福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

月報記事

あさかぜ基金だより

弁護士法人あさかぜ基金法律事務所 社員弁護士 石井 智裕(72期)

いくつかの改善

あさかぜ基金法律事務所ではいくつかの改善を試みています。

まず、能力を向上させるため、毎月ゼミナールを開いています。あさかぜ出身の先輩でもある井口夏貴弁護士が事前に課題を出し、所員である私たちが起案し、井口弁護士や光安正哉弁護士からコメントをもらいます。これは修習期間が1年間に短縮され、弁護士になるまでに、十分に起案をする訓練を受けられないのではないか、という点を憂慮し、起案の回数を増やして、文章を書く力をつけるために開催されるようになったものです。

次に、図書を購入できることになりました。先輩の田中秀憲弁護士は多数の書籍を購入し、熱心に勉強しながら、事件を処理していました。そのため、書籍がたくさんありました。しかし、田中弁護士が卒業したことから、書籍が不足することになりました。あさかぜ事務所にはもともと寄付していただいた書籍があっただけなので、数も少なく、古い版のも多くありました。そこで、事務所の備品として新しい本をそれなりに買うことができるようになったのです。

また、あさかぜ所属弁護士の赴任先が拡張されました。これまでは九州・沖繩地方に限定されていたことから、赴任先が事実上、壱岐と対馬にあるひまわり基金法律事務所に限定され、過疎地に赴任することを希望して入所したとしても、赴任先が限られる問題が生じつつありました。この赴任先が、九弁連理事会の承認を得れば、九州・沖縄地方以外のひまわり基金法律事務所にも赴任することが可能になりました。

以前から行われている、共同受任・指導担当弁護士による養成、先輩弁護士に気軽に事件相談ができること、事務所会議で経営の問題点が学べることなどについては、以前と変わりありません。

弁護士の入れ替わり

所員の入れ替わりについても報告します。74期の司法修習修了生が、新しく入所しました。新規受任案件獲得のため積極な行動を見せてくれています。相談者の対応もうまく、信頼を獲得して、多数の事件を受任して、とても頼もしいと感じています。

また、令和4年11月に宇佐美竜介弁護士が退所し、壱岐ひまわり基金法律事務所に赴任しました。

宇佐美弁護士は元書記官でしたので、訴訟手続などの法律知識が豊富にありました。それでいて謙虚であり、私の相談などにも快く応じていただきました。社会人の経験がなく、入所した私にとってはうらやましい限りです。

宇佐美弁護士は仕事が早いと感じていました。宇佐美弁護士は私よりも多数の事件を抱えていたにもかかわらず、遅くまで事務所に残ることなく、事件を着実に進めていました。このことは、本当に見習わなければと思っています。

また一人優秀な人がこの事務所を去ってしまったなと感じると同時に、壱岐の人たちにとってはたいへん良いことだと考えています。

12月と1月には75期の人も新たに入所する予定ですので、一緒に仕事できることを楽しみしています。

ジュニア・ロースクール2022 in 筑後

筑後法教育委員会 委員長 鍋島 典子(66期)

1 2022年11月20日(日)、筑後部会にて「ジュニア・ロースクール2022 in 筑後」を実施しました。

「ジュニア・ロースクール」とは、地域の中高生を対象に、法的な見方考え方や論理的な思考を学び体験してもらうためのイベントで、各部会で法教育委員会が主体となって実施してきたイベントです。筑後部会でもほぼ毎年行ってきましたが、今年も刑事模擬裁判を題材にして実施しました。

2 今年の刑事模擬裁判の事件の詳細は次のとおりです。

ある日の早朝午前5時30分頃、我儘善五さん(44歳)が個人で経営する「すずめ書店」に、泥棒が入りました。物音に気付いた我儘さんは、店のレジ付近にいる怪しい影に近づき声を掛けます。声を掛けられた泥棒は、我儘さんに暴行を加えたあと、店のシャッターにぶつかって逃げていきました。店の前には見慣れない白い車が停車しており、その車の鍵は車内に置きっぱなしでした。我儘さんの通報で警察官が駆け付けた頃、持ち主である雨戸信二郎さんが車に戻ってきました。雨戸さんにはおでこに血が滲んだたんこぶがあり、所持品はポケットの中にむき出しの1万円札が5枚、500円の図書カードが3枚でした。その後、我儘さんが店のレジを確認すると、1万円札が3枚と図書カードが3枚無くなっていました。

雨戸さんは、車を置いていたのは近くに住む友人の家に行くためで、1万円札は友人に貸していたお金を返してもらった、図書カードは友人からもらったと言っています。

さて、強盗致傷罪で起訴された雨戸さんは、この事件の犯人なのでしょうか。

3 当日、生徒たちには検察官チーム、弁護人チーム、裁判官チームに分かれてもらい、数点の書証と、我儘さんの証人主尋問、被告人の主質問を見て、それぞれの立場から証人への反対尋問と補充尋問、被告人への反対質問と補充質問を考えてもらいました。その後、その尋問結果をもとに、論告、弁論および判決を検討してもらいました。

尋問や質問の検討に際しては、被告人を犯人だと認定するだけの材料はそろっているのか、「すずめ書店」から盗まれたものと被告人が所持していたお札と図書カードの同一性、被告人が事件のあった時間帯に現場付近にいることの合理性、証人の目撃証言の信用性などを判断するにあたり、これらの事実を確かめるためにどのような質問をすればよいのかを検討してもらうわけですが、参加した生徒たちは、こちらの意図をほぼ正確に読み取り、お札の状態や事件現場の明るさや距離感、被告人の友人についての突っ込んだ質問などを考えてくれました。また、我々が想定する以上の質問を考えてくれる生徒もいて、毎年のことですが、中高生の柔軟な視点や思考力に今年も驚かされました。

4 イベントの最後に行った質疑応答では、生徒たちから弁護士のことや仕事についても質問がありました。模擬裁判と実際の刑事裁判との違いや、無罪判決の割合について聞かれたり、不倫をしていたという被告人の供述について(被告人質問の時、実は被告人が事件当時に現場付近にいたのは不倫相手と会っていたからだという供述をしました)、その真偽を問うものなど、最後までイベントを真剣に、そして楽しんでくれている様子が伺えました。

今回のイベントは、生徒たちからの質問、尋問にその場で答えるというアドリブ必至の企画であり、役者役には大変な役回りを完遂していただきました。また、生徒の参加が40人を超える例年にない大人数のイベントで、法教育委員ではない部会員にも協力してもらったりと筑後部会の多くの会員の協力によって成り立った企画となりました。

生徒のアンケートでは、楽しかった、また参加してみたいといった感想を多数もらい、大変ながらもやってよかったと思える企画となりました。最後になりましたが、今年のこの刑事模擬裁判、何をオマージュしたか分かりましたか?ちなみに検察官は、辛露寺みつきでした。

福岡県弁護士会 ジュニア・ロースクール2022 in 筑後

法律相談センターだより 福岡県法律相談連絡協議会総会、及び、法律相談合同研修会の報告

法律相談センター運営委員会委員 小山 明輝(60期)
法律相談センター運営委員会委員 塗木 麻美(62期)
法律相談センター運営委員会委員 吉田 星一(63期)
北九州部会法律相談センター運営委員会委員 後藤 啓太(71期)

