弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

社会

評伝・菊田一夫

著者:小幡欣治、出版社:岩波書店
 私は「君の名は」の時代の人間ではありませんし、「放浪記」も「がしんたれ」も「がめつい奴」も劇場で見たことはありません。でも、菊田一夫という劇作家がいたということは鮮明な記憶として残っています。なぜなのか、自分でもよく分かりませんが・・・。
 この本は、その菊田一夫の生い立ちから成功して、亡くなるまでをたどっています。菊田一夫という人物の複雑な表も裏も見る思いがしました。
 菊田一夫にすれば、戯曲などというものは、師事して会得するものではなく、自分ひとりで苦労して切り拓いていくものだとする体験的劇作論が根底にあった。しょせん、この世はおのれひとりであって、他人をあてにすべからずという人生哲学に根ざしていた。
 幼時から少年期にかけて辛酸をなめ尽くした菊田一夫は、晩年まで、依怙地なほど、おのれ独りにこだわった。徒党を組むことを嫌った。
 菊田一夫は少年のころ、素直でかしこい子だった。6年生のときの通信簿は、修身、国語、歴史、読み方、唱歌、算術は、全部、甲だった。とくに算術は、どんなときでも  100点だった。ただし、体操と手工と図画はダメで、丙だった。運動神経が鈍くて、手先は不器用だった。
 丁稚奉公をしていた少年時代、仕事がのろくて要領が悪いことから、「この、がしんたれ」と言われて、よく殴られた。「がしんたれ」というのは大阪弁で、能なしの、役に立たない人間だという蔑称だ。
 菊田少年は、ふだんは色が黒くておとなしいので、インドのお地蔵様と言われ、たいがいのことはニコニコ笑って我慢しているが、その限界をこえると狂ったように怒り出す。
 菊田一夫青年は、徳永直の名作『太陽のない街』(これは東京・文京区を舞台としています。私の学生時代には氷川下セツルメントが活動していた町でもあります)に描かれた博文館印刷(のちの共同印刷)の大争議に巻きこまれました。大正15年1月、組合はストライキに突入し、2ヶ月の争議でしたが、官憲の介入によって、組合側の敗北で終わりました。菊田青年は、このとき、間違えられて一晩ブタ箱に入れられました。
 笑いの脚本を書くためには、全力投球で必死になって書かなければ、客を笑わすことはできない。しかし、その背後で、常に笑いを書いている自分を冷徹に見つめている、もう一人の自分がいなければ面白いものはできない。喜劇も悲劇も、作者がおぼれてはならない。ふむふむ、なるほど、ですね。
 菊田一夫は、戦争中に、戦意高揚劇をたくさん書いた。滅私奉公を主軸とした巧みな菊田ドラマに、戦時下の観客が感銘した。だから、終戦後、菊田一夫は戦犯作家と呼ばれ、占領軍の影に脅えながらの日々を過ごした。
 戦後、菊田一夫は、ラジオ放送で、GHQの求めにより『鐘の鳴る丘』で注目を集め、さらに『君の名は』で一大ブームをまき起こした。
 興行師と作家とは、立場が常に相反した存在であって、相反しているが故に緊張感が生み出され、良質な演劇がつくられる可能性がある。かりに、興行師におもねって迎合芝居をかいたとしたら、そのときには下にも置かない扱いを受けたとしても、いつかは捨てられる。魂まで売った作家に対しては、魂を売らずに融通のきかない不器用な作家に対するより、興行師は冷酷である。その意味で菊田一夫の晩年は残念でならない。
 モノカキのはしくれを自称している私としても、大いに示唆に富む評伝でした。
(2008年1月刊。2000円+税)

