福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
月報記事
2023年12月29日
国際委員会リレーエッセイ ウクライナ全国弁護士会から絵を贈られました
会員 中村 亮介(63期)
当会会員有志で組織した「ウクライナ全国弁護士会支援会」は、2022年7月15日、会員から集めた2万ドルをウクライナ全国弁護士会(以下「UNBA」)に送金したことは、昨年の月報でも報告したので、覚えていただいている会員もいらっしゃることと思います。
当支援会は、UNBAのバレンティン副会長より寄付に対する感謝のメールをいただいていましたが、そのバレンティン副会長が、本年7月、日本を訪れ、当支援会と同じ活動をしていた東京グループの事務局長の所属法律事務所を訪問されました。私は、その訪問に、テレビ会議システムで参加し、バレンティン副会長から寄付に対する謝意を伝えられ、合わせて、御礼の印として絵が贈られました。絵はUNBA所属の弁護士のお子さんの描かれたものということでした。
この時バレンティン副会長からはウクライナでの戦争被害の実情を教えていただきました。被害の当事者から聞く生の言葉は余りにストレートすぎ、途中で聞きたくなくなるほど恐ろしく、悲惨でした。私はただ「教えてくれてありがとう」としか返事のしようがありませんでした。
絵は暫く東京で保管されていましたが、今年9月の私の東京出張のついでに受け取ってきました。
子どもが描いた絵のため何を伝えたいのか、どんなメッセージをもっているのか必ずしもよく分からないところもあります。美しい紅葉を描いているようにも見えますし、爆撃を受けて空が赤く燃えているようにも見えます。
絵の裏には、手書きのウクライナ語でメッセージが書かれていました。
Googleの翻訳アプリを使ってみると、はっきりとは分からないものの、ウクライナの兵士が疲弊していること、彼らが堅固で不屈であること、彼らが自分たちを守ってくれていること、ウクライナの勝利を信じていることなどが書かれているようです。このメッセージをみると、この戦争がウクライナの子供たちの心に確実に影響を与えていることがわかります。子供たちの心のなかで憎しみの連鎖が起こらないことを願うばかりです。
絵は引渡しを受けてすぐに弁護士会に寄贈させていただきました。弁護士会館のどこに飾られているのか分かりませんが(笑)、会館にお立ち寄りの際には、ぜひ足を止めてご覧いただけたら幸甚です。
「第11回広報に関する先進7会懇談会(広報サミット)」参加のご報告
対外広報委員会 委員 陣内 隆太(74期)
1 「不安を、安心に」
福岡県弁護士会の標語として用いられているこの言葉がいつ頃から使用されるようになったのか、私は詳しくは存じ上げないのですが、弁護士の職務をここまでシンプルに、かつ、力強い優しさを伴って表現した言葉はなかなかないのではないかと思っています。私を始めとして、きっと多くの方々がこの言葉を目にして勇気をもらったことがあるのではないでしょうか。
常日頃から言葉や文字で表現することを生業にしている私たちにとって、どれほど多くの人々に、また、どれほど遠く離れた人々に思いを伝えられるか、ということは重要な関心事の一つだと思います。
対外広報委員会においては、弁護士の活動をもっと沢山の人に広めたい、そのような思いから日々活動をしております。
去る2023年9月9日、「第11回 広報に関する先進7会懇談会(通称:全国広報サミット)in愛知」が開催されましたので、その様子を写真と共にご報告いたします。
2 「キャッチコピーを味方に」
本年度の全国広報サミットは、コピーライターの石本香織理さんの基調講演「コピーライティングの基本~キャッチコピーを味方に」を皮切りにスタートし、各県の弁護士会の対外広報活動報告を行った後、ゲストの國枝宏之さん(+Marketing代表)から、各々の広報活動に対して効果的だった点や更に工夫の余地がある点等のアドバイスを頂くという進行で実施されました。
基調講演をご担当頂いた石本さんは、セーラー広告、電通名鉄コミュニケーションズ、博報堂などを経て、株式会社AOCHANを設立されたまさにコピーライティングの生き字引のような方です(因みにAOCHANという名前は一緒に住まれている飼い犬の名前アオちゃんからだそう)。
石本さんは、これまで「期待を、着る。」(LUMINE NEWoMan/"ITʼS NEW"WEEK 2023AW)や「脳力が、違う。」(iRobot/Roomba2023)、「肌は、私が見るより、誰かが見る時間のほうが長い。」(ノエビア(常盤薬品工業)/敏感肌スキンケアNOV)を始めとした多くのキャッチコピーを作成されています。
基調講演は、キャッチコピーは、伝えたいテーマと時代性、世の中・人々の気分、自分の記憶・経験・実感の重なるところに生まれるといった「人の興味を引き、伝えたい言葉を伝える」というキャッチコピーの本質論から始まり、これまでに話題になったキャッチコピーが有する一定の法則のうちのいくつかをご紹介をして頂きました。
なお、石本さんは、この法則をコピーライティングのトレーニング方法のひとつである「写経」(いいなと思うキャッチコピーを写経してなぜいいのか考える)を通して発見されたとのことでした。判例を写経しながら頭に染み込ませた司法試験の勉強とも通じるところがあるのでは・・・?と勝手ながら共感してしまいました。
⑴ キャッチコピージャンプアップ術
石本さんが紹介で触れられたキャッチコピーの法則と実際のキャッチコピーをいくつか紹介します。皆さまもきっと聞いたことがあるのではないでしょうか。
①「もしも~なら」形(仮定してみたときのメリットとデメリットを比較)
・英語を話せると、10億人と話せる(英会話のジオス)
・あなたが見つけないと、誰かの家になってしまう(アットホーム)
②「比較」形(何かと比較して、新しい気づきや発見、共感を生む)
・モノより思い出(日産セレナ)
③「事実・数字」形(へー!という驚きの事実をコピーにする)
・がんは、万が一じゃなく、二分の一。(日本対がん協会)
・職場や学校などの出会いでは、100人中4人しか結婚できません(オーネット)
④「視点の転換」形(世の中の常識や当たり前に別の角度から光を当てる)
・きょうは、復習の日です。(受験生応援キャンペーン センター試験当日の新聞)
⑤「既存概念と新概念の対比」形(世の中の常識や当たり前を挙げてそうそうと思わせ、そこに新しい概念をぶつけて価値を提案)
・女は強くなった。けど、女のカラダが強くなったわけじゃない。(女性の体調管理アプリ ラルーン)
