福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
月報記事
第3回 社外役員研修
会員 宮脇 知伸(73期)
第1 はじめに
1 本講演会について
去る令和5年5月29日、福岡県弁護士会館(ZOOM併用)にて、平田えり弁護士(福岡県弁護士会所属)を講師としてお招きし「社外役員に関する連続講演会」の第3回講演会を開催しましたので、ご報告いたします。当講演会は、弁護士業務委員会におけるPTの一つである「WODIC」勉強会の一環として行われました。
「WODIC」とは「Whistleblower Protection Act(公益通報者保護法)」、「Outside Director(社外取締役)」、「Independent Committee(第三者委員会)」の頭文字をとった造語であり、これらの企業法務分野において法の支配を貫徹させるため、各分野の理解を深めるべく、令和4年1月25日に発足したPTです。
WODICでは、これまでに企業の法務担当者や社労士の先生等の外部の方もご参加いただき、改正公益通報者保護法(W)に関する勉強会を継続して行ってきました。
今年から、新たに「社外役員」(OD)をテーマとする連続講演会を開始することになり、これまで2回の講演会が開催され、今回が3回目の講演となります。
講演会には弁護士会館だけでなく、ZOOM配信も併用する形で開催し、会場参加・オンラインで多数の先生にご参加いただきました。
私もWODICメンバーの一人として現地にて参加し、拝聴して参りましたので、以下ご報告させていただきます。
2 講師の紹介
講師の平田えり弁護士は、65期であり、西村あさひ法律事務所福岡事務所に所属されております。現事務所では東京オフィスで執務したのちに、令和元年からは福岡にて執務されております。そして令和3年9月から福岡の上場企業の社外取締役に就任されました。
第2 研修の内容
1 社外役員就任のきっかけ
弁護士登録後まもなく顧問先として担当しており、約10年にわたり、社長やCFOと公私ともに親しくしていたことがきっかけとなった。
そのような信頼関係の上で、平田弁護士が東京勤務時代に、M&A案件を中心に経験を積んでいたこともあり、今後、専門的な経験知見も活かして成長戦略に力を貸してほしいという打診を受けた。
2 社外役員の職務内容
社外取締の役割は、マネジメントモデルと、モニタリングモデルの2種類がある。
マネジメントモデルとは、いわゆる経営のご意見番として事業に対して助言をすることをいい、これに対してモニタリングモデルとは、経営の監督機能を果たすことをいう。
日本における社外取締役の役割としては、マネジメントモデル型の経営のご意見番としての役割を果たす先輩経営者等を社外取締役に採用するというケースが多い。これに対して、アメリカを始めとしたグローバルスタンダードにおける社外取締役の役割は、モニタリングモデルであるとされている。
平田弁護士自身も当初、社外取締役を打診された際、社外取締役の役割として、マネジメントモデルの役割を考えており、必ずしも事業開発や経営に関する専門的な知見経験があるわけではないため、自分では力不足ではないかと考えていた。ただ、前述のとおりグローバルスタンダードにおける社外取締役の役割はモニタリングモデルであるところ、実際に社外取締役を経験してみると、モニタリングモデルを社外取締役の基本的な役割と捉えることで良く、弁護士に備わっている能力(リーガルマインド)が企業の役に立てるものと実感するに至っている。
3 社外役員候補者として準備できること
弁護士が社外取締役として指名された場面において、モニタリングモデル型の監督機能を発揮することが求められており、そのために必要な知見は、基本的に日常の弁護士業務の中で培われているものであり、特別な準備を要するものではない。
敢えて準備するとすれば、経営陣の判断が著しく不合理でないか否かを判断する際に、法令違反だけでなく社会常識等一般株主の目線から見て、著しく不合理でないか否かを判断できるように、自分の感覚を時代の感覚に合わせてアップデートしておくこと、その会社を良くしたいとか、その会社を通じて何か世の中に貢献したいという熱量をもって、会社の事業内容に興味関心を抱くことが必要になる。
4 社外取締役としての重要性、期待されるもの
月1回の経営会議とその後の取締役会に必ず参加している。社外取締役として経営会議に出席することは必須ではないが、各部の部長クラスが毎月の実績や課題・対応方針を報告し、全員でフラットに知恵を出し合い、協議しており、事業内容やリスクを把握する上で非常に有用である。
そして、社外取締役として経営会議にも参加して発言した内容について、各部長が朝礼等で従業員に伝えてくれており、従業員ともコミュニケーションを図ることで、従業員も、社外取締役が事業を支えてくれているという安心感を抱いている。
そうした活動により、自身も一緒に事業に参画しているというやりがいに繋がっている。
5 まとめ
社外取締役は、完全に中でもなく、アドバイザーというような外でもない中間地点で少し俯瞰した立場で意見を述べることができ、それと同時に、会社の経営陣と一緒に走って、事業価値を生み出すことができるやりがいのある業務だと感じている。
6 質疑応答
Q 法律家の視点から意見を述べることで壁は厚いなと思わされたりすることはあるか?
A 経営陣の人柄や、今までの信頼関係もあり、客観的な意見として聞いていただけている。特に壁を感じたことはない。
Q 月1回の経営会議・取締役会以外には、どれぐらいの頻度で、経営者の方たちとコミュニケーションをとっているのか?普段は弁護士業務との兼ね合いはどうしているか?
A 社外取締役としての報酬を考えたとき、月1回の経営会議や取締役会で何かちょっと意見を述べるぐらいでは、会社側の負担に見合わないというふうに思っているため、自身が役に立てそうなところがあれば、積極的に提案して、関わらせてもらうようにしている。
Q 経営陣との信頼関係について、平田弁護士の場合は、就任するまでの期間が長く約10年ほどあったということで、就任した段階である程度経営陣との間で信頼関係が築けていたと考えられるが、社外取締役として活動するにあたってどの程度やりやすさに繋がっているか?。
A 頭にふと浮かんだことをお互い電話1本でやり取りできて、これってこうした方がいいんじゃないとすぐにやり取りできる関係にあった。月1回の取締役会の外でも柔軟に意思疎通を図ることができたという意味で、すでに信頼関係があったことのアドバンテージを感じた。
Q 社外取締役として善管注意義務違反を犯さないようにどのような点に注意しているか?
A 経営判断の基礎となる情報収集を怠らないよう留意している。経営会議や取締役会でも、役員陣や従業員にとっては所与の前提のような事実であっても、用語を含め、積極的に質問し、情報収集している。また、外部のアドバイザー(弁護士を含む。)の見解を聞く。経営判断の原則も適切な情報収集を行ったか、著しく不合理な判断ではなかったかという2段階になっている。一段階目の情報収集をきめ細やかにしていれば、自ずから著しく不合理な判断にはならない。そのため、密に経営陣とコミュニケーションをとって、適時に情報を共有してもらうことが重要であると思う。
Q 社外監査役と社外取締役での役割分担があるか?