2008年6月12日

宝の海を取り戻せ

著者:松橋隆司、出版社:新日本出版社
 有明海には特産物がたくさんあります。もっとも有名なのは海苔でしょうか。いえ、ムツゴロウかもしれません。魚でいうと、クツゾコと呼ばれるシタビラメ。そうです。あのフランス料理でムニエルとして出てくるものです。そして貝。タイラギの太い貝柱は、ホタテの貝柱に匹敵します。珍しいものでいうと、シャミセンガイです。細い緑色の透きとおった貝です。あっ、そうそう。珍味というと、忘れていけないのに、ワケがあります。イソギンチャクを食べるのです。ミソ漬けにします。コリコリした食感は美味しいですよ。味噌汁にも入れます。このように、まことに有明海は豊かな自然の恵みの宝庫です。
 有明海は、干満差が最大で6メートルにもなる。海面が1日2回上下することになる。これによって海がかき混ぜられ、酸素が隅々まで供給する。
 有明海の漁業生産高が日本一だったのは1980年前後のこと。アサリなどの二枚貝が多いことも理由の一つだった。タイラギ漁師は、年間2000万円も稼いでいた。
 国と長崎県が諫早湾の干拓を始めた。その事業目的は、収益性の高い優良農地を実現することにあるとされた。しかし、干拓地の営農は、秋田県の八郎潟でも岡山県の児島湾でも、どこも困難になっているのが現実である。
 私も、秋田県の八郎潟を見てきたことがあります。タクシーで半日近く見てまわったのですが、ともかく広大な農地ができていました。干拓地ですから、平坦です。大型機械を入れたら、理論上は、大変な高収益の農業ができそうです。でも、そこがうまくいっていないのです。ですから、今さら諫早で干拓地をつくっても、うまくいくはずがありません。
 「しめこき」という言葉が出てきます。初めて聞く言葉です。砂と泥の割合がうまく混じりあってアサリなどがよく育つ状態を言うそうです。
 有明海沿岸4県の覆砂事業費は、1997年から2002年までの6年間で118億円にものぼる。そして、受注した企業が自民党へ政治献金したのが1億7600万円。
 1985年から2000年の16年間で企業が自民党へ献金した総額は10億円にもなる。いやあ、これでは政治家は干拓事業なんて絶対にやめられませんよね。
 1995年からの7年間で、自民党の古賀誠、山崎拓両氏など国会議員9人と自民党熊本県連に10億2000万円が献金された。1人で1億3700万円をもらった議員すらいる。干拓って、一部の人間には金のなる木なのですね。
 国(正確には文科省の外郭団体である科学技術振興機構)がまとめた「失敗百選」に、国営諫早湾干拓事業が選ばれている。そ、そうなんですか。国も失敗を認めているのですね。それにもかかわらず、国の事業は相変わらず続いています。
 長崎県は、県が全額出資する長崎県農業振興公社に干拓農地全部を51億円で買いとらせ、入植希望者にリース配分した。2500億円もの巨費をかけて、入植できるのは、たった45軒の農家と企業のみ。そして、公社が負担する51億円の財源は、県からの貸付金で98年かけて償還するという。
 ひゃあ、100年近くもかけて返していくんですって・・・。そんなこと本当に可能なんでしょうか・・・。干拓地をつくって農地をつくり出す前に、むやみな減反押し付けを日本政府はすぐにもやめるべきです。
 これは、日本の食糧自給率が3割以下という厳しい現実を直視したら、今すぐ直ちに実施すべきことと思います。いかがでしょうか?
 福田さんも舛添さんもあてにならない政治家だと私は思います。
 ところが、全世界的な食糧危機に日本も直面しているのに、自民党の現幹事長が減反政策の見直しを提起すると、元幹事長がすぐにかみつきました。それほどアメリカが怖いんでしょうか。自民党って、骨のずいまでアメリカべったり。アメリカにたてついてまで食糧自給率を上げようなんて発想は、まったくないのですね。あまりにも情けない日本の政権党です。まったく・・・。
(2008年4月刊。1600円+税)

