弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

アメリカ

2010年1月26日

今日の日米同盟

著者 安保破棄中央実行委員会、 出版 同左

 今年は2010年です。ということは、1960年安保改定の年から50年たったということなんですね。日本人の多くはなんとなく、アメリカが日本を守ってくれていると思っています。しかし、本当にそうなのでしょうか。今こそ、日米安保条約って、本当に、今の日本に必要なものなのかどうか、よくよく考えなおしてみる価値があります。
 この60頁ほどの薄っぺらなパンフレットは、そんな日本人の漠然とした思いが幻想にすぎず、まったく根拠のない間違いだということを明らかにしています。
 いえ、私は何もアメリカとケンカしろというのではありません。日本が独立国家だったら、もう少しまともに対等にアメリカと付き合うべきだと言いたいだけです。
 私の憧れの国であるフランスは、いま保守のサルコジ大統領ですが、パリにアメリカ軍の基地なんてありませんし、そんなことフランス人が右も左も許すはずもありません。日本人の方が異常なのです。
 いま日本全国にアメリカ軍の基地が134か所もあり、五万人のアメリカ兵と1万8000人の家族が居住している。これらのアメリカ軍基地の土地使用料はタダ。基地の中では税金はすべて免除され、消費税もかからない。
 アメリカ兵が基地の外で犯罪を犯しても、基地の中に逃げ込んでしまえば、日本の警察はアメリカ軍の許可なしには捜査も逮捕もできない。日本の領土でありながら、アメリカ軍の基地には国民主権は及ばない。
では、アメリカ軍は日本を守る軍隊なのか?
 アメリカ政府と軍の高官は次のように発言している。
 ジョンソン国務次官補……日本の防衛に直接に関係する兵力は、陸軍にしろ海軍にしろ、日本には持っていない。駐留アメリカ軍の多くは、直接、日本および日本周辺の安全と結びついてはいない(1970年1月)。
 マッギー在日アメリカ軍司令官……日本に駐留するアメリカ軍は、第一義的に日本本土の直接的防衛のためにいるのではない(1970年1月)。
 ワインバーガー国防長官……アメリカは、日本防衛だけに専念するいかなる部隊も日本においていない(1983年)。
 この点は、自衛隊トップも同じです。
 冨沢元陸上自衛隊幕僚長……在日アメリカ軍基地は、日本防衛のためにあるのではなく、アメリカ中心の世界秩序の維持存続のためにある。
 日本にあるアメリカ軍基地は、世界中にあるアメリカ軍基地に比べても異常な存在です。第一に、アメリカの空母の母港があるのは日本だけ。横須賀基地が母港となっている。第二に、アメリカ軍の突撃部隊である海兵隊の前進基地が海外におかれているのも日本だけ。第三に、首都東京に広大なアメリカ軍基地があるのも日本だけ。いやはや、とんでもないことです。
 そして、日米地位協定です。お話にならないほど、ひどい不平等な内容です。アメリカ軍基地の使用料は、すべてタダ。基地内の地主へ支払う地代は、日本政府が代わって支払っている。
 もっぱらアメリカ兵に責任がある事件・事故であっても、その補償金や見舞金の25%は日本政府が負担する。
 アメリカ軍の基地内で土壌汚染や重金属汚染などが発生しても、アメリカ軍は責任を負わない。
日本政府は福祉予算を大幅に削っていますが、アメリカ軍には気前よく大盤振る舞いし続けています。
 アメリカ軍の駐留費のうち、日本の分担金は6300億円。国有地の借り上げ料は1600億円。基地内の土地所有者へ支払う地代は900億円。基地周辺対策費は500億円。
 1978年に始まったアメリカ軍へのおもいやり予算は、2083億円(2008年)。こんなに便利なところからアメリカ軍が黙って出ていくはずはありません。だって、タダでぬくぬくしていられるのですからね。
 たとえば、アメリカ軍の司令官住宅は日本国民の税金で作られたものですが、ベッドルーム4部屋、浴室が3つ、リビングルームはなんと32畳敷。ダイニングルームにしても18畳敷というのです。毎日、運動会をやれるようなスペースの家に、タダで住んでいるのです。
 ここに、日本人のホームレスを何人収容できるでしょうか……。沖縄にあるアメリカ軍基地は、かつてのフィリピンと同じように、無条件で即時なくしたほうがいいと思います。
 ところで、このパンフレットによると、日本政府はアメリカ軍のイラク・アフガニスタン戦費も支えているというのです。これまた、とんでもないことです。
アメリカ政府の発行する国債残高は10兆7000億ドル。いまやアメリカ政府は借金まみれだ。アメリカは、この国債のうち45%を海外に売却している。第1位は中国で7274億ドル。第2位が日本である。それは6260億ドル(62兆円)にのぼり、全体の20%を占める。
 アメリカは、もっと日本に感謝すべきなのです。それにしては、いつも偉そうな口のきき方ですね。その尊大のものの言い方は、いつ聞いても嫌やになります。大変勉強になりました。
 
(2009年6月刊。400円+税)