第1「福岡県法律相談連絡協議会」とは

「福岡県法律相談連絡協議会」は、1997年(平成9年)、福岡県弁護士会、福岡県、福岡市、各自治体、社会福祉協議会が呼びかけ人となり、設立されました。設立趣旨には、「各相談機関が連携を取りながら、より早く、より適切に助言し、問題の解決まで住民を導くことができるトータルなシステムづくりを行い、相談機関同士の相互協力によって一層充実した相談サービスを提供すること」とあります。その目的を達成するための重要な活動として、毎年、県内4地区において、毎年研修会を開催しています。

また、協議会は3年に1度総会を開くこと、その際に役員を選任することとされています。今年度は総会開催年度であり、福岡県弁護士会館大ホールにて総会が開催されました。

以下、福岡での総会の報告をしたうえで、北九州、筑後、筑豊の各研修会について、開催された日時の順に報告します。

第2 福岡会場(塗木)
1 はじめに

11月10日(木)、に福岡県弁護士会館(2階大ホール)で、福岡県法律相談連絡協議会の総会が3年ぶりに開催されました。総会には福岡県庁、福岡県下の各市役所・区役所、法律相談を共催している各団体など約30名の参加申込がありました(当日参加者23名)。

当日、参加されたのは23名でしたが、開催された福岡県法律相談合同研修会(福岡地区)に参加させていただきました(司会進行:田中広樹業務事務局長)。

総会は田中業務事務局長の進行により弁護士会の野田部会長の挨拶で開会し、協議会会長の選任手続において、上田英友現会長が再任されました(2期目)。上田会長は、昨今の法律相談を巡る状況としてコロナ禍への対応があり、各自治体の工夫の共有などが検討課題であると挨拶されました。

福岡県弁護士会 法律相談センターだより 福岡県法律相談連絡協議会総会、及び、法律相談合同研修会の報告
2 講演の内容

続いて、弓幸子弁護士による「遺言・相続法に関する相談業務のポイント」についての講演がありました。相続や遺言の基礎知識から、改正法の説明など、パターン別にコンパクトにまとめていただきました。参加者はほぼ全員が「役に立った」と回答するなど大好評でした。

次に、司法書士・行政書士による相談と弁護士による法律相談について、非弁活動監視等委員会の向原栄太朗弁護士から解説、報告がありました。具体例を挙げての内容で、参加者からは「初めて知りました」「参考になりました」という声がありました。また、相談主催側としてどう対応すればいいかを知りたいという意見もありました。

福岡県弁護士会 法律相談センターだより 福岡県法律相談連絡協議会総会、及び、法律相談合同研修会の報告
3 意見交換

3年ぶりの総会ということで、相談主催者としての悩みなどを共有する機会をもうけました。意見が出ないかと心配していましたが、具体的な相談への対応や、他の自治体の工夫を知りたいなど活発な議論となり、充実したものとなりました。

4 おわりに

リアルでの総会が3年ぶりに開催されたことは喜ばしいことでした。3年後も無事に開催できることを祈っています。ご協力を頂いた皆様ありがとうございました。

第3 北九州会場(後藤)
1 はじめに

令和4年10月6日、ウェル戸畑において、法律相談合同研修会が開催されましたのでご報告致します。

本年度はコロナ禍ということもあってか、例年よりも少ない6名の参加にとどまりました。

2 第1部 相続関係について

小倉知子部会長による開会挨拶の後、見越あけみ会員による講演「相続関係について」が始まりました。

同講演では、相続が起きた際に一般的に生じる問題について述べた後、見越会員が実際に体験した事例を基に、どのような対応を行ったかについて解説がされました。

北九州市では少子高齢化が著しく、相続問題は今後増加すると予想されていることから、参加者の皆様は熱心に見越会員の話を聞いていました。

3 第2部 債務整理について

見越会員の講演終了後、佐藤哲也会員による講演「債務整理について」が開始されました。

同講演では、佐藤会員が経験した事例に基づいて、この事例の場合にはどのような対応方法があるかという視点で解説がされました。

新型コロナウイルスの特例など、細かな点についても触れられており、充実した内容の解説となっておりました。

福岡県弁護士会 法律相談センターだより 福岡県法律相談連絡協議会総会、及び、法律相談合同研修会の報告
4 来年度に向けて

参加者のアンケートも好評であり、来年度も是非受講したいとの声が多かったです。役所の方々は、市民の方々の最初窓口となる可能性が高く、彼らのニーズに応えた講演をこれからも行っていこうと思います。

福岡県弁護士会 法律相談センターだより 福岡県法律相談連絡協議会総会、及び、法律相談合同研修会の報告
第4 筑後会場(吉田)
1 はじめに

令和4年10月25日、久留米シティプラザ(久留米市)において、福岡県法律相談合同研修会(筑後地区)が開催されました。

第1部では、竹田寛会員(筑後部会)に「相続・遺言の基礎知識」というテーマでご講演をいただき、第2部では参加者の皆様と当会の弁護士で意見交換会を実施致しました。

当日は、筑後地域の各自治体・社会福祉協議会から、約30名の方にご参加いただき、筑後部会からも弁護士11名が参加しました。

2 講演について

相続・遺言関連については、参加者への事前アンケートでも多くの相談が寄せられており、日ごろ、市民の相談を受けられている相談員の皆さんとって、非常に関心の高い分野であることが伺えました。

講演においては、相続財産の範囲(借金や生命保険金は相続財産に入るのか)や、相続人の範囲・順位・相続割合、遺言に関する方式の違い等、相続・遺言に関する基本的な知識を中心に、お話をしていただきました。

弁護士にとっては基本中の基本である知識でしたが、相談員の皆さんにとっては体系的に勉強する機会はなかなかないと思われ、事後のアンケートにおいても、「相続、遺言の基礎的知識はとても具体的に講演いただき勉強になりました」とか、「分かり易くて大変参考になりました」など、大変好評でした。

福岡県弁護士会 法律相談センターだより 福岡県法律相談連絡協議会総会、及び、法律相談合同研修会の報告
3 意見交換会について

意見交換会では、会場の前方に弁護士がずらりと並び、会場の参加者から質問や意見を受け、弁護士がこれに回答・コメントするという形式で実施されました。

会場からは、前半の講演に関連する質問だけでなく、日常の業務の中で生じている問題点や疑問点に関する質問等も出されました。例年、様々な内容の質問が出されますが、本年度は、身寄りがない高齢者や障害者に関する質問が多いなという印象でした。

当会会員からは、質問に対する回答のほか、参照可能な資料、その他実際の取り扱い事例の紹介がなされ、有意義な意見交換となりました。

4 最後に

余談ですが、この意見交換会は私自身にとっても非常に勉強になっています。会場からは、相談員の皆さんが処理に困るような困難な事例に関する質問がいくつも出されます。私一人の考えではなかなかいいアイデアが浮かばないような質問でも、他の弁護士から経験に裏打ちされたアドバイスが出されると、私も(「そういう回答が当然だよね」という顔をしつつ)内心では「なるほど~」とメモを取っています。