2008年6月11日

活憲の時代

著者:伊藤千尋、出版社:シネ・フロント社
 私とほとんど同世代の朝日新聞記者です。いやあ、よくがんばっていますね。『反米大陸』(集英社新書)、『太陽の汗、月の涙』(すずさわ書店)など、たくさんの著書があります。私も何冊か読みましたが、著者の鋭い感性と言葉の豊かさには、いつも感嘆し、魅きつけられます。
 この本は、著者の講演を活字にしたものですので、とても読みやすい内容となっています。著者は今なお現役の新聞記者です。記者生活30年のうち、20年間を国際報道に従事していました。ですから、世界の事情をよく知っています。なにしろ世界65ヶ国を取材したというのです。すごいですね。うらやましい限りです。
 アフリカ沖にあるカナリア諸島に日本国憲法9条の碑があるなんて、信じられない事実を知りました。1996年にあった除幕式のとき、みんなでベートーベンの第九「歓喜の歌」を合唱したというのです。9条の素晴らしさを実感できます。
 南米チリでは9.11というと、1973年のこと。当時のアジェンデ大統領に対して軍部がクーデターを起こした日のことをさす。そして、夜9時になって外出禁止時刻になると、主婦の「ナベたたき」が始まる。デモや集会に行くだけが反政府行動ではない。逮捕されるのが怖いなら、自分にできる方法でやればいい。大切なことは、心の中だけで思っているのではなく、一人一人が行動で示すこと。うむむ、なーるほど、そうなんですよね。
 著者はベネズエラで女性から「憲法を知らずに、どうやって生きていくのか」と教え、さとされたそうです。うひゃあ、そ、そうなんですか、まいりました。憲法って、私たちの生活を底辺から支えるものなんですね。
 アメリカでは、9.11のあと、反テロ愛国法なるものが制定されました。テロリスト探しの名目で、警察(FBI)が勝手気ままに電話やインターネットの盗聴を始めました。そのとき、それを拒否した警察署長もいたというのです。カリフォルニア州のパロアルトという町のことです。
 今、アメリカ社会は変わった。9.11のあと、ブッシュに団結しようというスローガンに乗った。しかし、あれはおかしかった。もう、あんなのはイヤだとアメリカ国民の多くが思っている。そうなんですね。だからこそ、オバマが有力なアメリカ大統領候補になっているのだと思います。
 中米のコスタリカでは、小学校に入って最初に習う言葉は、人はだれも愛される権利をがある、ということ。いやあ、これってすごいことですよ。うんうん、実にいい言葉です。ホント、そうなんです。誰だって、自分がされたのと同じことを他人にもしたくなるのです。ということは、自分にされたイヤなことはしたくもなるっていうことです。やっぱり、子どものときから他人(ヒト)を大切にするのが大切なんです。
 コスタリカでは、軍事費をそっくりそのまま教育費にまわした。兵士の数だけ教師をつくった。トラクターは戦車より役に立つ。兵舎はすべて博物館に変える。大賛成です。コスタリカの識字率は今や100%に近い。国民の10人に1人が教員の免状をもっている。す、すごーい。子どもたちが政治に関わるような仕組みになっているのもいいことですよ。
 コスタリカのアリアス大統領は1987年度のノーベル平和賞をもらった。日本の佐藤栄作とちがって、本当に世界平和に貢献したからだ。平和憲法をもっている国の義務は、周囲の国も平和にすること。コスタリカは平和の輸出を始めた。パチパチパチ。心から、拍手を送ります。
 南アメリカでは、1998年以来、10回の大統領選挙があった。反米左派が9勝、親米右派が1勝。反米左派が圧勝した。もうアメリカには追随したくないということ。
 1998年のベネズエラが皮切りとなった。2002年のブラジル、2003年のアルゼンチン、2005年のウルグアイ、2006年のチリ、ペルー、ボリビア、エクアドルと、反米左派政権になった。コロンビアだけがアメリカべったりの大統領だ。ただ、この国ではソ連派ゲリラがいて、アメリカ派だけで選挙したから、そうなっただけだ。
 読んでいると、なんだか思わず元気の出てくる本です。団塊世代も捨てたもんじゃありませんよ、まったく。
(2008年5月刊。999円+税)

