弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
社会
2021年2月 9日
命の砦
(霧山昴)
著者 五十嵐 貴久 、 出版 祥伝社
新宿の地下街で自殺志願者たちをネットで集めてガソリンで同時多発自爆テロが仕掛けられた。みるみるうちに地下街に大規模火災が広がり、あちこちに爆発まで発生し、大勢の人々が右往左往しながら焼死していく。まさしくノンストップ・パニック小説です。
そこに消防士たちがプロフェッショナルとして自らの生命を賭して焔のなかに飛び込み、人々を何とか救い出そうと活躍する。なるほど、地下街に大量のガソリンを持ち込み、自爆テロのようにして自らガソリンをかぶって火をつけたら、恐ろしいことになってしまうでしょう...。
そのうえ、今ではパソコンやゲーム機などに大量にマグネシウムがふくまれていて、そこに水をかけると、かえって爆発してしまって大災害をひきおこす。いやあ、これまた恐ろしいことです。そんな状況が刻明に描写されていきますので、地下街の恐ろしさって、大水害のときだけじゃないということがよく分かりました。脱出口を日頃から気をつけておかなくてはいけませんね‥‥。この本を読んで、消防士集団のプロ意識の高さも再認識させられました。
増強特命出場。異常事態に際しては、特別命令が発せられる。消防は地方自治体の管轄下にあり、それぞれ独立した機関。しかし、大規模災害時などでは、消防庁長官が長官命令を発令した場合に限って、全国の消防局の消防隊を現場まで人員派遣させることができる。火災発生のとき、警察の役割は避難誘導、人命救助が主。被害状況を把握するのも重要な任務だ。
逃げるとき、一番危険なのはパニックに巻き込まれること。そして、まず顔を守る。視覚を失ったら、逃げることはできない。できるかぎり水を飲んでおく。やけどしても治りが早くなる。そして、絶対に炎を吸い込まない。気道火傷(やけど)は命にかかわる。姿勢を低くして、水に浸したハンカチで鼻と口を覆って煙を吸わないようにする。
水では消せない。そして水を使ってはならない炎がある。それがマグネシウム火災だ。マグネシウム火災に対する放水消火は厳重に禁止されている。マグネシウム専用消火剤を使う。パソコンは強度と軽量化のためマグネシウムが10%も使われている。スマートフォン・ゲーム機にも、だ。恐ろしい世の中なんですね...。
(2020年10月刊。1700円+税)
2021年2月 5日
三川坑を語り伝える~炭塵爆発編~
(霧山昴)
著者 ・ 出版 三川坑に慰霊碑を建てる会
死者458人、一酸化炭素(CO)中毒患者839人という大災害となった三池炭鉱三川坑の炭塵爆発が起きたのは1963年(昭和38年)11月9日午後3時12分でした。私は大牟田市内の延命中学校3年生で、ドーンという大きな音を聞き、やがて遠くに黒い煙が雨雲のように黒雲となって立ち上がるのを校舎の3階から眺めました。すぐには何が起きたかは分かりませんでしたが大変なことが起きたようだという予感はしました。
この本によると、三池労組と新労組とが別々に慰霊碑を建てていたのを、今度、一つにした立派な慰霊碑を建立したそうです。とても良いことです...。
この本には事故で亡くなった父親の顔を見た子供の感想が紹介されています。
「棺の中を見ると、親父は優しく美しい顔をしていた」
「父の身体は傷もなく、赤くなった顔が酒に酔っているようで、触れた冷たさで『死んでいる』と実感した」
「白いはこにお父さんがねむっているようにして、はいっておられました。歯を4本ぐらいだして、わらっているような顔をしておられました」
「いつも優しい元気な父が、ただ、ねむったようにしていた」
この大事故について、三井鉱山が出した声明は次のように書かれていた。「炭塵大爆発というのは、全山爆発になりやすい。それが458人の死者にとどまったのは、むしろ三池炭鉱の保安が良かったことの証明である。したがって、石炭合理化政策の姿勢をなんら変えることはない」(西日本新聞 1963年11月13日)
これはひどい。ひどすぎます。資本の論理というのは、これほどまでに冷酷なのですね...。呆れるというより、心底から怒りを覚えました。