意見交換会は、そのとき出された質問にアドリブで回答するので、弁護士側にも一定の緊張感がありますが、これがメインイベントでもありますので、これからも継続していけたらと思います。

第5 筑豊会場(小山)
1 概要・参加者など

令和4年10月31日、飯塚市役所の多目的ホールをお借りして、福岡県法律相談合同研修(筑豊地区)を開催しました。

本年度は、近年の相続に関する法改正をテーマとして、当部会の古賀健矢部会員(70期)に「相続関連相談のポイント」というテーマで講演頂きました。

当日は、筑豊地域内の自治体職員さん及び社会福祉協議会各支所の職員さん計15名にご参加いただきました。

2 講演内容

以下、古賀健矢部会員によるご説明のポイントです。

  1. 自筆証書遺言について
    1. 方式が緩和され、財産目録については自筆不要となったことと、その留意点(全ページに署名・押印を要するなど)など。
    2. 法務局における自筆証書遺言保管制度の紹介。
  2. 遺留分制度の見直し
    前提知識として遺留分制度の概要説明と、金銭債権化(遺留分減殺請求→遺留分侵害額請求)や支払猶予制度の新設など。
  3. 配偶者居住権の概要、短期居住権との異同、及びそれぞれの成立要件など。
  4. その他相続関連の問題として
    • 相続財産管理義務の明確化
    • 所有者不明土地問題を解消・予防するための法改正について
    1. 相続登記の申請が義務化され、令和6年4月1日から施行されること。
    2. 来年4月1日から施行される所有者不明土地・建物の管理制度の紹介(「人単位」から「物(不動産)単位」の管理)。
    3. 続等により取得した土地の国庫帰属制度の紹介と課題ないし問題点について(建物がある土地や抵当権設定土地が対象とならない、土地が共有の場合、共有者全員での申請を要するなど)。
3 まとめに代えて:参加者の反応・アンケート結果など

質疑応答では、言葉の定義や土地の国庫帰属制度に関する自治体の役割など一般的な質問をお受けするに留まりましたが、研修会終了後、参加者の方々がその場に居合わせた部会員を呼び止め、個々に質問されていました。アンケート結果も、多くの参加者から「役に立った」とのご回答を頂き、好評だったと受け止めています。

他方、もう少し具体例を挙げてほしい、ホワイトボードや図示など視覚化してほしいという趣旨のご要望もお受けしましたので、次年度以降の課題として引き継ぎたいと考えています。

人権大会第2分会プレシンポジウム 『デジタル社会と人権』を考える-デジタル化、AIの活用で社会はどう変わる?-

情報問題対策委員会 委員 古賀 健矢(70期)

1 はじめに

令和4年9月10日に福岡県弁護士会館及びZOOMウェビナー配信にて、「『デジタル社会と人権』を考える-デジタル化、AIの活用で社会はどう変わる?-」と題するシンポジウムを開催しましたので、ご報告いたします。

2 シンポジウム開催の背景

本シンポジウムは、本年度の日弁連人権擁護大会の第2分科会シンポジウム「デジタル社会の光と陰~便利さに隠されたプライバシー・民主主義の危機~」のプレシンポジウムとして企画されたもので、九弁連及び日弁連との共催にて福岡県弁護士会の主催で実施されました。

日本におけるデジタル庁の発足に伴うマイナンバーカードの事実上の義務化等によるデジタル化の強制や、民間事業者のAIの導入による市民のグループ分けといった問題が生じているという現状において、1人1人の市民が何を考えるべきか問題提起を行うことを目的とし日本におけるデジタル化の進展に伴う法的整備の重要性についても、日本国民であり法律家である我々がよく認識していかなければならないと感じました。て、本シンポジウムは開催されました

3 シンポジウムのプログラム
(1)活動報告

まず、情報問題対策委員会委員の赤﨑裕一弁護士が同委員会の活動報告を行いました。

活動報告においては、同委員会の主導により出された2つの当会会長声明(「福岡市が監視カメラを設置しないよう求める声明」、「マイナンバーカードの義務化とデジタル関連法案に反対する会長声明」)について紹介がなされました。これらの声明は、いずれも行政のデジタル化の危険性について指摘するものです。

(2) 基調報告

次に、憲法学者の山本龍彦教授(慶應義塾大学法科大学院)より、「AIと人権」と題する基調報告をいただきました。

山本教授は、AIの発展による憲法価値へのリスクとして、高度なプロファイリングによりプライバシー侵害が懸念されること、AIにより人々がどのようなことに関心を向けるかといった思考のメカニズムまでもが操作下に置かれ自己決定権が奪われるおそれがあること等を挙げられました。

中でも印象に残ったのは、総務省傘下の情報通信研究機構がSNSの情報から個人のIQや生活、精神状態、人生の満足度などを見抜く実験に成功したという例を取り上げて、AIを用いた心理プロファイリングにより、細かい精神状態やまで分析が可能になっているというお話でした。AIを用いることにより、これまでは想像もできなかった領域でプライバシーや内心の自由に対するリスクが生じ得るのだということを強く意識させられました。

山本教授は、AI導入のリスクを防止する方法としては、AIから得られたデータの使用方法について情報の主体となる各個人が自ら決定できるよう、データ保護施策の整備を行うことが重要であると指摘されていました。

(3) パネルディスカッション

次のプログラムでは、山本教授に加え、読売新聞編集委員の若江雅子氏、長崎県保険医協会会長の本田孝也医師にパネリストとしてご登壇いただき、情報問題対策委員会委員長の武藤糾明弁護士をコーディネーターとしてパネルディスカッションが行われました。

昨年発足したデジタル庁の懸念点というテーマにおいては、若江さんは担い手の透明化の必要性を訴えられていました。また、山本教授は、個人の情報コントロールの権利が無視されていると指摘し、政府は当該権利をデジタル化の障害になると考えているのではないかとの意見を表明されました。

デジタル化はどのように進めるのが良いかというテーマにおいては、若江さんは、国民個人の同意を得ることの重要性を指摘されました。山本教授は、国民の側も過度なプロファイリングが行われることについて、単に「気持ち悪い」という感情を抱くだけでなく、それが権利侵害であることをしっかり認識しなければならないことを指摘されました。本田医師は、押しつけのデジタル化ではなく、国民が有益に利用できるデジタル化が望ましいとの意見を述べられました。

4 おわりに

本シンポジウムは、AIの導入やデジタル化の利便性や革新性を知ると同時に、その裏側にあるリスクについて認識する良い機会になったのではないかと思います。

日本におけるデジタル化の進展に伴う法的整備の重要性についても、日本国民であり法律家である我々がよく認識していかなければならないと感じました。

2022年12月 1日

「来たれ、リーガル女子!in福岡2022」のご報告

会員 田坂 幸(65期)