2008年6月10日

肩書きだけの管理職

著者:安田浩一、出版社:旬報社
 企業側に立って労働事件を手がけることの多い、私の親しい弁護士が、先日、今のサラ金・過払金バブルのあとには、無償残業の不払い賃金請求事件が激増するだろうという予測を語っていました。なるほど、そうかもしれません。
 この本は「名ばかり管理職」の非情な労働実態を鋭く告発しています。ひゃあ、そんなにひどいのかと私も少なからず驚きました。本当に衝撃を受けるほどでした。これでは、まるで現代にも奴隷労働があるじゃないかと思ったほどです。一家団らんなんて、夢のまた夢。それどころか、過労死が迫っているのです。今や、カローシ、としてカラオケ並に世界的に有名になってしまった、日本を代表する嫌な言葉です。
 高野氏は1987年にマック社に入社した。マック社は、今、日本全国に3800もの店舗を展開している。マックは、基本的につくり置きせず、しかも1分以内に商品を出す。そこにあるのは、安かろう悪かろうだ。
 私は、この30年間、一度もマックを食べたことのないのを誇りに思っています。化学薬品みたいなものを食べられるものか、という気持ちです。マックにはどれだけの食品添加物が入っているのでしょうか。そして、牛肉。どこで生産されている牛なのでしょうか。アマゾンの原生林を焼き払って牧場に変え、牛を生産しているという事態は変わったのでしょうか。人工飼料による安上がりの牛肉生産方式は、今も続いているのではありませんか・・・。
 マック社は1994年から、アメリカ本社主導で経営改革をすすめた。すべての商品を値下げした。殺伐とした社内の雰囲気。そして、異常な長時間労働。
 日本マックの創業者(藤田田)が2004年に死んでも、マック社は何もしなかった。マック社にはアメリカ流のドライな経営手法が導入された。成果主義は店長の給与ダウンをもたらした。厳しい売上目標とノルマを社員に課した。高野店長は、時間外労働が月100時間をこえ、1ヶ月に3日休めるかどうか。
 管理職と管理監督者とは、まったく異なる存在である。管理職とは、
 ? 職務内容や職務遂行上、経営者と一体的な地位にあるほどの権限を有し、これにともなう責任を負担している。
 ? 本人の裁量で、勤務時間を自由に調整できる権利を有している。出退勤は自由。
 ? その地位にふさわしい処遇を受けている。
 というもの。ところが、高野店長は、このどれにもあてはまらない。まさに、「名ばかり管理職」だ。マック社は、全世界で労働組合への敵視政策をとっている。
 中島氏がすかいらーくに入社したのは1979年。すかいらーくは、「小僧寿し」「ジョナサン」「バーミヤン」「ガスト」などを経営している。
 店長の中島氏は、毎日の拘束時間が最長17時間40分、最短12時間30分。休日は1日のみ。毎月の平均残業時間が150時間。す、すごーいですね。いえ、ひどいです。非人間的な長時間労働です。
 「セブン・イレブン」は日本全国に1万5000店舗をかまえている。労組はなかった。店長の年収は平均400万円。実際、店長の裁量が及ぶ余地などない。防犯用の監視カメラで、休憩時間中に漫画雑誌を読んでいるのを「発見」されて、店長からヒラ社員に降格された。「店長としてふさわしくない」というのが表向きの理由だ。これまた、ひどいです。
 紳士服の『コナカ』では全社員1000人のうち、店長は400人もいる。店長こそ一番早く出勤しなければいけない。開店時間の1時間半前、午前8時30分、店長は店舗のカギを開ける。ノルマを達成するため、社員が自腹で購入する。それは年に30万円ほどになる。これも、ひどいですね。
 店長は税込み月収35万円。ボーナスは年2回、50〜70万円。最低でも1日に13時間は拘束される。労基署が立ち入り調査した。その結果、一般社員720人に対して、未払い残業代として9億円が支給された。店長など管理職400人に対して、特別賞与として4億7000万円が支給された。
 あまりにもひどい労働実態が描かれています。まさに搾取です。これでは現代日本で『蟹工船』が飛ぶように売れ、マルクスが見直され、日本共産党が脚光を浴びるのも当然です。
 庭にグラジオラスの花が咲いています。淡いピンクの花はほのかな色気を感じさせます。ヒマワリに囲まれて、ひっそりと黒紫色に近い濃紺のグラジオラスもあります。
 カンナの花が咲きはじめました。黄色い花に赤の斑(ふ)が入っています。私のお気に入りの色です。本格的な夏到来を示す情熱の花です。
 夏の庭は大変な勢いで雑草がはびこるので、日曜日にあちこち整理して、少しスッキリ感を出しました。
 夜、ホタルを見に歩いて出かけました。2週間前とちがって、チラホラ飛んでいるだけでした。九州北部は、まだ梅雨入りしていないようです。
(2007年12月刊。1300円+税)

2008年6月 6日

朝令暮改の発想

著者:鈴木敏文、出版社:新潮社
 私はコンビニをなるべく利用しないようにしています。従来型のパパ・ママ・ストアーをつぶしたくないからです。でも、出張したときなどには、コンビニを利用せざるをえません。だって、他に店がなければ選択の余地がないからです。
 この本によると、今や「セブン・イレブン」は日本全国に1万店舗をこえます。一国内の店舗数では世界最大規模。ところが、四国、北陸、山陰など、13の県には1店舗もありません。これをドミナント戦略と言います。ドミナントとは、高密度多店舗出店と言われます。ドミナント戦略は、経営面では物流やシステム、広告、店舗指導等の各面での効率向上などの効果が期待できる。出店地域の消費者に対しては心理的な面で及ぼす影響が大きく、爆発点をもたらす一つの仕掛けになっている。
 うへーん、「セブン・イレブン」って、日本全国どこにでもある店かと思っていましたが、違うのですね。それはともかく、1万店舗を統率するリーダーの言葉には重みがあります。
 過去の経験をなぞる時代は今や完全に終わった。環境が激変し、マーケット全体が縮小(シュリンク)し、アゲンストの風が吹くなかで、仕事の仕方はかつてなく難しくなった。今は、一度言ったことでも、環境が変化して通用しなければ、すぐに訂正して新しい方針を示さなければ変化に取り残されてしまう。朝令暮改をちゅうちょなくできることが優れたリーダーの条件の一つとなっている。
 必要なことは、もう一人の自分を置いて、自分を客観的に見つめ直すこと。自分は過去の経験にとらわれていないか、前回と同じやり方を繰り返すので挑戦にならないのではないかと、「もう一人の自分」から自分をとらえ直す。そして、過去の経験をいったん否定し、一歩ふみ込んで考えてみること。
 顧客がその商品を買うか買わないかは、心理によって大きく左右される。単に需要があれば売れるわけではなく、顧客に買うだけの価値ある商品であることを心理的に認知してもらえなければ、買ってもらえない。まさに心理学の時代である。
 日本の消費者は世界でもっとも対応が難しい。そして、日本ほど「画一化」が進んだ国はない。そうなんですよね。日本人って、ホント、横並び心理が強いですよね。あの人が持っているのなら、私も持っていなければ、と思ってしまうんです。
 日本ではソフトドリンクだけでも毎年1000種類もの新製品が生まれ、そのほとんどが半年、早いものは2週間で店頭から消えてしまう。セブン・イレブンで扱う商品も、年間7割が入れ替わる。これほど商品のライフサイクルが短い国は日本以外にない。
 セブン・イレブンでは、毎週20〜30アイテムの新商品が登場している。
 会議は90分まで。生産性の低い仕事の典型は、多すぎる会議と、そのための膨大な資料づくり。
 人間は、妥協するより、本当はこうありたい、ああありたいと思っているときの方が精神的に安定するものだ。守ろうとする自分があることも認めながら、新しいことに挑戦しようと意欲を持ち続ける。それが人間本来の生き方ではないか。要は自分から逃げないこと。
 コンビニ必要悪論者である私も、大いに学ばされる本でした。
(2008年1月刊。1400円+税)