そして、合同葬儀のとき、栗木幹(くりき・かん)社長は次のように言った。「会社にぺんぺん草がはえようとも、(遺族の)皆さんのことは一生面倒をみる」
実際には、まともな補償もなく遺族・患者は冷たく放り出されて今日に至っています。三池炭鉱の坑内労働というのは、すべてを機械にまかせるわけにはいきません。三川坑の場合は採炭現場は地下500メートルほど地下にあります。真っ暗闇の世界です。亡くなった458人の全氏名と当時の年齢が紹介されていますが、20代が1割、44人もいます。残念無念だったことと思います。
三池大争議が終わって、会社が保安を軽視したことがこの大災害につながったものとされていますが、まさしくそのとおりでしょう。57年前の出来事ではありますが、決して忘れてはいけないものだと思います。
118頁の小冊子ですが、ずしりという重たさを感じました。
(2020年11月刊。500円+税)
2021年1月29日
ルポ新大久保
(霧山昴)
著者 室橋 裕和 、 出版 辰巳出版
コロナ渦のおもで今は様相がずいぶん変わっているとは思いますが、その直前までの東京は新大久保の街の様子を刻明に知らせてくれる貴重なるルポルタージュです。
大久保2丁目の住人8千人のうち日本人は5400人、外国人が2600人で、人口の3分の1が外国人。大久保1丁目になると、4割が外国人。新宿区では外国人率11%、日本全国では2%。
今や、韓国人によるコリアン・タウンというより、多くの外国人が混住している。そのなかでひときわ元気で目立つのはベトナム人。ベトナムから日本へ来るとき70万円を業者に支払っている。オーストラリアだと200万円なので、日本の方が安い。日本に来たベトナム人の若者は日本語学校で日本語を身につけ、専門学校、大学へと進学していく。ベトナムでは在外ベトナム人からの送金がGDPの6%を占めている。2011年の東日本大震災で中国人と韓国人の留学生たちが日本を去って帰国していった。それを埋めたのが、ベトナム人やネパール人など。日本政府がビザの要件を緩和したのだ。
24時間営業の「新宿八百屋」は29人もの外国人留学生が働いている。ベトナム人とネパール人が中心。そして、お客のほうは1日に2100人が来て、その8割が外国人。すべて日本語による販売。新大久保には、出稼ぎ先と故郷を結ぶ送金会社がコンビニよりずっと多い。リミッタンスと呼ばれている。
日本政府は2010年に資金決済法を施行して、銀行以外の業者にも海外送金のライセンスを付与している。日本での海外送金の取扱高は年9000億円にものぼる。今世界ではなんと70兆円。
新大久保には外国人専門に家賃保証をする会社もある。社員は3つの言葉が話せる外国人スタッフ。社員の7割、170人が外国人でベトナム、ミャンマー、ネパール、インドネシア人もいる。
新宿区は外国人支援にとりくんでいて、生活支援ハンドブックは、8ヶ国で表記されている。日本語はルビつきだ。
「アリラン・ホットドッグ」では2018年夏に1日2000個のハットグを売った。日本人の中高生の女の子たちが列をつくって買って食べた。
大久保国技館には、23の言語で、2300冊ある。ネパールは人口2800万人のうち国外で働く人が500万人いる。海外から本国への送金がGDPの3割を占めている。
こんな新大久保がコロナ渦のなかでゴーストタウン化しているとのこと。心配です。
(2020年9月刊。1600円+税)
2021年1月21日
「人新世の『資本論』」
(霧山昴)
著者 斎藤 幸平 、 出版 集英社新書
まだ33歳という若さの哲学者です。ドイツの大学で哲学を学び、権威ある「ドイッチャー記念賞」を歴代最年少で受賞したというのですから、タダモノではありません。
「人新世」(ひとしんせい)とは、聞きなれないコトバです。人間の活動の痕跡が、地球の表面を覆い尽くした世代という意味。つまり、人類の経済活動が地球に与えた影響があまりに大きいため、地質学的にみて、地球は新たな年代に突入したことを意味している。ノーベル化学賞を受賞したパウル・クルッツェンが名付けた。
マルクスの『資本論』を参照しながら論述されていくのも珍しいところです。
地球の気候変動には、日本人も大きな責任がある。日本は、二酸化炭素(CO2)の排出量が世界で5番目に多いから。日本を含む排出量上位5ヶ国だけで、世界全体の60%の二酸化炭素を排出している。