2010年1月21日

乱造される心の病

著者 クリストファー・レーン、 出版 河出書房新社

 「社会恐怖」が報道で大きく取り上げられるようになったのは、製薬業界が私たちの持つ恐怖心を巧みに操った結果であった。製薬会社に雇われているワシントンのロビイストは、国会議員よりも多く、2005年に製薬会社が抗うつ剤で得た収入は、アメリカ国内の販売だけでも125億ドルにのぼる。
 薬を売るなら、まず病気を売り込まないといけない。社会不安障害ほど、この言葉があてはまる疾患はない。社会不安障害は、1990年代には、内気、公衆トイレで排尿することに対する恐怖、おかしなことを言ってしまわないかという懸念などをすべて包含する疾患となった。パキシルはアメリカの抗うつ剤のベストセラーとなり、年間収益が20億ドルを上回った。
 毎年、5000人以上のアメリカ人がパキシルを使った治療を始めた。日本でも、パキシルの売り上げは2001年に120億円となり、以後、毎年、増加の一途をたどっている。今日、パキシルは全世界で年間270億ドルの売り上げを得ている。
 1996年に製薬会社は6億ドルを広告に使った。2000年には25億ドルに跳ね上がった。薬品関連のマーケティング費用の総額は250億ドルで、DTC広告費だけでも年間30億ドル。1日当たり1000万ドルの計算になる。
 パキシル・プロザック・ゾロフトなどは、プラセボ(偽薬)と比べて実はほんのわずかな効果しかない。研究者は、こうした薬をうつ病や不安の治療薬として承認すべきではないとしている。
 パキシルを服用する患者の25%は離脱時に深刻な問題に見舞われる。その70%が性欲の喪失などの副作用がある。しかし、それ以上に、腎不全、脳卒中、血栓、自傷、自殺のリスク増大などの深刻な問題がある。
 単なる内気を病気にしてしまったため、それを薬で治療しようとして、大変な問題を引き起こしているアメリカ社会の実情が描かれています。そして、そこで製薬会社だけはボロ儲けしています。
 社交的であることをあまりにも重んじたために、社交的でない人は薬で治療すべきだなんて、とんでもないことです。日本人もまきこまれているようです。
 私は基本的に薬は飲みません。風邪をひくことは滅多にありません(1年に1回あるかないかです)。寒気がしたら、卵酒を3日ほど夜寝る前に飲みます。すると、治ってしまいます。身体の自然治癒力を信じていますし、そのためには規則正しい生活と笑いのある生活、ストレス発散を心がけています。
 
(2009年8月刊。2000円+税)

2010年1月11日

新薬ひとつに1000億円?

著者 メリル・グーズナー、 出版 朝日新聞出版

 アメリカは日本と違って国民皆保険制度がありません。かつて、ヒラリー・クリントンが皆保険にしようと頑張りましたが、保険会社の圧力に負けてしまいました。そのときの反対派の言い分がふるっています。国民皆保険なんて、社会主義だというのです。私なんか、だったらアメリカも社会主義になればいいじゃんと思います。でも、反共風土がマッカーシー旋風以来しっかり根付いているアメリカでは、今なおアカ攻撃が批判として有効なのですね。おかげで保険会社は大もうけです。その勢いをかって、日本にも続々と上陸しています。
 医療保険を民間の保険会社に頼ると、たちまちとんでもない高額になってしまう。2007年の医療保険料の平均額は、個人で年53万円(4479ドル)、家族で144万円(1万2106ドル)。こんなに高額のため、無保険者が4700万人、国民の15%もいる。
 アメリカの医療費は2兆ドルと高いが、それは薬価が高いことと関連している。
 なぜ薬価はそんなに高いのか?アメリカの製薬業界では、新薬一つ当たりの研究開発費が1000億円(8億ドル)するからだという。本当なのか?
 本書は、主としてこの問題を深くさまざまな角度から追って解明しています。
 アメリカの製薬会社アムジェン社は、人工透析を受けているアメリカ人30万人に向けて、エポジェンという薬を売っている。アムジェン社の売上高は50億ドル。8000人の従業員が40棟ものビルで働いている。50億ドルのうち、3分の1は利益である。
 ある企業が、新規化合物の新天地を切り開くと、この業界では同業の他社があっという間にオリジナルの化合物の模倣版を市場に導入する。模倣薬が市場に導入されるときは、先行企業の初期設定価格と同じ高い価格、ないし、ほんの2,3%抑え気味の価格で売り出される。これがたいがいの通り相場だ。
 製薬業界の広告費支出は、1996年に8億なかったのに、2000年には25億ドルにのぼった。製薬業界全体として広告費は1996年から2000年までに71.4%も上昇し、157億ドルになっている。
 これに対し、研究開発費のほうは52.7%の増加率であり、257億ドルとなっている。
 世界の結核感染者は年に800万人。その77%は薬を手に入れられない。年100万人に及ぶ死者は、治療に100ドルもしない抗生物質があれば救うことができたはずの命だ。
 マラリアは毎年3億人が感染し、100~200万人の生命を奪う。治療薬のクロロキンは、耐性のせいで効き目が悪くなっている。
 もっと薬価を下げて、みんなが安心して治療を受けられるような日本、そして世界にしたいものです。現在は、あまりにも製薬会社とPR会社(電通や博報堂)がもうけすぎているのではないでしょうか。
 