2008年5月30日

「非国民」のすすめ

著者:斎藤貴男、出版社:ちくま文庫
 戦前、「アカ」と呼ぶと、人間でないエイリアン(異星人)のように思われ、人権無視があたりまえという風潮があったようです。同じようなことは、現代日本でも残念ながら「健在」のようです。「アカ」と同じ意味でつかわれるのが「非国民」です。そんなことを口走る人物がどれほど「国を愛して」いるのか疑わしいところですが、政府・文科省が「愛国心」教育にやっきとなっているところをみると、権力を握る人々からみて、「愛国心」という従順な心をもった人が少なくなっているのは問題なのでしょう。
 でもでも、よく考えてみたら、日本国を守ることが自分の家族を守るのと同じくらいに大切なことだと思ったら、自然と、そのような行動をすることになるのではありませんか。いまの日本って、それほど守りたい国なのかどうか、もう一度考え直したほうがいいと思います。だって、75歳になったら、それ以上、長生きせずに、ほどほど医者にかかって、早く死んでくれと言わんばかりの後期高齢者医療制度というのが、世界に冠たる「長寿国」日本で始まったばかりなのですから・・・。これって、信じられないほど人間無視の政治です。これを推進している厚労大臣が老母介護に挺身し、そのため実姉とも派手にケンカしたという人物なのですから、世の中は奇怪至極です。
 日本のマスコミのレベルは、週刊誌の見出しを見ていたら分かります。タレントの不倫や離婚騒動なら何頁にもわたって特集しても、アメリカのイラク侵略戦争の実情レポートなんてまったくしません。日本政府が渡航自粛と言えば、それに素直に従うだけ。ところが、そこは戦争のない安全地帯のはずなのです。そして、日本人がイラク戦争反対のデモや集会をしても、ニュース価値がないとして、ほとんど黙殺するだけ。いったい、マスコミって、どうなっているんでしょうか・・・。
 私たち団塊世代より10年遅れた世代である著者は、何もかも、悪いのは団塊世代だと決めつけています。団塊世代は、親として、「私生活主義」をこえたメッセージを子どもたちに発信しなかった。私生活主義は、生活保守主義とほぼ同義である。
 なるほど、団塊世代に日本を悪くした大きな責任があることは認めます。でも、日本を良いほうにしたことも認めてほしいのです。それは、なんといっても、自由と民主主義(もちろん、自民党のことをさしているわけではありません)が大切なこと、それが日本の社会にそれなりに定着していることは否定できないと思うからです。いかが、でしょうか。
 いま、「ゆとり教育」の見直すが始まっています。この「ゆとり教育」を言い出した、教育課程審議会の三浦朱門前会長(作家)は、「できん者は、できんままで結構」とホンネを語る。
 「日本は、戦後50年、落ちこぼれの底辺を上げることにばかり注いできた労力を、できる者を限りなく伸ばすことに振り向ける。限りなくできない非才、無才には、せめて実直な精神だけを養っておいてもらいたい。それが『ゆとり教育』の本当の目的。エリート教育とは言いにくい時代だから、回りくどく言っただけのこと」
 フィンランドの教育の理念は、まるで、これと反対です。それが全体としての国の活性化につながりました。一部の人を伸ばそうとしても、結局のところ、国の荒廃がすすんで失敗するだけなのです。ところが、それに気がつかない人があまりに多いのは悲しいことです。
 いま庭にツバメ水仙の花が咲いています。紅い折り鶴が飛んでいるような面白い形をした変わりダネの水仙です。百合の花も咲きはじめました。すかし百合です。白にピンクのふちどりがあり、爽やかな花です。先日うえたアスパラガスが早くも芽を出しています。ヒマワリがぐんぐん伸びて、初夏の近さを思わせます。
(2007年7月刊。780円+税)