「人災」に、私たち日本人は間違いなく加担している。このことに私たち日本人は自覚していないように思われます。コロナ禍でも生活習慣を変えようとしないのは、いいことだとほめられるものでは決してありません。
資本主義は、現在の株主や経営者の意見を反映させるが、今はまだ存在しない将来の世代の声を無視することで、負担を未来に転換する。つまり、将来を犠牲にして、現在の世代は繁栄できる。そして、その代償として、将来世代は自らが排出していない二酸化炭素の影響に苦しむことになる。
こうした資本家の態度について、マルクスは「大洪水よ、私が亡き後に来たれ」と皮肉った。今だけ、自分だけ良ければ子孫がどうなろうと知ったこっちゃない。これがいまの自民・公明政権ですよね。ひどいです。
チリはアボカドを生産している。輸出用。「森のバター」と呼ばれるアボカドの栽培には、多量の水を必要とする。そして、土壌の養分を食い尽くすため、一度アボカドを生産すると、ほかの種類の果物などの栽培は困難になってしまう。つまり、チリは自分たちの生活用水や食料生産を犠牲にして海外への輸出向けにアボカドを栽培している。
裕福な生活様式によって二酸化炭素を多く排出しているのは、先進国の富裕層だ。下から50%の人々は、全体のわずか10%しか二酸化炭素を排出していない。私たち自身が、当事者として、帝国的生活様式を根本的に変えなければ、気候危機に立ち向かうことは不可能だ。
グローバルな公正さという観点でいえば、資本主義はまったく機能しない。役立たずな代物である。今のところ私たち日本人の生活は安泰に見える。だが、この先、このままの生活を続けたら、グローバルな環境危機はさらに悪化するだろう。そのとき、トップ1%の超富裕層にしか今のような生活は保障されないのだから...。現在の「にせの資本主義」こそが、実は資本主義の真の姿なのだ。うむむ、そうなんですよね、やっぱり...。
脱成長の主要目的は、GDPを減らすことではない。また、石炭火力発電所を建設しているなら、「脱成長」ではない。経済成長していなくても、経済格差が拡大しているなら、「脱成長」でもない。
マルクスにとっての「コミュニズム」とは、ソ連のような一党独裁と国営化の体制を指すものではなかった。マルクスにとっての「コミュニズム」とは、生産者たちが生産手段を「コモン」として、共同で管理・運営する社会のことだった。
うひゃあ、そうだとするとイメージがまるで違ってきますよね...。
マルクスは大きく誤解されている。この誤解を解かなければいけない。資本主義がもたらす近代化が最終的には人類の解放をもたらすと楽観的にマルクスは楽観的に考えていた。マルクスは、資本と環境の関係を深く鋭く分析していた。そして、マルクスは脱成長へ向かっていた。
拡張を続ける経済活動が地球環境を破壊しつくそうとしている今、私たち自身の手で資本主義を止めなければ、人類の歴史が終わりを迎える。資本主義ではない社会システムを求めることが、気候危機の時代には重要なコミュニズムこそが、「人新世」の時代に選択すべき未来なのだ。コミュニズムといっても。さまざまなものがある、晩年のマルクスの到達点と同じように、脱成長型のコミュニズムを目ざす。
加速主義は、世界の貧困を救うため、さらなる成長を求め、そのため、化石燃料などをほかのエネルギー源で代替することを目ざす。だけど、皮肉にも、その結果、地球からの掠奪を強化し、より深刻な生態学的帝国主義を招くことになってしまう。
原子力を民主的に管理するのは無理。
気候危機は真にグローバルな危機閉鎖的な技術を乗りこえて、GAFAのような大企業に支配されないような別の道、解放的技術が必要だ。
95%の私たちにとって、資本主義が発達すればするほど、私たちは貧しくなるのではないか...。ピケティと晩期マルクスの立場は、かつてないほどに近づいている。
深夜のコンビニやファミレスをすべて開けておく必要はどこにもない。年中無休もやめればいい。必要のないものを作るのをやめれば、社会全体の総労働時間は大幅に削減できる。
画一的な分業はやめる。利益よりも、やりがいや助け合いを優先させる。