(2009年10月刊。1500円+税)

2010年1月 8日

世界を変えるデザイン

著者 シンシア・スミス、 出版 英治出版

 こんな取り組みななされているのですね。とてもいいことだとひたすら感心しました。
 世界の人口のほぼ半分にあたる28億人は、基本的ニーズをかろうじて満たせるだけの生活をしている。そして、世界の6人に1人、11億人は、1日1ドル以下で生きている。
 1日の稼ぎが2ドル以下の世界の27億人にとって、手に入る価格かどうかが決め手だ。
 手頃な値段がすべてなのではない。手頃な値段しかないのだ。
 初年度から採算がとれ、その利益をつかって後から大幅に拡張していけるように、システム全体を開発するのだ。なるほど、なるほど、言われてみればそのとおりです。
 1日1ドル以下の収入で農村地方に住む8億人のほとんどは、住む家を持っている。でも、売ろうとしてもお金にならず、担保として銀行からお金を借りようとしても話にならない。
 1歳から5歳までの子どもの死因の第1位は、栄養失調でも下痢でもマラリアでもなく、ほとんどが家庭内で調理する時の煙を吸ったことによって引き起こされる呼吸器疾患である。
 そこで、どうするか。サトウキビの不要部分、トウモロコシの穂軸などをドラム缶いっぱいに入れ、火にかける。数分たってふたをぴっちり閉めて炭化させる。そして、キャッサバで作ったつなぎを入れて、手動プレス機で練炭型に成型する。この練炭を太陽で乾燥させる。こうやって炭を作って燃料にすると、煙が少なく、子どもへの悪影響が減らせるのである。うへー、すごいですよね。安上がりの材料で、子どもたちの健康を守れるわけなんですね。
 Qドラムという水運搬用のドーナツ型の75リットル入りポリタンクが考案されました。水運びが子どもでもできるようになったのです。水を転がして運ぶのです。なるほど、デザイン力の成果です。
 ポットインポット・クーラーというのもあります。二つの壺があり、その隙間に湿った砂を入れておく。すると、ふつうなら2、3日しかもたないトマトが、3週間持つ。
 ライフストローという大きな笛のような容器があります。個人携帯用浄水器なのです。子どもたちが、これを口にくわえて川の水を飲んでいる写真があります。これによって、チフス・コレラ・赤痢や下痢などが予防できるのです。
 お金をそんなにかけることなく、効果が目に見えて上がるようにして少しずつ大きな成果を上げていく。そんなデザインが工夫されているのです。初めて知りました。
 関係者の熱意に心から声援を送ります。

 3が日は好天に恵まれましたので、庭仕事に精を出しました。お天道さまの下での土いじりこそ最高の悦楽です。エンゼルストランペットと芙蓉はノコギリを使って根元から切ってしまいました。こうしたほうがいいのです。庭のあちこちで群生している球根を掘り起こしてやり、分球しているのはきちんと切り離して植えかえました。あまりに増えすぎたものはコンポストに放り込みます。
 刈り取った枝や枯れ葉は穴を掘って投げ込み、肥料にします。
 正月3日間で、我が家の庭がすっきりして、私の気持ちまですっかり解放感に満ちました。
 
(2009年10月刊。2000円+税)