⑥「時間軸」形(時間の貴重性やビフォーアフターでの変化等、時間を柱にすることで伝える力をパワーアップ)
・一生のなかで、花嫁の私は、たったの数時間。(ブライダルフェア)
⑦「つまり、まるで」形(商品や企業に関するA=Bを見つけて価値を見出す)
・スキンケアって、メンタルケアかも。(敏感肌スキンケア)
⑧「本質」形(暮らしや人生、人間、自然等、分かっているつもりだけど、いつもは気に留めていなくて、言われてみれば確かにそうだ)
・あしたははじめてやってくる。(西武百貨店)
⑵ 「遺言は、生きているうちにしか書けない」
このキャッチコピーは、実際に弁護士会が作成したチラシにキャッチコピーをつけてみよう!ということで、石本さんが遺言の日に関するキャッチコピーをつけたものです。言われてみれば確かにそうだ!と思うこのキャッチコピーは、本質形からアプローチをしたものになります。
この他にも、消費者トラブルに関するチラシでは、「つまり、まるで」形からアプローチした「インターネットの進化で、トラブルも進化している」といったものや、ジュニア・ロースクール開催チラシに対して「視点の転換」形からアプローチした「法律で、誰かを守れる。自分自身も守れる。」といったキャッチコピーが紹介されました。
⑶ 「既読スルーは、しないよ」
各会の弁護士が大盛り上がりとなったのは、基調講演のラストを飾った実際にキャッチコピーを考えてみよう!というワークです。
対象となったのは、我ら福岡弁護士会が作成した「べんごしLINEそうだん」のチラシです。
福岡県弁護士会からは、上記のキャッチコピーのほか、「べんごしとともだちになろう」「しゃべらなくても聞いてもらえる」「自分の部屋から、相談できる」といったキャッチコピーを発表しました。
他県の弁護士会からも、多くの意欲作が発表されました。私が特にいいなと思ったのは、兵庫県弁護士会が発表した「相談じゃなくて、トークしよう」です。
⑷ 「信じられる言葉を」
基調講演の最後に、石本さんが仰っておられた言葉です。饒舌に物事を語ることが出来たとしても、それを裏付ける確たる信念がなければ言葉だけが上滑りしてしまうのかもしれません。
読んだ人が信じられる言葉、自分自身が信じられる言葉をコピーにしていくことが大切だと述べられており、伝えたい信念、原動力があるからこそ、その思いを乗せたキャッチコピーはより多くの人に届くのだという認識を強くしました。
3 各県弁護士会対外広報活動の報告
福岡弁護士会からは、今年度の対外広報活動の報告として、継続的にラジオや新聞コラム、SNS等での広報活動を行っていることに加え、本年度は裁判所や検察庁とのコラボ企画「六本松法曹エリアウォークラリー」の開催、山田全自動のあるある日記などでお馴染みの山田全自動氏とのコラボ企画である「弁護士あるある」の制作といった活動を報告し、ゲストの國枝宏之さんから「秀逸」との評価を頂きました。
他県の弁護士会からの報告も、大阪府弁護士会のマスコットキャラクターであるリーガリュー誕生秘話や愛知県弁護士会のⅩ(旧Twitter)アカウント登録者数増加を目指すプロジェクト(通称:プロジェクトⅩ)の道のりなど非常に趣向を凝らした発表が目白押しで、今後の対外広報活動を行うにあたって取り組みたいと思えるものが多く、大変刺激を受ける結果となりました。
4 来年は、兵庫へ!
次回の全国広報サミットは、兵庫県で開催されます(我らが南川委員長の故郷!)。今後も、対外広報委員会における取り組みを通してもっと沢山の人に弁護士を身近に感じてもらえるように楽しく活動していきたいと思っています。
「六本松法曹エリア ウォークラリー」開催のご報告
対外広報委員会委員長・広報室員 南川 克博(67期)
1 はじめに
去る(去りすぎ?)5月15日から17日の3日間、六本松地区にある弁護士会、裁判所、検察庁による市民向け合同企画「六本松法曹エリア ウォークラリー」を実施いたしましたので、ご報告させていただきます。
2 実施準備 ~どうする弁護士会~
それは3月27日、裁判所からの一本の電話から始まりました。
「裁判所、検察庁、弁護士会の三庁が同じ区画にあることは全国的にみても珍しいので、それを活かして、市民対象のウォークラリーのような企画をしたいと考えています。弁護士としてのご意見をお聞かせいただきたいです」
広報室でも共有されたこの連絡。新しいもの好き、お祭り好きの私が手を挙げ、裁判所や検察庁の広報担当者の皆さまとお打ち合わせをさせていただくことになりました。
参加者を募る広報実働部隊は裁判所が一手に担ってくださり、当会は「安孫子デザイン」でお馴染み(?)、安孫子健輔広報室員による素敵すぎるフライヤーの制作デザインという形で応援させていただきました。安孫子先生、ありがとうございました!
また、各庁が法廷開放や検事によるトークイベントなど魅力的な独自企画を準備する中、当会(私)としては「ぜひ三庁を横断する合同企画をしたい」という思いが強くあったため、各庁の展示を題材にしたクイズを踏まえて、全問正解すれば表彰&景品贈呈という、クイズラリーを提案させていただきました。安孫子先生にはこちらの解答用紙についてもデザインいただきました。安孫子先生、ありがとうございました!!(2段落連続2回目)
さらに、当会の独自企画として、弁護士会パンフレットを基にした活動のパネル展示、動画「弁護士の一日」(安孫子健輔・真理子先生ご夫妻、斉藤芳朗先生)の上映、法教育委員会の先生による憲法&弁護士に関するミニ授業を実施することとしました。
3 実施当日 ~予想以上の反響&皆さまに感謝~
ウォークラリーは5月15日から17日までの3日間開催されました。
初日午前中には草ヶ江小学校の小学校6年生約150名が訪れ、上記ミニ授業を受講しました。受講の様子は当日のNHKニュースで報道されました。ご担当いただいた八木先生、吉住先生、本当にありがとうございました!
平日開催ということもあり午前中はやや人手が少なかったものの、午後になると高校生や大学生、地元にお住まいの方を中心に、多くの方がクイズラリーの解答用紙を手に三庁を見学いただき、結果として、3日間で三庁のべ約600名以上の方にご参加いただきました。弁護士会エリアでは、当日スタッフとしてご対応いただいた対外広報委員会・広報室の先生方の機転で、独自企画のほか「勝訴のぼり」や「弁護士バッジ付きジャケット」を使用しての写真撮影コーナーを即席で設置したところ、参加者の方からとても好評いただきました。参加者の方からは「近くに住んではいるが普段弁護士会館や裁判所、検察庁に入ることなどないので、とても面白かった」といったありがたい感想もいただきました。
本記事を借りて、改めて当日スタッフとしてご参加いただいた皆様に厚く御礼申し上げます!