いま高給マーケティング、広告、コンサルティングそして金融業や保険業などは、重要そうに見えても、実は社会の再生産そのものには、ほとんど役に立っていない。「使用価値」をほとんど生み出さないような労働が高給のため、そちらに人が集まっている現状がある。その反対に、社会の再生産にとって必須なエッセンシャルワークが低賃金で恒常的な人手不足になっている。このエッセンシャルワークがきちんと評価される社会へ移行すべきだ。
まったく同感です。このことは、コロナ禍のもとで、ますます明らかになります。とても大切な問題提起がなされています。ぜひ、あなたもご一読ください。
(2020年11月刊。1020円+税)
2021年1月20日
連帯の時代
(霧山昴)
著者 伊藤 千尋 、 出版 新日本出版社
コロナ渦のもと、なんだか気分がうつうつしていると、この本を読んだら元気になります。これはホントです。読んだ私が言うのですから間違いありません。まず、表紙の写真がいいです。いろんな人種の手がそっと優しく重ねられています。あったかさを感じます。
今の日本には「無気力」が蔓延している。自己責任と自粛を押しつけられ、分断され孤立させられ、何をしてもムダ、どうせ世の中には変わらないとあきらめがち。でも、著者は言います。いや、違う。あきらめていない人々によって、世界は確実に変わっている、と。
アメリカで起きた連邦議会占拠はひどいものでした。トランプが暴動(クーデター)をあおったことは明らかです。なんとか収拾したあと、今ではトランプ弾劾がはじまり、トランプの支持率は激減しているようです。トランプが前回より得票を大きく伸ばしたのに落選したのは、それ以上にアメリカの良識ある人々が投票所に足を運んでバイデンに投票したからです。
アメリカで出来たことが日本でできないはずはありません。野党がまとまればいいのです。連合が労働組合とは思えない横やりをいれていますが、そんな邪魔をぜひ克服して、日本も政権交代で民主主義を回復したいものです。
コロナ渦で起きたイタリアの話が、トップバッターです。政府の方針に反してまで村独自でコロナ対策を断行し、村民の生命と健康を守ったのでした。いつまでたってもスガ政権はPCR検査をまともにせず、医療機関への手当も不十分なままです。Go to トラベルだとかオリンピックとか、企業優先ばかりで庶民切り捨てですから、地方自治体が反逆して、ちっとも不思議ではありません。イタリア人は、組織の決定を待たず、個人が自ら判断する。そうなんですよね、日本人は、そこが弱いと思います。おカミ、政府が何とかしてくれるだろうなんで思っていても、アベもスガも何にもしてくれませんよ...。
次はドイツの話です。日本のスガ首相は、まともに国民に話しかけることがありません。きっと自分のコトバで話すことができないのです。官僚の作文を読みあげるだけの頭しか持っていないようです。日本の首相は残念ながら、それでつとまるみたいですね...。それもこれも低投票率と小選挙区制の「おかげ」です。
メルケル首相の国会でのスピーチを日本文で読みましたが、すばらしいです。心がこもっています。スガ首相の冷淡きわまりないコトバとはまるで違います。
著者はチェコにも行っています。なにしろ東大生のころジプシー調査探検隊の隊長として東欧をかけめぐったという語学の達人でもあります。
チェコ革命前夜、チェコの人々が自由を求めて30万人も集まり、一つの歌をうたったというのです。コロナ渦の下で、人々は集まれませんが、それでもネットで行動することはできるわけです。
歴史を変えるキーワードは人々の連帯。アメリカ・ファーストなど、孤高時代は、もう過去のもの。日本人の私たちは中村哲医師に続こう。力強い呼びかけです。ぜひ、あなたも読んで、元気を取り戻して、高らかに声をあげましょう。
(2020年11月刊。1700円+税)
日曜日に孫たちと一緒にジャガイモを庭に植えつけました。春ジャガです。初めてです。タマネギが4本ほど生き残っていますので、そのそばに植えてみました。孫たちと遊びながらでしたので、少し「三蜜」状態になりました。間引きが必要かもしれません。いつもの可愛らしいジョウビタキが様子を見にきてくれました。
2021年1月19日
安倍政権の終焉と新自由主義政治
(霧山昴)
著者 渡辺 治 、 出版 旬報社