A いずれも取締役の職務執行を監視する役割であり重なる部分は多く、また、社外監査役や社外取締役のバックグラウンド(専門性)やパーソナリティによる部分も大きいと思われるが、一般的には、監査役は適法性監査で、社外取締役は妥当性監査も含むので、監視の視点が異なる。
Q 経営者と色々話をしたり、壁打ち相手になったりするのに、リアルタイムに情報を得る必要があるが、話し合いのツールとして、メールや電話以外に取り入れていたツールがあったか?
A 結局、タイムリーな情報共有や協議のために、携帯電話での電話を一番利用していた。
第3 おわりに
第1回の古賀弁護士、第2回の中村弁護士、そして、第3回の平田弁護士の講演会を拝聴し、社外役員としてお声がけいただくための重要な点としては、日頃の顧問先との信頼関係の構築、及び丁寧な対応、企業における活動の意味合いを理解した上でのニーズに沿ったアドバイスが共通していたように思われます。
もっとも、丁寧な対応や企業のニーズに沿った回答を意識している弁護士は多数いるはずであり、社外役員としてお声がけいただくためには、それに加えて他の要素が必要になると考えられるため、今後の講演会を通して、それが何かを模索しなければならないと感じました。
「社外役員に関する連続講演会」は、今後も継続的に実施する予定ですので、今回参加された方も参加が難しかった方も、ぜひ次回以降のご参加をお待ちしております。
2023年9月30日
あさかぜ基金だより
弁護士法人あさかぜ基金法律事務所 社員弁護士 藤田 大輝(74期)
もうすぐ折り返し!!
令和4年4月にあさかぜに入所(弁護士登録)して、約1年5か月がたちました。私が入所したときは5人いた弁護士も、過疎地へ赴任していって、今や2人きりで、寂しいものです。あさかぜの養成期間は、上限が一応3年と決まっていますので、折り返し地点が迫ってきていることに、我ながら驚いてしまいます。過疎地への赴任には、赴任先の過疎地を見学したうえで、応募するかどうかを決め、書類を提出すると、現地選定委員会による面接のうえでの選考と手続がすすんでいきますので、私もそろそろ赴任先を具体的に検討しないといけない頃合いです。 いい機会ですので、あさかぜでの1年5ヶ月を振り返ってみます。
この事件も初めてだな......
あさかぜは、司法過疎地域で弁護士業務を行う弁護士の養成を目的とした養成事務所ですから、養成期間に幅広い事件を経験できるような体制が用意されています。具体的には、有志であさかぜに協力している弁護士から事件の紹介を受けて共同受任をしたり、県外あるいはあさかぜ出身の先輩弁護士から事件の紹介を受けたりしています。 私も、これまでに、一般民事だけでなく、民事介入暴力への対応、交通事故、労働、遺産分割、離婚、成年後見申立、法人破産を含む各種の債務整理など、バラエティに富んだ事件を受任することができました。初めて取り扱う類型の事件も多いです。取り扱った経験のない類型の相談を受けるときは、相談者から「こういう事件の取扱い経験は何件ですか?」と訊かれないことを祈っています(もちろん、訊かれたら正直に答えるようにしています。でも、ときには話をはぐらかしたほうが良かったかと思うこともあります)。 このようにして、わたしたち所員は、養成期間中に数多くの類型の事件を受任し、きたるべき司法過疎地域で十分に要請にこたえられるよう研鑽を積んでいます。
事務所経営の勉強という名の庶務
あさかぜでは、事務所経営に必要な庶務もいろいろ経験します。まずあたったのは、弁護士法人の変更登記手続です。弁護士法人は、弁護士法上、社員の変更があったときには必ず変更登記をしなければいけません。あさかぜは弁護士法人なので、所員の交代があると変更登記手続が必要となります。そのため、私は、私が入所したとき、そして先輩所員が退所したときに、過去の申請書類を参照したり、法務局へ問い合わせたりしながら、登記申請しました。 また、事務所ホームページの更新も業者を利用せず、所員が担当します。今は、私が担当者ですから、インターネットで方法を模索しながら四苦八苦してホームページを更新しています。 さらに、必要に応じて事務員の採用もおこないます。私も、パート事務員を採用するため、ハローワークに求人申し込みをしました。また、他の所員弁護士に協力してもらいながら、応募書類を選考し、そのうえで採用面接しました。良き人材を得るというのは大変なことだと実感させられました。さらに、必要に応じて、就業規則の改訂等の労務管理もおこなっています。健康診断を受けるよう促すのは、私自身にしても、ついつい忘れてしまうので注意が必要ですよね。 事務所の税務関係でお世話になっている公認会計士・税理士とも連絡を取りあっています。決算時期には直接面談して、作成された決算資料について質疑応答して勉強になりました。 このほか、所員弁護士の採用に関する庶務、保存期間を経過した先輩弁護士の事件記録の処分、社員総会の実施・議事録の作成、書籍の購入・管理、業務関連システムの管理・導入検討、リース備品の管理など、庶務は多岐にわたります。 こうした事務所の庶務も、きたるべき司法過疎地域の赴任先における事務所運営に関わる事務を学ぶ重要な業務の1つです。なかなか大変ですが、新人弁護士には通常だったら経験できないことではないかなと思いますので、大変ありがたく感じています。
娘と親バカが生まれました
弁護士登録日に婚姻届を提出した私ですが、今年2月に娘が生まれました。子どもって可愛いんですね。この月報の依頼を受けたとき、娘のことだけで原稿を書こうかな、と本気で考えました。 子どもは成長が早く、とても驚かされます。ちょっと前まで首が座らず、台所のシンクで沐浴させていたのが、あっという間に一緒に湯船につかるようになり、首が座り、離乳食がはじまりました。この原稿が掲載されるころには「ずりばい」ができるようになっているのかな、と考えるとつい頬がゆるんでニヤニヤしてしまいます。私のデスクには、某スタジオで撮影・作成した娘の写真マグネットが貼り付けてあり、ちょっと疲れた気分のときに眺めて、気分をとり直したりしています。 子どもが生まれてから初めて知ったこと、経験したことは多く、毎日が勉強です。出生届の提出から、児童手当受給申請といった行政手続はもちろん、「お宮参り」や「お食い初め」といった行事にも無知でした。哺乳瓶の消毒、離乳食の作り方や進め方も、妻と一緒に福岡市主催の育児教室に参加して勉強しました。 娘の存在が業務にいい影響を与えていると感じることもあります。たとえば、子どもの話が依頼者と打ち解けるきっかけになるのです。小さなお子さんを抱える相談者の話は、具体的なイメージを持ちやすくなりました。 私が業務に集中できるように支えてくれる妻と妻の両親には、いつも感謝しています。また、娘の誕生に際して、複数の先輩弁護士からお祝いをいただきました。この場を借りて、お礼を申し上げるのをお許しください。