1 はじめに

2022年10月23日(日)、福岡県弁護士会館において、今年も「来たれ、リーガル女子!in福岡2022」が開催されました。2018年に始まったリーガル女子企画も今年で5回目、昨年に引き続き会場でのリアル参加とオンライン(zoom)参加のハイブリッド方式での開催で、今年も鹿児島大学司法政策教育推進センターとの共催となったことで、鹿児島からもオンライン参加がありました。

第1部・第2部は福岡会場参加者67名(中高生43名、保護者・教員24名)、オンライン参加者21名(中高生20名、大学生1名)、第3部はグループセッション参加者37名(会場30名、オンライン7名)、質問コーナー参加者12名(高校生2名、保護者・教員10名)と多数の方に参加いただきました。また、鹿児島会場でも11名(中高生4名、大学生6名、保護者・教員1名)の方に参加いただきました。福岡会場のフォトブースも大変好評で、法服を着てジャフバ人形や六法を手に写真撮影する中高生の長蛇の列ができていました。以下では当日の内容をご報告したいと思います。

福岡県弁護士会 「来たれ、リーガル女子!in福岡2022」のご報告
2 第1部 弁護士による対談

男女共同参画推進本部長代行の深堀寿美会員が、女性法曹をなぜ増やす必要があるのかをわかりやすく説明された開会挨拶に引き続きおこなわれた第1部は、女性弁護士の多様な活躍の場・働き方を紹介する当会会員3名による対談を実施しました。コーディネーターとして谷口悠子会員(62期)、パネリストとして家永由佳里会員(56期)と田坂(65期)が登壇し、個人案件を主に扱う弁護士、企業法務を主に扱う弁護士、企業内弁護士それぞれの立場から業務内容ややり甲斐を説明しました。また、3名とも子育て中であることから、パートナーの留学や転勤に帯同したり育児休暇を取得するなど一時的に仕事をセーブした経験談や、子どもの年齢や状況に応じて仕事量等を調整しながら働いていることなどもお話しました。

参加者は真剣な眼差しでたくさんメモをとりながら聞いてくれて、終了後のアンケートも大変好評でほっとしました。参加者の声を少しご紹介します。「お話してくださった三人の弁護士さんが、とても輝いて見えた。自分の力で誰かを守れるようになりたいと思った」「弁護士と言っても色んな働き方がある事も知れました。どの話も女性として弁護士になるための参考になりました」「インハウスローヤーという職業を初めて知り、大変興味を持ちました。将来家庭も大事にしたいし、仕事にも力を入れたいと思っているので、女性弁護士の仕事と出産や子育てとの両立についても大変有益な情報を伺うことができました」。弁護士の多様な働き方・生き方が参加者に少しでも伝わったのであれば嬉しく思います。

福岡県弁護士会 「来たれ、リーガル女子!in福岡2022」のご報告
3 第2部 法曹になるための進路説明

第2部では、宇加治恭子会員より、大学の法学部や法曹コース、法科大学院の制度、司法修習など、法曹になるための進路説明が行われました。また、山下昇教授(九州大学)、当会会員でもある平江徳子教授(福岡大学)、田中慎一准教授(西南学院大学)のお三方より、それぞれの法科大学院や法曹コース、法学部の特色などをわかりやすくご説明いただきました。参加者や保護者・教員は熱心に説明に聞き入っていて、アンケートでは「3つの大学の法曹コースについて実際にその大学の教授から一度に話を聞けたことは、それぞれの大学の特徴や長所を比較しやすくよかったです」「将来の具体的な過程が見え、勉強意欲がさらに湧いた」との声が聞かれました。

福岡県弁護士会 「来たれ、リーガル女子!in福岡2022」のご報告
4 第3部 グループセッション/質問コーナー

第3部では、少人数の6つのグループ(うち2グループはオンライン)に分かれ、弁護士・裁判官・検察官が中高生の質問に答えるグループセッションを実施しました。例年大変好評で、今年は締切を待たず定員に達した人気企画です。私も第1部に引き続き参加しましたが、法律の勉強法や依頼者とのコミュニケーションで気を付けていること等次々と質問が出る様子に、参加者の皆さんの関心の高さを改めて感じました。「ネットには載っていない生の声を聞くことができて、充実した時間だった」「直接お話を伺えて良かったです。自身のモチベーションも上がりましたし、より一層法曹の道への憧れが強まりました」「他に同じ法律関係を目指している人と今日みたいに話せて嬉しかったし、頑張ろうと思えました!」といったアンケートの回答からも、どのグループも満足度の高いセッションだったことがうかがわれます。

福岡県弁護士会 「来たれ、リーガル女子!in福岡2022」のご報告

また、グループセッションと同時並行で保護者・教員向けの質問コーナーも開催され、第2部の登壇者に加え、原田直子会員、柏熊志薫会員、原志津子副会長が参加者からの質問に回答しました。会場を見回っていた野田部会長もグループセッションに参加できなかった高校生2名と直接意見交換をされ、高校生は喜んで話に聞き入っていたそうです。「とてもオープンな雰囲気で行われたので質問しやすかったです。直に大学の先生にお尋ねすることもできたのが貴重でした」とこちらも好評でした。

福岡県弁護士会 「来たれ、リーガル女子!in福岡2022」のご報告

「法曹はいくつになっても成長できる仕事」という原副会長のお話と、野田部会長による力強い閉会挨拶を経て、本企画は大盛況のうちに終了しました。

6 おわりに

キラキラと目を輝かせながら一生懸命話を聞いてくれる中高生の皆さんと接し、登録10年目の私も法曹を目指していたころの気持ちを思い出し、明日への活力をもらえた1日でした。いつか「2022年のリーガル女子に参加した」と話してくれる新入会員と出会ったとき、「輝いている」と思ってもらえるように日々の業務に真摯に取り組みたいと思いました。

本企画は男女共同参画推進本部、両性の平等に関する委員会をはじめ、多くの先生方が多忙な業務の合間を縫って準備に奔走され、大成功に終わりました。当日は託児サービスも利用できますので(利用者最年少だった我が家の1歳児も、お兄さんお姉さんにたくさん遊んでもらってご機嫌に過ごせたようです)、来年6回目のリーガル女子が開催される際は、子育て中の会員のみなさまも安心して本企画の運営に携わっていただければと思います。

2022年11月 1日

中小企業支援センターだより 事業承継ガイドラインについて

中小企業支援法律支援センター 鬼塚 達也(71期)

1 4つのガイドライン

令和4年3月に、中小企業の事業再生・事業承継に関する4つのガイドライン(中小企業の事業再生等に関するガイドライン、廃業時における「経営者保証に関するガイドライン」の基本的考え方、事業承継ガイドライン(改訂版)、中小PMIガイドライン」)が公表されました。そのうち、今回は事業承継ガイドライン(改訂版)についてご説明いたします。

2 事業承継ガイドライン
(1) 事業承継ガイドラインとは

事業承継ガイドライン(以下「ガイドライン」といいます。)は、中小企業庁において、中小企業経営者の高齢化の進展等を踏まえ、円滑な事業承継の促進を通じた中小企業の事業活性化を図るため、事業承継に向けた早期・計画的な準備の重要性や課題への対応策、事業承継支援体制の強化の方向性等について取りまとめたものです。ガイドラインは、事業承継を検討するに際して有用なものです。