2008年5月23日

僕たちの好きだった革命

著者:鴻上尚史、出版社:角川学芸出版
 実のところ、読む前は全然期待しておらず、車中で昔の学園紛争についての資料みたいに軽く読み流すつもりでした。ところが、さすがはプロの書き手ですね。次はどういう展開になるのか知りたくて、ぐいぐいと引きこまれてしまいました。
 今から40年前、学園闘争を果敢にたたかった人たちが、その後どんな仕事と生活をしているのか、私も大いに興味と関心があります。この本は、30年前の学園闘争のとき機動隊に頭を直撃されて植物人間となった高校生が、30年後に目が覚めて現代の高校に復学したという、とてもありえない設定で始まります。今どきの高校生と30年前の高校生徒で話が合うはずはないのですが、そこは同じ日本人なのです。いつのまにか共通するところが出てくるのが不思議なところです。
 しかも、現代の高校の教頭先生が実は30年前の全共闘のリーダーであったり、今どきの高校生の親たちが、実は、かつての全共闘の活動家だったりするわけです。となると、内ゲバの悲劇も登場せざるをえません。そうなんです。そのトラウマを今も引きずっている母親がいたのでした。
 これらを一つのストーリーに仕立てあげて読みものにするあたりは、私に真似できそうもない小説家の技(わざ)ですね。
 「オレたちは夢を見ていたのかもしれん。マルクス主義という夢、人類の平等と解放という夢、だがなあ、おまえが30年ものあいだ寝ているあいだに、ソ連を初めとする社会主義国は、続々と崩壊したんだ。あの当時の理想は消え去った・・・」
 「そんなことじゃない。あなたは賢いから、マルクスとか、いろんなことを考えていたでしょう。でも、ぼくは、自分たちの文化祭だから、自分たちだけでやりたい。自分たちの文化祭の内容を先生ではなくて自分たち生徒が決めるのはあたり前、それだけだったんですよ。それって間違いなんですか?」
 団塊世代よりちょうどう10年若い著者による本です。この本を読んで学園紛争とか全共闘について関心をもった人には、『清冽の炎』(神水理一郎。花伝社)をおすすめします。相変わらず売れていないそうです。私は、なんとか売れるように必死で応援しています。
 食事をすませ、夜、うす暗くなったころ、歩いて近くの小川に出かけます。ホタルに会いに行くのです。夜8時ころがホタルの飛んでる時間です。道端をフワリフワリと飛んでいます。そっと両手でつかまえ、ホタルの光を指のあいだにしばらく眺め、また放してやります。ホワンホワンと光るホタルって、すごくいいですよ。手にのせても、まったく重さを感じません。童心に帰るひとときです。
(2008年2月刊。1700円+税)

同盟変革

著者:松尾高志、出版社:日本評論社
 自衛隊の本来任務は、自衛隊法第3条に規定されている。それ以外のものは付随的任務であって、本来任務に支障のない限り行うという扱いだった。そして、海外展開任務は、自衛隊法では、雑則あるいは付則に入っていた。ところが、それを全部まとめて3条2項をつくって本来任務とした。
 たとえば、アフリカに派遣された自衛隊の駐屯地のそばで暴徒があばれ、現地の政府軍が発砲して大騒動になったとき、見張り台の上にいた自衛隊員は、命令の前に逃げていた。命令がないのに逃げるのは軍隊ではない。
 また、自衛隊がトラックで物資を輸送するとき、自衛隊には警護の任務は付与されていないため、外国の軍隊に警護を依頼せざるをえない。このように自衛隊は、軍隊でありながら、国際法上の軍隊としては海外に行けない。
 さらに、軍刑法のない現状では、自衛隊は刑法にしばられて行動する。裁かれるのは地裁である。これでは軍として動けない。海外展開を本格的にしようと思えば、軍刑法と軍法会議が、どうしても必要だ。
 これから自衛隊が海外展開するにあたってのネックになるのは、武器使用の問題である。
 海外展開の最初は1992年のPKO法によるもので、武器使用は個人判断であり、刑法にいう正当防衛と緊急避難だけだった。
 防衛省に昇格して発表されたロゴマークは、日本を守る自衛隊ではなく、世界平和のために戦う自衛隊への大きな転換・変質を如実に示している。
 そういわれると、まさにそのとおりの図柄です。みなさん、よく見てやってください。
 イラク戦争の実質的な責任者であるアメリカ中央軍のアビザイド司令官は、記者会見のとき、「イラクでは古典的なゲリラ型の戦闘がアメリカ兵に対して行われている。われわれの軍事用語でいうと低強度紛争だが、まさにこれは戦争だ」と述べた。
 自衛隊はアメリカ軍とのあいだでACSA(日米物品役務相互提供協定)を適用し、自動車部品や燃料などの物品や輸送などの役務を提供することとし、2003年12月、イラク作戦実施中のアメリカ中央軍と自衛隊の詳しい取り決めをした。自衛隊が海外でACSAを適用するのは初めて。
 自衛隊はイラクに派遣するにあたって、初めて「部隊行動基準」を決めた。これは国際的には「交戦規則」と言われるものであるが、憲法によって自衛隊には「交戦権」がないため、「交戦規則」と言えなかっただけのこと。
 アメリカ軍の部隊編成において、実は「在日米軍」とは、「日本の領土・領空・領海に存在する」米軍をいう。したがって、日本の領域から離脱すると、その米軍は「在日米軍」ではなくなる。
 現在、横田基地には、アメリカ第5空軍司令部とともに、在日米軍全体を統括する日米軍司令部が置かれている。この2つの司令部の司令官は実は同一人物が兼務している。1人の空軍中将が「2つの帽子」をかぶっている。
 昨年6月に急逝してしまった著者の貴重な論稿を集めた本です。
(2008年3月刊。2700円+税)