4 さいごに ~今後に向けて~
自ら担当者として立候補したものの、初めてのことだらけで要領を得ず、沢山の方々の助けを借りて何とか実施にこぎつけることができました。私自身反省点(報告記事がようやく今頃書いている時点で猛省すべき...!)ばかりではあるものの、弁護士会の広報担当として、六本松法曹エリアを法曹三者の垣根を超えて今後も様々な企画で盛り上げることができればと思います。
中小企業法律支援センターだより 「事業承継及び創業に関する協議会in広島」のご報告
中小企業法律支援センター 委員 喜友名 朝之(72期)
1.はじめに
令和5年10月20日(金)、広島弁護士会のご協力をいただき、「事業承継及び創業に関する協議会in広島」を実施しました。
福岡においても中小企業の事業承継は喫緊の問題です。そこで、去る本年5月30日、当会は福岡県事業承継・引継ぎ支援センターとの間で、「事業承継等支援の連携等に関する協定書」を締結しました(みなさん、ご存じだったでしょうか?)。
では、具体的にどう連携していくべきでしょうか?一番参考になるのは、他会の先生方からお話しを伺うことです。広島弁護士会は以前より事業承継・引継ぎ支援センターとの連携を進めているとのことであり、有力な筋からの情報によると、「いま事業承継が熱いのは広島!」という話もあるようです。
そこで、いざ鎌倉ならぬいざ広島、ということで広島弁護士会の先生方との間での意見交換を行うべく、「事業承継及び創業に関する協議会in広島」を開催する運びに相成ったのです。
当日は広島弁護士会のほか、広島県事業承継・引継ぎ支援センター及び日本政策金融公庫広島支店にもご参加をいただき、各取組状況の報告ののち、質疑応答や意見交換を行いました。
2.各取組状況について
まず、広島県事業承継・引継ぎ支援センターにおいて統括責任者補佐の業務にあたっておられる広島弁護士会所属の前田有紀先生と、その前任者の桑原朋子先生から、センターの活動概要及び広島弁護士会との連携状況等についてご報告をいただきました。
ご報告のなかで、広島の事業承継・引継ぎ支援センターでは、その相談者紹介ルートとして金融機関からの紹介が多く、全国平均(26%)に比べ13%も多い39%が金融機関からのご紹介とのお話しを伺うことができました。金融機関での勤務経験もある私としては、福岡も広島のように、金融機関と弁護士会との連携をより深めていかなければとの思いを強くしたところです。
また、弁護士会との連携の観点では、広島では日弁連のM&Aパイロット事業が比較的多く活用されており、この点も福岡での参考になるのではないかと思いました。
広島の先生方によるご報告ののち、当センターからは福岡県事業承継・引継ぎ支援センターに関するご報告(安東翔太先生)、中小企業活性化協議会との連携に関するご報告(中川雅之先生)、そして牧委員長による当センターの創業支援に関するご報告をいただきました。
広島の先生方からは、当センターが福岡市と連携して行っている「スタートアップカフェ」に関するご質問や、若手会員の会務に関するご質問を中心に、多くのご質問をいただきました。
また、日本政策金融公庫広島支店(福山様)からも、公庫における創業支援につきご報告をいただき、昨年実施したものとして紹介いただいた「移住創業応援セミナー」が個人的に特に気になったところです(気になった方は検索していただくと日本政策金融公庫様のページがヒットするかと思います。)。
3.懇親会
協議会も終わり18時半からは、懇親会@中華料理を盛大に行いました。席上では、広島での弁護士業務のあれこれや会務の実情など、大変有益なお話を伺うことができました。
中華料理に舌鼓を打った我々は、一次会の大変な盛り上がりをそのままに、広島の先生方が足繫く通うという歌唱可能な飲食店へとなだれ込み、さらなる懇親を図りました(I先生による「贈る言葉」が胸に沁みたところです。)。
翌日は完全無欠の二日酔いとなりましたが、昨日は大変充実した協議会であったなあ、と充実した気持ちでいっぱいでした。
4.おわりに
冒頭でも述べたところですが、福岡においても中小企業の事業承継は喫緊の課題です。このような社会課題に対し専門家として適切なリーガルサービスを提供すベく、当センターは今年度、『事業承継法務のすべて』(第2版)を参考図書とした早朝勉強会を開催するなど、委員相互での切磋琢磨を図ってきました。
そして今後は、広島から持ち帰った事業承継支援へのぶち熱い気持ちを忘れずに、福岡での中小企業支援の一助となるべく、研鑽を積んでまいる所存です。
最後に、この協議会開催にあたり、広島の先生方との事前のやりとりや諸々の手配等をしていただいた中川雅之先生、阿部雄大先生、安藤匠汰先生、両角駿先生、本当にありがとうございました!