昨今の新型コロナウイルス感染症の影響もあり、事業承継を後回しにする事業者も少なくありません。当該状況を踏まえて事業承継をより一層推進するため、令和4年3月にガイドラインの改訂版(改訂内容・・・掲載データや施策等の更新、従業員承継や第三者承継(M&A)の説明の充実、後継者目線での説明の充実)が出されました。

ガイドラインによると、九州では後継者不在率が従前に比べて悪化しているとのことですので、会員の皆様の関与がより期待されます。

(2) ガイドラインの主な内容

ガイドラインの主な内容は、事業承継に向けた早期・計画的な取組の重要性(事業承継診断の導入)、事業承継に向けた5ステップ1の提示、地域における事業承継を支援する体制の強化の3点です。

3 ガイドラインにおける弁護士の関わり方
(1) ガイドラインでは、弁護士の関わり方として以下のものが想定されております。
  • 経営者と共に金融機関や株主、従業員等の利害関係者への説明・説得
  • 法律面全般の検討と課題の洗い出し(とりわけ、株主関係が複雑な場合や、会社債務・経営者保証等に関する金融機関との調整・交渉が必要な場合、M&Aを活用する場合)
  • 法律面全般の検討と課題の洗い出しを踏まえたスキーム全体の設計
  • 契約書をはじめとする各種書面の作成
(2) スキーム全体の設計の具体例

ガイドラインでは、スキーム全体の設計に関して、株式・事業用資産の分散防止という観点又は事業承継の円滑化という観点から、以下の方法を活用することが提案されています。

  • 株式・事業用資産の分散防止
    (ア)事前
    生前贈与、安定株主の導入、遺言の活用、遺留分に関する民法特例
    (イ)事後
    買取資金等の調達、自社株買いに関するみなし配当の特例、会社法上の制度(相続人等に対する株式売渡請求、特別支配株主による株式等売渡請求、株式併合及び端数処理、名義株の整理、所在不明株主の整理)
  • 事業承継の円滑化
    種類株式、信託、生命保険、持株会社
4 当センター勉強会での意見

当センターの有志は、ガイドラインが改訂されたことに合わせて、勉強会を行いました。勉強会においては、ガイドラインには記載がないものの有意義な意見が多数出されました。以下ではその一例を記載いたします。

  • 現在において、第三者承継が増えてきてはいるが、第三者承継より親族内承継の方が多い。しかしながら、親族内承継ではM&A仲介業者が関与することがほとんどないことから、親族内承継の支援が手薄である。そこで、弁護士として親族内承継を積極的に支援すべきであろう。
  • 株式・事業用資産の分散防止に関して、株式が分散している場合には弁護士が早期に関与して株式集約を行うべきであろう。
  • 事業承継の円滑化に関して、種類株式の導入には先代経営者及び後継者の理解が必須であるところ、議決権制限種類株式及び配当優先種類株式であれば理解が比較的得やすいのではないかと思われる。
  • 事業承継の円滑化に関して、信託という方法があるが、信託であっても遺留分に配慮することが必要である等から、信託という方法を積極的に採用する理由がどこまであるかは疑問である。
  • 経営者が事業承継において取り組みやすい方法は、経営者の意向にもよるが、基本的には遺言又は生前贈与であると思われる。
5 結び

ガイドラインは事業承継を考えるに際して有益なものかと思いますので、ガイドラインをご一読いただけますと幸いです。

1 (1)事業承継に向けた準備の必要性の認識→(2)経営状況・経営課題等の把握(見える化)→(3)事業承継に向けた経営改善(磨き上げ)→(4)事業承継計画策定/マッチング実施→(5)事業承継の実行/M&A等を指します。

2022年10月 1日

「~裁判傍聴&弁護士との交流会~弁護士に会ってみよう!」企画のご報告

法科大学院運営協力委員会 委員長 稲場 悠介(62期)

第1 はじめに

皆様は、いつ、法曹になることを志されたでしょうか?

早い人だと小学校からでしょうし、社会人になって法曹を志望される方もいると思います(私は大学生のときでした。)。

法曹を目指す切っ掛けも人それぞれだと思いますが、裁判を傍聴することや、実際に弁護士に会ったことで法曹を目指す機序になった方もいるのではないかと思います。

そういった機会を提供するため、去る8月26日(金)、当委員会において「~裁判傍聴&弁護士との交流会~弁護士に会ってみよう!」と題して、主に大学生を対象にした企画を実施しましたので、ご報告させていただきます。

第2 裁判傍聴(第1部)
1 裁判傍聴

まず、弁護士引率の下、実際の裁判を傍聴しました。コロナ禍や夏季休廷期間の時期でもあり、そんなに多くの裁判は開廷されていませんでしたが、民事裁判及び刑事裁判の両方を傍聴することができました。特に刑事裁判については、冒頭手続から判決までといった全ての刑事手続を傍聴することができました。

2 弁護士との懇談(傍聴した裁判の感想会)

続いて、実際に傍聴をした裁判について、引率した弁護士と懇談を行いました。

単に傍聴する場合、裁判は粛々と行われるため、各手続の流れやその意味については、勉強していてもなかなか理解できません。

しかし、本企画では、傍聴後すぐに弁護士から説明を受けることができるので、傍聴していたときに疑問に思ったことを、すぐに弁護士に聞くことができ、より理解を深められるのが良いところです。

実際に、参加者からは手続面から実体面の質問は勿論、検察官や弁護士の法廷での心情など、多岐に渡る質問が出ました。

実際に目の前で行われた裁判を新鮮な記憶のまま議論の素材とすることができるという経験はなかなかできません。参加者にとって貴重な経験を提供できたのではないかと思います。

第3 弁護士との交流会(第2部)

第2部は、弁護士がどういった仕事をしているのか、勤務している事務所による弁護士の仕事の仕方の相違はあるのか、さらに司法試験受験自体の体験談などを講演会方式で実施しました。

コメンテーターとして、畑田将大弁護士、井上瞳弁護士、内田鴻二弁護士など参加者層に近い年代の先生方に登壇して頂き、各自の経験に基づいたお話をして頂きました。

弁護士によって様々な業務があること、弁護士の職務が広範に及ぶこと、また所属する事務所によって働き方も異なることを、具体的な話を通じて感じていただけたのではないかと思います。

また、司法試験時代の話も多岐に渡り、漠然と「厳しい試験」「長時間の勉強を要する」「合格には特別な才能がいる」というイメージのある司法試験も、より身近に、また勉強のモチベーションのアップに貢献できたものと思います。

コメンテーターの先生方もしっかり準備して頂き、真剣な話の中に笑いもあって、良い意味で肩肘を張らずに聞けた講演会であったと思います。登壇された先生方には、この場を借りて厚く御礼申し上げます。