2009年12月26日

マッカーサー

著者 増田 弘、 出版 中公新書

 マッカーサーの率いるアメリカ軍は1941年末、フィリピンのマニラからコレヒドールへ拠点を移して籠城したが、日本軍の猛攻を受けると、マッカーサー自身はごく一部の側近を連れてフィリピンから逃亡した。同胞を見殺しにしたわけである。有名なアイ・シャル・リターンは、このときの言葉だが、それはIであってWeではない。つまり、我々ではなく、あくまで私、なのであった。そして、このあと、日本軍による「バターン死の行進」と呼ばれるものが起きる。マッカーサーの脱出劇は、本人たちが助かったものの、屈辱と汚点を残したことは間違いない。
 しかし、マッカーサーはフィリピンに再上陸した。そして、フィリピンで占領改革を実験することができた。つまり、日本占領の前にマニラである程度の予行練習をしたのである。
マッカーサーのフィリピン脱出を支えた陸軍将兵15人は、バターンボーイズと呼ばれた。
 歴代の数ある司令官の中でも、マッカーサーほど部下との間に強い関係を築き上げ、他者に排他的で大きな派閥をつくりあげた人物は類例がない。
マッカーサーは、アメリカ陸軍史上最年少の44歳で少将となった。1930年、第八代目の陸軍参謀総長に就任した。50歳の陸軍大将は最年少記録だった。
保守主義者のマッカーサーは、社会主義的なニューディール政策を掲げる民主党のルーズヴェルトとは合わなかった。
 マッカーサーは決して自己の非を認めず、絶えず責任を他者に転嫁する。そのためには強弁や虚言も辞さない。うへーっ、嫌ですね、こんな人物には近づきたくありません。
 アメリカで弁護士であったホイットニーが、マッカーサーの心証を良くしたのは、法律業務に精通していたから。ホイットニーは、たたき上げの経歴や山師的な性格、目的のためには手段を選ばず、直感鋭くマッカーサーへ接近する露骨な姿勢を示した。
 マッカーサーが戦後、厚木基地に飛来してくる直前、その先遣隊に対して日本側の対応役を務めた有末精三中将は、「芸者は何人いるか?」と尋ねた。マッカーサーが芸者など決して許さないことを知っていたアメリカの大佐は、「芸者はいらない」と返事した。
 9月2日、東京湾上のミズーリ号の甲板上で、日本降伏調印式が挙行された。この情景をハルガー大将は、「ちっぽけな国の形容しがたいほどちっぽけな代表団11人が、まるでチンパンジーが人間の服を着た格好で調印した」と書いた。
 アメリカ映画の『猿の惑星』で登場する『猿』のモデルは日本人だそうです。いやはや、なんということでしょう……。ちなみに、この原作はフランス人作家が書いたものと聞いています。
 ホイットニー率いるGSは、占領行政の心臓部である第一生命ビルで、マッカーサーやサザーランドと同じ6階に居を定める栄誉を与えられた。
 1945年9月27日、昭和天皇はアメリカ大使館にマッカーサーを訪問した。決してマッカーサー側から天皇を招いたのではなく、天皇側から自発的に会見を望んだ結果であった。マッカーサーは誰も会見に参列させず、天皇と天皇の連れてきた通訳を挟んで2人きりで話し合った。しかし、カーテンのうしろに隠れて盗み聞きしたものが二人いた。ジーン夫人と副官エグバーグだった。
 マッカーサーは、天皇が戦争犯罪人として起訴されないように単眼するのではないかとの不安を持っていた。しかし、天皇は命乞いするどころか、戦争遂行の全責任を負おうとする潔さを示したため、マッカーサーは感動する。マッカーサーは、日本の歴史に通じ、天皇制に好意を寄せ、天皇の権威を利用して円滑な占領行政を企図した。
 GSのホイットニーに激しい敵愾心を燃やしたのがG2(参謀第二部)部長のウィロビー少将である。ウィロビーは、バターンボーイズの威光を背景として、参謀部の生粋の軍人グループを統率し、GSの実施する非軍事化・民主化政策を徹底的に批判した。
 ウィロビーは、ソ連との対決に備えることを最優先するよう主張し、この観点から、日本の旧軍人や政治家・財界人らの保守勢力を根こそぎするようなパージ政策に強く抵抗した。ウィロビーは、日本の旧軍要人と緊密な関係を結ぶ一方、日本の警察に対しても影響力を行使した。片山・芦田の二代にわたる中道政権を支えるGSに打撃を与えるため、情報と公安警察を握るウィロビーG2が水面下で動いたことは間違いない。
 マッカーサーは1949年7月4日のアメリカ独立記念日に際して、「日本は共産主義進出の防壁である」と声明し、翌1950年1月の年頭の辞において、「日本国憲法は自己防衛の権利を否定しない」と声明した。日本は再軍備してはならない、日本は太平洋の中立国となるべきであると強弁していた一連の発言とは、明らかに矛盾する。
 いずれの場合にも備えて、わが身に保険をかけるのがマッカーサーの本性なのである。
 マッカーサーは、朝鮮戦争の緒戦で、情勢判断を誤った。そして、海・空軍を持って中国全土を攻撃する権利をアメリカ政府に要求し、さらには蒋介石総統が申し出た3万3000人の台湾軍を朝鮮で使いたいと要請した。トルーマンは、いずれも拒否した。
 マッカーサーは、国際的な司令官という立場を過信しており、誰からの忠言ももはや耳に入らなかった。
 マッカーサーがトルーマン大統領によって司令官を解任されて日本を離れるとき、日本人が20万人以上も道を埋めて見送ったそうです。そして、サンフランシスコでは50万人ものアメリカ人が出迎えました。ところが、やがてマッカーサー熱は急速に冷めていったのです。結局、マッカーサーはアメリカ大統領にはなれませんでした。
 490頁ほどの新書版ながら、マッカーサーという尊大かつ矛盾した「偉大な」司令官について、とても勉強になりました。

 
(2009年3月刊。1100円+税)

