイトルを授けられている。
 これから数年のうちに、200万人もの人々が差し押さえによって住居を失う危険がある。
 抵当流れのピークは2009年だと予測されている。総件数は200万件に達する。そして、ラスベガスやマイアミという住宅に最高額が付けられてきた町でも、今後の数年のうちに住宅価値は40〜50%も下がるという推測がある。 
 今、アメリカ発の世界恐慌が起きるのではないかと、みんなが心配しています。アフガニスタンやイラクへ戦争を仕掛けたアメリカの国内経済がガタガタになっているのです。それなのに、大企業の救済・優遇措置だけはしっかりとろうとしています。アメリカの国民が猛反発したため、一度は国会で否決されました。ことは日本にも大きく響いて来る問題です。対岸の火事だといってすまされないことだと思います。
(2008年7月刊。1600円+税)

2008年10月 4日

ドット・コム・ラヴァーズ

著者:吉原 真里、 発行:中公新書

 いやあ、団塊世代であり、インターネットと日頃とんと無縁な私にとっては、とてもショッキングな本でした。
 この本のサブタイトルは、ネットで出会うアメリカの女と男です。オビに書かれているフレーズは、「インターネットは愛の救世主か?!」です。もっというと、アメリカ男たちとオンライン・デーティング。大手サイトに登録した著者は、ニューヨーク、そしてハワイで、さまざまなアメリカ男たちと「デート」する。メールのやりとり、対面。交際、そして別れの中から、人間臭いアメリカが見えてくる――。
 40歳の東大卒で、ハワイ大学教授の独身女性が良き伴侶を求めるうえで、ハードルが高いことは、それなりに想像できます。この本は、そんな経歴の著者が活路をインターネットに求めて格闘した人生の日々を、かなり赤裸々に語りつづったものです。
 うむむ、知りませんでしたね。アメリカでこれほどインターネットが出会いの場として活用されているとは。日本でも出会い系サイトで知り合ったという弁護士を知っていましたが・・・。
 オンライン・デーティングというのは、要するにインターネット上のサイトを使ってデートの相手を探すこと。2006年度の業界の総売上は6億4900万ドル。現在、有料で合法なインターネット・サービスの中で最高の収益をあげている。アメリカでは、オンライン・デーティングはすっかりメインストリームになっている。主流として定着している。ええーっ、そ、そうなんですか…。
 登録料は、月に20ドル(2000円ほど)。あるサイトは、ここを介して出会った男女1万組が結婚している実績を誇っている。
 ストレートの女性がゲイの男性に惹かれる理由はいくつかある。さまざまな困難の中で、あえて自分に正直に生きる選択をしているゲイの男性は、人間関係において非常に真面目であることが多い。友達を大切にし、まめに連絡をとり、よく話をするし、こまめに気をつかう。一般的に言うと、ゲイの男性は平均的なストレートの男性に比べて、人間関係に意識的な努力を払う人が多い。そして、話を良く聞いてくれる。ゲイの男性は、おしゃれや身だしなみ、インテリアにこだわる人が多い。
 ところが、ゲイの世界のインターネットの勧誘サイトでは、あまりに性的露出度が高い。つまり、ペニスのアップ写真などがこれでもかとばかりに載っている。ひえーっ、これって信じられませんね。
 オンライン・デーティングでは、多くの人は同時進行的に複数の相手とデートを重ねており、そのこと自体に腹を立てる筋合いはない。ううむ、そういうことなんですね。
 著者の相手になった男性には、ユダヤ系の人が多かったのですが、それは、会話や議論が好きで、感情表現が豊かであり、濃厚に人間臭いやりとりができるからでした。
 アジア人女性(もちろん日本人女性も含みます)は、アメリカ人女性よりも性的に奔放である、というのは嘘ではないようだ、とも書かれています。うーん、そうなんでしょうか。
 著者は、この本によると、10人以上もの男性との出会いをそれなりに「楽しんだ」ようです。そして、月20ドルの料金は十分に元が取れた、と考えています。
 オンライン・デーティングでは、安全のために、本人同士が連絡を取り合って相手に知らせない限り、本名やメールアドレスは分からないようになっている。なーるほど、ですよね。むやみに変な人に知れたら、面倒ですからね。
 ベッドの中での行動やセックスについての態度には、その人の人間性がよく現れるから、相手のことを良く知るためには性的関係を持つのが大事だとも思う。むむむ、このセリフは、なかなか簡単にはいえませんよね。
 いやあ、世の中はこうなっているんだな、と改めて認識を新たにしたところです。こんな本を書くと、ますます男性の多くは引けてしまうと思います。でも、子供好きだということですから、ぜひ良き伴侶を見つけて子供をもうけてくださいね。 
(2008年6月刊。780円+税)