2023年11月30日
ローエイシアの報告
会員 杦本 信也(61期)
1 9月2日から4日まで、福岡県弁護士会館で、ローエイシア福岡人権大会が開催されました。シンポジウム「アジア地域の死刑廃止に向けた弁護士および弁護士会の役割」に参加しましたので報告します。発言は全て英語でしたので、私は同時通訳で聞きました。
2 シンポジウムでは、マレーシア、オーストラリア、日本及びインドの弁護士がパネリストを務めました。最初に、各国の死刑制度の現状や、死刑廃止を求める活動の状況について話がありました。
⑴ マレーシアでは、かつて総選挙で政党が変わった際、政府が死刑廃止の政策を打ち出し、死刑の執行を停止しました。でも、国内で死刑存置を求める人が多く、宗教団体、被害者団体が死刑存置を求めたため、死刑廃止には至っていません。ただ、今年4月に、重大犯罪で有罪が確定した場合に裁判所が裁量の余地なく死刑判決を行う「強制死刑」制度を廃止する法案と、同法が適用され確定した判決について連邦裁判所に見直す権限を付与する法案が可決されました。今後1300人を超える死刑囚が、再判決を受ける予定とのことです。
マレーシア弁護士会は、1985年以降、5回にわたり死刑廃止を求める決議を行い、政府の死刑廃止検討会議にも参加しています。その他、重度の精神病の人の死刑執行を停止させ終身刑に減刑させる活動を行ったり、シンガポール政府に対してマレーシア国民に死刑を執行しないように求める活動を行ったということです。
⑵ オーストラリアは、死刑が廃止されています。パネリストは、死刑制度の歴史について次のように説明しました。80年くらい前は、世界のほとんどの国で死刑が執行されていた。現在、死刑存置国は20~30か国しかない。死刑廃止は実現可能であり、実際に多くの国が廃止してきた。文化、政治制度、宗教の違いを超えて、人々が国による殺人を拒否している。歴史は死刑廃止に向かっている。
他の話としては、ほとんどの死刑執行国では死刑が秘密にされている、死刑の正当性の根拠は犯罪抑止とされているのに、秘密があるのは矛盾している、という話が印象に残りました。
⑶ インドでは、死刑事件に対する弁護の質が低く、弁護士の能力も低いことが問題という話でした。刑事裁判を受ける人は、ほとんどが必要な教育を受けておらず、経済的に脆弱であり、実質的に裁判に参加できていない。捜査機関の取調べの弁護士の立会いも認められていない。無罪推定原則が実現されていない。裁判所が、捜査機関の証拠ねつ造を指摘して死刑囚に対して無罪判決を出した事件もあったということです。
⑷ 日本のパネリストは、刑場のイラストを用いて、死刑執行の現状について説明し、医師が死亡確認のために待機するようなシステムは残虐であるという話をしていました。日弁連の活動については、日本では国民の80%が死刑存置もやむを得ないと考えているため、代替刑を提案する必要がある。仮釈放のない終身刑、ただし裁判所により無期懲役への変更が可能な制度を提案している。国会議員100名に会い、この提案を説明した。日弁連は、仏教団体やキリスト教の団体に働きかけており、EU、イギリスやオーストラリアと連携して死刑廃止を求めているという話をしていました。
3 質疑応答では、まず、戦略として死刑廃止を求めるのか執行停止を求めるのか、また、死刑を廃止するための活動に弁護士がどのように関与するのかという質問が出ました。
マレーシアのパネリストは、死刑廃止を働きかけるとき、なぜ死刑が廃止されるべきか理解させることが必要である。一般的に、死刑には犯罪抑止効果があるといわれているが、死刑執行が続いても薬物犯罪は減っていない。国会議員や大臣にデータを提供し、死刑がふさわしくないことを説得する必要があると話していました。インドでは、絞首刑は死刑囚を苦しめるので、死刑囚の苦しみを緩和するべきと主張している、もっと広い観点から議論する必要があると話していました。日本からも、絞首刑の残虐さを争う民事訴訟が提起され、各県の弁護士会が国会議員に働きかけているいることが報告されていました。
弁護士の関与については、オーストラリアのパネリストが、弁護士としての援助は裁判所の中に限定されない、弁護士が事実を語る役割を果たすことが必要であると話していました。
4 最後に、現代では100人以上が亡くなるテロ事件が起きるなど、犯罪の性質が変わってきているが、死刑は廃止できるのかという質問が出されました。ここは印象に残った話を箇条書きします。
・ 国際的にも重罪と考えられるもの、戦争犯罪やジェノサイドがある。司法制度が対応できていない。社会が前進するためには、どうすればよいか。罪を犯した人に対して復讐するのか、更生を図るのか。原則に立ち返ると人権がある。
・ 殺人のない世界に住みたい、だからといって死刑が必要というわけではない。世界を見ても、死刑があるから犯罪がなくなったというケースはない。死刑は社会を安全にするものではない。特定の人に責任を負わせても、それだけでは終わらない。死刑は短絡的な制度である。
・ 第二次世界大戦後の大きな流れとしては、国際社会は、個人の尊厳、人権を守る方向にある。圧政やひどい戦争を経験した国は、死刑を廃止している。暴力からの脱却、残虐性を用いない方法で解決する必要がある。社会復帰や回復は簡単ではない。国により状況が異なる。どう変わっていくか考えていく必要がある。
・ 残虐な事件が起これば被害者について報道される。一般の人は死刑があってもよいと強く感じる。でも、日本では、最近は話し合いの機会を作ることが行われている。被害者側の遺族にも対話を求める人がおり、報道されるようになっている。そういう活動を重ねていくうちに、時間がかかるとしても、社会は変わっていくはずである。
5 シンポジウムの報告は以上です。国際会議というと敷居が高い感じがして、最初は参加することに不安がありました。でも、異なる文化圏でも人権尊重という共通の基盤があります。言葉の壁も、同時通訳さんと、英語を話せる人に助けていただき、乗り切れました。運営スタッフも当会会員で知っている人でしたので安心しました。勇気を出して参加してよかったです。
刑事法廷内の手錠腰縄問題に関するシンポジウムが開催されました
会員 木上 貴裕(73期)
1 はじめに
令和5年8月5日(土)13時より、2023年ローエイシア福岡プレシンポジウム第3弾として、刑事法廷内の手錠腰縄に関するシンポジウムが開催されました。
手錠腰縄問題とは、勾留中の被告人について、裁判官の法廷警察権に基づく指揮の下、手錠・腰縄をされたままの状態で法廷内に連れて来られ、手錠・腰縄が外されるまで、被告人は訴訟関係人だけでなく傍聴人からも、手錠・腰縄が施された状態を見られることになり、被告人における手錠・腰縄姿をみだりに人に見られないという人格的利益が侵害されている、という問題です。