質疑応答の時間では、参加者から多くの質問が出ましたが、閉会後も近くにいた弁護士を捕まえて、更に質問をする姿が多くあったのが印象的でした。

第4 さいごに

本企画は、日弁連で行われている「弁護士に会ってみよう」という企画を参考に、平成30年から実施しています。令和2年はコロナの影響で実施できなかったため、今回の実施で延べ4回目の開催となります。

昨今、法曹志望者が減っているという話が聞かれます。

その理由は様々でしょうが、裁判の実際や、それに携わる私たちの仕事への理解が進めば、将来の進路選択の一つとするきっかけとなり、本企画はその一助になるのではないかと思っています。

なお、今回の参加者はZoom参加者も含めて23名でした。第1回のときは2名でしたので、地道に活動してよかったと思っており、次年度以降も実施する予定です。

法曹に興味があるという方のお知り合いがいらっしゃったら(参加者は高校生・大学生を想定しています。)是非、次年度以降の本企画へのご参加にお声掛けください。

いつの日か、この企画で法曹になることを志し、見事、それを達成してくれた方に会えることを願っています。

シンポジウム「人と動物が共生する社会の実現のために」のご報告

公害・環境委員会 委員 藤田 裕子(68期)

1 はじめに

2022(令和4)年8月27日(土)、福岡県弁護士会主催の市民向けシンポジウム「人と動物が共生する社会の実現のために」が開催されましたのでご報告いたします。

2 シンポジウム開催の背景

近年のペットブームのなか、動物が人にとってかけがえのない存在になっている一方で、野良猫の糞尿・ゴミ漁り等により、人の生活環境への被害が問題となっています。公害・環境委員会では野良猫の問題を人の生活環境の問題と捉え、2020(令和2)年度に動物愛護PTを発足して調査を始めました。

従来、野良猫対策としては専ら殺処分の方法が取られてきました。しかし、動物愛護法は改正を重ね、「動物は命あるもの」であることを認識し、人と動物が共生する社会を目指すことを定め、環境省も殺処分をなくすことを推進しています。そこで、動物愛護法の概要や改正の経緯、現状や取り組むべき課題等を参加者に知ってもらい、人と動物が共生できる社会の実現のために何が必要かを参加者とともに考える機会を持つために、本シンポジウムは開催されました。

3 シンポジウムの内容
(1) 法律の解説

公害・環境委員会委員の朝隈朱絵会員が、動物愛護法の概要、改正の経緯について解説しました。

動物愛護法は、1973(昭和43)年に「動物の保護及び管理に関する法律」という名称で制定されました。その後、犬や猫等のペット動物が人の生活の中で重要な位置を占めるようになってきたこと等から、1999(平成11)年に「動物の愛護及び管理に関する法律」という名称に変更され、基本原則に「動物が命あるもの」との文言が加えられました。動物取扱業規制や飼い主責任徹底なども新たに盛り込まれました。2012(平成24)年には、法目的に「人と動物の共生する社会の実現」が追加され、所有者の終生飼養の責務や都道府県等が犬猫の引き取りを拒否できること等が規定されました。また、2019(令和元)年の改正では、犬や猫に所有者の情報を記録したマイクロチップ装着を義務付け、動物の殺傷等に対する罰則を強化しました。

動物愛護法はこのような改正を重ねてきましたが、実効性の確保等の課題を抱えています。人と動物の共生は、SDGsの推進とも関連しており、今後も議論が必要だということが確認されました。

(2) 基調講演

福岡市保健福祉局生活衛生部動物愛護管理センター所長吉柳善弘氏から「動物愛護管理の現状とこれから」というテーマでお話しがありました。

センターでは、放浪犬の「捕獲」、所有者不明の犬猫や負傷した犬猫、飼い主が飼えなくなった犬猫の「引取り」を行っています。2012(平成24)年の動物愛護法改正により犬猫の引き取りが拒否できるようになったことから収容頭数は減少傾向にありますが、子猫の占める割合が高い状況にあります。

収容された犬猫は元の飼い主に返還あるいは新しい飼い主に譲渡していますが、感染症や攻撃性などにより譲渡困難な犬猫については殺処分を行っています。福岡市では、「殺処分ゼロを達成した」と言われていますが、譲渡困難と判断した数を除く実質的殺処分ゼロが達成されたという意味であり、令和3年度は、感染症等を理由として125頭の犬猫が殺処分されているそうです。

福岡市は引き続き、収容数の削減や飼い主のいない猫問題などに取り組むとのことで、新しくペットを飼う際におとなの犬猫を迎え入れることや迷子対策としての犬の鼻紋認証システムの紹介がありました。

(3) ブレイクタイム

立花高等学校の皆さんより、同校での授業「命のつなぎ方」の取り組みについて紹介がありました。一人の生徒が猫を拾って学校に連れてきたことがきっかけで、「果てようとしている命に素通りする人でいて欲しくない」という考えから、授業の一環で保護猫活動が始まりました。動物愛護管理センターへの見学、相島への訪問、保護猫のお世話をしているそうです。

(4) パネスディスカッション

兵庫県弁護士会所属弁護士の細川敦史氏、福岡県獣医師会所属獣医師の中岡典子氏、特定非営利活動法人SCAT代表理事の山﨑祥恵氏に吉柳氏を加えて、「人と動物の共生する社会の実現のために」というテーマでパネルディスカッションが行われました。

はじめに、細川氏から、人権擁護を使命とする弁護士会が動物愛護に取り組むことの意味についてお話いただき、動物が暮らしやすい社会が人にとっても暮らしやすい社会であるということ、つまり動物の尊重が人権の尊重につながっているということを確認しました。

次に、殺処分の対象となる犬猫が生まれる背景について、中岡氏と山﨑氏にそれぞれお話いただきました。中岡氏からは、特に最近増加している高齢者の中途飼育放棄、多頭飼育崩壊の紹介がありました。入院・死亡等の事情で最後まで飼えなくなる場合、不妊去勢手術を怠ったためにあっという間に飼えない数まで増える場合等多くの具体的な事例があるそうです。山﨑氏からは、大量生産・大量消費を前提とするペットショップによる遺棄の問題、ペットショップが病気の犬猫を販売している事例についての紹介がありました。細川氏からは、特にペットショップの規制は弁護士が入っていきやすい分野であるが、これらの問題に対し弁護士が関わっていくには、公害・環境委員会だけで活動するのではなく、高齢者障害者委員会や消費者委員会との協働が必要ではないかとの意見が述べられました。また山﨑氏から、多頭飼育崩壊やペットショップによる遺棄は動物虐待の一種であるが、警察に通報しても捜査されないことへの問題提起もありました。

そしてセンターに収容された犬猫を殺処分しないための取り組みについて吉柳氏からお話がありました。センターではなるべく新しい飼い主に譲渡をしようとしているが、譲渡までには時間や手間がかかり、行政だけでは対応できずボランティアに頼っているという問題があるということでした。

最後に、パネリストの方々から、「人と動物の共生する社会」の実現のためには、動物愛護行政や福祉行政、動物保護団体や獣医師、弁護士や警察などが連携し、お互いの知識を共有していく必要があるのではないかという意見が述べられました。