2008年10月 1日

世界を不幸にするアメリカの戦争経済


著者:ジョセフ・E・スティグリッツ、出版社:徳間書店

 ノーベル経済学賞を受賞したアメリカの経済学者です。クリントン政権では、大統領経済諮問委員会の委員長であり、世界銀行の上級副総裁兼チーフエコノミストもつとめています。現在はコロンビア大学教授です。そのような保守本流の経済学者のズバリ直言ですから、重みがあります。
 今となっては、アメリカのイラク侵攻が恐ろしい過ちだったことは明らかだ。4000人のアメリカ兵が死亡し、5万8000人が重軽傷ないし深刻な病いを負った。10万人のアメリカ兵が深刻な精神障害になって帰還しており、慢性的な症状に苦しめられるだろう。
 サダム・フセインの統治はお粗末だったが、今のイラク国民の生活はその頃よりも悪化している。イラクに侵攻して中東に民主主義をもたらすというアメリカの大義名分は、今ではむなしい夢に思える。
イラク開戦の決断は、数々の間違った前提にもとづいていた。
イラク侵攻して5ヶ月の2008年の運用費は、イラクだけで月に125億ドルを超える。
2003年に比べて44億ドルも増えた。アフガニスタンと合わせると月160億ドルになる。
この160億ドルという金額は、国連の年間予算、またアメリカの13州分の年間予算と同じ。しかも、この金額には国防総省が通常の支出として一年間に支出した5000億ドルを含んでいない。
 イラク侵攻は、民間の軍事警備会社に新たな機会を与えた。国務省が支出した金額だけでも、2007年には40億ドルになる。3年前は10億ドルだった。
 2007年にブラックウォーターやダインコープなどの戦争請負会社で働く警備員は1日にして1222ドル、年間44万5000ドルを稼いだ。それに対して、陸軍軍曹は1日に140〜190ドル、年間で5万〜7万ドルだった。このように請負兵は軍人より費用がかかるうえに、軍の規律や指揮の下に置くことが出来ない。
 このような民間業者との契約が増えて、今では10万人以上がイラクで活動している。
 今や、アメリカは兵士と将校の補充・確保に苦労している。それは戦争反対の声の高まりと、死傷者数の多さによる。入隊年齢の上限を35歳から42歳に引き上げた。また、重罰犯の元受刑者も兵隊として受け入れるようになった。そして、経験豊かな兵士が軍を離れて民間の戦争請負会社に移らないように、再入隊ボーナスとして最高15万ドルを支払っている。
 2007年末までにイラクとアフガニスタンで重軽傷・病気になったアメリカ兵は6万7000人。少なくとも4万500人が戦争に直接起因しているとみられている。
 多くの退役軍人がM-1戦車とA-10攻撃機から発射された対戦車砲弾に含まれる劣化ウランにさらされた。退役軍人の障害手当は3000億ドル前後になると見込まれている。
 イラクとアフガニスタンで任務につく兵士の大多数は、その危険性を十分に理解していなかった。その3分の1は州兵軍や予備軍から召集された者であった。彼らは自分が長期間にわたって国外に配置されるなど想像もしていなかった。
 イラクとアフガニスタンからの帰還兵の健康問題の最大のものは精神障害だ。自殺率は10万人につき19.9人にまで高まっている。その自殺者の4分の1がイラクやアフガニスタンでの軍務中に起きている。
 アメリカは、アフガニスタンとイラクに戦争を仕掛けたため、2008年度末には9000億ドルの負債を抱えることになるだろう。今のアメリカは、滅亡直前のローマ帝国である。
 アメリカはイラクを長期占領すべく巨大な軍事基地をイラク国内にいくつも築き上げた。
 バラド基地は、縦7キロ横5キロの広さがあり、2万2500人の兵士を収容する。アサド基地には1万7000人の兵士のほか、民間の戦争請負業者が入っている。
 バグダッドにあるアメリカ大使館は、ニューヨークの国連本部の6倍以上の規模だ。
 アメリカによるイラク戦争が間違っていたこと、そしてそれがアメリカ国民にも不幸をもたらしつつあり、アメリカ国家経済を危機に導いていることがよく分かる本です。
 庭の酔芙蓉の花が咲いています。朝のうちは見事な純白の花なのに、お昼過ぎると昼食をとった時に軽く一杯やってほろ酔い加減になったように朱がさし始め、夕方になる頃にはすっかり出来上がって赫味の強い花になってしまいます。酔芙蓉とは、よくぞ名づけたものです。
(2008年5月刊・1700円+税)