コロナ渦に対するアベ・スガ政権の無策・右往左往ぶりはひどい、ひど過ぎます。今の日本で起きているのは、アベ・スガによる人災だという人が多いわけですが、全く同感です。これだけ被害が拡大しているので、国会はずっと閉会したままで、まともに議論していない。そして、記者会見は再答問を許さず、次の予定があるからと言って打ち切る。国民の生命・健康より大切な予定って何なのか・・・。そして、高齢者の医療費の窓口負担を引き上げる一方で、軍事予算のほうはイージス・先制攻撃のためのミサイルなど、膨大なお金をつかい放題。保健所の機能を強化すべきときに医療機関の削減は予定どおりにすすめる。本当にスガ政権のやっていることは狂っているとしか言いようがありません。この本は、そんな 場当たり主義のアベ・スガ政権は新自由主義政治の必然だということを明らかにしています。緊急出版というのですが。まさに時宜にかなった本です。
アベ内閣は福祉・医療予算を削減すべく、全国424病院を削減の対象とした。不要不急の病床はいらないとしたのだ。つまり、アベ新自由主義改革で、感染症治療の要を担うべき高度急性期・急性期病床、公立・公的病院を大幅削減の対象としていた。そこを新型コロナが襲った。
感染症病床不足はなぜ起こったのか・・・。それは、感染症パンデミックは起こらないと勝手に想定したから。あまり使われないような病床はなるべく減らしたいということ。感染症病床は、いざというときにすぐ使えるようにするため、常に空けておかねばねばならなかった。それが削減されていった。1998年に、感染症病床をもつ病院は1998年には全国に410病院、病床は9060あったのが、2019年には、1785病床へと、2割ほどに激減してしまっていた。同じく保健所の削減も一気にすすめられた。
内閣人事局が各省庁の幹部人事を掌握し、決定権限が首相官邸に集中した反面で、アベ政権をめぐる汚職が格段に増えている。
毎月1億円ものお金(内閣官房機密費)を好き勝手に使える身分でありながらこれでもまだまだ足りずにワイロをもらっているのですね・・・。許せません。コロナ渦の拡大は、デジタル化の遅れがもたらしたと政府はいうけれど、そんなことはありません。たしかに給付手続きのなかでデジタル化しておけばもっとはやかったという面が全然なかったとは思いませんが、PCR検査の遅れは、デジタル化とは関係ありません。医療・福祉現場での無理な人減らしこそがコロナ渦の拡大の重要な要因の一つです。
アベ政権について、著者は無能どころか、国民にとってきわめて有害な政権だったと総括しています。まったく、そのとおりです。そして、アベ政治を承継したスガ政権は、その有害さをますます拡大させています。だったら、野党が力を合わせて政権交代を実現するしかありません。そのためには、5割前後の投票率ではダメです。アメリカでトランプ前大統領を交代させた力は、8割ほどの高い投票率です。アメリカ人にやれて日本人にやれないはずはありません。いま投票所に足を運ばなかったら、自滅するしかありません。元気の出る小冊子です。160頁、1200円。ぜひ、あなたも手に取ってお読み下さい。
(2020年1月刊。1200円+税)
2021年1月14日
マンション管理員オロオロ日記
(霧山昴)
著者 南野 苑生 、 出版 三五館シンシャ
マンションの管理員を13年もやっている人の体験記です。面白く読みました、というのには、あまりに辛い話のオンパレードでもありました。最後に著者の生年を見て、団塊の世代、私と同年齢だったことを知ったのでした。
管理員が高齢者ばかりなのは、第一に賃金が安いこと。月収17万円。手取りにすると月に15万円。夫婦あわせても21万円。ただし、家賃は不要で、ガス代を除いて電気・水道代は管理組合負担なのでタダ。第二に、住民との対話に気苦労が大きくて、とても若者向けの仕事ではない。
マンション管理員は、日常的にクレーム対応する。まずは黙って相手の言い分に耳を傾ける。してはならないのは、安易な判断にもとづく明言。すべては管理組合が決めること。
マンション管理組合の活動をフォローするのが管理会社であり、その最前線にいるのがフロントマン。マンション管理員にとっては、フロントマンが直属の上司となる。