これからも頑張ります
あさかぜには、現在、72期の石井智裕弁護士と私の2名の弁護士が在籍しています。石井弁護士は、過疎地赴任に向けて各地の事務所見学等をしていますので、赴任が決まれば、私があさかぜの最年長弁護士になります。とはいえ、あまり気負い過ぎず、先輩を頼って頑張っていくつもりです。 あさかぜから過疎地に赴任している先輩弁護士を見ていると、いかにも頼もしく、私はまだまだだなと心配してしまいます。過疎地赴任までに一人前の弁護士になれるのかどうか、不安に駆られるところではありますが、あさかぜでの日々の業務を通じ、事務所経営・事件処理を学び、経験を積み重ねていきたいと思います。 未熟な点も多い私ですが、これからも引き続き、より一層のご指導・ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします。
2023年8月31日
弁護士会と調停協会の懇談会 ~アフターコロナの調停実務と面会交流
会員 辻 陽加里(64期)
1 はじめに~3年半ぶりの開催!~
令和5年6月29日、弁護士会と調停協会の懇談会が約3年半ぶりに開催されました。本懇談会は、調停委員と弁護士が、家事調停の実情について認識を共有し、それぞれの立場での思いや悩みについて語り合い、相互に信頼関係を深めるための機会として開催されました。
議題は、①新型コロナウィルス流行後に急速に普及したウェブ調停と②面会交流の調整を行う調停事件の運営の2点です。
本懇談会に先だって、調停委員と弁護士双方に議題に関するアンケート調査が実施されました。
2 ウェブ調停について
⑴ ウェブ調停の普及
ウェブ会議方式による調停は今や一般的となりました。福岡家庭裁判所でも、これまで850件以上のウェブ調停が実施されたとのことです。アンケート結果によれば、回答した調停委員41名中38名がウェブ調停の経験があると回答しました。
⑵ 利用の感想
ウェブ調停を利用した感想として、登壇した調停委員と弁護士双方から、電話調停に比してコミュニケーションが格段に取りやすく、利用者(調停の当事者)と信頼関係を築きやすいという共通の意見が出されました。
調停委員からは、「画面で利用者の表情が見えるように画面の設定を工夫している。」、「身振り・手振りや相槌を大切にしている。」との発言があり、利用者が納得して調停を進められるよう試行錯誤しているとのことでした。
⑶ ウェブ調停のメリット
調停委員と弁護士の双方から、事件の種類を問わずウェブ調停を利用するメリットがあるとの認識が示され、具体的なメリットについては、感染症の感染が防止できること、利用者の利便性が高く、特に遠隔地の方や育児介護中の方は大幅な負担軽減となること、仕事がある方は半休の取得で済むことが挙げられました。また、登壇した調停委員から、DV事案については、出頭の場合が完全に防ぐことが難しい利用者同士の接触を防止できるとの大きなメリットが指摘されました。登壇した弁護士からは、当事者の意向を尊重すること、事案をより正確に伝えたい場合などに出頭するとの発言がされました。
アンケート結果によれば、弁護士の立場から出頭に積極的な意見もあり、これについて登壇した調停委員からは、「出頭してもらえば、より当事者を身近に感じ、当事者の置かれた状況や熱意が伝わる。」、「来ていただけるとありがたいという気持ちになる。」との発言がありました。
⑷ ウェブ調停の課題
ウェブ調停の課題については、調停委員から、裁判所にウェブ会議の体制が3台分しかなく、期日の間隔が空いてしまうことが、弁護士からは、事務所のレイアウト等の問題で、調停の秘匿性の確保の問題が生じうることが指摘されました。
3 面会交流の調整を要する事案について
⑴ 「新たな運営モデル」の導入
まず調停委員から、福岡家庭裁判所における面会交流の調整を要する調停は、東京家庭裁判所で策定された運用モデル(「東京家庭裁判所における面会交流調停事件の運営方針の確認及び新たな運営モデルについて」家庭の法と裁判2020年6月号)を基本に運営されていること、この「新たな運営モデル」が弁護士に浸透していないこと(アンケート結果によれば回答した弁護士の45名/66名が「知らない」と回答)。が述べられました。
この「新たな運用モデル」は、従来の原則実施論的な調停運営から転換を図るもので、①当事者の主張・背景事情の把握、②課題の把握と当事者との共有、③課題解決のための働きかけ、調整、④働きかけ・調整の結果の分析評価などのサイクルを繰り返し検討し、種々の利益を調整しながら子の福祉を実現するモデルであることが説明されました。従来の進行では、面会交流が監護親に与える負担やストレスについての理解が乏しかったとの反省が率直に述べられました。
このモデルの導入に当たっても、調停委員からは、「モデルを理解しても、実際にその理念を実現することは簡単でない。」「面会交流の実施を禁止し制限する事情が無ければ、面会交流の実施が子の福祉に適うとの前提で、面会交流を実施する方向で話し合いを進めることになり、利用者からすれば原則実施論で進行しているように受け止められることがある。」などの苦労が語られました。
⑵ 高葛藤な事案への対応
特に未成年者が幼い場合、調整事項が多くなりますが、両親間の葛藤が高い場合、話し合いで円滑に進めるのは至難の業です。
調停委員からは、話し合いの視点を夫婦間の紛争から「子の福祉」に向けさせ、子の視点から建設的な話し合いができるように促しているとのことでした。
弁護士からは、監護親の視点から、面会交流の実施が困難になっている事情を詳しく聞取り、実施条件を工夫していること、また、非監護親の視点からは、面会交流を実施することを前提に、面会交流の実施によって子どもにメリットがある方法を提案して監護親に受け入れやすくするという工夫が紹介されました。
⑶ オンラインによる面会交流
新型コロナウィルスの流行後に、オンラインでの面会交流を実施する例が増えているようです。
弁護士からは、非監護親の視点から、非監護親が希望するのは対面での面会交流であって、対面の面会交流へのステップとして利用するイメージを持っていること、特に子どもが小さい場合には、オンラインであっても子の著しい成長を確認できるというメリットがあるとの発言がされました。また、非監護親が離島に住んでいた事案での利用例が紹介されました。その他に、子が非監護親と連絡先を交換することで、非監護親から居場所を把握されたり、頻繁に連絡が来たりするのではないかと不安に思うなどオンライン特有の悩みが生じた事案が紹介され、子の意向を丁寧に組む必要性も指摘されました。
調停委員からは、オンライン面会を条項化するに当たっては、子どもの年齢や、子と別居親の生活リズムなどを考慮しているとの発言がありました。
⑷ その他