2008年5月20日

いのちを産む

著者:大野明子、出版社:学習研究社
 いい本です。日本人の生命の誕生そして日本の医療制度のあり方をしみじみ考えさせてくれました。マイケル・ムーア監督の映画『シッコ』にあったような、アメリカみたいな貧乏人切り捨ての国にならないよう、日本人は一刻も早く目を覚まし、立ち上がるべきだと思います。
 東京・杉並にある明日香(あすか)医院は、医師1人、助産婦数人で運営する産科診療所。もっぱら自然なお産と母乳育児を世話している。明日香医院は8年前の開業以来すでに 1500例の実践がある。明日香医院では、休日・夜間は助産師1人が勤務する。お産のときは、オンコール待機の助産師1人と医師1人の3人で世話する。
 ここの分娩室に分娩台はない。赤ちゃんは、布団の上で、四つんばいや側臥位で生まれる。手術室もない。帝王切開の必要なときには、搬送する。明日香医院は、そもそも帝王切開にならないお産を目ざしている。
 妊婦には、太らないこと、身体をよく動かすことを実行してもらう。1日3時間の散歩が奨励されている。お産のときには助産師が一対一で世話をする。お産後は、完全母子同室同床で、赤ちゃんが泣くたびに母親は乳首をふくませ、助産師は、つききりで世話をする。
 自然な陣痛のためには努力が必要。その要点は、運動と食事が2本柱。運動は散歩。初産婦だと1日3時間、経産婦でも最低1時間はしっかり歩くこと。歩くことは、赤ちゃんにも良い効果をもたらす。からだ全体の血行が良くなり、子宮へも酸素や栄養分に富む血液がたっぷり流れ、お腹の中から元気で、陣痛にともなうストレスなどものともしない丈夫な子どもが育つ。陣痛中の散歩は、自然の陣痛促進剤である。ヨガも試みられている。
 同じように大切なのが食事と体重のコントロール。和食を基本に一日3食をしっかり、しかも食べすぎないようにいただく。
 ヒトの産道は、骨盤の曲線にそって「く」の字に曲がっている。赤ちゃんは、この産道を回りながら降りてくる。だから、産婦が起き上がった姿勢は、重力の助けを借り、赤ちゃんを産み落とす姿勢なのである。逆に、仰向けに寝て産むと、重力に逆らって赤ちゃんを産み上げることになる。分娩台での仰臥位のお産は、生理的に不利な姿勢なのである。
 ここらあたりの解説は、すべて実際の写真がついていますので、男である私にもよく分かります。ありがとうございます。
 写真は、赤ちゃんが母体から生まれ出てくる様子、そして生まれた瞬間までよくとらえています。さすがプロのカメラマンです。
 出生してから2時間ほど、赤ちゃんははっきり覚醒している。これは、産道を通過するときの刺激で交感神経からホルモンがたくさん分泌されているため。そして、その後、赤ちゃんは深い眠りに落ちる。
 赤ちゃんは、家族と対面し、「やっと会えたね」と言わんばかりの表情で親の顔をじっと見つめる。そして、顔をもぞもぞ、口をくちゅくちゅ動かして、おっぱいが欲しいというそぶりをしめし、やがて乳首を探しあて、上手に吸う。
 明日香医院では、お産後3日目には退院する。標準の5日より早いけれど、安産が多いので十分に可能なこと。
 この本は、産科医を取りまく厳しすぎる状況を大いに告発する本でもあります。その点にも心うたれました。
 日本人の出生数は減少の一途をたどっている。2005年には106万人。人工妊娠中絶数も減っていて、29万人。15歳未満の人口は1770万人、人口比13.6%は過去最低となっている。総数で31.6%も減っている。産科当直が多くてきつい、汚い、訴訟が多くて危険という3K医師だから。
 産婦人科勤務医の当直回数は月6.3回、1ヶ月間の夜間呼び出しが20回をこえていて、体力・気力の限界で勤務している。そして、訴訟の数の10倍は紛争がある。さらに、その紛争のうしろに患者と医療者のくいちがいが大きい。
 患者のマナー違反が多いことも著者はきびしく批判しています。なるほど、と思いました。弁護士である私も、一生懸命にやっても、それを当然と思い、感謝されないどころか、いろいろ文句を言われることが少なくないからです。
 すごくいい写真集でもあります。私の知らない世界を知ることができました。ありがとうございます。明日香医院のみなさん、身体に気をつけて、引き続きがんばってください。
 日曜日に梅の実を収穫しました。今年は50個近くもとれました。紅梅・白梅あるうちの白梅のほうです。紅梅のほうには実がついていませんでした(花も少なくなったせいでしょう)。
 梅の隣に植えているスモークツリーが見事です。茜色というのでしょうか。黒っぽい朱なのですが、鮮やかさもあります。もう少しすると、フワフワとした感じになります。まさにスモーク(煙)に包まれてた本です。
 朱色のアマリリスの花が一輪咲いていました。フェンスにクレマチスが濃い赤い花を咲かせてくれました。ほれぼれするような濃い赤色です。
(2008年2月刊。2600円+税)