手錠・腰縄姿をみだりに人に見られない利益が、被告人の人格的利益であることは、これまでの判例・裁判例で指摘されていますが(例えば、東京地判平成5年10月4日・判時1491号121ページ、大阪地判平成7年1月30日・判時1535号113ページ、最一小判平成17年11月10日・民衆59巻9号2428ページ)、実際には、被告人の意思に関係なく、手錠・腰縄がされている状態を、訴訟関係人や傍聴人に見られる運用がされています。
そこで、日弁連や全国の弁護士会においてPTが設置され、被疑者・被告人の手錠・腰縄姿が訴訟関係人や傍聴人に見られない状態の実現に向けた取り組みが行われており、その活動の一環として、今回のシンポジウムが開催されました。
2 第1部 基調講演
⑴ 講演の概要について
第1部は、基調講演として、近畿大学法学部教授の辻本典央先生と大阪弁護士会所属の田中俊先生より、ご講演をいただきました。
辻本先生は、日弁連手錠腰縄問題PTや参議院院内学習会などに参画されており、本講演では、「法廷での手錠腰縄姿は当たり前のこと...なのか?法廷への入退出時における手錠腰縄措置の法的検討と制度改善に向けて」と題し、被告人が、手錠腰縄をされた上で刑務官に脇を固められて法廷に入廷する姿が当たり前のことなのかということに関し、被告人としての立場から見つめ直す、すなわち基本的人権の観点から被告人の法的利益に対する侵害の有無及び救済方法についてご講演をいただきました。
田中先生は、日弁連手錠腰縄PTの座長であり手錠腰縄措置により人格権等を侵害されたことを理由とする国家賠償訴訟を複数担当されており、本講演では、「これまで問題となった手錠・腰縄使用事例と弁護士会の活動について」と題し、過去に手錠腰縄の使用が問題となったケースや実際に田中弁護士が実際に担当された国家賠償訴訟、日弁連手錠腰縄問題PTの活動内容等についてご講演をいただきました。
⑵ 大阪地裁判決及び大阪高裁判決について
辻本先生及び田中先生からは、主に大阪地裁令和元年5月27日判決(以下「大阪地裁判決」といいます。)及び大阪高裁令和元年6月14日判決(以下「大阪高裁判決」といいます。)を中心に講演を頂きました。
大阪高裁判決は、「明らかに逃走等のおそれがない場合など手錠等を使用する具体的な必要性を欠く場合にはその使用が許されないというにとどまる。」として、手錠・腰縄等の使用について裁判所の広範な裁量を認めています。
他方、大阪地裁判決は、「個人の尊厳と人格価値の尊重を宣言し、個人の容貌等に関する人格的利益を保障している憲法13条の趣旨に照らし、身柄拘束を受けている被告人は、上記のとおりみだりに容ぼうや姿態を撮影されない権利を有しているというにとどまらず、手錠等を施された姿をみだりに公衆にさらされないとの正当な利益ないし期待を有しており、かかる利益ないし期待についても人格的利益として法的な保護に値する」との見解を示したうえで、「裁判長は、勾留中の被告人を公判期日に出廷させる際には、法廷において傍聴人に手錠等を施された姿を見られたくないとの被告人の利益ないし期待を尊重した法廷警察権の行使をすることが要請され、被告人の身柄確保の責任を負う刑事施設の意向も踏まえつつ、可能な限り傍聴人に被告人の手錠等の施された姿がさらされないような方法をとることが求められているというべきである。」と判示しました。そのうえで、入退廷に際して、手錠等を施された被告人の姿を傍聴人の目に触れさせないようにするため、
①法廷の被告人出入口の扉のすぐ外で手錠等の着脱を行うこととし、手錠等を施さない状態で被告人を入退廷させる方法
②法廷内において被告人出入口の扉付近に衝立等による遮へい措置を行い、その中で手錠等の着脱を行う方法
③法廷内で手錠等を解いた後に傍聴人を入廷させ、傍聴人を退廷させた後に手錠等を施す方法
の3点の具体例を挙げるなど、裁判所に可能な限りの是正措置を要求しました。
⑶ 大阪地裁判決後の状況について
大阪地裁判決後は、画期的な裁判例が出たことに伴い、日弁連から関係省庁に対し、刑事法廷内における入退廷時に被疑者又は被告人に手錠・腰縄を使用しないことを求める意見書の提出が行われるなど、弁護士会における活動も活発化しました。また、手錠腰縄申し入れ活動に関する新聞記事が出されるなど、弁護士会外における活動も行われるようになりました。
しかしながら、大阪地裁判決が出されたばかりの頃は、裁判所の対応にも変化があったようですが、現在では、弁護士からの申し入れに対して、裁判所が何らかの措置を講じることに難色を示すこともあるようです。
⑷ まとめ
以上の状況を踏まえ、辻本先生及び田中先生から、何よりも刑事事件に携わる弁護士が、裁判所への申し入れを活発化させ、裁判所に働きかけてほしいとの要望がありました。
被告人への手錠及び腰縄の使用に関する申入書については、福岡県弁護士会の会員専用ページの「書式・資料」→「刑事事件」→「手錠・腰縄問題に関するPT」内に書式が用意されておりますので、被疑者・被告人事件を担当される際にぜひご活用ください。
3 第2部 ゲストスピーチ
⑴ 第2部では、ゲストスピーチとして、法廷内の身体拘束についての海外報告及や国会報告がされました。
⑵ 海外報告 海外報告では、韓国、マレーシア、バングラデシュ、オーストラリアの弁護士ないし裁判官から、各国における手錠腰縄の運用状況について報告がされました。特に韓国では、法律で公判廷での被告人の身体拘束が原則として禁止されているとの報告がされました。
⑶ 国会報告 国会報告では、福島みずほ議員から、手錠・腰縄問題を立法的に解決するための活動を国会から行うとの報告がされました。
4 第3部 パネルディスカッション・質疑応答
第3部では、パネルディスカッション及び質疑応答として、基調講演をいただいた辻本先生及び田中先生に加え、元福岡高裁総括で弁護士の陶山博生先生及び福岡県弁護士会手錠腰縄PT座長の黒木聖士先生をパネリストに迎えた上、パネルディスカッションのコーディネーターとして福岡県弁護士会手錠腰縄PT副座長の市場輝先生にご担当をいただきました。
ディスカッションでは、福岡における手錠・腰縄措についての現状として、手錠・腰縄の使用に関する申し入れに対して措置を講じる例が1割程度しかないことや、大阪地裁判決が出された当時に比べ裁判所の動きも下火になってきている状態にあるとの問題点が示されました。
そのうえで、根本的な解決として立法的な解決を図ることも必要ではあるが、個々の弁護士が裁判所に申し入れ活動を積極的に行い、成功事例を積み重ねていくことで、立法的解決にも資すると考えるとの意見が示されました。
5 最後に
刑事法廷において、被告人が手錠・腰縄を施された状態で入廷し、裁判関係者及び傍聴人が見ることができる状態で手錠・腰縄を外すという光景が当たり前だと思っている弁護士も一定数いるのではないかと思います。かくいう私も、手錠・腰縄PTに加入させていただくまでは、当たり前の光景だと思っていました。