2009年12月 2日

ゲバラの夢、熱き中南米

著者 伊藤 千尋、 出版 シネ・フロント社

 『君の夢は輝いているか』のパート2です。著者は私と同じ団塊世代です。朝日新聞の記者でしたが、ついに定年退職したようです。こればかりは、どうしようもありませんよね。
 学生時代にキューバに行き、記者として中南米で特派員として活躍しました。
 中南米の変わりようは、驚くべきものがあります。かつてのアメリカ言いなりの軍部独裁政権が次々に倒れ、庶民が大統領にのぼりつめました。ブラジルのルラ大統領がその典型です。今どき、真面目に社会主義を目ざすと言っているベネズエラのチャベス大統領もいます。今や南米大陸は「反米大陸」となったのです。それほど、民衆のなかにアメリカの反発は強いわけです。やはり、武力で抑えつけるだけの政治は長続きしないのですよね。
 チェ・ゲバラがアルゼンチンに生まれたのは、1928年6月14日。ということは、私より20歳だけ年長です。日本にも来たことがあるそうです。が、そのときには、こっそり広島に来たということです。1959年7月でした。
 ゲバラはボリビアの山中でつかまり、1967年10月9日に銃殺されました。これは、私が大学1年生の秋のことです。そのころ、私はセツルメント活動に励んでいる、18歳でした。ゲバラは享年39歳です。
 ゲバラはボリビアの山中でゲリラ戦を展開しようとしたが、ボリビアの農民はゲリラを支持しなかった。農地改革で農地を得ていたからだ。そして、ラテン系のキューバ人と違って、アジア系の先住民が主体のボリビア人は性格が暗い。
 ええっ、そう言われると……困ってしまいますよね。
 ゲバラの人気は、今や世界的なものがある。アメリカでも、ゲバラはファッションにさえなっている。
 ゲバラは理想を抱き、理想に生き、理想に死んだ。次の言葉は、ゲバラの言葉です。
 もし我々が空想家のようだと言われるなら、救い難い理想主義者だと言われるなら、できもしないことを考えているといわれるなら、何千回でも答えよう。そのとおりだ、と。
 いやあ、こんなことはなかなか言えませんよね。すごい言葉です。初心忘れるべからずといいますが、まさしくそのことを文字どおり実践したのですね。
 最近、ゲバラを描いた映画2本が上映されましたが、本当にいい映画でした。見ていない人はDVDを探し出してぜひ見てください。ゲバラの生きざまを通して、我が身を振り返ることができます。
 革命後、キューバは中南米一の教育・福祉先進国になった。革命前は国民の3分の2が文盲だったのに、今や字が読めない人は1.5%しかいない。授業料は幼稚園から大学まで完全に無料。病院で治療費を支払う必要もない。
 平均寿命は革命前の50歳から74歳にまでなった。
 キューバは平等で、スラムがない。治安の良さと清潔さは中南米一。アメリカの映画『シッコ』を見ると、いかにアメリカの医療制度が貧乏人に冷たく、キューバが優れているか、一目瞭然です。
 アメリカという国は、国民を切り捨てて、ひらすら「自己責任」を押し付ける国である。
 まったく同感ですね。機会の平等を奪っておいて、その結果に甘んじろというのが「自己責任論」です。そして、機会を奪われたという自覚のない大勢の人が「自己責任」論に共鳴しているという悲しい現実が今の日本にあります。

 北九州で全国クレサラ交流集会があり、参加してきました。参加費5000円(懇親会つき。弁護士・司法書士だと1万円)と高いのに、全国から1500人も集まり、大盛況でした。
 このとき二宮厚美教授の話を聞きました。東京には裕福な階層が140万人もいて、彼らは1杯1万円のコーヒーを飲み、一泊150万円のホテルに泊まったりするそうです。
 ワーキングプアが増えている一方で、スーパーリッチも増えているのですね。格差の増大は健全な日本社会を壊してしまいます。セーフティネットを構築し、福祉と人間にもっとお金をつぎこみ、大切にしようとの呼びかけがありました。まったく同感です。
 
(2009年10月刊。1500円+税)

2009年11月 5日

冬の兵士

著者 反戦イラク帰還兵の会、 出版 岩波書店

 イラク・アフガン帰還米兵が語る戦場の真実というのがサブ・タイトルになっています。ここで語られる内容は実におぞましく、寒々としています。まさしく寒風吹きすさぶ中で立ち尽くす冬の兵士を思わせます。そして、イラクへの侵攻、アフガニスタンへの派兵の増強をアメリカがしようとしているのは、根本的な間違いだと痛感させられます。
 アメリカのように他国の権利をいとも簡単にふみにじる国は、実は自分の国民、アメリカ人も冷たく扱い、切り捨てるものだと痛切に感じました。
 捨て置き武器という言葉を初めて知りました。
 アメリカ兵たちはAK47ライフルを一丁携行している。自分たちが撃ってしまった人物が武器を持っていなかったとき、そのAK47を死体のところに置いておく。それから部隊は、その銃を基地に持ち帰り、先ほど射殺した男が敵性戦闘員だった証拠として提出する。うへーっ、アメリカ軍って、こんなに手の込んだごまかしまでやっているのですか……。信じられません。2003年3月から2006年7月までのあいだに、18万6000人のイラク国民がアメリカ軍とその連合軍によって殺害された。これはイギリスの調査報告書に載っている数字だ。
 アメリカ軍に同行する記者がいるときには、極端に行動が変わる。決して普段と同じふるまいはしない。常に規則正しく行動し、すべて教科書どおりに動く。
 キューバのグアンタナモ基地で働いた兵士の体験談もあります。
 尋問室で、被収容者は手と足に枷をはめられ、それで床につながれ、腰掛けられるものは何もなく、耳をつんざくような大音量の音響が鳴っていて、室温は零下5度とか10度とかいうように震えるほど寒い。ここに12時間とか14時間入れられ、取り調べを受ける。これが拷問でないはずがない。うひょう、これってまさしく拷問そのものです。
 アメリカはイラクで2万4000人以上を収容していた。彼らは逮捕状もなく起訴されることもなく、法廷で自己を弁護する機会も与えられないまま、無期限に抑留されている。
 ベトナム戦争では、7500人のアメリカ女性が従軍した。湾岸戦争のときは、4万1000人だった。しかし、イラクとアフガニスタンには、これまで16万人を超える女性兵士が配置された。現在、アメリカ軍の現役兵士のうち15%と、前線に配置される兵士の11%を女性が占める。
 退役した女性兵士の3分の1が、軍隊にいたあいだにセクハラや強姦の被害にあい、71%~90%が任務をともにした男性からセクハラを受けたという。
 国防総省は、誘拐犯や殺人犯の入隊は許すのに、自ら公言しているゲイとレズビアンは入隊させない。なぜか。2003年から2006年までのあいだに、軍隊は経歴に問題のある10万6000人を入隊させた。これには、麻薬犯6万人近くが含まれている。
 イラク・アフガニスタン帰還兵のうち29万人近くが、軍人省に障がい者手当を申請した。
 ホームレス人口の3分の1は帰還兵である。
 退役軍人医療制度が実効あるものとして機能していないことへの不満が多く語られています。戦場で心身に故障をもつようになったアメリカの青年が、冷たく放置されているのです。アメリカの民主主義は、お金と力のあるもののみを対象としていることが、ここでもよく分かります。
 毎週、平均120人の帰還兵が自殺しているというデータがあるそうです。
 イラクとアフガニスタンに展開中の戦闘部隊の兵士のうち、22%ないし17%が日々を乗り切るために医師の処方箋を必要とする抗うつ剤や睡眠薬を併用して服用していた。
 過酷な戦場のなかで、多くのアメリカの青年が心身ともに壊れていっているのですね。戦争にならないような知恵と工夫がいよいよ求められていると思います。
 アフガニスタンへ日本が自衛隊を派遣するなんて、もってのほかです。
 