パネルディスカッションでのその他の発言を簡単に紹介します。
・調査官調査の活用について
(調停委員から)「非監護親から、子の成長の様子や現在の監護状況、子の心情を確認して欲しいという要望があり、監護親に尋ねても、非監護親に対する誹謗中傷に終始し実態が分かりにくい場合は、早期に調査官調査を行っている。代理人からも調査官調査を希望する意見を貰うことはありがたい。」
・主張書面の活用について
(調停委員から)「弁護士がついている場合、主張を明確するに目的で、主張書面や資料の提出をお願いしている。弁護士の場合は求めた意図を汲んだ書面が提出されるため、調停の効率化に繋がっている。夫婦喧嘩の内容など細かい事実を書面化し、それに反論するなど、葛藤を助長するような議論を書面で行うことは求めていない。利用者のみで調停を行う場合は、必ずしも求めた内容の書面が提出されないことが多く、主張書面の提出は求めていない。」
・将来的な子どもへの影響
(調停委員から)「子どもに関する追跡調査などはないのか。」
(弁護士から)「経験談ではあるが、非監護親の代理人として活動した事案で、当時未成年者だった男性と彼が成人した後に話す機会があった。男性は、『両親が言い争うのを見るのがすごく辛かった。一時は自分が父に会わない方が良いとすら思っていた。しかし、両親がお互いに男性の為に頑張って面会交流に協力してくれたことがとても嬉しかった。今ではとても感謝している。』と話してくれた。反対のケースもあると思う。」
4 最後に
本懇談会を通じて、調停委員の方々が、利用者双方の話を公平に聞こうしていること、利用者の納得を一番に考えていることが伝わり、調停委員への信頼感が増しました。
また、「新たな運用モデル」は調停委員と監護親、非監護親、それぞれの代理人弁護士が協働して初めてその理念が実現できるモデルであると私は理解しました。ただ、対立する当事者が協働することは経験上簡単ではありません。その難題を弁護士と調停委員でどうにか紐解いていくためにも、本懇談会は今後も継続されて欲しいと思います。
中小企業法律支援センターだより 九州北部税理士会との事業承継研究会
中小企業法律支援センター 鬼塚 達也(71期)
1 研究会開催までの経緯
当会は、九州北部税理士会との間で、令和3年3月16日付で事業承継支援の連携に関する協定を締結いたしました。会員相互の交流と研鑽の場を提供することを目的として、事業承継に関する研究会を継続的に開催することを計画していたところ、新型コロナウイルス感染症のため開催延期を数度経て、ようやく令和5年6月1日に第1回事業承継研究会(以下「第1回研究会」といいます。)を開催することができました。
2 第1回研究会の内容
第1回研究会は、テーマを「事業承継(M&A)はこう考える!~弁護士の視点・税理士の視点~」として、弁護士池田耕一郎先生(当センター)及び税理士山田陽介先生(九州北部税理士会 中小企業対策部部長)から、事業承継(M&A)の心構え、他方士業に求めるものや他方士業が介入すべきタイミング等をご報告いただきました。
池田先生からご報告いただいた内容の一部を以下記載いたします。
・事業承継は特殊な分野ではない。話をとことん聞くことが重要である。
・弁護士が事業承継支援に携わる意義として、①事業承継のあらゆる場面に法律が関係すること、②対策をしなかったことによるリスクを知っているからこそアドバイスができること、③他方当事者との交渉を行うことが常に生じるところ、法律上交渉に関する代理業務ができるのは弁護士のみであることが挙げられる。
・事業承継に資する法的手段として、分散している株式等の集約方法(相続人等に対する売渡請求など)、先代経営者の保証債務の処理方法(経営者保証ガイドラインの適用)、遺留分の民法特例(除外合意・固定合意)などがある。
・事業承継支援は信頼できる士業との連携が必要不可欠である。
山田先生からご報告いただいた内容の一部を以下記載いたします。
・事業承継においては税務だけでなく財務支援を行う必要があり、税理士がかかわる意義がある。
・税理士は税額を抑えることを第一に考えがちであるが、無理な節税をしたことにより、株式の分散、過大な借入金、利益の圧縮がされ、事業承継のハードルが上がってしまうこともある。
・決算書を見て、(税引後利益+減価償却)と(長期借入金÷5年)を比較して後者が大きければ、その会社の資金繰りは苦しいはずである。
・事業承継は自力で解決できなとも周りの力を借りて解決できる協力体制が必要である。
3 第1回研究会後の懇親会
第1回研究会の後に懇親会を行いました。当センターから15名、九州北部税理士会から13名が参加し、大変賑やかな会になりました。私事ですが、偶然にも、懇親会に参加された税理士の方で、私の出身中学校の先輩が複数おり、地元の話で盛り上がりました。
4 今後の予定
第1回研究会及び懇親会が盛況であり、第2回研究会を開催予定です。ご興味のある方がいらっしゃいましたら、当センターの会員までお知らせください。
中小企業法律支援センターだより スタートアップ企業におけるストックオプションの活用
中小企業法律支援センター 委員 白田 晴夏(75期)
1 はじめに
令和5年6月26日18時より、福岡県弁護士会館の大会議室301にて、司法書士の小牟田毅先生を講師にお迎えし、スタートアップ企業におけるストックオプションの活用についてご講演いただきました。会場でのリアル参加とWeb方式の併用で実施しましたところ、あわせて34名もの会員にご参加いただき、創業支援に関する関心の高まりを感じました。
以下、簡単ではございますが、小牟田先生のご講演の内容を報告いたします。
2 ストックオプションの活用
⑴ ストックオプションのメリット
ストックオプションとは、株式会社の従業員や取締役が、権利行使価格で自社株式を取得できる権利のことです。
では、なぜストックオプションがスタートアップで活用されるのかというと、それには大きく分けて三つのメリットがあるためです。
まずは付与対象者のモチベーションを向上させるというメリットがあります。自社の業績が向上することで株価も上昇するため、付与対象者の働きがリターンに繋がるという仕組みが生まれ、付与対象者は自社の業績を上げるという目標を持つようになります。
二つ目に、外部協力者との関係性を維持するというメリットがあります。スタートアップ企業では、従業員を雇用するのではなく、外部協力者に業務委託をすることも多いため、外部協力者との関係性維持のためにストックオプションを活用することが可能です。
三つ目に、優秀な人材の確保を容易にするというメリットがあります。ストックオプション制度があることで会社の将来性をアピールすることができ、優秀な人材を確保できます。また、付与対象者としては、ストックオプションを行使する前に退職すれば損をする可能性があることから、結果として従業員の退職を防止するという効果もあります。