裁判官が、手錠・腰縄使用に関する申し入れに対し措置を講じる例が少ないのも、措置を講じることが特別なことだと考えているからではないでしょうか。現在は、手錠・腰縄使用に関する申し入れを行う件数が少なく、裁判官も特異な例だと考えているのだと思います。そのため、刑事事件に携わる弁護士が積極的に申し入れを行うことで、裁判官にも手錠・腰縄を使用することが当たり前ではないと認識させていくことが、手錠・腰縄問題を解決する近道だと考えます。
皆様も、刑事事件に携わる際には、是非、手錠・腰縄の使用に関する申し入れを実践してみてください。
あさかぜ基金だより
弁護士法人あさかぜ基金法律事務所 石井 智裕(72期)
九州外の公設事務所に見学に行きました
日弁連は公設事務所の見学のための交通費と宿泊費を援助しています。この制度を使って、紀中ひまわり基金法律事務所と中村ひまわり基金法律事務所に見学にいきました。
紀中ひまわり基金法律事務所
まず、今年の2月に紀中ひまわり基金法律事務所へ見学に行きました。
紀中ひまわり基金法律事務所は和歌山県の御坊市にあります。御坊という名前は、もともと日高御坊と呼ばれたお寺があり、そこから付けられた地名だそうです。御坊駅のそばには田園地帯となっていて、市街地は駅からすこし離れた場所にありました。
御坊市には他のひまわり基金法律事務所の所在地にはない映画館があり、栄えている様子でした。
紀中ひまわり基金法律事務所には、毎週のように新規に相談が舞い込んでくるそうで、事件処理が停滞しないようにするのが難しいとのことでした。事件の種類についても、偏りがなく、市民からさまざまな事件の相談がくるそうです。
紀中ひまわり基金法律事務所はとても地域に根づいて信頼されている事務所だと感じました。
中村ひまわり基金法律事務所
次に、8月には中村ひまわり基金法律事務所へ見学に行きました。
中村ひまわり基金法律事務所は、高知県の四万十市にあります。四万十市は高知県の西の端にあるので、九州から近いと思っていましたが、調べてみると高知市を経由し、高知市から特急列車(電車はありません)で2時間かかると知り、かなり交通の便が悪い場所にあるのだなと感じました。
しかし、中村ひまわり基金法律事務所の周辺は生活や業務に必要な施設はすべてそろって居ました。裁判所・市役所・郵便局・法務局・銀行・警察署はすべて徒歩圏内にありますし、事務所の目の前にはスーパーとドラッグストアが並んでいます。四万十までいくのは大変だけれども、生活するには住みやすい場所のようです。
受任事件については、刑事事件と債務整理の事件がそれぞれ4分の1だというのが特徴的とのことでした。地域特有の事件としては、うなぎの稚魚の窃盗事件を受任したことがあるそうで驚きました。
壱岐や対馬の公設事務所に赴任した先輩弁護士から、島では利益相反が多発するから注意が必要であるとの話を聴いていましたので、中村ひまわり基金法律事務所の弁護士にも、利益相反の点について訊いてみました。すると、四万十でも利益相反はよく発生するとのことでした。島ではなく陸続きの場所でも利益相反が多いと聴いてビックリでした。
交通の便が悪いと、陸続きでも離島のような問題が発生してしまうことに思い至りました。
地域に根ざした事務所
紀中ひまわり基金法律事務所と中村ひまわり基金法律事務所のいづれも地域に根ざした事務所として市民から大いに頼りにされた存在なのだと実感できじました。 私も、過疎地に赴任するにあたっては、地域の人たちから頼りにされるよう、しっかり努力したいと決意を固めたのでした。
社外役員に関する連続講演会(杉原知佳先生)
弁護士業務委員会 委員 德永 淳(71期)
1 本講演会について
去る令和5年7月26日、福岡県弁護士会館(ZOOM併用)にて、杉原知佳先生(51期)をお招きし、「社外役員に関する連続講演会~コーポレートガバナンス・コードと社外役員~」と題して、講演会を開催しました。
講師の杉原知佳先生は、東証プライム上場企業を含めた複数の企業の社外取締役に就任されております。
本講演会は、弁護士業務委員会におけるPTの一つである「WODIC」勉強会の一環として行われました。
「WODIC」とは「Whistleblower Protection Act(公益通報者保護法)」、「Outside Director(社外取締役)」、「Independent Committee(第三者委員会)」の頭文字をとった造語であり、これらの企業法務分野において法の支配を貫徹させるため、各分野の理解を深めるべく、令和4年1月25日に発足したPTです。
WODICでは、これまでに企業の法務担当者や社労士の先生等の外部の方もご参加いただき、改正公益通報者保護法(W)に関する勉強会を継続して行ってきました。また、令和5年10月2日には、第三者委員会(IC)をテーマとした研修会も開催しました(同研修会については、来月以降の月報でご報告予定です。)
本講演会は、社外取締役(OD)をテーマにした連続講演会の第4回目であり、会場参加・オンラインで多数の先生にご参加いただきました。
2 本講演会の内容
⑴ コーポレートガバナンス・コード(CGコード)
CGコードとは、上場企業の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を目的とし、実効的なコーポレートガバナンス(会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組み)の実現に資する主要な原則を取りまとめたものです。
CGコードは、強い法的拘束力を有さないいわゆるソフト・ローの一種であり、上場会社は、CGコードの各原則を実施するか、実施しない場合には、その理由を説明することが求められています(東証有価証券上場規定436条の3)。
⑵ 社外取締役に求められること
社外取締役は、CGコードにおいて、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を図る観点からの助言を行い、経営の監督や会社と経営陣・支配株主等との間の利益相反を監督するとともに、経営陣・支配株主等から独立した立場で、少数株主をはじめとするステークホルダーの意見を取締役会に適切に反映させることが求められています。
近年、このような社外取締役の機能がより必要とされており、令和3年のCGコード改訂の際には、プライム市場上場会社においては、社外取締役を少なくとも3分の1以上(その他の市場の上場会社においては2名以上)選任することが求められるようになりました。
⑶ CGコードにおける多様性の要求
CGコードにおいて、取締役会は、ジェンダーや国際性、職歴、年齢の面を含む多様性と適正規模を両立させる人員で構成されることが求められ、監査役には、財務・会計・法務に関する知識を有する者が選任されることが求められています。