(2009年9月刊。1900円+税)

2009年10月20日

目覚めよ!借金世代の若者たち

著者 アーニャ・カメネッツ、 出版 清流出版 

 日本の学費は、本当に高いですよね。高くなりすぎました。40年も前のことになりますが私が大学生のころは、月1000円でしたから、年にしても、1万2000円の授業料でした(国立大学)。そして、寮費も同額でした。奨学金のほうは給付5000円、貸与3000円です。寮に住んでいると、最低月1万3000円で生活できました。家庭教授のアルバイト月8000円(週2回)をして、机運びの臨時アルバイトをしたら、親の仕送りがなくても(私は、もらっていましたが…)どうにか生活できていました。
 いま、日本の大学生にも授業料をタダにすることを求める動きが出てきていますが、圧倒的少数派ですし、目立つほどの運動にはなっていません。でも、北欧もフランス・ドイツも、大学の授業料はタダです。それどころか、生活費を国が支給してくれるところだってあります。要するに、子どもに投資して人材を育成したら、そのリターンは大きいということから、国の政策になっているのです。ところが、日本が何かにつけて手本にしているアメリカはまるで違います。ともかく大変高額の授業料をとります。そして、学費ローンを発達させ、学生を卒業してまでローン返済でしばりつけているのです。アメリカって、本当に人間を大切にしない国ですよね。そして、貧乏人は大学へいけないようにしたうえで、軍隊へ勧誘するのです。イラクとアフガニスタンで亡くなった5000人以上のアメリカ兵のかなりの部分が、そんな人たちだったのではないでしょうか。
ここ30年間、アメリカの大学授業料は、インフレよりも、さらにここ15年では、家庭の収入よりも速いスピードで上昇している。4年制大学の学生の3分の2は、学資ローンによる借金を抱えて卒業する。その借金は、平均192万円で、これは毎年増大している。
 教育のあらゆる段階で公的な投資が減少しており、その直接的な結果が、実際に、今日の若者は、親の世代よりも教育を受けていないという現象になって表れている。
 高校の卒業率は、全国平均67%である。アメリカの大学生は、半数が24歳以上で、56%が女性である。20代のアメリカ人の若者の3人に1人近くが大学の中退学者である。
 クレジットカードは、学資ローンというサメのうしろを泳ぐピラニアだ。サメより小さいけれど、もっと貪欲である。学資ローンを扱うのは民間企業であり、数千億円という利益をあげている。学資ローンは、いまのアメリカで数千億円の利益をもたらしながら、補助金や保証によって、リスクからしっかり守られている。
 大学を卒業した時点で、月9万円ものローン返済をしなければならないとしたら、大変なこと。そこで、学生返済のため必死になっているので、法律扶助教会や公的な目的のために活動している団体は、優秀な学生を集めるのに苦労している。
 アメリカが徴兵制度を廃止してからの30年間に、軍隊は、労働者層の野心的な若者たちが職業訓練や大学援助金を得るための数少ない選択肢となった。アメリカ軍は毎年36万5000人を入れる必要があるが、空軍以外はずっと募集目標を達成しできていない。そこで、軍の新兵募集係は、毎週1回は高校にやってくる。
 アメリカの財政赤字のおもな原因は、ブッシュ大統領が数回にわたって大幅な減税をしたため。ブッシュの減税のほとんどは、企業や最高富裕層を対象としたもの。若者の賃金のうわ前をはねて、今日の大金持ちへの懐を太らせている。このことがアメリカの財政赤字を生みだしている。いやはや、格差拡大はアメリカの政権の政策の結果なのです。
 全国的に労働組合運動はひどい状況にある。このような現状を打開するため、若者は政治行動に立ち上がることを呼びかけている。
 この本は、現状に絶望せず、変革のために立ち上がることを呼びかけています。