(5) 閉会挨拶

公害・環境委員会委員長高峰真会員より閉会の挨拶として、持続可能な社会の実現のためには動物と上手く共生していくことが必要であり、シンポジウムで確認できた課題に今後とも取り組んでいきましょうという言葉とともに、福岡県弁護士会がSDGs官民連携プラットフォームに加入したことの紹介がありました。

4 最後に

本シンポジウムには、会場34名、オンライン112名の方にご参加いただき盛況となりました。公害・環境委員会は、今後も残された課題の解決、SDGsの推進に向けて取り組んでいきます。

谷間世代への一律給付実現全国リレー集会 in 福岡

司法修習費用給費制復活緊急対策本部 委員 武 寛兼(69期)

1 はじめに

令和4年8月20日、福岡県弁護士会館2階大ホールにて、「谷間世代への一律給付実現全国リレー集会in福岡」が開催されましたので、ご報告いたします。

2 新里先生からの基調報告

日弁連の司法修習費用問題対策本部・本部長代行の新里宏二先生(仙台弁護士会所属)から、基調報告をいただきました。

令和4年6月14日に行われた院内集会で、小林日弁会長から「一律給付は、日本の司法インフラを担う若き法曹に希望と勇気を与える、将来投資として極めて意義のある投資」であると述べられたことや、参加した国会議員から、不公正の是正の声や「運動がやっと5合目まできた」、「国会議員の過半数の賛同を得たとき制度が実現する」との声があったことのご報告がなされました。

その他に、「谷間世代」への一律給付を認めることの必要性や意義などにも言及されました。

院内集会の中で、国会議員から、「5合目まできた」、「過半数の賛同を得たとき制度が実現する」など、具体的な数字に言及されていることは特に印象的でした。

さいごは、司法修習費用問題についての全国リレー集会は、71期から復活した司法修習費用給付制の実現の前年頃に実施したのに続いて2度目の開催であり、このリレー集会を機に一律給付を実現させましょうと締めくくられました。

福岡県弁護士会 新里先生の基調報告

新里先生の基調報告

3 谷間世代の声

続いて、谷間世代の声として、山本隼巳会員(68期)から報告をいただきました。

法曹は法治国家の基本的インフラであり、司法修習期間中に一切給付のなかった谷間世代に摩耗が生じていること、インフラの補修は早期にする必要があることが説明されました。

また、アンケートで多数寄せられた谷間世代の声として、「修習専念義務を課しながら生活費は借金という制度は理不尽、不合理だったと言わざるを得ない」、「国や社会に育ててもらったという意識を持ちにくい」などが紹介されました。

4 谷間世代のチャレンジ報告

谷間世代の弁護士が取り組んでいる活動報告として、谷間世代の弁護士から報告がありました。

(1) 國府朋江会員(65期)からの報告

國府会員からは、「介護保障を考える弁護士と障害者の会全国ネット」での活動を中心に報告がありました。

國府会員は、障害者のヘルパーの時間(「支給量」)が自立した生活に必要なだけ保障されるように、障害者団体と協力して活動をしているそうです。このような活動が、障害者や障害者を支援する人たちの生活に必要不可欠であることは明らかで、日弁連の若手チャレンジ基金制度でブロンズジャフバ賞を受賞されたそうです。ただし、このような活動の実情としては、効率的に報酬を得やすい仕事ではないとのことでした。

修習期間中の費用の貸与を受けた谷間世代は、修習終了後6年目から、毎年7月に貸与を受けた額の10分の1を10年間返済しなければなりません(私は69期の谷間世代ですが、今年の7月に1回目の返済が始まりました。)。

國府会員からは、障害のある人の権利を守るこれらの活動については、事務所から支えてもらって活動ができているが、「返済のための10年間は、自分のためにお金をかけてはいけない期間、貸与を受けて、使ってしまった自分へ罰を科している期間だと思っている。」との報告があり、とても印象的でした。

福岡県弁護士会 國府会員の報告

國府会員の報告

(2) 米山功兼会員(68期)からの報告

米山会員からは、「福岡における若手弁護士による中小企業支援」について報告がありました。

米山会員は、中小企業法律支援センターの活動を通じて、中小企業への法律相談の窓口を設け、弁護士に相談することによって法的リスクの発見や回避につなげ、コンプライアンスや法的問題への対応意識の向上等に尽力されているそうです。

中小企業の多くは零細・個人企業であり、費用面から弁護士へのアクセスがなく、結果的に事業が破綻してしまったり、窮状に陥ってしまったりする事業者を救済することを目的の一つとしているそうです。

これらの活動も多くの谷間世代の弁護士により支えられているとのことでした。

福岡県弁護士会 米山会員の報告

米山会員の報告

5 国会議員からのメッセージ

このリレー集会には、共催であった九弁連の先生方のご協力もあり、福岡県内外の多くの国会議員から谷間世代を応援する旨の、もしくはこの問題の解決に取り組むとするメッセージ(合計34通)をいただくこともできました。

私が特に印象的だったのは、会場で挨拶を頂いた議員の「谷間世代への一律給付実現は、「救済」ではなく、法曹養成制度の中の過去の制度の誤りを謝罪して是正する、原状回復をするもの」、「戦争準備のための戦闘機購入に比したら微々たるもの」、とのお話でした。

弁護士会館での国会議員本人出席(4名)、ZOOMによる議員本人出席(4名)、議員秘書による代理出席(4名)など多数あり、多くの国会議員に興味を持っていただいたことは、谷間世代への一律給付実現に向けて大きな励みになると思います。

6 さいごに

谷間世代への一律給付実現全国リレー集会の第1走者として、福岡集会が開催されましたが、上記のとおり、その内容はとても充実したものであったと思います。

繰り返しになりますが、共催の九弁連の先生方の呼びかけのおかげもあり、九州各地の国会議員から多くのメッセージをいただくこともできました。この場をお借りしてお礼を申し上げます。また、コロナ禍のなか、九弁各会からも沢山の会員に駆けつけて頂き、また、ZOOMで視聴して頂きました。会場出席者70名強、ZOOM視聴者70名強という沢山のご参加を頂きましたことにも、この場を借りて感謝申し上げます。

今後も全国リレー集会のバトンは繋がれていきます。ZOOMでの参加も可能ですので、できるだけ多くの先生方(特に谷間世代の先生方)にご参加いただくようお願い申し上げます。

福岡県弁護士会 鬼木議員からのご挨拶

鬼木議員からのご挨拶

プリズン・サークル上映会&講演会

死刑制度の廃止を求める決議推進室員 中原 昌孝(58期)

1 はじめに

死刑制度の廃止を求める決議推進室では、当会の主催、共催を日本弁護士連合会、九州弁護士会連合会として、本年8月7日、弁護士会館2階大ホールにおいて、「この国の「罪と罰」を考える映画『プリズン・サークル』上映&講演会 監督坂上香さんをお迎えして」を開催しました。当日は、関係者も含めて140名を超える参加者があり、これまでの弁護士会のイベントの中でも稀に見る大盛況でした。少し長めになりますが、映画のネタバレにならない範囲で、ご報告をさせていただきます。