ジェンダーの観点については、令和3年のCGコード改訂の際、上場企業に、管理職における多様性の確保(女性・外国人・中途採用者の登用)についての考え方と測定可能な自主目標を設定し、多様性の確保に向けた人材育成方針・社内環境整備方針をその実施状況とあわせて公表することが求められています。
⑷ 杉原先生が社外取締役として心掛けていること
・守秘義務
社外取締役は、企業の外部公表前の重要情報に触れる以上、守秘義務の遵守は最も大事です。
・枝葉を見ずに森を見る
社外取締役は、弁護士業務における契約書のリーガルチェックのような細かい作業を求められているわけではありません。
鳥の目(広く視野を持ち、俯瞰して大局を見る能力)、虫の目(細部にわたって色々な角度から情報を処理し、分析する能力)、魚の目(時代の変化を的確に捉える能力)、コウモリの目(物事を反対側から見て、発想を広げる能力)を持ち、上手く活かす必要があります。
・会社のことを知りたい姿勢を示す
前回の講演会で講師を務められた平田えり先生には、自身が会社への愛を持っていることを熱く語って頂きました。
杉原先生としても、平田えり先生のように、会社を愛し、会社のことを知りたいという姿勢を示すことが大事とお考えでした。
・法令違反の有無・リスクの検討
弁護士として社外取締役に選任されている以上、経営陣からは法的観点の指摘が求められており、これが社外取締役としての業務の重要部分となります。
・会社で当たり前になっていることを外部の目で指摘する
社外取締役は、通りすがりの旅人であり、旅の途中で村に寄った際、村人たちの同質性による過度な弊害に気付くことができます。
会社の常識は世間の非常識と言われるように、会社で当たり前になっている悪い部分を指摘することも、重要な業務の一つです。
・他社の例や新聞・ニュース等の情報の紹介
顧問先から聞いた話では、などとして、他社の例を紹介したり、日頃から日経新聞等を読み情報に接することで、その分野の様々な情報を紹介したりすることができます。
・男女共同参画の視点
自身が女性であるからこそ、このような目線は常に持って、業務に取り組んでいるとのことです。
・分からない言葉はその場で調べる
弁護士の業界では出てこない言葉が多数出てきます。最低限の共通理解は求められる以上、資料を読み込む段階で、その都度意味を調べる必要があります。
⑸ 社外取締役に関する研鑚の積み方
・日弁連eラーニング
「コーポレートガバナンスに関わる弁護士のための連続講座」等、日弁連eラーニングでは無料でかなり質の高い研修を受けることができます。
・コード、ガイドライン、指針
紹介したCGコードに加え、「社外取締役ガイドライン」(日弁連)、「社外取締役の在り方に関する実務指針」(経産省)、「社外取締役向け研修・トレーニング活用の8つのポイント」(経産省)、「社外取締役向けケーススタディ集」(経産省)等、様々なガイドラインや指針が作成され続けています。
3 むすび
本講演会においては、杉原先生にCGコードの概要についてご解説頂いた上で、社外取締役として普段から心掛けていることや、社外取締役に関する研鑚の積み方等をご講演頂きました。
社外取締役をはじめとした社外役員について、令和3年のCGコードの改訂等をきっかけに、今後も弁護士に対する需要の高まりが予測されます。
本講演会は連続講演会となっており、第6回は、令和5年12月5日(火)18時より、桝本美穂先生にご講演頂く予定です(第5回講演会は本稿執筆時点で開催済みです。)。
次回以降も、たくさんの皆様のご参加をお待ちしております。
2023年10月31日
「ウクライナ戦争と国際刑事法」フィリップ・オステン氏講演会
会員 芦塚 増美(44期)
ローエイシア・プレシンポとして、慶應義塾大学フィリップ・オステン教授をお招きして、講演会を開催しました。講演の概要です。
1 昨年の4月、ウクライナのブチャにおいて、ロシア軍が撤退した直後に、数百人の市民の遺体が発見されたとの報道がありました。残虐行為を、「戦争犯罪」や「人道に対する犯罪」という表現を用いていますが、国際刑事裁判所(ICC)の対象犯罪(中核犯罪)となります。主任検察官は、昨年2月28日に、捜査に向けた手続を開始すると発表し、多くの締約国からICCへ付託されました。今年3月17日に、ICCは、ロシアによる子どもの不法な追放と、ロシアへの不法な移送について、戦争犯罪に該当し得るとして、プーチン大統領らに対する逮捕状を発付しました。
2 対象犯罪の訴追は、ICCよりも、国家が主役となって、第一義的に訴追を担うことが原則となっています。国際法の刑事法的側面として、国際条約に基づいて、一定の行為を犯罪化して、訴追と処罰を締約国に委ねるといった法規則が、従来から見られます。
3 日本が国際刑事法と初めて向き合うこととなったのは、東京裁判でした。A級戦犯として起訴された、福岡の出身の広田弘毅は、文官として唯一死刑判決を受けましたけれども、その量刑判断に対して疑念が残りますが、東京裁判は、国際刑法体系の出発点となった裁判でもありました。
4 ジェノサイド、日本語でいう「集団殺害犯罪」です。ジェノサイドとは、特定の集団(国民的、民族的、人種的、または宗教的集団)の、全部または一部に対して、その集団自体を破壊する意図を持って行う殺害などをいいます。
人道に対する犯罪ですが、文民たる住民に対する攻撃であって広範又は組織的なものの一部として、攻撃であると認識しつつ行う殺人等です。「攻撃」とは、ICC規定の定義によれば、「国もしくは組織の政策に従って行われるもの」で、背後に政府や軍の方針が存在しなければなりません。
戦争犯罪とは、例えば捕虜の虐待といった、武力紛争で、ルールを定めた国際法、武力紛争法の重大な違反を犯罪とするものです。
侵略犯罪とは、国の指導者による国連憲章の明白な違反を構成する国家による侵略行為の計画、準備開始又は実行することです。
5 ICCは、国々が条約に基づいて設立した国際機関で、管轄権は、締約国の主権が及ぶ領域における中核犯罪、締約国の国民がそうした対象犯罪を行った場合にしか行使ができません。
中核犯罪の訴追・処罰は、第一次的には各締約国の国内刑事司法に委ねられ、ICCは、国家が訴追意思や能力を欠くときにのみ、これを補完する役割を負います。補完性の原則に基づいて、国内裁判所は、いわば国際社会における一つの司法機関として、刑事裁判権を行使するのです。
ICC規定は、締約国に対して、ICCに手続上の協力ができるよう、法整備を行う義務を課しています。ICCは、独自の法の執行機関などを持たないため、逮捕状の執行や、被疑者の引渡しについて、加盟国による協力に依存しています。「手足のない巨人」とも呼ばれています。実体法の面では、中核犯罪の処罰規定については、国内法化する義務を課していません。日本も2007年にICCに加盟した際に、中核犯罪の大部分が現行刑法で処罰可能であるとして、立法手当て、その国内法化を見送りました。