 日曜日に庭仕事をしていると、えもいわれぬいい香りが漂ってきました。見上げると、キンモクセイの花が木を前面に覆わんばかりです。黄色というより橙色です。そのそばに、紫式部の小粒の花も咲いています。いよいよ稲刈りが始まりました。秋本番です。
 
(2009年7月刊。1900円+税)

2009年10月16日

そして戦争は終わらない

著者 デクスター・フィルキンス、 出版 NHK出版 

 アメリカのイラク侵略戦争に従軍したアメリカの若きジャーナリストのレポートです。
 表紙の写真がアメリカそのものを描いています。必死の形相です。恐怖で顔が引きつっています。女性兵士ではないかと思うのですが、ともかく若い白人兵士がイラクの町なかで襲撃にあい、小銃を構えながらも恐れおののいている様子がよくとらえられています。
 アメリカ兵は既にイラクで5000人近くも亡くなっています。もちろん、イラク人の死者は、それより桁違いに多いことと思います。それにしても、勝ったはずのアメリカ軍、占領軍のアメリカ軍が、毎日毎日いまだに殺されていっているわけです。やはり、このアメリカによるイラク侵略戦争は、かつてのベトナム侵略戦争と同じように、アメリカの大きな間違いだと思わざるを得ません。そんな侵略戦争に日本がアメリカ軍に加担したのを、私は恥ずかしく思います。
 オバマ政権がイラクから撤退する方針を打ち出しているのは正しいと思います。ところが、アフガニスタンにはアメリカ兵を増派するというのですから、私にはまるで理解できません。
 若いアメリカ兵が次のように語った。
ここは世界でも最悪の場所だと言われているが、それほど悪いわけじゃない。連中は自分たちのために戦っているだけだ。どこにでも内戦はある。アメリカだって内戦はあった。
 こっちは撃つだけだ。すると、向こうが反撃してくる。やつらをぶっ殺して家族のもとに帰るか、それとも連中に殺され、さらに多くの人が殺されるか、どちらかだ。撃たないと、オレは家族のもとにも、彼女のもとにも帰れない。ここで生き抜くほうが、よっぽど耐えられないことだ……。
 著者は現在のイラクを、精神の病んだ国だといいます。人々はかつて持っていた奔放な明るさを失い、じっと家に閉じこもっている。いつどこで起きるか分からない自爆テロにさらされ、隣人による告発を恐れ、警察をかたる誘拐一味からの電話に怯えながら生きている。母国の治安を守ろうと警察官募集の行列に並べばテロにあい、民主主義を根付かせようと選挙に行こうとすれば家族ともども皆殺しにするぞと脅迫される。身を守るためには、家の中にとじこもっているしかない。太陽の下にいるのは、アメリカ軍か、そうでなければテロリストだけなのだ。
 こんなイラクに、アメリカ人ジャーナリストが4年もいて無事だったというのです。奇跡としか言いようがありません。日本人ジャーナリストで、そんな人はいるのでしょうか。
 根本的な障壁になっているのが、言葉だ。イラクにいるアメリカ人で、アラビア語の単語を2つ以上知っているのは、兵士でも外交官でも、新聞記者でもほとんどいない。そして、その大多数が通訳さえ同行していない。
 多くのイラク人にしてみれば、サウスダコスタから来た19歳の典型的な陸軍伍長は、決してアメリカの善意を運んできた無垢な著者ではなく、むしろ武装した無知な若者という、最悪の組み合わせでしかない。
 アメリカがイラクに侵攻したあとの5年間に900人以上の自爆者が出ている。自殺志願者には事欠かない。殉教作戦中に殺された。自爆のことは、このように表現される。
 トイレは、とても重要な問題だ。6000人もの海兵隊が歩いて行進するというのは、とんでもないことである。どこか、その辺で用を済ますというわけにはいかない。夜も同じだ。武装勢力には、凄腕の狙撃手がいる。そして、便器は使い物にならない。
 バグダッド支局は、要塞化していった。クレーンを使って、厚さ30センチ、高さ6メートルのコンクリート防爆壁を建てた。天辺には、有刺鉄線を張る。武装した警備員を20人雇った。そして、30人、40人へと増やしていった。全員にカラシニコフ銃を買い与え、地下室にあるロッカーにはグレネード弾が置かれた。屋上にはサーチライト、そしてマシンガンがある。
 元兵士の警備アドバイザーを日給1000ドル(10万円)で雇った。装甲車を3台購入した。新聞社が記者にかけた生命保険料は、1か月1万4000ドル(140万円)。保険会社は、少なくとも1人は死ぬと推測していることになる。
 バグダッドの電力は、1日4時間しかもたない。自家発電できるようにイギリスから600万円かけて発電機を輸入した。
 警戒厳重のグリーン・ゾーンにいると、この戦争は負けるという気がしてくる。
 いやあ、おそらく、そうでしょうね。アメリカのイラク侵略戦争は間違っています。いかにフセイン大統領がひどい独裁者だったにせよ、アメリカのやったことを正当化できるものではありません。日本が、アメリカの間違いをこれ以上は追従してほしくないと、つくづく思います。