2 開会あいさつ

全体の司会は、溝口史子副室長が務められました。最初に、野田部哲也会長から、開会あいさつがありました。野田部会長は、当会は2020年9月18日の「死刑廃止を求める決議」で「死刑の代替刑として終身刑を導入すること」を提示したこと、その終身刑のあり方を議論するためにも現行の自由刑の執行の状況についての情報を共有し理解することが重要であること、それが今回の企画の趣旨であることなどが紹介されました。

3 映画の上映会

映画『プリズン・サークル』(2019)は、日本の刑務所内での受刑者の様子や声を伝えるドキュメンタリー映画です。この映画の舞台は、「島根あさひ社会復帰促進センター」という2000年代後半に開設された4つの官民協同の「PFI(Private Finance Initiative)刑務所」の一つで、犯罪傾向の進んでいない男子受刑者2000名を収容しています。そこでは、2009年から、受刑者同士の対話をベースに犯罪の原因を探り、更生を促す「TC(Therapeutic Community(セラピューティック・コミュニティ)=回復共同体)」というプログラムを導入しています。

映画では、2年間にわたる密着取材により、窃盗や詐欺、強盗傷人、傷害致死などで服役する4人の若者たちが、半年~2年のTCプログラムを通じて、新たな価値観や生き方を身につけていく姿が克明に描き出されています。

具体的には、(1)父親の虐待により小学生のときから施設で育ち、施設でも壮絶な虐待を受けて、感情が動かなくなり、帰る場所(サンクチュアリ)があるという感覚を持てない若者、(2)義父からの虐待や小学校時代の壮絶ないじめ、貧困等から、小学校のころから自殺未遂を繰り返し、盗られたんだから盗ってもよいというのが当たり前で、窃盗に罪悪感が全くない若者、(3)母子家庭で、母親や先輩の暴力の中で育った経験から、人を思い通りにすることができる手段として暴力を捉えていた若者、(4)幼いころから両親の関係が険悪で、逆に親からの虐待がかまわれているようで羨ましいと感じる若者など、犯罪に至るまでに辛い経験をしてきた若者たちが登場します。

そして、このような若者たちが、民間の支援員のフォローのもとに、TCプログラムでの他の受刑者とのコミュニケーションを通じて、自分の心の問題に向き合うようになるまでの姿が描かれています。

映画のTCの場面では、(1)緊張感のある空気をほぐすための手法である「アイスブレイク」から始まり、(2)「ソーシャルアトム(人生の特定の年齢に焦点をあてて、5人の人を思い浮かべ、感情的な関わりやコミュニケーションの度合いを、自己との距離や大きさなどで図に表現する手法)」、(3)お互いに過去の被害体験を語ること、(4)受刑者同士で被害者役などを担当し会話をするロールプレイ、(5)受刑者が他の受刑者の前で2つの相反する自分の感情の立場で代わる代わる意見を言い合う手法など、様々なアプローチが行われていました。

このようなプログラムを通じてできた受刑者同士の仲間は、出所後も交流を持っており、映画では、定期的に連絡を取り合い、再犯に至らないように、お互いを励ましあっている様子も映し出されていました。

4 坂上香監督の講演会

映画の上映後、引き続き、坂上香監督による講演会が行われました。

坂上監督は、『ライファーズ 終身刑を超えて』(2004)、『トークバック 沈黙を破る女たち』(2013)など、アメリカの受刑者を取材し続けてきた方として有名ですが、その原点は、スイスの心理学者であるアリス・ミラーの『魂の殺人 親は子どもに何をしたか』という一冊の本がきっかけだったとのことでした。

それから、坂上監督は、アメリカの刑務所でTCを行う民間団体である「AMITY(アミティ)」の取材を行い、その経歴から、日本で初めてTCを導入した刑務所として、島根あさひ社会復帰促進センターの取材をすることになったそうです。

他方、坂上監督は、1990年代に少年院の取材をされたようですが、当時は「社会話(注:おしゃべりの意味)をするな」というポスターを少年に書かせるなど、TCとは真逆の残酷な指導が行われていたことを紹介されていました。

坂上監督によると、その後、少年院も徐々に変わっていき、刑務所も2001年の名古屋刑務所受刑者放水死事件で社会的な批判を受けて少しは変わったようですが、それでも、日本初となる刑務所内の長期撮影には大きな壁が立ちはだかったようで、取材許可が降りるまでに6年もの年月がかかったそうです。

また、取材中も、お目付け役の職員からファインダーを覗かれて映してはいけないものが映っていないかどうか確認をされたり、最終の当局による試写の際には、顔に効果を加えるだけではなく、言葉も変えるように言われたり、刑務所では受刑者同士が入所中・出所後に相互に連絡を取らないように指導しているため、出所後に受刑者同士が交流するシーンを問題視されたりと大変な苦労があったそうです。

坂上監督は、映画に登場した元受刑者の若者と現在でも交流をされているそうで、「くまの会」というクローズドのフェイスブックを通じて連絡を取り合っているそうです。

5 会場とのクロストーク

講演会後は、当会の人権擁護委員会の事務局長で、刑事施設の視察委員会の委員長も務めており、刑事施設の実態に詳しい塩山乱会員を司会に、会場とのクロストークがありました。

会場からは、例えば、学校の教員の方から、虐待等から非行行為に陥ってしまう生徒を出さないための学校としての取組みについての質問があり、坂上監督からは、学校の中では生徒同士が悩みを語り合う機会が不足していること、TCでいう支援員のように教師以外の第三者が関与することや社会の中で居場所をつくっていくことも有用であることなどの発言がありました。

また、依存症の自助グループに通われている方からは、TCのような仕組みを社会の色々な場所でつくっていくべきとの意見も寄せられました。

福岡県弁護士会 8月7日 坂上監督講演会

8月7日 坂上監督講演会

6 閉会あいさつ

最後に、九州弁護士会連合会の前田憲德理事長より閉会あいさつがあり、全プログラムが終了しました。前田理事長からは、TCを是非多くの刑務所に導入していくべきこと、出所後に社会側がフォローする仕組みも必要であること、そのためには社会の理解が必要不可欠であることなどの話があり、また、映画の内容にも関連して、2022年10月28日の第75回九州弁護士会連合会定期大会でのシンポジウム「ねぇ、きいてっちゃ!~子どもの声と多様な学び」の案内もありました。

7 おわりに

2022年6月13日に国会で成立した刑法等の一部改正による懲役刑・禁固刑の「拘禁刑」への統一は、受刑者の改善更生、社会復帰を志向する改正であり、これを契機に、日本においても刑罰をめぐる考え方が大きく変わっていく可能性があります。そのような中で、映画や坂上監督の講演を通じて、TCという取組みの存在やその有用性を知れたことは、今後、委員会活動や刑事弁護活動を行う上でも、大変参考になるものでした。

最後に、本企画では、参加者の皆様のうち122名からアンケートへの回答があり、刑罰制度に関する多様なご意見をいただきました。

福岡県弁護士会 8月7日 坂上監督講演会会場

8月7日 坂上監督講演会会場

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