2008年9月21日

NGOの選択

著者:日本国際ボランティアセンター、 発行:めこん

 日本国際ボランティアセンター(JVC)が発足したのは、1980年のこと。インドシナ難民の支援に始まり、カンボジア、アフガニスタン、イラクなど、さまざまな紛争地で活動してきた。JVCの特徴のひとつは、紛争状態にある地域での人道的支援活動と併せて、長期的な開発協力をもうひとつの柱としている。
 アメリカ軍はアフガニスタンで、PRTと呼ばれる軍による人道的支援活動を展開している。アメリカ軍によるPRTは、対テロ軍事作戦と一体となっている。そのため、PRTが活動する地域では、NGOが軍事衝突に巻き込まれやすい。危険な地域だからアメリカ軍が人道支援をするのではなく、アメリカ軍が人道支援をするためにNGOが危険にさらされている。
 テロリストから攻撃される危険のあるところで、丸腰のNGOは活動できない。だから、武装した軍が復興支援を担うしかないというのがPRTの論理だ。しかし、アメリカ軍は、アメリカ軍自身による援助が必要だとされる治安の悪化を自ら作り出しているのが現実の姿である。そして、PRTの援助自体が復興開発支援で不可欠の住民参加、公平性と持続性という原則からかけ離れているために、一時的に住民の歓心を買うことができても、長期的に住民の自立を促すことには繋がらない。
先日、JVC代表理事の谷山博史氏の講演を聞く機会がありました。ペシャワール会の伊藤さんがアフガニスタンで殺害された直後でしたので、その点にも触れた講演でした。以下、谷山氏の講演要旨を紹介します。
 第一に、アフガニスタンの情勢は最近になって急に悪くなったのではない。
 第二に、地元の人に信頼されてペシャワール会は守られてきた。それでも今度のような事件が起きた。地元の長老が犯人と交渉中だという報道があったので、地元の論理で解決されるものと期待した。ところが、警察が犯人を追い詰め、アメリカ軍がヘリコプターで追跡している報道があったので、これは危ないと思った。
 第三に、日本のメディアの動きを注目していたが、先の「自己責任論」大合唱のようなバッシングは幸いにも起きなかった。それでも、アメリカ軍が支援をやめたらタリバン以前に後戻りしてしまうという論法が一部で声高に出ている。しかし、これは国際社会への不信を駆り立てるものでしかない。
軍隊による人道支援というのは、とても危険なもの。NGOの活動と軍事行動との境界があいまいになってしまう。軍隊を派遣していないからこそ、日本の援助はアフガニスタンの人々から高く評価されてきた。日本は、軍事的な支援に固執することなく、周辺国を含む紛争当事者の包括的な和平に向けた協議を主導して進めてほしい。
 これらの指摘に、私はまったく同感でした。 
(2008年5月刊。740円+税)