⑵ ストックオプションの留意点
上記のように様々なメリットがあるストックオプションですが、ストックオプションを付与する際の留意点も三つ挙げられます。
一つ目に、付与対象者と付与数の基準を設けることです。付与対象者と付与数の決定方法が不明確であったり、付与数に明らかな差があったりすれば、不公平感から社内全体のモチベーションの低下に繋がるおそれがあります。
二つ目に、付与対象者が権利行使をした直後に退職する可能性があることです。会社の将来性をアピールして採用した人材の場合、付与対象者はストックオプションを行使することによる経済的利益を重視していることがあります。そのような付与対象者は、権利行使をして株式の売却益を得れば、すぐに退職するおそれがあります。
三つ目に、株価がモチベーションに連動していることです。ストックオプションの付与が付与対象者のモチベーションの向上に繋がるという点は上述したとおりですが、逆をいうと、会社の業績が低迷すると、付与対象者のモチベーションの低下に繋がるおそれもあります。
⑶ まとめ
ストックオプションのメリットを最大限に活用できれば、会社としては優秀な人材を確保し、業績を向上させることができる一方で、ストックオプションの留意点をおさえておかなければ、優秀な人材の流出や付与対象者のモチベーションの低下などの問題を引き起こすことになります。
弁護士は創業支援をするにあたり、これらの点を念頭に置いたうえで、適切なアドバイスをすることが求められるといえます。
3 おわりに
今回の講演会では、ストックオプションの基礎的な内容から発展的な内容に至るまで、幅広くご説明いただきました。ストックオプションについてより深い知見を得ることができ、大変実りのある講演会となりました。
日本弁護士連合会が発行した「ゼロから始める創業支援ハンドブック」にも、ストックオプションをはじめ、弁護士が取り組む支援内容について記載があります。日弁連のホームページを検索していただくとハンドブックのデータを取得することができます。創業支援に取り組まれる先生方は是非、同ハンドブックもご参照ください。
2023年7月31日
あさかぜ基金だより あさかぜ基金法律事務所は本当に必要なのか
弁護士法人あさかぜ基金法律事務所 社員弁護士 藤田 大輝(74期)
「司法過疎問題は解消した」?
「九州沖縄の各県の弁護士会で構成される九州弁護士会連合会(九弁連)は、その管内の弁護士過疎地に派遣する弁護士を養成するために基金を作り、その基金から資金を拠出して、平成20年9月、福岡市に当事務所を設立しました」。あさかぜ事務所のホームページに記載されている文章です。あさかぜ事務所は、この9月に設立15周年を迎えます。
この15年のあいだ、多くの先輩弁護士たちが司法過疎地に旅立ち、司法過疎問題の解消に取り組んできました。現在も、あさかぜ事務所に所属する私たちは司法過疎地への赴任に向けて奮闘しています。
先輩!ちょっと教えてください!
藤田
「実は最近、『司法過疎問題は解消したらしい』という噂を聞きました。司法過疎問題が解消しているのなら、九弁連として司法過疎対策を続ける必要ってあるんでしょうか」
先輩
「君は修行が足りないね。ひまわり基金法律事務所は、全国には31ヶ所、九弁連の管内にはまだ3つあるんだよ。ひまわり事務所は、2年か3年の任期で赴任して、希望すれば、その事務所を自分の事務所として残ることもできる。こうして赴任地で自分の事務所として残ることを『定着』というんだけど、定着したくなければ、後任を確保して交代することもできる。こういうシステムは理解しているよね」
藤田
「はい」
先輩
「こうしたシステムだと、まだ定着していないひまわり事務所が九弁連管内に3つあるからには、そこの弁護士が定着したくなかったら、後任が赴任しないといけないでしょう。それに、定着したはずの弁護士がいろんな事情で事務所を畳んだら、代わりの誰かが司法過疎地に行かないと、またまたゼロワン地域になってしまうじゃないの。司法過疎問題ってのは、いったん解消すれば、それで終わりというのではなくて、ずっと取り組み続けないといけないんだよ」
藤田
「確かにそうですね」
先輩
「ほかにも、弁護士自治とか、弁護士法による法律事務の独占が崩されてしまう危険もあるんだよ。何より、司法過疎地で弁護士を待っている人々がいるじゃないの。君は、あさかぜ事務所は必要だと本気で思っているのかな?」
三池港は味があって、なんか好き
3月30日午前8時55分、三池港発島原港行フェリーに乗り込み、島原中央ひまわり基金法律事務所(現・島原中央総合法律事務所)の定着式に参加してきました。あさかぜ事務所OBでもある河野哲志弁護士が、島原に定着すると決断されたとのことでした。その決断がどれだけ勇気が必要なことだったのか、私にはとても想像できませんが、決意を聞いて身震いする思いでした。 また、5月29日には対馬ひまわり基金法律事務所の引継式がありました。任期を終えられた前任の安河内弁護士は本当にお疲れさまでした。後任の佐古井弁護士にちょっと電話してみましょう。
藤田
「引継ぎおめでとうございます。どんなお気持ちですか」
佐古井
「不安ですよ」
藤田
「そりゃそうでしょうね」
先ほどの「あさかぜ事務所は必要だと思うかね?」という質問に対し、適切に答える言葉を私はまだ持ちあわせません。ただ、現実に司法過疎地があって、いま現在なんとかなっている地域も「使命感」と「不安」と「やりがい」とをごちゃまぜにして踏ん張っている先輩弁護士たちのおかげで「なんとかなっている」のだと思います。そして、私は、そうして踏ん張っている先輩弁護士たちを「カッコイイな」と思います。だから私も、司法過疎地に赴任してがんばってみようと思います。
精神保健当番弁護士30周年記念公開シンポジウム STOP!強制入院~「精神障害のある人の尊厳の確立を求める決議の紹介と実現に向けた取り組みを考える」~・ご報告
精神保健委員会会員 近藤 健司(73期)
1 はじめに
令和5年5月20日、当会会館において、精神保健当番弁護士30周年記念公開シンポジウム STOP!強制入院 ~「精神障害のある人の尊厳の確立を求める決議の紹介と実現に向けた取り組みを考える」が開催されましたので、ご報告いたします。
本シンポジウムは、精神保健当番弁護士制度が設立から30周年となったことを記念するとともに、2021年10月14日開催の日弁連人権擁護大会にて「精神障害のある人の尊厳の確立を求める決議」が採択されたことを受け、その内容を改めて確認し、その実現について考える場を設けることを目的として開催されました。
当日は、会場では30名ほどの方、webでは80名ほどの方にご参加いただきました。
2 パネリストのご紹介
本シンポジウムでは、当会会員の八尋光秀弁護士をコーディネイターとして、パネリストとして認定NPO法人大阪精神医療人権センター副代表の山本深雪さん、一般社団法人福岡県精神保健福祉士協議会前会長である大山和宏さん、多摩あおば病院の医師である中島直さん、日弁連高齢者障害者権利擁護センター精神障害のある人の強制入院廃止及び尊厳確立実現本部長代行の池原毅和弁護士、精神保健当番弁護士の登録弁護士として活動している田瀬憲夫弁護士にご登壇いただきました。
3 シンポジウムのプログラム
式の開始は、当会会長である大神昌憲会長からご挨拶を賜り、その後のプログラムについては、以下のとおり進行しました。
⑴ 基調講演
基調講演では、池原毅和弁護士から、人権大会決議の内容とロードマップの具体的な内容についてご説明いただきました。日弁連決議が出されることとなった背景を、強制入院の被害実態調査の内容や、ハンセン病患者隔離政策の反省、障害者権利条約の内容なども交えて詳細にお話しいただきました。また、ロードマップの内容については、短期工程、中期工程、最終段階の各工程についてそれらの具体的な内容をビジュアルを用いて明瞭にご解説いただきました。
⑵ 基調報告
精神保健当番弁護士として活動している田瀬憲夫会員から、制度発足当初の1993年から2021年までの歩みについて精神保健当番弁護士名簿の登録弁護士数の推移、法律相談活動の件数の推移、審査請求代理人活動件数の推移のデータを踏まえて報告がされました。
⑶ パネルディスカッション
基調報告後には、パネルディスカッションが行われました。まず、当事者である山本深雪さんから、自身の鬱病に苦しんだ経験や、大和川病院事件でのご経験等をお話いただくとともに、地域移行の実現のためにピアサポーターや地域生活相談支援員等による相談のチャンネルの確保に予算を振り分けることや、普段の生活や環境から一時的に離れて心を落ち着けて暮らせるような場所を提供する等といった当事者に寄り添った形での医療制度改革を進めてほしいとのご意見をいただきました。
また、大山和宏さんからは、自身が代表理事をしている一般社団法人えのき舎での取り組みやその理念、社会的リハビリテーションの内容、障害福祉サービス事業所の現在の事業所数などの障害福祉サービスを取り巻く現状についてご説明いただいたうえで、精神保健福祉士としてサポート続けてきたお立場から現状の決議案に関して問題提起をいただきました。
次に、医師である中島直さんからは、日弁連決議は各工程の目標を達成するための手段が不明確であり、実際に強制入院を廃止した場合の想定が不十分であると感じられたこと、日本の長期任意入院が多すぎるという問題点について指摘が認められないことなど、様々な角度からの鋭いご指摘をいただきました。
当日は、出席者からの質問も募集しており、実際に福岡県内外で精神保健当番弁護士として活動している弁護士の方や、精神科医療を受けておられる当事者の方、その関係者の方、支援者の方などから様々なご質問をいただきました。いずれの質問も、実際に精神医療を取り巻く環境下に置かれている方々の生のご意見やお悩みであり、重要な内容を含むものばかりでした。
4 終わりに
日弁連決議につき、弁護士のみが集まって検討することだけでは見えてこなかったものが、異なる立場に立つパネリストからの意見によって可視化できたものと思います。どのような環境にしていくべきなのか、その手段をどうしていくべきなのかを考えるといったことについて、非常に示唆に富んだシンポジウムだったと感じました。
最後に、ご尽力いただいた登壇者の方々やシンポジウムの開催にご協力いただいた方々に、この場を借りて御礼申し上げます。
研修「女性が苦しむ5つの問題をめぐって」から見えてきたコロナ禍(下)の真実
自死問題対策委員会 委員 野中 嵩之(73期)
1 研修概要
令和5年3月26日、自死問題対策委員会主催「女性が苦しむ5つの問題をめぐって」研修を福岡県弁護士会会館(ZOOM併用)にて実施しましたのでご報告いたします。
本研修は二部構成で行い、前半は、元厚生労働省事務次官で現在は津田塾大学客員教授である村木厚子さんに「女性の抱える困難を考える」と題して女性を取り巻く問題をテーマに幅広く基調講演を行ってもらいました。後半では、村木さんを含め、福岡県労働組合総連合元事務局次長の小川マリ子さん、西日本新聞社編集委員の下崎千加さんにもご参加いただき、当員会の委員である井下顕弁護士がコーディネーターとなって、パネルディスカッションを実施し、本研修のテーマについてより深掘りするという内容でした。
本研修では、前半・後半とも、幅広いご講演及び議論がなされ、本報告ではすべてを取り上げることは難しいため、印象に残った部分に絞らせていただきます。
2 (前半)基調講演・「女性の抱える困難を考える」
⑴ 村木さんは、厚生労働省時代のご経験をもとに、統計データからわかる女性問題について、いくつかご紹介されていました。
たとえば、①先進諸国を比較すると、女性就業率が高い国ほど出生率が高いというデータ(日本や韓国は先進各国と比べるとともに低い)、②夫が休日において家事・育児に割く時間が長いほど第2子以上の出生割合が高いというデータ、③無償労働(家事)の占める時間が日本や韓国の女性は男性と比べて約5倍ほどであり先進諸国と比べて突出しているというデータが紹介されました。
これらの統計データの1つの解釈として、出生率が低い日本や韓国では、女性が社会で就業する環境が十分とは言えず(①)、反面、男性の家事への協力も不十分(②③)ということを導くことができると考えます。
すなわち、少子高齢化に悩む日本において、我々男性にできる身近なことは、家事や育児への協力を本気になって実行していくということであると、実感することができました。
⑵ また、村木さんの講演を通じて、コロナ禍で女性や子供の自殺者数が増加したという問題を考えることは、従来からも問題となっていた男性の自殺者数を抑えるためにはどうすればいいかと考えることにもつながると感じました。
まず、研修において、女性や子供の自殺者数について、統計データからも、コロナ禍において増加していることが明らかとされました。
他方、毎年の自殺者数は男性の方が高いというデータや、悩みを相談できる友人の数は男性だと年代が上がるにつれていないと回答する割合が高くなるとのデータを通じて、男性も決して幸せとは言い切れない現実を浮き彫りにしていただきました。
⑶ そして、村木さんも参加される市民活動「若草プロジェクト」を通じて、相談すること自体、非常に難しいという現実が見えてきたと紹介いただきました。
たとえば、実際の生の声として、相談所とは怒られる場所、というイメージを持たれている方もいるという話には驚かされました。
3 (後半)パネルディスカッション
個人的に印象に残った議題は、「コロナ禍で女性や子供の自殺者が増加している。自殺者増加の背景と、どのような対策が必要か。」です。
⑴ まず、背景としては、①女性や子供の経済面の弱さ、②逃げ場がない状況があげられました。
①経済面の弱さについては、小川さんからは、「自分に価値がないと考える女性、自己否定をする女性。主婦で言うと、働いていないので、経済的に価値がないと思う方が多いのではないだろうか」とご指摘をいただきました。
②逃げ場のなさについては、下崎さんからは、「家を切り盛りして一人前だといわれる。学校が休校になって、3食作って、逃げ場がなくなった末ではないかと思う」とご指摘をいただきました。そして、村木さんからは、DVや児童虐待に携わるスタッフは以前から気づいていたであろうが、コロナ禍で一層家庭問題が浮き彫りとなり、誰にも言えない、自分の責任だと抱えてしまい精神的にも逃げ場がなくなるという背景があるのではないかとご指摘をいただきました。
⑵ 対策として、①経済的な弱さについては、生活保護のみならず、生活支援制度など、もっと活用しやすい制度を知り使ってもらうことがあがりました。
また、②逃げ場がないことについては、村木さんからは、早く、外に相談して切り抜けてほしいこと、誰かに、声を出して言っていいことを、本気で伝えないといけないのではないかとのご提案をいただいております。
4 おわりに
今回の研修で、データ、そして現場の最前線で活躍される方々から、女性を取り巻く問題について、地に足のついた内容を学ぶことができました。また、執筆者としても、男性の立場から、女性問題や自殺者数増加に立ち向かうには、男性の協力も不可欠であると改めて実感しました。
他方、パネルディスカッションでは、男性は外で仕事をして女性は家事・育児という価値観と、現代の男女共同の価値観とが混在する時代であるという指摘もありました。自らの親、祖父母世代と現代の狭間にいる執筆者としても、無意識のうちに当たり前の中に見直すべき部分があるのではないかとの視点が大切ではないかと思います。また、女性や子供のしわ寄せについて本気で取り組んでいくことが男性、ひいては日本社会全体の居心地の良さにもつながるという感覚を、本研修では持つことができたと感じる次第です。
シンポジウム「いらんっちゃない?校則」
会員 吉田 幹生(67期)
1 はじめに
去る令和5年5月28日(日)、福岡県弁護士会館におきまして、シンポジウム「いらんっちゃない?校則」行われましたので、その概要をご報告致します。
2 基調講演
名古屋大学大学院教授の内田良さんから、「教育という病 学校は子どもをまもっているか」というテーマで基調講演を行っていただきました。
まず、内田さんから、校則だけではなく、学校における様々な問題について紹介がされ、リスクは無限だが、リソースは有限であるといった説明がなされました。特に、柔道や組み体操に関して、事故の件数が多いことや組み体操については、問題提起し、対策をとった結果、負傷事故が大幅に減少したといった報告がなされました。
その後、校則については、保護者の関心が少ないといった点が報告され、1980年代から現在に至るまでの校則に関する流れが説明されました。特に、2000年代以降、生徒はおとなしくなったものの、厳しく細かな校則が継続・拡大した理由として、学校が管理を手放すことの恐れや学校外の保護者や地域住民などの発言力が高まり、教師の権威が低下したこと、生徒のあらゆる側面が、内申書を通じて評価されるといった点が説明されました。特に、内田さんは、厳しい校則が続く理由として、地域住民が学校外での生徒の行動に関しても学校の管理を求めるといった「学校依存社会」となっているといった指摘がされました。
また、学校現場の問題点として、警察の介入を求めることを教育の放棄としており、学校内で問題を抱え込み、更に問題が悪化するといった点が指摘されました。
上記の点から、内田さんから、学校だけでなく、専門家や地域社会が一緒に子どもを見守ることが必要ではないかという指摘がありました。
さらに、内田さんから、全国の学校には「隣の教室に入ってはならない」「ジャンパーは着てはならない」といった明文化されていないルールが存在するといった紹介がされました。他方で、校則がない学校や制服がない学校(長野県の高校の私服率は50%とのことです。)の紹介もされ、そういった学校が荒れているという実態がないといった紹介がされました。そして、内田さんから、校則の本質はルールを作って叱るための仕組みであると説明されました。
3 校則見直しに関する意見書についての報告
当会の佐川民さんから、5月26日に当会の定期総会で採択された「校則の見直しに関する意見書」に関する説明が行われました。
まず、佐川さんから、当会の学校問題に関する取り組みについて説明が行われ、特に、校則との関係では、2020年に当会で採択した意見書について説明が行われました。
つぎに、福岡市立中学校での校則見直しの状況に関して説明がなされ、具体的には、男女による規制の撤廃や衣替えの時期の指定の廃止、ポニーテール・ツーブロックの自由化、下着の単色指定の廃止が行われ、校則に関しても見直しが行われたとのことでした。もっとも、見直された校則を確認すると、靴下や靴、下着を複数の色から選択できるようになったが、色や柄の指定があったり、眉毛を整えてはならないとの規定があるなど、現状の校則の内容を前提として、選択肢を増やすという方向になっており、実際の生徒指導は以前と変わらないのではないかとの指摘がありました。そして、問題の背景として、学校現場での子どもの権利についての理解不足や校則が子どもの人権を制限するとの認識不足が考えられるとのことです。
そして、上述の「校則の見直しに関する意見書」の具体的な中身について、説明が行われました。今回の校則の見直しに関する報告書では、①合意的な理由のない校則は直ちに廃止し、校則の必要性について根本から検討すべきである、②学校において、校則の制定・改廃手続を明確に制定すべきで、校則の制定・改廃手続は、生徒が主体的に関与できるものとすべきである、③校則を検討するために、教職員・生徒・保護者が子どもの権利を学び理解することが必要で、学校は、子どもの権利を学ぶ機会を提供すべきであるとされています。意見書の内容について、詳しくは、弁護士会のHPを参照ください。
4 パネルディスカッション
上述の内田さん、佐川さんに加え、春日市立春日西中学校の校長の大津圭介さん、不登校生の保護者の会の「ぼちぼちの会」の代表の志賀美代子さんがパネリストとなり、コーディネーターの当会の栁優香さんが中心となって、パネルディスカッションを行いました。
まず、大津さんから、大津さんが以前勤務していた春日南中学校での校則改定の取り組みについて、報告が行われました。具体的には、校則見直しに向けて教師間で確認事項を共有し、生徒と共に校則改定を行っていく過程を説明していただきました。そして、校則改定の過程やその後を経験して、校則を変える前に心配していたことは取り越し苦労であったことなどが報告されました。
つぎに、志賀さんから、不登校生の保護者の会の活動や校則と不登校との関係について、報告がありました。志賀さんからは、校則は地域によっても考え方が異なり、福岡に転校してきて、校則の厳しさにショックを受け、不登校になった例もあることなどの報告がありました。
そして、各パネリストでディスカッションを行いました。特に、パネリストからは、教師よりも生徒の方が保守的であることや校則を変えることにより、生徒よりも教師の方が変わったといった発言がありました。
その後、質疑応答を行い、参加者から、多数の質問があり、参加者が意欲的に参加していたことが確認できました。
5 終わりに
今回のシンポジウム参加者数は、会場参加が約50名、オンラインでの参加が約110名の合計約160名であり、校則に対する関心の高さが伺えました。
今後の校則のあり方について、考える良いきっかけになるとともに、校則の見直しに向かっていければいいと思います。
福岡県事業承継・引継ぎ支援センターと連携協定締結~安心・安全なM&A実現のために~
中小企業法律支援センター 委員長 牧 智浩(61期)
1 福岡県事業承継・引継ぎ支援センターとの連携協定締結
2023(令和5)年5月30日、当会は、福岡県事業承継・引継ぎ支援センターとの間で「事業承継に関する連携協定」を締結しました。
同協定は、中小M&Aにおける取引の安全を確保することを1つの目的として締結されたものであり、具体的な連携の内容として、①弁護士紹介制度、②中小企業等に向けたセミナー等の開催、③研修等の実施、④地域の事業承継等に係る情報収集・情報交換等を謳っています。
2 福岡県事業承継・引継ぎ支援センターとの具体的な連携について
⑴ 合同勉強会の開催
本年5月22日、協定締結前ではありましたが合同勉強会を開催しました。福岡県事業承継・引継ぎ支援センター側から15名、当会中小企業法律支援センターから16名が参加し会場は満席となりました。
講師として、日弁連中小企業法律支援センター事務局次長でもあり同センター内に設置されている創業・事業承継PTの座長を務める大宅達郎弁護士(東京弁護士会所属)をお招きし、奈良・福井・仙台・高知県の各弁護士会と事業承継・引継ぎ支援センターとの連携状況をご紹介いただくとともに、具体的事案をもとにM&Aにおける弁護士の主な役割についてご説明をいただきました。
大宅弁護士によれば、弁護士の主な役割としては、
①当事者の意向の把握や意思決定の支援を行う「伴走支援」者としての役割
②課題の把握や論点整理などの「リスク分析」を担う役割
③適切な専門家の手配やコミュニケーション支援などの「調整役」としての役割
④依頼者の意向を相手方に伝達し、あるいは相手方主張の合理性に関する助言や対案の検討をするなどの「交渉人」としての役割
⑤依頼者の意向を反映した条項提示や会社の実態に合致した契約書の作成及び着実な実行支援といった「契約書作成」に関する役割
があるとのことでした。
セミナー後、参加された福岡県事業承継・引継ぎ支援センターの統括責任者補佐(サブマネージャー)の方から、弁護士の役割やその有用性をより具体的にイメージすることができたとのお声をいただくなど、大宅弁護士のご講演は非常に好評で、今後の連携に繋がる合同勉強会になりました。
⑵ セミナーの共催
本年7月20日(7月20日は中小企業の日です。)、福岡県事業承継・引継ぎ支援センターと共催して「老舗を救った学生の熱意~大廃業時代における事業承継の新たな形~」と題して、事業承継をテーマとする中小企業事業者向けのセミナーを開催します。セミナー後には会場での名刺交換会や弁護士による無料相談会も実施します。
セミナーの概要は以下の通りです。会員の皆様のご参加をお待ちしております。
日時:本年7月20日午後5時開始
メイン会場:
エルガーラホール7階中ホール(Zoom配信あり)
配信会場:
筑後弁護士会館、飯塚法律相談センター
講師:
株式会社吉開のかまぼこ 代表取締役 林田 茉優 氏
詳細はこちらをご覧ください。
3 協定締結の背景事情
中小企業庁は、2021年4月に、高齢化による事業承継の一手段としてのみではなく、①廃業に伴う経営資源の散逸の回避、②事業再構築を含めた生産性向上等の実現、③リスクやコストを抑えた創業を推進するため、今後5年間に実施すべき官民の取組を「中小M&A推進計画」として取りまとめました。
これによれば中小M&Aは年間3~4千件程度実施されるまでに拡大してきているものの、潜在的な対象事業者は約60万者(成長志向型8.4万者、事業承継型30.6万者、経営資源引継ぎ型18.7万者)あるとも言われており、中小M&Aはまだまだ発展途上にあると考えられます。
「中小M&A推進計画」は、これらの潜在的な対象事業者のM&Aを推進するための課題を規模別に検討していますが、小規模・超小規模M&Aの課題として、以下の点を指摘しています。
・課題①-ⅰ
事業承継・引継ぎ支援センターとM&A支援機関の対応不足
・課題①-ⅱ
潜在的な譲受人(創業希望者等)の掘り起こし不足
・課題②
安心できる取引を確保するための取組の不足
このうち課題②に対する解決策として、最低限の安心の取組を確保するため士業等専門家の育成・活用を強化が求められています。そのため、現在、中小企業事業承継・引継ぎ支援全国本部において各地の事業承継・引継ぎ支援センターと弁護士会との連携を進める動きが起こっています。
福岡では、こうした全国の動きに先立ち、2021年4月に福岡県事業承継・引継ぎ支援センターが設立された当初から、当会の紹介する弁護士が同センターの統括責任者補佐に就任する等、当会と福岡県事業承継・引継ぎ支援センターとは一定の連携関係にありました(より正確には、2019年に福岡県事業承継・引継ぎ支援センターの前身である福岡県事業引継ぎセンターの統括責任者補佐に当会の紹介した弁護士が就任していました。)。
2021年9月以降、数回にわたり具体的な連携についての意見交換を重ねる中で、上記の全国的な流れも相まって、当会と福岡県事業承継・引継ぎ支援センターとの連携をより強化し、中小M&Aにおける取引の安全を実現するため連携協定の締結に至った次第です。
4 さいごに
近年、M&Aの支援機関等に対して、「中小M&Aガイドライン」(2020年3月策定)の遵守が求められております。またこれ以外にも、「事業承継ガイドライン」(2022年3月改訂)や「PMIガイドライン」(2022年3月策定)などが公表されています。
これらはいずれも事業承継の支援を行ううえで必読のものですので、ご存知の会員も多いとは思いますが、最後にご紹介だけさせていただきました。