6 展望と課題-ウクライナ戦争が問うているもの
人権侵害に関与した外国当局者らに経済制裁を課すとともに、当該行為に加担した個人を、中核犯罪に基づいて刑事訴追するという方策があります。国際的な包囲網の構築に向けて、各国と足並みを揃えることが、日本でも重要な政策課題として、最近、議論されています。
刑事司法による対応の重要性をさらに浮き彫りにしたのは、今般のウクライナ侵攻とそれに伴う一連の重大な非人道的行為でした。しかし、中核犯罪に特化した処罰規定を欠いた日本の国内法の現状では、ICCや他国に対してなし得る協力は、間接的な「後方支援」が限界です。現行刑法では対処できない類いの犯罪もありますし、仮に対処できるとしても、実際には捜査や訴追が難しいと考えられます。日本が国際刑事司法においてより積極的な役割を担うためには、中核犯罪の国内法化が喫緊の課題といえます。国外犯処罰規定の不備という問題もあります。現状では、中核犯罪を海外で行った外国人が日本に入り込んできたとしても、ほとんど処罰ができないので、日本が「セーフヘイブン」(隠れ場所)になり、国際包囲網の「ループホール」(抜け穴)になるリスクがあります。
今後の中核犯罪の国内法化にあたっては、立法形式に関しては、特別法の制定のほか、刑法の改正というオプションも考えられます。刑法総則的規定に関しては、上官責任、上官命令の抗弁や公訴時効の不適用など、国際刑法固有の原理の適用を、中核犯罪に限定することで、従前の刑法体系への波及を回避することが特に重要です。
ウクライナ戦争は、中核犯罪に関する国内法整備を見送った日本に、再考を促しているといえます。国際刑事法の国内法化に当たっては、外国の立法例を参照しつつも、日本独自の規範化を通じて、ICC締約国が非常に少ないアジア諸国に対しても、新たな立法モデルを提示することが大切です。
7 会場参加者28名、オンライン参加者25名となり、会員、大学生、高校生などが参加しました。講義のレポートを作成して宿題として高校に提出すると話す高校生もいました。
今後とも、市民に最新の国際情勢を伝える講演会を開催します。
中小企業の日一斉シンポジウム 「老舗を救った学生の熱意 大廃業時代における事業承継の新たな形」聴講レポート
会員 松下 拓也(69期)
1 はじめに
7月20日、「中小企業の日」の記念イベントとして、福岡市天神のエルガーラホールにて無料セミナーおよび無料相談会が開催されました。
セミナーの今年のテーマは、「老舗を救った学生の熱意 大廃業時代における事業承継の新たな形」です。
今回、セミナーの講師を務めてくださった林田茉優さんは、福岡大学経済学部に在学中「ベンチャー企業論」というゼミで後継者問題に興味を持ち、休業状態であった創業130年超の老舗「吉開のかまぼこ」の再建活動に携わった方です。そして、卒業後、24歳にして、同社代表取締役に就任し、見事再建を成し遂げた、凄腕の経営者です。
テーマに「学生」とあるとおり、今回は現職の経営者にとどまらず、スタートアップを検討している大学生など若い芽もターゲットに見据え、地元の大学にも広報を広げさせていただきました。広報活動の成果か、当日は会場参加者50名、Zoom参加者31名と大盛況でした。
2 セミナー
林田さんがゼミで後継者問題に興味を持ったのは岡野工業の岡野社長との出会いからでした。同社は「痛くない注射針」を開発した高い技術力を持った企業でしたが、後継者不在を理由に、廃業せざるを得ませんでした。岡野社長に何度も手紙を送り、面談を実現し、粘り強く再建の道を提案したのですが、残念ながら再建には至らなかったそうです。
この悔しい経験を経て、林田さんは、本格的に後継者不足による廃業問題に取り組むこととし、日本M&A推進財団を通じて「吉開のかまぼこ」の紹介を受けます。
林田さんは、同社の事業承継実現のため、多数の会社への地道な電話がけ、メディアを使った発信、遠方のみやま市まで足を運んでの先代との打合せ、学生達自身でかまぼこを作り試食してその魅力を発信するなど尽力しました。しかし、承継会社が見つからない、漸く見つかっても双方のうまく条件が折り合わない、先代が事業承継を前にマリッジブルーに陥る、工場の移転先が見つからない、工場の騒音について周辺住民から反対の声が上がるなど様々な壁に何度もぶちあたります。その度、林田さんのゼミの学生達はその壁を乗り越えていきました。
こうして、林田さんは3年に渡り、吉開のかまぼこを支援し、その中で先代の熱意、吉開のかまぼこにしかない魅力、そして復活を願うたくさんの地元の人々の存在に触れてきました。そして、先代からの熱い信頼を受け、林田さんは自らが後継者となる道を選んだのです。
承継後、林田さんは、素人(消費者)目線でのリブランディングが自己の使命だと考え、原材料へのこだわりはもちろんのこと、ロゴやECサイトの再構築のほか、クラウドファンディングやオンラインショップ、メルマガやSNSの利用など様々なツールを用いて積極的な販売・広報活動を繰り広げました。そうした結果、事業の存続を果たすことが出来たのです。
林田さんが実際に様々な社長にお会いした感覚としては、後継者に引き継ぐことを考える方よりも、生涯現役という思いを持った方が多いようです。
私自身、会社の経営に関する相談を何度か受けたことはありますが、現社長が高齢であっても後継者のことや事業承継のことをあまり考えていないというケースは多々見受けられました。
確かに、いつまでも現役でありたいと思うことは大変すばらしいことなのですが、万が一の備えを全くしなかった場合、遺されたものに混乱が生じ、最悪の場合、黒字にもかかわらず、そして世に求められている事業であるにもかかわらず、会社を畳まざるをえないということになりかねません。そういった方に事業承継の重要性をどのように説いていくかという点が課題であると感じました。
3 パネルディスカッション
後半は、若狭先生、鬼塚先生、両角先生を交えたパネルディスカッションが行われました。負債を抱えた企業における事業承継のありかた、経営者保証ガイドラインの活用、NDAなど、事業承継のいかなる場面において弁護士が手助けできるかという点について活発な議論が交わされておりました。
4 終わりに
私自身、直接的な相談ではないにせよ、紛争の根底には事業の後継者問題も絡んでいると思われる事案に何度か遭遇したことがあります。今回のセミナーは、適切な事業承継を考える良い機会となりました。
また、事業承継の一つのパターンとして、大学生など若手起業家による創業支援と上手くマッチングさせることで相乗効果を産むことが出来るのではないか、今回のセミナーは事業承継の新たな可能性を示唆する非常に興味深い内容でした。