(2009年2月刊。1600円+税)

2009年9月 2日

謀略法廷(上・下)

著者 ジョン・グリシャム、 出版 新潮文庫

 富めるものは、さらに富め。
 オビに書かれた文句です。日本もアメリカ型の超格差社会に突入しつつあります。ニッサンやソニーなどの取締役の平均年収が2億円という最近の新聞記事を読んで、私は愕然としました。派遣で働いている若者が月収20万円もいかず、派遣切りにあったら、たちまちネットカフェを泊まり歩くしかない状況を作り出す大企業の経営者は、月収2000万円というのです。この100倍もの格差は昔からあったものではありません。
 今度の選挙戦でも、高速道路の料金をタダにするか1000円にするかなんて不毛の議論がありましたが、派遣労働を一刻も早く止めさせることを争点にしてほしかったと切実に願います。
 それにしても、アメリカの金持ちと大企業は司法まで完全に支配しているのですね。
 この本は小説ですが、まったくハッピーエンドではありません。オビのとおり、富めるものがますます富んで、享楽の限りを尽くすのです。いやはや、そんな社会に未来はありません。しかしまあ、それを堂々と正面から問題にした小説が、アメリカで280万部も売れたというのですから、まだ救いはいくらかあるのでしょうね。
 日本で言うと、水俣病訴訟のような裁判が提起されます。地域住民に公害垂れ流しによる被害が発生して、加害企業を訴えたのです。原告代理人の弁護士たちは、その訴訟に全力投入したため、もはや破産寸前の状況に陥っています。銀行から多額の借金をしていて、それを支払えない状況なのです。
 しかし、陪審法廷は原告勝訴の判決を下しました。といっても、加害企業は直ちに控訴しますから、すぐにはお金は入ってきません。そして、加害企業は州の最高裁判事の構成を加害企業寄りに変更しようと企てます。そこに選挙ブローカーが介入して、選挙戦が始まります。アメリカでは、裁判官も選挙で選ばれるのです。
 州の最高裁判事の名前を一人も思い出せない住民が66%を占め、そもそも裁判官について有権者が投票によって選出していることを知らない住民が69%にのぼる。
 選挙で選ばれるのは、裁判官だけではない。道路管理局長、公共事業委員長、州出納局長、州保健農業委員長、郡の税務署長、監察医まで、みんな選挙の対象になる……。うひゃあ、す、すごいですね。
 その大企業は、裁判官の椅子をお金で買おうとしている。法廷が特殊利益団体にあやつられようとしている。これを避けるには、私的な献金をすべて排除して、選挙を公的な資金だけでおこなうようにするか、裁判官を指名制度に切り替えること。そもそも、裁判官になろうとする者が頭を下げて票を集めることを強いられるのが間違っている。
 死刑制度の廃止に賛成するか否か、ゲイ同士の結婚を認めるのか否か。こんなことが無理に争点とされて、無理やり候補者は踏み絵を踏まされます。
 そして、ダイレクトメール攻勢とテレビ宣伝攻勢にさらされるのです。そこでは、資金力の優劣が左右することになります。お金の力は、かくも偉大か、と思わせる選挙戦の結果でした。
日本の司法システムにも依然として大きな問題があります。裁判官をどこまで信頼できるか、ということです。しかし、本書のように直接選挙で選ぶシステムのなかで、お金の力でマスコミをうまく操作できたとしたら、大企業と金持ちのための司法でしかないということになります。そうなったら、虚しさいっぱいですよね……。アメリカの司法の問題点の一つを認識させられました。

サンモリッツへはチューリッヒから列車に乗っていきました。チューリッヒを9時半に出て、途中のクールで乗り換え、サンモリッツに昼過ぎに着きました。4時間かかったことになります。日本人のツアー客が同じ列車に乗っていたようで、ツアーコンダクターの引率で賑やかに話しながら駅前から去っていきました。若い日本人女性2人連れもいました。いずれも私とは別のホテルのようで、その後会うことはありませんでした。
ホテルは駅のすぐ近く。高台に見える大きなホテルです。ところが、スーツケースを引っ張りながら歩いて行くと、すぐ目の前に見えるのに、坂道の勾配がきついせいで、大変なのでした。
途中、高級そうなブティックの立ち並ぶ街並みを通ります。安っぽい土産品店は見当たりません。坂道を上りつめたところに泊まるホテル(クルム)があります。
あとでわかったのですが、急がばまわれというコースがあるのでした。駅からいったん湖側に出るのです。湖畔の道路を歩いてしばらく行くとエレベーターがあり、そこから地下駐車場内に入ります。すると、そこに大きくて長いエスカレーターがあるのです。そのエスカレーターに乗ると、なんと、目の前に高級ブティックの立ち並ぶところに出るのです。そこからホテルまではもうわずかなのです。
サンモリッツは、坂の多い街なのです。
 
(2009年7月刊。705円+税)

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