2008年5月16日

実録「取り立て屋」稼業

著者:杉本哲之、出版社:小学館文庫
 元大手サラ金会社の従業員が懺悔(ざんげ)の告白をした本です。サラ金は人の不幸を助長する存在であり、その汚さや醜さを多くの人に知ってほしいという思いから書かれています。
 著者が大手サラ金会社に勤めていたのは、2001年10月から2006年3月までのこと。一般企業を辞めて転職してサラ金会社に入社した。サラ金会社は、毎年100人以上を採用するが、ほとんどの人は1年以内に辞めてしまう。
 同じ事は商品先物取引会社についても言えます。やはり、まともな人はやっていけない「あこぎな商売」なのです。
 サラ金の店舗は1階にあるともうからない。1階にある店には、お客が入りたがらない。
 サラ金業界では横領事件がつきもの。そのほとんどが男性社員による。女性のほうが保証人になっている両親に迷惑はかけられないという心理が働くから。
 サラ金にとって、客は生かさず、殺さず、これが金科玉条である。社員は借金を完済しようとする客をなんとかくい止めなければならない。ほとんどの回収業務は電話によってなされている。
 多重債務者の家には、ある一定の共通した特徴がある。家の周りは散らかり放題で、庭には草が茫々と茂っている。日中なのに雨戸やカーテンの閉まっている家も多い。郵便ポストにはあふれんばかりの郵便物が詰まっている。居留守をつかう債務者もいる。電話に出ても、「留守番の者です」と答える。他人を装う。また、サラ金からの電話だと分かると、「ただいま留守にしています。御用のある方はピーッという発信音のあとに、お名前と電話番号、メッセージをお残しください。ピーッ」と自分の生声で繰り返す者もいる。
 架電回収業務は、債務者を上手に追い込みながら回収率というスコアを獲得していく楽しいゲームになった。ゲームだと思えば、相手の痛みなど、まったく伝わってこない。会社のマニュアルでは、ケータイへは1日3回、自宅へは2回、勤務先へは1回までと決められていたが、守らなかった。とくにプレッシャーとなる勤務先への架電は、1日に何度も繰り返した。家族のいる自宅に架電することも、プレッシャーをかけるための有効手段だった。
 ところが、次第に自分のしていることに嫌気がさすようになっていった。精神状態が少しずつ変調をきたし、ときどきひどい疑心暗鬼と人間不信に陥っている自分に気がついた。
 そうでしょうね。まともな人間のする仕事ではないと思います。人間の弱点を毎日毎日ついていくのですからね。
 ホタルが飛びはじめたというニュースを地元紙で読んで、近くにあるホタルの里へ歩いて出かけました。ホタルは暗くなってまもないころが一番よく飛びますので、夕食をすませたあと暗くなってから出かけました。ホタルの里は歩いて5分くらいのところにあります。途中にバイパス道路が工事中です。残念なことにホタルの出る小川が3面張りコンクリートに変わっていました。もちろん、そこにはホタルの姿は見えません。その先にあるホタルの里に着くと、ようやくホタルが何匹かチラホラ飛んでいました。ホタルの明滅するテンポは、あくまでゆっくりです。まあ、なんでそんなに人間はせわしいの。もう少しゆっくりやったらいいのよ。そんな感じです。ゆっくり、フワフワと漂うホタルを眺めていると、心が洗われ、せかせかした気分がうすらいできます。今年はじめてのホタルでした。梅雨の大雨までの1ヶ月間の楽しみです。
(2008年1月刊。476円+税)

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