管理組合の理事長が独裁化し、私物化しはじめ、フロントマンがそれに結託していると、迎合しないマンション管理員は敵視され、いびり出されることになる。その結果、マンション管理員がコロコロ変わるというマンションも少なくはない。
マンションにおけるトラブルのトップは騒音問題。マンションの3大トラブルは、一に無断駐車、二にペット、三に生活騒音。
分譲マンションに逆ギレモンスターのタネは尽きない。いやはや、これは大変です。
防犯カメラは、マンションの管理組合の経費節減のため、ダミーであることも多い。
本書は、タイトルからしてマンション入居者の関心を大いに集めているようで、たちまち増刷(5刷)されています。いろいろ世間を知ることのできる本です。
(2020年10月刊。1300円+税)
2021年1月 5日
社会保障切り捨て日本への処方せん
(霧山昴)
著者 本田 宏 、 出版 自治体研究所
36年間、外科医として働き、還暦を迎えて医師を引退したあとは全国を駆けめぐって講演活動にいそしんでいます。私も先日、著者のライブ講演に接しましたので、本書を購入しました。
コロナ禍の下、日本の医療崩壊が現実のものとなっていると著者は警鐘を乱打しています。まったくそのとおりです。
コロナ禍にあいながらも、日本の政府は、既定方針どおり病院の再編・統合をすすめています。つまり、病院や診療所を減らすのです。保健所も減らします。私の町にあった保健所も本年4月になくなりました。
そして、医師を養成する医学部の学生定員も減らします。
日本は感染症専門医が不足している。必要な人数の半分しかいない。
日本の医療費が「40兆円を突破」と報道されているが、そのうち国や地方自治体が負担するのは4割以下。16兆円だけ。残るは、事業主と患者負担の保険料でまかなわれている。40兆円の全部が公費すなわち税金によっているのではない。
著者は、東京オリンピックだとかリニア新幹線なんて、不要不急のものを実行するのにお金を使ってはいけないと強調しています。まったく同感です。
そんなものにお金をムダづかいするのではなくて、医療崩壊を食いとめるのにお金は有効に投入するべきだと本心から思います。
(2020年7月刊。1100円+税)
2020年12月27日
邦人奪還
(霧山昴)
著者 伊藤 祐靖 、 出版 新潮社
自衛隊の特殊部隊が尖閣諸島の魚釣(うおつり)島に上陸し、日の丸の旗を中国国旗に入れ替えた中国の特殊部隊(5人)を撃退した話をマクラとして、本番は、北朝鮮でクーデターが勃発したとき、その混乱に乗じて日本人の拉致被害者6人と強引に日本に連れて帰る作戦が語られています。
著者は海上自衛隊の特別警備隊の創設にも関わった特殊部隊出身者ですので、作戦の軍事的展開については詳細をきわめています。
日の出前に空が明るくなる薄明には、3つの段階がある。一番早いのが天文(てんもん)薄明(はくめい)で、日の出のおおむね1時間半前、5等星が見えなくなる明るさのころをいう。次が、航海薄明で、日の出のおおむね1時間前、空を海の区別がつき、水平線が見えてくる。外洋に出る船乗りにとって、この時間帯は特別だ。前は、いくつかの星の高さ(水平線から星までの角度)を測り、自分の位置を割り出していた。これができるのは、星と水平線が同時に見える航海薄明の時間帯だけだ。三つめが市民薄明。日の出のおおむね30分前で野外作業をするのに支障がない明るさだ。
まともな特殊部隊員になるには、正規の隊員になってから5年はかかる。23歳で挑戦し、2年間の教育期間を終えて、25歳で特殊部隊員になっても、本当の働き盛りは30歳から40歳。
そのあとに問題がある。陸上自衛隊なら、最高の技術とたぐいまれな経験と理想的な肉体をもった人間として重用されるだろう。しかし、海上自衛隊では、それがない。海の特警隊出身者は、いろんな意味で役立たずだ。特殊部隊での知識・技術・経験を生かす場所が他にはまったくない。
魚釣島には野生化したヤギが数千頭もいて、それを捕まえたら、食料には困らない。また、水を確保するための井戸を掘らなければいけない。
中国の特殊部隊員(5人)を日本の特殊部隊員(3人)が、こてんぱんにやっつけたという話です。この本では、双方の特殊部隊員はお互いに殺しあわないように自制しているのですが、そんな理性的な対応が防衛省・自衛隊のトップが出来るとは、とても思えません。