2008年9月18日

マネーロンダリング

著者:平尾武史、出版社:講談社
 ヤミ金の五菱会がスイスに51億円も預金していたと報道されたとき、あっと驚きました。ヤミ金が儲かる商売だとは知っていましたが、それほどだとは思っていなかったからです。この本は、そのスイスの銀行に51億円もの預金があることが発覚した経緯と、その後の顛末を追跡しています。
 プライベートバンクとは、個人資産を専門に管理したり運用したりする銀行のこと。ここでは1億円以上の預金ができるような富裕層のみがお客であって、それ以下の庶民はゴミ以下の存在に過ぎません。
 東京芝公園近くの超高層マンションは、私も上京して浜松町から霞ヶ関にある日弁連会館に向かうタクシーの中からよく眺めます。マンションの23階から35階は賃貸マンションとなっていて、家賃は月85万円。うひゃあ、誰がこんな高い家賃を支払えるのでしょう。なんと、そこにヤミ金の帝王たちが住んでいたのです。
 五菱会グループのトップに君臨していた梶山進は34階に家賃92万円の一室を借りていた。梶山は工業高校を中退した後、塗装工などをしていたが、新宿でヤクザとなり、ダイレクトメールや電話で勧誘するヤミ金を始めて大当たりした。そして、梶山は稲川会系から山口組へと転身した。
 ヤミ金でボロもうけしたお金の一部は、ラスベガスのカジノで遊ぶための保証金として日本国内の銀行の貸金庫に預けることが出来る。梶山は200万ドル(2億円)も預けていた。梶山はカジノでVIP待遇を受けていた。そのなかでも最上級の「鯨」クラスである。
 カジノでは上客用の特別個室を利用していた。ディーラーをこの部屋に呼び込み、一回の掛け金は通常で100万〜200万円。多いときは1時間7000万円ももうけた。
 梶山は香港在住で、クレディ・スイスのプロパーを通じて、スイス銀行に51億円預けることが出来た。
 組織犯罪処罰法で問題となる犯罪収益の中には脱税が入っていない。そして東京地裁は、ヤミ金グループ幹部に対して、クレディ・スイス香港に不正送金されたお金について追徴(国による没収)を認めなかった。追徴しないと、被告人の手に戻ってしまう可能性もある。そこで、法律を改正して、このようなときには国が没収して被害者へ分配することが出来るように改正された。
 今、その被害者への分配が進行中です。ところが、ヤミ金グループがあまりにも多くいるため、どのヤミ金が五菱会に該当するのか、資料不足もあって多くのヤミ金被害者が届け出しにくい実情があります。
 それにしても、こんな違法な犯罪収益を暴力団から確実に取り戻し、吐き出させるのは、税務署当局の今すぐなすべきことではないでしょうか。 シカゴのギャング王であったアル・カポネを逮捕して下獄させたのは、エリオット・ネスの脱税取り締まり班でした。日本にも「アンタッチャブル」が欲しいように思います。
 フランスで久しぶりにトラベラーズ・チェックを使いました。パリのホテルで50ユーロ使ったのですが、おつりをくれません。今やトラベラーズチェックなんて、時代遅れで、嫌がられるだけの存在のようです。
 エクサンプロヴァンスのホテルのフロントで両替を頼んだところ、銀行でしてくれと断られてしまいました。土曜日なのにどうしましょう。そこで、カードで現金を引き出せるか試してみることにしました。すると、暗証番号を入力したらユーロのお金が出てきたのです。日本のカードをフランスで使ってユーロ札が出てくるなんて、不思議な気がしました。街角にある両替所より、きっと手数料は安いと思います。カードさえあれば、現金をあまり持ち歩かずにすむというわけです。帰国して一週間もしたら、口座から引き落としましたという報告書が届きました。早いものです。ホント、便利になりました。この便利さって、正直言って、ちょっと怖いです。
(2006年9月刊・1700円+税)

前の10件 36  37  38  39  40  41  42  43  44  45  46

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー