福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
月報記事
2024年1月31日
あさかぜ基金だより 季節外れの新人所員の自己紹介
会員 滝本 祥平(75期)
自己紹介
75期の滝本祥平と申します。北海道札幌市手稲区という札幌中心部と小樽の中間ほどにある住宅地のマンションで札幌の街並みと小樽の海岸線を望みながら、司法修習に至るまで、修学旅行等を除き北海道を出ることなく育ちました。札幌・小樽観光はもちろんのこと、北海道観光をお考えのときは、ぜひご相談下さい。
司法修習で仙台に配属され、牛タンはもちろんのこと、定義三角あぶらあげ、さいちのおはぎといったグルメや有備館(大崎市)といった史跡名所を楽しむことで、宮城県を概ね満喫し、札幌での就職に拘泥する必要がなくなりました。
私は、弁護士過疎問題の解決に貢献できることから、道内の過疎地域に支部を有する東京都多摩地域の法律事務所に就職しました。残念ながら、この事務所では十分な研鑽を積むことができないまま退所することとなってしまいましたが、修習時代の民事弁護教官である林信行弁護士の紹介といった縁があり、あさかぜ基金法律事務所に入所させていただきました。
九州には、二回試験後、同期と屋久島・種子島を旅行する前後に鹿児島県内の温泉を楽しんだ経験しかなく、多くの未経験のグルメや史跡名所があるので、楽しみです。
なぜ福岡へ
所縁のない福岡へわざわざ転居する理由としては不十分でしょう。
Q 前の事務所の退職を思いとどまることは。
A 考えました。退職を検討したのは、4月頃。ボス弁との折り合いが悪くなったからです。そこで、担当している事件をやり遂げてやめようと考えていたところ、事件の進捗についても、交渉の時宜を失するような状況になってしまいました。依頼者が早期に適切な弁護士サービスを享受するには辞めるほかないと思い辞めました。
Q 東京都での再就職や独立は。
A 就職活動をする中で都内への引っ越しを勧められ、物件を探しましたが、オーナー審査が通らずほぼ諦めていました。また、東京会の刑事弁護研修は一人で当番・被疑者国選事件を受任するところ、いずれも不起訴処分を勝ち取ることができたため、八王子の住居を事務所として国選事件等で食いつなぐことも検討しましたが、弁護士過疎問題の解決への貢献を将来的にしたいという希望を捨てきれませんでした。
Q 札幌へ帰ることは。
A せっかく道外で就職したのに、就職から1年経たずに戻るのは、逃げたようで無様だなと思い、最後の手段に位置付けています。
Q 福岡へ行く決心をした理由は。
A 弁護士過疎問題の解決への貢献を将来的にしたいという希望を捨てきれない状況で、林弁護士から養成事務所に対する日弁連の研修が素晴らしいこととあさかぜ基金法律事務所の人員を探している上田英友弁護士は信頼できると熱心に説明していただいたからです。
Q なぜ弁護士過疎問題の解決への貢献に関心が。
A 社会課題があって解決策が明白なのに、何もしないというのは社会の構成員としていかがなものかと思うからです。
Q 弁護士過疎問題の解決策は明白か。
A 一定の実力を身に着けた弁護士が弁護士過疎地域にて法律事務所を営めばよいという明白なものと考えております。
最後に
一定の実力を身に着け、弁護士過疎問題の解決に貢献できる人材になるために、機会がありましたら、事件の共同受任等ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。
「来たれ、リーガル女子! in福岡2023」のご報告
男女共同参画推進本部・両性の平等に関する委員会 細永 貴子(62期)
1 はじめに
2023年10月29日(日)、福岡県弁護士会館において、「来たれ、リーガル女子!in福岡2023」が開催されました。2018年に始まった本企画も今年で6回目です。第1部パネルディスカッション、第2部法曹になるための進路説明、第3部グループセッションという構成で行いました。 コロナ禍がひと段落したことから、今年は第1部及び第2部のみオンライン(ZOOMウェビナー)での配信をし、第3部は会場でのリアル参加のみとしました。今年も鹿児島大学司法政策教育研究センターとの共催となりましたので、第3部は鹿児島大学会場でもリアルで実施しました。 第1部・第2部の参加者は福岡会場75名(中高生52、保護者22、教員1)、ウェビナー参加者17名、鹿児島会場13名(中高生12、保護者1)、第3部はグループセッションの参加者が福岡会場39名、鹿児島会場12名、質問コーナーの参加者が7名(中高生2、保護者5)と多数の方々にご参加いただきました。
2 第1部 弁護士による対談
第1部に先立ち、九州弁護士会連合会の笹川理子理事長から開会挨拶、福岡県弁護士会北九州部会長の小倉知子会員からメッセージをいただきました。笹川理事長は、鹿児島県弁護士会で初めての女性弁護士であり、九弁連初の女性理事長でもあります。また、北九州では今年、地方裁判所小倉支部、検察庁小倉支部、及び弁護士会北九州部会のすべてで女性がトップになるなど、女性法律家が活躍しています。お二人から、これから進路を決める学生さんたちを勇気づけるお言葉をいただき、会場がとても活気に満ちた雰囲気になりました。 第1部では、様々な職業を経て弁護士になった女性弁護士の対談を行いました。パネリストは、航空会社の客室乗務員を経て弁護士になった河内美香会員及び外交官を経て弁護士になった塩飽梨栄会員、インタビュアーとして井芹美暎会員が登壇されました。民間企業勤務や外交官という国の仕事を経て弁護士を志した経緯や、司法試験合格に向けてどれくらい勉強したのか、弁護士としてどのような活動をしているのかなど、三者三様のお話を聞くことができ、興味深い対談でした。客室乗務員や外交官など、それ自体とても魅力的なお仕事を辞めて弁護士をめざしたという河内会員と塩飽会員の経験談は、参加者の方々にとっても新鮮だったようです。アンケートに「法曹界に携わっている人は幼少期から法曹への志があった人ばかり、というイメージがあったのですが社会人になってから方向転換した方々の話をきき、法曹への道はいつでも開けるんだなと親近感を感じました」「違う仕事から弁護士に転職した方の話が衝撃的でとても参考になった」「法学部からストレートでなくても、なりたいという気持ちがあれば法曹になれるということが分かりました」など多数の感想が寄せられました。
3 第2部 法曹になるための進路説明
第2部は、中谷正太会員を進行役として、山下昇教授(九州大学)、藤村賢訓准教授(福岡大学)、濱﨑録教授(西南学院大学)のお三方から、法曹になるための進路説明をしていただきました。大学の法学部から法曹を目指す流れ、法学部や法科大学院では何を学ぶことができるのか、法学部教育と法科大学院教育を連携する法曹コースについて、各先生方の所属する大学の特色などが紹介されました。 アンケートでは、「九州内の大学法学部の制度を知ることができ、今後の進路選択の参考になりました」「法曹になるための手段は思いの外いろいろ種類があることを知りました。また、各大学の特徴も聞けて今後の進路を考えるに当たってとても勉強になりました」などの声がありました。
4 第3部 グループセッション/質問コーナー
第3部のグループセッション(以下、「GS」といいます。)では、少人数のグループに分かれて、弁護士・裁判官・検察官が中高生の質問に答え、より法曹について具体的なイメージを持ってもらおうという企画です。福岡会場では、中学1年生から高校3年生までの39人が参加してくれました。どんな人が法曹に向いていると思うか、仕事のやりがいやワークライフバランスのとり方など様々なテーマについての質問が出ていました。アンケートには、「弁護士の皆さんの日々の働き方や休みの日の過ごし方、弁護士というものを深く教えて下さってとても参考になりました」「お話を聞いて、法曹という仕事が身近に感じられました」「具体的な仕事内容からどんな人が向いてるか、今からできることなど知らなかったことが多くあって、とても参考になったし、楽しかったです」、「とてもフラットな環境だったので、気軽に質問しやすかったです」など満足度の高い回答が多く寄せられました。少人数でのGSで裁判官・検察官・弁護士から直接話を聞ける機会は、中高生にとって貴重で有意義であると感じました。 GSと同時並行で行った質問コーナーには、第2部でご登壇いただいた大学の先生方に加え、福岡地方裁判所飯塚支部の柴田大裁判官も飛び入り参加してくださいました。弁護士も9人ほど同席しました。保護者の方からは「子どもが司法試験を頑張れるのか」「弁護士は逆恨みが心配だが実際どうですか」などの質問があり、大学の先生方や裁判官、弁護士がそれぞれの意見を述べ、充実した質疑応答になりました。子どもを応援したい半面、心配も尽きないという親御さんにとっても有意義なイベントになったのではないかと思います。
5 おわりに
イベント終了後のアンケートでは、「当イベントに参加して、将来、弁護士・裁判官・検察官になりたい(または進路として勧めたい)と思うようになりましたか?」との質問に対して、48%が「強く思った」、40%が「少し思った」と回答しました。「イベント参加前は法曹関係のお仕事はすごく堅い感じがしていたけど、お話を聞いて、弁護士さんや裁判官のイメージがかなり変わりました。困っている人を法律を通して助けられることがすごく素敵だな。といいイメージに変わりました」「真面目でとても優秀な人というイメージでしたが、実際に話してみると優しく丁寧な方が多かったというイメージを受けました。またかっこいいなという印象を受けました」などの嬉しいコメントもいただきました。本イベントが法曹に興味関心を持っていただくきっかけとなっており、来年以降もイベントの継続が期待されます。 当職も今回初めてリーガル女子のイベントに関わらせていただき(当日は総合司会を担当)、改めて弁護士という仕事を選択したことに誇りを持つことができました。本イベントにご登壇・ご参加くださった先生方や実行委員の先生方に改めて感謝を申し上げます。
特商法5年後見直しシンポジウム 「あなたも危ないSNS詐欺被害~特定商取引法の改正ポイントとこれからの課題」(令和5年12月9日開催)~
消費者委員会 委員 吉田 大輝(68期)
1 はじめに
去る12月9日、福岡県弁護士会2階大ホールにおいて、特商法5年後見直しシンポジウム「あなたも危ないSNS詐欺被害~特定商取引法の改正とこれからの課題~」を開催いたしました。
私達シンポジウム実施PTメンバーは、(参加自由・予約不要でしたので)当日の動員に気を揉んでいましたが、終わってみれば、会場・ZOOM参加合わせて約100名もの皆様にご参加いただくことができ、特に、会場参加のうち大学生9名、弁護士以外の市民メンバーで約26名参加いただくなど、弁護士にとどまらず大盛況のうちに終えることができました。
以下、簡単にですが、実施報告をいたします。
2 動画「鷹男の悲劇」
今回は、市民シンポということもあり、特定商取引法の現状と課題を明らかにすべく、PTメンバーで10分程度の動画を作成し、シンポジウムの冒頭に動画視聴を行いました。この動画は、オリジナルの事例を基に、PTメンバーで音声を入れ、動画として編集したものです。
新卒で22歳の福岡鷹男君が、ある日、SNSで「月+10万円」を謳う副業ビジネスに興味をもち、SNSを通じて業者と連絡を取り始め、あれよあれよという間に業者の口車に乗せられて遠隔操作アプリを用いて消費者金融から借財をさせられ、副業ビジネスのための研修費名目で大金を支払ってしまう、、、という内容です。
この動画は、実際に消費生活センターの現場でも同様の被害が多数寄せられており、実例を基にしたシナリオでした。アニメ仕立てになっており、声の出演は、南正覚文枝会員(ナレーター)、前田和基会員(鷹男)、当職(業者)、小野遙河会員(消費者金融)となっています。
現在の特定商取引法の規定では、鷹男の事例のようにSNSを用いた勧誘に関しては規制対象になっておらず、また、通信販売についてはクーリング・オフ制度がないために被害救済としては不十分であることをあぶり出す動画でした。
3 基調報告
動画視聴の後、千綿俊一郎会員から、「特定商取引法のキホンと抜本的改正の必要性」と題し、鷹男の動画に触れながら特定商取引法の概要、SNS関連被害の実情、法の制定からこれまでの改正の経緯、現状における問題点及び抜本的改正の必要性、諸外国の法整備の状況や今後の展望に至るまで、多岐に渡る事項を網羅的に、かつ簡潔にご報告いただきました。
千綿会員のご報告は、一般市民や特定商取引法に馴染みのない弁護士でもわかりやすい内容で、特にEUや韓国においては通信販売に撤回権が認められていることをご紹介いただくなど、今後の展望を明らかにする示唆に富んだご報告でした。限られた時間に大変密度の濃いご報告を要請するという、無茶振りとも言える達成困難なミッションを見事達成いただきました。千綿会員、ありがとうございました。
4 パネルディスカッション
次に、消費生活相談員の穐山美江様、桑原義浩会員、藤村元気会員にご登壇いただき、パネルディスカッションを行いました。
穐山様からは、SNS関連の相談件数が右肩上がりに増加していること、特商法を用いて有効な対処を検討することが困難であることなど、豊富な実例を挙げつつ相談現場のリアルを詳らかにしていただきました。特定商取引法の改正の必要性を現場から強く訴える内容であり、実務に即したご報告をいただきました。
桑原会員からは、(相談者の許諾を得て匿名化した上で)実際の相談・受任事例におけるSNSの生のやり取りをスライドに投影していただき、市民がSNS関連被害に遭う様子をご報告いただきました。実際に、一人の人が被害に遭っていく様子(SNSのやり取り)は、映画のような鮮烈なインパクトを残しました。
会場の参加者は、穐山様からのご報告や桑原会員からの事例報告など、やはりリアルな被害実態について、特に熱心に耳を傾けている様子でした。
パネルディスカッションを経て、藤村会員からは、本シンポジウムのまとめとして、①SNSを用いた勧誘類型を特定商取引法の新たな規制対象とすべき、②事業者がSNSに登録する際に、住所・名称・責任者の登録を義務付け、かつ、SNS運営業者に対しては早期の開示を可能とすべき、③事業者がWEBを通じて消費者に消費者金融等から借り入れさせることを規制すべき、という提言をご発案いただきました。
5 最後に
質疑応答では、内閣府消費者委員会委員としてSNS問題にも取り組んでおられる黒木和彰会員から、SNS関連被害をより効果的に防止するためには、特定商取引法の改正にとどまらず、SNSそのものへの規制も必要と考えられ、総務省との調整をつけることは容易でないとの指摘もあり、問題の根深さをあらためて感じました。また、参加した大学生からは、学生ならではの素朴かつ率直な質問が次々に寄せられるなどして、会場は大いに盛り上がりました。
最後に、本シンポジウムの準備・運営に多大なるご貢献をいただきました皆様に謝辞を述べ、ご報告とさせていただきます。
2023年12月29日
国際委員会リレーエッセイ ウクライナ全国弁護士会から絵を贈られました
会員 中村 亮介(63期)
当会会員有志で組織した「ウクライナ全国弁護士会支援会」は、2022年7月15日、会員から集めた2万ドルをウクライナ全国弁護士会(以下「UNBA」)に送金したことは、昨年の月報でも報告したので、覚えていただいている会員もいらっしゃることと思います。
当支援会は、UNBAのバレンティン副会長より寄付に対する感謝のメールをいただいていましたが、そのバレンティン副会長が、本年7月、日本を訪れ、当支援会と同じ活動をしていた東京グループの事務局長の所属法律事務所を訪問されました。私は、その訪問に、テレビ会議システムで参加し、バレンティン副会長から寄付に対する謝意を伝えられ、合わせて、御礼の印として絵が贈られました。絵はUNBA所属の弁護士のお子さんの描かれたものということでした。
この時バレンティン副会長からはウクライナでの戦争被害の実情を教えていただきました。被害の当事者から聞く生の言葉は余りにストレートすぎ、途中で聞きたくなくなるほど恐ろしく、悲惨でした。私はただ「教えてくれてありがとう」としか返事のしようがありませんでした。
絵は暫く東京で保管されていましたが、今年9月の私の東京出張のついでに受け取ってきました。
子どもが描いた絵のため何を伝えたいのか、どんなメッセージをもっているのか必ずしもよく分からないところもあります。美しい紅葉を描いているようにも見えますし、爆撃を受けて空が赤く燃えているようにも見えます。
絵の裏には、手書きのウクライナ語でメッセージが書かれていました。
Googleの翻訳アプリを使ってみると、はっきりとは分からないものの、ウクライナの兵士が疲弊していること、彼らが堅固で不屈であること、彼らが自分たちを守ってくれていること、ウクライナの勝利を信じていることなどが書かれているようです。このメッセージをみると、この戦争がウクライナの子供たちの心に確実に影響を与えていることがわかります。子供たちの心のなかで憎しみの連鎖が起こらないことを願うばかりです。
絵は引渡しを受けてすぐに弁護士会に寄贈させていただきました。弁護士会館のどこに飾られているのか分かりませんが(笑)、会館にお立ち寄りの際には、ぜひ足を止めてご覧いただけたら幸甚です。
「第11回広報に関する先進7会懇談会(広報サミット)」参加のご報告
対外広報委員会 委員 陣内 隆太(74期)
1 「不安を、安心に」
福岡県弁護士会の標語として用いられているこの言葉がいつ頃から使用されるようになったのか、私は詳しくは存じ上げないのですが、弁護士の職務をここまでシンプルに、かつ、力強い優しさを伴って表現した言葉はなかなかないのではないかと思っています。私を始めとして、きっと多くの方々がこの言葉を目にして勇気をもらったことがあるのではないでしょうか。
常日頃から言葉や文字で表現することを生業にしている私たちにとって、どれほど多くの人々に、また、どれほど遠く離れた人々に思いを伝えられるか、ということは重要な関心事の一つだと思います。
対外広報委員会においては、弁護士の活動をもっと沢山の人に広めたい、そのような思いから日々活動をしております。
去る2023年9月9日、「第11回 広報に関する先進7会懇談会(通称:全国広報サミット)in愛知」が開催されましたので、その様子を写真と共にご報告いたします。
2 「キャッチコピーを味方に」
本年度の全国広報サミットは、コピーライターの石本香織理さんの基調講演「コピーライティングの基本~キャッチコピーを味方に」を皮切りにスタートし、各県の弁護士会の対外広報活動報告を行った後、ゲストの國枝宏之さん(+Marketing代表)から、各々の広報活動に対して効果的だった点や更に工夫の余地がある点等のアドバイスを頂くという進行で実施されました。
基調講演をご担当頂いた石本さんは、セーラー広告、電通名鉄コミュニケーションズ、博報堂などを経て、株式会社AOCHANを設立されたまさにコピーライティングの生き字引のような方です(因みにAOCHANという名前は一緒に住まれている飼い犬の名前アオちゃんからだそう)。
石本さんは、これまで「期待を、着る。」(LUMINE NEWoMan/"ITʼS NEW"WEEK 2023AW)や「脳力が、違う。」(iRobot/Roomba2023)、「肌は、私が見るより、誰かが見る時間のほうが長い。」(ノエビア(常盤薬品工業)/敏感肌スキンケアNOV)を始めとした多くのキャッチコピーを作成されています。
基調講演は、キャッチコピーは、伝えたいテーマと時代性、世の中・人々の気分、自分の記憶・経験・実感の重なるところに生まれるといった「人の興味を引き、伝えたい言葉を伝える」というキャッチコピーの本質論から始まり、これまでに話題になったキャッチコピーが有する一定の法則のうちのいくつかをご紹介をして頂きました。
なお、石本さんは、この法則をコピーライティングのトレーニング方法のひとつである「写経」(いいなと思うキャッチコピーを写経してなぜいいのか考える)を通して発見されたとのことでした。判例を写経しながら頭に染み込ませた司法試験の勉強とも通じるところがあるのでは・・・?と勝手ながら共感してしまいました。
⑴ キャッチコピージャンプアップ術
石本さんが紹介で触れられたキャッチコピーの法則と実際のキャッチコピーをいくつか紹介します。皆さまもきっと聞いたことがあるのではないでしょうか。
①「もしも~なら」形(仮定してみたときのメリットとデメリットを比較)
・英語を話せると、10億人と話せる(英会話のジオス)
・あなたが見つけないと、誰かの家になってしまう(アットホーム)
②「比較」形(何かと比較して、新しい気づきや発見、共感を生む)
・モノより思い出(日産セレナ)
③「事実・数字」形(へー!という驚きの事実をコピーにする)
・がんは、万が一じゃなく、二分の一。(日本対がん協会)
・職場や学校などの出会いでは、100人中4人しか結婚できません(オーネット)
④「視点の転換」形(世の中の常識や当たり前に別の角度から光を当てる)
・きょうは、復習の日です。(受験生応援キャンペーン センター試験当日の新聞)
⑤「既存概念と新概念の対比」形(世の中の常識や当たり前を挙げてそうそうと思わせ、そこに新しい概念をぶつけて価値を提案)
・女は強くなった。けど、女のカラダが強くなったわけじゃない。(女性の体調管理アプリ ラルーン)
⑥「時間軸」形(時間の貴重性やビフォーアフターでの変化等、時間を柱にすることで伝える力をパワーアップ)
・一生のなかで、花嫁の私は、たったの数時間。(ブライダルフェア)
⑦「つまり、まるで」形(商品や企業に関するA=Bを見つけて価値を見出す)
・スキンケアって、メンタルケアかも。(敏感肌スキンケア)
⑧「本質」形(暮らしや人生、人間、自然等、分かっているつもりだけど、いつもは気に留めていなくて、言われてみれば確かにそうだ)
・あしたははじめてやってくる。(西武百貨店)
⑵ 「遺言は、生きているうちにしか書けない」
このキャッチコピーは、実際に弁護士会が作成したチラシにキャッチコピーをつけてみよう!ということで、石本さんが遺言の日に関するキャッチコピーをつけたものです。言われてみれば確かにそうだ!と思うこのキャッチコピーは、本質形からアプローチをしたものになります。
この他にも、消費者トラブルに関するチラシでは、「つまり、まるで」形からアプローチした「インターネットの進化で、トラブルも進化している」といったものや、ジュニア・ロースクール開催チラシに対して「視点の転換」形からアプローチした「法律で、誰かを守れる。自分自身も守れる。」といったキャッチコピーが紹介されました。
⑶ 「既読スルーは、しないよ」
各会の弁護士が大盛り上がりとなったのは、基調講演のラストを飾った実際にキャッチコピーを考えてみよう!というワークです。
対象となったのは、我ら福岡弁護士会が作成した「べんごしLINEそうだん」のチラシです。
福岡県弁護士会からは、上記のキャッチコピーのほか、「べんごしとともだちになろう」「しゃべらなくても聞いてもらえる」「自分の部屋から、相談できる」といったキャッチコピーを発表しました。
他県の弁護士会からも、多くの意欲作が発表されました。私が特にいいなと思ったのは、兵庫県弁護士会が発表した「相談じゃなくて、トークしよう」です。
⑷ 「信じられる言葉を」
基調講演の最後に、石本さんが仰っておられた言葉です。饒舌に物事を語ることが出来たとしても、それを裏付ける確たる信念がなければ言葉だけが上滑りしてしまうのかもしれません。
読んだ人が信じられる言葉、自分自身が信じられる言葉をコピーにしていくことが大切だと述べられており、伝えたい信念、原動力があるからこそ、その思いを乗せたキャッチコピーはより多くの人に届くのだという認識を強くしました。
3 各県弁護士会対外広報活動の報告
福岡弁護士会からは、今年度の対外広報活動の報告として、継続的にラジオや新聞コラム、SNS等での広報活動を行っていることに加え、本年度は裁判所や検察庁とのコラボ企画「六本松法曹エリアウォークラリー」の開催、山田全自動のあるある日記などでお馴染みの山田全自動氏とのコラボ企画である「弁護士あるある」の制作といった活動を報告し、ゲストの國枝宏之さんから「秀逸」との評価を頂きました。
他県の弁護士会からの報告も、大阪府弁護士会のマスコットキャラクターであるリーガリュー誕生秘話や愛知県弁護士会のⅩ(旧Twitter)アカウント登録者数増加を目指すプロジェクト(通称:プロジェクトⅩ)の道のりなど非常に趣向を凝らした発表が目白押しで、今後の対外広報活動を行うにあたって取り組みたいと思えるものが多く、大変刺激を受ける結果となりました。
4 来年は、兵庫へ!
次回の全国広報サミットは、兵庫県で開催されます(我らが南川委員長の故郷!)。今後も、対外広報委員会における取り組みを通してもっと沢山の人に弁護士を身近に感じてもらえるように楽しく活動していきたいと思っています。
「六本松法曹エリア ウォークラリー」開催のご報告
対外広報委員会委員長・広報室員 南川 克博(67期)
1 はじめに
去る(去りすぎ?)5月15日から17日の3日間、六本松地区にある弁護士会、裁判所、検察庁による市民向け合同企画「六本松法曹エリア ウォークラリー」を実施いたしましたので、ご報告させていただきます。
2 実施準備 ~どうする弁護士会~
それは3月27日、裁判所からの一本の電話から始まりました。
「裁判所、検察庁、弁護士会の三庁が同じ区画にあることは全国的にみても珍しいので、それを活かして、市民対象のウォークラリーのような企画をしたいと考えています。弁護士としてのご意見をお聞かせいただきたいです」
広報室でも共有されたこの連絡。新しいもの好き、お祭り好きの私が手を挙げ、裁判所や検察庁の広報担当者の皆さまとお打ち合わせをさせていただくことになりました。
参加者を募る広報実働部隊は裁判所が一手に担ってくださり、当会は「安孫子デザイン」でお馴染み(?)、安孫子健輔広報室員による素敵すぎるフライヤーの制作デザインという形で応援させていただきました。安孫子先生、ありがとうございました!
また、各庁が法廷開放や検事によるトークイベントなど魅力的な独自企画を準備する中、当会(私)としては「ぜひ三庁を横断する合同企画をしたい」という思いが強くあったため、各庁の展示を題材にしたクイズを踏まえて、全問正解すれば表彰&景品贈呈という、クイズラリーを提案させていただきました。安孫子先生にはこちらの解答用紙についてもデザインいただきました。安孫子先生、ありがとうございました!!(2段落連続2回目)
さらに、当会の独自企画として、弁護士会パンフレットを基にした活動のパネル展示、動画「弁護士の一日」(安孫子健輔・真理子先生ご夫妻、斉藤芳朗先生)の上映、法教育委員会の先生による憲法&弁護士に関するミニ授業を実施することとしました。
3 実施当日 ~予想以上の反響&皆さまに感謝~
ウォークラリーは5月15日から17日までの3日間開催されました。
初日午前中には草ヶ江小学校の小学校6年生約150名が訪れ、上記ミニ授業を受講しました。受講の様子は当日のNHKニュースで報道されました。ご担当いただいた八木先生、吉住先生、本当にありがとうございました!
平日開催ということもあり午前中はやや人手が少なかったものの、午後になると高校生や大学生、地元にお住まいの方を中心に、多くの方がクイズラリーの解答用紙を手に三庁を見学いただき、結果として、3日間で三庁のべ約600名以上の方にご参加いただきました。弁護士会エリアでは、当日スタッフとしてご対応いただいた対外広報委員会・広報室の先生方の機転で、独自企画のほか「勝訴のぼり」や「弁護士バッジ付きジャケット」を使用しての写真撮影コーナーを即席で設置したところ、参加者の方からとても好評いただきました。参加者の方からは「近くに住んではいるが普段弁護士会館や裁判所、検察庁に入ることなどないので、とても面白かった」といったありがたい感想もいただきました。
本記事を借りて、改めて当日スタッフとしてご参加いただいた皆様に厚く御礼申し上げます!
4 さいごに ~今後に向けて~
自ら担当者として立候補したものの、初めてのことだらけで要領を得ず、沢山の方々の助けを借りて何とか実施にこぎつけることができました。私自身反省点(報告記事がようやく今頃書いている時点で猛省すべき...!)ばかりではあるものの、弁護士会の広報担当として、六本松法曹エリアを法曹三者の垣根を超えて今後も様々な企画で盛り上げることができればと思います。
中小企業法律支援センターだより 「事業承継及び創業に関する協議会in広島」のご報告
中小企業法律支援センター 委員 喜友名 朝之(72期)
1.はじめに
令和5年10月20日(金)、広島弁護士会のご協力をいただき、「事業承継及び創業に関する協議会in広島」を実施しました。
福岡においても中小企業の事業承継は喫緊の問題です。そこで、去る本年5月30日、当会は福岡県事業承継・引継ぎ支援センターとの間で、「事業承継等支援の連携等に関する協定書」を締結しました(みなさん、ご存じだったでしょうか?)。
では、具体的にどう連携していくべきでしょうか?一番参考になるのは、他会の先生方からお話しを伺うことです。広島弁護士会は以前より事業承継・引継ぎ支援センターとの連携を進めているとのことであり、有力な筋からの情報によると、「いま事業承継が熱いのは広島!」という話もあるようです。
そこで、いざ鎌倉ならぬいざ広島、ということで広島弁護士会の先生方との間での意見交換を行うべく、「事業承継及び創業に関する協議会in広島」を開催する運びに相成ったのです。
当日は広島弁護士会のほか、広島県事業承継・引継ぎ支援センター及び日本政策金融公庫広島支店にもご参加をいただき、各取組状況の報告ののち、質疑応答や意見交換を行いました。
2.各取組状況について
まず、広島県事業承継・引継ぎ支援センターにおいて統括責任者補佐の業務にあたっておられる広島弁護士会所属の前田有紀先生と、その前任者の桑原朋子先生から、センターの活動概要及び広島弁護士会との連携状況等についてご報告をいただきました。
ご報告のなかで、広島の事業承継・引継ぎ支援センターでは、その相談者紹介ルートとして金融機関からの紹介が多く、全国平均(26%)に比べ13%も多い39%が金融機関からのご紹介とのお話しを伺うことができました。金融機関での勤務経験もある私としては、福岡も広島のように、金融機関と弁護士会との連携をより深めていかなければとの思いを強くしたところです。
また、弁護士会との連携の観点では、広島では日弁連のM&Aパイロット事業が比較的多く活用されており、この点も福岡での参考になるのではないかと思いました。
広島の先生方によるご報告ののち、当センターからは福岡県事業承継・引継ぎ支援センターに関するご報告(安東翔太先生)、中小企業活性化協議会との連携に関するご報告(中川雅之先生)、そして牧委員長による当センターの創業支援に関するご報告をいただきました。
広島の先生方からは、当センターが福岡市と連携して行っている「スタートアップカフェ」に関するご質問や、若手会員の会務に関するご質問を中心に、多くのご質問をいただきました。
また、日本政策金融公庫広島支店(福山様)からも、公庫における創業支援につきご報告をいただき、昨年実施したものとして紹介いただいた「移住創業応援セミナー」が個人的に特に気になったところです(気になった方は検索していただくと日本政策金融公庫様のページがヒットするかと思います。)。
3.懇親会
協議会も終わり18時半からは、懇親会@中華料理を盛大に行いました。席上では、広島での弁護士業務のあれこれや会務の実情など、大変有益なお話を伺うことができました。
中華料理に舌鼓を打った我々は、一次会の大変な盛り上がりをそのままに、広島の先生方が足繫く通うという歌唱可能な飲食店へとなだれ込み、さらなる懇親を図りました(I先生による「贈る言葉」が胸に沁みたところです。)。
翌日は完全無欠の二日酔いとなりましたが、昨日は大変充実した協議会であったなあ、と充実した気持ちでいっぱいでした。
4.おわりに
冒頭でも述べたところですが、福岡においても中小企業の事業承継は喫緊の課題です。このような社会課題に対し専門家として適切なリーガルサービスを提供すベく、当センターは今年度、『事業承継法務のすべて』(第2版)を参考図書とした早朝勉強会を開催するなど、委員相互での切磋琢磨を図ってきました。
そして今後は、広島から持ち帰った事業承継支援へのぶち熱い気持ちを忘れずに、福岡での中小企業支援の一助となるべく、研鑽を積んでまいる所存です。
最後に、この協議会開催にあたり、広島の先生方との事前のやりとりや諸々の手配等をしていただいた中川雅之先生、阿部雄大先生、安藤匠汰先生、両角駿先生、本当にありがとうございました!
2023年11月30日
ローエイシアの報告
会員 杦本 信也(61期)
1 9月2日から4日まで、福岡県弁護士会館で、ローエイシア福岡人権大会が開催されました。シンポジウム「アジア地域の死刑廃止に向けた弁護士および弁護士会の役割」に参加しましたので報告します。発言は全て英語でしたので、私は同時通訳で聞きました。
2 シンポジウムでは、マレーシア、オーストラリア、日本及びインドの弁護士がパネリストを務めました。最初に、各国の死刑制度の現状や、死刑廃止を求める活動の状況について話がありました。
⑴ マレーシアでは、かつて総選挙で政党が変わった際、政府が死刑廃止の政策を打ち出し、死刑の執行を停止しました。でも、国内で死刑存置を求める人が多く、宗教団体、被害者団体が死刑存置を求めたため、死刑廃止には至っていません。ただ、今年4月に、重大犯罪で有罪が確定した場合に裁判所が裁量の余地なく死刑判決を行う「強制死刑」制度を廃止する法案と、同法が適用され確定した判決について連邦裁判所に見直す権限を付与する法案が可決されました。今後1300人を超える死刑囚が、再判決を受ける予定とのことです。
マレーシア弁護士会は、1985年以降、5回にわたり死刑廃止を求める決議を行い、政府の死刑廃止検討会議にも参加しています。その他、重度の精神病の人の死刑執行を停止させ終身刑に減刑させる活動を行ったり、シンガポール政府に対してマレーシア国民に死刑を執行しないように求める活動を行ったということです。
⑵ オーストラリアは、死刑が廃止されています。パネリストは、死刑制度の歴史について次のように説明しました。80年くらい前は、世界のほとんどの国で死刑が執行されていた。現在、死刑存置国は20~30か国しかない。死刑廃止は実現可能であり、実際に多くの国が廃止してきた。文化、政治制度、宗教の違いを超えて、人々が国による殺人を拒否している。歴史は死刑廃止に向かっている。
他の話としては、ほとんどの死刑執行国では死刑が秘密にされている、死刑の正当性の根拠は犯罪抑止とされているのに、秘密があるのは矛盾している、という話が印象に残りました。
⑶ インドでは、死刑事件に対する弁護の質が低く、弁護士の能力も低いことが問題という話でした。刑事裁判を受ける人は、ほとんどが必要な教育を受けておらず、経済的に脆弱であり、実質的に裁判に参加できていない。捜査機関の取調べの弁護士の立会いも認められていない。無罪推定原則が実現されていない。裁判所が、捜査機関の証拠ねつ造を指摘して死刑囚に対して無罪判決を出した事件もあったということです。
⑷ 日本のパネリストは、刑場のイラストを用いて、死刑執行の現状について説明し、医師が死亡確認のために待機するようなシステムは残虐であるという話をしていました。日弁連の活動については、日本では国民の80%が死刑存置もやむを得ないと考えているため、代替刑を提案する必要がある。仮釈放のない終身刑、ただし裁判所により無期懲役への変更が可能な制度を提案している。国会議員100名に会い、この提案を説明した。日弁連は、仏教団体やキリスト教の団体に働きかけており、EU、イギリスやオーストラリアと連携して死刑廃止を求めているという話をしていました。
3 質疑応答では、まず、戦略として死刑廃止を求めるのか執行停止を求めるのか、また、死刑を廃止するための活動に弁護士がどのように関与するのかという質問が出ました。
マレーシアのパネリストは、死刑廃止を働きかけるとき、なぜ死刑が廃止されるべきか理解させることが必要である。一般的に、死刑には犯罪抑止効果があるといわれているが、死刑執行が続いても薬物犯罪は減っていない。国会議員や大臣にデータを提供し、死刑がふさわしくないことを説得する必要があると話していました。インドでは、絞首刑は死刑囚を苦しめるので、死刑囚の苦しみを緩和するべきと主張している、もっと広い観点から議論する必要があると話していました。日本からも、絞首刑の残虐さを争う民事訴訟が提起され、各県の弁護士会が国会議員に働きかけているいることが報告されていました。
弁護士の関与については、オーストラリアのパネリストが、弁護士としての援助は裁判所の中に限定されない、弁護士が事実を語る役割を果たすことが必要であると話していました。
4 最後に、現代では100人以上が亡くなるテロ事件が起きるなど、犯罪の性質が変わってきているが、死刑は廃止できるのかという質問が出されました。ここは印象に残った話を箇条書きします。
・ 国際的にも重罪と考えられるもの、戦争犯罪やジェノサイドがある。司法制度が対応できていない。社会が前進するためには、どうすればよいか。罪を犯した人に対して復讐するのか、更生を図るのか。原則に立ち返ると人権がある。
・ 殺人のない世界に住みたい、だからといって死刑が必要というわけではない。世界を見ても、死刑があるから犯罪がなくなったというケースはない。死刑は社会を安全にするものではない。特定の人に責任を負わせても、それだけでは終わらない。死刑は短絡的な制度である。
・ 第二次世界大戦後の大きな流れとしては、国際社会は、個人の尊厳、人権を守る方向にある。圧政やひどい戦争を経験した国は、死刑を廃止している。暴力からの脱却、残虐性を用いない方法で解決する必要がある。社会復帰や回復は簡単ではない。国により状況が異なる。どう変わっていくか考えていく必要がある。
・ 残虐な事件が起これば被害者について報道される。一般の人は死刑があってもよいと強く感じる。でも、日本では、最近は話し合いの機会を作ることが行われている。被害者側の遺族にも対話を求める人がおり、報道されるようになっている。そういう活動を重ねていくうちに、時間がかかるとしても、社会は変わっていくはずである。
5 シンポジウムの報告は以上です。国際会議というと敷居が高い感じがして、最初は参加することに不安がありました。でも、異なる文化圏でも人権尊重という共通の基盤があります。言葉の壁も、同時通訳さんと、英語を話せる人に助けていただき、乗り切れました。運営スタッフも当会会員で知っている人でしたので安心しました。勇気を出して参加してよかったです。
刑事法廷内の手錠腰縄問題に関するシンポジウムが開催されました
会員 木上 貴裕(73期)
1 はじめに
令和5年8月5日(土)13時より、2023年ローエイシア福岡プレシンポジウム第3弾として、刑事法廷内の手錠腰縄に関するシンポジウムが開催されました。
手錠腰縄問題とは、勾留中の被告人について、裁判官の法廷警察権に基づく指揮の下、手錠・腰縄をされたままの状態で法廷内に連れて来られ、手錠・腰縄が外されるまで、被告人は訴訟関係人だけでなく傍聴人からも、手錠・腰縄が施された状態を見られることになり、被告人における手錠・腰縄姿をみだりに人に見られないという人格的利益が侵害されている、という問題です。
手錠・腰縄姿をみだりに人に見られない利益が、被告人の人格的利益であることは、これまでの判例・裁判例で指摘されていますが(例えば、東京地判平成5年10月4日・判時1491号121ページ、大阪地判平成7年1月30日・判時1535号113ページ、最一小判平成17年11月10日・民衆59巻9号2428ページ)、実際には、被告人の意思に関係なく、手錠・腰縄がされている状態を、訴訟関係人や傍聴人に見られる運用がされています。
そこで、日弁連や全国の弁護士会においてPTが設置され、被疑者・被告人の手錠・腰縄姿が訴訟関係人や傍聴人に見られない状態の実現に向けた取り組みが行われており、その活動の一環として、今回のシンポジウムが開催されました。
2 第1部 基調講演
⑴ 講演の概要について
第1部は、基調講演として、近畿大学法学部教授の辻本典央先生と大阪弁護士会所属の田中俊先生より、ご講演をいただきました。
辻本先生は、日弁連手錠腰縄問題PTや参議院院内学習会などに参画されており、本講演では、「法廷での手錠腰縄姿は当たり前のこと...なのか?法廷への入退出時における手錠腰縄措置の法的検討と制度改善に向けて」と題し、被告人が、手錠腰縄をされた上で刑務官に脇を固められて法廷に入廷する姿が当たり前のことなのかということに関し、被告人としての立場から見つめ直す、すなわち基本的人権の観点から被告人の法的利益に対する侵害の有無及び救済方法についてご講演をいただきました。
田中先生は、日弁連手錠腰縄PTの座長であり手錠腰縄措置により人格権等を侵害されたことを理由とする国家賠償訴訟を複数担当されており、本講演では、「これまで問題となった手錠・腰縄使用事例と弁護士会の活動について」と題し、過去に手錠腰縄の使用が問題となったケースや実際に田中弁護士が実際に担当された国家賠償訴訟、日弁連手錠腰縄問題PTの活動内容等についてご講演をいただきました。
⑵ 大阪地裁判決及び大阪高裁判決について
辻本先生及び田中先生からは、主に大阪地裁令和元年5月27日判決(以下「大阪地裁判決」といいます。)及び大阪高裁令和元年6月14日判決(以下「大阪高裁判決」といいます。)を中心に講演を頂きました。
大阪高裁判決は、「明らかに逃走等のおそれがない場合など手錠等を使用する具体的な必要性を欠く場合にはその使用が許されないというにとどまる。」として、手錠・腰縄等の使用について裁判所の広範な裁量を認めています。
他方、大阪地裁判決は、「個人の尊厳と人格価値の尊重を宣言し、個人の容貌等に関する人格的利益を保障している憲法13条の趣旨に照らし、身柄拘束を受けている被告人は、上記のとおりみだりに容ぼうや姿態を撮影されない権利を有しているというにとどまらず、手錠等を施された姿をみだりに公衆にさらされないとの正当な利益ないし期待を有しており、かかる利益ないし期待についても人格的利益として法的な保護に値する」との見解を示したうえで、「裁判長は、勾留中の被告人を公判期日に出廷させる際には、法廷において傍聴人に手錠等を施された姿を見られたくないとの被告人の利益ないし期待を尊重した法廷警察権の行使をすることが要請され、被告人の身柄確保の責任を負う刑事施設の意向も踏まえつつ、可能な限り傍聴人に被告人の手錠等の施された姿がさらされないような方法をとることが求められているというべきである。」と判示しました。そのうえで、入退廷に際して、手錠等を施された被告人の姿を傍聴人の目に触れさせないようにするため、
①法廷の被告人出入口の扉のすぐ外で手錠等の着脱を行うこととし、手錠等を施さない状態で被告人を入退廷させる方法
②法廷内において被告人出入口の扉付近に衝立等による遮へい措置を行い、その中で手錠等の着脱を行う方法
③法廷内で手錠等を解いた後に傍聴人を入廷させ、傍聴人を退廷させた後に手錠等を施す方法
の3点の具体例を挙げるなど、裁判所に可能な限りの是正措置を要求しました。
⑶ 大阪地裁判決後の状況について
大阪地裁判決後は、画期的な裁判例が出たことに伴い、日弁連から関係省庁に対し、刑事法廷内における入退廷時に被疑者又は被告人に手錠・腰縄を使用しないことを求める意見書の提出が行われるなど、弁護士会における活動も活発化しました。また、手錠腰縄申し入れ活動に関する新聞記事が出されるなど、弁護士会外における活動も行われるようになりました。
しかしながら、大阪地裁判決が出されたばかりの頃は、裁判所の対応にも変化があったようですが、現在では、弁護士からの申し入れに対して、裁判所が何らかの措置を講じることに難色を示すこともあるようです。
⑷ まとめ
以上の状況を踏まえ、辻本先生及び田中先生から、何よりも刑事事件に携わる弁護士が、裁判所への申し入れを活発化させ、裁判所に働きかけてほしいとの要望がありました。
被告人への手錠及び腰縄の使用に関する申入書については、福岡県弁護士会の会員専用ページの「書式・資料」→「刑事事件」→「手錠・腰縄問題に関するPT」内に書式が用意されておりますので、被疑者・被告人事件を担当される際にぜひご活用ください。
3 第2部 ゲストスピーチ
⑴ 第2部では、ゲストスピーチとして、法廷内の身体拘束についての海外報告及や国会報告がされました。
⑵ 海外報告 海外報告では、韓国、マレーシア、バングラデシュ、オーストラリアの弁護士ないし裁判官から、各国における手錠腰縄の運用状況について報告がされました。特に韓国では、法律で公判廷での被告人の身体拘束が原則として禁止されているとの報告がされました。
⑶ 国会報告 国会報告では、福島みずほ議員から、手錠・腰縄問題を立法的に解決するための活動を国会から行うとの報告がされました。
4 第3部 パネルディスカッション・質疑応答
第3部では、パネルディスカッション及び質疑応答として、基調講演をいただいた辻本先生及び田中先生に加え、元福岡高裁総括で弁護士の陶山博生先生及び福岡県弁護士会手錠腰縄PT座長の黒木聖士先生をパネリストに迎えた上、パネルディスカッションのコーディネーターとして福岡県弁護士会手錠腰縄PT副座長の市場輝先生にご担当をいただきました。
ディスカッションでは、福岡における手錠・腰縄措についての現状として、手錠・腰縄の使用に関する申し入れに対して措置を講じる例が1割程度しかないことや、大阪地裁判決が出された当時に比べ裁判所の動きも下火になってきている状態にあるとの問題点が示されました。
そのうえで、根本的な解決として立法的な解決を図ることも必要ではあるが、個々の弁護士が裁判所に申し入れ活動を積極的に行い、成功事例を積み重ねていくことで、立法的解決にも資すると考えるとの意見が示されました。
5 最後に
刑事法廷において、被告人が手錠・腰縄を施された状態で入廷し、裁判関係者及び傍聴人が見ることができる状態で手錠・腰縄を外すという光景が当たり前だと思っている弁護士も一定数いるのではないかと思います。かくいう私も、手錠・腰縄PTに加入させていただくまでは、当たり前の光景だと思っていました。
裁判官が、手錠・腰縄使用に関する申し入れに対し措置を講じる例が少ないのも、措置を講じることが特別なことだと考えているからではないでしょうか。現在は、手錠・腰縄使用に関する申し入れを行う件数が少なく、裁判官も特異な例だと考えているのだと思います。そのため、刑事事件に携わる弁護士が積極的に申し入れを行うことで、裁判官にも手錠・腰縄を使用することが当たり前ではないと認識させていくことが、手錠・腰縄問題を解決する近道だと考えます。
皆様も、刑事事件に携わる際には、是非、手錠・腰縄の使用に関する申し入れを実践してみてください。
あさかぜ基金だより
弁護士法人あさかぜ基金法律事務所 石井 智裕(72期)
九州外の公設事務所に見学に行きました
日弁連は公設事務所の見学のための交通費と宿泊費を援助しています。この制度を使って、紀中ひまわり基金法律事務所と中村ひまわり基金法律事務所に見学にいきました。
紀中ひまわり基金法律事務所
まず、今年の2月に紀中ひまわり基金法律事務所へ見学に行きました。
紀中ひまわり基金法律事務所は和歌山県の御坊市にあります。御坊という名前は、もともと日高御坊と呼ばれたお寺があり、そこから付けられた地名だそうです。御坊駅のそばには田園地帯となっていて、市街地は駅からすこし離れた場所にありました。
御坊市には他のひまわり基金法律事務所の所在地にはない映画館があり、栄えている様子でした。
紀中ひまわり基金法律事務所には、毎週のように新規に相談が舞い込んでくるそうで、事件処理が停滞しないようにするのが難しいとのことでした。事件の種類についても、偏りがなく、市民からさまざまな事件の相談がくるそうです。
紀中ひまわり基金法律事務所はとても地域に根づいて信頼されている事務所だと感じました。
中村ひまわり基金法律事務所
次に、8月には中村ひまわり基金法律事務所へ見学に行きました。
中村ひまわり基金法律事務所は、高知県の四万十市にあります。四万十市は高知県の西の端にあるので、九州から近いと思っていましたが、調べてみると高知市を経由し、高知市から特急列車(電車はありません)で2時間かかると知り、かなり交通の便が悪い場所にあるのだなと感じました。
しかし、中村ひまわり基金法律事務所の周辺は生活や業務に必要な施設はすべてそろって居ました。裁判所・市役所・郵便局・法務局・銀行・警察署はすべて徒歩圏内にありますし、事務所の目の前にはスーパーとドラッグストアが並んでいます。四万十までいくのは大変だけれども、生活するには住みやすい場所のようです。
受任事件については、刑事事件と債務整理の事件がそれぞれ4分の1だというのが特徴的とのことでした。地域特有の事件としては、うなぎの稚魚の窃盗事件を受任したことがあるそうで驚きました。
壱岐や対馬の公設事務所に赴任した先輩弁護士から、島では利益相反が多発するから注意が必要であるとの話を聴いていましたので、中村ひまわり基金法律事務所の弁護士にも、利益相反の点について訊いてみました。すると、四万十でも利益相反はよく発生するとのことでした。島ではなく陸続きの場所でも利益相反が多いと聴いてビックリでした。
交通の便が悪いと、陸続きでも離島のような問題が発生してしまうことに思い至りました。
地域に根ざした事務所
紀中ひまわり基金法律事務所と中村ひまわり基金法律事務所のいづれも地域に根ざした事務所として市民から大いに頼りにされた存在なのだと実感できじました。 私も、過疎地に赴任するにあたっては、地域の人たちから頼りにされるよう、しっかり努力したいと決意を固めたのでした。