続いて、北朝鮮で軍部がクーデターを起こして大混乱が発生しているなかに日本の自衛隊の特殊部隊が派遣され、無事に拉致被害者を日本に連れ帰ったというのも、想定が日本に甘すぎ、北朝鮮軍の戦闘能力を馬鹿にしている気がしてなりませんでした。日本の特殊部隊員は、モヌークとブラックホークに乗っていた自衛隊員21人がやられてしまった...。この本では、日本側は合計31人の死者を出しています。
ところで、なぜ日本の自衛隊の特殊部隊が北朝鮮に殴り込みしたのか、アメリカ軍はどうしたのか...という疑問があります。
ちなみに、アメリカの軍人は将軍から一兵卒まで、日本に入国し、出国するのはまったく別ルートをつかいます。日本の入国管理局を通らずに自由に入出国していますし、それを日本に教えませんので、コロナ禍対策も尻抜けです。
アメリカ軍が史上最強である理由は2つある。圧倒的な軍事予算と組織力。レベルの高くない人間10人で、ちゃんと10の力を発揮する組織をつくる能力。これでアメリカは世界の人々に君臨している。
こんな本が売れて読まれるということは、日本が戦争する国に近づいているということですよね。大いに心配になります。
(2020年7月刊。1600円+税)
2020年12月22日
この国の「公共」はどこへゆく
(霧山昴)
著者 寺脇 研、前川 喜平、吉原 毅 、 出版 花伝社
原発反対の声をあげたユニークな城南信用金庫の吉原毅理事長(当時)は、文科省の事務次官だった前川喜平氏と麻布学園の中学・高校の同級生。ともにラグビー部でがんばった仲だという。そして、寺脇氏は前川氏の3年先輩で、文科省の先輩・後輩の関係。
寺脇氏は、前川氏を入省当時から、いずれ文科省トップの事務次官になると見込んでいたという。
たしかに官僚の世界ではそれがあると思います。私の司法修習同期同クラスのO氏も司法修習生のときから、いずれ検事総長になると周囲からみられていました。本当にそのとおりになりました。頭が良いだけではダメで、腰の低さも必要です。柔軟に対応できる人がトップにのぼりつめます。もちろん、運も必要です。
市場にまかせておいたら何が起きるか...。お金持ちだけが安全地帯をつくって、そこに逃げ込む。その外側では、パンデミックで倒れる人がどんどん出てくる。新自由主義の行きつく先は、地獄の沙汰も金次第ということ。命もお金で買える。お金のない奴は死ねという話。だけどパンデミックは地球規模で広がっていくのだから、安全地帯にいるはずのお金持ちだって、いずれは生きていけなくなる。
人間の価値観の根っこの部分には、経験してきた学校生活、そのときの仲間や教員によってつくられている。なので、学校は、たとえ授業がなくても、子どもたちがたむろしているだけで学べることはある。
ふむふむ、これは私の経験に照らしてもそう言えます。私は市立の小学校と中学校、そして県立の普通(男女共学)高校の卒業ですが、それこそ種々雑多な庶民層の子どもたちと混じりあっていました。今は、それが良かったと本心から思っています。
超有名校である麻布学園では、親はエリート、金持ち層で、ほとんど似たような階層の子弟とのこと。それはそれで居心地がいいとは思いますが、異質な人々との出会いを経験できないというハンディもあるわけです。
安倍首相が2020年2月27日に全国一斉休校を要請した。法律上の根拠のない「要請」に全国の学校が応じてしまった。政治権力が無理やり学校を閉じた。
とにかく権力を握っている人の言うことを聞いていたらいい、聞かないとまずいことになる。そんな風潮が強まっているのが心配だ。本当に、私も心配です。
城南信用金庫は、年功序列を復活させた。抜擢(ばってき)人事はしない。一度や二度のミスでも厳しい降格人事はしない。なるほど、これも一つの考え方です。
前川氏は中学校で人権について話をしたとき、あえて自由を強調し、「きみたちは自由だ」と話した。自分で考えて行動するということは人に騙されないことでもある。大人の言うことを鵜呑みにしない。親や教師の言うことであっても、ただ、そのままには信じるな。なーるほど...、ですね。
「公共」とは何か、深くつっこんだ話が盛りだくさんで勉強になりました。出版社(花伝社)の平田勝社長より贈呈を受け、一気に読みあげました。ありがとうございます。
(2020年12月刊。1700円+税)